英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

59 / 200
ある意味『宴』


第44話 祭りの終わり、宴の始まり

~ジェニス王立学園・講堂・控室~

 

学園祭が終わり片づけを終えた後、シオンとレイアとトワは用事があると言って急いで講堂から出て行き、エステルとヨシュアは控室でクロ―ゼと共にジルやハンスに労われていた。

 

「いや~、ほんとお疲れ!監督の私が言うのも何だけど、最高の舞台だったわよっ!」

「最初、男女が逆ということで笑われてしまったけれど……みんな、劇が進むに連れて真剣に見てくれて本当によかった。」

クロ―ゼは笑顔で観客達の様子を語った。

 

「うん、そうだね。あんな恰好した甲斐があったよ。もう二度としたくないけど……」

「はは、そんなこと言うなよ。写真部の連中が劇のシーンを何枚か撮っていたけど……お前さんの写真がどれだけ売れるか楽しみだぜ。」

「ハア、勘弁してよ……」

女装から解放されて安堵の溜息を吐いたヨシュアだったが、ハンスの言葉に顔を顰めて疲れた溜息を吐いた。

 

「エステルたちの写真もすっごく売れると思うわよ。男子はもちろん下級生の女の子あたりにもね。『お姉さま』なーんて呼ばれちゃったりして♪」

「もう、ジルったら………」

からかうような口調で語るジルにエステルは苦笑した後、ある事を思い出し黙った。

 

「あれ……どうしたの、エステル?」

エステルの様子に首を傾げたヨシュアは尋ねた。

 

「あ、うん。ほら、劇の最後で公爵さんが邪魔した事を思い出しちゃって……」

「あ………」

エステルの言葉にクロ―ゼは気不味そうな表情で声を上げた。

 

「あの時はビックリしたね。……本当にどうなるかと思ったよ。」

「私も劇が滅茶苦茶になって、本気で心配したけどエステルを助けた男性が間に入ってくれてから、レイアが真っ先にカバーしてくれて本当にあの時は助かったわ。それと、シオンのお蔭ね。」

エステルの言葉で思い出したヨシュアは頷き、ジルは劇の事を思い出し、安堵の溜息を吐いた。

 

「そういえばあの台本、『非常時のところはよく覚えておくように』って書いてあったんだけれど…どういうことなの?」

「あれか……これは、シオンから台本を渡された際に言われたことなんだが……」

「『今回の劇に使う演目で、乱入者が出るかもしれない』……つまりは、あの人が邪魔することすら織り込んで、台本に書いていたのよ。」

「そう言えば、シオンもあの人に対しては怒りを露わにしてたね……」

シオンは、今回の招待客にデュナンがいることを想定した上で台本を書きあげたのだ。これにはジルやハンスも脱帽もので、エステルやヨシュアも彼の先見の明に感心していた。

 

「にしても、結局誰だったんだろうな?エステルを助けた男性に四人の女性……なんかどっかで見た事がある気がするんだよな……?」

「エステル、名前は聞いた?」

ハンスはヴィクターの事を思い出して首を傾げ、ヨシュアは尋ねた。

 

「うん。ヴィクターって名乗っていたよ。女性の方はラウラ、セリカ、アルフィン、エリゼだったわね。」

「え………!?」

「嘘!?」

「マジかよ……!?」

「……………え!?」

エステルの口からヴィクターの名を聞き、ただ一人ヴィクターを知っていて黙っていたクロ―ゼを除いて、ヨシュア達は驚いた。だが、そのクローゼも女性の名前を聞いて驚いた。

 

「ど、どうしたの!?」

ヨシュア達の様子にエステルは慌てて聞き返した。

 

「エステル………エステルがいっしょに戦った男性だけど………学園祭に観に来ていたのが信じられない人でみんな驚いたんだ。エステルはその人の名を聞いて、何も思わなかったのかい?」

「う、うん。な~んか、どっかで聞いた事はある名前なのよね……」

ヨシュアの質問にエステルは首を傾げながら答えた。

 

「その人は、レグラム自治州当主にして、かつてエレボニア帝国ではヴァンダール家と並んで『帝国の双璧』と呼ばれたアルゼイド家の当主、アルゼイド流筆頭伝承者……ヴィクター・S・アルゼイド侯爵です、エステルさん。」

「あ、あ、あんですって~!?」

クロ―ゼの説明にエステルは信じられない表情で叫んだ。

 

「それよりも、エステルさん。四人の女性の方の中に『アルフィン』と名乗っていた女性がいたと……」

「え?う、うん……」

「って、思い出した!それ、エレボニア帝国の皇女じゃないの、それ!?」

「はぁ!?マジかよ!?」

「あ、あんですって~!?」

クローゼは真剣な表情でエステルに尋ね、エステルはたじろぎながらも頷いて答え、その名前を聞いてちょっと前に読んだ雑誌の中に出ていた人物にそう言った名前があることを思い出してジルが声を上げ、ハンスは驚く。そして、エステルもヴィクターに続く重要人物の登場に驚愕した。するとジルは苦笑して言葉をつづけた。

 

「……いや~、まさか本当に来るとは……」

「ってことはジル、お前エレボニア皇家宛に招待状を送ったのか!?」

「ダメもとでいいから、ってことでシオンに頼んだのよ。彼だったら交友関係広いし。」

「シオン……(何をやってるのよ……)」

「………」

「いや、何と言うか、色々滅茶苦茶だね。」

実際には、シオンが直接バルフレイム宮に出向いてセドリックに渡したのだ。リベール王家の人間がエレボニア皇家に会いに行くことなど『滅茶苦茶』だが、彼の実力からすれば下手に手を出せば返り討ちになるだろう。それが仮に『鉄血宰相』だったとするならば、彼の首と胴体が離れるような所業すらやりかねない。

 

「あははは………あ、そうだ。お二人さん、ちょっと調べてほしいことがあるのだけれど。」

「調査依頼ってこと?」

「ああ、アレか?文化課程の奴らが調べたっていう『噂』って奴。」

「『噂』ですか?」

「ええ。勿論、正式に依頼は出しているのだけれど、中々引き受けてくれなくてね。」

「う~ん……あたしは引き受けてもいいかな。まだ余力はあるし。」

「僕の方も問題はないかな。」

「オッケー。」

二人の了解をもらい、ジルは話し始める。

 

およそ1週間前……エステルらが学園祭手伝いを引き受けた直後位から、妙な噂……移動する『幽霊』が目撃されたというのだ。ジルらが聞いた限りでは、目撃情報は3件。一件目はエア=レッテンから北方向に、二件目はルーアンから北東方向に、三件目はマリノア村から東方向に……そのいずれもが仮面をつけ、奇抜な白い格好に身を纏った人間だったらしい。幽霊と聞いたエステルは顔をこわばらせ、周りから指摘されると最初は怖がっていないと強がったが、結局怖いものには勝てず、素直に白状した。

 

「う~ん……って、考えてみたらここって、ルーアンから北東になるのよね……って、え?」

「マリノア村から東……確か、ここから南にはエア=レッテンの関所があるはず。ということは……」

ルーアン、マリノア村、エア=レッテン……去った方角を全て結びつけると、一つの場所――ジェニス王立学園を指示していたのだ。これにはエステルとヨシュアも驚きだった。

 

「ここなのよね。でも、この校舎にはそう言った噂とかないし。」

「だよな……となると、旧校舎だな。そういう類のものに当てはまりそうなのは。」

学園自体にそう言った類の施設などあまり聞いたことは無いものの、今はあまり人が近寄らない旧校舎しか考えられなかった。

 

「そうなっちゃうのね。でも、昼間の時は何もなかったはずだけれど……」

「ともかく、もう一度行ってみよう。」

「それでしたら、私もお手伝いします。」

「うん。よろしくね、クローゼ。」

エステルはヨシュア、クローゼと共に旧校舎へと向かった。

 

 

~ジェニス王立学園 旧校舎前~

 

生徒全員が学園祭の打ち上げに行っているため、人気のない旧校舎前にはある意味お忍びの人たちばかりだった。

 

「それにしても、今日は楽しかったですわ。女王生誕祭の折にはまた来たいですわね。」

「姫様……」

「もう、アルフィンったら……」

「ふふ……」

「今回ばかりは私もそれなりに楽しめたな。こういうのも悪くはない。」

「私もですよ。」

笑みを浮かべたアルフィンとアリシア、疲れた表情を浮かべるラウラとエリゼ、腕を振るう機会が偶然とはいえ恵まれたことに笑みを零すヴィクターとセリカ。そして……

 

「フフフ、意外なお誘いとはいえ、こうしてお祭りに参加できたことは僥倖だね。特にヨシュア君の女装姿は最高だった。僕ですら求婚してしまいそうだったよ。」

「お兄様、あまり欲望に忠実すぎますと皆様が引いてしまいますよ。」

「お前ら、まとめてハリセンでツッコミ入れるぞ。」

ロレントに向かったはずのオリビエ、ため息をつきつつも窘めるアルフィン、さらには引き攣った笑みを浮かべたシオンの姿だった。

 

「あはは……まぁ、ヨシュアのあれにはさすがに驚いたけれどね。」

「本当ですよ。」

「俺も傍から見させてもらったが、あれは面白かった。(女装姿か……これは『使える』かもな……)」

「だよね。」

レイアのある意味褒め言葉にトワも頷き、アスベルとシルフィアも苦笑していた。すると、近づいてくる人影に気づき、そちらの方を向くとエステル達の姿があった。

 

「あれ?って、さっきの人たちにシオン!?」

「それに、オリビエさん!?」

「アスベルさんにシルフィさんまで!?」

色々な意味で驚愕の人たちが集っている事実……これには三人も驚きである。すると、アルフィンがクローゼに近づき、小声で話しかける。

 

(クローディア姫ですね?アルフィン・ライゼ・アルノールと申します。今回はシュトレオン殿下から招待状を頂きまして、参りました。)

(やはり……初めまして皇女殿下。クローディア・フォン・アウスレーゼです。)

(いえ、こちらこそ……姫殿下。私、負けませんから。)

(!!………こちらこそ、負けませんからね。)

 

(!?……な、何だ、今の寒気は……)

水面下での争い……シオンの伴侶の座を巡っての『宣戦布告』……一方、一瞬悪寒が背中を伝わるように駆けていき、シオンは身震いした。

 

「にしても、何であんたがいるのよ。」

「いや~、実は侯爵閣下からお誘いを受けてね。おかげでいいものを見させてもらったよ、ヨシュア君♪」

「………今すぐ、記憶から消してあげましょうか?」

「おお、怖い怖い。少なくとも、触れ回るつもりはないから安心してくれたまえ。」

ジト目で睨みつつオリビエに尋ねるエステル、それに対して眼福とでも言いたげな表情でヨシュアの方を見ながら言い放ったオリビエに、笑顔で威圧するヨシュア、それを見たオリビエは冗談半分だと弁解しつつもいつもの口調を崩すことは無かった。

 

「こちらとしても驚きなのだがな……」

「それはあたしもなんだけれど…そういえば、そちらの方は?」

「ああ。私の妻だ。」

ヴィクターの言葉にアリシアは前に進み、自己紹介した。

 

「初めまして、エステル・ブライトさん。私はアリシア・アルノール・アルゼイドと申します。」

「よろしくね、アリシアさん。って、あたしは初対面なんだけれど?」

「話はカシウスさんから聞いています。とても元気のいい娘だと言っておりましたよ。」

「ここでも父さんなのね……ってことは、ヴィクターさんも父さんのことを?」

「ああ。一度だけ手合わせしたことがある。流石“剣聖”と呼ばれた人間だったよ。」

「へぇ~……」

その後、エステルらがここに来た理由を説明すると、協力するということで、エステル、ヨシュア、クローゼ、エリゼ、オリビエ、セリカ、ラウラの七人で旧校舎内に向かうことにした。

 

 




てなわけで、オリジナル展開もといFC・SC編同時進行です。

『空』+『閃』+『オリジナル』面子です。特にラウラと『彼』の絡みは出したかったので、こうしましたw

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。