人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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105話 人間の感情

人間には失感情症(アレキサイミア)という性格特性がある。

 

自分の感情(情動)への気づきや、その感情の言語化の障害や内省の乏しさが例に上がる。

 

感情が失われた病気をイメージしてしまいそうだが、そうではない。

 

自分の感情を認知したり、言葉で表現したりすることに対して障がいを抱えていることを表す。

 

感情が変化したことに気づかなかったり、今の感情を聞かれても答えられなかったりする。

 

何か感情の変化が起こる出来事が起きても、認識する事が出来ない阻害。

 

これは決して感情の変化を失った状態ではないと言われていた。

 

季節は7月頃、リズから突然の提案をもらう。

 

「えっ?タルトを外に連れ出したい?」

 

眼鏡のフレームを押し上げながら怪訝な表情を浮かべるペレネル。

 

「新しい国に訪れて環境が変化したわ。気持ちを外に向けるチャンスだと思うの」

 

「そういえば、貴女はタルトの虚心を治療する為に臨床心理学を勉強してたわね」

 

「私だって虚心だけれど、感情をどうやって得るのかを知識として知る必要があったわ」

 

「タルトに人間としての人生を取り戻させる…それが貴女と私の贖罪よ。反対はないです」

 

「この国は四季が美しいと聞いた事があるの。心は殻に閉じこもっていては開かないわ」

 

「そうね…分かったわ。休暇という形で貴女達の自由行動を暫く認めます」

 

「本当にいいの?人修羅と呼ばれる悪魔は既に神浜の地に現れているのは知ってるはずよ」

 

「あの悪魔とは戦う事になるわ。だからこそ、私は私なりに準備をする期間が必要です」

 

「私達は遊んでいて大丈夫なの?」

 

「ええ、貴女達の実力は疑わない。あとは戦略次第よ」

 

「とは言うものの…」

 

「何か不都合でも?」

 

「虚心の私では…どんな場所に連れていけば心を外側に向けられるのかが検討つかないの…」

 

「なるほどね。まぁ…そこは人間の定番で行くしかないわね」

 

「人間の定番?」

 

「観光よ♪この街の住民と触れ合って来なさい。人は違う環境こそ得難い喜びを得られるのよ」

 

「観光ね…19世紀の大英帝国の旅行家、探検家でもあったマスターが言うなら間違いないわ」

 

ペレネルの書斎から出た後、屋敷内にあるタルトの部屋に向かう。

 

「入るわよ」

 

ノックの後に扉を開けるとそこには寡黙な少女が顔も向けずに出迎えてくれる。

 

「……タルト」

 

窓際で佇み、遠くに見える北養区の町並みを見守るだけのタルトがいたようだ。

 

「…人間なら、あの町並みを見ると美しいって思えるんですよね?」

 

「…そう、みたいね」

 

「私は何も感じません。マスターの所有する美しい豪邸や自然景色を見ても何も感じない…」

 

「タルト……」

 

「ジャンヌ・ダルクなら…どんな反応を見せたんでしょうね?」

 

振り返るタルトの表情には虚心ながらも不甲斐ない自分に対する劣等感が滲むのであった。

 

 

「今日はお客さんがあまり来ないわね~」

 

新西区にある神浜ミレナ座では店主のみたまがおこたに座りながら暇そうにしている。

 

隣ではジャックフロストがおこたに入らないように座り、携帯ゲーム機で遊んでいるようだ。

 

「もう外はシャクネツジゴクの季節だホ。外出するのがイヤになるのは当然だとおもうホー」

 

「フロスト君は今の季節だと、外に出ちゃうとデロデロになって溶け死んじゃうわね~」

 

「ワルだった頃のオイラだったらへっちゃらぷーだったけど、今はムリだホ」

 

「フロスト君の為に冷房ガンガンにしてるけど~…寒さに弱い調整屋さんは冷え冷えよ~」

 

「オイラ、夏の季節でも外に出られるスーツが欲しいホ」

 

「う~ん…悪魔の冷房スーツだなんてイメージが浮かばないわね。叔父様に相談してみるわ」

 

「バケツ頭してるスーツが欲しいホ!」

 

「はいはい~…って、噂してたら魔法少女のお客さんの魔力ね」

 

「ヒホ?冷蔵庫の中に隠れていたほうがいいホ?」

 

「待って。この魔力はかりんちゃんね…それに、貴方のお友達の魔力も感じるわ」

 

「ヒホホー!ランタンの奴も来たホ!」

 

暇を持て余していたフロストが事務室から駆け出していく。

 

「こんにちわーなの」

 

「あ~ら♪いらっしゃ~い、かりんちゃん。それに~…」

 

かりんの後ろに隠れていたジャックランタンが飛び出してくる。

 

「ヒホホーイ!遊びに来たぞーフロスト」

 

「ヒホ!よく来たホー、ランタン!」

 

ジャックフロストと共にランタンは調整スペースから飛び出していったようだ。

 

「今日は調整に来たのかしら?」

 

「それもあるけど、ランタン君をお外に出してあげたかったの」

 

「あの子も悪魔だし~、神浜の魔法少女に見つかったらコトですものね~」

 

「でもビックリしたの。まさかみたまさんまで悪魔のお友達がいるなんて…」

 

「それはこっちのセリフね~。まさか魔法少女の中に仲魔を連れている人がいるなんてねぇ」

 

「フロスト君は、なんだかランタン君の事を知ってるみたいだったの」

 

「そうね~前の世界で会ったとか~、マントラ軍で偉そうにしてた奴だとか~…言ってたわね」

 

「言ってる意味は分からなかったけど…でも、仲良くなってくれて良かったの」

 

「根が子供同士だったのよ。だから意気投合出来たんじゃない?」

 

「ランタン君は外に出ても隠れて過ごす事しか出来なくて辛そうだったし友達増えて嬉しいの」

 

「フフ、私もよ♪さ~て、調整をパパッと済ませちゃうから奥にいらっしゃ~い」

 

暫くした頃、かりんは前々から疑問に思っていた事を口にする。

 

「そういえば、みたまさんは何処で悪魔と知り合ったの?」

 

「えっ!?え、え~と…かりんちゃんと同じく~、偶然出会えてお友達になった感じ?」

 

「そうなの?」

 

(ヴィクトル叔父様の事は他の子には言えないわ。内通者だとバレてしまうし…)

 

「あれ?そういえば…ランタン君とフロスト君が帰ってこないの」

 

「違うシアタースペースで…またHIPHOPブラザーズごっこしてるんじゃない?」

 

「初めて見せられた時は驚いたけど…あれ、フロスト君が思いついた遊びみたいなの」

 

「そうだったわね~。オイラは違うDDS世界で、こういう遊びをしてたホ~だったかしら?」

 

「人間が悪魔化して同じ人間の悪魔を食べないと魔獣になる世界だとか…怖いこと言ってたの」

 

「プログラム世界の人間に取り憑いて、ポイント136の遊園地跡で過ごしてたそうね~…」

 

「悪魔の世界って…よく分からないの」

 

「私も同じく~…」

 

子供悪魔のおふざけだと深くは考えない2人の元に子供悪魔達が戻ってくる。

 

「Ho!me~n!調整、シゴト、世は労働~Ho!」

 

「オシゴト、マネー、なければ喰えねぇ~Ho!Hi!」

 

「調整は終わったから、そろそろランタン君も帰るの」

 

「その前に、俺のリスペクト、聴くといいHo!」

 

「何なの?」

 

「最近、俺は空、ひとっ飛び~Ho!気になる奴、2人いたHo!Hi!」

 

「気になる2人?」

 

「そいつら外人、俺達デーモン、そいつらデーモン、俺達デーモンHo!Hi!」

 

「2人の外人さんが…ランタン君と同じような悪魔だと言いたいの?」

 

「YES!YES!あいつら人間?マジカル人間?ガールにしては~ハートがねぇHo!」

 

「どういう意味なの…?」

 

みたまに視線を移すと彼女には思い当たる節があるのか真剣な顔つきとなる。

 

(まさか…ヴィクトル叔父様が研究していた造魔なの?)

 

「ごめんなさい、かりんちゃん。私は急用を思い出したから、少し出かけてくるわね」

 

「分かったの、私達も帰るの」

 

「また留守番!ヒマばかり!ハートが凍えて凍りつく~Ho!」

 

「お土産にアイス買ってきてあげるから、我慢なさいフロスト君」

 

 

夏の日差しが照りつける中、病的な白い肌をした2人の少女が通りを歩く。

 

1人は黒髪を靡かせ、白ワイドパンツに黒のノースリーブの夏コーデ姿である。

 

隣は日傘をさし、白と黒のミニワンピースを着た夏コーデ姿をしているようだ。

 

2人の両目にはカラーコンタクトが嵌められており、白人の青い瞳のように見えるだろう。

 

「定番コースは…あらかた見て回ったわね」

 

隣を見れば寡黙なタルトがいるため、寡黙なリズであるが気を利かせて声をかけてくれる。

 

「それにしても…日本の夏は最悪ね。自然豊かな北米の方がまだ過ごしやすかったわ」

 

「リズ…私に気を使って、色々と連れて行ってくれているんですよね?」

 

「……バレてたようね」

 

「この街の観光地区は美しいと思います。ですが私は…それをどう感じていいのか分からない」

 

「それは私も同じよ。知識としては感情の求め方を知っていても…上手くいかないものね」

 

「私はタルトであって…タルトではありません。本物の彼女なら…喜んでいたんですか?」

 

「情緒豊かで優しい性格をした村娘だったとマスターからは聞いているわ…」

 

「…だとしたら、私は本物のジャンヌ・ダルクとは…程遠い存在ですね」

 

「タルト…」

 

「マスターの期待に答えるのが造魔の使命。ですが…私は…」

 

「自分を出来損ないだなんて、思っては駄目よ」

 

「リズ…」

 

「貴女はマスターの最高傑作よ。胸を張りなさい」

 

「…張れる胸が、リズぐらいあればいいんですけどね」

 

リズの胸は豊満であったが、タルトの胸は平坦であった。

 

「長期休暇だから他の街も見て回れるけれど…」

 

「この街の東地域をまだ回ってませんよ?」

 

「観光ガイドには東地域を避けるように書かれてたわ。トラブルに巻き込まれるかも」

 

「構いません。マスターが私に求める何かがそこで見つけられるのなら…私は行きます」

 

「…分かったわ。ここで待ってて、車を回してくるわ」

 

「国際免許を持っているリズが羨ましいです」

 

「貴女は車の運転が苦手なのよね」

 

リズが運転するラ・フェラーリに乗り込んだ後、東地域を目指す。

 

タルトは物静かに窓の景色を見つめていたようだが何かを見つける。

 

「……あの人は?」

 

対向車線をすれ違ったバイクの女性ライダーを見た彼女は虚心ながらも目を見開く。

 

「どうしたの?」

 

「あの青い長髪をした女性ライダー…何処かで…会った事があるような…」

 

「気のせいじゃない?」

 

「私は出会っていなくても…本物のタルトは出会った事があるんですか…?」

 

自分の胸に手を当てながら自分の血肉となったホムンクルスのタルトの鼓動を感じ取る。

 

「タルト…貴女は私に何を伝えようというんですか…?」

 

その答えは返ってこないままスーパーカーは東に向けて走行していくのだ。

 

一方、業魔殿にやってきたみたまはランタン達から聞いた話をヴィクトルに伝えていく。

 

「外国人の姿をした悪魔だと…?」

 

「人間の姿にしか見えない造魔…それはヴィクトル叔父様が目指していた造魔の完成形です」

 

「悪魔が人間に擬態している可能性はないのかね?」

 

「後からランタン君に聞きましたが、病的な白い肌をしていたとか…」

 

「だとしたら…造魔に違いない。悪魔の擬態は完璧だが…造魔には造魔の特色が体に出る」

 

「ヴィクトル叔父様が創られた造魔ではないんですか?」

 

「…吾輩が創れたのは出来損ないだ。人間と見紛う程の完成度など…得られていない」

 

「他にも造魔を研究している者がいるんですか…?」

 

「イルミナティの魔術結社も研究してる。それに口では言わないが…ニコラス先生も疑わしい」

 

「ニコラス…たしか叔父様に錬金術を教えてくれた伝説の錬金術師ですよね?」

 

「伝説の錬金術師なら…他にもいる」

 

「えっ…?」

 

(まさかとは思うが…ニコラス先生の妻は日本に来ているのか?)

 

「あの、ヴィクトル叔父様…私、そろそろ学校から帰ってくる妹を迎えに行くので帰りますね」

 

「その造魔が何を目的に動いているかは判らんが…あまり外には出ないよう家族に伝えなさい」

 

「そうさせて…もらいます」

 

 

車を機械式駐車場に駐めた後、造魔達は大東区を歩き始める。

 

「車から見る限り…酷く寂れた街ね」

 

「…そうですね。きっと人心の心まで寂れているかもしれません…」

 

地元住民達から怪訝な顔を向けられながらも2人は歩き続ける。

 

「見てください、リズ」

 

「大きな団地街ね…まるで小さな街よ」

 

「商店街や公園も整備されているみたいですね」

 

「少し…立ち寄ってみる?」

 

「部外者が来訪してもいいんでしょうか?」

 

「ここの住人が余所者に排他的でなければね…」

 

「少し様子を見て、住民達が騒ぎ出したら帰りましょう」

 

「それが良さそうね」

 

大東区の団地街に入り、中に備わる商店街を見て回る。

 

やはり余所者であり外国人は目立ってしまうようだ。

 

「この団地街には魔法少女らしき魔力を何人か感じるわね」

 

「私達造魔は悪魔です。悪魔の力を開放しなければ魔力探知でバレる事もないでしょう」

 

「そうね…神浜の魔法少女達とコトを構えるつもりはマスターにも私達にもないわ」

 

住民を刺激しないよう見て回るだけに留めながら商店街を後にする。

 

公園も見ていこうかと歩みを進めていた2人は団地街の子供達を見つけたようだ。

 

「どうしてミィが…ここで遊んでたらダメなの!」

 

「だって、みかげちゃんところのお姉さんは大東区の面汚しだって…ママが言ってたから」

 

「私達…みかげちゃんと遊んでたらさ、お母さんに怒られるの」

 

「姉ちゃが…どうして大東のツラヨゴシになるのさ!?」

 

「その…私はお母さんから聞いただけだよ?たしか昔…水名の学校で大暴れしたとかさ」

 

「そ、それは……」

 

「大東の名誉回復を期待されてたのに…大東区住民はやっぱり乱暴者だって宣伝したとかでさ」

 

「ひどい…姉ちゃがどんな思いで苦しんでたのか…誰も知りもしないくせに!!」

 

「それに、東の学校でも消化器を振り回して暴れたって聞いたし…」

 

「なんで…?なんで姉ちゃだけでなく…ミィまで差別されなきゃならないの!?」

 

「だって…八雲の家の子だし」

 

「もういい!!あんた達となんて…ミィは絶対に遊ばない!!」

 

公園から駆け出していくのはお団子ツインテールの少女である。

 

会話の一部始終を聞いていた者達は顔を向け合いながら神浜市について語り始める。

 

「この神浜市という街は…東西対立が根深いようですね」

 

「気に入らない街だとマスターも言ってたわ。西も東も変わらない、差別に塗れた街だとね」

 

「あの銀髪の子供は…お姉さんが大好きみたいですね」

 

「だからこそ、姉が犯した罪のせいで…苦しんでいるのね」

 

「…あの子を追いかけます」

 

「えっ?ちょ、ちょっとタルト…?」

 

2人は駆け出しながら銀髪少女の後を追う。

 

「あの子から魔力を感じたわ…どうやら魔法少女のようね」

 

「小学生ぐらいなのに…どうして魔法少女の世界なんかに…」

 

程なくして感じた魔力の出処を突き止める。

 

「グスッ…エッグ…ひどい…みんなひどいよぉ……」

 

団地街から離れ、寂れた公園のベンチに座りながら泣いているのは先程の少女であろう。

 

「姉ちゃだって…あんなコトしたかったわけじゃないのに…なのに、どうして…」

 

近づいてくる足音が聞こえた彼女が顔を上げれば差し出されたハンカチを見つける。

 

「…大丈夫ですか?」

 

「えっ…?お姉ちゃん達は…誰なの?」

 

「私はタルト…通りすがりの外国人観光客です」

 

横にいるリズはタルトの行動を眺めながらも怪訝な表情を浮かべている。

 

虚心であるはずなのに何ゆえ小さな子供に肩入れするのか理解に苦しむようだ。

 

(この子に何を感じたの…タルト?貴女の中に溶けたジャンヌ・ダルクが…そうさせたの?)

 

優しい女性達と出会えた少女は自己紹介を行ってくれる。

 

「ミカゲ・ヤクモ…それが貴女のお名前ですね?」

 

「みかげでいいよ。お姉ちゃんはタルトでいいんだよね?」

 

「タルトは愛称みたいなものです。ちゃんとした名前は…ジャンヌ・ダルクと申します」

 

「えっ!?ジャンヌ・ダルクって…ミィ、世界史の教科書で見た事ある!」

 

「…同じ名前なだけですよ」

 

「隣のお姉さんは?」

 

「私はリズ・ホークウッド。リズでいいわ」

 

「観光の途中でしたが、先程の光景を見てしまいまして…」

 

「えっ…見てたの…?」

 

「…隣に座っていいですか?」

 

「う、うん…」

 

タルトとリズはみかげを囲む形で座り込む。

 

赤の他人ではあるが、苦しい気持ちを我慢しきれない小学生女子が事情を語ってくれる。

 

「…そうでしたか。たったそれだけで…酷い話ですね」

 

「本当はね、姉ちゃは凄く優しい人なの。でも…みんなからあんな風に言われ続けたから…」

 

「…人間嫌いになっていったのね?」

 

「うん…姉ちゃはミィと同じように友達がいないって…前は思ってた」

 

「前は…?今はお友達がいるんでしょうか?」

 

「その…姉ちゃはね、調整屋っていうお仕事をしてて…仕事内容は…その…」

 

「…魔法少女に関わる仕事なの?」

 

「えっ!?魔法少女のこと…お姉ちゃん達は知ってるの?もしかして魔法少女?」

 

「…違います。知識として知っているだけです」

 

「そっか…お姉ちゃん達からは魔力を感じないし…そうだよね」

 

魔法少女の話題まで出してしまうタルトに対し、リズが釘を刺すように念話を送ってくる。

 

<タルト…深入りし過ぎて私達が悪魔だという事をこの子に伝えてしまってはダメよ>

 

<分かっています>

 

「姉ちゃはそこでね、沢山の魔法少女の友達を作ることが出来たの…」

 

「良かったじゃないですか?それの何がいけないんです…?」

 

「ミィだけが…友達に恵まれない」

 

「…嫉妬しちゃったわけね」

 

「ミィだって…友達が欲しいよ」

 

「魔法少女のお友達はいないんですか?」

 

「エミリーのお悩み相談所っていう場所でね、魔法少女のお姉ちゃん達と友達になれたよ」

 

「悩みは解決してるじゃない?」

 

「ミィはね…同じ小学生の友達が欲しい」

 

「褒められる内容じゃないわ。魔法少女は命がけの世界…その世界に小学生を求めるなんて…」

 

「で、でもさ…」

 

「リズ、子供が相手です。子供に合わせてあげましょう」

 

「…そうね、大人気なかったわ」

 

「貴女は小学生ですよね?恐ろしい魔法少女の世界にどうして入りたいと思ったんですか?」

 

「そ…それは…その……」

 

「…言いたくないなら構いません」

 

「…姉ちゃの…八雲みたまの願いを…救いたかったの」

 

「お姉さんの願いを救う…?」

 

「貴女のお姉さんはどんな内容で魔法少女になったのか…聞いてもいいのかしら?」

 

「姉ちゃはね……神浜を滅ぼす存在になりたいって……願ってしまったの」

 

テロリストと変わらない願い事を聞かされるが虚心である造魔の表情に狼狽える気配はない。

 

「…ムリもないわ、これだけの差別を受けたのですもの」

 

「破壊衝動に駆られてしまったのですね…この街を憎むあまりに」

 

「だから貴女はそれを止める為に魔法少女として契約してしまったのね」

 

「うん…ミィの願いで姉ちゃの願いの波は押し留めたとは思うけど…」

 

「この街の根本的な問題が解決しない限り…みたまさんの苦しみは続きますね」

 

「だからね!ミィは…この街を変えたいの!」

 

「この街を…変える?」

 

席から立ち上がったみかげは2人の前で振り返る。

 

「姉ちゃがこの街を恨まないように、みんなが変われる街にしたい!」

 

「立派な望みだと思います」

 

「それに姉ちゃは…みんなを助けてくれるヒーローだって事も知ってもらいたい!」

 

「調整屋として魔法少女の手助けをしている。それは人々を救う道にもなると言いたいのね」

 

「そしたら姉ちゃの悩みは消えちゃうよ!ミィはね…姉ちゃを絶対に救って見せる!」

 

その言葉を耳にした造魔達の目が見開いていく。

 

タルトの脳裏に浮かぶのは自分の中に溶けたジャンヌ・ダルクの記憶であろう。

 

――お姉ちゃんは剣術がダメダメだけど、見て!スゴイでしょ!

 

――お姉ちゃんはね、絶対に私が救ってみせるから!

 

虚心であるタルトの体が震えていき、震える口からとある人物の名前が零れ落ちる。

 

「カト…リーヌ…?」

 

「えっ…?カトリーヌって…?」

 

「……タルト、ようやく分かったわ」

 

「えっ…何がですか、リズ?」

 

「貴女が初めて会ったこの子に何を見出していたのかをね」

 

「リズ……」

 

「私も感じたわ…眼の前の子供に対して私の中のリズが感じていた感情と同じ気持ちがね…」

 

「その感情は…何だと思います?」

 

「何なのかしら…?胸がざわついて…言葉にならない…」

 

「私も…同じです」

 

「カトリーヌって人はタルトお姉ちゃんの妹さんなの?」

 

問いかけてくるみかげに対し、タルトは顔を俯けたまま無言となる。

 

「だったらさ…その妹さんもタルトお姉ちゃんの事が大好きだと…」

 

「お願い…もうそれ以上は言わないで」

 

「えっ…どうしてなの、リズお姉ちゃん?」

 

「私達には……辛い話なのよ」

 

握り込んだ拳が震えているのをみかげは見る事になるだろう。

 

辛い過去を背負っているのだと察した彼女はそれ以上の追求はやめてくれる。

 

「お話に付き合ってくれてありがとう、お姉ちゃん!お礼にいいところに連れていくよ♪」

 

「いいところ?」

 

「あした屋っていう駄菓子屋さんなの。オススメの駄菓子をミィが色々と教えてあげる♪」

 

「駄菓子…ですか?」

 

「駄菓子って…何なのかしら?」

 

「さ、さぁ…?マスターからも聞いた事がないです」

 

「ヨッシャ-麺が定番なんだ♪でもミィ…姉ちゃから貰ったお小遣いの500円もうない…」

 

目の色を変えながらチラ見してくるみかげの態度を見た者達が怪訝な顔つきを浮かべていく。

 

「駄菓子というのは500円程度で買える商品でしょうか?」

 

「500円あったら沢山買えるよ!もしかして、お姉ちゃん達は…お小遣い沢山貰えるの?」

 

「はい。生活に必要な費用は全てマスターが用意してくれますので」

 

「スゴイスゴイ!ねぇねぇ、ミィはヨッシャ-麺を箱買いしたいな~…?」

 

「おねだり上手な子ね」

 

「えへへ♪…ダメ?」

 

「その程度の費用でいいのならマスターは文句を言いませんし…リズ?」

 

「タルトはこの子に甘いのね…分かったわ、案内してくれる?」

 

「やった!ついでにゲーセンも行こうよ!モカウサギとどっこパンダのぬいぐるみが欲しい…」

 

<<ダーメーでーすーっ!!>>

 

突然聞こえた大声に反応したみかげは顔を青くし、タルト達は奥の人物に顔を向ける。

 

「ね…姉ちゃ…!?」

 

「ダメでしょ、ミィ!知らない人におねだりなんてしちゃ!!」

 

「で、でも姉ちゃ…この人達は優しい人だし…。それに、お礼がしたかっただけだよ…」

 

「他人の施しを当てにする善意の行動はね…奪うのと同じなのよ!」

 

「あうぅ……」

 

「帰ったらお説教よ!…ごめんなさい、妹が迷惑をかけ……えっ!?」

 

みたまは造魔達の姿を見た途端、息を飲み込む。

 

(病的なまでに色白い肌…外国人でもここまで白い肌にならないのは叔父様と同じよ…)

 

庇うように抱きしながら敵意を向けるような表情をしている姉に対して妹は戸惑ってしまう。

 

<…タルト>

 

<ええ…この魔法少女は私達造魔の事を知っているような素振りをしています>

 

<長居し過ぎたようね>

 

<行きましょう。変に勘ぐられてマスターの存在にまで気付かれるのは不味いです>

 

席を立ち上がったタルト達は姉妹の横を通り抜けていく。

 

「……迷惑ついでに、一つだけ聞いていいですか?」

 

みたまは顔を向けずに背中越しの質問をしてくる。

 

「…なんですか?」

 

「貴女達は本当に……人間ですか?」

 

答えは返ってこないまま造魔達の気配は消えてしまう。

 

「……行ってしまったわね」

 

「姉ちゃ…さっきの言葉はどういう意味なの?」

 

「…何でもないわ。それより、説教の件はまだ残ってますからね?」

 

「うぅ~~…家に帰りたくないよぉ~」

 

一方、南凪区のベイエリアまで移動したタルト達は車の窓から見える夕日を眺めている。

 

「優しい姉と…優しい妹だったわね」

 

「……そうですね」

 

海に映る夕日を物静かに見つめているだけのタルトはこんな話を口にし始める。

 

「…マスターから聞いています。ジャンヌ・ダルクには…妹がいたんですよね?」

 

「カトリーヌと呼ばれていたそうね。2人をリズが助けて…剣術を仕込んでいたそうよ」

 

「そしてカトリーヌは戦乱に巻き込まれて…死んだそうです」

 

「…リズはその時、間に合わなかったと聞いたわ」

 

「その事件こそがジャンヌ・ダルクが魔法少女となる決意を固めた日…」

 

「フランスに光をもたらす願いによって…救国の英雄は誕生したわ」

 

重苦しい会話ではあるが、虚心である造魔達は淡々と語っていく。

 

「…たしか、この南凪区には外国人墓地がありましたよね?」

 

「観光名所というわけではないけれど…それがどうかしたの?」

 

「少し…外を歩きませんか、リズ?」

 

ドアを開けて駐車場から移動していくと程なくして外国人墓地の中に辿り着く。

 

霊園内を歩きながら花が添えられた墓地の前で佇み、造魔達の髪を海風が揺らしていく。

 

「…私の素となったジャンヌ・ダルクは、カトリーヌの墓に誓いを残しました」

 

「誓い…?」

 

セミロングヘアの後ろ髪をなぞるようにしながら手を添えていく。

 

「私はここで断髪をし……後ろ髪を妹の墓に捧げたんです」

 

「タルト……」

 

「その時の感触を……思い出せました」

 

「かつてのジャンヌ・ダルクは…その時に何を誓ったの?」

 

「もう二度と…こんな悲劇を繰り返させない」

 

優しい風が強く吹きぬけながらタルトの髪を揺らしていく。

 

「タルト……貴女は……」

 

虚心の心がざわついていく。

 

彼女の中に溶けたリズが語りかけるように当時の光景を思い出させていく。

 

リズ・ホークウッドもまたその光景を見届た者なのであろう。

 

「私はジャンヌ・ダルクとして生きる使命を持つ造魔。彼女の誓いこそ…私の道標です」

 

「その道は…マスターの願いに反する事になるわ」

 

「マスターは私に只の人間として生きて欲しいと願う。でも…それでは私はタルトになれない」

 

「……………」

 

「マスターが人間として生きて欲しいのはジャンヌ・ダルクであり、偽物ではありません」

 

「タルト…」

 

「マスターを苦しめるかもしれない…それでもこれがタルトとして生きたい…私の感情です」

 

 

7月も過ぎていき、大東学院小等部も夏休みに入っていく。

 

「えいっ!えいっ!!」

 

青と黒を基調とした東洋風の魔法少女姿をしているのは八雲みかげであろう。

 

目立たない廃墟で鍛錬を繰り返し、両手に持つカタールと呼ばれる形状の短剣を訓練する。

 

「姉ちゃはミィが守るんだ!姉ちゃはミィが守るんだ!」

 

魔法少女の魔力強化で身体能力を高めてはいるが闇雲に振り回しているだけに見える。

 

武術の歩法すら知らない彼女の足が絡まってしまい、体勢が崩れる時がくるだろう。

 

「キャッ!?いたたたた……」

 

両膝をついてお尻を撫でていた時、背後に人の気配を感じたみかげが振り返る。

 

「なっていないわね」

 

「えっ…リズ…お姉ちゃん?」

 

「武術の法則に従わない自分の動きは何をやっているのかさえ分からなくなっていくのよ」

 

「リズお姉ちゃんは…武術が得意なの?」

 

「これでも私は武芸百般のつもりよ」

 

「スゴイ!ねぇ…リズ姉ちゃ!!」

 

「えっ…?リズ姉ちゃ…?」

 

「ミィにね…戦い方を教えて欲しい!ダメ……?」

 

上目遣いで目を潤ませるおねだりポーズをしてくるあざとい娘に対してリズの心がざわつく。

 

(何…?心が…掻き乱されるように…愛おしい?これは…リズが感じた事がある感情なの…?)

 

「ゴホンッ……私の指導は厳しいわよ?」

 

「えっ!?教えてくれるの…?やったーーッ!!」

 

「なら、私も稽古をつけてもらえますか…リズ?」

 

振り向けば鍛錬道具に使える竹刀を持ったタルトが近寄ってきている。

 

「貴女はもう十分なくらいアメリカで鍛えたはずだけど…?」

 

「いいじゃないですか?私も初心に返ったつもりで、またリズに鍛えてもらいたいです」

 

「タルト……フッ、いいわよ。2人纏めて面倒みてあげる」

 

「やったやった!これからもミィと仲良くしてね…タルト姉ちゃ!!リズ姉ちゃ!!」

 

八雲みかげと共に過ごすうちに知らず知らずのうちに人間らしい温かさをタルトは感じていく。

 

その気持ちこそが生前のタルトの感情であり、ペレネルが望む本物の人間の心なのであった。

 




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