人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
10月も最終日が近づく日。
「尚紀、この街にツテがあるなら…仕事はないか少し聞いて回ってくれないか?」
「まぁ…チラシをバラ撒いた程度じゃ知れてるもんな」
「俺も古い連中に何を言われるか分からんが…依頼はないか聞いて回ってみる」
「新転地だからなぁ…根を張ってた東京みたいにはいかないぜ」
「私は電話番しながら適当に事務処理をしていくわ」
「早いとこ軌道に乗せないと、副業が本業になっちまうからなぁ」
2階事務所から階段を降り、腕を組みながら考える。
「今月の給料は不味そうだな…。探偵は仕事内容で給料が上下するしなぁ」
左掌を掲げ、かつての世界で手に入れた宝石を何個か手にしてみる。
「互助組織の蒼海幇に仕事はないか聞きに行くついでに、南凪路のニコラスの店に行くか」
持っていても仕方ないので、生活費の当てにしようと考えながら事務所倉庫の扉を開ける。
程なくして、探偵事務所からそう離れていない場所である南凪路に到着。
ニコラスの店に向かおうと歩いていた時…。
「あ…嘉嶋さんじゃないですか?」
声をかけてきたのは静香とすなおの2人。
「南凪路に何か用事なのか?」
「ジュエリーRAGと呼ばれる宝石店を知らないでしょうか?南凪路はあまり詳しくなくて…」
「知っている。ガキのくせに宝石でも買って着飾りたいのか?」
「ち、違いますって!私たちはその……」
周りに気を配り、路地裏に来るよう尚紀を促す。
「これが何なのか…聞いてみようと思いまして」
静香がカバンを開け、取り出したのは…魔石。
「……これを、何処で見つけた?」
「聖探偵事務所でちゃるが職場体験していた時期です。悪魔を倒した時に手に入れました」
「なぜジュエリーRAGなら、この悪魔から手に入れた石について分かると思ったんだ?」
「石の賢者が東京にいるという話を、ヤタガラスの神子柴様から聞いたことがあったんです」
「調べたら神浜の南凪区に引っ越していたみたいなんで…今日はそれで南凪区を訪れました」
「ヤタガラスに直接持ち込んで聞くのはどうだ?」
「その…ヤタガラスに見つかるのは不味いんです」
「私たち時女一族は…悪魔と関わる事を禁じられてます。悪魔の品を所持するのは越権行為です」
「悪魔の俺と関わってるだろうが…」
「貴方を勧誘する任務だって、神子柴様の尽力がなければ時女一族に回される事はなかったです」
「まぁいい。それで?こっそり調べようとまでするのには…それ相応の理由があるんだろ?」
「この悪魔の石を拾って手にした時だったんです…」
――私のソウルジェムに溜まった穢れが……この石に
「…どういうことだ?グリーフキューブのマネごとが出来るというのか?」
「グリーフキューブよりも強力な浄化力でした…。この悪魔の石は一体…」
「それを解き明かす為に、私たちは石の賢者の元に行こうとしてました」
「…悪魔の石の秘密を解き明かして、お前たちは何をしようというんだ?」
俯いて黙り込む時女本家の嫡女だが、重い口を開く。
「私たち時女一族も……人間に害を成す悪魔と戦うべきです」
「越権行為なんだろ?」
「今までは悪魔と戦っても得るものが無いと考えましたが、悪魔からも魔力回復出来るのなら…」
「私たち魔法少女だって、悪魔と戦って日の本の民を救う力に成り得ます」
「他の退魔師一族の領分を侵したいのか?」
「退魔師一族は、互いのメンツなんて気にするべきじゃない。民の安寧を優先すべきです」
「私たちは日の本の民を救う為に…巫になったんです。それを忘れた事はありません」
「それは…そうだな。お前たちが組織に物申したいのなら、俺は止めはしない」
「…本音を言えば、私だって神子柴様に楯突くのは…恐ろしいです。それでも…譲れない」
「時女の行持を誰よりも体現する…。それが、時女一族を率いる長になるべき者の在り方」
――私たち巫が後ろをついていきたい……時女の長の姿なんです。
「……お前らみたいに、人間社会を優先してくれる魔法少女ばかりだったら…俺は…」
「えっ…?」
「…何でもない。案内してやるからついてこい」
2人をジュエリーRAGにまで案内し、後から自分も来るとニコラスに伝えてから店を出る。
「まさか…魔石にそんな力が隠されていたなんてな」
左掌を翳し、魔石を生み出す。
「俺たち悪魔にとっては…」
――傷を癒やす為の食い物なんだがな。
――――――――――――――――――――――――――――――――
尚紀は蒼海幇の長老と話をし、人を探してもらいたい案件がある事を確認し依頼を承諾。
自分が所有していた残りの宝石もニコラスに換金して貰う手続きを終えた後日、仕事を開始。
「倒産手続きに介入して来た連中に騙されて、企業の資産を勝手に処分させられた末の失踪か」
「探して欲しい人物は、債務者である社長だそうだ。債権者たちが依頼人となる」
「手口としては事件屋だな。まぁいい、俺たちは行方不明者捜索に当たろう」
「…どうも気になる事がある。今回の犯行手口には不自然な点が…」
「尚紀、俺たちは刑事事件を取り扱う存在じゃないんだぞ」
「…そうだな。それじゃあ、依頼人から聞いた債務者情報を纏めていこう」
その日は捜査会議となり、後日より捜査を開始。
現在は新西区を捜査中。
聞き込みを繰り返す尚紀だが、気になっている部分が頭から離れない。
「倒産手続きをしていた社長の元に訪れたのは…魔法少女かもしれないな」
失踪した社長と話をした事がある長老から語られた情報を思い出す。
「腕の良い弁護士を紹介するとかで連れ出されたって話だが…その後の社長は何も覚えていない」
気がつけば会社の通帳も印鑑も使われ、手続きを乗っ取られて私的整理資産を巻き上げられた。
「こんな芸当が出来るのは、魔法が使える連中だけだ。東京でも見たことがある手口だしな」
椅子に座り、考えを巡らせていた頃にはお昼が近づいてきている。
「もうこんな時間か…。さっさと昼飯でも済ませて仕事に戻るか」
新西中央駅近くにあるGAUGHEBURGERというハンバーガーショップに入っていく。
「平日でも学生が多いな…今日は昼までだったんだろうか?」
注文を済ませ、番号札を持ちながら席を探す。
2階に昇り、ガラスの鳥籠のような個室スペースを見つけてそこに座った。
注文が来るまで静香達から聞いた情報を整理していた時…。
<<ねぇ……東…魔法少女……思う…?>>
隣の個室からかすかに聞こえてきた声に反応。
悪魔の聴力を用いて聞き耳を立てていく。
「十七夜さんが、東の魔法少女社会から追放されたって話…本当なわけ…?」
「ああ…。今はやちよさんが保護しているみたいなんだ…」
「ど、どうして…追放されちゃったのかな…?」
「…分からない。彼女の名誉の為にも言えないって…やちよさんに言われたよ」
「東の魔法少女社会は…これから、どうなっちゃうんだろう…?」
(…どうやら、西の魔法少女達のようだ)
隣の個室に視線を向ければ、座っているのはももことレナとかえでの姿。
「ねぇ…なんで東の魔法少女たちは…神浜で暴れるようになったの…?」
「それは…神浜の差別問題が原因なんじゃ…?」
「ハァ!?社会問題があったら、何をやってもいいワケ!?レナ…そんな理屈絶対に許さない!」
「落ち着けってレナ!神浜の西側は昔から東の人達に冷たすぎる…だから怒るのも無理はないよ」
「就職差別とか…賃金差別とかあるって…家族から聞いたことがあるよ…」
「どうして神浜の街は…そんな酷い事を、昔から続けてこれたんだろうね…?」
「今その話をしてるわけ!?東の魔法少女たちのやってる暴走の話じゃなかったの!?」
「そ、それはそうだけど…でもさ、アタシ達だって西側の人間だし…責任の一端あるよ」
「ふざけないで!レナ達は何も悪くない…。だってレナ達は…腹が立っても人間を襲わない!」
「そ、そうだよぉ…それだけは絶対ダメ!…一線を超えちゃってるし…」
「かえでだってレナと同じ意見よ。ももこだけなんだから…変に同情的なの」
「それについては…責任を問う機会をさ…やちよさんやひなのさんに作って貰おうよ」
「……ももこは、
「突然何を言い出すんだよレナ!?」
「もういい!!レナ帰る!!!」
喧嘩分かれとなり、レナは去っていく。
(…西側の魔法少女達も、東の連中に関しては物別れしているようだな)
店員が上がってきて騒ぎを起こすなと注意している光景を見つめながら、物思いに耽る姿。
(よく見ればあの魔法少女…この街に来た時に出会った事がある奴か)
3人のやり取りを見つめていたが、彼も席を立ち上がる。
丁度その頃になって注文の品がやってきたのだが…。
「…騒々しいから外で食べる。包んでくれないか?」
店員は騒動を陳謝し、品を袋に詰め直してから彼に渡してくれた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
聞き込みの進展を得られなかった新西区を離れ、水名大橋を超えて捜査範囲を広げる。
水郷柳川として美しい水名区の道を進み、遊歩道の休憩ベンチに座って袋を広げた。
「…冷えたポテトって、あんまり美味くないよなぁ」
美しい川の景色を見ながら冷めたファーストフードを食べていた時…。
<<月夜ちゃん…この街はもうダメだよ!こんな街…出ていこうよ!!>>
突然の大声に耳を傾ける。
横を見れば、ベンチを1つ跨いだベンチに座る2人の人物達の声。
「月咲ちゃん、落ち着いて下さいまし!行く当てなんて…何処にもありません!!」
「ウチ…もうこんな街になんていたくない!!家族も人間も魔法少女も…自分勝手過ぎる!」
「わたくしだって…辛い立場です。こうして東の月咲ちゃんと会っているだけで…」
「…悪者の片棒を担ごうとしているって…言われるんでしょ?」
「……はい」
「みんなそうよ!東の住人ってだけで差別する!あの子達が暴れてるのだって…元はと言えば!」
「東西対立が原因ですね…」
「…だったらさ、月夜ちゃん。ウチらもさ……こんな腹が立つ街なんて……」
「月咲ちゃん、その先は言わないで下さい」
「月夜ちゃん…?」
「それでは…わたくし達は、本物の悪者となります」
「だって……だって……全部神浜って街のせいなんだからぁ!!!」
席を立ち上がり、月咲は去っていく。
「待って下さい!!」
月夜も立ち上がり、後を追いかけていく。
残されたのは彼1人。
「…この街の差別は政治で解決するしかない。だが…神浜市
ヘイト条例とは、差別のない人権尊重のまちづくり条例。
外国人等へのヘイトスピーチを繰り返す者には氏名を公表し、最高50万円の罰金を科す。
溜息をつき、ヘイト条例が施行されている大阪市や川崎市の現状について語る。
「差別の定義は極めて不明確。国民の自由な言論や情報発信は萎縮され、被害者側に支配される」
歴史的事実を指摘し、正当な批判や論評をすることさえ差別だと罵り、裁く事が可能な条例。
弱者側の一方的な支配現象が起きる…差別撤廃ポリティカル・コレクトネスの悪用だ。
「憎悪表現は民法や刑法で規制は出来る。立法措置にまで踏み切られれば…西側は終わりだ」
席を立ち上がり、食べ終えたファーストフードをゴミ箱に捨てる。
「差別は被害者側に悪用される。似非同和会や似非人権団体が使ってきた
仕事に戻り、水名区でも聞き込みを繰り返すが有力な情報は得られない。
仕方がないので水名区を超え、中央区にまで捜査範囲を広げる彼の姿があった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
中央区で聞き込みを繰り返し、ようやく有力な情報を得られる。
「失踪した人物とよく似た人物を大東区で見たか…。住まい近くの西側地域かと思ったんだが…」
急ぎ足で東地区を目指している時…。
<<ひなのさん…私たち中央の魔法少女達は、どう動くべきなんですか?>>
視線を路地裏に向ければ、魔法少女と思われる数人の会話。
彼は路地裏の入り口前に隠れ、聞き耳を立てた。
「私たちは、このまま指をくわえながら街の騒動を見物していれば良いのかしら?」
「そ、そんなのダメ!だって…東の魔法少女たちが人間社会に乱暴してるんでしょ?許せない!」
「…こころ、まさら、あいみ。お前たちの言いたい事は分かるが…中央区は中立の立場なんだ」
「そんな…このまま見ていろって言うんですか!?」
「中央がヘタに西の肩を持てば…東の魔法少女達は、中央の中立を認めなくなるんだ…」
「中央の私たちは…人間社会に危害を与える東の魔法少女を見ても、手出しは無用?」
「…西や中央で悪さをしているのを見つけたら、今まで通りのやり方で処罰するしかない」
「西のみんなと一緒に東に乗り込んで…東の魔法少女達の暴走を鎮圧とかは出来ないの…?」
「それこそ全面戦争だ…。アタシが一番恐れている事態となる」
「…ひなのさんとやちよさんとで、東に現れた新しい長と協定を結ぶ事は出来ませんか?」
「藍家ひめなだったか…アイツは狡猾な奴だよ。ヘタに手を出せば…利用されるかもしれん」
「そいつは余所者なのよね?意図的に神浜に混沌を撒き散らして…何を企んでいるのかしら?」
「それは分からんが…余所者の数が最近、異様に増えてきている気がするんだ…」
「それも…藍家ひめなが手引きしている?」
「まるで…戦争の準備でもしているみたいよね…」
「どうなっちゃうの…私たちの街は……?」
一部始終を聞き終えた彼は路地裏を後にする。
「…魔法少女同士の全面戦争か。ヘタをしたら、見滝原みたいに魔法少女の数が激減するかもな」
そうなれば、この街にどれだけの被害が出てしまうのかは検討がつかない。
「…俺は、本当に見ているだけで良いのか?」
信じると口にした以上は、正義の魔法少女たちに任せてみるしかないと判断。
思考を切り替え、東地域へ向けて彼は歩いていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
パトカーが行き交う不穏な空気に包まれた東地域の道を進む。
「…まるで暴動が起こりそうな空気に包まれてやがるな」
付近には警察官が多数配置され、巡回を繰り返す。
彼も職質をされ、東地域の人物ではない事が証明されたので開放された。
「犯罪の激増、民衆の不安と不満が爆発しそうだ。神浜行政も東地域に支援が十分回せないか」
民衆達に聞き込みを繰り返すが、余所者であるという理由だけで怒りだし去っていく。
「民衆も感情的になってきている…。何かのキッカケで騒乱が起きるやもしれない」
通りを歩いていた時、大東区役所前の騒ぎを目にして立ち止まった。
「神浜行政に怒りをぶつけに来た連中か…。あいつらも魔法少女犯罪の被害者なんだろうな」
その光景を撮影している人物に視線が移る。
「おい小娘!!見世物じゃねーんだぞ…勝手に撮影してんじゃねぇ!!!」
「観鳥さんは只のジャーナリストだよ!」
「五月蝿ぇ!!ぶん殴られなくなかったら、さっさと消えろ!!」
男たちに追い出された観鳥だが、尚紀の姿を見つけて近づいてきた。
「…恥ずかしいところを、見られちゃったかな?」
「令…場所を変えよう」
「うん…そうだね…」
2人は移動し、落ち着いて話が出来る場所に移っていく。
子供達の姿が消えた公園に入り、2人はベンチに座った。
「お前の学生新聞は、社会問題も記事にするんだな?」
「観鳥さんは南凪区の生徒だけど…大東区出身なんだ。皆に東の苦しみを知って貰いたくてね…」
「令は大東区出身だったか…。なら、今の大東区の現状を…教えてくれないか?」
「…酷いもんさ。傷害・強盗・放火…何でもありな状態になってしまった…」
「原因は何だと思う?」
「そ、それは……説明が難しいね」
「……魔法少女が関係しているのか?」
「えっ!?嘉嶋さんは…魔法少女の事を知ってたの…?」
「俺は探偵だから、職業上お前らのような連中と出会う事がある。今更左手を隠しても無駄だ」
「…バレてたんならしょうがない。お察しの通り…この騒動には東の魔法少女が関与してる」
「東の住人でも見境なしに襲うのか?」
「連中には関係ない。人間そのものを憎みだし…魔法少女至上主義を掲げて暴れだしたんだ」
「東の魔法少女を纏めている奴はいないのか?」
「前の長は…追放されたんだ。そして…今の長に変わってから、歯止めが効かなくなった…」
「お前はどうなんだ?東の人間を差別してきた連中を憎み、魔法少女至上主義を掲げないのか?」
「観鳥さんはジャーナリスト…ジャーナリストの義務に関するボルドー宣言を遵守したい立場さ」
「そうか…お前のような冷静な東の魔法少女がいてくれて助かる」
「観鳥さん以外でも、冷静な魔法少女は何人かいるけど……みんな疲弊してきている」
「東の魔法少女至上主義者と喧嘩になったり、西側の魔法少女からは同じアナーキスト扱いか?」
「東の自治を望んで独立した…それが裏目に出たのかもしれない。西側と東側の溝は深いんだよ」
「なるほどな…それで?西側の連中は、この騒動をどう収束させるつもりなのか知らないか?」
「美雨さんに聞いたけど…西の長はね、これ以上西側に危害を加えるなら容赦しないそうだよ」
「戦争でもおっぱじめる気か?」
「攻めてくる連中だけを迎え討つだけでは…事態は収束出来ない。最後通告を与えるつもりだ」
「それこそ、東の長の思う壺なんじゃないのか?」
「そうかもしれない…それでも、今のままでは防戦一方で被害が増えるばかりなんだよ…」
「東西の全面戦争か…。そうなれば、どれだけの人間が巻き添えになるんだろうな?」
「やちよさんも…それを危惧している。最後通告の席で、話し合いで解決出来たらね…」
「……望みは薄そうだ」
席を立ち上がり、仕事に戻ろうとする彼の背中が呼び止められた。
「ねぇ、嘉嶋さんは大東区に何をしに来たのさ?」
「探偵の仕事だ。行方不明者の捜索を行っていてな」
「大東区ならホームグラウンドさ。観鳥さんも手伝ってあげるよ」
「いいのか?お前は取材中じゃなかったのかよ」
「追い出されちゃったしね…。それに、今は誰かと一緒にいたい気分だし…」
「…分かった。取り敢えず、浮浪者が立ち寄りそうなエリアを案内してくれるか?」
「了解、探偵さん♪」
令に先導され、尚紀は大東区の捜査に戻っていく。
(……俺は、信じてもいいのか?)
――――――――――――――――――――――――――――――――
東地区の寂れた地域を2人は歩いていた時、先導している令が口を開く。
「…ねぇ、東の長や暴走した魔法少女達を倒せたら…本当に事態は収束すると思う?」
「……難しいだろうな。原因があるから結果が起こる…暴走の原因なら知ってるだろ?」
「うん…神浜の東西差別問題。これが…全ての引き金だよね」
「さっき東の社会がどんな苦しみを背負っているのか、記事にしたいと言っていたな?」
「社会問題の記事なんて書くもんだからさ……観鳥さんは大勢から嫌われてる」
「……………」
「令、楽しいゴシップ記事書いたら?趣向を変えないと面白くないぞ?…みんな口を揃えて言う」
「…ジャーナリストも、疲れる仕事のようだな」
「引退しようって…何度思ったか知れない。それでも真実に目を向けなければ…何も変わらない」
「真実は恐ろしいもんだ…恐怖や疑い、怒りを生む。荒れる話題だと、みんなが避けていく」
「真実が何を生むのか…それは世界のジャーナリスト達が示した。歴史を動かしたんだよ!」
背を向けていた令が後ろを振り向く。
その顔はやりきれない悔しさが滲んでいるように歪む。
「ジャーナリストは公人だ。善悪関係なく、真実だけを民衆に伝える……その影響は大きい」
「社会運動だって巻き起こしてきた!それぐらいやらないと…神浜の東西は何も変わらない!」
「おい…少しは落ち着けよ」
「あっ……ご、ごめんね。…時々、止まらなくなるんだ…」
「他人に何かを伝える事は…非常に難しい。相手に取捨選択の自由があるなら…なおさらさ」
「伝えたくても…みんな逃げていく。社会問題を聞いてくれる人さえ現れない!他人事なんだ!」
「伝えられてるじゃないか?」
「えっ……?」
「今…自分の自由意志で、お前の伝えたい言葉を聞いてくれている奴がいるだろ?」
指摘され、向かい合っていた令の顔が真っ赤に赤面して後ろを向いた。
「あっ…えっと……そうだったね。……聞いてくれて、ありがとう」
「真実を知る事は、未来の自分たちを守る事に繋がる。それだけの価値があると…俺も信じよう」
「……美雨さんが言ってた通りの人だったね」
「なんだって?」
「仁義に熱い……素敵な人だって言ってた♪」
機嫌がよくなり、観鳥は彼の前を元気よく歩み出したようだ。
……………。
程なくして、人通りも殆どないシャッター街に辿り着く。
再開発建設大反対の看板、鉄条網、拒絶を示す落書き塗れの通り。
「浮浪者がたむろしているのは、通りの屋根がまだ残るこのシャッター街だと思うよ」
「…何処の都市でも、こういう場所はあるもんだな」
通りを入り口から覗けば、ホームレスらしき人物達の姿も見える。
「ここまででいい。後は俺が聞き込みを行う」
踵を返し、彼は何処かに向かうのだが…。
「ちょっと?案内してあげたのに…何処に行くのさ?」
「…ああいう連中から聞き込みを行うなら、俺なりのやり方がある」
「嘉嶋さんなりのやり方…?」
「…俺も元ホームレスだ。あいつらの苦しみの理解者として…差し入れぐらいは持っていく」
「そんな過去があったなんて…。だったら手荷物多くなるでしょ?観鳥さんも運ぶよ」
「これ以上は手伝わなくてもいいんだぞ?」
「フフ♪いつだって正義の味方な嘉嶋さんの手伝いがしたいだけだよ」
「正義を名乗る資格は俺には無い。ただ…弱い立場の彼らに寄り添いたいだけだ」
「経験から言って、本物の善人になりたかったら善良に振る舞うしかない。嘉嶋さんは立派だよ」
「フン、勝手にしろ」
令にも手伝って貰い、スーパーやドラッグストアの買い物袋を抱えていく。
シャッター街に入り、尚紀はホームレス達に声をかけ施しを受け取って欲しいと言っていく。
彼の善行に皆が喜び、ここのホームレスを纏めるボスと話をする機会を貰えたようだ。
「本当に有難うな…。若いのに、俺たちと同じようなホームレスだったなんてなぁ…」
「衣食住が無いなら、俺のNPO法人に来るといい。研修を終えたら雇用すると皆に伝えてくれ」
「何から何まで申し訳ない…。余所者でも、あんたみたいな
「それより、聞きたい事がある。この人物を見なかったか?」
行方不明者の写真をボスに見せる。
「こいつか…。ちょっと前までここにいたんだが…ガラの悪い取り立て屋から逃げていったよ」
「ここから離れてしまったのか?」
「可哀想な奴だった…。突然少女に声をかけられ連れて行かれたら…全てを失ってたんだ」
「…こいつには、残した家族がいる。遅い結婚だったから…長男はまだ7歳だ」
「その家族を救う為にな…こいつは闇金に手を出してまで、私的整理費用を捻出したんだ」
「本当か…?倒産を控えた企業に銀行が金を貸してくれるはずがない…早まってしまったな」
「支払いの責任は全て独りで背負い、家族だけは弁護士に救ってもらいたいと言っていた」
「……何処に行ったか、検討がつかないか?」
「……
「俺も元ホームレスだから…知っている。だからこそ、早く見つけなければならない」
ボスが知る限りの目ぼしい場所を教えてもらい、彼は走りながらシャッター街を去っていく。
「観鳥さんも探すよ!こんな事態になってるなんて…東の魔法少女は人間を殺そうとしている!」
「お前に渡した名刺に、俺の連絡先も記載されているから…見つけたら連絡をくれ」
2人は分かれ、手分けして捜索を開始。
静かな怒りを押し殺し、彼は駆けていく。
駅の近くを探して回っていた時…。
<<キャァーーーーッッ!!!>>
突然の悲鳴が聞こえ、急いで現場に急行する。
見れば男が飛び降り自殺をしたようだ。
「おいッ!!しっかりしろよ!!!」
飛び降り自殺を図った男の特徴は、捜索中の行方不明者と一致。
「ガッ……あっ……ア……」
背中から地面に叩きつけられ、臓器も背骨も破壊された男の命は長くは持たない。
抱き起こす彼の胸を震える手で掴み、最後の言葉を残す。
「どう…し…て……?何…で……こん…な……め………に……?」
男の最後の慟哭を聞いた瞬間、脳裏に常磐ななかの慟哭の言葉が過る。
――何の変哲もない人生を生きたかった!
――正義を気取る魔法少女たちもあの時、守ってくれなかった!
――どうして魔法少女は自分だけの世界しか見てくれないの…?
――どうして無力な人間たちの気持ちになってくれないの…?
「残された家族はどうなる!?しっかりしやがれぇ!!!」
尚紀の叫びも虚しく、掴んだ男の手が緩むと同時に瞳孔が開いた。
通報する者や、SNSに投稿する為の撮影を行う愚か者達に囲まれた2人の姿。
野次馬達の雑多な声など、今の彼には届かない。
「…神浜の魔法少女のせいで……
彼の心に、抑え難い怒りの業火が巻き起こっていく。
「差別に苦しむせいだからだと…?東西の話し合いの場だと…?責任を問う機会だと……?」
――お前たちが
男の遺体を抱きしめ、救えなかった人間達の苦しみを己の心に刻む。
尚紀はその場から動かず、魔法少女達の薄っぺらい道徳心や真善美の世界を…呪い続けた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
10月も最終日を迎えた今日。
「かこさん…私が恐れていた事が…現実になってしまいそうですね……」
立ち話を終えた常磐ななか達が歩き去っていく。
彼女達が立っていた自販機の裏側にあるパーキングエリアにはクリスが駐車中。
窓を開けて聞き耳を立てていた男の姿。
その表情は既に…東京に現れる、魔法少女の虐殺者。
「…ダーリン。本当に、手を出さないつもりなの?」
「一度だけ信じると…言ってしまった。神浜魔法少女が…どの様に事態を治めるのかを見極める」
「信じるって……既に人間の犠牲者が出ているのよ?」
「分かっている…。事態が治められたなら、俺は連中の責任を追求しに行くつもりだ」
「お前達のやり方は間違っていると言いに行ってさ…部外者の話を聞いてくれると思う?」
「2度…チャンスを与える。それでも連中が…人間としての俺の嘆願を踏み躙るつもりなら…」
「フフ……やっと素敵な顔を見せてくれるようになったじゃん♪」
バックミラーに映る尚紀の表情は既に…。
「それでこそ……悪魔よ、ダーリン」
「…クリス、その時になったら……お前にも働いて貰うぞ」
「モチのロンよ~♪あぁ……やっと血を見られるーッ♪♪」
「この街にも…悪魔の共産主義が必要かどうか…」
――…試してやる。
読んで頂き、有難うございます。