人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
2019年、5月時期。
日本国憲法が制定されて七十数年が過ぎたが、ついに国民投票法改正案が今国会を通過した。
この背景には去年起きた東京空爆事件が大きく関与し、社会的不安が後押しした形となっている。
改正案は憲法改正の是非を問う国民投票。
商業施設に共通投票所を設けることなど、取り扱いをめぐって与野党の合意も得られたようだ。
「これで今国会での成立は決まった。憲法改正も実現するだろう」
総理執務室の窓辺に立ち、外の光景を見つめる八重樫総理の姿。
「現憲法の原案を作ったのはたしか、GHQ占領政策の中心を担った民生局に在籍していた人物だ」
「東欧ユダヤ人、チャールズ・ルイス・ケーディスでしたわね」
八重樫総理の後ろには、総理秘書官の姿。
かつて八重樫総理を殺そうとした美国織莉子に対し、影から護衛を努めた女性秘書官であった。
「彼に与えられた任務は、日本を永久的に非武装の儘にしておくことです」
「憲法9条2項の規定はそのためにあるのだ」
「米中による日本封じ込め政策…それもようやく改憲によって変えられていくというわけですね」
「それを望むのは国民だ。そのように仕向けさせる手筈なら、イルミナティが用意してくれる」
「目的は、内閣の独裁が認められる
「その通り。2020年は素晴らしい変化が世界に訪れる…病魔という
「民主主義国は緊急時における政策において、現憲法内容では余りにも対応が遅くなるはずです」
「だからこそ、民衆は政府の独裁を望み始める…これがショック・ドクトリン政治だ」
かつてのナチス総統ヒトラーも、合法的な民衆支持を重視した。
独裁とは、民衆に支持されてこそ長い基盤を築き上げれる。
ソ連のような暴力支配では、いずれ民衆革命の前に敗れてしまうからだ。
「我々政府が
――その頃の日本は既に地上にはないだろう。
「後の独裁国家日本の姿は地下国家になります。この憲法改正は地下国家の下地を作る為に?」
「その通り。そして…方舟計画も同時に始まる。生き残れなければ…国など残らないからね」
あろうことか、日本の総理大臣が国の滅亡という恐ろしい話題を口にする。
しかし、国家滅亡は20世紀の歴史を見ても当たり前のように起こってきた。
国はニキビのように潰れるもの。
第二次世界大戦後の70年間において、180以上の国家が消滅している歴史がある。
国家とは大国の資本の思惑による現象でしかない。
極めて脆弱過ぎる基盤の上に成立する一時的幻影。
それは日本とて同じであり、国家の形は常に大国によって変えさせられてきたのだ。
「ところで神の山は…既に完成しているのですか?」
「完成している。その神の山を隠す海辺の砂浜の都市は、その為に在ったのだよ」
「神の山を隠す、海辺の砂浜……」
――それが新興都市…神浜市の正体。
「…その件についてだが、トラブルが起きた」
「トラブル?」
「黄金の暁会に所属するダークサマナーの男の1人が逃げ出した」
「脱走者…恐らく、我々が東京に起こす大破壊に恐れをなし逃げ出したといったところですわね」
「東京から逃げ出し、神浜方面に向けて逃走している。現在追跡を向かわせているが奴は手練だ」
「フフ、なるほど。どうやら私も現地に向かう必要がありそうですわね、八重樫総理?」
「我々の計画の一部を知りうるあの男を生かしてはおけない。行ってくれるかね…?」
「ええ、勿論ですわ。我々の啓蒙神である智慧の神ルシファー様の号令がかかる日も近いですし」
「計画に支障をきたすわけにはいかん。我々の首が飛ぶだけでは済まされないのだ」
「東京大破壊…
「私はね、秘書官としての君の姿も好きだが…サマナー姿にドレスアップした君の姿の方が…」
――もっと素敵に思うよ……マヨーネ君。
……………。
聖書において、海岸の砂浜に関する記述箇所は多い。
創世記22ー17 子孫を海の砂のように殖やす。
創世記41ー49 ヨセフは海の砂のように穀物を蓄えた。
多くは砂のように人がいる、人を増やすなどの比喩表現として用いられる単語に過ぎないが…。
その中には、興味深い文言が存在した。
黙示録13章 獣の国
――また私は見た、海から一匹の獣が上って来た。
――これには十本の角と七つの頭とがあった。
――その角には十の冠があり、その頭には神を穢す名があった。
――私の見たその獣は、豹に似ており、足は熊の足のようで、口は獅子の口のようであった。
――竜はこの獣に、自分の力と位と大きな権威とを与えた。
――そこで、全地は驚いて、その獣に従い、そして、竜を拝んだ。
――獣に権威を与えたのが竜だからである。
――また彼らは獣をも拝んだ。
――だれがこの獣に比べられよう、だれがこれと戦うことができよう、と言った。
……………。
人修羅、それは666の悪魔であり黒き竜。
その思想は赤く染まり、その全身は魔法少女たちの返り血で赤黒く染まる。
人間社会の為なら大虐殺を行える殺戮者であり、人間の守護者。
そして、社会全体主義による静寂を望みし者。
かの悪魔が、神の山を隠す海辺の砂浜が如き街に降り立つ日も…近い。
――――――――――――――――――――――――――――――――
謎が多い、神浜市と呼ばれる新興都市。
東西対立が根深いこの街は、一体何なのであろうか?
歴史上では、戦国時代以前から既に対立傾向にあったとされる。
水名区にある水名城が東側の勢力の裏切りにあって落城した歴史が有った。
これが原因で西側は東側を毛嫌いするようになったという。
幕末期には西の武家と東の商家が港湾管理を巡って対立。
近代には西の名家が没落する一方で東は戦争特需で成金が増加するなど、様々な事象も起きた。
現代でも再開発や振興策の失敗などが響いた結果、地域格差が発生。
西側は開発が進む傾向にある一方で、東側は経済的に苦しい立場に置かれた人達が多い。
市政でも為政者達は市民のことを考えず、欲と野心のためにしか動かず大規模な汚職も起きる。
西と東の者達が数百年間いがみ合う、悪魔の如く醜き街。
だからこそ、この街が救済の地として選ばれた。
日本の闇、ディープステート達の方舟計画地として。
それが、神の山が隠されし海の浜辺…神浜だった。
……………。
2019年、4月時期。
「ありがとう御座いました~」
客足も殆ど無い中華飯店だが、今日は珍しく夜に団体客が来てくれた事もあり忙しかった万々歳。
「鶴乃~表の戸締まり頼むわ」
「ほいほ~い」
店の看板娘である鶴乃が表に出て閉店作業中。
レジの売上を計算していた鶴乃の父親だったが…大きな溜息が出る。
「こんな収入で…一体どれだけ持ち堪えられるんだろうな…爺ちゃんの店?」
店の壁に飾られた祖父の写真に目を向ける。
残された息子の表情は、無能故に店を守れない己に対する自責の念に塗れていた。
「名家の政治家一族なのに、こんなラーメン屋で終わるなんて…妻や祖母から憎まれて当然だ」
彼の妻と祖母は、突然舞い降りてきた宝くじ8億円を持ち逃げし、豪華客船旅行中。
勿論これは鶴乃が魔法少女に契約した願いの恩恵であったが…それも虚しく謀られた。
それでも健気に店を支え、いつか家族団欒が得られると信じ続けるのが…彼女の生き方。
「鶴乃…お前の姉ちゃんだってな。海外留学と言いながらも、本当は家から逃げたかったんだよ」
――お前だけだよ……由比家で俺から逃げようとしない女は。
――お前まで俺の前から消えてしまったら…もう俺は、生きていけない。
レジ前で俯き、自分の無力さを嘆いていた時…愛すべき存在の元気な声が響く。
「お父さん、万々歳は大丈夫!」
「えっ!?お前、いつの間に…?」
「私だってね、万々歳にお客さんが入るように色々チャレンジしてるし!」
「それは知ってるさ…だけどな……」
「私だって最強女になれるように日々修行の毎日!最強の私が支える店が…潰れるわけない!」
「鶴乃……」
「だからね…自分を責めないで。お願いだから…」
独りでも父親の側に残ってくれた娘の優しさ。
一気に涙腺が緩み、右腕で涙を拭う。
「…そうだな。お前だって頑張ってる!俺だって…まだやれるさ!」
「そうだよ!私たちはサイキョーの中華飯店を目指すの!」
「おう!爆発的人気を得た万々歳が、名家として復活する日も近~い!!」
落ち込んでいた父を元気にしてくれる娘であったが、ポケットから何かを取り出す。
「あ、そうだ。お店の郵便受けに郵便物が入ってたよ」
「あぐっ…ノリが良い時に素に戻るのは勘弁……」
郵便物を受け取り、差出人を確認。
「知らない人からの郵便物だな…。それに、中に入ってる形は…2つのカセットテープ?」
「えっ、カセットテープ?どうしよう…何かの間違いで送られてきてない?」
「宛名はちゃんとうちの住所だし…差出人の名前も聞いたことない」
「送り返した方がいいかも…」
「待て。もしかしたら、俺じゃなくて爺ちゃんに向けての郵便物かもしれない」
「あ…そうだね。偶にそういう郵便物も届くし」
「俺の部屋にガキの頃から使ってる小さなラジカセがある。持ってくるよ」
暫くして、持ってきたラジカセを店の机に置く。
封筒に入れられたカセットテープのうち、1と記入された方を入れて再生。
<<初めまして由比家の皆さん。私は20年前、この店にジャーナリストとして訪れた者です>>
「やっぱり…爺ちゃん宛だったな。その時の万々歳店主は爺ちゃんだった」
「ジャーナリスト?どうして中華飯店を切り盛りしてるお爺ちゃん相手に?」
<<私が訪れた取材内容は…公に出来ませんでした。ですが、皆に知ってほしい>>
「表に出せない取材内容だって…?」
<<現在の私は…全身にガンが転移して余命幾ばくも無い老人です。だからこそ知って欲しい>>
「この人…自分の死の間際に、俺たちに何を伝えようと言うんだ…?」
「分からない…公に出来ない程の秘密とお爺ちゃんが…関わっていたの?」
<<この情報は、貴方達の命を脅かす内容です>>
テープ音声から聞こえた衝撃の発言。
二人の顔も青くなり、息を飲みこむ。
<<知りたければ、2番のカセットを再生して下さい。知りたくなければ破棄して下さい>>
<<もし2番のテープ内容を聞き、それを公にしようとすれば…確実に殺されます>>
<<それでも……あなた達は知る権利がある>>
<<あなた達は、国の未来を憂いた由比防衛大臣のご子息達。彼の無念を…知る権利がある>>
1番と書かれたカセットテープが止まる。
「命を脅かす内容だって!?」
「お爺ちゃん…昔は防衛大臣だった。その頃にさ…突然過ぎる政界引退に追い込まれたんだっけ」
「そうだ、俺のガキの頃にな」
「それに…うちの一族の関係者まで次々と失脚して…名家一族がボロボロになったんだっけ?」
「思い出したくもないが…その通りだ。もしかして、その出来事と関係しているのか?」
「引退を飲まなければ…お父さん一族の命さえ危なくなる程の…苦しみを抱えていたの?」
「マジかよ…これは…聞くとヤバい案件だぞ…」
「私……知りたい!!2番を再生して!」
「お、おい!?マジで危険な内容かもしれないだろ!国家機密かもしれないし……」
「私たちは歴史ある名家の誇りを忘れちゃいけないよ!」
「鶴乃……」
「お爺ちゃんがそれを捨ててまで家族を守ろうとした真実に立ち向かわなきゃ…」
――お爺ちゃんが…可哀想だよ。
「鶴乃……。分かった、俺も腹をくくる!!俺だって…政治家一族のセガレだ!!」
2番と書かれたカセットを再生。
<<それでは、録音を開始します>>
<<…話してしまって良いのか私も悩みます。ですが…これ程の秘匿を抱えて生きるのは辛い>>
<<心中、お察しします。それでは、質問させて下さい>>
<<……聞きましょう>>
<<かつての由比財閥グループは、自衛隊の兵器開発にも投資する巨大一族です>>
<<……かつてはそうでした>>
<<グループに多くの建設企業も存在し、この新興都市建設に何十年も前から貢献してきた>>
<<私の父の代から、この新興都市建設に貢献してきましたが…見ての通り落ちぶれました>>
<<私はそれを不審に思い、こうして取材に来ました>>
<<……………>>
<<数年前まで貴方は防衛大臣を努めていたのに…何故、引退をなされたのですか?>>
<<……………>>
<<スキャンダルも抱えていなかったはずです>>
<<……………>>
<<口を閉ざさなければならないという事は…それ程の機密を知ってしまったのですか?>>
<<……………>>
<<それは一体どんな内容なのですか?>>
<<私の父であり由比財閥当主であった人物は、この街の開発計画に心血を注ぎました>>
<<存じています>>
<<それは、日本人……いや、大和民族の未来を救う為でもあったのです>>
<<大和民族である我々日本人を救うとは、どういう意味でしょうか?>>
<<……………>>
<<そういえば、由比建設グループは地下空間の創造を強く探求していましたね?>>
<<……………>>
<<それと何か関係があるのでしょうか?>>
<<この街の奥深い直下には、直径630km²、高さ10000mもの超巨大地下空間がある>>
鶴乃の父が語った地下空間の規模はあまりにも巨大。
東京の土地面積をまるごと収めれる程の広大な面積を誇る規模だ。
<<それ程までの巨大地下空間があっただなんて…それと由比財閥との間で何か関係が?>>
<<その地下世界の事を……私の父は、こう呼んでいました>>
――神の山であり、神の国……
ザイオンとは、旧約聖書に出てくるエルサレムの聖なる丘(山)。
かつてダビデ王とその子孫が王宮を営み、宮殿を立てて政治の中心にした地の名称である。
<<現在は、ユダヤ民族主義の象徴だと言われています…。そして、神の山を支配するのは…>>
<<……………>>
<<支配するのは……すいませんが…言えません>>
<<…話し辛いですか?では、話題を変えます>>
<<…そうして下さい>>
<<この街の歴史から見て、西と東の発展はあったが、中央の発展は無かった>>
<<……………>>
<<東西を分断するかの如く、空き地地帯が広がっていた>>
<<……………>>
<<現在は由比建設グループの力によって、この街の商業を担う中心都市にされました>>
<<…その通りですが、かつての栄光に過ぎない>>
<<当時の取材の記憶では……大量の土砂が毎日のように運ばれていたそうです>>
<<……………>>
<<由比建設グループは、中央区で何をしていたのですか?>>
<<……………>>
<<由比財閥の当主である貴方の父が語る…ザイオンとは、何を意味しているのですか?>>
<<……………>>
<<この新興都市開発計画は、由比財閥に対し日本政府が委託した国家事業です>>
<<そうです…欧米からも投資が集まり、天文学的予算が組まれた>>
<<それ程までの都市開発計画の裏に、何がありました?>>
<<……………>>
<<当時、由比財閥に対し新興都市計画を委託した日本政府次官はたしか、西次官でした」
<<はい…彼に頼まれましたが、彼は代理人に過ぎなかった>>
<<情報環境モデル都市を建設する
<<その構想はアルゴン社に引き継がれた。我々は街を建設し彼らがテクノロジーで整備する>>
<<アルゴン社?たしか新興都市である見滝原市の都市開発にも関わっていた大企業ですね?>>
<<そうだ。神浜市と見滝原市、両都市の最先端テクノロジー整備を国から委託されていた>>
<<その開発計画にも西次官が関わっていたのですか?>>
<<その通り。目的は両都市のスマートシティ化だ>>
<<IT特化スマートシティ政策は問題も多く、住民目線の
<<それも問題が大きい。どちらも超監視社会を実現する政策である事には変わりない>>
<<その地域に特化した暮らしやすさをIT技術で導入する。それは裏返せば…>>
<<…その恩恵を利用して、日本人のプライバシー権利を踏み躙る事も可能なのだ>>
<<アルゴンソフト社と日本政府の目的は…個人情報を事業者側に吸い上げることですか?>>
<<住民のためなど建前だ。神浜市民、見滝原市民はもう時期全てがアルゴン社が管理する>>
<<それは個人情報が流出するも同然です。なぜ両者はそのような事をするのですか?>>
<<都市部より地方活性化など方便。全てはザイオンのため…この新興都市は実験都市なのだ>>
<<新たなる日本は全てがITで管理される社会となる…まさにデジタル・レーニン主義ですね>>
<<いずれ社会は顔認証技術で管理され、現金が使えないキャッシュレス化となる>>
<<個人の全てを企業と国家が管理出来る社会…まさに独裁社会化。それが新たな日本の姿?>>
<<日本の主権は…最初から存在しない。全て欧米と中国の裏側にいる連中が決める事だ>>
<<その裏側にいる存在とは?新しい日本社会の姿とは?>>
大きな溜息をつく音が音声で流れる。
まるで真実を語る恐怖に耐え切れないかのようにも聞こえるだろう。
<<…疲れた。これ以上は喋れない…これ以上口を開けば……大勢が死ぬ>>
<<…分かりました。その一言で、貴方が何故政界から引退したのか理由も見えてきた>>
<<私の中華飯店は、アルゴン社と国家から監視されている。何処に目があるか分からない…>>
<<私事を1つ、語らせて下さい。私のジャーナリスト仲間がね…ある日突然…不審死した>>
<<えっ…?何を急に……>>
<<その人物が取材を行い、事実関係を調べようとした案件は…日本のディープステートです>>
<<…不審死するのも頷ける。私も連中から脅されたのだ……>>
<<ディープステートは日本だけでなく、欧米どころか世界中の国家の裏側にいる>>
<<そうだとも…彼らの裏側にいる国際金融資本家には…誰も逆らえない>>
<<そして、その者達を支配する思想こそが……ユダヤ主義です>>
<<ディープステートに逆らってはならない…。私が政界から身を引いたのもそれが理由だ>>
<<この日本は欧米に支配されている。その尖兵となるのが、かつて日本人であった在日です>>
――この国は、欧米に
長い沈黙が続く。
ジャーナリストの言葉を肯定するか細い声が響いてくる。
<<そうだ…。そして、どの日本人を救うかは……彼らが決める>>
<<…長いお話に付き合って貰い、今日は有難うございました>>
<<私は…私たち一族は…日本人の未来を守りたかっただけだ。だが、それでも……>>
――救える日本人の数には……限りがある。
2番テープの再生が終わる音が響く。
静かに拝聴していたが、2人は言葉を失った。
長い沈黙が場を支配していたが…鶴乃の父親の方が先に口を開く。
「鶴乃…俺、明日店を臨時休業するわ」
「えっ…?」
「差出人の住所の家に行く…もっと知る必要があるんだよ!」
「ど、どうしたのお父さん!?そんな興奮して…?」
「20年前の取材だって言ってたろ?丁度その時期なんだよ…」
――お前の爺ちゃんが、不審死した年だ。
次の日、2人は差出人の住所である神浜郊外の都市である宝崎市に赴く。
「酷い……何よ、この家…?」
「酷い嫌がらせの痕ばかりだ…」
「こんな嫌がらせばかり受けたら…私なら耐えられなくて死んじゃうよ…」
「あのジャーナリストは…どんな地獄を生きてきたんだ…?」
「これが…日本の闇を追いかけた人達の末路…?」
チャイムを鳴らせば、酷くやつれきった親族が出てくる。
その人物に案内され、ジャーナリストが入院している病院へと向かった。
病室に入れば、もはや自力で呼吸すら出来ない老人の姿。
2人は死を間近にした老人の元に立ち、自分達が何者なのかを告げる。
浅い呼吸を繰り返す老人だったが、彼らを見て最後の力を振り絞るかのように語り出す。
「教えてくれ!親父は風邪で病院に行った…なのに、突然病院で昏睡状態になって死んだんだ!」
「ハァー…ハァー…」
「糖尿病ではなかった筈なのに…死因は糖尿病の合併症による心筋梗塞扱いされた!」
「…インスリン注射を…打ち込まれた可能性が…大きい…」
「インスリン…?それってたしか、糖尿病に使われる薬だよね…?」
「ハァー…ハァー…糖尿病で使われるが…健康な人物に使えば昏睡状態に陥り…死亡する…」
「バカな!?それじゃまるで…副作用を利用した暗殺みたいじゃないか!!」
「そんな…じゃあ!私のお爺ちゃんは…糖尿病じゃないのにインスリン注射されて…!?」
「くそっ……病院の医者もグルだったのか!」
「全てがハァー…ハァー…敵だ。隣人も…公務員でさえ…全てが敵に回る。…奴らに逆らえばな」
「親父が死んだ頃からだった!由比財閥が関係先から切り捨てられて崩壊していったのは!」
「これが日本の闇だ…。私も抗ったが…ジャーナリストとしての職も失った…」
彼の無念の言葉を聞いた2人は顔を俯けていく。
どんな仕打ちをされてきたのかを聞かされるのだ。
隣人だと思った人物から毎日嫌がらせを受ける苦しみ。
引っ越しを繰り返しても逃げられない苦しみ。
何よりの苦しみだったのは、正義を貫いたがために犠牲となった家族の苦しみだ。
「私のお爺ちゃん…そんな苦しみを抱えながら…暗殺されちゃったの…?」
「死にかけの老人が…知らなければ辛くなかった事実を明るみにしたせいで…苦しめてしま…」
呼吸に苦しむ老人を見て、これ以上の追究は命に関わると判断したようだ。
2人は感謝の言葉を述べていく。
「本当に有難う…。貴方のお陰で…お爺ちゃん達が誇れる事をしていたって知ることが出来たよ」
「ああ…そうだな。有難う…辛い病状なのに、質問攻めにしてしまって…」
2人は病室を後にする。
病院の廊下を2人が歩いていた時だった。
「おいおい…病院には不釣り合いな奴が前から来るな」
「うん…なんか、お父さん世代のロックンローラーな見た目をしてるね」
「目を合わせるな、さっさとズラかろう」
ヘアワックスを使いオールバックヘアーをキメる、古き良きロックスタイル。
ギターケースを持つサングラス男に対し、2人は黙って横を通り超えていく。
ヘッドフォンから流れる大音量のハードロック曲を聞いていたせいか、黙って通り過ぎていった。
その人物が向かった先とは…?
「よぉ、爺さん。もうすぐ死ぬってのによぉ…喋り過ぎじゃねーかい?」
「ハァー!ハァー!お、お前は…まさか……!!?」
ヘッドフォンを肩に下ろし、不敵な笑みを浮かべる男の姿。
「今までバイト共から痛めつけられたのに、まだ痛めつけられたいか?もう楽には死ねねーぜ」
「お前はファントムソサエティであるイルミナティ共の一員か!?星の智慧を崇める者か!?」
「おうよ!冥土の土産だぜ…イカした名前を聞いときな」
ライダースジャケットのポケットからヘアブラシを取り出し、髪型をさらにキメた。
――俺様の名前は……キャロルJ!!
鶴乃と父親が病院の入口から出てきた時。
「えっ……!?」
「なんだっ!!?」
突然の爆発音が響く。
2人が慌てて地上から爆発現場らしき病院の階を見上げれば…。
「うそ……やだよ……こんなのやだぁ!!?」
そこは、2人がさっきまで訪れていた老人の病室が燃え上がっていた光景。
2人を屋上から見下ろす、赤いギターを持つキャロルJと名乗った人物。
「ヘヘヘ!宝崎市ってのはよぉ、伝統の火祭りが行われるって聞いたから…派手にキメたぜ!」
その手に持つギターからは、緑に輝く感情エネルギーたるマグネタイトが噴き出す。
ギターのチューニングを合わせる部位であるペグの形をよく見れば、封魔管。
ペグとして機能している封魔管の1つが締まりながら閉じていく光景が見えた。
「あの老人と接触していた連中…潰れた由比財閥の関係者か?好奇心は猫を殺すって諺もあるぜ」
悪魔召喚ギターをケースに入れ、背中に背負いながらポケットに手を突っ込む。
「それに、だ…。あの横を通り過ぎていった高校生ぐらいの女…魔法少女だったな」
それを聞いたギターケースに収められた悪魔達が騒ぎだし、ケースが振動し始める。
「お前ら、あいつのソウルジェムを喰いたいか?あいつらの動き次第でご馳走にありつけるぜ」
ポケットから取り出したヘアブラシで、さらに頭髪をキメたダークサマナーが叫ぶ。
「俺様の名は……キャロルJ!!いつか会える日を楽しみにしておけよ!」
――この街で出会えた事にちなんで…お前も
――――――――――――――――――――――――――――――――
2019年、5月が終わろうとしている時期。
「ハァ!ハァ!ハァ!!」
路地裏を闇雲に走り回る男の影。
40歳程度の見た目だが、年齢を感じさせない身体能力を用いて何かから逃げている。
「ウラベ様!!こちらですわ!」
浮遊しながら先導する女悪魔
金髪の妖艶な雰囲気を持ち、黒いドレスとカチューシャを身につけ、手には知恵の輪を持つ。
「遅れてますわよ!このままでは追っ手に追いつかれます!」
後ろを振り向き、主であるサマナーを案じるが。
「ハァ!ハァ!…たくっ!俺ももう歳なんだぞ…スタミナが持たねぇ!」
「ウラベ様はまだお若いですわ!私の年齢に比べたら…ね?」
「ハハ…あんまり褒められてる気がしねぇよ…リャナンシー」
【リャナンシー】
アイルランドに伝わる、人間の愛を求める美しい女妖精。
愛を受け入れた者に取り憑き、その側を離れない。
基本的にその姿を取り憑いた者以外には見せないという。
恋人となった者は強い才能の閃き、霊感を得る代わりにその寿命が縮むと言われる。
ケルトの詩人達が若死にするのは、リャナンシーの恋人になるからだと言われていた。
「BARマダムの女主人が他の街で経営している店に逃げ込めば、奴らも追ってはこれません!」
「神浜市と呼ばれる街の南にある、ホテル業魔殿の屋上フロアだったな…?」
「車を使って逃げられれば良かったのですが…」
忌々しげに後ろを振り返り、空を見上げれば…。
「オレサマ、オマエ、マルカジリ!!」
【ハーピー】
かすめ取る者と呼ばれ、ギリシャ神話における風の精。
弱い者虐めが好きで、他人の食事を食い散らかす意地汚い悪魔。
ガイアの息子タウマスとオケアノスの娘エレクトラの子であり、虹の女神イーリスの姉妹。
神々の系譜に連なる悪魔達でもあった。
空から迫りくる悪魔の猛爪に対し、ウラベの召喚悪魔が空に飛翔して迎撃の構え。
「ここは私が!!」
知恵の輪を持つ片手を構え、腕を振るう。
「ゲアッ!!?」
一迅のカマイタチが発生し、魔法の『ザン』によってハーピーの片翼が切断された。
地面に急降下し、倒れ込む悪魔に対し…。
「弾の無駄遣いにしかならねぇな…」
黒のスーツパンツの腰部ホルスターに手を伸ばし、銃を抜く。
「ママ、待テ!!悪魔ヲ殺シテ平気ナノ?!?」
「ああ、お前みたいな醜い悪魔連中なら…特にな」
構えたリボルバー銃はS&W・M500と呼ばれる回転式大型拳銃。
「アギャーッ!!!」
500マグナム弾に後頭部を撃ち抜かれ、感情エネルギーを撒き散らしながら消滅。
「……ウラベ様」
「分かっている、こいつらを召喚しているサマナーだな」
フレームからシリンダーを横に振り出し、通常弾を抜いて片手に収める。
ポケットに弾を収納してフライトジャケットから別の弾を取り出している時に…追手は現れた。
<<よぉ、ウラベ。久しぶりじゃねぇか>>
前方通路から歩いてくる人物。
黒スーツとサングラスを身に纏う短髪の男が歩み寄り、不敵な笑み。
「急ぎ足で何処に行く?俺の悪魔と、ちょいと遊んでみるか?」
右手に持たれているのは、サマナー達が利用する銀の封魔管。
「…フィネガンの飼い犬風情が、デカい口を利きやがって」
「葛 葉一族に引けを取らない歴史を持つ家の出身だか知らねぇが…気に入らなかったんだよ」
「それは良かった。お前のような三下サマナーに好かれたくはねぇ」
「余裕でいられるのは身軽になったからか?組織を逃げ出して家に帰った感想はどうだった?」
それを聞き、拳が握り込まれていく。
その拳は震えていた。
「組織を裏切った者は口封じされるのさ、親族もろともな」
「昔から変わらねぇな、イルミナティ共は。やってる事はマフィアと変わらねぇ…」
「ユダヤ幇であり金融マフィアであり
――テメェの嫁さんと子供にヨロシクな!
先に仕掛けたのはダークサマナー。
右手の封魔管から召喚された悪魔とは?
【ヘルハウンド】
イギリスで伝承される、遭遇した者に死をもたらす冥府の犬。
子牛程の大きさ、闇色の毛と角、大きく燃え盛る目、鼻からも火を吹くと言われる。
犬は墓場で死体を漁り、死肉を食べる為ケルベロスやアヌビスのように死を司る神と呼ばれた。
ヘルハウンドは猟犬としての性質が強く、死の前兆として現れる存在。
キリスト教時代には、悪魔の化身として神を冒涜したりする者達を罰したという。
「俺の手札で最強のカードだぁ!焼き尽くして食い殺せぇ!!」
「ウラベ様!!」
「任せろ」
シリンダーのチャンバー内に銀の弾を入れ込み終え、チャンバーをフレームに戻す。
薬莢に描かれた印とは…悪魔を封印する五芒星。
――悪魔召喚のやり方はな…こういうやり方もあるんだよ!
引き金が引かれ、銃弾が放たれる。
だが発砲から噴き出したのは煙ではなく、感情エネルギー。
<<ギャァァァァ!!!!>>
感情エネルギーが飛翔しながら実体化し、悪魔の形となっていく。
【ガキ】
仏教における十界において苦しみを味わうという六界の一つ、餓鬼界に住まう者達。
生前果てしない食欲をはじめとした欲望に囚われていた者が転生するのだという。
彼らは常に飢餓感に苦しみ、やせ細って腹だけが膨れ上がっている。
彼らは時折現世に現れては人に憑りつく。
その人は豹変したように物を貪り喰らったり、物事に意地汚くなるのだと言われた。
「オオオオォォォーーーーン!!!」
鈍化した世界、迎え討つヘルハウンドが燃え上がる牙を剥き出しにする。
弾丸の如く射出されたガキの体が光り輝く。
<<死ニタクネェェェーーッッ!!!!>>
この一撃は、悪魔の特攻でもある『自爆』魔法。
ガキの体が物理的にヘルハウンドに接触した瞬間、大爆発。
炎を纏い火炎を無効化するヘルハウンドだが、爆発によって纏う火炎も肉体も吹き飛ばされる。
爆発が収まった光景の中には、ヘルハウンドの姿は無かった。
「そ…そんな馬鹿な!?テメェ…どうやって悪魔を召喚したぁ!!?」
「貴様と同じく、銀の管に封印した悪魔を放っただけさ」
「なんだとぉ!?それじゃ…お前が利用している封魔管は!?」
「銀の弾丸だよ。火薬の代わりに悪魔を詰めている…そして、それは連続して放てる」
さらに引き金が引き絞られていく。
「ま…待てよぉーーーっ!!!?」
「嫌だね」
放たれる二撃目の弾丸となる悪魔が、逃げようとするダークサマナーごと大爆発。
「管が小さい分、詰めれる悪魔は低級に限られる。瞬間火力を高めるために…自爆させるのさ」
黒い中折ハット帽を目深く被り直し、銃を腰部ホルスターに仕舞う。
「ご無事で何よりです…ですが、後続も迫ってきています」
「神浜に急ぐぞ。こいつらが追ってきているのなら…フィネガンも必ず来る」
急ぎ足で神浜市に向けて歩みを進めて行く、元ダークサマナーの姿がそこにはあった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
東京から神浜方面に向けて走る、一台の高級セダン。
車内には2人の人影。
頭にアルファベットが刻まれたターバンを巻き、車を運転する褐色肌の男性。
助手席に座るのは、サングラスをかけオールバックにした髭顔の男性。
黒いスーツ上着の脇腹部分が膨らんでおり、ショルダーホルスターに銃を差し込んでいた。
「そうか…捜索メンバーは殆どが返り討ちとなったか」
今どき珍しいガラケーを使い、追撃チームからの報告を聞き終えた後、電話を切った。
「…どうやら、ウラベの決意は固いようですね」
「組織でも名のある奴だったが…所詮は人の子だ。人としての感情が捨てきれない」
「金に困らない奴は…勝手な事ばかり出来る。その選択のせいで家族が殺される…何が父親だ」
「フッ、お前はウラベに対して思うところがあるようだな?」
「私にとって、家族の生活こそが全てです。家族が安心して暮らせる金の為なら…私は……」
「それでこそプロフェッショナルだ。私情を持ち込まず、良し悪しに関わらず仕事を成し遂げる」
「確かな仕事で信頼を勝ち取れてこそ、私達はビジネスが出来る。今回の仕事にも迷いはない」
「お前の笛の調べ、聞かせてもらおう。笛吹き蛇使いと馬鹿にされる事が無い活躍を期待する」
「その言葉、必ず証明する。我が家族の為に……」
「そろそろ神浜市だ。奴は南凪区に向かっている、先回りをするぞ…ユダ」
「あのウラベと互角の実力、久しぶりに見させてもらいますよ…フィネガン」
車は高速道路を下り、栄区方面に向けて進む。
その頃の栄区では…。
「ギャァァーーー!!!」
追撃悪魔の燃え盛る死体を走り超え、目的地に向けて進むウラベと女悪魔の姿。
「チッ…実力は無い連中だが…相手をすればするほど弾数が少なくなっちまう…」
「後もう少しで南凪区と呼ばれるエリアです、それまではご辛抱下さいまし」
「せめてこの街の魔法少女共と出くわさない事を祈るぜ……面倒事は連中だけで十分だ」
消耗していくが、それでも前方からは追撃の悪魔の姿。
「弾を節約する!迂回出来るルートを空から見つけてくれ!」
「了解ですわ!」
リャナンシーが上空に飛翔し、彼女のナビゲートを頼りに路地裏を突き進む。
だが、これが誘導を仕掛けられている事までは見抜けなかった。
「なっ!?異界だとぉ!」
路地の広場に突如として異界結界が広がり、閉じ込められる。
「誘導されてたってわけかよ…」
「申し訳ありません!ダークサマナー達の気配を感じ取れませんでしたわ…」
「奴らも魔力を隠す術ぐらい心得ているか……出てこいよ、いるんだろ?」
夜中の通路を歩く革靴の音。
「貴様…ついに現れやがったか!!」
上着を脱ぎ、白シャツの上からショルダーホルスターを纏うサングラス男。
「組織から逃げ出した裏切り者が、生き残れると思ったか?」
「くっ……フィネガン!」
「かつてはその名を恐れられたお前も…今は逃げ回る野良犬のザマか?」
ポケットから葉巻を取り出し、火をつける。
紫煙を燻らせながら、どう相手を殺すか品定めをするかの如き余裕。
「なぜ組織を裏切ったのか知らんが…フッ、とんだ笑い話だな」
「フン、そういう貴様は、相変わらずサマナーの力を悪しき道にしか生かせんようだな」
「フフフフ、人をけなせる立場でもあるまい。家族を殺されて怖気づいたか?」
「貴様ッ!!!」
「戦うつもりか?私の力を知らぬわけでもあるまいに…」
(悪魔の銃弾残数は…残り3発。通常弾で勝てる相手じゃねぇ…)
「ウラベ様!私もお供をいたしております!」
「そうだったな…お前と2人でなら……こいつに勝てるさ!」
「そうかな?1つ言っておくが……この異界を形成しているのは、私ではない」
「何っ!?」
後ろから響く、サックスの音色。
五芒星が刻まれたサックスのベル穴から噴き上がる感情エネルギー。
「ユダ……お前まで来ていたか…」
「久しいな、ウラベ。そして見損なったぞ」
青いスーツ姿の上から白いマントを纏うユダの姿。
白マントで隠す腰部には、様々な笛が備えられ、そのどれもが五芒星が刻まれた品。
彼が用いる封魔管なのだろう。
「私の家族のため…貴様には死んでもらう」
サックスから噴き上がる感情エネルギーたるマグネタイトが形をなしていく。
ユダの頭上に雷雲が生み出され、そこから現れた悪魔とは?
<<サマナーさんよ、粋な命令をくれるかい?>>
【マルト】
叙事詩『リグ・ヴェーダ』に伝えられる嵐と雷の精霊。
暴風神ルドラの息子達であり、ヴェーダ時代におけるインドの暴風雨の神格化された存在。
雷神にして天候神インドラの随伴者であり、普段は陽気な若者である存在。
彼らは完全武装で雲に乗って共に天空を駆けたという。
宿敵ヴリトラの従者たちに対し、獣のような咆哮で恐怖に陥れた悪魔である。
「この男と女悪魔を殺せ」
「景気がいいなサマナーさんよぉ!!俺の雷槌でぶっ殺してやるぜぇ!!」
「ユダ!いい加減目を覚ませ!!汚れた金で家族が養われて…喜ぶってのかよ!!」
「黙れ!!ネパールという後進国で、大家族のまま暮らす生活の苦しさが…お前に分かるか!?」
「家族を支えたいなら…もっと他の道もあっただろうが!」
「私のような者が大金を稼ぐには……この道しかない!」
「くそ……馬鹿野郎が!!」
「私もいるのを忘れたか?」
黒スーツズボンのベルトには、様々なメリケンサックが吊り下げられている。
掌底で支える金属部位は封魔管である銀の管を加工し、一体化させた悪魔召喚道具であり武器。
2つのメリケンサックを皮手袋の上からはめ込み、両拳を打ち鳴らす。
「…リャナンシー、後ろの悪魔を頼む」
「ウ…ウラベ様は……?」
「眼の前の敵を…倒す以外に道はないぜ…」
「……心得ました、ご武運を!!」
リャナンシーは飛翔し、上空からマルトを迎え討つ。
「面白え!!嵐の精霊である俺様に対して…空で戦うとはなぁ!」
雷雲から上半身を伸ばすマルトは両手に持つ武器に雷を纏い、彼女に襲いかかる。
「ユダ、手を出すな。せっかくのウラベとの対決だ…フェアーにいこうぜ」
「承知した」
「チッ…多勢で囲んでおきながら、妙に勝負事に拘る。昔からお前のそういう部分がよぉ…」
腰部ホルスターの銃に手を伸ばす。
フィネガンは両拳をボクシングスタイルで構える。
――ムカついていたんだよぉ!!
――――――――――――――――――――――――――――――――
太古から続くデビルサマナーが行使する召喚方法とは『召喚魔法』と呼ばれる。
術者の高度な魔術的能力に依存し、悪魔との意思疎さえ魔術知識が無ければ困難を極める。
管召喚は術者に高い霊的素養と厳しい修行が必要だ。
自らの感情エネルギーを媒体にして悪魔を実体化させるため、悪魔召喚数には限りがあった。
どれ程の凄腕サマナーであろうとも、召喚悪魔は『1体』が限界だと言われている。
歴史に名を残すデビルサマナーの中で唯一『2体同時召喚』が出来た存在は1人のみ。
14代目葛葉ライドウと呼ばれたデビルサマナーだけであった。
「リャナンシーを召喚しているからには、ウラベ…お前は独りで私と戦うということだ!」
「だからどうしたぁ!!」
引き金が引かれ、悪魔銃弾が銃口から発射。
だがそれよりも早く体の軸をズラし、悪魔銃弾を回避する身体能力を見せるフィネガン。
銃弾悪魔は横を通過、後方で大爆発を起こす。
「チッ!相変わらず素早い反応しやがって……流石は元ボクサーだぜ」
「悪魔銃弾速度に対応出来なくとも、銃という武器の欠点がある限り追いつける」
素早く踏み込み、一気に距離を詰めてくる。
「他の悪魔を召喚出来ない貴様ならば、私も悪魔召喚などする必要はない!拳で殴り殺す!!」
「何処までも気持ち悪いコダワリを見せやがる!!」
腰部ホルスターに銃を差し込み、自らも格闘の構え。
相手の『ショートジャブ』を左手で連続捌き、右フックを仕掛けるが腰を落とすダッキング回避。
体勢を下げながらのボディブロー打ちがウラベに決まり、たまらず後ずさるが猛攻は止まらない。
(コンバッテッド・サウスポーの構えか!両拳どちらでも仕留める気でいやがる!)
引き絞る左拳ストレートだけでなく、右拳のフックにも警戒しながらの立ち回り。
「どうしたウラベ?打ってこいよ、家族を殺されて悔しくないのか?」
構えを解き、両拳を下げながら挑発。
「フィネガンッ!!」
家族の凄惨な死の現場が頭を過り、激情のまま拳を振るう。
サイドステップ、バックステップ、ダッキングと相手の突き蹴りに合わせ避け続ける身軽さ。
「うおおおっ!!!」
左追い突きから右直突きに対し、頭を左右に振るヘッドスリップ回避。
左肘を打ち込むのに合わせダッキング避け。
避けると同時にボディブローを打ち、怯んだ相手に引き絞った左ストレート。
「ガハッ!!」
顔面に直撃し、口から血と折れた歯が撒き散らされて倒れ込む。
「ボクシングならレフェリーが止めに入るが…ここは戦場だ」
跳躍し、右拳で地面を砕く程の追い打ちを仕掛けるが、咄嗟に転げながら回避。
倒れ込んだまま銃を抜き、相手に構える。
「くたばれっ!!」
引き金を引く頃には既にフィネガンの回避運動は終わっており、弾丸悪魔が素通りしていった。
「銃を構える、狙う、撃つ。これだけの動作があれば…近距離戦において避ける事など容易い」
「チッ…お前はクロースクォーターズ・コンバットじゃ、右に出る奴がいなかったな……」
立ち上がろうとするが、脳が激しく揺さぶられたのか上手く立ち上がれない。
俯いた顔が前を向いた瞬間、顎は蹴り上げられていた。
「同じシチュエーションで戦ってやっているのに、なんだその体たらくは?」
両拳など必要ないと判断したフェイネガンは、左のメリケンサックを外す。
「守るべき者達が殺され、いなくなったら……」
――生きているのも、嫌になるか?
倒れ込んだウラベを左腕で掴み上げ、さらに右拳で殴り続ける。
「組織内で私と肩を並べた実力はどうした?あの力は、帰りを待つ者達がいたから出せたのか?」
「うる…せぇ…!」
もはや為す術もないウラベの姿に対し、フィネガンの指示通り手を出さないユダではあるが。
(帰りを待つ愛すべき家族がいるからこそ力が出せる。私もそうだが…だからこそお前は…)
内心は複雑な感情を曇らせながらも、上空の様子に目を向ける。
上空の悪魔同士の対決は既に勝敗が決しようとしていた。
「じゃあな!生き恥は晒させない主義なんだよ!!」
雷を纏う矢を放ち、リャナンシーの風魔法を貫きながら彼女の腹部に命中。
「がっ……!!!」
体勢を崩した彼女が真っ逆さまに地面に落下し、激突。
「上の方も終わったようだ。そろそろコチラも終わらせてやろう」
ふらつきながらも立ち上がるウラベに対し、ボクシング構えで足幅を広げていた構えを変える。
足幅を狭め、パンチの安定の為に下に向けた重心を上に持ち上げる構えは…キックボクシング。
「俺は…お前らのせいで…家族を亡くした……」
殴られながらも右手に握り続けたリボルバー銃が、強く握り締められていく。
「お前も後を追わせてやる!!」
踏み込んで迫りくる『回し蹴り』の一撃。
左腕のガードごとウラベを蹴り飛ばしてしまう。
鈍化した世界、蹴り飛ばされ浮遊する彼の体勢が変わっていく。
右手の照準がゆっくりと、憎き存在に向けられていく。
――だからこそ俺は……お前達に復讐してやる!!
回し蹴りによって片足立ちとなり、フットワークに移れない相手に放たれる悪魔の銃弾。
「チッ!!?」
大爆発が起こり、瓦礫と煙が噴き上がる。
「ハァ!ハァ!…最後の一発だ。頼むからくたばれよ…」
「フィネガンッ!!?」
声を荒げたユダが駆け寄ろうとするが…。
<<貴様…お前に合わせた正々堂々の勝負に対し…水を差しおって>>
煙の向こう側から衝撃波が発生し、瓦礫と煙が吹き飛ばされた。
右手に構えたメリケンサックの持ち手部位にある封魔管が開かれている。
感情エネルギーを放出し、現れ出た存在とは死神。
<<我を呼ぶ声に応じ、ここに見参す…>>
【ケルヌンノス】
名前は角を持つ者を意味するケルト神話の冥界神の一人にして動物の王。
頭に牡鹿か牡山羊の角を生やしていて、あぐらをかいて座った姿で表現される。
角は生殖を象徴している為、生殖等の豊穣神としての性格を持つとも言われる存在。
頭に角を持つケルヌンノスのイメージは、中世ヨーロッパのサバトが由来だ。
悪魔レオナルドや現代ウィッカの復興異教主義に大きく影響を与えていた。
「ハッハッハッ!愉快愉快…この程度の自爆攻撃で、我を倒せると思ったか?」
浮かび上がる巨大鹿の頭蓋骨の上であぐらをかく、大きな二本角を持つ巨大な赤き悪魔。
「くそっ…最後の一発だったのに…」
倒れ込む上半身を持ち上げながら横に顔を向けるそこには、倒れ込むリャナンシーの姿。
「ウラベ…様…私を封魔管に戻し…他の仲魔達をお使い下さい……」
「そうはいかん。フェアーな勝負を貴様が捨てた以上、もはや容赦はせん」
空中に浮かぶケルヌンノスの下を歩くフィネガンの右拳が放電し始める。
ユダの頭上にはマルトが引き絞る雷槌の弓矢。
もはや正々堂々の勝負は終わったと判断し、加勢に加わろうとしている。
「フッ…ここまでかもな。お前と一緒に死ねるなら…悪くねぇ…」
「ウラベ…さま……」
「すまない…そして、今までありがとう」
振り下ろす雷槌が如き拳が迫る。
マヌスも雷槌の矢を同時に放つ。
もはや死は確定した……かに見えたが。
「…………?」
目を瞑り死を覚悟したウラベが目を開け、見た光景とは?
「な…馬鹿な!?この魔方陣は…9芒星!!?」
それは邪悪なる悪魔を打ち払うイエス・キリストの印であり、弟子達に教えた153の魚の数字。
光を司る数字で描かれし魔法陣によって、悪魔たちの力を消し去った存在とは?
「…丁度いい連中を見つけました。彼女達の調整実験にピッタリのサマナー達です」
学者のような姿をし、白く美しい長髪をした糸目女性。
その右手にはヘルメスの杖を持ち、伸ばしたサイドヘアーも編み込まれたヘルメスヘアー。
左手中指にあった筈のソウルジェムを悪魔に奪われし、不老不死者。
「お前は…まさか…」
後ろを振り向き、左手で眼鏡のフレームブリッジを押し上げ、微笑む口が開く。
「この獲物たち…私に譲ってもらいますよ?」
「一瞬で現れたのか…まさか、転送魔法!?」
「悪魔の力を封印するこれ程の防御魔法陣を構築出来る術者など…世界でも数えるほどだ!!」
「あのヘルメスの杖…それにこの魔力は、魔法少女!?」
驚愕するダークサマナーに対し、振り向いた彼女が優雅にカーテシー礼を行った後、細目が開く。
――初めまして、皆さん。
――私の名は…ペレネル・フラメルと申します。
読んで頂き、有難うございます。