人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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104話 ジャンヌ・ダルク

デビルサマナー同士の戦いに突然現れた来訪者とは魔法少女である。

 

そして彼女は歴史に名を刻んだ伝説の錬金術師なのだ。

 

その実力を目の前で見せつけられたダークサマナー達も動揺を隠せない。

 

「ペレネル・フラメル…お前があの…?」

 

「中世時代から生き続ける伝説の錬金術師であり…魔法少女…」

 

「実在していたとはな…」

 

「魔法少女…そう呼ばれる年齢では、もうないんですけどね…フフ」

 

不敵な笑みを見せつける伝説の魔法少女。

 

しかし細目に油断はなく、フィネガンに召喚された悪魔を興味深げに見つめてくる。

 

「ケルヌンノス…これ程の悪魔を召喚出来るサマナーですか」

 

「私の悪魔を知っているか。錬金術だけでなく、悪魔にも精通しておられるようだ」

 

「私独りでは…流石に分が悪い」

 

「おい、アンタ!強がってないで、俺も協力させろよ!」

 

ペレネルの背後には立ち上がっていくウラベがいる。

 

右手には懐から取り出した封魔管が握られており、傷ついたリャナンシーを回収する。

 

「結構です。それでは彼女達の調整データが収集できません」

 

「彼女達…?誰かは知らないが、相手はフィネガンにユダだぞ!!」

 

「黄金の暁会所属のサマナーの中でも実力者達だと聞いています。だからこそです」

 

「フッ…私達も舐められたものだな」

 

フィネガンはメリケンサックを嵌め直す。

 

ケルヌンノスの視線は来訪者の地面に向けられており、人外の人影に念話を送ってくる。

 

<汝の姿を見るのも…久しいな>

 

<フッ…魔界であった時以来か>

 

<その者が…お前が気に入ったという?>

 

<そうだ。私の玩具だ>

 

<では…>

 

<この者に死は存在しない。思う存分痛めつけてやれ>

 

<…よかろう>

 

悪魔同士の念話も終わった後、ケルヌンノスが動く。

 

「人の子如きが、神である我に抗うつもりか?」

 

「冥界神であろうとも、人の力を侮らない事ですね」

 

「それが貴様の判断か?笑止!!」

 

「私とケルヌンノスを相手にして、傷ついたウラベと2人だけで何処までやれるかな?」

 

「2人だけ?フフ…違うわね。4人ですよ」

 

「何っ!?」

 

刹那、闇夜に浮かぶ地面の影が爆ぜる。

 

「こ、これは!?」

 

ユダの足元の影から表れたのは無数の拘束具であろう。

 

「うおおおっ!!?」

 

「な、なんだコリャーッ!?」

 

まるで影で編み込まれた道具の数々であり、鎖のように絡みついてユダを拘束する。

 

頭上に浮かんでいたマルトまで地面に引きずり倒されたようだ。

 

「影を操る魔法だと…?」

 

フィネガンは跳躍し、ケルヌンノスが乗った巨大鹿の頭蓋骨に飛び移っている。

 

迫りくる影の拘束具に対し、悪魔の風魔法を用いて全て切断していったようだ。

 

「こ、こいつは一体……な、なんだ!?」

 

突然ウラベが自分の影に飲み込まれる。

 

「その人を遠くに逃して上げなさい」

 

ペレネルはヘルメスの杖を振りかざす。

 

彼女の横に転送魔法陣が生み出され、夜の闇を眩い光が切り裂いていく。

 

その光景をサングラス越しに見つめるフィネガンの目が大きく見開いていく。

 

「ば…馬鹿な…あの姿は!!?」

 

聞こえてくるのは甲冑の靴音。

 

纏うのは漆黒の鎧であり、風に靡くのは彼女が救った国の国旗。

 

それにセミロングヘアの金髪と伸びた跳ね毛も特徴的だろう。

 

右手にはかつての百年戦争時代で振るわれた彼女の剣が握り込まれている。

 

背丈はさほど大きくはない少女の姿をした黒騎士が表れるのだ。

 

「フランスの英雄…いや、違う!その病的な白い肌…まさか!?」

 

「…やれるわね、タルト?」

 

ペレネルが所有していた絵画の中には救国の英雄を描いた肖像画が飾られている。

 

しかしこの少女は肖像画の面影は残すものの明らかに違う姿をしているのだ。

 

「…はい、マスター」

 

【ジャンヌ・ダルク】

 

15世紀前半に活躍したフランスの国民的英雄であり、オルレアンの乙女と呼ばれた魔法少女。

 

百年戦争の際にオルレアン解放に貢献し、シャルル七世をランスで戴冠させた存在である。

 

フランスの勝利に寄与したとされる歴史に名を残した人物であろう。

 

後にコンピエーニュの戦いで捕虜となり、同じキリスト教徒による宗教裁判を受ける。

 

彼女は魔女だと断罪され、ルーアンで火炙りの刑となり命を落とす。

 

タルトとは文盲な彼女が書いた書き間違いの名前であろう。

 

それでも彼女は周りからはタルトと呼ばれて慕われ続けた英雄となった。

 

「魔法少女などではないな…貴様?病的な白い肌…そして赤い瞳…」

 

「……………」

 

「貴様の正体は…」

 

「…いきます」

 

大地が爆ぜる程の跳躍をタルトは行い、フィネガン達は迎え撃つ。

 

「面白い!!」

 

先に迎え撃つのは冥府の神であり、タルトと呼ばれた少女の斬撃に対して頭突きで刃を止める。

 

「くっ!!」

 

フィネガンは鍔迫り合いの衝撃波を浴びた事で吹き飛び、地上に叩きつけられたようだ。

 

「汝…魔法少女ではないな?虚ろな瞳…そして虚心…」

 

「……………」

 

「汝は…創られし悪魔だな?」

 

「……!!」

 

刃が弾かれ、首を振る牛角の殴打が迫りくる。

 

ガードごと弾かれてしまい、建物の壁を突き破りながら飛ばされていく。

 

「…大した防御力だ」

 

瓦礫を押し退けながら歩いてくる黒騎士少女の驚異的な物理耐性によって傷は軽微。

 

敵を認めたのか、あぐら姿勢から立ち上がった悪魔が浮遊する頭蓋から飛び降りてくる。

 

その真紅の巨体の全長は10メートルを超え、黒騎士少女など踏み潰せる程の巨体であろう。

 

タルトは正眼に剣を構えながら迎え撃つ姿勢であり、ケルヌンノスが仕掛けてくる。

 

「ゆくぞぉ!!」

 

巨体が動き、一足飛びで叩きつける巨大な拳を避けながら剣から迸る魔力で足首を狙う。

 

「チッ!」

 

悪魔の暴れまくりを跳躍を繰り返しながら避けていき、足を狙い続ける。

 

倒れ込めば渾身の一撃が首を跳ねるだろう。

 

「何という性能だ…やはり貴女は黄金の暁会に来るべき人であった…」

 

「…イルミナティの魔術結社も私と同じく()()を研究していたようね?」

 

【造魔】

 

ドリーカドモンと呼ばれる造魔の素を使い、悪魔合体を用いて生み出される。

 

モチーフはユダヤのゴーレムやフランケンシュタイン博士の人造人間等に由来している。

 

合体条件次第では()()()()()といった特殊な仲魔の依り代にもなると言われるようだ。

 

性格は虚心であり、感情を持たない部分はゴーレムと酷似している。

 

神の摂理に逆らい生み出された人造的な存在。

 

だからこそ人の意思を大きく反映させたものに育ち得る可能性を秘めていた。

 

「こんな事ならば、対造魔用の焼却弾を持ち込むべきだったな」

 

「怖い連中ね。そこまで造魔研究が進んでいたなんて」

 

「だが、頼りの造魔が隣にいない今の貴女ならば…」

 

「そうかしら?」

 

街灯の影から突然飛来してきたのは影の矢である。

 

「ぬぅっ!?」

 

咄嗟のダッキング回避をしたフィネガンは狙撃してきた位置に顔を向けていく。

 

そこに立つのは黒い外套を纏う少女の姿なのだ。

 

「…ユダを拘束し、ウラベを逃した造魔は…貴様か」

 

黒い長髪と黒いミニスカートの魔法少女衣装には4本のダガーらしき武器が備わる。

 

特徴的なのは黒い外套に描かれた紋章であろう。

 

「その紋章…サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のフレスコ画で見たな」

 

「…マスター、指示を」

 

「リズ、障害を排除なさい」

 

Ricevuto.(了解)

 

腰の二本ダガーを抜いて構える造魔に対してフィネガンも構えながら迎え撃つ。

 

強大な悪魔とフランスの英雄との戦い。

 

ダークサマナーと影の造魔との戦い。

 

それを見守る事しか出来ないユダはこう考えているのだろう。

 

(ウラベを取り逃がし、我々は標的は失った。それでいて、このイレギュラーか…)

 

召喚したマルトは封魔管のサックス内部へと逃れている。

 

力を振り絞りながら腰のポケットから五芒星が描かれたオカリナを取り出す。

 

右手で口に近づけ、オカリナに息を吹き込むのであった。

 

 

異界で暴れまわり、建物を次々と倒壊させる程の戦いが繰り広げられていく。

 

「ネズミのように逃げ回りながら戦うのがフランスの英雄か?」

 

「…………」

 

悪魔の挑発は虚心である造魔には効果を成さない。

 

下半身部位を傷つけはしたが強靭な肉体故に切断するに至っていない。

 

堅牢な悪魔を相手に使える手札は限られてくるだろう。

 

「我はケルトの獣神にして冥府の神。イングランドの地にて、我は汝を知った」

 

「…………?」

 

「汝はかつて魔法少女と呼ばれた存在として…生きていたそうだな?」

 

「…マスターからは、そう聞いています」

 

「汝はイングランドの魔法少女と戦い、激戦の果てに打ち倒した救国の魔法少女だ」

 

「…それが、私の素となった…タルトと呼ばれた存在の歴史…」

 

「あの錬金術師…どうやらその魔法少女の細胞を保管していたようだな」

 

「私はジャンヌ・ダルクの依代となった造魔です。彼女の姿をしていても、記憶はありません」

 

「我に縋り付き、ドルイドの生贄儀式を繰り返した魔法少女の事を語りたかったのだがな」

 

「その者は…?」

 

「ミヌゥとかいったな。お前に母親を滅ぼされ、生涯呪いを叫び続けた魔法少女であったぞ」

 

「……覚えていません」

 

「クックッ…あの猫女も浮かばれないな」

 

「私の知らない過去に興味はないです。そして、私はジャンヌ・ダルクと呼ばれても…」

 

「所詮はマガイモノか」

 

「……………」

 

「贋作にしては楽しめた。褒美をつかわそう」

 

浮遊しながらやってくる鹿の頭蓋骨の上にケルヌンノスは飛び移る。

 

鹿の二本角を両手で握りながら全身から魔力を放出していく。

 

「ミヌゥは母の復活と、汝の永遠の苦しみを叫び続けた。その願い、一つだけ叶えよう」

 

放たれようとする悪魔の力とは強大なる物理破壊魔法である『デスバウンド』であろう。

 

全力で放とうものなら神浜市規模の異界が消し飛んでしまうはず。

 

「…私はタルトであり、ジャンヌ・ダルク。マスターから与えられた名前であり…存在意義」

 

胸の前で剣を両手で握りしめる。

 

「かつてタルトが振るっていたクロヴィスの剣…これもまた、私に与えられた存在意義…」

 

全身から魔力が噴き上がり、辺りが眩い光に包まれる。

 

漆黒の騎士が放つ光と悪魔が放つ禍々しい光がぶつかり合う時がくる。

 

「なら、私は役割を果たします。それが…この世界に生まれた私の理由であるのなら」

 

光り輝く剣の姿が変わっていき、それはまるで旗槍の如き形と化す。

 

振るえば旗が槍に巻き付く形で螺旋を描く。

 

――A vaillans Drapeau riens impossible.(果敢なる旗にとって不可能なものなし)

 

悪魔は眼前の光を見つめながら恐れもせずに苦笑してくる。

 

「お前の光はかつてフランスに光をもたらした力ではないな?」

 

「……………」

 

「お前の放つ光は悪魔の光。消滅をもたらすメギドの光を用いた猿真似といったところか?」

 

虚心であるはずなのに彼女の表情が一瞬だが歪んでいるように見える。

 

(私は…やはり…)

 

「だが、メギドを扱える者ならば…容赦はいらんな!!」

 

互いが放つのは極限の一撃となろうだろうが、それに待ったをかける悪魔が現れる。

 

「そこまでです、ケルヌンノス様」

 

空から舞い降りてきた悪魔に視線を向ける悪魔と造魔。

 

現れたのは緑の肌と長髪を持ち、赤いドレスを纏う淑女のようだ。

 

「ユダと呼ばれる男の持ち駒か?邪魔立ては許さんぞ、シルキー」

 

【シルキー】

 

イギリス北部に伝わる女妖精である。

 

妖精と幽霊の中間的性質を持ち、人間で死後シルキーとなった者の伝承も語られる存在。

 

特定の家に棲み付き掃除や食事の支度等の家事を手伝ってくれる妖精として知られる。

 

大きな館に少人数で暮らしているような家庭には非常にありがたい妖精であろう。

 

家の中を動き回る際に絹のドレスの衣擦れの音が聞こえる為にシルキーと呼ばれた。

 

「此度は目的を失い、戦を継続させる理由はありません。フィネガン様達も撤退されました」

 

「フン、勝負事に拘るあの男にしては臆病風に吹かれたものだな」

 

「貴女も武器を納めなさい。いくらメギドの力を用いても、相手が相手です」

 

「……………」

 

「まぁいい、我を召喚する者が身を引いたのだ。ここは楽しみを先に預けよう」

 

放出した魔力を互いに納めていく。

 

「ジャンヌ・ダルクよ。汝はこの世界に生み出された者として…何を望む?」

 

「私の望み…?」

 

「汝は造魔だ。主人を満たす為にのみ存在するゴーレムだが…人と同じように生きている」

 

「私は…人のように生きている?」

 

「生きているのならば()()()()()()()()

 

「望みを持つとは…一体?」

 

「それは、他人から与えられるモノではない。汝自身が己に見出す生きる理由だ」

 

「私自身が…自分に見出す…生きる理由?」

 

「己の為に生きてこその悪魔だ。忘れるなよ」

 

消失するかのように消え去っていくケルヌンノス。

 

シルキーも空中で一礼をした後、同じく消え去っていくのだ。

 

「私は…マスターが生み出した造魔。でも、私は…私…は…」

 

虚心であるはずなのに心がざわつく感触に戸惑う表情を浮かべてしまう。

 

「言語プログラムも正常のようね。自然な日本語を喋れているわ」

 

主人の声に振り向くとペレネルとリズが近づいてくる。

 

リズは病的な色白い肌の所々に殴られた痣が浮かんでいるようだ。

 

「申し訳ありません、マスター。標的を取り逃しました」

 

「構いません。あの冥界神を相手に戦えただけでも貴女の調整は十分に合格点だと思うわ」

 

「タルト、肌に傷が見えるわ」

 

近づいてきたリズがハンカチを取り出しながらタルトの顔を拭く。

 

「リズ…貴女の方が傷が多いです」

 

「構わない。私の素となったホークウッドは傭兵一族出身……傷は傭兵の勲章よ」

 

「でも…貴女だって、女の子の造魔ですよ」

 

「私には感情がない。だから女の心もないから気にしていない」

 

頑ななリズに戸惑うタルトは主人に顔を向ける。

 

2人を見守りながら頷く主人も自分の目的を果たせたようだ。

 

「目的を果たせたことだし、今夜は帰りましょうか」

 

「あの中年男は南凪区の海沿いに置いてきたわ」

 

「それでいいわ。あの男も逃げおおせるでしょう」

 

「マスター…私は…」

 

「…言いたい事があるなら屋敷に帰ってから聞くわね」

 

転送魔法陣を開いたペレネル達の姿が消えていく。

 

それと同時に異界も消失し、元の神浜の光景が蘇っていくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ルーアンのヴィエ・マルシェ広場には大勢の民衆達の姿が立っている。

 

大勢の人間達が口々に叫ぶ光景が見えるだろう。

 

「この男装の魔女め!!お前は聖女なんかじゃない!!」

 

罵倒されながらも進むしかないのは拘束された人物である。

 

「よくも夫を殺したわね!!」

 

美しい髪は斬り裂かれ、男と見紛うような姿にされた少女は顔を俯けたままである。

 

「お父さんは出稼ぎで傭兵さんをしていただけなのに!!」

 

怒号が渦巻く中、少女は火刑にされようとしている。

 

「呪われろ!!この人殺し!!」

 

そこにはフランスの英雄としてもてはやされた少女の姿など何処にもないはず。

 

「返してくれぇ…戦場でお前が殺したあたしの息子を…返してくれぇ!!」

 

人殺しと罵倒されるべき加害者、それこそが今のこの少女の立場なのだ。

 

「早く!!急がなきゃ!!」

 

人混みを掻き分けながら走ってくる2人の少女がいる。

 

左手にはソウルジェム指輪が備わっていることから魔法少女仲間達であろう。

 

1431年5月30日こそ歴史に残るジャンヌ・ダルクが火刑に処された日の光景なのだ。

 

「あの広場ですわね!!」

 

仲間達が広場の中央で見たのは薪の上に備えられた高い柱に縛りつけられたジャンヌの姿。

 

イングランド兵達が処刑場を取り囲み、手を出す事は許されない。

 

「もう火が!!」

 

2人の前で燃え上がっていく火刑の薪。

 

ジャンヌ・ダルクは修道士に頼み込み、小さな十字架を掲げてもらいながら祈り始める。

 

「ゴホッ!!ゴホッ!!」

 

火刑の苦しみとは火傷よりも呼吸困難が辛い。

 

燃え上がる炎を吸い込めば呼吸器系が焼かれてしまい、息が出来ない。

 

彼女が魔法少女であるならば、この程度の拘束など突破出来るはず。

 

だが彼女はそれを行わずに滅びる道を選ぶようだ。

 

「タルト!!タルトォォォォォォーーッッ!!」

 

泣き叫ぶ仲間の声が聞こえたのか顔を大衆の中に向けていく。

 

「ゴホッ!!いいんです…」

 

「タルト…?」

 

「私は…このままでは、どんな災厄をこの世界にもたらすか…分かりません」

 

彼女はミヌゥの母親を倒した時に魔法少女を超えた英雄となったようだが弊害も生まれる。

 

魔法少女の仕組みが通用しなくなり、グリーフシードを使っても魔力回復出来ない。

 

完全なるイレギュラー存在と成り果てた彼女は新たなる災厄となりかねないのだ。

 

「せめて人として…魔法少女として終わらせるには…これしかないんです…」

 

「タルト…貴女という人は…」

 

大衆の中にはペレネルの姿とキューブと呼ばれた時代のキュウべぇもいる。

 

「自らを犠牲にしても、自分が内包する魔女の可能性を消し去る…」

 

「理解に苦しむよ。彼女にとっては最悪の結末だろうに」

 

「それでも貴方はタルトの決意を止めようとはしなかった」

 

「……………」

 

「彼女が大魔女になる。その方が好都合であったにも関わらずね」

 

「深い意味はないよ、タルトは今までよくやってくれた。だから彼女の望みに従ったのさ」

 

「…どういう風の吹き回しかしら?」

 

「君達で言えば、感謝のお礼とでもいうのかい?」

 

「それを祈りというのよ。愛情や感謝など、様々なものに対して抱く思いよ」

 

「少し足りないんじゃないかな?」

 

「えっ?」

 

「君には聞こえないのかい?人間達の怒りと悲しみの声が?」

 

「そ…それは……」

 

「ここはルーアン、イングランド占領の地。百年戦争は傭兵戦争ともいえる代物だったね」

 

「…確かに、この地からも多くの出稼ぎ傭兵が生まれた事でしょう」

 

「それだけじゃない、彼女は魔法少女でありながらも人間の戦争に加担した」

 

「……その通りです」

 

「一体彼女はどれだけの人間に悲しみと絶望を撒き散らしたんだい?」

 

「戦争だから仕方がありません」

 

「それだけで済ませられる程、人間の心は冷たいまでに無関心なものなのかい?」

 

人間の祈りという様々な尊い感情を語ったペレネルは言い返せずに黙り込む。

 

「感謝すべき者、愛すべき者達が戦争で奪われたのなら…生まれる感情があるだろう?」

 

――怒り、悲しみ、慟哭、絶望。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その現実から目を背けるべきじゃない」

 

「フランスの英雄と呼ばれても…イングランドやブルゴーニュ側からしたら、ただの魔女…」

 

「多くの人間達の命を奪い、帰りを待つ家族や子供達に絶望を撒き散らした魔女の如き存在だ」

 

「フランスに希望の光を与えても…イングランドやブルゴーニュには絶望の闇を撒き散らす…」

 

「実に魔法少女の在り方だったよ。フランスの英雄として生きたタルトの生き様はね」

 

「私は…彼女を戦乱の渦に持ち込んで、人々に害を成す加害者に育ててしまった…?」

 

「その一翼を担った事は確かだ。そしてリズの願いもまた、英雄を生み出すこと」

 

「ま、まさか…?」

 

「リズの願いもまた、大勢に絶望を撒き散らすフランスの英雄を生み出す一翼を担ったんだ」

 

()()()()()なの…?この光景は…私とリズが生み出したものなの…?」

 

「彼女は自分で選択して魔法少女となった。でも、その因果を与えたのはリズの願いでもある」

 

「私の助力もまた…救国の英雄を生み出すと同時に、魔女として焼かれる結果を…与えた?」

 

「原因があるから結果が起こる。因果の法則とは一人一人の行動によって積み重ねられていく」

 

目の前で焚かれる業火の音が響き続ける中、時期に少女の命も終わるだろう。

 

「私とリズは…罪人なのね。タルトと呼ばれた少女に…こんな結末を与えてしまった…」

 

「罪人なら、神にでも祈ってみるかい?」

 

「私も祈りましょう…聖女の…乙女の伝説の最後に…そして私とリズが犯した罪への許しを…」

 

酸欠で意識を失いながらもジャンヌ・ダルクは最後の言葉を告げる。

 

「すべてのことに……メルシー・ヴレモン」

 

 

「……懐かしい夢を見たわ」

 

薄暗い研究室の机で目を覚ますペレネル。

 

培養液で満たされた巨大カプセルが機械と繋がった形で室内を照らす。

 

カプセル内には少女の姿がいるようだ。

 

「マスター、目が覚めたかしら?」

 

隣には造魔のリズが立っており、眠気覚ましのコーヒーを机に置きながら培養液に向き直る。

 

「タルトの調整もあと少しで終わりそうね」

 

「ええ……先に貴女を調整しておいて良かったわ」

 

「どういう意味かしら?」

 

「私は貴女達2人を造魔として蘇らせた……ドリーカドモンを手に入れてね」

 

「私の素となったリズ・ホークウッドとジャンヌ・ダルクの髪の毛も入手していたんでしょ?」

 

「そうよ…研究者としての悪い癖ね。興味深い存在を目にしたら研究したくて堪らなくなる…」

 

「知りたいと思う気持ちは…時に理不尽となる」

 

「その通り…それが背負うべき私の業であり…」

 

「私の素となったリズ・ホークウッドが背負うべき…業でもある」

 

席を立ち上がったペレネルは培養液に近づいていく。

 

「私はね……タルトに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の」

 

「タルトに…人間としての人生を与える?」

 

「タルトはただの村娘。戦乱とは程遠い平和な村で家族と共に幸福な人生を生きるべきだった」

 

「彼女の元に私が現れたのよね?そして、私の隣には契約の天使の姿もあった…」

 

「ええ…リズとタルトが出会う事によって、タルトの因果は急速に練り上げられていったわ」

 

「私が…この子を魔法少女にしてしまった罪。それを清算する事こそが…私の存在意義よ」

 

「貴女は本物のリズではない。当時の記憶さえもたないけれど…私達は償わなければならない」

 

「気にしないで、マスター。私の素となった存在の罪を清算する使命を…必ず果たすわ」

 

問題があるとすればタルトとリズが造魔だという点なのだとペレネルは語ってくれる。

 

「私達造魔は虚心…感情を持たないタルトに人の心を取り戻せるかしら?」

 

「人造生命であろうとも貴女達は人として生きている。可能性はあるわ」

 

「アメリカでの生活では得られなかった人の感情…それをこの国で手に入れられるかしら?」

 

「難しい道のりかもしれない。そして…貴女達を巻き込む形になってしまった事を詫びるわ」

 

「魔導の奥義を極める…それがマスターの存在意義としての原点ね」

 

「私の我儘に過ぎない道だけど…譲れないの。これが私の始まりであり…呪いだから」

 

「ごめんなさい…マスター。貴女に取り憑いた悪魔を倒す力が私とタルトにありさえすれば…」

 

「いいのよ、リズ。この罪は貴女が背負うべきではない…悪魔に取り憑かれたのは私の責任よ」

 

「私の力とタルトの力はマスターの為にある。この力、存分に発揮してみせるわ」

 

「頼りにしてるわね…」

 

2人の会話が聞こえていたのか、培養液内のタルトの瞼が動き始める。

 

それと同時にお腹が減る大きな音が響いてきたようだ。

 

「……こういう部分は造魔でも人間らしいわね」

 

「フフ、造魔の素となった悪魔とホムンクルスも人間と変わらない部分も多いわ」

 

「上のメイド長に何か作らせてくるから、マスターもタルトを起こしてあげて」

 

「ドリーカドモンは二つしか入手出来なかった。本当はエリザとメリッサも創りたかったわね」

 

「彼女達にまで罪を背負わせる必要はない。タルトを苦しめた罪は私とマスターだけが背負う」

 

地下研究所を後にするリズを見送った後、培養液に照らされたペレネルの人影に動きが表れる。

 

頭部の部位から浮かび上がるのは悪魔の瞳であり、誰もいない事を利用して直接話してくる。

 

「時期に人修羅はこの街に現れる」

 

「分かるのかしら?」

 

「勝算はあるかね?彼の悪魔の実力は君の造魔を上回るぞ?」

 

「話し合って分かってくれる人物ならいいけれど…望みは薄そうね」

 

「ならば戦ってでもマガタマを奪うしかあるまい」

 

「人修羅を知っているなら、その悪魔の弱点に心当たりはないかしら?」

 

「フフ、知っているぞ。あの男には弱点があるのだ」

 

「…聞かせてもらえるかしら?」

 

細目が開き、眠り姫のようなタルトを見つめながら懺悔の言葉を呟いてしまう。

 

「私はまた繰り返すのかしら…?この子を…もう一度戦乱の渦に巻き込んでしまう…」

 

 

「ウラベ様!お気を確かに!」

 

「ぐっ…うぅ…あ?リャナンシー…か?」

 

ウラベは目を覚ました後、辺りを見回す。

 

「急に影に飲み込まれたかと思えば…元の街に戻ってこれたのか?」

 

「そのようですわ。どうやら海沿いの倉庫街のようですわね?」

 

「あの影に飲み込まれた瞬間、感じた気配は…悪魔だったな」

 

「私には何処か…魔法少女のようにも見えましたわね」

 

「フィネガンとユダは…あのペレネルとかいう錬金術師が倒しちまったのか?」

 

「存じません。ウラベ様を狙う目的を失敗し、撤退した可能性もありますわ」

 

「そうであって欲しいもんだ。あの2人の実力を舐めちゃいけねーよ」

 

「でも、本当に幸運でしたわ。あの者達が現れなければ私達は…」

 

「やれやれ、ベスとプッツは美味しいところを持っていかれちまったな」

 

懐に締まってある二つの封魔管が振動している。

 

「おいおい、怒ることないだろ?」

 

怒っているのではなく、後ろに積まれたコンテナの上にいる者を警戒しろと叫んでいる。

 

「お前らだって、俺の大切な仲魔…」

 

次の瞬間、響き渡ったのは銃声の音。

 

「ガッ…あっ……あ?」

 

腹から広がっていくのは己の血であり、気品を感じさせる女の声が聞こえてくる。

 

<<まったく、男共はどうしてこんなに詰めが甘いのかしら?>>

 

後ろを振り向けば月夜に照らされた女性の人影が見えるだろう。

 

アメリカの西部開拓時代を彷彿とさせるドレスを身に纏う女性は不気味な笑みを浮かべる。

 

手には独特な文様が見えるライフル傘が握られ、銃口らしき部位からは硝煙が立ち昇る。

 

「ウラベ様ーーッッ!!?」

 

リャナンシーは肩を貸しながらウラベを支えており、眼前の敵を睨む。

 

「ぐっ……マヨーネか。お前まで来るとはな…」

 

「勝負事と生活の事しか頭にないフィネガンとユダだけでは些か心配でしたからね」

 

「ウラベ様…ここは私が!!」

 

「リャナンシー…お前もまだ傷が完治してないだろ…」

 

「それでも…人間よりはまだ動けますわ!」

 

ウラベを抱えたまま立ち向かう姿勢を見せ中、謎の女性は不快な表情を浮かべてくる。

 

「ウフフ、その傷で私を相手にしようだなんて…随分と舐められたものですわね」

 

ネームバンドで留めたライフル傘を開くと生地に描かれているのは大ペンタクルである。

 

それだけではなく、傘の生地を広げる骨組みに見えるのは複数の封魔管であろう。

 

「華々しく爆殺してあげてもいいですが…海底に捨ててあげるのもいいですわね」

 

両手で雨を払うかのように傘を回転させる。

 

一本の封魔管が開き、払われた雨粒のように感情エネルギーを放出される。

 

召喚された悪魔とは巨大な生活道具のような見た目であり、おばちゃん口調で話してくる。

 

「久しぶりに外に出られたわ~。どう?上手くサマナーやれてるの?」

 

「問題ないわ。それに、美しい私の顔を貴女の鏡で見たくなったから」

 

【紫鏡】

 

1990年代に小学生や若い女子学生を中心に広がった都市伝説や怪談があったという。

 

20歳になるまでにムラサキカガミという言葉を覚えていると死んでしまうという内容だ。

 

または何らかの不幸に陥るという内容を伴った都市伝説が具現化した悪魔であろう。

 

ある少女がふざけて手鏡を紫色に塗りつぶした所、急死した事に発祥する呪い。

 

元々鏡には魔力や魔性を見出す発想は古くからあったようだ。

 

「さぁ、ムラサキカガミ。貴女の呪いを見せて頂戴」

 

「アラやだ…まあまあ…ええのホンマに?」

 

「狙うのは、あの女悪魔よ」

 

「それじゃあ…うしの刻参りといこうかねぇ!」

 

ムラサキカガミの鏡面に浮かび上がるのは恐ろしい表情をしながら笑う女の顔である。

 

それと同時にリャナンシーの周りに浮かぶのは呪術文様であろう。

 

「ぐっ!!?」

 

古代仏教や修験道で見られる呪殺儀式であり、リャナンシーは呪いに取り憑かれながら死ぬ。

 

「申し訳…ありません…ウラベ…さ…ま…」

 

即死した仲魔の最後には残されたウラベだけが独り残される。

 

「く…そ……」

 

腹からは大量の出血が滲み、後ずさる後ろには波止場の海。

 

懐から封魔管を取り出そうとする腕がライフル傘で撃ち抜かれる。

 

「悪あがきは終わりかしら、ウラベ?」

 

「…ふん。俺を殺すつもりだろうが…俺はしぶといぜ」

 

「貴方みたいな虫ケラが動いたところで、組織には何の影響もありませんわ」

 

「覚えていろ…俺は必ず…一矢報いてやる!!」

 

「全く、貴方には失望したわ。あの世で家族と再会しなさい」

 

銃の引き金が引かれた事で右胸を撃ち抜かれるウラベ。

 

彼の体勢が崩れながら波止場の海に目掛けて転落してしまう。

 

「おさらばね、ウラベ」

 

海に叩きつけられて沈んでいくウラベの意識が薄れていく。

 

(俺の命も…ここまでか…)

 

思い出されるのは家族の笑顔の数々であろう。

 

(無様な話だ…家族の死に…我を失っていたのか…)

 

生きる事などどうでもいいと投げやりになった体たらくの末の結末に苦笑する。

 

(今…は…生きたい…と……)

 

沈みゆく元ダークサマナーの最後は家族への思いに抱かれながら海の藻屑となるだろう。

 

「さて、私の仕事も終わった事だし…元の任務に戻らせてもらうわ」

 

「総理大臣さんの護衛だなんて、マヨーネちゃんも出世したわね~」

 

「あら?私は元から家柄がいい淑女よ。出世街道を進むのは当然ね」

 

「それより、管ん中ずいぶん汚れとるやないの?おばちゃん掃除しとくわね」

 

「ハァ…このおばちゃん口調さえなければねぇ…」

 

去って行くマヨーネの姿が消えた後、辺りは何事もなかったような夜の静寂だけが残る。

 

そんな惨劇を見つめていたのは夜を神格化した存在であり、その神は神浜の街にいたようだ。

 

「…夜の静けさを、乱さないでもらいたいわね」

 

ホテル業魔殿の最上階にある会員制のBARクレティシャスの窓際に佇むのはニュクスである。

 

夜の神である彼女の視線はウラベが落ちた海辺に向けられているようだ。

 

それから月日も流れて現在は9月頃であり、尚紀がクレティシャスに訪れた時期となる。

 

「ご馳走になったな、ニュクス。俺も神浜市暮らしだし…また寄らせてもらうよ」

 

「待っているわ、探偵さん。ここのメンバーカードを渡しておくわね」

 

ヴィクトルとニコラスはまだ飲み続けているが、先に帰宅する事にしたようだ。

 

VIPルームから出てきた彼に声をかけてきた人物がいる。

 

「おい、あんたがもしかして…嘉嶋尚紀か?」

 

「…あんたは誰なんだ、オッサン?」

 

「俺の名は卜部広一朗(うらべこういちろう)。ここでマダム銀子の護衛を努めている者だ」

 

「ウラベ…?銀子のボディーガードってわけか」

 

「ああ…彼女は俺の命の恩人だ。あの人がいなかったら…俺は魚の餌になってたさ」

 

「そうか…それより、あんたから感じるこの気配は…」

 

「俺は悪魔召喚師だ。お前と同じ悪魔を使役する」

 

「デビルサマナーが悪魔の俺に何の用事だ?俺を使い魔にでもしたいわけかよ?」

 

「お前の事はマダムから聞いている。イルミナティに付け狙われているって事をな」

 

「イルミナティ連中に何か恨みでもあるのか?」

 

「元々俺はフリーメイソン内部の黄金の暁会に所属していたが…ついていけなくなった身だ」

 

「…ダークサマナーってやつか」

 

「俺は組織から逃げ出したが…報復として、家族を殺された」

 

「復讐がしたいか?」

 

「…チャンスがあるならな」

 

「なら、俺の周りを嗅ぎ回っていたらいい。俺も連中からは逃げられない身の上さ」

 

「そうさせてもらう。お前の存在は曲がりなりにもイルミナティの啓蒙神扱いだからな」

 

「フン、いい迷惑だぜ」

 

「あんたの事を色々と教えてくれないか?奢らせてくれ」

 

「さっきも飲んでいたんだが…まぁいい、カウンター席に移るか」

 

元ダークサマナーとの出会いを果たした尚紀の生活の影にはウラベの姿もこれからいる。

 

そしてジャンヌ・ダルクもまた神浜に潜んでおり、いずれは尚紀と関わる存在となるだろう。

 

人々の為に戦い、大勢の人間達を殺してきた2人のヒーロー。

 

しかし尚紀もタルトも同じ虐殺者であり、加害者に過ぎない罪を背負う者達。

 

罪人として焼かれるべき存在達の会合の日は近いのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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