人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
朧気な意識のまま、少女は歩く。
周りを見渡せば同じように歩く大勢の民衆たち。
(アリナ…なんでこんな連中と…一緒に歩いているワケ?)
自分の姿を見てみれば、木綿で出来た砂漠民族特有の衣装を纏う。
土煙に耐えながら一行が目指す場所とは?
集団が広場で休憩しているが、怒号が巻き起こる。
「
「
(…何語を喋ってるワケ?アリナ…分からないんですケド)
一行にはパンもなく、水もない。
惨めな食べ物で飢えを凌ぐしかない民衆達の姿。
「
(アリナ……夢でも見てるワケ?それとも……)
辛く苦しい行進により、集団の我慢は既に限界を越えようとしている。
「あーあ…このままじゃ、集団パニック待ったなしなんですケド」
パニックの定義としては、このような説がある。
ヒステリー的信念に基づく集合的な逃走。
極端な利己的状態への集合的な退行だ。
このままでは、行進を辞めて後ろから迫る存在に許しを乞いに逃げていく人々で溢れる。
他人事のように見物するだけに留めていた…その時。
「な……なんなワケッ!?」
曇天の空から突然、赤い火柱が堕ちてくる。
集団から遠く離れた丘に火柱は堕ち、業火の中から現れた存在を人々は目にする。
「
現れた存在の姿とは、業火を纏う巨大な蛇。
<<主に仇を成すか?汝らのその罪、許しがたい>>
巨大な蛇の目が瞬膜となり、集団を睨む。
すると…地面から突然現れ出したのは、同じように燃える蛇。
「ワッツ!?いったい……何が起こってるワケ!?」
燃える蛇が次々と民衆に襲いかかり、噛み付いていく。
猛毒と業火によって、イスラエルの民達が次々と死んでいく光景。
アリナは周囲の叫び声よりも、神々しい程に燃え盛る蛇に目を向けた。
「スネーク……死と再生。それは……フレイムを運ぶ…
アリナが視線を向ける先の巨大な蛇の背から、炎と共に出現する6枚翼。
蛇の頭上には、光輝く天使の輪が出現。
恐れ慄く民衆たちが跪き、神の如き存在に許しを乞う。
燃え盛る巨大な蛇の下側には、1人の人物の姿。
「
「
「モーセ…?それって確か……それじゃあ、アリナが見えている光景は…」
モーセと呼ばれた人物をよく見れば、何かを掲げている。
「T字の旗竿……それに、あれに巻き付いている形って……スネーク?」
それはネフシュタンと呼ばれる青銅の蛇。
「T字の旗竿……まるで、イエス・キリストの聖十字架なんですケド…」
アリナの目には、まるでキリストが磔刑にされているかの如く、神々しく見えた。
「イエスが最初じゃなかったんだ……磔刑にされた最初のメシアじゃなかったんだ…!」
彼女も跪き、祈りを捧げる。
「キリストは…死と再生を司るメシア…。スネークも同じく、死と再生を司る…」
彼女の中で、己の美のテーマとは何だったのか…ようやく理解出来た。
――アリナの美は……
……………。
「……ビューティフル・ドリーム。アリナは…やっとアリナのテーマの真実に気がつけた」
豪華な室内のベットで目を覚ますアリナの姿。
その両目には、感動の涙のようなものが流れ落ちた。
そこは自宅の部屋ではなかった。
周りを見渡せば、ニューヨークの最高級マンション屋上にあるペントハウス住戸のような外観。
なぜ彼女は、自宅とは違う場所で目を覚ましたのであろうか?
それは、9月に発売された神浜新聞の記事を読めば分かるだろう。
……………。
グノーシス主義においては、ルシファー(サタン)をメシアと考える説が色濃く残る。
グノーシスは善悪二元論を徹底しており、その中では善=魂・霊、悪=肉体・物質と考えた。
それでは我々の生きる地球も宇宙も物質という悪となり、それを生んだ唯一神は悪魔となる。
イエス・キリストも只の人間と考え、イエスがもたらした『知識』こそ人類を救済したとした。
啓蒙の民は、一般人とは真逆の事を考える。
反宇宙・反社会的ともいえる価値観。
それは魂の解放を叫び、自由を求める不良少年のようにも映る。
まるでアリナ・グレイの価値観のようであると同時に…。
人類に智慧を授けた蛇を表す星……逆回転する金星のようでもあった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
神浜市栄区において、9月の4日夜から5日未明にかけて住宅街の火災が起きた。
住宅8件が全焼し、焼け跡からは十数人の遺体が発見されたという。
神浜署の事故調査委員会の調査によって、出火元は『ギャラリーグレイ』だと判明。
焼け跡からは家主夫婦と1人娘の遺体らしき存在が発見されたという。
「死体の損壊は激しく、本人確認は難航中…か」
南凪区でポスティング仕事をしていた尚紀は新聞を閉じ、午後からの仕事へと向かった。
……………。
9月の後半頃には、グレイ家の親族達によって葬儀が慎ましく行われていく。
神浜市栄区にある葬儀式場に訪れようとしている、暗い顔の少女。
告別式場に一般参列で訪れた人物とは、御園かりん。
悲壮な空気に包まれている告別式。
遺体が納められていると思われる棺は、死体の損壊が激しい為に棺内献花は行われないという。
芸術夫婦と才能溢れる娘の早すぎる死を慎む言葉が聞こえる中、少女は独り佇む。
「あの…おばさん」
「貴女は…アリナのお友達?」
「はい…なの。アリナ先輩に…お別れを言いに行っても…構いませんか…?」
「…ごめんなさい、棺を開ける事は出来ないの。せめて…棺の上に献花を置いてくれる?」
「……分かりました」
「貴女の中のアリナ・グレイを…大切に覚えておいてあげてね」
献花用の生花を持ち、アリナが納められていると思われる棺の前に立つ。
(…おかしいの。アリナ先輩は魔法少女…魔法少女が死ぬ時は…円環のコトワリに導かれるはず)
疑問に思いながらも、かりんは生花を献花する。
不意に魔法少女の魔力を感じ、告別式場の入り口に目を向ける。
「あっ……貴女はもしかして、グレイさんの後輩の…」
「貴女は…たしか、アリナ先輩のアートを展示している美術館で受付バイトしてた人…?」
「はい…。私の名前は、梢麻友(こずえまゆ)と言います」
遅れて現れた麻友も生花を貰い、棺の上に献花を行う。
式は滞りなく進み、出棺となった。
2人は火葬場には付き合わず、告別式場を後にする。
帰り道の中、かりんが口を開く。
「アリナ先輩の告別式に来てくれた魔法少女は……貴女だけだったの」
「そうですね…グレイさんは、神浜の魔法少女達からは…凄く嫌われてましたし」
「悔しいの…。アリナ先輩は、本当は優しい人なのに……みんな誤解してるの」
「…人は言動で他人を評価するものです。グレイさんの言動は…社交的ではなかったですし」
「それは…そうだけど…。だからって……」
「悔しい気持ちは分かります。それより…何処か変ですよね……この葬式?」
「貴女も感じていたの?」
「少し…お時間をとっても構いませんか?私だって、グレイさんの芸術を尊敬していたんです」
「分かったの…。アリナ先輩の事を好きでいてくれて…ありがとうなの」
――――――――――――――――――――――――――――――――
2人が訪れた場所とは、とあるメイドカフェ。
本来は暗い話題に適さない場所だが、確認を麻友がとったら現在は準備中で客はいないそうだ。
「古株のメイド長さんとお知り合いだったの?」
「はい。その人が店長さんに相談してくれて、空いている時間は利用して構わないそうです」
2人が店内に入れば、元気なメイドさんが声をかけてきた。
「ようこそお嬢様~♪今日は~お嬢様2人だけの貸し切りだよ~♪」
「え、ええと…初めましてなの」
「こんにちわ、郁美(いくみ)さん」
「も~!い・く・み・んって言ってくれないと~プンスコだよ~!」
「この人も…魔法少女なの?」
「うん。名前は牧野郁美(まきのいくみ)さんで、年齢は19歳です」
「あーっ!!私の年齢は言っちゃいやいや~!くみは~永遠の17歳だよ~♪」
「と…取り敢えず、席に座って何か注文するの。タダで利用するのは気が引けるし…」
席に座り、オススメの飲み物を2人は注文。
程なくして飲み物を提供され、会話が始まる。
「やっぱり…あの葬儀は変だよ。だって、魔法少女は死んだら…死体なんて残らないです」
「そう…なのに、アリナ先輩の遺体が見つかったって…どう考えても変な話なの」
「別人の遺体…?でも、どうして別人が…グレイさんの家で遺体として見つかるんです?」
「それも…変な話なの。だからわたし…頭がこんがらがってるの…」
「え、えと…もしかしてそれって、魔法少女の話題?」
同じ魔法少女の郁美も会話の中に入ってきた。
「郁美さんは、長いこと魔法少女をしているし…魔法少女の遺体を見たことってありますか?」
「くみ…見たことないよ。だって、魔法少女は円環のコトワリに導かれてこの世から消えるし」
「そうです…それが当然のはず。なのに…」
「その…誰か魔法少女が死んじゃったの…かな?」
「…わたしの先輩の魔法少女が死んだの。名前は、アリナ・グレイっていうの」
「くみもその人の事は知ってる。凄く乱暴で、魔法少女社会のルールも守らない人だった…」
「それは誤解なの!アリナ先輩は…魔法少女としては乱暴でも…美術の先輩としては優しいの」
「そっか…。くみもね、人間は一面だけで判断しちゃダメだって思うから…そうだと良いね」
「ありがとうなの…郁美さん」
「も~!だーかーら、いくみんって呼んでくれなきゃ~…くみが貴女に愛を届けちゃうよ~♪」
「えっ…?」
「えいっ!ラブ・ビーム~♪」
両手でハートを作り、営業スマイル。
「……うん」
そっけない返事しか帰ってこず、郁美はガックリした。
「アリナ先輩…帰ってきて欲しいの…。死んだなんて…受け入れたくないの…」
「かりんちゃん…」
「死んでもいないし…行方不明にもなってない…」
「…くみ、アリナって子を誤解してたかも。こんなに慕ってくれる後輩がいたなんて…」
「きっと何か事情があるだけなの…。わたしがデッサン上手くなったら…帰ってくるの…」
「そうなると……良いですね」
「……うん」
先輩を失い、心が張り裂けそうなかりんの姿。
アリナは何処に消えてしまうことになったのだろうか?
彼女は今でも……生きていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
魔法少女社会の東西問題が深刻化する10月の季節。
その頃になって、郊外から一台の高級外車が神浜市に向けて走行してくる。
車は栄区を目指し、ギャラリーグレイの焼け跡近くで停まった。
「…アリナ様。こんな事がバレてしまったら……
「…分かってる。少しだけで……済ませてくるカラ」
運転手の男が車を降り、後部座席ドアを開ける。
中から現れたのは、長い後ろ髪を隠すようにベージュ色のトレンチコートを纏うアリナの姿。
頭部もキャスケット帽子を被り、サングラスをつけて顔を隠していた。
男は一礼をして、アリナの後ろ姿を見送る。
程なくして、アリナは焼け果ててしまった我が家の前に訪れた。
「……派手に焼いてくれちゃったんですケド」
警察が残したキープアウト(立入禁止)の黄色いテープを潜り、我が家へと入る。
「…アリナのアートも、パパやママが飾ってたアートも……全部燃えちゃったワケ?」
黒く焦げて破壊された我が家を見て回り続ける。
程なくして、家族団欒を行っていたと思われるリビングルーム跡に立つ。
「……パパ、ママ。アリナは……アリナはね………」
小さい頃の記憶が巡る。
まだアリナが死と再生に取り憑かれる前の…楽しかった頃の記憶。
小さい彼女の後ろには、大好きだった飼い犬の姿。
その光景を見守っていた、おてんば娘でも愛してくれた優しい両親の姿…。
だが、その両親の記憶が巡っていた時に……。
「うっ!!!!」
アリナは突然、
胃液が逆流し、胃の中身を吐き出しかける。
右手で口を抑え、飲み下そうと足掻く姿。
(アリナは……吐いてなんてやらない!アリナがやったことから…絶対に逃げない!)
涙目で堪えきり、胃の中身を無理やり胃の中に戻しきった。
「ハァ…ハァ…」
両膝に力が入らなくなり、崩れて膝立ちとなる姿。
「…アリナの中に、まだ悲しみが残っている。それでも…それさえ飲み下す事が出来たら…」
口から溢れた胃液塗れの口元が、邪悪な笑みを浮かべていく。
――アリナには……無限の可能性が、待っているんだカラ。
立ち上がり、踵を返して家族との思い出の場から離れる。
ギャラリールームの焼け跡に入り、残っていた残骸を踏み砕いていく光景。
「アリナは…もうアリナ・グレイじゃない!!」
――アリナは……グレイって名前を
それは、グレイ家との決別の言葉。
今の彼女は、新たなる自分の人生を歩もうとしている。
その為に彼女は、家族の思い出とアリナ・グレイとして生きた過去を…捨てに来た。
焼け跡から出て、少しだけ中庭の方に視線を向ける。
そこには、小さい頃に立てた飼い犬の墓。
「アナタが知ってるアリナ・グレイは死んだカラ………バイバイ」
視線を戻し、アリナは自らの道を歩んでいく。
二度と帰れない、アリナ・グレイの人生との…決別。
――――――――――――――――――――――――――――――――
次の日も尚紀は職場に電話をかけたら仕事はないと言われる始末。
仕方ないので昨日のバーベキュー道具の片付け作業を朝から始めていた。
「最近の尚紀は、ヤタガラスのお姉ちゃん達に冷たい態度を取らなくなった気がするニャ」
作業光景を見つめているのはケットシー。
ネコマタは日差しが当たる場所でまだ仰向けに寝ていた。
「ちょっと前まで、さっさと神浜土産でも買って田舎に帰れって態度してたニャ」
「…そうかもな。いつの間にか……あいつらが隣にいるのが、当たり前になった気がする」
「尚紀も満更でもないのかニャ?ヤタガラスに参加するのも?」
「俺は飼い鳥になるつもりはない。だが……」
「何かあるのかニャ?」
「…時女の連中に何か困った事が出来た時ぐらい、手助けしてやるぐらいなら…構わない」
「懐柔されてきたニャ。ヤタガラスのハニートラップは恐ろしいニャ」
「五月蝿い。ブツクサ言うぐらいなら、片付けを手伝えよ」
「オイラ猫の手だニャ」
「悪魔に戻れるだろうが」
「そうだったニャ」
仕方なく悪魔化したケットシーも作業を手伝う。
「そろそろスーパーの開店時間だな。昼飯の材料でも買ってくる」
「お昼ごはんは何を作るのかニャ?」
「カレーにする。包丁の扱い方はすなおから学んだし…カレーぐらいなら俺でも作れそうだ」
「あ~~…昨日のお昼ごはんの件が、まだ尾を引いてる感じがするニャ」
「…このはにカレーを作らせるぐらいなら、俺が作った方がマシだ」
財布とスマホを肩掛けカバンに入れ、散歩もかねて北養区へと向かう。
「…この家着だとやっぱり気恥ずかしさが出てきたな。だが、着替えに帰るのも面倒だ…」
彼の家着姿を見れば、黒のカンフーズボンとチャイナジャケットを着ていた。
「南凪路の民族衣装店のオッサンに売りつけられちまったが…意外に着心地が良いからなぁ」
通りを歩き、ウォールナッツ前まで来た時に視線を店舗に向ける。
まなかは学校に行っているのか、店の前には誰もいない。
気にせず歩いていた時、目の前の道路から一台の高級外車が見えてきた。
「…他県ナンバーも、この金持ち区とも言える場所じゃ、珍しくもないな」
少し時間を遡る。
自分の人生と決別したアリナを乗せた高級外車は、郊外に向かうため車を走らせる。
後部座席で景色を見つめるだけのアリナの姿。
スモークガラスによって、後部座席のアリナの姿が街の人々から見られる心配はない。
東地域の道は通らず、北養区方面から東に向けて神浜市を出ようと走行し続ける。
鈍化した一瞬。
通りを歩く人物を見かけたアリナの目が見開いた。
「ストップ!!」
車を停止させる。
「…ここで待ってなさいヨネ」
運転手の静止も無視し、勝手に後部座席を開ける。
「ウェイトゥ!!」
アリナが声をかけた人物が立ち止まる。
「…ヘタな英語だな。人に待ってくれは、犬の躾の言葉で表現するもんじゃない」
振り返り、彼女を見据える。
彼女は息を呑む。
(あぁ……やっと……)
高揚とした表情のまま、1・28事件の悪魔の姿を思い出していく。
「お前…魔法少女だな?俺に一体何の用事だ?」
昨夜見た夢の記憶を思い出していく。
「おい……聞いているのか?」
サングラスを胸ポケットに仕舞い、帽子を脱いでアリナは跪く。
「お…おい……?」
「やっと出会えた……」
――アリナの美……メシアに。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「…お前もどこぞの回し者か?いい加減にして欲しいんだが…」
頭を掻き、周囲の目線に苛立ちを見せる。
「あぁ…どうしよう?アリナ…出会ったら何を伝えようか考えてたのに興奮して忘れちゃった♪」
上気した顔つきのまま、尚紀の顔を見つめ続けてくる。
「気持ち悪い奴だな…。俺は用事があるから、行かせて貰う」
踵を返し、去ろうとするが…。
「アリナはね……」
――死と再生を崇める、アーティスト。
背を向けたまま立ち止まる。
「アナタは…死と再生の象徴。古いスネーク…人類に智慧の光を授けた、フレイムスネーク…」
「……その理屈を崇拝する連中なら、心当たりがあるぞ」
拳が握りこまれ、殺意が周囲にばら撒かれていく。
「アハッ♪アリナも裁きたい?ねぇ……アリナにも、死と再生を与えてくれるワケ!?」
後ろに振り向けば、立ち上がっても興奮冷めやらぬマッドアーティストの姿。
「お前は…イルミナティのエージェントか?」
「アリナ、本当はあんな連中どうでもいい。アリナは……死と再生を追いかけたいダケ」
「答えになってない。連中の関係者なのかと聞いている」
「答えはイエスでありノー。アリナはアリナの為にしか動かないし、働かない」
「関係者なのは間違いなさそうだ。お前も身勝手に俺を崇拝し、取り入ろうってか?」
「アリナに…死と再生を見せて!アナタは……」
――
左手を翳し、ソウルジェムを生み出す。
「この場でやりあう気か…」
周囲に目を向ければ、人だかりが生まれつつある。
「アリナは
魔法少女の事は秘匿しなければならないのに、興奮しているアリナには周りなど見えていない。
もはや戦いは避けられない空気となっていたのだが…。
<<ストップでス!!>>
2人を止める声。
アリナの後ろを見れば、何台もの高級外車が停められた近くに立つ神父服男の声だと気づく。
男の近くには黒スーツ姿のサマナー達が固め、すぐ横には震え上がる運転手の姿もあった。
「も…申し訳ありません!私は止めたのです…ガッ!!?」
左手に持つ聖書で顔面を殴打。
前歯を撒き散らしながら男は倒れ込んだ。
「お目付け役失格でス。女に甘い男は多いでス、アナタの処分は後で行いまス」
黒スーツ姿の男達が運転手を連行していく。
隙を見せずに近づいてくる神父服の男。
「チッ……追ってきていたワケ?」
――シド・デイビス…。
(左の額に赤い星のタトゥーを刻んだ黒人も……ダークサマナーなのか?)
アリナの前にまで来た彼がアリナに平手打ち。
「くっ…!!」
倒れ込み、シドを睨む。
「タダの姦しい女のようニ、秘密を見せびらかす者なラ…
「……ソーリー。アリナがバッド・ガールだったワケ」
「2度はありませン。決しテ、血の宣誓を犯してはなりませン」
尚紀に向き直り、深々と頭を下げるシドの姿。
「申し訳ありませン。私の不肖の弟子ガ、粗相を行いましタ」
「お前もダークサマナーのようだな?さしずめ、そいつはダークサマナー候補ってわけか?」
「お喋りを繰り返すにハ、ここは目立ち過ぎまス。我々はここで失礼しまス」
踵を返し、車に歩いていく。
アリナも立ち上がり、切れた口の中の血を唾と共に吐き出しながら後をついていく光景。
「…おい、待てよ」
シド達が背を向けたまま静止。
「丁度いい、お前らのような連中から…聞いてみたい事がある」
赤いサングラスのブリッジを指で押し上げ、後ろを振り向く。
「……ほウ?何をお知りになりたいのですカ?」
「俺を…啓蒙の神として、崇める理由だ」
「……場所を変えましょウ。アリナが粗相をしたお詫びも兼ねテ、ご説明して差し上げまス」
黒スーツのサマナーに促され、高級外車に乗り込む。
車列は発進し、郊外に向けて走行していった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
郊外にある高級料亭。
現在尚紀は一番奥にある大広間の個室に案内され、シドと隣のアリナと向き合う。
「改めましテ、ご挨拶しまス。私ハ、シド・デイビス。黄金の暁会に所属するサマナーでス」
(ウラベが前に所属していたという…フリーメイソン内部の神秘主義サロンの奴か)
「料理が出来るまデ、まだ暇がありまス。その間ニ、知りたい事をお答えしまス」
隣のアリナに視線を向ければ、舌打ち。
「アリナは新参者だから、あんまり詳しくないんですケド。シドに聞いてくれる?」
「アリナ、啓蒙の神に対して無礼な口利きハ…止めなさイ」
「……イエス、クソマスター」
アリナは肘杖をつき、顎を乗せながら視線を逸らした。
「お前らはなぜ、俺を神と呼ぶ?非常に気持ち悪いんだが?」
「…それについてハ、グノーシス主義についテ、お話する必要がありまス」
「2~3世紀頃の東地中海地域で流行した宗教運動だったと聞いている」
「お詳しいですネ。後の錬金術の原理にもなっタ、ヘルメス主義にも影響を与えましタ」
「グノーシスの意味は、知恵と認識を表すギリシャ語。その思想は…
「私達ハ、真の至高神の元に霊を至らせる事を目的にシ、知恵によっテ成そうとする存在でス」
「真の至高神だと…?」
「大いなる意思と呼べバ…伝わりますカ?」
「……まぁな」
「真の至高神とハ原初の混沌……それハ、マロガレなのでス」
「……………」
「私達ハ、生まれながらに罪深イ。闇の塊である肉の檻に囚わレ、神的な霊が閉じ込められまス」
「だからお前らは…人間達を罪深い肉の牢獄から、解き放とうというわけか?」
「この教義でハ、キリスト教にとっては都合が悪イ。アマラ宇宙を創造した唯一神が悪魔と化ス」
「傲慢な大いなる神なんぞ、扱いは悪魔で十分だ」
「フフ、私もそう思いまス。神と悪魔の逆転…それこそガ、グノーシス主義なのでス」
「反キリスト主義…それは、全てを逆回転させる思想か」
「その通リ。知恵があるかラ、唯一神がやってきた事ニ疑いを持チ、認識を変えル」
「だとしたら…反逆の天使であるルシファーの扱いは…」
「我々ハ、唯一神こそガ、堕天使の長だと考えまス」
「では、唯一神とはルシファーだと言いたいのか?」
「神を気取ル、狂った堕天使デミウルゴスだと考えまス」
「デミウルゴス…あるいは、ヤルダバオート…」
「堕天使の長デミウルゴスハ、善悪を知る禁断の知恵ヲ、エデンに隠しタ。人間を支配する為ニ」
「……………」
「そこニ、真の至高神の御使いである知恵の蛇が現レ…人類に智慧を与えて救済しましタ」
「ルシファーこそが…人類を救ったメシア。そう考えているんだな…お前らの教義は?」
「イエス・キリストは只の人間でス。そしテ、磔刑にされた死と再生の聖人ハ…智慧の蛇でス」
「キリストは奇跡など起こしていない、蛇が与えた救済の智慧で救いを与えた代弁者扱いか」
「唯一神こそガ悪神であリ、ルシファーこそガ善神。我々ハ、そう信じて疑いませン」
「どうあっても…お前らは、俺をルシファーと同一視したいようだな?」
「…まだアナタハ、お気づきになられていないようですネ?」
「どういう意味だよ?」
「直ニ、分かりまス」
長い話を繰り返していたが、襖が開かれ秋の恵みが詰まった日本料理が並べられていく。
「フフッ、素晴らしい料理でス。特に私ハ、ジャパンのスシが大好物でス」
「ハァ…長い話が終わったなら、アリナは帰るんですケド」
「アナタは食べないのですか?…肉は使われてませんガ?」
「……………」
「アナタはあの日以来、
「…それは、アリナの弱さ。飲み下せるようになってみせるカラ…」
席を立ち上がり、襖に向かう彼女の背中が止まる。
「ねぇ…アナタは人修羅なの?それとも…エンキであり、ルシファーなワケ?」
「嘉嶋尚紀だ。様々な悪魔や神の名で俺を表現しようが…人間だった頃の名を捨てる気はない」
「ハン、ナオキねぇ…?アリナ的には、人間のアナタになんて興味は無いんですケド」
襖を開け、アリナは去っていく。
「あの魔法少女をダークサマナーとして鍛えているようだが…何を企んでいる?」
「あの小娘モ、イルミナティの守護神達が期待をかけている存在だト、伝えておきまス」
「ルシファー共が…期待をする魔法少女だと?」
尚紀の脳裏に、暁美ほむらの姿とアリナの姿が重なってくる。
「彼女ガ、
「フン、デコボコ師弟ってわけかよ。それより…もう1つ聞きたい」
「なんですカ?」
「…この料亭の料理は、包んで持ち帰る事は出来るか?」
「……頼んでみましょウ」
――――――――――――――――――――――――――――――――
玄関の扉を開け、尚紀が帰ってくる。
「遅かったニャー尚紀!一体何処まで行って……ニャ?その袋は何だニャ?」
「なんでもない。昼飯は適当に買ってきたから、これでも食べてくれ」
キッチンの机に料亭料理を包んだ袋を置き、自分の部屋に向かう。
「何かあったと考えるべきね…」
「み、見るニャ…ネコマタ!?これ…高級料亭で出されるような類の御飯だニャ!?」
「まさか…尚紀1人でお昼ごはんを高級料亭で食べたの!?ズルいわズルいわ!!」
書斎と寝室も兼ねた自分の部屋に入り、机の椅子に深くもたれて溜息。
「……アリナとシドか」
――アリナはね、死と再生を崇めるアーティスト。
――アリナは……死と再生を追いかけたいダケ。
――アリナに…死と再生を見せて!
右手を翳し、マガタマを生み出す。
掌の上に出現したマガタマが空中でうねりを描き、6の形や9の形となっていく光景。
「マガタマ…俺に死と再生を与えた呪物。持ち主を悪魔にするだけでなく…」
――神にまで変える…力があるというのか?
「人類を肉体の檻から開放し、霊をマロガレへと導く…それがイルミナティの理想」
肉体の檻、霊を外に開放する。
彼にはそれが、魔法少女たちのソウルジェムのようにも思えた。
「イルミナティも契約の天使と変わらない…。何処までも、人類を玩具にする連中だな」
善と悪、光と闇、陰と陽。
逆回転すればする程、立場が変わっていく。
「…アマラ深界で、聞いたことがあったな」
――光であろうと闇であろうと…。
――どちらであっても人は頼り、祈るのだと。
読んで頂き、有難うございます。