英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第48話 ツァイス中央工房

その後、中央工房に向かったエステル達はクローゼとシオン、オリビエを外で待機させた。受付嬢に紹介状を見せた後、工房長がいる部屋に向かった。

 

 

~ツァイス市内 ツァイス中央工房 工房長室~

 

「やあ、待っていたよ。エステル君にヨシュア君、レイア君にトワ君だね。」

「あ、はい。初めまして、工房長さん。」

「お忙しいところを失礼します。」

「お久しぶりです、マードックさん。」

「はじめまして。」

工房長――マードックに四人は各々会釈をした。

 

「いやいや。気にしないでくれたまえ。遊撃士協会には……特にカシウスさんにはお世話になっているからね。そのお子さんたちとなれば歓迎しないわけにはいかないさ。」

「えっ!?工房長さんって父さんの知り合いなの!?」

「知り合いというかカシウスさんは大の恩人だよ。この中央工房は、大陸で最もオーブメント技術が進んでいる場所と言っても過言じゃない。当然、その技術をめぐって色々とトラブルが絶えなくってね。どうしても対応に困った時にはロレント支部に連絡して彼に来ていただいていたんだ。」

ZCF――ツァイス中央工房は西ゼムリアでも……いや、実際には『結社』の『十三工房』すら超えた技術力を有するゼムリアの頂点に君臨しうるだけのオーブメント最先端地だ。故に、その技術を盗もうとする輩も少なくない……そう言ったトラブル解決のためにカシウスやアスベル、シルフィアがここを訪れている。

 

「そ、そうだったんだ……」

「はは、道理でいつも出張が多かったわけだね。」

カシウスとマードックが知り合いである事にエステルは驚き、マードックの説明を聞いて2人は納得した。

 

「それに、レイア君やシオン君、それとアスベル君とシルフィア君には色々と助けられたからね。」

「へ?アスベルにシルフィが?」

「おや、知り合いかね?」

「ええ。近所に住んでいますから……というか、アスベルとシルフィアってことは……」

「ああ。彼らも遊撃士だよ。」

「………」

「か、彼らが遊撃士って……」

「あははは……」

マードックの言葉にエステルは口をパクパクさせ、ヨシュアも驚きを隠せず、レイアに至っては苦笑していた。

 

「てか、何で話してくれなかったのよ……」

「ちょっと事情があってね……」

「ともかく、恩人やそのお子さんたちが、わざわざ訪ねてきてくれたんだ。喜んで相談に乗らせてもらうよ」

「えへへ……。ありがと、工房長さん。」

「少し話は長くなりますが……」

協力的なマードックにエステル達は黒いオーブメント――『ゴスペル』を手に入れた経緯を説明した。

 

「なるほど、そんなことがあったのか……そのオーブメントを拝見しても構わないかね?」

「うん、もちろんよ。」

エステルは荷物の中から『ゴスペル』を出してマードックに渡した。マードックは『ゴスペル』をしばらく隅々と調べた。

 

「ううむ……確かに得体の知れない代物だ……。明らかに最近造られた物だが、どこにもキャリバーが刻まれていない……」

「キャリバー??」

「オーブメントのフレームに刻まれている形式番号ですか?」

「うん、その通りだ。オーブメントには、ほぼ例外なくいつどこで造られたのかを表す形式番号が刻まれている。これは、リベールだけでなく他の大陸諸国でも事情は同じでね。50年前に、オーブメントが発明された時からの伝統なのだよ。」

「へ~、そうだったんだ。」

マードックの説明を聞いたエステルは懐から戦術オーブメントを取り出して、フレームを調べた。

 

「……あ、ほんとだ。確かに番号が刻まれてるわ。」

「はあ……今まで気付かなかったのかい?」

「う、うっさいわね~。でも、形式番号(キャリバー)が無いのってそんなに不思議な事なんだ?」

呆れているヨシュアに言い返したエステルは首を傾げてマードックに尋ねた。

 

「導力技術者にとってナンバリングをすることは常識とも言えることだからねぇ。試作品だとしてもそれは同じ……」

「となると、なにか後ろ暗い目的で造られた可能性が高いかもしれないってことですね。」

「後ろ暗い目的……」

「少なくとも真っ当な目的ではないでしょうね。」

マードックの言葉とトワの推測にエステルは真剣な表情をし、レイアも頷いた。

 

「まあ、はっきりとしたことは内部を調べないと判らないが……」

マードックは『ゴスペル』の中身を見ようとフタを探したが、手が止まった。

 

「まいったな……調整用のフタが見当たらない。よく見たら継ぎ目もないし……どうやって組み立てたんだろう?うーん、このままだと中を調べるのすら難しそうだな。」

「え~、そんなぁ……あ、だったら外側のフレームを切断すればいいんじゃない?」

マードックの言葉に肩を落としたエステルはオーブメントの中身を見るための提案した。

 

「まあ、確かにそうするのが手っ取り早いかもしれないが……でも、カシウスさんあてに届いたものを勝手に傷つけるのはちょっと気が引けるなあ。」

「そ、そっか……」

「…………例の博士だったら任せられると思うんだけど……」

「あ……同封されていたメモの……。確かに、その博士だったら任せちゃっていいかもね。」

「???」

エステルとヨシュアの会話が理解できなかったマードックは首を傾げた。事情がわかっていないマードックにエステルはオーブメントといっしょに入っていた手紙を見せた。

 

「実は、そのオーブメントと一緒にこんなメモが入ってたんだけど……」

「『R博士に調査を依頼……』」

「そのR博士という方に心当たりはありませんか?」

ヨシュアは手紙に書かれてある人物を知っているか尋ねた。

 

「心当たりがあるもなにも……頭文字がRで、カシウスさんの知り合いといったら『ラッセル博士』に間違いないだろう。」

「やっぱりそうですか……」

「ラッセル博士?ていうか……ヨシュアの知り合いなの?」

「いや、面識はないけどね。オーブメント技術をリベールにもたらした人物として有名なんだ。」

「私も存じています。オーブメントを発明したエプスタイン博士の弟子でしたよね?」

ラッセル博士の事がわからないエステルにヨシュアが説明し、トワもそれに答えた。

 

「ほう、よく知ってるね。オーブメントを発明したのはエプスタイン博士という人だが……ラッセル博士はそのエプスタイン博士の直弟子の1人にあたるんだ。40年前、彼が持ち帰ったオーブメント技術のおかげでリベールは導力技術先進国となった。いわば、リベールにおける導力革命の父といえるだろう。」

「ほええ……そんなすごい人がいるんだ。父さんってば、つくづく意外な人脈を持ってるわねぇ。」

ラッセル博士の事を知ったエステルはカシウスの人脈に驚いた。

 

「しかし、そのオーブメントを博士に任せるのは心配だな。どんな事になってしまうのやら……」

「へ?」

「なんと言うか……良くも悪くも天才肌の人でね。一度、研究心に火がつくと色々なことを起こしてくれるんだ。そうだ……初めて導力飛行船を開発したときや、次世代のエンジン起動実験の時も…………ふう…………」

ラッセル博士の事を説明し終えたマードックは思い出したくもない事を思い出し、遠い目をした。

 

(な、なんか遠い目をしてる……)

(色々とあったみたいだね……)

(まぁ、あの人はねぇ……)

(い、嫌な予感……)

マードックの様子を見てエステルやヨシュアは苦笑し、トワも冷や汗をかきつつ苦笑した。

 

「……コホン、これは失礼。まあ、確かに博士ならそのオーブメントの正体を必ずや突き止めてくれるだろう。紹介するから相談してみるといい」

「ありがと、工房長さん!」

「どちらに行けば博士にお会いできますか?」

「そうだな……。ちょっと待ってくれたまえ。」

椅子に座っていたマードックは立ち上がり、部屋に備え付けてある通信機を操作した。

 

「もしもし……。おお、ちょうど良かった。実は君のことを捜していてね。すまないが、こちらに来てもらえないかな?うん、うん、待っているよ。」

誰かを呼んだ風に聞こえたエステルはマードックに呼んだ人物の事を尋ねた。

 

「ひょっとして、そのラッセル博士を呼んだの?」

「いやいや、とんでもない。実はラッセル博士は町に個人工房を持っていてね。最新式の設備が揃っているから普段はそちらで研究してるんだ。」

「へ~。さすが天才博士って感じね……あれ、それじゃあ今、呼んだのは?」

「うん、そのラッセル博士のお孫さんがここで働いているんだ。その子に君たちのことを案内してもらおうと思ってね。」

「その“子”?」

マードックの言葉にエステルが首を傾げた時、見覚えのある作業着を着た女の子が部屋に入って来た。

 

「えっと、失礼します。」

「え、女の子?」

「しかも、結構若いですね…」

「あ、ティータちゃん!」

「どうしてここに?」

女の子――ティータが入って来た事にエステルやヨシュアはその容姿に驚き、面識のあるトワは笑顔になり、レイアはなぜここに来たのかを尋ねた。

 

「ティータ……思い出した。ティータ・ラッセル。ラッセル博士の孫娘だったかな。」

「へぇ~。あたし、エステルっていうの。エステル・ブライト!」

「僕はヨシュア・ブライト。よろしくね、ティータ。」

「あ、はい。こちらこそ、宜しくお願いします。」

ヨシュアはトワの呟いた彼女の名前からティータの事を思いだし、エステルは感心したように返事をしつつも自己紹介し、ヨシュアも自己紹介をした。

 

「それじゃあ彼女が博士のお孫さんなんですね。」

「うん、その通りだ。ティータ君。こちらのエステル君たちが博士に相談があるそうなんだ。家まで案内してもらえるかね。」

「おじいちゃんに……あ、はい、わかりましたっ!」

マードックの頼みにティータは礼儀正しく答えた。

 

「また会えたね、ティータちゃん。」

「今回もよろしくね。」

「えへへ……うん!」

そして、顔馴染であるレイアとトワに会えたことに喜んでいたティータだった。

 

「よろしく頼んだよ。そうそう、何か判ったら私にも教えてくれると嬉しいな。技術者のはしくれとして、非常に興味をそそられるからね。」

「あはは、うん、わかったわ。」

「それでは失礼します。」

そしてエステル達はティータと共に部屋を出た後、三人と合流してティータの案内でラッセル家に向かった…………


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