人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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100話 探偵事務所

中央区繁華街に戻ってきた3人は、丈二が襲われた路地裏に向かう。

 

「まだ警察の初動捜査は入っていないようだな」

 

「みたいだな。警察本部には既に通報しているし、直ぐに機動捜査隊連中が来る」

 

「その前に、出来る限り情報を集めるよぉ」

 

陽も沈み始めて薄暗い路地裏の中に入っていく。

 

「よ~し!私の探偵グッズの出番だよぉ~♪」

 

腰のポーチから取り出したのは、警察の鑑識員が使うような道具の数々。

 

愛用の虫眼鏡とLED懐中電灯を使い、現場の中で行方不明者とヤクザに関する情報を調べだす。

 

「おいおい、本格的な捜査をやっているヒマはないぞ?」

 

警察が現場に向かっている中、現場検証を勝手にやっている状態であり褒められる行為ではない。

 

「手分けして探そう。警察のサイレンが聞こえだしたらトンズラしようぜ」

 

「う~~…ドラマなら警察の人と協力して現場検証するんだけどね…」

 

手分けして路地裏内を捜索しているとちはるが大声を上げてくる。

 

「あっ!ねぇねぇ2人ともーっ!こっちに来てー!」

 

ちはるの元に走ってきた2人が目にしたものとは…。

 

「こいつは、攫われた女子学生の鞄か?」

 

「ちゃんと手袋をして現場の品に触れているようで安心した。流石だな」

 

「現場を荒らす行為は最小限にしないとね。見て、中は物色されたような形跡はないよぉ」

 

「中には何が入っている?」

 

「運動着や教科書、それに財布やスマホが入っているみたい」

 

「スマホと財布か。個人情報を勝手に検めるのはご法度だが、持ち主の命がかかっている」

 

「学生証もあるぜ。スマホのパスワードに使えるかも知れない」

 

学生証に記載された誕生日を暗証番号として入力すると、スマホ画面が開いたようだ。

 

「運が良かったな。若い娘だったし、親が心配してGPS追跡アプリを入れてるかもしれない」

 

「入れてるみたいだ。だが、スマホがここにあっては本人を追跡するのには使えない」

 

「追跡アプリを入れるぐらい防犯意識が高いなら、服の中に何かGPS端末を隠しているかも?」

 

「見ろ。子ども用GPS端末アプリもある。電話機能の無い単機能タイプの位置把握アプリだ」

 

「ビンゴ。位置情報が出てきたな…どうやら、連中の潜伏先は中央区隣の工匠区付近だ」

 

「警察車両のサイレンが聞こえてきた…そろそろズラかるぞ」

 

「えっと、鞄は現場に戻しておくとして、スマホはどうしよう?」

 

「位置情報は確認したが、潜伏先を移動する可能性もある。俺たちで持ち主に返しに行くか」

 

3人は急いで現場から離れ、行方不明者の追跡を開始。

 

だが、気になることがある。

 

静香とすなおの2人が、3人の近くにいないのだ。

 

3人が路地裏に入るよりも少し前の時間。

 

<静香。カーブミラーを使って後ろを見て>

 

<あの連中…ずっと私たちをつけ回してくるわね>

 

2人の後をつけ回しているのは、複数のヤクザ達。

 

<諦める気配はない。走って逃げます?>

 

<あそこの路地裏に行きましょう。見た感じ、カタギじゃなさそうだし遠慮はいらないわ>

 

ビルとビルとの間の奥に進み、非常階段の骨組みやゴミ箱が散乱した路地裏内に入る。

 

既に陽も沈みかけ、辺り一面は不気味なほどに暗い。

 

「何で私達を追い回すのか、理由を聞いてもいいかしら?」

 

「ほう?度胸が据わったお嬢ちゃん共だ。たいていの小娘は怖くなって逃げるんじゃがのぉ」

 

「褒めても何も出ないわよ」

 

「もっともそれは、俺たちがちょいと細工をしているんだがなぁ」

 

「私達はヤクザに狙われるような事をした覚えはありませんが?」

 

「ククク、別に恨みがあって追っているわけじゃないんじゃが…」

 

「私達をどうする気?返答しだいじゃ、容赦はしないわよ」

 

「俺らはな、魔法少女って小娘共が必要なんだよ。お前ら運がなかったな」

 

「わ…私達の正体を知っているの!?」

 

「ヤクザを恐れない態度、そして度胸。可愛いお嬢ちゃんだが…どうやら油断出来ねぇな」

 

ヤクザ達の赤い瞳が瞬膜となる。

 

それと同時に、周囲の景色が異界化してゆく。

 

「こ…これは結界!?悪鬼の結界とは光景が違うわ!?」

 

「これが…ヤタガラス退魔師でもある神子柴様が言っていた、異界と呼ばれる世界なの!?」

 

人の姿をしていたヤクザ達の体が膨張し、霧を体から撒き散らしながら異形化してゆく。

 

「静香!!これは本来、私たち巫が相手をするべき存在ではありませんが…!」

 

「ええ!やらなければ…こちらがやられる!!」

 

2人は左手からソウルジェムを生み出し、魔法少女の姿となる。

 

霧の中から現れ出た、ヤクザたちの変わり果てた姿とは?

 

「人間の姿しか見せない嘉嶋さんも…こんな化け物みたいな姿になるのですか?」

 

「これが…ヤタガラスの退魔師が私たち巫に代わり、古より戦ってきた霊的驚異…!」

 

――悪魔ッ!!!

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【ストリゴイイ】

 

ルーマニアの死せる吸血鬼と呼ばれ、ドラキュラや西洋吸血鬼のオリジナル。

 

赤髪碧眼で二つの心臓を持つと言われている

 

自殺者、魔女、犯罪者、偽証者など、真っ当でない人間が死後ストリゴイイになりやすいという。

 

ストリゴイイは、あの世に行けなかった死者が墓から起き上がった存在。

 

死んでから最初の40日間、墓から起き上がったストリゴイイは、血を求めて彷徨う。

 

元々は人間なのだから姿も人間であり、家族の元に帰っては襲いかかる存在と呼ばれた。

 

「まるで…人の姿をした赤髪の獣よ!!」

 

「悪魔が何故、私たち魔法少女を狙うのか…理由を聞いてもいいですか?」

 

「シド様や親父に命令されてんだが…あぁ、美しい…美しいじゃねぇかテメェら」

 

「な、何よ…褒めても容赦しないからね!」

 

「血が…テメェらの血が飲みたい!悪魔の姿になったら…衝動が抑えられねぇ!!」

 

「私達の血を飲みたいですって!?」

 

「心配すんな…俺達は親父やカシラのように、仲魔を増やす力はねぇからな」

 

ストリゴイイは40日が過ぎたら、モロイというゾンビになると言われている。

 

シドにとっては彼らなど使い捨てなのだ。

 

吸血鬼の牙を見せながら、ヨダレを垂らして可憐な魔法少女に興奮する悪魔達の禍々しい姿。

 

「だからよぉ…理性がある内に少しぐらい、楽しんでもいいよなぁ!!?」

 

「来るわよ静香!!」

 

「迎え討つしかない!!」

 

すなおは右手をかざし、自身の魔法武器である黄色いリボンで飾った水晶を生み出す。

 

「調整で強くなった私達の力…見せてあげる!」

 

剣の柄を握るように両手を合わせ生み出した魔法武器、それは()()()を思わせる。

 

七支刀とは、奈良県天理市の石上神宮に伝来した古代の鉄剣であり、6本の枝刃を持つ特異な形。

 

石上神宮に伝わった本物ではないにしろ、武器として扱える代物ではないのだが?

 

「すなお!時間を稼いで!!」

 

両目を瞑り祈祷を行う。

 

祈祷とは神様に願いを祈り、捧げるための儀式。

 

「何をやるのかしらねぇが…血を吸わせやがれぇぇぇーーッッ!!」

 

一斉に悪魔たちが飛びかかる。

 

「やらせません!光って!!」

 

水晶を頭上に掲げる。

 

水晶玉が光を放ち衝撃波が生み出され、悪魔たちの飛びかかりを弾き飛ばす。

 

「なんだこの力は!?悪魔の力とは違う…これが魔法少女と呼ばれる連中の魔法!?」

 

「はぁぁぁっ!!」

 

静香の両目がカッと開かれ、目の前に掲げた七支刀が業火を放ち始める。

 

「炎の属性魔法が使えるのか!?炎は…俺達には不味い!!!」

 

七支刀を振るい、悪魔にめがけて火球が撃ち出される。

 

だが悪魔たちは飛び上がり、周りの地形を巧みに使う俊敏なステップ移動を繰り返し避ける。

 

「俺達のキリングステップを味わうがいいぜぇぇ!!ヒャーハハハ!!!」

 

両手から鋭い鉤爪を伸ばし、獲物を引き裂き血を啜らんと迫りくる。

 

「私の退魔を司る炎の力…悪鬼である魔獣でなかろうが、滅ぼしてみせる!」

 

七支刀の先端を地面に突き立てれば、彼女たちを守る業火の壁とも言える炎の柱が噴き出す。

 

<<ギャァァァーーーッ!!!>>

 

数体の悪魔が炎の柱に飛び込んでしまい、炎に飛び込む蛾のように燃え上がり滅びる。

 

「効いたわ!!魔法少女の魔法の力は悪魔にも通じるわね!」

 

「ちくしょう…こいつら手練だ!ならよぉ…俺らも悪魔の魔法を見せてやる!!」

 

一体の悪魔の赤き目が瞬膜となり、すなおの両目と合わさる。

 

「えっ…?な、なに…これは……ヒィィィッ!!?」

 

「どうしたのすなお!?しっかりして!!」

 

突然動揺してPANIC状態となってしまい、地面に蹲るすなお。

 

人間の精神に状態異常を起こさせる悪魔の魔法『シパニ』が効いたようだ。

 

静香にはそうは見えないが、今の彼女が見えている自分の姿は…()()()()()

 

「あ…ああ…いや…嫌ぁぁぁーーっ!!!」

 

自分の両手を見れば、まだ温もりさえ感じる鮮血で濡れる。

 

<<やるんだよ、すなお>>

 

「神子柴…さま……」

 

<<それがお前さんの役目。日の本の役に立たない力無き巫は、ヤタガラスには必要ない人材>>

 

「しっかりしてすなお!?」

 

<<よく出来たねぇ。いつ死ぬかと怯えて暮らすより、楽に死なせてやるのが慈悲というもの>>

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…!!」

 

<<いつもの通り、遺体は川に捨てておくんだよ>>

 

<<わしの可愛い悪魔も、ソウルジェムを喰えて喜んでおるわ…クックックッ>>

 

酷い幻覚と幻聴に苛まれ、地面に蹲ったまま藻掻き苦しむ。

 

「後はそいつだけだ!!炎を出される前に仕留めろ!!!」

 

キリングステップを駆使し、左右のビルを跳ねながら跳躍し続けて静香に飛びかかる。

 

「異界と呼ばれる結界世界が、現実の空間にどんな影響を与えるか分からない!でも!!」

 

静香は七支刀に魔力を大きく注ぎ、天に掲げる。

 

「多勢で仕掛けてくる悪魔を倒し切るには…これしかない!!」

 

この一撃こそ、時女静香の切り札であるマギア魔法『巫流・祈祷通天ノ光』と呼ばれる必殺魔法。

 

天空に表れ出たのは、無数の光。

 

鈍化した世界。

 

飛びかかる悪魔たちの頭上には、ロックオンの如き印が浮かぶ。

 

時女一族の家紋である()()()()が、悪魔の頭上で光り輝く。

 

桜紋とは、木花咲耶姫(このはなさくやびめ)を祀る神社などが紋に用いてきた。

 

しかし散る儚いイメージから、武家の家紋としては敬遠されてきた家紋だ。

 

「悪鬼浄滅の光よ…ここに!!」

 

空から一気に光の柱が撃ち出され、悪魔達を頭上から貫く。

 

<<ギャァァァァーーーッ!!!!>>

 

光は業火となりて全ての悪魔を焼き尽くし、滅び去る。

 

悪魔達が構築していた異界結界も解け、静香は七支刀を振るい、纏う光を消した。

 

「良かった…現実世界に大きな影響は見られない。それよりすなお!しっかりして!!」

 

「あっ……?わ、私は…いったい?」

 

「良かった…正気に戻れたみたいね?」

 

手を差し伸べてくれた彼女の手を掴み、立ち上がる。

 

「これが…悪魔と呼ばれる者達の力なんですね」

 

「ええ…古来より退魔師たるデビルサマナー達が戦ってきた存在。私も初めて戦ったわ」

 

「よく切り抜けられましたね。悪魔達は悪鬼とは違い、意思を持ち魔法さえ使えるのに」

 

「そうね…でも、問題があるわ」

 

「ええ…私達はヤタガラスの魔法少女一族。本来私達は…悪魔と戦う事を許されていない」

 

「他の退魔師一族の領域を犯した越権行為として、見つかったら大事になるわ」

 

「互いのメンツなんて気にしている場合じゃないのに…組織とは複雑ですね」

 

「それより、このヤクザの姿に擬態した悪魔達の言葉の中に…気になる部分がなかった?」

 

「たしか…親父やカシラのように、仲魔を増やす力はないと言ってましたね」

 

「仲魔を増やす…まさか、こんな吸血鬼共を増やせる悪魔が2体もいるわけ!?」

 

「だとしたら大変…その者達が悪魔を増やしていけば、莫大な数の人間達が犠牲になる」

 

「すなお、距離はあるけど今直ぐ時女の分家集落にある名も無き神社に向かって欲しいの」

 

「応援を呼ぶのですね?」

 

「ヤタガラスの使者に事情を説明して、応援のサマナーを呼んでもらいましょう」

 

「何を言われるか判りませんが、それしか方法はなさそうですね。…え、私だけ?静香は?」

 

「ちゃると合流するわ。この一件に悪魔が関係してると分かったことだし、ほってはおけない」

 

「1人で大丈夫ですか?まだ神浜生活に完全に慣れたわけでもないし…」

 

「大丈夫!どっちが北で南かぐらいは理解出来たから!」

 

「そうですね…2人で名も無き神社に向かっていては、ちゃるとの合流も遅れますし」

 

「それじゃ、私は嘉嶋さん達の後を追うわね」

 

すなおの心配事など尻目に、彼女は走り出す。

 

(本当に大丈夫かしら…?静香の世間知らずは、筋金入りですし…)

 

信じるしかないと判断し、すなおも変身を解きながら神浜市郊外の分家集落を目指す。

 

そんな2人を見つめ続けていたのは、秋である季節故によく見かける虫であろうトンボ。

 

トンボを通して、何者かの気配をちはるが近くにいたならば感じられただろうが今はいない。

 

「それにしても…さっきのすなおの反応は何だったのかしら?」

 

普段着姿に戻って走り続ける彼女も訝しむような表情を見せるが、それは後回しと判断。

 

「あれ…?中央区の繁華街って、あっちで良かったのよね…?」

 

すなおの不安は的中し、静香は全く違う方面へと駆け抜けていってしまった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神浜市工匠区は工場街でもあり、工場や社宅が多いエリアが目立つ。

 

しかし、この工場街にも栄枯盛衰の影は大きい。

 

古くから根ざす職人が残る中小工場地帯以外で参入した企業工場の多くは、既に移転か廃業。

 

人気のない廃工場だらけの寂れた地域が多く残っているようだ。

 

「この廃工場からGPS反応は動いてないよぉ」

 

「みたいだな。人がいる気配はあまり感じないが…」

 

「どうしよう所長?探偵ドラマなら踏み込みシーンになるけど…」

 

「住居不法侵入だ。現実の探偵は、捜査令状など与えてはくれない」

 

「そうは…そうだけど……」

 

「間違いだったら近隣住民に通報されて、俺達が警察署行きだ」

 

「う~ん…現実の探偵は地道だよぉ。それでも私、張り込み頑張るね!」

 

丈二とちはるは現在、廃工場に入る入口付近がよく見える角で張り込み捜査を続けている。

 

「うっ…お腹空いてきたよぉ。やっぱりメイド喫茶の料理、一口食べておけばよかったかも」

 

「尚紀を近くのコンビニに買い物に行かせてる。もう少ししたらこっちに来るだろう」

 

「やっぱり張り込み食と言えば、アンパンと牛乳!等々力さんもドラマの中でいつも食べるよ!」

 

「前時代過ぎる…。まぁいい、ささっと済ませれる利点は高いからな」

 

2人が向き合って話していたが、人の気配が近づいてくるのを感じ取り前に視線を向ける。

 

見ればチンピラみたいな人物が、廃工場の前を通りかかってくる。

 

「あの人…凄く臭うよぉ。こんな悪意…今まで感じたことがない」

 

「なんだ?臭うって?」

 

「私ね、人の悪意を嗅ぎ分けれるっていうか…勘が働くって、皆から言われるんだよぉ」

 

「女の勘ってやつか?馬鹿には出来ないが、リスクを犯して動く根拠としては弱い気も…」

 

「人だけじゃなく、物から感じられる悪意もね、私はなんとなく分かるんだ」

 

「まるでちはるちゃんは警察犬だな…」

 

「あの人が持ってる鞄の中に、凄い悪意を感じる…。凶悪犯罪に使えるような悪意が…」

 

「警察なら所持品検査を行えるが、俺達がそれをやるわけにはいかない」

 

「信じて!私の勘…今まで外れたことがないんだよぉ!!」

 

廃工場の中へと消えていくチンピラを確認し、ちはるも駆け出していく。

 

「ちはるちゃん待て!!…ったく!すなおちゃんが言ってた通り、無鉄砲な子供だ!」

 

彼女の後を追い、丈二も廃工場の中へと入っていく。

 

暫くして、尚紀がレジ袋を抱えながら張り込み場所に帰ってくるのだが。

 

「工場帰りの連中が結構集まるコンビニだったし、随分レジに並ばされちまったなぁ」

 

張り込み場所まで戻った彼は、辺りを見回す。

 

「いない…?何かあったのか…?」

 

黒いトレンチコートのポケットに入れてあるスマホを取り出し、丈二の番号で電話をかける。

 

この時、それが丈二達に災いを与える結果になろうとは思いもよらない。

 

未来を知る力が備わらないまだ未完成の概念存在である人修羅には分からなかったようだ。

 

……………。

 

所変わって、静香の方は…?

 

「ここはどの辺なのよーっ!?」

 

繁華街どころか中央区から大きく離れ、工匠区の工場街を彷徨い歩いている。

 

「うぅ…おかしいわね。あっちの景色が北で、こっちが南だと思ったのに???」

 

やはり街の景色で東西南北を判断する力は、まだ備わってはいなかったようだ。

 

「もう暗くなっちゃったし…どうしよう?すまほでちゃるを呼び出したいけど…」

 

渡されたスマホを取り出すが、彼女はロック画面を解除するやり方程度しか理解していない。

 

「これ…通話あぷりってどれなの?沢山あぷりが表示され過ぎて、訳がわからない…」

 

彼女にとっては、与えられたスマホはただの板切れでしかないようだ。

 

溜息をつき、バスを待つ停留所のベンチに座り途方に暮れる。

 

「ぐぅぅ…お腹が張って辛い。神浜に来てからストレスで便秘が続くようになったわ…」

 

同じ食事内容をしていても、ストレスによって大腸の機能が止まってしまう事が多い。

 

自然溢れる霧峰村という秘境から、無機質な大都会へ移る。

 

田舎暮らししか知らない素朴な彼女にとっては、大きな心の負担となっていた。

 

その時、お腹を抱えて項垂れていた彼女の視線が前を向く。

 

(あのヤクザみたいな身なりの男…何か変ね?)

 

工場街の就業時間も終わりが近いのに、沢山の弁当を抱えているヤクザが1人歩いている。

 

不審に思った彼女は立ち上がり、尾行を開始。

 

見ればそのヤクザは、天堂組の若頭からタカシと呼ばれた人物。

 

「拉致った連中の飯まで用意せにゃならんのも面倒くさいな。早く次の便が来ればいいんだが…」

 

道を歩いていたタカシだったが、隣に見つけた公園の中へと入っていく。

 

「俺も腹が減ってきた。悪魔にされても腹が減りやがるとは…飢えの欲望は同じってわけかよ…」

 

公園のベンチに座り、レジ袋の中から買った品を取り出す。

 

悪魔の分として買った血の代用となる生肉刺し身と赤ワインを取り出し、食事を始めていく。

 

そんな彼の姿を、公園内にある緑の茂みから監視を続ける静香の姿。

 

「ちっとションベン…」

 

刺し身を食べ終えワインを飲んでいた彼が瓶を椅子に置き、公園内にあるトイレへと向かう。

 

(…チャンスね)

 

暫くして戻ってきた彼が椅子に座り直し、胸のポケットからタバコを取り出し一服。

 

「飯の後の一服は、悪魔にされてからも変わらん格別さがあるのぉ」

 

赤ワインを飲みながら次のタバコに火をつけ、ヘビースモーカー故に時間が過ぎていく。

 

暫くすると…タカシの表情に異変が起きた。

 

「うごっ!?な…なんか、急に腹が痛くなって…賞味期限はまだだったろ!?」

 

急激な腹痛に襲われ、尻を抑えながら小走りを開始。

 

トイレに入って便座のドアを開けた時、タカシが見た光景とは?

 

「なんじゃこりゃぁーっ!?トイレットペーパーが、全て無くなってやがるじゃねーか!?」

 

愕然としていると、怪しげな少女の声が木霊する。

 

<<フフフ、神浜生活で私が手放せない、私の便秘薬が全部入ったお酒が効いたようね>>

 

少女の不敵な笑い声が響く入り口。

 

尻を抑えながら見れば、公園の明かりを後光とし存在。

 

不敵な笑みを浮かべ仁王立ちしているのは静香だった。

 

「おんどれぇぇぇクソガキ!!?俺をハメやがったなっ!!?」

 

「タバコを吸ってる間にトイレットペーパーも隠させて貰ったわ!」

 

「なんてことしやがるんだテメェ!!?」

 

「さぁ、さっき言ってた拉致った連中という部分を詳しく話しなさい!紙が欲しくないの!?」

 

「ざっけんなコラーっ!!悪魔の俺にこんな真似してタダで済むと…ウゴゴゴゴッ!?」

 

大声出したものだから肛門が緩んでしまう。

 

「喋らないと…社会人として大変な事態になりそうね?」

 

「クソ…だが、この辺にもコンビニがあったはず。そこまでもたせりゃいいだけじゃ!」

 

歩く振動を最小限に行う繊細な小走り中。

 

静香の横を通り越えようとするのだが…?

 

<<させないわよーーっ!!!>>

 

突然興奮した静香の猛烈な体当たり。

 

組み付き踏ん張り抑え込み。

 

「グオオオオッ!!?止めるんじゃねぇぇぇ…!」

 

「私は!!阻止の魔法を持つ!!魔法少女よーーっ!!!」

 

「魔法でもなんでもねぇぇー!!こんな真似して…少女として恥ずかしくないのか!?」

 

「うるさぁーーーいッッ!!!」

 

「なんて女だよ!?悪魔みたいな女じゃねーか!!」

 

「悪魔に言われたくはなーーいッッ!!!」

 

一進一退の攻防だったが、悪魔の力を全開にして振りほどく。

 

倒れ込んだ彼女を捨て置き、繊細な小走りのまま公園内を移動中。

 

<<ニ ガ サ ナ イ !!>>

 

怯えた顔で後ろを振り向く。

 

地面を荒ぶる獣の如く這いながら迫りくる、阻止の魔法少女。

 

「ヒィィーッ!!お助け下さいトイレのカンバリ神様ッ!!妖怪嫌がらせ女が襲ってくるー!!」

 

両足に組み付かれ、倒れ込んだタカシ。

 

「ハオッ……!!!!!」

 

肛門にメギドラオンの如き衝撃が走った。

 

「えっ?ヒィ!!……でちゃった?」

 

涙目となっているタカシがか細い声を上げていく。

 

「…俺の完敗だ。情報をやるから…トイレの紙をくれぇぇ……」

 

ついに観念してしまったのか、尻を抑え込み倒れ込んだタカシの口から語られる情報。

 

情報と引き換えにトイレットペーパーを得たタカシが事なきを得る。

 

その頃には既に、静香の姿は公園に無かったようだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

LED懐中電灯を前に掲げ、不気味な廃工場内を慎重に進む丈二。

 

「不気味な廃工場だな…まるでコンクリートの遺跡だぜ」

 

瓦礫が散乱した工場内を進むと、人の手が加えられた形跡を見つける。

 

工場に明かりを取り込む割れた窓が日差しを遮る巨大なブラックシートで覆われているようだ。

 

「どうりで外の明かりが何も入らないわけだな…」

 

骨組みだらけの広間を抜け、階段を登っていく。

 

「おいおい…なんだよ、この棺桶の山は…?」

 

工場と隣接する散乱した事務所内で見つけた物は、酷く不気味。

 

「まさかとは思うが……マジかよ!!?」

 

中を開けてみると、そこには行方不明となっていた男性達の青白い死体が出てくるのだ。

 

「悪夢だな…だが、この廃工場に行方不明少女の反応もある。最悪の予想しか頭に浮かばないな」

 

刑事時代の冷静さを取り戻そうとしていた時、少女の声が小さく響く。

 

「所長!こっちこっち!」

 

声に振り向くと、そこにはLED懐中電灯を持ったちはるの姿。

 

「このバカ!無茶しやがって!」

 

「ごめんなさい…。でもね、やっぱり私が感じた悪意の臭い…当たっていたよ」

 

「どういうことだ?」

 

「こっちに来て。攫われた少女達だと思う泣き声が聞こえる部屋があるの…」

 

「マジかよ…?女の勘も侮れないもんだ」

 

「ついて来て。ここからは明かりをつけない方がいいと思うよぉ」

 

ちはるに先導され壁伝いに進む。

 

事務所内倉庫がある場所を2人は角から見つめる。

 

「確かに、少女達の泣き声が微かに聞こえるな…大当たりだ」

 

「助けようよ所長!ここで動かなかったら探偵じゃないよぉ!!」

 

「気持ちは分かるが、今の俺は刑事じゃない。フィクションのように浪漫ある探偵でもない」

 

探偵とはエージェントであり情報を集めるだけの情報屋。

 

集めた情報をどう扱うかは依頼人が決めることであり、そこから先は弁護士や警察の領分だ。

 

「そんなのおかしいよ!等々力さんなら、目の前で助けを求める人達の声を無視なんてしない!」

 

「現実とフィクションを混同して考えるな。情に流されれば職員全てが危険に晒される」

 

「だけど……」

 

「場合によっては…警察さえ俺達を捕まえようとする。それが…君の憧れてる探偵の現実だ」

 

「そ、そんなのって…」

 

「どうだ?探偵になるのは嫌になったか?」

 

「……………」

 

現実を突きつけられ、落ち込む表情を見せるちはるを見た丈二も溜息をつく。

 

「…ちはるちゃん。日本法には現行犯逮捕にのみ私人逮捕が認められているのを知ってるか?」

 

「えっ…?」

 

「逮捕状がなくても行うことができる刑事訴訟法213条だ」

 

犯人が現に犯行を行っているか行い終わったところなら、逮捕して身柄を確保する必要が高い。

 

誤認逮捕の恐れも少ないというわけだ。

 

「所長…それって、もしかして…」

 

「どうだ、名探偵ちはる君?今の現場を捜査して、現行犯逮捕の必要性はあるかね?」

 

「う…うん!!全員お縄にする必要があるよぉ!!」

 

「ならどうする?社会正義に熱い一市民でもある、ちはる君は?」

 

「絶対に子供たちを誘拐した連中を逃さない!探偵は、正義のヒーローなんだから!!」

 

泣きそうだったちはるの表情に、笑顔が戻ってくれたようだ。

 

(ヤレヤレ、尚紀に言われた通り…俺は女に甘過ぎるな)

 

その時、丈二のスマホが鳴り響く。

 

静か過ぎる廃工場ではけたたましく聞こえるだろう着信音に気づいた誘拐犯達の大声が響く。

 

<<なんだぁ!?外に誰かおるんかぁ!!?>>

 

悪魔にされたヤクザが数人出てきて辺りを見回す。

 

「不味い…マナーモードにしておくべきだった」

 

「どの道…全員御用にするよぉ!」

 

事務所倉庫隣の部屋の扉の辺りから異変が生じる。

 

よく見ると隙間から霧が噴き上がり始めるのだ。

 

<<何処のどいつだぁ?命知らずにも、親父のシノギを嗅ぎつけた哀れなゴミは?>>

 

「な…なんだ?俺は夢でも見てるのか…?」

 

夜目に慣れだした丈二が見える光景は現実感を感じさせない。

 

霧がどんどん廊下に溜まり込み、大きな顔の表情となっていくおぞましい光景なのだ。

 

周囲の景色も変わりだし、異界化してゆく。

 

「これは…悪鬼である魔獣とは違う結界世界…!?」

 

「ちはるちゃん…こいつはヤバい。刑事の勘などなくても分かる!」

 

霧が濃密化し、人の形となりて…それは具現化した。

 

<<男は度胸ぉぉ!悪魔は酔狂ぉぉ!浅草ROCKで祭りだぜぇ!!>>

 

【ヴァンパイア】

 

ヴァンピールとも呼ばれる人の血を吸うとされる魔物とされ、発祥は東欧スラブ地方と言われる。

 

主に埋葬された死者が何らかの原因で動き出し、生者から血を吸う存在だと言われる存在。

 

血を吸われた者も吸血鬼と化すとか、血を吸うだけでなく様々な災いの元凶になっているという。

 

ブラム・ストーカーの小説や、怪奇映画の数々がヴァンパイアの概念を変えていく。

 

貴族然とした耽美な吸血鬼イメージを作り上げていったようだ。

 

吸血鬼の生態は伝承によって細かな差異はある。

 

聖なるシンボル、日光や水や鏡を嫌い、心臓に白木の杭を打てば死ぬという弱点などが伝わる。

 

小説ドラキュラの登場人物の一人であるヴァン・ヘルシング教授はこう語る。

 

吸血鬼を怪力無双、変幻自在、神出鬼没と称する程、多岐に渡る固有能力を語ってくれていた。

 

「何だ!?昔のドイツ映画で登場した…ノスフェラトゥみたいな醜い顔をした貴族野郎は!?」

 

「お前映画に詳しいな?親父共々俺もヴァンパイア化出来るなんて、夢にも思わなかったぜ!」

 

懐から手鏡を取り出し自分のCOOLな姿を確認するが、そこには何も映っていない。

 

興味なさげに後ろに手鏡を捨ててしまう。

 

「所長は下がって!!私が相手をするよぉ!」

 

左手からソウルジェムを生み出し、眩い光を放ち始める。

 

「今度はなんだってんだーっ!!?」

 

光の中から現れ出たのは、岡っ引きめいた魔法少女である広江ちはるの姿。

 

「ハハハ!!テメェ、魔法少女か!探す手間が省けるとは景気がいいなぁ!!」

 

「魔法少女だと…?ちはるちゃん、君は一体…?」

 

丈二の脳裏に、かつて自分を襲ったコスプレ少女の姿が浮かぶ。

 

刑事部捜査第一課で警部補を努めていた時代に世話になった先輩の失踪した娘の事も頭に過る。

 

「隠しててごめんなさい…。でも、魔法少女は社会から隠れて生きていかないとならないの」

 

「それじゃ…俺を襲ったコスプレ少女も、刑事時代の先輩の娘も…魔法少女だったのか!?」

 

「魔法少女って呼ばれるが、可愛げのある存在共じゃないぜ~ミスター。こいつを見ろ」

 

左手に持つクッション付きアルミケースを両手で抱え、見せびらかすように丈二に向ける。

 

中を開ければ、そこにあるのは攫われた魔法少女達のソウルジェムが飾られていた。

 

「この石ころが魔法少女の魂だ。変身や魔なる物を探知する道具ってだけじゃねぇんだよ」

 

「ど…どういう意味だよ…?」

 

「こいつは魔法少女そのものの姿。つまり、横に立つその女は…俺達と同じく()()()()()だぁ!」

 

「化け物共なのかよ…お前らは!?」

 

「…そうかもしれない。でもね、私たち魔法少女は心まで怪物じゃない!」

 

「だが…石ころなんだろ…お前ら魔法少女は…?」

 

「たとえ石ころにされても…人間として在りたいと願う何処にでもいる十代の子供達なんだよ!」

 

「ちはるちゃん…君たち魔法少女は、ずっと前から存在していたんだな?」

 

「魔法少女はね、夢と希望を叶える存在!正義の魔法少女として生きたいと願う者なんだよぉ!」

 

丈二の頭の中で全てが繋がった。

 

刑事時代の先輩の娘は、父と同じく正義の味方であろうとして魔法少女となり散ったこと。

 

正義の味方として生きたいと願う魔法少女達以外にも、人間を襲ったりする連中もいる。

 

先輩を襲って帰らぬ人にした、魔法少女至上主義者の如き悪しき魔法少女も存在しているのだと。

 

「先輩…刑事を辞め探偵となって、ようやく真実にたどり着けたよ」

 

魔法少女のような存在が裏社会にいる。

 

警視庁上層部や政府がひた隠しにするのも無理はない。

 

世界中がパニックに陥るからだ。

 

「魔法少女がどんな存在なのかを…私を通して見届けて!丈二さん!!」

 

右手に魔法武器である十手を生み出し、悪魔に向けて構える。

 

「ヤレヤレ、正義バカの小娘に続いて…探偵の若造も工場に入り込んできたか」

 

「何かの力で分かるのか…?多分、尚紀のことだ!」

 

「ん?よく見たらあの男…あいつ!?南凪港で俺達のシノギを邪魔しやがった奴だ!!」

 

「尚紀さんも来てくれている…絶対に持ちこたえてみせるよぉ!!」

 

「あの野郎は必ずぶっ殺してやる!!夜しか使えない兵隊共を使う時がきたなぁ!」

 

「夜しか使えない兵隊…?まさか、あの沢山あった棺桶の中身か!?」

 

「運が無かった連中共の成れの果てってやつさぁ!ヒャーハハハ!テメェらもやっちまえ!!」

 

ヴァンパイアにされた若頭の前に佇むヤクザ達も悪魔化し、ストリゴイイの姿となる。

 

「行くよ!!時女一族が巫…広江ちはる!!推して参るよぉ!!!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「見えたわ…あれが情報通りの廃工場ならいいんだけど」

 

魔法少女を拉致した施設は、特徴的な煉瓦造りの煙突が目印だと聞かされている。

 

特徴的な目印があったため土地勘の無い静香でもどうにか見つけることが出来たようだ。

 

「な…なに!?廃工場全体が…また悪鬼結界とは違う結界で覆われている!」

 

工場を見れば、魔法少女やデビルサマナーでしか知覚出来ない悪魔結界たる異界で覆われていく。

 

「この中からちはるの魔力も感じる…。間違いない、ここだわ!」

 

応援のデビルサマナーを待たず今直ぐ動きたいのだが、ヤタガラス構成員として考え込む。

 

たとえヤタガラスに所属する一族の者でも、組織秩序を乱す越権行為となる問題があるのだ。

 

「私でも最悪…ヤタガラスから責任を取らされて首を跳ねられるかもしれない…」

 

握り込んだ手に力が籠もり、震える。

 

「それでも…私は時女一族本家の嫡女。時女の行持を誰よりも体現する者でなければ…」

 

――私の後ろになんて、誰もついてこない!!

 

左手を掲げる。

 

魔獣結界に入る要領で異界世界に入り込もうと試すようだが…。

 

「神子柴様は仰られていた」

 

もし巫が日の本を守る任務遂行時に悪魔と遭遇する事態になれば迷わず逃げろ。

 

悪魔結界から脱出する方法は、悪鬼結界から抜け出す方法と同じだと聞かされているようだ。

 

ソウルジェムから魔力を浸透させ、異界の壁に穴が開いていく。

 

「よし、入れるわ。…後悔はない、これが時女静香の生き方よ!!」

 

意を決し異界に入り込む彼女だったが、後方から大型トラックも迫ってくる。

 

大型トラックを運転する者達は、異界の住人たる悪魔達であった。

 

……………。

 

廃工場内の骨組みが広がる広場では…。

 

<<シャァァーーーーッ!!!>>

 

次から次へと奥から現れ出てくる悪魔にされた元人間達が迫りくる。

 

「チッ!!次から次へとキリがねぇ!!!」

 

その姿は屍鬼と呼ばれるゾンビと成り果てていた。

 

ヴァンパイアに唾液を通して悪魔の血を与えられた者達は条件を満たせば怪物となる。

 

童貞あるいは処女であるのならば、眷属たるヴァンパイア化してしまうのだ。

 

しかし、この者達は性行為を経験している者達ばかり。

 

ヴァンパイアにはなれず、出来損ないのゾンビともいえる屍鬼にしかなれなかった。

 

それでも意思無き者達は全員、ヴァンパイアの使い魔として利用されている。

 

彼を取り囲む屍鬼の群れに対し、彼は人間の姿のまま武術を用いて戦うのみ。

 

押し寄せる意思なき敵の群れ。

 

しかし尚紀にとっては人間かもしれない存在に対して、悪魔の力を行使する事を躊躇う。

 

「操られているのか!?それとも、もう助からないのか!?」

 

かつて魔法少女の洗脳魔法に操られた米軍兵士達と重なって彼には見えているようだ。

 

(止む終えないのならば、殺してでも押し通る…しかし、可能であれば助けたい!)

 

奥に向かう事を邪魔され続けていた時、工場内の窓をブラックシートごと蹴破る音が響く。

 

場内に乱入してきた少女の姿に目線が向かう。

 

「嘉嶋さん!!」

 

「静香か!?」

 

着地した静香は迫りくる屍鬼に対して攻め寄っていく。

 

前転跳躍して飛び越え、着地と同時に連続回し蹴りを放ちながら移動。

 

彼と背中合わせとなり七支刀を構えた。

 

「この人達は…操られているんですか?」

 

「分からない…。俺も初めて見るタイプの連中だ」

 

「どうします…?倒してでも先に進みますか?」

 

「俺が囮になる。道を切り開くチャンスを作るから、お前は先に行ってちはると丈二を救え」

 

「で、でも嘉嶋さんは…人間のまま相手をする気ですか?」

 

「早く行け!!」

 

前方空間に走り込み跳躍。

 

奥の通路を守るように密集した屍鬼に向けて豪快なドラゴンキックを放つ。

 

ドミノ倒しのように倒れ込んだ屍鬼達の後ろの道が開ける。

 

静香は迷いを払うかのように大きく跳躍して屍鬼を飛び越え、奥に向かってくれた。

 

「全く、かつての世界でも見かけなかった連中がまだまだいる。悪魔の世界も奥が深いぜ」

 

油断なく構え、再び屍鬼を食い止めるための戦いが続いていく。

 

彼はヴァンパイア化した若頭にとっては恨み深い存在であるため逃してはくれない。

 

<<甘いわよダーリン!!>>

 

突然悪魔の念話が聞こえ、工場入口を見ればライトの光が高速で迫りくる。

 

クリスはハンドル操作とサイドブレーキを自ら操り大きくドリフト移動。

 

一気に屍鬼を跳ね飛ばし、彼の前で停車した。

 

「ダーリン!こいつらは屍鬼っていうゾンビなの!もう助からない存在だわ!!」

 

「知っているのかクリス!?」

 

「米国でこういう連中を操るダークサマナーを見た事があるの!アタシが仕留めるから飛んで!」

 

すぐさま上に大きく跳躍、剥き出しの骨組みに掴まる。

 

「さぁ、アタシの魔法…見せる時がきたようね!!」

 

車の四輪から雷がほとばしる。

 

小規模ながら全体に雷の一撃を放つ『マハジオ』を行使。

 

地を這うが如き雷がクリスを中心に円形に放射され、次々と屍鬼達が感電して燃え上がった。

 

使い魔達が全滅した光景を上から確認し、下に飛び降りる。

 

「お前も悪魔らしい魔法が使えたようだな。ただの喋る車かと勘違いしてたよ」

 

「んもー失礼しちゃうわねダーリン!アタシはちゃんと悪魔です~!」

 

「ところで、米国でダークサマナーを見たとか言ってたが?ダークサマナーとは何だ?」

 

「悪魔召喚師よ。もっともデビルサマナーとは違い、ダークサマナー連中はカルト化してるの」

 

「カルト化だと?」

 

「悪魔を崇拝する連中になった糞共だって意味よ」

 

「デビルサマナー…そしてダークサマナーか。かつてのボルテクス界では見かけなかったよ」

 

「それよりもダーリン、外に大型トラックが来ているの。工場内に乗り込んできた時に見たわ」

 

「恐らくは仕事で探している子供達が後ろに詰め込まれているんだろうな。行くぞ、クリス」

 

「アタシとダーリンで追跡ね!今夜はアタシを派手に乗り回してぇ!!」

 

クリスに乗り込み、一気に発進。

 

工場内から飛び出して工場正門に向かう時だった。

 

建物の上からクリスの上に飛び降りてきた魔法少女の姿が現れたのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ハァ…ハァ……」

 

ボロボロの岡っ引き衣装からは血が滲み、顔も痣塗れとなったちはるの痛々しい姿。

 

「これが悪魔なんだね。悪鬼よりもずっと賢いし、強いよぉ…」

 

「ヒャハハハ!魔獣みたいな雑魚を倒してきたようだが、悪魔を相手に戦う気分はどうだぁ?」

 

「カシラが出るまでもねぇ!俺達だけで嬲り倒し!血を啜り尽くしてやるぜぇ~!!」

 

「殺すんじゃねーぞ。ソウルジェムを適度に濁らせて捕獲しろ。そいつも輸送する」

 

「私は…捕縄を使う捕縛魔法なら使えるけど、この悪魔…動きが早過ぎるよぉ!」

 

キリングステップに翻弄され、為す術が見いだせない状況。

 

ちはるは後ろの丈二を庇うようにしているため、尚のこと戦いにくいようだ。

 

「畜生…子供1人に戦わせて、大の大人が何も出来ねぇ!情けないぜ…」

 

「大丈夫…私は負けない!探偵が諦めたら…真実には辿り着けない!」

 

「ちはるちゃん…」

 

「刑事を辞めてまで真実を追いかけたんでしょ?諦めなかったから、真実に辿り着けたんだよぉ」

 

「そうだな…へへ、子供に悟らされるなんて…俺もヤキが回ったな」

 

奥で複数のヤクザ達と佇む若頭に向けて十手を構える闘志を見せる。

 

その時、異界に入ったトラック運転手であるヤクザから念話が送られてきた。

 

「そうか、分かった。お前らはこいつを捕獲しておけ。俺達は拉致った小娘を運ぶ。男は殺せ」

 

マフィア衣装を纏うキラーチョッパー達と共に、若頭は事務所倉庫に入っていく。

 

変身出来ない少女達に銃を突きつけ、悲鳴を上げる彼女達を誘導していくのだ。

 

「やめて!!その子達を連れて行かないでよぉ!!」

 

「あの子達の中に捜索依頼を受けた少女と、俺の目の前で誘拐された少女も混じってやがった!」

 

「ここまで来て…行方不明者を助けられないなんて…悔しいよぉ!」

 

「俺が行く!!死ぬかもしれないが、それでも俺は元刑事だ!!」

 

「なんだ、お前サツだったのかよ?昔のヤクザ仲間が大勢世話になったし…ぶっ殺してやる!!」

 

疲れ切ったちはるの隙をつき、俊敏に動く悪魔の一体が丈二に襲いかかる。

 

「ぐはっ!!?」

 

右裏拳を右側頭部に受けた丈二が壁に向けて大きく叩きつけられた。

 

「丈二さん!?」

 

「余所見してんじゃねぇぇーッッ!!」

 

「きゃあっ!!!」

 

次々と痛めつけられ、嬲られていく2人。

 

夢中で獲物を痛めつけているせいか、近くにいる魔法少女の魔力反応に気が付かない。

 

「1…」

 

右手に持つ焙烙火矢(ほうろくひや)に左手で火を点ける。

 

「2…3…」

 

「死に晒せぇ!!クソデカ野郎!!!」

 

「よく見りゃ愛らしい小娘じゃねぇか!!血を啜る前に強姦してやるぜぇ~ヒャーハハハ!!」

 

「4…5!!」

 

燃える火縄の起爆時間を調整し、廊下の角から投げる。

 

鈍化した世界。

 

宙を舞う大昔の手榴弾が炸裂し、眩い光を放つ。

 

<<ギャァァァァーーーッ!!!>>

 

大量のマグネシウムに火がつき、廊下一帯が目も眩む程の光量。

 

<<ちゃる!!伏せなさい!!>>

 

心から聞きたかった仲間の言葉。

 

彼女はすぐさま地面に身を低める。

 

既に静香は敵を一直線に捉えられる位置。

 

「ハァァァァァ!!!」

 

業火を放つ七支刀を振るい、次々と火球を撃ち出す。

 

「グアァァーーーーッッ!!?」

 

炎が弱点であるストリゴイイ達は全身火達磨になり倒れ、灰となって消滅。

 

「ちゃる!!しっかりして!!」

 

すぐさま仲間の元に駆け寄る静香だが、彼女は右手をかざして静止させる。

 

「私より…丈二さんをお願い。人間の丈二さんじゃ…手遅れになる」

 

見れば壁に倒れ込む丈二は出血も酷く、今直ぐ回復魔法を必要としている。

 

「私は…等々力さんみたいになりたい探偵だよぉ。だから、犯人は決して見逃さない!」

 

「その体じゃ無理よ!」

 

「ごめんね、静香ちゃん。これが私の…探偵としての行持だから!」

 

気持ちを奮い立たせ立ち上がり、窓に向かう。

 

見れば大型トラックが工場の正門から発進していくのが見える。

 

それと同じく、猛スピードで走ってくる車の姿も確認。

 

意を決してちはるは飛び降り、尚紀が運転するクリスの上に着地。

 

「なんだ!?この魔力は…ちはるか!?」

 

<ちょっと!この子全身血塗れよ!?>

 

運転席側の窓ガラスをクリスが開け、頭を窓から上に向ければちはると目が合う。

 

「尚紀さん!私たちは探偵チーム!最後まで一緒について行かせて!!」

 

「その体でも心は折れないか…いいガッツしてやがる」

 

アクセルを一気に踏み込み加速。

 

「振り落とされるなよ、俺の後輩!」

 

「了解!!」

 

異界結界を突破し、2人の探偵が誘拐犯達を追いかける。

 

悪魔と魔法少女達が描くだろう、夜のチェイスバトルが始まるのだ。

 

静香は窓からちはるを見送り、自分の役目を果たすために丈二に駆け寄ろうとするのだが…。

 

「あれ…?これ、何かしら?」

 

静香が倒した悪魔の灰の中に、何かが光って見える。

 

「これ…悪鬼の魂魄であるグリーフキューブとよく似ているわね?」

 

静香が拾ったのは『魔石』と呼ばれる品。

 

それはかつての世界を生きた人修羅にとっては、珍しい品ではなかったであろう。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

猛スピードで高速に入る大型トラック。

 

速度を上げ、輸送する品である拉致した魔法少女を運んでいくようだが…。

 

「カシラ、後ろから猛スピードでついてくるアメ車が見えますぜ」

 

「ほう?粋な奴らだな」

 

トラック助手席に座る若頭は、自分の姿が映らないサイドミラーで後方を確認。

 

「チッ…あの舞台役者野郎、生きてやがったか!それに上に見えるのは…あの小娘か!」

 

「どうします、カシラ?」

 

「運転を続けろ。俺が迎え討つ」

 

悪魔の体が黒く染まるように蠢き、無数の赤い眼光を放つ。

 

体が弾け、無数のコウモリと化した若頭が窓からトラックの上に移動して人型化。

 

「夜明けはまだまだ長いぜ~?夜の世界で吸血鬼に挑むたぁ、度胸のある奴らだ!」

 

場を盛り上げるため、若頭は運転するヤクザに向けて念話を送る。

 

<蓄音機ガンガン鳴らしな!アタマがPUNKするぐらいテンション上げようや!!>

 

<カシラ?蓄音機って、まさか…カーオーディオのことですかい?>

 

<うるせぇ!!何か車のバトルに相応しい曲を流しやがれーっ!!>

 

若頭の命令に渋々従い、窓を全開にして放たれるサウンド。

 

車バトルに相応しきユーロビートを放つトラックに向けてクリスは猛追していくのだ。

 

「このまま追いついて!私が上に飛び乗るよぉ!!」

 

「フッ、連中のやる気満々がサウンドとして聞こえてくる!」

 

アクセルを踏み込み、速度をさらに上げてトラックに迫る。

 

「景気よく行こうぜぇ!!交通警察隊が来ようが、俺がぶっ潰してやる!!」

 

トラックの荷台が開き、3人のキラーチョッパー達がトミーガンを後方に向けて構える。

 

<ダーリン!!>

 

「任せろ!振り落とされるなよ、ちはる!!」

 

トラック荷台から一斉にマズルフラッシュが噴き荒れ、銃弾の猛火が迫る。

 

蛇行運転を繰り返し、銃弾を運転テクニックで避け続ける。

 

十手の柄を口に咥えたちはるも必死な表情。

 

屋根を両手で掴み、カースタントマンの如く振り落とされまいと食いしばる姿を見せた。

 

車線中央を陣取るトラックからの射撃故に、左右どちらに逃れても射線が伸びてくる。

 

<ダーリン!一気にトラックの横まで行くわよ!ダッシュボード下の赤のスイッチ入れて!>

 

<まさか、アレを使うのか!?>

 

<それしかないでしょ!このまま避け続けたら、他の車被害も増えるわ!>

 

「仕方ない…ちはる!一気に進むからチャンスを逃すな!!」

 

「わ、分かったよぉ!」

 

赤いボタンカバーを外せば、そこにはN()I()T()R()O()と書かれたボタン。

 

「全開まで…飛ばすぜ!!」

 

ボタンを押す。

 

ニトロチューンが施されていた車のガソリンが一気に燃焼し、爆発的パワーで加速。

 

「なんだとぉ!?」

 

銃撃を掻い潜り、一気にトラックの横まで並走していく。

 

猛烈な風の中で片膝を立て、立ち上がる彼女が一気に跳躍。

 

十手を口に咥えた彼女が大型トラック後方に着地し、眼前の悪魔を睨む。

 

「気が早いねぇ、もう死にに来たか?」

 

コウモリの翼を思わせる黒いマントで全身を覆う、若頭だった悪魔は不敵な笑み。

 

「もう逃げられないからね…下の子供達を解放して、お縄につきなさい!!」

 

「べらんめぇ!!こちとらアナーキーよ!法律なんぞ糞食らえだぁ!!」

 

両手でマントを開き、赤き貴族衣装を纏った悪魔が空に向けて跳躍して羽ばたくが…。

 

「ぬぅっ!?」

 

空に飛ぶのを阻むかのように右足に絡まっていたのは、ワイヤーアンカーの如き彼女の魔法道具。

 

「逃げられないって言ったのが聞こえなかったの!」

 

「ケッ!この程度で俺をお縄にした気分なのか?岡っ引き気取りの小娘ぇ!!」

 

体が無数のコウモリとなっていき、ワイヤーを逃れたコウモリの群れが側面に回り込む。

 

「オラァ!!飛んでっちまいな!!」

 

「あぐっ!!?」

 

コウモリが集合して人の形になると同時に強烈な飛び蹴りを彼女に放つ。

 

たまらず転がっていき、トラックから落ちていく彼女の姿。

 

「チッ、こう風が強くちゃ霧になると大きく後方に飛ばされちまうぜ」

 

彼女が落ちたトラック側面に歩き、下を覗き込む。

 

「な、何ぃ!!?」

 

下を見た瞬間、悪魔の首にワイヤーが絡まる。

 

前方に大きく回り込み、左側射線に入り込んだクリスの屋根に彼女は立っていた。

 

「えいっ!!」

 

一気に引っ張り高速道路に叩きつけようとするが、コウモリ化によって再び避けられる。

 

空を飛びながら人型となり、黒いマントをコウモリの翼のように使って飛翔移動を行う。

 

クリスの運転手側を並走しながら飛び続けてくる。

 

そんなヴァンパイアに向け、窓を開けた尚紀が挑発するのだ。

 

「どうした?悪魔の体になったのに、小さな魔法少女に振り回されてるぜ?」

 

「うるせぇ糞野郎!!あの時も邪魔して…今度も邪魔しに来やがったテメェは許せねぇ!!」

 

「吸血鬼ってのはたしか、男なら童貞じゃないとなれないって話だな?」

 

「どどど、童貞ちゃうわぁぁーッ!?心が傷つくだろうがぁぁーッッ!!」

 

(かく言う俺も…童貞なんだがな)

 

挑発をしたのだが、尚紀も若頭と同じく心にダメージを負う始末。

 

気を取り直して車を幅寄せする攻撃。

 

体当たりを仕掛けるのだが、相手は大きく飛翔する回避行動。

 

攻撃を避けた悪魔は帯電した右手を構える。

 

「俺の心を傷つけやがって!喰らいやがれぇ!!」

 

放たれる雷魔法である『マハジオンガ』の雷光が光り、周囲に雷槌が次々と落ちる。

 

「チッ!!」

 

一発でも当たればちはるがもたないため、蛇行運転を繰り返し防戦一方となる。

 

「悪魔を相手に御用逮捕が難しいなら…倒すだけだよぉ!」

 

「何か案があるか?」

 

「前を思いっきり走って!」

 

言われた通り雷槌の隙間を掻い潜り、前方の高速道路を駆け抜ける。

 

「逃さねぇぞぉぉーッッ!!」

 

追いかけてくる敵を確認し、彼女は極限まで魔力で細めたワイヤーを左右に連続して投げる。

 

「捉えたぜぇ!!こいつでジ・エンド……あら?」

 

視界が急に下に向けて落ちていく自分の頭部に疑問を持つ。

 

高速道路両端の街灯に仕掛けられたワイヤートラップに飛び込み、首を切断されたようだ。

 

「やった!!って……うそっ!?」

 

切断された頭部と体が無数のコウモリ化し、人形に戻り尚も追撃してくる。

 

「ヒャーハハハ!!ヴァンパイアが首を跳ねられた程度で死ぬかよぉ!!」

 

厄介な敵を前にした尚紀はクリスに念話を送る。

 

<吸血鬼ってのは厄介だな。何か案はあるか、クリス?>

 

<日光が弱点だけど、日の出までかなりあるわ>

 

<他に何か吸血鬼悪魔に効果的なものは?>

 

<邪気を祓う道具も効果が高いけど、ニンニクか銀道具なんてない?>

 

<ニンニクも銀道具も持ってるわけないだろ>

 

「あふほぉ!!」

 

窓から上に頭を向けると、自慢の十手の柄を口に咥えたちはるの顔。

 

魔法少女も念話を使える者であるためか、彼らの念話内容が聞こえていたようだ。

 

「そういうわけか…試してみるか!」

 

サイドブレーキを引き、Uターンの勢いで逆走を始める。

 

「チャンスは一瞬だ。キメてみせろ!」

 

「洒落臭ぇ!!突っ込んでくるなら、上の魔法少女から仕留めてやる!!」

 

片膝を立て口に咥えた十手を右手で握り、決意の表情。

 

「私は…探偵であり魔法少女、広江ちはる!御用だよぉ!!」

 

左手で十手をなぞれば、鬼火の如く緑に輝き出す。

 

彼女の周囲に浮かぶ無数の光り、それはまるで御用と書かれた提灯。

 

彼女のマギア魔法『魔法同心・ちはる捕物帳』と呼ばれる必殺魔法だ。

 

懐から取り出した笛を吹き、提灯が回転する鬼火の一撃となりて悪魔に飛んでいく。

 

「この程度の魔法攻撃!!俺の雷槌で全て叩き落と…!?」

 

鈍化する世界。

 

吸血鬼の視線が巨大なる魔力を持つ悪魔の目線と合わさる。

 

両目が金色の瞬膜となり、五感を狂わされる幻惑魔法『原色の舞踏』を放つ。

 

「ギャァァーーッ!!怖い!!クドラク様ぁぁ!?もう血は吸わないでぇ!!」

 

人間としての若頭だった記憶が再現され、空中で苦しむ悪魔に次々とちはるの魔法攻撃が当たる。

 

「やぁぁぁーーーっ!!!」

 

一気に車の屋根から跳躍したちはるが、吸血鬼の心臓目掛けて十手を構える。

 

「あの世で改心するんだよぉ!!」

 

両手で十手を逆に向け、心臓に目掛けて刺し貫く。

 

「ガッ…ハッ……!!?」

 

勢いのまま高速道路の地面に倒れ込む吸血鬼に馬乗りとなり、決め台詞を言い放つ。

 

「天誅ッ!!!」

 

「ギャァァァァーーーッ!!?」

 

吸血鬼の弱点を用いた心臓の一突きによって、吸血鬼の体が滅びていく。

 

「銀!?銀の十手ぇぇぇ!!?ぐるじぃーーっ!!!」

 

――()()()()()()()()()()()()()!!?

 

断末魔を上げた若頭の最後は、なんとも言えないヘタレた言葉を残して消え去っていった。

 

「勝てた…?私、悪魔に勝てたんだよ…ね?」

 

Uターンして戻ってきた車が助手席ドアを開け、乗るように促す。

 

「よくやった後輩。先輩として、お前に合格点を与えてやる」

 

「尚紀…先輩!!うん♪ありがとう!!」

 

「早くトラックを追いかけるぞ、乗れ」

 

助手席に乗り込んだ彼女を乗せ、アクセルを踏み込み再び大型トラックを追いかけるのだが…。

 

「おい…見ろよちはる」

 

「うん…道端に倒れて燃えていた悪魔…それに、あの運転席が燃えたトラック!」

 

ハザードランプを点灯させ路肩へ停車、2人が車から降りる。

 

「間違いない…追っていた車だ」

 

「大変!運転席にはきっと…誘拐された魔法少女達のソウルジェムを納めたケースがあるよぉ!」

 

「俺が行く!お前は後ろの荷台を開けて子供達の安否を確認しろ!」

 

現場で手分けして動く2人。

 

その光景を高い場所に架けられた架道橋から見つめる女性の姿があった。

 

「…あれが、イルミナティに啓蒙の光をもたらす、神と呼ばれし悪魔?」

 

黒く美しい長髪が夜風に靡く。

 

赤いスーツの上着の下に網タイツと色合わせのショートパンツを身に着けた姿。

 

だが特徴的なのは服ではない。

 

魔術増強のための刺青を両手に彫っている部分が異様な存在感を放つのだ。

 

「出来れば、私の使い魔にしたいけれど…ちょっと無理そうね」

 

溜息をつき、下の惨状などお構いなしに去っていく。

 

「ヤタガラスからの依頼は済んだ。近くにサマナーも配置してないだなんて人手不足なのね」

 

彼女の言葉は的を得ている。

 

ヤタガラスは魔法少女を現場で使わなければならないぐらい、人手不足の状況にまで陥っていた。

 

「ヤタガラス中核一族である葛葉の落ちぶれからして…長くはない。別にいいわ、関係ないし」

 

――フリーのサマナーとして、報酬を貰うだけよ。

 

腰に垂らした複数のカプセル型の管が音を立て、歩き去る女性は夜の闇へと消えていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神浜で起きた悪魔事件は事なきを得たが、魔法少女誘拐範囲は関東全域に広げられている。

 

魔法少女誘拐実行を行う悪魔グループ、それに輸送するトラックも1つではない。

 

「なぁ、シド。後ろのガキ共から感情エネルギーを搾り取る施設は、何処にあるんや?」

 

信号待ちをした大型トラック。

 

運転するヤクザと、助手席にはシドの姿。

 

天堂組長は日差しを遮るカーテンで仕切られた後部座席の寝台で寝転んでいる。

 

「ジャパンの見滝原市から大きく離レ、山に面しタ郊外森深くにある精神病院の地下にありまス」

 

「精神病院の地下?」

 

「えエ。見たくなったかラ、付き添いとして来られたのですよネ?」

 

「まぁのぉ。シノギは文句は言わんが、感情エネルギーがどう絞られるのか見たくなってのぉ」

 

「丁度いいでス。私も施設長に挨拶を済ませようト思いましテ、同伴した次第でス」

 

「それにしても…」

 

信号待ちをしている大型トラックが、小刻みに揺れ動いている。

 

まるで荷台空間の中で激しく何かが行われているかのように。

 

「なんで、あのガキ女共を()()()しなきゃならん?若い衆は大喜びだが、煩くてかなわん」

 

「死なない程度ニ、絶望させなければならないのでス」

 

「絶望させる…?」

 

シドは抱えたアルミケースを開く。

 

中に納められた色とりどりのソウルジェムの色が濁っていく光景に満足げな表情を浮かべた。

 

「魔法少女ハ、この石ころに納められた魂が穢れきった時、莫大な感情エネルギーを産みまス」

 

「それが目的で…後ろの連中を痛めつけてるというわけか?」

 

「上質な感情エネルギーハ、殺されたリ、魔力切れにさせるよりモ、()()()()()がいいのでス」

 

「ふん。わしらと同じ生きた屍の癖に、難儀な姿にされたもんやのぉ」

 

大型トラックは郊外の森へと入っていく。

 

「ところで、その施設にも名前ぐらいはあるんやろ?どんな施設名なんや?」

 

「この国のディープステートに守らレ、そして経済界の裏金で運営されル…その施設名とハ」

 

――()()()()()()()()ト、呼ばれまス。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「丈二…もういいのか?」

 

「ああ…」

 

「その体で刑事時代に世話になった先輩の墓参りに行く元気があるんだ、直ぐに良くなるよ」

 

夕日に照らされた神浜聖探偵事務所。

 

事務所内には2人の姿しか見かけない。

 

頭に包帯や腕にギプス固定を身に着けた丈二は、所長席に座りながら夕日を見つめる姿。

 

応接ソファーに座り静かに所長の姿を見つめていた時、丈二の口が開く。

 

「やっと…先輩やその娘さんが社会の闇に消えてしまった原因…真実に出会えたよ」

 

その言葉を聞き、彼も俯いてしまう。

 

「魔法少女と呼ばれる存在だったんだ…ちはるちゃん。彼女は人間じゃない、化け物だ」

 

「……………」

 

「それでも心は人間でありたいと願う…何処にでもいる普通の少女。だが…邪悪な連中もいる」

 

丈二の心は揺れている。

 

ちはるのように正義を愛する者もいれば、魔法少女至上主義者のような悪の魔法少女もいる。

 

信じたい気持ちと、信じられない気持ちが天秤に乗せられて揺り動かされるのだ。

 

「……知っていた」

 

「なんだと…!?」

 

「俺は全部知っていたんだよ…丈二。彼女が何者なのか、初めて出会った時からな」

 

尚紀は知っていた。

 

この世界の丈二と初めて出会った時、彼を襲った存在が何者なのかを。

 

そして刑事時代の丈二の先輩の娘がどんな末路を辿っていたのかも察する事が最初から出来た。

 

「テメェ!?なんで俺にそれを教えてくれなかった!!」

 

「刑事を辞めてまで真実を追求したかったんだろ?簡単な答えを俺が用意して…信じられたか?」

 

尚紀の質問に対して、丈二は顔を俯けていく。

 

「子供アニメの見過ぎだとバカにして、相手をしなかったと思うぜ」

 

「…確かにな。俺もこの目で見なければ…そして襲われなければ…信じなかったと思う」

 

「論より証拠だからな。それに…見たんだろ?あの悪魔共の姿も」

 

「ああ…魔法少女が戦ってくれなければ俺は殺されていた。あれは何なんだ?」

 

「俺と同じ存在だよ」

 

唐突な言葉を聞かされ、丈二は顔を上げて尚紀を睨む。

 

「尚紀…この上、何を隠してやがるんだ?」

 

「…長い話になる。世話になり続けた恩人のアンタだから話せる…聞いてくれるか?」

 

「分かった…。それ程までの話ならば、俺も本気で聞いてやる」

 

……………。

 

「お前は、東京の魔法少女社会で人修羅と呼ばれる…魔法少女の虐殺者と呼ばれてきた悪魔か?」

 

「…ああ。今まで隠していて悪かったよ…丈二」

 

「1・28事件が起こった日のお前のあの姿…普通じゃなかったが、あれがお前の裏の顔か?」

 

「そうだ…。魔法少女と同じく、俺も恐ろしくなったか?」

 

長い沈黙が場を支配。

 

胸のポケットからタバコを取り出し、ライターで火を点ける音が響く。

 

紫煙が事務所の換気扇や空気清浄機に吸い出される中、丈二の重い口が開いていく。

 

「俺はな、人の価値を…()()()()()()()()()()()で見出すんだ」

 

「……………」

 

「口ではいくらでも綺麗事が言えるし、行動さえ善人のフリが出来る」

 

――正義の味方を気取って行動してきた連中が、自分に不利となれば突然…()()()()()()()()()

 

「俺の語った行動は…どう感じた?」

 

「間違いなく人間の味方だ。だから俺はな…怪物であっても、お前と共に過ごしたい」

 

「俺は…ここにいていいのか?」

 

「今まで通り、うちの探偵として生きて欲しい。そして俺達が生きる人間社会を…守ってくれ」

 

――クソッタレに成り果てた魔法少女や、悪魔共から人間社会を守ってくれ。

 

真摯な願いを託された尚紀は、丈二の顔を真剣に見つめながら感謝の言葉を紡ぐ。

 

「ああ…分かった、守り続ける。ありがとう…悪魔の俺を信じてくれて」

 

互いの口元に微笑みが生まれる。

 

タバコの火を灰皿で消した丈二が立ち上がり、棚の中に隠してあったウイスキーを取り出す。

 

「祝い事の日に飲みたいと思ってたんだが…今がその時だ」

 

グラスを2つ持ち、彼の分と自分の分を応接ソファー前の机に置いて酒を注ぐ。

 

「俺達の新しい出会いに…乾杯だ」

 

「ああ…。こんなに美味そうな酒は…初めて味わうよ」

 

乾杯の音が鳴り響き、2人は酒を口にする。

 

酒の味わいに浸っていると、ふと階段を登る音が聞こえてきた。

 

「外出していた瑠偉が帰ってきたか?」

 

事務所の扉をノックした反応から、瑠偉ではないと分かる。

 

「…入っていいぞ」

 

事務所扉を開けて中に入ってきたのは、ちはるの姿。

 

手には御礼の品としてのギフト袋が持たれていた。

 

「ちはるちゃんか…今日はどうした?」

 

魔法少女だとバレた事が不安なのか、その表情は俯いたまま。

 

「…大丈夫、君がどんな存在であろうが…立派な探偵だったよ」

 

「…丈二、さん」

 

俯いたまま涙の雫が零れ落ちていく。

 

席を立ち上がった尚紀がポケットからハンカチを取り出して彼女に渡す。

 

「…落ち着いたか?」

 

「うん…ありがとう、尚紀さん」

 

ハンカチを彼に返した彼女が丈二の元に歩み寄り、手に持たれた御礼の品を渡す。

 

「私の我儘に付き合わせてごめんなさい…。でも、貴重な経験が出来たから…受け取って下さい」

 

「わざわざ御礼の品まで用意してくれたのか?中学生の子供なのに…そんな気にしなくても」

 

「本当に嬉しかったの…。探偵の夢を…中学生の私なんかに経験させてくれた事が嬉しくて…」

 

「ちはるちゃん…」

 

「ありがとう、丈二さん、尚紀さん。本当に大切な思い出になったから…これを貰って欲しいの」

 

「中を開けてもいいか?」

 

頷いてくれた彼女の前で、ギフトの品を開ける。

 

中身は酒飲みばかりの聖探偵事務所職員に相応しいだろう、酒を注ぐガラスグラス。

 

「ありがとうな。大切に使わせてもらうよ」

 

「おい、3つしかないじゃないか?1つ足りないぞ?」

 

「えっ…?でも、ここの職員は3人しか…」

 

「何を言ってる?お前は未来の俺の後輩だろ?」

 

丈二に振り向く尚紀の姿。

 

探偵事務所所長である丈二も微笑み、頷いてくれる。

 

「そうだな、尚紀。これは4つちゃんと揃えてくれたら受け取るよ。大人になった君の分だ」

 

2人の優しさを感じたちはるの心が締め付けられる。

 

その瞳にも涙が浮かんでしまう。

 

「所長…先輩…わ、わたし…わた…あ、あぁぁぁ~~……っ!!」

 

両手で口を抑えて涙ぐんでいく彼女に、もう一度ハンカチを渡す。

 

ハンカチで顔を覆い、嗚咽を堪えるが溢れる感情が抑えられない。

 

涙が止まらなかった彼女の肩に、互いの職員が期待を込めて手を添える。

 

聖探偵事務所に所属するだろう探偵広江ちはるの双肩に、探偵事務所の未来を乗せて。

 

泣き止んできた彼女が、ハンカチを返す時に腰のポーチから何かを取り出す。

 

「所長…これを、この事務所に置いてくれませんか?」

 

「これは…ちはるちゃんが捜査に使っていた虫眼鏡か?」

 

「私が…ちゃんとこの探偵事務所に職員として採用された日に、返して欲しいんです」

 

「なるほどな、ここは未来のお前の職場だ。私物を置いてあってもいいじゃねーか?」

 

「大切に保管しておく。早く大きくなれ、うちの探偵事務所を一緒に盛り上げて行こうぜ!」

 

「…はいっ!所長♪」

 

感動の場面であったが、茶化すような女性の声が響く。

 

<<素敵なシーンだったわ。乗り遅れちゃったみたい>>

 

扉の向こう側から声が聞こえ、瑠偉も帰ってきたようだ。

 

「ねぇ、なんならその子を交えて…神浜聖探偵事務所、創立記念の写真を撮る?」

 

「本当に!?良いんですか?」

 

「ええ♪貴女の大切な思い出を形にして残さないとね♪」

 

「有難うございます!本当に…本当に皆さん、ありがとう!!」

 

……………。

 

あれから暫く日が過ぎた頃の水徳寺。

 

時女の魔法少女達の姿が見えるが、静香とすなおは嬉しそうな表情を浮かべている。

 

「ちゃるったら、毎日のように写真立てを見てますね」

 

「ええ。凄く嬉しかったみたいね」

 

「皆が映る探偵事務所…あの光景こそが、ちゃるの思い描く…」

 

――未来の、自分の居場所ね。

 




読んで頂き、有難うございます。
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