英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第49話 黒き光

エステル達はティータに案内され、ラッセル家に入ると……奥で作業していたアルバート・ラッセル博士は数日間かかりきりで作り上げていた導力器が完成し、すっかり熱中していたためかエステル達も成り行きで実験を手伝うことになり、実験が終わった頃にはすっかり夕方になっていた……

 

~ラッセル家・夕方~

 

そして実験が終わり全員がリビングの椅子に座り改めての紹介をした。

 

「わはは、すまんすまん。すっかりお前さんたちを中央工房の新人かと思ってな。ついコキ使ってしまった。」

「ったく、笑いごとじゃないわよ。コーヒーだけじゃなくさんざん手伝いをさせてさ~。それにシオンやクローゼ達まで手伝わせるなんて思わなかったわよ……」

「それには同意だな……(王族をこき使ったのは後にも先にもこの人ぐらいだな……)」

「フフ、とはいえ貴重な体験をさせてもらったことには変わりないかな。流石はリベールのオーブメント第一人者というべきお方だ。僕もこう言った熱中さを見習わなければ……」

「何を言ってるのよ、アンタは……」

「あはは……ですが、普段はなかなかできない経験ですね。」

呆れているエステルとシオンの言葉を聞いて、オリビエは博士の熱心さに感心し、エステルはジト目でオリビエの方を見てツッコミを入れ、クローゼも苦笑したが、普段の生活では経験できなかったことを知ることができたのは正直に嬉しいと述べた。

 

「そうだね、貴重な体験をさせてもらったと思えばいいかな。新型オーブメントの起動実験なんて滅多にあるもんじゃないんだし。」

「そうですよ。新たな技術の実験に立ち会える事なんてあまりない事ですから、貴重な経験と思えばいいじゃないですか。」

「ほう、お前さん達。なかなか判っておるようじゃの。どうじゃ、遊撃士や教会のシスターなんぞやめて導力学者への道を進んでみんか?」

エステルを宥めているヨシュアやトワにアルバートは冗談か本気かわからない提案をした。

 

「もう、おじいちゃんたら!ごめんなさい、みなさん。なんだか、わたしも実験に夢中になっちゃって……」

「あ、ティータちゃんは謝る必要はないんだからね?」

「うん。ティータといっしょにお手伝い出来て楽しかったよ!」

謝るティータにエステルは苦笑し、トワはティータといっしょに働けた事に嬉しさを感じてお礼を言った。

 

「はあ、『導力革命の父』というからどんなスゴイ人かと思ったけど……。ここまでお調子者の爺さんとは思わなかったわ……」

「わはは、そう誉めるでない。しかし、まさかカシウスの子供達や王子殿下に姫殿下達が訪ねてくるとはのう。わしの方もビックリじゃよ。」

「あ、やっぱり博士って父さんの知り合いだったんだ?」

「うむ、けっこう前からのな。あやつが軍にいた頃からじゃから20年以上の付き合いになるか。」

「わたしも、カシウスさんと会ったことがありますよ。おヒゲの立派なおじさんですよね?」

「うーん、立派というか胡散臭いというか……そういえば、博士はシオンやクローゼの事を知っているんだ?」

ティータから見たカシウスの印象をどう修正すべきか悩んだ後、アルバートが最初からシオンとクローゼを知っている風に話していたのが気になり尋ねた。

 

「うむ。わしは頻繁に王城へ行くことが多いからのう。二人の両親とも面識はあるし、アリシア女王とも仲は良い。それに彼女の兄とは親友みたいな存在だったからのう。」

「そうだな。まさか再会していきなり手伝わされるとは俺も驚いたがな。」

「わはは、それはすまなかったです。このように成長されたことは、わしも嬉しく思います。わしにしてみれば、シオンは孫みたいなものですから。」

(なんだか、クローゼとテレサ先生、ジョセフさんの関係を見てるみたいね)

(そうだね。)

(そうですね。)

シオンとアルバートのやり取りを見て、ルーアンでのクローゼとジョセフ、テレサのやりとりを思い出し、自然と笑みがこぼれた。

 

「でも……シオン、クローゼや父さんの知り合いならアレを預けてもよさそうね。」

「そうだね、問題ないと思うよ。」

「???」

「なんじゃ、何かあるのか?そういえば、お前さんたち、わしに相談があるそうじゃな?」

エステルとヨシュアの会話の意味がわからなかったティータは首を傾げ、2人の会話の内容が気になった博士はエステル達が自分を尋ねてきた理由を聞いた。

 

「うん、実はね……」

そしてエステル達はこれまでの経緯を説明した後、黒いオーブメント――『ゴスペル』を取り出して机の上に置いた。

 

「……ほう」

「わあ……真っ黒いオーブメント……」

博士とティータは見た事もないオーブメントを見て声を上げた。

 

「ふむ、これは興味深いのう。形式番号(キャリバー)がないのもそうだが、継ぎ目のたぐいが見当たらん。しかもこのフレームは……」

オーブメントを手に取ってすみずみまで見た後、博士は腰のベルトから工作用のカッターを取り出した。そしてそのままオーブメントの表面にカッターの刃を強く押し当てた。

 

「な、なにをしてんの?」

「特殊合金製のカッター……」

博士がした事がわからないエステルは首を傾げ、博士の持っている物に気付いたヨシュアは博士が持っている物の正体を呟いた。

 

「………やはりか………ほれ、見てみるがいい。」

博士に促されたエステル達は黒いオーブメントを見た。

 

「あれっ?」

「キズ1つ付いてない。」

「普通の金属でしたら刃物を当てれば、傷がつくのだけれど………」

「どうやら、このフレームはどんな金属よりも硬い素材でできているようだね。特殊合金製のカッターで切れないところを見ると、それもかなりの硬度のようだ。」

エステルやヨシュア、レイアはオーブメントにキズが付いていない事に首を傾げ、それを見たオリビエが推測した。

 

「うむ、その通りじゃろう………切断して中を調べるのはかなり難しいかもしれんな。」

「そ、そんなにとんでもない代物なんだ……」

「切断するのが難しいとなると困ったことになりましたね……」

アルバートの答えにエステルは驚き、ヨシュアはどうすればいいか考え込んだ。

 

「ま、フレームの切断は時間をかければ出来るじゃろ。しかしその前に、測定装置にかけてみるべきかもしれんな。」

「ソクテイ装置?」

エステルは言われた言葉が理解できずポカンとし、それを見てティータが説明した。

 

「さっきの実験で使用したあの大きな装置の事です。導力波の動きをリアルタイムに測定するための装置なんですよ。」

「よ、よくわかんないんだけど、その装置を使えばこれの正体がわかるのよね?」

言われたことを全く理解できないエステルは考え、答えを聞いた。

 

「まあ、重要な手掛かりは得られる可能性があるな。」

「エステル、博士達に任せてみよう。何かわかるかもしれないし。」

「そうね、ヨシュア。じゃあ博士、お願いします。」

「うむ、それじゃあ早速……」

博士は意気揚々と工房に行こうと立ちあがりかけたが、ティータに呼び止められた。

 

「でも、おじいちゃん。そろそろゴハンの時間だよ?」

「えー。」

博士は調べる時間が延びたことに思わず文句の声を出した。

 

「えーじゃないよおじいちゃん。あ、エステルさん達もよかったら、食べていって下さい。あんまり自信はないんですけど……」

「あ、それじゃあ遠慮なく♪」

「よかったら僕達も手伝うよ。」

「人数も多いでしょうから大変でしょうし、私達も手伝いますね。」

「よし、それなら僕はBGMとして一曲……」

「アンタも手伝いなさい。」

「そんな殺生な!?今弾かずにいつ弾けと言うのかね!?」

「大人しく手伝え♪」

「ハイ、ソウサセテイタダキマス」

「あはは……ありがとうございます、みなさん。」

ティータに晩御飯を進められエステル達は快く受け、手伝いを申し出た。

 

「よし、それじゃあこうしよう。食事の支度が済むまでわしの方はちょっとだけ……」

「だ、だめー。わたしだって見たいもん。抜け駆けはなしなんだから。」

「ケチ。」

博士はそう言ってこっそり工房に行こうとしたがティータに見咎められた。それを見てエステル達は囁き合った。

 

(なんていうか、この2人……)

(血は争えないってやつだね。)

(フム……この祖父にしてこの孫ありといったところか……)

(……色々複雑だな……クローゼはユリ姉によく似てる気がするが……)

(ふふ……そういうシオンだって、ユリアさんに似てきてますよ?)

(……父親に似なくて、よかった。)

(はは………)

 

そして夕食が済みついに実験の時が来た………

 

 

~ラッセル家・夜~

 

「コホン……腹も膨れたことじゃし早速始めるとしよう。エステル、例のオーブメントを台の上へ。」

「う、うん……」

アルバートの言葉でエステルは緊張した顔で『ゴスペル』を測定器の台の上に置いた。

 

「これでいいの?」

「うむ。ティータや。そちらの用意はどうじゃ?」

アルバートはオーブメントを確認しティータに用意の状態を聞いた。

 

「うん、バッチリだよ。」

「よろしい。それでは『ゴスペル』の導力測定波実験を始める。」

「ドキドキ、ワクワク……」

ティータは期待の目で実験を待っていた。

 

「あーティータったら凄いやる気の目ね。」

「ティータちゃん、凄く輝いているよ。」

「あ……てへへ。」

エステルやトワに言われたティータは恥ずかしがった。

 

「よし、それでは始めるぞ。ティータ。装置の起動を頼む。」

「うんっ!」

ティータが装置の起動を始め、アルバートも操作をし始めた。

 

「出力を45%に固定……各種測定器のスタンバイ開始。」

「了解……………………………………。うんっ。各種測定器、準備完了だよ。」

「さーて、ここからが本番じゃ。入出力が見当たらない以上、中の結晶回路に導力波をぶつけて反応を探るしかないわけじゃが……そこで、この測定装置の真価が発揮されるというわけじゃ!」

アルバートは楽しそうに言った。

 

「ノ、ノリノリねぇ……」

アルバートの様子にエステルは苦笑した。そして実験が始まり順調に進み始めた。

 

「よしよし、順調じゃ。ティータや、測定器の反応はどうじゃ?」

順調に進んでいると感じたアルバートはティータに測定器の様子を聞いた。だが、ティータは表情の曇った顔で答えた。

 

「う、うん……なんだかヘンかも……」

「なぬ?」

「メーターの針がぶるぶる震えちゃって……あっ、ぐるぐる回り始めたよ!」

ティータは慌てた様子で伝えた。

 

「なんじゃと!?」

アルバートは予想外の答えに声を上げた。そしてその時オーブメントが黒く光り始めた。

 

「な、なんじゃ!?」

「きゃあ!」

黒い光にアルバートやティータは驚いた。

 

「これは……!?」

「旧校舎で見たあの光……」

「ヨシュア、これ……!?」

「あの時の黒い光……!」

見覚えのある光――旧校舎の地下で見た黒い光にクローゼとオリビエは驚き、同じように驚いたエステルはヨシュアに確認した。そして黒い光はどんどん広がった。

 

「なんじゃと!?」

そして外の照明や家の光等導力器が次々と導力をなくし始め、市内は真っ暗になった。その様子に気付いたエステル達は実験をしているアルバートやティータをその場に残して市内を手分けして街中を見たがなんと街全体の導力器が止まり、街中がパニックになっていた。

 

「お、おじいちゃん、これ以上はダメだよぉ!測定装置を止めなくっちゃ!」

「ええい、止めてくれるな!あと少しで何かが掴めそう……」

あたりの様子に気付いて測定を止めようとしているティータを振り切ってアルバートが測定を続けようとしたところ、エステルが戻って来た。

 

「ちょっとちょっと!町中の照明が消えてるわよ?みんな、灯りが消えて凄く騒いでいたわ!」

「ふえっ!?」

「なんと……。ええい、仕方ない!これにて実験終了じゃああっ!」

エステルの言葉にティータは驚き、アルバートは悔しそうな表情で測定装置を止めた。すると消えていた照明がついた。

 

「あ……も、元に戻った……」

「よかった~……」

「はうううう~……」

「計器の方は……ダメじゃ、何も記録しておらん。ということは、生きていたのは『ゴスペル』が乗った本体のみ。あとは根こそぎということか……」

照明がついたのを見て、エステル達は安堵の溜息をつき、アルバートは測定装置の結果を見て唸った。

 

「よかった……実験を中止したみたいだね。」

「あ、ヨシュア!外の様子はどうなの?」

「うん……照明は元通りになったみたいだ。まだ騒ぎは収まっていないけどね。今、レイア達に手分けして騒ぎを収めてもらっているところだよ。」

「そっか……。すぐにあたし達も行かなきゃね。でも、一体全体、何が起こっちゃったってわけ?」

エステルは『ゴスペル』が起こした出来事に首を傾げた。エステルの疑問にアルバートは少しの間考えた後、答えを言った。

 

「そうじゃな……。あえて表現するなら『導力停止現象』と言うべきか。」

「『導力停止現象』……オーブメント内を走る導力が働かなくなったということですね。」

「そうね、やっぱり、その『ゴスペル』が原因なのかな……?」

アルバートの説明を理解したヨシュアは確認し、エステルは頷いた後導力が停止した原因の『ゴスペル』を見た。

 

「うむ、間違いあるまい。しかし、これほど広範囲のオーブメントを停止させるとは。むむむむむむむむむ……こいつは予想以上の代物じゃぞ。面白い、すこぶる面白いわい!」

「お、面白がってる場合じゃないと思うんですけど~……」

『黒の導力器』の効果範囲を知って、目を輝かせている博士にエステルは白い目で見た。その時、誰かが部屋に入って来た。

 

「ハ~カ~セ~ッ!!」

怒りを隠し切れていない声を出しながら、部屋に入って来た人物――マードックは博士に近付いた。

 

「おお、マードック。いいところに来たじゃないか。」

「いいところ、じゃありません!毎回毎回、新発明のたびにとんでもない騒ぎを起こして!町中の照明を消すなんて今度は何をやったんですかッ!?」

「失敬な。今回はわしは無関係じゃぞ。そこに置いてある『ゴスペル』の仕業じゃ。」

怒り心頭なマードックの言葉に博士は心外そうな表情で答えた後、『ゴスペル』を指し示した。

 

「そ、それは例の……なるほど、それが原因ならこの異常事態もうなずける……………だ、だからといってアンタが無関係ということがあるかあっ!」

「ちっ、バレたか……」

博士の説明に誤魔化されそうになったマードックは少しの間考えた後、結局博士が関与している事に気付いて叫び、博士は誤魔化せなかった事に舌打ちをした。

 

「な、なんかやたらと息が合ってるわね~。」

「喧嘩しているように見えるけど、仲良くしているようにも見えるよね?」

「いつもこんな感じなんだ?」

博士とマードックの掛け合いにエステル達は苦笑した後ティータに確認した。

 

「あう、恥ずかしながら……」

ティータは照れながら答えた。

 

その後エステル達は騒動を収めているレイア達の所に戻ってそれぞれ手分けして騒動を収め、全て鎮まった時には夜の遅い時間になりエステル達はラッセル家に泊めてもらうことになった………

 

 


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