人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
佐倉牧師の家族達と過ごす穏やかな日々が続いていく。
風見野市に現れる魔女と戦う日々も同時に続いていくだろう。
日常と戦いを抱える日々であったが尚紀はそれを受け入れて毎日を送っている。
就寝時間となり、いつものようにベットの上で背中を壁に預けて休んでいたが変化が生じる。
(………懐かしい、感覚だ)
眠気を感じた彼の体が横に倒れてしまい、眠りについてしまう。
安らかな日々が徐々に地獄の記憶を癒やし、ようやく自然に眠る事が出来たようだ。
安らかな顔をした横顔を浮かべながら夢を見る。
それは彼にとって、この世界で初めてみた夢なのだ。
(ここは……?)
燃え盛る業火が全てを包んで焼いていく世界。
(これは…佐倉牧師の教会なのか!?)
気が動転した彼は走りだしていく。
(杏子ぉぉぉーーーー!!!モモォォォーーーーーーー!!!)
部屋を開けては炎が燃え盛り、業火が飛び出してくる。
誰かいないかと叫び続けたが誰も返事を返してくれる人はいない。
(あぁ………あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)
大切な人も愛する人も全てが炎で焼かれてしまう中、燃える礼拝堂で膝が崩れてしまう。
(……なぜ、こんな事になってしまった?)
礼拝堂の祭壇にある十字架だけは彼を見下ろしているようにして屹立している。
(なぜこの一家が……こんな理不尽過ぎる運命によって…破滅を迎えてしまう!?)
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礼拝堂に大いなる言霊が響き渡った時、眠りについた彼の両目が一気に開く。
「うぁあああああああ!!!!」
彼はベットから飛び起きてしまい、荒い息を吐きだしていく。
「ハァ!ハァ!ハァ!ハァ……夢……?」
彼の全身は冷や汗だらけで息も乱れきっている。
右手を顔に当てながら震え続ける事しか出来ない状態だったがベットから起き上がる。
明かりがない深夜の礼拝堂に向かった彼は最前列の椅子に座る。
彼は静かに祭壇の十字架を見上げてながらこう呟いてしまうようだ。
「初めてこの教会に訪れた日も…この十字架を見上げたもんだな…」
脳裏には神霊である無現光カグツチの言葉が再び響いてくる。
――心せよ、かつて人であった悪魔よ。
――我が消えても、お前が安息を迎える事はないのだ。
――最後の刻は確実に近づいている。全ての闇が裁かれる決戦の刻が。
――その時には、お前のその身も裁きの炎から逃れる術はないであろう。
――恐れ、おののくがよい!お前は永遠に呪われる道を選んだのだ!
「裁かれるべき悪魔…それが俺の存在だ。いつか裁きの炎に焼かれて…闇の底に帰る時が来る」
そんな末路は自分だけでいいと彼は決めている。
自分と関わってしまった人達まで裁きの炎で焼かれる事があってはならない。
そう決断した彼は静かに立ち上がりながらこう呟いてしまう。
「……関わり過ぎてしまったのかもしれないな」
♦
次の日の夕方。
夕日が差し込む祭壇の前には修道服姿の風華が跪いたまま十字架に祈りを捧げている。
尚紀は彼女の後ろ姿を柱の影で見つめているようだ。
風華は主の祈りの言葉を唱えだす。
「天にまします我らの父よ、願わくは御名をあがめさせたまえ。御国を来たらせたまえ…」
(神に何を祈ればいいのか分からず…自分の願い事ばかりする者達もいる…だが、あいつは…)
「我らに罪を犯すものを我らが赦すごとく、 我らの罪をも赦したまえ…」
(誰かのために…祈ってばかりだ。お前が祈る主なる神…その本性に目を向けてなどくれない)
彼は静かに祭壇に向かって歩いていく。
「人は心に自分の道を思い巡らす。しかし、その人の歩みを確かなものにするのは主である…」
(父なる神は、俺達の進みたかった道を閉ざした)
「人間の心は自分の道を計画する。主が一歩一歩を備えてくださる…」
(父なる神は、俺達の人生の計画を破壊した)
「人は心に自分の道を考え計る。しかし、その歩みを導く者は主である…」
(父なる神は、俺達の考えなど何も考慮してくれなかった)
「主が家を建てるのでなければ、建てる者の働きはむなしい…」
(神の展望が無ければそこから離れた道を進む事さえ虚しい?自由に生きる事も許されない?)
そんな事のために嘉嶋尚紀が人間として生きた世界は否定された末に消滅させられたのか?
唯一神を知る悪魔はそんな風に思えてしまい、祭壇まで上がってきて彼女の肩を掴む。
「そんなに…神の事が好きか?」
「どうしたんですか、尚紀…?」
右手に力が込められていく。
「痛いです!?やめて下さい!?」
「そんなに…神の事が好きか?」
さらに力が込められていく。
「い、痛い!!やめて…尚紀!!」
右手を払い除け、立ち上がって後ずさりながら悪魔の顔を覗き込む。
まるで初めて出会った頃のような冷たい目をした彼の表情がそこにはあるのだ。
「どうかしたんですか…尚紀?何か嫌なことでもあったんですか?」
彼は押し黙ったまま何も語らない。
「私でよければ相談にのりますよ?そうだ、主の説教でいい言葉があります」
彼は押し黙ったまま何も語らない。
「明日のことを思いわずらうな。明日のことは、明日自身が思いわずらうであろう」
「俺に…神の言葉を喋るんじゃねぇ!!!」
「な、尚紀……?」
ここまで怒った表情を向けてくる彼を見るのは彼女も初めてであろう。
(何が…彼を怒らせているんですか…?)
「お前らはいいさ……神様ってのに愛されてる連中はな……」
踵を返して階段を下りていく尚紀であるが、こんな嘆きを呟いてしまう。
「神様に愛されなかった人間達だって…いるんだよ」
信者の椅子が並ぶ道を歩いていた時、彼女に振り返って別れの言葉を告げてくる。
「…世話になったな。佐倉牧師達によろしく伝えておいてくれ」
そう言い残した彼は教会のドアを開けて出ていってしまうのだ。
「ま…待って下さい…尚紀ーっ!!」
風華は慌てて彼を追いかけていき、教会から走りながら出ていくのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「尚紀ーーーッ!!」
風華の声が聞こえた彼は突き放そうと走り出す。
(何処に向かうなどどうでもいい!!俺を呪った神の家と…その家族達から遠ざかりたい!!)
自分のせいで誰かを失いたくない気持ちが彼の心に溢れ出す。
闇雲に走り回ったせいか、大きな野原に出てきてしまったようだ。
「……くそ」
野原の中央で立ち尽くす彼の後ろ姿に彼女も走って追いついてくる。
「……なんで、止まっちまったんだろうな」
「尚紀…どうしてそんなに……追い詰められてるんですか?」
彼の体が震えている事に彼女は気がついてくれる。
「遠くに行きたいはずなのに…神の家から逃げたいはずなのに……思い出が邪魔しやがる!!」
彼女に導かれて出会った佐倉牧師一家との思い出が鎖のように心を蝕む。
自分のせいで残酷な末路を負わせてしまうのではないかと怯えてしまい、心が藻掻き苦しむ。
「風華……俺は悪魔なんだ」
「悪魔……?」
「神の敵対者だ…聖書でいう……
自分の正体について彼女に話してくれる。
自分は彼女達の信仰の敵である存在であり、神に呪われた悪魔なのだと告げるのだ。
「悪魔の俺が…人間のフリをしながら神の家でその家族達と暮らしていた…笑える話だろ?」
「それが…魔法少女とは違う…貴方の力の秘密なんですか…?」
「悪魔は魔女よりも恐ろしい存在だ…関われば多くの人達に…呪いと災いを与えるだろう…」
彼の両膝が崩れ落ち、野原で跪いてしまう。
「なのになんで!?俺の心は人間の幸せに惹かれてしまう!手放すことを躊躇ってしまう!?」
自分の考えと心が一致しないせいで拳を地面に打ち付けてしまう。
「俺はこの世界に必要ない存在なんだ!!もう俺に関わらないでくれぇ!!」
両腕を地面に叩きつけたまま悪魔人間は震え続ける。
そんな彼に対して彼女は歩いていき、上半身を起こして抱きしめてくれるようだ。
「尚紀……私の…昔話に付き合ってくれますか?」
「昔…話……?」
「貴方は辛く苦しい胸の内側を語ってくれました…今度は私が胸の内側を語ってあげる番です」
彼女が話してくれる内容とは彼女の出生と家族についてである。
「私の名前は風実風華。でも、それは本当の両親がつけてくれた名前ではないんです」
「どういうことだ…?」
「私が初めて人間に見つけてもらえたのは…路地裏のゴミ箱の中だったんです」
「捨て子だったのか?」
「そうです。私は生んでくれた親に…生まれて直ぐに捨てられた人間です」
(親に望まれなかった子供…まるで…この世界の俺みたいだ…)
家族だと信じた者達から捨てられた記憶が蘇る中、風華の経緯が伝えられていく。
彼女は通報を受けた児童相談所職員に引き取られ、乳児院に預けられた事で生き延びれた子供。
小学校に入学する頃になって児童養護施設に移された身の上だと教えてくれる。
「そんな理由があって、児童養護施設で暮らしていたんだな…」
「私の名前をつけてくれたのは…乳児院の施設長なんですよ…」
どんな気持ちで名前をつけてくれたのか、その人に聞いてみたかったと伝えてくる。
「……でも、訪ねに行く勇気はありませんでした」
「何故だ?名付け親になってくれる程の人なら…悪い顔などしないはずだ」
「自分と同じ捨てられた赤ちゃん達を施設で見るのが……辛かったから」
「……そうか」
「児童養護施設って……どんな場所か知ってますか?」
そこは親が育てるより社会で育てた方がいいと判断された子ども達が行き着く末路。
沈痛な表情をしながら児童養護施設に流れ着く子供達の現実を語ってくれる。
親から養育拒否されたり、怠惰などのネグレクトの虐待を受けた子供が流れ着く。
親の精神疾患や貧困、拘禁で預けられた子供。
取り返しのつかない犯罪を犯したが刑法が適応されず、家庭裁判所で審判を受けた子供。
「私は…そんな子供達と共に…生きてきました」
風実風華は自分の境遇を聞かされた時に絶望した少女だと聞かされる。
両親に生まれて直ぐに捨てられてしまい、誰が両親なのかも分からないなら無理もない。
「周りの可哀想な子供達には両親と呼ばれる人達はいます…帰ろうと思えば帰る場所がある…」
「お前にはいなかったんだな……やりきれないな……」
自分の悲しみや怒りをぶつけられる存在が何処にもない。
両親を知らないから憎む事すら出来ない。
信じられるものなんて何も無かったし、世界に居場所さえ感じられなかったと伝えてくれる。
「私をこんな目に合わせた運命が……憎かった」
だからこそ彼女は施設の暮らしの中で周りの人達に当たり散らす毎日を繰り返すしかなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
児童養護施設の大舎では今日も風華が情緒不安定になってケア職員に当たり散らしている。
「どうして周りの子達ばかりに構うの!私なんてどうでもいいんでしょ!!」
「そんな事はないんだが…私だって君も合わせて10人の子供達の面倒を見ているんだ!」
児童養護施設のケア職員の数は余りにも少ない。
社会がその存在に関心が低いため、教育向けの支出が先進国最低レベルなのがこの国の現状だ。
全員が手厚いケアを必要としているにも関わらず、現状は余りにも過酷な現場。
ブラック企業と呼ばれる存在に類似する職業であり、児童養護施設職員の現実は過酷なのだ。
「他の連中だけ可愛いんでしょ!私なんて誰にも愛されない!この世界にいらない人間なの!」
「落ち着いてくれ…風華!頼むから落ち着いてくれ…私も辛い…本当に辛いんだ!!」
「だったらこんな仕事辞めて何処かに行きなさいよ!私達なんて貴方には重荷なんでしょ!!」
「くっ…!!そこまで…言うのか……君は……」
「いいから出ていって!!何処にでも行く宛が作れるんでしょ!?親に恵まれてるものね!!」
当たり散らす彼女の一言がケア職員の心に深い追い打ちをかけてしまう。
職員は何も言わずに他の子供の相手を始めてしまい、彼女は無視される事となっていく。
風華は苛立ちを椅子にぶつけた後、部屋の隅の壁に三角座りで蹲りながら顔を膝に埋める。
彼女は周囲に対して不信感や恐怖感がとても強く、衝動のコントロールが出来ない捨て子。
情緒豊かに日々の体験を受け止めたり、表現することさえ難しい。
解離と呼ばれる精神の防衛機制で自己を保っているような状態であったのだろう。
「どうして…空はこんなに青いんだろう……何も悲しみなんて知らないみたい」
いつもただただ毎日を垂れ流していくだけの虚しい空だと彼女は呟く。
彼女にとって空の青さを感じる心の温もりなんて何も無かったからだろう。
そんな彼女の座り込んだ姿を窓の陽の光だけが包んでくれるのだ。
それから数日後になると児童養護施設はさらに深刻な人手不足に陥ってしまう。
風華達を担当していたケア職員が心身疲弊し、燃え尽き症候群となって出勤も無くなり退職。
児童養護施設職員の勤続年数は長くはない。
今の日本の現状では愛着関係をケア職員と子供達が結ぶのは非常に困難だったのだろう。
ケア職員が本当に親の代わとなるのはあまりにも難しい道のりでしかなかった。
♦
風実風華が小学6年生になった時期。
休日を思い思いに過ごすのは児童養護施設で暮らす他の子供達。
風華の休日の過ごし方はもっぱら施設の図書室で過ごす事だけのようだ。
「他の子達はゲームや運動で楽しく遊べても…私は人気の無いここしか居場所がないわ…」
適当に書棚を漁り、孤独の気持ちを癒せるような本を漁っていく。
「これは…随分と分厚い本ね……?」
書棚の一番隅で収まりきっていなかった一冊の本を見つける。
「聖書…?宗教関連の書籍も置いてあったなんて…」
宗教関連の本を読むのは彼女にとっては初めてだったこともあり、机に持ち込んで読み始める。
「天地創造、楽園追放、ノアの箱舟……創世記が書かれているのが旧約聖書の冒頭なのね」
一神教はヘブライ民族から生まれた宗教である。
出エジプト記の物語の中でモーセと人々が十戒と呼ばれる契約を唯一神と交わす。
その後はヘブライ人の繁栄や衰退といったものが描かれ、メシアを求めるようになったそうだ。
「神様も…人間にこんな酷い事をしていたんだ……」
創世記や出エジプト記の部分では唯一神の所業が数多く描かれている。
神によって多くの人を傷つけたり、奪ったり、破壊したり、人々を殺す物語が描かれている。
「こんな冷酷な神様よりも…優しいメシアが欲しくなる気持ちも分かるわね…」
そして世界に現れたのが五大預言者の一人であるイエス・キリストだと彼女は知るだろう。
新約聖書の分かりやすい部分を読み続け、時間を忘れながら聖書の朗読を続けていく。
彼女にとってはイエス・キリストが残した言葉が書かれた部分に注目しているようだ。
「剣を取る者は皆、剣で滅びる」
(私の心は…周りにとって…剣だったのかな?)
「艱難は忍耐を生じ、忍耐は練達を生じ、練達は希望を生ず」
(苦しみを忍耐で我慢したら…希望が見えてくるのかな?)
「愛は寛容であり、愛は情け深い。また、妬む事をしない」
(人間の愛は寛容で…それは人から妬まれないものなの?)
「いつも与えなさい。そうすれば、人々はあなた方に与えてくれるでしょう」
(両親に望まれなかったこんな私でも…人々は私に与えてくれるのかな?)
「信仰と希望と愛、この三つはいつまでも残る。その中で最も大いなるものは愛である」
(愛が一番大事なもの…それがあれば、私も世界に必要とされるのかな?)
「いつも与えなさい。そうすれば、人々はあなた方に与えてくれるでしょう」
(私に与えてくれるもの…それは、私がいていい場所?)
「己を愛する如く、汝の隣人を愛せよ」
(こんな自分をも愛して、周りの人達を愛する事が出来たら……)
「いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。どんなことにも感謝しなさい」
(周りの人達への感謝の気持ちと行動が…私への感謝の気持ちとして帰ってくる…?)
「人はパンだけによって生きるのではなく、神の口から出る一つ一つの言葉によって生きる」
(神の愛の言葉…それを求める心、それがあれば……)
「私は……救われる!!!」
聖書の教えに感動した者が身を震わせながら立ち上がる。
心を覆っていた闇が神の愛によって照らされていく。
彼女の心の中に清々しい風が吹き抜けたような気持ちになるのであった。
♦
それからの風華は荒れた今までが嘘だったように変わってくれる。
「後ろのものを忘れ、ひたむきに前のものに向かって進む。聖書の言葉を信じて生きていくわ」
周りに見てもらうためではなく、自分のために多くの善行となる事を進んで行っていく。
悩みや苦しみを抱えている子供達の心の門を叩き、彼らの悩みや苦しみに向き合ってくれる。
余計なお世話だと彼女は右の頬をうたれたら、左の頬を向けて殴っていいと彼女は叫ぶ。
善行という種を蒔く事に躊躇いはなく、惜しまず善行の種を蒔き続ける人生が始まるのだろう。
人生の暗さと不平を言う子供達のために進んで明かりを点ける事に尽くしてくれる女となる。
いつも周りの人達の小さな喜びを共に喜び、絶えず周りの幸せを祈ってくれる。
どんな事にも感謝し続ける彼女の新しい姿がそこにはあってくれるのだ。
「風華ちゃん…以前はあんなに苦しんでいたのに…人は変われるものだね」
煩わしいだけだった彼女に対して子供達みんなが愛してくれる光景に院長先生も満足している。
「院長先生…今まで迷惑かけてごめんなさい。私ね、夢が出来たんです」
「どんな夢が出来たんだい?」
「神様の言葉は正しかった…だから私…神様の言葉をみんなに伝えられる道に進みたいです!」
♦
風華が中学一年生になった頃。
彼女の熱心な信仰の道を応援していた施設長が彼女に助け舟を出してくれる。
「風華ちゃん。もし良かったら…教会で牧師の勉強をしてみないかい?」
「えっ!?本当ですか!」
「近くに佐倉牧師が営む教会があってね。君の事を話したら喜んで引き取ると言い出したよ」
「有難う御座います院長先生!本当に…ありがとう!!」
「励むんだよ、風華ちゃん。君のような人の痛みを知る者こそ、牧師となるべきだ」
佐倉牧師の教会での勉強生活が始まっていく。
修道服を身に纏い、ポニーテールにした風華は毎日のように学校が終われば教会で働く。
時間に余裕があれば杏子やモモの面倒も進んで引き受けてくれる。
彼女の慈愛溢れる心に対し、杏子とモモは直ぐ彼女に打ち解けて好きになってくれたようだ。
佐倉牧師を先生と呼び、日々仕事をしながら神学を学んでいく。
そんな日々が一年ほど続いた頃、それは訪れるのだ。
「君はボクが見える素質を持つ子だね?突然だけど君は魔法少女になってみる気はないかい?」
「貴方は何なんですか!?」
「ボクはキュウべぇと呼ばれている。君の願いを何でも一つだけ適えてあげられる存在だよ」
「願い事を一つだけ叶える存在?」
「その代わり、君は魔法少女として契約を行う事になるんだ」
キュウべぇと呼ばれる者は魔法少女と魔女について彼女に説明を行っていく。
あまりに現実離れした情報で混乱していたが、魔女という存在に強い嫌悪感を持ってくれる。
「何の罪もない人々を…魔女という存在は呪いを撒き散らして…死に至らしめるのですか!?」
「その通り。君は人々の為に尽くす生き方を好む少女…魔女の存在を看過出来ないはずだ」
「
「それは聖書の言葉だね。主なる神、イエス・キリストが仰られていた」
「魔法少女として生命をかけて人々のために戦う…この道は…人々への愛に繋がりますか?」
「勿論だよ。人のために尽くし、人のために死ぬ。これこそがメシア様が辿られた人生さ」
「……私もイエス様のように生きられますか?」
「それは魔法少女になった君の行動次第さ。さぁ、どんな願いでソウルジェムを輝かせる?」
「私の願い…それは……」
♦
聖書と出会って変わることが出来た頃、乳児院の施設長の元を訪ねた事が彼女にはある。
自分の名付け親とどうしても一度は出会ってみたかったからだろう。
「連絡は聞いている。君が風華ちゃんだね……大きくなってくれて私も嬉しい」
「貴方が…私の名付け親ですか?」
「その通り。仕事ではあるけど…孤児達の明るい未来を願って名付けているつもりだ」
「私がここに来た理由は……分かりますか?」
「勿論だ。君だけが訪れる者ではない…多くの孤児達が名付け親の私の元に訪れる」
「私の名前は……どんな気持ちで名付けたんですか?」
施設長は微笑みながら窓を開けて外の風を部屋に通す。
「君を名付けた日も……こんな気持ちのいい風が吹いていた」
「教えて…もらえますか?」
「風実風華…それは風が実りを運び、風が華を咲かせる季節をイメージして名付けた名前だ」
「風が実りを運び、風が華を咲かせる……それが、私の名前?」
「たとえ両親に捨てられたとしても、君の人生に優しい風が吹いてほしかったんだ」
風が彼女の心に実りを運び、いつか彼女の人生に華を咲かせてくれる。
そんな願いを込めて名付け親となったのだと伝えてくれる。
「…皆がいてくれたからこそ、私は生きてこれた。貴方がいてくれたから…私に名前が出来た」
人の社会は残酷極まりない。
それでも多くの先人達が孤児達の未来を憂いてくれる。
「私もその一人…だからこそ守りたい…人間社会は残酷なだけではないんだと…分かりました」
「
♦
彼女の気持ちに迷いはなく、キュウべぇに対して願い事を言ってしまう。
「私は…風になって人々の心に実りを与えたい。その人達の心に華を咲かせる人間になりたい」
「契約は成立だ、風実風華。それが君のソウルジェムの輝きだよ」
こうして風実風華の新しい人生が始まっていく。
今までも、これからも彼女は変わらない。
彼女は風に憧れた少女。
神の愛の実りを人々の心に与え、その心に華を咲かせる存在になりたい。
それこそが魔法少女となった風華の願いであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「私が初めて貴方と出会った時に言いましたよね?貴方の孤独な気持ちが分かるって」
彼女は自分の胸の内側を語ってくれた。
児童養護施設という施設がどういうものなのかを彼もあまり知らなかった男である。
そこで生きてきた風華がどれ程の苦痛をともなって生きてきたのかを知らなかった者なのだ。
「お前も……俺と同じだったんだな……」
世界に望まれなかった生命であり、両親も友達もいない。
行く当ても無く、怒りと悲しみのやり場もなかった者達でしかないだろう。
そんな人生を生きた彼女だったからこそ、彼に手を差し伸べてくれたのだと理解する。
「貴方が人間の幸せに惹かれる気持ちは自然なもの…人は愛されたいから生きているんです」
「俺は…悪魔だぞ?」
「でも、貴方の心は……人間だと私は思います」
人間の心があるからこそ、人は人の愛を求めて生きていくのだと悪魔に伝えてくれる。
「悪魔の俺にも、その自由があるというのだろうか…?」
「空を見て下さい」
夕暮れの輝きに満ちた空がとても美しい。
「風を感じて下さい」
秋の優しい風が二人を包む。
「貴方はこの世界で夢を見てもいいんです。人の喜びの夢を…人間としての喜びを…ね」
それはもう二度と叶わないと思った彼の魂の叫びである。
「俺は……俺はぁぁ………」
両手を回して風華に抱きつく彼が魂の叫びをあげてしまう。
「
悪魔の目から大粒の涙がとめどなく零れ落ちていく。
悪魔でさえ彼女は人間として生きていいと言ってくれる。
彼女の信仰の敵である悪魔にさえ人の夢を見ていいと言ってくれたのだ。
「あぁ……あぁぁぁぁぁ………ッッ!!!」
ただただ大粒の涙が流れ落ち、嗚咽を零しながら悪魔は泣き続けていく。
「俺に手を差し伸べてくれて……ありがとう……」
悪魔人間の慟哭を受け止めてくれた彼女も彼の背中を強く抱きしめてくれた。
悪魔の心に風が吹く。
風は悪魔の心にさえ実りをもたらす。
「いつかきっと…この実りを咲かせたい……」
その日が来てくれることを悪魔は願い続けるのであった。
♦
日が沈んでいく夕日を野原に座って眺めているのは二人の姿。
今日はもう二人とも魔女狩りに行くような気分ではなかったようだ。
「なぁ、風華。お前は運命ってものを信じるか?」
「運命ですか…?」
「運命は神様に与えられたもの。それがどんな理不尽で残酷な運命でも…お前は信じるか?」
「運命は神様に与えられたものであっても…その運命をどう生きるかは人の自由だと思います」
「神様が決めたことでもか?」
「だって、私は自分の理不尽な運命があったからこそ…今の道を選ぶ事が出来たのですから」
理不尽な運命があったからこそ今の自分がいてくれる。
彼は自分の理不尽な運命に対してもう一度向き合ってみる気持ちが芽生えているだろう。
唯一神にさえ呪われた人修羅と呼ばれし悪魔の運命であっても、向き合う勇気が芽生えるのだ。
(俺はこの世界に流れ着いた…そして風華や佐倉牧師達と出会えた…守りたいものが出来た…)
彼の心の迷いは既に晴れている。
この人達と一緒に生きていこう。
それを望んでくれている限り、共に生きたいと彼は横の彼女に伝えてくれる。
「……俺には望みがあるんだ」
子供のように澄んだ瞳で空を眺める尚紀は自分の望みを伝えてくれる。
「いつか人が…運命に支配されない世界にたどり着きたい」
「貴方がそれを信じたいなら…私もそれを信じたいです」
「きっと全ての世界は自由になれる…」
――
人間は自分達の喜びの夢を誰に憚られる事なく夢見ていい。
そう信じたい彼の願いが込められた夢が語られる日が訪れるのであった。
読んで頂き、有難う御座います。