第58話 波乱の幕開け
その後グランセルに到着したエステル達はギルドに向かった。エステル達がギルドに入ると、そこには今までの旅で出会った正遊撃士を含めた4人の正遊撃士達がグランセルの受付――エルナンから応援の言葉をもらっていた。
~遊撃士協会 グランセル支部~
「それでは武運を。まあ、皆さんだったら余裕で通過できると思いますが。」
「へへっ、分かってんじゃねえか。」
「出場するからには全力でいかせてもらうよ。」
「そうですよね!軍の連中には負けられません。」
エルナンの応援も込めた言葉に、グラッツやカルナは意気を込めて言い、二人の言葉に反応するかのようにアネラスも力強く頷いた。
「さてと、そろそろ出かけるとしようか……ん?」
3人を促した正遊撃士――リベールでもトップクラスと言われ、数少ないA級正遊撃士であるクルツ・ナルダンはエステル達に気付いた。
「えっと……」
「どうも、お邪魔します。」
エステルとヨシュアはクルツ達に挨拶をした。
「あんたたちは……エステルとヨシュアじゃないか。それにレイアやシオン、お嬢ちゃん達も。」
「あ……ルーアンで会ったカルナさん!」
「久しぶりだな、カルナ。」
「お久しぶりです、カルナさん。」
カルナがいる事に気付いたエステルは驚き、シオンとトワはペコリとお辞儀をした。
「そういや、空賊騒ぎの時に一度会ったことがあったっけな。たしか、シェラザードと一緒にいた新人たちだよな?それになんでお前さん達までいるんだ?」
グラッツはエステル達の顔を見て、思い出した後、シオン達にも気付いて首を傾げた。
「それについては私から説明させていただきます。皆さんは、早く行かないと間に合わなくなると思いますよ。」
「おっと、それもそうだね……悪いね、4人とも。積もる話はまた後にしよう。」
「それじゃあ、俺たちはこれで失礼するぜ。」
「またね、新人君たち!」
「……失礼する。」
エルナンに促されたクルツ達はエステル達に声をかけた後、ギルドを出て行った。
「は~、あれだけ遊撃士が揃うとなんだか壮観って感じよね。」
「そうだね……それにしても、遊撃士があれだけ揃うなんて滅多にないのではないですか?」
エステルは去って行ったクルツ達を見て言った事にヨシュアは同意した。
「しかも、全員正遊撃士の紋章を付けていました。それに一人一人、中々の強さを感じられましたね。」
「………そういえばエステル君達がつけている紋章と形がちょっと違ったね。どちらかと言えば、レイア君やシオン君のつけているものに似ていた……あれがエステル君達が目指している正遊撃士ってやつかな?」
クローゼは去って行ったクルツ達を評価し、オリビエはクルツ達がつけていた遊撃士の紋章がエステルとヨシュアがつけている紋章と形が異なる事に気付いて、尋ねた。
「そうですね。それにしてもみんな凄腕みたいだね。出場するとか言ってたからひょっとして……」
オリビエの疑問に頷いたヨシュアが言いかけた所をエルナンが続けた。
「ええ、お察しの通りですよ。彼らはこれから武術大会の予選に出るんです」
「へ~っ……って。す、すみません!あたし、ツァイス支部から来たエステル・ブライトっていいます。」
「同じく、ヨシュア・ブライトです。」
「えと、トワ・ハーシェルといいます。」
「クローゼ・リンツです。」
「僕は美をこよなく愛する、人呼んで『愛の狩人』、オリビエ・レンハイムさ。」
「私とシオンは顔馴染だから、自己紹介がいらないかな?」
「だな……」
エルナンにエステル達はそれぞれ自己紹介をした。
「私はエルナン。グランセル支部を任されています。キリカさんから連絡を頂いたのであなたたちの来訪は知っていました。早速ですが、転属手続をしていただけますか?」
「はい、わかりました。」
そしてエステル達は転属手続きの書類にサインをした。
「はい、結構です。遊撃士協会、グランセル支部にようこそ。個人的に、あなた達が来るのをとても楽しみにしていたんですよ。たしか、カシウスさんのお子さんたちなんですよね?」
「あ、うん、そうだけど……やっぱりエルナンさんも父さんの知り合いなのよね?」
「ええ、カシウスさんにはいつもお世話になっています。聞いた話ですと、旅に出たきりお戻りになっていないそうですが?」
エステルの疑問に頷いたエルナンは逆に尋ねた。
「うん……しばらく留守にするって手紙はあったんだけど……」
「具体的に、どこに行くかは書かれていなかったんです。ロレントからツァイスまで一通り回ってみたんですけど父の消息は分かりませんでした」
「ふむ、そうなると国内にはいない可能性が高そうですね。しかし、参ったな……。現在、軍のテロ対策で王都で遊撃士のメンバーが活動しにくくなっているんです。キリカさんから聞いた件に対策するためにもできればカシウスさんと連絡が取りたかったんですが………」
エステルとヨシュアの言葉からエルナンはカシウスがいる場所を推定し……その上で、カシウスと連絡が取れない事に溜息を吐いた。
「それで、エルナンさん。僕達はどうすればいいですか?」
ヨシュアはこれからの方針をエルナンに尋ねた。準遊撃士である自分たちができる範囲で……尚且つ、正遊撃士の人達――レイアやシオンの手助けになるような依頼の事を尋ねる。
「遊撃士協会の性格上、軍への介入はできませんが……傍観できる状況でもなさそうです。とりあえず、あなたたちはラッセル博士の依頼を遂行していただけますか?」
「もちろん、そのつもりよ。ただ問題なのは、どうやったら、女王様に会えるかなんだけど……」
エステルはどうやって、リベールの国王――アリシア女王に会うかを悩んだ。
「そうですね……普段なら、遊撃士協会の紹介状があれば取り次いでもらえるはずなんですが……」
「え、そうなの!?なーんだ♪心配して損しちゃった。」
口を濁しながら言うクローゼの言葉にエステルは反応して、明るい顔をしたがヨシュアは首を横に振って答えた。
「エステル……そう簡単にはいかないと思う。何といっても、城を守る親衛隊がテロリスト扱いされているんだ。それが何を意味するか分かるかい?」
「え、それってつまり……紹介状を握りつぶされちゃう?」
「うん、その可能性が高そうだ。レイストン要塞と同じくグランセル城もリシャール大佐に掌握されている可能性が高いと思う。」
「うう、やっぱりそっか~……そうなると、簡単には女王様に会えそうもないわね……(となると、クローゼも拘束される可能性が高そうだし、難しいわね……)」
ヨシュアに言われたエステルは唸った。
「ここで考えてても仕方ないから、とりあえずお城に行ってみない?うまくすれば、門番あたりから情報が聞き出せるかもしれないし。」
「それは構わないけど……一つ注意しておくことがある。僕たちが女王陛下に面会しようとしていることは隠しておいた方がいいと思うんだ。リシャール大佐の耳に入ったら妨害される可能性が高いからね。」
「あ、なるほど……」
「確かに、当面は他の遊撃士にも伏せておいた方がよさそうですね。くれぐれも慎重に情報収集を行ってください。」
「わかったわ、エルナンさん。」
「何か分かったら報告します。」
そしてエステル達がギルドを出ようとした時、レイアが呼びとめた。
「エステル。私達は少しやる事ができたの。悪いけど、エステル達だけで行ってくれない?」
「レイアさん?」
「…………嫌な予感。」
レイアの提案にクローゼは首を傾げ、シオンは溜息を吐いた。
「え?う、うん。わかったわ。」
「それじゃ、行ってきます。」
「それでは、行くとしようか。」
そしてエステル達はギルドを出た。エステル達が出たのを見送ったレイアはエルナンにある事を言った。
「さて………エルナンさん。私達の用事の件だけど…………」
「話は伺っていますが……本当にいいのですか?」
エルナンはレイア達の用事を聞いて、驚いて尋ねた。
「大方アスベルは毎年出ているわけだし、クローゼにとってみれば良い隠れ蓑になるかもね。それに、闘技場で『無粋な真似』をすれば、汚名を被るのは向こうだしね。」
「………やっぱり、めんどくさい事になったよ。」
「あの、レイアさん。私も出場するのですか?」
「いいの。それぐらいしても罰が当たらないよ。」
「……わかりました。気は進みませんが、やるからには全力でやらせていただきます。」
レイアの言葉にシオンはため息をつき、今のレイアに何を言っても無駄とわかっているクローゼも諦めて溜息を吐いた後、気を取り直した。
「それじゃ、いっくよ。」
「はいはい……」
「はい。」
「やれやれ………どうやら今年の大会は相当荒れそうですね………」
レイア達を見送ったエルナンはクルツ達も参加している『ある大会』がどうなるかわからず、溜息を吐いた…………
その後エステル達は城まで見に行き、遊撃士の紋章を隠して旅行者を装って城門を守っている兵士達から色々な情報を手に入れて話合っているところフィリップを連れたデュナン公爵が城から出て来て、武術大会を行っている王立競技場(グランアリーナ)に観戦に行った。兵士達からデュナンが女王代理を務めている事を知っていたエステル達はデュナンの動向を調べるため、グランアリーナに向かった。