英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第70話 去りゆく月(FC編終了)

~王都グランセル 東街区:夕方~

 

一方エステルはヨシュアの後ろ姿を見て走って、ヨシュアの近くに着いた後声をかけた。

 

「ごめん、遅くなっちゃって!ものすごく混んでてさ~。ようやくゲットできたのよ。」

「そっか、ご苦労さま。ありがたくご馳走になるよ。」

「……うん……えっと、さっきの事だけど……」

「ああ、さっきはゴメン。紛らわしい言い方しちゃって。確かにあれじゃあ出来の悪い告白みたいだよね。」

「え……うん……出来が悪いってことはないけど……」

ヨシュアの軽い謝罪にエステルはどもりながら答えた。

 

「まあ、考えてみればそう結論を急ぐこともないよね。正遊撃士になったからといって別の仕事についてもいいわけだし。ここはお互い、将来についてじっくり考えるべきかもしれないな。」

「た、確かに……。(結婚なんかしちゃったら子育てなんかもしなくちゃいけないし……。……だから!先走りすぎだっての、あたし!)」

ヨシュアの『将来』という言葉に反応したエステルは色々想像してしまい、心の中で想像してしまった自分を突っ込んだ。

 

「さてと、そろそろレイア達が乗る飛行船の時間だし、食べながら空港に行こうか。」

「………ヨシュア?」

「どうしたの、エステル。将来についての相談があるとか?」

「ち、違うってば!さっさと空港に行きましょ!」

笑顔で空港へ行く事を提案したヨシュアの雰囲気に違和感を感じたエステルは真剣な表情で呟いたが、ヨシュアの言葉に気が散ってしまい、ヨシュアに雰囲気がおかしいことを尋ねるのを忘れいっしょに空港へ向かった。レイア達を見送った後、エステル達は城に向かった。

 

 

~グランセル城客室 女性部屋~

 

「うーん……」

夕食後、エステルは部屋の中を何度もうろうろした。

 

「何よ、エステル。さっきからそわそわして。なにか気になることでもあるの?」

シェラザードはエステルのおかしな態度を見て尋ねた。

 

「う、うん……ねえ、シェラ姉……食事の時……ヨシュア、変じゃなかった?」

シェラザードの疑問にエステルは真剣な表情で聞き返した。

 

「???変なのはあんたの方でしょ。あの子はいつも通り落ち着いてたじゃないの。」

「それはそうなんだけど……」

言葉を返されたエステルは何かが脳裏の奥に引っ掛かってなんともいえない表情になった。

 

「ハッハーン。そっか、そういうことか。」

「な、なによいきなり……」

「隠さない、隠さない♪そんな雰囲気はしたけど、やっぱり自覚しちゃったわけね。ヨシュアのこと……好きになっちゃったんでしょ?」

「……うっ………や、やっぱり分かっちゃう?」

シェラザードの言葉に顔を赤くしたエステルは聞き返した。

 

「悪いけど、丸わかりよ。でも、その様子じゃ、ヨシュアにはちゃんと伝わっていないみたいね。」

「うん……そうだと思う……ヨシュアって、こういうこと昔からニブいところあったし……ってあたしも人のこと言えないか。」

「ああもう、初々しいわねぇ。あの花よりダンゴだったエステルがよくぞここまで。おねーさん、感激しちゃうわ!」

恋のカケラも感じさせなかった妹分の初恋にシェラザードは喜び、茶化した。

 

「……もうシェラ姉には金輪際相談しない……」

茶化されたエステルはジト目でシェラザードを見て呟いた。その呟きを聞いてシェラザードは謝った後、真剣にエステルの相談に乗った。

 

「ウソウソ。からかって悪かったわ。でも、そうね……。考えてみれば、あんたたちは思春期に入る前に出会ったのよね。なかなか、お互いの気持ちに気付かないのは仕方ないか……」

「そ、そういうものなのかな……。あたしは、旅をしてる最中にちょっとしたきっかけで意識して……い、いちど、気になりだしたらどんどん意識するようになって。ああもう、こんなのあたしのキャラじゃないのに~!」

「ふふ……咲かない蕾はないってね。女の子はみんなそういうものよ。」

「シェラ姉……」

自分の悩みに真剣に考えてくれるシェラザードにエステルは感激した。

 

「あまり軽率なことは言うつもりはないんだけど……覚悟が決まってるなら打ち明けた方がいいんじゃない?踏ん切りがつかないのならちょっと占ってあげよっか?」

「ううん……実はもう、覚悟が決まってるの。話を聞いてもらう約束もしたし。」

不安を取り除くためにシェラザードは占いの提案をしたがエステルは首を横にふって断った。

 

「そっか……よし、それでこそあたしの妹分!ああもう!おねーさん、泣けてくるわっ!」

「それはもうええっちゅーねん。でも、ありがと、シェラ姉。なんだか少し勇気が出てきたわ。あたし、ちょっとヨシュアのところに行ってくるね。」

またもや自分を茶化したシェラザードに突っ込んだエステルはヨシュアのところに行くことを言った後、シェラザードに励ましの言葉を受け部屋を飛び出した。

 

「……初恋かぁ……うまく行くといいんだけどね………」

エステルが部屋を飛び出すのを見送った後、シェラザードは一枚のタロットカードを見て、複雑そうな表情で呟いた。

 

 

~グランセル城・空中庭園~

 

ヨシュアを探す途中で聞こえてきた音……ハーモニカの音を頼りにヨシュアを探していたエステルは空中庭園の一角で、ハーモニカでいつもの曲――『星の在り処』を吹いているヨシュアを見つけた。

 

「……やあ、エステル。いい夜だね。」

「うん……また、その曲なんだ。『星の在り処』」

「色々なものを失くしたけど……この曲と、このハーモニカはいつも僕のそばにいてくれた。だから、『吹き収め』にと思ってね。」

「え……」

エステルはヨシュアの言葉に驚いた。

 

「約束、果たさせてくれるかな。君に会うまでに僕が何をしてきたのか……それを、今から話したいんだ。」

「ヨシュア……うん、わかった」

ついに今まで話さなかったヨシュアの過去の話を聞くことに、エステルは決意の表情で頷いた。

 

「少し長い話になるけど、それでも……構わないかな?」

「もちろん……キッチリ最後まで聞かせてもらうわ。」

エステルはヨシュアが話すどんな過去でも受け止めることがわかるように笑顔で深く頷いた。

 

「ありがとう………」

いつもの太陽のような笑顔のエステルを見てヨシュアは笑顔になった後、エステルに背を向け手すりにもたれかかるようにして自分の過去を話し始めた。

 

 

―――『村』で幸せに暮らしていた幼き頃の自分

 

 

―――その後の襲撃によって生きる気力を失くしただハーモニカを吹き続けた自分

 

 

―――『魔法使い』によって、戦う人形にされてしまった自分

 

 

―――そして、その彼から言われた『カシウス』の抹殺。だが、失敗して逆に助けられた自分

 

 

―――……さらには、その彼の家族として暮らすことになった自分

 

 

―――だが、彼は彼らを裏切り続けていたことも……

 

 

「これで……この話はおしまいだ。ありがとう、最後まで耳を塞がずに聞いてくれて。」

「………えっと……それって、どこまで本当なの?」

ヨシュアの壮絶な過去を聞いたエステルは御伽話を聞いたような気分になり、どこまでが真実か聞き返した。

 

「全部―――本当のことだよ。僕の心が壊れているのも。僕の手が血塗られているのも。君の父さんを暗殺しようとして失敗したのも。そして……今までずっと君たちを裏切り続けていたことも。」

「!?」

ヨシュアの過去が全て真実で、さらに今まで自分達を裏切り続けていたという告白を聞いたエステルは信じられない表情になった。

 

「男の子は本当の意味で救いようがない存在だった。そこにいるだけで不幸と災厄をもたらすような……。そんな、穢(けが)れた存在だったんだ。」

「……」

エステルは何を言えばいいかわからず、沈黙し続けた。

 

「だから……男の子は旅立つことにした。幸せな夢を見せてくれた人たちをこれ以上、巻き込まないために。自分という存在を造った悪い魔法使いを止めるために。」

「え……?」

ハーモニカを渡されたエステルはヨシュアの行動が理解できなかった。

 

「それは、僕が人間らしい心を最後に持っていた時のものだ。もう必要ないものだから……だから、君に受け取ってほしい。この五年間のお礼にはとてもならないだろうけど……何も無いよりはマシだと思うんだ。」

「…………かげんにしなさいよ」

エステルはヨシュアを睨みつけた後、顔を下に向け小さな声で呟き始めた。

 

「え……?」

「いい加減にしなさいっての!」

エステルは下に向けた顔をあげると、ヨシュアに近付き怒鳴った。

 

「夢なんて言わないでよ……っ!まるで……今までのことが本当じゃなかったみたいじゃない!過去がなんだっていうの!?心が壊れてる!?それがどーしたっていうのよ!?」

「エステル……」

「あたしを見て!あたしの目を見てよ!ずっと……その男の子を見てきたわ!良い所も悪い所も知ってる!男の子が、何かに苦しみながら必死に頑張ってたってことも知ってる!そんなヨシュアのことをあたしは好きになったんだから!」

「!!!」

エステルの告白にヨシュアは目を見開いて驚いた。

 

「一人で行くなんてダメだからね!あたしを、あたしの気持ちを置き去りにして消えちゃうなんて!そんなの、絶対に許さないんだからあっ!………うっ………うう………」

「……エステル………」

「え……?」

そしてヨシュアはエステルに口づけをした。

 

「……あ………(……ヨシュア……)」

待ち望んでいた初恋の少年との口づけにエステルはされるがままになっていたが、口に違和感を感じヨシュアから離れた。

 

「なに今の……!口の中に流れて……」

「……即効性のある睡眠誘導剤だよ。副作用はないから安心して。」

「あ……」

眠気が突如エステルを襲い、眠気に耐えられなくなったエステルは地面に崩れ落ちるように膝をついた。

 

「ど……どうして……?……何でそんなものを……!」

自分に睡眠薬を飲ませたヨシュアをエステルは信じられない表情でヨシュアを見た。

 

「僕のエステル……お日様みたいに眩しかった君。君と一緒にいて幸せだったけど、同時に、とても苦しかった……。明るい光が濃い影を作るように……。君と一緒にいればいるほど僕は、自分の忌まわしい本性を思い知らされるようになったから……。だから、出会わなければよかったと思ったこともあった。」

「……そんな……」

ヨシュアの言葉に強力な眠気で虚ろな瞳になりつつあるエステルは悲痛な声をあげた。

 

「でも、今は違う。君に出会えたことに感謝している。こんな風に、大切な女の子から逃げ出す事しかできないけど僕だけど……。誰よりも君のことを想っている。」

「……ヨシュア……ヨシュア……」

エステルは眠気が襲ってくる中、ヨシュアを引き留めるために何度もヨシュアを呼び続けたが。

 

 

「今まで、本当にありがとう。出会った時から……君のことが大好きだったよ。―――さよなら、エステル。」

 

 

ヨシュアの決別の言葉を聞くと同時にエステルは眠りに落ちてしまった…………

 

 

「…………………」

睡眠薬を口に入れ、倒れたエステルをベッドに運ぶためにヨシュアはエステルに近付いたその時、鋭い剣筋が彼を襲った。

 

「!!」

攻撃に気付いたヨシュアは素早い動きで回避した。そしてヨシュアが攻撃が来た場所を見ると、そこにはエステルを護るように小太刀を構えたアスベルが立ちはだかってヨシュアを睨んでいた。

 

「アスベル……」

「ちと嫌な感じがしたんで来てみれば……どういうつもりだ?どんなヨシュアでも受け入れる……そのエステルの想いすら無に帰すつもりか?」

「……僕は、人間じゃないから。“化物”なのだから。」

(この感じ……どうやら、“漆黒の牙”としての記憶を取り戻したみたいだな……となると、“白面”もいるということになるな。)

アスベルの問いにそうヨシュアは答えた。だが、アスベルはより一層怒気を含ませた。

 

「……人からよく『鈍い』と言われる俺が言えた義理じゃないが、ふざけるのも大概にした方が身のためだぞ。」

「!?(こ、これが……アスベル・フォストレイトという存在……なんて覇気なんだ……!)」

「………俺にしてみれば、お前も家族のようなものだ。だから…剣を抜け。」

ヨシュアの気持ちはわからなくもない。大切なものを失くすのが怖いから遠ざける……だが、それ以上に俺が許せないのは……俺にとって『妹』同然のエステルの気持ちを、目の前にいる『弟』が受取ろうとしなかったことだ。俺は、もう一本の小太刀を抜き、二刀流の構えを取る。

 

「二刀流……それで、僕に勝てるとでも?」

ヨシュアも武器を抜いて構えた。彼の挑発的な物言い……『隠密』を得意とし、そのトップスピードは括目すべきものだ。だが………

 

「……一つ教えてやる。俺が普段一刀流しか使わないのは、『表』故だ。」

そう言って、歩法『神速』を使い、一瞬でヨシュアに迫る。

 

「!!」

その速さにヨシュアは飛び退き、すかさず距離を取る。

 

「……そういえば、そうだったね。星杯騎士団『守護騎士(ドミニオン)』第三位“京紫の瞬光”……アスベル・フォストレイト。」

「それすらも思い出したか……だったら、とっておきの“餞別”をくれてやる……滅多に見せない、俺の本気をな。」

だったら話は早い……ヨシュアに俺なりの“説教”をくれてやろう。そう思ったアスベルは『天帝』の状態のオーラを発現し、クラフトを放つ!

 

 

――御神流奥義之三『射抜』

 

 

「!?………(な、何だ、今の技は……見えなかった。)」

計り知れないほどの威圧、底知れぬ恐怖……そして、瞬きなどしていないのにその剣筋は……『見えなかった』のだ。そして、ヨシュアの横を掠めるかのように通り過ぎた剣圧……その余波で、ヨシュアの頬に血が出ない程度の……微かな切り傷ができた。

 

「………」

オリジナルの“射抜”は突きによって刀を飛ばす技……だが、武器を手放す行為は自殺行為に等しい……そこで、改良した“射抜”は闘気による刃を繰り出す技として進化させた……その技を見せると、アスベルは刀を収め、エステルを抱きかかえた。

 

「ヨシュア、エステルはきっとお前を追いかけてくる。そして、お前よりも強くなる。」

「……」

「猶予を与えてやる。お前が築いてきた“絆”を見直す機会を……ただ、もし戻ってきたら最大級の『罰』を与えてやるから、覚悟しておけ。」

そう言い放つと、アスベルはエステルを抱えたまま庭園を後にした。

 

「…………」

何も言い返せなかったヨシュア……彼は、少ししてからその場を後にした。

 

 

~グランセル城内・廊下~

 

「ん……?」

神妙な顔で廊下を歩いていたカシウスはエステルを抱えていたアスベルに気付いた。

 

「アスベルか。わざわざ運んでくれてすまなかったな。」

「いえ……お願いします。」

カシウスの労いの言葉を黙って頷き、受け取るよう促した。

 

「……よっと。」

アスベルの意図を理解したカシウスはエステルを抱き上げた。それを確認すると、アスベルは踵を返した。

 

「アスベル。お前はどうするつもりだ?」

「どうするって……俺がやることは一つですよ。カシウスさん」

そう言い残すと、アスベルは静かにその場を去った。カシウスは苦笑しながらエステルを自分が泊まっている客室に運んで行った。そして部屋にある手紙を見つけ、ヨシュアが去った事を察した…………

 

 

 

―――空は蒼く―――

 

 

 

―――全てを呑みこんで―――

 

 

 

―――それでも運命の歯車は止まらない―――

 

 

 

―――愛する少女と決別した少年はハーモニカを愛する少女に託し独り姿を消した―――

 

 

 

―――少女は少年を連れ戻す旅を決意する―――

 

 

 

―――だが、静かに鳴らされた鐘は世界にその刻(とき)が来たことを告げていた―――

 

 

 

―――出会う新たな敵と新たな仲間―――

 

 

 

―――王国は再び試練の嵐を迎える―――

 

 

 

―――そして、その嵐を待ちわびた者が動き、全てを覆すべく行動を開始する―――

 

 

 

ハーモニカに残された小さな思いを追って進む彼らの道が、新たな“軌跡”を描き出す………!

 

 

 




次章からいよいよ『本筋』に入ります。ちょくちょく番外編を挟むことがあるかもしれません。

ただ、少々変則的な進め方をしていますので、原作とは違う流れで進めていくことになります。

あと……一方的な蹂躙劇が……多少出てくることになります。

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