ヴィクターにとっては連戦となる準決勝……双方の都合がうまくかみ合い、ヴィクターvsアスベルの個人戦となったのだ。
~グランアリーナ~
「なお、今回の試合はヴィクター選手、アスベル選手双方の希望により、従来通りのシングルバトルとなっておりますので、みなさま、どうかご了承下さい。」
「ワァァァァァァ!!」
パチパチパチパチ…………!
双方のチームが一人で出て来た事を司会が説明すると、観客達は歓声と拍手を送った。その観客席では、レイアらが見守っていた。
「“光の剣匠”とアスベルか……確か、アスベルは勝っているんだよな?」
「辛うじて、という話だったけれどね。でも、『アレ』を使わずってことだからねぇ……」
アスベルは自身の中に秘めうる力……『聖痕』を極力使用していない。それは、あくまでも非常時の切り札であり、それを使えば『人間』として対等に戦ったことにはなりえない……アスベル自身が、そう評した。それに、いざという時に使えなければ『切り札』として機能しない……それも理由ではある。
「にしても……七年前、何でアスベルとヴィクターが手合わせすることになったの?」
「ああ、それはね……」
七年前、“仕事”の関係でレグラムを訪れていたアスベルとレイア。そこで、魔獣に襲われていたアルゼイド家執事のクラウスとヴィクターの娘であるラウラを助けたことがきっかけだった。
クラウスの招きでアルゼイド家に案内され、その過程でアルゼイド流の門下生……そして、クラウスと手合わせすることとなった。そして、それを偶然見ていたヴィクターがアスベルの技量と流派――『八葉一刀流』を会得したものであると見抜き、手合わせを所望した。アスベルは流石に断ろうかと思ったが、問答無用で襲い掛かってきたため、“正当防衛”という形で戦う羽目になったらしい。
「アスベルも不憫だな……」
「フ……こうして会い見えるのは、7年ぶりぐらいか。」
「そうですね……あの時は勝った心地すらしませんでしたが……」
ヴィクターとアスベルは互いに苦笑を浮かべる。以前手合わせした際……その時は辛うじて、紙一重の差で勝った。下手すれば仕合というより死合になりかねなかった状況だった……その後で、彼の妻であるアリシアに説教されたのもいい思い出だろう……
「確かにな……あの後、互いに色々説教されたものだ……さて、覚悟はいいな?私とて、二度負けるつもりはないぞ?」
「それはこちらもですよ。」
「これより武術大会、本戦第七試合を行います。両チーム、開始位置についてください。」
審判の言葉に頷き、ヴィクターとアスベル両チームはそれぞれ、開始位置についた。
「双方、構え!」
両チームはそれぞれ武器を構えた。
「『八葉一刀流』筆頭継承者、アスベル・フォストレイト……」
「『アルゼイド流』筆頭伝承者、ヴィクター・S・アルゼイド……」
「「いざ、参る!!」」
互いに膨れ上がる闘気……その覇気に周囲の空気が震え上がっていた。
「勝負始め!」
そして互いに武術を継承しうる立場の人間……ヴィクターとアスベルは試合を始めた!
「「はぁぁぁぁぁ………」」
自らの身体能力を上げるクラフト――ヴィクターは『洸翼陣』を、アスベルは『麒麟功』で己の身体能力を上げる。そして、
「ふっ!」
「はっ!!」
ぶつかり合う宝剣と太刀……その一合だけでも周囲の空気は震え上がる。そして、互いに距離を取る。
「悪くない……この7年でさらに磨き上げたようだな!」
「それは、どうも!」
力は抜けない……得物の違いもあるが、それ以上にヴィクターの闘気はアスベルですら冷や汗をかくほどだった。“光の剣匠”……その闘気も佇まいも…そして、彼が振るう剣の軌道は…7年前以上のものであると。
「食らうがいい……洸閃牙!!」
ヴィクターはすかさずクラフトを放つが、
「三の型“流水”……参式『氷逆鱗』!!」
アスベルはその引付を逃さずカウンターとして奥義クラスのクラフト――技単独でも攻撃技として機能するカウンター技の極意、三の型参式『氷逆鱗』を打ち込む。
二つの技がぶつかり、互いに距離を取る。そこから繰り出す技を読み切り、互いに戦技を繰り出す。
「洸迅閃!」
「六の型“蛟竜”……弐式『九頭竜』!!」
大剣を片手で上から振り下ろすことによって 直線上に剣圧を走らせて攻撃をする『洸迅閃』、斬撃を地面に刻むことによってあらゆる軌道の衝撃波を生み出す『九頭竜』がぶつかり、その技の勢いで衝撃波が発生するが、互いにそこへ向かって駆け出す。
「受けよ、アルゼイドの一端……洸刃乱舞!!」
「一の型“烈火”が終式……『深焔の太刀』!はああああああっ!!」
互いに攻撃力の高い技……『真・洸刃乱舞』と『深焔の太刀』が激しくぶつかり、そのエネルギーの余波が爆発する。
中心で巻き起こる煙……それから互いに距離を取り、ヴィクターとアスベルが中心を挟む形で対峙するポジションを取るかのように煙から脱出する。
「………」
観客席は皆、その展開に呆然としていた。ただ呆れていたのではない……その光景は最早『普通』ではないと皆が思っただろう。
「……何アレ」
エステルは口をパクパクさせ、
「……ごめんエステル、僕にも上手く表現できそうにない。」
ヨシュアは唖然とし、
「………“光の剣匠”もそうだが、アスベルも凄まじいな。(五年前の“あの時”よりも磨かれた技術と覇気……下手すれば俺どころかヴァルターですら赤子扱いの戦いだな……)」
「いやはや、何と言うか言葉が出てこない戦いというのを初めて見たね。(この二人であのような実力……エレボニアやカルバードでも、彼らに喧嘩を売れば唯では済まないね。)」
オリビエやジンもその光景に驚きを隠せず、
「……」
クローゼに至っては、目の前の状況が理解できずに思考がフリーズしていた。
「おいおい………あれが、アスベルなのか?」
「……私らの時ですら『手加減』してたってことみたいだね。」
「何と言うか……強すぎるわよ。」
「あはは……」
隣の芝は青いという言葉がある……シオンらが言えた台詞ではないが、ヴィクターと対峙しているアスベルの実力は彼らですら及びもしない領域に踏み込んだものであると感じていた。それに追随しているヴィクターも人の領域を軽く超えつつあるのは言うまでもない。
(長期に持ち込んだところで此方が不利……ならば、本気で行かせてもらおう、アスベル・フォストレイト!!)
技量の差はほぼ互角……だが、肉体年齢はアスベルの方が若い……長期戦に持ち込むのは不利だと察し、闘気を高めて一気に勝負をつける方向へと方針を固め、凄まじい闘気を放つ。
(七年前には使えなかった“終の型”……今、解き放つ時だ……行きます、ヴィクター・S・アルゼイド殿。今度こそ、完全な勝利で勝たせてもらいます!!)
ここで出し惜しみをすれば、間違いなく自分が負ける……向こうから轟き感じる闘気……それを察し、アスベルは刀を鞘に納めると、抜刀術の構えを取り、闘気を更に解放する。
「これで終いとしよう……!!」
「これで、終わらせるっ…!!」
「わが剣の神髄……極技……瞬刃!洸皇剣!!」
「八葉が終の型“破天”……参式『御神渡』!!」
ヴィクターが繰り出したのは、七年前の“敗北”から鍛え上げた『洸凰剣』をも超える……闘気でリーチをのばすのではなく、剣そのものに集約することで『洸刃乱舞』以上の破壊力を編み出したSクラフト『瞬刃・洸皇剣』。一方、アスベルが繰り出したのは『八葉一刀流』八つの型を集約した九番目の型……『終の型』“破天”。その参式である超神速の抜刀術『御神渡』。二つの技の軌道は最早本人たち以外に見えるはずもなく……観客たちには、技を放つ前と放ち終えた後の二人の姿しか認識できなかったのだ。
「はぁっ……はぁっ……」
「ふ……見事だ……」
『こ、この試合……双方戦闘不能により、ドローとする!』
次の瞬間、互いに膝をついた状態の二人がいた。だが、互いにこれ以上の戦闘は難しい。互いにこれ以上“手の内”を晒すのは避けたい……それを見た審判が試合終了のコールを行った。
「………えと、この場合ってどうなるのかしら?」
「う~ん……双方とも戦闘不能となった場合って、初めてのような気がするけど」
エステルの問いにヨシュアは真剣な表情で答えた。少なくとも、彼の記憶が覚えている限りにおいて、このような状況になるのは初めてである。すると、アナウンスが鳴った。
『お伝えします……協議とデュナン侯爵閣下のご配慮の結果、素晴らしい試合を見せてくれたヴィクター選手のチームとアスベル選手のチームは同率準優勝としまして……その結果、優勝はジン選手のチームとなります!』
その結果に観客から歓声が沸き起こった。その一方……エステルらはその結果に唖然としていた。
「どうやら、棚から牡丹餅だったね。」
「い、いいのかな……アスベルやヴィクター達に申し訳ないような気がするけれど……」
「別にいいじゃないか。ヴィクターの旦那は元々『城に入れる身分』だしな。」
「フフ……偶然とはいえ、グランセル城に入れる機会を得られるとは……」
その後、表彰式が始まった。準優勝であるアスベル達のチームとヴィクター達のチームが招待状を受け取った。そして、優勝者であるエステル達の番が来た。
「それではこれより、優勝チームに公爵閣下の祝福の言葉が贈られます。代表者、ジン・ヴァセック選手!どうぞ、前にお進みください」
「は。」
司会の言葉を聞き、ジンはデュナンに一礼してデュナンの前に出た。
「おお、近くで見ると本当に大きいのだなあ……東方人というのは皆、そなたのように大きいのか?」
デュナンはジンの体の大きさを見て驚き、尋ねた。
「いや、自分は規格外ですな。幼き頃より、良く食べ、良く眠り、鍛えていたら自然とこうなり申した。生来、物事を深く考えない質ゆえ図体ばかり大きくなったのでしょう。」
「ハッハッハッ、なるほどな。うむ!気に入ったぞ、ジンとやら!賞金10万ミラと晩餐会への招待状を贈るものとする!」
「ありがたき幸せ。」
そしてデュナンはジンに賞金10万ミラと晩餐会への招待状を渡した。
「そなたと、そなたの仲間に女神達の祝福と栄光を!さあ、親愛なる市民諸君!勝者に惜しみない拍手と喝采を!」
デュナンの宣言に応えるかのように観客達は惜しみない拍手をし、大きな喝采の声を上げた。
こうして、波乱に満ちた武術大会は幕を閉じた。
~グランアリーナ・選手控室・紅の組~
「フフ、面白い者たちが優勝することになったものだな。」
一方選手控室から表彰式を見守っていたリシャールは口元に笑みを浮かべた。
「まったく……。恥を知りなさい、ロランス少尉。決勝に行くどころか2回戦で、しかも一地方の長ごときに遅れを取って閣下の顔に泥を塗るなんて……日頃のふてぶてしい態度はどうやらコケ威(おど)しだったようね?」
「……恐縮です。」
カノーネはロランスがヴィクターに負けた事を責めた。責められたロランスは静かに頭を下げた。
「はは、カノーネ君。そう責めないでやってくれ。実は私の方から、ロランス君に全力を出さないように頼んだのだ。」
「えっ……!」
「…………………」
リシャールの言葉にカノーネは驚き、ロランスは黙っていた。
「情報部はその性質上、黒子の役に徹せねばならない。今回のように、華のあるチームが優勝する方が望ましいだろう。」
「なるほど……。公爵閣下も、あの東方人を予想以上に気に入られた様子……目くらましにはもってこいですわね。」
リシャールの説明を聞いて納得したカノーネは不敵な笑みを浮かべた。
「しかし……今年の大会は残念だったな。親衛隊のシュバルツ中尉やモルガン将軍が参加していればもっと華やかだっただろうに。」
「うふふ、お戯(たわむ)れを……そういう事なら、閣下ご自身が出場なさればよろしかったのに。あの小癪(こしゃく)なユリアなど足元にも及ばぬ腕前なのですから。それに閣下なら単独で“光の剣匠”に勝てるのではないですか?」
「はは、私はそれほど自信家ではないつもりだよ。本気を出したロランス君にもあまり勝てる気がしないからね。」
「……お戯れを。閣下は少々、私のことを買いかぶりすぎているようだ。軍人とは名ばかりの猟兵あがりの無骨者(ぶこつしゃ)にすぎません。」
自分に対するリシャールの評価を聞いたロランスは謙遜して答えた。
「これでも人を見る目は確かなつもりだ。君に対抗できるとすれば、それこそあの男…“光の剣匠”や“紫炎の剣聖”、あとは“紅隼”や“剣聖”くらいだろうな。」
「………………………………」
リシャールの言葉を聞いたロランスは何も言わず黙っていた。
何せ、リシャールやカノーネは知らないが……ロランスは彼女ら――『紫炎の剣聖』の補助をしている“那由多”、そして元執行者の“絶槍”に敗れている。
「その彼のことですが……このままでは、彼の子供たちがグランセル城に入ってしまいますわ。……それに重要人物達が王都にいますが、何らかの処置を講じましょうか?」
「放っておきたまえ。公爵閣下が約束してしまったことだ。今更、遊撃士協会が介入しても計画が止まることはありえない。それにいくら実力が飛びぬけている『彼ら』が介入した所で所詮は個人だ。大した事はない。」
「で、ですが……」
リシャールの説明を聞いても、未だにカノーネは納得していない様子で何かを言いかけたが、リシャールはカノーネから目線を外してロランスに尋ねた。
「……ロランス君。計画の進行度はどのくらいだ?」
「現在90%を越えました。早くとも今夜遅くには、最終地点へ閣下をご案内できるかと思います。」
「よし、いいぞ。」
ロランスの報告を聞き頷いたリシャールは数歩前に出た。
「……王国の夜明けは近い。たとえ逆賊の汚名を受けても……必ずやこの手で明日を切り拓くのみ。2人とも、これからもさらなる活躍を期待しているよ。」
リシャールは決意の表情になった後、口元に笑みを浮かべてでカノーネとロランスに声をかけた。
「ハッ。」
「どこまでも閣下に着いて行きます!………(さて……博士奪還を許したあの者達や武術大会で敗北したあの者達がいても邪魔なだけね……計画が完了するまで謹慎でも言い渡しておきましょう。)」
リシャールの言葉にロランスは軽く礼をし、カノーネも礼をした後、心の中で博士奪還を許してしまった特務兵達や武術大会で敗北した特務兵達の処分を考えていた。
そしてリシャール達は表彰式が終わった後、デュナンを護衛しながら城に向かった…………
戦闘描写、本気で難しいです。クラフトバンバン使って……CPいくらあれば足りるだろう(汗)
次回、いろんな面子がグランセル城に乗り込みます(ただし一部を除く)