~グランアリーナ・控室~
そこにはレイア達やクルツ達、そしてアスベル達にヴィクターらがいた。
「みんな!予選突破、おめでと~!」
「あっ、新人君たちだ!」
「おや、あんたたちか。」
「よお、ひょっとして試合を見に来てくれたのか?」
エステル達に気付いたアネラス、カルナ、グラッツはエステル達に話しかけた。
「はい、ちょうど先輩方の試合を見ることができました。すごく良い試合でしたね。」
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。今回はいきなり団体戦に変更されたから戸惑ったがね。」
ヨシュアのお祝いの言葉にクルツは苦笑しながら答えた。
「それにしてもレイア達ったら、酷いわよ。あたし達に秘密で武術大会に参加しちゃって!今までそんなそぶりを見せた事なかったから驚いたわよ!」
「フフ………本来私が驚かせる側なのに、エステルにはいつも驚かされてばかりだからね」
「それをお前が言うなよ……」
「あはは………」
エステルはジト目でレイア達を見たが、レイアは悪びれも無く胸を張って答え、その言葉を聞いたシオンは思わず突っ込み、クローゼは苦笑した。
「そう言えば……先ほど団体戦になって戸惑ったと言っていたけれど、元々団体戦ではなかったのかな?」
オリビエはクルツの言葉を思い出して、尋ねた。
「ああ。例年の武術大会は元々1対1の個人戦なんだ………アスベルは毎年出場しているから、今回の大会は異例であると気付いていると思うよ。」
その疑問にクルツは答えた後、アスベルを見た。
「ああ。でも、今回は団体戦だから今まで手合わせできなかった人とも戦える可能性があるからな。対戦することになったらよろしくお願いしますよ、クルツさん。」
「ハハ……お互い当たった時はお手柔らかにお願いしたいな。」
アスベルの言葉を聞いて、クルツは苦笑した。
「それにしてもいきなりルールが変更されて、本当に焦りましたよね。」
「あたしたちはまだいいさ。何とかメンバーも揃ったんだ。ジンの旦那なんか正直、困ってるんじゃないかねぇ。」
アネラスの言葉に頷くようにカルナがジンの現状を言った。
「あ、カルナさんたちもジンさんの知り合いなんだ?」
「ま、知り合って間もないけど名前だけは知っていたからねぇ。『不動のジン』って言って共和国じゃ有名な遊撃士なのさ。」
「どうやら、武術大会に出るためにリベールにやって来たらしいが……さっきも言ったように大会が個人戦から団体戦にいきなり変更されてしまったんだ。」
「これが、例の公爵閣下の思い付きだったらしくてな。で、ジンの旦那は仕方なく1人で登録する羽目になったわけさ。」
エステルの疑問にカルナは頷き、クルツはルールが変わった理由を答え、グラッツはなぜジンが一人で参加しているかを答えた。
「そうだったんだ……。まったく、あの公爵ってのはロクでもないことばかりするわね。」
「はは、違いない。しかし、このまま彼の実力が発揮されないのは惜しすぎる。」
呆れて言うエステルの言葉にクルツは苦笑しながら、頷いた。
「だな。無名でもいいからある程度戦えるヤツがいれば………おっ!?」
同じように頷いていたグラッツはある事に気付いて、エステル達を見た。
「……おや…………」
「…………ふむ」
「……いいかも…………」
カルナやクルツ、アネラスも同じようにエステル達を見た。
「???な、なんなの?マジマジと見ちゃって……」
クルツ達に見られたエステルは戸惑いながら尋ねた。
「いや、ものは相談だが……。君たち、ジンさんに協力して本戦から出場してみないか?」
「え……。ええええええ~っ!?」
「本戦からの参加って……。そんなの大丈夫なんですか?」
クルツの提案にエステルは驚き、ヨシュアも同じように驚いた後尋ねた。
「それは大丈夫でしょ。実際、私らも今日エントリーして認められてるし。」
レイアはそうエステル達に言った。
「ジンの旦那も遊撃士の助っ人が他にいないかエルナンに頼んだみたいでな。ただ、シェラザードはこっちに来ているけれど他の仕事で忙しいらしいし、アガットのヤツとは連絡がとれない。他の連中も似たようなもんらしいぜ。」
「カシウスさんに至っては国内にいないみたいですからねぇ。ま、あの人とジンさんが組んだら反則っていう気もしますけど……というか、アスベル君、シルフィアちゃん、レイアちゃん、シオン君……それにヴィクターさんの参加自体、反則なんですけどねぇ……」
グラッツの言葉に頷いたアネラスはカシウスとジンがいっしょに戦った時の事を思い浮かべて、絶対に勝てない事に苦笑した後、アスベルたちのほうを見た。
「はは……そういうわけだから前向きに考えてみたらどうかな。今日中にジンさんと決めれば明日の選手登録に間に合うはずだ。」
「う、うん……」
クルツに言われたエステルは放心した状態で頷いた。
「おっと……長話しすぎちまったようだね。それぞれの依頼も抱えているし、あたしたちはこれで失礼するよ。」
「ばいばーい、新人君たち!」
「へへ、試合場で手合せできるのを楽しみにしてるぜ。」
そして仕事の時間が来た事に気付いたクルツ達はその場を去った…………
「そういえば……そっちの仮面の人は誰なの?」
「言われてみれば……ヴィクターさん、知り合いですか?」
「ああ。腕の方は立つからな。彼の名はカイトス。故あって素顔は明かせないが。」
「………よろしく頼む。」
ふと、エステルらは仮面の男が気になり、尋ねるとヴィクターが代わりに説明し、その人物――カイトスは自己紹介した。
「えと、宜しくね。あたしはエステル・ブライト。」
「僕はヨシュア・ブライトです。」
「僕は愛の狩人、オリビエ・レンハイムさ。突然だけど、君を僕のライバルとすることにしたよ。」
「そこ、話をこじれさすような真似は止めい!!」
「あはは……」
それに続いて自己紹介したエステルとヨシュア。オリビエは酔いしれた感じの口調でカイトスの方を向いてライバル宣言し、エステルはジト目でオリビエに忠告し、クローゼはその光景に苦笑していた。
「……よろしく頼む。」
そう一言いうと、踵を返して控室を後にした。
「やれやれ……というか、どうしようかエステル?仕事の相談をするつもりが変な話になっちゃったけど……」
クルツ達が去った後、ヨシュアは放心しているエステルに尋ねた。
「……えへへ…………むふふ…………」
しかしエステルは顔を下に向けて、ぶつぶつと何かを呟いていた。
「エステル、だ、大丈夫?」
エステルの様子がおかしいことに気付いたヨシュアが尋ねた時
「キタ――――――!!!」
「ぬおっ!?」
「「キャッ!?」」
エステルは顔を上げて、絶叫した。エステルの奇声にシオンやレイア、クローゼは驚いた。
「そうよ、そうなのよ!やっぱりそーこなくっちゃ!ああ、女神(エイドス)様!大いなる加護を感謝いたします~!」
「………エ、エステルが壊れた……」
エステルの様子をヨシュアは哀れなものを見るような目で見ていた。
「考えてもみなさいよ。武術大会に出られるのよ!?困ってるジンさんに協力できる……あたしたちは城に堂々と入れる……ついでに白熱したバトルもできる……これぞまさに一石三鳥!」
「そ、そんなに出たかったのか……まあ、優勝できると決まったわけじゃないけど、僕達の手で依頼を達成できる可能性が出てきたのは嬉しいな。」
「依頼というと、女王陛下に会う事ですか?」
エステルとヨシュアの言葉から察したセリカは尋ねた。
「うん!女王様に博士から頼ま……モガ。」
セリカに尋ねられたエステルにヨシュアは両手でエステルの口を塞いだ。
(ちょっと、何するのよ~!)
口を抑えられたエステルは抗議するように、ヨシュアを睨んだ。
(エステル、ここにいるのは僕達だけじゃないよ。)
(あ!)
ヨシュアに言われたエステルはアスベル達を見て、ヨシュアを睨むのをやめた。
「ああ、心配しなくてもいいよ。大方の事情はエルナンさんから聞いてるから。」
「そういうことだ。」
アスベルとヴィクターはエステルらの懸念に答えるかのように言葉を発した。
「それでエステルさん。先ほど仕事の相談とおっしゃいましたが………」
「あ、うん。その事なんだけど………」
そしてエステル達はレイア達の所に来た理由を説明した。
「なるほどな………しかし、エステル。それなら先ほどの遊撃士達が言っていたように、お前達があのジンとやらに助力して、優勝すればいいのではないか?」
「ええ、そうよ!だから、この話はお終い!」
「ハハ……エステル、もう優勝した気分でいるんだ。」
「何よ~?今からそんな弱気になって、どうするのよ!」
苦笑しているヨシュアをエステルは睨んで言った。
「フフ……今回の大会は今までの中でもかなり楽しい大会になりそうだな。」
「ああ。“剣聖”の子供達……対峙した時は宜しく頼もう。」
「ふふ~んだ!相手が誰であろうと、絶対勝って見せるわ!」
アスベルとヴィクターは挑戦的な目でエステルを見て言い、見られたエステルは胸を張って答えた。
「私達も忘れてもらっては困るよ?アスベル、今度こそ敗北を味あわせてやるからね!」
「以前の借り、きっちり返させてもらうからな。」
「ま、いいけど。じゃあ、手合わせを楽しみにしておくから。」
レイアとシオンの言葉を聞いて溜息を吐いたアスベルは気を取り直して、エステル達に軽く片手を振った後、控室を出て行った。
その後エステル達は大会に向けて、街道で魔獣達と戦闘して自分達の状態を調整するレイア達と別れて、ジンを探し始めた………