英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第63話 愛国と憂国

~グランセル城内 侍女控室~

 

「エステル殿、ヨシュア殿。お待ちしていましたよ。」

「その、ごめんなさい。リシャール大佐とフィリオさんに捕まっちゃって……」

「市長のことは存じ上げておりましたが、大佐にも……ですか?」

エステル達がリシャールと話していた事にヒルダは驚いた。

 

「僕達の父のことについて昔話を聞かせてもらいました。こちらの動きについては気付かれていないと思います。」

「そうですか……紹介状によるとあなた方は、カシウス殿のお子さんということでしたね。リシャール大佐が感慨を抱くのも分かる気がします。」

そしてヨシュアの説明を聞き、ヒルダは納得した。

 

「あの、ヒルダさんも父さんを知ってるんですか?」

「昔は、モルガン将軍の副官として王城によく来てらっしゃいました。亡き王子や王太子……陛下らのご子息のご学友だったとも聞いております。」

「亡き王子、王太子って……」

「クローディア姫のお父上、そしてシュトレオン王子のお父上にあたるかたですね。」

「ええ、王子は15年前の海難事故で、王太子は8年前の列車事故でお亡くなりになられました。王子や王太子さえ生きてらっしゃれば、このような事態は起こらなかったでしょうに……」

ヒルダはそう言って、つらそうな表情で目を伏せた。

 

「え……」

「……起きてしまったことを悔やんでも仕方ありませんね。夜も更けてまいりました。早速、支度をしていただきます。シア、いらっしゃい。」

気を取り直したヒルダは1人のメイドを呼んだ。そして控室の奥の扉からエステル達を案内したメイドであるシアが出て来た。

 

「あれ、あなたは……?」

「確か、シアさんとおっしゃいましたね?」

「ど、どうも……エステル様、ヨシュア様。事情は伺わせていただきました。」

「この子のことは信用してくださって結構です。姫様と殿下が城にいらっしゃる時にお世話をしている侍女ですから。」

シアの登場に疑問を浮かべているエステル達にヒルダは説明した。

 

「姫様と殿下って……クローディア姫とシュトレオン王子のことね。」

「あの二人の……それなら問題ありませんね。」

ヒルダの説明を聞いた二人は安心した。

 

「きょ、恐縮です……では、用意した制服に袖を通していただけますか?リボンやカチューシャなど細かい所は、私が整えさせていただきます。」

「へ……」

「あの……ひょっとして?」

シアの言葉にエステルは驚き、察しがついたヨシュアはヒルダを見た。

 

「ええ、エステル殿には侍女と同じ恰好をしてもらって女王宮に入っていただきます。多少、髪をいじらせて頂ければ、見張りにも気づかれないでしょう。」

「な~るほど……」

「たしかに、制服というのは個性を隠しやすいですからね。潜入するにはもってこいかもしれません。」

ヒルダの説明を聞き、二人は納得した。

 

「へえ~、メイドさんの制服かあ。リラさんとかを見ていていいなあって思っていたのよね。ヒラヒラしてて可愛いのにすごく動きやすそうなんだもん。」

「ふふ、動きやすくないとお掃除の時に困りますから……」

エステルの言葉にシアは口元に手を当てて、上品に笑った。

 

「あ、やっぱりそうなんだ?さっそく着させてもらおっと!」

「嬉しそうだなあ……はしゃぐのはいいけど陛下に失礼のないようにね。今度ばかりは僕も付いてはいけないからね。」

「え、どうして?ヨシュアも着替えるんでしょ?」

「………え。」

エステルの様子を微笑ましそうに見て、忠告したヨシュアだったが、エステルの言葉を聞き、固まった。

 

「エステル殿?」

一方ヒルダも驚いて、エステルを見た。

 

「だってヨシュア、学園祭の劇でお姫様の恰好をしてたじゃない。ドレスもメイド服と同じでしょ?」

「あ、あれはお芝居じゃないか。女王陛下にお会いするのに女装するなんて、ちょっと……」

「大丈夫、大丈夫。全然みっともなくないから!だってヨシュアのお姫様姿、すっごく綺麗だったもん!」

「ま、また……冗談はやめてよ。あの、ヒルダさんたちからも何とか言ってやってください。」

女装するように迫るエステルを納得させれないヨシュアはヒルダとシアに助けを求めた。

 

「………」

「………」

しかし二人は何も答えず、まじまじとヨシュアの容姿を見て、考えていた。

 

「あ、あの……?(こ、この流れは…まさか……)」

嫌な予感がしたヨシュアは二人に声をかけた。

 

「なるほど……。確かに問題なさそうですね。シア、たしか姫様のためのヘアピースがありましたね?」

「は、はい……一度も使われていないものが。長い黒髪ですからヨシュア様にもお似合いかと……」

「ちょ、ちょっと…あの…」

既に女装をさせる気でいる二人を見て、ヨシュアは焦った。

 

「それじゃあ、3対1のファイナルアンサーってことで♪」

「では、こちらにどうぞ。更衣室になっていますので……」

「ちょっと待ってよ!僕は着替えるなんて一言も……」

反論するヨシュアを無視して、エステルは引っ張って行き、シアは二人に着いて行った。

 

「わかった、わかったから……服くらい自分で脱げるってば……え……シアさん、化粧までするんですか……!?」

「はあ……最近の若い子達ときたら……」

奥の部屋から聞こえてくる騒がしい会話にヒルダは溜息を吐いた。そして少しするとエステル達が出て来た。

 

「まあ……」

「じゃ~ん。えへへ、どーでしょうか?」

「うふふ……とってもよくお似合いですわ。」

エステルのメイド姿を見てヒルダは驚き、エステルは自慢げに胸を張り、シアは褒めた。

 

「城働きに来たばかりの活発で朗らかな侍女見習い……そんな説得力は十分ありますわね。髪も下ろしていますから気付かれることはないでしょう。何でしたらこのままグランセル城で働きますか?」

「ゆ、遊撃士の仕事もあるからそれはちょっと……あ、それよりも。ちょっと、ヨシュア。早く出てきなさいってば~。」

ヒルダの勧誘を苦笑しながら断ったエステルは、未だ出てこないヨシュアを呼んだ。

 

「はあ……どうしても出ないと駄目かな?」

「だーめ。ウダウダ言ってると遠慮なく引きずり出しちゃうわよ?」

「わかったよ……もう、しょうがないな……」

そう言ったヨシュアはしぶしぶ、奥の部屋から出て来た。

 

「………」

部屋から出て来た長い黒髪のメイド――ヨシュアは何も言わなかった。

 

「これはまた……怖いくらいにお似合いですね。」

「ですよねぇ!?まったく、女のあたしよりもサマになってるというのは一体どーゆうことなのかしら。」

「うふふ……お化粧のしがいがありましたわ。」

「もういいです……何とでも言ってください……」

三人の会話を聞き、ヨシュアは哀しそうに呟いた。

 

「さて……準備は整ったようですね。それではこれから女王宮へと案内させて頂きます。あくまで侍女見習いとして扱いますので、そのおつもりで。」

「あ、はい、わかりました。ゴクッ……いよいよ女王様と会えるのね。」

「うん……ここが正念場だね。気を引き締めて何とか女王宮に入らないと。」

「プッ、その恰好でシリアスに言っても似合わないかも……」

女装とメイド姿で真剣な表情で言うヨシュアを見て、エステルは思わず吹きだした。

 

「わ、悪かったね!シリアスが似合わなくて!こんな恰好をさせといてよくもまあ、ぬけぬけと……」

「ゴメンゴメン。そんなに拗ねないでよ。今度、アイスクリームでもオゴってあげるからさ~。」

「ふん、君じゃないんだから食べ物でごまかされたりしないよ。」

「あ、あたしがいつ食べ物でごまかされたのよっ?」

「うふふ……本当に仲がいいんですのね。」

「時間がありません……。さっさと女王宮に行きますよ。」

エステルとヨシュアの掛け合いをシアは微笑ましそうに見て、ヒルダは溜息を吐いて女王宮に行くよう、促した。そしてエステル達はヒルダに連れられて女王宮に向かった。特務兵たちはこんな時間の来訪に目を丸くし、変装した二人を見たがヒルダの睨みを利かせるような表情で黙り、エステル達は女王宮の中への潜入に成功した……………

 

 

~女王宮内~

 

「陛下、失礼します。先ほどお話ししたエステル殿とヨシュア殿をお連れしました。」

「……ご苦労さまでした。どうぞ、入って頂いて。」

ヒルダは扉をノックして、中の人物に用を伝えた。すると、部屋の中から優しそうな老婦人の声が聞こえて来た。

 

「かしこまりました。私はここで待たせていただきます。さあ、お二人はどうぞ中へ。」

「は、はい……!」

「失礼します……」

ヒルダに促され、二人は部屋に入って行った。

 

 

~女王宮内 アリシア女王の部屋~

 

「あ……」

エステル達が部屋に入るとそこには、リベールを統べる女王――アリシア女王が窓際で窓の外を見ていた。

 

「ふふ……ようこそいらっしゃいましたね。わたくしの名はアリシア・フォン・アウスレーゼ。リベール王国、第26代国王です。」

エステル達に気付いた女王は優しそうな笑顔で自己紹介をした。

 

「あ、あの……エステル・ブライトです。遊撃士協会の準遊撃士です。」

「同じく、準遊撃士のヨシュア・ブライトといいます。お初にお目にかかります。」

「エステルさんとヨシュア殿ね。あなたたちに会えるのを本当に楽しみにしていました。大したもてなしはできませんが、お茶の用意くらいはできます。どうぞ、ゆっくりして行ってくださいな。」

そして、二人はアリシア女王にラッセル博士のことを含め、今までのことを話した。

 

「そう……ラッセル博士はそんな事を。あらゆる導力現象を停止させる漆黒のオーブメント『ゴスペル』……そんなものを大佐は手に入れているのですか……」

全ての話を聞き終えた女王は考え込んだ。

 

「博士は、女王陛下ならばリシャール大佐がそれを何に使うか分かるかもしれないと言いました。何か……心当たりはありますか?」

「………ひとつだけ心当たりがあります。ですが、大佐がそれを知っているとは思えません。わたくしの思い過ごしであるといいのですが……」

「あの……その心当たりっていうのは?」

「……あなた達にならお話ししても構わないでしょうね。」

目を閉じて考え込んでいた女王だったが、やがて目を開いて話し始めた。

 

「十数年前、この王都の地下に巨大な導力反応が検出されたのです。その調査にあたってくれたのが中央工房のラッセル博士でした。」

「巨大な導力反応……」

「王都の地下ということは地下水路の近辺でしょうか?」

女王の話を聞き、エステルは驚き、ヨシュアは真剣な表情で尋ねた。

 

「いいえ、水路よりもさらに深い地下から検出されたようです。博士は、いまだ機能を失っていない古代文明の遺物が埋まっているのではないかと仰っていました。」

「古代文明の遺物って……」

「『アーティファクト』と呼ばれる古代導力器のことだね。大半は、塔の頂上の装置みたいに機能が死んでしまっているけど……。まれに、ダルモア市長の家宝のように機能が生きている物もあるみたいだ。」

アーティファクトの意味が余りわかっていないエステルにヨシュアは説明した。

 

「そんなものが王都の地下に……あ、それじゃああの『ゴスペル』ってのは……」

「埋まった遺物の機能を停止させるために使われる……その可能性があるということですね?」

「ええ……ですが、その遺物がどんなもので何のために埋められたものかははっきりしていないのです。ラッセル博士の調査自体も非公式で行われたものですし……大佐がどこで存在を知ったのか、わたくしには不思議でなりません。」

エステルとヨシュアの話に頷いた女王はリシャールがどうやって、機密にしていた情報を知ったのかわからない様子でいた。

 

「そうですか……いずれにせよ、良くない事が起こる可能性がありそうですね。」

「まったく、ちょっと見直したのにロクな事を考えていないわね……みんなに迷惑がかかるんだったら、まさしく遊撃士の出番だわ!何とかして大佐を阻止しないと!」

「ふふ……さすがは、カシウス殿のお子さんたちね。」

「!!!」

「陛下も、父と面識がおありだったんですか?」

女王までカシウスを知っている事にエステルは驚き、ヨシュアは尋ねた。

 

「亡くなった息子や甥の友人でしたし、王国を救った英雄ですからね。軍を辞めて遊撃士になってからも依頼を通じてお世話になりました。」

「そ、そうだったんだ……」

「それは知りませんでした……」

カシウスが亡きリベールの王子や王太子の友人、そして女王自らがカシウスに何度か依頼をしていた事にエステルとヨシュアは驚いた。

 

「ならば、これはわたくしの役目なのかもしれませんね……エステルさん、ヨシュアさん。少々、年寄りの昔話に付き合っていただけませんか?」

「あ……はい、もちろん!」

「拝聴させていただきます。」

二人の返事に頷き、女王は昔話を語り始めた。

 

「10年前の春のことです……エレボニアの帝国の南部で『ある痛ましい事件』が起こりました。いまだ原因が分かっていないため、事件についての説明は省かせてもらいますが……その事件を切っ掛けに、帝国はリベールに宣戦布告をしたのです。後に『百日戦役』と呼ばれる不幸な日々の始まりでした。帝国軍は、宣戦布告と同時に大兵力を持ってハーケン門を突破……リベールは、王都とツァイス地方を除いて瞬く間に占領されました。侵攻してきた兵力は、王国軍のおよそ三倍だったと言われています。カルバードからの援軍も間に合わず……もはやツァイス地方と王都が占領されるのも時間の問題かと思われました。しかし、開戦から2ヶ月後……誰もが予想しなかった形で戦局が大きく変化したのです。当時開発されたばかりの警備飛行艇が各地を結ぶ関所を奪回し、帝国軍の連絡網を断ち切りました。そして、レイストン要塞から王国軍の総兵力が水上艇で出撃し、各地方を奪還していったのです。ルーアン、ボース、ロレント……各地を占領していた帝国軍の師団は補給を断たれ、各個撃破されました。この反攻作戦を立案した人物こそカシウス・ブライト大佐―――モルガン将軍の右腕であり、リシャール大佐の上官だったあなたたちのお父様だったのです。その後、遊撃士協会と七耀教会の仲裁、そしてエレボニアが自国の領を次々と制圧し、派遣した軍をことごとく全滅に追いやった猟兵団『西風の旅団』と『翡翠の刃』の強さに恐れ、彼らとの仲裁を求めた事もあってようやく戦争は終結を迎えました。しかしこの時、カシウス殿は大切なものを失う所だったのです。それはレナ・ブライトさん……エステルさんのお母様、そしてエステルさん……あなた自身だったのです。あの時計塔は、反攻作戦によって追い詰められた帝国軍師団の悪あがきによって破壊されたのです。後はあなたも知っている通り、レナさんが死ぬ寸前であった所をアスベルさん達がたまたま通りがかって、レナさんの命を助け、猟兵団『翡翠の刃』とアスベルさん、シルフィアさん、マリクさんが市内のエレボニア軍を殲滅、そしてロレント市民の保護をしてくれたのです。」

「……そんな…………そんな事情だったなんて……」

女王の話を聞いたエステルは信じられない思いでいた。

 

「……自分が立てた作戦が結果的に家族を死なせる所だった。その自責の念から、カシウス殿は軍を辞めて遊撃士の道に入りました。アスベルさん達によって運良く生き延びたあなた達、家族の側にいるために……そして今度こそ、自分の手で愛する人々を守れるように……」

「バカよ、父さん……父さんのせいであたしとお母さんが死ぬ所だったなんて……そんな事あるわけないのに……」

「エステル……」

女王の話を聞き終えたエステルは辛そうな表情で呟き、ヨシュアはエステルの様子を辛そうに見ていた。

 

「ええ、そうですとも……全ては、大切な民を守れなかったこの力なき女王の責任なのです。ごめんなさい、エステルさん。あなた達を守ることができなくて……そのことを、ずっと謝りたいと思っていました。」

エステルの言葉に頷いたアリシアは辛そうな表情で謝った。

 

「あ、謝る必要なんてありません!女王様は、戻ってきた平和をずっと守ってくださった……父さんたちは必死になってこの国を守ってくれた……確かにお母さんは死ぬ所だったけど、アスベル達のお陰で今でも元気にしています!」

「エステルさん……ありがとう、優しい子ね。あなたに会うことが出来て……本当に良かった……今、心からそう思えます。」

「女王様……」

女王の言葉にエステルは照れた。

 

「でも、だからこそ……だからこそ、あなたには危険な事をして欲しくはありません。これ以上、今回の事件に関わりを持って欲しくはないのです。」

「え……!で、でもあたしたち、クローゼやシオン、それにユリアさんに女王様の助けになるように頼まれて……」

女王の申し出にエステルは驚いた。

 

「ありがとう。その心だけ頂いておきますね。カシウス殿の留守中にあなたに万が一のことがあったら今度は何とお詫びしていいのか……どうか、ロレントのお家に帰ってお父様の帰りを待っていてください。」

「で、でもっ……!」

女王の言葉にエステルが何か言おうとした所、ヨシュアが尋ねた。

 

「ですが、女王陛下……父カシウスが取り戻し、陛下が守り続けた平和が今まさに揺らごうとしています。」

「ヨシュア殿……」

「『ゴスペル』の件もそうですが……このまま大佐の狙い通り公爵閣下が国王となった場合、その平和はどうなるんでしょうか。その事を考えて頂きたいんです。」

「…………」

ヨシュアの話を聞き、女王は辛そうな表情で考え込んだ。

 

「あ、あの、女王様……あたし達、遊撃士になって父さんの代理で仕事をしました。それから、空賊事件に関わって手紙が届いて、変な小包を開けて、そのまま各地を旅してきて……まるで、父さんに背中を押されてここまで来たような気がするんです。だから……あたしも守りたい。平和に暮らせる幸せな毎日を。今まで知り合ったあたしの大好きな人たちを。女王様や、父さん達みたいに、そしてお母さんの命を救ってくれたアスベル達みたいに、あたしなりの方法で守りたいんです!」

「エステルさん………本当に、あの子の言う通りだったわね。」

「えっ……」

エステルの力強い言葉を聞き、女王が呟いた事にエステルは首を傾げた。

 

「私(わたくし)も覚悟を決めました。エステルさんたちを通じて遊撃士協会に、あることを依頼させてもらおうと思います。」

「女王様……!」

「陛下……何なりと仰ってください。」

女王が依頼を申し出た事に希望を持った二人は明るい表情をした。

 

「依頼内容は、人質にされている方々の救出……にしても、先程出てきた『クローゼ』と『シオン』の名前…クローディアやシュトレオンが貴方方と共に行動していたとは驚きでした。」

「あはは、二人とは成り行きでしたけれど……ひょっとして、クローディアを次期の国王に?」

「ええ……思えば、今回のクーデターは私があの子を次期国王として推そうとした事から始まりました。」

「デュナン公爵ではなく、ですね。」

驚きを隠せない様子の女王の言葉にエステルは苦笑し、溜息を吐いて発せられた女王の言葉に、ヨシュアは真剣な表情で確認した。

 

「ええ、こういっては何ですが、我が甥ながらデュナン公爵は色々と問題の多い人物でした………そんな人物が王となった時、果たして未来はあるのか不安でなりませんでした。対して未熟ではありますが孫娘には光るものがありました。それ以上の才能を持つシュトレオンを推すことも考えたのですが、それを固辞したシュトレオンの推薦もあって、王国の未来を考えた結果……私はクローディアを推そうと心に決めたのです。」

「えっと……それって、どう考えても正しい判断だと思いますよ。(品格で言えば、クローゼとシオン、公爵さんじゃあ天(クローゼ、シオン)と地(デュナン)の差があるもの……)」

エステルはクローゼやシオン、それとデュナンの今までの行動や言動を思い出して、それを比較して言った。

 

「ですが、いつの世にも女性が権力を持つことに反対する動きはあるものです。ましてや、大国から侵略を受けた記憶もまだ新しい現在……二代続けての女王による統治が結果的に国を弱くしてしまう。そう考える人物が現れたとしても何ら不思議ではなかったのです。」

「なるほど……それがリシャール大佐ですか。」

女王の話を聞き、納得したヨシュアは確認した。

 

「その通りです。彼は、私がクローディアを次期国王に推そうとしていることをいつのまにか掴んでいました。そして、その事実を公爵に伝えて今回のクーデターを決行したのです。全ては公爵を陰から操り、リベールを今以上の……周辺の大国に劣らぬ強大な軍事国家にするために……」

「なるほど……ようやく事件の全貌が見えてきました。」

「レイア達の言った通りね。」

「そうだね。」

「……あの。今、『レイア』という名が出てきましたが……」

エステルとヨシュアの会話からある人物の名前が出て来た事に女王は驚き、尋ねた。

 

「はい。女王様の推測通り、僕達はレイア達と旅をしています。」

「そうだったのですか………クローディア達は今、王都に?」

「はい。後、アスベルやシルフィアも王都に来ています。アスベルに至っては、グランセル城にいますし。」

「そのお二方まで……」

「女王様?」

「どうかされましたか?」

ヨシュアからレイアに加え、クローディアとシュトレオン、更にはアスベルとシルフィアまで王都にいる事を聞き、女王は考え込んだ。その様子に首を傾げた二人は尋ねた。

 

「いえ………クローディア達が王都にいると知って、大佐が何かしないか、少し恐れているんです………」

「あはは~……それは心配いらないと思います。クローゼは心配だけれどもレイアがいるし、シオンが特務兵ごときに負けるほど、弱くないですし……むしろ、返り討ちにすると思います。」

女王の心配をエステルは苦笑しながら否定した。何せ、今まで刺客を放たれてその悉くを討ち果たしたのだから。

 

「………確かにそうですね。シオンならば、クローディアをしっかり守ってくれることでしょう。レイアさん達は今回の件をどこまで把握しているのですか?」

「あたし達が話した情報全てを知っています……それとシオンは自分達なりに大佐達の狙いを推測していました。」

「……もしよければ、彼らの推測を教えてくれませんか?」

エステルから話を聞き、女王は尋ねた。そしてエステルに代わってヨシュアが答えた。

 

「税率を上げて軍事費を拡大……大量破壊を目的とした導力兵器を開発……大規模な徴兵制を採用……リベールでは認められていない猟兵団との契約を合法化したりする事によってリベールを強大な軍事国家にする事を推測していました。」

「……さすがは聡明な方々ですね……レイアさんやシュトレオンの推測通り、まさに同じようなことを大佐は私に要求しました。それは、純粋な愛国心から来る発言だとは思えたのですが……。私は、どうしてもそれが正しいとは思えなかったのです。国を守っているのは軍事力だけではありません。他国と協調していく外交努力もそうですし……技術交流や、経済交流を通じて諸国全体を豊かにする事だって国を守ることに繋がるはずです。」

「……まさに陛下のおっしゃる通りだと思います。」

「うんうん!お互いが信じ合わなくちゃ!」

女王の考えを聞き、ヨシュアやエステルは賛成するように頷いた。

 

「ですが、大佐はその考えを女々しい理想論と断じました。そして、クローディアの安全と引き換えに退位を要求したのです。クローディアの事を聞いて安堵はしましたが……それでも、多くの者が家族を人質に取られ大佐に逆らえなくされています。ですが、私は女王です。安易に国の未来を売り渡すことはできません。」

女王は辛そうな表情で話し終えた。

 

「女王様……どうか安心してください!」

「依頼の旨、しかと承りました。必ずや、囚われの方々を救出いたします。」

女王を元気づけるためにエステルとヨシュアは力強く依頼を受ける事を言った。

 

「ありがとう……エステルさん、ヨシュア殿。これで、大佐の脅しにも最後まで屈せずにすみそうです。」

「あ、あの!他にも依頼はないんですか?『ゴスペル』の件もあるし……。ここから女王様を逃がすことだって不可能じゃないと思うんです!」

「ありがとう、エステルさん。ですが、私が逃げたところで事態が変わるわけではありません。それと、『ゴスペル』に関しては幾つか気になることがあるのです。私から、大佐に真意を問いただしてみようと思います。」

こうしてエステル達は女王との会談を終えた……………その時だった。

 

「おや、ここには三人だけか。」

「って、エステルにヨシュア、それに女王陛下。公爵のお話とはうって変わっての壮健ぶり……お元気そうで何よりです。」

扉が開かれ、現れたのは武器を持った二人の男性。その二人に見覚えのあるエステル、ヨシュア、女王は驚きの声を上げた。

 

「えっ……」

「貴方方は……」

「アスベルにヴィクター!?」

アスベル・フォストレイトとヴィクター・S・アルゼイド……武闘大会で死闘を演じた二人の姿がそこにいた。

 

 




次から、少しオリジナル展開ありです。

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