人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
六芒星。
魔除けと魔術的な力を引き出すための模様と一般的には考えられている印。
シュメールやバビロニアなど、古代から五芒星とともに魔除け印として世界各地で使われる。
六芒星は人間に魔術的な力を与えるとも考えられている。
上向きの三角形は物質の霊への上昇、下向きの三角形は霊から物質への下降を意味する。
また陰陽的な意味合いもあり、天と地、光と闇、火と水、風と土、神と人、男と女等を表す。
二つの三角形があわさることで、異なるエネルギーの融和・調和を表現している。
イスラエルの国旗として描かれた印が直ぐに思い浮かぶだろうが、日本とも繋がりが深い。
大陸から伝来した呪術の魔除けの中に六芒星や五芒星が存在している。
五芒星は陰陽道や仏教と結びつき広く普及していくことになるだろう。
六芒星は神道や民間信仰の中で使われることが多かったようだ。
六芒星を魔除けとして考えるなら、逆に悪魔を従える力さえ与えてくれるとも考えられる。
ヨーロッパの神秘主義の中で語られるソロモンの封印とソロモンの指輪説が有名だろう。
古代ユダヤの王であるソロモンは、指輪の力によって悪魔を操り動物と話すことができたという。
指輪に印された模様がユダヤの王ダビデの星である六芒星であり、民族のシンボルと言われる。
しかし、伝説ではソロモンの封印がどのようなデザインだったのかはハッキリと解っていない。
ダビデの星である六芒星が、ユダヤを象徴する印だと証明出来る歴史証拠も無い。
憶測ばかりが飛び交うのが現状であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
季節は夏頃の出来事。
神浜には神浜山岳会と呼ばれるアルピニストの集団が存在している。
特定の山行形態にとらわれることなくオールラウンドな活動を行う団体のようだ。
都市部を中心としたガイド達で組織構成され、登山の安全と自然保護に関する活動を主に行う。
学生も何名か参加しており、その中には時女一族に関わる人物の姿もあった。
「皆さん、足元に気をつけて下さい」
沢登り装備を身に着けた青葉ちかと数人のガイドの先導に従い、多くの年配達が沢登りを楽しむ。
季節は8月ともあり、セミの泣き声、川のせせらぎ、緑の森林浴、全てが癒やされる光景が続く。
「ちかちゃんは若いのに、どうして山岳ガイドをしてるんだい?」
彼女の後ろをついていく年配の1人が、学生ガイドの彼女に質問する。
彼女は時女一族に所属する魔法少女である青葉ちかと呼ばれる少女。
少し黙り込んでいたが、振り向かずに口を開く。
「私は、自然に囲まれた生活を愛しています」
「若いのに珍しいね」
「動物や植物、自然の世界にしか…私は癒やされなかったのかも知れません」
「そうか…それも選択の自由というものだ」
「自然世界に囲まれて家族と静かに生きたい…それが私なんです」
「自然を愛するのは良いことだが、どうして人々と関わる自然ガイドに志願したんだい?」
年配の男の質問に対し、少し黙り込んだ後に語っていく。
自然は人間社会の残酷さを忘れさせるぐらいに美しい。
だが、時に自然は悪魔のように恐ろしい力を人に向けてくる。
大自然の力の前では人は無力であり、彼女も例外ではなかったと語る姿。
彼女は自然の恐ろしさ以外の恐怖も経験しているような口ぶりに思えてくる。
「人間社会も残酷で、自然世界さえ残酷なのかと打ちひしがれた時期もありました」
「では…なんで今もガイドの仕事をしてるんだい?」
「そんな時に…私を救ってくれた同郷の者達がいてくれて、私の心は自然以外でも救われました」
「そうか…人々に触れられる喜びをもう一度知りたくて、自然ガイドをしていたんだね」
「…はい。私はもう一度人を信じたい気持ちが心にあったから、自然ガイドをしています」
「そうなれるといいね、わしも応援している」
「有難うございます。その道のりは…私が思う以上に、険しい山道ですけどね」
気を取り直し、ちかはガイドの仕事に集中していく。
地図を頼りに沢床を進むとやがて現れる美瀑。
次々と続く難所の通過に知恵を絞りって進む一団。
激流はスクラム組んで突破し、浴びるシャワークライムで夏の暑ささえ気持ちがいい光景が続く。
自然の恩恵を感じる観光も進み、幕営地で観光客と共に焚き火を囲む光景が広がるのだ。
「ちかちゃん、その瓶の中身はハチミツかい?」
「はい。ハチミツは滋養強壮力が強く、火傷の薬にも便利だし、甘くて美味しい上に腐らない♪」
「分かるよ。うちの親父も田舎で養蜂場をやってたから、天然のハチミツの旨さは格別だった」
「私は蜂の巣を見ていると、自然の力を強く感じます。腐らない食べ物を作れるなんて凄いです」
「ちかちゃん、どうして蜂がそれ程までの自然パワーに満ちているか、知っているかい?」
「いえ…存じません」
「蜂の巣は、全ての穴が六角形…
「六芒星…?」
養蜂場を営んでいた父から語られたことを年配の男性は語っていく。
自然界には六芒星の構造を持つものが多く存在していること。
自然の秩序に基づいたパワーを秘めながら、力学的に安定した構造のこと。
航空機やレーシングカーに使われるハニカム構造も六芒星によって出来ていると語ってくれる。
「確かに雪の結晶、亀の甲羅、昆虫の眼、干上がった地面のひび割れ等に六角形を感じてました」
「六芒星たる六角形は、自然の力を最大限に発揮できるような仕組みになっているのかもね」
「フフ♪神秘的ですね…。私も神道派なので、大自然の中に神々を感じていました」
「いつか日本の神社巡りをしてみるといい。日本は六芒星に纏わる場所などいくらでもある」
楽しい時間は過ぎていく。
8月は観光シーズンであり、自然ガイドとして多忙であった青葉ちか。
学生の本分もあるので、学業とガイドと魔法少女活動という多忙な毎日を送っていたようだ。
学校から独りで帰る山道での出来事。
「ふん~ふんふん~~…今夜は山菜の天ぷらね~♪」
自宅に戻る途中、山菜が見つかったので機嫌が良くなり採取を続けている。
彼女が今住んでいる自宅は、山奥の開けた場所に建てた山小屋。
都市部に近い山林は都市計画区域内がある。
市街化調整区域や保安林に指定されている山林では建築出来ないが、小さな小屋なら話は別。
四畳半程度の小屋であれば簡易な建物とみなされ山林内でも建てることができたようだ。
山菜を詰め込んだ籠を片手に持ち、今の自分の立場を振り返りながら山道を進む。
「一年前…私は神浜で暮らしていた人間だった」
しかし父親が幼馴染の男に騙されて借金を背負わされてしまい、一家は家を手放すこととなる。
青葉ちかは実家の村に移り住んだ過去をもつ少女。
それは彼女が魔法少女として契約し願いが叶ったことが原因だった。
「私は奇跡の力を使い、取り立て屋から見逃してもらえたから…田舎に移り住めた」
人を騙して弄ぶ、怖い大都会の人間とは関わりたくないという現実逃避の願い。
「でも、私が魔法少女になったと親にバレた。その時に知らされた…時女一族の分家筋なのだと」
そんな頃に、家族たちの元に現れたのは…ヤタガラス関係者達。
分家筋とはいえ、国家神道組織傘下の時女一族の者である事に変わりはない。
ヤタガラスには逆らえない両親から、ヤタガラスに従うように彼女は言われてしまう。
「最初は…神浜に帰ってくるのが嫌だった」
ヤタガラスの存在など彼女は知らなかった。
知らない連中の命令で人探しをしろなんて勝手過ぎる。
それでも、家族の怯えた態度を見せられた彼女は渋々従うしかなかった事情があった。
大都会に戻るのは、悪意ある人間の残酷さを思い出す苦しみに苛まれただろう。
「家族が酷い目にあったから、私まで人間不信になった…。それでも、選択肢はなかったわ」
両親からヤタガラス構成員が住職を務める水徳寺で暮らせと言われ、従うことになる。
「水徳寺で出会ったのが、私と同じ分家筋であり…同じ苦しみを背負う涼子さんだった」
彼女も突然過ぎる任務に対し、筋が通らないと立腹していた事もあり意気投合出来たようだ。
時女本家から訪れた静香達と共に、ヤタガラスからの任務に務める事になるのだが…。
「目的の人物を尾行したり、長期に渡って説得し続けろと言われても…私には関係なかった」
説得任務は静香達に任せ、彼女は大勢の人達に囲まれる生活が苦しかった事もあり離れていく。
自分だけの住処を自然の中に求め、6月の後半時期から北養区の山奥を彷徨きだしたようだ。
その時期に涼子も自分なりに時女と向き合うために、静香と共に霧峰村に向かったりもしていた。
小屋を建てる手頃な場所を見つけてから、少しずつだが暮らしていける小屋をちかは作っていく。
帰ってきた涼子は、彼女なりに時女一族に連なる者としての使命を見いだせたようだが…。
「私は時女一族と共に歩みたかったわけじゃない。人から逃げ、自然世界で引き篭もりたかった」
夕暮れに染まる山道を見上げ、自然の音に耳を澄ます。
この音だけを聞きたかった彼女だが、自然は優しいだけではない。
「暴風雨が酷かった日。せっかく作っていた山小屋が壊れてしまった…」
悪魔のような人間が恐ろしいから自然を求めた。
なのに自然さえ悪魔のように恐ろしい。
「全てが恐ろしい…絶望感に打ちひしがられて水徳寺に帰った時…皆が私に力を貸してくれた」
静香の号令の元、分家集落の魔法少女たちまで集合をかけ、大勢の力で山小屋を再建してくれた。
「私…あの人達に酷いことを言ったわ」
水徳寺から出て行きたいという彼女に恩を売りつけようとしている。
恩という鎖で縛って分家の人間を従えるのが本家のやり方かと聞いたようだ。
「でも皆…不思議そうな顔をしてたわね」
――仲間の私達が、困っている貴女のために小屋を建て直す。
――それだけの事じゃないかしら?
「自分を恥じた…何をされても疑う事しか出来ない自分に」
その言葉で、嫌々ながらも水徳寺で暮らしてきた理由に気がつくキッカケが出来た。
「私…本当は誰かに、必要とされたかったんだって…気が付かされた」
過去を振り返りながら歩いていくと、そろそろ山道も終わろうとしている。
山道も登り終え、見えてきたのは時女の仲間達が再建してくれた愛すべき我が家。
「私が神浜に戻ってきたのは、ヤタガラスなんかの為じゃない…」
――誰かをもう一度信じたいという思いを与えてくれる…仲間達と出会うためだった。
その後、彼女はその思いを育むために神浜山岳会の自然ガイド募集に応募する。
愛すべき自然の素晴らしさと、人々の素晴らしさをもう一度思い出すために。
――――――――――――――――――――――――――――――――
季節は9月頃。
尚紀が聖探偵事務所のポスティングチラシ配りを行っていた時期にまで進む。
「よぉ、尚紀。お仕事ご苦労さん」
南地域を配り終えるために働いていた彼に声をかけたのは、南凪自由学園制服姿の南津涼子。
「涼子だったか?この前は家の手伝いをしてもらって助かったよ」
「いいって別に。助け合いもまた仏の道ってやつさ」
「随分と仏教に拘るな?」
「だって、あたしは仏教寺の浄安寺で暮らしてきたからね」
「住職の娘か?」
「それは…少し違うかな。あたしの両親は幼い頃亡くなって、爺ちゃんが育ててくれたんだ」
「すまない、聞くべき話じゃなかった」
「気にしてないよ。寺育ちだから教養として学んできたんだ…厳格な住職だからね」
「将来は寺を継ぐのか?」
「そうだね、いつかは仏教系大学に入ると思う。寺育ちだからじゃない、そうなりたいから進む」
「思い入れがあるようだな?」
「最初の頃は修行の毎日は辛かったけど…ある日、掃除していた時に暗い顔をした人物が訪れた」
葬式仏教とバカにされるが、仏教は本来迷える人々に仏の教えを説くのが役割。
迷える人の心に寄り添い、釈迦の教えを通してその人物の迷いを払った出来事を語ってくれた。
「爺ちゃんの姿が誇らしくてね…いつかあたしもああなりたいって思ったから、修行三昧さ」
「苦しむ人々を導く宗教の道に進む女性なら応援する。俺の大切な人の分まで頑張ってくれ」
「有難うな。お前さん、けっこう宗教トークに付き合えるじゃないか~?気に入ったよ♪」
「仏教の四天王である、持国天・増長天・広目天・毘沙門天を知ってるか?」
「当たり前だろ?あたしは寺娘なんだよ」
「それら天部の仏神に俺は会った事があると言えば、お前は信じるか?」
「アッハハハハ♪あんた根暗男かと思ったが、ジョークも言える奴だったなんて!」
「いや、本当に出会った事があるんだが…」
「なら、あたしは密教本尊である大日如来が化身である不動明王にだって会える日が来るさ♪」
「大日如来が好きなのか?」
「仏教徒なら当たり前だろ?あたしの炎魔法も、不動明王をイメージしてるんだから」
不動明王の背後で燃える炎とは、迦楼羅(かるら)が用いる迦楼羅焔(かるらえん)と呼ばれる。
迦楼羅(かるら)とはヒンドゥ神話においてはガルーダと呼ばれる存在であった。
「ちなみに、俺はガルーダを仲魔にしていた時期もあった。あいつの炎魔法は確かに強かった」
「アハハハハハ!!腹が捩れる!だから~、真顔でジョーク言うのはやめてくれ~♪」
男らしいサバサバした言葉で喋る彼女。
袂を分かつ事となったが、恩人であり妹であった杏子を思い出して懐かしい気持ちが湧いてくる。
彼女から南凪区の有名な薬膳料理を味わえる穴場に行かないかという話の流れとなっていく。
ポスティングも一段落していた時間であったことから、彼もついて行くこととなった。
「タイ料理サワムラか…うちの事務所の近場にこんな店があったんだな」
「尚紀は不健康な食生活してたしね。ここは美味い薬膳料理が食えるって、神浜じゃ有名店だよ」
「余計なお世話だ。薬膳…漢方の類だよな?味は期待し辛いんだが…」
「神浜じゃオーラ薬膳と言われる程さ。あたしも一度は訪れてみたかったんだよね~」
「寺娘のくせに夕飯前の外食か。見つかれば住職爺さんから大目玉食らうぞ」
「えへへ…そこは秘密にしてくれると助かる。こう見えてあたし、大食いだし♪」
店内に入り、中を見て回れば異国文化を感じさせる飾り物が出迎えてくれる。
所々にはキックボクシング選手の古い写真やグローブ、格闘技ポスター等も見られた。
「サワッディー・カップ!お若いお二人さん、よく来ましたねー」
カウンターから気さくに声をかけてきた人物。
ムエタイの頭飾りを思わせるものを身に纏うハゲた中年男性がここの店主のようだ。
カウンターから声をかけられた事もあり、2人はテーブル席を選ばずカウンター席を選ぶ。
「今日、ナニしましょうか?」
「スープぐらいにしとけよ。夕飯食べられなくなるぞ」
「は~い♪尚紀はしっかり食べなきゃ駄目だからな?不健康な食生活してるんだし」
涼子が勝手に注文してしまい、料理が出来るまで時間を潰す。
「お前は時女の分家なんだろ?魔法少女として、この国のために戦ってきたのか?」
「ただの血筋さ。つい最近まで、魔法少女になったから仕方なく魔獣と戦うだけの存在だった」
「そのお前がなんで赤の他人である俺に付き纏い始めたんだよ?」
「ヤタガラスを名乗る連中が現れてから…爺ちゃんも血相変わった。それが理由だよ」
「何か事情があるんだろうな」
「爺ちゃんはね、秘密結社の構成員だったんだ。だから命令には逆らえなかったんだよ」
「秘密結社の構成員…そいつもヤタガラス関係者だったというわけか」
「あたしは仕方なくヤタガラスの使いっぱしりをさせられた。筋が通らない…腹が立ったよ」
「断れない程の存在だったわけか。断れば、育ての親がどんな仕打ちを受けるか分からない」
「そう思ったから…お前さんをつけ回した。静香達が来てからは…本家連中に丸投げしたよ」
「確かに、お前は俺の周りをウロチョロしていたのは最初の頃だけだったな。今はどうしてる?」
「半端な気持ちで時女と関わるのは嫌だった。だからね、時女の里である霧峰村に赴いた」
「霧峰村…?」
「時女一族の隠れ里さ。時女一族を全く知らないあたしは、深く知る必要があったんだ」
時女の里に赴いて知った事を彼女は語っていく。
時女の里で行われる國兵衛神楽や巫(かんなぎ)の儀のこと。
時女に所属した歴代の魔法少女達が日の本を救うために戦ったこと。
ヤタガラス傘下の元、構成員を務めてきたことを知らされたようだ。
「國兵衛神楽、巫の儀…。時女一族はキュウべぇや魔法少女をそんな名称で呼んでたんだな」
「霧峰村に行った一番の収穫は…ヤタガラスに所属していた人物名簿を見せてもらったことさ」
「人物名簿の中に気になる存在でもいたのか?」
「名簿の中に…あたしの母親の名前があった」
「お前の母親もヤタガラス関係者だったとはな…」
「あたしを産むまで長生き出来たなら魔法少女じゃないんだろうけど…」
「…言いたくないなら、言わなくてもいいんだぞ」
「聞いて欲しい。あたしの母は、ヤタガラスの退魔師として…英雄的な死を遂げたそうだ」
涼子は重い表情を浮かべながらも、母の事を語ってくれる。
彼女は両親とは死に別れて苦労して生きてきた。
だから母親を誇らしいと感じたことは一度もなかった。
だからこそ彼女は立腹する。
自分を捨てた女が英雄と呼ばれたところで…置き去りにされた娘が納得出来るはずがない。
「国家やヤタガラスのために死んだから英雄?そんなの…ただの生贄さ」
腹を割って話してくれたこともあり、尚紀も語ってくれる。
両親だと思っていた人達から捨てられたこと。
明確な意思を親から示されたら恨む事も悲しむ事も出来るが、死人に口はない。
どんな気持ちで国のために死んだのかは定かではないのだと語ってくれる。
彼も辛い立場だったことを知った涼子は、彼に親近感を覚えてくれたようだ。
「でもね、自分を犠牲にしてでも守りたいモノのために人間は魂を燃やせると…あたしは知った」
「…あの南凪港で散った、蒼海幇の人達から学んだか?」
「あたしの母は、警察の治安を守る職務についていたそうだ」
「いつ死ぬかも分からない職務で子供を作る…だから寺に預けられたわけか」
「我が子よりも守りたいものがあった…自分の感情を捨ててでも…誰かを守り抜く魂もある」
「…お前は、どちらを選ぶ?」
「以前のあたしなら前者を選ぶ。でもね、死人が口を残すことだって出来る」
「ボイスレコーダーか何かを残していたというわけか?」
「あたしは爺ちゃんから…母の最後の通話記録を聞かせて貰えたんだ」
「そのメッセージは、お前を案じていてくれたか?それとも、大義の為に散れて本望だったか?」
「あの人の最後の言葉は、あたし達国民を守るために
「地下組織……」
「あたしを守る事も、みんなを守る事も繋がっていた」
――この国に
「…その後、その人は?」
「不審な事故によって搬送先の病院で亡くなった。事件については詳しく明かしてくれなかった」
「……そうか」
「けど、この国の民を救ったんだ…あたしも含めてね。それだけは…あたしの自慢だと思う」
「そんな母の生き方を知って、これからのお前はどう生きる?」
「あたしは…かけがえのない魂を継ぐ。蒼海幇の人達のように」
母のように、己を捨ててでも気高く生きる道もあることを涼子は知った。
時女一族の者として、日の本の民の幸福のためにこそ戦う覚悟を示すのだ。
長い話に区切りをつけた頃、ちょうど薬膳料理も出来たようだ。
「「こ、これは…!!?」」
一口食べたらみなぎるオーラ。
「なんてこった…あたし、こんな美味い薬膳料理なんて味わったことないよ!!」
「まるで回復の泉だ…。これ程の薬膳料理なら、悪魔達のどんな傷や状態異常も治せる!」
夢中になって2人は食していた時、ふと視線が店の中に飾られているモノに目が行く。
「あれは…五芒星か?」
「魔除けとして飾ってあるね。神道、仏教、陰陽道、旧日本陸軍、どれでも五芒星は重要だから」
「仏教にとっての五芒星とは?」
「西洋魔術や陰陽道と同じく、星の守護と五大元素を司るんだ」
地・水・火・風・空を司る神聖な紋様として知られるのが五芒星。
密教や修験道では星のかわりに大を使う。
「あたしの必殺技ともいえる大魔法もね…五芒星である大が必要なのさ」
「六芒星と同じく、魔除けとしても太古から使われるな」
「五芒星の力で悪鬼を炎の結界に閉じ込めて焼き尽くす。京都の大文字の送り火と似てるかもね」
星とはペンタグラムであり、政治的な意味合いだけでなくオカルト的意味合いも強い。
悪魔を崇拝する反キリスト集団ならば、意味合いが同じでも逆五芒星に変える。
ペンタグラムは正しく使えば魔なる者を取り囲む一筆書きの封印と化す。
五芒星は閉鎖性こそが封印であり、交点は複数の目。
見張られる事を、魔なる者たちは嫌うのだ。
掌返しをするように五芒星を逆に向ける行為。
それこそが、
「時女一族の里でも、沢山の五芒星や六芒星の印を見かけたよ」
「神道や陰陽道と深く関わる里なのかもな」
「閉鎖的だが自然溢れる秘境だったし、自然神を崇拝する神道を習わしとする集団なのかもね」
「あるいは…」
――魔なる者たる魔法少女を誰も逃さない。
――
「物騒な事を言わないでおくれよ。あたし達は悪鬼じゃない…変わらない連中もいるけどね」
「五芒星からは…魔なる者達は逃れられない」
かつて悪魔の生贄として逃れる事が出来なかった五芒星を掲げた魔法少女達の事が脳裏を過る。
物思いに耽りながら、2人は食事を終えて精算に向かう。
「あれ?もしかしてこれって…デートってやつ?手を繋いで帰ってやろうか?」
「悪魔の俺をお前の五芒星で拘束するのは勘弁してくれ」
――――――――――――――――――――――――――――――――
「ああ、知ってるぞ。15年前に亡くなった南津巡査部長のことだな」
ポスティングを終え事務所に帰った尚紀は、涼子から聞いた話で気になった部分を丈二に問う。
「警視庁刑事部時代の知り合いだったとはな」
「俺たち刑事が所属する刑事部の中で、捜査第二課に所属していた人物だ」
「捜査第二課か…涼子の母親は警視庁の中でもエリートの刑事だったんだな」
「凄い美人で姉御肌な女性デカだったし、よく覚えてる。既婚者なのが残念だったよ…」
「その南津巡査部長は、死ぬ間際までどんな捜査をしていたか思い出せるか?」
「部署は違ったが、とんでもなくヤバい案件に捜査メスを入れようとしていると俺は聞いたな」
「捜査本部が設置されていたんだろ?それはどうなったんだ?」
「捜査本部は…警視庁上層部によって、無理やり解散に追い込まれたんだ」
「上からの圧力で解散に追い込まれただと…?」
「何故そんな事になったのか俺は知る由もないんだが、南津巡査部長だけは…諦めなかった」
「警視庁上層部からの圧力…涼子の母親は独自に捜査を進めていったのか」
「俺も止めたんだ。これは只事じゃない、小さい子供もいるんだから無茶な捜査はやめろと」
「……………」
「彼女は止まらなかった。我が子や国民を守るために、真実を明かす必要があると必死だった」
「刑事として尊敬出来た人か…。事故で亡くなったそうだが、その時に何か聞かなかったか?」
「日本の政治・行政・司法界隈にはな…不審死が度々起きる。彼女はそれを捜査していたんだ」
日本の政治界隈やジャーナリストたちの間では、不自然な不審死が多い。
そのどれもが自殺や事故といった内容で処理されているが…極めて不自然な終わらせ方ばかり。
南津巡査部長もひき逃げされて亡くなった事にされたことになったようだ。
「彼女は警戒心の塊のような刑事だった…ひき逃げされて亡くなるなんて考え辛い」
「彼女が死ぬ間際に、何かお前に語っていたことはないか?」
「…ある。それを聞いて、彼女がどれだけヤバい案件に首を入れていたのか判り…恐怖した」
「……………」
「俺たち刑事にとってな、絶対に関わってはならない存在が昔から日本にある」
「関わってはならない存在…?」
「関われば確実に職も命も失うと言われる程だ。それを捜査した彼女は…例外なく不審死した」
真剣な眼差しを向ける丈二は重い口を開き、その存在を表す言葉を紡ぐ。
――
――――――――――――――――――――――――――――――――
五芒星は一筆書き出来る故に、2つに分割する事が出来ない。
それは宇宙の根源である原初の混沌、混ざり合う1つたるダークマターを表すと言われる。
宇宙の創生原理においては、混沌の中に宇宙の要素である五大元素も存在していた。
五大要素が均等に作用する事により五芒星が生み出され、創造宇宙のトーラスを周り続ける。
五芒星には黄金分割比の数字が表れ、永遠に続くフラクタル構造を生み出す。
自然界、樹木の枝分かれ、花びらの数、進化の法則、素粒子の世界でさえ同じ構造をもつ。
万物を生み出した原初の混沌であるマロガレ。
その中にこそ世界を構成する五芒星が存在し、脈々と自然界で繋がれたのだが…。
世界に最初の光りが産まれた時に…それは差異となり分断された。
善と悪、光と闇、陽と陰、男と女、火と水、プラスとマイナス、愛と憎悪。
そして…
あらゆる差異が生まれた三次元世界。
これこそが六芒星の三角と逆三角としても語られる相反する二元論。
ヘブライの唯一神が差異として生み出した六芒星。
それは母なる混沌たる五芒星があったからこそ、この世界に生み出されたようだった。
……………。
季節も過ぎていき、10月を迎える。
紅葉に彩られた美しい山道を今日も歩く青葉ちかの姿が見える。
「ふん~ふんふん~~♪」
暖炉の着火剤として松ぼっくりを拾っているようだ。
不意に空から現れ、彼女の肩に止まった野鳥。
「あら?餌が待ちきれなくて私のところにまで来ちゃった?」
ちかの山小屋には野鳥観察のためにバードフィーダーを木の枝に設置している。
この野鳥はそこに訪れて餌を貰っている野鳥のようだ。
右手を肩に近づければ、野鳥が彼女の手に移動して鳴き声を出す。
「えっ、大気の流れがおかしい?嵐が訪れる?」
野鳥の言葉が分かるのか、話しかけるように喋り続ける。
不安になってきた彼女は、松ぼっくり採取を途中で切り上げて立ち上がった。
空を見上げれば赤く染まった雲と夕日。
「綺麗な夕日ね…。でも自然は美しさの中には…悪魔のような恐ろしさも秘められているわ」
急ぎ足で山小屋へと走る彼女の姿。
ちかにはあの夕日の空がどういう事態を引き起こす前兆なのかが分かる。
台風の前兆だったのだ。
……………。
2019年10月は、台風19号が関東で猛威を振るった事で知られている時期。
空は案の定雲行きが怪しくなり、強風が吹き荒れていく。
「たくっ……ログハウスの泣き所だよなぁ」
強風が吹き荒れる中、尚紀はログハウスのコーキング作業中。
ログハウスは丸太を積んだだけなので、移築は早いがどうしても壁の隙間から水漏れが出てくる。
「酷い台風になるようだし、東京の魔法少女共も大人しくしてくれてたら助かるんだが…」
大型台風接近に伴い、聖探偵事務所も休みとなってしまったので対応に追われていた。
天気予報通り台風19号の猛威が関東を直撃し、外は嵐の如く風と雨が吹き荒れる。
「酷い雨風の音だニャ…まるで高圧洗浄機で家を洗われてるようだニャ」
リビングで大人しく台風が過ぎ去るのを待つしかない尚紀と猫悪魔達。
彼は夏目書房で買った小説を読み、猫達は心配そうに雨戸を閉めた窓の外に意識を向ける。
「築10年と比較的まだ新しい家だったし、経年劣化も酷くなくて良かったわね」
「それでもウッドデッキの屋根が心配になってくるニャ」
リビングの上に見える天窓の空を見つめる表情は不安そうだ。
「オイラこういう日を経験すると、大自然の恐ろしさを痛感するニャ。拾われて良かったニャ」
「そうね…まるで悪魔のように恐ろしい力強さよ」
「天空神でも暴れているのかニャ?それとも、母なる地球が具現化して激おこなのかニャ?」
「どうかしらね?それらも私たちから言えば悪魔だろうけど、どんな姿をしてるのかしら?」
「きっと恐ろしく悪趣味で固められた
「えらく具体的な意見ね…?」
静かに小説を読んでいた彼の口も開く。
「大自然の世界は五芒星や六芒星で形作られる。それらは全て、神であり悪魔の領域」
「なら、やっぱり天変地異や自然災害の類は全て…悪魔の仕業なのかニャ?」
「どうだかな?科学の力は既に魔法や魔術に匹敵し始めている。なら可能かもしれない」
「可能って…何を?」
「……人工地震や、気象兵器のことさ」
「そんなものを人工的に起こして、何になるニャ…?」
「TVやスマホのように、道具は使い方次第で人々に恩恵をもたらすが…」
――それらを、悪魔を崇拝するグローバル・エリート達が管理していたとしたら?
……………。
<<すいません!!助けて下さい!!!>
突然声が玄関から響き、小説を机に置いて玄関に向かった彼が目にした人物とは?
「ちかじゃないか!?お前ずぶ濡れになってまで、どうしてこんな日に外に出て…?」
「私の山小屋の隣にある大きな木が倒木しそうなんです!倒れてきたら私の家が壊れちゃう!」
「この強風だからな…。たしか以前、暮らしている家が俺の家近くにあるって言ってたな?」
「だからここに来ました!静香さん達にも連絡したんですが…距離があって間に合わないかも!」
「法律を調べてみないと分からないが、魔法の力で木を伐採する事は可能か?」
「過度の伐採を防ぐ森林法があるんですが、神浜市役所に手続きを行いに行く余裕は無いです!」
「自然環境保護もケースバイケースだな…分かった、直ぐに支度する」
レインコートを身に纏って強風と豪雨が吹き荒れる外に出る。
ガレージからワイヤーケーブルを取り出し、ちかに先導して貰いながら山道を進む。
「倒木しそうな大木の処置は何かしているのか?」
「縄を使って周りの木と結び、3点固定していますが…何処まで保つか判りません」
「風が強く吹き出した…急ごう」
猛烈な風雨の中、懐中電灯を片手に2人は夜道を走るのだが…。
「あ…あぁ…そんな……」
「……なんてこった」
2人が辿り着いた頃には、大木の下敷きとなってしまった山小屋の無残な姿しか残っていない。
ちかは膝が崩れ落ちてしまった。
「どうして?やっと人を信用出来るようになってきたのに…今度は自然の方が私を虐める!」
泣き崩れてしまった彼女の肩に、彼は手を置いてやる事しか出来なかった。
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彼女を風雨に晒したままにするわけにもいかず、家まで連れてきた。
破壊された小屋の中から彼女の私物を可能な限り持ち出せたが、服も下着も水浸し。
仕方がないので彼女のスマホを借り、静香に代えの衣類を持ってきてもらうよう頼んだ。
「普段ならオッパイお姉ちゃんが入浴中なら飛んでくけど…今のあの子は悲惨過ぎて無理ニャ」
「当たり前でしょ。覗きに行っていたら、簀巻きにして神浜湾に沈めてあげてたわよ」
リビングで静香達が訪れるのを静かに待つ。
程なくして、玄関のチャイムが鳴った。
「すいません、嘉嶋さん。ちかを助けてあげるのは本来…時女本家の嫡女である私の努めなのに」
「気にするな。早く代えの衣類を風呂場のちかに届けてやれ」
風呂場に向かう静香を見送り、心配して彼女と共にやってきた3人をリビングに上がらせた。
「ちかさん…可哀想に。せっかく時女の魔法少女達と協力して山小屋を再建したのに…」
「災いは鬼神のなす業。鬼や神が行う領域だから、いつ襲いかかってくるか分からないんだ」
「人災なら恨む事も出来るけど、天災ばかりはどうしようもないよぉ」
「以前もあの山小屋が壊れた事があったのか?」
「はい…建築家が建てたわけでもない掘っ立て小屋でした」
「自然の猛威を相手にするには、頼りない小屋だったわけだな」
「それだけじゃありません…」
すなおは尚紀に語っていく。
青葉ちかとその家族がどのような境遇に陥った過去を持つのかを。
父の幼馴染に大切にしてもらえたが、裏切られて借金地獄に突き落とされた過去を持っていた。
「踏んだり蹴ったりの人生か…確かに、人間不信になるのも無理はないか」
「ちかちゃん、疑い深い自分に自己嫌悪を繰り返すんだ…彼女が悪いわけじゃないのに」
暫くして、静香と手を繋いだ姿のちかがリビングに訪れる。
目元は腫れており、風呂場でも泣き続けていたようだ。
「…すいません、皆さん。ご迷惑をおかけしました」
「気にするな。それよりも、これからどうする?」
「水徳寺にまた帰ります…。それしか、安心して寝られる場所なんて…神浜には無いです」
「そうか…。台風が小康状態になったのを見計らって移動するといい。今夜はここで泊まれ」
「そんな…どうして、私にそこまで優しくするんですか?私なんて…何もないのに」
「クドクド言うな、うちは部屋を持て余している。お前らも今日は休んでいけ」
「いいんですか?でも私たちは5人だし…」
「空き部屋もベットと布団ぐらいは用意してある。雑魚寝するよりはマシだ」
「尚紀先輩は猫ちゃん達と暮らしてるんだよね?どうしてそんなにベットを用意してたの?」
「まぁ…色々と思うところがあったんだ。いつか、必要になる日が訪れてほしくて」
「ちょっと待ちな。よく見たら、あたしら5人がベットを使ったら…尚紀の分がなくなるぞ?」
「俺はリビングのソファーで寝る。小説の続きでも読みながらな」
「地獄に仏とはアンタみたいな人の事だよ、尚紀」
今夜は尚紀の家で泊まる事となり、少女達は自分の部屋を見つけて入っていく。
「オイラ、ちか姉ちゃんと一緒に寝るニャ。猫のオイラでも愛でて気分を慰めるニャ」
「そうね。私達は愛玩動物姿だって、悪魔の姿に簡単に戻れるようになってから忘れかけてたわ」
暫く時間が過ぎていき、部屋のベットで休んでいた彼女達も寝息を立て始める。
毎日3時間睡眠しか行わない尚紀は、眠くなるまで小説を読んでいたのだが。
「うちの騒がしい猫共が横にいると眠れないか?」
振り向きもせずに声をかけた先には、ちかの姿。
「いえ…猫ちゃん達のせいじゃなく、頭の中が混乱していて意識がハッキリするんです」
「座れよ。コーヒーは眠れなくなるからやめとけ」
「あの…お気遣いして貰わなくても大丈夫です」
リビングの椅子に座り、静かな時間が過ぎていく。
体が風雨に晒された彼女達を温めるため、暖炉に火が灯された音が静かに響いていた。
「…私に恩を売って、時女一族にしつこく付き纏われる状況を打壊しようと考えてますか?」
「…そう思うか?」
「だって…それ以外に、私に親切にする理由なんて…」
「自然に何度も痛めつけられた。だからまた人間も繰り返すに決まっている…そんなところか?」
「……………」
「分かりやすい奴だな、お前」
「だったらどうなんですか!?みんな私を傷つける!自然も……人間だって!」
建前を見破られた彼女は怒りの表情となり立ち上がる。
「優しくしてくれたって…絶対に恐ろしい苦しみをもう一度私に与えにくるに決まってます!!」
「そうなる日もあるかもな。疑う事は…
「え……?」
読んでいた小説本を閉じ、机に置いて彼女に向き直る。
「人は、疑うべきだ。お前のその疑い深さは…人として正しい在り方だ」
「私…誰かが何かをする時は裏があるって深読みして…あらぬ誤解を生んで迷惑をかけて…」
「その考え方が世間知らずなんだ。だから多くの人間は誤解してしまう」
社会人としての尚紀は、まだ世間知らずの学生であるちかに語っていく。
疑うのはその人物を知る行為。
反対の信じるとは、崇高で聞こえの良い概念に聞こえるだろうが…弱点がある。
「信じる事で繰り返してきた愚かな行為、何か分かるか?」
「分かりません…それは一体なんですか?」
――他人を知る事の放棄…
「知る事の放棄…無関心……?」
「無関心こそが…疑うよりも忌々しい。俺は探偵として…その光景を数多く見てきた」
彼はマルチ商法の潜入捜査を経験したことがある。
楽に儲かるとお金に苦しむ人々を騙し、生き血を啜る。
腐りきったマルチ営業マン達の存在を例にして彼女に語ってくれる。
「まるで…私の父を騙して家族を借金地獄に突き落とした人と…同じタイプの悪人ですね」
「腐りきったマルチ営業マンの中でも、極めつけにタチが悪かった連中がいた」
「その人物達とは…何ですか?」
「
「そんな…悪い事をしているって、自分で気が付かない人達がいるんですか!?」
「そいつらは人に加害行為をしている自覚なんて欠片もない。考える事から逃げた奴らだ」
「それじゃまるで…
思考停止。
それこそが信じるという名の元に行われてきた究極の無関心状態。
「疑う事は悪じゃない。本当の悪とは…他人に無関心になる事なんだ」
――連中は、社会貢献する正義の味方を気取っていたりする…よく観察して見ることだ。
――そいつらがどれ程の人間達を苦しめて…救ってこなかったのかをな。
自分が今まで悪だと思いこんできた疑い深さを、初めて誰かに肯定された。
戸惑いの表情をしていたが、ふと頭の中で全てが繋がりを見せ始め、両目が見開いていく。
「そんな考え方に気が付きませんでした…。言われてみれば…私の家族のケースも同じですね」
「人間は思い込みの世界だけで生きる悪癖がある。主観ではなく
「客観的になれるからこそ…思考の逃げ道が作れる…」
「自分達が正しい行いをしてこれたかを疑え。これを
「やっぱり社会人の方は違いますね。私達は魔法を使えても世間知らずの子供だと痛感しました」
「人間や社会の裏側ばかりを見ていると、俺みたいなヒネた大人になる弊害もあるけどな」
「フフ♪そんなことないです。尚紀さんは…とっても思いやりがある本当に優しい人です」
安心したのか椅子を立ち上がり、自分が休んでいた部屋に戻っていくのだが…。
「そういえば尚紀さん。どうしてあの猫ちゃん達は…喋れるんですか?」
「お前には分かるのか?…いつか必ず話すから、今日はもう休め」
「分かりました」
部屋に戻る魔法少女の後ろ姿を見つめながら、神浜で生きる魔法少女たちに思いを巡らせる。
「最近、この神浜の魔法少女社会で不穏な動きが見られる。どうする…正義の魔法少女共?」
東京で人間の守護者として生きてきた尚紀は…疑っている。
神浜市で正義の味方を気取ってきた魔法少女達に疑いの眼差しを向けている。
「お前達は本物の人間の守護者か?それとも、自分達が救えていない人間さえ考えない連中か?」
無関心極まった上で、尚も人間の守護者を気取り続ける卑怯者達なのか?
…彼は見届けていくことになるだろう。
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台風19号は2日間の猛威を振るった事もあり、次の日も尚紀は自宅待機。
「アプリニュースで被害の状況はどんな風に語っているの?」
「酷いもんだ。河川氾濫や土砂災害、多摩川や千曲川などの一級河川まで氾濫しちまってる」
「朝方は小康状態になったから、ヤタガラスのお姉ちゃん達もどうにか帰れて良かったニャ」
「またぶり返してきてるし…自然の猛威は悪魔のように気まぐれね」
「水害の国である日本はな、川の氾濫を神格化してヤマタノオロチ神話として語り継ぐほどだ」
「何処の国でも蛇悪魔神話は語られるニャ…おっと、蛇悪魔は尚紀も同じ扱いだったかニャ?」
「俺をルシファー扱いするな、外に放り出すぞ」
ニュースアプリを閉じ、SNSにも目を通す。
「こいつ…ムカつく野郎だ」
「何を見ているの?」
「建築関連企業の呟きが炎上中だ。川が氾濫すれば数十億の稼ぎになる、氾濫が待ち遠しいとさ」
「腐った奴だニャ!人の生き血を啜るクソ野郎だニャ!!」
「資本主義の闇ね…人々が災害に飲まれれば飲まれる程に”需要”が生み出され利益とする」
「そういえば、昨日尚紀は人工地震や気象兵器の事について何か言ってたニャ」
「もしそんな兵器があるのなら、どれだけの需要と利益を企業と株主達は手に入れられるの?」
「完全にマッチポンプだニャ…それが出来る金儲けの世界なら、残酷な悪魔の世界だニャ」
―――儲かるとわかれば平気でテロリストにも金を貸すし武器も渡す悪魔共。
―――意図的にカオスを撒き散らし企業がダメージを受け社長が自殺すればゲラゲラと笑う悪魔。
―――金の悪魔共!!
そんな言葉を、震えながら尚紀に語ってくれ人物の言葉が頭を過る。
「いつだって世界の犠牲となるのは、小さく生きるしか出来ない労働者達なのね…」
スマホのSNSアプリを閉じ、検索しながら何かを探す。
「どうかしたの?」
「小さく生きるしか出来ない奴らだってな、幸福に生きる権利がある」
金持ち資本家が全ての利権を独占し、人々から生き血を啜る行為に待ったをかける思想がある。
それこそが、政治を知る努力を始めた尚紀が求める社会主義の政治概念だ。
「復興募金に寄付でもするのかニャ?」
「そうする。それに、台風から俺達を守るこの家の世話を手伝ってくれた連中の借りも返す」
「尚紀…本当に尚紀は優しくて、お人好しだニャ」
「かつての世界でな、勇やベルゼブブからも…俺はお人好しだって言われたよ」
……………。
大型台風が過ぎ去ってから一週間が過ぎた。
気持ちを落ち着けたちかと静香達は、瓦礫の山となってしまった山小屋に向かう。
「衣服ぐらいしか持ち帰れなかったけど、まだ使えるちかさんの私物が残ってますよね」
「私達で残りの私物も水徳寺に持ち帰りましょう」
「酷い壊れ方だったし、再建するのは難しいかもしれないよな…」
「う~…あんなに皆頑張って作ったのに…ちかちゃん、元気出してよぉ」
「ありがとう、みんな。私は大丈夫だから…」
時女の皆と再建したが、無残な姿となった我が家に向かう彼女の足取りは重い。
俯きながら歩いていたが、何か物を作っているような音が響き渡ってきた。
「何かしら…?」
「何か…物を作っているような音が聞こえてこない?」
「見て見て、よく地面を見れば車が通った後もあるよ」
「業者か何かが入っていったのか?」
山道を歩き、皆で再建した山小屋があった場所に辿り着いた彼女達が見た光景とは…。
「えっ……?」
「そ、そんな……これって!?」
「凄いよぉ~!小さいけど、尚紀先輩の家みたいな小屋が作られていく!」
建設業者の職員が沢山働いており、持ち込まれた資材を組み上げて小屋が作られている。
暗い表情だった少女達の顔にも明るさが取り戻されていくのだ。
「四畳半程度の小さなログハウスだが、素人の子供たちで作るよりは頑丈になるさ」
ちかの元まで歩いてきたのは、ログハウス建設の仕事を発注した人物。
「尚紀さん!?ま、まさか…私のためにログハウスを…?」
「お前、初めて俺の家に訪れた時にこう言ってたろ?木の匂いに包まれて癒やされるって」
「嘉嶋さん…ちかのために、こんな高そうな家をお金まで出して作ってくれたんですか?」
「尚紀…お前って男は……」
ちかが彼の前に歩み寄る。
「私は以前…同じことをしてくれた時女の皆を…疑うような言葉を言いました」
「ちかさん……」
「それでも、どうしてこんな親切を私の為にしてくれたのか…理由を教えてくれませんか?」
疑問に思う表情をした彼女達を見て、彼は不思議そうな顔つき。
「お前ら、俺が神浜に引っ越してきた時に家の手伝いをしてくれたろ?借りは返す…それだけだ」
静香達と同じ言葉を彼も語ってくれる。
ちかの両目が潤み、笑顔となってくれた。
「尚紀さん…ありがとう。私にまた…自然と人間に向き合える気持ちを与えてくれて!」
ちかの表情が晴れ渡る。
小屋を失った時の絶望の表情が嘘だったかのように。
「尚紀、お前は本当に慈悲深いな!!」
同じく笑顔となった涼子が彼に駆け寄り、首裏に片腕を回し込んでくる。
「人の悲しみを慈しむ、抜苦与楽(ばっくよらく)の精神が宿ってやがるよ!」
「たくっ…こんなとこでも仏教トークだな、涼子」
「それが僧侶を目指す南津涼子ってもんさ♪あたしがマブダチになってやるからな~」
「嘉嶋さん…本当に有難うございます!ちかさんの為に…本当にありがとう!」
「ますますヤタガラスに迎え入れる気になったわ!ところですなお、まぶだちって何?」
「みんな、私が言った通りでしょ?私の先輩は…こういう人だから♪」
嬉しさのあまり駆け出したちかは、彼に飛び込んで抱きついてしまったようだった。
……………。
彼は人修羅と呼ばれる悪魔であり、この世界で一角獣のエンキ神とも呼ばれだした存在。
五芒星の悪魔であり、六芒星の悪魔でもある。
大自然を表す存在であり、青葉ちかが愛した自然が具現化した存在とも考えられる。
彼女を慈しむように包んでくれた、自然のような優しさを周囲に与えてくれる存在。
だが…自然は優しいだけではない。
その後の神浜魔法少女社会は…混迷を迎える事となっていくだろう。
東の魔法少女社会の長の追放。
歯止めが効かなくなった東社会の魔法少女達の暴走。
新たな東の長となった藍家ひめな達の暗躍。
正義の味方である西の魔法少女達とて黙ってはいないだろう。
西と東、中央さえも巻き込んだ神浜の騒乱の日も近い。
……………。
「なんだか……胸騒ぎがする空ですね」
新しい山小屋のテラス椅子に座る、魔法少女姿のちか。
肩に止まっている野鳥に話しかけているようだ。
「神浜魔法少女社会の騒乱…私たち時女の魔法少女は、どちらに組みしたら良いんですか?」
鳥の鳴き声が響き、彼女も頷く。
「そうですね…。私たち時女一族は…日の本の民を優先する一族です」
彼女達は国家主義者であり愛国者。
そのイデオロギーをこの街の魔法少女社会の在り方にまで向けることは許されない。
それでも、譲れない信念がある。
「人命被害が出る程の騒ぎとなるのならば……討って出ます」
不穏な風がなびき、ちかの美しい白髪の長髪を靡かせる。
自然の優しさと、もう一つの恐ろしさを肌で感じ取ったようだ。
魔法少女衣装の髪飾りに咲くように備わっている花を1つ手で外し、静かに見つめる。
「私の花飾り…よく見たら
太古のイスラエルの王たるソロモンが用いてきた六芒星。
ダビデ王の印たる六芒星を掲げて悪魔を召喚し、動物とも喋る事が出来たという。
「自然は時に悪魔のように恐ろしい力を人々に与える。その力は…たとえ魔法少女でも抗えない」
彼女の花飾りに浮かぶのは自然神の象徴。
そして…悪魔の象徴たる六芒星。
「魔法少女は…大自然存在に逆らってはならない。魔法少女達の破滅をもたらすことになる…」
―――決して自然神を…悪魔を……怒らせてはいけない。
読んで頂き、有難うございます。