英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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今回、原作では非戦闘要員だった『あるキャラ』が戦闘します。


劇中 不届き者を駆逐せよ

~ジェニス王立学園 講堂~

 

「……ふざけるな!」

「!?」」

一番前の席で見ていた酔っているデュナンが不愉快そうな表情で叫び、舞台に上がって来た。いきなり現れた乱入者に生徒や観客達は驚いた。無論、舞台上にいるエステル達もこの乱入者に驚きつつ、デュナンの方を見ていた。

 

「何故平民ごときに勝利を譲らなければならない!王族であるこの私は貴様のその判断、認めんぞ!」

「な、な…………」

酔ってエステルを指差して叫ぶデュナンにエステルはあまりにも驚いて声が出なかった。どうやら、酔っているためにまともな判断が鈍っているようであるが……というか、そもそもなぜ酔っているのか……色々ツッコミや指摘をしなければ部分は多いが……そこにフィリップが慌てた様子でその場で立ち上がってデュナンに叫んだ。

 

「か、閣下!これはお芝居です!これ以上ご自分の誇りを汚さないで下さい!」

「黙れ、フィリップ!!親衛隊よ、出合えい!!この愚か者や周りの者達に、この私に代わって正義の鉄槌を降せよ!」

「か、閣下!それはいくらなんでも!」

フィリップの言葉を無視したデュナンは自分の護衛達を呼んだ。呼ばれた親衛隊達は困惑しながら舞台に上がって来た。

そして、続けて放たれたデュナンの言葉に親衛達達は信じられない表情で反論した。

 

「デュ、デュナン公爵!?なんという事を……!」

デュナンの行動にコリンズは信じられない表情をした。

 

(おいおいおい……!まさか学園祭でこんなスクープが出るとは思わなかったぜ……!カメラは……クソ!そういえば、講堂に入場した時に劇の間は撮影禁止だからって預けられたんだった!これじゃ、記事にできねえ……!)

(あの方は……!どこまで閣下を困らせるつもり……!)

(あらあら……アリシア女王陛下が可哀想ですわね。)

(それを呑気に言っている場合じゃないでしょ……)

一方ナイアルは驚いた後、記事の証拠にするためにカメラを探したが持って来てないことに気付き悔しがり、観客の一人として来ていたカノーネは表情を歪めた。2階では、デュナンの行いにリベール王家の品位…アリシア女王の名誉が傷つけられることにアルフィンはため息をつき、エリゼはそのようなことを言っている場合などではないと苦言を呈した。

 

(あのバカ公爵が!!)

そして、シオンはデュナンの行いにキレていた。酔っているとはいえ、やっていいことと悪いことの区別すらついていない状態。ただ大人しくしていてくれれば問題はなかったのだが………だが、孤児院の子どもたちをがっかりさせるわけにはいかない……彼は、残しておいた台本の『非常時の切り札』を使うことに決め、協力者を仰ぐことにした。

 

(済まない皆様方……非常時故、協力してほしい。孤児院の子ども達をがっかりさせないためにも、この劇を何とか成功させたい。)

背に腹は代えられない……けれども、孤児院の子どもたちを元気づけるためのこの劇……失敗に終わらせるわけにはいかない。

 

(解りました……私が出ますわ。)

(姫様!?……私も手を貸します。)

(流石にお二方だけでは荷が重すぎる。私も行こう。)

(そしたら、私も行くわね。)

(私も行こう。子どもたちの笑顔を壊す輩にお仕置きも必要だからな。)

(ありがとうございます……アルフィン皇女、一応フードつきの衣装がありますので、それを着てください。)

(ま、仕方ありませんわね…)

アルフィンが最初に立候補し、やむを得ずエリゼも声を上げ、ラウラとセリカもそれに続き、ヴィクターもそれに続いた。それを聞いたシオンは容姿を隠すことをアルフィンに提案し、渋々ながらも了承した。

 

(時間がないので簡単に…………ということでお願いします。監督には俺から伝えておきます。)

シオンの言葉に五人は頷き、2階から降りて舞台へと気配をうまく隠しつつ、近寄った。

 

 

「さあ、まずはあのユリウスとやらを痛い目にあわすがよい!」

「し、しかし……!」

「つべこべ言わずに行け!王族の命令に逆らう気か!?」

「く………(すまない、生徒達!命令に逆らえない自分達を存分に呪ってくれ!……申し訳御座いません、ユリア隊長!)ハッ!」

デュナンの命令に逆らえない親衛隊の一人が悔しそうな表情で鞘からレイピアを抜き、エステルに襲いかかった。

 

「くっ!何がなんだかわかんないけど、やってやるわ!」

「エステル!」

「エステルさん!」

(エステルをやらせはしない!)

レイピアを構えて迎撃の態勢に移ったエステルにヨシュアやクロ―ゼは役を忘れて叫び、レイアは競技用のレイピアを構えてエステルに襲いかかった親衛隊員を攻撃しようとしたその時

 

キン!

 

舞台に乱入したヴィクターが愛剣ともいうべき宝剣…『ガランシャール』で親衛隊の攻撃を防いだ。

 

「な!?」

「え……」

ヴィクターの登場に攻撃を防がれた親衛隊員は驚き、エステルはレイピアを構えたまま呆けた。

 

「フッ!」

「うわ!?」

「命に従うことは『罪』……それを解っていて剣を向けるお前らは、尚性質が悪い……」

ヴィクターと剣を交えた親衛隊員は鍔迫り合いに負けて吹き飛ばされた。

 

(ひ、“光の剣匠”!?どうしてここに……!?)

その背中を見たレイアは、一目でヴィクターとわかり、驚いた。

 

「………レイア。舞台にいる生徒達全員を下がらせてくれ(シオンから伝言だ。『非常時の切り札』を使うと……)」

驚いているレイアにヴィクターは小声で静かに言った。

 

「(切り札……なるほど、そういうことね!)あ、貴方はどの国にも属せず己の信念にしか仕えない“自由騎士”ストライフ殿!何故、我らの助太刀に!?」

ヴィクターの言葉にレイアは台本の『例のページ』のことを即座に思いだし、台詞を叫んだ。レイアの意図に気付いたクロ―ゼとヨシュアが即座に思い付いたセリフで劇の雰囲気を戻そうとした。

 

「なんと……!師匠以上の強さと言われるあの”自由騎士”!!」

「まあ……!どうしてリベールに……?」

セシリア姫の口調でヨシュアはヴィクターに問いかけた。

 

「(どうやら、すんなり理解してくれたようだ……)理由か……長年、私が追っていた組織……様々な国で王家を騙り、混乱の渦に貶めてきた偽物の集団の足取りがようやく掴めたから、その討伐のために今ここにいる……それでは不服か?」

レイア達が意図を理解してくれたことに安堵し、ヴィクター――ストライフは一瞬口元に笑みを浮かべた後、厳かな口調で言った。

 

「なっ!?この私が偽物だと!?」

ヴィクターに偽物と言われたデュナンは顔を真っ赤にして怒った。

 

そもそも、生徒たちが主体の劇に私的感情を持ち込んだのは他でもないデュナン本人。その行いからすればリベールの王族とは程遠い『偽物』……劇中の大人たちの方が可愛く見えるほどの行いだろう。

 

(な~んだ。芝居だったのか。ビックリしたぜ~。)

(………本当にお芝居かしら?)

レイア達のフォローのお陰で孤児院の子供達はある程度信じたが、マリィは疑いを浮かべた。

 

(あら?あの方は………!!)

(ア、アルゼイド侯爵閣下!?まさか、来ていらしていたとは……!)

(おお、あのお方がまさかこのような場所に……!)

(ん……?……!?おいおいおいおい!!なんであんな大物があそこにいるんだ!?)

ヴィクターの乱入に驚いた後、ヴィクターの姿を凝視したメイベルやコリンズにクラウス、ナイアルは驚愕した。

 

「(小父様………すみませんが、今回はあの子達のために心を鬼にさせてもらいます……!それにさすがに私自身も許せません……!)なんと!そのような輩がいたとは……!王国を守る騎士の一人として援護致します!」

「いや……オスカー、お前は利き腕を負傷している。ストライフ殿の足手まといになるからやめておけ。」

「この程度の傷、問題ありません!自分は戦えます!」

親衛隊員達やデュナンをヴィクターと共に迎撃しようと思ったクロ―ゼはレイピアを抜いて言ったが、レイアの言葉に驚いた。

 

「オスカー、お前は騎士団長と共にこの場にいる全員を避難させろ。」

「ユリウス!?お前まで何を言う!」

ようやく事情がわかったエステルは自分なりに考えたセリフを言って、クロ―ゼを驚かせた。

 

「……賊は姫様や父上に議長、そして民達を狙っているのだ。この場で守れるのは自分とオスカー、そして師匠だけだ。師匠だけでは人手が足りない。だから、オスカー!お前は師匠と共に姫様や民達を護れ!ここは自分とストライフ殿が抑える!」

「ユリウス……わかった!皆!自分と騎士団長に着いて来てくれ!命に代えても皆の命を自分が守る!」」

自分達を避難させようとしているエステルの意図を理解したクロ―ゼは迷ったが、エステル達に任せる事を決断して、生徒達に呼びかけた。

 

「ユリウス!……気をつけろよ!」

「オスカー、お前もな!……団長、お願いします!」

「わかった。……さあ、姫様。ここはユリウスに任せて避難を……」

レイアはヨシュアに舞台脇に引っ込むように促した。

 

「ユリウス!」

「……心配なさらないで下さい、姫。このユリウス、賊ごときでやられなどしません。必ず姫の元に参ります。」

「……約束……ですよ。」

そしてエステル、レイア、ヴィクター以外は全員舞台脇に引っ込んだ。

 

 

「フ……これで、思う存分戦えるぞ、お前たち!」

そう高らかに声を上げたヴィクター。すると、ヴィクターを囲むかのように現れたのは、四つの陰。

 

 

「我ら、ストライフ様につき従いしもの……」

競技用の大剣を構えるラウラは真剣な表情で呟き、

 

 

「いかなる万難、我らの前では児戯に等しき所業……」

逆手持ちで競技用の剣を持つセリカは目を瞑って答え、

 

 

「阻める者、其処に無し。冥土まで語れ、我らの誇りを。」

楽しげに語りつつ、競技用のレイピアを構えるアルフィンは不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「さあ、王の血筋を騙りし賊どもよ。その行いに後悔しなさい。」

締めの台詞を言うエリゼは刃引きした刀を構え、強い口調で叫んだ。、

 

 

「ストライフ殿!……こちらの剣を!」

レイアは、近くにあった……いや、シオンが用意していた競技用の大剣を鞘に収めたままヴィクターに投げた。投げられた鞘をヴィクターは振り向いて取った。

 

「私は予備の剣があります!ですから私に代わり、賊達に裁きを!」

「(なるほど。競技用で刃が落とされているから多少本気を出しても重傷を負わす心配はないな……)ありがたく、バージル殿の剣を今だけは使わせていただく。だから、バージル殿は姫や民達の守りに専念するがよい。」

「はい!」

そしてレイアも舞台脇に引っ込んだ。ヴィクターは、愛剣を収め、競技用の大剣を鞘から抜いて構えた。

エステルもヴィクターの横に並ぶような位置でレイピアを構えた。そしてエステルは小声でヴィクターに話しかけた。

 

(どこの誰だか知らないけど、あたしも戦わせてもらうわ!)

(それは構わないが……なぜ、お前も戦う?)

(そんなの決まっているじゃない!今日までみんなが楽しみにしていたあたし達の劇を滅茶苦茶にしたあのオッサンが許せないに決まっているでしょ!一発ブッ飛ばさないと気がすまないわ!)

(………そうか。武器はそれで大丈夫か?)

(う……実はちょっと自信がなかったり……父さんやレイアに習ってある程度はできるけど、棒とは勝手が違うし……カーッとなってついこの場に留まっちゃったのよね………)

ヴィクターの言葉にエステルは図星をさされたかのような表情で答えた。

 

(………仕方ない。俺が戦いながら指示しよう。お前はそれに従って戦えばいい。)

(え!?あなたってそんな事できるの!?もしかして凄く強い??)

(………話は終わりだ。あの四人はそれぞれ一人ずつ相手にするから、俺は2人を相手にしよう。お前は残りの1人を相手してくれ。)

(オッケー。ところで、あなたの名前は?あたしの名前はエステル!エステル・ブライトよ!あなたは?)

(ヴィクター。ヴィクター・S・アルゼイドだ。)

「(ヴィクターね!(あれ?何か、どっかで聞いた事があるような……?まあいいわ!))さあ、賊共をリベールから追い出しましょう、ストライフ殿!!」

「ああ………行くぞ!」

今ここに“剣聖”の娘と“光の剣匠”……さらには、エステルと同じように未来を担う若者たちの運命が交わり、リベールとエレボニア……『百日戦役』で因縁のある二つの国に生まれ育った六人の共闘が始まった…………!

 

「……どうした?臆したか?」

「な、なにをしておる!とっととかかれ!!」

「は、はっ!!」

ヴィクターの挑発も込めた物言いにデュナンは焦燥しつつも逆上して親衛隊員に命令し、親衛隊員は内心不服に思いながらもヴィクターとエステルにきりかかった。

 

「くるぞ!」

「ええ!」

「「はぁっ!!」」

「……温い!ユリウス殿、右だ!」

その動きを見たヴィクターとエステルも構える。二体一という数の不利や取り回しの利き辛い武器というハンデをもろともせず、あっさりと捌ききりながらも、エステルに回避の指示を送る。

 

「了解!」

「何っ!?」

「そこから追撃をかけろ!」

「せいやっ!!」

エステルはヴィクターの指示通りに回避し、追加の指示を受けて追撃をかける。その動きに親衛隊員はたじろぐ。

 

「やむを得ない……挟撃だ!」

「ああ!」

「ふっ……遅い!!」

ヴィクター相手に挟撃を仕掛けようとしたが、彼は先にそれを察知し、剣を構える。

 

「はあああああああっ……!」

「なっ!?」

「か、身体が!?」

親衛隊員は身体の自由が利かず、ヴィクターの下に引き寄せられる。

 

「くらうがいい、洸円牙!!」

そして、自分の間合いに入った瞬間、ヴィクターの大剣が一閃――クラフト『洸円牙』がさく裂し、二人はあっけなく気絶した。

 

「せやっ!!」

「ふっ!流石に、腕が立つようだな。」

ラウラは隊員の突きを剣捌きでいなし、距離を取る。親衛隊員はすかさず追撃をかけるが、

 

「そこだっ!!」

「ぐぅっ!?な、何故だ!?スピードでは我らの方が……!?」

ラウラは横薙ぎで敵を捉え、辛うじて防御した敵はその速度に驚く。レイピアと大剣……競技用で刃引きがしてあるとはいえ、武器の部類からすれば対人用と対兵器用……扱いやすさの差からすればレイピアに圧倒的軍配が挙がるが、それはあくまでも『武器の扱いはそこそこで、互角の実力を持つ者』同士の場合。達人クラスともなれば大剣ですら普通の剣と大差なく扱う……それこそ、“光の剣匠”のように。そうなれば武器の差など大差ないのだ。

 

「その程度、我が武術では初歩同然のもの。武器の大きさで速度が決まると思ったら大違いだぞ!」

そこから斬り上げ、敵の持つ武器を弾き飛ばすと、

 

「洸円牙!!」

「ガハッ!?」

ラウラは加減した上で、敵を吸い寄せた上で回転斬りを繰り出すクラフト『洸円牙』を放ち、気絶させた。

 

「お~やるねぇ……なら、速攻でケリをつけましょうか。」

そう言って、セリカは敵の周囲を高速で回る。

 

「アルカトラズ・ダンス!」

「な、がああああああっ!?」

セリカの放ったヴァンダール流の技である『ブレード・ダンサー』の上位技……敵の周囲を高速で移動しつつ、全方位から高速の斬撃を放つ『アルカトラズ・ダンス』によってあっさり気絶させられる敵。

 

「それじゃ、私も参りますか……それそれそれそれ!!」

「な、何ぃっ!?」

「とどめ、ですよ。」

「ぐっ……!?」

一方、アルフィンは『知り合い』……シオンから教わったレイピアの剣技で、的確に足止めを行い、近づいたところを一撃……確実に鎮圧した。

 

「せいっ!!」

「……三の型、流水『石清水(いわしみず)』。はあっ!!」

「ん……な、なっ!?」

そして、エリゼは居合の構えから放たれたカウンターの型……三の型“流水”の技『石清水』によって、敵のレイピアを斬り落とした。

 

「返し『逆鱗慟水(げきりんどうすい)』!!」

「ぐはっ……!」

隊員がそれに驚く暇すらなく、エリゼの連撃……カウンターの勢いをそのままに、間髪入れず放たれた中伝の斬り上げ技『逆鱗慟水』によって隊員は地に伏せてしまった。

 

「ひっ……!な、何をしているのだ!お前達は親衛隊員だろ!なんとかしろ!」

自分の足元まで吹っ飛ばされた2人にデュナンは悲鳴を上げて、残りの一人に文句を言った。

 

「か、閣下……!そんな無茶な……」

「隙あり!」

「うわ!?しまった!!」

エステルの攻撃をレイピアで防いでいた最後の一人はデュナンの言葉に顔だけデュナンに向けて答えた。そしてエステルは防御が疎かになった親衛隊員を逃さず、力を入れて親衛隊員をのけ反らせ、ある構えをした。

 

(ヴィクターの構えを見て、ピンと来たわ。えと、確かこんな感じだったはず……)

(え、あの技は!?)

エステルは自分の父や幼馴染の使っていた技を思い出し、その構えを取る。そして、一息ついたエリゼは彼女の構えを見て、それが自分の使っている剣術の技――『八葉一刀流』であることに内心驚いた。

 

「ウィンディーム・ラッシュ!!」

「ぐはあああっ!?」

レイピア用にアレンジした八葉一刀流二の型“疾風”の技『ウィンディーム・ラッシュ』を敵はまともに受け、デュナンの足もとに吹っ飛ぶ。

 

(おいおい…ヨシュアから話は聞いてたが、エステルって結構強いけれど…それよりも、王国軍の中でも精鋭の強さと言われる親衛隊員があんなにあっさりやられるとか、エステルの横で戦っている人って何者だ!?)

一方ハンスはヨシュアから聞いていたエステルの強さに感心しつつも、ヴィクターの強さを目にして驚愕した。

 

(……………………まさか、あの方が学園祭に来てらしてたなんて………………この後、どうすれば……………)

ヴィクターの正体がすぐにわかったクロ―ゼは驚いた後、今後の事を考え不安そうな表情をした。

 

(チッ……おや?あの方……ふふっ、私はついていますわね。)

カノーネはデュナンの悪態に内心舌打ちをしたが、二階の席に舞台で戦っているヴィクターの大切な人がいることに気づき、二階に上がって彼女の下に寄ろうとしたが、

 

(どうかなされましたか、『女狐』殿?)

(っ!?いつの間に!?)

突き刺さる刃の如く、彼女だけに向けられる殺気……カノーネの前後には二人の男性……彼女の前にはレヴァイスが、後ろにはマリクがいた。

 

(い、いえ、侯爵殿の奥方がいらしたものですから……)

(そうですか……よもや、人質などとは考えておりますまい?)

(!?)

乾いた笑みで呟くカノーネ。マリクは小声で、彼女の『見当』を憶測混じりな感じで呟き、彼女はわずかに表情をこわばらせる。

 

(夫人には私めの友人から伝えておきましょう……速やかに去れ。次も似たようなことをした場合、命の保証はしません。)

レヴァイスは柔らかな笑みを浮かべてそう伝えた後……一瞬真剣な表情をしてカノーネに『警告』した。

 

(何の事でしょうか?失礼いたしますわ。)

そう取り繕って、1階に下りたカノーネ。二人はそれを見送り、小声で会話を続けた。

 

(やっぱりか……クルルとフィーは?)

(アイツらには外の『掃除』をやらせた。案の定、だな。)

(やれやれ…もっとも、もう一人『蛇』がいるみたいだが……余計なことをしたら、半殺しだが。)

想定したとおりに事が進んだことにマリクはため息をつきつつもレヴァイスに尋ね、レヴァイスはクルルとフィーに『掃除』……学園の敷地外に潜んでいた特務兵を全員拘束していた。マリクはその報告を聞きつつも、もう一人『招かれざる客』がいることを示唆するかのように呟いた。ただ、殺気などはないので、監視のみに留めることとした。

 

「ひ、ひいいい………!」

自分の護衛が全てやられた事を理解したデュナンは逃げようとしたが

 

「部下を放って、どこに行く気なのだ?」

「ひ!い、いつの間に!?」

いつの間にかデュナンの背後にいたヴィクターにぶつかり、デュナンは腰を抜かしてうめいている親衛隊達のところまで情けない姿で後退した。それだけではない。

 

「情けない人だ……」

「流石『賊』ですね。その情けなさも。」

「まったく、王族を騙るならば大胆不敵位が丁度良いですのに。」

「何を言ってるのよ……」

ラウラ、セリカ、アルフィン、エリゼも二人の下に来て、デュナンを見下ろしていた。

 

(えと……)

(私はラウラだ。よろしく頼む。)

(私はセリカ。よろしくね、エステル。)

(アルフィンと申します。よろしくお願いしますね、エステルさん)

(私はエリゼです。)

色々たじろいでいるエステルに四人は小声で簡単な自己紹介をした。

 

(オッケーよ。ヴィクター、ラウラ、セリカ、アルフィン、エリゼ!いくわよ!!)

(ああ!(ええ!))

エステルは小声で五人に話しかけ、五人もエステルの言葉に頷く。

 

「生徒たちの努力、それを無碍にしようとした貴方に断罪を……疾風!」

「ぐはっ!?」

先鋒はエリゼ。怒気を含んだ表情で二の型“疾風”を放ち、デュナンを怯ませる。

 

「王たる者に顔向けできない所業、反省なさい!」

「がっ!?」

次鋒はアルフィン、シオン仕込みの高速ラッシュでデュナンに追い撃ちをかけ、デュナンの全身に激しい痛みが襲いかかる。

 

「恥を知りなさい!“剛剣”の神髄……身をもって味わえ……破邪顕正!!」

次はセリカ。覇気を込め、放たれるは今や帝国の武を象徴する“ヴァンダール”の極意。剣が覇気によって深紅に染まり上げられていく。剣を構えてデュナンに向かって駆け出し、すれ違いざまに一閃。彼女のSクラフト『破邪顕正』が容赦なくデュナンに叩きつけられた。

 

「楽しみに待つ者の喜びを奪った報い……受けてみろ!奥義……洸刃乱舞!!」

ラウラの持つ剣が光に包まれ、一振りの刃を形成する。ラウラはデュナンに向けて加速し、アルゼイド流の奥義――Sクラフト『洸刃乱舞』の名を叫び、回転斬りを浴びせる!!その衝撃波で、デュナンは空高く舞い上がった!!

 

「ユリウス殿、これを!」

「!ありがとう、今だけはこれを使わせてもらう!」

セリカは持っていた剣をエステルに渡した。エステルにしてみればレイピアよりは扱える種類の武器……エステルは台詞を言いながらもありがたく拝借し、レイピアを後ろに投げ、セリカから借りた剣を構えた。

 

「「はああああああああ…!」」

そう言って、ヴィクターとエステルは闘気を高める。二人の剣には闘気による光が満ちる。2人は落ちてくるデュナン達に同時にそれぞれの渾身の一撃を放った時、それらは併せ技となった!“剣聖”を父に持ち、誰からも愛され『功労者』からその力と技を教わり磨いてきた少女、そして鉄騎隊の代から脈々と継がれてきたアルゼイド流の筆頭伝承者の男、その二人の技がさく裂する!

 

『奥義!桜花洸凰剣!!』

 

舞い散る無数の桜の花びらの如き光の奔流がデュナン達を襲った!

 

「「「「ぎゃぁぁぁ………!!」」」」

避ける暇すらなく飲み込まれたデュナン達は悲鳴をあげながら、観客達の頭上を越えて入口まで吹っ飛ばされた!

 

「……!!」

「うわぁぁぁっ………!ガ!?…………」

「か、閣下~………!!」

入口付近にいた銀髪の青年は吹っ飛ばされて来たデュナンに気付き、身体を少し横に向けて回避した。そして入口を越えたデュナン達は門がある壁まで吹っ飛び、気絶した。そしてデュナンを心配したフィリップは吹っ飛ばされたデュナンを追うかのように、講堂から去って行った。

 

「………私の役割はここまでだな。後はそなたに任せよう…………」

剣を鞘に収めたヴィクターはエステルに剣を渡して言った。

 

「いつかまた、貴殿と会える日は来るだろうか……?」

エステルは自分の役割を思いだして、再び紅騎士ユリウスになりきり、本心も込めたセリフを言った。

 

「………縁があればまたいつか、会えるだろう。(“剣聖”の娘であるそなたとの共闘………短いながらも楽しませて貰えた……いつか共に肩を並べて戦う日が来る事を楽しみにしているぞ。)」

(え?)

「………さらばだ。」

ヴィクターが去り際に言った小声の言葉にエステルは呆け、ヴィクターはエステルに背を向けると舞台から去って行った。

 

「では、我らも行こう。」

「楽しかったよ。あ、それあげるね。」

「また、お会いできるといいですわね。」

「まったく……失礼いたします。」

続いて、ラウラとセリカ、アルフィンとエリゼも舞台から去っていった。

 

 

「………………………」

「ユリウス!」

去って行ったヴィクターを見続けたエステル――ユリウスにクロ―ゼ――オスカーが役者全員を引き連れて声をかけた。

 

「オスカー!姫も!」

「心配しましたよ、ユリウス。」

セシリアが心配そうな表情で話しかけた。

 

「どうしてみながここに?」

「ストライフ殿らが去って行くのを私も見たからな。もう脅威は去ったと思い、お前を心配して来たのだ。特に、オスカーと姫に急かされて大変だったぞ。なあ、チェスター殿?」

「ええ。お二人とも本当に落ち着きのないお姿でした。」

疑問を持ったユリウスにバージルが口元に笑みを浮かべて答え、彼からの問いかけにチェスターも笑みを零して答えた。

 

「し、師匠!」

「チェスター!」

オスカーとセシリアは恥ずかしそうな表情でバージルを咎めた。

 

「フフ……ありがとうございます、姫。此度のような試練がリベールに再び訪れても、私がこの剣を以て斬り払う事をここに誓わせて下さい。」

「姫、私も誓わせて下さい。」

オスカーはユリウスと共に、セシリアの前で跪いて宣言した。セシリアは最初、2人の宣言に驚いたが、少しの間考えた後口を開いた。

 

「ユリウス、オスカー………わかりました。セシリア・フォン・アウスレーゼの名において、2人の誓いを認めます!」

セシリアは肩手を上げて、宣言した。そしてバージルはそれを見て、最後の幕引きの言葉を少し変えてユリウスの代わりに叫び、公爵や議長がザムザの言葉を続けた。

 

「女神よ、再び照覧あれ!今ここに交わした誓いを違わぬ限り、今日という良き日がいつまでも続くことを!」

「リベールに永遠の平和を!」

「リベールに永遠の栄光を!」

そして舞台の幕は閉じた。

 

「フフ……どのような事が起きても、やはり最後は大団円か。だが……それでいい。(それにしても気配を最大限に消していた俺に気付くとは、さすがは“光の剣匠”に“驚天の旅人”。剣士として、いつか本気で手合わせを願いたいものだ……)」

講堂の扉の前にいた銀髪の青年がそう呟いて講堂を出て行った。

 

 

一騒動はあったものの、シオンの機転とヴィクターらの活躍によって劇は大成功に終わり、学園祭を無事締めくくることができたのだ。

 

 




てなわけで……まぁ、シオンだし(謎理論)

こっから先ですが、原作イベントのいくつかが変わります。更には、SC編のイベントもいくつか加わります。

要するに、本来いないはずのヨシュアがいる状態でいくつかのイベントが進行します。

ただ、『お茶会』に関しては調整中です。

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