英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第45話 怪盗紳士

旧校舎に到着したエステル達はドアに挟まっているカードを見つけ、カードに書かれている意味深な言葉を推理して探索しているとさらにほかのカードがあり、最後には地下への階段を見つけ、エステル達は地下に降りて、進んだ。

 

 

~ジェニス王立学園 旧校舎地下最奥部~

 

「あ…………!」

エステルは奥にいた人物の姿を見つけると驚いて声をあげた、その人物の姿は数々の目撃者達が見た白いマントを羽織った人物だった。

 

「白いマントの人物……どうやら、貴方が『噂』の元凶のようですね。」

「影もあるようですし、幽霊じゃあなさそうですが………何者ですか?」

「フフフ……」

ヨシュアの言葉とエリゼの質問に白いマント姿の人物は笑いながら、エステル達に振り返った。

 

「ようこそ、我が仮初めの宿へ。このような場所ではあるが貴公らの訪問を歓迎させてもらおうか。」

「何と奇抜な……」

「か、仮面……?」

「白いマントの人物……あなたがここ一週間、ルーアン各地を騒がしていた『影』の正体ですか?」

白いマント姿の人物が仮面をかぶっていることにラウラとエステルは驚き、クロ―ゼは今までの情報を整理して真剣な表情で尋ねた。

 

「フフ……その通りだ、クローディア姫。そして、獅子心の血統を継ぎし君、聖女の血と技を今に伝える姫君、更には聖なる剛剣を継ぎし君、お目にかかれて光栄だよ。」

「え!?どういうこと!?」

「……なるほどね、只者じゃなさそうだ。」

「………」

「私やエリゼ、ラウラの身の上も知っているとはね……何者?」

マント姿の人物がクロ―ゼの正体を知っている事にエステルは驚き、ヨシュアは冷静な表情で呟いた。更にはエリゼが真剣な表情で対峙し、セリカも彼の博識さに驚きつつも尋ねる。エステル達の様子を見て、不敵に笑った後マント姿の人物は自己紹介をした。

 

「フフ……私に盗めぬ秘密などない。改めて自己紹介をしよう。『執行者』NO.Ⅹ“怪盗紳士”ブルブラン―――『身喰らう蛇』に連なる者なり。」

「『身喰らう蛇』……!?」

「…………くっ!…………」

「フフ、そう殺気立つことはない。私はここで、ささやかな実験を行っていただけなのだ。諸君と争うつもりは毛頭ない。」

警戒するエステル達の様子を見たブルブランは口元に笑みを浮かべて答えた。

 

「じ、実験……?」

ブルブランの言葉に首を傾げたエステルだったが、ブルブランの後ろにある黒いオーブメント――ゴスペルを見つけた。

 

「それって……(あたしが持っているのと同じ……ううん、それよりも一回り大きいわね)」

「黒いオーブメント……(どういうことなんだ?エステルが持っているものとは違うのか?)」

見覚えのあるオーブメント――ゴスペルを見て、エステルやヨシュアは驚いた。

 

「ふむ、『彼』の報告通り、一部の人間だけこれの存在は知っているか。このオーブメントは実験用に開発された新型でね。今回の実験では非常に役に立ってくれたのだよ。」

「……いったい何の実験ですか?」

ブルブランの話を聞いたセリカはブルブランを睨みながら尋ねた。

 

「フフフ……百聞は一見に如かずだ。実際に見ていただこうか。」

セリカに睨まれたブルブランだったが気にもとめず、ゴスペルが置いてある装置らしき所についているスイッチを押した。すると浮いていて、透けているブルブランの映像がエステル達の目の前に現れた。

 

「ゆ、幽霊……!」

「いや、その装置を使って空間に投影された映像のようだね。そんな技術が確立されているとは寡聞にして聞いたことはなかったが。」

「これは、我々の技術が造りだした空間投影装置だ。もっとも、装置単体の能力では目の前にしか投影できないが……このオーブメントの力を加えると、このようなことも可能になる。」

『ゴスペル』から黒い光があふれだすと、ブルブランの映像が急にエステルたちの後ろに移動した。

 

「きゃっ……!?」

「わわっ……」

「ひゃぁっ!?」

いきなり自分達の後ろに現れたブルブランの映像を見て、エステル達は驚いた。そしてブルブランの映像はエステル達の周りを何周か廻った後、ブルブランの元に戻り、ブルブランがスイッチを押すと映像は消えた。

 

「―――とまあ、こんな感じだ。フフ、ルーアン市民諸君にはさぞかし楽しんでもらえただろう。」

「……つまり、単なる悪ふざけだったというわけか。」

「あなたの悪戯のために、ルーアンの人達が怖がっているんのですよ!?」

ブルブランの言葉を聞いたラウラとセリカはブルブランを睨んだ。

 

「悪ふざけとは人聞きが悪い。これから訪れるであろう選挙に浮かれゆく市民たちに贈るちょっとした息抜きと娯楽……そんな風に思ってくれたまえ。」

ラウラとセリカの言葉を聞いたブルブランは心外そうな様子で答えた。

 

「カ、カラクリはわかったけど……いったいどうしてこんな事をしでかしたのよ!?『身喰らう蛇』って……いったい何を企んでいるわけ!?」

ブルブランの話を聞き、呆れながら納得したエステルはブルブランを睨んで叫んだ。

 

「フフ……それは私が話すことではない。私が、今回の計画を手伝う理由はただ一つ……クローディア姫―――貴女と相見(あいまみ)えたかったからだ。」

「えっ……?」

ブルブランに名指しをされたクロ―ゼは驚いた。

 

「市長逮捕の時に見せた貴女の気高き美しさ……それを我が物にするために私は今回の計画に協力したのだ。あれから数日―――この機会を待ち焦がれていたよ。」

「え、あの、その……」

ブルブランの話を聞いたクロ―ゼは何の事かわからず、戸惑った。というか、寧ろ引き気味だった。

 

「……市長逮捕って、ダルモア市長の事件よね。な、何であんたがあの時のことを知ってるのよ!?」

「フフ、私はあの事件の時、陰ながら君たちを観察していた。たとえば……このような方法でね。」

エステルに尋ねられたブルブランは一瞬で執事の姿に変えた!

 

「えっ!?姿がいきなり変わった!?」

「まさかあの時いたダルモア家の……!?」

いきなり姿を変えたブルブランを見てエリゼは驚き、ヨシュアは察しがついて信じられない表情で変装したブルブランを見た。そしてブルブランはまた一瞬で元の仮面と白マントの姿に戻った。

 

「怪盗とは、すなわち美の崇拝者。気高きものに惹かれずにはいられない。姫、貴女はその気高さで私の心を盗んでしまったのだよ。他ならぬ怪盗である私の心をね……。おお、何という甘やかなる屈辱!如何にして貴女はその罪を贖(あがな)うおつもりなのか?」

「あ、あの……そんな事を言われても困ります。」

「この自分に酔った口調……そっくりじゃないですか?」

ブルブランの芝居がかかったようなセリフにクロ―ゼは戸惑い、セリカは呆れた表情でオリビエに尋ねた。

 

「失敬な……興味本位で誰彼かまわず恐怖を煽り立てるような輩と一緒にしないでくれたまえ。僕が甚だ心外だよ。」

セリカに尋ねられたオリビエは心外そうな表情で答えた。

 

「フフ………欲を言えば、かの“黄金の姫君”とも相見えたかったところだが、彼女は君達の傍にいないようだからね………非常に残念だ。」

「『身喰らう蛇』。何か思っていたのと違うけど……クローゼが狙いと聞いたらなおさら放っておけないわね!絶対に許せないわ!」

「エステルさん………」

ブルブランの話を聞き、勇ましく武器を構えるエステルをクローゼは心強く思った。

 

「協会規約に基づき、不法侵入の容疑で拘束します。そのオーブメントのことも含めて、色々と喋ってもらいます。」

そしてエステルに続くようにヨシュアも武器を構えて、ブルブランを睨んで宣告した。

 

「やれやれ……何という無粋な連中であろう。相手をしてやってもいいがせっかく選んだこの場所だ……『彼』に相手してもらおうか。」

「なに……?」

ブルブランの言葉に訳がわからず、ラウラは首を傾げた。そしてブルブランは指を鳴らした!すると、地面が揺れ動きだした。

 

「な、なんなの……?」

「ふむ……イヤ~な予感がするねぇ。」

そしてエステル達が横を向くと、横にあった大きな扉が開き、そこから大型の人形兵器が現れた!

 

「な、なにコイツ!?」

「甲冑の人馬兵!?」

「フフ、どうやら『彼』はこの遺跡の守護者のようでね。半ば壊れていたところを私が親切にも直してあげたのだ。せっかくだから君たちが相手をしてあげるといい。」

人形兵器の登場に驚いているエステル達にブルブランは得意げに説明した。

 

「じょ、冗談じゃないわよ!」

「……来るよ!」

 

そしてエステル達は遺跡の守護者――ストームブリンガーとの戦闘を開始した。戦闘は終始エステル達の優勢で進み、全員のSクラフトを止めに受けたストームブリンガーは身体の到る所から大爆発を起こして、崩れ落ちて二度と立ち上がらなくなった。

 

「か、勝った……」

「よかったです…………」

「さて、次は貴方の番ですね。」

戦闘が終了し、エステルとエリゼは安堵のため息を吐き、ヨシュアはブルブランを睨んだ。

 

「やれやれ……。優雅さに欠ける戦い方だな。仕方ない……私が手本を見せてあげよう。」

ヨシュアに睨まれたブルブランだったが、溜息を吐いた後持っているステッキを構えた。

 

「Flamme!(炎よ!)」

「な……!?」

「篝火の炎が……!?」

「これは一体………?」

「な、何が起こるんですか!?」

すると、照明となっている周囲の篝火が大きくなった事にエステルとクロ―ゼは驚き、セリカは首を傾げ、エリゼは慌てた。

 

「Aiguille!(針よ!)」

そしてブルブランは一瞬で懐からナイフを出し、それを篝火によって大きくなったエステル達の影にめがけて放った!

 

「「えっ……!?」」

「きゃっ……!?」

「おお……!?」

「う、動けません!」

「なっ………!?」

「これは……『影縫い』か!?」

ブルブランの技によってエステル達は動けなくなり、焦った。

 

「フフ、動けまい……この程度の術、執行者ならばアーティファクトに頼るまでもない。」

「そ、そんな……」

「クソ……見くびりすぎたか……!」

動けないエステル達が焦ったその時

 

「ピューイ!」

「フッ!」

「ピュイィッ!?」

ジークが飛んで来て、ブルブランに攻撃しようとしたが、ブルブランによって、エステル達と同じように『影縫い』を受けて、飛んでいる状態で動かなくなった!

 

「ジーク!?」

「現れたな、小さきナイト君。君の騎士道精神には敬意を表するが、しばし動かないでいただこうか。」

「クロ―ゼさん!」

クロ―ゼに近付くブルブランを見て、エリゼは焦りの表情で声を上げた。

 

「クローディア姫。これで貴女は私の虜(とりこ)だ。フフ、どのような気分かね?」

「……見くびらないでください。たとえこの身が囚われようと心までは縛られない……私が私である限り、決して。」

不敵な笑みを浮かべて自分を見るブルブランにクロ―ゼは凛とした表情で見つめ返した。

 

「そう、その目だよ!気高く清らかで何者にも屈しない目!その輝きが何よりも欲しい!」

しかしブルブランは逆に喜び、高らかに言った。

 

「ふ、ふざけたこと抜かしてんじゃないわよ!」

「そうです!」

エステルとエリゼは無理やりブルブランの方向に向いた。また、オリビエとラウラも同じようにブルブランの方向に向いた。

 

「このような振る舞い、紳士とは聞いてあきれるな!」

「しかも、仮面を被っているなんて……余程過去に後ろめたいものでもあるのですかね、臆病者」

「やれやれ、この仮面の美しさが分からないとは……君達には美の何たるかが理解できていないようだな。」

ラウラとセリカに睨まれたブルブランは呆れて溜息を吐いた。

 

「フフッ……」

「む……?」

オリビエの笑みに気付いたブルブランはオリビエを見た。

 

「ハハ、これは失敬。いや、キミがあまりにも初歩的な勘違いをしているのでね。つい、罪のない微笑みがこぼれ落ちてしまったのだよ。」

「ほう……面白い。私のどこが勘違いをしているというのかね?」

オリビエの指摘にブルブランは興味を惹かれ、尋ねた。

 

「確かに僕も、姫殿下の美しさを認めることに吝かではない。だがそれは、君のちっぽけな美学……いや失敬、美学にすら劣る哲学では計れるものではないのさ。顔を洗って出直してきたまえ。」

「おお、何という暴言!たかが旅の演奏家ごときがどんな理由で我が美学を貶める!?返答次第では只ではすまさんぞ!」

オリビエの言葉を聞いたブルブランは怒り、オリビエを睨んだ。

 

「フッ、ならば問おう―――美とは何ぞや?」

そしてオリビエは静かに問いかけた。

 

「何かと思えば馬鹿馬鹿しい……。美とは気高さ!遥か高みで輝くこと!それ以外にどんな答えがあるというのだ?」

「フッ、笑止……。」

ブルブランの高々とした答えに対して、オリビエは両目を閉じて口元に笑みを浮かべた後、両目を開き高々と言った!

 

 

「真の美―――それは愛ッ!」

 

 


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