人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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106話 伝説の錬金術師

9月も終わりが近づいた頃、暗い書斎に招かれているのは2人の造魔である。

 

「お呼びでしょうか、マスター?」

 

書斎の椅子に座るペレネルは椅子を回転させながら振り向いた後、こう告げる。

 

「…全ての準備は整いました」

 

「では…いよいよ?」

 

「はい…あの悪魔と接触し、戦う事になるでしょう」

 

「あの…質問を許してもらえますか、マスター?」

 

「何かしら、タルト?」

 

「人修羅と呼ばれる悪魔の実力は…1・28事件の情報だけでも凄まじいものです」

 

「……そうですね」

 

「ですが、あれでもまだ本来の力を抑え込んだ戦いだというのは…本当でしょうか?」

 

「その情報は私に取り憑いた悪魔から引き出した情報だから…信憑性には懸念がありますね」

 

「戦ってみないと分からないということね…」

 

「私達も悪魔と合体して生まれた存在です。悪魔の力を完全に発揮してしまえば…」

 

「市街地で戦おうものなら…街に大規模な被害をもたらしてしまうわ」

 

「私はそれが…気掛りです。ですが、マスターが望むというのであれば…」

 

「貴女の気掛りそのものが…あの悪魔の弱点です」

 

「えっ…?」

 

「貴女の気持ちと人修羅の気持ちは同じ。人の命を気にする余りあの悪魔は自ら力を封印する」

 

「そういう人物なんですね…」

 

「だとしたら…つけ込む隙はあるわ。互いに大規模な破壊魔法を行使出来ないのであれば…」

 

「自ずと互いの技量が物を言う戦場となるでしょうね」

 

「私達は人間を盾にして…戦うという事ですか?」

 

「そうです。ですが人修羅も悪魔である以上…怒り狂えば何をしでかすかは保証出来ません」

 

「もし人間に犠牲が出てしまえば…それは私達が招いてしまったも同然ですよ」

 

「私も後方から貴女達をサポートし、なるべく街に被害が出ないように努めます」

 

「それを気取られないよう立ち振る舞いをしなければ…あの男を焦らせられないわ」

 

「フゥ…悪女のマネごとなんて、あまり得意ではないんですけどね…」

 

「…分かりました、マスターを信じます」

 

「戦場は何処を選んだのかしら?」

 

「場所は南凪区の外国人居留地…神浜港が見える丘にある公園内のフランスの山です」

 

「私達にはお誂え向きの場所という訳ね」

 

「話し合いで解決出来ればいいのですが…」

 

「戦場において希望的観測は誤謬(ごびゅう)を生むわ。それでも…そうであってくれたなら…」

 

「私も可能な限りの好条件を用意して交渉に当たります。それでも…希望は薄いですね」

 

「私とリズはそこで敵を待ち伏せます」

 

「彼からマガタマを一つでも奪えたら深追いする必要はないわ」

 

「分かりました」

 

造魔達が部屋を去った後、暗い書斎に浮かぶ悪魔の影に対してペレネルは質問してくる。

 

「…私はもう、何百年生きたのかしら?」

 

「七百年近くは生きているのではないかね?」

 

「人の理を破り、永遠の命を手に入れてまで求めた魔導の奥義……」

 

「お前が魔法少女になってまで求めた原点だな」

 

「今更引き返せない…私はもう、これ以外に縋り付ける寄る辺はないの」

 

「後悔など魔法少女なら誰でもする。だがお前はもう…魔法少女とも言えないな」

 

「そうね……私はもう…星の智慧に囚われた……怪物よ」

 

それから月日も進んでいき、10月1日を迎えた日となる。

 

「えっ?今日は帰りが遅くなるかもしれない?」

 

スマホ片手に電話をしている人物は尚紀の仲魔のネコマタであろう。

 

「ああ、銀子から急に連絡がきてな…俺に会わせたい人物がいるんだとよ」

 

「会わせたい人物…?ニュクス…いいえ、銀子にしては珍しいわね…」

 

「何かキナ臭い感じだ…取り敢えず招待には応じてみる」

 

「気をつけなさいよ。夕飯は適当に冷蔵庫の中身を漁っておくわね」

 

黒いトレンチコートのポケットにスマホを仕舞った後、クリスに乗り込む。

 

「マダムに会いに行くついでに…アタシを業魔殿に放り込むのは勘弁してよ、ダーリン」

 

「分かってる。今日はヴィクトルに会いに行く訳じゃない」

 

改装された倉庫事務所の電動シャッターが開き、車を発進させていく。

 

程なくして業魔殿の地下駐車場にまで移動出来たようだ。

 

車から降りた彼は地下駐車場のエレベーターを使って最上階フロアへ移動する。

 

会員制のBARクレティシャスの入り口にはウラベが立っており、尚紀に忠告してくる

 

「よぉ、尚紀。あんたにお客さんが来ているよ」

 

「どんな奴だ?」

 

「若い女性の外国人だ。そして…俺の命を救ってくれた人物でもある」

 

「お前の命を救った人物…?」

 

「気をつけろ、あの女は得体が知れない」

 

店内に入ると他の来客達はおらず、店の中央で佇んでいるマダム銀子だけのようだ。

 

「今夜は貴方ともう1人の人物だけの貸し切りよ」

 

「何処にいる?」

 

「ついてきなさい」

 

高級ホテルの外観を持つクラブラウンジに案内されると窓際席に座っていた女性が顔を向ける。

 

「……初めまして、嘉嶋尚紀さん」

 

白のレースで飾ったビスチェドレスを纏うのは淑女というよりは十代の少女に見えるはず。

 

眼鏡の後ろ側の細目が開きながら笑顔を向けてきたようだ。

 

「…おい、銀子。こいつの特徴なら…俺はニコラスから聞いた事がある」

 

「…彼女はね、うちの欧米店舗の会員でもあったのよ」

 

「会員だと…?ニコラスは知っていたのか?」

 

「ここは会員制よ?会員の個人情報は固く守られているわ」

 

「…あんたも人が悪い女だよ」

 

淑女を演じる少女は席を立ち上がった後、貴婦人のカーテシー礼を行ってくる。

 

「自己紹介をさせて頂戴。私の名前は…」

 

「当ててやろうか?」

 

「……どうぞ」

 

「お前は中世時代から生き続ける酒浸りの妖怪ババアな上で…」

 

「…女に対して遠慮のない人ね」

 

「ニコラス・フラメルの元妻……ペレネル・フラメルだろ?」

 

ハイセンスなインテリアが上質空間をもたらすクラブラウンジであるが、重い空気に包まれる。

 

それを生み出す存在こそペレネルと向かい合うように座っているお目当ての悪魔人間なのだ。

 

「銀子の店を利用してまで俺に何の用事だ?」

 

「フフ、気を楽にして頂戴。ラウンジの飲み物は飲み放題だから何か注文を…」

 

「結構だ。こう見えて俺は多忙な身でな…本当なら東京の用事に出かけていた」

 

「東京の守護者としてのお仕事かしら?」

 

「お前も俺のストーカーのようだな?」

 

「貴方を調べる時間は沢山あったのよ」

 

「チッ…気味が悪い女だ。話を戻すが、伝説の錬金術師さんが…俺に何の用事だ?」

 

「私は貴方のファンよ」

 

「…ふざけてるのか?」

 

「いいえ、私は貴方に会う為にアメリカから遥々来日する程のファンよ」

 

「サインでも書いて欲しいか?」

 

「ウフフ、それもいいけど……私が欲しいのは別の品よ」

 

薄目が開き、頬杖をついている彼の右手に視線を向けてくる。

 

「それは……貴方のマガタマよ」

 

それを聞いた彼の眉間にシワが寄っていき、店内が凍りつく程の殺気が生み出される。

 

「…何処でマガタマの事を知った?」

 

「私が初めて貴方を知ったのは1・28事件よ。世界規模で有名人になれた日だったわね」

 

「そのせいで…俺は色々な連中から付け回されるようになった…最悪の日だ」

 

「貴方のマガタマの事を私に教えてくれたのは悪魔なのよ」

 

「悪魔だと…?」

 

「私の夫だったニコラスとは…仲がいいんでしょ?」

 

「……まぁな」

 

「だったら私の事情も既に知っているはずよ」

 

「お前に取り憑いた悪魔の事だったか」

 

「私に取り憑く呪わしい悪魔は私に語ったわ…マガタマとは魔導の奥義だとね」

 

「………………」

 

「悪魔の力の結晶は人を死から蘇らせ、神や悪魔の智慧と力を授けて下さると語ったわ」

 

「…ろくでもない代物さ。だが、これがなければ…俺は死んでいたのは確かだがな」

 

「まさに死と再生の力…神であるメシアを表し、悪魔も表す6であり…9となるマガタマなの」

 

「俺からマガタマを奪いに来た奴だったか。だが、無駄なことだ」

 

「どうしてかしら?」

 

「マガタマは適正が無い者が使用すれば…呪い殺される」

 

「そんな秘密があったなんて……」

 

「マガタマは意思はなくとも生きている。これは所有者を選ぶ呪物…選ばれる保証はない」

 

「………………」

 

「マガタマとは、体だけでなく魂まで悪魔と為すか否かを常に問う…呪われた悪魔の道具さ」

 

「フッ…フフフ……アハハハハハ!!」

 

彼女は興奮して笑い出すのだが、彼は隙を見せずに見物し続ける。

 

「素晴らしいわ!!まさに魔導の究極よ!!」

 

「……そうかもな」

 

「原初の智慧を求めし魔導の探求者達が求めた理想よ!!ついに見つけたわ!!」

 

「…俺の話を聞いていなかったようだな?」

 

「適正問題よね?それも研究を重ねて解決してみせる…マガタマを私に売って頂戴」

 

「断る」

 

即答してくるが、机の上で組んだ両手に顎を乗せながらペレネルは余裕の表情を変えない。

 

交渉の席では何処まで譲歩出来るかを予め決めておけば思考のフリーズは起こらない。

 

ここからが彼女にとっては懐かしいビジネスの時間であろう。

 

「貴方は私と同じく資本家だと聞いているわ」

 

「それがどうした?」

 

「貴方は自分の資本を使い、孤児達の支援に尽力するNPO法人を立ち上げたようね?」

 

「まさか…断れば俺の仕事仲間を襲う気か…?」

 

「勘違いしないで。私はビジネスパートナーになる用意があると言いたいの」

 

「ビジネスパートナーだと?」

 

「私もアメリカで孤児達を保護してきたわ。彼女達の苦しみは私も理解出来るから」

 

「ふん。お前が慈善家だからといって、俺は懐柔される気はない」

 

「私も孤児を救いたい、貴方も孤児を救いたい。私達には共通点があるのよ」

 

「……そうかもな」

 

「悪魔の宝石の売値は確か1000億ドル。長年の継続した支援は難しいわね」

 

「スイスで売った俺の宝石のニュースも耳に入っていたか」

 

「私なら毎年必要な額の支援を嘉嶋会に寄付出来る。大勢の孤児が救えるわ」

 

「貴様……」

 

「貴方に懐いているあの魔法少女姉妹達も喜んでくれるんじゃない?」

 

「このは達を出汁に使うな」

 

「NPO法人の理事長である貴方には魅力的な提案よ…でも、等価交換ね」

 

「そこまでして俺のマガタマが欲しいか?」

 

「お互いが得をする関係を築きたいけれど…私だって手ぶらでは帰れない」

 

「チッ…」

 

「貴女もそう思うでしょ?マダム銀子?」

 

「…確かに、嘉嶋会にとっては魅力的な提案だと思うわね」

 

ラウンジ内のBARカウンターで静かに清聴していた銀子からも肯定の後押しがくる。

 

「交渉上手め。お前のように舌が回る女なら…悪魔さえ抱き込めるよ」

 

「一般論だけど、無い袖は振れないわ。貴方は資本家であるけれど、投資家ではない」

 

「財は増やせないか。急いでFX企業を立ち上げたが…このは達がどれだけやれるかは未知数だ」

 

(こちらのペースね…後は二者択一よ)

 

「孤児を救う未来を築くか、途中で頓挫させるか…この場で選んで欲しいわ」

 

尚紀は腕を組みながら重い沈黙に包まれていく。

 

これ程までの交渉術を仕掛けてくる相手なら、かつての彼なら抱き込めたろう。

 

「お前がやり手の投資家であり、慈善家だと理解出来た。その気持のまま欧米の孤児を救え」

 

「えっ…?」

 

「提案は断る。嘉嶋会の事を嗅ぎ回ったのなら…共同代表であるお前の旦那の存在に気付け」

 

「…そうだったわね。ニコラスも私に負けない投資家であり、慈善家だったわ」

 

「あいつがいなかったらお前の提案を飲んでいた。ニコラスに出会えて良かったよ」

 

席を立ち上がった後、去る前に立ち止まった彼はペレネルにこう告げる。

 

「お前達夫婦の問題に俺は口を挟まない。だが…俺をしつこく付け回すなら…容赦しない」

 

「残念ね……ニコラスにしてやられたわ」

 

「ペレネル…お前はその長過ぎる空虚な人生に何を見出だせた?」

 

「今となってはハリボテだらけだけど……夢よ」

 

「夢だと…?」

 

「貴方にはないのかしら?絶対に捨てたくない夢が?」

 

「絶対に捨てたくない…俺の夢か…」

 

「私の夢は私を苦しめる悪夢と化した…それでも、この夢を背負いながら苦しんでも生きるわ」

 

「…いつかお前の言葉が…俺にも襲いかかってくる日が…来るのかもな」

 

BARクレティシャスを後にする彼の後ろ姿をペレネルは黙って見送る。

 

「ホームグラウンドに引きずり込んだけど…手強いわね」

 

「こうなる事も計算済みなんでしょ?」

 

「ニュクス…私を止めないの?」

 

「古い友人の生きる楽しみを奪うだなんて、私には出来ないわ」

 

「…ありがとう、私の我儘に付き合ってくれて」

 

上品なバックの中からガラケーを取り出し、何処かに連絡をいれる。

 

「こちらはしくじったわ…プランBでいくわよ」

 

「了解、マスター」

 

立ち上がったペレネルの顔には諦めなど浮かんでおらず、目的を必ず果たす覚悟が宿っていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

中華街駅近くの駐車場に車を駐車した尚紀は神浜の山手エリアを歩く。

 

ここは外国人居留地として開港の歴史を見守ってきた場所であり、水名区と並ぶ歴史地区だ。

 

「こんな遅くに依頼の連絡とはな…しかも俺を名指しで指名してくるとは…」

 

都市部にある高台エリアのフランスの山に入るため、フランス橋のアーチを超えていく。

 

開港直後の外国人殺傷事件を背景に自国民保護の為にフランス軍が駐留した歴史ある場所だ。

 

「…なんだ?」

 

橋のアーチを超えた時、違和感を感じた彼は周囲を見回す。

 

辺りを進むと霧がかかるように白く霞んでいく。

 

「この石段の上にある旧フランス領事館跡で待ち合わせだが…どうも臭うな」

 

石段を昇りながら木々を超えていき、街灯は少なく霧もあるため辺りは視界が悪い。

 

程なくして領事館跡のゲートが見えた彼は門を開けて中に入り込む。

 

「あいつか…?」

 

小屋のような建物と小さな風車がそびえ立つエリアで佇む少女を見かけた彼が近寄っていく。

 

「……来ましたね」

 

「外国人の少女…?お前が依頼人か?」

 

「申し訳ありません。依頼の件という話でご足労願いましたが……嘘です」

 

「何だと…?」

 

「私の名はジャンヌ・ダルク……貴方を倒す者です」

 

「貴様…!?」

 

背中に隠し持っていたクロヴィスの剣を鞘から抜くと眩い光が迸る。

 

「くっ!!」

 

目が眩む光量が収まった場所に立っていたのはフランス国旗を外套として纏う黒騎士なのだ。

 

「この魔力は…魔法少女じゃないな!?お前は…まさか!?」

 

「私はジャンヌ・ダルクと呼ばれる英雄の写し身…造魔と呼ばれる悪魔です」

 

「ヴィクトルが研究していた造魔か…あいつ以外で、これ程までの造魔を生み出すとはな…」

 

クロヴィスの剣を正眼で構える。

 

凄まじい剣圧を放つ英雄造魔を見た尚紀はケルトの英雄クーフーリンの姿が頭に過る。

 

「フッ…また英雄と戦える日が訪れようとはな…いいだろう!!」

 

右手をかざした彼もマガタマを生み出す。

 

相手は重装甲の騎士であり、物理攻撃を得意とすると判断した彼は『カムロギ』を出現させる。

 

「……かかりましたね」

 

「何っ!?」

 

光輝くクロヴィスの剣が暗い周囲を照らしながら影を生み出している。

 

影から飛び出してきたのは影で編まれた鞭であり、マガタマに絡みついて右手から奪われる。

 

「他にもいたのか!?」

 

視線を向けた先に立っていたのは黒い外套を纏うリズの姿であるようだ。

 

「白い肌に赤い瞳…こいつも魔法少女ではなく、造魔なのか…?」

 

「目的は果たしたわ。引くわよ、タルト」

 

「了解です、リズ」

 

「最初から俺のマガタマを目的にしていたなら…お前らの飼い主も検討がつく」

 

「盗人のような真似をするのは本意ではありませんが、全てはマスターのため」

 

「そうかよ……だが、無駄な足掻きだ」

 

「えっ…?」

 

「な、何!?マガタマから炎が…っ!?」

 

リズの左手に握られたマガタマから深碧の炎が噴き上がったせいで咄嗟に落とす。

 

炎に包まれたマガタマが消えていき、尚紀の右手に返ってくる。

 

「マガタマは所有者を選ぶとお前達の飼い主に伝えたはずだ。報告連絡相談は大事だよな?」

 

「くっ…無理やり奪うだけではマガタマを手に入れられないのね…」

 

改めてカムロギを飲み込み、上着を掴んで脱ぎ捨てる。

 

「これが…人修羅と呼ばれる悪魔の姿…」

 

「私達造魔とは違う…人なる悪魔なのね…」

 

全身に発光する刺青を持つ悪魔の姿は映像で見た事はあっても威圧感は比べる事は出来ない。

 

しかし相手は虚心の造魔であるため、恐怖で怯む事はないだろう。

 

「そろそろ出てきたらどうなんだ?」

 

周囲から感じる魔力の中で一つだけ悪魔とは違う魔力が存在していると人修羅は見抜いている。

 

<<やはり、一筋縄ではいかないみたいね>>

 

暗闇の道から歩いてきたのはドレス姿から魔法少女衣装へと変わったペレネルであろう。

 

「交渉でダメなら実力行使か?狡い上にセコい女だ」

 

「言ったはずでしょ?手ぶらでは帰れないとね」

 

「俺は断ったはずだ。それでも俺に付き纏うなら…」

 

「容赦をしない?ここがどんな場所なのか…貴方は理解しているのかしら?」

 

「…お前もペンタグラムと同じ手口を使ってくるか」

 

「貴方は混沌王と呼ばれる大悪魔。まともに戦っては…私の造魔でも歯が立たないわ」

 

「お前がどんな奴なのか…これで証明出来たな。望み通り…ぶっ潰してやる!!」

 

「マスター、手筈通りに」

 

「分かっています。私は陣の構築を行うために広場で待ちます」

 

転送魔法陣を生み出したペレネルの姿が消えてしまう中、彼を囲む造魔達が武器を構える。

 

リズは鞭から2本のダガーに持ち替えており、逆手に持ちながら勝負を挑む。

 

「この丘は私達しかいません。他の人間が入り込む事はないでしょう」

 

「どういう意味だ?」

 

「マスターの結界が作用してます。たとえ神浜の魔法少女が騒ぎに気づこうとも近寄れません」

 

「この結界は惑わすだけの幻影。魔法攻撃を使えばそのまま結界を素通りして街に当たるわよ」

 

「そうなれば、一体どれだけの人々が巻き添えとなり…死んでしまうのでしょうね?」

 

「貴様ら…何処までも腐った連中だな!!」

 

「本意ではありません。ですが…全てはマスターの夢の為に」

 

「戦争はスポーツではないわ。悪く思わないで」

 

「マガタマを奪えないのであれば…貴方ごと奪ってみせましょう」

 

「上等だ…かかってこい!!」

 

拳法を構える彼の甘さを見た造魔達は情報は正しかったと理解した後、襲い掛かるのであった。

 

 

タルトの袈裟斬りを潜り抜け、振り向く彼女の右薙を上半身を仰け反らせながら回避する。

 

横から迫るリズの左薙を右手で捌き、左手で奥に突き出す。

 

タルトの逆袈裟斬りを左に避け、続く左薙を腰を落としながら回転して避ける。

 

「くっ!」

 

そのまま後ろ回し蹴りを放たれたタルトが蹴り飛ばされる。

 

体勢を戻した頃には既にリズがワンインチ距離にまで詰め寄っているようだ。

 

「私の間合いよ」

 

「どうかな?」

 

互いの右肘がぶつかり、そのまま逆手ダガーの顔面突きを放つ。

 

それに対して右肘を返しながら右手首で止める。

 

左のダガー突きが右脇腹に迫るが左手で手首を止め、そのまま左裏拳を顔面に放つ。

 

「くっ!!」

 

怯んだ彼女に右回し蹴りを放つが、後方に目掛けて側方宙返りをしながら避ける。

 

「ハァァーーッッ!!」

 

後ろから突撃して右薙を放つ斬撃をバク宙を用いて人修羅は避ける。

 

影で編まれた曲刀に持ち替えたリズの左薙に対し、右蹴り足で手首を止めた後に跳躍する。

 

「グッ!?」

 

後方から迫るタルトの踏み込み斬りにカウンターを合わせる形で左旋風脚を放ち、彼女を弾く。

 

曲刀の連続斬りを上半身運動で避け、左薙に対しては身を低める人修羅はカウンターを狙う。

 

背中から足を回して蹴り込むサソリ蹴りがリズの顔面に決まったようだ。

 

尚も背後から襲いかかるタルトの袈裟斬りをサイドに避けつつ横蹴りで蹴り飛ばす。

 

怯まぬタルトの連続斬りが迫る中、人修羅は武術のトラッピング技術を用いるだろう。

 

袈裟斬り・逆袈裟、続く左薙を手首止めしてきた彼に踏み込み、鎧を活かした体当たりを放つ。

 

「チッ!!」

 

小柄ながらも強力な体当たりを浴びた彼が後方に下がった時、足元に何かが絡まる。

 

「なんだ!?」

 

突然何かで引き倒され、うつ伏せに崩れた彼に目掛けてタルトは飛び込み、唐竹割りを放つ。

 

体を横倒しに回転させながら頭を割る一撃を回避する。

 

右手から光剣を生み出し、左足に絡みついていた影の鞭を切り裂きながら拘束を逃れたようだ。

 

「影の中に潜める魔法だと…?まるでスカアハだな!」

 

タルトの光輝くクロヴィスの剣によって影は常に生まれ続ける。

 

人修羅の足元に広がる影から次々と影の槍が生み出されていき、貫かんと迫り続ける。

 

「くっ!!」

 

人修羅は後方に目掛けて片手の側転移動を繰り返しながら影の槍を避け続ける。

 

ここは公園として再整備されており、花壇が並べられているため歩道は狭い。

 

もっと開けた場所に移動するため人修羅はフランス山の奥を目指し始めるだろう。

 

後方からは造魔達が迫っており、激戦が繰り広げられながら誘導されていく。

 

フランス山の奥に進めば展望台広場があり、そこで佇むペレネルは大きな真鍮器を持っている。

 

「…ソロモンの器を再現するのには苦労したわ。効果があってくれたらいいのだけれど…」

 

金魚鉢のような球状の鉢に見える道具こそ、ソロモンが召喚悪魔を封印した際に用いた封魔具。

 

デビルサマナーが用いる封魔管よりも更に歴史が古く、強力な代物であろう。

 

「ソロモンはこれを用いて魔王達を軍勢諸共に封印出来た…私に使いこなせるかどうかね…」

 

懸念もあり、人修羅が大人しく封印されるはずもない点であろう。

 

「ある程度は痛めつけて動きを止めなければ…封印は成立しないわ」

 

デビルサマナー達もまた悪魔を封魔管に封印する際には相手の動きを止めている。

 

西洋も東洋も歴史を辿れば悪魔との付き合い方は同じであったのだろう。

 

「後は…タルトとリズを信じるしかないわね」

 

その3人は展望台広場に近づきつつあり、人修羅の打撃を浴びながらも動じない様子である。

 

「こいつら…痛めつけても怯みもしないか…」

 

虚心であるため、苦痛があろうが感情を掻き乱される事はない。

 

人修羅もまた彼女達の猛攻を浴びたせいで所々に傷が見えるだろう。

 

「おい…聞いてもいいか?」

 

「…何でしょう?」

 

「お前達も悪魔なんだろう?どうして攻撃魔法を使ってこない?」

 

「……………」

 

「人間を盾にするような外道共が、周りの人間の命を気にするような態度で何故戦う?」

 

「…先程申した言葉と同じです」

 

「…本意ではないか?なら、お前らは最初から……」

 

「問答をする為に私達はここにいるわけではないの」

 

影で生み出されたクレイモア大剣を持ったリズの攻撃に対し、人修羅は光剣を生み出す。

 

光剣の左切り上げ、逆袈裟斬り、回転を加えた左薙をリズは捌く。

 

連続斬りからの突きを捌きながら体勢を回転させて袈裟斬りを放つが彼は後ろに下がる。

 

タルトもリズに続きながら互いが連続斬りを仕掛け合う。

 

光剣の右薙を避けたタルトは反撃の袈裟斬りを放つが、背を向けたまま光剣の刃で受け止める。

 

タルトの刃とリズの刃は魔力が放出されており、光剣の光熱を受け止める事が出来たようだ。

 

「見事な武芸です…ですが、私だって!」

 

互いが構え直し、斬撃がぶつかり合う鍔迫り合いのまま刃を滑らせ、互いが奥に踏み抜ける。

 

タルトの右薙を光剣で受け止めて刃を滑らせるが、クロヴィスの剣の鍔で光剣を受け止める。

 

両手を使って握りを回転させ、人修羅の体勢を前に流し込みながら刃を返す袈裟斬りが決まる。

 

「ぐっ!!」

 

本来なら真っ二つの一撃だが、マガタマのカムロギは驚異的な物理耐性を人修羅に与える呪物。

 

肉を斬り裂かれるだけに留めたが、右肩から胸に走るように出血が滲んでしまう。

 

タイミングを合わせたリズも動く。

 

クレイモア大剣を杖のように地面に突き立てながら棒高跳びの要領で両足蹴りを放つ。

 

「ガハッ!!」

 

同時攻撃を仕掛けられた人修羅が蹴り飛ばされていき、展望台の広場に倒れ込む。

 

「くっ……」

 

人修羅が倒れ込んだ周囲には陣が仕掛けられており、ペレネルはヘルメスの杖を地面に掲げる。

 

「今ね…!」

 

魔力が地面に注がれた事で魔法陣が起動する。

 

「何だ!?」

 

赤く光る地面を見ればソロモンが用いていた五芒星が浮かび上がっている。

 

体から力が奪われていき、地面に這いつくばってしまうが人修羅は抵抗してくる。

 

「くっ…!!この悪魔…なんて抵抗力なの!?」

 

五芒星の封印に抵抗するように立ち上がっていく人修羅であるが追い打ちが放たれる。

 

彼を拘束するかの如く地面の影から拘束具が次々と飛び出してきて体に絡みつく。

 

「テメェ…!!」

 

「大人しくしていなさい!!」

 

視線を向けた先には地面に手をつきながら影の魔法を編み込み続けるリズがいる。

 

「こんな状態で…大人しくしていられる悪魔がいるかよ!!」

 

リズに視線を向けていた彼の目が瞬膜と化す。

 

「な、何…!?」

 

幻惑魔法の原色の舞踏をかけられた事でリズの五感が狂っていく。

 

「リズ!援護します!!」

 

タルトは地面に片膝をつき、祈りを捧げるポーズを行う。

 

造魔達の周囲に光が巻き起こり、2人の傷と状態異常を完全回復してしまう。

 

「常世の祈りだと…!?これ程までの回復魔法をあの造魔は使いこなせるのか!」

 

「マスター!今です!!」

 

「心得ています!」

 

地面に置かれているのは封魔道具であるソロモンの器であり、ペレネルは詠唱を始める。

 

Ἑκάς, ἑκὰς ἔστε, βέβηλοι.(不浄な者達よ、遠ざかれ)

 

真鍮器の蓋が開き、悪魔を封印する吸魔が発動する。

 

「ぐおおおーーーーッッ!!?」

 

影に拘束されたまま人修羅の体が器に目掛けて吸い込まれていく。

 

魔力を最大限に発揮しながら踏み留まるのだが、長くは持たないだろう。

 

その時、銃弾の銃声と共に真鍮器が砕け散る。

 

<<あらあら?私がボディガードをしてあげていなかったら、今頃使い魔にされていたわね>>

 

影の拘束を力任せに千切りながら声が聞こえた方角に目を向ける。

 

「……お前かよ」

 

花壇広場から歩いてきたのはナイトスコープ付きM110狙撃銃を抱えたナオミのようだ。

 

「あ…貴女は一体…!?」

 

「その悪魔は使い魔候補として私が先に目をつけていたのだけれど?」

 

――横取りは関心しないわね…オバサン?

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「貴女はもしかして…デビルサマナー?どうやって私の結界に入ってこれたの…?」

 

突然の来訪者に近づきながら怒気を含む質問を言ってくるペレネル。

 

長年かけて研究した努力の成果が無残にも砕かれれば怒りもするだろう。

 

「貴女の結界は私の使い魔である蚩尤(シュウ)が得意としていた幻惑術ね。暴き方は知ってるわ」

 

「驚いた…中国の伝説の魔王を使役出来るサマナーだなんて…」

 

「奇門遁甲を用いて方位を見失わなければ辿り着ける。下にいる魔法少女は迷ってたけどね」

 

「貴女の目的はそこの悪魔を護衛する事なの?」

 

「依頼人からはそう請け負ってるの、ビジネスだから悪く思わないで」

 

「助けてくれと頼んだ覚えはないぞ」

 

背後を振り向けばソロモンの五芒星結界が破壊される光景を見てしまう。

 

拳を地面に打ち込み、魔力をぶつけて破壊した人修羅がいたようだ。

 

「私が来るのが遅ければ、封魔管と同じ場所に放り込まれるところだったのではなくて?」

 

「チッ…貸しを作っちまったか」

 

ペレネルの元まで造魔達は駆けつけながら来訪者に武器を構えてくる。

 

「あら?私とやり合うつもりかしら?」

 

「よくもマスターの計画を邪魔しましたね…」

 

「覚悟は出来ているのかしら?」

 

敵意を剥き出しにしてくる悪魔を前にしてもナオミは不敵な笑みを崩さない。

 

「ナオキ、この獲物は私が貰ってもいいのかしら?」

 

狙撃銃をスリングで背中に回し込み、左腰のベルトから封魔管を一つ取り出す。

 

「…煮るなり焼くなり好きにしろ」

 

「勿論、そうさせてもらうわ」

 

夜空を指差すと霧が舞う空に輝く満月が浮かんでおり、月齢のFULL MOONを表している。

 

「貴女達…運が無かったわね」

 

「…どういう意味かしら?」

 

「時期に分かるわ。伝説の錬金術師であり…魔法少女さん」

 

封魔管を振りかざすナオミは召喚悪魔の名を高らかに叫ぶ。

 

「来たれ…()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

封魔管が開き、感情エネルギーであるマグネタイトが溢れ出し、ナオミの背後に巨人が現れる。

 

<<盟約により、満月の夜には汝を助けよう。不届き者共に誅伐を下す>>

 

ペレネルの細目が見開きながら驚愕する程の表情を浮かべていく。

 

「まさか…この悪魔は……魔王ヘカーテ!?」

 

【ヘカーテ】

 

魔術を司る月の女神であり、名は遠くから働く者という意味合いをもつ。

 

冥界神ハデスや冥界の女神ペルセポネーを補佐する冥界の女神とも考えられている。

 

かつては死者が路傍に葬られた事から冥界に通じる道路の支配者であるとされたようだ。

 

処女・母・老婆、または犬・馬・獅子といった三位一体の姿で表される事が多い。

 

中世ヨーロッパでは魔女達の女王とされ、ボルボとも同一視される存在である。

 

死を司る3面の女神であるため、疾病はヘカーテの呪詛であり魔女の仕業だと言われた。

 

「中世時代に異端者と罵られた魔法少女にとっては…馴染み深い悪魔ではなくて?」

 

体は女性であるが頭部は獅子・犬・馬の頭部を同時に持つ女悪魔。

 

女性の部位は黒革SM衣装を思わせる着衣を纏い、両手には巨大な鞭を携えている。

 

「…そうね。獅子と犬と馬の顔を同時に持つ女神の像なら…私の屋敷にもあるぐらいよ」

 

「私の素となったタルトは異端と呼ばれても…こんな三つの顔の化け物は崇拝しませんよ」

 

「…マスター、タルト、私に掴まりなさい」

 

巨大な鞭をヘカーテが構えた時、月の女神に呼応するかのように夜空の満月が強く輝きだす。

 

「我を召喚せし者よ…汝は我に何を望む?」

 

「…薙ぎ払いなさい」

 

「至極恐悦。久方ぶりに我の力…見せつけよう!!」

 

「おい!?これ程までの魔王の力を使えば街が…!!」

 

「慣れている、任せなさい」

 

巨大な鞭が振るわれて地面が爆ぜる。

 

月の光が収束し、ペレネル達の頭上に放射されるのは周囲を焼き尽くす万能属性魔法。

 

満月の夜にしか使えない必殺召喚術である『満月の女王』の力であろう。

 

眩い月の光が収まり、周囲に目を凝らせば凄惨な光景を目にするはず。

 

「こいつは……明日の朝刊のネタは決まりだな」

 

巨大レーザー放射で大穴が穿たれたかのように地面は掘られ、熱の蒸気が噴き上がる。

 

周囲の霧も収まり、ペレネルの結界は消失したのを確認したようだ。

 

「……やったか?」

 

「…いいえ。あの一瞬、造魔の一体が2人を影の中に引きずり込むのをヘカーテが見たわ」

 

右手の封魔管にヘカーテを戻した後、腰のベルトに戻したナオミが振り向いてくれる。

 

「傷を負ったようだけれど、治して欲しい?」

 

「結構だ。これぐらい自前で治す」

 

「フフッ、私の治療は代金を請求させてもらうから」

 

「依頼内容以外は金勘定かよ…つくづくビジネスウーマンだな?」

 

「それより早く上着を拾ってきなさい。麓にいる魔法少女達が上がって来ると面倒よ」

 

「分かった。俺は上手く切り抜けるから、お前も魔法少女共に見つからないようにな」

 

2人は解散し、悪魔化を解いた尚紀は急いで上着を取りに走る。

 

「ペレネル・フラメルか…あの女はこの程度で諦めるような奴じゃないな…」

 

このまま戦いを挑んで来るなら自分はペレネルを殺してしまう。

 

その末路を与えるべきなのはニコラスであり、彼は迷いに支配されてしまうのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…そうか、妻と会ってしまったか」

 

後日となり、南凪路のジュエリーRAGに訪れた尚紀はことの顛末を語ってくれる。

 

「あの女の来日目的は俺のマガタマだ。魔導の奥義を極めたいから寄越せだとよ」

 

「それだけが彼女の寄辺…我々は無駄に長く生き過ぎたが…それでも生きる理由が必要だ」

 

「あの女は造魔研究を完成させていた。造魔共はタルトとリズという名を名乗ってきたな」

 

「…その者達こそ、百年戦争の際に妻が手助けした魔法少女達だ」

 

「タルト…いや、ジャンヌ・ダルクの最後は…お前もルーアンで見たんだろ?」

 

「ああ…凄惨な最期だったよ」

 

「リズと呼ばれる存在については何か知っているか?」

 

「リズ・ホークウッドだ。イタリアの傭兵一族として歴史に名を残した猛将の孫に当たる」

 

「なぜペレネルは英雄と猛将の孫を造魔として蘇らせたんだろうな…?」

 

「……贖罪かもしれん」

 

「お前はアメリカであいつらを見たんだろ?何か聞かなかったのか?」

 

「妻は…私に自分の研究を見せてはくれなかった。追い出されるばかりの辛い日々だった」

 

「そうか…」

 

「すまんが…私は用事を思い出した。…今日は店仕舞いだ」

 

「ニコラス……」

 

怪訝な表情を浮かべながらも促された尚紀は退店してくれる。

 

その夜、ニコラスは新しい屋敷の地下にある錬金術研究所内を進んでいく。

 

ここは尚紀も引っ越しの荷物を運ぶ時に訪れているが、訪れていない場所もある。

 

書斎にある棚の本を動かすと棚がスライドし、隠しエレベーターが出現する。

 

エレベーターに乗り、研究所の最下層へと至る道中の中、昔の記憶が過っていく。

 

「愛するが故に…離れ離れになる道を選んだ彼女は…何を得た?」

 

彼女が進んだ道の先にあったのは英雄の死であり、それを招く一翼を担ってしまった罪。

 

「彼女の為に賢者の石を完成させる道を進んだ私に…何が残った?」

 

妻と共に永遠を生き、共に苦しみを背負う事を望んだ彼の道の先にあったのは妻からの拒絶。

 

「呪われた数百年の歴史を我々は生きてきた…。それは……妻の苦しみを救う為だ」

 

マガタマを手に入れて彼女の夢を完成させる為か?きっとそれは違うはず。

 

「ペレネル…もう星の智慧を求めるな。知りたいと思う気持ちは理不尽な苦しみを得るだけだ」

 

エレベーターが最下層に到着した後、扉が開く。

 

「私は…愛する妻の死を願う者。そして、我が身の死を望む者…」

 

周囲を見ればヴィクトルの業魔殿最深部と同じ気配を漂わせる禍々しい空間が出迎えてくれる。

 

「ナオキ君に言われた。愛している魔法少女を救いたいのなら、自分の力でやってみせろと…」

 

相手は造魔研究を完成させて英雄と猛将を従えた魔法少女であり、自分と並ぶ程の錬金術師。

 

自分独りで成し遂げるには、あまりにも力の差が広がり過ぎている。

 

「私も覚悟を決めるべきか…しかし…それは…」

 

右手が震えながら握り締められていき、やろうとしている危険行為に恐怖してしまう。

 

彼がやろうとしている行為は永遠の命を得る苦しみを超える程の地獄となるだろう。

 

「せっかくだ…もう一度だけ…妻を説得しに行こう。夢は諦めて…共に生きようと頼み込もう」

 

決心がつかないニコラスは地上に戻っていくが、希望的観測を持つ事は出来ないのであった。

 




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