人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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111話 炎の革命

市長の爆弾発言によって不穏な空気に支配された神浜市。

 

東西中央の会談が続いていた時間帯の新西区の神浜ミレナ座でも動きが起こる。

 

「ヒホ…みたまが凄く怒ったホ。血相変えて東に帰っちまったけど…あのテレビ番組が原因?」

 

ミレナ座の入り口にはジャックフロストが佇んでいるようだ。

 

「心配だホ…オイラもみたまを追いかけたいけど…オイラ外に全然出ないから道が分からんホ」

 

雪だるまに青帽子を被せた頭部を両手で抱えながら困っていた時、仲魔がやってくる。

 

<<お~~い、フロスト!!>>

 

空を見ればジャックランタンと御園かりんが飛んできており、フロストは手を振ってくれる。

 

「おっ!いいトコで来たホ。それにかりんも一緒かホー?」

 

「フロスト君!みたまさんは…?」

 

「血相変えて東に帰ったホ。こめかみに青い線が走るぐらい眉間にシワが寄った顔してたホー」

 

「のほほんなみたまさんがそこまで怒るなんて…やっぱり…神浜のニュース番組のせいなの!」

 

「俺達はな、あの調整屋の姉ちゃんが心配で駆け付けたホ」

 

「ヒホ、オイラも同じ気持ちだホ。だいとう区ってどっちだホ?」

 

「私なら案内出来るの!フロスト君もついてくるなら魔法少女に見つからないよう注意するの」

 

「任せるホ!それより…かりんは大丈夫なのかホ?」

 

「…今はアリナ先輩の事で悲しんでる暇はないの!」

 

仲魔達を引き連れたかりんは急ぎ東の地へと向かう中、みたまは東の手前で立ち往生する。

 

「どうしたのよ!?私は大東区までって言ったのに!」

 

タクシーを拾い、急いで大東区に向かっていたのだが東の入り口である工匠区で降ろされる。

 

「さっきのニュースを知らないのか!?今の大東区になんて入ったら東の連中に何されるか…」

 

「何処までも…西側連中は最低の薄情者よ!!」

 

お釣りはいらないと財布の数千円を運転手に投げつけたみたまは走りながら大東区に向かう。

 

「お願い…早まらないで!!」

 

家族の身を案じていた時、路地裏から呼びかけてくる声に反応する。

 

<止まって、みたまさん>

 

突然念話が聞こえたみたまが横を振り向くと調整に訪れた事がある魔法少女を見かける。

 

「貴女は…雫ちゃん?」

 

その人物は尚紀や静香達が訪れた事があった喫茶店で仕事をしていた魔法少女であろう。

 

「私が貴女を家族の元まで飛ばすから…」

 

「そういえば…貴女の固有魔法は空間結合だったわね」

 

「それともう一つだけ、お願いがあるの」

 

「お願い…?」

 

「貴女も東の魔法少女よ。だから貴女にも聞いて欲しい演説があると言われたの」

 

「雫ちゃん…一体誰と関わっているわけ?」

 

東の魔法少女の自分を必要とする存在なら東の長ではないのかとみたまは察する。

 

それを問われた雫は押し黙ったまま何も答えない。

 

「私は調整屋よ。魔法少女としては中立の立場だから、東の魔法少女だけを優遇は出来ないわ」

 

「構わない。私の依頼人からは貴女を連れてくるだけでいいと依頼されたから」

 

「依頼ですって?まるで…何かの仕事をしているだけのように見えるわ」

 

「私は…お金が必要なの。連中のやりたい事とか、連中の思想にも興味は無いわ」

 

「…分かったわ、聞くだけなら構わない。家族の安全を確認出来たら、連れて行って」

 

頷いた雫が路地裏に来るよう促し、右手を掲げてワームホールの穴を開ける。

 

2人はワームホールの中に入り、大東区の団地街まで一気に飛んで行った。

 

 

大東区の外れにある廃墟となったテニスコートには大勢の魔法少女達が詰めかけている。

 

「随分と数が集まってるわね…」

 

「ハワワ…外から来たのはミユ達の宝崎市だけじゃなかったんですね…(さん)様」

 

「東の魔法少女達の数も合わせたら…300人には届きそうね」

 

新たな東の長の元に集った魔法少女達は独特な衣装を身に纏う。

 

装飾が施された黒ローブや白ローブを纏う者が集まる光景は秘密結社の集会を思わせる。

 

「張り詰めた空気…まるで祭りが始まる直前みたい」

 

「ミユは、ミユは、緊張してトンじゃいそうです…」

 

「でもさ、これだけの戦力があるなら…望みは大きそう」

 

「宝崎市の光塚にある伝統の火祭りだって残せそうです!」

 

「その為には…私達が人間の上に立たなければならない」

 

「燦様なら火祭りの神にだってなれます!」

 

「そう、私は神となる」

 

「ハウッ!おみ足だけでなく…決め顔の燦様も素敵ですぅ」

 

「ミユ……」

 

「ごめんなしゃい……」

 

決起はまだかと意気込む周囲に囲まれているのはローブを纏わないみたまであろう。

 

(夏が過ぎた頃から急に他所の街のお客さんが増えた理由は…この日の為だったのね)

 

彼女は一度自宅に戻り、激昂している両親をどうにか説得して踏み留まらせている。

 

隣に視線を移すと周りの意気込みなど興味が無い表情をした保澄雫がいるようだ。

 

「ねぇ…聞いてもいい?お金を集めて…何をしたいの?」

 

「…調整屋の貴女なら、私の調整をした時に見えたはずでしょ?」

 

「…貴女の口から聞いてみたいの。危ない橋を渡ってでも…求める望みがあるんでしょ?」

 

真剣な表情を向けられた雫は観念したのか望みを語ってくれる。

 

「……神浜を出て、旅をしたい」

 

「何処か、行ってみたいところがあるの?」

 

「分からない。ただ…神浜という街は…私の居場所だとは思えないの」

 

「どうして?貴女の噂は聞いてるけど、虐めをされたり偏見を浴びたりとかは聞かないわ」

 

「友達はそれなりにいても…あれは本当の自分の姿じゃなかった。()()()()()()()()()と思う」

 

「自分の本当の居場所を…探しに行きたいのね」

 

「うん…本当はね、ふーにいって呼んでた人と一緒に旅に出たかったけど…亡くなったわ」

 

「その人の分まで…世界を見たいのね」

 

「だから私には沢山お金が必要なの。危ない橋だというのは分かってるわ…」

 

「貴女の気持ち…分かるわ。私もね…いつ頃からこんなのほほん態度を始めたのか分からない」

 

「貴女も…偽りの自分を演じてきたの?」

 

「いつの間にか…周りを不快にしない笑顔を演じてた。本当の私は…周りの為の笑顔なんて…」

 

「みたまさんも苦しんできたのね…いつか貴女にも、本当の居場所が見つかるよう願うわ」

 

(ここは…自分の居場所じゃない…。そう思ったから私も…悪魔の世界に入ったのかも…)

 

――この街が嫌なら、さっさと出ていけ。

 

尚紀に言われた言葉が頭を過るみたまは神浜市に対する憎しみが溢れ出す。

 

(この街を憎み…居場所を感じられなくなったわ。だから私は…あんな願い事を…)

 

「さて、私にはまだ最後の仕上げが残っているの。失礼させてもらうわね」

 

雫はみたまを残し、演説が始まる観客席の方に向かう。

 

(私の本心はまだ…この街に対する憎しみに囚われている)

 

周囲がざわつきだし、テニスコートの奥に振り向くと東の長であるひめな達が現れる。

 

(藍家ひめな…あの子も調整を受けに来た。でも…あの子のソウルジェムに触れた時…)

 

みたまが視た記憶の光景とは美しき天辺の景色だったのを思い出す。

 

(美しかった…地上に蔓延る差別も偏見も無い、新世界が見えた。あれが…この子達の望み?)

 

ひめなは周囲の魔法少女達を見回す中、気合十分だと判断したのか微笑んでくれる。

 

「はぐりんとしぐりんに頼んで皆のコスチュームを作ってもらった甲斐があったなぁ」

 

新しい思想集団に相応しい衣装が欲しいという急な注文に応えてくれた仲間に感謝したようだ。

 

「うん?この子達のローブのフードに描かれたシジルは…?」

 

注文にはなかったデザインに目を向けていた時、大事な仲間の声が響く。

 

<<お、お待たせしました~!!>>

 

声がした方に振り向けば時雨とはぐむが駆けてくる。

 

はぐむの手には大きな赤い布が持たれており、時雨の手には旗用のポール等が握られている。

 

「しぐりんにはぐりん~あざまし♪神ってる上におしゃんな衣装で私チャンうれぴーまん♪」

 

「えへへ♪私…裁縫みたいなチマチマした作業が好きだから…喜んでもらえて嬉しいです♪」

 

「姫、衣装だけじゃないよ。これを見てあげて」

 

はぐむは両手に持った赤い布を広げてくれる。

 

「こ…これって…皆のフードやローブに描かれているシジル…?」

 

それは社会主義革命カラーである赤い旗であり、パリ・コミューンの旗としても知られる。

 

1871年の血の一週間において民衆政府が掲げたものであろう。

 

そして中央に描かれているのは金色の印章。

 

天を貫く剣身の背には天使の六枚翼が備わり、その頭上は光を発するデザインをしている。

 

立派な印象を見たひめなは言葉を失いながら天辺の光景を思い出す。

 

「啓蒙の光をイメージして作ってみたんです…どうですか?」

 

「はぐむん……貴女って、天才じゃん」

 

「えっ…?」

 

「これだよ…私チャンが天辺で出会えた…啓蒙の神様の光…」

 

「啓蒙の神様?」

 

感動で泣きそうなひめなの前に出る時雨がこう伝えてくれる。

 

「ぼくとはぐむんのサプライズプレゼントだよ。受け取ってよ…姫」

 

2人はポールに旗を結びながら新しい思想集団の長に渡す。

 

「どうしよう…キュン死にしそう。しぐりんにはぐりん…貴女達は…マジ友だからね!!」

 

旗を受け取った時、テニスコートの外で車の車列が停車する音が聞こえる。

 

「ひめちゃん、遅くなってすいません」

 

歩いてきたのは栗栖アレクサンドラであり、初めて見る者達は訝しむ顔つきになる。

 

「姫…この子は誰?魔法少女じゃないみたいだけど…?」

 

「私チャンの大事なマイメンのサーシャだよ。この革命のスポンサーでもあるんだ~」

 

「ぼく達の革命を支えてくれる子なの?」

 

「この子は超金モなお嬢様だったんだよ~。それよりサーシャ…前髪のアクセ変えた?」

 

彼女の前髪に見えるのは前の花飾りではなく()()()()()()のようだ。

 

「はい。やっぱりお花は可愛すぎて…私には似合わない気がして」

 

「そんなことないない。それに山羊のアクセも私チャン的にはらぶたんだよ♪」

 

「ウフフ♪そう言ってもらえると嬉しいです」

 

「あの…このトラックの車列は何ですか?」

 

「それは後から説明します。今は先に…皆に伝えるべきことを演説するべきです」

 

ひめなは促された後、テニスコートの奥に設置された観客席の中央に上っていく。

 

時雨達もついていき、旗のポールを設置するポールスタンドを組み立てていく。

 

ひめなは託された革命旗をスタンドに差し込み、皆に振り返ったようだ。

 

(…ヒコ君、見てて。これが…あなたが考えだした演説だよ)

 

風が吹き、啓蒙の光を象徴する赤旗が揺れていく。

 

新たなる思想集団の長が語る演説が始まるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「この神浜市において、今日この日ほど自由と平等を求められた日はなかった」

 

重い口を開いたひめなの演説を皆が清聴していく。

 

「東西の歴史に始まり、それを次の世代に押し付けて…古い価値観が継承され続けてきた」

 

東の魔法少女達の手が握り込まれながら怒りに震えていく。

 

「誰もそれに疑問を持たず、また疑問を持つ者達でさえ保身に走り…見て見ぬフリをした」

 

(そうだったわね…西の魔法少女達がどれだけ優しくても…社会問題には誰も触れなかった…)

 

みたまの心に東の魔法少女達の苦しみと同じ感情が沸いていく。

 

「東は地域隔離され、生活を満足に出来ない責め苦を負わされ…犯罪者に仕立て上げられる」

 

(私の家も…他の子達の家でさえも…本当なら普通に暮らせた幸福が…西側に奪われたわ…)

 

「これは自然権を侵害する人権侵害。国家でも侵害してはならない自然権を、この街は奪った」

 

(自由…平等…博愛…東の私達に与えられなかった…それが人間としての自然権なのね…)

 

「人権への無知、忘却、あるいは軽視のみが…公衆の不幸および政府の腐敗の原因なのよ」

 

東の魔法少女達の脳裏を巡るのは西の人々から人権を奪われた日々の苦しみ。

 

「人間のもつ譲渡不可能かつ神聖な自然権を荘重に宣言したのが()()()()()()()()()()()だよ」

 

(フランスの…人権宣言?)

 

「人間は、生まれながらにして自由かつ平等な権利を持っている。これが今日の基本的人権よ」

 

「私達は…基本的人権を踏み躙られていた?」

 

「歴史や偏見なんかのせいで…?」

 

「西側の奴らは…あたし達の人権を侵害してきた…」

 

周囲のざわつきに対し、いったん沈黙して皆が清聴するまでに戻す。

 

「政治の目的は人間のもつ絶対に取り消し不可能な自然権を保全する事にある。してきた?」

 

<<してない!!!>>

 

「これらの権利は自由、所有権、安全、および圧政への抵抗なの。市政は権利を踏み躙ったわ」

 

<<許せない!!!>>

 

「我々には抵抗権が認められている。圧政への抵抗は、民衆に与えられている権利なの」

 

<<私達は抵抗する!!!>>

 

「この発想は世界各地で発生した革命や改革の理論的根拠となった。貴女達は何を望む?」

 

<<抑圧から解放されたい!!差別されるのはもう嫌よ!!>>

 

身振り手振りのボディランゲージを駆使して皆の感情を刺激していく。

 

「我々は自由と平等を望む!貧困から解放され、望むままの幸福を得られる権利がある!!」

 

<<そうよ!!!>>

 

「人間社会は自由を望む我々を迫害する!この恥ずべき社会を我々は許さない!!」

 

<<解放を行う!!!>>

 

「それがフランス共和国精神であり、日本を含む自由民主主義社会の在り方よ!!」

 

<<私達に自由と平等を!!!>>

 

「我々は啓蒙の光を掲げる!愚かな歴史を信仰し続ける者達を打倒する…()()()()()()()!!」

 

<<()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!>>

 

「東の民は平和的解決の声を昔から叫んできた!それを踏み躙ってきた外道連中は誰!?」

 

<<西側の連中よ!!!>>

 

「差別はよくないと言いながらも、東の人達を解放しなかった事なかれ主義者達は誰!?」

 

<<西と中央の連中よ!!!>>

 

「我々は西と中央に断固として抵抗する!自由と平等を束縛する社会に断固として抵抗する!」

 

――それが啓蒙主義であり…社会に進歩を促す精神!!

 

「我々はこのテニスコートで誓う…世界に真の自由と平等を与える存在になることを!!」

 

――我々は啓蒙の光に照らされる者達!!ルミエール・ソサエティ(啓蒙会)よ!!

 

啓蒙の光と革命を象徴する赤旗が靡く中、溢れんばかりの大喝采が響き渡っていく。

 

この光景は王権に虐げられた国民議会が行ったテニスコートの誓いを彷彿とさせるだろう。

 

ひめなの横で拍手をしているアレクサンドラはこう思う。

 

(フッ…まるで()()()()()()()()()()()

 

柄にもなく感情的な演説をしてしまったひめなは息を切らせながら小さな言葉を呟く。

 

「…私チャンのキャラじゃなかったけど…やるだけの価値はあったよ…ヒコ君」

 

涙を浮かべながら歩み寄るはぐむは旗が結ばれたポールを抜いてひめなに捧げる。

 

「私達を導いて下さい!!」

 

笑顔を向けながら旗を受け取り、皆の前に掲げるひめなは高らかに宣言するだろう。

 

「魔法少女至上主義革命はこの街より始まる!我々と志を同じくしない人間達に粛清を!!」

 

歓声が響き渡るテニスコートから離れた廃墟ビルには人影が潜む。

 

窓際の角に隠れながら望遠レンズ付きカメラのシャッターを切り続けるのは観鳥令の姿だ。

 

「まるでウジェーヌ・ドラクロワが描いた絵画だね…()()()()()()()()()()の光景に見えるよ」

 

革命戦争を行う先遣隊は出発し、残っているのは支援任務を行う魔法少女達とひめな達のみ。

 

「あの…私達は後方支援でいいんですか?」

 

先ほど会話していた宝崎市の魔法少女達に対し、アレクサンドラは指示を伝える。

 

「貴女達には扇動した民衆の支援に向かって欲しいんです。彼らも革命戦力になります」

 

「ミユは、少し安心したですぅ。ミユ…緊張でトンだら、何しでかすか分からないし…」

 

「それで?そろそろ貴女が運んできたトラックについて…教えてくれるの?」

 

「ついてきて下さい」

 

トラックの車列に向かい、手前トラックのリヤドア前で立ち止まる。

 

(このトラックのナンバーって…米軍基地ナンバーで使われてるものよね?)

 

アレクサンドラは彼女達を促し、燦にリヤドアを開けさせると彼女の目が見開いてしまう。

 

「こ…これは!?」

 

そこに並べられていたのは大規模テロが行える程の武器弾薬の数々なのだ。

 

「冷戦時代の東側が使ってた拳銃に自動小銃…それに対戦車ロケット弾まで…」

 

「ハワワ…こんな物騒な品を日本で用意出来るなんて…何者なんですぅ?」

 

「神楽さんは魔法少女としては銃を得意としてるんですよね?銃器の知識が深い証拠です」

 

「それは…まぁ。銃の構造が理解出来ないと魔法武器として生み出せないしね」

 

「燦様の知識は凄いんですよ!ガトリング砲の構造を理解して自分の魔法武器にしてるんです」

 

「それより…何で私が銃に詳しいことを…?」

 

「即席で構いません。民衆に銃の扱い方だけを教えてくれますか?」

 

アレクサンドラの態度に対し、怪訝な表情を浮かべていく。

 

(……教えるつもりはないようね。何だかこの子…怖いわ)

 

「即席だと…せいぜい基本操作しか教えられないよ。的を当てる練度なんて得られない」

 

「点を射抜く練度は必要ありません。大勢で撃ちまくる面射撃で十分です」

 

「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる…。これだけの銃があれば列を組んで撃てるということね」

 

「ミ、ミユはチンプンカンプンですけど…ミユは何をしたらいいんですぅ?」

 

「今夜は長い夜となります。私達も民衆も疲弊しますので、補給物資の搬送班に回って下さい」

 

「りょ…了解ですぅ。ミユのローラーブレードでお荷物を迅速に運んでやるですぅ」

 

「それではトラックに乗って下さい。民衆の教官の役目を…お願いします」

 

「フフッ、私もこういう補佐役が性に合っているし…教官の任務は承ったわ」

 

「燦様が教官!?あぁ…なんて麗しい響きなんですか…ミリタリーブーツで踏まれたいですぅ」

 

魔法少女達を乗せたトラック車列も発進していく。

 

ひめなとアレクサンドラは司令官として移動指揮車両に乗り込もうとした時に呼び止められる。

 

「ちょっと待って」

 

声が聞こえた方に振り向けばワームホールの中から雫が現れたようだ。

 

「月咲さん達を例の場所に運んできたわ。これで依頼は全て果たしたし、給料を貰いたいの」

 

「おつハムニダ♪工作員の運搬を色々と頑張ってくれたし…サーシャがお給料出してくれるよ」

 

頷いたアレクサンドラはピンクのカーディガンから中身が詰まった封筒を取り出す。

 

「これで足りるでしょうか?」

 

「こ…こんなに貰っていいの?二百万円はあるわよ…?」

 

「まだ足りませんか?」

 

「い、いえ…十分過ぎるぐらいだけど…貰い過ぎて何だか申し訳ないわ…」

 

「申し訳ないと思うなら…ついでにあの泣き崩れている調整屋さんを家に帰してあげて下さい」

 

3人がテニスコートに視線を向けると蹲りながら泣いているみたまの姿を見つける。

 

「…あの人にも声をかけてあげてくれない?きっと葛藤に苦しんでいるから…」

 

「そっか…オッケー、ガチめに慰めてくるよ」

 

ひめなが近づくとすすり泣く声が聞こえ、膝を曲げてみたまと視線を合わせてくれる。

 

「どうだった…?私チャン達の言葉…貴女の胸に響いてくれた?」

 

「グスッ…こんなにも…こんなにも私の望みを代弁してくれる魔法少女に出会えるなんて…」

 

「分かってる…本心を言えなかったんでしょ?仲のいい魔法少女に嫌われたくなかったのね…」

 

「私…本当は恐ろしい女なの!でも…皆に嫌われたくないから…いつも偽りの私を演じて…」

 

「苦しかったのね…本音を言えば集団から排除される…皆がそうだから…」

 

「私の心が…貴女達に協力したいって叫んでる!!でも…でもダメなの!!」

 

「…調()()()()()()()()()()()だから?」

 

「私に調整の技術を教えてくれた先生に言われたの…調整はビジネスだから中立が大事だって」

 

「無理強いはしないよ。来てもらったのは私チャン達の思想を聞いてもらいたかっただけ」

 

「ごめんなさい…でもこれだけは言わせて。私の本心も…虐げてきた神浜の破壊を望んでるわ」

 

――それが私が魔法少女になった時の…願いよ。

 

「うん…それが聞けて十分だよ♪貴女も含めた魔法少女が自由を享受出来る社会を作るからね」

 

踵を返したひめなは移動指揮車両に乗り込む。

 

「さぁ…始めちゃうよ。自由と平等を望む…啓蒙主義を掲げた民主主義革命を実行する」

 

「現人神となる魔法少女と思想を共に出来る人間達が共生する…新しい社会を築きましょう」

 

「神浜民主主義革命が後に世界の魔法少女達に広がり、社会主義に進む二段階革命になる」

 

「この革命はいずれ魔法少女統一戦線となりますね、ひめちゃん」

 

車両を見送った雫がみたまに近づいていく中、彼女も立ち上がってくれる。

 

「私なら大丈夫…自分の足で…帰れるから…」

 

雫に背を向けながらテニスコートから去っていくみたまの後ろ姿を雫は黙って見送るのみ。

 

東の人間ではない雫には彼女にかけてやれる言葉などみつからないのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

街の至る所から火の手が上っていく神浜市。

 

西と中央に戻ったやちよとひなのは連絡を取り合い、家族の無事を確認していく。

 

後手となってしまったが為に彼女達は防戦を敷かれることとなるだろう。

 

「やはり…それしかなさそうだな…」

 

「魔法少女達も自分の家がある地域の心配があるのは分かる…でも分散すれば…」

 

「数に物を言わせて…各個撃破されるのがオチだろうな…」

 

「戦力を集中させ、戦線を築く必要があるの…大至急よ」

 

「防衛陣地を築くとしたら…参京区から栄区にかけて縦に陣地を構築するだけで限界だぞ…」

 

「私達がバリケードとなり、これ以上の被害を神浜市にもたらさないようにするしかないわ」

 

「分かった!中央の魔法少女達も全員招集をかける!西側も直ぐこちらに寄越してくれ!」

 

スマホの電話を切ったやちよの顔は自分にのしかかる重い責任に苦しむ。

 

「私が連中の行動に気が付いていたら…こんな事態には…」

 

眉間にシワが寄り、自分への怒りが抑えきれないやちよの両肩を仲間達が掴んでくれる。

 

「やっちゃん、私達が十七夜さんに言った言葉を忘れたんですか?」

 

「誰だって過ちを犯すよ…だから足りない部分は私達がサポートする。でしょ、ししょー?」

 

「みふゆ…鶴乃…」

 

2人の思いやりに涙腺が緩みかけたが、気を取り直して状況を伝えていく。

 

「皆への連絡は私が行います。それより…十七夜さんの姿は?」

 

「えっ…?そういえば十七夜の魔力を感じない……まさかあの子!?」

 

最悪の状況が頭に浮かんでいた時、みかづき荘の玄関から大声が聞こえてくる。

 

<<大変でございます!!お願いですから返事をしてくださいまし!!>>

 

やちよは扉を開け、血相を変えた月夜を見た事で緊急事態が起こったのだと理解する。

 

「落ち着いて、月夜さん…何があったの…?」

 

「西側の奥地から…魔獣の大軍勢が…攻めて参りました!!」

 

それを聞かされたやちよは片手に持っていたスマホを落としてしまう。

 

「どういう…ことなの!?なんで…なんでよりにもよって…このタイミングで!?」

 

「やっちゃん…タイミングが良過ぎます。恐らくは…東の魔法少女達の作戦かと…」

 

「私達の背後からの強襲…恐らくは西と中央を分断して各個撃破を行うのが目的よ…」

 

「訳が分からない!なんで意思を持たない魔獣が統率のとれた状態で攻めてくるの!?」

 

「遠くから笛の音が…月咲ちゃんの笛の音が聞こえたんです!もしかして…そんな…」

 

「月夜……」

 

「背後をとられてしまっては…中央との合流は……」

 

「……都さん、ごめんなさい」

 

西の長は決断し、背後から強襲してくる魔獣の軍勢を優先する決断を下す。

 

これより少し前の頃、新西区の外れには神浜市に電力を運ぶ大きな鉄塔があり、作戦が始まる。

 

鉄塔の上層部に立つのは月咲と彼女を護衛する時雨とはぐむのようだ。

 

「あの保澄雫って魔法少女が働いてくれたから…こうも容易く西側の背後をとれたね」

 

「月咲さん…私の固有魔法は魔獣特攻。魔獣にのみ効力を最大限に発揮する力です」

 

「ウチの固有魔法は共鳴…そして、ひめなの固有魔法は合成」

 

「姫の固有魔法は魔法少女達の固有魔法を合成出来る」

 

「聞かせて下さい、月咲さん。私の固有魔法が付与された笛の調べを」

 

(……ごめんね、月夜ちゃん)

 

横笛を構えながら笛の音が響き渡る。

 

「凄い…なんて大きな笛の音……」

 

「見て、はぐむん……」

 

鉄塔の下に出現していくのは無数の魔獣達の姿である。

 

「周辺地域の魔獣を一気にかき集める事が出来るなんて…」

 

「これが…はぐむんの固有魔法が合成された…月咲さんの固有魔法の力…」

 

月咲の意志が反映されたのか、魔獣達がコロニーを形成していく。

 

「魔獣を生み出すコロニーをここに敷く。負の感情エネルギーは今の神浜なら申し分ないしね」

 

「西側の背後をとり分断する。私達の役目は東が中央の魔法少女を殲滅するまでの時間稼ぎ」

 

「西側は手練れ揃い…でもこちらには数の暴力と地の利がある」

 

時雨はスリングショットに似た魔法武器を生み出す中、飛び道具を握る手に力が籠る。

 

「ぼくは臆病で弱い…でも射程距離と手数ならある。ぼくに高い場所を与えてくれれば十分さ」

 

彼女の眼を覆う透明ゴーグルに照準レティクルが表示される。

 

「でも…もしぼくの狙撃を掻い潜ってきた場合は…援護をお願いしてもいい、はぐむん?」

 

「こ…心得てるよ。私だって…戦える!」

 

はぐむの体系には不釣り合いなほど大きい剣を生み出して構える。

 

笛の音に意識を集中し、魔獣とのコネクト現象を生み出す共鳴魔法を操る月咲も覚悟を決める。

 

(今なら月夜ちゃんがいなくても…ウチだけで魔獣を操れる。でも…西側と戦うとなると…)

 

彼女が愛してやまない姉の月夜は西側に所属する魔法少女。

 

(ウチら…また離れ離れになるの?でも東の苦しみを月夜ちゃんが理解してくれると思えない)

 

大切な姉妹でも、生まれも育ちも最初からこの街に引き裂かれている。

 

口元から横笛を下ろし、やりきれない感情から絞り出す言葉を零すだろう。

 

「こんな事になるぐらいなら…もっと早く…この街から出ていけたらよかったよ…ねー…」

 

いつも姉妹が口にするハモリ言葉を零すが、隣にはそれを返してくれる姉の姿はいなかった。

 

 

参京区の東側は既に東の暴徒達が押し寄せており、水徳寺も危険な状態。

 

日本庭園のように大きな庭には時女の魔法少女達が大勢集結しているようだ。

 

「どうですか?何か見えましたか…?」

 

魔法で空から偵察している魔法少女に声をかけるのはすなおである。

 

「東の廃墟当たりを飛ばせていた折り紙カラスが…パチンコ玉のようなもので落とされました」

 

「だとしたら、その辺りが東の魔法少女達が潜伏する場所だって思うよぉ」

 

「どうでしょうか…?落とされたという事は、こちらの動きに気が付かれたと思います」

 

「移動された可能性は大きいよな…」

 

ちはる、ちか、涼子もいるようであり、不安を滲ませる。

 

「それより…神浜放送局のあの放送内容は…」

 

「ええ…あんな本音をぶちまけるだなんて、魔法少女の魔法の仕業としか思えません」

 

「東の皆が怒って街を破壊していく…私達時女の魔法少女はどうしたらいいの?」

 

「日の本の民を守るのが巫の使命。暴徒とはいえ…日の本の民を魔法で制圧など出来ません」

 

「暴徒に関しては警察に任せるしかないよな…」

 

「私達はどう動くべきなのかの確認は…ヤタガラスの神子柴様に静香が行っています」

 

「悔しいよぉ…街の人達が大変な時に…私達は自由に動けないだなんて…」

 

「これが組織に飼われるってことだったんだな…」

 

今すぐ飛び出したい気持ちを抑え込み、指示はまだかと周囲は苛立つ。

 

そんな時、水徳寺の奥から静香の怒鳴り声が響いてくる。

 

<<どういうことなんですかぁ!!!>>

 

すなお達はえんがわから寺に入り、家電話が置かれている部屋に向かう。

 

そこには怒りの表情を浮かべながら黒電話の受話器を握る静香がいたようだ。

 

「此度の騒乱に、我々時女一族が手を出す事は許さん」

 

「暴徒によって街が破壊されていく!日の本の民を守るのが私達の務めではないのですか!?」

 

「時女の使命とは、悪鬼と戦うこと。人間社会の問題ごとは、我々の役目ではない」

 

「この騒乱を起こしているこの街の巫達を制する事も許されないのですか!?」

 

「許可できない。全ての巫は悪鬼と戦う大事な戦力…いたずらに消耗すべきではないのじゃ」

 

「せめて…せめて人命救助はやらせて下さい!!」

 

「同じ事を言わせるな。我々には我々の役目があり、人間社会の問題は人間社会が対処する」

 

「…それが、ヤタガラスの意志なのですか?」

 

「我々は秘密結社一族…公に姿を見せ人々を救う英雄などではない。大局の為に動く一族じゃ」

 

「くっ!!」

 

「それよりも静香…ヤタガラスから送られてきた指示を伝える」

 

「えっ…?」

 

「今回、時女に与えられた勧誘任務は撤回されたのじゃ。全員時女の集落に帰還せよ」

 

「ま、待ってください!?嘉嶋さんをヤタガラスに迎え入れる任務はまだ終わってません!!」

 

「後任に任せることとなった。我々の役目は終わりじゃ」

 

「そ…そんな…理由はなんですか?」

 

「我々の不手際をヤタガラスから追及されてのぉ…長期任務とはいえ、グズグズさせ過ぎた」

 

「…せっかく嘉嶋さんと仲良くなれて…私達の事も理解してくれる兆しが見えたのに!」

 

「よいか?ワシは()()()()()()とお前に伝えた。その中には時女の分家達も含まれている」

 

「ちかと涼子も…?彼女達は本家とは関係ないです!元の地域に帰してあげるべきです!」

 

「命令に変更はない。時女一族の長となる者の使命を果たせ」

 

電話は一方的に切られてしまう中、静香は呆然としてしまう。

 

「静香……」

 

「静香ちゃん…私達はどう動けって言われたの…?」

 

「…神浜の騒乱に関わる事は許さない。そして…私達に与えられた勧誘任務も撤回されたわ」

 

「そ、そんな!?」

 

「全員…集落に帰還せよと命令されたわ。その中には分家のちかと涼子も含まれてる…」

 

「何処までも勝手な都合ばかり押し付けやがって!!」

 

「わ、私は嫌です!!これ以上…ヤタガラスなんかに振り回されたくありません!!」

 

「静香…本当に、それでいいんですか…?」

 

「私だって悔しい…納得出来ない!それでも…時女一族はヤタガラス組織の一族…」

 

保身に走るばかりの静香に対し、涼子が歩み寄って胸倉を掴む。

 

「おい静香!!お前は時女の大将なのか?それとも…ヤタガラスの飼い鳥なのか!?」

 

「涼子……」

 

「あたしは霧峰村に赴いて知った。時女の行持を信じて散った…時女一族の女達の生き様を…」

 

「……………」

 

「あたしの母は自分を捨ててあたしを守った。時女一族の女達も同じさ…静香はどうなんだ?」

 

「わ、私は……」

 

「秘密結社一族の立場に縛られて生きていくというのなら…あたしはあんたについていかない」

 

「私も涼子さんと同じ気持ちです。時女の長になるべき人の…望みを聞かせて下さい」

 

俯きながら拳を震わせるだけの静香の元に急報が舞い込んでくる。

 

<<大変です!!>>

 

部屋に入ってきたのは偵察任務を行っていた時女の魔法少女である。

 

「血相変えて…どうしたんですか?」

 

「西側の奥地に飛ばせていた折り紙カラスから見えました!悪鬼の大軍勢の姿が!!」

 

「なんですって!?」

 

「ど…どうしよう静香ちゃん?私達…本当に何もしないまま帰らないといけないの…?」

 

皆の視線が静香に集中する中、彼女は心の中で葛藤を繰り返す。

 

(自分を捨てて…誰かを守る。それが時女の行持であり…私が体現しないといけない信念…)

 

体を震わせていた静香であったが大きく息を吸い込んで震えを収めた彼女が皆に振り向く。

 

「時女の長として…命令するわ。私達は完全武装を行い、悪鬼の軍勢と魔法少女を制圧する!」

 

その言葉を聞けた皆の目が見開きながら笑顔となっていく。

 

「それでこそ…あたしが大将として認めた女だよ!」

 

胸倉を掴んだ手を離した涼子は静香を抱きしめてくれる。

 

「静香…本当にいいんですね?これは神子柴様の命令であると同時にヤタガラスの命令ですよ」

 

「神子柴様は言っていたわ。私達巫は悪鬼を倒す使命をもつ一族…なら悪鬼は時女の専門よ」

 

「そ、そうだよぉ!!悪鬼となら戦っていいんでしょ?なら何も問題なんてないよぉ!!」

 

「神子柴様はこうも言ってた。巫の数を消耗させる殺人が許されないなら…殺さなければいい」

 

「アハハ!屁理屈で頓智を利かせてきたな♪神子柴に喧嘩を売る態度が気に入ったよ!」

 

「もう…静香ったら。でも…そんな静香だからこそ、時女の女達は貴女についていくのよ」

 

「そうです…それでこそ、分家の私達でさえついて行きたくなる…時女の長の姿です!」

 

「時間がないわ!みんな迅速に戦闘準備をしなさい!!」

 

「水徳寺の蔵の中身を解放する時がきたようだな!あたしはまぁ…忍道具は柄じゃないけど」

 

指揮を執る静香の姿を時女の魔法少女達は目に焼き付けていく。

 

今の時女静香こそ時女一族の長になるべき存在なのだと彼女達は確信したのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ヘルメットやタオル覆面を身に着け、スポーツ道具や工具などを持ちながら行進する東市民。

 

その光景はまるで昭和のゲバルト部隊を彷彿させるだろう。

 

極左集団と化した暴徒達が破壊行為を繰り返していく。

 

「民主主義とはブルジョアや地域特権者の為にあるものではない!貶められた我々にもある!」

 

栄区に乗り込んだ暴徒達が警官隊を突破し、栄区役所にも乗り込んでいく。

 

「東市民は公務員になる事も許されなかった!貴様ら西市民だけが税金で暮らしやがって!!」

 

区役所内部が次々と破壊され、外では役所に掲げられた記章旗が燃やされていく。

 

大行進は様々な場所で行われ、スピーカーを持ちながら革命闘争を暴徒達が叫ぶ。

 

<<西が豊かになれたのは弱者からの搾取である!弱者にも豊かさを手にする権利がある!>>

 

<<この闘争は全国の低沈金労働者の権利も認められる事を叫ぶ、社会要求行為である!!>>

 

<<我々の勇気ある行動を見よ!格差に苦しむ国民は続け!ゼネストは民衆権利である!!>>

 

<<団結せよ!差別主義、拝金主義者をこの国から滅ぼし!真の自由と平等社会を築こう!>>

 

東の暴徒達は西側の豊かさを象徴するような施設を狙い撃ちしていく。

 

これはフランス革命期に見られた反教権主義を彷彿とさせる光景であろう。

 

無神論者は理性絶対主義を崇拝し、道徳的な宗教を掲げて旧体制の破壊を繰り返す。

 

神浜市で最も栄えたのは中央区であり、迫る暴徒達を迎え撃つのは県警から派遣された機動隊。

 

「放水開始!!」

 

遊撃放水車から次々と放水が行われ、暴徒市民の列を押し留めていく。

 

「くそっ!!差別主義者共め!!」

 

「俺達は負けない!!自由と平等社会の為に!!」

 

「お、おい…見ろ!!あれは…味方だ!!」

 

暴徒達の後方に停車したトラックから現れたのは東の男達である。

 

教官となった燦から即席指導された男達が両手に持つのは自動小銃や対戦車ロケット弾なのだ。

 

「差別主義者と拝金主義者のケツ穴からひり出すお零れが欲しい豚共を撃ちまくれーッ!!」

 

武装市民が一斉に射撃を繰り返す。

 

対戦車ロケット弾が放水車に命中し、爆発しながら炎上していく。

 

「いいぞー!!俺達の革命には…きっと啓蒙と自由の女神さま達がついてるんだーっ!!」

 

「このまま水名区の神浜市役所本庁舎にある本会議場を一気に目指せ!!」

 

「そこで俺達は新たな条例をこの街に作る!東側住民の自由と平等を約束する法律を作る!」

 

武装市民達は呪われた神浜の歴史の原点ともいえる水名区の神浜市役所本庁舎を目指す。

 

燃え上っていく神浜市こそ、虐げられた東の民の怒りによって焼かれていく火災地獄なのだ。

 

その光景の中を茫然自失した表情をしながら歩くのは八雲みたまである。

 

「あ……あぁ……」

 

燃え上がる施設の数々、道端には暴走を止めるよう言いに行って襲われた者達の亡骸が転がる。

 

「これが…こんな地獄が…私が望んだ光景なの…?」

 

みたまの脳裏にキュウべぇと契約した日の記憶が思い出されていく。

 

「あの時の私は…みんな大嫌いで…私に酷い仕打ちをする西側連中が許せなかった…」

 

勉強の努力を繰り返しても差別され、加害者にされ、帰ってくれば裏切り者扱い。

 

「東の連中だって同じだった…。憎い…みんな…憎かった……」

 

全てはこの街の歴史と、人間の軽薄さが招いた因果であろう。

 

「怒りと憎しみに飲まれてしまったから…容易く願い事に誘導された…」

 

彼女は契約の天使であるインキュベーターにこう願った魔法少女なのだ。

 

――わたしは神浜を滅ぼす存在になりたい。

 

道端に佇み、燃える街を見ながら体を震わせていた時、助けを求める声が聞こえてくる。

 

「たす…け…て……」

 

ビクッと体を震わせながら声が聞こえた方に振り向く。

 

西側の水名生徒が道端に倒れており、全身には降り注いだ窓ガラスの破片が突き刺さっている。

 

「痛い…苦しい…たすけ…て……」

 

泣きながらみたまに手を伸ばす水名女子生徒の姿であるが、みたまは助けようとはしない。

 

「苦しい…助けて…何度も私は心で叫んできたわ…都合のいい時だけ東に助けを求めるの?」

 

拳が握り込まれ、怒りと憎しみに打ち震えていく彼女は憎悪の言葉を吐き出してしまう。

 

「私だって…助けてって…西の人に叫んできたわ!それなのに貴女達がしてきた事は何よ!?」

 

「苦しい…お母さん…助けて……」

 

「努力しても加害者にされて水名を退学させられたわ!それが貴女達西側のやり方でしょ!?」

 

「痛い…痛いよぉ……」

 

()()()()()()()()!!だけど貴女達は…苦しんで泣く私を嘲笑ったわ!!()()()()()()!!」

 

虐げられてきた彼女の憎しみが暴言となって吐き出されていく。

 

願いが叶って神浜が滅んだなら、憎い奴らを大いに笑いたかった彼女であるが、矛盾が起きる。

 

「……なんでよ?」

 

彼女の両目からは大粒の涙が溢れ出している。

 

「なんで…私は泣いてるの?どうして笑えないの…?私は…これがやりたかったんでしょ…?」

 

苦しみ悶える水名女子生徒の姿が、かつての自分と重なっていく。

 

その光景こそ聖探偵事務所の所長である聖丈二が尚紀に語った言葉の光景なのだ。

 

――犠牲にされて泣き叫ぶ被害者達の光景に、()()()()()()()()()()()

 

「私だって…本当は…苦しいって泣き続ける貴女と同じように…助けてもらいたかった…」

 

両膝が崩れ落ち、地面に膝立ちとなる。

 

「私は…私はなんて愚かな…願い事をしてしまったの…?」

 

みたまは今頃になって憎むべきとは誰も許せなかった自分自身だったのだと理解する。

 

その結果、自分が苦しかった事と同じ加害行為を行い、自分と同じ苦しみを撒き散らした。

 

「……まるで、この国の歴史でいうところの一揆、打ちこわしの光景だな」

 

声が聞こえた方に振り向く。

 

そこに立っていたのは黒のロールスロイスから降りてきたヴィクトルとホテル総支配人の姿。

 

「ヴィクトル…叔父様?」

 

「…この子を病院に連れていくのだ」

 

「かしこまりました」

 

総支配人が傷ついた彼女を抱き起し、ロールスロイスに乗せて車を発進させていく。

 

「叔父様…どうして外に?日はもう直ぐ沈むけど…まだ外に出たら…」

 

見ればヴィクトルの肌からは蒸気のような煙が立ち、肌が焦げているのが分かる。

 

「…調整屋というビジネスウーマンの君と話がしたかった」

 

「ビジネスウーマンとしての…私と?」

 

「この街の光景を見て、どう感じた?」

 

「…私のせいです。私が願い事をしたせいで…神浜の街が破壊され…」

 

「違う。奇跡など結果を導く一つに過ぎない。君はこの惨状を起こす()()()()()()()()()()()

 

「私が…この惨状を引き起こす…直接原因を生み出した…?」

 

()()()()()というのを知ってるか?軍事組織と兵器産業が結びついた軍事体制だ」

 

「軍産複合体と…調整屋の私が同じだというのですか?」

 

「軍産複合体にとって国民の恐怖は利益となる。弱い魔法少女の恐怖が利益となる…同じだな」

 

「そ、それは……」

 

「皆が死を恐れる、恐れを排除したい、だから兵器が売れる、調整する魔法少女達で溢れる」

 

「わ…私……」

 

「9・11テロの後、当時の国防長官はスタッフに()()()()()()()()()()()と伝えたんだ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…?」

 

「企業と軍の癒着は増し、軍隊が民間に依存する。調整屋に依存する魔法少女達と同じくな」

 

「それじゃあ…軍隊はいずれ、()()()()()()()()()?」

 

「事実ペンタゴンよりも民間軍事企業の方が将官数は多い。軍と結託した企業が政治を操れる」

 

それを聞かされた八雲みたまの顔が青ざめていく。

 

()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()自分の商売の本質にようやく気が付いたようだ。

 

「君は大繁盛をして、東の魔法少女達は戦力を整え、君は望みであった神浜の破壊を行えた」

 

「私が…私がしてきた事は…全て繋がって……」

 

「…吾輩は、もう一度君に聞きたい。どうだね、調()()()()()()()()()()()()

 

ヴィクトルの言葉がみたまの心を絶望の底へと誘っていく。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッッ!!!」

 

地面に蹲りながら泣きじゃくるみたまに対し、同じ商売人としてヴィクトルはこう告げる。

 

「…これを語りたかったのは、吾輩とて君と同じ立場だからだ」

 

「ヒック…うぅ…叔父様も…私と同じ…?」

 

「君は一年程しか業魔殿にいないから知らんだろうが…吾輩はイルミナティとも取引してきた」

 

「叔父様が…イルミナティと取引を…?」

 

「イルミナティの魔術結社に所属するサマナー達も命がけの商売…大いに繁盛したよ」

 

「それが…どんな事態を生むのか…叔父様は考えなかったの!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。商売を行うなら()()()()()()()()()()()()()()

 

「何を売るかの…責任…?」

 

「吾輩とて罪人、君とて罪人。それでも商売を続けてきたのはやるだけの価値があったからだ」

 

「私は…グリーフキューブを得るために。叔父様は…悪魔研究を続ける為に…」

 

「我々ビジネスマンにも責任はある…物を売るなら、()()()()()()()()()()を考えなさい」

 

「叔父様は…私に調整屋を辞めて欲しいの…?」

 

「それを判断するのは…君自身だ」

 

膝を曲げてみたまと向き合うヴィクトルは懐から取り出した魔石をソウルジェムに掲げる。

 

「えっ!?」

 

魔石によって絶望の穢れは急速に吸い出されていったようだ。

 

「負の感情エネルギーを溜め込んだ魔石は悪魔の供物となる。イッポンダタラにでも食わせる」

 

ビジネスマンの先輩は立ち上がり、背を向けながら業魔殿へと帰っていく。

 

残されたみたまはこう思ってしまうようだ。

 

「私って…皆に迷惑かけるばかりね…。いっそのこと…さっき絶望死してたら…」

 

自分自身の愚かさに呆れ果てた末に自分を呪っていた時だった。

 

<<あっ!見つけたホ!!>>

 

<<みたまさん!!>>

 

空に目を向ければ魔法少女姿のかりんとランタンの頭にしがみついたフロストがやってくる。

 

「無事でよかったホ!オイラ心配で心配で…体がちょびっと溶けちまったホ…」

 

「フロスト、それはこの街の火事の熱で溶けただけだホ」

 

「みたまさん…本当に心配したの。大丈夫なの…?」

 

優しい言葉をかけてくれる存在から目を背けるみたまは震えた声でこう告げる。

 

「優しくされる価値なんてないわ…私はね…本当はこの街なんて滅びればいいって思う女なの」

 

「えっ…?」

 

「西の子に虐められ…東の子にも虐められたから全部滅びろって願ったの。恐ろしいでしょ?」

 

隠していた本音を突然語られたかりん達は戸惑いを見せていく。

 

「私になんて構わないで…ほっといていい存在だから……」

 

また泣きそうなみたまの表情を見つめるかりんは重い口を開きながらこう言ってくれる。

 

「あのね、みたまさん…()()()()()()()()()()()()()()()なの」

 

「一面だけで…判断してはいけない…?」

 

「みたまさんが怖い人だったとしても普段は優しいの。私はそれを知ってる…だから怖くない」

 

「かりんちゃん…」

 

「私のアリナ先輩もね…普段は怖い人だけど、本当は優しかったの。だから…信じてあげたい」

 

――人間の心は……捨てたもんじゃないって。

 

そう告げられたみたまの両目から熱い雫が零れ落ちていく。

 

「うっ…ヒック…かりんちゃん…私……私ぃ!!」

 

かりんに抱き着きながら泣きじゃくり、仮面を纏わない本当の自分を伝えてくれる。

 

「皆と仲良くしたい!!憎みながら生きるよりも…皆と楽しく生きていきたい…ッッ!!」

 

震える体をかりんは抱きしめていき、菩薩のような慈愛の眼差しでこう言ってくれる。

 

「うん…みたまさんも、アリナ先輩も…また皆と仲良く生きていけるの」

 

「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁ────……ッッ!!!」

 

「わたしは…それだけを信じたい」

 

神浜の騒乱を起こす引き金を引いてしまった調整屋としての八雲みたまは決断するだろう。

 

自分が引き起こしてしまったこの騒乱を必ず止めてみせると御園かりんに誓うのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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