人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
2019年の5月時期。
日本国憲法が制定されて七十数年が過ぎたが、ついに国民投票法改正案が今国会を通過する。
この背景には去年起きた東京空爆事件が関与し、社会的不安が後押しする形となっている。
改正案は憲法改正の是非を問う国民投票なのは言うまでもない。
商業施設に共通投票所を設ける事など、取り扱いをめぐって与野党の合意も得られたようだ。
「これで今国会での成立は決まった。憲法改正も実現するだろう」
総理執務室の窓辺に立ち、外の光景を見つめる八重樫総理の姿である。
「現憲法の原案を作ったのはたしか、GHQ占領政策の中心を担った民生局に在籍していた者だ」
「東欧ユダヤ人、チャールズ・ルイス・ケーディスでしたわね」
八重樫総理の後ろには総理秘書官の女性も立つ。
かつて八重樫総理を殺そうとした美国織莉子に対し、影から護衛を努めた女性秘書官であろう。
「彼に与えられた任務は日本を永久的に非武装の儘にしておくことです」
「憲法9条2項の規定はそのためにあるのだ」
「
「それを望むのは国民だ。そのように仕向けさせる手筈なら、イルミナティが用意してくれる」
「目的は内閣の独裁が認められる
「その通り。2020年は素晴らしい変化が世界に訪れる…病魔というパンデミックが起こる」
「民主主義国は緊急時における政策において現憲法内容では余りにも対応が遅くなるはずです」
「だからこそ、民衆は政府の独裁を望み始める…これがショック・ドクトリン政治だ」
かつてのナチス総統ヒトラーも合法的な民衆支持を重視した人物。
ソ連のような暴力支配では、いずれ民衆革命の前に敗れてしまうからだ。
「我々政府が独裁権を会得する法律が施行される時期は数年後になるが…もっとも」
――その頃の日本は既に地上にはないだろう。
「後の独裁国家日本の姿は
「その通り。そして…方舟計画も同時に始まる。生き残れなければ…国など残らないからね」
あろうことか、日本の総理大臣が国の滅亡という恐ろしい話を口にする。
しかし国家滅亡は20世紀の歴史を見ても当たり前のように起こってきている。
第二次世界大戦後の70年間において180以上の国家が消滅している歴史がある。
国家とは
それは日本とて同じであり、国家の形は常に大国によって変えさせられてきたのだ。
「ところで
「完成している。その神の山を隠す海辺の砂浜の都市は、その為に在ったのだよ」
「
「…その件についてだが、トラブルが起きた」
「トラブル?」
「黄金の暁会に所属するダークサマナーの男の1人が逃げ出した」
「脱走者…恐らく我々が東京に起こす大破壊に恐れをなし逃げ出したといったところですわね」
「東京から逃げ出し、神浜方面に逃走している。現在追跡を向かわせているが奴は手練だ」
「フフ、なるほど。どうやら私も現地に向かう必要がありそうですわね、八重樫総理?」
「我々の計画の一部を知りうるあの男を生かしてはおけない。行ってくれるかね…?」
「勿論ですわ。我々の啓蒙神である智慧の神ルシファー様の号令がかかる日も近いですし」
「計画に支障をきたすわけにはいかん。我々の首が飛ぶだけでは済まされないのだ」
「東京大破壊…
「秘書官としての君も好きだがサマナー姿にドレスアップした方が素敵に思うよ…マヨーネ君」
聖書において海岸の砂浜に関する記述箇所は多い。
多くは砂のように人がいる、人を増やすなどの比喩表現として用いられる単語であろう。
その中には興味深い文言が存在するのだ。
黙示録13章獣の国。
――また私は見た、海から一匹の獣が上って来た。
――これには十本の角と七つの頭とがあった。
――その角には十の冠があり、その頭には神を穢す名があった。
――私の見たその獣は豹に似ており、足は熊の足のようで口は獅子の口のようであった。
――
――そこで全地は驚いて、その獣に従い、そして竜を拝んだ。
――獣に権威を与えたのが竜だからである。
――また彼らは獣をも拝んだ。
――だれがこの獣に比べられよう、だれがこれと戦うことができようと言った。
人修羅、それは666の悪魔であり黒き竜。
人間社会の為なら大虐殺を行える殺戮者であり、人間の守護者。
そして社会全体主義による静寂を望みし者。
この悪魔が神の山を隠す海辺の砂浜の如き街に降り立つ日も近いのであった。
♦
神浜市と呼ばれる新興都市には謎が多く、東西対立が根深いこの街は一体何なのであろうか?
歴史上では戦国時代以前から既に対立傾向にあったとされる。
水名区にある水名城が東側の勢力の裏切りにあって落城した歴史が有るようだ。
これが原因で西側は東側を毛嫌いするようになったという。
幕末期には西の武家と東の商家が港湾管理を巡って対立していく。
近代には西の名家が没落する一方で東は戦争特需で成金が増加するなど、様々な事象も起きる。
現代でも再開発や振興策の失敗などが響いた結果、地域格差が発生。
西側は開発が進む傾向にある一方で、東側は経済的に苦しい立場に置かれた人達が多い。
市政でも為政者達は市民のことを考えず、欲と野心のためにしか動かず大規模な汚職も起きる。
西と東の者達が数百年間いがみ合う悪魔の如き醜い街。
だからこそ神浜は日本の闇であるディープステート共の箱舟計画地として選ばれてしまう。
それが神の山が隠されし海の浜辺であろう神浜市なのであった。
2019年、4月時期。
「ありがとう御座いました~」
客足も殆どない中華飯店万々歳だが今日は珍しく団体客が来てくれた事もあり繁盛している。
「鶴乃~表の戸締まり頼むわ」
「ほいほ~い」
店の看板娘である鶴乃が表に出て閉店作業を行ってくれる。
レジの売上を計算していた鶴乃の父親だったが不安が滲み出るように顔を曇らせてしまう。
「こんな収入で…一体どれだけ持ち堪えられるんだろうな…爺ちゃんの店?」
店の壁に飾られた祖父の写真に目を向ける。
残された息子の表情は無能故に店を守れない自分に対する自責の念に塗れている。
「名家の政治家一族なのに…こんなラーメン屋で終わるなんて…妻や祖母から憎まれて当然だ」
彼の妻と祖母は突然舞い降りてきた宝くじ8億円を持ち逃げして豪華客船旅行中である。
勿論これは鶴乃が魔法少女に契約した願いの恩恵であったが、それも虚しく謀られたようだ。
それでも健気に店を支え、いつか家族団欒が得られると信じ続けるのが鶴乃の生き方であろう。
「鶴乃…お前の姉ちゃんだって海外留学と言いながらも…本当は家から逃げたかったんだよ…」
無能な男しかいない由比家で彼から逃げようとしない女は鶴乃しかいてくれない。
鶴乃まで彼の前から消えてしまったら生きていけないだろう。
レジの前で俯きながら自分の無力さを嘆いていた時、愛すべき娘の元気な声が届く。
「お父さん、万々歳は大丈夫!!」
「えっ!?お前、いつの間に…?」
「私だってね、万々歳にお客さんが入るように色々とチャレンジしてるし!」
「それは知ってるさ…だけどな…」
「私だって最強女になれるように日々修行の毎日!最強の私が支える店が…潰れるわけない!」
「鶴乃……」
「だからね…自分を責めないで…お願いだから…」
孤独でも父親の側に残ってくれる娘の優しさが嬉し過ぎて涙腺が緩むが右腕で拭っていく。
「…そうだな。お前だって頑張ってる!俺だって…まだやれるさ!」
「そうだよ!私達はサイキョーの中華飯店を目指すの!」
「おう!爆発的人気を得た万々歳が名家として復活する日も近~い!!」
落ち込んでいた父を元気にしてくれる娘であったが、ポケットから何かを取り出す。
「あ、そうだ。お店の郵便受けに郵便物が入ってたよ」
「あぐっ…ノリがいい時に素に戻るのは勘弁…?」
郵便物の差出人を確認するが、覚えがない者からの便りのようだ。
「知らない人からの郵便物だな…それに中に入ってる形は…二つのカセットテープか?」
「えっ、カセットテープ?どうしよう…何かの間違いで送られてきてない?」
「宛名はちゃんとうちの住所だし…差出人の名前も聞いた事がない」
「送り返した方がいいかも…」
「待て…もしかしたら俺じゃなくて爺ちゃんの郵便物かもしれない」
「あ…そうだね。偶にそういう郵便物も届くし」
「俺の部屋にガキの頃から使ってる小さなラジカセがある。持ってくるよ」
暫くした頃、持ってきたラジカセを店の机に置く。
封筒に入れられたカセットテープのうち、1と記入された方を入れて再生する。
<<初めまして由比家の皆さん。私は20年前の店にジャーナリストとして訪れた者です>>
「やっぱり爺ちゃん宛だったな…その時の万々歳の店主は爺ちゃんだった」
「ジャーナリスト?どうして中華飯店を切り盛りしてるお爺ちゃんを相手に来たわけ?」
<<私が訪れた取材内容は…公に出来ませんでした。ですが、皆に知ってほしい>>
「表に出せない取材内容だって…?」
<<現在の私は全身にガンが転移して余命幾ばくも無い老人です…だからこそ知って欲しい>>
「この人…自分の死の間際に…俺達に何を伝えようと言うんだ…?」
「分からない…公に出来ない程の秘密とお爺ちゃんが関わっていたの…?」
<<この情報は、貴方達の命を脅かす内容です>>
テープ音声から聞こえた衝撃の発言に対し、2人の顔も青くなりながら息を飲みこむ。
<<知りたければ2番のカセットを再生して下さい。知りたくなければ…破棄して下さい>>
<<もし2番のテープ内容を聞き、それを公にしようとすれば…確実に殺されます>>
<<それでも……あなた達は知る権利がある>>
<<あなた達は国の未来を憂いた由比防衛大臣のご子息達。彼の無念を…知る権利がある>>
1番と書かれたカセットテープが止まった後、父と娘は顔を向け合う。
「命を脅かす内容だって!?」
「お爺ちゃんの昔は防衛大臣だった…その頃に突然過ぎる政界引退に追い込まれたんだっけ…」
「そうだ、俺のガキの頃にな…」
「それに…うちの一族の関係者まで次々と失脚して名家一族がボロボロになったんだっけ…?」
「思い出したくもないが…その通りだ。もしかして、その出来事と関係しているのか?」
「引退を飲まなければ…私達の一族の命さえ危なくなる程の苦しみを抱えていたの…?」
「マジかよ…これは…聞くとヤバい案件だぞ…」
「私……知りたい!!2番を再生して!」
「お、おい!?マジで危険な内容かもしれないだろ!国家機密かもしれないし…」
「私達は歴史ある名家の誇りを忘れちゃいけないよ!」
「鶴乃……」
「それを捨ててまで家族を守ろうとした真実に立ち向かわなきゃ…お爺ちゃんが可哀想だよ…」
「鶴乃…分かった、俺も腹をくくる!!俺だって…政治家一族のセガレだ!!」
覚悟を決めた父と娘が2番と書かれたカセットを再生する。
<<それでは、録音を開始します>>
<<話してしまっていいのか私も悩みます…ですが…これ程の秘匿を抱えて生きるのは辛い>>
<<心中、お察しします。それでは、質問させて下さい>>
<<……聞きましょう>>
<<かつての由比財閥グループは、自衛隊の兵器開発にも投資する巨大一族です>>
<<……かつてはそうでした>>
<<グループに多くの建設企業も存在し、この新興都市建設に何十年も前から貢献してきた>>
<<私の父の代から、この新興都市建設に貢献してきましたが…見ての通り落ちぶれました>>
<<私はそれを不審に思い、こうして取材に来ました>>
<<そうですか……>>
<<数年前まで貴方は防衛大臣を努めていたのに…何故、引退をなされたのですか?>>
<<そ…それは…>>
<<スキャンダルも抱えていなかったはずです>>
<<はい……>>
<<口を閉ざさなければならないという事は…それ程の機密を知ってしまったのですか?>>
<<……………>>
<<それは一体どんな内容なのですか?>>
<<……私の父であり由比財閥当主であった人物は神浜市の開発計画に心血を注ぎました>>
<<存じています>>
<<それは日本人…いや、大和民族の未来を救う為でもあったのです>>
<<大和民族である我々日本人を救うとは、どういう意味でしょうか?>>
<<う……うぅ……>>
<<そういえば、由比建設グループは地下空間の創造を強く探求していましたね?>>
<<……その通りです>>
<<それと何か関係があるのでしょうか?>>
<<…神浜の奥深い直下には直径630km²、高さ10000mもの超巨大地下空間がある>>
鶴乃の父が語った地下空間の規模はあまりにも巨大であろう。
東京の土地面積をまるごと収めれる程の広大な面積を誇る規模なのだ。
<<それ程までの巨大地下空間があっただなんて…それと由比財閥との間で何か関係が?>>
<<その地下世界の事を私の父はこう呼んでいました…神の山であり神の国……
ザイオンとは旧約聖書に出てくるエルサレムの聖なる
かつてダビデ王とその子孫が王宮を営み、宮殿を立てて政治の中心にした地の名称である。
<<現在はユダヤ民族主義の象徴だと言われています…そして、神の山を支配するのは…>>
<<……支配するのは?>>
<<……すいませんが…言えません>>
<<…話し辛いですか?では、話題を変えます>>
<<…そうして下さい>>
<<この街の歴史から見て、西と東の発展はあったが、中央の発展はなかった>>
<<……はい>>
<<東西を分断するかの如く、空き地地帯が広がっていた>>
<<……そうです>>
<<現在は由比建設グループの力によって、この街の商業を担う中心都市にされました>>
<<…その通りですが、かつての栄光に過ぎない>>
<<当時の取材の記憶では…大量の土砂が毎日のように運ばれていたそうです>>
<<……………>>
<<由比建設グループは、中央区で何をしていたのですか?>>
<<……………>>
<<由比財閥の当主であった貴方の父が語るザイオンとは、何を意味しているのですか?>>
<<……………>>
<<この新興都市開発計画は日本政府が由比財閥に委託した国家事業です>>
<<そうです…欧米からも投資が集まり、天文学的予算が組まれた…>>
<<それ程までの都市開発計画の裏に、何がありました?>>
<<……………>>
<<当時の由比財閥に対して新興都市計画を委託した日本政府次官はたしか…
<<はい…彼に頼まれましたが、彼は代理人に過ぎなかった>>
<<情報環境モデル都市を建設する
<<その構想はアルゴン社が請け負った。我々は街を建設し彼らがテクノロジーで整備する>>
<<アルゴン社?たしか新興都市である見滝原の都市開発にも関わっていた大企業ですね?>>
<<そうだ。神浜市と見滝原市、両都市の最先端テクノロジー整備を国から委託されていた>>
<<その開発計画にも西次官が関わっていたのですか?>>
<<その通り……目的は両都市のスマートシティ化だ>>
<<IT特化スマートシティ政策は問題も多く、住民目線のスーパーシティ化とも言われます>>
<<それも問題が大きい…どちらも
<<その地域に特化した暮らしやすさをIT技術で導入する。それは裏返せば…>>
<<…その恩恵を利用して、日本人のプライバシー権利を踏み躙る事も可能なのだ>>
<<アルゴンソフト社と日本政府の目的は…
<<住民のためなど建前だ。神浜市民、見滝原市民はもう時期アルゴン社が全てを管理する>>
<<それは個人情報が流出するも同然です。何故そのような事をするのですか?>>
<<都市部より地方活性化など方便。全てはザイオンのため…この神浜市は実験都市なのだ>>
<<新たなる日本は全てがITで管理される社会となる…まさに
<<いずれ社会は顔認証技術で管理され、現金が使えないキャッシュレス化となる>>
<<個人の全てを企業と国家が管理出来る社会…まさに独裁社会。それが新たな日本の姿?>>
<<
<<その裏側にいる存在とは?新しい日本社会の姿とは?>>
喋れば訪れる命の恐怖に耐えられない吐息が漏れる音声が流れる。
<<…疲れた。これ以上は喋れない…これ以上口を開けば……大勢が死ぬ>>
<<…分かりました。その一言で、貴方が何故政界から引退したのか理由も見えてきた>>
<<私の中華飯店はアルゴン社と国家から監視されている…何処に目があるか分からない…>>
<<私事を一つ語らせて下さい。私のジャーナリスト仲間がね…ある日突然…不審死した>>
<<えっ…?何を急に……>>
<<その人物が取材を行い、事実関係を調べようとした案件は日本のディープステートです>>
<<…不審死したのも頷ける。私も連中から脅されたのだ…>>
<<ディープステートは日本だけでなく、欧米どころか世界中の国家の裏側にいる>>
<<そうだとも…彼らの裏側にいる国際金融資本家には…誰も逆らえない>>
<<そして、その者達を支配する思想こそが…
<<ディープステートに逆らってはならない…私が政界から身を引いたのもそれが理由だ…>>
<<この日本は欧米に支配されている。その尖兵となるのが
――この国は、
長い沈黙が続く中、ジャーナリストの言葉を肯定するか細い声が響いてくる。
<<そうだ…。そして、どの日本人を救うかは……彼らが決める>>
<<…長いお話に付き合ってもらい、今日は有難うございました>>
<<私は…私達一族は…日本人の未来を守りたかっただけだ。だが、それでも…
2番テープの再生が終わる音が響く中、静かに拝聴していた者達は言葉を失ってしまう。
長い沈黙が場を支配していたが、鶴乃の父親の方が先に口を開く。
「鶴乃…俺、明日店を臨時休業するわ」
「えっ…?」
「差出人の住所の家に行く…もっと知る必要があるんだよ!」
「ど、どうしたのお父さん!?そんな興奮して…?」
「20年前の取材だって言ってたろ?丁度その時期なんだよ…爺ちゃんが不審死した年なんだ」
次の日、2人は差出人の住所である神浜郊外の都市である宝崎市に赴く。
「酷い……何よ、この家…?」
「酷い嫌がらせの痕ばかりだ…」
「こんな嫌がらせばかり浴びせられたら…私なら耐えられなくて死んじゃうよ…」
「あのジャーナリストは…どんな地獄を生きてきたんだ…?」
「これが…日本の闇を追いかけた人達の末路…?」
チャイムを鳴らせば酷くやつれきった親族が出てくる。
その人物に案内され、ジャーナリストが入院している病院へと向かう。
病室に入れば自力で呼吸すら出来ない老人がベットで寝ている。
2人は死を間近にした老人の元に立ち、自分達が何者なのかを告げる。
浅い呼吸を繰り返す老人だったが、彼らのために最後の力を振り絞るかのように語り出す。
「教えてくれ!親父は風邪で病院に行った…なのに突然病院で昏睡状態になって死んだんだ!」
「ハァー…ハァー…」
「糖尿病ではなかったはずなのに…死因は糖尿病の合併症による心筋梗塞扱いされた!」
「…インスリン注射を…打ち込まれた可能性が…大きい…」
「インスリン…?それってたしか、糖尿病に使われる薬だよね…?」
「ハァー…ハァー…糖尿病で使われるが…健康な人物に使えば昏睡状態に陥り…死亡する…」
「バカな!?それじゃまるで…副作用を利用した暗殺みたいじゃないか!!」
「そんな…じゃあ…私のお爺ちゃんは…糖尿病じゃないのにインスリン注射されて…!?」
「くそっ……病院の医者もグルだったのか!」
「全てが…ハァー…ハァー…敵だ。隣人も…公務員でさえ敵に回る…奴らに逆らえばな…」
「親父が死んだ頃からだった!由比財閥が関係先から切り捨てられて崩壊していったのは!」
「これが日本の闇だ…。私も抗ったが…ジャーナリストとしての職も失った…」
彼の無念の言葉を聞いた2人は顔を俯けていく中、どんな仕打ちを浴びたのか聞かされる。
隣人だと思った人物から毎日嫌がらせを受ける苦しみ。
引っ越しを繰り返しても逃げられない苦しみ。
何よりの苦しみだったのは正義を貫いたがために犠牲となった家族の苦しみであろう。
「私のお爺ちゃんは…そんな苦しみを抱えながら…暗殺されちゃったの…?」
「死にかけの老人が知らなければ幸福だった事実を明るみにしたせいで…苦しめて…ゴホッ!」
呼吸に苦しむ老人を見る2人はこれ以上の追究は命に関わると判断したため感謝の言葉を送る。
「本当に有難う…貴方のお陰で…お爺ちゃん達が誇れる事をしていたって知る事が出来たよ…」
「ああ…そうだな。有難う…辛い病状なのに、質問攻めにしてしまって…」
2人は病室を後にし、病院の廊下を歩いていた時に誰かを見つける。
「おいおい…病院には不釣り合いな奴が前から来るな…」
「うん…なんか、お父さん世代のロックンローラーな見た目をしてるね…」
「目を合わせるな、さっさとズラかろう」
ヘアワックスを使ってオールバックヘアーをキメる男の姿は古き良きロックスタイル。
ギターケースを持つサングラス男に対して2人は黙って横を通り超えていく。
ヘッドフォンから流れる大音量のハードロック曲を聞いていたせいか黙って通り過ぎていく。
その人物が向かった先とは先程訪れていた病室なのだ。
「よぉ、爺さん。もうすぐ死ぬってのによぉ…喋り過ぎじゃねーかい?」
「ハァー!ハァー!お、お前は…まさか…!!?」
ヘッドフォンを肩に下ろし、不気味な笑みを浮かべる男が死を宣告してくる。
「今までバイト共から痛めつけられたのに、まだ痛めつけられたいか?もう楽には死ねないぜ」
「お前はファントムソサエティであるイルミナティ共の一員か!?星の智慧を崇める者か!?」
「おうよ!冥土の土産だぜ…イカした名前を聞いときな」
ライダースジャケットのポケットからヘアブラシを取り出し、髪をさらにキメながらこう叫ぶ。
「俺様の名前は……キャロルJだ!!」
鶴乃と父親が病院の入口から出てきた時、異変が起きる。
「えっ……!?」
「なんだっ!!?」
突然の爆発音が響き、慌てて爆発現場らしき階を見上げれば絶句してしまう。
「うそ……やだよ……こんなのやだぁ!!?」
そこに見えたのはさっきまで訪れていた老人の病室が燃え上がっている光景なのだ。
そんな者達を屋上から見下ろすのは赤いギターを持つキャロルJと名乗った人物であろう。
「ヘヘヘ!宝崎市ってのはよぉ、伝統の火祭りが行われるって聞いたから…派手にキメたぜ!」
その手に持つギターからは緑に輝く感情エネルギーであるマグネタイトが噴き出す。
ギターのチューニングを合わせる部位であるペグの形をよく見れば封魔管。
ペグとして機能している封魔管の一つが締まりながら閉じていく光景が見えるはず。
「あの老人と接触していた連中は由比財閥の関係者か?好奇心は猫をも殺すって諺があるぜ」
悪魔召喚ギターをケースに入れて背中に背負いながらポケットに手を突っ込む。
「それに、だ…。あの横を通り過ぎていった高校生ぐらいの女…魔法少女だったな」
それを聞いたギターケースに収められた悪魔達が騒ぎだし、ケースが振動し始める。
「お前ら、あいつのソウルジェムを喰いたいか?あいつらの動き次第でご馳走にありつけるぜ」
ポケットから取り出したヘアブラシでさらに頭髪をキメたダークサマナーがこう叫ぶ。
「俺様の名はキャロルJ!!いつか会える日を楽しみにしておけよ!」
――この街で出会えた事にちなんで…お前も火祭りにしてやるぜ!!
――――――――――――――――――――――――――――――――
2019年の5月が終わろうとしている時期にまで移る。
「ハァ!ハァ!ハァ!!」
路地裏を闇雲に走り回る男の影が移動していく。
40歳程度の見た目だが年齢を感じさせない身体能力を用いて何かから逃げているようだ。
「ウラベ様!!こちらですわ!」
浮遊しながら先導する女悪魔が急かしてくる。
金髪の妖艶な女悪魔であり、黒いドレスとカチューシャを身につけ、手には知恵の輪を持つ。
「遅れてますわよ!このままでは追っ手に追いつかれます!」
後ろを振り向きながら主人であるサマナーを案じるが息も切れてきている。
「ハァ!ハァ!…たくっ!俺ももう歳なんだぞ…スタミナが持たねぇ!」
「ウラベ様はまだお若いですわ!私の年齢に比べたら…ね?」
「ハハ…あんまり褒められてる気がしねぇよ…リャナンシー」
【リャナンシー】
アイルランドに伝わるという人間の愛を求める美しい女妖精。
愛を受け入れた者に取り憑き、基本的にその姿を取り憑いた者以外には見せないという。
恋人となった者は強い才能の閃きや霊感を得る代わりにその寿命が縮むと言われる。
ケルトの詩人達が若死にするのはリャナンシーの恋人になるからだと言われていた。
「BARマダムの女主人が他の街で経営している店に逃げ込めば、奴らも追ってはこれません!」
「神浜市と呼ばれる街の南にあるホテル業魔殿の屋上フロアだったよな…?」
「車を使って逃げられれば良かったのですが…」
後ろを振り返り、忌々しい空を見上げれば追手が迫っている。
「オレサマ、オマエ、マルカジリ!!」
【ハーピー】
かすめ取る者と呼ばれるギリシャ神話における風の精。
弱い者虐めが好きであり、他人の食事を食い散らかす意地汚い悪魔である。
ガイアの息子タウマスとオケアノスの娘エレクトラの子であり、虹の女神イーリスの姉妹。
神々の系譜に連なる悪魔達でもあったようだ。
空から迫りくる悪魔の猛爪に対し、ウラベの召喚悪魔が空に飛翔しながら迎撃してくれる。
「ここは私が!!」
知恵の輪を持つ片手を構えながら腕を振るう。
「ゲアッ!!?」
一迅のカマイタチが発生し、魔法の『ザン』によってハーピーの片翼が切断される。
地面に急降下して倒れ込む悪魔に対し、立ち止まったウラベも迫っていく。
「弾の無駄遣いにしかならねぇな…」
黒のスーツパンツの腰に備わるホルスターに手を伸ばしながら銃を抜く。
「ママ、待テ!!
「ああ、お前みたいな醜い悪魔連中なら…特にな」
構えたリボルバー銃はS&WのM500と呼ばれる回転式大型拳銃であろう。
「アギャーッ!!!」
500口径の拳銃弾で後頭部を撃ち抜かれ、感情エネルギーを撒き散らしながら消滅する。
「……ウラベ様」
「分かっている、こいつらを召喚しているサマナーだな」
フレームからシリンダーを横に振り出し、通常弾を抜いて片手に収める。
ポケットに弾を収納してフライトジャケットから別の弾を取り出している時に追手が現れる。
「よぉ、ウラベ。久しぶりじゃねぇか」
黒スーツとサングラスを身に纏う短髪の男が歩み寄りながら不敵な笑みを浮かべてくる。
「急ぎ足で何処に行く?俺の悪魔と、ちょいと遊んでみるか?」
右手に持たれているのはサマナー達が利用する銀の封魔管であろう。
「…フィネガンの飼い犬風情が、デカい口を利きやがって」
「葛葉一族に引けを取らない歴史を持つ家の出身だか知らねぇが…気に入らなかったんだよ」
「それは良かった。お前のような三下サマナーに好かれたくはねーよ」
「余裕でいられるのは身軽になったからか?組織を逃げ出して家に帰った感想はどうだった?」
それを聞いたウラベの拳が握り込まれながら震えていく。
「組織を裏切った者は口封じされるのさ、親族もろともな」
「昔から変わらねぇな…イルミナティ共はよ。やってる事はマフィアと変わらねぇ…」
「ユダヤ幇である金融マフィアであり、
――テメェも嫁さんと子供を追いかけながら死ぬんだな!!
先に仕掛けたのはダークサマナーであり、召喚されたのは逃亡犯を食い殺す猛犬である。
【ヘルハウンド】
イギリスで伝承される遭遇した者に死をもたらす冥府の犬。
子牛程の大きさ、闇色の毛と角、大きく燃え盛る目、鼻からも火を吹くと言われる。
犬は墓場で死体を漁り、死肉を食べる為ケルベロスやアヌビスのように死を司る神と呼ばれる。
ヘルハウンドは猟犬としての性質が強く、死の前兆として現れる存在。
キリスト教時代には悪魔の化身として神を冒涜したりする者達を罰したという。
「俺の手札で最強のカードだぁ!焼き尽くして食い殺せぇ!!」
「ウラベ様!!」
「任せろ」
シリンダーのチャンバー内に銀の弾を装填した後、チャンバーをフレームに戻す。
薬莢に描かれた印とは悪魔を封印する五芒星であろう。
「悪魔召喚のやり方はな…こういうやり方もあるんだよ!!」
引き金が引かれて銃弾が放たれる。
だが発砲から噴き出したのは煙ではなく感情エネルギーなのだ。
<<ギャァァァァ!!!>>
感情エネルギーが飛翔しながら実体化し、悪魔の形となっていく。
【ガキ】
仏教における十界において苦しみを味わうという六界の一つ、餓鬼界に住まう者達。
生前果てしない食欲をはじめとした欲望に囚われていた者が転生するのだという。
彼らは常に飢餓感に苦しみ、やせ細って腹だけが膨れ上がっている。
彼らは時折現世に表れては人に取り憑く。
その人は豹変したように物を貪り喰らったり、物事に意地汚くなるのだと言われた。
「オオオオォォォーーーーン!!!」
迎え討つヘルハウンドが燃え上がる牙を剥き出しにする。
迎え撃つのは弾丸の如く射出されたガキであり、体が光り輝く。
<<死ニタクネェェェーーッッ!!!>>
この一撃は悪魔の特攻でもある『自爆』魔法と酷似するだろう。
ガキの体が物理的にヘルハウンドに接触した瞬間、大爆発する。
火炎を無効化するヘルハウンドだが、爆発によって纏う火炎と肉体が吹き飛ばされる。
爆発が収まった光景の中にはヘルハウンドの姿はなかったようだ。
「そ…そんな馬鹿な!?テメェ…どうやって悪魔を召喚したぁ!?」
「貴様と同じく銀の管に封印した悪魔を放っただけさ」
「なんだとぉ!?それじゃあ…お前が利用している封魔管は!?」
「銀の弾丸だよ。火薬の代わりに悪魔を詰めている…そして、それは連続して放てる」
さらに引き金が引き絞られていく。
「ま…待てよぉーーーっ!!?」
「嫌だね」
放たれる二撃目の弾丸となる悪魔が逃げようとするダークサマナーごと大爆発していく。
「管が小さい分、詰めれる悪魔は低級に限られる。瞬間火力を高めるために自爆させるのさ」
黒い中折ハット帽を目深く被り直し、銃を腰のホルスターに仕舞う。
「ご無事で何よりです…ですが、後続も迫ってきています」
「神浜に急ぐぞ。こいつらが追ってきているのなら…フィネガンも必ず来る」
急ぎ足で神浜まで歩みを進めて行く元ダークサマナーの逃走劇はまだ明けないのであった。
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東京から神浜方面に向けて走るのは一台の高級セダンであり、車内には2人の人影がいる。
頭にアルファベットが刻まれたターバンを巻き、車を運転する褐色肌の男性。
助手席に座るのはサングラスをかけてオールバックにした髭顔の男性であろう。
黒いスーツ上着の脇腹部分が膨らんでおり、ショルダーホルスターに銃を差し込んでいる。
「そうか…捜索メンバーは殆どが返り討ちとなったか」
今時珍しいガラケーを使い、追撃チームからの報告を聞き終えた者が電話を切る。
「…どうやら、ウラベの決意は固いようですね」
「組織でも名のある奴だったが…所詮は人の子だ。人としての感情を捨てきれない」
「金に困らない奴は勝手な事ばかり出来る…その選択のせいで家族が殺される…何が父親だ」
「フッ、お前はウラベに対して思うところがあるようだな?」
「私にとって家族の生活こそが全てです。家族が安心して暮らせる金の為なら…私は…」
「それでこそプロフェッショナルだ。私情を持ち込まず良し悪しに関わらず仕事を成し遂げる」
「確かな仕事で信頼を勝ち取れてこそ私達はビジネスが出来る。今回の仕事にも迷いはない」
「お前の笛の調べ、聞かせてもらおう。笛吹き蛇使いと馬鹿にされる事がない活躍を期待する」
「その言葉、必ず証明する。我が家族の為に……」
「そろそろ神浜市だ。奴は南凪区に向かっている、先回りをするぞ…ユダ」
「あのウラベと互角の実力、久しぶりに見させてもらいますよ…フィネガン」
車は高速道路を下りながら栄区方面に進む中、栄区では未だに追跡劇が繰り広げられている。
「ギャァァーーッッ!!」
追撃悪魔の燃え上がる死体を走り超えながら目的地に進むウラベとリャナンシー達。
「チッ…実力は無い連中だが…相手をすればするほど弾数が少なくなっちまう…」
「後もう少しで南凪区と呼ばれるエリアです、それまではご辛抱下さいまし」
「せめてこの街の魔法少女共と出くわさない事を祈るぜ…面倒事は連中だけで十分だ」
消耗していくが前方からは追撃の悪魔が迫りくる。
「弾を節約する!迂回出来るルートを空から見つけてくれ!」
「了解ですわ!」
リャナンシーが上空まで飛んでいき、彼女のナビゲートを頼りにしながら路地裏を突き進む。
しかし誘導を仕掛けられている事までは見抜けなかったようだ。
「なっ!?異界だとぉ!」
路地の広場に突如として異界結界が広がりながら閉じ込められる。
「誘導されてたってわけかよ…」
「申し訳ありません!ダークサマナー達の気配を感じ取れませんでしたわ…」
「奴らも魔力を隠す術ぐらい心得ているか…出てこいよ、いるんだろ?」
夜中の通路を歩く革靴の音が聞こえてくる。
「貴様…ついに現れやがったか!!」
上着を脱ぎ、白シャツの上からショルダーホルスターを纏うのは先程のサングラス男である。
「組織から逃げ出した裏切り者が生き残れると思ったか?」
「くっ……フィネガン!」
「かつてはその名を恐れられたお前も…今は逃げ回る野良犬のザマか?」
ポケットから葉巻を取り出しながら火を点ける。
紫煙を燻らせながら相手をどう殺すか品定めをするかの如き余裕の態度であろう。
「なぜ組織を裏切ったのか知らんが…フッ、とんだ笑い話だな」
「フン、そういう貴様は相変わらずサマナーの力を悪しき道にしか生かせんようだな?」
「フフフフ、人をけなせる立場でもあるまい。家族を殺されて怖気づいたか?」
「貴様!!!」
「戦うつもりか?私の力を知らぬわけでもあるまいに…」
(悪魔の銃弾残数は…残り3発。通常弾で勝てる相手じゃねぇ…)
「ウラベ様!私もお供をいたしております!」
「そうだったな…お前と2人でなら…こいつに勝てるさ!」
「そうかな?言っておくが…この異界を形成しているのは私ではない」
「何っ!?」
サックスの音色が背後から聞こえてくる。
五芒星が刻まれたサックスのベル穴から噴き上がるのは感情エネルギーであろう。
「ユダ…お前まで来ていたか…」
「久しいな、ウラベ。そして見損なったぞ」
青いスーツ姿の上から白いマントを纏うユダ。
白マントで隠す腰には様々な笛が備えられており、そのどれもが五芒星が刻まれた品である。
これらの数々が彼が用いる封魔管なのだろう。
「私の家族のため…貴様には死んでもらう」
サックスから噴き上がる感情エネルギーのマグネタイトが形をなしていく。
ユダの頭上に雷雲が生み出され、そこから表れるのは雷を纏う精霊なのだ。
<<サマナーさんよ、粋な命令をくれるかい?>>
【マルト】
叙事詩リグ・ヴェーダに伝えられる嵐と雷の精霊。
暴風神ルドラの息子達であり、ヴェーダ時代におけるインドの暴風雨が神格化された存在。
雷神にして天候神インドラの随伴者であり、普段は陽気な若者である。
彼らは完全武装で雲に乗って共に天空を駆けたという。
宿敵ヴリトラの従者達に対して獣のような咆哮で恐怖に陥れた悪魔であった。
「この男と女悪魔を殺せ」
「景気がいいな~サマナーさんよぉ!!俺の雷槌でぶっ殺してやるぜぇ!!」
「ユダ!いい加減目を覚ませ!!汚れた金で家族が養われて…喜ぶってのかよ!!」
「黙れ!!ネパールという後進国で大家族のまま暮らす生活の苦しさが…お前に分かるか!?」
「家族を支えたいなら…もっと他の道もあっただろうが!」
「私のような者が大金を稼ぐには…この道しかない!」
「くそ…馬鹿野郎が!!」
「私もいるのを忘れたか?」
黒スーツズボンのベルトには様々なメリケンサックが吊り下げられている。
掌底で支える金属部位は封魔管である銀の管を加工し、一体化させた悪魔召喚道具である武器。
二つのメリケンサックを皮手袋の上からはめ込み、両拳を打ち鳴らす。
「…リャナンシー、後ろの悪魔を頼む」
「ウ…ウラベ様は…?」
「目の前の敵を倒す以外に道はないぜ…」
「……心得ました、ご武運を!!」
リャナンシーは飛翔しながら上空のマルトを迎え討つ。
「面白え!!嵐の精霊である俺様に対して…空で戦うとはなぁ!」
雷雲から上半身を伸ばすマルトは両手に持つ武器に雷を纏わせながら彼女に襲いかかる。
「ユダ、手を出すな。せっかくのウラベとの対決だ…フェアーにいこうぜ」
「承知した」
「チッ…多勢で囲んでおきながら、妙に勝負事に拘る。昔からお前のそういう部分がよぉ…」
ウラベは腰のホルスターの銃に手を伸ばす。
フィネガンは両拳をボクシングスタイルで構えてくる。
――ムカついていたんだよぉ!!
――――――――――――――――――――――――――――――――
「リャナンシーを召喚しているからにはウラベ…お前は独りで私と戦うという事だ!」
「だからどうしたぁ!!」
先に引き金が引かれ、悪魔銃弾が銃口から発射される。
だがそれよりも早く体の軸をずらし、悪魔銃弾を回避する身体能力を見せるフィネガン。
銃弾悪魔は横を通過し、後方で大爆発を起こす。
「チッ!相変わらず素早い反応しやがって……流石は元ボクサーだぜ」
「悪魔銃弾速度に対応出来なくとも、銃という武器の欠点がある限り追いつける」
素早く踏み込み、一気に距離を詰めてくる。
「他の悪魔を召喚出来ない貴様ならば私も悪魔召喚などする必要はない!拳で殴り殺す!!」
「何処までも気持ち悪いコダワリを見せやがる!!」
腰のホルスターに銃を差し込み、自らも格闘の構えをしながら迎え撃つ。
『ショートジャブ』を左手で捌き続け、右フックを仕掛けるが腰を落とすダッキング回避。
体勢を下げながらのボディブローがウラベに決まり、たまらず後ずさるが猛攻は止まらない。
(コンバッテッド・サウスポーの構えか!両拳どちらでも仕留める気でいやがる!)
引き絞る左ストレートだけでなく、右フックにも警戒しながらの立ち回りを行っていく。
「どうしたウラベ?打ってこいよ、家族を殺されて悔しくないのか?」
構えを解いたフィネガンは両拳を下げながら挑発してくる。
「貴様ァァァァァーーッッ!!」
家族の凄惨な死の現場が頭を過り、激情のまま拳を振るう。
サイドステップ、バックステップ、ダッキングと相手の攻撃に合わせてフィネガンは避ける。
「うおおおっ!!!」
左追い突きから右直突きを放つ動きに対し、頭を左右に振るヘッドスリップ回避を行う。
左肘を打ち込むのに合わせてダッキング避け。
避けると同時にボディブローを打ち込み、怯んだ相手に引き絞った左ストレートを放つ。
「ガハッ!!」
顔面に直撃したウラベは口から血と折れた歯が撒き散らされながら倒れ込む。
「ボクシングならレフェリーが止めに入るが…ここは戦場だ」
跳躍して地面を砕く程の追い打ちを仕掛けるが、咄嗟に転げながら回避する。
倒れ込んだまま銃を抜き、相手に構える。
「くたばれっ!!」
引き金を引く頃にはフィネガンの回避運動は終わっており、弾丸悪魔が素通りしていく。
「銃を構える、狙う、撃つ。これだけの動作があれば近距離戦において避ける事など容易い」
「チッ…お前はクロースクォーターズ・コンバットじゃ、右に出る奴がいなかったな…」
立ち上がろうとするが脳が激しく揺さぶられたのか上手く立ち上がれない。
俯いた顔が前を向いた瞬間、顎は蹴り上げられている。
「同じシチュエーションで戦ってやっているのに、なんだその体たらくは?」
両拳など必要ないと判断したフェイネガンは左のメリケンサックを外す。
「守るべき者達が殺され、いなくなったら…生きているのも嫌になるか?」
倒れ込んだウラベを左腕で掴み上げ、さらに右拳で殴り続ける。
「組織内で私と肩を並べた実力はどうした?あの力は帰りを待つ者達がいたから出せたのか?」
「うる…せぇ…!!」
為す術もないウラベに対し、フィネガンの指示通り手を出さないユダは心の中でこう思う。
(帰りを待つ愛すべき家族がいるからこそ力が出せる。私もそうだが…だからこそお前は…)
複雑な感情を曇らせながらも上空の様子に目を向ける。
上空の悪魔同士の対決は既に勝敗が決しようとしているようだ。
「じゃあな!生き恥は晒させない主義なんだよ!!」
雷を纏う矢を放ち、リャナンシーの風魔法を貫きながら彼女の腹部に命中させる。
「がっ……!!」
体勢を崩した彼女が真っ逆さまに地面に落下して激突してしまう。
「上の方も終わったようだ。そろそろコチラも終わらせてやろう」
ふらつきながらも立ち上がるウラベに対し、足幅を広げていたボクシングの構えを変える。
足幅を狭め、パンチの安定の為に下に向けた重心を上に持ち上げる構えはキックボクシングだ。
「俺は…お前らのせいで…家族を亡くした…」
殴られながらも右手に握り続けたリボルバー銃が強く握り締められていく。
「お前も後を追わせてやる!!」
踏み込んで迫りくる『回し蹴り』の一撃に対し、左腕のガードごと蹴り飛ばされてしまう。
しかし蹴り飛ばされながら浮遊する彼の体勢が変わっていく。
右手の照準がゆっくりと憎き存在に向けられていく。
「だからこそ俺は……お前達に復讐してやる!!」
回し蹴りによって片足立ちとなり、フットワークに移れない相手に放たれる悪魔の銃弾。
「チッ!!?」
大爆発が起こり、瓦礫と煙が噴き上がる。
「ハァ!ハァ!…最後の一発だ。頼むからくたばれよ…」
「フィネガンッ!!?」
声を荒げたユダが駆け寄ろうとするが、爆炎の中からフィネガンの声が響いてくる。
<<貴様…お前に合わせた正々堂々の勝負に対し…水を差しおって>>
煙の向こう側から衝撃波が発生し、瓦礫と煙が吹き飛ばされる。
右手に構えたメリケンサックの持ち手部位にある封魔管が開かれている。
感情エネルギーを放出し、現れた存在とは死神の類であろう。
<<我を呼ぶ声に応じ、ここに見参す…>>
【ケルヌンノス】
名前は角を持つ者を意味するケルト神話の冥界神の一人にして動物の王。
頭に牡鹿か牡山羊の角を生やしており、あぐらをかいて座った姿で表現される。
角は生殖を象徴しているため、生殖等の豊穣神としての性格を持つとも言われる存在。
頭に角を持つケルヌンノスのイメージは中世ヨーロッパのサバトが由来だという。
悪魔レオナルドや現代ウィッカの復興異教主義に大きく影響を与えていた。
「ハッハッハッ!愉快愉快…この程度の自爆攻撃で我を倒せると思ったか?」
浮かび上がる巨大鹿の頭蓋骨の上であぐらをかくのは大きな二本角を持つ巨大な赤き悪魔。
「くそっ…最後の一発だったのに…」
倒れ込む上半身を持ち上げながら横に顔を向けるそこには倒れ込むリャナンシーがいる。
「ウラベ…様…私を封魔管に戻し…他の仲魔達をお使い下さい……」
「そうはいかん。フェアーな勝負を貴様が捨てた以上、もはや容赦はせん」
空中に浮かぶケルヌンノスの下を歩くフィネガンの右拳が放電し始める。
ユダの頭上にはマルトが引き絞る雷槌の弓矢まで存在している。
もはや正々堂々の勝負は終わったと判断したユダは加勢に加わろうとしているようだ。
「フッ…ここまでかもな。お前と一緒に死ねるなら…悪くねぇ…」
「ウラベ…さま……」
「すまない…そして、今までありがとう」
振り下ろす雷槌の如き拳が迫り、マヌスも雷槌の矢を同時に放つ。
もはや死は確定したかに見えた、その時だった。
「……なんだ?」
死を覚悟したウラベが目を開けて見た光景とは自分を守ってくれる魔法陣の光である。
「な…馬鹿な!?この魔方陣は…9芒星だと!?」
それは邪悪な悪魔を打ち払うイエス・キリストの印であり、弟子達に教えた153の魚の数字。
光を司る数字で描かれし魔法陣によって悪魔達の力を消し去った存在が表れる。
「…丁度いい連中を見つけました。彼女達の調整実験にピッタリのサマナー達です」
学者のような姿をし、白く美しい長髪をした糸目女性がウラベの前に立っている。
その右手にはヘルメスの杖を持ち、伸ばしたサイドヘアーも編み込まれたヘルメスヘアー。
左手の中指にあったはずのソウルジェムを悪魔に奪われた不老不死者なのだ。
「お前は…まさか…」
後ろを振り向き、左手で眼鏡のフレームブリッジを押し上げながら微笑む女がこう告げる。
「この獲物達…私に譲ってもらいますよ?」
「一瞬で現れたのか…まさか、転送魔法!?」
「悪魔の力を封印するこれ程の防御魔法陣を構築出来る術者など…世界でも数える程だ!!」
「あのヘルメスの杖…それにこの魔力は…魔法少女なのか!?」
ダークサマナー達に対して振り向いた彼女が優雅にカーテシー礼を行った後、細目が開く。
「初めまして、皆さん」
――私の名は…ペレネル・フラメルと申します。
読んで頂き、有難うございます。