英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第46話 変な好敵手

~旧校舎 地下最奥部~

 

ストームブリンガーとの戦いに勝利したエステルらだったが、ブルブランの術によって身動きが取れなくなった。そして、クローゼの下に近寄るブルブラン……その時、笑みを浮かべたオリビエに気付いたブルブランはその笑みの意味を尋ねた。

 

『―――では問おう。美とは何ぞや?』

オリビエのその問いかけにブルブランは高々とした答えを提示したのに対して、オリビエは両目を閉じて口元に笑みを浮かべた後、両目を開き高々己の答えを言った。

 

「真の美―――それは愛ッ!」

「……なにッ!?」

オリビエの答えを聞いたブルブランは驚いた!

 

 

「愛するが故に人は美を感じる!愛無き美など空しい幻に過ぎない!気高き者も、卑しき者も愛があればみな、美しいのさっ!」

 

 

「私に言わせれば愛こそ虚ろにして幻想!人の感情など経ずとも美は美として成立しうるのだ!そう、高き峰の頂きに咲く花が人の目に触れずとも美しいように!」

 

 

「だが、その感情はいずれから生まれ来るものだと貴公は理解していない!感情があるが故に美は生まれ、いかなる形であろうとも人の愛によって形作られる!その造形を生み出すのはひとえに愛!すなわち、美とは愛そのもの!!」

 

 

「ざ、戯言を……!穢れなき純粋な美は、それを形作る時から定められしものだ!そこに感情というものがあろうとも、その美が揺らぐことは決してない!!不安定な要素である感情、ましてや愛如きが美と並ぶに値するものではない!!」

 

 

「愛如き、とは言ってくれるじゃないか……だが、美という言葉もまた不変ではなく、その価値観が変わりやすい言葉だ!全ての人が納得しうる『美』。誰もが美を美と受け入れられる……それを君は提示できるというのかね!」

 

 

「無論だ!!美の価値観は一つにあらずとも、美の内包する魅力に憑りつかれない者などいない!太陽や月の満ち欠け、星の煌き……それらは万人共通の美とも言えよう!!」

 

 

「それは確かに僕も認めるところではある。だが、その美を美として認識するために、人は感情を持つ!『美しい』という言葉には、それに対する感動・尊敬・憧れ・願望……それらのいずれかがなければ成立しえない……そして、ひいては愛情を抱くからに他ならない!」

 

 

「むむっ…」

 

 

「ぬぬっ…」

 

 

オリビエとブルブランはお互いに主張をつづけ、睨みあった。

 

 

 

「……えーと。」

「何と言いますか……」

「こ、困りましたね……」

一方オリビエとブルブランの舌戦を聞いていたエステル達は呆れて脱力した。一方、ブルブランを挑戦的な目でオリビエを見て尋ねた。

 

「……まさかこんな所で美をめぐる好敵手に出会うとは。演奏家―――名前を何という?」

「オリビエ・レンハイム。愛を求めて彷徨する漂泊の詩人にして狩人さ。」

「フフ……その名前、覚えておこう。」

オリビエの名前を聞いたブルブランが不敵な笑みを浮かべたその時、一人の女性が来ていた。

 

「……どこかで馴染のある気配だと思ったら、『変態仮面』とはね……」

「貴様、私を愚弄……な!?“絶槍”!?」

「クルル!?」

「お久しぶり、ブルブラン。まさか、幽霊騒ぎの正体が貴方だったなんて………とりあえず」

疲れた表情を浮かべつつ、会いたくもなかったような口調で話す女性――クルルの言葉に、ブルブランは憤るがクルルの姿に驚き、ラウラはクルルの姿を見て驚き、クルルは得物の双十字槍を構えると、

 

「いっぺん吹っ飛べ」

「ガァッ!?」

目にも停まらぬ速度で近づき、ブルブランを吹き飛ばした。

 

「ピューイ♪」

「あっ……!」

「痺れが取れた……」

「やった~!」

「そうか……本人を吹き飛ばしたから影が消えたのか!」

「フッ、とんでもないお嬢さんだ。」

そしてクルルの行動によって影が元通りになり、エステル達は動けるようになった。

 

「ククク……ハーッハッハッハッ!」

そしてブルブランは唐突に笑いだした後、装置に付けられていた黒いオーブメント――『ゴスペル』を取り外した。

 

「「あっ!」」

「オーブメントを!」

ブルブランの行動にエステル、ヨシュア、クロ―ゼは警戒した。

 

「こんなに愉快な時間を過ごしたのは久しぶりだ。礼を言わせてもらうぞ、諸君。」

「貴方……まだ何かやるつもりですか!」

ブルブランの言葉を聞いたエリゼはブルブランを睨んで尋ねた。

 

「フフ……今宵はこれで終わりにしよう。しかし、諸君に関しては認識を改める必要がありそうだ。懐かしい顔ぶれ……二人にも会えたことだ。尤も、片方は記憶を失っているようだが……」

「(記憶……もしかして、ヨシュアのこと?)」

「………」

ブルブランの意味深な発言に、エステルは未だに過去の知らない人物――ヨシュアのことが思い浮かび、クルルは武器を構えてブルブランを睨んだ。

 

「なに、諸君らはいずれ会い見える運命(さだめ)……餞別として、この黒いオーブメントの名称を教えよう。『ゴスペル』……それが、このオーブメントの名称だ。」

そしてブルブランはステッキをかざした。するとブルブランの廻りに薔薇の花びらが舞った。

 

「あっ……!?」

「な、なんだ……!?」

ブルブランの行動にエステル達は驚いた。

 

「さらばだ、諸君。計画は始まったばかり。せいぜい気を抜かぬがよかろう………それとは別に、私は私なりの方法で君たちに挑戦させてもらうつもりだ。フフ、楽しみにしていたまえ………」

ブルブランはエステル達に伝えた後、声はなくなり、気配も消えた。

 

「き、消えた……」

「し、信じられません……」

ブルブランが消えた事にエステルとクロ―ゼは信じられない様子でいた。

 

「まるで、手品の如き姿の消し方ですね。」

「ハッハッハッ。なかなかやるじゃないか。これはボクの方も好敵手と認めざるを得ないね。」

エリゼは彼の転移に少し感心しつつも驚き、オリビエは呑気に笑っていた。

 

「そういう問題じゃないってば!奇天烈な格好はともかく……あいつ、並の強さじゃないわ!」

「『身喰らう蛇』―――予想以上に手強そうですね。」

エステルの言葉にセリカは頷いて、ブルブランが消えた場所を睨んだ。翌朝、街に戻ったエステル達は事件の報告をすべく、ギルドに向かった。

 

 

~遊撃士協会 ルーアン支部~

 

エステルの報告を聞き、ジャンは難しい表情を浮かべた。

 

「黒いオーブメント――『ゴスペル』。『福音』とは大層な名前だね……にしても、本当ならば正遊撃士レベルの依頼をよく片付けてくれたね。それじゃ、これを二人に渡しておくよ。」

ジャンはエステルとヨシュア、レイアに報酬と推薦状なるものを手渡した。

 

「え?これって……」

「外見は推薦状に似ていますが……」

「実はね、規約の中に『実力的にも問題なく、正遊撃士クラスの依頼解決実績あり』と判断した場合、正遊撃士の初期ランクよりも上のランクに相当すると認める『特別推薦状』を渡す決まりとなっているからね。これで、レイアはランクアップ確定になったわけだね。」

その初めての例はアスベルとシルフィアだった。彼らの実績からすればトップクラスの正遊撃士と遜色ない……今後もそういった実力者を人格的および実力的にも問題ないと判断すれば、『特別推薦状』を手渡す決まりとなっている。

 

「しかし……あの投影装置を考えると、ハンパな組織じゃないはずです。しかも黒いオーブメント――『ゴスペル』を持ち出してくるとは……」

「まったく……父さんは一体どんな組織と戦うつもりなのよ……」

冷静に分析したヨシュアの言葉にエステルは頷き、『ゴスペル』を託した自分の父親が戦おうとしている組織の不気味さにエステルは冷や汗をかいた。

 

「どうやら結社の目的は『ゴスペル』を使った実験をすることにあったようだね。幽霊騒ぎは、趣味の入った実験結果でしかなかったようだ。」

「怪盗ブルブラン……あいつ、自分のことを『執行者』と呼んでたよね。」

「恐らく『結社』のエージェント的な存在だろうね。それも、組織となれば単独とは言えないはずだろうし。」

オリビエ、エステルの話を聞いたジャンは自分の仮説をエステル達に話した。

 

「……ツァイス地方に行った方がいいかもしれないね。彼―――ブルブランが言っていた『ゴスペル』の正体も気になるし、R博士のことも解るかもしれないし。」

その辺りが落としどころだろう。何せ、黒いオーブメント――『ゴスペル』の正体すらよく把握していない以上、その解明が先……エステルとヨシュア、レイアは次の行き先をツァイス地方に決めた。

 

「そういえば、エステルさん。私の事をあまり驚いていないようでしたが……」

「あ~……実は、シオンに聞いたのよ。ジルやハンス、ミーシャにも同じことを聞かれたし。」

「そうですか。」

「でも、あたしとヨシュアにとっては友達よ!なんたって、同じ劇を演じた仲間だし!」

「エステルさん……ありがとうございます。それに、ヨシュアさんも。」

「うん。学生の君も一国の姫としての君も『クローゼ』だってことは解ってるし、僕も友でありたいと思ってるからね。」

ブルブランとの一件でクローゼのことをあまり驚いていなかったエステルに尋ね、エステルは正直に事の次第を打ち明け、その上でクローゼとは良い友達でありたいと力強く言い、ヨシュアもそれに同調し、クローゼは二人の言葉に笑みを浮かべて感謝した。

 

「それでは準備ができたらさっそく飛行場に行くとしよう。ジャン君。乗船券を7枚手配してくれたまえ。」

「へっ……?」

「いきなり仕切ってなに図々しいこと言ってんのよ…………って7枚?」

オリビエの提案にジャンは首を傾げ、エステルはジト目でオリビエを睨んだが、ある事に気付いて首を傾げた。

 

「フッ、エステル君とヨシュア君とレイア君、トワ君にシオン君。そして、この僕と姫殿下の分に決まっているだろう。」

首を傾げているエステル達にオリビエは当たり前の事を言うような表情で答えた。

 

「あ、あんですって~!?」

「そんな気はしてましたが……この先も付いてくるつもりですか?」

オリビエの話を聞いたエステルは驚いて声をあげ、ヨシュアは顔をしかめて尋ねた。

 

「僕にとっては新たな好敵手との出会い……その彼とは敵対すること自体確実。僕が同行する理由は十分だと思うけどね?」

「あ、あんたのタワケた理由はともかく……シオンとクローゼまで一緒に巻き込むんじゃないわよ!」

「いえ……実は私も、同じことをお願いしようと思っていました。」

エステルはオリビエを睨んで怒鳴ったが、当の本人であるクロ―ゼはオリビエと同じ考えである事を答えた。

 

「リベールで暗躍を始めた得体の知れぬ『結社』の存在。王位継承権を持つ者として放っておくわけにはいきません。それに何よりも……エステルさんとヨシュアさん、そしてレイアさんの力になりたいんです。それに、シオンには同行の旨を伝えるようお願いされましたし。」

クロ―ゼは凛とした表情でエステル達についていく理由を答えた。

 

「クローゼ……で、でも学園の授業はどうするの?」

「聞くところによると、相当難しいらしいけれど……」

エステルは嬉しさを隠せないが、ヨシュアは心配そうな表情でクロ―ゼに尋ねた。

 

「実は今朝、コリンズ学園長に休学届を出してしまいました。試験の成績も問題ありませんし、進級に必要な単位もとっています。ジルとハンス君、ミーシャにも相談したら『行ってくるといい』って……」

実際には、クローゼとシオンの取得単位は既に進級要件を満たしている……シオンに至っては、休みの日の特別講習や補習で卒業に必要な単位まで既に取得しているため、遊撃士としての活動自体にほとんど支障はない。

 

「い、いつのまに……」

「やれやれ……思い切りのいいお姫様ですね。」

クロ―ゼの行動を知ったエステルは苦笑し、レイアは感心した。

 

「す、すみません……押しかけるような真似をして。あの……駄目でしょうか?」

「ふふっ……駄目なわけないじゃない!そういう事なら遠慮なく協力してもらうわ!ヨシュアとレイアもいいよね?」

クローゼは申し訳なさそうにエステルらの方を向くが、エステルはクローゼの申し出に喜んでいた。

 

「そうだね。実力はお墨付きなわけだし。」

「断わる理由がないんだけれどね。アーツにしても、ジークにしても、クローゼがいると色々助かるし。」

「よかった……ありがとうございます。エステルさん、ヨシュアさん、レイアさん。」

「えへへ、何といっても紅騎士と蒼騎士の仲だもんね。それに姫君と師匠までいるし!」

「あ……はい、そうですね!」

「そうだね。」

「お、思い出させないでよ……」

エステルの言葉を聞いたヨシュアとレイアもクローゼの同行を快く同意し、クローゼは感謝の言葉を述べた。その後のエステルの言葉にクローゼとレイアは劇の事を思い出して笑みを零し、ヨシュアは疲れた表情をしてエステルをジト目で睨んだ。

 

「フッ、それじゃあボクは黒髪の姫に強引に迫ろうとする隣国の皇子という設定で……」

「勝手に役を増やすなあっ!」

「(ちゃっかり身分明かしちゃってるし……)」

エステル達の和やかな会話にちゃっかり入って来たオリビエにエステルは怒鳴り、冗談ではないその設定にレイアは内心苦笑した。

 

「あはは……話がまとまって何よりだね。しかし、そういう事なら2人を『協力員』という立場で扱わせてもらった方が良さそうだ。そうすればギルドとしても経費面などで便宜が計れるからね。」

エステル達のやり取りを微笑ましそうに見ていたジャンはクロ―ゼとオリビエの立場を言った。

 

「はい、それでお願いします。」

「誠心誠意、愛を込めて協力させてもらうよ。」

そしてエステル達はギルドを出た…………………

 

 




とりあえず、第一章完w

次はFC第三章・SC第二章同時進行です。『あの人』には色々活躍してもらいます。

ティータとの出会いはオリジナル展開ですので、宜しくお願いしますw


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