人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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107話 人々の日常

季節は10月が過ぎていく頃。

 

日が昇り初め、一日が始まろうとしていく。

 

神浜北部の平地と里山を結ぶ緩衝地帯には竹林があった。

 

早朝であり山深い場所の為、人はあまり訪れないのだが…今は利用者が存在している。

 

「……………」

 

正座し、瞑想をしている悪魔の姿。

 

仕事前の鍛錬を行っている尚紀である。

 

今日はあきら達とは付き合わず、独りでの鍛錬。

 

彼の前には打刀が置かれていた。

 

風が吹き、竹林の竹を揺らしていく光景。

 

彼の両目が開き、打刀を手にする。

 

仕事着である黒いスーツベストの下に見えるのは、特注の刀帯ベルト。

 

打刀を腰の刀帯に通し、右手を柄に近づけていく。

 

刹那、刀身が瞬時に抜かれると同時に放つ斬撃。

 

「スー……ハー……」

 

片膝立ちの状態から立ち上がり、八相構え。

 

唐竹、回転右薙、霞の構えに移しながら腰を落としていく。

 

演武を繰り返し、片膝をつく形で腰帯から鞘を抜く。

 

ゆっくりと刀を鞘に戻し、立ち上がった。

 

「…値打ちモノのこの刀なら、保つだろうか…?」

 

歩みを進めていく。

 

林の奥に進み、山間の山道を進む。

 

程なくして川の音が聞こえ、川岸に出た。

 

「あの大きさの岩でいいか」

 

川岸の河原の奥には、不釣り合いな大岩。

 

腰を落とし、左手で鞘を握り右手を柄に近づけていく。

 

大岩からは大きく離れている位置。

 

「……ッ!!」

 

刀が一瞬抜かれたかと思えば、鞘に収める音が響く。

 

短い静寂が場を支配。

 

遅れるようにして、大岩がバラバラに切断されていった。

 

「……これでもダメか」

 

横に視線を向ければ、折れてしまったボロボロの刀身が転がっている。

 

「刀鍛冶の名門一族に特注した品だったんだがな…」

 

溜息をついた彼の頭に、マロガレの中に溶けた魔剣スパーダの声が響く。

 

<<見事だ。スパーダの剣技のうち、バージルに伝えた剣術は会得出来たようだな>>

 

<俺と居合の技術は相性がよかった。…暁美ほむらから受けた傷は、まだ回復しないのか?>

 

<<まだかかる。それよりも問題なのは…>>

 

<ああ…せっかくのスパーダの剣術だが、耐えられる武器がない>

 

<<スパーダがバージルに伝授した剣技は居合。抜身の光剣では…再現出来る技は乏しい>>

 

<ダンテが持っていた魔剣に匹敵する程の刀が必要か…>

 

腕を組み、かつての世界の記憶を辿る。

 

武神達が携えていた数々の武器であっても、耐えられるかは未知数のように思えた。

 

そんな時、かつての世界の彼が所有していた刀の事を思い出す。

 

「公の御剣……将門の刀……」

 

それはかつてのボルテクス界において、坂東宮と呼ばれる将門の領域に進む為に手に入れた品。

 

カグツチ塔の近くにあった将門の首塚跡において使用した過去があった。

 

「坂東宮に入って、毘沙門天達を倒してマサカドゥスを手に入れたのはいいが…」

 

坂東宮から帰ってみれば、将門の刀は役目を終えたかのように消え去っていた。

 

「将門に刀をくれと頼んでみるか…?いや…もうマサカドゥスを貰ってるしな…」

 

視線を空に向ければ、太陽が昇り始めている事に気づく。

 

「考えても仕方ない。そろそろ仕事に向かうか」

 

踵を返し家に帰っていた時、ポケットのスマホからメールの着信音。

 

手にとって見てみると…。

 

『ナオキ、朝練サボたカ?組み手出来なくて、あきらが不貞腐れてるヨ』

 

頭をかき、適当な言い訳文を打ちながら帰路についていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「何?仕事がないから今日は休み?」

 

「ポスティングの出だしは良かったが、後はからっきしだからなぁ」

 

「まぁ…私立探偵の仕事は、無い時は無いもんだからな」

 

「俺は副業を行う部屋の整理がまだ残ってる。お前はどうする?」

 

「そうだな…俺も便利屋の仕事があるか、聞いてみるか」

 

2階事務所から降り、スマホで東京のシュウに連絡を入れてみる。

 

「えっ?歌舞伎町の方も仕事はないのか?」

 

「ええ。防犯ボランティアの方々も頑張ってくれてますし…今のところは大丈夫ですよ」

 

「そうか…また連絡するよ」

 

黒いトレンチコートのポケットにスマホを仕舞い、溜息をつく。

 

「…取り敢えず、家に返って何をするか考えてみるか」

 

……………。

 

「あら?今日は仕事はなかったの?」

 

「まぁな…」

 

「丁度いいニャ、せっかくの月曜祝日なんだし…尚紀も偶には骨休みするニャ」

 

「そうはいくか。仕事がないなら、俺は東京の守護者としての役目を果たしに向かう」

 

「貴方の政治圧力によって、東京の魔法少女達は大人しくなったんでしょ?いいじゃない」

 

「だが……もし俺の法を無視する者が現れたら…」

 

「その為の相互監視社会じゃない?貴方が施行した政策を、貴方が信じなくてどうするの?」

 

「そ、それは……」

 

「チンピラ魔法少女達も、尚紀の法律に縛られてしまえば社会の役に立つ存在に化けるニャ」

 

「それが貴方が求めた全体主義による、幸福社会の在り方でしょ?」

 

「……………」

 

「任せたらいい。東京の守護は、全体で行うべきなのよ」

 

「東京の魔法少女達も、尚紀が今日現れなくても明日現れるかもと震え上がるに決まってるニャ」

 

「参ったな…突然自由時間が出来たとしても、俺は何をやっていいのか検討もつかない」

 

「ワーカーホリックも、ここまで来たら病気だニャ」

 

「取り敢えず、その辺を散歩しながら近所付き合いしてみたらどう?」

 

「…そうしてみるか。歩いているうちに、何かやりたい事も見つかるかもしれない」

 

着替えるのも面倒だと思い、黒いトレンチコート姿のまま家から出てくる。

 

「散歩だし…クリスに乗らなくてもいいか」

 

突然の休日襲来に戸惑いながらも、彼は歩みを街へと向けていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

北養区の山道から住宅区まで歩いていた時。

 

「そういや、あれ以来食べに来てないな…」

 

隣に視線を向ければ、老舗洋食屋のウォールナッツ。

 

店の前では朝の清掃を続けるまなかの姿。

 

「あっ!前にうちに来てくれたお兄さんじゃないですか!」

 

小さなコック娘が駆けてきたようだ。

 

「この前はごめんなさいです…。猫ちゃん達に、まなかは劇物料理を提供してしまいました…」

 

「気にするな。無理を言って飼い猫を上がらせたのは俺なんだから」

 

「でも大丈夫です!あれからまなかは…ペット料理も作れるよう修行を重ねたんです!」

 

「そ、そうか。家も近所だし、また今度…ケットシー達を連れてきてみる」

 

「えっ?ご近所さんになられたんですか!?」

 

「嘉嶋尚紀だ。お前の料理は美味いからな…また寄らせてもらうよ」

 

「胡桃まなかです!今後とも、ウォールナッツをご贔屓に♪」

 

手を振って見送ってくれる彼女に対し、彼も頷き去っていく。

 

道を歩いていくと、高級住宅街の通りとなった。

 

「あいつは……?」

 

通路に立ち、カメラを向けながら公園を見回している姿をした少女には覚えがあった。

 

「学生新聞の記者が、こんなところで何をやっている?」

 

「うわっ!?仕事中に突然声をかけられると…観鳥さんもビックリするじゃないか」

 

「南凪自由学園の制服を着ているが、今日は祝日じゃなかったのか?」

 

「ちゃんと学生新聞の記者だってアピールしとかないと、不審者に思われるからね」

 

PRESSと書かれた腕章を尚紀に見せ、ドヤ顔アピール。

 

「何を撮影していたんだ?」

 

「この辺に現れるっていう、特別な猫を撮影出来たらと思ってね」

 

「猫の撮影?」

 

「観鳥さんの学生新聞で一番の人気記事はね、街角のネコを撮った今日のネコ日記なんだ」

 

「なるほど。それで…どんな風に特別な猫なんだ?」

 

「聞いた話だとね?スマホでゲームして遊べる猫や、読書してたらやってくる白猫とか」

 

片手で顔を覆い、空を仰ぐ姿をした尚紀。

 

「その反応…何か思い当たると観鳥さんは考えるんだけど?」

 

「多分…うちの馬鹿ネコ共だ」

 

「えっ!?北養区で評判の面白ネコって…飼いネコだったの?」

 

「仕事から帰るまで家に放置しているが…あいつら、こっそり街で遊んでやがったな」

 

「へぇ~?嘉嶋尚紀さんは、探偵であり拳法家であり…ネコ好きさんなんだね♪」

 

「俺の事は、美雨から聞いたのか?」

 

「うん。最近この街に探偵事務所を引っ越してきたり、蒼海幇を救ったり大活躍じゃん」

 

(それ以外の情報は、喋っていないようだな)

 

「今度ネコの取材をお願いしてもいいかな、嘉嶋さん?」

 

「あいつらなんぞ撮影して、面白いと思うのか?」

 

「可愛い動物は万人に好かれるからね。殺伐とした新聞記事には、そういう清涼剤が必要さ」

 

「考えておく」

 

「探偵さんなら、名刺を貰ってもいいかな?」

 

「構わない」

 

ポケットから黒革名刺入れを取り出し、一枚渡す。

 

手を振って見送る彼女を背に、彼は北養区から参京区へと進んでいった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「丈二から聞いた話だと…この学園は仏教系学校のようだな」

 

参京院教育学園を通りから見物しながら道を進んでいく。

 

「時間が空いた時に、片手間でしているのは読書だ。夏目書房に行ってみるか」

 

参京区、水名区にほど近い新西区北側まで歩いていく。

 

店の前では入り口を掃除していたかこの姿。

 

「あっ!嘉嶋さんじゃないですか~」

 

姿を見つけた彼女が一礼してくる。

 

「この前買った長編小説は全て読みきった。とても興味深い内容だったよ」

 

「そう言ってくれると、小説を書いた作者も喜んでくれます……故人ですけど」

 

「何か他にも見てみようかと思って、立ち寄らせて貰った」

 

「毎度ご贔屓にしてくれて、本当に有難うございます。さぁ、中に入って下さい♪」

 

店内に入ると、古書の匂いが出迎えてくれた。

 

「嘉嶋さんは…どんなジャンルの本が好きなんですか?」

 

「政治や社会、それに法律といった専門分野だが……宗教本も興味深いな」

 

「勉強熱心なうえに信心深いんですね。だったら、最近売られてきたオススメ古書があります」

 

棚の前に移動し、一冊の文庫本を手に取る。

 

「これなんてどうです?」

 

「ミルトンの失楽園か…」

 

「唐草模様のデザインがとても素敵な本ですよね。本のカバーが無いので幾らかお安くなります」

 

「分かった、これを売ってくれ」

 

「またネコマタちゃん達を連れてきて下さいね、嘉嶋さん♪」

 

「迷惑にならなければ構わない」

 

レジで清算を済ませていた時、入り口から勢いよく入り込んできた人物。

 

「あーっ!!見つけたよ~尚紀さん!」

 

「……スポ根娘に見つかったようだ」

 

「あれ?あきらさんじゃないですか?」

 

「あ、おはようかこちゃん。聞いてよ~尚紀さん酷いんだよ~!鍛錬の約束すっぽかすし!」

 

「俺だって、1人で鍛錬したい日だってある」

 

「鍛錬してたの!?なんでボクを呼んでくれないのさ~~!」

 

「別にいいだろ?」

 

「よくないよ~!も~鍛錬の仲間外れにするんだったら、ボクは尚紀さんと今直ぐ鍛錬する!」

 

「どうしてそうなる……」

 

「フフ♪あきらさんは負けず嫌いな空手家ですしね」

 

「そういう訳ヨ。運がなかたネ」

 

視線を入り口に向ければ、美雨も現れたようだ。

 

「丁度いいネ。ワタシも朝練相手を逃したし、今から付き合て貰うヨ」

 

「今日ぐらい勘弁してくれないか…?」

 

「オマエ、多忙な奴ネ。今日は仕事やてなさそうだし…逃さないヨ」

 

「かこ……こいつらを何とかしてくれないか?」

 

「え~私に振るんですか?それじゃあ……みんなで読書したり、お勉強会したりとかは?」

 

「ええ~?ボクは…勉強会はパスかなぁ」

 

「勉強が苦手なのか?」

 

「恥ずかしながら……。文武両道の道は遠い~…」

 

「俺も昔は勉強嫌いだったが…必要性が出来れば勉強したくなるものさ」

 

「社会人の尚紀さんが言うと重みを感じるね~……そ・れ・よ・り♪」

 

「かこ、今日は譲て貰うネ♪」

 

「お、おい美雨!?あきら!?」

 

2人に引っ張られながら、早朝の鍛錬場所にまで連行されていく尚紀であった。

 

……………。

 

参京区の東の公園にまで連行されてしまったようだ。

 

「さて、今日も張り切って組み手をしよう♪」

 

「お前ら私服だろ?それに……」

 

視線を下に向ければ、私服姿の2人の下半身衣装はミニスカート。

 

「そんなナリで蹴り技なんて使えば、見たくなくても見えちまうぞ」

 

「えっ……あっ!?」

 

「仕方ないネ…。尚紀を見つけられるとは考えてなかたから…オフ姿ヨ…」

 

赤面して恥ずかしがる姿を見せられ、大きな溜息。

 

「待っててやるから、家に帰って着替えて来い」

 

「大嘘ネ!帰てる隙に…トンズラしようだなんてミエミエヨ!」

 

「だ、大丈夫!蹴り技は使わないようにするから…」

 

「……ヤレヤレだぜ」

 

オーバーに両手を上げていた時、公園の入口付近から猛ダッシュして現れる人物。

 

<<ならば!その方との稽古は私に譲って貰います!!>>

 

空気も読めない素っ頓狂な大声を上げ、現れた少女とは…。

 

「………こいつ、誰だ?」

 

白の稽古着に紺色の馬乗袴を着用した薙刀少女である。

 

「竜城明日香。ワタシとあきらとは、古くから親交がある武道仲間だけど…何で現れたカ?」

 

「出稽古に向かっている途中でした!それより…貴方が嘉嶋尚紀さんですね?」

 

「なんで俺の名を知っている?」

 

「貴方のことは、あきらさんから聞いています」

 

「おい…あきら?お前……こいつに何を言ったんだ?」

 

「えっ?ええと…仁義に熱くて、凄く強い拳法家だって…言っちゃった」

 

「あきらさんと美雨さんを打ち負かす程の武道家なら、同じ武道家として見過ごせません!」

 

右手に持つ競技用薙刀を頭上で回転させ、上段の構え。

 

「竜真館の師範代、竜城明日香です!いざ尋常に…勝負!!」

 

(スポ根娘が……スポ根馬鹿を呼ぶ……)

 

「すまない、急用を思い出したから……失礼させて貰うぞ!」

 

面倒臭い娘から逃げるようにして駆け出していく。

 

「ああっ!?待ちなさい!それでも武侠の世界を生きる殿方ですかーッ!!」

 

薙刀を振り回しながら彼の背中を追いかけていく明日香の姿。

 

取り残されてしまった2人は互いに顔を向け、大きく溜息を出した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

街をガムシャラに逃げ回り、撒いた頃には工匠区を歩いていた。

 

「あいつも魔法少女だったな…。まったく、神浜の魔法少女は変人揃いなのか…?」

 

街を歩いていた時、ふと休日の使い道を思いつく。

 

「ここからなら嘉嶋会のオフィスも近い。何か仕事はあるか聞いてみるか」

 

街を歩き続け、嘉嶋会のオフィスに入る頃には丁度お昼頃。

 

オフィス入り口に入った彼の鼻に感じた異臭…。

 

オフィスを見れば、キッチンルームを心配そうに見つめる職員達の姿。

 

「米さん、これは何の騒ぎだ…?」

 

「尚紀君か…?いや、それがだね……」

 

喋りかけていた時、キッチンから爆発音。

 

「なんだ!?」

 

慌てて彼が扉を開けると……。

 

「おかしいわ……カレーを作っていた筈なのに、なんで鍋が爆発したのかしら?」

 

そこには、カレーらしき物体Xを作っていた静海このはの姿。

 

天井には爆発で押し上げられた鍋の蓋が刺さっていた。

 

「おい、このは……葉月は来ていないのか?」

 

「葉月なら、ななかさんと一緒に出かけたわ。オフィスに送られた花を生ける花瓶を買いにね」

 

「それは経費で出すから良いが…あやめは来ていないのか…?」

 

「あやめはね、事務所にご挨拶に訪れた人から貰ったアイスを食べすぎて…トイレにいるわ」

 

「だから誰も…お前がキッチンに入るのを止めなかったのか……」

 

鍋に視線を向ければ、死の気配。

 

「これ……味見する?」

 

「してないのかよ!?」

 

「大丈夫、愛情は入ってるわ」

 

「そういう問題かよ!!」

 

「偏見は良くないわ。見た目は悪くても、味が美味しい料理なら沢山あるじゃない」

 

彼の拒絶も無視し、器にライスを盛って物体Xを上からかける。

 

「取り敢えず、理事長から先に味を試してくれる?美味しかったら他の皆にもよそうから」

 

キッチンの机に置かれ、椅子に座るよう促してくる。

 

逃げようかと考えてしまうが、そうなれば他の職員が犠牲になるだけ。

 

震える手がスプーンを握り、カレーをすくう。

 

(……覚悟を決めるしかないな)

 

意を決し、口の中に入れて咀嚼。

 

勿論、お約束の展開。

 

「……う、あう、ああう…あおぉぉ!!!!!」

 

物体Xが飲み込みきれず、盛大に口から噴射。

 

彼の体が横に倒れてしまった。

 

「えっ、ちょ……」

 

「あんじゃコリャーーァァ!!!」

 

起き上がり、大いに批評。

 

「お前…どんな……ゲホッ!ゲホッ!!」

 

「カレーを作っていただけなんだけど…おかしいわね?」

 

「カレーは、辛いとか甘いとかだろ!」

 

――コレ、()()()()()()!!

 

「ジャリジャリしてる上にドロドロして、ブヨブヨなとこもあって…」

 

「なんか…上手く混ざらなくて…。けど、バラエティ豊かな食感だったでしょ?」

 

「も、色んな気持ちワリーのだらけで、飲み込めねーんだよ!!」

 

「新食感だったみたいね」

 

「まったく…とんだ()()()()だった……おおう!?」

 

吐き気が止まらずトイレに駆け込む。

 

「あやめ……頼むから早く出てくれ…」

 

<<ごめん…あちしが腹痛してる時に…このはが来ちゃった>>

 

「もしかしてお前…トイレに逃げ込んでいれば、味見から逃げれると企んで…?」

 

<<…あちし、もう死にたくない>>

 

震え声から察するに、このはの味見から逃れられずに()()()した苦しみがあったのだ。

 

ふらつきながら事務所まで戻ってきた彼の体が俯向けに倒れる。

 

「あぁ…やっぱりダメだったんだね」

 

職員たちは顔を振り、救急車を呼ぼうかとしていた時に葉月達が帰ってきた。

 

「あ、あ~……もしかして、うちの姉がやっちゃった感じ、ですか…?」

 

駆け寄り、彼の体を仰向けに葉月が寝かせる。

 

「うわ~…あやめがバタンした時と同じ表情してるよ」

 

「み……水……」

 

震え声を出しながら飲み物を要求していた時、眼鏡を光らせる常磐ななかが歩み寄る。

 

「丁度良かった。私も職員の方々の為に、お手製ドリンクを作ってきてたんですよ♪」

 

大きい水筒を開け、コップに物体Yを注ぎ始める。

 

「な…ななか……!?」

 

「さぁ、尚紀さん。頭を上げさせてもらいますね」

 

「ま、待て……葉月……ななかを止めろ……」

 

「えっ?ななかさんのドリンクがどうかしたの?」

 

「早く…!!」

 

「失礼します」

 

拒絶する言葉で口が開いていた彼の口に躊躇いなく物体Yを注ぎ込む。

 

体が痙攣しながら飲み込まされていく尚紀の体。

 

「いかがです?」

 

暫しの痙攣が続き…。

 

「ゴハッ!!!!!」

 

盛大に口から噴射。

 

息を引き取るかのように、彼の意識は遠くなった。

 

「あら~……こういう事だったんだね~…」

 

――死の安らぎは 等しく訪れよう。

 

――人に非ずとも 悪魔に非ずとも。

 

――大いなる意思の 導きにて。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

職員から食あたりの薬を飲ませて貰い、どうにか持ち直せた。

 

彼は逃げるようにしてオフィスを離れ、このはとななかから出来る限り遠くに身を移す。

 

「危うく…死にかけたな…」

 

気がつけば南凪区埠頭にある海釣り公園の近くにまで来ていた。

 

「ん?この魔力は……」

 

海釣り公園に入り、埠頭の道を歩く。

 

周囲には海釣りに訪れている人々の姿が見える。

 

その中で見つけた少女達の姿。

 

「あれ?あの人は…嘉嶋さん?」

 

「あっ!お~い、尚紀先輩こっちこっち~!」

 

見れば時女一族の5人組。

 

「揃って休暇の海釣りか?」

 

「はい♪私こう見えて、釣りが大好きなんですよ♪」

 

「元はと言えばあたしが坐禅中に寝ちまって、住職に罰として夕飯釣って来いと言われたからさ」

 

「静香ちゃんは釣りが大好きだけど、他の皆は私も含めて面白そうだからついてきたの」

 

「田舎の川釣りと都会の海釣りとでは、醍醐味も違うだろ?」

 

「そうですね。川釣りは狭い場所だから魚がどの辺にいるか分かりますが…海は違います」

 

「静香はね、海釣りよりも海の大きさに感激してました。田舎の山奥暮らしでしたし」

 

「本当に美しいわ…。塩の満ち引きもあるけど色々な魚と出会えるし、とても楽しい♪」

 

「静香ちゃんが都会に出てきて、一番嬉しかった場所だよね~海♪」

 

「休日を満喫しているようで何よりだ。俺は…休日の休み方すら忘れちまったよ」

 

「今日は仕事休みなのか?だったら釣り竿はまだあるし、尚紀もやっていくかい?」

 

「そうは言うがな…釣りはあまり経験がないんだ」

 

「男は度胸♪何でもやってみるものさね」

 

「仕方ない…ちか、空いてる隣の場所を使わせてくれ」

 

「あっ、釣れました」

 

言ってるそばからちかが釣り上げる。

 

釣れた魚は黒メバルのようだ。

 

「お、またちかが釣りやがった。景気がいいのは静香とちかだけだなぁ~」

 

慣れた手付きで釣りを続ける2人を見て、見様見真似で尚紀も釣り竿を振ってみる。

 

「尚紀さんが来てくれたから、お魚さんが集まって来ましたよ」

 

「魚に好かれても嬉しくねーよ。というか…魚の言葉まで分かるのか?」

 

「はい」

 

「捌く時、五月蝿くて仕方ないだろ?」

 

「私の捌き方は独特なんです。コツを今度教えてあげますね♪」

 

「俺は料理をしないから遠慮する」

 

そうこう言っている内にまた静香が魚を釣り上げる。

 

「これだけあったら、住職やあたしらの夕飯だけじゃなく尚紀にもおすそ分け出来るなぁ」

 

「貰っても俺は捌けないんだが…」

 

「いい機会じゃないですか?今夜の夕飯は、尚紀さんの家で魚を調理して食べましょう♪」

 

「…いきなりの提案だな?」

 

「私が買った調理道具があるはずですよね?使ってます?」

 

「…面目ない」

 

「はぁ…独身男性はしょうがない人ね。やっぱり私が貴方に料理の仕方を教えてあげます」

 

「楽しそうじゃないか♪尚紀の家はウッドデッキあるし、バーベキューとか出来ないのか?」

 

「バーベキュー道具なら、前の持ち主がガレージの中に残していたな」

 

「やったー!今夜は魚のバーベキューだよぉ♪」

 

「……女は5人揃えば姦しいどころじゃないな。押し切られそうだ」

 

午後は釣りの流れとなり、夕方になる前に切り上げ海釣り公園を後にする。

 

帰りに水徳寺に釣った魚を届け、バーベキュー用の炭などを購入して帰路についた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「尚紀さん、包丁の持ち方はこうです」

 

「こ、こうか…?」

 

時女の5人組を招いた尚紀は、早速料理の勉強をさせられている。

 

「包丁の腹を人差し指の第一関節に付けて、包丁の前後の動きで切っていきます」

 

「引いたり…押したり…」

 

台所には尚紀とすなおとちかの3人。

 

他の3人はガレージから出してくれたバーベキュー道具をウッドデッキで準備中。

 

「下ごしらえだけでも大変だな…。主婦の苦労が身に染みる」

 

「それはちゃんと片付けもやってから言って下さい。野菜は切れました?」

 

「ああ、なんとかな」

 

「じゃあ、次は魚の捌き方ですね」

 

すなおに代わり、今度はちかが教師を務める。

 

クーラーBOXから魚を取り出し、まな板の上に置くが跳ね続けてしまう。

 

「ヌルヌルして上手く掴めないな…手から抜け落ちそうだ」

 

「ちょっと活きが良すぎますね。そんな時は、こうするんですよ」

 

「えっ?」

 

横に近づいたちかが突然、()()()()

 

「……………」

 

魚は気絶したかのように大人しくなった。

 

「何で…殴るんだ?」

 

「頭を叩いて気絶させれば、落ち着いてくれるんですよ」

 

「もしかして…お前の独特な捌き方っていうのは…?」

 

「気絶させて持ち帰るのにも使えますし、捌く時もこうすれば楽です」

 

「変わったやり方だな…」

 

「では、魚のエラ蓋のすき間から包丁を入れて、中骨を一気に断ち切ります」

 

「やって見せてくれないか?次の魚で真似てみよう」

 

「分かりました。ちゃんと見てて下さいね?」

 

慣れた手付きで魚をしめ、道具を使って内蔵を取り出し綺麗におろしていく。

 

「それじゃあ、次は尚紀さんの番です」

 

「こ、こうやって殴ればいいのか?」

 

魚の頭を少しだけこついてみる。

 

「弱いです」

 

「もっと力がいるのか?」

 

魚の頭を少しだけこついてみる。

 

「弱いです」

 

「むぅ……難しいな」

 

(ちかさんって…動物の声が聞こえる割に、容赦ないですね)

 

悪戦苦闘中の家主を机の上から見守っているのは2匹の仲魔達。

 

<これで尚紀も手料理を覚えてくれたら、オイラ達の夕飯もグレードアップだニャ>

 

<上手くいくのかしらね?>

 

<まぁ、家事に関しては…尚紀は不器用な方だと思うから、過度な期待はやめとくニャ>

 

悪魔の念話を終え、ケットシーとネコマタは外の様子を見に行く。

 

「ギャァーーーーッ!!?」

 

「お、おかしいわね…この魔力の匙加減なら炭に火が入るぐらいだと…」

 

「思ったんだけどねぇ…」

 

「もーっ!火属性魔法少女の2人が同時に炎魔法使ったら、こうもなるよぉ!」

 

ウッドデッキを見れば、魔力で火をつけた為か火柱が上がるバーベキューグリルが見えた。

 

<あっちもあっちで、悪戦苦闘中みたいだニャ>

 

<無事にバーベキューのご馳走にありつけるか…心配になってきたわ>

 

外も暗くなる頃には、ようやく海鮮バーベキューがウッドデッキで始まっていく。

 

「時女一族と~聖探偵事務所の末永い繁栄を願って~~」

 

<<かんぱ~~い!!>>

 

乾杯の音頭を静香が行い、5人の少女たちは買ってきたジュースを飲む。

 

「お前らも酒の付き合いが出来たらなぁ…」

 

椅子に座る尚紀は、1人だけ生ビールを飲む姿。

 

足元では小皿に乗せた刺し身を美味しそうに食べる猫悪魔達がいた。

 

「美味しい~!海鮮は竹串に刺して炭で焼いて食べるとこんなに美味しいんだねぇ♪」

 

「自然の中で食べる御飯は格別です♪」

 

「待て待て、海鮮だけじゃなく肉屋で買った肉もあるぞー♪」

 

「僧侶を目指す人でも、お肉を食べていいんですか?」

 

「坊さんは仏に帰依しているただの人間。命の尊さに気づく道が仏教の食事なのさ」

 

「あ、そろそろ私が釣った大物の魚がグリルで焼ける頃ね」

 

「まさか、こんな沖合でブリが釣れるなんて思わなかったよぉ。静香ちゃんスゴイね~」

 

「えへへ♪思わず写真を撮って貰っちゃった♪」

 

和気あいあいとしている光景を静かに見つめる尚紀の姿。

 

彼にとっては…何処か遠くの世界のように見えていた。

 

<尚紀…どうしたニャ?>

 

上を見上げ、家主の態度を心配するケットシー。

 

<……俺は、ここにいていいのか?>

 

彼の脳裏に、かつての世界の記憶や佐倉牧師の家族と過ごした日々が巡る。

 

<なぁ……ケットシー、ネコマタ。俺は……>

 

――こんな幸福な時間を過ごして、いい存在なのか?

 

その一言を聞き、ネコマタが念話を送る。

 

<人間はね、どんなに誰かを遠ざけようとしても…それでも誰かを必要とするの>

 

<そうだな…。人間社会で暮らすのは、人間と触れ合うしかない>

 

<社会のライフラインに皆が支えられ、生きている。人間を遠ざけるなんて不可能よ>

 

<だからこそ…俺は人間社会を守りたい。それでも……俺は呪われた悪魔だ>

 

<尚紀…オイラはね、これで良いと思うニャ>

 

<どうしてだ?>

 

<だって尚紀に助けられなきゃオイラ死んでたニャ。誰とも関わらない尚紀なら素通りニャ>

 

<……………>

 

<誰かを助けたい気持ちは…()()()()()()()()()()なんじゃないのかニャ?上手く言えないニャ>

 

<フッ……お前にしては、上出来な答えだよ>

 

<貴方が神浜で触れ合ってきた人達だって、そうじゃない?>

 

<俺が…神浜で触れ合ってきた人達?>

 

<貴方が素通りしなかったから、救われた人間や魔法少女がいたはずよ>

 

<……………>

 

<誰かを救いたい気持ちは、誰かと接したい気持ち。私もその通りだと思うわ>

 

<…人間社会を守る道は、誰かを遠ざける道ではなく…誰かを必要とする道…>

 

<貴方1人で人間の守護者なんて務まらない。どうしたって…届かない命が生まれるわ>

 

<だからこそ俺は…魔法少女という存在を呪いながらも……心の何処かでは>

 

――必要としていたのかも…な。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

バーベキューも終え、静香達が帰った後のウッドデッキ。

 

後片付けも行わないまま尚紀は手摺りの前に立ち、タバコを吸う姿。

 

「時女一族と情報交換も行えたんでしょ?現在の神浜市について」

 

後ろには悪魔化した二匹の猫達。

 

「現在の神浜情勢は切迫している。既に魔法少女社会は東西の魔法少女の諍いや争いが絶えない」

 

「人間のフリをした貴方には伝えられなくても…彼女達の周囲は予断を許さない状態なのね」

 

「東を抑え込んでいたリーダーは追放され、今は藍家ひめなと名乗る魔法少女が長をしている」

 

「その魔法少女が東を治めてから、状況が悪化したのね」

 

「そいつは魔法少女至上主義を神浜だけでなく、世界中にばら撒こうとしているそうだ」

 

「どうやってそんな真似を?」

 

「SNSだ。ひめなは魔法少女にしか分からないアカウントを作り、海外にまで思想をばら撒く」

 

「そういえば、今のSNSには翻訳機能がついてるものね…。言語の壁は、もはや無いのかも」

 

「魔法少女至上主義思想に同調する者たちが…日本中から神浜に向けて集まりだしている」

 

「時女一族は…そこまで知ってるのに、指を咥えて偵察するだけだったのかニャ?」

 

「ヘタに神浜問題に関わろうものなら、他所から来たアナーキスト共だと疑われる」

 

「そういえば…あのヤタガラスのお姉ちゃん達は、神浜魔法少女社会の部外者だったニャ」

 

「それに連中はヤタガラスに飼われる飼い鳥共だ。組織の許可が無ければ自由に動けない」

 

「神浜市は…今後どうなっていくのかしら?」

 

「藍家ひめなの目的は……皆で()()()()()()こと」

 

「何かの比喩かしら…?」

 

「詳細までは掴めていないそうだ」

 

「尚紀は……この騒動をどう見て、どう動くニャ……?」

 

吸っていたタバコを指で弾く。

 

地面に落ちるより先に炎魔法で消失。

 

「俺は……神浜の魔法少女を、一度だけ信じてみたい」

 

「一度だけ……信じる?」

 

「神浜社会で生活し、あいつらの魔獣狩りも見物してきた。生き方だけなら…正義の味方だ」

 

「彼女達に東の魔法少女問題を委ねて、貴方も静香達と同様に見物しようというの?」

 

「もしもだニャ…連中が大規模な反乱を企てて…神浜の街が大変な事になってもかニャ?」

 

「その時は……俺は人命救助に奔走する」

 

「それだけに留めるのかニャ?」

 

「東の魔法少女達をどう扱うかで…俺は人間として、嘆願を出しに行くつもりだ」

 

「人間として…請願を出す…?」

 

「被害者達の心に寄り添うべきであり、連中は極刑にするべきだと伝える」

 

「もし…その請願を、神浜の魔法少女達が反故にしたなら……?」

 

「その時は…警告しにいく」

 

「それでも…取り組んでくれなかったら…?」

 

「……その時は」

 

――()()()()()()()()共を……俺は絶対に、許さない。

 




読んで頂き、有難うございます。
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