英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第47話 描き出された筋書き

ルーアンを出発する際、エステルらはマーシア孤児院……ジョゼフやテレサ、子どもたちが見送りに来て、色々言葉を交わした後飛行船に乗り込んだ。ツァイスに到着後、エステル達は初めて見るツァイスの変わった風景や設備を珍しがったり戸惑ったが、ギルドに向かった。

 

 

~遊撃士協会 ツァイス支部~

 

ギルドに入ると、受付には東方風の衣装を着た女性が瞑想をしていた。

 

「………………………………」

「あの~、あたしたち、」

瞑想している女性にエステル達は近付いて、エステルが声をかけると女性は目を開き、口を開いた。

 

「……ようやくのご到着ね。エステル、ヨシュア、レイア、シオン。ツァイス支部へようこそ。」

「へっ……」

「僕たちをご存知なんですか?」

エステル達の事をすでにわかっている風に語った女性にエステルは驚き、ヨシュアは尋ねた。

 

「ルーアン支部のジャンからすでに連絡は受けていたから。容姿に関しては説明を省くけれど……まさにあなたたちのことね。」

「な、なるほど……」

次々とエステル達の特徴を言った女性にエステルは圧倒されたかのように呆けた。何はともあれ、それなりにできる人物だというのは率直に感じた。

 

「私の名前は、キリカ。ツァイス支部を任されている。以後、お見知りおきを。早速だけど、所属変更の手続をしてもらうわ。こちらの書類にサインして。」

「うん、わかったわ。」

受付の女性――キリカはエステルとヨシュアに転属手続きの書類を渡した。

 

「こちらこそ助かるわ。そちらの3人がトワさん、クローゼさんとオリビエさんね。」

「宜しくお願いします、キリカさん。」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。」

キリカに対してトワとクロ―ゼは礼儀正しく挨拶をした。

 

「フッ、それにしても予想以上の佳人ぶりだ。このオリビエ、貴女のために即興の曲を奏でさせてもら……」

「ジャンによれば、貴方たちは正式な協力員になったそうね?協力員は、遊撃士と同じように上の休憩所を自由に利用できるわ。待ち合わせに使うといいでしょう。」

「「はい、わかりました。」」

オリビエはキリカの容姿を見て、いつもの調子でリュートを出したが、キリカは無視して説明をトワとクロ―ゼにした。

 

「えーと、即興の曲を……」

「リュートを奏でたいなら上の休憩所で、どうぞご自由に。ただし、常識の範囲内でお願いするわ。」

「シクシク……分かりました。」

(シェラ姉より確かに容赦がないかも……)

(そうみたいだね……)

キリカとオリビエの遣り取りを見たエステルとヨシュアは苦笑した。

 

「……いいわ。これであなたたちもツァイス支部所属になったけど……今のところ、すぐにやって欲しい急ぎの仕事は入ってないの。掲示板をチェックしながら自分たちのペースで働くことね。それはそうと……」

エステルとヨシュアのサインを確認したキリカはエステル達にそう伝えた。

 

「久しぶりね、レイアにシオン。A級の正遊撃士二人が準遊撃士のお付きをしているだなんて、珍しい光景なのだけれど?」

「仕方ないよ。それが仕事だし……」

「俺は半ば巻き込まれた形なんだが……」

キリカの適切なツッコミにレイアは苦笑を浮かべつつ簡潔に説明し、シオンは疲れた表情で言葉を呟いた。まぁ、そうでなくともキリカの言っていることは的を射ているのであるが……

 

「そうだキリカさん、聞きたいことがあるんだけど……」

その会話に苦笑したエステルはキリカに尋ねたが、

 

「カシウスさんのことね。」

「ひえっ!?」

「それもジャンさんからお聞きになったんですか?」

エステルの疑問を先読みしたかのように答えたキリカにエステルやヨシュアは驚いた。

 

「一通りのことはね。残念だけど、カシウスさんはツァイス地方には居ないわね。少なくとも、ここ数ヶ月はこの支部を訪れていない。」

「は~っ、そっかあ……」

「残りは王都か、それとも……」

カシウスの手掛かりが相変わらず掴めない事にエステルとヨシュアは溜息をついた。

 

「それとあなた達に渡す物があるわ。これを持っていきなさい。」

エステル達の会話が終わるのを見計らったキリカが手紙を渡した。

 

「え、これって……」

「中央工房の責任者であるマードック工房長への紹介状。このツァイス地方では市長と同じ立場にいる人ね。」

「ひょっとして……黒いオーブメント――『ゴスペル』の件ですか?」

キリカが工房長への紹介状をエステル達に渡した理由を察したヨシュアがキリカに尋ねた。

 

「王立学園での話を聞く限り、悪戯にしては無視できないものだし、かなり謎めいた代物のようね。まずは工房長に会って相談してみるといいでしょう。」

「な、なんかメチャメチャ用意いいわね~。キリカさん、超能力者とか?」

「あなた達遊撃士のサポートが私の仕事だから。届けられた情報を判断してしかるべき用意をしただけよ。」

「お、恐れ入りました。」

「助かります、本当に。」

キリカの用意の早さにエステルとヨシュアは驚いた後感謝した。そしてエステル達は『ゴスペル』を調べてもらうために中央工房へ向かった。

 

 

~ルーアン 遊撃士協会支部2階~

 

その頃、ルーアンの遊撃士協会支部では……錚々たる面々が軒を連ねていた。

 

「さて……エステルらにはツァイスに向かってもらいましたので、こちらも動きましょうか。」

「まぁ、エステルには申し訳ないけれどね。」

「ま、これも裏にいる『連中』を仕留めるためだけどな。」

百日戦役における功労者の筆頭格……“不破”もとい“紫炎の剣聖”アスベル・フォストレイト、“霧奏の狙撃手”シルフィア・セルナート、“驚天の旅人”マリク・スヴェンド。

 

「やれやれ……話に聞いてはいたが、よもやリシャールがそのようなことを企んでいたとは……」

「至宝による国家の安定……お伽話ですら現実味がありそうに聞こえる話だな。」

「お伽話の方が現実味のある……それには同意しますよ。」

S級正遊撃士“剣聖”カシウス・ブライト、レグラム自治州当主“光の剣匠”ヴィクター・S・アルゼイド、元『鉄血の子供達(アイアンブリード)』にして先日A級正遊撃士に昇格した“尖兵”ラグナ・シルベスティーレ。

 

「現実味がなさすぎだろう……」

「ん。それには同意かな。」

「ま、確かに」

『西風の旅団』団長“猟兵王”レヴァイス・クラウゼル、その彼の『お墨付き』ともいえる“西風の妖精”フィー・クラウゼル、元『執行者』にして『翡翠の刃』の実力者“絶槍”クルル・スヴェンド。

 

「(……あと、トワから伝言よ。クーデター終結後あたりに『第五位』がこちらに来るって)」

「(アイツかよ……総長も何考えてるんだか……)」

そして、A級正遊撃士“黎明”セシリア・フォストレイト。

 

尚、アルフィンやエリゼ、ヴィクターの妻であるアリシアとラウラは安全を考慮し、昨晩の内にそれぞれ帝都とレグラムへ送り届けた。念のため、リーゼロッテとリノアは護衛するためにレグラム入りしている。

 

「そういえば……カシウスさん。どうして『漆黒の牙』……ヨシュアがブライト家にいるんですか?」

「!?……そう言えば、君は元『執行者』か。彼の事は?」

「大方の事情は知っています……それに、その当事者もリベールにいるのは確実ですし。」

「なっ!?」

クルルの言葉――ヨシュアの『正体』と、彼をそう仕立て上げた『当事者』がリベールにいることにカシウスは驚いていた。

 

「彼の性格からすれば、ヨシュアを使って情報収集ぐらいやりますよ?」

「あ~、その点なんだが……こちらである程度干渉しておいた。一定範囲を超えなければ、向こうに気付かれることは無いからな。」

ヨシュアと出会った際、彼の刻まれた『聖痕』……いや、『紛い物の聖痕』に干渉をかけ、『一定以上の情報を流せない様に制御』したのだ。つまり、彼が流したのは遊撃士協会の必要最低限の情報とカシウスの動向位である。

 

「まぁ……『ゴスペル』による第一段階……『リシャール大佐によるクーデターを利用しての第一関門突破』……これに関しては既に手を打ってあります。ただ、下手に阻止すれば面倒な事態になりかねませんので、ツァイス地方では目論み通りに動いてもらいますが……」

クーデターを止めるのではなく、成功したように見せかける……これは、カシウスの役割が非常に大きくなる。彼には『秘密裏に』リシャールの説得にあたってもらう。カノーネについては問題ないが、厄介なのはロランスの存在だろう。そこで、ロランスに関しては同じ組織にいた元『同業者』にお願いすることとした。

 

「クルル、ロランスの方を頼む。間違っても殺すのはやめてくれよ?」

「おっけー」

「で……グランセル城には先んじて入り、こちらで掌握します。カシウスさんには、アリシア女王の『権限』で軍に復帰してもらい、軍のトップに据えます。そして、エステルらには予定通りリシャールを止めてもらうために行動させます。」

ここまではいい……ただ、『結社』が複数の『ゴスペル』を持っていた場合、少々厄介なことになりかねない。だが、ブルブランが『ゴスペル』を回収しているため、そこまでの体制にはなっていないようだ。それが今のところの『不幸中の幸い』というところだろう。

 

「あと、意外なところから協力者を得られました。」

「意外なところ……?」

「ええ。ある意味『手の内を知る』彼の協力です。エベル離宮に関しては、『彼一人でどうとでもなる』とのことです。」

 

 

~エベル離宮~

 

「え?入れないんですか?」

「ああ。テロリストがうろついているらしい……」

「へぇ~……それじゃ、失礼しました。」

離宮の前にいた兵に話を聞いていた白髪混じりの黒髪の男性。無駄足だと解ると礼をして、振り返り……

 

「というわけじゃないんだよな!!」

「ぐぁっ!?!?」

どこからか出したハンマーを振り回し、兵たちを気絶させた。その男性――結社『身喰らう蛇(ウロボロス)』の『使徒(アンギス)』第一柱にして『執行者(レギオン)』No.Ⅰ“調停”ルドガー・ローゼスレイヴは一息つくと、近くに感じた気配を察し、それに該当するであろう人物の名を呼ぶ。

 

「………そこにいるんだろ、レン」

「あら、バレちゃった♪流石私の婚約者(フィアンセ)ね♪」

出てきたのは同じ『執行者』No.ⅩⅤ“殲滅天使”レン・ヘイワースだった。

 

「何を言ってるんだよ、お前は……今はそれどころじゃないがな。」

「そうみたいね。にしても……ルドガーが星杯騎士のお兄さんと知り合いだなんて、どのような縁なのかしら?」

「俺にしてみれば『腐れ縁』ってところだな。アイツには色々世話になっちまったからな。」

レンの冗談ならない言葉に反論しつつも、ルドガーはハンマーをしまって剣の二刀流に持ち替え、レンも鎌を『取り出す』。

 

「今回はあくまでも無力化……殺しはするなよ。」

「了解♪でも、『白面』のおじさまは怒りそうだけれどね♪」

「あいつの事情なんざ知らねーよ……レン、人質がいる場所に来たら、身を隠しておけ。『かくれんぼ』がお得意のレンにはうってつけのお役目だろ?」

「成程ね。ウフフ、レンの十八番にあの人たちは上手く見つけられるかしら?」

ルドガーの言葉で大方の事情を察し、意味深な笑みを浮かべるレン。

 

「こ、これは……!!」

「貴様ら、何者だ!?」

すると、交代のために出てきたと思しき兵らが打ち倒されている兵たちとルドガーらに気づき、武器を構えた。

 

「そうだな……さしずめ、『真にリベールを憂う者』……その協力者とでもしていただこうか!!」

「フフフ♪ルドガーとレンからは逃れられないわよ?」

ルドガーとレンはそう彼らに告げ、彼らに向かって、走り出す!

 

「そぉれ!!」

「がっ!?」

レンはクラフト『カラミティスロウ』で兵を怯ませると、オーブメントを駆動させてアーツの準備をする。

 

「真・朧……!!」

ルドガーはヨシュアの使う『朧』よりも遥かに洗練されたクラフト『真・朧』を放ち、敵を吹き飛ばす。

 

「レン、今だ!」

「了解♪シルバーソーン!!」

そして、ルドガーの合図とともにレンの放ったアーツが敵に炸裂し、気絶した。

 

「時間が惜しいな……正面突破と行くか。」

「今や『第七柱』に匹敵するだけのルドガー相手じゃ、どんな敵も雑魚以下だけれどね♪」

「匹敵ってだけだからな……アリア姉さん相手は正直疲れるんだよ……」

あんなの、チートだチート。Sクラ15発当てても倒れないって、どんな装甲してるんだか………まだレーヴェやヨシュアのほうが人間のレベルだよ。

 

ちなみに、その言葉を呟いた直後位に、アリアンロードとヨシュアとロランス(レーヴェ)は同時にくしゃみをしたとか……

 

そしてルドガーとレンはエルベ離宮に突入し、見回りの特務兵達を倒しながら人質達が閉じ込められている部屋を探し始めた。そして、鍵のかかった部屋を見つけ、ルドガーが容赦なくドアをぶち破って中に侵入した。

 

「なんだ貴様ら……」

「どこかで見かけたような……。」

先を進むと見張りの特務兵達が扉の前にいて、ルドガー達に気付いた。

 

「面識はないはずなんだが……アイツの仕業か?」

「かもしれないわね。ごきげんようお兄さんたち♪貴方達に残酷な運命を届けに来た天使よ♪」

「な、舐めるなァ!」

「我らが鉄壁の守り、破れるものなら破ってみろ!」

特務兵との戦闘では……『執行者』である二人はそれほど苦戦することもなく、クラフトを使うまでもなくあっさりと鎮圧した。そして、指示通りレンに『待機』させると、ルドガーは人質たちのいる部屋に入った。

 

 

~エルベ離宮 紋章の間~

 

「え?貴方は……」

そこにはリアン少佐の妻であるメアリーがおり、ルドガーの姿に目をパチクリさせた。

 

「そうですね。さしずめ助けに来た輩とでも言いましょうか。」

「あ、あの、ありがとうございます。それで、夫は……」

「無事ですよ。それについては保証します。」

「よ、よかったです……」

「茶番はそのくらいにしてもらおうか……」

なんと特務兵の中隊長が銃をルドガーに向けながら現れ、また部下の特務兵が一人の幼い女の子に銃を突きつけていた。

 

「ふぇぇ、メアリーさん……」

「リアンヌちゃん!?」

(確か、モルガン将軍の孫娘だったな……『アイツら』の情報通りだったというわけか。)

女の子は泣きそうな表情でメアリーを見て、見覚えのある女の子を見てメアリーは驚き、ルドガーは真剣な表情で睨みつつ、彼らが言っていた情報通りだったことに内心で不敵な笑みを浮かべた。

 

「言っておくが、ただの脅しと思うなよ……我らが情報部員、理想のためなら鬼にも修羅にもなれる!そろそろキルシェ通りから巡回部隊が帰還する頃合いだ。たかが一人……ここで一網打尽にしてくれるわ!」

中隊長は鬼気迫るような表情でルドガーを睨んで言った。

 

「鬼、修羅ねえ……正直脅しにすらなっていないぞ。」

「全くね♪」

その威圧ですら、児戯とも思えたルドガーの言葉に同調するかのように特務兵らの後ろから聞こえた声……

 

「そぉれ!!」

「ぐあっ!!」

レンの一閃により、中隊長とリアンヌを人質にしている兵は怯んだ。その隙をルドガーは逃すはずなどなく、

 

「何が鬼や修羅だよ、この外道にも劣る屑どもが……!!秘技!幻影乱舞(ファントムレイド)!!」

0の状態から一瞬で到達する超高速ともいえるトップスピード、その移動が生み出す幻影を駆使した、縦横無尽の斬撃を繰り出すルドガーのSクラフト『真・幻影乱舞』がさく裂し、二人はなす術もなく崩れ落ちた。そして、ルドガーはその際にリアンヌを救出し、メアリーのもとに届けた。

 

「リアンヌちゃん!」

「ひぐっ……うう……。うわわああああああん!」

恐怖から解放されたリアンヌは泣き始めた。

 

「……」

「フフ、流石のルドガーも女の子相手だと優しいわね。」

「語弊のある言い方は止めろ……どうやら、ここの『要』は到着したようだ。」

それを静かに見つめていたルドガー、それを見て意味深な言葉を言うレンにルドガーはすかさず反論したが……気配に気づき、扉の方を見た。

 

「なっ、貴方方は……なるほど、団長の言っていた『助っ人』ですね。」

「俺らの役目は達した。後は任せる。」

「……協力、感謝します。」

「貴方達も頑張ってくださいね。それでは、失礼いたしますわ。」

『翡翠の刃』、マリクの側近であるウェッジは二人の姿を見てすぐに認識した。それを見たルドガーとレンは軽く一礼をしてその場を去った。

 

 

~エルベ離宮前~

 

「疲れたな……どうせだから一足伸ばすか。」

「それなら、いいところがあるわよ。何でも、温泉があるらしいわ。」

「……余計なことしたら、パテマテに逆さづりの刑な。」

「ルドガーのイケズ。あれ、でもあそこって……」

「『痩せ狼』か………ほっとこう。それは俺らの役目じゃない。」

「それもそうね。」

ルドガーとレンは他愛ない会話をしつつ、その場から転移した。

 

 




ルドガーはぶっちゃけヨシュアの上位互換版です。何せ、『執行者』の教育係ですからw

あと、オリジナルの『聖痕』を持つ三人(アスベル、シルフィア、トワ)との絡みから、ヨシュアの『聖痕』に細工しています。原作でもケビンが関わっていますしね。

そして、クローゼが共に行動していることから、女王に脅しをかけることができません。仮にロランスが出てきても、最大の抑止力がいますので(ニヤリ)

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