人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
季節は10月が過ぎていく頃、日が昇り初めて一日が始まろうとしていく。
神浜北部の平地と里山を結ぶ緩衝地帯には竹林がある。
早朝であり山深い場所のため人はあまり訪れないのだが、今は利用者が存在しているようだ。
「……………」
正座し、瞑想している尚紀は仕事前の鍛錬を行っている。
今日はあきら達とは付き合わない鍛錬であり、彼の前には打刀が置かれているようだ。
風が吹きぬけ竹林を揺らしていく中、彼の目がカッと開いて打刀を手にする。
仕事着である黒いスーツベストの下に見えるのは特注の刀帯ベルト。
打刀を腰の刀帯に通した後、右手を柄に近づけていく。
刹那、刀身が瞬時に抜かれると同時に斬撃が放たれる。
「スー……ハー……」
片膝立ちの状態から立ち上がって八相構えを行う。
唐竹割り、回転右薙から霞の構えに移行しながら腰を落とす。
演武を繰り返し、片膝をつく形で腰帯から鞘を抜き、ゆっくりと刀を差しながら立ち上がる。
「…値打ちモノのこの刀なら持つだろうか?」
林の奥に歩みを進めていき、山間の山道を進むと程なくして川の音が聞こえてくる。
「あの大きさの岩でいいか」
川岸の河原の奥には不釣り合いな大岩があり、腰を落としながら左手で鞘を握り込む。
右手を柄に近づけていき、大岩からは大きく離れた位置から斬撃を狙う。
「……ッ!!」
刀が一瞬抜かれたかと思えば鞘に収める音が響き、短い静寂が場を支配する。
遅れるようにして大岩がバラバラに切断されていく中、彼の表情には落胆が浮かぶ。
「……これでもダメか」
横に視線を向ければ折れてしまったボロボロの刀身が転がっている。
「刀鍛冶の名門一族に特注した品だったんだがな…」
溜息をついた彼の頭にマロガレの中に溶けた魔剣スパーダの声が響く。
<<見事だ。スパーダの剣技のうち、バージルに伝えた剣術は会得出来たようだな?>>
<俺と居合の技術は相性がよかった。暁美ほむらから受けた傷はまだ回復しないのか?>
<<まだかかる。それよりも問題なのは…>>
<ああ…せっかくのスパーダの剣術だが、耐えられる武器がない>
<<スパーダがバージルに伝授した剣技は居合。抜身の光剣では再現出来る技は乏しい>>
<ダンテが持っていた魔剣に匹敵する程の刀が必要か…>
腕を組みながらかつての世界の記憶を辿る。
武神達が携えていた数々の武器であっても耐えられるかは未知数のように思えてくる。
そんな時、かつての世界の彼が所有していた刀の事を思い出す。
「公の御剣……将門の刀……」
それはかつてのボルテクス界において坂東宮と呼ばれる将門の領域に進む為に手に入れた品。
カグツチ塔の近くにあった将門の首塚跡において使用した過去があったようだ。
「坂東宮に入って毘沙門天達を倒し、マサカドゥスを手に入れたのはいいが…」
坂東宮から帰ってみれば将門の刀は役目を終えたかのように消えていたのを彼は覚えている。
「将門に刀をくれと頼んでみるか…?いや…もうマサカドゥスを貰ってるしな…」
視線を空に向ければ太陽が昇り始めている事に気づく。
「考えても仕方ない。そろそろ仕事に向かうか」
踵を返して家に帰っていた時、ポケットのスマホからメールの着信音が響く。
手にとって見てみると美雨が文句のメールを送り付けてきたと分かるだろう。
『ナオキ、朝練サボたカ?組み手出来なくて、あきらが不貞腐れてるヨ」
頭を掻き、適当な言い訳文を打ち込みながら帰路についていった。
♦
「何?仕事がないから今日は休み?」
「ポスティングの出だしは良かったが、後はからっきしだからなぁ」
「まぁ…私立探偵の仕事は無い時は無いもんだからな」
「俺は副業を行う部屋の整理がまだ残ってる。お前はどうする?」
「そうだな…俺も便利屋の仕事があるか聞いてみるか」
二階事務所から降りた後、東京のシュウに連絡を入れてみる。
「えっ?歌舞伎町の方も仕事はないのか?」
「ええ。防犯ボランティアの方々も頑張ってくれてますし…今のところは大丈夫ですよ」
「そうか…また連絡するよ」
黒いトレンチコートのポケットにスマホを仕舞った後、どうしようか考え込む。
「…取り敢えず、家に返って何をするか考えてみるか」
家に帰ると仕事に行く彼を見送ってくれたネコマタ達が不思議そうな顔を向けてくる。
「あら?今日は仕事はなかったの?」
「まぁな…」
「丁度いいニャ、せっかくの月曜祝日なんだし…尚紀も偶には骨休みするニャ」
「そうはいくか。仕事がないなら俺は東京の守護者としての役目を果たしに向かう」
「貴方の政治圧力によって、東京の魔法少女達は大人しくなったんでしょ?いいじゃない」
「だが…もし俺の法を無視する者が表れたら…」
「その為の相互監視社会じゃない?貴方が施行した政策を貴方が信じなくてどうするの?」
「そ、それは……」
「チンピラ魔法少女達も尚紀の法律に縛られてしまえば社会の役に立つ存在に化けるニャ」
「それが貴方が求めた全体主義による幸福社会の在り方でしょ?」
「まぁな……」
「任せたらいいわ。東京の守護は全体で行うべきなのよ」
「東京の魔法少女達も尚紀が今日現れなくても明日現れるかもと震え上がるに決まってるニャ」
「参ったな…突然自由時間が出来たとしても…俺は何をやっていいのか検討もつかない」
「ワーカーホリックも、ここまできたら病気だニャ」
「取り敢えず、その辺を散歩しながら近所付き合いしてみたらどう?」
「…そうしてみるか。歩いているうちに何かやりたい事も見つかるかもしれない」
着替えるのも面倒だと思い、黒いトレンチコート姿のまま家から出てくる。
「散歩だし…クリスに乗らなくてもいいか」
突然の休日襲来に戸惑いながらも彼は歩みを街に向けながら歩き続けるのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
北養区の山道から住宅区まで歩いていた時、何かを思い出す。
「そういや、あれ以来食べに来てないな…」
隣に顔を向ければ老舗洋食屋のウォールナッツが見え、店の前では清掃を続けるまなかがいる。
「あっ!前にうちに来てくれたお兄さんじゃないですか!」
小さなコック娘が駆けてきて朝の挨拶をしてくれる。
「この前はごめんなさいです…猫ちゃん達にまなかは劇物料理を提供してしまいました…」
「気にするな。無理を言って飼い猫を上がらせたのは俺なんだから」
「でも大丈夫です!あれからまなかはペット料理も作れるように修行を重ねたんです!」
「そ、そうか…家も近所だし、また今度ケットシー達を連れてきてみる」
「えっ?ご近所さんになられたんですか!?」
「嘉嶋尚紀だ。お前の料理は美味いからな…また寄らせてもらうよ」
「胡桃まなかです!今後とも、ウォールナッツをご贔屓に♪」
手を振って見送ってくれる彼女に対し、彼も頷きながら去っていく。
北養区の高級住宅街の通りを歩いていると誰かを見つけてしまう。
「あいつは…?」
通路に立ち、カメラを向けながら公園を見回している少女には覚えがあったようだ。
「学生新聞の記者がこんなところで何をやっている?」
「うわっ!?仕事中に突然声をかけられると…観鳥さんもビックリするじゃないか」
「南凪自由学園の制服を着ているが、今日は祝日じゃなかったのか?」
「ちゃんと学生新聞の記者だってアピールしとかないと、不審者に思われるからね」
PRESSと書かれた腕章を見せながらドヤ顔してくるのはかつて出会った観鳥令であろう。
「何を撮影していたんだ?」
「この辺に現れるっていう、特別な猫を撮影出来たらと思ってね」
「猫の撮影?」
「観鳥さんの学生新聞で一番の人気記事はね、街角のネコを撮った今日のネコ日記なんだ」
「なるほど。それで…どんな風に特別な猫なんだ?」
「聞いた話だとね?スマホでゲームして遊べる猫や、読書してたらやってくる白猫とか」
片手で顔を覆いながら空を仰ぐ尚紀に対し、令は怪訝な顔つきを向けてくる。
「その反応…何か思い当たると観鳥さんは考えるんだけど?」
「多分…うちの馬鹿ネコ共だ」
「えっ!?北養区で評判の面白ネコって…飼いネコだったの?」
「仕事から帰るまで家に放置しているが…あいつら、こっそり街で遊んでやがったな」
「へぇ~?嘉嶋尚紀さんは探偵であり拳法家であり…ネコ好きさんなんだね♪」
「俺の事は美雨から聞いたのか?」
「うん。最近この街に探偵事務所を引っ越してきたり、蒼海幇を救ったりと大活躍じゃん」
(それ以外の情報は喋っていないようだな)
「今度ネコの取材をお願いしてもいいかな、嘉嶋さん?」
「あいつらなんぞ撮影して面白いと思うのか?」
「可愛い動物は万人に好かれるからね。殺伐とした新聞記事には、そういう清涼剤が必要さ」
「考えておく」
「探偵さんなら名刺を貰ってもいいかな?」
「構わない」
ポケットから黒革名刺入れを取り出して一枚渡す。
手を振って見送る彼女を背に彼は北養区から参京区へと進んでいく。
「丈二から聞いた話だと…この学園は仏教系学校のようだな」
参京院教育学園を通りから見物しながら道を進んでいると何かを思いつく。
「時間が空いた時に片手間でしているのは読書だ。夏目書房にでも行ってみるか」
参京区、水名区にほど近い新西区北側まで歩いていくと店の前で掃除している少女を見つける。
「あっ!嘉嶋さんじゃないですか~」
彼を見つけた夏目かこが近寄って来て一礼をしてくる。
「この前買った長編小説は全て読みきった。とても興味深い内容だったよ」
「そう言ってくれると小説を書いた作者も喜んでくれます…故人ですけど」
「何か他にも見てみようかと思って立ち寄らせてもらった」
「毎度ご贔屓にしてくれて、本当に有難うございます。さぁ、中に入って下さい♪」
店内に入ると古書の匂いが出迎えてくれる。
「嘉嶋さんはどんなジャンルの本が好きなんですか?」
「政治や社会、それに法律といった専門分野だが…宗教本も興味深いな」
「勉強熱心なうえに信心深いんですね。だったら最近売られてきたオススメ古書があります」
棚の前に移動したかこは一冊の文庫本を手に取る。
「これなんてどうです?」
「
「唐草模様のデザインが素敵な本ですよね。本のカバーが無いので幾らかお安くなります」
「分かった、これを売ってくれ」
「またネコマタちゃん達を連れてきて下さいね、嘉嶋さん♪」
レジで清算を済ませていた時、入り口から勢いよく入り込んできた人物が現れる。
「あーっ!!見つけたよ~尚紀さん!」
「……スポ根娘に見つかったようだ」
「あれ?あきらさんじゃないですか?」
「あ、おはようかこちゃん。聞いてよ~尚紀さん酷いんだよ~!鍛錬の約束すっぽかすし!」
「俺だって、1人で鍛錬したい日だってある」
「鍛錬してたの!?なんでボクを呼んでくれないのさ~!」
「別にいいだろ?」
「よくないよ~!も~鍛錬の仲間外れにするんだったら、ボクは尚紀さんと今直ぐ鍛錬する!」
「どうしてそうなる…」
「フフ♪あきらさんは負けず嫌いな空手家ですしね」
「そういう訳ヨ。運がなかたネ」
視線を入り口に向ければ美雨まで現れたようだ。
「丁度いいネ。私も朝練相手を逃したし、今から付き合てもらうヨ」
「今日ぐらい勘弁してくれないか…?」
「お前多忙な奴ネ。今日は仕事やてなさそうだし…逃さないヨ」
「かこ…こいつらを何とかしてくれないか?」
「え~私に振るんですか?それじゃあ…みんなで読書したり、お勉強会したりとかは?」
「ええ~?ボクは…勉強会はパスかなぁ」
「勉強が苦手なのか?」
「恥ずかしながら…文武両道の道は遠い~…」
「俺も昔は勉強嫌いだったが…必要性が出来れば勉強したくなるものさ」
「社会人の尚紀さんが言うと重みを感じるね~…そ・れ・よ・り♪」
「かこ、今日は譲てもらうネ♪」
「お、おい…美雨!?あきら!?」
2人に引っ張られながら早朝の鍛錬場所にまで連行されてしまう。
そんなこんなで参京区の東の公園にまで連れ込まれてしまったようだ。
「さて、今日も張り切って組み手をしよう♪」
「お前ら私服だろ?それに…その…」
視線を下に向ければ私服姿の2人の下半身衣装はミニスカートである。
「そんなナリで蹴り技なんて使えば、見たくなくても見えちまうぞ」
「えっ…あっ!?」
「仕方ないネ…尚紀を見つけられるとは考えてなかたから…オフ姿ヨ…」
恥ずかしがる姿を見せられた彼はこの状況を利用しようとする。
「待っててやるから家に帰って着替えて来い」
「大嘘ネ!帰てる隙にトンズラしようだなんて、ミエミエヨ!」
「だ、大丈夫!蹴り技は使わないようにするから…」
「……ヤレヤレだぜ」
オーバーに両手を上げていた時、公園の入口付近から猛ダッシュして現れる人物がこう叫ぶ。
<<ならば!その方との稽古は私に譲ってもらいます!!>>
「……こいつ、誰だ?」
白の稽古着に紺色の馬乗袴を着用した薙刀少女について尚紀は質問してくる。
「竜城明日香。私とあきらとは古くから親交がある武道仲間だけど…何で現れたカ?」
「出稽古に向かっている途中でした!それより…貴方が嘉嶋尚紀さんですね?」
「なんで俺の名を知っている?」
「貴方の事はあきらさんから聞いています」
「おい…あきら?お前…こいつに何を言ったんだ?」
「えっ?ええと…仁義に熱くて、凄く強い拳法家だって言っちゃった」
「あきらさんと美雨さんを打ち負かす程の武道家なら、同じ武道家として見過ごせません!」
右手に持つ競技用薙刀を頭上で回転させながら上段の構えをしてくる。
「竜真館の師範代、竜城明日香です!いざ尋常に…勝負!!」
(スポ根娘が……スポ根馬鹿を呼ぶ……)
面倒臭い娘から逃げるようにしながら尚紀はトンズラしてしまう。
「ああっ!?待ちなさい!それでも武侠の世界を生きる殿方ですかーッ!!」
薙刀を振り回しながら追いかけていく明日香に対し、美雨とあきらは見送る事しか出来ない。
取り残されてしまった者達は互いに顔を向けながらガックリと項垂れるしかないのであった。
♦
ガムシャラに逃げ回りながら撒いた頃には工匠区を歩いている。
「あいつも魔法少女だったな…。まったく、神浜の魔法少女は変人揃いなのか?」
街を歩いていた時、ふと休日の使い道を思いつく。
「ここからなら嘉嶋会のオフィスも近い。何か仕事はあるか聞いてみるか」
街を歩き続けて嘉嶋会のオフィスに入る頃には丁度お昼頃である。
入った彼の鼻に感じたのは異臭であり、職員達はキッチンルームを心配そうに見つめている。
「米さん、これは何の騒ぎだ…?」
「尚紀君か…?いや、それがだね…」
喋っていた時、キッチンから突然の爆発音が響く。
「なんだ!?」
慌てて扉を開けると、そこにはカレーらしき物体Xを作っていた静海このはが立っている。
「おかしいわ…カレーを作っていたはずなのに…なんで鍋が爆発したのかしら?」
天井には爆発で押し上げられた鍋の蓋が刺さっており、彼女は不思議そうにしている。
「おい、このは…葉月は来ていないのか?」
「葉月なら、ななかさんと一緒に出かけたわ。オフィスに送られた花を生ける花瓶を買いにね」
「それは経費で出すからいいが…あやめは来ていないのか…?」
「あやめはね、事務所にご挨拶に訪れた人から貰ったアイスを食べ過ぎて…トイレにいるわ」
「だから誰も…お前がキッチンに入るのを止めなかったのかよ…」
鍋に視線を向ければ死の気配が漂っている。
「これ……味見する?」
「してないのかよ!?」
「大丈夫、愛情は入ってるわ」
「そういう問題かよ!!」
「偏見は良くないわ。見た目は悪くても味が美味しい料理なら沢山あるじゃない」
彼の拒絶を無視して器にライスを盛って物体Xを上からかけてしまう。
「取り敢えず、理事長から味を試してくれる?美味しかったら他の皆にもよそうから」
キッチンの机に置いた後、椅子に座るよう促してくる。
逃げようかと考えてしまうが、そうなれば他の職員が犠牲になるだけであろう。
(……覚悟を決めるしかないな)
震える手がスプーンを握り込んでカレーをすくい、意を決しながら口の中に入れて咀嚼。
「……う、あう、ああう…あおぉぉ!!!」
物体Xが飲み込みきれずに口から盛大に噴射してしまい、体が横に倒れてしまう。
「えっ、ちょ……」
「あんじゃコリャーーァァ!!!」
困惑する静海このはに対し、起き上がりながら大いに批評してくる。
「お前…どんな……ゲホッ!ゲホッ!!」
「カレーを作っていただけなんだけど…おかしいわね?」
「カレーは辛いとか甘いとかだろ!コレ、くせーんだよ!!」
「おかしいわね…賞味期限はきれてない食材ばかりなのに?」
「ジャリジャリしてる上にドロドロして、ブヨブヨなとこもあって…」
「なんか…上手く混ざらなくて…。けど、バラエティ豊かな食感だったでしょ?」
「も、色んな気持ちワリーのだらけで、飲み込めねーんだよ!!」
「新食感だったみたいね」
「まったく…とんだ
吐き気が止まらない理事長はトイレに駆け込んでしまう。
「あやめ…頼むから早く出てくれ…」
「ごめん…あちしが腹痛してる時に…このはが来ちゃった」
「もしかしてお前…トイレに逃げ込んでいれば、味見から逃げれると企んで…?」
「…あちし、もう死にたくない」
震え声から察するに、このはの味見から逃れられず、
ふらつきながらも事務所まで戻ってきた彼の体が俯向けに倒れる。
「あぁ…やっぱりダメだったんだね」
職員達は顔を振り、救急車を呼ぼうかとしていた時に葉月達が帰ってくる。
「あ、あ~……もしかして、うちの姉がやっちゃった感じ、ですか…?」
葉月が駆け寄りながら理事長の体を仰向けに寝かせてみる。
「うわ~…あやめがバタンした時と同じ表情をしてるよ」
「み…水……」
震え声を出しながら飲み物を要求していた時、眼鏡を光らせる常磐ななかが歩み寄る。
「丁度良かった。私も職員の方々の為にお手製ドリンクを作ってきてたんですよ♪」
大きい水筒を開けながらコップに物体Yを注ぎ始める彼女を見た理事長が焦り出す。
「な…ななか…!?」
「さぁ、尚紀さん。頭を上げさせてもらいますね」
「ま、待て…葉月…ななかを止めろ…!」
「えっ?ななかさんのドリンクがどうかしたの?」
「早く…っ!!」
「失礼します」
拒絶する言葉で口が開いていた理事長の口に躊躇いなく物体Yを注ぎ込む。
「いかがですか?」
体が痙攣しながら飲み込まされていく尚紀の体は暫し痙攣が続いた後、虹色を吐き出す。
「ゴハッ!!!」
虹色の吐瀉物を噴きながら息を引き取るように意識は遠くなったようだ。
「あら~…こういう事だったんだね~…」
♦
職員から食あたりの薬を飲ませてもらい、どうにか持ち直せた尚紀はオフィスを逃げ出す。
「危うく…死にかけたな…」
気がつけば南凪区の埠頭にある海釣り公園の近くにまで来ていたようだ。
「ん?この魔力は…」
海釣り公園に入り、埠頭の道を歩くと海釣りに訪れている人々の姿を沢山見かけていく。
その中には時女一族の五人組の姿もあったようだ。
「あれ?あの人は…嘉嶋さん?」
「あっ!お~い、尚紀先輩こっちこっち~!」
「揃って休暇の海釣りか?」
「はい♪私こう見えて、釣りが大好きなんですよ♪」
「元はと言えばあたしが坐禅中に寝ちまって、罰として夕飯釣って来いと言われたからさ」
「静香ちゃんは釣りが大好きだけど、他の皆は私も含めて面白そうだからついてきたの」
「田舎の川釣りと都会の海釣りとでは醍醐味も違うだろ?」
「そうですね。川釣りは狭い場所だから魚がどの辺にいるか分かりますが…海は違います」
「静香はね、海釣りよりも海の大きさに感激してました。田舎の山奥暮らしでしたし」
「本当に美しいわ…。塩の満ち引きもあるけど色々な魚と出会えるし、とても楽しい♪」
「静香ちゃんが都会に出てきて一番嬉しかった場所だよね~海♪」
「休日を満喫しているようで何よりだ。俺は…休日の休み方すら忘れちまったよ」
「今日は仕事休みなのか?だったら釣り竿はまだあるし、尚紀もやっていくかい?」
「そうは言うがな…釣りはあまり経験がないんだ」
「男は度胸♪何でもやってみるものさね」
「仕方ない…ちか、空いてる隣の場所を使わせてくれ」
「あっ、釣れました」
言ってるそばから青葉ちかが黒メバルを釣り上げていく。
「お、またちかが釣りやがった。景気がいいのは静香とちかだけだなぁ~」
慣れた手付きで釣りを続ける2人を見ながら見様見真似で釣り竿を振ってみる。
「尚紀さんが来てくれたから、お魚さんが集まって来ましたよ」
「魚に好かれても嬉しくねーよ。というか…魚の言葉まで分かるのか?」
「はい」
「捌く時にうるさくて仕方ないだろ?」
「私の捌き方は独特なんです。今度コツを教えてあげますね♪」
「俺は料理をしないから遠慮する」
そうこう言っている内にまた静香が魚を釣り上げる。
「これだけあったら住職やあたしらの夕飯だけじゃなく、尚紀にもおすそ分け出来るなぁ」
「貰っても俺は捌けないんだが…」
「いい機会じゃないですか?今夜の夕飯は尚紀さんの家で魚を調理して食べましょうよ♪」
「…いきなりの提案だな?」
「私が買った調理道具があるはずですよね?使ってます?」
「…面目ない」
「はぁ…独身男性はしょうがない人ね。やっぱり私が貴方に料理の仕方を教えてあげます」
「楽しそうじゃないか♪尚紀の家はウッドデッキあるし、バーベキューとか出来ないのか?」
「バーベキュー道具なら前の持ち主がガレージの中に残していたな」
「やったーっ!今夜は魚のバーベキューだよぉ♪」
「…女は5人揃えば姦しいどころじゃないな。押し切られそうだ」
午後は釣りの流れとなり、夕方になる頃には切り上げて海釣り公園を後にする。
帰りに釣った魚を水徳寺に届けた後、バーベキュー用の炭などを購入して帰路についた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「尚紀さん、包丁の持ち方はこうです」
「こ、こうか…?」
時女の者達を招いた尚紀は早速料理の勉強をさせられている。
「包丁の腹を人差し指の第一関節に付けて、包丁の前後の動きで切っていきます」
「引いたり…押したり…」
台所には尚紀とすなおとちかの3人が立っている。
他の3人はガレージから出してくれたバーベキュー道具をウッドデッキで準備していく。
「下ごしらえだけでも大変だな…主婦の苦労が身に染みる」
「それはちゃんと片付けもやってから言って下さい。野菜は切れました?」
「ああ、なんとかな」
「じゃあ、次は魚の捌き方ですね」
すなおに代わり、今度はちかが教師を務めてくれる。
クーラーボックスから魚を取り出し、まな板の上に置くが跳ね続けてしまう。
「ヌルヌルして上手く掴めないな…手から抜け落ちそうだ」
「ちょっと活きが良過ぎますね。そんな時は、こうするんですよ」
「えっ?」
横に近づいたちかが突然、
魚は気絶したかのように大人しくなったようだ。
「お…おい…何で…殴るんだ?」
「頭を叩いて気絶させれば落ち着いてくれるんですよ」
「もしかして…お前の独特な捌き方っていうのは…?」
「気絶させて持ち帰るのにも使えますし、捌く時もこうすれば楽です」
「変わったやり方だな…」
「では、魚のエラ蓋のすき間から包丁を入れて、中骨を一気に断ち切ります」
「やって見せてくれないか?次の魚で真似てみよう」
「分かりました。ちゃんと見てて下さいね?」
慣れた手付きで魚をしめ、道具を使って内蔵を取り出し、綺麗におろしていく。
「それじゃあ、次は尚紀さんの番です」
「こ、こうやって殴ればいいのか?」
魚の頭を少しだけこついてみる。
「弱いです」
「もっと力がいるのか?」
魚の頭を少しだけこついてみる。
「弱いです」
「むぅ……難しいな」
(ちかさんって…動物の声が聞こえる割に容赦ないですね…)
悪戦苦闘中の家主を机の上から見守っているのは2匹の猫悪魔達である。
<これで尚紀も手料理を覚えてくれたらオイラ達の夕飯もグレードアップだニャ>
<上手くいくのかしらね?>
<まぁ、家事に関しては尚紀は不器用な方だと思うから、過度な期待はやめとくニャ>
悪魔の念話を終えたケットシーとネコマタは外の様子を見に行く。
「ギャァーーッ!!?」
「お、おかしいわね…この魔力の匙加減なら炭に火が入るぐらいだと…」
「思ったんだけどねぇ…」
「もーっ!火属性魔法少女の2人が同時に炎魔法使ったら、こうもなるよぉ!」
ウッドデッキを見れば魔法で火を点けたせいでバーベキューグリルから火柱が上がっている。
<あっちもあっちで、悪戦苦闘中みたいだニャ>
<バーベキューのご馳走に無事にありつけるか…心配になってきたわ>
外も暗くなる頃にはウッドデッキでバーベキューが始まっていく。
「時女一族と~聖探偵事務所の末永い繁栄を願って~~」
<<かんぱ~~い!!>>
乾杯の音頭を静香が行った後、5人の少女達は買ってきたジュースを飲む。
「お前らも酒の付き合いが出来たらなぁ…」
椅子に座る尚紀は独りだけ生ビールを飲んでいる。
足元では小皿に乗せた刺し身を美味しそうに食べる猫悪魔達もいるようだ。
「美味しい~!海鮮は竹串に刺して炭で焼いて食べるとこんなに美味しいんだねぇ♪」
「自然の中で食べる御飯は格別です♪」
「待て待て、海鮮だけじゃなく、肉屋で買った肉もあるぞー♪」
「僧侶を目指す人でもお肉を食べていいんですか?」
「坊さんは仏に帰依しているただの人間。命の尊さに気づく道が仏教の食事なのさ」
「あ、そろそろ私が釣った大物の魚がグリルで焼ける頃ね」
「まさか、こんな沖合でブリが釣れるなんて思わなかったよぉ。静香ちゃんはスゴイね~」
「えへへ♪思わず写真を撮ってもらっちゃった♪」
和気あいあいとしている光景を静かに見つめる尚紀には何処か遠くの世界に映っている。
<尚紀…どうしたニャ?>
飼い主を見上げながら心配してくるケットシーの念話に対して彼はこんな呟きを念話で零す。
<俺は……ここにいてもいいのか?>
彼の脳裏に浮かぶのはボルテクス界の記憶や佐倉牧師の家族と過ごした日々である。
<ケットシー、ネコマタ…俺は…こんな幸福な時間を過ごして…いい存在なのか?>
尚紀の憂いを聞かされたネコマタが念話でこう返してくる。
<人間はね、どんなに誰かを遠ざけようとしても…それでも誰かを必要とするの>
<そうだな…。人間社会で暮らすのは、人間と触れ合うしかない>
<社会のライフラインに皆が支えられ、生きている。人間を遠ざけるなんて不可能よ>
<だからこそ…俺は人間社会を守りたい。それでも…俺は呪われた悪魔だ>
<尚紀…オイラはね、これでいいと思うニャ>
<どうしてだ?>
<だって尚紀に助けられなきゃオイラ死んでたニャ。誰とも関わらない尚紀なら素通りニャ>
<……そうかもしれない>
<
<フッ…お前にしては上出来な答えだよ>
<貴方が神浜で触れ合ってきた人達だって、そうじゃない?>
<俺が神浜で触れ合ってきた人達だと?>
<貴方が素通りしなかったから、救われた人間や魔法少女がいたはずよ>
<……………>
<誰かを救いたい気持ちは誰かと接したい気持ち…私もその通りだと思うわ>
<人間社会を守る道は…誰かを遠ざける道ではなく…誰かを必要とする道…>
<貴方独りで人間の守護者なんて務まらない。どうしたって届かない命が生まれるわ>
<だからこそ俺は魔法少女を呪いながらも…心の何処かでは…
バーベキューも終えた後、静香達が帰ったウッドデッキでは家主の尚紀達が残っている。
後片付けも行わないまま手摺りの前に立ち、タバコを吸っているようだ。
「神浜魔法少女社会の現在について、時女一族と情報交換も行えたんでしょ?」
「現在の神浜情勢は切迫してる。既に魔法少女社会は東西の魔法少女の諍いや争いが絶えない」
「人間のフリをした貴方には伝えられなくても…彼女達の周囲は予断を許さない状態なのね」
「東を抑え込んでいたリーダーは追放され、今は藍家ひめなと名乗る魔法少女が長をしている」
「その魔法少女が東を治めてから状況が悪化したのね…」
「そいつは魔法少女至上主義を神浜だけでなく世界中にばら撒こうとしているそうだ」
「どうやってそんな真似を?」
「SNSだ。ひめなは魔法少女にしか分からないアカウントを作り、海外にまで思想をばら撒く」
「そういえば、今のSNSには翻訳機能がついてるものね…。言語の壁はもうないのかも…」
「魔法少女至上主義思想に同調する者達が日本中から神浜に集まりだしている」
「時女一族はそこまで知ってるのに、指を咥えて偵察するだけだったのかニャ?」
「神浜問題に下手に関わろうものなら、他所から来たアナーキスト共だと疑われるぞ」
「そういえば…あのヤタガラスのお姉ちゃん達は神浜魔法少女社会の部外者だったニャ」
「それに連中はヤタガラスに飼われる飼い鳥共だ。組織の許可がなければ自由に動けない」
「神浜市は…今後どうなっていくのかしら?」
「藍家ひめなの目的は…皆で天辺を目指すという内容だ」
「何かの比喩かしら…?」
「尚紀はこの騒動をどう見て、どう動くニャ…?」
吸ってたタバコを指で弾き、地面に落ちるよりも先に炎魔法で消失させた彼はこう告げてくる。
「俺は…神浜の魔法少女を…一度だけ信じてみたい…」
「一度だけ信じる…?」
「神浜社会で生活し、あいつらの魔獣狩りも見物してきた。生き方だけなら…正義の味方だ」
「彼女達に東の魔法少女問題を委ねて、貴方は静香達と同様に見物しようというの?」
「もしもだニャ…連中が大規模な反乱を企てて…神浜の街が大変な事になってもかニャ?」
「その時は……俺は人命救助に奔走する」
「それだけに留めるのかニャ?」
「東の魔法少女達をどう扱うかで…俺は人間として請願を出しに行くつもりだ」
「人間として…請願を出す…?」
「被害者達の心に寄り添うべきであり、連中は極刑にするべきだと伝える」
「もし…その請願を神浜の魔法少女達が反故にしたなら…?」
「その時は…警告しにいく」
「それでも…取り組んでくれなかったら…?」
「……その時は」
――人間の似非守護者共を……俺は
読んで頂き、有難うございます。