英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第57話 王都上陸

レイストン要塞から脱出したエステル達は待機していたクローゼたちと合流し、シャルトルイゼに乗り込んだ。

 

 

~シャルトルイゼ ブリッジ~

 

「なんとか撒いたかな……」

「みたいだね……」

安堵の表情を浮かべたエステルとヨシュア。

 

「ああ……だが、いつまでもここらに留まるの危険だ。今はアイツが引き留めてくれてるが……」

「そうじゃろうな。わしがいないとすれば、躍起になって追いかけてくるじゃろう。」

「そんな……」

アガットの言い分も尤もである。気絶している特務兵が事を知らせれば、大事になりかねない。それは同伴しているレイアも同意見だった。

 

「エステルとヨシュア。それに私とトワ、クローゼ、オリビエ、シオンもだけれど、グランセル……エルベ周遊道で降りるから。」

「え?」

「どうしてです?」

「二人には……ラッセル博士とクローゼが依頼を出すからね。」

「依頼?」

レイアの言葉に首を傾げる二人。そして、二人の依頼……さっぱり事情が呑み込めないようであった。

 

「わしからじゃが……グランセル城にいるアリシア女王陛下と面会してくれんか。」

「じょ、女王様に面会~!?」

「どういう事でしょうか?」

博士の提案にエステルとヨシュアは驚いて、尋ねた。

 

「どうやら、『ゴスペル』は何者かによって情報部から持ち出されたらしい。恐らく、その持ち出した人間が小包でカシウス宛に送ったのじゃろう。じゃが、あの導力停止現象で所在が情報部に知られてしまった。あの黒装束―――特務兵どもが中央工房を襲撃した真の理由はわしでも演算オーブメントでもない。あれを回収するためだったのじゃ。」

「そ、そうだったんだ……」

「なるほど……それで色々納得できました。」

中央工房襲撃と博士誘拐の真実を知ったエステルとヨシュアは真剣な表情になった。

 

「リシャール大佐は、あれを使って王都で何かをしようとしておる。わしのカンが正しければ……非常にマズイことが起きるはずじゃ。その事を陛下に伝えて欲しくてな。」

「非常にマズイこと……あの導力停止現象ってやつ?」

「いや……おそらくそれを利用した……すまん、これ以上はわしの口から言うわけにはいかん。とにかく、あの『ゴスペル』について陛下に直接伝えて欲しいのじゃ。逃亡するわしの代理としてな。」

「はあ……まったくもう。そんな風に言われたら断るに断れないじゃない。」

「僕たちでよければ引き受けさせてもらいます。」

博士の説明を聞き、エステルとヨシュアは表情を和らげて答えた。

 

「すまんな、よろしく頼んだぞ。」

「で、クローゼからは?」

「あ、はい……無理を承知でお願いします。王城の解放と、陛下の救出を手伝っていただけないでしょうか?」

「で、殿下……」

クロ―ゼの依頼を聞いたユリアは驚いた。

 

「陛下との面会と救出、どちらも相当ハードな依頼ね……ま、友達がピンチなのに助けない義理はないわ。」

「ったく、こんのお調子者が……本来なら俺が加わってやりたいが……」

「あ、その点なら心配いらないよ。」

「どういうこと、レイア?」

ため息をつきたくなるほどのハードな任務……正遊撃士クラスの依頼にエステルははっきりと答え、その様子に呆れるアガット、そしてアガットの不安をかき消すかのようにレイアが答え、その答えの根拠が気になったヨシュアはレイアに尋ねた。

 

「だって、今の王都に………遊撃士の精鋭たちが集まってるからね。」

「ハァ!?……って、武闘大会か!!」

遊撃士の精鋭らが王都に集う状態……そんな状態になりうることなどないと思っていたアガットだったが、一つの可能性――今度開かれる武闘大会の可能性に気づき、レイアはそれに答えるように話をつづけた。

 

「ビンゴ♪“雷槍(らいそう)”“魔弾”“轟刃(ごうじん)”“風の剣姫(かぜのけんき)”の四人に、“不破”“霧奏”“黎明”“尖兵”……それと、“不動”と“銀閃”もいることだしね。」

「何か物騒な名前が次々と………って、あれ?“銀閃”ってシェラ姉の異名だよね?」

「そうだね……って、シェラさんがグランセルに?オリビエさん、何か聞いてますか?」

「いや、僕の方は何も。ただ、僕と別れる際、アイナさんとはハナシテタミタイダヨ?」

「あ、トラウマのスイッチが入っちゃったみたい……ということは、オリビエは何も知らないってことね。」

「そうみたいだね。」

レイアの言葉の中に出てきた異名の数々にある意味戦々恐々のエステルだったが、その中の一つである“銀閃”――シェラザードの事に気付いて、ヨシュアが代わるようにオリビエに問いかけるが、どうやらトラウマのスイッチが入ってしまったオリビエの言葉に、二人は何も知らないのだと大体察した。

 

 

ちなみに……後に出てきたアスベル、シルフィア、セシリア、ラグナ、ジン、シェラザードを除く四人のそれぞれの異名は

 

 

“雷槍”――リベールではレイアとシオン、セシリアに次ぐ実力を持つトップクラスのA級正遊撃士、クルツ・ナルダン

 

 

“魔弾”――ロランスに後れを取ったものの、特務兵相手に善戦したB級正遊撃士、カルナ・ヴェイロン

 

 

“轟刃”――剣術ではアガットをも上回る実力者であるB級正遊撃士、グラッツ・ウェイバー

 

 

“風の剣姫”――『八葉一刀流』の使い手で、“剣仙”ユン・カーファイの孫娘であるD級正遊撃士、アネラス・エルフィード

 

 

のことである。

 

 

だが、王都にはまだまだ強者が集っていた。

 

 

“剣聖”カシウス・ブライト、“光の剣匠”ヴィクター・S・アルゼイド、“絶槍”クルル・スヴェンド、“驚天の旅人”マリク・スヴェンド、“猟兵王”レヴァイス・クラウゼル、“西風の妖精”フィー・クラウゼル、そして……“剛の剣閃”セリカ・ヴァンダール。

 

 

後に、刊行されたリベール通信では、この年の武闘大会をこう評した。

 

 

―――『奇蹟を垣間見る大会』と……

 

 

「あ、あの……エステルお姉ちゃん。……ヨシュアお兄ちゃん……」

一方ティータは寂しそうな表情でエステルとヨシュアを見た。

 

「ティータ……しばらくのお別れだね。」

「ごめんね……付いててあげられなくて。」

エステルとヨシュアは名残惜しそうな表情で答えた。

 

「そ、そんなぁ。あやまる事なんてないよう。わたし、お姉ちゃんたちに助けられてばっかりいて……すごく仲良くしてくれて、妹みたいに扱ってくれて……トワちゃんとも友達になれて……うう……えうっ……」

「ティータ……」

「お、おじいちゃんのこと助けてくれてありがとう……うくっ、それから……仲良くしてくれてありがとう………3人とも……大好きだよ……」

ティータは思わずエステルに抱きついた。

 

「君と一緒にいられて僕たちも嬉しかった……こちらこそありがとう。」

「うん……絶対伝えておくね……」

「…………うん、私もティータちゃんのことが好きだよ。」

ティータの言葉にヨシュアは笑顔で答え、抱きついたティータの頭をエステルは優しく撫でて答え、トワは笑みを浮かべて静かに答えた。

 

「………名残惜しいだろうが、そのくらいにしておきな。涙なんざ、また会えた時に取っておきゃいいだろう?」

「グス……もう……デリカシーがないんだから……。」

アガットの言葉に呆れたエステルはティータと離れた後、アガットを見た。

 

「でも……あんたともしばらくお別れね。色々あったけど、一緒に仕事してすっごく良い経験になったわ。ありがとね、アガット先輩。」

「ぞわわ……気色悪い呼び方すんじゃねえ!」

エステルからありえない呼ばれ方をしたアガットは鳥肌が立った。

 

「フフ、中々やるではないかエステル君。君さえよければ、僕のライバルに認定したいところだよ。」

「あんたのライバルだなんて、こっちからお断りよ。あの変態仮面と同類は御免だわ。むしろ屈辱的よ。」

「おっと、それは残念だね。だが、あの御仁と違って僕は寛大な心を持っているからね。それも戯れの言葉として受け取っておこう。」

「何を言っているんですか、貴方は……」

「あはは……」

その言葉をブルブランが聞いたら『何……美の素晴らしさが解らないとは野蛮な輩め。』とでも言うであろうエステルの言葉にオリビエは笑みを浮かべつつ、いつもの調子を崩すことなく言葉をつづけ、ヨシュアを呆れさせ、クローゼはそのやり取りに苦笑しか出てこなかった。自分をからかったエステルとオリビエにアガットは溜息をついた後、ヨシュアに言った。

 

「ったく……演奏家の野郎はともかく、さすがはオッサンの娘だぜ。ヨシュア、その跳ねっ返りが暴走しないように気をつけとけよ。武術だけは一人前だが、それ以外はどうも不安だからな。」

「フンだ、よけーなお世話。」

「ええ、任せてください。アガットさんも気をつけて。博士とティータのこと、どうかよろしくお願いします。」

「ああ、任せておきな。それじゃあ……気を付けてな。」

「さらばじゃ!カシウスの子供たちよ。」

「げ、元気でねっ!お姉ちゃん、お兄ちゃん!」

「うん!ティータちゃんたちも!」

「女神達の加護を。くれぐれも気を付けて。姫様、シオン。御武運を祈っております。」

「ああ。」

「はい、ユリアさんも気を付けて。」

「ピュイ!」

エステル達は博士とティータ、アガット、ユリア達と別れ、エルベ周遊道に降り立った。こうして中央工房襲撃とラッセル博士誘拐事件は一先ず幕を閉じた…………

 

 


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