英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第55話 蘇る銀の翼

~ツァイス 飛行船発着場~

 

レイアの案内でエステルらは飛行船の発着場に案内された。だが、其処には飛行船が一隻も止まっていない。

 

「えと、どういうことなの?」

「あるのは工房船ぐらいだけれど……まさか、それに?」

「ふふふ、まぁ、見てれば解るよ。」

そう言って、レイアは持っていた遠隔操作の端末を操作する。すると、飛行船のレーンが外れ、工房船があるレーンとは逆側――奥の方から艦を載せたレーンがせりあがってくる。

 

「え……」

「これって……」

「これは…流石の僕も驚きだよ。」

エステルとヨシュア、オリビエは目を見開き、

 

「こ、これって……」

「おいおい……どういうこったよ!?」

「そんな、この艦は……」

その艦の存在を知るティータ、アガット、クローゼはまるで幽霊でも見たかのように慌てた。

 

「そ、そんな馬鹿な…確かに解体されたはず…」

その艦の存在にマードックも驚いていた。

 

そう、本来ならば既にこの世には存在しないはずの『銀の翼』……飛行船レーンに乗って運ばれた艦は、高速巡洋艦アルセイユ級二番艦『シャルトルイゼ』。公式では五年前に解体されたはずの艦……その雄姿に一同が驚いていた。

 

「え、あ、アルセイユ!?」

「いや、これは二番艦『シャルトルイゼ』……レイア、まさか。」

エステルはその容姿が『アルセイユ』と似通っていることに驚き、ヨシュアは冷静にその艦についての説明をし、レイアに自分の予測も混じった質問をぶつける。

 

「そのまさかだよ。これでラッセル博士を助けに行くよ。で、ティータにはCIC関連の操作をお願いできるかな?」

「う、うん。頑張るね!」

「そして、足りない戦力は我々が補わせていただこう。」

レイアの言葉にティータは力強い意志を込めて頷き、それに続くかのように発せられた言葉……その声の主――ユリア・シュバルツが、エステル達の前に姿を現した。

 

「あ……!」

「ユリアさん……!」

「ユリアさん……その、よかったです。」

「ピューイ!」

「お久しぶりです、ユリアさん。」

ユリアの登場にエステルやヨシュアは明るい表情をし、クローゼは安堵の表情を浮かべ、ジークは嬉しそうに鳴き、トワは挨拶をした。

 

「お初にお目にかかるのもいるので、自己紹介をしよう。王室親衛隊中隊長、ユリア・シュバルツ中尉だ。あなた方の作戦に親衛隊(われわれ)も協力させてほしい。」

自己紹介をした後、ユリアはレイアに親衛隊の現状を説明した。

 

親衛隊の殆どは王都に潜伏し、アルセイユのクルーに関しては艦と共にアルトハイムの秘密ドックに隠れている事を伝えた。そして、今回の作戦のためにアルセイユのクルー……操舵士のルクス・観測士のエコー・通信士のリオンの三人がユリアに同行していた。

 

「ところで、レイア。」

「ん。アガットとマードックさん以外は全員知っているよ。」

「そうか……」

「おいおい、一体どういうことだ?」

「それは簡単よ。クローゼとシオンは王族ってこと。」

「って、エステル。話の流れからして話してもいいのだけれど、それは突発過ぎないかい?」

ユリアの問いかけに、レイアはそう答え、事情が呑み込めないアガットはレイアに問いかけ、その問いにエステルが答え、ヨシュアがジト目でエステルの言動に問いかけた。

 

「んなっ!?」

「あはは……すみません、騙すつもりはなかったのですが……」

「ま、俺に関しては秘密にしてほしい。」

「あ、ああ……」

(フフ、珍しく狼狽えてるわね。)

(そりゃあ、只の学生だと思ってた人間が王家の人間だったなんて知ったら、狼狽えるわな。)

(だよね。)

それを聞いたアガットは呆然とすることしかできず、クローゼとシオンの言葉にただ頷くことしかできなかったアガットの様子にレイアは笑みを浮かべ、シオンも軽く笑みを浮かべて小声で呟き、二人の会話が聞こえたトワもそれに軽く首を縦に振って答えた。

 

「成程……これが、作戦なんですね。」

「へ?」

「正解。で、レイストン要塞でラッセル博士を救ったら、その後はグランセルに直行するから。」

手筈通りに動いたリシャール……そして、こちらも電撃作戦でグランセル城に乗り込む……その後は、『彼』の動向を窺いつつ柔軟に対応する……ここまでは完全に『彼』の筋書き通りである。

 

「そっか……う~ん、そういえば、ここで推薦状をまだもらってないのよね……」

「ああ、それに関しては……はい。キリカさんから二人にって。」

エステルの残念そうな言葉にレイアは笑みを浮かべて、二人に推薦状が入った封筒を手渡した。

 

「これって、推薦状!?」

「どうして……」

「エルモの件だよ。私としては、ただの『お飾り』だし、エステル達が率先して魔獣を倒してくれなかったら私は万全の状態で彼と戦えなかったわけだし、この件はエステルが率先して動いているから、ここまでいけたんだよ。」

私とて、ヴァルター相手には苦戦を覚悟していた。ただ、エステル達が率先して魔物を倒してくれたことには感謝であり、だからこそ不意を突くような形でヴァルターを圧倒できたに他ならない。

 

「う~ん………納得したわけじゃないけれど。レイアがそこまで言うなら、ありがたく受け取っておくわね。」

「その、すみません。」

「いいの、気にしないで。あと、エルナンさんにはエステル達のことを話しておいたから。」

今回は緊急を要する事態……故に、グランセルの受付であるエルナンには、二人の転属手続きをお願いした。今回のような事態にも迅速に対応できるよう遊撃士の規則にもそういった取り決めがなされているのだ。

 

「というか、疑問に思ったのけれど……操縦は問題ないの?」

「その点については問題ない。細かな運用の違いはあれど、『アルセイユ』であることに変わりはないからな。」

アルセイユ級は、高速巡航を主軸に置いた一番艦『アルセイユ』、対レーダー兵器用特殊艇の二番艦『シャルトルイゼ』、武装試験用の三番艦『サンテミリオン』……さらには『カレイジャス』『クラウディア』『デューレヴェント』の艦の運用データも集約され、それは次世代型巡洋艦“ファルブラント級”に引き継がれていく。艦の特性の違いはあれど、基本操作はほとんど変わらない。

 

「……おい、其処のチビも連れていくつもりか、レイア。」

「ふえっ!?」

すると、今まで黙っていたアガットがレイアにティータの事を尋ね、話に挙がったティータは狼狽えていた。遊撃士の立場からすれば至極真っ当な判断だろう。

 

「はぁ……私が何の考えもなしに危険な場所へ連れていくと思ってたの?少しは考えようよ。」

「何だと?」

「助けに行くのはラッセル博士、ティータちゃんは博士の孫娘だよ?保護すべき対象であるし、何よりも特務兵を追いかけていたアガットなら、『その危険性』ぐらい解るでしょ?」

「……チッ、確かにその可能性があったか。」

「えっと、どういうこと?」

「人質の可能性、ですね?」

「うん。」

アルバートの身分……そして、ティータの存在……彼らの中に過激派がいて、彼女を誘拐しラッセル博士を脅すことも十分考えうる……ならば、その護衛対象となりえる存在は早めに保護しておくのが都合がいい。レイアがその可能性を言及し、アガットは舌打ちしてその可能性を察し、エステルの疑問に答えるかのようにヨシュアがレイアに尋ね、彼女はそれに頷く。

 

「あと、これから見せる物は他言無用にお願いするね。」

レイアはエステル達に何かの地図を渡した。

 

「ヘッ、なかなか良いものを持っているじゃねーか。」

アガットはその図面に書いてある場所の名前――レイストン要塞の図面である事をを見て、笑みを浮かべた。

 

「これは……レイストン要塞の概略図ですか。」

「うわぁ……すごく広いんですね。このどこかにおじいちゃんが……」

レイストン要塞の図面がある事にヨシュアは驚き、ティータは真剣な表情で図面を見た。

 

「でも、こういうのって軍事機密なんじゃないの。どうしてレイアが持っているわけ?」

エステルはレイストン要塞を怪しいものを見るような目で見て、尋ねた。

 

「蛇の道は蛇ってね。『とあるルート』から入手したの。遊撃士(わたしたち)には、こういう面もあることを覚えておいたほうがいいよ。」

「う、うん……」

レイアの答えにエステルは戸惑いながら頷いた。

 

「言うまでもないけど今回のケースはかなり特殊。本来、王国軍とギルドの関係は他国のそれと比べても友好的。遺恨を残さないためにも兵士との交戦は極力避けること。特にアガット……いい?」

「フン、それは理解してるさ。だが、あの黒装束の連中は立ち塞がったら容赦しねえぞ。軍人だろうがなんだろうが犯罪者には違いないんだからな。」

レイアに念を押されたアガットは鼻をならして、答えた。

 

一通り話がまとまり、エステル、ヨシュア、アガット、ティータ、そしてレイアはレイストン要塞に乗り込み、後詰としてクローゼ、オリビエ、シオン、トワが待機することとなった。

 

 

~シャルトルイゼ ブリッジ~

 

「……本当に申し訳ない。身内の問題に君たちをこのような形で巻き込んでしまって。」

「気にしないでよ、ユリアさん。あたしはリベールが好きだし、この国がピンチなら遊撃士としても、あたし自身としても見過ごせないもの。」

「そういうことです。それに、ここまで来たら僕達も黙って引き返せませんし、向こうが黙っているとも思えませんから。」

「エステルさん、ヨシュアさん……ありがとうございます。」

「ありがとな、エステルにヨシュア。」

ユリアの謝罪を込めた言葉にエステルは『気にしていない』とでも言いたげに言葉を返し、ヨシュアもそれに同意しつつリシャールが自分たちの存在を放置しておかない可能性がある事に触れ、もはや『他人事』では片づけられないと答え、クローゼとシオンは二人に感謝した。

 

「それには同感だね。しかし、『白き翼』の流れを汲む『銀の翼』のクルージング……これが作戦でなく観光ならば、もっといい趣になったのだけれど。それだけが唯一悔やむところだよ。」

「相変わらずだな、テメェは……」

「クスクス……」

オリビエの相変わらずの口調にアガットは呆れてものも言えず、ティータは笑みを零した。

 

「非公式ではあるが……リベール王室、シュトレオン・フォン・アウスレーゼから遊撃士協会に依頼だ。情報部大佐、アラン・リシャールの暴走を止めてほしい。エステル、受けてくれるか?」

「……うん、それは勿論。ヨシュアにレイア、いいよね?」

「断る気なんか無いくせに……僕も異存はないよ。」

「私もいいよ。エステルが決めることだしね。」

シオンの依頼にエステルは静かに力強い口調で呟き、ヨシュアは彼女の性格を知っているからか少し皮肉ったが、自分もその依頼を受けることに賛成だと頷き、レイアもエステルの言葉に賛同した。

 

「ありがとう……それでは行こう。シャルトルイゼ、離陸(テイクオフ)!!」

その言葉を聞いたユリアは表情を切り替え、真剣な表情で叫んだ。アルセイユ級二番艦『シャルトルイゼ』……『眠れる白隼』の一端にして、歴史から消された『幻』の片割れ……『銀の翼』が今、祖国の危機のために飛翔した!

 

 




ツァイスの飛行場のからくりを見て、ちょっとアレンジ。

更に、ユリアも参戦します(ただし艦長としてですがw)

……だって、エベル離宮は既に、ねぇ(ニヤリ)

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