英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第54話 『反撃』のために

エステルらは『紅蓮の塔』で親衛隊の制服を着ていた連中に追いつき、特務兵を追い詰めたが……ティータの参戦によって事態は混乱し、結果的にラッセル博士は連行されてしまった。

 

 

~紅蓮の塔・屋上~

 

その後ティータはずっと泣き続けていた。それを見たエステルとトワは辛そうな表情でティータの方を見ていた。

 

「うっ、うううう……お祖父ちゃん………」

「ティータ……」

「ティータちゃん………」

「とりあえず……いったんツァイスに戻ろう。あの飛行艇のことをギルドに報告しなくちゃ……」

ヨシュアは辛そうな顔をしながらも、これからの方針を決めるための提案をした。博士が連れ去られたとなれば、ここに長居する意味もない。

 

「………どうして、おじいちゃんが……ひどい……ひどいよぉ……」

「おい、チビ。」

「……?」

泣き続けているティータにアガットは静かな声で話しかけた。意外な人物に話しかけられ呆けるティータにアガットは近づいて、怒気を含んだ口調で話した。

 

「言ったはずだぜ……足手まといは付いてくんなって。お前が邪魔したおかげで爺さんを助けるタイミングを逃しちまった……この責任……どう取るつもりだ?」

「あ……わたし……そ、そんなつもりじゃ……」

ティータの乱入によって段取りが壊されてしまい、博士の救出に失敗してしまった……その意味も込めたアガットの静かな怒りを持った言葉に、ティータは青褪めた。アガットは追い打ちをかけるように言葉をさらに重ねた。

 

「おまけに下手な脅しかまして命を危険に晒しやがって……俺はな、お前みたいに力も無いくせに出しゃばるガキがこの世で一番ムカつくんだよ。」

「ご……ごめ……ごめ……ん……なさ……ふえ……うえええん……」

アガットの言葉でさらに泣きだしたティータを見て、エステルはアガットに詰め寄った。

 

「ちょ、ちょっと!どうしてそんな酷いこと言うの!」

「だからこそだよ。ちょっと黙ってろ。」

エステルに詰め寄られたアガットは冷静に答えた。

 

「おい、チビ。泣いたままでいいからちゃんと聞け。」

「うぐ……ひっく……?」

「お前はこのままでいいのか?大切に思ってる爺さんのことを助けないで、すんなり諦めちまうのか?」

「うううううっ……」

アガットの言葉を否定するようにティータは泣きながら首を横に振った。それを見たアガットは更に言葉をつづけた。

 

「だったら腑抜けてないでシャキッとしろ。泣くな、なんて言うつもりなんてない。泣いてもいいし、喚いてもいいから、まずは自分の足で立ち上がれ。自分自身の面倒も見られねえヤツが、他人の面倒を……もとより、人助けなんざできるわけねえだろ?」

「……あ……」

アガットの言葉にティータは泣き止んだ。アガットの言動自体ぶっきらぼうではあるが、それが励ましの言葉であることに心なしか安堵していた。先程まで怒っていたことも事実だが、それは自分のしたことを叱るための言葉だということも……

 

「それが出来ねえって言うんなら、二度と俺達の邪魔をせず、ガキらしく家に帰ってメソメソするんだな……ま、俺はその方が楽なんだがな……」

「ティータ……」

「ティータちゃん……」

「…………大丈夫だよ……お姉ちゃんにトワちゃん……わたし、ひとりで立てるから……」

「……へっ、やればできるじゃねえか。」

目を伏せて答えたアガットの言葉に答えるかのように……諦めたくない、という意思表示をするかのように、ティータは完全に泣き止み自分で立った。先程とは打って変わって、立ち上がったティータを見てアガットは笑みを浮かべた。

 

「本当に……ごめんなさい。わ、わたしのせいであの人達に逃げられちゃって……トワちゃんも私の我儘につきあわせて、ごめんなさい……」

「バカ……謝ることなんてないわよ。」

「うん。ティータが無事でよかった。」

「私はお願いを聞いただけだよ。だから、ティータちゃんは悪くないよ。」

「ありがとう……お姉ちゃん、お兄ちゃん、トワちゃん。」

ティータの謝罪に対して投げかけられた三人の言葉にティータは笑顔になった。そしてアガットにおどおどしながらも話した。

 

「あ、あの……アガットさん……」

「なんだ?さっきの文句なら受け付けねえぞ?」

「えと……あ、ありがとうございます。危ない所を助けてくれて。それから……励ましてくれてありがとうございます!」

「は、はぁ!?……言っておくがな、俺は励ましたわけじゃねえ!ただ、メソメソしてるガキに活を入れてやっただけだ!」

「ふふ……そういうことにしておきますね。」

アガットはティータの言葉に焦った。それを見てティータは笑顔を見せた。

 

「だから、さっきまで泣いてたくせになんでそこで笑うんだよ!?ちょ、調子の狂うガキだな……」

「あんたねぇ、お礼くらい素直に受け取りなさいよ。」

「いや……アガットさん、単に照れてるだけじゃないかな。」

「なるほど……確かにそれは可愛いわね♪」

「そういえばアガットさんの顔、なんとなく緩んでいるね♪」

「そこ、うるせえぞ!」

エステル、ヨシュア、トワの三人にからかわれたアガットは照れ隠しに怒った。

 

そして五人は、これからの方針を決めるためにツァイスへの帰り道を戻っていった……その帰り道、急にアガットが倒れたところに、エルモ村までの護衛を終えたレイア達とジンがその場に居合わせ、ジンにアガットを中央工房の医務室まで運んでもらい、アガットが倒れた原因は黒装束の男が撃った銃弾が原因とわかり、それを治癒するための薬を七曜教会に求めたが、生憎材料を切らしていて、その材料を手に入れるためにレイア、シオン、トワはアガットの看病に残り、エステル達は材料があると言われるカルデア隧道の鍾乳洞内の奥に向かって行った。

 

その後エステル達は材料を手に入れ、トワにその材料を使って薬を調合してもらった後、それをアガットに呑ませ、薬を呑ませたアガットを今まで看病していたトワやレイア、シオンを休ませた後全員が交代で看病した。

 

 

翌日にはグランセルへ行くジンを見送り、アガットの看病を続けるティータと分かれて一端ギルドに報告など行ったエステル達に信じられない情報が入った。

 

それは、たまたまツァイスの軍事施設、レイストン要塞にラッセル博士誘拐時に撮った写真を返してもらいに行ったドロシーが写真の元となる感光クオーツを返してもらえず、代わりに兵士に黙って要塞を撮った時に写った写真の中に博士をさらった男達が乗って行った飛行艇が要塞の中に入る場面を撮っていたのだ。

 

そして事情を聴くためにエステルとヨシュアがレイストン要塞へ行った時、守備隊長リアン少佐がエステル達に対応したがのらりくらりとかわされ、最後に立ち去る時に導力で動いている開閉装置が止まるという決定的な瞬間を見て、攫われたラッセル博士は要塞の中にいると確信しエステル達はそれを報告するためにギルドへ戻って行った。

 

 

~遊撃士協会 ツァイス支部~

 

遊撃士協会支部の二階では、レイアが戦術オーブメント――『オルティア』を耳に当てて、話していた。

 

『そうか……手筈通り、レポートはリシャールの手に渡った。それと、『説得』も成功した。』

「おっけー……そうだ、アレを動かしてもいいかな?私としては『上司』にお伺いを立てる立場だし。」

『構わない。“白面”への牽制にもなるだろう。あと、ロランスはクルルに敗退した。今頃はボースあたりにいるんじゃないか?』

レイアが話している相手は上司――アスベルだった。既に一連の事件――クーデターに対しての手筈はすべて整った。既に根回しは完了しており、懸念材料であったロランスもクルルに手酷い敗退をしたとのことらしい。

 

「えげつないね。で、『アレ』の対策は?」

『既に終わってる……ゴスペルの実物で完璧なデータもとれた。後は……』

「エレボニア帝国…ううん、『鉄血宰相』かな。そういえば、帝国で結構えげつないことをやったんだって?」

『何、戦車を軽く捻った程度だよ。』

………私がこう言うのもなんだけれど、戦車って普通は壊せないよね?

 

「あはは……それじゃ、ロレントの方は任せたよ。」

『ああ……気を付けてな。』

そして、通信を終えるとレイアはオルティアを懐にしまい込んだ。

 

 

 

彼らは既に全ての手筈を――『カード』を伏せた。それが開かれるとき、彼らに『無事』という保障は……ない。いや、

 

 

 

――『彼ら』にくれてやるほどの『慈悲』などない。この異変を起こした『身喰らう蛇』……いや、首謀者の“白面”に相応の『報い』を受けてもらうために。

 

 

 

レイアが一階に下りると丁度エステル達も戻ってきていた。そこで、エステル達が得た情報を整理することにした。

 

「ま、まさか王国軍が博士を攫うとは……中央工房は王国軍と長年協力関係を築いてきた。なぜこんなことを……」

中央工房の責任者のマードック工房長はエステル達から信じられないような顔で聞いた。無理もないだろう。飛行艇や『アルセイユ』の事も含めて、中央工房は王国軍の原動力とも言うべき大事な場所である。それを裏切るような真似を平然とやってのけたことに愕然としないはずがない。

 

「王国軍とは言っても一枚岩ではありません。博士をさらった時、親衛隊の服を着てたのもそれが原因かもしれませんね。」

「ええ、ヨシュアさんの言う事にも一理あります。(それにしても、ユリアさんは無事でしょうか……)」

ヨシュアの話に同意するようにクローゼが頷いた。クローゼは内心、自分の身内であるユリアの身を案じた。

 

「じゃあまさか、親衛隊が嵌められたってこと!?」

「その可能性はありそうだな。何か事を起こそうとした時、真っ先に標的になるのが王家に絶対的な忠誠を誓い、選りすぐりの戦士達で結成されている王室親衛隊が一番最初に排除しておくべき存在だからな。」

親衛達が嵌められた事にエステルは憤慨し、シオンは嵌められた理由を説明した。

 

「あれ?でも、シオンって確か……その親衛隊の隊長よね?襲撃とかなかったような気がしたんだけれど……」

「……ああ、何度も刺客を差し向けられてた。ヨシュアは気付いてたよな?」

「まぁね。でも、シオンが一人で倒しちゃってたけれど。」

「はぁ!?それってどういうこと?!」

「実はな……」

シオンの存在……それを知る特務兵による刺客は頻繁に送られてきていた。だが、それを悉く打ち負かしてきた。その事実はヨシュアも知っており、二人の秘密としていた。そのタイミングはルーアンでの滞在時から……学園を一時的に離れていたのは、クローゼ(クローディア)を巻き込まないための策であった。ただ、最近ではクローディアも狙っているため、問答無用で叩き伏せているが。

 

「で、でたらめだね……シオン君は……」

「ははは……(下手すれば一国の主になりうる存在がここまで強いだなんて、思わないでしょうしね)」

国を預かるクラスの人間が強いという事実――――だが、レイアには心当たりが一人いた。

 

『転生前の史実』で、高い地位にいながらも剣豪と呼ばれた一人の人物――室町幕府第十三代征夷大将軍、足利義輝。

 

シオンは転生前から彼に憧れていたことはよく知っていて、彼はそれを体現するための努力を惜しまなかった……それが、結果的に十代にして『理』に至った彼の原動力であるのは言うまでもない。

 

「ううむ、なんたることだ……しかし、どうして博士がそのような陰謀に巻き込まれたのか……」

「……どうやら犯人どもの手がかりを掴んだみてえだな。」

そこにティータを連れたアガットが入って来た。

 

「え……アガット!?」

「もう意識を取り戻したんですね。」

アガットを見てエステルは驚き、ヨシュアは感心した。

 

「ああ、ついさっきな。起きたら知らない場所で寝てたからビビったぜ。」

「その様子だと、起きたばっかりのようだがもう動いて大丈夫なのか?」

シオンは念のためにアガットに体調を聞いた。

 

「ああ、寝すぎたせいか、身体がなまってしかたねえ。とにかく思いっきり身体を動かしたい気分だぜ。」

「で、でも無理しちゃダメですよぉ……毒が抜けたばかりだからしばらく安静にって先生が……」

「だ~から、大丈夫だって何べんも言ってるだろうが。鍛え方が違うんだよ、鍛え方が。」

「う~………」

ティータの心配をアガットは一蹴したがそれを聞いたティータは泣きそうになり、それを見たアガットは慌てた。

 

「う……わかった、わかったっての!本調子に戻るまでは無茶しなきゃいいんだろ?」

「えへへ……はいっ。」

アガットの言葉にティータは笑顔になった。

 

「ったく……これだからガキってのは……」

「あはは、さすがのアンタもティータには形なしみたいね。」

「アガットさんからなんとなく優しい雰囲気が漂っているよ。アガットさんをこんな風にするなんて、ティ―タちゃん凄いね!」

「ずっと付きっきりで看病してもらった身としてはしばらく頭が上がりませんね。」

「クスクス……」

二人の様子を見て、エステルやヨシュアはからかい、トワはアガットの雰囲気が変わった理由にティータが関係していると思いティータを尊敬するような眼差しで見、レイアはティータに弱くなったアガットを見て思わず笑った。

 

「あ~もう、うるせえなっ。それより俺がくたばってた時に色々と動きがあったみたいだな。聞かせてもらおうじゃねえか。」

そしてエステル達は、博士がレイストン要塞に捕らわれていることを二人に言った。

 

「お、おじいちゃんがそんな所にいるなんて……」

「しかも、レイアの言うとおり、あの黒装束どもが軍関係者だったとはな……フン、疑念が確信に変わってすっきりしたぜ。キッチリ落とし前を付けさせてもらうことにするか。」

「落とし前っていうと?」

アガットの言葉にエステルが反応して聞いた。

 

「決まってるだろう。レイストン要塞に忍び込む。博士を解放して奴らに一泡吹かせてやるのさ。」

「あ、な~るほど。それが一番手っ取り早そうね。」

「そう簡単にはいかないわ。」

エステル達の会話を聞いてキリカが割り込んだ。

 

「へっ?」

「ギルドの決まりとして各国の軍隊には不干渉の原則があるわ。協会規約第三項。『国家権力に対する不干渉』……『遊撃士協会は、国家主権及びそれが認めた公的機関に対して捜査権・逮捕権を公使できない。』……つまり、軍がシラを切る陰り、こちらに手を出す権利はないの。」

「チッ、そいつがあったか……」

「そ、そんな……そんなのっておかしいわよ!目の前で起きている悪事をそのまま見過ごせっていうわけ!?」

キリカに規約の事を言われ、アガットは舌打ちをして苦い顔をし、エステルは憤慨した。

 

「ふむ……けれども、どんな決まり事にも抜け道はある。例えそれが法律であろうとも。キリカ君、恐らくギルドの規約にもあるのだろう?その『抜け道』とやらが。」

法律についてより詳しい事を知っているオリビエは落ち着いた声で話し、キリカに確認をした。

 

「ええ。協会規約第二項。『民間人に対する保護義務』……『遊撃士は、民間人の生命・権利が不当に脅かされようとしていた場合、これを保護する義務と責任を持つ。』……これが何を意味するかわかる?」

「なるほど……博士は役人でも軍人でもない。保護されるべき民間人ですね。」

キリカの話にヨシュアは確認するように聞いた。

 

「あとは……工房長さん、あなた次第ね。この件に関して王国軍と対立することになってもラッセル博士を救出するつもりは?」

「……考えるまでもない。博士は中央工房の……いや、リベールにとっても欠かすことのできない人材だ。救出を依頼する。」

キリカに聞かれ、マードックは迷いなく答えた。

 

「工房長さん……!あ、ありがとーございます!」

「礼を言う事はないさ。博士は私にとっても恩人だしね。」

それを聞いたティータが笑顔でお礼を言った。

 

「これで大義名分は出来たわ。……遊撃士アガット、レイアにシオン。それからエステルにヨシュア。レイストン要塞内に捕まっていると推測されるラッセル博士の救出を要請するわ。非公式ではあるけど遊撃士協会からの正式な要請よ。」

「了解しました。」

「そう来なくっちゃ!」

「フン、上等だ。そうと決まれば潜入方法を練る必要があるな。何しろ、レイストン要塞といえば難攻不落で有名な場所だ。」

キリカの要請に力強く頷いたアガットはレイストン要塞の攻略方法をどうするか考えた。

 

「そうですね。実際、かなりの警戒体制でした。侵入できそうなルートがどこかにあるといいんですけど。」

「残念だけど……あそこの警備は完璧に近いわ。導力センサーが周囲に張り巡らされているから湖からの侵入も難しそうね。」

「フン……。そんな事だろうと思ったぜ。」

「正攻法では難しそうですね。」

キリカの答えにアガットは顔をしかめ、ヨシュアは厳しい表情で答えた。

 

「ふむ……それなら、あの手を使いますか。」

「あの手?」

レイアの言葉にエステルは首を傾げる。

 

「幸い、こちらに大義名分はあるわけだし……(それと、リシャール大佐らはいち早くグランセル城に向かった……アルセイユは手筈通りアルトハイムにあるし、起動キーは彼女が持っているから動かせない。)それじゃ、行こうか。」

「え?行くってどこに?」

「決まってるじゃない……」

そう言って、レイアはエステル達を先導した。

 

 




ちょっぴし優しくなったアガットさんの巻w


そして、一風変わった殴り込みをかけますw

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