人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

115 / 398
114話 トリコロール

火の手が上がり続ける南凪区の夜空。

 

警察車両のサイレンだけでなく、消防車のサイレンも鳴り響き続けている。

 

「火の手が上がっているので下がって下さい!」

 

「東の暴徒たちが迫っています!最寄りの避難所に早く移動してください!!」

 

避難誘導している警察官たちの呼び声の中、消防車と救急車が燃え上るホテル前に到着。

 

神浜消防署のハイパーレスキュー隊が現地に到着し、消火活動に移る。

 

3メートル先も見えない煙の中、訓練を受けた消防士たちが迷わず消火活動を行う。

 

ホテル従業員から情報を集める消防士の中には、美凪ささらの父親の姿もあった。

 

「一階ロビーから火の手が上がり、炎と煙が上階に上がって逃げ遅れた人々がいる!」

 

消防士たちが上を見上げれば、逃げ遅れた人々が窓際まで逃げて助けを求める姿が見えた。

 

「あの高さでは…はしご車は届かないな…。火点消火を行いながら救出に向かう!」

 

「我々は最大火点のロビー消火活動を行う!別班は裏口からホテルに侵入し、上階を目指せ!」

 

裏口に回り込む別班隊員たちだったが…。

 

「くそっ!!裏側も火の手が酷い!!」

 

「救助ヘリを要請して屋上から侵入しましょう!」

 

「ダメだ!救助ヘリは他の場所にも応援に向かっていて手が回らない!」

 

「ここから侵入するしかない!行くぞ!!」

 

美凪隊員の激の元、インパルス消火システムを纏った隊員たちは決死の覚悟で移動を開始。

 

一寸先も見えない煙と業火、そして灼熱地獄。

 

酸素マスクを装備しているが、空気は10分程度でなくなるだろう。

 

煙が酷い下層を超え、消防士たちは酸素を温存する為に酸素マスクを外しながら進む。

 

気道熱傷に耐えながら逃げ遅れた人たちに声をかけ続けた。

 

「こ…ここよ……助けて…下さい……」

 

「もう大丈夫だ!諦めるんじゃないぞ!」

 

美凪隊員は自分の酸素マスクを逃げ遅れた女性に被せ、下層を目指すのだが…。

 

<<フラッシュオーバーだぁ!!!>>

 

下の階で避難誘導中の隊員の叫び声。

 

火災室内の可燃物が加熱され、ある時期に一気に燃えだして室内が炎に包まれる現象。

 

「くそ!!下の階に降りる階段フロアが……分断されたか…」

 

避難誘導中の下層隊員たちと炎で分断されてしまった美凪隊員は、別の階段フロアに移動。

 

「ゴホッゴホッ!!息が…息が出来ない……!!」

 

酸素マスクの酸素が低下し、呼吸が出来ない為に避難民がパニックを起こす。

 

肩を貸す隊員を突き飛ばし、目の前に見えていた消火ケースに入っている消火器を取り出す。

 

そして女性は窓に目掛け…消火器を投げた。

 

「や、やめろぉーーーッッ!!!」

 

鈍化した世界で窓ガラスが砕け、外気が一気に室内に入り込む。

 

可燃性の一酸化炭素ガスが溜まった状態の時に窓やドアを開く行動をすると起こる現象がある。

 

それはバックドラフトと呼ばれる爆発現象。

 

「うわぁぁーーーーッッ!!!!」

 

通路が業火に包まれる程の爆発現象が起きてしまった。

 

「かっ……あぁ……」

 

顔面に大火傷を負い、呼吸する為の器官まで焼かれてしまった美凪隊員。

 

倒れ込む彼の離れた場所では、同じように全身を焼かれて絶命してしまった避難女性の姿。

 

薄れゆく意識の中、脳裏に浮かぶのは愛する娘の姿。

 

「ささ…ら……すま……な……い……」

 

下層から消火班の応援が駆け付けた時には、殉職した美凪隊員の姿が見つかってしまった。

 

…尊い人間たちの命が理不尽に奪われていく。

 

全ては身勝手極まりない魔法少女たちによって、引き起こされてしまった惨劇なのだろうか?

 

強硬手段で止められた筈なのに、平和的解決を目指そうとした正義の魔法少女たちのせいなのか?

 

それはいずれ、問われる事となるだろう。

 

……………。

 

燃え上る神浜市の西と中央から離れた北養区。

 

小高い山の上に建てられた屋敷の二階バルコニーに立つ、3人の女性たちの姿。

 

1人は白衣を夜風で靡かせ、もう1人はホークウッド家の紋章付きの黒い外套を靡かせる。

 

そして、フランス国旗であるトリコロールカラーの旗を外套として靡かせる黒騎士少女の姿。

 

「……思い出してしまう。あの燃え上る街の光景と、市民達の自由を求める叫びを見ていると」

 

口を開いたペレネルは細目を開き、遠くに見える街の光景を見て呟く。

 

リズも口を開く。

 

「…マスターが生きた歴史の中には、母国フランスで起きた市民革命もあったと聞いてるわ」

 

黙したままのタルト。

 

彼女の背には、フランス国旗が靡き続ける。

 

そのトリコロールの旗こそが、自由・平等・博愛の三色を掲げた市民革命の象徴であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

イギリス革命、アメリカ独立革命、フランス革命といった市民革命。

 

封建・絶対主義から解放され、自立した個人を求める思想が民衆行動の要因である。

 

ブルジョアたちの自由を求める叫びが、民衆達を動かしたのだ。

 

「ブルジョア達が起こした市民革命の目的は、王族・貴族が要求する重税からの解放だったわ」

 

「当時のフランスは既に国家破綻し、国庫も底を尽きたというのにさらに絞ろうとしたのね」

 

「ええ…街は酷い有様だったわ。飢饉も追い打ちをかけて…この世の飢餓地獄そのものだった」

 

「国を支配する王権・貴族が民衆たちを滅ぼそうとした為に起きた革命…」

 

「まるであの頃の光景が…この街で再現されてしまったように見えてしまうの…」

 

「……マスター」

 

重い口を開いたタルトは、ペレネルに振り向く。

 

「タルト……?」

 

彼女は背中の外套であるフランス国旗を右手で握り締め、ペレネルに見せようとする姿。

 

「私が試験管から解放されて、初めて産声を上げた時に…マスターが私にこの旗を被せてくれた」

 

――おかえりなさい、フランスの英雄…ジャンヌ・ダルク――

 

涙を浮かべ、フランス国旗と共に彼女を抱きしめてくれたペレネルの姿を…今でも覚えている。

 

「ジャンヌ・ダルクは、シャルル七世の王権復活の為に戦いました」

 

「……何が言いたいの?」

 

「その王権が、民衆たちを重税で殺していった為に起きた……フランスの市民革命」

 

――ジャンヌになろうとしている私が、この市民革命の三色を掲げる資格はあるのですか?

 

彼女が言わんとしている言葉の意味は、ペレネルにも分かる。

 

造魔は虚心であり感情を持ちはしないが…考える力ならある。

 

フランス国旗の理念と、ジャンヌ・ダルクの偉業が嚙み合わない事に苦しんでいるのだ。

 

「…ジャンヌ・ダルクとフランス革命。それは、フランスを象徴する二つの歴史」

 

バルコニーにある椅子に座り、ペレネルは重い口を開いていく。

 

「フランスの解放を叫んだタルトはアルマニャック派であり、ブルゴーニュ派を憎んでいた」

 

「タルトと妹のカトリーヌが生きた村が…アルマニャック派だったのですね?」

 

「タルトの活躍でシャルル七世は国王に即位するけれど…彼は保身に走り内戦の終結を望んだわ」

 

「ジャンヌ・ダルクはそれを無視し、フランスの解放を信じて戦い続けたのですよね?」

 

「彼女には、アルマニャック派として生きた歴史もある。シャルルにとって…それは邪魔だった」

 

「ブルゴーニュ派との講和の邪魔をする形となってしまった…ジャンヌ・ダルクは…」

 

「…ブルゴーニュ公国軍の捕虜となり、身代金と引き換えにしてイングランドに売られたわ」

 

「…あの頃に、タルトは大切な仲間であった私の元となるリズを失ったと…言ってたわね」

 

「シャルルは身代金支払いを拒否し、オルレアン市が進めた身代金集めも禁止した…」

 

「王権によって、タルトはフランス民衆たちから切り離されていったのですね…」

 

「その末路が…1431年5月30日のルーアン。火刑は王権に捨てられた末の悲劇だったのよ」

 

「…ジャンヌ・ダルクといえども、王にとっては所詮…邪魔な村娘でしかなかったのですね」

 

「後の復権裁判によって、タルトは無実の殉教になれた。それでも彼女は…民衆から忘れられた」

 

「……………」

 

「そのタルトがもう一度フランス国民に思い出された歴史事件が…フランス革命だったの」

 

「ジャンヌ・ダルクとフランス革命に…繋がりが?」

 

「反革命軍によって民衆が攻撃を受けた時、タルトを救国の英雄と叫び、宣伝した人物がいた」

 

「フランスの皇帝であり革命家……初代皇帝ナポレオン・ボナパルトね」

 

「ナポレオンもタルトも共に田舎育ちの軍人。タルトのカリスマを自分に被せようとしたのよ」

 

「ナポレオン一族はその後、タルトをどのように扱ってきたのですか?」

 

「国民国家形成の為のスローガンとして崇め、フランスという想像の共同体にまで押し上げた」

 

「ナポレオンがいてくれたからこそ……ジャンヌ・ダルクは歴史に埋もれることなく残った…?」

 

「第一次世界大戦の頃には、本格的な国民的スターとなれたわ」

 

――タルトこそが……()()()()()()()

 

フランス国旗を握る手に力が籠る。

 

虚心であるはずなのに、心が熱くざわめくようだ。

 

「……マスター、ご命令下さい」

 

彼女の悪魔の瞳が、ペレネルを映す。

 

悪魔であるはずなのに、心には人間であり魔法少女だったタルトと同じ心が沸き上がる。

 

「私に……神浜の民を救えと」

 

かつてのタルトと同じ、力強き信念の眼差しを向けてくる彼女を見つめるペレネルだったが…。

 

「神浜の民を救うとは、どういう意味?フランス国旗を掲げて…東の革命市民を導くのですか?」

 

「タルトが生きた時代は焦土作戦と黒死病が蔓延し、貿易も途絶えて外貨も入らない時代でした」

 

「そうね…フランス革命の時代と同じような条件だったわね」

 

「そんな時代を生きたタルトだからこそ、民の平和という光を求めたはず」

 

「貴女は…神浜に平和という光をもたらしたいのですか?」

 

「この光景に…平和の光など見えません。見えるのは…戦乱の時代の繰り返しです」

 

「私が貴女に送ったフランス国旗に…何を求めているの?」

 

「東の市民は民主主義の旗と理念を求める。ですが、市政は既に市民選挙で選ぶ議会政治です」

 

「…なるほど。憲法に縛られた民主主義市政を掲げる神浜に、民主主義革命など必要ないわね」

 

「私はこの旗に誓います」

 

――()()()()()()()()()()()()()()()など…あってはならないと。

 

――それが……戦乱と革命を超えてきた、ジャンヌ・ダルクという存在の意志だと信じて。

 

目を見開き、彼女の姿を見つめるペレネル。

 

今の彼女はまさに、魔法少女として生きたタルトの生き様そのものを体現していると感じる。

 

…だからこそ、恐ろしい。

 

「……駄目よ、許可出来ません」

 

「…何故ですか?私はこの革命の裏側には、魔法少女たちが暗躍していると考えます」

 

「テレビに映っていた市長の突然の豹変…確かに、魔法少女の魔法としか思えないわね」

 

「恐らくは、差別に苦しむ東の魔法少女たちが関与していると思います。私はそれを…」

 

「ダメです!!」

 

椅子から立ち上がり、厳しい表情をタルトに向けてくる。

 

「貴女はもう…どちらかの陣営に与して…誰かを傷つける生き方をするべきじゃない!!」

 

タルトの両肩を掴むペレネルの表情は、今にも泣きそうだ。

 

「忘れたの!?ジャンヌ・ダルクとして生きて欲しい貴女に…私とリズが何を求めているのか!」

 

その一言が、彼女の身を案じてくれているのは造魔でも分かる。

 

「貴女はもう戦乱に加わるべきじゃない!人間のように…普通の少女として生きなさい!!」

 

――かつての百年戦争の頃みたいに人殺しを続けては…誰も許してくれなくなる!!

 

――私とリズのせいで…火刑にされて死んだタルトの悲劇を…繰り返してはダメ!!

 

リズの握り締める拳が震えていく。

 

虚心である彼女の心もざわついていく。

 

蘇ったタルトに、普通の人生を生きて欲しいペレネルとリズの気持ち。

 

今のタルトが望む、本物のタルトになりたいと願う気持ち。

 

その両方の気持ちがあるからこそ、狭間の中で虚心が揺れ動く。

 

「……マスター」

 

細目から涙が浮かぶ主の顔に優しく手を添わせ、涙を手で拭く。

 

「マスターの気持ちと、リズの気持ち……感情はなくても、嬉しいと思います」

 

「分かって…くれたのね?」

 

「ですが…造魔でありながらの我儘を…お許し下さい」

 

「えっ……?」

 

――せめて…人命救助だけでも、私にやらせてくれる命令を出して欲しい。

 

人命救助ならば、かつてのタルトのように()()()()()()()()()()()ことはない。

 

平和の光には、人の命の輝きがなくてはならない。

 

カトリーヌの命の輝きを失った記憶を取り戻したタルトだからこそ…その答えを出せた。

 

「……マスター、私からもお願いするわ」

 

「リズ……?」

 

「この子はね……本物のタルトになりたいと願っている。本物のタルトなら……」

 

――苦しみ叫ぶ人々を目の前にして、見捨てるような生き様をする子ではないはずよ。

 

造魔でありながら、主に歯向かう姿を見せる2人。

 

この光景こそが、ペレネルが望んでいた造魔の可能性。

 

人の意思を大きく反映させたものに育ち得る可能性だ。

 

体を震わせていたペレネルだったが…震えが収まっていく。

 

「私は保身に走って…自分の願いを履き違えるところだったわ……」

 

――私が人間として生きて欲しい人物は……()()()()()()だった。

 

「この街には正義を愛する魔法少女たちもいるはずです。それに…」

 

――人間の守護者としての自分を貫く…人修羅と呼ばれる悪魔だっているんです。

 

――その人達に…私の果たせない戦いを託します。

 

民主主義の旗を纏う黒騎士がベランダから飛び降り、悪魔の身体能力を駆使して街を目指す。

 

ベランダに残っていたのは、ペレネルとリズ。

 

「あの子はこの街の平和を望んでいる。なら…災禍を巻き起こす諸悪の根源を断つ必要があるわ」

 

リズは腰元にある二本のダガーを抜く。

 

「タルトは誰も殺さなくていい。そういう()()()()なら…傭兵一族のホークウッドこそ相応しい」

 

「…行ってくれるかしら?」

 

「マスター、ご命令を」

 

眼鏡のブリッジを指で押し上げ、決意を秘めた表情をリズに向ける。

 

――リズ、命令を下すわ。

 

――暴動に与した東の魔法少女たち、それに与する魔法少女たちを……闇に葬りなさい。

 

その命令を聞けたリズの口元が、僅かに微笑んだ。

 

Con piacere.(喜んで)

 

影の中に入り込み、彼女も燃え上る神浜の街を目指す。

 

独り残されたペレネルは大きな溜息を出し、細目を開いていく。

 

「……そろそろ、姿を現しなさいよ」

 

ベランダの端に視線を向ける。

 

<<私の姿が…見えているのかね、ペレネル?>>

 

姿が見えないが、見知った人物の声。

 

「姿は見えなくても…貴方が好んで体に使っていた香水の匂いを感じてたわ」

 

ベランダの端の空間が歪んでいく。

 

そこに立っていたのは、石の賢者でありペレネルの元夫である老紳士…ニコラス・フラメル。

 

「魔石を用いた透明化といったところかしら?でも…勝手に私の家に上がり込むなんて…」

 

「住居不法侵入で警察を呼ぶかね?」

 

「いいえ…この街の惨状を見れば、神浜市警がこれる状況ではないことぐらい分かるわよ」

 

彼女の元まで歩み寄るニコラスだが…。

 

「私の潜伏先は魔石の未来予知で知ったの?」

 

「その通りだ」

 

「勝手に私の家に上がり込んで何の用事?まさかこんな時に…復縁を迫ろうというわけ?」

 

「そう考えていたのだが…私とて時と場合ぐらいは考える」

 

「なら、住居不法侵入までしてきた理由ぐらいは教えてくれるわけ?」

 

元夫に対して冷たい態度の元妻。

 

しかし、これでも酒に溺れていた頃の彼女に比べれば…遥かにマシな態度。

 

今の彼女は、かつてニコラスが愛していた頃の情熱溢れる錬金術師の姿を思わせた。

 

ニコラスは彼女から視線を外し、遠くで燃える神浜の街に視線を移す。

 

「…まさか、あの頃の光景がこの神浜で蘇ってしまうとはな」

 

「…貴方も、フランス革命の頃は母国に戻っていたのね」

 

「私たちが生まれるより遥か前、カペー朝により西フランクはフランス王国となった」

 

「王朝は移り変わり…そしてフランス革命時代を最後にして、君主時代は終わったわね」

 

「ローマ時代にガリアと呼ばれ、そこに定住したフランク人として…見届けたかった」

 

「フランク人である私も…同じ気持ちだったわ」

 

歴史の生き証人である元夫婦は語り合う。

 

フランス革命の時代に暗躍した…啓蒙を広めた社交クラブの者達について。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「フランスの王権が滅ぶ驚天動地の事件。恐怖した人々は説明を求めた」

 

「裕福で強大な権力を持つ絶対王政が、あっけなく滅びたのですもの…当然よ」

 

「フランス革命を牽引した活動家のなかに、フリーメイソンのメンバーがいたことは事実だ」

 

「革命運動は秘密裏に行われる。秘密結社ネットワークは中国革命でさえ使われたほどよ」

 

「活動家達は、メイソンに入会することで秘密結社ネットワークを自在に使うことが出来たのだ」

 

「18世紀ヨーロッパでは、フリーメイソンは名士の社交クラブになっていたわ」

 

「イギリスやドイツの上流階級は、自身がメイソンだったり周囲がメイソンは当たり前だった」

 

「でもそんな彼らにとって、フリーメイソンが革命の主体というのは容易に信じがたかったのよ」

 

「1797年、スコットランドの物理学者ジョン・ロビンソンが出した著作を知っているかね?」

 

「フリーメイソン、イルミナティ、リーディングソサエティ(啓蒙的な読書クラブ)の本ね」

 

「ヨーロッパの既成宗教をすべて根絶し、既存の政府を1つ残さず転覆させるという内容だ」

 

「フランスのイエズス会士、オーギュスタン・ドゥ・バリュエルはこうも言ったわ」

 

――フランス革命のジャコバン派こそ、イルミナティの後継者だと主張したの。

 

「フランス革命の間に見られた最も忌まわしい行為に至るまで、何もかも予知され、決められた」

 

「考え抜かれた非道の所産…そう彼は言葉を残したのを、私も覚えているよ」

 

「革命直後からイルミナティ陰謀説は世を席捲した。プロイセン王フリードリヒ2世を覚えてる?」

 

「イルミナティは依然としてドイツ全土で危険なまでに破壊的な勢力だ…そう言った人物だ」

 

「イルミナティ神話は、海を越えてアメリカにも伝わったわね」

 

「アメリカもフランス革命という荒唐無稽事件の説明が欲しかった。しかし当時のアメリカは…」

 

「独立直後の国は脆弱…あらゆる勢力がアメリカを転覆させると恐怖に怯えていた時代だったわ」

 

「陰謀論の不安に怯える人々は、欧州の得体の知れない秘密結社に恐怖を結び付けてしまった」

 

「それには根拠があるの。アメリカ建国もまた、フリーメイソンが大きく関わっているから…」

 

「アメリカ独立に大きな役割を果たしたメイソンクラブ。ボストン茶会事件を覚えているな?」

 

「独立運動組織5つのうちの1つが、フリーメイソンのセント・アンドルーズ・ロッジね」

 

「100ドル紙幣に描かれたベンジャミン・フランクリンもまたメイソンのグランドマスターだ」

 

「フリーメイソン憲章のアメリカにおける最初の版の発行者でもあったのよ」

 

「ワシントンが行った1789年の大統領就任式こそ、アメリカとメイソンとの関係が浮かぶ」

 

「フリーメイソンのセント・ジョンズ・ロッジ第一の聖書にかけて就任宣誓をした…」

 

「1794年の連邦議会議事堂定礎式では、メイソンの式服一式を身に纏って肖像画を描かせた」

 

「メイソン革命関与説は、その後の福音主義に反発したメイソン側が反発を受け否定説が流れた」

 

「フリーメイソンが革命や独立運動で主導的な役割を果たせたのは、秘密活動に向いていたから」

 

「身分に関わらず全ての会員が平等。秘密結社が地下拠点となった事で巨大ネットワークとなる」

 

「フランス国旗の自由・平等・博愛。これは思想会とも言えるメイソンが掲げた理念でもある…」

 

「特に平等を彼らは重視したが…()()()()()()であった」

 

「彼らが望むのは、古き体制を完全破壊した後の世界にもたらす…()()()()()()()()()よ」

 

「民衆側であるブルジョア達による…王権以外にも平等にもたらされるべき…支配の望み」

 

「古き体制を完全破壊する為の暴力思想と政党こそが……共産主義であり共産党なのよ」

 

「フランス革命によって王権は打倒され、後の時代に残されたのは資本主義と社会主義…」

 

「それは世界を破壊し、経済支配する為のブルジョア達の罠…」

 

「革命もまた資本主義だ。軍資金の出どころが必ず現れる」

 

「この神浜革命もまた……資本主義と社会主義の闇を感じさせるのよ…」

 

「準備が良すぎる…これだけの準備を東側の魔法少女だけで行えるはずがない」

 

――この暴動の諸悪の根源とは……東の魔法少女達ではないのかも…しれないわね。

 

「この街で自由を叫ぶ者たち……まるでアメリカの自由の女神の背中を追いかける民衆たちだ」

 

「フランスから送られた自由の女神の足元にある記念碑には…フリーメイソンの紋章があるの」

 

――フランスとアメリカの自由は、()()()()()()()()()()()()とアピールするかのようにね。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

大東区を超えて工匠区、そして栄区にまで走り続ける大東学院制服を着た小学生女子の姿。

 

「姉ちゃーッ!!何処なの……姉ちゃーーッッ!!!」

 

大声を張り上げているのは、みたまの妹である八雲みかげ。

 

「姉ちゃ…家に帰った後にまた何処かに行っちゃった…何処に行ったの…?」

 

姉の身を心配して親の静止も振り切り外に飛び出してしまったようだ。

 

燃え上る栄区の道を、彼女は走っていたのだが…。

 

「あ……あぁ……」

 

路上には、暴徒たちに襲われて亡くなった人の遺体。

 

救急車も乗り捨てられた車が壁となり、思うように進めず遺体を収容する作業すらままならない。

 

周辺は窓ガラスが散乱し、血痕も至る所に見られる。

 

「どうして…どうして神浜の街が…こんなことになっちゃうの……?」

 

彼女の脳裏に、みたまの願いの内容が浮かぶ。

 

「姉ちゃの願いが……この光景を生んじゃったの……?」

 

――姉ちゃは、みんなを助けてくれるヒーローだって事も知って貰いたい!

 

――調整屋として、魔法少女の手助けをしている。それは人々を救う道にもなると言いたいのね。

 

かつてタルト達に語った自分の言葉が頭に過る。

 

「違う……姉ちゃはこんな光景望んでない!姉ちゃは……ヒーローにならなきゃダメだよぉ!!」

 

涙を浮かべながら姉の魔力を探し続ける姿。

 

「姉ちゃは……ミィが守るんだ!その為にミィは……魔法少女になったんだよぉ!!」

 

だが、救うべき尊い命なら…みたま以外にも無数に存在している。

 

「あ……あれって……」

 

見れば業火に包まれた建物の消火作業が続く現場。

 

「火の回りが早すぎる!!」

 

「不味いぞ……屋根が崩れそうだ!!」

 

「まだ中には救出に向かった隊員と逃げ遅れた人がいるんだぞ!!」

 

消防隊員たちの大声が、みかげにも聞こえてしまった。

 

「ミィは……ミィは姉ちゃを守る為に、魔法少女になった…。他の人達に構ってる暇なんて…」

 

この場を見捨てて姉を探しに行こうとするのだが…。

 

「…違う!ミィは……姉ちゃの願いを止める為に…魔法少女になったんだ!」

 

みたまの願いと商売が神浜の惨状を引き起こし、大勢の人々の尊い命を奪う。

 

そんな光景を止める為にこそ、彼女は魔法少女になったのだと分かったようだ。

 

彼女は走りながら左手を掲げてソウルジェムを生み出す。

 

少しして、消防隊員たちが見た人物とは…。

 

「お、おい!!危ないぞ!!!」

 

川に飛び込んだのか、ずぶ濡れの魔法少女衣装を身に纏うみかげが消防隊員の隙間を超えていく。

 

「ごめん…!今だけはミィ…悪い子になる!!」

 

隊員の静止を飛び超え、業火と煙が噴きあがる建物の中に入ってしまう。

 

「ゴホッゴホッ!!川に入ってきたのに…熱すぎる!!それに…喉も痛いよぉ!!」

 

火災の熱を吸い込み、呼吸器官を焼かれながらも建物の奥を目指す姿。

 

業火で崩れた瓦礫に対し、両手に持つカタール短剣で切り裂きながら進んでいく。

 

炎に巻かれ、手足に火傷を負いながらも声を出して走っていた時…。

 

「あの部屋かも!」

 

扉が開いた部屋に入れば、ここでもフラッシュオーバーが起こったのか倒れ込んだ消防士の姿。

 

見れば消防士は誰かを抱え込むようにして倒れていた。

 

「大丈夫!?しっかりしてよぉ!!」

 

「おじさんが……おじさんがわたしを……守って……」

 

消防隊員はみかげと同じぐらいの少女を抱え込み、自らフラッシュオーバーの盾になったようだ。

 

「お……おじさん……?」

 

隊員は全身火傷で既にこと切れていた。

 

「……助けられなくて、ごめん…。でも、おじさんが守ったこの子だけでも…!」

 

みかげは子供を引き上げ、どうにか元の道から帰ろうとするのだが…。

 

「なに…!?」

 

天井が大きな音を立てていく。

 

次の瞬間…天井が一気に崩落。

 

「姉ちゃ……」

 

天井が崩れ落ちる音が建物の周囲に響き渡っていく。

 

みかげは少女の盾になるようにして庇う姿のまま、押し潰されてしまったのか?

 

「……………えっ?」

 

見れば周囲の空間には隙間があり、彼女たちは隙間の中で無事な姿。

 

そして、彼女の目の前には…。

 

「…………間に合いましたね」

 

「タルト……姉ちゃ……!?」

 

自らの体をつっかえ棒としていたのは、天井を抑え込む姿の黒騎士少女。

 

「みかげ……魔法少女であっても、無茶はダメですよ」

 

「その姿は……?」

 

人間のフリをしてみかげに接してきたが、今の彼女は本来の悪魔の姿。

 

悪魔の目である真紅の瞳でみかげを見つめてきた。

 

「ごめんなさい……人間のフリをして、貴女を騙してしまって」

 

「タルト姉ちゃ……その顔の傷……」

 

彼女の美しい顔は火傷塗れ。

 

ここまで来る道中でも、燃え上る建物の中で救出活動を行ってきたようだった。

 

背中に纏っていた民衆革命の象徴の旗でさえ、民衆革命がもたらした炎で焼かれている。

 

ジャンヌ・ダルク。

 

その者は、民衆の平和の為に戦いながらも…()()()()()()()()()()()()()を背負った魔法少女。

 

彼女もまた、造魔でありながらも本物のタルトと同じように…その身を炎で焼かれていた。

 

「私は……悪魔です。だからこれしきの傷では……死にません」

 

「悪魔……?」

 

「さぁ、みかげ。私が瓦礫を押しのけますから……思い切り跳躍して脱出しなさい!!」

 

彼女が力を込め、自分が背負い込む瓦礫の山を一気に持ち上げていく。

 

彼女の悪魔の力は、因果の力を背負いしかつてのタルトと比べても遜色がない程の力だ。

 

「タルト姉ちゃ……ミィは怖くないよ!助けてくれて……ありがとう!!」

 

彼女が持ち上げた瓦礫の山から外に飛び出せる隙間が見え、みかげは少女を抱えて跳躍。

 

「くっ……うぅあぁぁーーーッッ!!!」

 

タルトも魔力の剛力を全身で発揮し、タイミングを見計らい瓦礫から手を離して跳躍した。

 

「ハァ!ハァ!ハァ!」

 

消防隊員たちから見えない場所に着地したみかげは、新鮮な空気を思い切り吸い込む。

 

助けた少女は安心したのか、気を失っていた。

 

「どうやら……他の人には見られなかったようです」

 

近づいてきたタルトにみかげは駆け寄る。

 

「タルト姉ちゃ……酷い火傷だよぉ…。ミィが回復魔法をかけて…」

 

言い切る前に、タルトが彼女に向けて焼け爛れた手を翳す。

 

「えっ……!?」

 

みかげの負った火傷が回復の光によって癒えていく。

 

悪魔の回復魔法である『ディアラマ』の光によって、傷は全快したのだが…。

 

「積もる話は後です。行きなさい、みかげ」

 

「で、でも……」

 

「貴女には守りたい人がいる。…違いますか?」

 

「う……うん……」

 

「私なら大丈夫。さぁ……行ってください」

 

「タルト姉ちゃ……本当にありがとう!ミィ……タルト姉ちゃが悪魔でも…大好き!!」

 

笑顔で手を振りながら去っていく後ろ姿に、死んだ妹のカトリーヌの姿が重なって見える。

 

「救えて…本当に良かったです。かつてのタルトは…妹を救う事が出来ませんでした…」

 

妹の命が失われていたら、姉であるみたまがどれだけ悲しむのかは同じ姉であるタルトは分かる。

 

彼女もまた走りだし、傷も癒さないまま駆けていく。

 

体が傷塗れであろうが、回復魔法の魔力は死にかけた人々の為に使う。

 

それが…本物のジャンヌ・ダルクの生き方なのだろうと思う自分の心を信じて。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

西側の敵陣深くにまで進軍した革命魔法少女たちの補給支援を続ける遊狩ミユリ。

 

彼女が抱えた補給品は全て配り終え、補給基地とも言える駐車場で追加物資を積みに向かう。

 

「アレクサンドラさんは采配が上手い人で安心ですぅ。ミユは本番に弱いタイプだし…」

 

ビルとビルを跳躍移動し、西側から工匠区に進んでいく。

 

「燦様が傍にいないと敵味方関係なく暴れちゃう凶器のミユは…前線には不向きだし…」

 

ローラーブレードで走りながら、これから訪れる魔法少女至上主義社会を思う。

 

「これが終わったら…燦様はまた火祭りで美しい舞いや太鼓打ちをミユに見せてくれる…」

 

火祭りらしい薄着の祭り姿をした神楽燦を想像し、興奮してくる表情。

 

「あぁ……燦様のお美しい下半身を晒し出す火祭り姿をもう一度見られるなら…」

 

彼女が飛び越えていくビルの下では、大勢の尊い命が消えていく。

 

――この程度の犠牲なんて……()()()()()ですぅ。

 

全ては魔法少女の欲望を優先するが如き下卑た言葉。

 

彼女たちが虐げられる人間たちの味方をしてくれているなど、誰が信じられるだろう?

 

啓蒙に照らされた魔法少女たちの行動は…誰が見ても左翼的破壊行為。

 

それはまさに、共産主義的暴力転覆によって…古い体制全てを破壊し尽くす悪魔の所業。

 

ビルの間を超えていく彼女を、隣ビルの屋上の角から見つめていたのはリズ・ホークウッド。

 

「東に向かうあの魔法少女…おそらく彼女は東の兵站を任されている存在ね。案内して貰うわよ」

 

影の中に入り込み、ミユリを背後から追跡。

 

工匠区の補給基地前で彼女は地上に降り、道路を走って大きな駐車場に入るのだが…。

 

「えっ…?」

 

そこには、多くの補給品を満載した複数のトラックが停車していた筈なのに何処にも見えない。

 

あまりの衝撃にミユリは両手に持つカバンを落としてしまう。

 

「どうして…?き、きっと別の場所に移動しただけですよね…?」

 

渡されたハンディ無線機を手に持ち、コマンドポストに連絡を行う。

 

「なんで誰も返事を返してくれないの!!?」

 

司令部は音信不通、そして目の前は置いてけぼりともいえる光景。

 

彼女の心が一気にざわめき、不安と恐怖心に塗り潰されていく。

 

「なんで…どうして……怖い……助けて燦様ぁ!!」

 

緊張が頂点に達し、彼女の意識が飛んでしまう。

 

目が血走り、狂人の如き表情と化したミユリがローラーブレードを操り街に向かう。

 

邪魔な魔法少女も人間も見境なく殺し、恐怖を取り除いてくれる神楽燦を探す為に。

 

彼女が駐車場から出て街灯の中に入り、次の街灯の明かりに入る手前の影に向かった時…。

 

「ガッ!!?」

 

彼女は突然何かに突き上げられるかのようにして、宙に浮かんでいる。

 

「アッ……ガハッ……!!」

 

吐血し、血走った目で大出血した腹部を突き上げる何かを見る。

 

それは、彼女の腹部を大きく貫通した影のパイク槍。

 

急には止まれないローラーブレード移動を利用した奇襲攻撃だ。

 

「狂人共め。貴女たちに…明日を生きる資格は無いわ」

 

「グガッ!?」

 

瀕死の重傷にも関わらず意識が戻らない狂人魔法少女は、声が聞こえる方を振り向く。

 

そこに立っていたのは…。

 

「死になさい」

 

リズが両手に持って振り上げる武器は、影で編まれたポールアックス。

 

無慈悲な斬首斧が彼女の首に振り下ろされる。

 

遊狩ミユリの首は、フランス革命の頃にギロチンにかけられたアントワネットの如く跳ね落ちる。

 

「かぐ…ら……さ……」

 

噴水の如く首から血が噴き出し、ミユリの体は転がった生首諸共円環のコトワリに導かれた。

 

「……………」

 

返り血を顔に浴びたリズは、彼女の中に溶けた魔法少女の記憶を思い出す。

 

「かつてのリズも…カトリーヌを救えなかった時…彼女を殺した賊共を全員殺したのよ」

 

かつてのリズも人殺し、そして今のリズもまた人殺しの道を行く。

 

「後悔など無いわ。私は造魔であると同時に…血塗られた傭兵一族の名を継ぐ者よ」

 

踵を返し、補給基地跡である駐車場に向かう。

 

ミユリが落とした鞄を開けて中を探してみる。

 

「これは…補給地点を記した地図ね?ありがたいわ」

 

物色した地図を仕舞い、彼女は跳躍移動を開始。

 

「私はリズ・ホークウッド」

 

――現代を生きる…()()()()()()()()よ。

 

ルミエール・ソサエティの補給地点に潜伏し、次々と革命魔法少女を殺害していく。

 

あらゆる武器を影で生み出し、また影の中に入り込み影の中から魔法少女を殺していく。

 

その鬼神の如き光景はまさに…百年戦争を生きたリズ・ホークウッドの現身そのものであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神浜の栄区を守ろうとする八雲みたまと御園かりん。

 

そして仲魔であるジャックフロストとジャックランタンであったが…。

 

「ヒホ…火事の熱が熱すぎて……オイラ力が出ないホ~……」

 

グルグル目をしたフロストの氷結魔法が途絶えた隙を見逃さない東の魔法少女の猛攻撃。

 

「キャァァーーーーーッッ!!」

 

みたまは魔法攻撃に弾かれ、壁に激突してフロストと共に倒れ込んだ。

 

「みたまさん!!!」

 

「不味いホ!!」

 

救援に駆け付けたいのだが、かりんとランタンも猛攻撃を浴びて動けない状況。

 

「何なの……こいつらが連れている、この生き物って?」

 

「魔獣では……なさそうよね?」

 

「そんなこと…どうでもいいわ!それよりも、調整屋として中立を気取ってきた貴女もお終いね」

 

東の魔法少女に囲まれ、今まさにトドメをさされようとしている。

 

「ビジネスを行う者としての責任を知らなかった…。だから私…貴女達に手を貸してしまったわ」

 

「貴女の調整のお陰様で、私たちも属性魔法が使えるようになったのよ」

 

「この力のお陰で、今日この日を迎えられる準備が出来た」

 

「よくよく考えたら、調整屋さんも暴力革命の共犯よね?」

 

「ええ……共犯よ。だから私は……自分の罪からは逃げないわ……」

 

東の魔法少女たちが魔法武器を構える。

 

「ヒホ……に、逃げるホ……みたま!!」

 

倒れ込んだフロストがみたまに手を伸ばすのだが…。

 

「死になさい!!東の裏切り者めぇ!!!」

 

目を瞑り、死に際に浮かぶのは愛する親友と家族の姿。

 

(大切な親友のももこと十七夜…そして愛しい妹のミィの声…もう一度聞きたかった……)

 

その声は、もう一度聞くことが出来る。

 

<<姉ちゃに手を出すなぁーーーッッ!!!>>

 

目を見開き、前を見る。

 

「ガハッ!!?」

 

鈍化した世界。

 

宙を飛びながら東の魔法少女に飛び蹴りをお見舞いしていたのは、八雲みかげ。

 

横にいた魔法少女ごと蹴り飛ばされ、奇襲を仕掛けてきた魔法少女を睨む。

 

「ミィ!?どうして!」

 

「ごめん…姉ちゃが心配だったから…家から飛び出してきたの!」

 

「ダメじゃない!外は暴動の真っただ中なのに!!」

 

「だから…姉ちゃをほったらかしになんて出来なかったの!」

 

「ミィ……」

 

「悪い子だって言われても構わない…姉ちゃを見捨てるぐらいなら、ミィは悪い子になる!」

 

独特な形状をしたカタールを構え、敵を迎え撃つ姿勢。

 

「あんた…八雲の妹ね!?やっぱり八雲一家は……東の面汚しよぉ!!!」

 

「東の面汚しは……貴女たちの方なんだからぁ!!」

 

地面を砕く程の踏み込みで跳躍接近。

 

「なっ!?」

 

懐に入り込まれた東の魔法少女は、遠距離魔法攻撃として使う角笛や本で迎え撃つしかない。

 

1人が角笛を鈍器にして殴打を仕掛ける。

 

みかげは左手で鈍器を持つ右手を捌き、右手で相手の首を絡めて態勢を崩す。

 

「ガハッ!!」

 

みかげの膝蹴りが腹部に打ち込まれ、倒れ込む。

 

「舐めるなよ小学生!!」

 

右手の本を振りかぶり、殴りつける構え。

 

右手で相手の右手を受けると同時に回転させて払い、鍔で右側頭部を殴りつける。

 

「小学生なんかが…どうしてこんな戦闘技術を!?」

 

振り上げる角笛を左手で払落し、右肘を相手の顔面に打ち込む。

 

「ガァ!?」

 

前歯が砕け、怯んだ相手の伸びきった右腕の脇に左腕を絡める。

 

武器の鍔で相手の顔面を叩き、崩れた態勢を利用して右腕の逆関節を決める動き。

 

「ぐあぁぁーーッ!!」

 

そのまま背中から地面に倒し込む状態からの右肘落としが顔面に決まった。

 

「す…凄い……ミィは一体何処でこんな武術を習ってたの……?」

 

立っていたのは、八雲みかげのみ。

 

彼女の足元には、痛みでうめき声をあげる東の魔法少女たち。

 

誰も殺さず制圧することが出来たようだ。

 

「姉ちゃ!ミィの活躍……見ててくれた!?」

 

姉に駆け寄り、彼女に手を差し伸べて掴み起こす。

 

「ええ……凄かったわ。こんな技術を誰に教えて貰ってたの?」

 

「えへへ♪実はね……姉ちゃが前に会った事がある外国人観光客の人たちから習ってたの」

 

「えっ!?あ……あの人達とまだ付き合っていたの!?」

 

「うん…。姉ちゃはあの人達を怖がってたけど…もしかして姉ちゃは、あの人達を知ってるの?」

 

「そ、それは……」

 

「もしかして……そこに転がっている変なお人形さんと同じ存在?」

 

みかげが視線を向けるのは、何も出来ずに地面でへばっているままのジャックフロスト。

 

「ヒホ……オイラ人形じゃないホ。悪魔だホー」

 

「やっぱり…この子もタルト姉ちゃと同じ悪魔…。姉ちゃは……悪魔のこと知ってるんだね?」

 

みかげが悪魔の事を知っているのだと判断し、みたまは彼女の両肩を掴む。

 

「…詳しい話は、東の魔法少女たちの暴走を止めてからよ」

 

「姉ちゃ…止めてもムダだからね!ミィは姉ちゃを守る為に…強くなったんだから!」

 

「ミィ……あまり面倒を見て上げれていないのに…こんなにも逞しく成長しているなんてね」

 

「姉ちゃ!今度はミィが姉ちゃを守るからね!!」

 

フロストとみたまが倒れ、彼女たちの代わりを務める為にかりんと合流するみかげ。

 

迎え撃とうとする東の魔法少女たちの心には、未だに革命を望む気持ちが燃え上る。

 

自由・平等・博愛。

 

東に与えられなかったフランス国旗の精神。

 

自由とは、戦ってでも手に入れる価値があるものだと…彼女たちは信じて疑わなかった。

 




読んで頂き、有難うございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。