人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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108話 死と再生

朧気な意識のまま少女は歩き続け、周りを見れば同じように歩く大勢の民衆達がいる。

 

(アリナ…なんでこんな連中と…一緒に歩いているわけ?)

 

自分を見てみれば木綿で出来た砂漠民族特有の衣装を纏い、土煙に耐えながら何処かを目指す。

 

集団が広場で休憩しているようだが、怒号が巻き起こってしまう。

 

משה הוא שקרן(モーセは嘘つきだ)!」

 

(…何語を喋ってるワケ?アリナ…分からないんですケド)

 

一行にはパンも水もなく、惨めな食べ物で飢えを凌ぐしかない民衆達は怒りと恐怖が爆発する。

 

נהרג על ידי המצרים(エジプト軍に殺される)!」

 

(アリナ…夢でも見てるワケ?それとも…)

 

辛く苦しい行進により集団の我慢は既に限界を越えようとしている。

 

「あーあ…このままじゃ、集団パニック待ったなしなんですケド」

 

パニックの定義としてはこのような説がある。

 

ヒステリー的信念に基づく集合的な逃走、極端な利己的状態への集合的な退行だろう。

 

このままでは行進を辞めて後ろから迫る存在に許しを乞いに逃げていく人々で溢れる。

 

他人事のように見物するだけに留めていた、その時だった。

 

「な……なんなワケッ!?」

 

曇天の空から赤い火柱が堕ちてくる。

 

集団から遠く離れた丘には火柱が堕ち、業火の中から表れた存在を人々は目にする。

 

זה נחש(蛇だ)!!」

 

現れた存在の姿とは業火を纏う巨大な蛇。

 

<<主に仇を成すか?汝らのその罪、許しがたい>>

 

巨大な蛇の目が瞬膜となり、集団を睨む。

 

すると地面から突然現れ出したのは同じように燃える蛇。

 

「ワッツ!?いったい…何が起こってるワケ!?」

 

燃える蛇が次々と民衆に襲いかかりながら噛み付いていく。

 

猛毒と業火によってイスラエルの民が次々と死んでいく凄惨な光景が生まれるだろう。

 

アリナは周囲の叫び声よりも神々しい程に燃え上がる蛇に意識を奪われる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…?」

 

アリナが視線を向ける先の巨大な蛇の背中から炎と共に出現するのは6枚翼。

 

蛇の頭上には光輝く天使の輪が出現し、恐れ慄く民衆達が跪き、神の如き存在に許しを乞う。

 

燃え上がる巨大な蛇の下側には1人の人物が立ち、怒りの形相を浮かべながら一喝する。

 

אלה שיטעו ישפטו(惑わす者は裁かれる)!!」

 

אנא סלח לי, משה(お許しくださいモーセ様)!!」

 

「モーセ…?それって確か…それじゃあ、アリナが見えている光景は…」

 

モーセと呼ばれた人物をよく見れば何かを掲げている。

 

「T字の旗竿…それに、あれに巻き付いている形って……スネーク?」

 

それは()()()()()()と呼ばれる青銅の蛇であろう。

 

「T字の旗竿…まるで…()()()()()()()()()()()()()なんですケド…」

 

アリナの目にはキリストが磔刑にされているかの如き神々しさに見えてしまう。

 

「イエスが最初じゃなかったんだ…磔刑にされた最初のメシアじゃなかったんだ…!」

 

何を思ったのか彼女まで跪きながら祈りを捧げる。

 

「キリストはデス&リバースメシア…スネークも同じく、デス&リバースを司る…」

 

彼女の中で自分の美のテーマとは何だったのかをようやく理解する。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()ワケ」

 

その光景を最後に意識は現実へと戻されていき、アリナの目が開いていく。

 

「…ビューティフル・ドリーム。アリナは…やっとアリナのテーマの真実に気がつけた…」

 

豪華な室内のベットで目を覚ます彼女の目には感動の涙のようなものが流れ落ちている。

 

部屋を見ればニューヨークの最高級マンションの屋上にあるペントハウス住戸のような外観。

 

なぜ彼女は自宅とは違う場所で目を覚ましたのであろうか?

 

それは9月に発売された神浜新聞の記事を読めば分かるだろう。

 

グノーシス主義においてはルシファー(サタン)をメシアと考える説が色濃く残る。

 

グノーシスは善悪二元論を徹底しており、その中では善=魂・霊、悪=肉体・物質と考える。

 

我々の生きる地球も宇宙も物質という悪となり、それを生んだ唯一神は悪魔となるだろう。

 

イエス・キリストも只の人間と考え、イエスがもたらした知識こそが人類を救済したとする。

 

啓蒙の民は()()()()()()()()()()()()()()()、反宇宙・反社会的ともいえる価値観をもつ。

 

それは魂の解放を叫び、自由を求める不良少年のような在り方にも見えるかもしれない。

 

人類に智慧を授けた蛇を表す星こそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であった。

 

 

「死体の損壊は激しく、本人確認は難航中…か」

 

神浜市栄区において、9月4日の夜から5日未明にかけて住宅街の火災が起きる。

 

住宅8件が全焼し、焼け跡からは十数人の遺体が発見されたという。

 

神浜署の事故調査委員会の調査によって、出火元はギャラリーグレイだと判明する。

 

焼け跡からは家主夫婦と1人娘の遺体らしき存在が発見されたという。

 

南凪区でポスティング仕事をしていた頃の尚紀は新聞を閉じ、午後からの仕事へと向かう。

 

日にちは過ぎていき9月の後半頃にはグレイ家の親族達によって葬儀が慎ましく行われていく。

 

神浜市栄区にある葬儀式場に訪れようとしているのは暗い顔をした少女。

 

悲壮な空気に包まれる告別式場に一般参列で訪れた人物とはアリナの後輩だった御園かりん。

 

遺体が納められていると思われる棺は死体の損壊が激しい為に棺内献花は行われないようだ。

 

芸術夫婦と才能溢れる娘の早過ぎる死を慎む言葉が聞こえる中、少女は独り佇む。

 

「あの…おばさん」

 

「貴女は…アリナのお友達?」

 

「はい…なの。アリナ先輩に…お別れを言いに行っても…構いませんか…?」

 

「…ごめんなさい、棺を開ける事は出来ないの。せめて…棺の上に献花を置いてくれる?」

 

「……分かりました」

 

「貴女の中のアリナ・グレイを…大切に覚えておいてあげてね」

 

献花用の生花を持ち、アリナが納められていると思われる棺の前に立つ。

 

(おかしいの…アリナ先輩は魔法少女…魔法少女が死ぬ時は…円環のコトワリに導かれるはず)

 

疑問に思いながらも後輩は生花を献花する。

 

不意に魔法少女の魔力を感じた彼女は告別式場の入り口に目を向ける。

 

「あっ…貴女はもしかして、グレイさんの後輩の…」

 

「貴女はたしか…アリナ先輩のアートを展示している美術館で受付バイトをしてた人…?」

 

「はい…私の名前は梢麻友(こずえまゆ)と言います」

 

遅れて現れた麻友も生花を貰った後、棺の上に献花を行う。

 

式は滞りなく進んで出棺となり、2人は火葬場には付き合わず告別式場を後にする。

 

帰り道の道中、かりんが重い口を開きながらこう伝えてくれる。

 

「アリナ先輩の告別式に来てくれた魔法少女は……貴女だけだったの」

 

「そうですね…グレイさんは神浜の魔法少女達からは…凄く嫌われてましたし」

 

「悔しいの…アリナ先輩は本当は優しい人なのに…みんな誤解してるの…」

 

「…人は言動で他人を評価するものです。グレイさんの言動は…社交的ではなかったですし」

 

「それは…そうだけど…だからって…」

 

「悔しい気持ちは分かります。それより…何処か変ですよね…この葬式?」

 

「貴女も感じていたの?」

 

「少し…お時間をとっても構いませんか?私だって、グレイさんの芸術を尊敬していたんです」

 

「分かったの…アリナ先輩の事を好きでいてくれて…ありがとうなの」

 

訪れた場所とはとあるメイドカフェ。

 

本来は暗い話題に適さない場所だが、麻友が確認をとったら現在は準備中で客はいないそうだ。

 

「古株のメイド長さんとお知り合いだったの?」

 

「はい。その人が店長さんに相談してくれて、空いている時間は利用して構わないそうです」

 

2人が店内に入れば元気なメイドさんが声をかけてくる。

 

「ようこそお嬢様~♪今日は~お嬢様2人だけの貸し切りだよ~♪」

 

「え、ええと…初めましてなの」

 

「こんにちわ、郁美さん」

 

「も~!い・く・み・んって言ってくれないと~プンスコだよ~!」

 

「この人も…魔法少女なの?」

 

「うん。名前は牧野郁美(まきのいくみ)さんで、年齢は19歳です」

 

「あーっ!!私の年齢は言っちゃいやいや~!くみは~永遠の17歳だよ~♪」

 

「と…取り敢えず、席に座って何か注文するの。タダで利用するのは気が引けるし…」

 

席に座り、オススメの飲み物を注文すると程なくして提供された者達が会話を始める。

 

「やっぱり…あの葬儀は変だよ。だって、魔法少女は死んだら…死体なんて残らないです」

 

「そうなの…なのにアリナ先輩の遺体が見つかったって…どう考えても変な話なの」

 

「別人の遺体…?でも、どうして別人がグレイさんの家で遺体として見つかるんです?」

 

「それも…変な話なの。だからわたし…頭がこんがらがってるの…」

 

「え、えと…もしかしてそれって、魔法少女の話題?」

 

同じ魔法少女の郁美もかりん達の会話に入ってくる。

 

「郁美さんは長いこと魔法少女をしているし…魔法少女の遺体を見た事ってありますか?」

 

「くみ…見た事ないよ。だって、魔法少女は円環のコトワリに導かれて…この世から消えるし」

 

「そうです…それが当然のはず。なのに…」

 

「その…誰か魔法少女が死んじゃったの…かな?」

 

「…わたしの先輩の魔法少女が死んだの。名前は…アリナ・グレイっていうの」

 

「くみもその人の事は知ってる。凄く乱暴で、魔法少女社会のルールさえ守らない人だった…」

 

「それは誤解なの!アリナ先輩は…魔法少女としては乱暴でも…美術の先輩としては優しいの」

 

「そっか…。くみもね、人間は一面だけで判断しちゃダメだって思うから…そうだといいね」

 

「ありがとうなの…郁美さん」

 

「も~!だーかーら、いくみんって呼んでくれなきゃ~…くみが貴女に愛を届けちゃうよ~♪」

 

「えっ…?」

 

「えいっ!ラブ・ビーム~♪」

 

両手でハートを作りながら営業スマイルを見せつける。

 

「……うん」

 

しかしそっけない返事しか帰ってこない郁美はガックリしてしまう。

 

「アリナ先輩…帰ってきて欲しいの…死んだなんて…受け入れたくないの…」

 

「かりんちゃん…」

 

「死んでもいないし…行方不明にもなってない…」

 

「…くみ、アリナって子を誤解してたかも。こんなにも慕ってくれる後輩がいたなんて…」

 

「きっと何か事情があるだけなの…わたしがデッサンを上手くなったら…帰ってくるの…」

 

「そうなると……いいですね」

 

先輩を失い、心が張り裂けそうな後輩を残したままアリナは何処に消えたのか?

 

かりんが考えている通り、アリナは今でも何処かで生きているのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

魔法少女社会の東西問題が深刻化する10月の季節。

 

その頃になって郊外から一台の高級外車が神浜市に向けて走行してくる。

 

車は栄区を目指し、ギャラリーグレイの焼け跡近くで停まったようだ。

 

「アリナ様…こんな事がバレてしまったら…シド様に何をされるか…」

 

「…分かってる。少しだけで……済ませてくるカラ」

 

運転手の男が車を降り、後部座席ドアを開ける。

 

中から現れたのは長い後ろ髪を隠すようにベージュ色のトレンチコートを纏うアリナの姿。

 

頭部もキャスケット帽子を被り、サングラスを身に着けて顔を隠している。

 

男は一礼をしながらアリナの後ろ姿を見送る。

 

程なくして、アリナは焼け果ててしまった我が家の前に訪れたようだ。

 

「……派手に焼いてくれちゃったんですケド」

 

警察が残したキープアウトの黄色いテープを潜り、我が家へと入る。

 

「…アリナのアートも、パパやママが飾ってたアートも…全部燃えちゃったワケ?」

 

黒く焦げて破壊された我が家を見て回り続ける。

 

程なくして、家族団欒を行っていたと思われるリビングルーム跡を見つけるだろう。

 

「……パパ、ママ。アリナは……アリナはね……」

 

まだアリナが死と再生に取り憑かれる前の楽しかった頃の記憶の数々が浮かんでしまう。

 

小さい彼女の後ろには大好きだった飼い犬の姿がいつもいてくれる。

 

その光景を見守っていたのは、おてんば娘でも愛してくれた優しい両親の姿であろう。

 

だが、その両親の記憶が巡っていた時にアリナの体に異変が起きる。

 

「うっ!!!」

 

アリナは()()()()()()の光景を思い出し、胃液が逆流しながら胃の中身を吐きかける。

 

右手で口を抑え込み、飲み下そうと足掻き続ける。

 

(アリナは…吐いてなんてやらない!アリナがやった事から…絶対に逃げない!)

 

涙目で堪えきり、胃の中身を無理やり胃の中に戻しきった彼女の両膝が崩れてしまう。

 

「アリナの中に…まだ悲しみが残っている。それでも…それさえ飲み下す事が出来たら…」

 

口から溢れた胃液塗れの口元を拭いた後、邪悪な笑みを浮かべていく。

 

「アリナには……無限の可能性が、待っているんだカラ」

 

立ち上がったアリナは踵を返し、家族との思い出の地から去って行く。

 

ギャラリールームの焼け跡に入り、残っていた残骸を踏み砕いていく。

 

「アリナはもう…アリナ・グレイじゃない!グレイって苗字を捨ててやるんだカラ!!」

 

その言葉はグレイ家との決別を表し、今の彼女は新たな自分の人生を歩もうとしている。

 

その為に彼女は家族の思い出とアリナ・グレイとして生きた過去を捨てに来たようだ。

 

焼け跡から去りながら中庭の方に視線を向けると小さい頃に立てた飼い犬の墓がある。

 

「アナタが知ってるアリナ・グレイは死んだカラ……バイバイ」

 

アリナは自らの道を歩んでいき、アリナ・グレイとしての人生から決別するのであった。

 

 

次の日も尚紀は職場に電話をかけたら仕事はないと言われる始末。

 

仕方がないので昨日のバーベキュー道具の片付け作業を朝から始めているようだ。

 

「最近の尚紀はヤタガラスのお姉ちゃん達に冷たい態度を取らなくなった気がするニャ」

 

作業を見つめているのはケットシーであり、ネコマタは日差しが当たる温かい場所で寝ている。

 

「ちょっと前まで、さっさと神浜土産でも買って田舎に帰れって、態度してたニャ」

 

「…そうかもな。いつの間にか…あいつらが隣にいるのが当たり前になった気がする」

 

「尚紀も満更でもないのかニャ?ヤタガラスに参加するのも?」

 

「俺は飼い鳥になるつもりはない…だが…」

 

「何かあるのかニャ?」

 

「…時女の連中に何か困った事が出来た時ぐらい、手助けしてやるぐらいなら…構わない」

 

「懐柔されてきたニャ…ヤタガラスのハニートラップは恐ろしいニャ」

 

「うるさい、ブツクサ言うぐらいなら片付けを手伝えよ」

 

「オイラ猫の手だニャ」

 

「悪魔に戻れるだろうが」

 

「そうだったニャ」

 

仕方なく悪魔化したケットシーも作業を手伝う。

 

「そろそろスーパーの開店時間だな。昼飯の材料でも買ってくる」

 

「お昼ご飯は何を作るのかニャ?」

 

「カレーにする。包丁の扱い方はすなおから学んだし…カレーぐらいなら俺でも作れそうだ」

 

「あ~~…昨日のお昼ごはんの件が、まだ尾を引いてる感じがするニャ」

 

「…このはにカレーを作らせるぐらいなら、俺が作った方がマシだ」

 

財布とスマホを肩掛けカバンに入れた後、散歩もかねて北養区へと向かう。

 

「…この家着だとやっぱり気恥ずかしさが出てきたな。だが、着替えに帰るのも面倒だ…」

 

彼の家着姿は黒のカンフーズボンとチャイナジャケットを選んでいるようだ

 

「南凪路の民族衣装店のオッサンから売りつけられちまったが…意外と着心地がいいからなぁ」

 

通りを歩きながらウォールナッツの前まで来た時に視線を店舗に向ける。

 

まなかは学校に行っているのか店の前には誰もいない。

 

気にせず歩いていた時、目の前の道路から一台の高級外車が見えてくる。

 

「他県ナンバーも、金持ち区とも言えるこの場所じゃ珍しくもないな」

 

少し前、自分の人生と決別したアリナを乗せた高級外車は郊外に向かうため車を走らせる。

 

後部座席で景色を見つめるだけのアリナは無言の態度を崩さない。

 

スモークガラスによって後部座席の彼女の姿が街の人々から見られる心配はない。

 

東地域の道は通らず、北養区方面から東に向けて神浜市を出ようと走行し続ける。

 

鈍化した一瞬、通りを歩く人物を見かけたアリナの目が見開いていく。

 

「ストップ!!」

 

「一体何なんですか!?」

 

「…ここで待ってなさいヨネ」

 

車を急停止させ、運転手の静止も無視する彼女は後部座席を勝手に開ける。

 

「ウェイトゥ!!」

 

「…ヘタな英語だな。人に待ってくれは犬の躾の言葉で表現するもんじゃない」

 

立ち止まった尚紀が振り返り、彼女を見据えるとアリナは息を飲み込む。

 

(あぁ……やっと……)

 

高揚とした表情のまま1・28事件の悪魔の姿を思い出していく。

 

「お前…魔法少女だな?俺に一体何の用事だ?」

 

昨夜見た夢の記憶を思い出していく。

 

「おい……聞いているのか?」

 

サングラスを胸ポケットに仕舞い、帽子を脱いだアリナは跪く。

 

「お…おい…?」

 

「やっと出会えた…アリナの美…アリナのメシアに出会えた…」

 

「…お前もどこぞの回し者か?いい加減にして欲しいんだが…」

 

頭を掻きながら通行人達が向けてくる好奇の目に苛立ちを浮かべる。

 

「あぁ…どうしよう?出会ったら何を伝えようか考えてたのに…興奮して忘れちゃった♪」

 

上気した顔つきのまま尚紀の顔を見つめてくる少女に対して彼は顔をしかめてしまう。

 

「気持ち悪い奴だな…俺は用事があるから行かせてもらうぞ」

 

「アリナはね…デス&リバースを崇めるアーティストなワケ」

 

無視して去ろうとしていた彼は背を向けたまま立ち止まる。

 

「アナタはデス&リバースの象徴。人類に智慧の光を授けた…オールドスネークだヨネ?」

 

「…その理屈を崇拝する連中なら心当たりがあるぞ」

 

拳が握り込まれた後、周囲に殺意がばら撒かれていく。

 

「アハッ♪アリナも裁きたい?ねぇ…アリナにもデス&リバースを与えてくれるワケ!?」

 

後ろに振り向けば立ち上がっても興奮冷めやらぬマッドアーティストがいる。

 

「お前は…イルミナティのエージェントか?」

 

「アリナはね、あんな連中なんてどうでもいい。アリナはデス&リバースを追いかけたいダケ」

 

「答えになってないぞ、連中の関係者なのかと聞いている」

 

「答えはイエスでありノー。アリナはアリナの為にしか動かないし、働かない」

 

「関係者なのは間違いなさそうだ。お前も身勝手に俺を崇拝しながら取り入ろうってか?」

 

「アリナにデス&リバースを見せて!アナタはデス&リバース物語を超えた存在なんだカラ!」

 

左手を持ち上げながらソウルジェムを生み出す。

 

「この場でやり合う気か…」

 

周囲に目を向ければ人だかりが生まれつつある。

 

「アリナはアナタが欲しい!啓蒙の光が欲しい!ずっとアリナに…メシアの救いを与えて!!」

 

魔法少女の事は秘匿しなければならないのに興奮しているアリナは周りなど見えていない。

 

もはや戦いは避けられない空気となっていたが、待ったをかける存在の大声が聞こえてくる。

 

<<ストップでス!!>>

 

アリナの後ろを見れば何台もの高級外車が停められており、そこに立つ神父男の声だと気づく。

 

男の近くには黒スーツのサマナー達が固めており、横には震え上がる運転手の姿もいるようだ。

 

「も…申し訳ありません!私は止めたのです…ガッ!!?」

 

左手に持つ聖書で顔面を殴打された運転手は前歯を撒き散らしながら倒れ込む。

 

「お目付け役失格でス。女に甘い男は多いでス、アナタの処分は後で行いまス」

 

黒スーツ姿の男達が運転手を連行した後、神父姿の男は隙を見せずに近づいてくる。

 

「チッ…追ってきていたワケ?シド・デイビス…」

 

(左の額に赤い星のタトゥーを刻んだ黒人もダークサマナーなのか?)

 

アリナの前にまで来た彼が腕を持ち上げていき、平手打ち浴びせてくる。

 

「くっ…!!」

 

ぶたれたアリナは倒れ込み、噛みつくような顔つきでシドを睨み返す。

 

「タダの姦しい女のようニ、秘密を見せびらかす者なラ…宣誓を破る者としテ、殺しまス」

 

「……ソーリー。アリナがバッドガールだったワケ」

 

「二度目はありませン。決しテ、()()()()を犯してはなりませン」

 

シドは尚紀に向き直った後、深々と頭を下げてくる。

 

「申し訳ありませン。私の不肖の弟子ガ、粗相を行いましタ」

 

「お前もダークサマナーのようだな?さしずめそいつは…ダークサマナー候補ってわけか?」

 

「お喋りを繰り返すにハ、ここは目立ち過ぎまス。我々はここで失礼しまス」

 

謝罪を行ったシドは踵を返して車に戻っていく。

 

アリナも立ち上がり、切れた口の中の血を吐き出しながら後をついていく。

 

「…おい、待てよ」

 

彼らが崇拝する神が待てと言えば、シド達は背を向けたまま静止する。

 

「丁度いい、お前らのような連中から聞いてみたい事がある」

 

赤いサングラスのブリッジを指で押し上げながら後ろを振り向くと笑顔を浮かべてくる。

 

「…ほウ?何をお知りになりたいのですカ?」

 

「俺を啓蒙の神として崇める理由だ」

 

「…場所を変えましょウ。アリナが粗相をしたお詫びも兼ねテ、ご説明して差し上げまス」

 

黒スーツのサマナーに促されながら高級外車に乗り込む。

 

車列は発進し、郊外に向けて走行していくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

郊外にある高級料亭で一番奥にある大広間の個室に案内された尚紀はシド達と向かい合う。

 

「改めましテ、ご挨拶しまス。私ハ、シド・デイビス。黄金の暁会に所属するサマナーでス」

 

(ウラベが前に所属していたという…フリーメイソン内部の神秘主義サロンの奴か)

 

「料理が出来るまデ、まだ暇がありまス。その間ニ、知りたい事をお答えしまス」

 

隣のアリナに視線を向ければ舌打ちしてくる。

 

「アリナはニュービーだからあんまり詳しくないんですケド。シドに聞いてくれる?」

 

「アリナ、啓蒙の神に対して無礼な口利きハ…止めなさイ」

 

「…イエス、クソマスター」

 

アリナは肘杖をつきながら顎を乗せて視線を逸らした後は無言となる。

 

「お前らはなぜ俺を神と呼ぶ?非常に気持ち悪いんだが?」

 

「…それについてハ、グノーシス主義についテ、お話する必要がありまス」

 

「2~3世紀頃の東地中海地域で流行した宗教運動だったと聞いている」

 

「お詳しいですネ。後の錬金術の原理にもなっタ、ヘルメス主義にも影響を与えましタ」

 

「グノーシスの意味は知恵と認識を表すギリシャ語だ。その思想は霊の開放を目指す」

 

「私達は真の至高神の元に霊を至らせる事を目的にシ、知恵によって成そうとする者達でス」

 

「真の至高神だと…?」

 

「大いなる意思と呼べば伝わりますカ?」

 

「……まぁな」

 

「真の至高神とは原初の混沌…それはマロガレなのでス」

 

「マロガレ……」

 

「私達は生まれながらに罪深イ。闇の塊である肉の檻に囚わレ、神的な霊が閉じ込められまス」

 

「だからお前らは人間達を罪深い肉の牢獄から解き放とうというわけか?」

 

「この教義ではキリスト教にとって都合が悪イ。アマラ宇宙を創造した()()()()()()()()()

 

「傲慢な唯一神なんぞ悪魔で十分だ」

 

「フフ、私もそう思いまス。()()()()()()()…それこそがグノーシス主義なのでス」

 

「反キリスト主義…それは全てを逆回転させる思想か…」

 

「その通リ。知恵があるから唯一神がやってきた事に疑いを持チ、認識を変えル」

 

「だとしたら…反逆の天使であるルシファーの扱いは…」

 

「我々は唯一神こそが堕天使の長だと考えまス」

 

「では、()()()()()()()()()()()()()なのだと言いたいのか?」

 

「我々にとって唯一神とは神を気取る狂った堕天使デミウルゴスだと考えまス」

 

「デミウルゴス…あるいはヤルダバオート…」

 

「堕天使の長デミウルゴスハ、善悪を知る禁断の知恵をエデンに隠しタ。人間を支配する為ニ」

 

「……………」

 

「そこに真の至高神の御使いである知恵の蛇が現レ…人類に智慧を与えて救済しましタ」

 

「ルシファーこそが人類を救ったメシア…そう考えているんだな…お前らの教義は?」

 

「イエス・キリストは只の人間でス。そしテ、磔刑にされた死と再生の聖人こそ智慧の蛇でス」

 

「キリストは奇跡など起こしていない、蛇が与えた救済の智慧で救いを与えた代弁者扱いか」

 

「唯一神こそガ悪神であリ、ルシファーこそガ善神。我々ハ、そう信じて疑いませン」

 

「どうあってもお前らは…俺をルシファーと同一視したいようだな?」

 

「…まだアナタハ、お気づきになられていないようですネ?」

 

「どういう意味だよ?」

 

「直に分かりまス」

 

長い話を繰り返していたが襖が開かれ、秋の恵みが詰まった日本料理が並べられていく。

 

「フフッ、素晴らしい料理でス。私はジャパンのスシが大好物でス」

 

「ハァ…長い話が終わったならアリナは帰るんですケド」

 

「アナタは食べないのですか?…肉は使われてませんガ?」

 

そう言われたアリナの眉間にしわが寄っていく。

 

怒りの矛先はシドではなく、不甲斐ない自分自身の弱さに対する怒りだろう。

 

「アナタはあの日以来、()()()()()()()()ようになってしまったというのニ」

 

「…それはアリナの弱さ。飲み下せるようになってみせるカラ…」

 

席を立ち上がった後、襖に向かう彼女の背中が止まる。

 

「ねぇ…アナタは人修羅なの?それともエンキであり、ルシファーなワケ?」

 

「嘉嶋尚紀だ。様々な悪魔や神の名で俺を表現しようが…人間だった頃の名を捨てる気はない」

 

「ハン、ナオキねぇ…?アリナ的にはヒューマンのアナタになんて興味は無いんですケド」

 

襖を開けた後、アリナは去っていく。

 

「あの魔法少女をダークサマナーとして鍛えているようだが…何を企んでいる?」

 

「あの小娘もイルミナティの守護神達が期待をかけている存在だと伝えておきまス」

 

「ルシファー共が期待をする魔法少女だと?」

 

尚紀の脳裏に浮かぶのは暁美ほむらであり、アリナと重なってくる。

 

「彼女が暁の星に到れるかどうかは神のみぞ知ル。私は手助けをしているだけでス」

 

「フン、デコボコ師弟ってわけかよ?それと…もう一つ聞きたい」

 

「なんですカ?」

 

「…この料亭の料理は包んで持ち帰る事は出来るか?」

 

「……頼んでみましょウ」

 

 

玄関の扉を開けた尚紀が家に帰ってくる。

 

「遅かったニャー尚紀!一体何処まで行って……ニャ?その袋は何だニャ?」

 

「なんでもない。昼飯は適当に買ってきたから、これでも食べてくれ」

 

キッチンの机に料亭料理を包んだ袋を置いた後、自分の部屋に向かう。

 

「何かあったと考えるべきね…」

 

「み、見るニャ…ネコマタ!?これ…高級料亭で出されるような類の御飯だニャ!?」

 

「まさか…尚紀だけでお昼ごはんを高級料亭で食べたの!?ズルいわズルいわ!!」

 

書斎と寝室も兼ねた自分の部屋に入り、机の椅子に深くもたれながら天井を見上げていく。

 

「……アリナとシドか」

 

右手からマガタマを生み出すと空中でうねりを描き、()()()()()()()()()()()()()

 

「マガタマ…死と再生を与える呪物。持ち主を悪魔にするだけでなく…()()()()()()()()()

 

人類を肉体の檻から開放し、霊をマロガレへと導く事こそがイルミナティの教義だと彼は知る。

 

肉体の檻、霊を外に開放する。

 

彼にはそれが魔法少女達のソウルジェムのようにも思えてくる。

 

「イルミナティも契約の天使と変わらない…何処までも人類を玩具にする連中だな」

 

善と悪、光と闇、陰と陽、逆回転すればするほど立場が変わっていく。

 

「…アマラ深界で聞いた事があったな」

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 




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