英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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FC・SC第五章~乙女の決意~
番外編 導き手たち


~ツァイス郊外~

 

時間は少し遡って……エステルらがグランセル入りした日。

ツァイス郊外にある一軒家……そこで暮らすクラトス・アーヴィング(ガイ・バニングス)は、テーブルの上に置かれた二種類の武器……一本の棒と二本一対の片刃剣を見つめて、首を傾げつつ考え込んでいた。

 

「う~ん……なんつーか、こう……一癖足りねーな。」

クラトスの言葉……それは、これらの武器の特性が今一つであると感じていた。素材としては最高クラスのものを選りすぐって使用していたが……二人と実際に会ってみて、これではあの二人の成長速度に追いつかない……かといって、間に合わせのものとして渡すのは個人的にプライドが許さない。

 

 

クラトスがこれらの武器を作るきっかけ……それは、ある人物からの依頼だった。

 

『いずれ正遊撃士になるであろう二人の人物のために、武器を作ってほしい。』

 

アルテリア法王ファーレンハイト・C・マーレンヴェルクからの依頼……『依頼料は完成時にそちらの言い値で払う』……金額に糸目はつけないというその依頼にクラトスは疑問と怪しさを感じたが、その武器を渡す相手の事――エステル・ブライトとヨシュア・ブライト……“剣聖”カシウス・ブライトの子供たち。知り合いの子に渡す物だと知り、クラトスは快くその依頼を引き受けたのだ。

 

 

ここで考えていても埒が明かない……そう思ったクラトスは、必要最低限の準備と戸締りをして家を後にした。そして、彼が向かった先は……

 

 

~紅蓮の塔~

 

「前は兵士がいたから碌に調査もできなかったが……ま、素材の一つでも見つかれば儲けものかな。」

 

以前入った時は、親衛隊らしき人達……正確には、王室親衛隊に変装していた情報部の特務兵なのだが、そのせいで調査どころではなくなった。自分一人でも蹴散らせないことは無かったが、下手に武術の腕を知られて噂になるのはまずい……なので、遊撃士協会にお願いした。

 

そして、クラトスが調査を始めようとしたところ、不思議な感覚が彼の中を過ぎる。

 

 

―――………ミツケテ

 

 

「!………これは、こんなところに階段?(ちょっと待て……さっきまでこんなところに階段なんてなかったぞ?)」

声が聞こえたと同時に、クラトスの眼前の壁に現れた入り口。みるからに、地下へつながる階段……傍から見れば、誘い込む罠のようにしか思えないほど……だが、罠と思えるような感じには聞こえなかった。むしろ、何かを待ち望んでいたかのように聞こえた。それと、クラトス自身が今まで培ってきた“勘”が、罠の可能性はものすごく低いと言っているような気がした……

 

「……」

だが、罠という可能性が完全に拭えた訳ではない……クラトスは明かりを持ち、慎重に足を進める。

 

その先はあっさりしたものであった。

罠もない一本道……この光景に、クラトスはかつて『とある場所』らで感じたものと同一の感覚が思い起こされていた。

 

(正しければ、そろそろ……お、どうやら終点のようだな。)

大分下りた場所……地下深くまで下りたクラトスを待ち受けていたのは、一つの大きな部屋――部屋というよりは広間であるが……その中央に浮かぶ三本の剣。

 

太陽の如き輝きを放つ黄金の両刃剣、冷気を感じるほどの力を秘めた空色の片刃剣、先端が欠けているがその力は先に述べた二つの剣と変わらないほどの力を秘めている銀の片刃剣。

 

「………すげえな、おい。」

それらを目の当たりにしたクラトスとは驚きを隠せなかった。とてもではないが、まるでこの世に存在するとは思えないほどの力を秘めうる代物だと彼の中の直感がそう告げていた。そして、彼が今まで足を運んだ場所……琥珀の塔、翡翠の塔、紺青の塔で彼が回収した物と同質のものであることも、そう結論付けるまでの時間はかからなかった。

 

(けど、俺やロイド……うちの家系はあくまでも普通の家だぞ……アリオスやイアン先生との『一件』以来、俺の身に何が起きたんだ?)

だが、納得できかねる部分……そういった聖遺物――アーティファクトとは関わりのない人生をなまじ送ってきたがため、こういった出来事には耐性が無い。普通の人からすればそれがこの世界における『普通』なのだが、ある意味『死にかけた一件』からクラトスには何かしら不思議な出来事が起こるようになった……

 

職人の腕前に関してはてんで素人だったはずなのだが、わずか一週間で玄人ひいては達人の域に達していた。これには、技術を教える側の『彼』も大層驚いていた。深く考えるとドツボに嵌まりそうな状態になりかねないため、この件に関しては見て見ぬふりをし続けてきた。

 

「……やっぱり、ここでもか。」

そして、クラトスが剣に触れると、光は収まった。他の二本も同様で、特にクラトスに対しての影響は与えていないようだ。それは、先ほど述べた他の塔での『回収』の際、同じ現象が起きていた。クラトスはそれをしまいこむと、来た道を戻っていった。

 

そして、彼が塔の入り口がある広間に戻ると、先程まであった入り口が消えてなくなっていた。この現象も、他の三つの塔に行った際感じたものだ。

 

(………まったく、人生って奴はよく解らん。)

真実を追い求めてきたクラトス……それに関して『諦めない』ことを貫き通してきた当の本人でも『非常識』の壁は未だ高い……内心ため息をつきつつ、クラトスはその場を後にした。

 

 

回収した三つの剣……それらを含めた“剣”たちは、試練に立ち向かう者たちの力となる『その時』まで静かにその姿を讃えていた。

 

 

 

~クロスベル警察学校~

 

「ガイの奴が死んでもう一年になるか……」

時を同じくして、クロスベル警察学校――クロスベル自治州の西側、クロスベル市とベルガード門の中間に位置する施設の外で一服していたクラトスもといガイの元上司、セルゲイ・ロウがいた。

 

セルゲイ、ガイ、アリオス……この三人の関係は三年前、表通りで起きた導力車の爆発・炎上事故によって変わってしまった……それによってアリオスの妻は行方不明、娘は失明した一件……それが帝国と共和国の暗闘の結果起こった事故であることは調べがついていた。だが、二大国の圧力を受けた上層部はこの事件の調査を打ち切り、『事故』と結論付けて後処理するよう命じた。

 

『何故です!?これ以上の捜査を打ち切れと言うのは!?』

『おい、アリオス……』

『気持ちは解る。だが……上のお偉いさん方がそう言っている以上、俺達が下手に動くわけにもいかない。大方宗主国の御意向って奴なのだろうが。』

これに憤慨したのはアリオス。いや、当然とも言うべき反応だろう……自らの身内の命と娘の光を奪った張本人が今もクロスベルで堂々と歩いている。他の国では許されていないことを許すという『矛盾』がクロスベルにある以上、どうすることもできないのは事実だった。

 

この自治州の歪んだ構造が生み出した産物……外国人に対して厳しい罰則を設けることができない……まともに裁けない犯罪者がいる事実。

 

その三日後、アリオスは署長に辞表を文字通り『叩き付け』て、警察官の職を辞した。その後、ガイは事件解決能力を買われて捜査一課に異動。セルゲイはその有望な才能を上層部が危険視し、同時に逆恨みされて警察学校の教官に左遷させられたのだ。

 

そして……ガイの死は衝撃を与えたとともに、セルゲイの中で一つ疑問が浮かんだ。それは、彼を死に追いやった原因がとてもではないが暗殺と思えないことだった。上層部はそう結論付けて事件を無かったことにしていたが、彼の元上司として言えるのは『アイツ如きがマフィアやルバーチェ相手に下手を打つ様な人間ではない』と。尤も、警察学校の人間という立場上これ以上の推理は推測でしかなく、自分一人でどうにかなる問題でもない。セルゲイには、そのことが歯痒かった。

 

 

「……ん?こんな時間に客人とは珍しいな……」

すると、セルゲイは滅多に訪れない“来客”に気付いた。吸っていた煙草の火を始末し、吸殻を携帯灰皿に入れるとそちらの方に足を運んだ。

 

セルゲイの前に現れたのは一人の男性。黒紫の長髪と瞳……そして、佇まいや歩きの足運びからして並ならぬ実力者……そして、彼の服装は東方のほうでよく着られている装束……少し警戒しつつ近づいてきたセルゲイにその男性は気付き、声をかけた。

 

「失礼、貴方はここの教官の方ですか?」

「ああ、間違いではないが……見たところ、カルバード以東の出身とお見受けするが?」

「そうですね……これが、マクダエル市長の推薦状と、警察署長の辞令です。」

男性はそう言って推薦状と辞令を懐から出し、セルゲイに見せた。それを見たセルゲイは断りを入れてからそれらの書状を読み始めた。

 

「拝見させてもらおう……成程、お前さんも難儀なことだな。お偉いさん方に煙がられてるようで。」

「否定はしませんよ。」

書状を読み上げたセルゲイは『同類』であるその男性を同情の眼差しで見つめ、警察に入れただけでもありがたいという意味も込めて、その男性が答えを返していた。

 

「さて、同僚に対して自己紹介だな。セルゲイ・ロウだ。お前さんとはいい友になれそうだ。それと、言葉遣いはタメ語でいい。歳も近そうだしな。」

「そうか……私はフェイロン・シアン、カルバードの出身だ。よろしく頼む、セルゲイ。」

自己紹介して互いに握手を交わし、細かい話をするために二人は警察学校の中に入った。

 

 

~クロスベル警察学校 会議室~

 

「さて……フェイロン。話に関してはどこまで聞いている?」

真剣な表情でそう切り出したセルゲイ。それは、推薦状の中に入っていた『三つ目の書状』……セルゲイに宛てられたものであり、セルゲイの中で秘めていた『ガイ・バニングスの意志』を体現するための部署の創設。それに関わるものだった。そして、それを持って訪れたフェイロンの存在。流石に無関係とは言えない繋がりに、セルゲイは問いかけた。

 

「大方のところは、と言うべきだな。私もその創設に立ち会わせてもらうつもりだ。そのための人材はダグラスにお願いしている。」

「おや、アイツと知り合いか?」

「ダグラスとは共和国で知り合いになってな。何かと面白い奴だ。」

「アイツを『面白い』と言ったのはお前が初めてだぞ、フェイロン。まぁ、何かと生真面目な奴には違いない。」

ダグラス・ツェランクルド……『迅雷のダグラス』と呼ばれ、戦闘力で言えばクロスベルでも五指に数えるほどの実力者。現在は警察学校の教官として働いている……いわば上層部による『左遷』を受けた一人だ。

 

幸か不幸か警察学校に揃っている『良識ある者』たち……これからやろうとしていることには、これ以上ないほどの適任者が揃っている。恐らく非難轟々と上層部は口煩く言ってくるであろうが、まずはここから始めなければ何も変わらないし、変えられない。

 

「いずれにせよ、心強い味方がまた一人増えたわけか。」

「ええ。“搦め手”の実力、見せていただきますよ。」

「それは昔の話だろう……ま、フェイロンには色々動いてもらうぞ。」

「ああ。ここの生徒たちを立派な御仁に仕上げて見せよう。」

「……程々にな。」

心強い味方ができたと同時に、教える相手がいることにフェイロンが嬉々としている様子に対して冷や汗が流れ、セルゲイは警察学校に通う生徒らの安否を心なしか祈った。

 

その後、フェイロンは護身術や実践格闘技、武芸などの実践科目をダグラスと共に生徒らに叩き込み、講義の終わりに辛うじて立っているのが数人ほどしかいない有り様……スパルタぶりを発揮していた。座学では警察の規則のみならずクロスベルの地勢や歴史・自治州法といった地歴公民部分を担当することとなり的確かつ解りやすい講義を行い、そして生徒らとの交流や必要に応じてのカウンセリングなどを行い心のケアを欠かさない……まるで厳しくも優しい父親のような存在という意味を込めて『尊敬の父』という異名で呼ばれることとなった。その異名に対してどこか悲しげな笑みを浮かべたフェイロンだったが、その笑みの意味を知るものは本人以外いなかった。

 

 




ふと書きたくなった第一弾。ここで出てきたフェイロンですが……れっきとした原作キャラをイメージして書いています。なので、原作キャラの偽名版です。誰なのかはネタバレになりますので伏せておきます。

あと、クラトスが持ち帰ったものですが、イメージがある意味バレバレですw

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