英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第52話 姉と兄

~エルモ村 紅葉亭~

 

オリビエとジンが酒飲みに興じていた頃、温泉から上がったエステル達は休憩スペースで一休みしていた。

 

「は~……なんか思いっきり疲れた……。う~っ、それもこれも全部、ヨシュアのせいなんだからっ!」

女将の「女の肌ってのは見られてキレイになるもんだからね。」という冗談を信じたティータやレンに冗談である事を指摘したエステルは溜息をついて、ヨシュアを睨んだ。

 

「なんで僕が……結局、エステルが一人で大騒ぎしてただけじゃないか。脱衣場の張り紙も見てないし、日頃の注意力が足りない証拠だね。」

エステルの八つ当たりにヨシュアは呆れて答えた後、注意が足りない事を指摘した。

 

「よ、よけーなお世話!ほんとにもう、可愛くないんだからっ!」

「あー、そうですか。いいよ、別に。君に可愛いと思われたって嬉しくともなんともないからね。」

「あ、あんですって~!?」

「大体、なんだよ。人を見るなり悲鳴を上げて……そんな反応されるなんて……夢にも思わなかったよ。」

「あ、あれはその……あまりにもタイミングが……別にヨシュアと一緒がイヤってわけじゃないからね?」

「いいよ、無理しないで。僕はもう上がるからみんなでゆっくり入っていきなよ。」

「無理してるなんて一言も言ってないでしょっ!ヨシュアのバカっ!」

「む……バカはどっちさ。」

「プックククク………」

「「フフ……」」

「「クスクス……」」

エステルとヨシュアの言い合いにレイア達は笑いを抑えきれずそれぞれ笑い声をあげた。その笑い声が聞こえたエステルとヨシュアは言い合いをやめて、固まった。

 

「ほ、ほら!レイア達どころかティータちゃんにも笑われちゃったじゃない!」

「だからなんで僕が……ご、ごめんね。みっともないところ見せて。」

「あ、ううん。笑ったりしてごめんなさい。ただ……うらやましいなって思って。」

エステルの八つ当たりに呆れたヨシュアはティータに謝罪したが、ティータは逆に笑った事を謝罪した後エステルとヨシュアを眩しいものを見るかのような目で見た。

 

「う、うらやましい?」

「えっと……どうして?」

ティータの言葉にエステルは驚き、ヨシュアは尋ねた。

 

「わたし、兄弟がいないからケンカとかしたことがないんです。おじいちゃんは優しいからあんまり叱られたことないし……。お父さんとお母さんはあんまり一緒にいられないから……」

「え……」

「あの、ティータちゃんのお父さんとお母さんって……?」

寂しそうな表情で家族の事を語ったティータにエステルは驚き、ヨシュアは尋ねた。

 

「博士の娘さん……確か、エリカ・ラッセルだったっけ。夫のダン・ラッセル共々導力技術者で他国でオーブメントの普及していない村や町で技術指導をしていると博士から聞いた事があるけど、今でもそうなの?」

「あ、はい。だから、もう何年もツァイスに戻って来てないんです……」

ラッセル博士から家族の事を聞き、ティータの両親の事を覚えていたレイアはティータに確認し、それに頷いたティータは寂びそうな表情で頷いた。

 

「そうだったんだ……」

「それは……寂しいね。」

「ティータは、寂しくないの?」

あまり両親といっしょにいた事がない事を知ったエステルやヨシュアは気不味そうな表情で見て、レンは尋ねた。

 

「そんなこと、ないよ。おじいちゃんがいてくれるから。中央工房の人たちもみんな親切でいい人ばかりだし。でも……エステルさん達を見ているとちょっとうらやましいなぁって……えへへ、こういうのって無いものねだりって言うんですよね。」

「そうですか……私も一人っ子ですし、ティータさんの気持ちは凄く解ります。」

「クローゼさん……」

ティータの気持ちに、クローゼも両親がいない境遇や一人っ子であることがどのような寂しさを感じるのかよく解っていたのか、そう言葉を零し、トワもその言葉に少し沈痛な表情を浮かべつつ呟いた。

 

「………いいこと思い付いちゃった。」

黙って考えていたエステルは口を開いた。

 

「え……」

「エステル?」

「あたしが、ティータちゃんのお姉さんになってあげるわ!ちなみにヨシュアはお兄さん。」

「ふえっ!?」

「はあ……また突拍子もないことを……」

エステルの提案にティータは驚き、ヨシュアは呆れて溜息をついた。

 

「なによう、文句でもあるの?」

「いや……エステルらしいと思ってね。僕も異存はないよ。ティータちゃんさえよければね。」

自分の提案に反論がありそうな事に気付いたエステルの睨みにヨシュアは微笑ましそうな表情で首を横に振ってティータに確認した。

 

「……あ……あ、ありがとう……エステルさん、ヨシュアさん。わたし、わたし……なんだかすっごく嬉しいですっ!」

「よかったわね、ティータ。(家族か……レンにも、ルドガーのように……そういう風に見てもらえる人がいるのかしら……)」

尋ねられたティータは顔を輝かせ、最高の笑顔でお礼を言った。レンはティータの喜びを自分のように感じて祝福しつつも、自分も同じように見てくれる“家族”の存在を疑問に感じていた。

 

「それじゃあ、決定っ!あ、そうそう。もう『さん』付けはナシね?代わりにあたしたちも呼び捨てにさせてもらうから。」

「そうだね。あと、博士と話す時みたいに気軽に喋ってくれると嬉しいな。」

「あ、あう……さん付けはやめて気軽に………」

エステルとヨシュアの言葉に頷いたティータはしばらくの間考えて、エステル達の新しい呼び方を言った。

 

「エステルお姉ちゃん。それと、ヨシュアお兄ちゃん。……こ、これでいいのかなぁ?」

「うん、バッチリ!」

「あらためて、よろしくね。」

新しい呼び方に頷いたエステルに同意するようにヨシュアも頷いた。

 

 

「……にしても、どうしてここにいるのかなぁ……レン・ヘイワース」

「あら……そうだったわね。貴方も私を救った一人だものね。」

「ルドガーが話したってわけか……」

少し離れたところで、レイアとレンが話していた。彼女がレイアの関与を知っていたことに、レイアは『彼』――ルドガーの存在があると確信していた。

 

「それで、あなたは『福音』に関わるつもりなの?」

「それは『まだ』解らないわ。でも、楽しい催しは開くつもりよ♪」

「(『お茶会』のことね……)」

レイアの問いかけにレンは答えを濁すが、大方の出来事を察してレイアは頭を抱えそうになった。

 

「さて、今回はこれで失礼するわね。“教授”は、一筋縄じゃ行かないわよ。」

そう一言言って、レンは会釈をするとその場を去った。

 

(さっきのお姉さん……『痩せ狼』との戦いで見せた『鋼の聖女』と同じ力の波動……ウフフ、“教授”の驚く顔が目に見えそうだわ♪)

レンはレイアの奥底に秘めうる“力”…それはレンが知る『彼女』のものと同質の力。その力を“教授”が目の当たりにしたとき、どのように驚くのかを想像しつつ、ルドガーの元へと戻っていった。

 

 

~ツァイス市 中央工房~

 

翌日、ツァイスに戻るドロシーを連れてエステル達はツァイス市に戻り、騒ぎが起こっているに気付き駆けつけて事情を聞けば、謎のガスが突如発生したらしい。またラッセル博士の姿が見えないことに気付き、博士の捜索とガスの発生原因を探すためにティータを連れ、またレイア達には避難した作業員達から詳しい情報収集を頼み、煙が充満している工房の中に入った。

 

「うわっ、これは確かに煙っぽいわね……でも、そんなに息苦しくないのはなぜかしら?」

「このモヤは……多分、撹乱用の煙だと思う。フロアのどこかに発煙筒が落ちていると思う……」

「へっ?」

「ど、どうしてそんなものが……?」

ヨシュアの推理にエステルとティータは疑問を持った。

 

「今は博士の無事を確認しよう。」

「……そうね。博士はやっぱり3階の工房室にいるのかしら?」

「う、うん……たぶんそうだと思うけど……」

エステルに尋ねられたティータは不安そうな表情で頷いた。そして三人は3階の工房室に入ったがそこにはだれもいなく、機械だけが空しく動いていた。

 

「誰もいない……ていうか、どうして機械だけが動いているわけ?」

「と、とりあえず機械を止めなくっちゃ。」

「ふう……おじいちゃん……どこ行っちゃったのかな?」

ティータは急いで機械を止めて、博士の行き先に首を傾げた。すると、ヨシュアはあたりを見回しあることに気付いた。

 

「博士もそうだけど……『ゴスペル』も見当たらない。これはひょっとすると……」

「フン、ここにいやがったか。」

「ア、アガット!?」

「どうしてこんな所に……?」

部屋に入って来た人物――アガットにエステルとヨシュアは驚いた。

 

「そいつはこっちのセリフだぜ。騒ぎを聞いて来てみりゃまた、お前らに先を越されるとはな。ったく半人前のくせにあちこち首突っ込みすぎなんだよ。」

「こ、こんの~……あいかわらずハラが立つわねぇ!」

アガットの言葉にエステルは腹が立った。

 

「あの……お姉ちゃん達の知り合い?」

「アガットさんって言ってね。ギルドの先輩ブレイサーなんだ。」

「ふえ~そうなんだ。」

ヨシュアとティータ、エステルの会話でティータの存在に気付いたアガットは顔色を変えた。

 

「おい、ちょっと待て。どうしてガキがこんなところにいやがる?」

「……ひっ……」

アガットはティータを睨み付け、睨みつけられたティータは脅え、エステルは怒ってアガットに言い放った。

 

「ちょっと!なに女の子を脅かしてんの!?」

「………チッ、言いたいことは山ほどあるが後回しにしといてやる。それで、一体どうなってるんだ?」

「はい、実は……」

アガットは舌打ちしつつも状況把握が先だと思い尋ね、ヨシュアはラッセル博士の姿が見当たらないことや発煙筒が置いてあった事等を説明した。

 

「フン、発煙筒といい、ヤバい匂いがプンプンするぜ。時間が惜しい……とっととその博士を捜し出すぞ!」

「うん!」

「了解です。」

「……おじいちゃん……」

アガットの言葉に頷いたエステル達はそれぞれ返事し博士を探した。そしてある階層に入った時声が聞こえてきた。

 

『……待たせたな。最後の目標を確保した。』

『よし……それでは脱出するぞ。』

『用意はできてるだろうな?』

 

「今の声は……!」

「急ぐぞ、エレベーターの方だ!」

そしてアガットは剣を抜き、エステル達と共にエレベータがある方に向かった。そこにはラッセル博士を拘束したルーアンの灯台で対峙した黒装束の男達と同じ姿をした男達がエレベーターに乗ろうとした。

 

「いた……!」

「てめえらは……!」

「お、おじいちゃん!?」

「ティータちゃんのお祖父ちゃんをどうするの!?」

一瞬で状況を理解したエステル達は武器を構え警告した。

 

「むっ……アガット・クロスナー!?」

「面倒な……ここはやり過ごすぞ!」

そして男達は博士を連れてエレベーターの中に入った。

 

「ま、待ちなさいよ!」

「逃がすか、オラァ!」

しかし一歩遅くエレベーターの扉は閉まった。

 

「クソ……間に合わなかったか!」

「も、もう一歩だったのに……」

「そ、そんな……どうしておじいちゃんを……」

「ティータちゃん……」

「とにかく非常階段で下に降りましょう。このまま中央工房から脱出するつもりみたいです。」

「ああ、逃げるとしたら、町かトンネル道のどちらかだ。急ぐぞ、ガキども!」

「言われなくても!」

そしてエステル達はレイア達に事情を話した後、手分けして地下道、街中を探したが黒装束の男達は親衛隊の軍服に着替え逃げたことしかわからず博士は見つからなかった……

 

 


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