人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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99話 探偵の嘉嶋尚紀

7月の最後に起きた南凪港の事件は、世間を騒がせる大事件となる。

 

TVではチャイニーズマフィアが裏で暗躍していたのではないかと連日のように報道が続いていた。

 

静かな夜。

 

ここは関東でも有数の広域指定暴力団として知られる天堂組の総本山施設。

 

武家屋敷を思わせる内装、至る所に刀や侍甲冑が飾られている。

 

奥の座敷に向かえば、そこは天堂組の会長が過ごす私室空間。

 

そこでは、布団に寝たきりとなっている人物の姿。

 

黒い作務衣を思わせる服を着た老人は、TVを見続けていた。

 

「民間人の死者が多数出た今回の事件ですが、日本の広域指定暴力団に属する構成員の関与も…」

 

隣には、土下座をしているこの組の若頭を努めている人物の姿。

 

「申し訳ありやせん親父!!今回のシノギで…組員に大勢の犠牲者を出しちまいやした!」

 

その人物とは、南凪港で三合会との取引現場にいた若頭。

 

命からがら現場を脱出し、警察の手を逃れきったようだ。

 

「エンコ程度じゃすまねぇ!!俺は親父に申し訳ねぇ事を…落とし前をくだせぇ!!」

 

「だから言ったんや、大陸の連中なんぞを信用するなと。任侠道を蔑ろにしやがっ…ゴホッ!!」

 

病弱な会長は咳き込み、弱った体を無理やり起きあげようと藻掻くが布団に倒れ込む。

 

「だが…任侠道の時代も、わしと同じく滅びるしかねぇのかもな」

 

「親父…」

 

「グローバル化によって日本の利益は外資に吸い出されるばかり。この国は腐り果て…ゴホッ!」

 

咳き込みが酷くなり、右手を口に当てていた自分の手を老人は眺める。

 

その手には吐血の痕。

 

「…わしは怖い。子宝に恵まれず、それでも組を育ててここまできたが…病魔で死ぬ」

 

「親父…弱気にならねぇでくだせぇ」

 

「テメェは許せねぇ。落とし前はつけなきゃならねぇが…それは、次の親分の仕事かもな…」

 

広域指定暴力団、天堂組会長として知られる天堂天山。

 

その生命は既に燃え尽きようとしていた。

 

<<ドント・ウォーリー♪アナタのライフ、私ガ救ってみせますヨ!>>

 

独特な口調をした声が響く。

 

襖を開き天堂組会長の私室に現れた存在とは…。

 

「な、なんだテメェ!?親父のタマ取りに来たもんかぁ!!」

 

その人物の見た目は…あまりにも薄気味悪い。

 

長身痩躯の漆黒の肌、オールバックにした白髪の下の額には赤い五芒星のタトゥー。

 

赤いサングラスを右手で押し上げ、神父を思わせる服を着た人物。

 

もちろんこんな大胆不敵な者がヤクザの総本山に現れたなら…無事で済むはずがない。

 

「このド腐れがぁ!!土足で親父の部屋に入ってんじゃねぇーーッッ!!」

 

若い構成員が現れ、神父姿の人物を後ろから殴ろうとするのだが…。

 

「ガハッ!!」

 

黒人を思わせる人物が右足を大きく背後に向けて蹴り上げ、構成員の顔面を強打。

 

「タカシ!?野郎…何処の鉄砲玉やワレェ!!!」

 

カポエラを思わせる蹴り技を受け倒れ込んだ構成員に振り向き、両手を広げておどける姿。

 

「ソーリー。私ハ、この国に来るの初めてでス。マナーはあまリ、知りませン」

 

「親父は殺らせねぇぞ!!」

 

若頭が腰の銃を抜き、謎の神父に向けて構える。

 

後ろからも大挙して構成員たちが現れる

 

その手にはドスや刀、それに銃を握って武装していた。

 

「狼狽えてんじゃねぇ!!」

 

弱りきった体に鞭を打ち、構成員を静止させた天堂組会長の気迫。

 

「…誰や?」

 

一瞬即発の現場の中、大胆不敵な訪問者に問いかける肝の座った老人。

 

「私、シド・デイビスと申しまス。サタニズムを啓蒙する悪魔教会神父を務めておりまス」

 

「礼儀知らずのカルト外人が、ワシらのシマに何の用や?」

 

「アナタのライフ、私なら救えまス。アナタのライフを刈り取る死神ガ、私にハ…もう見えまス」

 

「…そんなデタラメを言いに、わざわざ殺されに来たとは思えねぇな」

 

「信じる者ハ、救われまス。そして星の智慧(ちえ)を崇める者ハ、もっと救われまス」

 

「星の智慧…?悪魔教会…星の知恵を崇める……まさか、テメェは!?」

 

「オー?流石でス、もう気が付かれましたカ?政財界の裏側にいる結社ヲ、よく知る人物ですネ」

 

「啓明結社…光明会のエージェントか!?」

 

「私ハ、()()()()()()()内部の神秘主義サロン、黄金の夜明け団に属する身でス」

 

――そしテ、我々フリーメイソンはイルミナティと運命共同体でス。

 

「フリーメイソン?イルミナティ?親父…秘密結社なんて都市伝説じゃ…?」

 

「実在してる。奴らは実態を掴ませず、自分達のオカルトサインを世界中で見せびらかす…」

 

――悪趣味極まった()()()()()()()()()()()だ。

 

「そんなカルト連中に怯えることないですぜ親父!礼儀知らずのコイツに今直ぐヤキ入れて…」

 

「馬鹿野郎!!イルミナティに逆らうんじゃねぇ!!組を潰したいのかぁ!!!」

 

怒鳴り散らし、咳込みながら体を起き上げようとする組長を、若頭が支える。

 

「連中はな…世界を支配出来る力を司る、金融を支配したファイナンシャルエリートの集まりだ」

 

「金融カルトなんですか…イルミナティって連中は?」

 

「BIS・IMF・世界銀行・各国中央銀行を統括する連中であり…先進国政府を支配出来る存在だ」

 

「そんな…嘘でしょ?たかが銀行組織が、世界を代表する先進国を支配出来るわけ…」

 

「銀行はな、()()()()()()()()()んだよ。第三代アメリカ大統領もそう言葉を残す程の存在だ」

 

――()()()()()を銀行に奪われたら、もう国は銀行家に滅ぶまで吸い付くされるんだ。

 

「さテ、話を戻しまス。アナタハ…死ぬのが恐ろしいですカ?」

 

「…ああ、恐ろしい。金も女も困らない生活を送ったが、それを失うのが恐ろしいんだよ…」

 

「私たち黄金の夜明け団ハ、神々の秘儀を追求する黄金の暁会。魔法や魔術の世界に身を置く者」

 

「魔法?魔術?われぇ…わしをガキ扱いして嘲笑いに…」

 

「ノーノー、実在しまス。ですガ、智慧無き者に伝わらないのハ、分かりまス」

 

「魔法とか魔術を…今直ぐテメェは、わしに見せられるっていうのかよ?」

 

「イエス。不老不死にしてあげられますガ、恐ろしいですよネ?先ずハ、実験体が必要でス」

 

シドと名乗った神父は、天堂組長を支える若頭を見る。

 

「その人物、先程オトシマエ?というのガ、必要と言ってましたネ?」

 

「親父!?こんな怪しいカルト野郎の口車になんて…乗らないですよね!?」

 

俯きながら黙り込む組長だったが…重い口を開く。

 

「……やってみせろ」

 

「イエス。それでハ、神々の秘儀…お見せしまス」

 

「嘘だろ親父ッッ!!?」

 

見捨てられたと判り、親と慕った人物を蹴り飛ばして部屋の隅に逃げ出す若頭の姿。

 

邪悪な笑みを浮かべた神父が詰め寄ってくる。

 

左手に持つ分厚い聖書を開き、中に隠して納めていた複数の銀の管の1つを取り出す。

 

「クドラク、出番でス」

 

右手で銀の管を構える。

 

銀の管の蓋が緩まっていき、中から緑色に輝く感情エネルギーが噴き出した。

 

「く、くるんじゃねぇーーっ!!!!」

 

銃を構えて撃つが、シドの手前空中で弾は止まっている。

 

彼らは魔法少女でもデビルサマナーでもない、普通の人間。

 

だからこそ、銃弾を片手で止めた悪魔の姿を目視出来ない。

 

<<ヒャーハハハ!!!久しぶりの解放だぁ!!おいシド、こいつをどうしたいってんだ?>>

 

人の形をし、黒い貴族衣装に漆黒のマントを纏う姿。

 

だが、姿はおろか声さえ人間には伝わらない。

 

「彼ニ、不老不死の恩恵を与えてくださイ」

 

<<ゲェ!?こいつの血をオレが吸えってのか!?魔法少女のような女の方が良い…>>

 

「クドラク。アナタの管ヲ、ニンニク畑に埋めてあげてもいいんですヨ?」

 

<<分かった!!それは勘弁してくれぇ!!ったく…男に吸い付く趣味はねぇのにな>>

 

空中に浮かぶ悪魔が、若頭に襲いかかる。

 

「ギャァァーーーーーッ!!!!!」

 

何に襲われているのか分からない光景に、部屋にいる全員のヤクザ達が戦慄する。

 

シドを中心に、景色の色が変わっていく。

 

「な、なんだよ…景色がおかしくなっていくぞ!?」

 

「お、おい!カシラを襲っている何かが見えてきて……ヒィィー!?なんだよアレは!!」

 

周りの景色が異界化していく。

 

「神々の秘儀、見せたからにハ…選択は2ツ。私に従うカ、死ぬかでス」

 

悪魔に血を吸われた若頭が、痙攣しながら倒れ込む。

 

体色が変化し、異形化していく。

 

「これが…不老不死の姿だと!?」

 

「テンドーさン?如何ですカ?」

 

「は…ははは!!すげぇ…すげぇじゃねーか!!これでわしも…死なずに済む!!!」

 

「不老不死にしてあげるかわりニ、仕事をお願いしたいのでス」

 

「仕事だと…?」

 

「イルミナティは現在、()()()()()に向けての準備に追われてまス。悪魔が多く必要でス」

 

「その悪魔を、大量に産み出す片棒を担げっていうのか…?」

 

「悪魔を召喚するにハ、感情エネルギーであるマグネタイトが沢山必要でス」

 

「そいつは、どうやって集めればいい?わしは不老不死になれるなら…何でもやるぞ!!」

 

「莫大な感情エネルギーを持つ者達ヲ、拉致して輸送する必要がありまス」

 

「分かった!やろうじゃねーか!!」

 

「親父っ!!あれだけ親父が愛した任侠道はどうしたんですか!!?」

 

「五月蝿ぇ!!さっきまで死ぬだけだったわしが…そんなのを今更気にしてどうする!!」

 

「人攫いにハ、沢山のストロングソルジャーがいりまス。彼らも悪魔にしてあげまス」

 

「い…嫌だ!!来るな…来るなぁぁーーッッ!!!」

 

…その日より、天堂組は変わり果てていく。

 

表向きは広域指定暴力団ではあるが…中身は既に、魔物の住処と化していた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

探偵の職務とは、主に人探しである。

 

音信不通の友人、親族や相続人、債務者や訴訟相手、ネットで知り合った人物など多岐に渡る。

 

探偵業務は特殊な調査権限は何も与えられていない。

 

探偵業者はどうすれば情報を取得できるのか、捜索出来るのかという知識を持つ情報収集のプロ。

 

そういう意味では人探しに行き詰まった場合は、探偵事務所は大きな力となってくれた。

 

神浜に探偵事務所を引っ越した聖探偵事務所は現在、ポスティング作業も終わった時期。

 

季節は既に10月に近づき、神浜で生活している者達も夏服を着ている人物はほぼ見かけない。

 

日にちが過ぎていく中、聖探偵事務所に1本の依頼電話が鳴り響く。

 

私立探偵、嘉嶋尚紀の日常が始まるのだ。

 

……………。

 

スマホの目覚ましアプリが鳴り響く。

 

起きる時間を迎えた尚紀が自室のベットから起床する。

 

「…今日も探偵としての一日が始まるな」

 

一階まで降りてきた彼が洗面台で顔を洗い、黒のトレーニングウェアに着替えていく。

 

時刻はまだ陽が昇っていない時間帯の早朝であり、職場に出かけるには早過ぎる。

 

「よし、朝飯前にいつもの日課だ」

 

トレーニングウェアのパーカーを目深く被り、スポーツシューズ履いた彼が家から出てくる。

 

森に囲まれた庭で柔軟体操と筋トレを済ませ、日課のランニングを始めていく。

 

探偵業は情報収集知識だけでなく体力も重要な資本。

 

尾行捜査においては、相手が自転車で移動しようが追いかけなければならない体力がいるのだ。

 

しかし彼は悪魔の体。

 

人間のような体力トレーニングなど必要ないが、武術家でもある。

 

「怠けたらマスターや美雨に叱られるからな。武術家の基本は心技体だ」

 

かつて怒りによって心が乱れ、力はあっても技の冴えが発揮出来なくなった経験がある。

 

心を落ち着ける効果は、体と技を鍛える過程で整える事が出来ると美雨達が教えてくれた。

 

その教えを彼は今でも守り続けている。

 

たとえ睡眠時間を削ろうとも。

 

走るような勢いでランニングを続けていく。

 

北養区を超え、参京区に入った頃には声をかけてくる者がいつも現れるのだ。

 

「尚紀さん!お早う御座います!!」

 

後ろを見れば、白いトレーニングウェアを着てランニングをしてくる人物の姿。

 

参京区にある空手道場の看板娘であり、かつて出会った魔法少女の志伸あきらだ。

 

「またお前か。俺のランニング時間にわざわざ合わせなくてもいいのに…」

 

「だって~、多忙な尚紀さんと唯一時間を合わせられるのは早朝だけだしね~」

 

「俺がいなくても、トレーニングに付き合ってくれる奴は他にもいるだろ?」

 

「えへへ~♪この時間帯なら、尚紀さんと一緒に稽古出来る時間として利用出来るもん♪」

 

「やれやれ…武道バカに稽古をせがまれるから、寝ていられる時間がまた削られたよ」

 

「まぁ、それを目的にして早起きしているのはボクだけじゃないけどね~♪」

 

「ハァ…南凪区に入る頃にはアイツも現れるんだよなぁ」

 

北から一直線に南に向かうランニングコース、南にたどり着く頃には…見知った人物が現れる。

 

「おはよう~美雨!だんだん早朝も冷えてきたね~」

 

青いトレーニングウェアを着た美雨も走ってきたようだ。

 

「今の季節の方が、私はランニングし易いネ」

 

「尚紀さんは、季節的にはどの季節が運動し易いタイプ?」

 

「そんなの気にしていない」

 

「季節を感じるのも修行の醍醐味ネ。万有の気(空気)を練り上げるのに役立つヨ」

 

気の概念思想は中国だけでなく、ギリシャやインドでも重要視されている。

 

「武道とは、自然学とも共通部分があるヨ」

 

「そういや、そんな話をニコラスから聞いたことがあるな」

 

気は希薄化すると火になり、濃密化して風・水・土という属性魔術となる。

 

近代魔術学者達は自然を重要視していたというわけだ。

 

「ボクたち武道家と魔術師達との意外な共通点があるなんてね~♪勉強になったよ」

 

「お喋りの時間じゃない。さっさとランニングを済ませようぜ」

 

「そうだね。早くランニングを終わらせて、いつもの公園で楽しい組み手~♪」

 

「今日は私が先の番ネ、あきら」

 

「え~~?ジャンケンで決めようよ美雨~?」

 

「ハァ…武道バカ達に纏わり付かれる生活も、泣けてきたよ」

 

彼女達と散打をした方が家の木人椿で鍛錬するよりも効率が良く、満更でもなかったようだ。

 

3人はいつものトレーニングを終わらせていき、陽も登る頃には彼も自宅に帰宅。

 

軽くシャワーと朝食を終えた彼は、仕事着を着ていく。

 

黒のスーツズボン、白シャツに赤ネクタイ、黒いスーツベストとなった彼が横に視線を向ける。

 

「おはようニャ~尚紀。社会人は多忙で大変そうニャ~」

 

起きる時間となった二匹の仲魔達もリビングまで降りてきたようだ。

 

「今晩も遅くなる?遅くなるなら電話をもらえたら、何か適当な食事を冷蔵庫で見つけるわ」

 

「お前らも悪魔化を自由に出来るようになって、世話の手間が省けて助かるよ」

 

「ニャルソックは、デビルニャルソックにパワーアップしたニャ!オイラ達が家を守護するニャ」

 

玄関のコート掛けにある黒いトレンチコートを上着として着た彼が家を出る。

 

右手で車のキーを回転させながら、ガレージに向かう。

 

「あのガレージも電動シャッターに改装しないとなぁ」

 

手動でガレージを開け中のクリスに乗車。

 

キーを差し込みエンジンを始動。

 

「おはよう、ダーリン♪2人だけの貴重な時間よ~」

 

「時間かぁ…社会人になってからは、時間の流れが早く感じるようになっちまった」

 

「ダーリン、オッサン臭いこと言っちゃ駄目。見た目は高校生の子供のままなんだし」

 

「…俺もどうやら魔法少女やニコラスと同じく、ずっと姿が変わらない石ころなのかもな」

 

「え~?車のアタシは便利だと思うけど、ダーリンは人間のように年老いて死にたいわけ?」

 

「それが人間らしさってもんだろ?だが……」

 

――俺達はもう…人間には戻れない。

 

陽の光が照らす世界に向けて、アクセルを踏み込む。

 

今日も明日も明後日も、私立探偵としての毎日を送るだろう彼の姿がそこにあった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……???」

 

探偵事務所に到着した尚紀が、二階事務所に出社したのはいいのだが…。

 

「えへへ~~♪お早う御座います!先輩!!」

 

出迎えてくれたのは、探偵コスプレ少女。

 

自慢の探偵バッジをつけた愛らしいケープ付きショートトレンチコートを着た広江ちはるである。

 

「……………」

 

錆びついたゼンマイのような音を立てながら、所長椅子に座る丈二に顔を向けていく。

 

「…すまん、尚紀。押し切られた」

 

聖探偵事務所の所長を務める丈二も、なんとも言えない困った表情。

 

「瑠偉…状況を説明してくれ」

 

「えっとね…私も宿無し探偵等々力耕一を目指したいから、職場体験させて欲しいって」

 

「…うちは職場体験なんて募集してない。即戦力しか募集をかけてなかっただろ?」

 

「だから、私なら即戦力になれるよぉ!…って、丈二に詰め寄ってきたわけ」

 

「…ったく、丈二は女に甘いんだよな」

 

「申し訳ねぇ…。だが、こんな愛らしい子に涙目で迫られてみろ?お前だって断れんぞ」

 

「なぁ…バツが悪そうに隠れてるお前ら。ちはるにブレーキをかけられなかったのか?」

 

視線を向けられ、机の向こう側から静香とすなおの頭がゆっくり伸びてくる。

 

「アハ…ハハ、私は止めたんですよ嘉嶋さん。迷惑になるって」

 

「ちゃるは無鉄砲なところが強いです。でも、彼女なりに社会の役に立ちたい正義感もあります」

 

「お前らがちはるに甘々なのは分かった…。しかしだな、遊びじゃないんだぞ?」

 

「私は真剣だよぉ!遊びでやるつもりなんてないし!」

 

(その愛らしい探偵コスプレ少女の見た目で言われても…説得力がねぇ)

 

「それにね…。これってさ、私の夢でもあったから…早めに経験したかったの」

 

「早めに?急がなくてもお前の実力なら、将来は立派な探偵に…」

 

「私たちってさ…大人になれるまで生きていられる保証なんて…無いし」

 

「…ちはる」

 

魔法少女は明日が約束されていない者達。

 

先を憂う彼女の言葉に、静香とすなおも俯いてしまう。

 

「だからさ、少しぐらい自分が夢見た未来の私の姿に…触れてみたかったんだぁ」

 

「彼女の意気込みは評価するし、職場体験で才能の片鱗を感じさせてくれるなら…俺も考える」

 

――将来の探偵職員候補として、ずっと席を開けておいてやるつもりだ。

 

所長の言葉を聞いたちはるは驚愕し、目が見開いていく。

 

「えっ、えっ!?今…なんて!!?」

 

「励めよ、ちはるちゃん。お前は聖探偵事務所所長が期待する…未来の探偵候補だ」

 

「ほんとに!?やった…やったぁぁぁ!!夢が叶う!!!」

 

ピョンピョンと跳ね、体全体で喜びを表現する彼女の姿。

 

そんな彼女を見て、尚紀も丈二と同じ気持ちとなれたようだった。

 

「わかった、面倒見てやる」

 

「歳も近いことだしな…良い先輩になってやれよ、尚紀」

 

「それなら、今日の朝一番にうちに来た依頼があるわよ」

 

「どんな内容だ?」

 

「行方不明者捜索の依頼ね。今回の依頼は…最近のニュースを騒がす神隠し案件みたい」

 

最近になって、関東全域で少女達の行方不明者が続出しているニュースが流れている。

 

今回の依頼内容とは、行方不明となった我が子の捜索依頼というわけだ。

 

「子供の失踪か。本人の意思で家出したのか、特異行方不明者なのかも判断がつかない案件だ」

 

「刑事事件を取り扱うだけの警察が役に立たないのも頷ける。うちの領分だな」

 

「子供だけじゃないのよ。現場近くに居合わせたと思われる男性達まで失踪しているの」

 

「民事事件を取り扱う探偵の出番ってわけさ。心配するな尚紀、今回の依頼は俺も手伝う」

 

「よ~し♪聖探偵事務所探偵チーム…出動だよ~!!」

 

コートのベージュ色と合わせた探偵らしいハンチング帽を目深く被ったちはるが先導していく。

 

勇ましく先陣を切る探偵職員候補生の背中に続くように尚紀達も事務所から出て行くようだ。

 

3人の探偵は先ず、依頼人の元に向かう事となるだろう。

 

「俺の車に乗れ」

 

「すごーい!やっぱり探偵と言えば、クラッシックカー!」

 

「見てくれよちはるちゃん!こいつの初代プリムス・フューリーの美しさを!」

 

ヴィンテージカーの素晴らしさを語るが、無視して車内に入り込むちはるの姿。

 

「えへへ~お邪魔しまーす♪」

 

助手席に彼女が乗り込んだ途端、座席が前にスライド。

 

「ムギュムギュ!!?」

 

嫉妬の塊ともいえるクリスの嫌がらせに大きな溜息をつく。

 

丈二は後ろの席に座り、尚紀は車を発進させていった。

 

「私達はどうしようか…?」

 

「ちゃるの思いは理解出来ます。でも…あの子は無鉄砲だから些か心配ですね」

 

「う~、この前の港での独断行為が神子柴様に見つかって…危うく処罰問題になりかけたし」

 

「今度人間社会の大事にまた時女一族の魔法少女を勝手に使っては、静香といえども危ういです」

 

時女の行持と、秘密主義を貫くヤタガラスや神子柴様の価値観は相容れないようだ。

 

「それでも、私は神浜の人間社会のために戦った事を後悔してないわ」

 

「フフ、そんな静香だからこそ…私たち時女一族のみんながついていくんですよ」

 

「ちゃるを見守ってあげたいけど、私がそれやると…今度は私が行方不明者の仲間入りだと思う」

 

「大丈夫ですよ?だってちゃるのスマホにも追跡アプリを入れてますし、後を追えます」

 

「すまほって本当に便利なのね…。こっちで暫く暮らしてるけど、未だに使い方知らないし」

 

倉庫事務所から出てきた2人の魔法少女も、バレないように追跡を始める。

 

今度の依頼案件は、彼女達にとっては他人事ではない。

 

ヤタガラス構成員にとっては悪魔と関わる案件になっていくとは…想像も出来なかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

依頼人一家の元にたどり着いた3人は、状況を確認する。

 

「夜遅くに家から外出する機会が多かった、中央学園に通っていた少女なんですね?」

 

「はい…。あの子はいつも私達の目を盗み夜の街に行っていたから、きっと悪い人達に!」

 

「その子が訪れる可能性が高いと思われる地域に、何か思い当たりはありませんか?」

 

「東には近寄らないと思います。繁華街が好きだったから…中央区繁華街によく出掛けてました」

 

「その子の特徴は、どんな特徴なんですか?」

 

「歳は14歳、髪が長い茶髪です。それにあの子はギャル文化が大好きで…見た目も派手でした」

 

「だとすると、訪問している可能性がある店も絞れるよぉ。他に特徴的な個性はないですか?」

 

「そうね…カラフルな絵入りの日記を書くのが好きな子よ。文房具屋にもよく顔を出していたの」

 

「ギャルの見た目だけど繊細な子…文房具屋さんもチェックチェック…」

 

「他にも聞きたいことがある。最近その子の周りに、不審人物らしき奴らが現れたという話は?」

 

「あります!あの子が夜遅くに帰ってきた時に…ヤクザみたいな人らに尾行されたって」

 

「ヤクザ…きな臭くなってきたな」

 

「お願いします!娘をどうか…見つけ出してください!!」

 

依頼人から情報を引き出し、ソレを元にして捜索範囲を話し合う。

 

「俺は中央区繁華街の方を当たってみる」

 

「任せる。俺は中央区にある文房具屋をしらみつぶしに聞き込みをしてみるぜ」

 

「え~?じゃあ、私はギャルショップ担当の流れ…?」

 

「「男の俺達にとって、ああいう店は辛い」」

 

3人は別れ、それぞれの捜索を開始。

 

中央区に複数ある文房具屋を一軒一軒聞き込みを繰り返す尚紀の方では…。

 

「カラフルな絵日記を書く人物だとしたら、色鉛筆が豊富に揃えてある店だな」

 

スマホで店舗情報を探し、その店に入る。

 

「すまない、あんたが店長か?少し聞きたいことがあるんだ」

 

行方不明者の件について、客の邪魔にならない範囲で聞き込みを開始。

 

「ああ、その子はギャルな見た目をしていて特徴的だったからよく覚えてるよ」

 

「最近、その子を店で見かけた時に何か気がついた事はないか?」

 

「そうだな…その子と同じく、この店でよく色鉛筆を買う目隠れ少女と何か話していたな」

 

「目隠れ少女?」

 

「今日も来ている。あの子だよ」

 

尚紀は視線を横に移す。

 

そこには神浜市立大附属学校の制服を着た銀髪目隠れ少女が棚を見つめている姿。

 

手がかりを探すため彼女にも聞き込みをしようと近寄っていく。

 

「すまない、少し時間をもらえないか?」

 

「ヒィ!?」

 

突然男性から声をかけられた事にビックリした少女が床にへたり込む。

 

「すまない、驚かせてしまったか?」

 

「あ…えっと…ごめんなさい」

 

「謝るのは俺の方だろ?気分を悪くしたなら謝る」

 

「あの…大丈夫、です。何か…私に用事ですか?」

 

対人緊張症を抱えた臆病な少女だと彼は察する。

 

威圧的な態度をとらないよう注意して聞き込みを開始。

 

「はい…その子なら私、知っています」

 

「友達だったのか?」

 

「はい…その子、梨花ちゃんと同じ学校に通う、梨花ちゃんの後輩です」

 

「親友の後輩か?」

 

「趣味が同じだからって…紹介してくれて、嬉しかった…です…はい」

 

目の前の子とは仲の良い人物だったようだ。

 

だからこそ、尚紀の表情も暗くなる。

 

「…心を落ち着けて聞いてくれ。その子は…失踪してしまったようだ」

 

「えっ…!?そ、そんな…つい最近会ったばかりなのに!」

 

気が動転している彼女をなだめ、続けて質問を繰り返す。

 

「その時に、その子から何か感じた事はないか?何かを気にしていたとか、怯えていたとか」

 

「覚え…あります。たしか、繁華街は…怖くて行けなくなったと…言ってました」

 

「繁華街…その子はそこに行くのが好きだったようだが?」

 

「その…怖いヤクザみたいな人に、毎日のようにつけ回されて…あの子、怯えてました」

 

「中央区繁華街…やはりあの地域に何かあるな」

 

「あの…!わ、私…五十鈴れんと言います。その子…私の大切な友達…です」

 

「お前の大切な友達は必ず見つけ出す。怖かっただろう彼女を…笑顔で出迎えて安心させてやれ」

 

「…はい、分かりました。思いやりがあるお兄さんで…よかったです…はい」

 

文房具屋から出てきた彼が呟く。

 

「あいつ、魔法少女だった…。だとしたら、捜索中の少女も魔法少女?」

 

憶測の域が出ないため、尚紀は再び聞き込み捜査に戻っていった。

 

一方、所変わってギャルショップに訪れていたちはるの方はというと…。

 

「派手でカラフルな服屋さんだよぉ。私はこういうギャル趣味は無いから…居心地が少しキツイ」

 

おどおどしていた彼女に向けて、元気な声をかけてくる人物が現れる。

 

「チョリーッス!見かけない魔法少女だけど、もしかしてギャル文化に興味ありあり?」

 

見ればちはると左程年齢が変わらない少女だったようだ。

 

見た目もギャルのような印象を受け、ちはるも少し困り顔。

 

「あたしが秒で服選んであげる!割とガチめが良い?テンアゲ系?」

 

「私には分からない言葉過ぎるよぉ~!えっと、服を買いに来たわけじゃないの」

 

「えっ?激萎えだけど、それなら何の用事があってギャルショップに来たの?」

 

事情を説明すると、彼女が慌て始める。

 

「そんな…嘘でしょ!?あの子が失踪って…そういや最近学校で見てないし!?」

 

「最近その子と会話をしている時に、何か思い当たる事とか無かったか聞きたいよぉ」

 

「う~ん…メンディー連中にストーカーされて繁華街からソクサリしたって言ってた」

 

「メンディー連中…?」

 

「うん、ヤクザみたいな姿しててさ。それで悩んでて…毎日メンブレしてたよ」

 

「繁華街…やっぱりあの変が怪しいよぉ!」

 

「貴女も魔法少女でしょ?あたしは中央区で魔法少女やってる綾野梨花っていうの」

 

「私は広江ちはる!神浜の魔法少女じゃないけど、よろしくね!もしかして…行方不明の子も?」

 

「うん…その子も魔法少女だし…あたしの後輩。悔しい…周囲に危機感もっとけばよかった!」

 

「私たち探偵が捜索中なんだよ。だから絶対に見つけてみせるよぉ!」

 

「お願い!あの子を無事連れ戻してきて!楽しくても繁華街になんてもう行かせないから…」

 

梨花から切実な願いを託されたちはるがギャルショップから出てくる。

 

やる気を出しながら聞き込み捜査に戻っていく彼女の後方には見知った顔ぶれ。

 

彼女が立つ道の後方に並ぶ電柱裏側には、ちはるの保護者達がいた。

 

「ちゃる…探偵のお仕事頑張っているみたいね」

 

静香とすなおは電柱の裏側から彼女を見守ってくれていたようだ。

 

「そうね…。ところですなお、ぎゃるしょっぷってなに?」

 

キョトンとした表情を向けてくる静香を見て、すなおは何回目になるか分からない溜息を出す。

 

「ええと…静香が一生行くことがない場所だから、知らないほうがいいわ」

 

「う~、都会は訳のわからない店ばかりだし!あ、ちはるが移動していく」

 

「私達も行きましょう」

 

尚紀とちはる、そして2人のお供達が動き出す。

 

どうやら丈二が向かった繁華街の方へと向かうこととなっていくようであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

繁華街に向かった丈二は刑事時代の経験を活かし、中学生女子が訪れそうな店舗を巡っている。

 

「カラオケ店、ファーストフード店、カフェも見てきたが…どうも引っ掛かりにくい」

 

ギャル文化をよく知らない丈二は、何処を訪れているのか目星がつけにくいようだ。

 

喫煙場所でタバコを吸いながら考えをまとめていく。

 

夜を楽しむ若者が訪れたい娯楽施設のイメージとしてナイトクラブが思い浮かぶが…頭を振る。

 

「中学生だぞ?まぁ、年齢を偽ってでも入りに行くアホがいるから、キャッチに食い物にされる」

 

吸い殻の火を消していた時、ふと視線が街の風景に移る。

 

1人の女子生徒の後ろをつけ回す、前時代的な身なりをした数人のヤクザ達が見える。

 

「…やっぱり最近の女子学生社会は、きな臭い連中に絡まれているようだ」

 

気が付かれないように後ろから尾行を開始。

 

女子生徒は後ろのヤクザ達に気が付き、足早に逃げようとするがヤクザ達も追いかける。

 

怖くなって走り出し、路地裏を抜けようとする女子生徒を追うためヤクザ達も走り出す。

 

丈二も追跡するために走り出し、路地裏の中へと入るのだが…。

 

「あれ…いない?」

 

入り込む時間は左程遅れておらず、この路地裏奥の距離から見て見失うはずがない。

 

慎重に路地裏内を捜索していたが…突然上から声が聞こえてくる。

 

<<われぇ、俺らの後ろをつけ回してやがったな?サツじゃねーだろうな?>>

 

上を振り向けばビルの上から落下してくる存在。

 

現れたのは女子生徒を追い回していたヤクザ達だ。

 

丈二の背後にも着地され、人通りが多い元の道には返さない構え。

 

「お前ら…あの少女を何処に連れて行きやがった?」

 

「さぁな、聞いてどうする?」

 

丈二が探すその少女はというと…。

 

<<~~~~~~ッッ!!!!>>

 

ビルの屋上でヤクザに背後から捕まえられ、口を手で抑え込まれている状態だ。

 

藻掻く彼女に隣のヤクザは、鞄から取り出した注射を血管に差し込み中身を入れていく。

 

ジエチルエーテルが血管内で急速に作用していき、彼女は意識を失っていった。

 

「最近のヤクザは随分と頑丈なんだな?この高さのビルから飛び降りて…なんともないのかよ?」

 

「ヤクザは体が資本じゃけぇのぉ」

 

「なら、その青白い肌をした見た目はなんだ?それに瞳まで真っ赤だぞ」

 

「おんどれぇ…ヤクザを嗅ぎ回るとどうなるか、身を持って知る事になるぜ?」

 

シシリアンマフィアを思わせる白スーツを身に纏う1人が黒いキャリーケースを開ける。

 

そこから取り出したのは…マフィア映画でもよく見かけるドラムマガジン付きトミーガン。

 

「ま、マジかよ!!?」

 

「ヒャーハハハ!!俺は外道キラーチョッパーだ!」

 

自作の消音装備を施した銃口が向けられる前に、丈二は一気に走り出す。

 

<<俺は外道キラーチョッパーだ!!俺は外道キラーチョッパーだ!!!>>

 

何かに取り憑かれているのか、常軌を逸した顔つきで銃を『乱れ撃ち』してくる。

 

弾がばら撒かれるが、狙いが正確ではないのが幸いだ。

 

「くそっ!!刑事時代でも、ここまで派手に撃たれた事はねぇぞ!!」

 

弾を後ろからばら撒かれながらも、複雑に入り組んだ路地裏を突き進み逃げ惑う。

 

彼を追うヤクザ達も後ろから迫りくる。

 

見つけた雑居ビルの非常階段から上に逃げ、階段踊り場から下を見れば銃が向けられている。

 

「あ、あ、穴ァァァーーッ!!!俺は!ハイカラヤクザだァァ!!」

 

「ちくしょう!交渉でどうにか出来る相手じゃねーっ!!」

 

「交渉!?悪魔会話か!?だが俺はぁぁぁぁ!!外道キラーチョッパーッッ!!!」

 

上に登る丈二に次々と乱射を繰り返し、跳弾が跳ねまくる非常階段を必死に上がる。

 

屋上まで上り、ビルの端にまで逃げたのだが…行き止まりだ。

 

「くそっ…向こうのビルまで距離が離れてやがる!!」

 

アスリートなら走り高跳びで越えられそうだが、元刑事とはいえ飛び越えられるかは微妙。

 

「パッションがぁ!!みなぎるぜぇぇぇーーッッ!!!」

 

屋上まで辿り着いたヤクザが、トミーガンを丈二の背中に向けて構える。

 

「ええいっ!!男は度胸!!生き残れたらもう…ヤクザ映画は二度と見ねぇ!!!」

 

思い切ってジャンプしたようだが…。

 

「うわぁぁぁーーーーっ!!?」

 

藻掻きながら下に落ちていくだけであった。

 

屋上端までやってきたヤクザは下に向けて銃を構え、引き金を引く。

 

「な…なんじゃこりゃァァァーーッッ!!弾切れェェェーーーッ!!?」

 

あれだけの乱射を繰り返せば、ドラムマガジンでも弾切れとなるだろう。

 

「チッ…テンション下がった…運のいい奴だぁーーっ!!」

 

踵を返して走りながら大きく跳躍を繰り返し、誘拐を実行したヤクザ達の元に向かう姿。

 

一方、この高さでまともに落ちたら骨折どころでは済まなかった丈二はというと…。

 

「…日頃の運動不足が祟った。飛べると思ったが…あの世まで飛んでいきそうだったぜ」

 

見れば、隣のビルの裏側にあるゴミ捨て場に落下して助かったようだ。

 

「痛みで頭がクラクラする…記憶喪失にでもなりそうだ。そういえば、何で助かった?」

 

ゴミ袋の中身を調べてみる。

 

中身は傷んだボクシンググローブやパンチングミット等の柔らかい素材。

 

ゴミがクッションの役割を果たして助かったのは良いのだが…。

 

<<おう!いつまでもねてんじゃねぇホーク!!早く起きな!ぐずぐずすんな!!>>

 

突然大声をかけられ、横を振り向けば仁王立ちした人物。

 

「おまえ誰だよ!?つーか…マジで誰ぇ!!?」

 

左目を眼帯で覆い、頭が禿げ上がったジムトレーナーを思わせる中年男性の姿。

 

何処かの並行世界にいるかもしれない男だが…この世界には関係なさそうな存在だ。

 

「弛んでんじゃねーぞ()()()!!」

 

「俺はホークじゃねぇぞ!?眼帯オッサン!!」

 

「トーナメント決勝戦が控えてるんだからな!ヴァーチャルバトルで鍛え直してやる!!」

 

「トーナメントとかヴァーチャルバトルとか…何の話をしてやがる!()()()()()だ!!」

 

「ん?よく見たらお前、ホークじゃねぇな!?ホークはお前みたいなオッサンじゃねぇ!!」

 

人違いだと分かった眼帯人物はビルの裏口から中に入り消えていく。

 

「なんか、俺も古い記憶が蘇りそうな気がして…いや、思い出さない方がいい記憶だな」

 

フラつきながら歩き、街の表通りに出る頃には尚紀とちはるが合流してくれたようだ。

 

ちなみに、丈二が倒れていたビルの表通り一階部分の看板には…こう書かれていた。

 

『岡本ジム』

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

各々の捜索内容を纏めるため、現在3人が集まった場所…なのだが。

 

「……あのさ、ちはる」

 

引きつった表情をして、ちはるを見る。

 

<<おかえりなさいませ!ご主人様!!>>

 

「ちはるちゃん…なんでなのか、聞いてもいいかい?」

 

同じく引きつった表情をしてちはるを見る。

 

<<メイドさん!ゲームしようよ!オムライスにお絵かき対決!>>

 

店内から聞こえてくる声の内容からすれば察しがつくだろう。

 

「「なんで、メイド喫茶で捜査会議なんだ!?」」

 

3人が集まった場所とは、神浜でも有名なメイド喫茶であった。

 

「宿無し探偵等々力耕一はね、外で捜査会議をする時はメイド喫茶って設定があるんだぁ♪」

 

((宿無しなのに、メイド喫茶で捜査会議???))

 

「だからね、TVの世界でしか見れなかったメイド喫茶で捜査会議するのに、憧れてたんだぁ♪」

 

ちはるが店内を見渡す。

 

夕方ともあり、学生の姿も見られる盛況な店内。

 

その中でも、特に人気を集めているメイドさんの活躍シーンを拝見する機会に恵まれた。

 

「なぎたーん!あれやってー!!」

 

「あれか、分かった」

 

「あーっ!待って待って!カメラ!誰か他のメイドさんに撮影お願いしてぇ!」

 

人だかりが産まれ、周囲を客で囲まれてしまう光景。

 

こちら側から何をやっているかは確認出来ない。

 

それでも魔力を感じ取れる尚紀は、彼女の正体を察する事ぐらいは出来る。

 

(どうやら、あのメイドも魔法少女のようだな)

 

背中を向け、カワイイな決めポーズ!

 

「困りごとなら、メイドのなぎたんに…お任せ、だぞっ!」

 

人だかりから黄色い歓声が響く。

 

ノリについていけない部外者のような2人は項垂れるばかり。

 

店の雰囲気はついていけないが、気を取り直した3人は向かい合う。

 

「まぁいい、喧しいけど捜査会議を始めよう」

 

「2人の方はどうだった?」

 

「やはり中央区の繁華街が臭いな。この件にはヤクザが絡んでいる可能性が高い」

 

「こっちでも同じ反応だったよぉ」

 

「そうか。実はな…俺はそいつらの拉致現場を目撃したんだ。危うく殺されかけた」

 

「えぇっ!?大丈夫だったの!?」

 

「大丈夫じゃなかったら、今頃俺は病院の霊安室にいるよ」

 

「どれぐらいの規模のヤクザだった?」

 

「信じられるか?こんな街中でサブマシンガンを撃ちまくる…イカれた奴らだったぜ」

 

「よく無事だったな?しかしどうかしてるぜ…暴対法や暴排条例で締め付けられてるのに」

 

「俺が見た感じ、連中は正気じゃなかった。それにな…人間とは思えない身体能力をしていた」

 

「人間とは思えない…だと?」

 

「えっ…?そんな存在が私達の他にも…」

 

魔法少女の話が口から出かかったちはるの太腿を横の尚紀がつねりあげてくる。

 

「ひぎゃーーっ!?」

 

悲鳴を上げながらも口を噤み、彼女が魔法少女だということを伏せる事が出来た。

 

「俺が駆けつけた時には既に、女子学生が攫われた後だった」

 

「だとしたら、この繁華街付近に拉致した人物達を隠している場所があると考えるべきだ」

 

「グズグズしてはいられないが、これは完全な刑事事件だ。ヤクザが絡むなら尚更だ」

 

「じゃあ、ここから先は警察に連絡して対処してもらうの?」

 

「それが真っ当な探偵の判断だが…問題があるだろうな」

 

「あのヤクザ共は普通じゃなかった…。警察が相手をしたところで、知れたもんじゃない」

 

「なら私達で救おうよ!だって探偵は…弱き人々を助けるヒーローだもん!!」

 

「どうする丈二?ここからは刑事事件の領域だが、民事を取り扱う俺たち探偵の領分ではない」

 

「先ず警察に私人として通報だ。俺達は引き続き拉致被害者が軟禁されている場所の特定を急ぐ」

 

「了解だ。消息不明、行方不明は一週間が過ぎると見つかる可能性が格段に落ちるからな」

 

「警察と探偵の連携捜査だね!!あぁ…私は今、探偵ドラマの世界にいるよぉ!」

 

目を輝かせる緊張感の無い者を見て、2人は大きく溜息をついた。

 

捜査会議が続いていた頃、ちはるだけ頼んだメイド喫茶料理が厨房で出来上がったようだ。

 

しかし、出来た料理を運ぶメイドさんが怪し過ぎるのだ。

 

<<ダタラちゃん!これを6番テーブルのご主人様にお願い!>>

 

<<一度聞けば判る!もう一度言え!>>

 

<<だから!6番テーブルだよ!!>>

 

<<ご主人様の喜ぶ顔を見てやるゾ!!ん?熱さが足りないぃぃーーっ!!>>

 

<<ちょっとダタラちゃん!?厨房に入ってきて何を…えぇーーっ!!?>>

 

厨房のドタバタ騒ぎが聞こえた尚紀が視線を厨房に向ける。

 

「そういえば、ちはるが頼んだメニューが来ないな?」

 

「う~…急がなきゃならないって分かってたら、注文しなかったよぉ~」

 

「急いで口の中に掻き込んじまえ」

 

ようやくちはるの料理がメイドさん?に運ばれて来たようだが…。

 

「うぉれを呼んだのは、うぉまえかぁ!!ご主人様ぁぁーーッ!!!」

 

妙な叫び声と共に異様な熱気が近づいてくるのを感じた3人が振り向いて、目を丸くする。

 

「な、なんだよ…このイカれたメイドは!?」

 

「…あのマグマの塊みたいな料理、ちはるが頼んだ煮込みハンバーグ入りオムライスか?」

 

ちはるの前に持ち運んでくる存在とは、業魔殿で見かけたマッドメイド。

 

刀鍛治師が使う火箸を用いて持ち運ばれるのは、人を殺しにかかる料理。

 

皿まで熱せられた煮えたぎる灼熱料理である。

 

「熱いぃぃーーーっ!!机に置かれただけで顔が火傷しそうな熱気だよぉ!?」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!うぉれは、熱いのが大好きなんだぁぁぁ~!!」

 

「その声はたしか…お前、ヴィクトルのところで働いている奴か?」

 

気が付いてくれたのが嬉しかったのか、腰に両手を当ててふんぞり返る。

 

「うぉれは、メイドのイッポンダタラ!!趣味は読書とリリアンだァァァァァ!!」

 

【一本踏鞴(イッポンダタラ)】

 

一つ目で一本足をした妖怪であるが、現在は人間の少女に化けている妖怪。

 

別名雪入道などとも呼ばれ、雪国の山の中で一本足の足跡を残す妖怪だと言われる。

 

片目は存在せず、4の形を描くシールを右目に貼り付け前髪を伸ばして覆い隠しているようだ。

 

これは鍛冶師と深く関わる概念存在だからだろう。

 

鍛冶師は溶解する鉄の輝きを見続けるため片目が潰れてしまう。

 

金属を溶かす際に使用する鞴(ふいご)を踏み続けるために片足も萎えるという。

 

それらの事から、イッポンダタラは一つ目の鍛冶神と考えられている。

 

天目一箇神(あめのまひとつのかみ)の零落した姿であると伝わっていた。

 

「えっと…コレ、私が食べないと…駄目?」

 

「どうだぁ!?ステキすぎて、死ぬぜぇぇぇぇぇ!!!」

 

「私の舌が死んじゃうよぉーーっ!!!」

 

「なんでヴィクトルのところだけでなく、メイド喫茶でバイトなんてしてるんだ?」

 

「うぉれは、カワイイを理解したい!!みたまに勧められたから、ハイカラになりに来た!!」

 

(のほほん調整屋…ノリだけで災厄を周りに振り撒いてないか?だからコイツと仲が良いのか?)

 

「うぉれはここで雇われた!!オリンピック級の活躍だぁーっ!!!」

 

「無理無理!!こんなの食べたら私の口が死んじゃうよぉーーっ!!!」

 

「ホレ、お嬢様!熱々のうちに食えっ!!うぉまえの喜ぶ顔を見てやるゾ!!」

 

調子こいているマッドメイドの元に近寄ってくる1人のメイド姿。

 

「そこまでだ、ダタラ君」

 

突然後ろからチョークスリーパーをキメて首を締め上げる。

 

「ががががが!?なぎたん先輩ぃぃーーっ!!!?」

 

後ろを見れば、先程周りを賑わせていたメイド人物である。

 

「君がご主人に喜んで貰いたくて頑張っているのは知っている」

 

「うぉまえ…うぉれを殺すのかぁぁぁ!?」

 

「そんなつもりはない。君の努力は空回りしているだけだから注意しに来たのだ」

 

「注意という名の制裁…!し…死にが、ハチィィィィ……終了!!」

 

片目が白目を向き、後ろに倒れ込んだ。

 

(悪魔を絞め落とすメイド魔法少女、なぎたんか…末恐ろしい奴だな)

 

「申し訳なかった、ご主人達。代えの料理を用意させよう」

 

「あ、いえ大丈夫です!私達は急ぎの用事が出来たんで…」

 

「むっ?そうか…では、この料理の料金はかからないように上に伝えておく」

 

3人は精算を済ませ、メイド喫茶を後にする。

 

「現場に戻って現場検証だ。消音装備をつけていたから通報はされていないと思うが…」

 

「まぁ、警察が封鎖していたら他の方法を考えるしかないな」

 

「真実ってものは案外、近い所に転がってますからね」

 

「それも宿無し探偵ドラマのセリフか?」

 

「分かるんですか!?」

 

「お前はドラマのセリフを言う時は、その胸のバッジに話しかける癖があるからな」

 

「それよりちはるちゃん。捜査は深夜まで続くと思うが、保護者に連絡は大丈夫か?」

 

「大丈夫!水徳寺の和尚さんには事情を説明してるから、大目に見てもらえるよぉ」

 

「とんだ職場体験になっちまったが、愚痴も言わずに元気なところが心強いよ」

 

「行くぞ。攫われた女子生徒の手がかりに繋がる何かがあるかもしれない」

 

急ぎ足で繁華街に向かう3人組。

 

彼らの後ろには、ちはるの保護者をやっている魔法少女達の姿もあった。

 




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