エステル達は宝物庫の奥にたどり着くと、最近建造されたと思しきエレベーターらしきものを見つける。そこで合流したユリア、アガット、ティータ、ラッセル博士。そこで情報部の連中が城に近づいていることを知り、アリシア女王とユリア、シオンがそれらの対処をするためにその場を離れた。
ラッセル博士の働きによってエレベーターが動くようになり、エステルらは遺跡――『封印区画』にたどり着いた。先行組としてエステル、ヨシュア、シェラザード、ティータ、そしてレイアの五人が行くことになり……途中で現れたカノーネや、出現した兵器らに少し手こずったが、何とか打ち倒して最深部へとたどり着いた。
~封印区画・最下層・最深部~
エステル達が踏み込んだ曰くありげな柱が4本立っている大部屋に、ツァイスでエステル達が博士に渡した『ゴスペル』を置いて何かの装置を起動させている、今までの事件の黒幕―――リシャール大佐がいた。
「やはり来たか。何となく君達が来るのではないかと思ったよ。それにしても、まさか貴女が彼女達に協力するとは思いませんでしたよ、レイア殿。」
何かの装置を操作していたリシャールは操作をやめ振り返り、落ち着いた表情でエステル達を見た後、レイアを見た。
「……同じ王国軍の軍人が手を貸している……貴方にとっては都合が悪い事でしょうね。」
「……貴女は国の、女王陛下の考えを否定するつもりですか?」
口元に笑みを浮かべているレイアにリシャールは問いかけた。
「女王様の理想論を否定したのはそちらでしょうが……それに、あなたの部下が王子殿下と姫殿下に手を出そうとした事、知っているの?」
「なっ!?(王子殿下には手を出さない様厳命していたはずだ……)」
レイアの言葉にリシャールは驚いた。
「姫殿下はともかくとして、王子殿下まで欲張った……まぁ、最も……そんな事をしようとした『馬鹿達』はこの世にはもう存在していないから、問い詰める事はできないけれどね。」
「………」
レイアの言葉を聞いたリシャールは自分の命令を聞かずに勝手に動いた部下達の死を悟り、愕然とした。
「リシャール大佐……あたしたち、女王様に頼まれてあなたの計画を止めに来たわ。」
「まだ『ゴスペル』は稼働させていないみたいですね。今なら……まだ間に合います。」
エステルやヨシュアはリシャールを説得しようとしたがリシャールは気を取り直して、首を横に振って否定した。
「間に合う、か……ふふ、カシウスさんの子どもたちのお願いと言えども、それはできんよ。」
「な、なんでよ!?そもそも『輝く環(オーリオール)』って何!?そんなもの手に入れてどうしようっていうのよ!?」
「かつて、古代人は天より授かった『七の至宝(セプト=テリオン)』の力を借りて……海と大地と天空……自然のありとあらゆる要素を支配したという。その至宝のひとつが『輝く環』だ。もし、それが本当に実在していたのだとしたら……国家にとって、それがどういう意味を持つか君たちに分かるかね?」
「こ、国家にとって……」
輝かしい未来を見ているように見えるリシャールがエステル達に向かって放った言葉はエステルは何のことだかサッパリわからなかった。
「周辺諸国……この国で言えば、とりわけ強大な力を持ちうるエレボニア帝国やカルバード共和国に対抗する強力な武器を手に入れる……つまり、そういう事かしら。」
意味がわかったシェラザードは目を細めて尋ねた。
「その通り……知っての通り、このリベールは周辺諸国に国力で劣っている。人口はカルバードの五分の一程度。兵力に至っては、エレボニアのわずか八分の一にしかすぎない。唯一誇れる技術力の優位はいつまでも保てるわけではないし、彼らがこの国を攻めないという保障などない……二度と侵略を受けないためにも我々には決定的な力が必要なのだよ。」
リシャールはエステルらに目を向けた後、言った。人的資源と物的資源……戦いを制する上で重要なファクターになりうるものだ。それを覆すためには、何らかの助けがなければならない……『七の至宝』はそれを覆しうるだけの要素を秘めている。
「だ、だからといってそんな古代の代物をアテにしなくてもいいじゃないの!十年前の戦争……百日戦役の時だって、何とかなったんでしょう!?」
「あの侵略を撃退できたのはカシウス・ブライトがいたからだ。だが、彼は軍を辞めた。国を守る英雄は去ったのだ。そして、奇跡というものは女神と彼女に愛された英雄にしか起こすことはできない。」
「………」
リシャールの言葉を聞いたエステルは黙って何も言わなかった。
「だから私は、情報部を作った。諜報戦で他国に一歩先んじることもそうだが……あらゆる情報網を駆使してリベールに決定的な力を与えられるものを探したのだよ。リベールが苦境に陥った時に再び奇跡を起こせるようにね。」
「それって……奇跡なのかな?」
「なに……?」
エステルの不意に呟いた言葉にリシャールは訳がわからず聞き返した。
「えっと、あたし達は遊撃士でみんなの大切なものを守るのがお仕事だけど……でも、守るといってもただ一方的に守るだけじゃない。どちらかというと、みんなの守りたいという気持ちを一緒に支えてあげるという感じなの。」
「それが……どうしたのかね?」
リシャールはエステルが何が言いたいのかわからず先を促した。
「父さんだって、別に1人で帝国軍をやっつけたわけじゃない。いくら父さんが凄かったとしても、1人で出来ることには限界があるもの。きっと……ううん、間違いなく色々な人と助け合いながら必死に国を守ろうとしたんでしょ?みんながお互いを支え合ったから結果的に、戦争は終わってくれた。大佐だってその1人だったのよね?今、あたしたちがここにいる事だって同じだと思う。大佐の陰謀を知った時はかなり途方に暮れちゃったけど……それでも、色々な人に助けられながらここまで辿り着くことができたわ。それだって、奇跡だと思わない?」
「………」
リシャールはエステルの言葉に何も言い返せず驚いた表情で黙ってエステルを見続けた。
「でも、それは奇跡でも何でもなくて……あたしたちが普通に持っている可能性なんじゃないかって思うの。もし、これから先、戦争みたいなことが起こっても……みんながお互いに支え合えれば何でも切り抜けられる気がする。わけの分からない古代の力よりそっちの方が確実よ、絶対に!」
過去の“奇跡”に縋り付く……傍から見れば、情けない話である。大切なのは今自分たちがどうあるべきか……エステルは太陽のような明るい笑顔で未来を語り、リシャールのしようとしたことを否定した。
「エステル………」
「ふふ、さすが先生の娘ね。」
「エステルお姉ちゃん………」
「流石、エステルだね。」
ヨシュアは的を得た答えを言うエステルに感心した目で見つめ、シェラザードは口元に笑みを浮かべ、ティータは尊敬の眼差しでエステルをみて、レイアは優しい微笑みを浮かべてエステルを見つめた。
「……強いな、君は。だが皆が皆、君のように強くなれるわけではないのだよ。目の前にある強大な力……その誘惑に抗(あらが)うことは難しい。そして私は、この時にために今まで周到に準備を進めてきた。この準備のために犠牲者も出た。私のせいで犠牲になった彼らのために報いるためにも今更、どうして引き返せようか。」
一方エステルの言葉を聞き終えたリシャールは皮肉げに笑った。
「…………一つ、教えてください。どうして大佐は……この場所を知っていたのですか?」
「なに……?」
「女王陛下すら存在を知らなかった禁断の力が眠っている古代遺跡……ましてや、宝物庫から真下にエレベーターを建造すればその最上層にたどり着けるなんて……あなたの情報網を駆使したって知りえるとは思えないんです。この国のトップですら知らなかったことを……」
「それは……」
国のトップであるアリシア女王ですらその存在すら知らないものを、彼が知っているという矛盾……そして、その遺跡にたどり着くための手段。この二つのことを一介の軍人であるはずのリシャールが知り得たとは到底思えない……ヨシュアの言葉にリシャールはどう返すかわからず口ごもった。
「そして、その『ゴスペル』……ツァイスの中央工房をもしのぐ技術力で作られた謎の導力器。あなたは、それを一体何処で手に入れたんですか?」
「……答える義務はないな。」
リシャールはヨシュアの言葉に目を閉じ何も答えなかった。
「違う……!あなたは、僕の質問に答えないんじゃない……『答えることができない』んだ!」
「!!!」
「ど、どういうこと……?」
ヨシュアの叫びにリシャールは表情を歪め、ヨシュアとリシャールのやり取りを聞いて、様子がおかしいと思ったエステルはヨシュアが何が言いたいのかわからず呟いた。
「ただあなたは、この場所に『輝く環』という強大な遺物が眠っていると確信していた。そして、『ゴスペル』を使えば手に入ると思い込んでいたんだ。だけど、そう考えるようになったきっかけがどうしても思い出せない。そうなんでしょう!?」
「………」
ヨシュアの言葉がリシャールにとって図星であるかのように、リシャールは表情を歪めたまま何も語らずヨシュアを睨みつけた。
「そ、それって……」
「空賊の頭みたいに操られている可能性があるってことか………」
エステルは信じられない表情で思い当たる事を言いかけ、シェラザードが続けた。
「それがどうしたというのだ!強大な力の実在はこの地下遺跡が証明している!人形兵器(オーバーマペット)にしても現代の技術では製作不可能だ!ならば私は……私が選んだ道を征くだけだ!」
「あ……!」
エステル達に何も言い返せずリシャールはやけになり、人形兵器を呼んだ。そして呼ばれた人形兵器が上から降ってくると同時に『ゴスペル』が妖しく光り出し、いち早く気付いたエステルは驚いて声を出した。
「君たちの言葉が真実ならば私を退けてみるがいい……それが叶わないのであれば所詮は、青臭い理想にすぎん。」
リシャールは腰に差している東方の国、カルバードでは”刀”といわれる特殊な形状をした剣の柄に手を置いて、戦闘態勢に入った。
「とくと見せてやろう!『剣聖』より受け継ぎし技を!」
「言ってくれるじゃない!」
「だったらこちらも遠慮なく行かせてもらいます!」
「行くわよ!」
「い、行きます!」
「悪いけど勝たせてもらうよ!!」
ついにエステル達とリシャールのそれぞれの意地をかけた最終決戦が始まった………!