英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第59話 招かれる晩餐

~グランアリーナ前~

 

「エステルさんにヨシュアさん、優勝おめでとうございます。」

「えへへ……ありがとう、クローゼ!まぁ、正直偶然優勝できたものだけれど……」

試合が終わり、グランアリーナの前でレイア達と合流したエステルは、クローゼの称賛に笑顔を浮かべた。

 

「おめでとう、みんな。」

「偶然とはいえ、優勝するのはその実力あってこそだよ。」

「みなさん、凄かったですよ。」

レイア達もそれぞれ祝福の言葉をかけた。

 

「みんなもありがとう!はあ~、それにしても何ていうかすっごい戦いだったわよね……アスベルとヴィクターの試合なんて、あたし達と同じ人間なのか疑問に思っちゃったぐらいだもの。」

「うん……その意見には同感かな。」

「ああ。互いに回復アーツを使ってなかったとはいえ、凄い試合だったな。」

エステルの言葉にヨシュアやジンは頷いた。

 

「さて…………晩餐会ってのはさっそく今夜あるみたいだな。結構遅くまであるらしいから部屋も用意してくれるみたいだぜ。」

「やれやれ、太っ腹なことだ。お偉方と同席というのは堅苦しいような気もするが……やはり、リベール宮廷料理にありつけるのは楽しみで仕方ない。フッ、今から想像しただけでも涎(よだれ)が出てしまいそうだよ、ジュルリ。」

ジンの言葉を聞き、オリビエは涎を垂らして答えた。

 

「既に出てる、出てるってば。」

「オリビエさんに関しては何のプレッシャーも無さそうですね。」

オリビエが涎を垂らしている事にエステルはジト目で突っ込み、ヨシュアは全然緊張していないオリビエの様子に苦笑した。

 

「ハッハッハッ。それでは行こうじゃないか!ボクたちをもてなしてくれる愛と希望のパラダイスにっ!」

「……そう事が運ぶと思うか?」

オリビエが高らかに騒いでいる時に怒りを抑えた様子のエレボニア将校――ミュラーがやって来た。

 

「ハッ、君は……」

ミュラーを見て、オリビエは驚いた。

 

「貴様というやつは……。ここのところ、連絡も寄越さずに何をしているのかと思えば……まさか立場をわきまえずに武術大会に参加していたとは……」

ミュラーは今にも爆発しそうな様子で静かに言った。

 

「や、やだなあ、ミュラー君。そんなに怖い顔をするんじゃあないよ。笑う門には福来る。スマイル、スマイルっ♪」

「誰が怖い顔をさせているかッ!」

そしてオリビエのからかう言葉を聞き、とうとう怒りが爆発した。

 

(あの制服って、もしかして……)

(うん……。エレボニア帝国の軍服だ……)

(あの人は、ミュラーさんですね。あの様子ですと、かなり怒っていらっしゃるようですが……)

(ミュラーさん……)

(相変わらず、苦労してるな……)

(だね……)

一方エステルとヨシュアはお互いミュラーの正体を相談していた。クローゼや、レイアとシオン、シルフィアに至っては『知り合い』であるミュラーとオリビエのやり取りを見て苦笑を浮かべていた。

 

「……お初にお目にかかる。自分の名前はミュラー。先日、エレボニア大使館の駐在武官として赴任した者だ。そこのお調子者とはまあ、昔からの知り合いでな。」

「いわゆる幼なじみというヤツでね。フフ、いつも厳(いか)めしい顔だがこれで可愛いところがあるのだよ。」

「い・い・か・ら・黙・れ!」

「ハイ……」

ミュラーの自己紹介を茶化したオリビエだったが、ミュラーの睨みと怒りの言葉にしゅんとして黙った。そしてミュラーは表情を戻して、咳払いをした後、話を続けた。

 

「コホン、失礼した。どうやら、このお調子者が迷惑をかけてしまったようだな。エレボニア大使館を代表してお詫びする。」

「あ、ううん……迷惑ってほどじゃないけど。試合じゃ、オリビエの銃と魔法にずいぶん助けられちゃったし……」

「あの、オリビエさん……ボースに行ったこともあれですが、武術大会に出ていたことまで大使館に隠していたんですか?」

「ハッハッハッ。別に隠してたわけじゃないさ。ただ、言わなかっただけだよ。」

「そういうのを隠していたと言うのだッ!」

表情を戻したミュラーだったが、オリビエの説明を聞き、また怒りが爆発した。

 

「ま、まあいい……。過ぎたことを言っても仕方ない。とっとと大使館に戻るぞ。」

「へ……。ちょ、ちょっと待ちたまえ。ボクたちはこれからステキでゴージャスな晩餐会に招待されているんですけど……」

ミュラーの言葉を聞き、驚いたオリビエはエステル達と一緒に行く事を説明しようとしたが

 

「ステキにゴージャスだからなおさら出られると困るのだ。お前にはしばらく大使館で過ごしてもらうぞ。」

ミュラーはオリビエの言い訳をバッサリ切った。

 

「……………………マジで?」

ミュラーの言葉を聞き、オリビエは信じられない様子で聞き返した。

 

「俺は冗談など言わん。」

そしてミュラーはハッキリ冗談ではない事を言った。

 

「そ、そんな殺生な~……。晩餐会だけを心の支えにここまで頑張ってきたのに~……」

ミュラーの言葉を聞き、オリビエは情けない顔をしてミュラーに嘆願した。

 

「さ、さすがに……ちょっと可哀想じゃない?」

「晩餐会に出席するくらい、別に構わんのじゃないのか?」

「何か理由でもあるんですか?」

「みなさんのおっしゃる通り、晩餐会に参加するなんて滅多にない機会なのですから、許してあげてもいいのではないですか?」

オリビエの様子を見て、哀れに思ったエステル達はそれぞれオリビエのフォローをした。

 

「キミたち、ナイスフォロー!ああ、仲間というのはなんと美しいものなのだろうか……。どこぞの薄情な幼なじみとは比べ物にならない温かさだねぇ。」

エステル達のフォローを受けたオリビエは無念そうだった表情が一転し、いつもの調子になって言った。

 

「……君たちは、事態の深刻さがいまいち理解できていないようだ。いいか、想像してみろ。王族が主催する、各地の有力者が集まる晩餐会……。そこで立場もわきまえずに傍若無人にふるまうお調子者……。それがエレボニア帝国人だとわかった日には……」

「………………………………」

ミュラーに言われ、オリビエが晩餐会に参加した時の光景が思い浮かんだエステル達は黙った。

 

「ちょ、ちょっと皆さん。どうしてそこで黙るんデスカ?」

いきなり豹変したエステル達の様子にオリビエは慌てて尋ねた。

 

「……ごめん、オリビエ。その人の心配ももっともだわ。」

「さすがに、王城の晩餐会でいつものノリはまずいですよね。」

「うーむ。国際問題に発展しかねんな。」

「……まあ、元気出しなよ。」

「ごめん。私でもそれは気がかりかな。」

「右に同じく。」

「ミュラーさんの言うとおり、大人しくしていただいた方が賢明ですね。」

「アハハ………すみません、オリビエさん。」

そして掌を返したかのように、エステル達はミュラーの味方になった。

 

「うわっ、掌を返すようにっ!?」

一斉にミュラーの味方になったエステル達をオリビエは叫んだ。

 

「終戦から10年目という、ただでさえ微妙な時期なのだ。我慢してもらうぞ、オリビエ。」

そしてミュラーはオリビエの首を掴んだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ミュラーさん。黙っていたことは謝るからさ……」

諦めきれないオリビエはなんとかミュラーを説得しようとしたが

 

「問答無用。」

「ボクの晩餐会~!ボクの宮廷料理~!………」

哀れにもミュラーに引きずられて行った。

 

「えっと……いいのかなぁ?」

オリビエを見送ったエステルは苦笑した。

 

「気の毒だけど……こういう事もあるよ、うん。」

「まあ、人間万事、塞翁(さいおう)が馬ってやつだ。せいぜい奴(やっこ)さんの分まで楽しんできてやるとしようぜ。」

ヨシュアやジンは気にしないように助言をした。

 

「うーん……仕方ないか。それじゃあ、気を取り直してグランセル城に行きましょ!」

「それじゃ、行ってきます。」

「気を付けてね。」

そしてエステルは気を取り直して言った。レイアらと別れ、城に向かい、門番の兵達に晩餐会の招待状を見せて城の中に入った………そして、レイアらはエルベ周遊道に入り、そこで待っていた先客と合流した。

 

 

~エルベ周遊道~

 

エルベ周遊道の端……そこには、レイア、シオン、クローゼ、シルフィア……そして二人の男性がいた。

 

「フフ……すみませんね、先程は。」

「いや、気にしていないよ?僕のキャラからしてああ言われることは想定済みだしね。」

「全くお前は……申し訳ない、シルフィア殿、レイア殿にクローディア姫殿下、それとシオン……いや、シュトレオン殿下。この戯けがいらぬ迷惑をかけたようだ。」

「気にしないでください。オリヴァルト皇子がこれから対峙する相手にはそれぐらいの度胸や性根は必要ですから。」

レイアがそう詫びた相手――オリビエとミュラーがいた。ミュラーの言葉にシオンが笑みを浮かべて答えた。

 

シオンの正体はオリビエとミュラーにも話した。彼らが相対するもの……二人の協力者として、自分の身分を明かし……結果的に帝国が亡ぶこととなっても、そのことは然るべき時まで隠す……その強き意志に、オリビエとミュラーは頷いた。

 

「それにしても……何故、オリヴァルト皇子殿下とミュラー殿がここに?」

「クローゼ君…いや、クローディア姫殿下。君の疑問は尤もだろう。かつてリベールに敗れた二大国の片割れ……その皇族の端くれである僕がこのような場所にいる理由……それを計りかねている感じかな。」

「え、ええ……」

クローゼにとっては、疑問以外の何物でもなかった。皇族たる者……別に疚しい者でもなく、祖母であるアリシア女王からは好意的にみられているアルノール家。その血筋を引くオリビエもといオリヴァルト皇子が身分を“演奏家”と偽ってここにいる意味を。

 

「オリビエ……いいのか?」

「構いはしないさ。元より、アスベル君やシルフィア君、それと出来るだけ多くの“賛同者”が欲しいのは事実。それと……どうやら僕自身、この事件は放っておけないからね。そちらの『遊撃士』に迷惑をおかけした“謝罪”も込めて、ね。」

「えと……どういうことですか?」

躊躇いがちに尋ねるミュラーにオリビエは力強い言葉で頷き、クローゼは事情が呑み込めずに首を傾げた。

 

「……カシウスさんから聞いた『ジェスター猟兵団』とその背後で動いていた『身喰らう蛇』、連動するように動いた帝国軍と領邦軍。あのロランスとかいう仮面をつけた御仁と……そして、“鉄血宰相”ギリアス・オズボーン。その二つが接点として繋がった以上、『身内』である僕も無関係とは言えないからね。」

 

オリビエ自身、これらの事実は驚愕に値するものだった。カシウスから聞いたギルド帝国支部襲撃事件……そして、猟兵団を鍛え上げた『身喰らう蛇』と、それらの鎮圧という名の隠滅を図った帝国軍と領邦軍……その後、その事実を隠ぺいした鉄道憲兵隊と帝国軍情報局…つまり、帝国政府のトップである人物――“鉄血宰相”ギリアス・オズボーン。

 

そして、ギルドを襲った猟兵団のメンバーの一人がリベールの情報部の中にいる事実。これはもう、偶然とは呼べない図式。つまり、エレボニアとリベール……この二つの事件は繋がって引き起こされたものだと推測……いや、確信した。

 

「僕としては、このまましばらくは身分を隠してリベールに留まるつもりだよ。そして、然るべき時が来れば帝国に帰るつもりだ。なので、エステル君達やクローディア姫らにも色々お手伝いしてもらうことになるかな。」

「あの、それを聞くと……まるで、帝国そのものをひっくり返すかのように聞こえますが……」

「ひっくり返す、か……間違いではないかな。ある意味似たようなものではあるし。」

「笑みを浮かべて言うような言葉ではないぞ、それは。」

オリビエの決意は固い。だからこそ、やり遂げなければならない。彼の目指そうとしている世界……その先に“平穏”が感じられないその未来を打破するために……道のりは険しいが、そのための“力”を得るため、敢えて渦中に飛び込んでいくことを。

 

 

「僕は……“彼”を駆逐すると決めた。“鉄血宰相”ギリアス・オズボーン……時代を“狂乱の遊戯”へ導こうとしている元凶を。」

 

 




てなわけで、FC時点では参加しなかった面子がかなり集結します。

ヴィクターの存在だけでも十分おかしいですがねw

コンビクラフトに関しては、おいおい考えていく予定です。

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