―グランセル城 中庭―
「自己紹介だな。俺はシオン・シュバルツ。ユリ姉とは義理の姉弟って奴だ。よろしくな、アスベルにシルフィア。」
「アスベル・フォストレイトだ。」
「シルフィア・セルナートです。シルフィでいいよ。」
休憩時間ということで、クローゼ・ユリア・シオン・アスベル・シルフィアの五人はテーブルを囲んでティータイムとなった。上品な紅茶とクローゼの作ったアップルパイ、そしてアスベルがより合わせで作ったケーキを食していた。
「ふむ、美味いな。プロの職人が作ったものと遜色ないぐらいかもな。」
「だろ?クローゼの作るパイは世界一だと思ってるぜ。」
呑気にティータイムを楽しんでいる男性陣に対して、
「「「………」」」
女性陣はものすごくショックを受けていた。まるでお通夜状態である。
理由は至極簡単なものだった。アスベルが持ち込んだケーキである。
実は、ジークとの接触の後、時間に余裕があったので午後のおやつにしようとしていたケーキを早めに完成させ、グランセル城まで持ってきたのである。
それを口にした女性陣が物凄く落胆の表情を見せて、今に至るという訳だ。
「しっかし、男のくせにお菓子作りが得意って……どういう趣味してんだよ」
「趣味の一環だよ、趣味の」
シオンが不思議そうに尋ねてきた質問にアスベルはそう答えているが、実際には転生前の世界でかなり叩き込まれている。
『輝は手先が器用だから、きっと私以上の職人さんになれると思うわ。私が保証してあげる♪』
居候先の家で喫茶店を営んでおり、店の手伝いで駆り出されることが多く、菓子作りの方も徹底的に叩き込まれた。
そのせいか、バレンタインのお返しも基本的に手作りでやることが多く、ホワイトデーの日は彼(転生前)に贈った人たちがお返しを口にして落胆する人が後を絶たない状況を生み出した。
転生前のアスベル(輝)はホワイトデーに別名『レディーショック』という異名がつくほどの状況を作り上げてしまう人間だった。
だが、本人自身はその事態を引き起こした自覚などまるでないのだが……
(負けた……女性として完璧に負けた……)
(…一口食べるたびに、女性としてのプライドが傷ついていくような気がする…)
(何故でしょうか…確かに美味しいのですが、自分の中の大切な何かを失っていくような…)
まさにその再来が転生した後でも起こっている。
攻撃料理というものはあるが、これはそんな生易しいものではない。絶品料理という皮を被った『(女性限定の)破壊兵器』とも言うべきだと三人は心の中で思った。
「にしても、クローゼたちは何で黙ってるんだろうな?このケーキ美味しいのに」
「まったくだな。より合わせとはいえ、それなりに美味くできたはずなんだが……何かミスったのかな?ロシアンルーレット風にはしていないんだが……」
(((逆!逆なの(なんです)!!)))
男性陣に女性陣のプライドそのものを理解する能力などない。
確かに男性でも美味しいケーキやお菓子を作る人はいる。それぐらいはシルフィアはもといクローディアやユリアも解ってはいること。『理解』はしていても『納得』できないというどこぞのヘタレパイロットのような感情に対して、女性陣三人は同一の結論に至った。
(((絶対にアスベルより美味しいお菓子を作るんだ(です)から!!)))
「な、何だか三人から凄いオーラが出ていないか?」
「うーん、心当たりがないんだが……」
アスベルに対して対抗心を燃やす三人、そのオーラにたじろぐシオン、冷や汗をかきつつも苦笑を浮かべて呟くアスベルだった。
「そういえば、お前たちはどうしてここに?」
「ま、アリシアさんに頼まれたんだよ。友達になってほしいって。それがなくとも、こちらから話そうとは思ってたけれど。」
「へぇー……ちょっと、手合わせしてくれないか?」
シオンの手合わせの申し出にアスベルは微かに眉を顰めた。
「別に構いはしないが……何でだ?」
「同い年ぐらいの奴相手にどれぐらいできるのか、確かめたいのさ」
シオンの言っていることが真実ならば、俺はいわば『当て馬』ということらしい。
だが、この目の前にいる少年がどれぐらいの実力を持つのか……“原作”には存在しえない人間……『最悪』の可能性も含めたとしても、今の実力を見るにはこちらとしても都合がいい。
「ちょ、ちょっと、シオン!さっき会ったばかりの人に何てことを!!」
「気にしないでくれ、クローゼ。口調から察するに『そういう感じ』なんだろうし。シオン・シュバルツ、その申し出を受けよう。」
「アスベル!?」
「はぁ……どうやら止めても無駄なようだな。」
慌てる様子のクローゼとシルフィアとは対照的に、ユリアは疲れた表情で呟く。
二人は中庭の広いところで対峙する。シオンはレイピアを構え、アスベルは抜刀術の構えを取る。
「クローゼ、シオンは強いの?」
「そうですね。最近だと本気のユリアさんでも負けそうになるぐらいの実力を持ってます。」
「成程ね……(アスベル、勝てるの?)」
あまり歳が変わらないのに、王室親衛隊でもトップクラスの実力者相手に引けを取らない実力の持ち主……
その彼を相手にするアスベルを心配そうに見つめていた。
「抜刀術か……その刀を抜く前に終わらせてやるぜ。」
「言ってろ…(下手に気は抜けないか……)」
「今回は模擬戦。どちらか一方が戦闘続行不能と判断した時点で勝敗をつける。異存はないな?」
「オッケーだぜ、ユリ姉。」
「異存はない。」
二人は構えて、審判であるユリアの合図の時が来るまで、しばしの時が流れる。
「はじめ!!」
ユリアの合図と同時に二人は地面を強く蹴った。次の瞬間には、中央で鍔迫り合いをしているシオンとアスベルがいた。その速度はとてもではないが10年も生きていない人間の動きとは言えないものだった。
「う、嘘!?シオンの初撃を受け止めるなんて……」
クローゼもアスベルの反応に驚きを隠せない。彼女がシオンと模擬戦をする場合、シオンが手加減してても初撃で武器を弾き飛ばされることが多い。だが、シオンと模擬戦をしているアスベルはその一撃を受け止めたのだ。
「へっ、ユリ姉ですら後ろに退避するのに、前に来た奴はお前が初めてだぜ。」
「そいつはどうも。」
剣を弾き、互いに距離を取る。
「いくぜ、グローラッシュ!」
シオンは戦技(クラフト)である高速のラッシュ『グローラッシュ』をアスベル目がけて放つが、
「よっ、はっ、ほっ」
アスベルは紙一重の動きで回避していく。
「まだまだ!グローストライク!!」
間髪入れずにシオンは加速して、一点集中の突き技『グローストライク』を放つが、
「おっと」
アスベルはこれも難なく回避する。
「「………」」
シルフィアとクローゼは茫然としていた。主に目の前で繰り広げられている戦いに。彼らは自分たちと歳があまり変わらないのにも関わらず、それすらを感じさせないような動きを見せている。
「てんめえ!のらりくらりかわすんじゃねえよ!!」
「模擬戦なんだからかわすだろうが……俺は案山子じゃないんだぞ?」
回避するアスベルにご立腹のシオンに、反論の言葉を言うアスベル。これは模擬戦なのだ。技の練習台とかでは断じてない。
『ただの案山子』なんぞになる気はないし、する気もない。勝機があるのならば確実に勝ちにいくのが男としての性だ。
「そりゃあそうだけれどよ……だったら、これはかわせねえだろ!!」
何か思いついたようにシオンが闘気を纏い始め、技を撃つ準備をしている。
「シオン!?」
「待て、シオン!その技は…!!」
クローゼとユリアは、シオンがやろうとしていることに気づき止めようとするが、シオンの闘気の増幅は止まらない。
(クラフト?いや、違う!まさか、Sクラフト!?)
アスベルの左頬を汗が伝う。これは加減したら自分が死ぬどころか、グランセル城がヤバい。しかも、懸念が間違っていなければシオンが撃とうとしているSクラは………
『絶技!ディバイン・クロスストーム!!』
シオンから放たれた光の奔流……シオンのSクラフト“絶技ディバイン・クロスストーム”。あの聖女の“絶技グランドクロス”より威力は数段劣るものの、磨き上げれば間違いなく文句なしの『一撃必殺』を体現したSクラフトだ。
アスベルは刀を抜き、二刀の構えで迎え撃つ。この技を無効化しないと自分はおろか、審判をしているユリアと二人の戦っている様子を見ているシルフィアとクローゼにも被害を被る。
「(強くなるのは結構だけれどな、周りの事を少しは考えろよ……ったく、ぶっつけ本番で『これ』を使うしかねえか!!)……奥義之歩法極、『刹那』!」
自分なりに探究・追求し、編み出した『神速』の更に先の領域…膨大な精神への負担と引き換えに、感覚を極限まで先鋭化した状態にまで引き上げる歩法『刹那』。アスベルの視界はモノクロに映り、シオンの放った光の奔流の速度も遅くなる。アスベルは時を置かずに闘気を纏う。転生前に磨き上げた感覚をその身に染み込ませるように。
「(俺の中に何が眠っているか知らんけれど、今だけでも力を貸してくれ!!)奥義の七、『飛燕』!!!」
アスベルの心の叫びに呼応したのか、それともアスベルの願いに応えたのか、彼の持つ二刀が不思議なオーラを纏った。
そして、彼の超高速移動から放たれた六連撃は、
――シオンの放った光の奔流を『断ち切った』
はい、出会い編は今回まで(期待)と言ったな?終わりませんでしたよorz
今までの話の流れから、アスベルが転生前にいた場所がバレてますww
あのチート集団一家はどうしようもありませんww
まぁ、アスベルの持っているあの刀は何で使わないの?とか思うでしょうが、
アレ使ったら終わりますから(色んな意味で)