人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

103 / 398
102話 デビルサマナー

時刻は既に深夜。

 

神浜から見滝原方面に向かう高速道路で起きた事件についての速報ニュースがTVで流れ続ける。

 

ここは神浜市南凪区にある5つ星ホテル内の気品溢れる客室。

 

部屋にある浴室と併設したシャワールームには、湯浴みをしている女性シルエット。

 

「ヤタガラスの仕事を請け負っていけば、葛葉一族の情報が手に入ると思ったけど…甘かったわ」

 

湯浴みを終えた彼女がシャワールームから出てくる姿。

 

美しい裸体の両腕全体を見れば、痛々しい程に刻まれた魔術増強入れ墨。

 

濡れた体を乾かし、下着姿のままサニタリースペースから彼女は出てきた。

 

気品溢れるリビングの机に置いてあったスマホを手に取り操作していく。

 

口座をもつスイス銀行オンラインバンクに入金されたヤタガラスの謝礼金額を確認したようだ。

 

「ヤタガラスとも潮時かもね…。これ以上仕事を繰り返しても…有力な情報を得られそうにない」

 

秘密主義を貫くヤタガラスを相手に、フリーのサマナーである彼女は何かを探っていたようだ。

 

高層ビルの客室の窓辺に立つ彼女の後ろ姿。

 

遠くに見える中央区高層ビル郡の美しさが目に映る。

 

「故郷の香港を思い出す光景ね…ヴィクトリアパークの美しさを思い出すわ」

 

両目を瞑り、幼少時代を思い返す。

 

小さな頃は孤児院に預けられた孤児として生きた時代があった。

 

後に八極拳門派の老師に引き取られ、家族同然のように愛されながら幸せな時代を過ごす。

 

彼女を引き取った老師には2人の武術友人がいた。

 

3人の老師達と交流を深めていく内に、各門派の内弟子少女とも交流できた。

 

「私の人生は、あの頃が一番幸せだった…」

 

彼女の耳奥には、今でもあの頃の楽しかった記憶の残響が残る。

 

我嚟喇!!麗家姐!!(行くよ!レイ姉さん!)

 

我可唔可以問你點事啊?(その構え、何か聞いていい)

 

松鼠猴嘅準備!(リスザルの構え)

 

那美雨?(あのさ美雨)

 

咩話?(なに?)

 

我覺得嗰個老大爺有胡散嘅味道(あの老師胡散臭い気がするの)

 

唔係噉嘅(そんな事ないネ)

 

你點知噶?(どうして分かるの)

 

我聽講係由武術書度學來嘅(武術書から得た技だと聞いたヨ)

 

周圍都係道場漫畫…(あの道場漫画だらけなのよ)

 

我真係希望我能讓你咁做(やらせてあげたらいい)

 

內奧米…(ナオミ)

 

名好奇怪,但技術係真嘅(名前は変だけど技量は本物よ)

 

娜奥米家姐係對嘅(ナオミ姉さんの言う通りネ)

 

唔緊要 我畀你練習(まぁいいわ、稽古をつけてあげる)

 

如果我能贏、我想讓你飲一杯金豆腐♪(私が勝てたら杏仁豆腐奢て欲しいネ)

 

好啦、如果我贏咗我會用芒果布丁♪(私が勝ったらマンゴープリンね)

 

咬人組合…(食い意地コンビ)

 

……………。

 

魔術増強の入れ墨が彫り込まれた片手が、強く握りしめられていく。

 

「幼い頃から共に武術を鍛えあった幼馴染だけど…日本から来たあの女を疑うべきだった」

 

思い出したくもない記憶まで掘り出されていく。

 

大切だった親友に殺されたのだ。

 

家族同然のように接してくれた大切な老師と兄弟子達を。

 

遺体に縋り付き、泣き叫ぶ自分の姿が蘇ってしまう。

 

「武術家同士の果し合いだった、恨むべきではないと老師は遺言を残したわ…それでも!!」

 

血眼になって幼馴染を探した末に、日本の秘密結社に所属する人物だと突き止めた。

 

「レイ…私は絶対にお前を許さない。そのために私は故郷を捨て、ヨーロッパで力を蓄えた」

 

――日本に赴き、老師たちの仇を討つために!!

 

窓ガラスに映る彼女の顔は、やりきれない気持ちと憎しみが入り交じるかのように歪む。

 

そんな彼女を我に返したのは、スマホの着信音。

 

「仕事用の電話番号にかかってきた。丁度いい、暫くヤタガラスから離れて仕事をしてみるわ」

 

通話を暫く繰り返し、電話を切った彼女はベットに入り眠りにつく。

 

ベッド横のサイドテーブルに置かれた、彼女が唯一残した思い出の欠片が詰まった写真。

 

そこには、妹のように可愛がった美雨と自分の姿と…。

 

()()()()()()()()人物の人影が、写っていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神浜市チャイナタウンとも言える南凪路。

 

蒼海幇メンバーが店を切り盛りする高級中華料理店には現在、ニコラスと蒼海幇長老の姿がある。

 

店の奥に設けられた円卓テーブル椅子に座り、個人事業主を待つ。

 

「フリーのサマナー…彼女はどのような人物なのですかな?」

 

「欧州では名の知れた凄腕です。彼女を超えるサマナーは、欧州にはいなかった程に」

 

「ほう、それは凄いが…本当に信用出来る人物か疑わしいのぉ」

 

「ご心配はごもっとも。彼女は金さえ出せばどんな連中とも仕事をする。イルミナティとさえね」

 

「ワシなら選びたくないが、信頼を売りにするのが事業主。金さえ出せば裏切らんかもしれん」

 

「その人物の名は、ナオミといいます。性は誰も知りませんね」

 

「欧米でも使われる名前じゃな。たしか名の意味は…」

 

ナオミと名乗る性も定かではないフリーのデビルサマナー。

 

ヘブライ語で書かれた旧約聖書にもその名があり、楽しさや心地よさという意味がある。

 

「それは…彼女にとっては皮肉かも知れませんね」

 

「…そろそろ時間じゃ」

 

店の奥に歩みを進めてくる赤いスーツを纏ったサングラス女性。

 

その手には赤いレザースーツケースが持たれていた。

 

「あなた達がクライアントで良いのかしら?」

 

「隣のフラメル氏がクライアントじゃ。ワシは付き添いで来ておるが、内情は知らされておる」

 

「どうぞ席にかけてくれ、商談といこう」

 

促されたナオミはサングラスを胸ポケットに仕舞い、席に座る。

 

お客様が来店した事もあり、ボーイが席まできて注文を伺う。

 

「わざわざご足労願ったのだ、好きなものを注文して構わない」

 

「お言葉に甘えるわ、ミスター」

 

彼女は遠慮なくボーイに注文を行っていく。

 

コース料理から始め、単品メニューも次から次へと注文を繰り返す。

 

20代前半ぐらいに見える女性であるが、明らかに食べる量が他の女性を遥かに上回る光景だ。

 

「…よく食う女じゃのぉ」

 

円卓テーブルで3人は商談となっていくのだが…。

 

「ボディガードを依頼したい?」

 

「その通り。その人物はイルミナティから狙われている」

 

「世界を裏から管理するフリーメイソンの司令塔団体から直接狙われる程の存在なの?」

 

「イルミナティと関わった事があるのなら知っているだろう?新たに生まれた啓蒙の神の存在を」

 

「昨日見かけたわ。私がイルミナティと関わっているのを知っていて、よく姿を現せたものだわ」

 

「そのためにワシがきておる」

 

「なるほど…素敵なご老人ね、ミスター?この人物が貴方の使い魔かしら?」

 

「彼とは友人だ。使い魔という蔑称で呼ばないでほしい」

 

「分かったわ」

 

「話を戻そう。依頼内容とは、君が昨日見た人物の護衛だ」

 

「待って、あの悪魔がどんな存在か知らないの?」

 

「イルミナティ共からは啓蒙神と呼ばれているのだろう?本人は大迷惑だろうがな」

 

「大魔王ルシファーと同じ程の存在だということよ。護衛などいらないのではなくて?」

 

「君は凄腕サマナーだ。ならば、君が用いる召喚悪魔達の力の強大さを誰よりも知っているはず」

 

「ええ…よく理解しているつもりよ。極めて恐ろしい存在だとね」

 

「悪魔を行使する状況の弊害もよく知る筈だ。人々が大勢暮らす街で力を行使するとしたら…?」

 

「なるほどね。あの悪魔、大魔王程の実力を持ちながらも…優しいお人好しだというわけね」

 

「確かに彼は並ぶ者無き悪魔。だからこそ彼は自らの力を縛り上げてしまう…そして()()()()

 

「私が悪魔を用いて…大勢の人々を関係なく殺す存在と考えないのかしら?」

 

「君の評判は知っている。君が単独で動いた場合、無関係な人間の犠牲は最小限に押さえる者だ」

 

「私の事をよくご存知ね」

 

「その生き方は…君の過去が関係しているのかな?」

 

「随分と事情通ね、ミスターフラメル?…フラメル?まさか、貴方は…」

 

「察したのなら、黙っておいて欲しい」

 

「伝説の錬金術師が生きているという噂は本当だったのね。よく梟の目から逃げられたものだわ」

 

「近場のモノ程見えづらいものだよ。話を戻そう、この依頼は長期の依頼となるだろう」

 

「前の依頼主とは距離を置こうと考えていたの。私は構わないけれど、それなりの額になるわ」

 

「問題ない。前金は必要かね?」

 

「景気のいい依頼主は好きよ。噂に聞く石の賢者だもの、お金には困らないみたいね」

 

「商談成立かな?ミス、ナオミ?」

 

「ええ、この依頼を受けさせて貰うわ。彼の詳細な情報も聞きたいけれど、その前にデザートね」

 

「この若い娘っ子…」

 

美しい白髪の顎髭を撫でながら、長老はナオミの前に並べられた料理の数を見て溜息が出る。

 

「一体どれだけ食うんじゃ…?」

 

「あ、ボーイさん?マンゴープリンとタピオカを追加ね。それからタルトもお願い」

 

「やれやれ、これでは店の冷蔵庫の中身を全部食われてしまうわ」

 

「彼女には期待している。好きなだけ食べさせてあげればいい」

 

「この大食いっぷりで、どうやってこんなスレンダーな体型を維持しとるのやら」

 

「レディの秘密には触れない方が良いのではなくて?」

 

結局この後もデザートの後のシメとして、単品メニューをしこたま食われてしまう光景が続く。

 

老人達も胸焼けが酷くなり、食事には1つも手を付けられなかったようだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

食事と必要な情報を得た彼女は立ち上がり、店を出ていく。

 

「あの悪魔の通り名は人修羅。人間のフリをしながら嘉嶋尚紀と名乗っているのね」

 

サングラスをかけ直し、南凪路を歩いていく。

 

「情報の信憑性の確認も必要だし、色々と見て回る必要があるわ」

 

個人で動くサマナーとして、様々な状況を考え込みながら歩き続ける。

 

彼女は神浜市に訪れる用事と言えば、ホテル業魔殿に立ち寄る場合のみ。

 

神浜での土地勘がないためか、この街を色々と知るために動き出す。

 

「最後にこの街に訪れたのも、もう二年前ぐらいかしら?」

 

スマホを右手で取り出し、前金の入金が入っている事を確認。

 

「気前よく払ったわね。金が用意出来たこともあるし、使い魔達を業魔殿に連れて行かないと」

 

左手に持たれたスーツケース内には、彼女が使い魔として利用してきた悪魔達が納められていた。

 

<<じゃあね~美雨!集合時間はいつもどおりだって、ななかが言ってたから!>>

 

「え…?」

 

危うくスマホを落とし掛け、ポケットの中に仕舞いながら声が聞こえた方角を振り向く。

 

「あの子…まさか!?」

 

後ろ姿しか見えないが、面影がある。

 

スーツジャケット内側ポケットに仕舞っていた写真を取り出し、写真と見比べる。

 

咪住 咪住!!(待って!)

 

広東語で呼び止められた美雨の体がビクッと震える。

 

「この声…まさか、こんな偶然…?」

 

慌てて後ろを振り向いた彼女は、サングラスを外したナオミの姿を確認し…。

 

「ナ…ナオミ姉さん……?」

 

驚愕と感動のあまり学生カバンを落としてしまう。

 

你永遠唔會忘記你(貴女を忘れる筈がないでしょ)…美雨」

 

両目から嬉し涙が一気に噴き上がり、駆け出した。

 

「ナオミ姉さんッッ!!!」

 

姉のように優しい顔を向け、両手を広げて彼女を受け止めた。

 

「どうしてぇ!!どうしてワタシを置いて消えてしまたネ!?ワタシ…ずと泣いてたヨ!!」

 

「ごめんなさい…貴女も日本で暮らしていただなんて、気が付かなかったわ」

 

「会いたかた…会いたかたネ…!うぅ…あぁぁぁ~~~……ッッ!!!」

 

「大きくなったわね…美雨。もう私と変わらないぐらいよ……」

 

昔のように、頭を撫でてあげる。

 

泣き崩れそうな美雨の体を、まるで優しい姉のように抱き留めてあげ続けたナオミの姿があった。

 

……………。

 

「そう…貴女も魔法少女になってしまったのね。家族や蒼海幇の人々を守るために」

 

中華で見られる瑠璃瓦屋根で建築された公園内休憩所のベンチに座る、2人の姿。

 

「ナオミ姉さん…どうして香港から急に消えたネ?」

 

「……それは」

 

「家族や兄弟子の皆が…あんな悲惨な事になたのが原因カ?」

 

「老師達が殺されて…私はヨーロッパに向かったの」

 

「香港を離れて、欧州で生活してたのカ?」

 

「そこで私は貴女たち魔法少女と同じく、魔法や魔術の世界で生きる知恵と技術を手に入れたわ」

 

「…その両手に見える入れ墨も、それと関係しているカ?」

 

「気持ち悪い…?」

 

「ううん、全然ネ。昔のようにワタシの頭撫でてくれた暖かさは、同じだたヨ」

 

「そう言ってくれて嬉しい。私はね、デビルサマナーと呼ばれる存在よ」

 

「デビルサマナー…?まさか、悪魔を召喚出来るのカ?」

 

「悪魔の存在を知っているの?」

 

「うん…知てるヨ」

 

「魔法少女の中で悪魔の存在を知る者は、秘密結社に属する魔法少女ぐらいだと思っていたわ」

 

「私の知り合いに物凄く強い悪魔人間がいるネ」

 

「人間社会に隠れ潜む悪魔ね…。そういう連中なら確かにいるけど、貴女の傍にもいたのね」

 

「人を寄せ付けない不器用さがあるけれど、優しい男ヨ…。強くて優しいナオミ姉さんのように」

 

「古より悪魔はね、人間世界と同化して生きる者達が大勢いたわ」

 

「太古の昔から…悪魔は人間の直ぐ傍にいたというのカ?」

 

「悪魔は人や動物と混ざり合い、血を薄めながらも今日まで世界の裏側で生きてきたの」

 

「その悪魔たちを使て、何をしているネ?」

 

「個人事業を行っているの。心配しないで、罪もない人間達を殺戮する道には進んでないわ」

 

「いつ欧州から日本に来たカ?」

 

「3年ぐらい前かしら?」

 

「そんな前から日本に来てたのカ?」

 

「日本で活動する事を目的にして日本語も勉強したし、日本語に不自由することはなくなったわ」

 

「ワタシも3年前に香港から日本にきたけど、まだまだ滑舌悪い言われるネ。羨ましいヨ」

 

「私はね…とある日本人を探してこの国に訪れたわ」

 

「とある日本人…?」

 

「それは…私から最愛の人達を奪い取った人物と関係している」

 

「1つ聞いていいカ?ナオミ姉さんが香港から消える前に、レイ姉さんもいなくなたネ」

 

レイという名を聞いたナオミの表情が暗くなり、俯いていく。

 

「行方を知らないカ?」

 

「…私が探している人物はね……レイなのよ」

 

「ま、待つネ!?レイ姉さんが…ナオミ姉さんの家族を殺した事に関係しているのカ!?」

 

「そうよ…。私の愛する家族であった老師達を殺したのは……レイなの」

 

血相変えて立ち上がり、ナオミの前に立ち向かい合う。

 

「嘘ネ!!厳しくても優しかたレイ姉さんが…ナオミ姉さんの家族を殺すだなんて!!」

 

「証拠もある。武術家同士の果し合いという形での殺し合いとなったわ」

 

「だ、だけど……」

 

「私の老師は武術家同士の果し合いだから、相手を恨むなと遺言を残したけれど……」

 

「まさか…ナオミ姉さんはレイ姉さんを…?」

 

「…絶対に許さない。私が強くなったのはね……」

 

――レイに復讐するためよ。

 

姉のように優しかった表情が消え去り、復讐鬼のような恐ろしい表情に変わる。

 

自分の記憶にない恐ろしいナオミの表情を見て、美雨の足元も震えていた。

 

「あの女は日本の秘密結社に属するスパイだった」

 

「レイ姉さんが…秘密結社のスパイ……?」

 

「何の目的で香港に来ていたのかは定かではないけど、最初から私達を裏切るつもりだったのよ」

 

「私の老師が何故ナオミ姉さん達の家族が殺された件について黙秘していたカ、解たネ」

 

「あの漫画老師でも分かる筈よ。武術家同士、納得した上での果し合い…口をつぐむのは当然ね」

 

「レイ姉さん…どうしてネ?ワタシ、レイ姉さんの事が大好きだたのに……」

 

「各国の諜報機関と同じよ。仲間のフリをして内側に潜り込み、諜報と工作活動を行う」

 

「あんなに信じてたのに…レイ姉さんが私達を裏切るだなんて…」

 

「信じる事は尊い、でも同時に疑うべき。物事が相反する陰陽理論は武術の世界だけでないわ」

 

「万物全てに適用される…。片方だけに偏らない調和が大切だと…私も老師から聞いてるヨ」

 

ナオミが嘘をついているとは思えない。

 

それでも美雨は納得いかない表情を崩さない。

 

心の中では未だにレイを信じたい気持ちでいっぱいなのだろう。

 

「貴女を巻き込むつもりはない。これは私の問題…私の道なのよ」

 

スーツケースを持ち立ち上がる。

 

「ナオミ姉さんは、神浜で暮らしてきたのカ?」

 

「この街には偶に立ち寄るぐらいだったけれど、暫くこの街で滞在しないとならなくなったの」

 

「じゃあ!ワタシといつでも会えるカ?」

 

「ええ♪貴女を拒絶するわけないでしょ?香港時代で私がどれだけ貴女を可愛がったと思う?」

 

「私、神浜を案内するヨ!ナオミ姉さんにまた稽古もつけて貰いたいネ!」

 

「フフ、神浜での暮らしが楽しくなりそうね。…昔を思い出すわ」

 

スマホで互いの連絡先を交換し、今日は用事があるからと美雨の元から去っていく。

 

駐車場に駐めてある赤いオープンカーに乗った彼女は、内側ポケットから写真を取り出す。

 

「私達はもう、昔には戻れないのよ…。貴女が引き金を引いたのを忘れないで、レイ」

 

写真を仕舞い、サングラスをかけた彼女はエンジンを始動させ走り去っていく。

 

復讐に足る悪魔の力をさらに高めるために、彼女の足は進めていくだろう。

 

復讐の道へと、猛スピードで走っていく姿がそこにはあった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(綺麗な人…なんだか雰囲気がやちよさんみたいな女性ね?)

 

「久しぶりだね、ナオミ君。二年ぶりくらいか?」

 

「相変わらず顔色が悪いわね、ヴィクトル」

 

美雨と別れた彼女は現在、業魔殿に訪れているようだが。

 

「お金が貯まったから訪れたの。ところで、見かけない助手を連れているようだけれど?」

 

ヴィクトルの隣にはみたまの姿。

 

「紹介しよう、一年前から業魔殿で働いてくれている八雲みたま君だ」

 

「初めまして~八雲みたまで~す♪ヴィクトル叔父様のところで悪魔研究の助手をしてま~す♪」

 

「若い子ね。高校生ぐらいかしら?」

 

「ええ♪ナウでヤングな17歳の女の子だって、覚えておいて欲しいわ~♪」

 

「頭の狂ったイッポンダタラの次は、魔法少女を助手にしているだなんて…相変わらずね」

 

「褒め言葉と受け取っておこう。それで、今日は何の用事かね?」

 

「デビルサマナーが悪魔合体施設に訪れる目的は1つよ」

 

スーツケースをみたまに差し出し、彼女は合体施設にスーツケースを持っていく。

 

「私の悪魔全書はある?」

 

「勿論。君は悪魔全書をかなり育ててくれた上客だ。商談といこうじゃないか」

 

悪魔全書に登録されている召喚悪魔はどれも強力であり、それ相応の金額を要求される。

 

ナオミも資金が集まるまでは訪れなかったようだ。

 

召喚する悪魔を複数決め、みたまの後に続いて彼女も合体施設に入った。

 

「凄い…なんて物凄い魔力を持った悪魔達なの。これが上級悪魔たちの実力…?」

 

「始めて頂戴」

 

悪魔合体施設が稼働し、合体陣より現れ出た悪魔とは…?

 

<<我を呼びしは貴様か?>>

 

「なんて巨大で恐ろしい姿をした悪魔なの!?私たち魔法少女が蟻みたいな存在に思えるわ!」

 

【蚩尤(シュウ)】

 

中国の神農の子孫とされる、金属と武器と戦の神。

 

四つ目を具えた牛頭人身六臂の姿で砂や石、鉄を食べその肉体自体も鋼のように硬い。

 

戈や弓などの武器の発明者で、霧を操るといった術にも長け、比類ない戦上手であったという。

 

古代の帝王・黄帝を大いに苦しめた魔王として知られている。

 

西王母・九天玄女らの助けを得た黄帝に最終的には敗れ、八つ裂きにされバラバラに葬られた。

 

その驚異的な戦闘力から、死後は軍神として黄帝ら中国中央の軍旗の文様として用いられた。

 

「そうよ。今日から私がお前の主となるわ」

 

「笑止!貴様如き小娘に、魔王たる我が従う道理などないわ!!」

 

背に生えた四本の豪腕に持たれた剣・斧・偃月刀が唸りをあげ振り落とす構え。

 

「合体後の悪魔が暴走している!?危ないナオミさん!!」

 

「いつものことよ」

 

ナオミの右手には既に、隠し持たれていた悪魔召喚用の管が握りしめられ、既に解放されていた。

 

「戦の魔王と呼ばれし我が剣技!制する事が出来る強者ならば、従ってやろう!!」

 

鈍化した世界、魔王の一撃が迫りくる。

 

ナオミの周囲に噴き上がる、恐ろしき浄滅の業火。

 

「ガハッ!!!?」

 

鈍化した世界において、既に勝負はついていた。

 

巨体を誇るシュウの鋼の体を突き刺していたのは、倶利伽羅剣(くりからけん)の一撃。

 

彼女の背後に立つ、業火を纏いし五大明王筆頭たる神姿とは…。

 

「馬鹿な!?貴様は…これ程までの仏神を従えていたのかぁ!!?」

 

ナオミの背後に立つのは、真言密教本尊である巨大な化身姿。

 

<<我が業はわが為すにあらず、天地を貫きて生くる明王神の権能なり>>

 

【不動明王】

 

五大明王の筆頭であり、異形姿をした他の明王とは違い、人の姿を持つ大日如来が化身。

 

不動尊、サンスクリット語でアチャラ・ナータ(動かない者)と呼ばれ、シヴァ神の別名である。

 

右には業火を纏う倶利伽羅剣を持ち、左には羂索(けんじゃく)という縄を持ち炎と共に現れる。

 

また平将門公とも関わりが深く、平将門を滅ぼしたのも不動明王の魔力であったとされた。

 

「降魔の火焔が一切魔障を焼きつくすッ!!大日大聖不動明王炎参ッ!!」

 

「ぐおおおおっ!!!おのれ…この我が、かような小娘に従わされるのかぁぁ!!?」

 

「言ったはずよ。今日から私がお前の主だと」

 

倶利伽羅剣を引き抜き、左手に隠し持たれていた封魔管を向ける。

 

管の蓋が開いていき、感情エネルギー体でもある悪魔が吸い込まれだした。

 

<<人の子の分際で!!我をこんな目に遭わせるのかぁーーッッ!!!>>

 

シュウの巨体が消失していき、封魔管の蓋が閉まっていく。

 

役目を果たし終えた不動明王もまた、彼女が持つ倶利伽羅剣と共に封魔管の中へと戻っていった。

 

「お騒がせしたかしら?」

 

「あは…はは…この場に立ち会った私の命が残った事が、奇跡のように思えるわ~」

 

震えながらへたり込んでしまっていたみたまに、ナオミは手を差し伸べた。

 

「悪魔合体はこういう場合もあるのだ、みたま君。悪魔を相手に絶対は無いからな」

 

「肝に銘じます~…」

 

「さて、スーツケースを返してもらえるかしら?」

 

ナオミに起こしてもらった彼女は手に持っていたスーツケースを渡す。

 

「予算もこの悪魔を作る分を除いては、暫く続く神浜生活での生活費になりそうだし」

 

「暫く神浜で暮らされるんですか?」

 

「ええ。心配はいらない、私はこの街の魔法少女社会にちょっかいを出すつもりはなくてよ」

 

「でしたら~、サマナーとしての経験談なんかを聞かせてくれると嬉しいです」

 

「そうね、考えておくわ」

 

澄ました顔でクールなサマナーを演じていたのだが…?

 

「うっ……」

 

突然空腹の腹の虫が鳴り始め、表情があまり変わらないナオミの顔が赤面しだした。

 

「やだ…もうお腹が空いてきちゃった。お昼ご飯あれだけ食べたのに…」

 

「魔力消費と何か関係があるんですか?」

 

「私は陰陽道系召喚術で魔力を行使するタイプのサマナーなのよ」

 

「陰陽道って…実在してたんですか?漫画とかの世界だと思ってました~」

 

「神道系召喚術とは違い、悪魔を随伴する召喚は使えない。私はその中間を目指すサマナーよ」

 

「神道系召喚術まであるんですねぇ…」

 

「そうよ。陰陽道系の召喚術は、悪魔の力を一時的に最大出力で放つ事が出来るの」

 

「その代償として…体の燃費が悪い、ですか~?」

 

「威力はある分燃費が悪くなる。だから中間を目指すのだけど…この燃費の悪さには参るわね」

 

「貴女がいなかったら多分私は死んでたし、お礼として()()()デザート用意しちゃいま~す♪」

 

「あら?料理が得意だなんて、女子力高いわね」

 

「そりゃもう♪調整屋さんは~魔法少女の中でも女子力が高いと評判なピチピチガールだから♪」

 

鼻歌を歌いながら業魔殿にあるキッチンスペースに向かう。

 

ヴィクトルは首を振って溜息をつき、業魔殿にある医療ルームを準備しに行った。

 

研究所の応接室で座っていたナオミの前に持ってきたのは、()()()()()スペシャルあんまん。

 

「上手く包めてるわ。でも気のせいかしら…このあんまんから、()()()()()()を感じる」

 

「温かいうちに召し上がって下さいね~~♪」

 

掃除をしながら通りがかったマッドメイドが、部屋の角から食事光景を見つめている。

 

「あ!あ!あ!…ごめん、うぉれは何も見なかった」

 

みたま特製スペシャルあんまんを一口齧る。

 

「ゴハッ!!!?」

 

ナオミは後ろに倒れ込み、虹色の表情をしながら意識を失っていった。

 

「おかしいわね~?今度は上手くいくと思ったのに…」

 

「みたまの即死ムドオン料理に改善は効かない…ない…ナイアガラ!!」

 

……………。

 

<<はっ!!?>>

 

意識が覚醒すると、そこは蓮の華が咲き誇る彼岸の淵。

 

「おお、気がついたか?」

 

ナオミの目の前には、冥界へ続く三途の川であり嘆きの川の渡し守をしているカロンの姿。

 

<<まさか……ここは三途の川!?>>

 

「如何にも。汝は突然の不運襲来に襲われて…ここに訪れてしまったようだ」

 

<<冗談じゃないわよ!?私はまだ老師達の敵討ちさえ出来ていないのに!!>>

 

「魂が突然あの世に導かれてしまう程の惨事に見舞われるとは…何に襲われたのだ?」

 

<<うっ…たしかあれは、調整屋と名乗る魔法少女の手作り料理を食べたような…>>

 

「時移り事去る地には、かような恐ろしき魔物娘が存在したのだな?恐ろしきかな…」

 

<<早く私を現世に戻しなさい!!>>

 

「首を締め上げるでない!?乱暴過ぎる思念体だ!!」

 

ナオミの思念体が光りを放ち、徐々に消えていく。

 

「おお、どうやら現世の肉体が蘇生したようだ。もう来るでないぞ」

 

<<言われなくても!私はまだまだ来ないわよ!!>>

 

捨て台詞を吐きながら、ナオミは現世へと消えていく。

 

「あの小娘、ああは言うが…()()()()()()()。そう遠からずに、またここに訪れよう」

 

その後、業魔殿の医療ルームで意識を取り戻したナオミは、急ぎ足で業魔殿から去っていく。

 

失敗は成功の元…と言いながら、新しい料理を作っている八雲みたまから逃げるために。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

次の日、美雨から連絡が来たナオミはホテルの部屋で仕度をし、彼女の元に向かう。

 

「あら?わざわざ私のホテルにまで迎えに来てくれたの?」

 

「えへへ♪待ちきれなかたネ」

 

ホテルのフロントで合流した美雨に手を引っ張られ、神浜案内に出発。

 

観光気分で色々と回っていくうちに、昔を思い出したような寂しい表情をナオミは作る。

 

「思い出すわね…美雨とレイ、私達3人で香港のセントラルに遊びに行ったりもしたわ」

 

「ワタシも同じ事を考えていたネ…。あの頃に帰れないのが、本当に辛いヨ」

 

「そうね…運命をどれだけ憎んだか、分からないわ」

 

2人で手を繋いで街を歩いていた時。

 

<<おい、お前ら東の工匠学舎連中じゃないか?西の栄区に何のようだよ?>>

 

道路の向こう側では、東の学生達が西の若者たちに絡まれている光景が見えた。

 

「ここは公共の場です。私達が栄区図書館で歴史本を探しに来て、何か不都合があるんですか?」

 

後ろ髪にパーマがかかった銀髪の長髪を持ち、サイドポニーテールにした少女は恐れず意見する。

 

「物騒な東の連中が西に来られるとよ、犯罪が起こるんだ。大人しくしみったれた東で暮らせよ」

 

「事実無根です。東の人間だから必ず犯罪を犯す、その理屈を証明出来る証拠は?」

 

「それに、私達は隣街から工匠学舎に通っているのよ。東で暮らしているわけじゃない」

 

「へぇ?わざわざ悪人揃いの東に進学したがるって事は、隣街でも相当なワル共なんだ?」

 

「頭の悪い人達ですね…」

 

「古町先輩、吉良先輩…こういう輩は相手しない方がいいです」

 

「そうね、三穂野。こんな人達を相手しても時間の無駄よ」

 

「そうですね。自分の語る理屈が、以下に破綻しているか理解出来ないなんて、議論の無駄です」

 

「テメェら…犯罪者地区の学生のくせに!いい度胸しやがって!!」

 

遠くで喧嘩沙汰になっている光景を、隣の道路からナオミと美雨は見つめている。

 

「…酷い差別の街なのね、神浜市は」

 

「見られて恥ずかしいネ…。神浜は昔から続く差別に塗れた東西問題は…今日まで変わらないヨ」

 

目を瞑り、孤児院で暮らしていた時代を思い出す。

 

<<你哋呢啲孤兒唔可以沿着街道走(お前ら孤児が表通りを歩くな)>>

 

<<孤兒院係精神病人同窮人嘅巢穴(あの孤児院は精神異常者や貧困者の巣窟だ)>>

 

<<將來我會成為罪犯(将来は犯罪者になる)>>

 

<<同呢個偷稅賊喺一齐! 我到死喺田裏!(この税金泥棒共!野垂れ死ねばいい)>>

 

……………。

 

「いい加減にしなさい!大声出すわよ!!」

 

「警察でも呼ぶか?札付きの悪は東連中だし、警察にしょっぴかれるのはそっちだぜ~?」

 

「そこまでよ」

 

「あっ?」

 

男が振り返れば、みぞおちに伸ばされたナオミの右手。

 

「ガハッ!!!?」

 

爆ぜる程の衝撃を感じた男は寸勁突きの一撃によって吹っ飛び、地面に倒れ込んで意識を失う。

 

「なんだこの女は!?」

 

「やっちまえ!!」

 

隠し持っていた護身用警棒を伸ばし、男達がナオミに襲いかかる。

 

左右から踏み込み、袈裟斬り・逆袈裟を仕掛ける相手に対し中央に踏み込む。

 

「「なにっ!?」」

 

反応されるよりも早く両腕当身で弾き飛ばす。

 

背後の男に右肘で顎を打ち上げ、左足を前に踏み込み前方の男の胸部に右頂肘。

 

「この野郎!!」

 

迫る男の一撃を横に踏み込み避けると同時に鉄山靠を放ち突き飛ばす。

 

背後の男に後ろ足で金的、前の男に腰に構えた右中段突きが決まり、次々と男達が倒れていく。

 

「糞アマぁ!!ぶっ殺してやる!!!」

 

残った男達はナイフを抜き、ナオミに飛びかかるが。

 

「セイッ!!」

 

ナオミも走り跳躍、飛び両膝蹴りで2人の男の顎を連続で蹴り飛ばす。

 

着地した彼女は腰を落とし、半歩開き、両腕を水平に構えながら残った男達に向ける

 

「こ、こいつ強い!!」

 

「ビビるな!俺たちは刃物持ってるんだぞ!」

 

残った3人は同時に刃物で突きにかかるが。

 

「ハァッ!!」

 

鈍化した一瞬だった。

 

左手を地面につける程の低空姿勢からの右回し蹴りで3本の刃物を同時に蹴り飛ばす。

 

左手を使い、跳躍した体勢から左の飛び後ろ回し蹴りが3人の頭部を同時に蹴り飛ばした。

 

「す、凄い…!まるで武侠映画の女主人公みたいですよ!古町先輩!吉良先輩!」

 

「あれだけの武器を持った男達を素手で…脚本のインスピレーションが湧いてきました!」

 

「まったく、西側連中だって十分犯罪者共じゃない…警察に通報よ!」

 

全ての男達を倒したナオミは、お礼を言おうとした3人を無視して美雨の元にまで帰ってくる。

 

「流石ネ♪ナオミ姉さん。腕前が以前よりもずと鋭いヨ。私のクンフーもまだまだ修行不足ネ」

 

「思うところがあっただけよ。行きましょう、美雨」

 

「もしかして…孤児院時代を思い出したカ?」

 

「勘が鋭い子ね。私も孤児だった頃は…言われもないレッテル貼りの差別で苦しんだわ」

 

「ナオミ姉さんも昔は孤独な孤児だたと聞いてるネ」

 

「そうね…昔は私も孤独だった。だからこそ私を拾ってくれた老師を…心から愛してたわ」

 

「ナオミ姉さん。昨日話した悪魔人間の男はね、孤児達を救うNPO法人を経営しだしたヨ」

 

「悪魔が孤児達を救うですって?とんでもないお人好しの男のようだけど…」

 

「あいつは本物のお人好しネ。不器用なくせに、自分よりも誰かを常に優先するような奴ヨ」

 

「待って、もしかしてその男の名前は…嘉嶋尚紀なの?」

 

「え?ナオミ姉さんはナオキを知ているのカ?」

 

まさかの偶然が重なり、彼女も溜息が出てくる。

 

「世間は…思ったよりも狭いのね。その男が経営している法人の場所は分かる?」

 

「隣町の工匠区ネ。今日は週末だから来ていると思うヨ」

 

2人は観光を切り上げ、東地域へと向かっていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「今日もいい天気だね~~…」

 

嘉島会オフィス入り口には、椅子に座って外の景色を見つめるあやめの姿。

 

「う~…スーッ、スーッ…はっ!?ダメダメ!あちしは見張り番!」

 

オフィス受付嬢的立場なのかもしれないが、彼女は中学1年生。

 

遊びに来た子供でしかないが、それでもボランティアとして何かしらの雑用を任されていた。

 

「ただいま~あやめ」

 

「あ、おかえりー葉月。今日は肉の特売日でよかったね~」

 

「キッチンで職員の人達にご飯作るから、後でこのはにも持って行ってあげてね」

 

このはがボランティアをしているのは、嘉嶋会の手前にあるマンションの一室。

 

マンション内に設けたFX企業事務所で働いてるようだ。

 

彼女が尚紀から任された億単位の金を動かし、利益の半分を嘉嶋会に寄付する運営を行っている。

 

NPOの法人格上、運営される利益の使い道は法律で定められている。

 

だから別会社を立ち上げる必要があったというわけだ。

 

「頭が良いこのはは…ボランティア以上の事を任されていて羨ましいな~」

 

「あやめだって、ちゃんとみんなの役に立てているって♪」

 

「でも!あちしは見張り番か、用心棒ぐらいの役割しか出来ないし~」

 

「あたしが保障するって♪このはが作ってきた料理を…職員に見つかる前に防いでくれてるし…」

 

「孤児を救う会社を同じ孤児のこのはのご飯で滅ぼすわけにはいかないし!あちしが守るよ!」

 

「頑張ってね~頼りになる用心棒さん♪あたしはそろそろキッチンに行くから」

 

気合を入れ直し、見張り番を再会したあやめがふと気がつく。

 

「あれ?この魔力はたしか美雨お姉ちゃんと…あと、不思議な魔力を感じる人がもう1人?」

 

嘉島会オフィスに近づいてきたのは、美雨とナオミ。

 

「あそこがナオキ達が始めたNPO法人のオフィスネ」

 

「情報は本当だったのね。嘉嶋尚紀…たしかに度が過ぎるお人好しみたい」

 

「ナオミ姉さんは、ナオキに何か用事があるのカ?」

 

「個人事業主として守秘義務があるから言えないけれど、興味があるとだけは言っておくわ」

 

<<お~い!美雨お姉ちゃ~~ん!!>>

 

話していた時、横を振り向けば猛ダッシュして飛びかかってきたあやめの姿。

 

「ほい、ストップネ」

 

飛びかかった彼女の顔を片手で制し、両手だけが藻掻くように空中回転。

 

「珍しいね~美雨お姉ちゃんが東地域に来るなんて?」

 

「ワタシの故郷で世話になった人に、神浜の街を色々と紹介して回てるヨ」

 

「ふーん?えっと…」

 

「この子も魔法少女なのね。小さい子ばかりが、どうして殺し合いの世界なんかに来るのかしら」

 

「えっ!?お姉ちゃんも魔法少女の事を知ってるの?魔法少女じゃないみたいだけど…」

 

「仕事上知識があるだけよ。それより、嘉嶋会の代表者である嘉嶋尚紀はオフィスにいる?」

 

「尚紀お兄ちゃんはね、近くの喫煙所にタバコ吸いに出掛けてるよ。オフィスに喫煙場はないし」

 

「あいつタバコ吸う奴カ?武術家は体が資本なのに、スタミナ落ちても知らないヨ」

 

「そこは何処か教えてくれる?スマホの地図アプリで検索してみるわ」

 

あやめに言われた住所を検索し、位置を特定する。

 

「美雨、今日はありがとう。神浜の案内はここまででいいわ」

 

「ナオミ姉さんは、ナオキと何か話に行くのカ?」

 

「そうね、込み入った話になると思うから…貴女は絶対に近づかないで」

 

踵を返し、尚紀がいると思われる場所へと向かっていく。

 

「ナオミ姉さんのあの表情…香港時代に見たことあるネ…」

 

――本気の勝負を挑みに行く時の…顔だたネ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

オフィスから離れた場所にある屋外喫煙所でタバコを吸っている人物。

 

尚紀は紫煙を燻らせながら、考え事をしている姿。

 

「今日は葉月が昼飯作ってくれる日か。あいつの飯は美味いからなぁ…」

 

考え事をしている内容とは、このは達姉妹について。

 

「しかし、なんで料理が得意な葉月が隣にいるのに…このはは猛毒料理になるんだ?」

 

克服出来ない得手不得手もあるのだろうと考えていたら煙草も吸い終えている。

 

吸っていたタバコの火を消していた時…何かを感じた。

 

耳に微かに聞こえたのは、鈴の音だ。

 

「この鈴の音色…まさか、集魔の鈴!?」

 

かつての世界において、悪魔の本能を刺激して集める霊力を秘めていた道具の音色が響き続ける。

 

「俺以外にもこんな道具を使える奴は…まさか、デビルサマナー?」

 

悪魔である自分の耳奥に響く音色を頼りに歩き続ける。

 

辿り着いた場所は建設途中のビル。

 

「この上から響いてくる…俺を誘っているのか?」

 

下層の階段を登り、上層を目指す。

 

上層部分は剥き出しの赤い骨組みだらけであり、周囲は落下の危険性が高い。

 

階段を登り終えた時、集魔の鈴を響かせていた存在を確認した。

 

「…女か」

 

週末ともあり建設作業員は誰もいないが、そこに立っていたのはナオミだ。

 

「この鈴の音に釣られて来る…貴方が悪魔である証拠ね」

 

「お前は何者だ?」

 

「私はナオミ。とある人物から貴方のボディガードを頼まれた…フリーのサマナーよ」

 

「サマナー…デビルサマナーのことか?」

 

「私はデビルサマナーとして生きる者。悪魔を崇拝するダークサマナー連中なんかじゃないわ」

 

「とある人物からボディガードを頼まれただと?」

 

「私は金さえ出せばどんな連中とでも仕事をするわ。世界を代表するカルト結社であろうとね」

 

「イルミナティの関係者か…?丁度いい、お前を締め上げて連中について詳しく話して貰う」

 

「無駄よ。私は複数のカットアウトを通じてしか仕事を任されなかった」

 

「使い捨ての存在に過ぎなかったと言いたいのか?」

 

「それだけイルミナティから信用されていない存在。所詮は金で雇われた傭兵でしかなかったわ」

 

言葉なら幾らでも取り繕えるが、彼は読心術が使える悪魔。

 

「…貴方、私の心を覗こうとしたでしょ?」

 

「心が読めなかった…。サマナー連中は、悪魔の読心術に何かしらの対処法があるようだな?」

 

「長い歴史と共に悪魔を研究し、使役した存在達よ。当たり前でしょ」

 

「何のために俺の護衛を任されたのかは知らないが、必要ない」

 

「私は貴方の存在をカルト共から聞かされている」

 

「なんて聞かされているのかは…大体想像は出来るがな」

 

「イルミナティに啓蒙の光りをもたらす、新たなるルシファーと同じ程の悪魔なのだと」

 

「どいつもこいつも…いい迷惑だ。俺をルシファー扱いするんじゃねぇ」

 

「その力なら私の護衛など必要ないはずよ。だけどね、依頼主は貴方の弱点を私に伝えたわ」

 

「俺の弱点だと…?」

 

「私のような個人事業主は、情報が正確かどうかで命が左右される。情報の精査をさせて貰う」

 

「それだけじゃ済まない気配だな?」

 

「ええ、勿論。私の悪魔召喚は加減が難しいから…やり過ぎるかもね」

 

左腰に吊った封魔管の一つを右手で取り出し、構える。

 

「強大なる悪魔の力を全て解放する事も出来ず、小手先の戦い方しか出来ないならば情報通り」

 

封魔管の蓋が緩んでいき…。

 

「見せてみなさい…人修羅と呼ばれる悪魔の戦い方を!」

 

浄滅の炎がナオミを包み、巨大な火柱となる。

 

沈黙した尚紀は右掌をナオミに向けて構えた。

 

「いいだろう…見せてやる。お前たちデビルサマナーが見知った悪魔とは違うだろう…」

 

右掌に生み出されたのは『ゲヘナ』のマガタマ。

 

――かつての世界でも、この世界でも人修羅と呼ばれる…俺の力を!!

 

マガタマを飲み込む。

 

右手で黒いスーツベストを掴み、上着を一気に投げ捨てた。

 

業火の中より現れたのは、倶利伽羅剣を右手に持ち、背後には不動明王を従えしナオミ。

 

ナオミの眼前に現れたのは、全身に発光する入れ墨を持ち、金色の瞳を持つ人なる悪魔。

 

今こそ始めよう、世界を超えてまで実現した戦いを。

 

デビルサマナー・ナオミ対人修羅の戦いが始まるのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

先手としてナオミが動き、地面が爆ぜる。

 

両手で構える倶利伽羅剣に業火を纏わせ放つ一撃こそ『くりからの黒龍』と呼ばれる極大の一撃。

 

くりからの黒龍は直線に放つだけでなく、剣に纏わせて威力を上乗せする力を持つようだ。

 

鈍化した一瞬、互いの剣が交差した。

 

「私の一撃を止めるとは…流石ね」

 

右手と左手から生み出した光剣によって、唐竹割りの一撃は止められている。

 

「行くぞ…デビルサマナー!!」

 

左右の腕に力を込め、倶利伽羅剣を弾き飛ばす人修羅が前に踏み込む。

 

互いの剣技が唸りを上げ、たちまち建設ビル上層部は業火の地獄と化した。

 

「こいつ…不動明王の力たる浄滅の炎が効いていない!?」

 

今のナオミは全身から放たれる炎熱結界とも言えるだろう熱波を放ち続けている。

 

だが眼前の悪魔は、それら業火のエネルギーを吸収し続けていた。

 

これがマガタマであるゲヘナの炎耐性である炎吸収の力だ。

 

「炎魔法を無効化出来る悪魔なのね!」

 

「それはどうかな?俺の力はまだまだこんなもんじゃない」

 

炎の力が役に立たないのならば、倶利伽羅剣を用いて物理的に斬りつけ続けるしかない。

 

しかし、吸収によって体力がどんどん回復していく今の人修羅には無意味。

 

他の悪魔の力に切り替える隙すら与えてくれない連続斬りの応酬。

 

咄嗟に相手の右サイドに踏み込み、袈裟斬りを左手に持つ倶利伽羅剣で流す。

 

右手が腰に備えたヒップホルスターに収納された銃グリップを握りしめる。

 

体勢を前に流された人修羅が続く右薙を放つ前には既に、ナオミは腰の銃を構え終えていた。

 

「くっ!?」

 

小型短機関銃であるイングラムM10からマズルフラッシュが噴き荒れる。

 

弾幕が次々と人修羅の体に当たっていくが、強度が凄まじく高い悪魔の体には効果が薄い。

 

しかし…放った弾丸の状態異常効果ならば話は別だ。

 

「な…なんだこの銃弾は!?」

 

突然体に力が入らなくなっていき、片膝をつく。

 

「これは…麻痺!?」

 

彼女の用いた銃弾とは『神経弾』と呼ばれる特殊な弾丸。

 

神経魔法に耐性を持たない悪魔を麻痺させる力を持った銃撃であった。

 

「不動明王の力では今の貴方には通用しない。なら、新しく手に入れた力を見せてあげる!」

 

封魔管に戻った不動明王を左腰ベルトに戻し、銃も腰に仕舞う。

 

次に用いる封魔管を右手に持ち、召喚した悪魔とは…。

 

「ククク…いいのか、我を召喚して?ついつい全てを滅ぼしそうになる」

 

ナオミの背後に現れたのは巨大なる魔王シュウ。

 

「その力を全て私に注ぎなさい。お前の力を全て発揮して見せるわ」

 

「ふん。貴様の実力…内側から拝見させて貰おうか」

 

シュウの全身から放たれる魔王の力が次々とナオミに注がれていき、シュウの姿が消えていく。

 

憑依とも呼べる光景を前にし、麻痺に苦しむ人修羅は足に力を込めて立ち上がっていく。

 

上半身が前のめりに俯いていた彼女の頭部が持ち上がる。

 

その瞳の輝きは…悪魔の如き真紅の瞳。

 

「戦の魔王と呼ばれしその力…我が拳にて振るわん!!」

 

腰を落とし足幅を開き、震脚の踏み込み。

 

八極拳の構えによって地面が粉砕され、瓦礫と共に下層にまで二人は落ちていく。

 

巨大なる瓦礫の煙が建設途中ビルから巻き起こる光景を走って確認しているのは美雨の姿。

 

「あそこカ!!ナオミ姉さん…ナオキ……間に合てネ!!」

 

走りながらソウルジェムを掲げ、彼女は魔法少女の姿となる。

 

粉塵巻き上がる下層部では既に、拳法家たる存在たちが拳を交え合う。

 

「「オオオオォォーーーッ!!!」」

 

互いの拳が頭部側面を交差して通り超えた衝撃波が空間に放たれる。

 

粉塵が吹き飛び、ビルの骨組みが砕けていく光景が広がる荒々しい戦いぶり。

 

人修羅の右直突きを左腕でブロックと同時に鉄槌。

 

相手が左腕で止めた隙をつき右足を踏み込む動作。

 

「ガハッ!!」

 

放たれたのは冲捶突き。

 

八極拳で言う猛虎硬爬山の連携を受け、後ずさる相手にさらに猛撃を繰り返す。

 

強靭な堅牢さを誇る人修羅の体を、人間の体で殴り続ければ普通なら攻撃側の手が壊れる。

 

だが魔王シュウの力を宿したナオミの全身は既に、鋼の如き強度と化した。

 

かつてのチェンシーと同じく、五体そのものを最強の武具としたのだ。

 

麻痺で苦しみながらも気迫だけで彼はナオミと互角に戦い続ける。

 

互いの攻防によって生み出された衝撃によって、ビルは既に崩壊寸前。

 

「これ程の実力者だったか!デビルサマナーと呼ばれる存在は!!」

 

「私が強いだけよ!!」

 

「上等だぁ!!!」

 

強敵と戦う事に喜び打ち震えるかのように夢中で戦い合い、周りの被害の事が見えていない。

 

ビルが倒壊してしまえば、人間が暮らす地域にまで被害が及ぶ可能性が大きい。

 

熱狂の渦に飲まれた2人を止めるのは、彼らにとっては大切な存在。

 

「な…なに……!?」

 

「これは…?」

 

互いが見えた光景は、既に相手がノックダウンしたかのように倒れ込む姿。

 

「馬鹿な…これは何かの幻惑魔法か?」

 

「何者なの!この程度の幻惑魔法で事実偽装出来ると思わないことね!!」

 

<<このアンポンタン共!ささと戦いを止めるネ!!>>

 

声がした方角を互いに振り向けば、魔法少女姿の美雨が歩いてきた。

 

「美雨…?」

 

「邪魔をしないで美雨。私はこの悪魔の力を推し量りたいの」

 

「それは人間の暮らす地域でやるべき事じゃないネ!ナオミ姉さん!!」

 

「それは…その……」

 

「ナオキと話しがある言うて、拳で語り合いに来てどうするカ!?」

 

「もう…来ないでって行ったのに……」

 

「香港時代からそうネ!警察沙汰になりかねない暴れぷりをレイ姉さんと一緒にしてたヨ!!」

 

「そ、それは……まぁ、言い訳は出来ないわね」

 

「お前ら…同郷の知り合いだったのか?」

 

「ナオキネ!悪魔なのは分かるけど、ここは人間が暮らす地域ヨ!お前の信条を忘れたのカ!?」

 

「それは……すまない、熱くなり過ぎた」

 

デビルサマナーと悪魔が、中学生魔法少女に説教されながら縮こまる。

 

<<ふん。興が削がれたが、貴様の武術家としての拳技、悪くなかったぞ>>

 

「…戻りなさい、シュウ」

 

<<暫くは付き合ってやる。我の力を全て引き出してみせよ…強き者よ>>

 

封魔管に悪魔を戻し、元の瞳へと戻っていく。

 

尚紀も悪魔の姿から戻るためにゲヘナを口から吐き出し、右手の中へと戻していった。

 

「貴方の事はよく分かったわ。本気を出せば私を倒せた癖に…最後まで魔法を封印したわね」

 

「それが俺の戦い方だ」

 

「お優しい事ですこと。でも…嫌いじゃなくてよ」

 

――とくに、孤児達を救ってくれるところがね。

 

「ナオミ姉さんやナオキの事は後で詳しく聞くけど、今はここからズラかる方が先決ヨ」

 

「そうだな…人集りの声が外から聞こえてくるし」

 

「私の固有魔法で偽装しながら逃げるヨ」

 

見つかる前に逃げようとするのだが、尚紀は周囲をキョロキョロ見回す。

 

「待て、俺の上着……何処に消えた?」

 

「…諦めなさいよ。瓦礫の下敷きになってるわ」

 

「俺のスマホが納められてたのに……」

 

「大の大人が、スマホ1つでグチグチ言うのみともないネ。ホラ、2人共走るヨ!!」

 

美雨に両手を引っ張られながらも、二人は渋々現場を後にしていく。

 

(デビルサマナーか…。これ程の存在がこの世界にいたんだな)

 

これから先、人修羅の前には次々とデビルサマナー達が現れてくるだろう。

 

その者達はナオミとは違う、悪魔の如き思考を持つダークサマナー達。

 

だからこそニコラスは、ナオミに依頼をしたのだ。

 

人間社会を守るために、その力を封印し続けなければならない。

 

彼のボディガードとして。

 




読んで頂き、有難うございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。