人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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110話 ルミエール

暗い夜の河川敷に座る、独りの少女。

 

「…ねぇ…ヒコ君」

 

誰かの名を呼ぶ。

 

「どうして誰も…私チャン達の事…認めてくれないんだろうね?」

 

答えは帰らず、彼女は独り。

 

「私チャンの中に入る前は…不釣り合いだなんて言われて…」

 

少女の言葉は要領を得ない。

 

「私チャンの中で自由に過ごすのは、意味が分からないんだって…」

 

悲しみと悔しさが滲むのか、彼女の両目には薄っすら涙が浮かぶ。

 

「私チャンの頭がおかしいとか…ホント、イミフ……」

 

周りの冷たい言葉と同じぐらい冷たい風が吹き抜けていく。

 

「ごめんねヒコ君…。私チャンなんにも出来なくて…」

 

頭脳秀でる彼に似合う女になろうと努力した。

 

「私チャン……頭良くないし。勉強したって…何も入ってこなかったし…」

 

秀出した男と、凡愚の女。

 

周りからは不釣り合いなカップルだと言われ続けたようだ。

 

「才能ある者には、才能ある者が必要。……どんだけ古い価値観さ…マジハラだよ」

 

悔しくて堪らなかった彼女は思う。

 

「きっと…世界をひっくり返すような、すごいことをしないと…」

 

――私チャン達の恋愛は、絶対に敵わない…。

 

心の晴れない曇りにより、ソウルジェムは濁っていく。

 

「どこかで自由を得ないと……」

 

<<自由とは、他人から与えられるものではありません。最初から己の内にあるべきです>>

 

声が聞こえた方を振り向けば、1人の少女の姿。

 

「えっ…!?あなた……誰?」

 

学生服の上にピンクのカーディガンを纏う、ロシア系ハーフを思わせる白人。

 

温厚な表情を向けながら、近づいてくる。

 

「ちょ…なんなのよ!?」

 

左手中指にあるソウルジェム指輪に右手を翳す。

 

「えっ……ええっ!!?」

 

まるで、彼女の右手に吸い取られていくかのように…穢れが抜き取られた。

 

「あ…あなた……何なの?」

 

「……私は、栗栖アレクサンドラと申します。何か…お悩みだったんですか?」

 

心配をしてくれているように見えるが、ひめなは後ろに下がっていく。

 

夜風が金髪の長髪を揺らす。

 

彼女の顔に見える瞳の片方は……人間とは思えない真紅の瞳。

 

(何…?あの赤い瞳を見てると……拒絶……出来ない…)

 

気がつけば、自分の経緯を語ってしまう。

 

「…古き価値観によって、望む恋愛を得られない。貴女はこれについて…どう思います?」

 

「マジハラに決まってるし!」

 

「個人が至高の価値を有するという道徳原理を、キリスト教が広めてきたのをご存知ですか?」

 

「…個人が至高の価値を…有する?そんなラブい事を…キリスト教が言ってたんだ?」

 

「個人の自由こそ尊ばれるべきであり社会の指針となる。この思想こそが今日の国を作りました」

 

「…そうだよ!個人の自由恋愛を望んで何が悪いのさ!?私チャンの正しさは…自分で決める!」

 

「自由に生きていい個人の尊厳は守られるべき。この政治思想こそが…個人主義です」

 

「政治とか私チャン知らないけど……なんか、エゴイズムってのとよく似てるね?」

 

「個人主義と利己主義は別の意味を持ちますが…利己主義に生きる自由さえ尊重する思想ですよ」

 

「最高じゃん!!そうだよ…私チャン、なに勘違いしてたんだろ…?」

 

――自由なら……最初からあるじゃん!!

 

「個人主義の名の下に、利己主義を望むのなら……」

 

――貴女も…()()()()に目覚めてみますか?

 

「けいもう……主義?」

 

笑顔を向けながら右手を持ち上げ、指を鳴らす。

 

ひめなの視界が歪んでいく。

 

気がつけば…。

 

「えっ……ここ…は?」

 

そこは、何処かの山の頂き。

 

空を見渡せば、美しき星空の世界。

 

「すごい……まるで……」

 

――()()()()()()()()()()……。

 

美しき星空の世界で一際輝く星とは……暁の星である金星。

 

<<個人の自由や権利を認めない…封建社会を破壊するのです>>

 

声が聞こえた横を振り向けば…。

 

「あ…あぁ……アァァァッッ!!?」

 

あまりにも恐ろしく、あまりにも美しい存在。

 

光り輝く天使の六枚翼を持ちし、アレクサンドラの姿。

 

その光は、天に煌く暁の星と同じ輝き。

 

凄まじい威光を浴び、全身に力が入らなくなった彼女は両膝を地面につく。

 

「理性による思考の普遍性と不変性を主張し、人間本来の理性の自立を促しなさい」

 

近づいてきた彼女が、ひめなに手をのばす。

 

「……あなたは……神様?」

 

ひめなも片手を伸ばす。

 

「自由を求めるのではなく……貴女自身が、自由となるのです」

 

――真の平等なる自由世界を…皆に与えなさい。

 

――()()()()()()()()…。

 

手を取り合った瞬間、神々しき光の霊圧に飲み込まれていく。

 

ひめなの意識はホワイトアウトし、天辺の光景は消えていった。

 

……………。

 

………………。

 

<<あの……大丈夫ですか?>>

 

「えっ?……あ、あれ…?」

 

気がつけば元の景色。

 

「ぼーっとしていましたけど…夜風が体に障りましたか?」

 

「う…うん……なんかさ、私チャンてば…白昼夢を見てたみたい」

 

「早く家に帰って休んだ方が良いと思います」

 

「…ありがとうね。私チャン……貴女に出会えて良かった気がする」

 

学生服のポケットからスマホを取り出す。

 

「いいこと教えてくれたしさ…魔法少女じゃなさそうだけど、私チャンのマイメンになってよ☆」

 

「フフ♪通りすがりの私でよければ♪」

 

「アレクサンドラだと名前長いし…アレクサ…サ……サーシャって呼んでいい?」

 

「可愛い愛称ですね♪構いませんよ」

 

彼女もカーディガンからスマホを取り出し、連絡先を交換。

 

手を振りながら帰っていくひめなを笑顔で見送っていたのだが…。

 

「……………」

 

アレクサンドラの表情が、冷淡な顔つきに豹変。

 

「栗栖アレクサンドラと呼ばれた魔法少女は……」

 

――もうこの世には…()()()()()()

 

前髪に身につけた花飾りを捨て、蜃気楼のように謎の存在は消えていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

北養区近くの公園。

 

そこには横笛を吹く少女の姿。

 

音色は美しさの中に、悲しみを宿すように震えている。

 

「うっ…ヒック……」

 

笛を吹くのを止めてしまった少女の目からは、大粒の涙。

 

「ダメ…感情が高ぶって……笛を吹いてても心が晴れない……」

 

月咲は片腕で涙を拭う。

 

「みんな…自分の都合や、価値観ばかりをウチに押し付ける…」

 

彼女の脳裏を巡る人物たち。

 

「お父ちゃんは腐りきった伝統を押し付けて…十七夜さんも自由を謳いながらもウチを拘束した」

 

周りの価値観ばかりに虐げられ、抑圧され、彼女の心は悲鳴を上げている。

 

「苦しい時こそ笑顔を作れば幸福になる…とかいう心理あるよね?…ただのバカじゃん」

 

――原因があるから結果が起こる…。

 

――原因が解決しないのに、笑顔を作れないのに…周りの人を不快にさせない笑顔を()()()()()

 

――周りの勝手な注文に応える笑顔なんかに……何の価値があるわけさ?

 

「…東の人は、西の人に虐められる。そして、東の人でさえ…弱い立場の人を探して虐める…」

 

彼女の眉間にシワが寄り、怒りを堪えきれない。

 

噴き上がる怒りの感情に震えていた時…。

 

<<周りに合わせる必要なんてないよ。貴女は貴女のままでいいんだから☆>>

 

「えっ……?」

 

声が聞こえた方を振り向けば、魔法少女たちの姿。

 

「時雨ちゃんとはぐむちゃん…?そ、それに……」

 

「姫、月咲さんも苦しんでる。姫の言葉で救ってあげてよ」

 

「オッケー、お話して~この子をチェキるから☆」

 

姫と呼ばれた人物とは、東の長となった藍家ひめな。

 

「初めましてかな~?私チャンは藍家ひめなっていうんだ、よろピー☆」

 

「…アンタ、十七夜さんが追放された日に現れた魔法少女だよね?」

 

「隣町の魔法少女だけど~、今は神浜の東の長に祭り上げられちゃった立場なんだ~」

 

「何の用事なわけ…?ウチは余所者のアンタを…東の長になんて認めてないよ」

 

拒絶の意思を示す月咲を見て、不敵な笑み。

 

「貴女の疑問の答え…教えてあげよっか?」

 

「答え……?」

 

「どうして東の人は虐められるのか?どうして東の人は弱い人を探して虐めるのか?…でしょ?」

 

「う…うん…」

 

「人の歴史で考えても普通の現象だよ。アメリカを例にして語ってあげる」

 

「人の歴史…?アメリカでも、こんな酷い状況があったわけ…?」

 

「人を虐げ、迫害するのは()()()()()からきてる。虐げた黒人を白人達が恐れたようにね」

 

「恐れの感情…?」

 

「復讐されるかもしれないって自覚してる。だから恐れて、あいつらは悪者だと決めつける」

 

「そ、そんなの酷すぎる!!なんで勝手に決めつけるのさ!?」

 

「SNSでも犯罪を犯した悪者ニュースなら、集団リンチコメントや晒し行為が行われるでしょ?」

 

「確かに…犯罪ニュースのスレとか見たら、社会のクズは全員刑務所にぶち込めとかあるよね…」

 

「人は恐怖存在を遠ざけ、安心を得たい生き物。銃社会アメリカも、黒人への恐れから生まれた」

 

――理解出来ない存在を疎み、社会の端に隔離したり、排除したりする事を人々は望む。

 

「その感情を建前で隠して、まるで正義の味方を気取ってるんだよ~~☆」

 

「それが…西の人達の……本性?」

 

()()()()()()がデマを生んだり、犯罪が露出すれば確信へと至って一斉攻撃出来る現象ね」

 

「酷いよ…犯罪者の人達だって……原因があったかもしれないのに…」

 

「他人への攻撃は…()()()()()()()()んだよ。相手を知る知恵を求める努力が無い証拠だね~」

 

「じゃあ…東の人は、どうして自分より弱い立場の人達まで虐めるの…?」

 

「単純な話。社会的に上の奴らから虐められたし、下の奴らを見つけて虐めたいな~…だよ」

 

「なんで!?なんでそんな理不尽が出来るのさ!!」

 

「社会は縦構造だからね。学歴社会、会社内カースド、人は上の奴らから虐げられ…抑圧される」

 

「社会の縦構造に逆らいもせず…保身に走って下を虐めるわけ?それが東の虐めの根本なの…?」

 

「人は虐められるから虐めを繰り返す。人を虐めない人はね…抑圧された事がない支配階級よ」

 

「あ……あぁ………」

 

人間社会の仕組みを知り、月咲は震えながら心が濁っていく。

 

「じゃあ…最底辺の人達は、どうしたらいいの?人間社会に絶望して……死ぬしかないの?」

 

聞きたかった言葉を月咲から絞り出せたひめなは、笑顔を向ける。

 

――この社会そのものを、()()()()()()()んだよ☆

 

「人間社会を……破壊する……」

 

「その為に、私チャン達は魔法少女至上主義を掲げる」

 

「腐りきった人間社会を破壊する為の……魔法少女至上主義?」

 

「古い価値観に縛られた封建社会を破壊して、魔法少女が望むままの新しい自由社会を作る」

 

――いっしょにさ……啓蒙の光を浴びられる天辺を目指そうよ?

 

――新しい別世界が見える……頂きに昇ろうよ。

 

――天辺はね、()()()()()()()()()()()()()()()なんだから☆

 

……………。

 

東の魔法少女達は、人間を信じなくなった。

 

このまま人間社会を放置すれば、死ぬまで人間に虐げられると恐怖心を爆発させていった。

 

黒人による報復を恐れた白人は、南北戦争の奴隷解放で平和を手に入れた黒人を信じなかった。

 

白人たちの恐れが生んだ思想がある。

 

それは『白人至上主義』と呼ばれた。

 

白人至上主義者が組織した団体こそが…『KKK』と呼ばれる秘密結社。

 

リンチ、店舗の放火、不当逮捕、あらゆる人種に対して差別行為を行った白人の歴史。

 

KKKが解散されてからも銃で武装し、あらゆる人種に差別行為を繰り返す。

 

黒人差別撤廃を叫んだ大衆運動こそが、歴史に名を残す公民権運動であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

10月の最終日。

 

西側の長は側近とも言える魔法少女たちを集める為に招集をかける。

 

後日に控えた会談の場について語り合う予定のようだ。

 

「やちよさんの住まい…みかづき荘に来るのも久しぶりだよね…」

 

段差の上にあるみかづき荘を見上げる人物はももこ。

 

「思い出すなぁ…。やちよさん達とチームを組んでいた頃は、ここによく集まったよ…」

 

帰れない昔の時代を思い出し、溜息をついていた時…。

 

「お~い!ももこ~~!!」

 

知っている声が聞こえた方角を振り向けば、飛びついてきた少女の姿。

 

「うわっと!?急に飛びつくなんて…相変わらずだなぁ、鶴乃」

 

「えへへ♪昔はこうやって、みんながみかづき荘に集まるのが当たり前だったよね…」

 

「そうだね…昔は良かったよ。それに…みふゆさんも久しぶり」

 

鶴乃の後ろからは遅れてやってきたみふゆの姿。

 

「お久しぶりです、ももこさん。やっちゃんが呼び寄せたメンツはこれで全員ですね」

 

「それじゃあ、久しぶりのみかづき荘にお邪魔しますか」

 

「旧みかづき荘チーム大集合の巻~~♪」

 

3人は段差を昇り、西の長である七海やちよに招き入れられた。

 

リビングに3人は座り、やちよが淹れた珈琲が注がれたマグカップを受け取っていく。

 

「…大事にしてくれてたんだね、やちよさん」

 

「……物持ちは良いほうだから」

 

かつての大切な仲間達を象徴するようなデザインに見えるマグカップだった。

 

「その……十七夜さんは、どうしてるの?」

 

「十七夜は…上の階で休んでる。今のあの子の精神状態では…戦いや治世を考える余力は無いの」

 

「どうして十七夜はさ…追い出されちゃったの?立派に長を努めていたはずなのに…」

 

「鶴乃…お願いだから言わせないで。あの子の名誉の為にも…詳細は伝えられないわ」

 

「そっか…十七夜も辛かったんだね。もう聞かないからさ…」

 

「今は私が十七夜の分のグリーフキューブを集めて保護している。予断を許さない状態なのよ…」

 

「早く家族のところに帰れるぐらい…精神状態が安定してくれたら良いんですが…」

 

やちよも席に座り、4人は向かい合った。

 

「今日の本題に入るわね。会談の日は11月1日…中央区公民館の貸し会議室で行われるの」

 

「中立の中央区を選んだのは正しい判断だと思います」

 

「東の子が中央で勝手をすれば、中央も西側の味方をしてくれるし…迂闊に動けない場所だね」

 

「会談には中央の長である都さんも参加するの。彼女の中央も東の被害を受けているから」

 

「東の新しい長に選ばれた奴ってのは…?」

 

「藍家ひめなと名乗る隣街の魔法少女。調べたら栄区の神浜未来アカデミーの生徒だったわ」

 

「栄区と関わってた子だったのか…かりんちゃんからそんな子がいるって報告はなかったよなぁ」

 

「あの子は独りで活動する道を選んだ子ですし、私たちとは距離を置いてるから仕方ないですよ」

 

「私はその会談の場で最後通告を行う。神浜でこれ以上暴れるなら…容赦しないと」

 

「もし要求を突っぱねられたら…それこそ全面戦争だよ。ししょーは…どうする気なの?」

 

「…私もそれが恐ろしいの。だからね…東の子達が何を望んでいるのかを聞いてみるつもりよ」

 

「彼女達の要求を飲む用意を見せるのですか…?」

 

「押してダメなら引くだけよ。ある程度の譲歩を用意しなければ…交渉が決裂するのは当然よ」

 

「理不尽過ぎる要求を吹っ掛けてこられたら、どうする気なんだ…?」

 

「人間社会を続けて襲いたいと言うなら断るわ。それ以外なら…多少の要求は飲むしか無い」

 

「ちょっと待って!私たち魔法少女社会の被害はどうなるの…?」

 

「東の狩場を増やしたいから、貴女達の自治地区を寄越せ…とか言うかもしれませんね…」

 

「これは魔法少女社会が起こしている勝手な騒乱…。街の不穏な空気なら見ているでしょ?」

 

「うん…あの光景は、私たち魔法少女が招いているんだよね…関係ない人間達を巻き添えにして」

 

「自治を行う魔法少女の責任は重い…。私たちが痛みを負うぐらいの覚悟は…見せるしかないの」

 

「それだけの利益を東に与えて……矛を収めてくれたら良いのですが…」

 

「…あのさ、多分だけど…東の子達が望んでいるのは、魔法少女社会の利害関係じゃないと思う」

 

「彼女たちの望みについて、何か心当たりがあるの…ももこ?」

 

「あの子達はさ……差別されるのがイヤなだけだと思うんだ」

 

その一言が、神浜東西差別問題を表している事は皆が察した。

 

「ちょっと待って…それじゃあ、この騒乱は……差別された仕返しをしてるだけって言うの?」

 

「そうとしか思えないんだ…。あの子達は…虐げられる抑圧から開放されたいんだよ」

 

「それじゃただの暴徒だよぉ!社会問題なんて…私たち魔法少女じゃ解決しようが無いし!」

 

「…ももこの推論が正しいなら、私の譲歩は通用しないわね…」

 

「どうします…やっちゃん?彼女たちの苦しみを解放するなんて…それこそ市政の仕事です」

 

「西側の人々が、東側の人々に差別を繰り返してきた。西側の私たちがいくら同情しても…」

 

()()()()()()()()()()って……怒り出すだけだよ、やちよ…」

 

「同じ苦しみを背負う人じゃないと…彼女達の心には届かない…よな」

 

解決の見通しが立たなくなり、場の空気が重苦しくなっていた時…。

 

<<自分の……自分のせいなんだぁ!!>>

 

大声が聞こえた方を振り向けば、階段の段差に立つ十七夜の姿。

 

目の色が濁った彼女はリビングまでふらつきながら近づいて…崩れ落ちてしまった。

 

「十七夜!?ダメじゃない無理しちゃ!」

 

やちよが駆け寄り、彼女に手を伸ばすが…はたき落とされた。

 

「自分が彼女達の心に寄り添えなかったせいだ!自由を謳いながらも…その心に()()()()()!」

 

「貴女のせいじゃない!自分を責めちゃダメよ十七夜!!」

 

「この騒乱を招いたのは…自分のせいなんだ!自分は東の長失格だ!正義の魔法少女失格だ!!」

 

「やめて十七夜……それ以上自分を責め抜いたら…また!」

 

地面に手をついた左手のソウルジェム指輪が、穢れの光を発していく。

 

このままでは絶望死して…円環のコトワリに導かれるのみ。

 

「十七夜さん!!」

 

3人も駆け寄り、ポケットの中に余らせていたグリーフキューブを手に取る。

 

彼女の左手に近づけ、絶望の穢れをどうにか吸い出していく。

 

「どうして…?自分なんて…優しくされる価値なんて無いのに…?」

 

「誰だって過ちを犯すことぐらいあるよ!長だからって…完璧になろうとしちゃダメだから!」

 

「そうだよ!足りない部分はあたし達がサポートするから…だから、自分を責めちゃダメだよ!」

 

「十七夜さん…東の長として自治を悩む時に、どうして西側に相談してくれなかったんです?」

 

「みふゆの言う通りよ…。私たちはね、東の子だからって拒みはしなかったわ」

 

「私とやっちゃんは、小さい頃から東の味方をしてきたじゃないですか…?」

 

「七海…梓…由比君…十咎…。君たちの優しさが…自分の心を抉っていく!!」

 

十七夜の両目から、大粒の涙が地面に溢れていく。

 

「本当はな……自分は、この事態を望んでいたのかも知れない…」

 

「何を馬鹿な事を言い出すのよ!?」

 

立ち上がった十七夜はリビングのカウンター席に座り、皆に背を向ける。

 

「みんな…聞いてくれ。自分が…魔法少女になった時に…何を望んでしまったのかを」

 

彼女は語る。

 

東の者は怖がられ、遠ざけられる。

 

生まれながらに、その境遇を受け入れざるを得ない理不尽。

 

「魔法少女になる前から…どうしたらその印象を変えられるのかばかりを考えてきた」

 

街の人々が平等に平和を享受する事を、彼女は望んだ。

 

「そんな頃に…ヤツが現れたんだ」

 

「十七夜さんは…何をキュウべぇに願ったんですか…?」

 

「差別の大本は、この街の歴史。だから歴史を消してくれと願ったが…釘を差された」

 

歴史が修正されても、その結果が明日起こるか数百年後に起こるかは分からない。

 

「歴史が変わっても、大東区への差別が消えて無くなる保証は無い。だから…」

 

歴史の部分以外で改善出来る部分はないか、知る為の願い。

 

「皆が大東を嫌う理由を知りたい…自分は、そう願った」

 

「十七夜の固有魔法である読心術は…その願いが形となったのね」

 

「自分は魔法少女となり、己の固有魔法を駆使して…西側の人間が何を考えているのかを知った」

 

明確な理由など、無かった。

 

神浜の歴史、東の治安の悪さ、東はなんとなく怖くて嫌い。

 

ただの()()()()()()()だった。

 

「神浜の人々は…個々人を見ず、取り巻く環境だけで人を判断する」

 

「…そうだったわね。それが…私たちが生きてきた、西側社会の現実だったわ」

 

「昔から…万々歳に来る人達もね、噂気分で大東の陰口を叩いててさ……気分が悪かったよ」

 

「古都の水名は、特に歴史に縛られてきました…。異を唱えるのは歴史修正主義だと罵るんです」

 

「大東への悪意の元凶は……無知だった。人を知る努力をしてくれなかったから…起こってきた」

 

「それ…SNSでも起こってる。外国人が犯罪を犯したら…その民族が悪いと()()()()()()()んだ」

 

「人間って……どうしてこんなにも…軽薄なのかしらね…」

 

「飯テロとか平気で言いますしね…。テロに苦しむ国の人達の気持ちなんて、知る努力もせずに」

 

「全ては他人事…自分達さえ楽しければそれでいい。異を唱えれば邪魔者扱い…」

 

「人間の軽薄さが…大勢の人々を苦しめる。歴史や環境に飲まれた西側は…それを東に行った」

 

「十七夜……」

 

「自分は…生まれ育った大東の街が好きだ。神浜全体が平等に平和を享受して欲しい」

 

「……………」

 

――この街が…これからも歴史や環境に縛られていくのなら…。

 

――()()()()()()()()()()()

 

「何もかも失って、0になれば全てが平等に帰れる…。自分は…そう望んでしまった事がある」

 

――今の神浜の惨状は……自分が望んだ、答えだったんだよ。

 

「十七夜さん……」

 

「自分がやってきた事は何だ?自由の破壊を望むくせに…皆の心を抑圧して街を守らせてきた」

 

「……………」

 

「言っている事とやっている事が違う。()()()()()()()()…だから自分は…皆に指摘されて…!」

 

カウンターの机に顔を伏せ、啜り泣き始める。

 

やちよは隣の席に座り、彼女を抱きしめながら頭を撫でていく。

 

「…これが、今の十七夜の現状よ。会談の場になんて……参加出来る状態ではないわ」

 

「プライドと責任感が人の何倍も高い十七夜さんだからこそ……」

 

「その矛盾に気が付かされて……自分を責め抜いてきたんだね」

 

「…やっちゃん。十七夜さんの為にも……明日の会談は、私たちだけで乗り切りましょう」

 

この街の歴史と環境、そして人の心の軽薄さに飲み込まれた魔法少女たち。

 

東の魔法少女たちを説得する事は、極めて難しい状況だと突きつけられてしまった西の長。

 

みかづき荘から最後に出てきたももこだったが、呼び止める声が聞こえた。

 

「ボクが言った通りだっただろ?」

 

「…お前かよ。穢れを溜め込んだグリーフキューブでも抱えて、どっか行けよ」

 

十七夜の穢れを吸ったグリーフキューブを投げ、キュウべぇは道に落ちた品を拾う。

 

「言った通りってさ…どういう意味なんだ?」

 

「いつだったか、君の家の屋根で語った話があったよね。覚えているかい?」

 

「……あの話か」

 

「彼女はね、知る為の祈りを行ったんだ。だから現実を知り、己の矛盾まで知る事になった」

 

「今の十七夜さんは……自分の願いのせいで…苦しんでいるって言いたいのかよ?」

 

「知りたいと思う探究心は、理不尽となる。知らなければ…楽しく過ごせた状況もあるんだ」

 

「全部…魔法少女たちの願いの結果なのかよ!?」

 

「原因があるから結果が起こるのが、因果法則。それを背負ってでも……」

 

――君達は、叶えたい願いがあったんだろ?

 

「くそっ……消えろよ!!お前の理屈なんて聞きたくない!!!」

 

「原因は常に自分の中から生み出される。都合が悪くなったら、()()()()()()()()()()

 

――余りにも人間は理不尽だ。

 

踵を返し、キュウべぇは去っていく。

 

「…ちくしょう!!アタシたち魔法少女は……」

 

――因果からは……逃れられないのかよ!!?

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

11月1日。

 

中央区公民館前は物々しい空気に包まれている。

 

西と東の魔法少女たちが睨み合い、中央区の魔法少女たちがそれらを牽制するよう目を光らせる。

 

西側陣営の中には常磐ななか達の姿も見える。

 

「…ななか、この会談をどう見るネ?」

 

「…恐らくは、東側が何かを仕掛けてくるかと」

 

「何かって…?」

 

「自分たちの暴動を、さらに推し進めるような要求でしょうか?」

 

「そ、そんな!?やちよさん達は…どう対処するんですか?」

 

「突っぱねれば全面戦争です。ですから、向こう側に譲歩出来る何かを用意していると信じたい」

 

「それが…人間社会への加害行為を一部認める内容なら…ワタシ、西の長を許さないヨ」

 

「私も同じ気持ちです、美雨さん。蒼海幇社会だけでなく、神浜の人間社会そのものの驚異です」

 

「ボクだって、地域住民を苦しめる東の連中は許せないし、それを後押しする妥協案も許せない」

 

「私も同じです。どうして魔法少女たちは…自分達の都合で人間社会を振り回していくの…」

 

「かこさん……この騒乱が、神浜の魔法少女達の在り方を左右する事になるかもしれません」

 

「何か…確信でもあるんですか?」

 

「私……尚紀さんと出会えてから、社会主義思想に目覚めました」

 

「社会主義…思想……?」

 

「私は…これを機会として」

 

――人間社会を優先する社会主義改革を……神浜魔法少女社会に向けて提案します。

 

……………。

 

貸し会議室内には現在、西と中央の代表者4名ずつの姿が見える。

 

「やちよさんの西側は、みふゆさんと鶴乃とももこが来てくれたか」

 

「都さんの中央は、こころさんとまさらさん、それに…衣美里さん?」

 

「おっ久しぶり~やちょさん♪」

 

「アタシはこいつを会談の場に連れてくる気は無かったんだが…」

 

「あーヒドイ!エミリーのお悩み相談所であーし、東の魔法少女達ともコネが沢山出来たのに~」

 

「まぁ、こいつの人徳もある。それを期待して連れてきたんだ」

 

「…静かに。魔法少女たちの魔力が近づいてきたわ」

 

会議室の扉を開け、東の代表である4人が中に入ってきた。

 

「ええっ!?」

 

「天音姉妹の……月咲さん!?」

 

「どうして月咲が…暴徒となった東の代表なんだよ!?」

 

ひめな、時雨、はぐむの隣に立っていた人物とは…天音月咲。

 

「……………」

 

月咲は何も答えず、西側と向かい合える席に座る。

 

「東の子達がインしたのに、ガンぶーでガン見してくるのきしょいよね~」

 

「…藍家ひめな、席に座れ。相手を煽る発言は禁止だ」

 

「きゃわゆい議長さんに私チャン怒られちゃった☆後で彼ピとアチュラチュして慰めてもらお♪」

 

「ギャル語全開キャラじゃん!?あーしとりかっぺと一緒にオールでオケる?」

 

「そういう話をしに来たんじゃない!必要な時以外は衣美里は黙ってろ!」

 

「アハハ♪マジウケな中央キャラ達だね~☆西の4人は辛気臭いけど」

 

席に座った4人は向かい合い、会談が始まっていく。

 

「先ずは、今回の暴動の被害を受けている西側の発言から許可する」

 

席を立ち上がり、やちよが発言。

 

「西側の要求はただひとつ…即刻暴動を停止しなさい。でなければ容赦出来ないわ」

 

「西の長はそう主張しているが…東側はどう答える?発言を許可する」

 

席を立ち上がり、ひめなが発言。

 

「塩対応のジカジョーさん、それって全面戦争ってことだけど…それでしまい?」

 

「東側は折れる気はないようだが…西側はどうする?発言を許可する」

 

「私たちは、なぜ東側が暴動を起こしたのか…その原因を聞きたいの。答えてもらうわ」

 

ひめなは横の月咲に視線を向ける。

 

促された月咲は立ち上がって発言。

 

「…西側の人達が、東側にしてきた事を思い出して!」

 

「そ…それは…」

 

「あらゆる差別を行ってきた!賃金差別!就職差別!地域差別!不平等を強いてきた!!」

 

「月咲さん…それはですね…」

 

「歴史のせい?違う!!西側の連中が…東側の人間を知る努力をしないから起きてきたの!!」

 

「反論…出来ないよ…。だって本当に…西側はやってきた事だし…」

 

「東の子ってだけで笑われる!漫画でもそう…憎い奴らが無様なら…()()()()()()()でしょ?」

 

「東の子は…漫画のような悪役にされてるって…言いたいのかよ…?」

 

「虐めってさ、いつも虐める側が笑うでしょ?虐められる側は…身を守る為の悪役を強いられる」

 

「笑う事は…攻撃性の証明だと言いたいのですか、月咲さん…?」

 

「お笑い芸人のネタも、虐める相手がいて成立する。漫画だって悪役がいないと成立しない…」

 

「それは違うわ月咲さん…そう思う人がいても、そう思わない人だって……」

 

「いるでしょうね?でもさ…それは極少数派であって、西側全体じゃないのよ!!」

 

「やめてくれよ!まるでそれじゃあ…西側は()()()()()()東側を虐めてるみたいじゃないか!!」

 

「気が付かなかったの?東の子を虐めて嘲笑う西側の子達の……あの楽しそうな表情に?」

 

「…虐めの原因は、虐める側の価値観にあると言われるわ。本人は悪い事をしている自覚がない」

 

「会社とかでもそうだよね…。暴言も…上司にとってはスキンシップでも部下にはパワハラだし」

 

「笑いってさ、基本的な差別であって虐めだとウチは思う。だから危険で…楽しい娯楽なんだよ」

 

「アッハハ☆()()()()()♪人間はね、そんな楽しい娯楽だけを求めて本質を知る努力をしないの」

 

「…ぼくも西の皆から虐められてきた。人間不信に陥り…みんなから憐れまれる存在になったよ」

 

「時雨ちゃん……」

 

「そんなぼくにだってプライドがある。魔法少女になれた事で…西より上の存在になれたんだ!」

 

「私もすぐ…周りに流されるんです。そのせいで…間違ってる事を間違ってるとさえ言えない!」

 

「はぐむん……?」

 

「私も聞きたいです!差別をよくないと思う西側の人達は…西側を変える努力をしましたか?」

 

「それは……」

 

()()()()()()()()貴女たちだって…私と同じ様に、周りに流されてきただけです!」

 

「差別はよくないと思ってるだけでさぁ、行動で示せてないし~?説得力0だよね~♪」

 

「……西側の私たちが何を言っても…言い訳にしかならないのね」

 

「笑いはね、仲の良い友だちとの間だけで生まれるべきだよ。それ以外は全部虐めだから」

 

「西の人は…友達なんかじゃありません。社会の中に屯している他人同士です」

 

「相手の心を想像したり、相手を知る努力さえせず、大いに東の子達を嘲笑ってきた西側を……」

 

「ウチらは……絶対に許さない!!」

 

東の住人たちの叫びが続いてしまった会議室内。

 

(アタシは…あの子達の言葉を止める事が出来なかった。あの叫びは…魂の叫びだから…)

 

<…不穏な空気ね。このままでは…東の子達の言い分がそのまま通りそうよ>

 

不意にまさらの念話が聞こえ、中央の魔法少女たちが念話を繰り返す。

 

<東の子たちには…これだけの暴走を起こすだけの、苦しみがあったんだね…>

 

<…あーしね、相談所をしてたから知ってた。でもあーし…東の社会問題を…話せなかったし>

 

<政治は荒れる話題だからね…。恋バナとかお笑いとか…そんな娯楽しか話せてこなかった…>

 

<みんな…邪魔者扱いされたくないから、保身に走ってしまう。人は集団に依存してしまうのよ>

 

<人間工学の集団レジェリンスでもな…集団は個々人だけでは対処出来ないとされているんだ>

 

<やっぱり…神浜全体が変わらないと……この社会問題は解決出来ないんだよ…>

 

会議場内が重苦しい空気に包まれていた時…ひめなが不敵な笑みを見せる。

 

スマホで時間を確認し、口を開く。

 

「ねぇ、議長さん?私チャン眠くなってきたからさ…気分転換にテレビつけていい?」

 

「突然何を言い出すんだ!?今は大事な会議中だろ…?」

 

「このままじゃスヤりそうだし~いいじゃん、少しくらい♪」

 

勝手に席を立ち、中央の魔法少女たちが座る席の奥に見えるテレビに向かう。

 

テレビ台の上に置かれていたリモコンを手に取り、テレビをつけた。

 

ひなのは西の長に視線を向け、自分たちの相談の時間を稼ぐ為に首を縦に振った。

 

「お?この時間ならやってると思ったんだ~♪」

 

見れば神浜放送局のニュース番組。

 

神浜市の市長が行う、臨時記者会見の放送内容であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「只今より、令和1年度の個人住民税に関する、市長の臨時記者会見を始めます」

 

今年より東地区に住所を有する市民の賦課方法を変更するという説明内容だ。

 

「なぜ東地区の賦課方法を所得に応じる所得割から、定められた額による均等割にしたのです?」

 

記者からの質問。

 

「今回の変更点に関する必要性はですね…市の防犯意識を高める為の施策に必要な財源として…」

 

「西側は今まで通り所得割の賦課方法のままですが、これについては?」

 

「西地域の方々は防犯意識が極めて高いのですが…残念ながら、東地域の方々は些か問題が…」

 

「確かに東地区は神浜市犯罪の温床と言われております、それについては?」

 

「え~ですので、東の方々には神浜市の防犯に協力して貰う為にも、賦課方法変更への理解を…」

 

市長の説明は続く。

 

質問の順番が回ってきたのは、神浜商工会議所にある記者クラブ所属ではないジャーナリスト。

 

「神浜は外資系企業が集まる商業都市として、成長志向の法人税改革の対象として選ばれてます」

 

「その通りですが…それが何か?」

 

「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる…大儲けをする大企業の租税回避地とも言えます」

 

「……………」

 

「神浜には多くの企業がこれを理由に集まりますが…雇用に関する問題点があります」

 

「……何でしょう?」

 

「東地域住民の雇用がなされていないのです」

 

「企業への採用に関しましては、企業人事が判断なされる問題だと…」

 

「東地区の方々が就職出来る企業は中小零細のみ。これで均等割をされては生活出来ません」

 

「……………」

 

「市の行政として、防犯を理由にするだけの賦課方法変更で…よろしいのでしょうか?」

 

「市の行政として、市民の方々の安全を最優先するのは当然かと…」

 

「生活困窮者が生まれるから犯罪の温床となる。あなた方は…意図的に犯罪者を生み出している」

 

会見の場がざわつき始める。

 

放送には映らない会見場の裏側。

 

魔法少女と思われる人物が、右手の人差指を持ち上げていく。

 

「東の生活レベルは…服も電化製品も満足に買えない。この上の増税では…食事まで満足に…」

 

魔法少女の右手の人差し指に小さな魔法陣が浮かぶ。

 

「がっ……あっ…あぁ…?」

 

突然市長が苦しそうになり、会場からどよめきの声。

 

「市長、どうされました?」

 

「……………」

 

苦しそうに俯いていた顔が、ゆっくり持ち上がっていく。

 

その顔つきは……愉悦の表情。

 

――御飯が食べられなければ、()()()()()()()()()()()()

 

「なっ…!?」

 

「あんな社会のゴミ共は…死んだ方が神浜市の為なのだよ」

 

「市長…正気ですか!!」

 

「東のゴミ共を絞り上げて手に入れた市税は…神浜市大企業への優遇制度に活かされるのだよ」

 

「それが…今回の賦課方法変更の正体だったのですか!?」

 

「大企業は大事な天下り先だからねぇ…神浜市政とは……」

 

――西と中央企業の儲けの為にあるのだよ!!

 

記者会見場が怒号に包まれていく。

 

生放送であった為か、映像が途切れてCMへと流れていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「これは……何で突然こんなことを言い始めたの!?」

 

やちよは鬼気迫る表情を東の長に向ける。

 

「懺悔でもしたくなってさぁ、全部ぶっちゃけちゃった感じに見えるね~?」

 

「貴女たちの仕業なの!?」

 

「証拠でもあるわけ?濡れ衣を着せるなら…ガンギレだよ」

 

「くっ…!!」

 

「アハハ♪東の人らは今頃…激おこスティックファイナリティぷんぷんドリームだよね~☆」

 

東の代表者たちは席を立ち上がる。

 

「お、おい!何処に行くつもりだ!?」

 

「私チャン達はね、西側に譲歩するつもりも西側の譲歩を受け取るつもりもない。これが答え」

 

「ならお前らは……最初から!?」

 

「それよりさぁ…この街は大丈夫そう?」

 

――()()()()()()()でさぁ……これと同じ状況が起こった事ってなかった?

 

不敵な笑みを浮かべながら、ひめな達は会議室を後にする。

 

「…やられたわ。最初から連中は……神浜の街に騒乱を巻き起こすつもりだったのよ!!」

 

「わ、私…万々歳が心配になってきた…」

 

「あの市長は…西と中央にヘイトが向くように仕向けさせられたみたいですね…」

 

「魔法で本音を語らされたってわけかよ…ちくしょう!!」

 

「会談は中止だ!急いで西側に帰れ!アタシ達も…急いで自分たちの家族の安全を確認するぞ!」

 

その頃、公民館を出て東の魔法少女たちと共に東に向かうひめな達は…。

 

「他所の街の魔法少女も含めた全員に招集をかけて。私チャンが連中に発破をかけるから」

 

「…分かった」

 

「了解だよ、姫」

 

「…いよいよですね」

 

月咲達は先に東地区へと向かっていく。

 

スマホを取り出し、何処かに連絡を入れる。

 

「あ、彼ピ?全部上手くいったからね~☆私チャンってばマジイケてるよね?」

 

彼女のスマホは電話アプリなど開いていない。

 

脳内イマジナリーフレンドと話しているかのようにも見えた。

 

――いよいよさぁ……全面戦争の幕開けだよ☆

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

<<くたばれぇ!!神浜行政ーーッッ!!!>>

 

大東区の区役所前は大勢の人々で埋め尽くされ、警官隊と睨み合う。

 

手にはスポーツ道具や農具、果ては工具まで持ち出して武装した民衆たち。

 

彼らの怒りは既に限界を超えてしまっていた。

 

「解散しなさい!!集会を行う許可は出ていないだろう!!」

 

警官隊が必死にバリケードを作るが、数が違いすぎる。

 

その光景を区役所の屋上から見つめているのは、東の魔法少女たち。

 

1人が警官隊に指をさす。

 

「ぐっ…!?あ……あぁ……」

 

1人の警官の表情が虚ろとなっていく。

 

「くそ……まだ機動隊は到着しないのか!?もう持たな……お、おいお前?」

 

虚ろな警官の右手が腰のホルスターにある銃を握りしめ……。

 

次の瞬間。

 

<<ウワァァーーーー!!!?>>

 

聞こえてきたのは発砲音。

 

凶弾によって、1人の怒れる神浜東市民は倒れ、絶命。

 

「ヒャハハハ!!東のゴミクズ共はよぉ…全員死ねばいいんだよ!!!」

 

狂った警官の本音が、凶行を続けるかのように民衆に発砲を繰り返す。

 

「俺たち西側の警官たちはよぉ……」

 

――お前ら東の犯罪者共なんて……全員刑務所にぶち込むか、死刑にしたかったんだぁ!!

 

周りの警官が操られた警官を取り押さえていく。

 

静まり返る民衆たちだったが…恐怖の言葉を紡いでいく。

 

「俺たちは…このまま西側の連中に搾取され、殺されるしかないのかよ…?」

 

「嫌だ……生活できない!殺されたくない!!」

 

「西側の奴らは……最初から俺たちにこうしたかったんだよ!!」

 

「許せない……絶対に許してやらねぇ!!!!」

 

――殺される前に……殺してやらぁ!!!!!

 

ついに騒乱は…暴動へと発展。

 

群衆は暴れだし、警官隊のバリケードを突破して区役所内になだれ込む。

 

<<死ねぇーー!!神浜市ーーーーッッ!!!!>>

 

民衆たちが区役所内を破壊しつくしていく。

 

区役所の屋上からその光景を見つめていた、東の魔法少女たちは語る。

 

「…私の魔法は洗脳じゃない。ただ…人間の本心を刺激してあげるだけのささやかな魔法」

 

「これが…西側連中の本音だったんだね…」

 

「やっぱりさ…クソな西側と、他人行儀を続けて手を差し伸べなかった中央は…滅びるべきだよ」

 

「アタシもそう思う。それより姫様の元に向かおう…演説を聞きそびれるわけにはいかない」

 

怒りに燃え上がる民衆たちによって区役所は占拠される事になる。

 

まるで()()()()()()の口火を切る事件であるパリ・バスティーユ牢獄の襲撃を彷彿とさせた。

 

凶弾に倒れた東市民の情報は、瞬く間にスマホのSNSで拡散されていく。

 

神浜市長発言の炎上の上に、西側の凶行に対して全国からヘイトが向けられていく光景。

 

東の住民たちが雪崩込むかのように、西側に向けて行進していく。

 

「我々を嘲笑う西側を滅ぼせ!!」

 

「我々を搾取する西側を滅ぼせ!!」

 

「我々を差別する西側を滅ぼせ!!」

 

「我々の生存権を脅かす西側を滅ぼせ!!」

 

暴徒たちが見境なしに暴れていく。

 

その被害は東地区から始まり、中央区、南凪区、参京区、栄区と次々に広がっていく。

 

「俺たち東の住民たちが、新しい神浜を作るんだ!!」

 

「神浜に蔓延る偏見を滅ぼし!人間本来の理性の自立を促す法律を作っていく!!」

 

「人の道理を捨てた西側野獣共を粛清し!真の平等なる市民平和を築き上げていく!!」

 

「これは創造的破壊行為である!!差別を許さない理性に基づく社会を築き上げよう!!」

 

――新しい時代を……俺たちの()()で築き上げよう!!!

 

次から次へと、街に火の手が上がっていく光景。

 

それは遠く離れた新西区のみかづき荘からも遠目に見えた。

 

「あ……あぁ………」

 

2階の窓から神浜の街が破壊されていく光景を目にしていたのは十七夜。

 

「自分の本心が……この光景を招いたんだ!!自分は…正義の魔法少女失格だぁ!!!」

 

大声で喚きながら泣いていた時…。

 

<<ちょっとあんた!!それでも東の長なわけ!!?>>

 

声が聞こえた方角の2階窓を開け、下を見ればレナとかえでの姿。

 

「自分に責任があると思うなら、止めてくるのが普通でしょ!?」

 

「自分に…そんな資格は無い!!この惨状は……自分が望んでしまったことなのだぁ!!」

 

「で、でも…!十七夜さんは思ってただけで…自分で実行したいなんて思って無かったでしょ!」

 

「そ…それは…そうだが……」

 

「責任を感じてしまうなら、自分の手で解決するのよ!清算すれば…望んだ事も帳消しよ!!」

 

「わ、私はね……十七夜さんこそ…東の長だって思う。みんなが望まなくても…私は望むよぉ!」

 

「水波君……秋野君……」

 

「泣いてばかりいないでさ、顔を洗って出てきなさいよ。さっさと行くわよ」

 

「う…うむ……自分に何が出来るかは分からないが……」

 

――神浜の破壊を望んでしまった罪に……向き合ってみよう。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【フランス革命】

 

フランス王国に起きた資本主義革命であり、第三身分である民衆たちの革命である。

 

封建的な残留物とも言える身分制や領主制を一掃し、法の下の平等を望んだ。

 

これにより旧体制のアンシャンレジームは崩壊し、国王と貴族の時代は終焉を迎える。

 

アメリカ独立革命と並ぶ、自由民主主義国家形成の雛形とも言える歴史。

 

財政破綻した国家が民衆に増税を繰り返して苦しめた事だけが原動力ではない。

 

この時代においては、様々な思想家達が旧体制のフランスに疑問を掲げて新しい思想を生み出す。

 

【啓蒙主義】

 

フランス語ではリュミエール(ルミエール)と呼ばれる、民主的な近代国家体制を目指す思想。

 

原義は『光で照らされること』を意味し、時代的に先行するルネサンスを引き継ぐ側面もある。

 

一般的には経験論的、認識論、政治思想、社会思想や道徳哲学、文芸活動などを指す。

 

17世紀後半にイギリスで興り、18世紀のヨーロッパにおいて主流となった。

 

フランスで最も大きな政治的影響力を持ち、フランス革命に影響を与えた歴史を作った。

 

……………。

 

啓蒙主義は進歩主義的であると同時に回帰的。

 

これは啓蒙主義の理性絶対主義に起因し、理性主義はあらゆる領域での理性の拡大を促した。

 

しかし自然人と文明人に等しく理性を措定することは、文明の進歩からはなれている。

 

自然に回帰するような思想傾向をも生み出したのだ。

 

政治思想としては自然法論が発達し、とくに社会契約説が流行。

 

理性の普遍性や不変性は人間の平等の根拠とされ、平等主義の主張となって現れた。

 

理性を信頼する傾向は良心の絶対化に進み、政治思想において『急進的な傾向』を生む。

 

これにより弊害を受けたのはブルジョアジー。

 

行き過ぎた平等主義は、貴族から手に入れた自分達の自由利益まで『社会主義』として奪われる。

 

ブルジョアジー達は保守化し、平民たちとの激しい対立現象が起きてしまった。

 

……………。

 

社会革命を望み、自由と平等を望む者たちもまたエゴイスト。

 

自由と平等を手に入れたならば、簡単に掌を返してしまう。

 

国家理性の利己主義を法や道徳の要求と一致させようという啓蒙主義の試みは、不毛であった。

 




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