人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
7月の最後に起きた南凪港の事件は世間を騒がせる大事件となっていく。
チャイニーズマフィアが暗躍していたのではないかと連日のように報道が続いているようだ。
静かな夜、ここは関東でも有数の広域指定暴力団として知られる天堂組の総本山施設。
武家屋敷を思わせる内装をしており、至る所に刀や侍甲冑が飾られているようだ。
奥の座敷に向かえば天堂組の会長が過ごす私室空間が存在する。
そこでは黒い作務衣を着た寝たきり老人がテレビを見ているようだ。
「民間人の死者が多数出た今回の事件ですが、広域指定暴力団に属する構成員の関与も…」
隣にはこの組の若頭を努めている人物が土下座をしたまま地に伏せている。
「申し訳ありやせん…親父!!今回のシノギで組員に大勢の犠牲者を出しちまいやした!」
この人物は南凪港で三合会との取引現場にいた若頭であろう。
命からがら現場を脱出し、警察の手を逃れきったようだ。
「エンコ程度じゃすまねぇ!!俺は親父に申し訳ねぇ事を…落とし前をくだせぇ!!」
「だから言ったんや、大陸の連中なんぞを信用するなと。任侠道を蔑ろにしやがっ…ゴホッ!」
病弱な会長は咳き込み、弱った体を無理やり起きあげようと藻掻くが布団に倒れ込む。
「だが…任侠道の時代も、わしと同じく滅びるしかねぇのかもな」
「親父…」
「グローバル化によって日本の利益は外資に吸い出されるばかり。日本は腐り果て…ゴホッ!」
咳き込みが酷くなり、右手を口に当てていた自分の手を老人は眺める。
その手には吐血の痕があり、死期が近い事を示している。
「…わしは怖い。子宝に恵まれず、それでも組を育ててここまできたが…病魔で死ぬ」
「親父…弱気にならねぇでくだせぇ」
「テメェは許せねぇ。落とし前はつけなきゃならねぇが…それは、次の親分の仕事かもな…」
天堂組会長として知られる天堂天山の命が燃え尽きようとするのだが、救いの手が現れる。
<<ドント・ウォーリー♪アナタのライフ、私ガ救ってみせますヨ!>>
独特な口調をした声が響き、襖を啓いて天堂組会長の私室に現れたのは謎の人物である。
「な、なんだテメェ!?親父のタマを取りに来たもんかぁ!!」
その人物の見た目はあまりにも薄気味悪い。
長身痩躯の漆黒の肌、オールバックにした白髪の下の額には赤い五芒星タトゥーが刻まれる。
赤いサングラスを右手で押し上げ、神父を思わせる服を着た人物が不気味に笑う。
勿論こんな大胆不敵な者がヤクザの総本山に現れたなら無事で済むはずがない。
「このド腐れがぁ!!土足で親父の部屋に入ってんじゃねぇーッッ!!」
若い構成員が現れ、神父姿の人物を後ろから殴ろうとするが即座に反撃を浴びてしまう。
「ガハッ!!」
黒人を思わせる人物が右足を背後に向けて蹴り上げ、構成員の顔面を強打する。
「タカシ!?野郎…何処の鉄砲玉やワレェ!!」
カポエイラの蹴り技を浴びて倒れ込んだ構成員に振り向き、両手を広げておどけてみせる。
「ソーリー。私ハ、この国に来るの初めてでス。マナーはあまリ、知りませン」
「親父は殺させねぇぞ!!」
若頭が腰の銃を抜き、謎の神父に向けて構える。
後ろからも大挙して構成員達が現れ、手にはドスや刀、それに銃を握って武装している。
「狼狽えてんじゃねぇ!!」
弱りきった体に鞭を打ち、構成員を静止させた天堂組会長の気迫が周囲を凍り付かせていく。
「…誰や?」
一瞬即発の現場の中、大胆不敵な訪問者に問いかけるのは肝の座った老人であろう。
「私は
「礼儀知らずのカルト外人が、わしらのシマに何の用や?」
「アナタのライフ、私なら救えまス。アナタのライフを刈り取る死神ガ、私には見えまス」
「…そんなデタラメを言いに、わざわざ殺されに来たとは思えねぇな」
「信じる者ハ、救われまス。そして星の智慧を崇める者ハ、もっと救われまス」
「星の智慧…?悪魔教会…星の知恵を崇める……まさか、テメェは!?」
「オー?流石でス、もう気が付かれましたカ?政財界の裏側にいる結社をよく知る人物ですネ」
「啓明結社…光明会のエージェントか!?」
「私ハ、フリーメイソン内部の神秘主義サロン、黄金の夜明け団に属する身でス」
――そしテ、我々フリーメイソンはイルミナティと運命共同体でス。
「フリーメイソン?イルミナティ?親父…秘密結社なんて都市伝説じゃ…?」
「実在してる。奴らは実態を掴ませず、自分達のオカルトサインを世界中で見せびらかす…」
――悪趣味極まった
「そんなカルト連中に怯えることないですぜ!礼儀知らずのコイツに今直ぐヤキ入れて…」
「馬鹿野郎!!イルミナティに逆らうんじゃねぇ!!組を潰したいのかぁ!!」
怒鳴り散らし、咳込みながら体を起き上げようとする組長を若頭が支える。
「連中は世界を支配出来る力を司る金融を支配した…ファイナンシャルエリートの集まりだ…」
「金融カルトマフィアなんですか…イルミナティって連中は?」
「BIS、IMF、世界銀行、各国中央銀行を統括する連中であり…先進国政府を支配出来る存在だ」
「そんな…嘘でしょ?たかが銀行組織が世界を代表する先進国を支配出来るわけ…」
「
――
「さテ、話を戻しまス。アナタハ…死ぬのが恐ろしいですカ?」
「…ああ、恐ろしい。金も女も困らない生活を送ったが、それを失うのが恐ろしいんだよ…」
「私達黄金の夜明け団ハ、神々の秘儀を追求する黄金の暁会。魔法や魔術の世界に身を置く者」
「魔法?魔術?われぇ…わしをガキ扱いして嘲笑いに…」
「ノーノー、実在しまス。ですガ、智慧無き者に伝わらないのは分かりまス」
「魔法とか魔術を…今直ぐテメェは…わしに見せられるっていうのかよ?」
「イエス。不老不死にしてあげられますガ、恐ろしいですよネ?先ずハ、実験体が必要でス」
シドと名乗った神父は天堂組長を支える若頭を見る。
「その人物、先程オトシマエ?というのガ、必要だと言ってましたネ?」
「親父!?こんな怪しいカルト野郎の口車になんて…乗らないですよね!?」
俯きながら黙り込む組長だったが、決断した顔で冷酷な処罰を下す。
「……やってみせろ」
「イエス。それでハ、神々の秘儀…お見せしまス」
「嘘だろ親父ッッ!!?」
見捨てられたと判り、親と慕った人物を蹴り飛ばして部屋の隅に逃げ出す若頭。
邪悪な笑みを浮かべた神父が詰め寄ってくる。
左手に持つ分厚い聖書を開き、中に隠して納めていた複数の銀の管の一つを取り出す。
「クドラク、出番でス」
銀の管を構え、管の蓋が緩まっていき、中から緑色に輝く感情エネルギーが溢れ出す。
「く、くるんじゃねぇーーっ!!!」
銃を構えて撃つが、シドの手前空間で弾は止まっている。
彼らは魔法少女でもデビルサマナーでもない普通の人間。
だからこそ銃弾を片手で受け止めた悪魔を目視出来ない。
<<ヒャーハハハ!!久しぶりの解放だぁ!!おいシド、こいつをどうしたいってんだ?>>
黒い貴族衣装と漆黒のマントを纏う姿だが、姿はおろか声さえ人間には伝わらない。
「彼に不老不死の恩恵を与えてくださイ」
<<ゲェ!?こいつの血をオレが吸えってのか!?魔法少女のような女の方がいい…>>
「クドラク、アナタの管をニンニク畑に埋めてあげてもいいんですヨ?」
<<分かった!!それは勘弁してくれぇ!!ったく…男に吸い付く趣味はねぇのにな…>>
空中に浮かぶ悪魔が若頭に襲いかかる。
「ギャァァーーーーッッ!!!」
何に襲われているのか分からない光景に対して部屋にいるヤクザ達が戦慄する。
そしてシドを中心にして景色まで変わっていき、異界化していく。
「な、なんだよ…景色がおかしくなっていくぞ!?」
「お、おい!カシラを襲っている何かが見えてきて……ヒィィー!?なんだよアレは!!」
「神々の秘儀、見せたからにハ…選択は2ツ。私に従うカ、死ぬかでス」
悪魔に血を吸われた若頭が痙攣しながら倒れ込み、体色が変化しながら異形化していく。
「これが…不老不死の姿だと!?」
「テンドーさン?如何ですカ?」
「は…ははは!!すげぇ…すげぇじゃねーか!!これでわしも…死なずに済む!!」
「不老不死にしてあげるかわりニ、仕事をお願いしたいのでス」
「仕事だと…?」
「イルミナティは現在、東京大破壊に向けての準備に追われてまス。悪魔が多く必要でス」
「その悪魔を大量に生み出す片棒を担げっていうのか…?」
「悪魔を召喚するにハ、感情エネルギーであるマグネタイトが沢山必要でス」
「そいつは、どうやって集めればいい?わしは不老不死になれるなら…何でもやるぞ!!」
「莫大な感情エネルギーを持つ者達ヲ、拉致して輸送する必要がありまス」
「分かった!やろうじゃねーか!!」
「親父っ!!あれだけ愛した任侠道はどうしたんですか!?」
「うるせぇ!!さっきまで死ぬだけだったわしが…そんなのを今更気にしてどうする!!」
「人攫いにハ、沢山のストロングソルジャーがいりまス。彼らも悪魔にしてあげまス」
「い…嫌だ!!来るな…来るなぁぁーーッッ!!」
この日より天堂組は変わり果てていく。
表向きは広域指定暴力団ではあるが中身は既に魔物の住処と化していた。
♦
探偵の職務とは主に人探しである。
音信不通の友人、親族や相続人、債務者や訴訟相手、ネットで知り合った人物など多岐に渡る。
探偵業務は特殊な調査権限は何も与えられていない。
探偵業者はどうすれば情報を取得できるか、捜索出来るのかという知識を持つ情報収集のプロ。
そういう意味では人探しに行き詰まった場合は探偵事務所は大きな力となってくれる。
神浜に探偵事務所を引っ越した聖探偵事務所は現在、ポスティング作業も終わった時期。
季節は10月に近づき、神浜で生活している者達も夏服を着ている人物はほぼ見かけない。
日にちが過ぎていく中、聖探偵事務所に依頼電話が鳴り響く。
私立探偵嘉嶋尚紀の日常が始まるのだ。
「…今日も探偵としての一日が始まるな」
起きる時間を迎えた尚紀が自室のベットから起床する。
一階まで降りてきた彼が洗面台で顔を洗い、黒のトレーニングウェアに着替えていく。
時刻はまだ陽が昇っていない時間帯の早朝であり、職場に出かけるには早過ぎる。
「よし、朝飯前にいつもの日課だ」
トレーニングウェアのパーカーを目深く被り、スポーツシューズを履いた彼が家から出てくる。
森に囲まれた庭で柔軟体操と筋トレを済ませた後、日課のランニングを始めていく。
探偵業は情報収集知識だけでなく体力も重要な資本。
尾行捜査においては相手が自転車で移動しようが追いかけなければならない体力がいるのだ。
しかし彼は悪魔の体であり、人間のような体力トレーニングなど必要ないが武術家でもある。
「怠けたらマスターや美雨に叱られるからな。武術家の基本は心技体だ」
かつては怒りによって心が乱れ、力はあっても技の冴えが発揮出来なくなった経験がある。
心を落ち着ける効果は体と技を鍛える過程で整える事が出来ると美雨達が伝えてくれている。
その教えを彼は睡眠時間を削ろうとも守り続けているようだ。
走るような勢いでランニングを続けていく。
北養区を超え、参京区に入った頃には声をかけてくる者がいつも現れる。
「尚紀さん!お早う御座います!!」
後ろを見れば白いトレーニングウェアを着てランニングしてくる人物がやってくる。
参京区にある空手道場の看板娘であり魔法少女の志伸あきらであろう。
「またお前か。わざわざ俺のランニング時間に合わせなくてもいいのに…」
「だって~、多忙な尚紀さんと唯一時間を合わせられるのは早朝だけだしね~」
「俺がいなくてもトレーニングに付き合ってくれる奴は他にもいるだろ?」
「えへへ~♪この時間帯なら尚紀さんと一緒に稽古出来る時間として利用出来るもん♪」
「やれやれ…武道バカに稽古をせがまれるから、寝ていられる時間がまた削られたよ」
「まぁ、それを目的にして早起きしているのはボクだけじゃないけどね~♪」
「…南凪区に入る頃にはアイツも現れるんだよなぁ」
北から一直線に南に向かうランニングコースを走り、南に着く頃には見知った人物が現れる。
「おはよう~美雨!だんだんと早朝も冷えてきたね~」
「今の季節の方が、私はランニングし易いネ」
「尚紀さんは季節的にはどの時期が運動し易いタイプ?」
「そんなの気にしていない」
「季節を感じるのも修行の醍醐味ネ。万有の
気の概念は中国だけでなくギリシャやインドでも重要視されていると美雨は語り出す。
「武道とは自然学とも共通している部分があるヨ」
「そういや、そんな話をニコラスから聞いた事があるな」
気は希薄化すると火になり、濃密化して風・水・土という属性魔術となる。
近代魔術学者達は自然を重要視していたというわけだ。
「ボク達武道家と魔術師達は意外な共通点があるんだね~♪勉強になったよ」
「お喋りの時間じゃない。さっさとランニングを済ませようぜ」
「そうだね。早くランニングを終わらせて、いつもの公園で楽しい組み手だ~♪」
「今日は私が先の番ネ、あきら」
「え~~?ジャンケンで決めようよ~?」
「ハァ…武道バカ達に纏わり付かれる生活も泣けてきたよ」
彼女達と散打をした方が家の木人椿で鍛錬するよりも効率が良く、満更でもなかったようだ。
3人はいつものトレーニングを終わらせていき、陽が登る頃には彼も自宅に帰宅。
軽くシャワーと朝食を終えた彼は仕事着を着ていく。
黒のスーツズボン、白シャツに赤ネクタイ、黒いスーツベストとなった彼が横に視線を向ける。
「おはようニャ~尚紀。社会人は多忙で大変そうニャ~」
起きる時間となった二匹の仲魔達もリビングまで降りてきたようだ。
「今晩も遅くなる?遅くなるなら電話をもらえたら何か適当な食事を冷蔵庫で見つけるわ」
「お前らも悪魔化を自由に出来るようになって、世話の手間が省けて助かるよ」
「ニャルソックはデビルニャルソックにパワーアップしたニャ!オイラ達が家を守護るニャ」
玄関のコート掛けにある黒いトレンチコートを上着として着た彼が仕事に出る。
右手で車のキーを回転させながらガレージに向かい、手動でガレージを開けてクリスに乗車。
キーを差し込みエンジンを始動させるとクリスが挨拶してくる。
「おはよう、ダーリン♪2人だけの貴重な時間よ~」
「時間かぁ…社会人になってからは時間の流れを早く感じるようになっちまった」
「ダーリン、オッサン臭いこと言っちゃ駄目。見た目は高校生な子供のままなんだし」
「どうやら…俺も魔法少女やニコラスと同じく姿が変わらない石ころなのかもな」
「え~?車のアタシは便利だと思うけど、ダーリンは人間のように年老いて死にたいわけ?」
「それが人間らしさってもんだろ?だが…俺達はもう…人間には戻れない」
陽の光が照らす外に向かうためにアクセルを踏み込む。
今日も明日も明後日も、私立探偵としての毎日を送る彼の姿がそこにはあった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
探偵事務所に到着した尚紀であるが、事務所に入ってくると目を疑う景色が映る。
「えへへ~~♪お早う御座います!先輩!!」
出迎えてくれたのは探偵コスプレ少女である。
探偵バッジをつけた愛らしいケープ付きショートトレンチコートを着た広江ちはるであろう。
「お…おい…?」
錆びついたゼンマイのような音を立てながら所長椅子に座る丈二に顔を向けていく。
「…すまん、尚紀。押し切られた」
探偵事務所の所長を務める丈二はなんとも言えない困った表情を浮かべている。
「瑠偉…状況を説明してくれ」
「えっとね…私も宿無し探偵等々力耕一を目指したいから職場体験させて欲しいって」
「…うちは職場体験なんて募集してない。即戦力しか募集をかけてなかっただろ?」
「だから、私なら即戦力になれるよぉ!…って、丈二に詰め寄ってきたわけ」
「…ったく、丈二は女に甘いんだよな」
「申し訳ねぇ…。だがこんな愛らしい子に涙目で迫られてみろ?お前だって断れんぞ」
「なぁ…バツが悪そうに隠れてるお前ら。ちはるにブレーキをかけられなかったのか?」
視線を向けられた事で机の向こう側から静香とすなおの頭がゆっくりと伸びてくる。
「アハ…ハハ、迷惑になるから私も止めたんですよ…嘉嶋さん」
「ちゃるは無鉄砲なところが強いです。でも彼女なりに社会の役に立ちたい正義感もあります」
「お前らがちはるに甘々なのは分かった…しかしだな、遊びじゃないんだぞ?」
「私は真剣だよぉ!遊びでやるつもりなんてないし!」
(その愛らしい探偵コスプレ少女の見た目で言われても…説得力がねぇ)
「それにね…これってさ、私の夢でもあったから…早めに経験したかったの」
「早めに?急がなくてもお前の実力なら将来は立派な探偵に…」
「私達ってさ…大人になれるまで生きていられる保証なんて…無いし」
「…ちはる」
魔法少女は明日が約束されない者達であり、先を憂うその言葉に静香とすなおも俯いてしまう。
「だからさ、少しぐらい自分が夢見た未来の私の姿に…触れてみたかったんだぁ」
「彼女の意気込みは評価するし、職場体験で才能の片鱗を感じさせてくれるなら…俺も考える」
将来の探偵職員候補として席を開けておいてやると伝えられたちはるが驚愕してしまう。
「えっ、えっ!?今…なんて!?」
「励めよ、ちはるちゃん。お前は聖探偵事務所の所長が期待する…未来の探偵候補だ」
「ほんとに!?やった…やったぁぁぁ!!夢が叶う!!」
ピョンピョン飛び跳ねながら喜びを表す彼女を見つめる尚紀も同じ気持ちとなるだろう。
「分かったよ…面倒を見てやる」
「歳も近いことだしな、いい先輩になってやれよ、尚紀」
「それなら朝一番にうちにきた依頼があるわよ」
「どんな内容だ?」
「行方不明者捜索依頼ね。今回の依頼は…最近のニュースを騒がす神隠し案件みたい」
最近になって関東全域で少女達の行方不明者が続出しているニュースが流れている。
今回の依頼内容とは行方不明となった我が子の捜索依頼というわけだ。
「子供の失踪か。本人の意思で家出したのか特異行方不明者なのかも判断がつかない案件だな」
「刑事事件を取り扱うだけの警察が役に立たないのも頷ける。うちの領分だ」
「子供だけじゃないのよ。現場近くに居合わせたと思われる男性達まで失踪しているの」
「民事事件を取り扱う探偵の出番ってわけさ。心配するな尚紀、今回の依頼は俺も手伝う」
「よ~し♪聖探偵事務所の探偵チーム…出動だよ~!!」
コートのベージュ色と合わせた探偵らしいハンチング帽を目深く被ったちはるが先導していく。
勇ましく先陣を切る探偵職員候補生の背中に続くように尚紀達も事務所から出て行くようだ。
探偵達は先ず依頼人の元に向かう事となるだろう。
「俺の車に乗れ」
「すごーい!やっぱり探偵と言えばクラッシックカー!」
「見てくれよちはるちゃん!こいつの初代プリムス・フューリーの美しさを!」
ヴィンテージカーの素晴らしさを語るが車に興味がない少女は無視しながら車内に入り込む。
「えへへ~お邪魔しまーす♪」
助手席に彼女が乗り込んだ途端、座席が前にスライドしていく。
「ムギュムギュ!!?」
嫉妬の塊であるクリスの嫌がらせを見せられる持ち主は困り顔になりながら顔を手で覆う。
丈二は後ろの席に座り、尚紀は車を発進させていくのを静香達は見送ってくれる。
「私達はどうしようか…?」
「ちゃるの思いは理解出来ます。でも…あの子は無鉄砲だから些か心配ですね」
「う~、この前の港での独断行為が神子柴様に見つかって…危うく処罰問題になりかけたし…」
「今度人間社会の大事にまた時女一族の魔法少女を勝手に使っては静香といえども危ういです」
時女の行持と秘密主義を貫くヤタガラスや神子柴様の価値観は相容れないようだ。
「それでも私は神浜の人間社会のために戦った事を後悔してないわ」
「フフ、そんな静香だからこそ…私達時女一族の皆がついていくんですよ」
「ちゃるを見守ってあげたいけど私がそれやると…今度は私が行方不明者の仲間入りだと思う」
「大丈夫ですよ?だってちゃるのスマホにも追跡アプリを入れてますし、後を追えます」
「すまほって本当に便利なのね…。こっちで暫く暮らしてるけど未だに使い方知らないし…」
倉庫事務所から出てきた魔法少女達もバレないように追跡を始める。
今度の依頼案件は彼女達にとっては他人事ではない。
ヤタガラス構成員にとっては悪魔と関わる案件になっていくとは誰も想像が出来なかった。
♦
依頼人一家の元にたどり着いた3人は状況を確認する。
「夜遅くに家から外出する機会が多かった…中央学園に通っていた少女なんですね?」
「はい…あの子はいつも私達の目を盗んで夜の街に行っていたから…きっと悪い人達に!」
「その子が訪れる可能性が高いと思われる地域に何か思い当たりはありませんか?」
「東には近寄らないと思います。繁華街が好きだったから中央区の繁華街によく出かけてます」
「その子の特徴は、どんな特徴なんですか?」
「歳は14歳、髪が長い茶髪です。それにあの子はギャル文化が大好きで見た目も派手でした」
「だとすると、訪問している可能性がある店も絞れるよぉ。他に特徴的な個性はないですか?」
「そうね…カラフルな絵入りの日記を書くのが好きな子よ。文房具屋にもよく顔を出してたわ」
「ギャルの見た目だけど繊細な子…文房具屋さんもチェックチェック…」
「他にも聞きたい事がある。最近その子の周りに不審人物らしき奴らが現れたという話は?」
「あります!娘が遅くに帰ってきた時に…ヤクザみたいな人に尾行されたって怖がってました」
「ヤクザ…きな臭くなってきたな」
「お願いします!娘をどうか…見つけ出してください!!」
依頼人から情報を引き出し、それを元にして捜索範囲を話し合う。
「俺は中央区の繁華街を当たってみる」
「任せた。俺は中央区にある文房具屋をしらみつぶしにしながら聞き込みをしてみる」
「え~?じゃあ、私はギャルショップ担当の流れ…?」
「「男の俺達にとって、ああいう店は辛い」」
3人は別れていき、それぞれの捜索を開始する。
中央区にある文房具屋を一軒一軒訪れる尚紀は聞き込みを繰り返す。
「カラフルな絵日記を書く人物だとしたら…色鉛筆を豊富に揃えてある店だよな?」
スマホで店舗情報を探し、見つけた店に入っていく。
「すまない、あんたが店長か?少し聞きたい事があるんだ」
行方不明者の件について客の邪魔にならない範囲で聞き込みを開始する。
「ああ、その子はギャルな見た目をしていて特徴的だったから…よく覚えてるよ」
「その子を店で見かけた時に何か気がついた事はないか?」
「そうだな…その子と同じくこの店で色鉛筆を買う目隠れ少女と何かを話していたな」
「目隠れ少女?」
「今日も来ている。あの子だよ」
視線を横に移すと神浜市立大附属学校の制服を着た銀髪目隠れ少女を目にするだろう。
手がかりを探すために彼女にも聞き込みをしようと近寄って声をかけてみる。
「すまない、少し時間をもらえないか?」
「ヒィ!?」
男性から突然声をかけられた事にビックリした少女が床にへたり込んでしまう。
「すまない、驚かせてしまったか?」
「あ…えっと…ごめんなさい」
「謝るのは俺の方だろ?気分を悪くしたなら謝る」
「あの…大丈夫、です。何か…私に用事ですか?」
対人緊張症を抱えた少女だと察した彼は威圧的な態度をとらないよう聞き込みを行う。
「はい…その子なら私、知っています」
「友達だったのか?」
「はい…その子、梨花ちゃんと同じ学校に通う、梨花ちゃんの後輩です」
「親友の後輩か?」
「趣味が同じだからって…紹介してくれて、嬉しかった…です…はい」
目の前の子とは仲のいい人物なのだと分かった尚紀の表情は暗くなっていく。
「…落ち着いて聞いてくれ。その子は…失踪してしまったようだ」
「えっ…!?そ、そんな…つい最近会ったばかりなのに!」
気が動転している彼女をなだめながら続けて質問を繰り返す。
「その時に、その子から何かを感じた事はないか?何かを気にしていたとか、怯えていたとか」
「覚え…あります。たしか、繁華街は怖くて…行けなくなったと…言ってました」
「繁華街…その子はそこに行くのが好きだったようだが?」
「その…怖いヤクザみたいな人に、毎日のようにつけ回されて…あの子、怯えてました」
「中央区繁華街…やはりあの地域に何かあるな」
「あの…!わ、私…五十鈴れんと言います。その子…私の大切な友達…です」
「お前の大切な友達は必ず見つけ出す。怖かった彼女を笑顔で出迎えて安心させてやれ」
「…はい、分かりました。思いやりがあるお兄さんで…よかったです…はい」
文房具屋から出てきた彼は五十鈴れんという少女の正体については気が付いている。
「あいつは魔法少女だった…だとしたら捜索中の少女も魔法少女か?」
憶測の域が出ないため、尚紀は再び聞き込み捜査に戻っていく。
一方、ギャルショップに訪れている広江ちはるは慣れない店の雰囲気に飲まれている。
「派手でカラフルな服屋さんだよぉ。私はこういうギャル趣味はないから居心地が少しキツイ」
おどおどしていた彼女に近寄ってくる少女が元気に声をかけてくる。
「チョリーッス!見かけない魔法少女だけど、もしかしてギャル文化に興味ありあり?」
ちはると年齢が変わらない少女であり、見た目もギャル姿な彼女に対して困り顔を浮かべる。
「あたしが秒で服選んであげる!割とガチめがいい?テンアゲ系?」
「私には分からない言葉過ぎるよぉ~!えっと、服を買いに来たわけじゃないの」
「えっ?激萎えだけど、それなら何の用事があってギャルショップに来たの?」
事情を説明すると彼女が慌て始める。
「そんな…嘘でしょ!?あの子が失踪って…そういや最近…学校で見てないし!?」
「その子と会話をしていた時に何か思い当たる事とかなかったのか聞きたいよぉ」
「う~ん…メンディー連中にストーカーされて、繁華街からソクサリしたって言ってた」
「メンディー連中…?」
「うん、ヤクザみたいな姿しててさ…それで悩んでて…毎日メンブレしてたよ」
「繁華街…やっぱりあの変が怪しいよぉ!」
「貴女も魔法少女でしょ?あたしは中央区で魔法少女やってる綾野梨花っていうの」
「私は広江ちはる!神浜の魔法少女じゃないけどよろしくね!もしかして…行方不明の子も?」
「うん…その子も魔法少女だし…あたしの後輩。悔しい…周囲に危機感もっとけばよかった!」
「私達探偵が捜索中なんだよ。だから絶対に見つけてみせるよぉ!」
「お願い!あの子を無事に連れ戻してきて!楽しくても繁華街になんてもう行かせないから…」
梨花から切実な願いを託されたちはるがギャルショップから出てくる。
やる気を出しながら聞き込み捜査に戻っていく彼女の後方には見知った顔ぶれが隠れている。
「ちゃる…探偵のお仕事を頑張っているみたいね」
静香とすなおは電柱の裏側から彼女を見守ってくれているようだ。
「そうね…。ところですなお、ぎゃるしょっぷってなに?」
キョトンとした表情を向けてくる静香に対し、困り顔を浮かべるすなおはこう教えてくれる。
「ええと…静香が一生行くことがない場所だから……知らないほうがいいわ」
「う~、都会は訳の分からない店ばかりだし!あっ、ちゃるが移動していく」
「私達も行きましょう」
尚紀とちはる、そして2人のお供達が動き出す。
彼らが向かう先は丈二が向かった繁華街方面になっていくのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
繁華街に向かった丈二は刑事時代の経験を活かし、中学生女子が訪れそうな店舗を巡っている。
「カラオケ店、ファーストフード店、カフェも見てきたが…どうも引っ掛かりにくい」
ギャル文化をよく知らない丈二は何処を訪れているのか目星がつけにくいようだ。
喫煙場所でタバコを吸いながら考えを纏めていく。
夜を楽しむ若者が向かう娯楽施設のイメージとしてナイトクラブが思い浮かぶが頭を振る。
「中学生だぞ?まぁ、年齢を偽ってでも入りに行くアホがいるからキャッチに食い物にされる」
吸い殻の火を消していた時、ふと視線が街の風景に移る。
女子生徒の後ろをつけ回す前時代的なヤクザ達を見つけた彼の目が釘付けとなる。
「やっぱり最近の女子学生社会は…きな臭い連中に絡まれているようだな」
気が付かれないよう後ろを尾行していく。
女子生徒は後ろのヤクザ達に気が付き、足早に逃げようとするがヤクザ達も追いかける。
怖くなって走り出し、路地裏を抜けようとする女子生徒を追うためにヤクザ達も走り出す。
丈二も追跡するため走り出し、路地裏の中へと入るのだが見失ったようだ。
「あれ…いない?」
入り込む時間は左程遅れておらず、路地裏の奥の距離から見て見失うはずがない。
慎重に路地裏内を捜索していたが、突然上から声が聞こえてくる。
<<われぇ、俺らの後ろをつけ回してやがったな?サツじゃねーだろうな?>>
上を振り向けばビルの上から女子生徒を追い回していたヤクザ達が飛び降りてくる。
丈二の背後にも着地され、人通りが多い元の道には返さない布陣を敷かれてしまう。
「お前ら…あの少女を何処に連れて行きやがった?」
「さぁな、聞いてどうする?」
丈二が探す少女はビルの屋上でヤクザ達に拘束され、口を手で抑え込まれている。
<<~~~~~~ッッ!!!!>>
藻掻く彼女の隣にいるヤクザは鞄から取り出した注射器を血管に差し込み、中身を注入する。
ジエチルエーテルが血管内で急速に作用していき、彼女は意識を失ってしまう。
「最近のヤクザは随分と頑丈なんだな?この高さのビルから飛び降りて…なんともないのか?」
「ヤクザは体が資本じゃけぇのぉ」
「なら、その青白い肌をした見た目はなんだ?それに瞳まで真っ赤だぞ」
「おんどれぇ…ヤクザを嗅ぎ回るとどうなるか、身を持って知る事になるぜ?」
シシリアンマフィアを思わせる白スーツを身に纏うヤクザが黒いキャリーケースを開ける。
そこから取り出したのはマフィア映画でもよく見かけるドラムマガジン付きトミーガンだ。
「ま、マジかよ!!?」
「ヒャーハハハ!!俺は外道キラーチョッパーだ!」
自作の消音装備を施した銃口が向けられる前に丈二は一気に走り出す。
<<俺は外道キラーチョッパーだ!!俺は外道キラーチョッパーだ!!>>
何かに取り憑かれているのか、常軌を逸脱した顔つきのまま銃を『乱れ撃ち』してくる。
盛大に銃弾がばら撒かれるが狂乱しているため狙いは正確ではないようだ。
「くそっ!!刑事時代でもここまで派手に撃たれた事はねぇぞ!!」
弾を後ろからばら撒かれながらも複雑に入り組んだ路地裏を駆け抜けながら逃げ惑う。
見つけた雑居ビルの非常階段から上に逃げ、階段踊り場から下を見れば銃が向けられている。
「あ、あ、穴ァァァーーッ!!俺は!ハイカラヤクザだーーッッ!!」
「ちくしょう!交渉でどうにか出来る相手じゃねーっ!!」
「交渉!?悪魔会話か!?だが俺はぁぁぁぁ!!外道キラーチョッパーッッ!!」
階段を登る丈二に対して乱射を繰り返し、跳弾が跳ねまくる非常階段を必死に駆け上がる。
屋上まで上り、ビルの端にまで逃げたのだが行き止まりとなっている。
「くそっ…向こうのビルまで距離が離れてやがる!!」
アスリートなら走り高跳びで越えられそうだが、元刑事とはいえ飛び越えられるかは微妙だ。
「パッションがぁ!!みなぎるぜぇぇぇーーッッ!!」
屋上まで辿り着いたヤクザが丈二の背中に向けてトミーガンを構える。
「ええい…男は度胸!!生き残れたら…もうヤクザ映画は二度と見ねぇ!!」
思い切ってジャンプするのだが、結果は悲惨である。
「うわぁぁぁーーーーっ!!?」
藻掻きながら落ちていき、屋上の端にきたヤクザは下に向けて銃を構えながら引き金を引く。
「な…なんじゃこりゃァァァーーッッ!!弾切れェェェーーッッ!?」
あれだけの乱射を繰り返せばドラムマガジンでも弾切れとなるだろう。
「チッ…テンション下がった…運のいい奴だぁーーっ!!」
踵を返して走りながら大きく跳躍を繰り返し、誘拐を実行したヤクザ達の元に向かう。
一方、まともに落ちたら骨折どころでは済まなかった丈二はどうなった?
「…日頃の運動不足が祟った。飛べると思ったが…あの世まで飛んでいきそうだったぜ…」
どうやら隣のビルの裏側にあるゴミ捨て場に落下して助かっていたようだ。
「痛みで頭がクラクラする…記憶喪失にでもなりそうだ。そういえば、何で助かった?」
ゴミを調べると中身は傷んだボクシンググローブやパンチングミット等の柔らかい素材ばかり。
ゴミがクッションの役割を果たして助かったのはいいが、別のトラブルが舞い込んでくる。
<<おう!いつまでも寝てんじゃねぇ、
突然大声をかけられ、横を振り向けば仁王立ちした人物。
「おまえ誰だよ!?つーか…マジで誰ぇ!!?」
左目を眼帯で覆い、頭が禿げ上がったジムトレーナーを思わせる中年男性が仁王立ちしている。
何処かの並行世界にいるかもしれない男であるが、この世界には関係なさそうな存在であろう。
「弛んでんじゃねーぞホーク!!」
「俺はホークじゃねぇぞ!?眼帯オッサン!!」
「トーナメント決勝戦が控えてるんだからな!ヴァーチャルバトルで鍛え直してやる!!」
「トーナメントとかヴァーチャルバトルとか…何の話をしてやがる!他人の空似だ!!」
「ん?よく見たらお前…ホークじゃねぇな!?ホークはお前みたいなオッサンじゃねぇ!!」
人違いだと分かった眼帯人物はビルの裏口から中に入って消えていく。
「なんか…俺も古い記憶が蘇りそうな気がして…いや、思い出さない方がいい記憶だな…」
フラつきながらも歩き、街の表通りに出る頃には尚紀とちはるが合流してくれる。
ちなみに丈二が倒れていたビルの表通り一階部分の看板にはこう書かれているのであった。
『
♦
各々の捜査内容を纏めるため3人が集まった場所は探偵が利用するような施設ではない。
「……あのさ、ちはる」
引きつった表情をした尚紀がちはるを見る。
<<おかえりなさいませ!ご主人様!!>>
「ちはるちゃん…なんでなのか、聞いてもいいかい?」
同じく引きつった表情をした丈二もちはるを見る。
<<メイドさん!ゲームしようよ!オムライスにお絵かき対決!>>
店内から聞こえてくる声の内容からして察しがつくだろう。
「「なんで、メイド喫茶で捜査会議なんだ!?」」
3人が集まった場所とは神浜でも有名なメイド喫茶のようだ。
「宿無し探偵等々力耕一はね、外で捜査会議をする時はメイド喫茶って設定があるんだぁ♪」
((宿無しなのに、メイド喫茶で捜査会議?))
「だからね、テレビでしか見れなかったメイド喫茶で捜査会議をするのに憧れてたんだぁ♪」
ちはるが店内を見渡すと夕方ともあり盛況な店内が広がっている。
その中でも特に人気を集めているメイドさんの活躍シーンを拝見する機会に恵まれたようだ。
「なぎたーん!あれやってー!!」
「あれか、分かった」
「あーっ!待って待って!カメラ!誰か他のメイドさんに撮影お願いしてぇ!」
人だかりが生まれ、周囲を囲むせいで尚紀達からは何をやってるかは見えていない。
それでも魔力を感じ取れる尚紀はメイドの正体を見抜く事なら出来るだろう。
(どうやら、あのメイドも魔法少女のようだな)
メイドさんが背中を向け、カワイイな決めポーズを行いながら決め台詞を言い放つ。
「困りごとなら、メイドのなぎたんに…お任せ、だぞっ!」
人だかりから黄色い歓声が沸く中、ノリについていけない部外者の探偵達は項垂れるばかり。
それでも気を取り直した3人は向かい合って捜査会議を始めていく。
「2人の方はどうだった?」
「やはり中央区の繁華街が臭いな。この件にはヤクザが絡んでいる可能性が高い」
「こっちでも同じ反応だったよぉ」
「そうか。実はな…俺はそいつらの拉致現場を目撃したんだ。危うく殺されかけた…」
「えぇっ!?大丈夫だったの!?」
「大丈夫じゃなかったら、今頃俺は病院の霊安室にいるよ」
「どれぐらいの規模のヤクザだった?」
「信じられるか?こんな街中でサブマシンガンを撃ちまくるイカれた奴らだったぜ」
「よく無事だったな?しかしどうかしてるぜ…暴対法や暴排条例で締め付けられてるのに」
「俺が見た感じ、連中は正気じゃなかった。それにな…人間とは思えない身体能力をしていた」
「人間とは思えない…だと?」
「えっ…?そんな存在が私達の他にも…」
魔法少女の話が口から出かかったちはるの太腿を横の尚紀がつねりあげてくる。
「ひぎゃーーっ!?」
悲鳴を上げながらも口を噤み、彼女が魔法少女だという事を伏せる事が出来たようだ。
「俺が駆けつけた時には既に女子学生が誘拐された後だった」
「だとしたら、この繁華街付近に拉致した人物達を隠している場所があると考えるべきだ」
「グズグズしてはいられないが、これは完全な刑事事件だ。ヤクザが絡むなら尚更だ」
「じゃあ、ここから先は警察に連絡して対処してもらうの?」
「それが真っ当な探偵の判断だが…問題もあるだろうな」
「あのヤクザ共は普通じゃなかった…。警察が相手をしたところで、知れたもんじゃない」
「なら私達で救おうよ!だって探偵は…弱き人々を助けるヒーローだもん!!」
「どうする丈二?ここからは刑事事件の領域だ…民事を取り扱う俺達探偵の領分ではない…」
「先ず私人として警察に通報だ。俺達は引き続き拉致被害者が軟禁されてる場所の特定を急ぐ」
「了解だ。消息不明、行方不明は一週間が過ぎると見つかる可能性が格段に落ちるからな」
「警察と探偵の連携捜査だね!!あぁ…私は今、探偵ドラマの世界にいるよぉ!」
目を輝かせる緊張感のない者を見る探偵達は不安が滲み出た顔つきとなっていく。
捜査会議が続いていた頃、ちはるだけ頼んだ料理が厨房で出来上がっている。
しかし出来た料理を運ぶメイドさんが怪し過ぎるのだ。
<<ダタラちゃん!これを6番テーブルのご主人様にお願い!>>
<<一度聞けば判る!もう一度言え!>>
<<だから!6番テーブルだよ!!>>
<<ご主人様の喜ぶ顔を見てやるゾ!!ん?熱さが足りないぃぃーーっ!!>>
<<ちょっとダタラちゃん!?厨房に入ってきて何を…えぇーーっ!!?>>
厨房のドタバタ騒ぎが聞こえた尚紀が視線を向ける。
「そういえば、ちはるが頼んだメニューが来ないな?」
「う~…急がなきゃならないって分かってたら注文しなかったよぉ~…」
「急いで口の中に掻き込んじまえ」
ちはるの料理がメイドさん?に運ばれて来たようだが、素っ頓狂な叫びを上げてくる。
「うぉれを呼んだのは、うぉまえかぁ!!ご主人様ぁぁーーッ!!!」
妙な叫び声と共に異様な熱気が近づいてくるのを感じた3人が振り向き、目を丸くする。
「な、なんだよ…このイカれたメイドは!?」
「あのマグマの塊みたいな料理って…ちはるが頼んだ煮込みハンバーグ入りオムライスか…?」
ちはるの前に持ち運んでくる存在とは業魔殿で見かけたマッドメイドであろう。
刀鍛治師が使う火箸を用いて持ち運ばれるのは人を殺しにかかる料理。
皿まで熱せられた煮えたぎる灼熱料理を目の前に置かれたちはるは悲鳴を上げてしまう。
「熱いぃぃーーーっ!!机に置かれただけで顔が火傷しそうな熱気だよぉ!?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!うぉれは、熱いのが大好きなんだぁぁぁ~!!」
「その声はたしか…お前、ヴィクトルのところで働いてる奴か?」
気が付いてくれたのが嬉しかったのか、腰に両手を当てながらふんぞり返る。
「うぉれは、メイドのイッポンダタラ!!趣味は読書とリリアンだァァァァァ!!」
【
一つ目で一本足をした妖怪であるが、現在は人間の少女に化けている妖怪。
別名は雪入道などとも呼ばれ、雪国の山の中で一本足の足跡を残す妖怪だと言われる。
片目は存在せず、4の形を描くシールを右目に貼り付け前髪を伸ばして覆い隠しているようだ。
これは鍛冶師と深く関わる概念存在だからだろう。
鍛冶師は溶解する鉄の輝きを見続けるため片目が潰れてしまう。
金属を溶かす際に使用するふいごを踏み続けるために片足も萎えるという。
それらの事からイッポンダタラは
「えっと…コレ、私が食べないと…駄目?」
「どうだぁ!?ステキすぎて、死ぬぜぇぇぇぇぇ!!」
「私の舌が死んじゃうよぉーっ!!」
「なんでヴィクトルのところだけでなく、メイド喫茶でバイトなんてしてるんだ?」
「うぉれは、カワイイを理解したい!!みたまに勧められたから、ハイカラになりに来た!!」
(のほほん調整屋…ノリだけで災厄を周りに振り撒いてないか?だからコイツと仲いいのか?)
「うぉれはここで雇われた!!オリンピック級の活躍だぁーっ!!」
「無理無理!!こんなの食べたら私の口が死んじゃうよぉーっ!!」
「ホレ、お嬢様!熱々のうちに食えっ!!うぉまえの喜ぶ顔を見てやるゾ!!」
調子こいてるマッドメイドに近寄ってくるのは先輩メイドさんであろう。
「そこまでだ、ダタラ君」
静かに現れた先輩から突然チョークスリーパーをキメられてしまう。
「ががががが!?なぎたん先輩ぃぃーーっ!!?」
「君がご主人に喜んでもらいたくて頑張っているのは知っている」
「うぉまえ…うぉれを殺すのかぁぁぁ!?」
「そんなつもりはない。君の努力は空回りしているだけだから注意しに来たのだ」
「注意という名の制裁!!し…死にが、ハチィィィィ……終了!!」
片目が白目を向いていき、後ろに目掛けて倒れ込む。
(悪魔を絞め落とすメイド魔法少女、なぎたんか…末恐ろしい奴だな)
「申し訳なかった、ご主人達。代えの料理を用意させよう」
「あ、いえ大丈夫です!私達は急ぎの用事が出来たんで…」
「むっ?そうか…では、この料理の料金はかからないよう上に伝えておく」
探偵達は精算を済ませた後、メイド喫茶を後にする。
「現場に戻って現場検証だ。消音装備をつけていたから通報はされていないと思うが…」
「まぁ、警察が封鎖していたら他の方法を考えるしかないな」
「真実ってものは案外、近い所に転がってますからね」
「それも宿無し探偵ドラマのセリフか?」
「分かるんですか!?」
「お前はドラマのセリフを言う時は胸のバッジに話しかける癖があるからな」
「それよりちはるちゃん、捜査は深夜まで続くと思うが保護者に連絡は大丈夫か?」
「大丈夫!水徳寺の和尚さんには事情を説明してるから大目に見てもらえるよぉ」
「とんだ職場体験になっちまったが、愚痴も言わずに元気なところが心強いよ」
「行くぞ。誘拐された女子生徒の手がかりに繋がる何かがあるかもしれない」
急ぎ足で繁華街に向かう3人組の後ろではちはるの保護者を務める魔法少女達もいてくれる。
探偵に憧れる魔法少女の広江ちはるの職場体験はこれからさらに過酷となるのであった。
読んで頂き、有難うございます。