英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第40話 事件の顛末、新たな依頼

~アルセイユ ブリッジ~

 

リベールが誇る高速巡洋艦『アルセイユ』10年経った今でもその翼は健在であり、西ゼムリアにおけるリベールの導力技術の『集大成』であることに変わりはない。だが、その役目も終わりに近づいているとなると、このシートに座っていることがどれだけ感慨深いことになるだろう……そうユリアは思った。

 

(来年にはこの艦も退役……そして、新たな艦に『アルセイユ』の名が継がれる……そう思うと、こうしている私は幸せ者なのだろう)

ユリアは内密にアスベルとアリシア女王から打診を受け、新型巡洋艦ファルブラント級一番艦『アルセイユ』の艦長の任を快く受けた。正直身に余ると思ってはいるものの、期待されたからにはその期待に応えなければならない……『速き隼』を預かる立場として……そう思っていた時、レイアから渡された手紙を取出し、目を通す。

 

(………シオンの…いや、シュトレオン殿下の読み通りか。)

そこに書かれていたのは、情報部の動き、そしてリシャール大佐の企み……クーデターの危険性。義理の弟であるシオン……いや、シュトレオンから齎された情報は正直半信半疑であったが、今回の出来事で確信に至った。女王陛下の信を受けた“紫刃”の書いた文章に一言一句逃さないという集中力で読み込んだ。

 

リシャール大佐のクーデターを覆す……そのためには、『彼』に協力を仰ぐ必要がある。カシウスや“不破”“霧奏”が戻ってきていない以上、彼ら抜きでも作戦を遂行するために。

 

アルセイユはレイストン要塞に寄った後、ダルモアを降ろし、再び飛び立った。

 

 

~ルーアン空港~

 

空港では、セシリア、エリィとトワ、レイアがいた。目的はエリィの見送りだった。本来ならばツァイス地方まで一緒に行動する予定だったが、現在の『状況』からすればいつ空路が封鎖されるかわからない……苦渋の決断だった。

 

「セシリアさん、すみません。わざわざついてきてもらって。」

「いいのよ。元々此処の一件が片付けば、王都に向かう予定だったし。」

申し訳なさそうに深々と礼をするエリィに対し、元々用事があるのでそのついでみたいなものだとセシリアは釈明した。

 

「そうですか……レイア、トワ。本当にいい経験になったわ。ありがとう。」

「あはは、そこまで言われるとちょっと照れるかな……」

「ですね。」

別段特別なことをしたわけではないのだが……そう言われたことにレイアは苦笑し、トワも笑みを浮かべた。

 

「っと、そうだ。エリィってクロスベル出身だよね。もし、私の兄に会えたら『うじうじしてるようならぶっ飛ばす』って言っておいてね。」

「(レイアなら本気でやりかねないわね……)解ったわ。レイアのお兄さんの名前は?」

「“赤き死神”ランドルフ・オルランド…あのバカ兄のことだから、渾名の『ランディ』って名乗ってるかもしれないけれど。」

「解ったわ。もし会えたら伝えておくわね。」

レイアの伝言に、彼女の兄の運命が限りなくヤバいとエリィは直感で感じて冷や汗をかき、もし会えたら伝えておくことを約束した。

 

「(レイアとトワ、私は先んじてグランセルに入るわ。アスベルとシルフィアには現地で合流するように『連絡』しているから)」

「(了解です。)」

「(気を付けてくださいね)」

セシリアの小声で言われたことにレイアは軽く頷き、トワも微かに頷いてセシリアの無事を願う言葉をかけた。

 

「それじゃ、お元気で!」

「うん!」

「またね!!」

挨拶を交わし、エリィとセシリアの乗せた飛行船はグランセルへと飛び立った。ここから先、彼女を巻き込むわけにはいかない……これが、二人の出した結論だ。これから国全体に起こりうる厄災……それを止め、首謀者を『処刑』するために。

 

 

~ルーアン支部~

 

その頃、エステル達は市長邸でのあらましをジャンに説明していた。

 

「は~、まさか王都の親衛隊がやって来るとはね。しかも噂の巡洋艦『アルセイユ』のお出ましとは。僕も受付の仕事が無かったら見に行きたかったんだけどなあ。」

エステル達の報告を聞いてジャンは残念そうな表情で言った。

 

「ジャンさんって意外にミーハーだったのね。でも、ジャンさんが連絡したのはリシャール大佐だったんでしょ?」

「ああ、レイストン要塞に彼がいたもんだからね。どうして王室親衛隊が駆けつけたのかは判らないが……まあ、軍の連絡系統にも色々あるってことなんだろうね。」

「通常の正規軍に加えて、国境師団、情報部、王室親衛隊……確かに複雑そうですよね。」

エステルはアルセイユの事に関してのジャンを感心そうに見つめた後、ジャンが呼んだ応援について尋ねると、ジャンはリシャールを応援に呼んだことについて答え、ヨシュアは王国軍の連絡系統の複雑さに真剣な表情で呟いた。

 

「でも、今回の事件は事後処理が大変そうですね……今後、ルーアン地方の行政はどうなってしまうんでしょうか?」

「あ。そうか……市長が逮捕されちゃったし。」

クローゼとエステルの言葉に、ジャンからは王都から市長代理が派遣されること、市長の有罪が確定すればいずれ選挙が行われること、そして、今回被害を受けた孤児院については正式な補償が行われることが決まっていることを伝えた。

 

「そうですか……良かった。これもみんなエステルさんたちのおかげです。本当に……ありがとうございます。」

「や、やだな。水くさいこと言わないでよ。」

「そうだね。当然のことをしただけさ。それに僕たちだけじゃなくてアガットさんの協力も大きかったしね。」

「そういえば!ね、ねえ、ジャンさん!アガットから何か連絡はあった!?」

ヨシュアからアガットの名前が出て、黒装束達を追って行ったアガットの事を思い出したエステルはジャンに尋ねた。

 

「ああ、それなんだが……連行中に、黒装束の連中を取り逃がしてしまったらしい。どうやら、待ち伏せの襲撃にあったそうだよ。」

「ええっ!?」

「大丈夫だったんですか?」

ジャンの報告にアガットの強さを知っているエステルやヨシュアは驚いた。特に手合わせした経験のあるエステルは、一年前でもかなりの実力を持っていたことは知っているだけに、尚の事のようだった。

 

「ああ、何とか切り抜けたらしい。そのまま連中を追ってツァイス地方に向かうそうだ。今頃は、ルーアン地方から離れている頃じゃないかな」

「な、なんか……ハードなことやってるわね。」

「ちなみに、しばらく前からアガットはあの連中を追いかけているんだ。どうやら、君たちのお父さんに頼まれた仕事らしいけどね。」

「と、父さんが!?」

「どうしてそういう事に?」

ジャンの言葉にエステルとヨシュアは驚いて尋ねた。

 

「ふふ、実は一時期…というか、反抗期みたいなものだったけれど、ちょっとばかし荒れてたアガットを更正させたのは他ならぬカシウスさんだからね。何だかんだ言ってあの人には頭が上がらないのさ。」

「ええっ、そうだったの!?」

アガットの過去にエステルは驚いた。

 

「なるほど……。僕たちに対する厳しい態度もそれが原因かもしれないですね。」

「すごくそれっぽいわね~。って、やっぱり父さんのとばっちりじゃなのよっ!」

「くすくす……」

確かに厳しい言葉や辛辣な言葉は多いものの、その本質には『遊撃士』に対する思い入れの強さ……ひいてはカシウスに対しての『礼儀』なのだろう。なんだかんだ言っても、アガットもそう言った意味では『遊撃士』であり、新人であるエステルやヨシュアに『遊撃士』たるものの意味を教えていることにヨシュアは感心したようにつぶやき、エステルは最終的に自分たちの父親が元凶であることに声を荒げ、クローゼは笑みを浮かべた。

 

「ったく……って、そうだ!」

カシウスの存在で思い出したエステルは、懐から黒いオーブメントを出した。

 

「色々ありすぎて、つい忘れちゃってたけど…コレ、いったい何なのかしら……」

「少し不気味な感じはするね……」

エステルの話を聞いたヨシュアは黒いオーブメントの出所を怪しがった。

 

「珍しい色のオーブメントだね。どういった由来の物なんだい?」

「それが……」

黒いオーブメントの出所を尋ねたジャンにエステルとヨシュアは手に入れた経緯を説明した。

 

「まあ……」

「ふーむ、R博士にKか……ひょっとしたら……」

エステル達の説明にクローゼは驚き、ジャンは手を顎にあてて唸った。

 

「え、知ってるの!?」

「いや、心当たりというほどじゃないんだが……それを調べたければ、ツァイス地方に向かった方がいいかもしれない。」

「ツァイス地方?」

ツァイス地方……その中心都市であるツァイス市はオーブメント生産で有名な場所。『工房都市』とも言われており、博士の肩書を持っている人も多い。

 

「なるほど…たとえ博士が見つからなくても、その黒いオーブメントの正体が判るかも知れませんね。」

「うーん、でもあたしたちここで修行する必要もあるし。」

ジャンの説明でヨシュアは納得し、黒いオーブメントの正体がわかるかもしれないとわかったエステルだったが、今の状況を思い出して肩を落とした。

 

「ふふ、こんな事もあろうかと、ちゃあんと用意しておいたのさ。」

「ええっ……!」

「いいんですか?」

エステルの様子を見た後、ジャンは正遊撃士資格の推薦状をエステルとヨシュアに渡し、2人は驚きながら受け取った。

 

「はは、空賊事件の時と同じさ。これだけの大事件を解決されちゃ、僕としても渡さないわけにはいかないからね。査定も報酬も用意してあるよ。」

「って、何か多いような……」

推薦状と同時に渡された報酬とその詳細を見たエステルは呟いた。

 

「いや、片手間に他の依頼をこんなにこなされたら、正遊撃士だって形無しだよ。」

「あはは……」

実は、調査の片手間に片っ端から依頼を受けていたのだ。その数は9件。2日半という時間から考えれば、十分すぎるほどの実績だ。これにはさすがのヨシュアもエステルの成長する体力の底なしさや、直感的に効率的な行動をする性質に半ば呆れていた。

 

「何から何まで済みません。」

「なあに、正当な報酬さ。僕も、君たちには一刻も早く正遊撃士になってもらいたい。その方が、君たちの力をもっと活かせると思うからね。」

「えへへ…ありがとう、ジャンさん。」

「期待に応えられるよう頑張ります。」

「良かったですね。エステルさん、ヨシュアさん……ちょっと寂しくなってしまいますけど……」

「クローゼ……」

「……そうだね。僕たちも名残惜しいよ。」

同じようにエステル達を祝福したクローゼだったがもうすぐエステル達が旅立つ事に寂しそうな表情になった。それを見た2人も寂しそうな表情をした。

 

「あは……わがまま言ってごめんなさい。出発の日が決まったら私にも教えて頂けませんか?エア=レッテンの関所まで見送らせていただきますから……」

クローゼは寂しそうに笑って答えた。

 

「う~ん……」

「エステル?」

「いや、クローゼには色々お世話になったし、何か手伝えることは無いかな?正遊撃士になるってことは大切だけれど、借りを作ったままお別れ、というのもフェアじゃないような気がするのよね。」

「……そうだね。今回はクローゼの協力あってこそ、の部分も大きかったしね。」

エステルの性格からすれば想定通りの発言だが、これにはヨシュアも頷いた。ジーク……ひいてはクローゼの功績がダルモア市長の逮捕につながったのは明白。一方、その発言を聞いて何かないか思い返し……クローゼは一つの提案を思いつき、ジャンに確認した。

 

「あの、ジャンさん。遊撃士の方々というのは民間の行事にも協力して頂けるんですよね?」

「ああ、内容にもよるけど。」

ジェニス王立学園の学園祭は国内外を問わず大勢のお客さんが来るため、遊撃士協会が警備を担当してるのだ。

 

ちなみに、昨年の学園祭では生徒会長であったレクターが色々ハチャメチャな騒動を起こした……それはそれで、大反響物ではあったが、それを後で聞いたオズボーンはレクターに拳骨を喰らわせたらしい……理由は『私よりも目立ったから』らしい……レクターはその怒りに『オッサン、理不尽すぎだろ……』とぼやき、もう一発喰らったのは言うまでもない……

 

「でしたら……エステルさん、ヨシュアさん。その延長で私たちのお芝居を手伝って頂けないでしょうか?」

「え……?」

「それって、どういうこと?」

クロ―ゼの依頼にエステルとヨシュアは驚いた。

すると、エリィを見送ったレイアとトワが戻ってきた。

 

「ただいま~……って、何か依頼?」

「ええ。クローゼからだって。芝居のお手伝いとか」

「芝居か……クローゼ、話を聞かせて。(エステル達の事だから、借りを作ったまま別れるのは癪だったんだろうね)」

クローゼの依頼に、レイアはエステル達の気持ちを察し、話を聞くことにした。

 

クローゼの依頼はジェニス王立学園の学園祭……その最後には講堂でお芝居があり、マーシア孤児院の子どもたちもすごく楽しみにしているのだが、肝心の二つの役がなかなか決まっていないとのことだ。

 

「も、もしかして……」

「その役を、僕たちが?」

「はい、このままだと今年の劇は中止になるかもしれません。楽しみにしてくれているあの子たちに申しわけなくて……」

昨夜(ジークを通して)学園の生徒会長にお二人のことを話したところ、すごく乗り気になって連れてくるように言われたようで……あまり多くはないが、運営予算から謝礼も出ることをクローゼが説明した。

 

「ど、どうしてあたしたちなの?自慢じゃないけど、お芝居なんてやった事ないよ?」

クロ―ゼの説明に驚いたエステルは尋ねた。

 

「片方の、女の子が演じる役が武術に通じている必要があって……エステルさんだったら上手くこなせると思うんです。」

「な、なるほど……うーん、武術だったらけっこう自信はあるかも……でも、武術ができる女の子だったらレイアもそうだけど?あたしの師匠だし。」

「その事なんですけど……実はレイアさんにも手伝っていただきたいのです。」

「私?」

エステルに説明したクロ―ゼはレイアを見て答え、レイアはクロ―ゼの言葉に驚いた。

 

「実はシオンから聞いたのですが、レイアさんのレイピア捌きも相当のものだと。(ユリアさんも相当褒めてましたし…)」

「ああ、あれ?私だって独学だからね……参考になるかはわからないけれど、私でよければ。」

「いいな~、レイアは。」

「ふふ、トワさんにもいろいろお願いすることになりますよ。」

「そうなの?よーし、頑張るよ!」

クローゼはシオン(+ユリア)がその剣筋を褒めていたことを伝えると、レイアは焼き付け刃+独学程度のものだと謙遜しつつも、参考程度になるのであれば吝かではないと答え、それを羨ましそうに呟くトワ、それを聞いたクローゼは笑みを浮かべてトワにも色々手伝ってもらうことがあると伝えると、俄然やる気になったようで一気に明るくなった。

 

「確かにエステルにピッタリだし、レイピアの使い手のシオンですら褒めたレイアが教えたら、さらに成功率はあがるね。それでもうひとつの役は?」

「そ、それは……。私の口から言うのは……」

ヨシュアの疑問にクロ―ゼは戸惑った。クロ―ゼの様子が気になり、ヨシュアは続きを促した。

 

「言うのは?」

「……恥ずかしい、です。」

「そ、それってどういう意味?」

「もー、ヨシュアってば。しつこく聞くと嫌われるわよ。お祭りにも参加できるし、あの子たちも喜んでくれる……しかも、お仕事としてなら一石三鳥ってやつじゃない!レイアやトワも乗り気だし、やるっきゃないよね♪」

クロ―ゼの答えに嫌な予感がしたヨシュアはさらに尋ねたが、すっかり立ち直ったエステルに流された。

 

「ちょっと待ってよ。ジャンさん、こういうのもアリなんですか!?」

「もちろん、アリさ。民間への協力、地域への貢献、もろもろ含めて立派な仕事だよ。忙しめの仕事はセシリアがきっちり片づけてくれたからそれなりに余裕も出来たし……よかったら行ってくるといい。」

慌ててジャンに尋ねたヨシュアだったが、ジャンは笑顔でクロ―ゼの依頼を肯定した。

 

「やったね♪」

「……何だかイヤな予感がするけど。あの子たちのためなら頑張らせてもらうしかないか。」

「今から楽しみだね。」

「そうだね。」

ジャンの言葉にエステルは喜び、ヨシュアは溜息をついた後気持ちを切り替え、トワとレイアはこれからある出来事に期待した。

 

「クロ―ゼさん、道案内よろしくね♪」

「はい。」

そしてエステル達はクロ―ゼが生活するジェニス王立学園に向かった……

 

 




えと、エリィが本来よりも早めの離脱となりました。理由としては、ツァイス地方に入ると空路が封鎖されかねませんから、ルーアンでの事件解決後での離脱となりました。
ただ、普通じゃない経験をしたせいで色々逞しい成長を遂げましたw

そして、ここから学園祭編です。

別名、ヨシュア受難編w

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