人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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115話 罪と罰

呪われた神浜差別の歴史が始まった地区こそ水名区である。

 

ここには神浜市役所本庁舎があり、現在は道路を封鎖するかのように特型警備車が配置される。

 

周囲の建物を利用し、装甲車を並べた即席のバリケードといったところだろう。

 

ヘルメットや盾を装備した機動隊と共に並ぶのは警察の緊急時初動対応部隊。

 

特殊部隊の応援を要する程の事案に対し、SAT到着までの初動対処と支援を行う。

 

タクティカルベストやゴーグル、サングラス等を装備した警官が持つのは火器である特殊銃だ。

 

「生活に密着した問題に対処する地方自治に党派性は不要だ!!」

 

暴徒達の群れが押し寄せる中、警官達にも緊張が走る。

 

「地方自治は中央政党共が相乗り関与して!推薦現職候補を当選させるべきじゃない!!」

 

「中央政党の推薦首長候補がもたらすのは!豊かな西と中央を優先する事務事業だけだった!」

 

「国会は選挙制度の抜本的見直しを行わない!東の票の格差を是正しない!」

 

「俺達は地方独立する!腐った中央政党から独立し!東側が首長となり議会となる!!」

 

「西側と中央に重税をかけてやる!そして東側の公共福祉への財源とするんだ!!」

 

「そして神浜市ヘイト条例だ!!西側が二度と東側に逆らえないよう言論を弾圧する!!」

 

暴徒達が投石行為を始めていく中、警官達も動き出す。

 

<<各部隊密集!!>>

 

指揮官の拡声器の声に反応した大盾を持つ警官達が密集陣形を作る。

 

大盾に阻まれる投石だったが、暴徒達の中から現れたのは銃で武装した民衆達。

 

1人が対戦車ロケット弾を構えながら発射しようとしているが、屋上に動きが見える。

 

「死に晒せぇ!!公権力の犬どごぉ…!?」

 

隣ビル屋上に配置されているスナイパー警官の射撃によって頭部を狙撃された者が倒れ込む。

 

暴徒が怯んだ隙を見逃さず、大盾部隊の後ろから現れた警官達はMP5サブマシンガンを構える。

 

この暴動は警視庁から大規模武装テロと判断され、警察隊も銃の使用が許可されているようだ。

 

<<撃ちかた始めぇ!!>>

 

大規模な銃撃戦となり、パニックになりながら逃げ惑う暴徒達。

 

中には死に物狂いで銃を撃ち返す暴徒や火炎瓶を投げる暴徒達もいる。

 

神浜市庁舎前の道路は戦場の如き混沌と化す。

 

32階建ての市庁舎ビルの屋上からその地獄を眺めているのは3人の魔法少女達のようだ。

 

「ウソでしょ…こんな光景がレナ達が暮らしている日本なの…?」

 

「まるで…戦争映画だよぉ…」

 

震え上がるレナとかえでの真ん中には両膝が崩れた十七夜がいる。

 

「あ…あぁ…そんな……」

 

警官隊に撃ち殺されていく東の暴徒達、暴徒達から撃たれた銃弾で倒れる警官達。

 

火炎瓶を浴びて火達磨になりながら転げ回る警官達の戦場を十七夜は震えながら見つめている。

 

「これが…こんなおぞましい地獄が…自分が望んでしまった光景なのか…?」

 

彼女の脳裏に過るのは、かつて同じ感情を共有出来た八雲みたまに語った言葉であった。

 

 

神浜の人々は個々人を見ず、個々人を取り巻く環境によって判断している。

 

これが和泉十七夜が愛する街、大東に対する悪意の元凶。

 

長い年月をかけ、神浜の人々の意識に根差してきたこの姿の見えない敵。

 

ある人には無意識に人を傷つけさせ、ある人には罪がなくても涙を呑ませる。

 

神浜では人が傷つけ合う関係がずっと続いていたのであった。

 

「はい、調整は終わりよ」

 

ここは神浜のミレナ座であり、十七夜は物思いに耽っている。

 

「…考え事をしていたのね?」

 

「…うむ」

 

彼女は重い口を開き、何があったのかを語ってくれる。

 

「そう…月咲ちゃんがそんなことを…」

 

「自分が敷いたルールを無視し、人間社会に危害を加える東の魔法少女達も…気持ちは同じだ」

 

「…東の境遇からの解放。それを行わなかった西側市政に対する…怒りの感情ね」

 

「東の魔法少女社会に蔓延り出した魔法少女至上主義…それは人の道に反する思想だ」

 

「たとえ、その思想がもたらす手段が道に外れた行為だとしても…」

 

「不当な扱いを受けてきた彼女達だからこそ、あまりにも眩しい光の思想となった…」

 

「その境遇から救済されたいという思いは、なおのこと強い…だから思想に同調してしまう…」

 

「…そう、なのか…」

 

俯いて沈黙していたが、顔を上げて真剣な眼差しを向けてくる。

 

「…自分は、自分が生まれ育った大東という街が好きだ」

 

「十七夜……」

 

「それに…神浜全体が平和に、平等に生きていけるようになって欲しい…そう思ってる」

 

「……………」

 

「そして、その為にはどうすればよいのか。答えは、もう自分の中にある」

 

――だから、この神浜の歴史を消してくれ。

 

十七夜は最初にそう願った魔法少女である。

 

「町に蔓延る歴史…そして、その歴史の上に定着した現状の神浜の破壊…」

 

「…そうだ。歴史を破壊する為には、神浜そのものを一度、徹底的に破壊しなければならない」

 

何もかも人々が失ってしまえば、その出生や財産に関わらず公平で平等な関係に戻れる。

 

和泉十七夜は自分の暴力革命思想を八雲みたまに語る事となってしまう。

 

「手を取り合い、協力せざるを得なくなれば…歴史や地域への悪い印象など希薄になるだろう」

 

無言のまま調整屋から出てきた十七夜は道を歩きながらこう思う。

 

「だが、実際には…自分に神浜を破壊する力がない以上…自分が出来る最善をやるしかない」

 

魔法少女としての使命である魔獣討伐、そして東の長としての責任を果たす。

 

「今出来る最善を超える…それが出来れば、自分は本懐を遂げる事が出来る」

 

――その時が来たとしたら…愛するこの街の為に…()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

彼女は最善を尽くしてきた。

 

魔獣討伐、東の魔法少女達のサポート、そして東の魔法少女社会の治世。

 

その果てにこの地獄があるのなら、彼女は今こそ本懐を遂げる行動が出来るはず。

 

なのに今の彼女の膝は崩れたままなのだ。

 

「人間社会の為にこそ魔法少女は在れと、東の魔法少女達に言い続けてきた…」

 

「十七夜さん…?」

 

「魔法少女として、東の長として最善を尽くした果てにこそ、本懐が遂げられると信じた…」

 

「本懐って…みかづき荘で言ってた、アレなわけ…?」

 

「神浜の徹底的な破壊…それを行う事が出来たら、東西の人々は全てを失い平等になれる…」

 

「あ、あんた…そんな狂人みたいな理屈を信じてきたわけ!?」

 

「…そうだ。自分の考えは…この下で争っている東の暴徒達と変わらなかった…」

 

「思うだけなら誰でも考えるよぉ!私も…邪魔なマンションなんて消えちゃえって願ったし…」

 

「秋野君は…その願いを叶えて魔法少女になったのだな?本懐を遂げられたというわけか…」

 

「で…でもね、一度冷静になって考えてみたら…建設に関わった大勢に迷惑をかけたんだよ…」

 

「そうだろうな…魔法少女の理不尽な願いによって、周囲を巻き込んで犠牲にしてしまう…」

 

「…レナもね、勝手に魔法少女になって夜中家から飛び出す毎日で…家族に迷惑かけてるわよ」

 

「どうして自分達魔法少女には…先の弊害を考える想像力が無かったのだろうな…」

 

十七夜の耳に刻まれるのは、この暴動によって犠牲となっていく人々の叫び声。

 

十七夜の目に刻まれるのは、この暴動によって尊い命の輝きが消えていく地獄。

 

「何が人々の為に在れだ…自分はそんなの望んではいない!!ただの破壊思想家だぁ!!」

 

地面に蹲りながら彼女はまた泣き出してしまう。

 

「自分がやろうとしていたことは!!大勢の人々の生活を台無しにする事だったぁ!!」

 

「十七夜さん!!自分を責め過ぎちゃダメだよぉ!!」

 

「西の人々にだって生活はあった!それを理不尽に奪う事で本懐を遂げようとした!!」

 

「あ…あんたが直接手を下したわけじゃないでしょ!?いい加減にしなさいよ!!」

 

「自分は勘違いしていた…虐げられ、犠牲になっていく人々の姿に…」

 

――西も東も差異なんて…なかったのだぁ!!

 

泣き崩れた彼女の左手のソウルジェムが穢れの光を発していく。

 

「あぁ…!!十七夜さんダメだよ…絶望して円環のコトワリに導かれるよぉ!!」

 

「ちょっとあんた!こんなままで絶望死しようだなんて…レナが許さないわよ!!」

 

レナがスカートのポケットから出したのは彼女が温存していたグリーフキューブである。

 

「やめてくれ!!自分なんて救われる価値などない破壊者だぁ!正義を名乗る資格はない!!」

 

自殺するかのような自暴自棄な態度を見せる十七夜に対してレナが吠えてくれる。

 

「正義の魔法少女でいたいんでしょ!?だったら自分が望んだ光景を止める必要があるのよ!」

 

かえでが十七夜を抑え込み、嫌がる彼女の左手を掴んだレナがグリーフキューブを使う。

 

彼女の絶望の穢れは取り除かれ、一命を取り止めたようだ。

 

「何でそんなに優しい…神浜の平和を望みながらも完全破壊を望む…矛盾した自分に対して!」

 

「…レナとかえではね、やちよさんと触れ合えていた頃に、あんたの話を聞かされてたの」

 

「自分の話を…七海から?」

 

「喧嘩別れになったけど…十七夜さんは尊敬出来る魔法少女だって、私も聞かされたよ…」

 

平和と平等を愛し、皆を思える優しい子だと七海やちよは西の魔法少女達に伝えてくれている。

 

それを聞かされた十七夜の目から大粒の涙が溢れ出す。

 

「七海…七海…うあぁぁぁーーーー……ッッ!!!」

 

子供の様に泣きじゃくる今の彼女には東の長としてのカリスマなど無い。

 

何処にでもいる、自分の選択の矛盾に苦しんできた魔法少女達と同じ姿であろう。

 

レナとかえでは彼女を抱きしめながら涙を胸で受け止めてくれるのだ。

 

<<()()()()()()()()()()()()なんだよ>>

 

声がした方に振り向けば契約の天使であるインキュベーターが佇んでいる。

 

「君と同じく平等主義を掲げて行った暴力革命こそ…歴史でいうフランス革命なのさ」

 

「あんた…何しにきたわけ!?」

 

「今の十七夜はグリーフキューブの消費量が多いからね。回収のために傍にいたんだよ」

 

「フランス革命って…?」

 

「レナだって…あまり聞いた事がない歴史よ…」

 

「そのフランス革命で…自分と同じく平等主義を掲げた人々は…何を行ったのだ…?」

 

十七夜の質問に対し、現地の歴史を見届けた別個体であるキューブの記憶を転送してもらう。

 

「フランス革命とは階級闘争。社会的格差を克服する為に行う闘争こそが暴力革命だ」

 

「暴力…革命……」

 

「この街の西側と同じく、当時のフランスは王権と貴族が民衆を重税で苦しめて殺してきた」

 

「それで民衆達が怒って…今の神浜みたいな暴動を起こしたっていうの?」

 

「率いたのはブルジョア達だ。これによって市民革命は成功して民衆政権が誕生したけど…」

 

「な…何が起こったの…?」

 

「革命を主導した民衆政治クラブのジャコバン・クラブは分裂を起こし、粛清が始まった」

 

「そんな…民衆達が悪い王様や貴族を倒したのに、どうして仲違いなんてするの…?」

 

「思想の違いによる争いさ。その中でもさらに内部分裂し、共和制急進派の恐怖政治となった」

 

「人間って…どうしてこんなにも考え方が纏まらないのよ…」

 

「恐怖政治を行うロベスピエールだが、クーデターで失脚してからはジャコバン派諸共滅んだ」

 

「共和制を望んで王を処刑したのに…王に成り代わるかのような恐怖政治を行ったなんて…」

 

「ロベスピエールは政治的平等をはじめとして権利の平等に価値を置いていた人物だった」

 

「十七夜さんみたいな人だったの…?」

 

「共和政体と自由・平等・博愛を軸とする革命の三理念に調和した憲法制定を構想した人だよ」

 

「自由…平等…まさに自分が望んでいた社会体制だ。自分と同じ思想を持つ人がいたのだな…」

 

「財産の極端な不均衡が多くの災禍と犯罪の源だと叫び、貧困による社会悪の是正を求めた」

 

「そうだ…それこそが、自分が求めていた…神浜という街の平等による平和だ!」

 

「ジャコバン派政権により社会的平等は優越的地位を占める権利となる人権宣言発布となった」

 

「おかしいとは思えないよ…どうしてそんな思想を持ってた人が…恐怖政治なんてしたの?」

 

「ジャコバン派は山岳派という急進派以外にも多数の派閥がいてね、内部政争が始まったんだ」

 

「同じ革命を行った仲間なのに…どうして潰し合いなんてしたの?」

 

「基盤がぜい弱だからさ。革命政府が革命遂行のために中央集権を行った事で独裁が始まった」

 

「独裁によって…何が起こったのよ?」

 

「反革命派の粛清に使われた。この時期、政治家だけでなく民間人までも粛清していくんだ」

 

「馬鹿な…民衆の平等を望んだロベスピエールが…どうしてそんな真似を!?」

 

「革命政府はいつ転覆してもおかしくない。強固な基盤を築く必要があったのさ」

 

「そんな…ことって……」

 

「恐怖政治も内部で意見が分かれて分裂したが、ロベスピエール派は恐怖政治を繰り返した」

 

「だからクーデターが起きたんだね…」

 

「テルミドールのクーデターで政権は右派となり、ジャコバン派という左派は全て粛清された」

 

「ロベスピエールは…なぜ間違っていったのだろうな……」

 

「彼の理想は、()()()()()()()()()()()からさ」

 

「独りよがり……」

 

「反対する者は全員粛清する。全ては平等社会を築くために…()()()()()()()()()()()()()

 

「そ、それは……」

 

「民衆の自由と平等を求めた男が辿り着いた自由と平等の景色とはね…」

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のさ。

 

それを聞いた十七夜の脳裏に魔法少女達から決別された日の記憶が蘇っていく。

 

全てにおいて合点がいったのか、乾いた笑い声が響いていく。

 

「そうか…そうだったのだな…()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか…」

 

「十七夜さん…」

 

「ロベスピエールは自殺を図るが拘束され、ギロチン台に送られた。君はどうするんだい?」

 

震えた体を持ち上げながら十七夜は左手を構えながら魔法少女に変身する。

 

「自分は東の魔法少女社会に恐怖政治を敷いた独裁者だ…罪人として…罰を受けねばならない」

 

「ちょ、ちょっと!?何を言い出すのよ…あんた!!」

 

「自分がもたらした罪からは逃げない。この惨劇は間違いなく自分の恐怖政治のせいだ」

 

「そんな事ないよぉ~!!考え過ぎだよ…十七夜さん!!」

 

「自分はこの神浜の暴動を止める…そして然る後に…西と中央の長達から罰を受けよう…」

 

「どうして…どうしてそんなにまで…背負いたがるのよ…」

 

「これが自分の性分だ。ありがとう、水波君…秋野君…こんな自分に優しくしてくれて…」

 

啓蒙魔法少女達を止めるために動き出す十七夜に対し、キュウべぇは後の歴史を伝えてくれる。

 

「…ロベスピエールは自分の理想と共に死んだけど、彼の思想は継がれていくんだよ」

 

「誰が…彼の独りよがりの理想を継いだというのだ?」

 

「彼の思想は19世紀の革命を通して受け継がれ…共産主義思想やロシア革命に受け継がれる」

 

「共産主義…ソ連や中国のことか?」

 

「十七夜、君が前々から口にしていた自由・平等・博愛、そして君が行ってきた治世はね…」

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。

 

「…自分は共産主義者だったか。なら、ソ連と同じく自分も滅びよう」

 

市庁舎ビルから跳躍し、東の魔法少女達の魔力を追いかけていく。

 

「ま、待ってよぉ!今にも消えちゃいそうな十七夜さんをほっとくなんて…出来ないから!」

 

かえでとレナも魔法少女に変身し、十七夜の後を追いかける。

 

「あんたが余計なことを言ったせいで!十七夜さんが追い詰められたのよ!!」

 

怒りの感情をぶつけるかのように十七夜の穢れを吸ったグリーフキューブを投げつける。

 

彼女達も十七夜の背中を追いかけながらビルを跳躍したようだ。

 

残されたのは地面に転がったグリーフキューブとインキュベーターのみである。

 

グリーフキューブを回収した後、変わらない表情のまま口を開きだす。

 

「…この街に悪魔の魔力を多く感じてしまう。そして…ルシフェル様の存在も感じる…」

 

ビルの端に上り、下の戦場を観察しながらこう語り出す。

 

「啓蒙の光に照らされた東の魔法少女と暴徒…そしてルシフェル様はラテン語でこう呼ばれる」

 

――()()()()()()()()()()()()()()()

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

燃え上る中央区の高層ビル群の中に存在しているのは神浜市セントラルタワーである。

 

屋上のヘリポートには着陸した大型双発輸送ヘリコプターが着陸しているようだ。

 

ヘリのパイロットとして乗り込んでいるのはダークサマナーのフィネガンとユダである。

 

屋上の端には燃え上る神浜を見つめる2人がいるのだ。

 

「アハハハ!凄い…デスが溢れてる!こんな光景…テレビやネットでしか見た事なかった!!」

 

興奮しているのはアリナ・グレイであり、隣に立つシド・デイビスがこう告げる。

 

「この革命は偽旗作戦でス。本当の目的は別にありまス」

 

「ねぇ…アリナ達は本当に手伝わなくていいワケ?」

 

「手を出すなと言われていまス。我々の神ハ、愛する我が子の成長を自ら促したいのでス」

 

「なら、アリナ達はここで高見の見物をしていればいいワケ?」

 

「そうしましょウ。それにイルミナティは本来、中立の立場を貴ぶのでス」

 

「中立…?」

 

「1773年のロスチャイルドらの秘密会議によって計画された25条の行動計画に沿いまス」

 

「…ロスチャイルド」

 

その名を聞かされたアリナの顔が酷く歪んでいく。

 

まるで思い出したくもない人物を表す名を聞かされた反応に見えるやもしれない。

 

「対立する両陣営に武器を渡シ、戦わせて疲弊させ自滅に追い込ム。我々は利益だけ享受すル」

 

「…()()()調()()()()()()なんですケド。アリナはあいつの商売の行きつく先は分かってたカラ」

 

「この革命とて同じでス。なぜ東の市民がこのような悪魔共と化したカ、分かりますカ?」

 

「アリナが東の連中の気持ちなんて分かるわけないんですケド」

 

「人間を悪魔に変えるには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけでス」

 

下の光景を見ると自由・平等を叫びながら暴れ狂う暴徒達の姿がアリナには見えるはず。

 

「大衆は自由の意味を理解しなイ。自由思想を利用すれバ…階級闘争に仕向けられるのでス」

 

「それが世界のブルジョアを代表する…ユダヤ共が考え出した手口ってワケ?」

 

「暴徒の力は無目的デ、無意味デ、論拠を持たない為二…いかなる側の提案にも影響されル」

 

「フン、アリナが生きてきた民衆社会も自分に都合のいいものしか求めない連中ばかりだった」

 

「経済界が意図的に格差を創出すれば貴族社会に与えられた以上に確実な資本支配力が生じル」

 

「社会主義革命もまた資本主義なワケ?だから暴徒達は革命のために資本家に頼る…」

 

「それによリ、()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()のでス」

 

「この革命の本当の目的は何なワケ?」

 

「NWOに必要な人口削減計画もありますガ…我々の神が望むのハ…」

 

――エンキ神となった人修羅ヲ、()()()()()()()()()()()()()()ことでス。

 

「裁く者…サタン…」

 

アリナの脳裏に浮かぶのは夢の中で見た燃え上る蛇の姿である。

 

笑みを浮かべるシドは左手を持ち上げ、額に刻んだ赤い星である五芒星刺青をなぞっていく。

 

「この日をどれだけ夢見たことカ…私達ダークサマナーが…そしてイルミナティが崇拝すル…」

 

――真の至高神の御使いである蛇ガ…神であるメシアが降臨なされるのでス。

 

「真の至高神の御使いである…スネーク…」

 

それはアリナが求める美である死と再生の極みであろう。

 

「共に見届けましょウ。我々イルミナティの大いなる神が顕現なされる瞬間をネ」

 

「アハッ♪アリナも凄く楽しみなんですケド!」

 

2人は愉悦の表情を浮かべていた時、何処かから不気味な男の声が聞こえてくる。

 

<<ハハハ!!景気が良さそうで何よりだな!オレもちょっくら暴れさせてくれよ!!>>

 

シドの表情が変わり、右手に持つ聖書を開ける。

 

そこに収納されていた管の一つが勝手に開いていき、中から悪魔が召喚されて背後に現れる。

 

「クドラク、勝手な行動は許しませんヨ」

 

シドとアリナの背後に現れた悪魔とは天堂組を悪魔集団に変えた吸血鬼悪魔である。

 

「べらんめぇ!こちとらアナーキーよ!アナキズムの光景は悪魔のパーティ会場だぜ!」

 

「聞こえなかったのですカ?いい加減にしないト…」

 

「わ、分かってる!計画の邪魔をしない範囲でよぉ…ちょっとご馳走にありつくだけだよ!」

 

「クドラク……」

 

「こ、これぐらいの茶目っ気なら…ルシファー様だって許してくれるって!」

 

「…今夜の渇きを癒したラ、直ぐに戻りなさイ。長居は無用でス」

 

「オーケー!それでこそオレが認めた寛大なる主ってもんだぜ!!」

 

悪魔の体が黒く染まるように蠢き、無数の赤い眼光を光らせながら弾ける。

 

無数の蝙蝠と化したクドラクが燃え上る街へと飛翔していったようだ。

 

「跳ねっ返り悪魔の管理も大変でス…おヤ…?」

 

右手に持つ聖書に振動を感じたシドは封魔管を管理するページをめくる。

 

一番下のページ棚に収められていた一つの管が振動しているようだ。

 

「…アナタも暴れに行きたいのですカ?」

 

主人に応えるかのようにしてバイクのアクセルを吹かすけたたましい音が鳴り響く。

 

管に収められた悪魔の言葉が分かるのか、シドは言い聞かせるようにしながらこう話す。

 

「ダメでス。アナタが暴れればクドラク程度の被害ではすみませン。ここは大人しくしなさイ」

 

反論するかのように鳴り響くアクセルを吹かす音を聞いたシドは驚いた表情を浮かべる。

 

「な二…?人修羅と戦いたイ?」

 

肯定するかのように響くアクセルを吹かす音。

 

「なるほド…かつての世界で因縁を持つ関係でしたカ。しかシ、許可は出来ませんネ」

 

文句を叫ぶかのようなアクセルを吹かす音が鳴り響く。

 

「神に牙を突き立てる真似は許しませン。ですがルシファー様から許可を頂ければ構いませン」

 

鳴り響き続けたバイクのアクセル音が鳴り止んでくれる。

 

「かつての世界で築き上げた古き縁ハ…この世界でも繰り返されるのですネ」

 

溜息をついた後、横のアリナに視線を向ける。

 

「……アリナだって、この騒動をもっと間近で見たいのに」

 

どうやら子供の様に膨れっ面をしているようだ。

 

「アリナ、アナタは修行中の身でス。今はまダ…その時ではありませン」

 

「フン……オーライ、クソマスター」

 

跳ねっ返りばかりに囲まれている自分に対して、シドはオーバーに両手を広げるのであった。

 

 

東の暴徒達が押し寄せた水名区は騒然としている。

 

東の人々が自分達に仕返しに来たのだと恐れおののき、水名区住民はパニックとなっている。

 

新西区側に逃げようと人々が大挙して水名大橋に押し寄せていく中、水名を目指す者がいる。

 

「レナーーッッ!!かえでーーッッ!!」

 

逃げ惑う水名の住人達を掻き分けながら大声を上げて仲間を探すのは十咎ももこであろう。

 

「あいつら…みかづき荘に行ってから何処に向かったんだよ…」

 

ももこは西の長であるやちよに頼み込み、2人の捜索に向かう許可をもらったようだ。

 

それだけでなく、十七夜の捜索も任されている。

 

「十七夜さんが心配なのは分かるけど…今の十七夜さんを迂闊に扱うと大変な事に…」

 

精神が不安定になっている彼女を知っているももこの頭に浮かぶのは最悪の光景であろう。

 

「頼む…間に合ってくれよ!!」

 

人々を掻き分けながら、ももこは水名大橋を超えて水名区に入っていく。

 

その頃、ももこが探している3人も移動を続けている。

 

「凄い…なんて速さで移動していくの…!」

 

十七夜の後を追いかける魔法少女姿の2人であるが、距離をどんどん広げられる。

 

「魔力を身体能力向上に無理やり使い込んでる…あんなんじゃ魔力の余裕が無くなるわよ!」

 

必死になって後ろを食い付いて行ったが、ついには姿が見えなくなる。

 

「ふゆぅ…見失っちゃったよぉ…」

 

「向かった方角から考えるとしたら…栄区に向かったとレナは思うわ」

 

「えぇ…?レナちゃんが冴えてる…」

 

「ちょっと!レナを何だと思ってたわけ!?」

 

「賞味期限が切れたデザートをいつまでも鞄に入れておくおバカさ…ふみゃみゃ!?」

 

両頬を引っ張られるかえでなのだが、何かに気が付いてくれる。

 

「あへぇ…?ほほはひょふ…」

 

「えっ?おかしな言葉で何が言いたいのよ?」

 

「もう!摘ままれたままじゃ喋れないよ!そんな事も分からないの!」

 

「うるさいわね!何なのよ!」

 

「ももこちゃんの魔力を感じるの…近くまで来てるよ」

 

「うっ…確かにレナも感じるわ。どうしよう…十七夜さんを勝手に連れ出しちゃったし…」

 

「怒られちゃうかも……」

 

「でも…今の暴走している十七夜さんを2人で止められる自信は…レナには無いわよ」

 

「私も自信ないよぉ…。ここはももこちゃんと一度合流してから十七夜さんを止めようよぉ!」

 

「それしかなさそうね…行きましょう、かえで!」

 

2人はももこの魔力を辿りながら合流を急ぐ。

 

一方、魔力消費もお構いなしに栄区に向かっていく十七夜はみたまの魔力を感じ取る。

 

「この魔力は…八雲なのか?しかも魔力がかなり弱っている…まさか!?」

 

みたまの心には十七夜と同じく神浜の破壊を望む憎悪が宿っているのを彼女は知っている。

 

東の革命魔法少女達と共に暴れている最悪の光景が脳裏に過ってしまう。

 

「頼む八雲…早まらないでくれぇ!!」

 

後ろから追いかけるレナとかえでを置き去りにした十七夜はみたまの元に急いで向かう。

 

そんな彼女を見つけてしまった邪悪な存在が夜空の上にはいたようだ。

 

「おぉ…驚いた。こいつはオレ好みの極上な魔法少女だぜぇ!!」

 

無数の蝙蝠達が急降下してくる。

 

「なにっ!?」

 

空の上から感じた事もない魔力が迫ってくるのに気付いた十七夜は上空を見上げる。

 

「ヒャッハーッッ!!」

 

蝙蝠が収束しながら人の形となったクドラクが急降下蹴りを仕掛けてくる。

 

「くっ!!」

 

彼女は急ブレーキするかのように止まり、後方宙返りをしながら回避する。

 

屋上の地面を蹴り砕きながら着地した悪魔は不気味な笑みを向けてくるようだ。

 

「な…何者なのだ…お前は!?」

 

スパイラルパーマがかかった白髪と黒ずんた闇の肌、黒い貴族衣装の上に漆黒のマントを纏う。

 

「へっへっ…見る程に極上っぷりが伺えるぜぇ。血を啜り終えた後でバックのまま犯してぇ!」

 

盛りのついた雄のように腰をカクカク動かしながら彼女を挑発してくる。

 

「下卑た男め…何者なのか答えろ!!」

 

「男のオレを小型魔獣と勘違いしてねぇか?間違わないよう…耳かっぽじってよく聞いとけ!」

 

蝙蝠の翼膜を思わせる黒い両手を構え、飛び上がりながら漆黒のマントを広げてくる。

 

「オレは悪魔であり、東欧スロベニアの悪と闇の象徴である吸血鬼…クドラク様だぁ!!」

 

【クドラク】

 

名は狼の皮を被る者を意味し、人狼との共通性を感じさせる吸血鬼。

 

正体は悪意を持った魔術師や巫術師、吸血鬼であるとされている。

 

その爪は無実の者や無防備な者を襲い、疫病・凶作・災害等は全てこの魔物のせいとされる。

 

死後に恐ろしい姿になるとされ、セイヨウサンザシの杭で心臓を突き刺す必要があるという。

 

また善と光の象徴であるクルースニクとは戦う運命にあった。

 

「吸血鬼…悪魔だと!?そんな存在…キュウベぇから聞かされなかったぞ!」

 

「契約の天使の事か?あいつは必要ない情報だと一切言わないクソ野郎だからなぁ」

 

「仮に悪魔という存在がいるとして…目的は何だ!この街の暴動を起こしたのはお前達か!?」

 

「教えてやってもいいぜ?バックで犯されながらよぉ…よがってお願い出来たら教えてやるよ」

 

「何処までも下品な奴め…貴様のような輩は反吐が出る!!」

 

自身の魔法武器である馬上鞭を右手に生み出し、魔力を纏わせ帯電させながら振り抜く。

 

「いい…女騎士みたいな堅物魔法少女は大好物だ!お前なら特別なプレゼントをくれてやる!」

 

両手を広げて放出するのは氷結魔法の冷気である。

 

「来なよ魔法少女!!悪魔と戦える機会なんてそうはねぇ…今夜はとことん楽しもうぜぇ!!」

 

「貴様と戦っている暇などないのだが…今の自分は行く手を阻む者には容赦しない!!」

 

右手を構え、悪魔の氷結魔法である『ブフーラ』を放つ。

 

氷の槍が無数に襲い掛かるが横に跳躍し、側転しながら回避する。

 

「悪魔だろうが恐れはしない!今の自分は不退転の覚悟を決めている!!」

 

「いいぜぇ…綺麗な顔をもっと怒らせな!堪らなくそそられるぜぇ!!」

 

底知れない怒りを向けながら悪魔と戦う和泉十七夜。

 

その怒りは悪魔に向けるものなのか?東の革命魔法少女達に向けるものなのか?

 

あるいは神浜の差別に向けるものなのか?民の命を奪う破壊を望んでしまった自分自身なのか?

 

その答えを求めるかの如く、戦いは熾烈を極めていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「男は度胸ぉぉーッ!悪魔は酔狂ぉぉぉーーッッ!!」

 

右手の爪を振りかぶりながら体液を爪から分泌した『毒ひっかき』で引き裂こうとする。

 

「甘い!!」

 

十七夜は合わせて踏み込んで接近し、ワンインチ距離にまで詰め寄る。

 

馬上鞭の握りを返し、石突で相手の水月を打ち込む。

 

「ぐふっ!?」

 

一歩下がったクドラクに対し、握りを返した振り抜き打ちを浴びせてくる。

 

「がへっ!?」

 

左切上の角度から決まり、堪える相手のストレートパンチに合わせた回避を行う。

 

体勢を回転させながら避ける勢いのまま鞭を相手の後頭部に叩き込む。

 

「ぎゃぁッ!!」

 

帯電した鞭を後頭部に喰らい、つんのめりのまま勢いよく前によろめいていく。

 

「このアマァ……調子に乗るなよ!!」

 

焦げた後頭部を右手で払い、執拗な突進攻撃を行ってくる。

 

「悪魔という連中は、猪のようにしか動けないのか?」

 

身を低めながらの回転左薙ぎが腹部に決まる。

 

右手の爪攻撃を鞭で打ち落とし、左薙ぎ・右薙ぎと顔面に叩き込む。

 

体勢が崩れたクドラクの膝裏にローキックを入れて刈り込み、蹴り倒す。

 

「はぁッ!!」

 

鞭を叩き落とす一撃を放とうとするが、無数の蝙蝠化によって避けられてしまう。

 

「オラァァ!!」

 

瞬時に実体化したクドラクの飛び後ろ回し蹴りが十七夜の右側頭部に決まってしまう。

 

「くぅッ!!」

 

蹴り飛ばされて倒れ込むが、意に介さず立ち上がってくる。

 

「ハァ…ハァ…接近戦が得意のようだな?迂闊に近寄るのは不味いってわけかよ…」

 

「遠距離魔法攻撃は優れているようだが…接近戦ならこちらに分がある」

 

「チッ…霧化して纏わりつこうにも、火災気流のせいで空に持ち上げられちまう…」

 

「地の利もこちらにあるようだ。さぁ…悪魔の貴様が何故この街に現れたのかを吐け!」

 

「やかましい女だねぇ…答えろと言われて素直に答えるバカ悪魔がいるかよ!」

 

「答えたくないのなら、自分の魔法で知るまでだ!」

 

純白の軍服のような魔法少女衣装の中で目立つのは右目に身に着けた羽根毛モノクル。

 

十七夜の右目がクドラクの心を読み取ろうとするが、驚愕した顔つきになっていく。

 

「テメェ…オレの心を読もうとしたな?悪魔の読心術と同じ魔法が使えるってわけかよ?」

 

「バカな…心が読めなかっただと!?それに貴様達も自分と同じ魔法が使えるのか!?」

 

「読心術なんぞ悪魔界隈じゃ珍しくもない魔法だぜ。だから悪魔全員が対処法を知ってるのさ」

 

「ならば、力ずくで吐かせてやる!!」

 

「俺達悪魔は対処法を知ってるんだが、お前ら魔法少女はどうなんだ?」

 

「なに…?」

 

クドラクの金色の目が怪しく光り出す。

 

「な…何をしている…?」

 

「…ほう?お前の心は…この暴動を望んでるじゃねぇか?」

 

自分の本心を悪魔から聞かされた十七夜の顔が青ざめていく。

 

「バカな……お前は自分の心が読めるのか!?」

 

「東の住人として差別されてきた、街の全てを破壊すれば皆が全てを失い平等になれるか?」

 

「ち…違う!!自分は…自分は……」

 

「隠せば隠す程、鮮明に心が読めるぜ?読心術の使い手ならその恐ろしさを知ってるだろ?」

 

「見るな……自分の心を読むなぁ!!」

 

「ハッハッハァ!!()()()()()()()()()()()()()()()()()()!テメェは()()()()()()()()()!」

 

「違う…違う…自分は…そんな事はもう考えて……」

 

「下の光景を見てみろ!この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だぜぇ!」

 

――テメェはただの破壊者だ!!俺達と同じく人殺し側なのさぁ!!

 

自責の念に再び駆られた十七夜のソウルジェムが急速に穢れていく。

 

「…決めたぜ。テメェはオレ達側の存在だ…()()()()()()()()()()()()よ」

 

「だ……黙れぇ!!」

 

ただでさえ魔力を振り絞りながらの強行軍をしてきた上で、精神的にも追い詰められる。

 

動きが鈍くなった彼女に対し、両手を掲げて氷結魔法の『マハブフーラ』を放つ。

 

「くぅ…っ!!」

 

放射状に発射された冷気によって十七夜の体が氷結していく。

 

「くっ…うぅ……」

 

全身が氷結し、まともに動く事も出来なくなった彼女は片膝をついてしまう。

 

「これで大人しくなったな」

 

邪悪な笑みを浮かべながら近づき、動けない彼女の前に立ちながら右手で顎を引く。

 

「うっ!?」

 

左の人差し指の爪で彼女の頬を引っかき、手に滴った血を舌で舐め回す。

 

「この極上の血の味…やっぱり思った通りだ。テメェはまだ男を知らない処女だろ?」

 

「な、何を言う!?」

 

恥ずかしさによって凍り付いた頬に熱が籠るように赤面していく。

 

「資格は十分だ。後はテメェの体の中にオレの遺伝子を流し込むだけだぜぇ…!」

 

彼女の両肩を掴み、口を大きく開けるとその口には吸血鬼の牙が光る。

 

「や…やめろぉーーーッッ!!!」

 

絶体絶命の中、何処からか飛来した固い道具が後頭部にぶつかった事でクドラクが悶絶する。

 

「ぐごっ!!?」

 

両手で後頭部を抑えながら苦しみ、転がった固い何かに視線を向ける。

 

それは鍛冶師が使う古いハンマーであろう。

 

<<うぉれの働く店の先輩にぃぃー!手を出す不埒な輩はぁぁー!うぉまえかぁー!!>>

 

素っ頓狂な大声が聞こえた方に振り向く。

 

隣マンションの屋上の手摺に立つのは十七夜の店で働いているメイドのイッポンダタラである。

 

「とうッッ!!」

 

隣マンションから跳躍し、こちら側の屋上まで飛び降りてくる。

 

「ダタラ君!?どうしてここに…それにその身体能力は…?」

 

「なぎたん先輩の事を皆が心配して励ますぅー!愛の寄せ書きを持ってきたぞぉー!!」

 

鞄から取り出すのは元気になって欲しい十七夜のために店長やメイドが書いた寄せ書き色紙。

 

「み…みんな…この街を憎むあまり…破壊を望んだ自分なんかの為に…」

 

熱い感情が湧いた十七夜の目から嬉し涙が溢れ出す。

 

「テメェ…人間に擬態しているようだが分かるぜ…テメェも悪魔だろ?」

 

「な、なんだと!?そうなのか…ダタラ君?」

 

「騙した事は謝るぅぅー!!だがそれでもぉー!!うぉれはカワイイを研究したかったー!!」

 

色紙を鞄に仕舞った後、右手に武器を出現させる。

 

鍛冶師のハンマーとハンマーを鎖で繋ぎ合わせた妙ちくりんな武器のようだ。

 

「うぉぉぉぉーー!!燃えよメイドラゴンンンーーッッ!!」

 

ヌンチャクの如くハンマーを振り回すと周囲から業火が噴き上がる。

 

炎の中から現れたのは悪魔としてのイッポンダタラの姿であろう。

 

黒革エプロンと手袋、片足しか見えない足には黒のブーツ、そして頭部は4と書かれた鉄仮面。

 

この異形の姿こそが本来のイッポンダタラの姿なのだ。

 

「これがダタラ君の本当の姿…?お…男だったのか…?」

 

「うぉとこでもぉー!!カワイイは大好きでありますぅぅーーッッ!!」

 

「う…うむ、これはアレか…?男の娘というジャンルだったか…?」

 

「うぉれはぁぁーー!!ハイカラな男の娘だぁぁーーっ!!」

 

クドラクに振り向き、鉄仮面の隙間から覗かせる悪魔の片目が怒りを帯びる。

 

「この国の雪入道かよ…鍛冶神としては零落した妖怪姿でオレに勝つ気か?」

 

「い、い、イクで、ありまァァァァァァァす!!」

 

片足のまま跳躍し、鎖で繋いだヌンチャクハンマーを振り被りながら叩きつけようとする。

 

「ケッ!片足程度の動きじゃ、モノクル魔法少女以下のすっとろい動きだぜぇ!!」

 

素早く踏み込み、ヌンチャクを振り下ろす右手首を掴む。

 

左手で殴りつけようとするが、右手で止められた事で互いに力比べの状態となる。

 

「なぎたん先輩ぃぃー!!ここはうぉれに任せて…逃げるんだぁぁーーっ!!」

 

「し、しかし……」

 

「皆心配しているぞぉ!!早く元気になって…なぎたんのカワイイを皆に伝えるんだぁ!!」

 

「ダタラ君……す、すまない!」

 

氷結した両足を引きずりながら跳躍して逃げようと屋上の端に向かう。

 

鍛冶神としての名残か剛力でねじ伏せようとするのだが、クドラクは不敵な笑みを返してくる。

 

「吸血鬼相手に力比べか?お前バカだろ!!」

 

吸血鬼もまた剛力を持つ悪魔であり、イッポンダタラの怪力を押し戻していく。

 

「うごごごご!!?」

 

「オレは夜型だからよぉ、夜中でオレに勝とうだなんて百万年早ぇ!!」

 

密着した状態からクドラクは魔法攻撃を放ってくる。

 

「こ、こ、これはァァァ!!吸魔かぁぁーっ!!?」

 

吸魔によってイッポンダタラの魔力が大きく吸われた事で力が抜けていく。

 

「この体で持つのか…いや、ダタラ君や皆の思いの為にも…生き残らねば…」

 

這い這いのまま屋上の端に辿り着いた十七夜は体を無理やり持ち上げながら向こう側に飛ぶ。

 

しかし、彼女の背後から飛んできた者には気が付いていない。

 

「ぐはっ!!?」

 

跳躍した彼女の背中にぶつけられたのは怪力で投げ飛ばされたイッポンダタラである。

 

密着したまま夜空を突き飛ばされていく中、クドラクも一気に動く。

 

「浅草ROCKで、祭りだぜぇ!!」

 

鈍化した世界。

 

空を浮く2人の空中に現れた無数の蝙蝠が実体化し、クドラクと化す。

 

「オラァァ!!ぶっ潰れろやぁーーっ!!」

 

吸血鬼の剛力を力任せに叩きつける一撃を放つ。

 

「ゴブゥ!!!」

 

イッポンダタラの腹部に決まり、背中側の十七夜もろとも地面に叩きつけられる。

 

道路に急降下した2人はアスファルトが陥没する程の衝撃を浴びる事になるだろう。

 

「よく見りゃ…なぎたんとか言われた女まで巻き込んじまったか?」

 

漆黒のマントを広げて空を飛び、下の光景を見つめながら両手をオーバーに上げてくる。

 

「やり過ぎちまったなぁ…生きててくれよ、テメェはオレの遺伝子を継ぐべき女だぜ」

 

道路は大きく砕け散り、道路下の下水道は剥き出しとなっているのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「く……うぅ……」

 

乗り捨てられた車と共に崩落したアスファルトの瓦礫塗れであるが、十七夜は生きている。

 

「なぜ自分は助かって……はっ!?」

 

彼女を抱きかかえるようにして倒れ込むのはイッポンダタラであったようだ。

 

「君が…自分の盾となってくれたのか…?」

 

あの一瞬、地面に叩きつけられる前にイッポンダタラが彼女を抱え込む盾となっている。

 

しかしその代償はあまりにも重かったのか鉄仮面の中で大きく吐血してしまう。

 

「ガッ……ゴッ……ゴフゥ!!」

 

人間ならばミンチとなっていただろう衝撃を浴びたのならば悪魔でさえ無事では済まない。

 

「ダタラ君!!」

 

「イ、イ、痛いじゃないかぁぁぁ…し…死にが…ハチィィィィィィ……」

 

「動くな!今自分が回復魔法を…」

 

「うぉまぇは…早くぅぅ…逃げろぉぉ……」

 

「だが…」

 

「うぉまえは…メイドのうぉれの誇りだぁ…。またメイド先輩として…鍛えてくれぇぇ…」

 

「ダタラ君…ありがとう。君の様に誰かに尽くせる生き様こそ、メイドの誉れだ」

 

「ほ、ほ、誉れぇぇぇ……ステキすぎて……死ぬぜぇぇぇぇぇ……」

 

意識を失ったイッポンダタラであったが、脅威はまだ終わりではない。

 

<<ほう!まだ魔力を感じるじゃねーか!しぶとく生き残ってくれていて嬉しいぞ!!>>

 

瓦礫の上からは嘲笑うようなクドラクの声が聞こえてくる。

 

「…やはり、決着をつけるしかないか」

 

動きが鈍い体を持ち上げ、力を込めながら跳躍する。

 

穴の中から出てきた十七夜の前には空から降りてきたクドラクが立つ。

 

「さぁ…お楽しみの時間だぜ」

 

両手を広げながら今まさに飛びつかんと迫りくる。

 

「自分に…正義の魔法少女としての資格がまだあるのなら…貴様に負けるわけにはいかない!」

 

乗馬鞭を頭上に掲げながら残り少ない魔力を鞭に流し込む。

 

周囲に生み出されるのは無数の雷球であり、彼女のマギア魔法である『断罪の光芒』が迸る。

 

「ほう?こいつはイキな攻撃魔法だなぁ…」

 

彼女のマギア魔法を前にしてもクドラクは余裕の態度を崩さない。

 

「自分を殺したいのなら…そちらから来い!!それが唯一無二の平等だ!!」

 

「殺そうとするなら殺されるのが平等?ならよぉ…()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な…何を言う…?」

 

「テメェはまさに共産主義的暴力主義者だ。従わない者を全て粛清する事で平等としやがる」

 

「う…うぅ……」

 

「そんな光景の何処に平等がある?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

彼女のソウルジェムが再び強い穢れを発していく。

 

「丁度いい。ならオレがお前の覚悟を試してやる」

 

後ろを振り向き指を刺す方角にあるのは無数の民家である。

 

「オレは耳もいい。どうやら向こう側には…避難所に逃げられない高齢者が残っているようだ」

 

「な…なんだと!?」

 

「その上でその大技をオレごと周囲に浴びせようっていうなら…人殺しの仲魔入りだな?」

 

「じ…自分は……」

 

「やれよ、平等の名の元に暴力を撒き散らす傲慢者」

 

「自分は……」

 

「オレごと周囲の人間共の命を奪い、正義の味方とやらを演じて見せろ」

 

「自分は……っ!!」

 

「何が正義の味方だよ?お前が望んできたのはな…()()()()()()()()()()()()

 

――スターリンや毛沢東共が繰り返してきた人類大量虐殺の歴史と同じ…()()()()()()()

 

「う…あぁ……あぁぁぁ……」

 

彼女の全身が震える中、揺さぶりを仕掛けてきた悪魔が動く。

 

「さぁ、撃ってみろ!!オレと同じ悪魔めぇーッッ!!」

 

跳躍したクドラクが高速飛行しながら迫りくる。

 

「あぁぁぁぁぁーーーーッッ!!!!」

 

彼女は馬上鞭を振り下ろす事が出来ず、凄惨な光景が生まれてしまう。

 

「あっ……?」

 

彼女の柔らかい首元にはクドラクの牙が突き立てられている。

 

牙から流し込まれるのは唾液ではなくクドラクの闇の血。

 

<<十七夜さん!!!>>

 

クドラクに目掛けて投擲されたのは白い翼と光輪で飾られたレナの三叉槍である。

 

噛みつきから離れながら槍を回避したクドラクは槍が飛んできた方角に目を向ける。

 

顔面蒼白となった十七夜は後ろに後ずさり、上ってきた穴の中に転落して転げ落ちてしまう。

 

「…オレのお楽しみの邪魔しに来たのか?魔法少女共」

 

駆け付けたのは、ももことレナとかえでの姿。

 

「よくも十七夜さんを傷つけたな!!」

 

「あんた…死ぬ覚悟は出来てるんでしょうね!?」

 

「ね…ねぇ?この人の姿をした存在はなんだろう?凄い魔力だけど…魔獣じゃないよね?」

 

「そんな事を気にしてる場合!?こいつは十七夜さんを傷つけたのよ!!」

 

武器を向けてくる魔法少女達に対し、頭を掻きながらテキトーに説明してくる。

 

「オレは悪魔であり吸血鬼って言えば…伝わるか?」

 

「悪魔…?吸血鬼…?」

 

「嘘でしょ…?そんな存在がいるなんて…キュウベぇは何も言わなかった!」

 

「ふ…ふみゃみゃ…魔獣だけじゃなかったんだね…魔なる存在は…」

 

「ま、待てよ…吸血鬼って言えば……」

 

「さ、さっきこいつ…十七夜さんに噛みついてたわよね…?」

 

「ま…まさか!!」

 

「吸血鬼の基本的な情報は知ってるようだな?遅かったってわけさ」

 

「そ、そんな…それじゃあ、十七夜さんは……」

 

「喜べよ、お前達も吸血鬼の…仲魔入りをさせてやるぜぇ!!」

 

跳躍して飛翔しながら3人娘に襲い掛かる。

 

「ビビるな!!行くぞみんなぁ!!」

 

ももこは切子状の形をした三日月の曲線を描く大剣を構える。

 

彼女は固有魔法である激励を周囲にかけ、レナとかえでの恐怖心を取り除く。

 

魔法少女達は奮戦するのだが、実力が違い過ぎる。

 

「きゃぁ!!」

 

「あぁ!!」

 

レナとかえでが投げ飛ばされ、全身は傷塗れとなる。

 

「くそぉぉぉぉーーッッ!!」

 

ももこは跳躍しながら大剣を振りかぶる。

 

頭上からの唐竹割りの一撃に対し、クドラクは右手の人差し指と中指で刃を挟んでくる。

 

「今夜はとことん景気がいい。それでこそ、アナキズム的な無政府状態ってもんだよなぁ!!」

 

「悪魔だろうが…吸血鬼だろうが…無実な人々に害を成す存在は…決して許さない!!」

 

ももこの瞳に怒りの炎が宿るのを見たクドラクは眉間にしわが寄っていく

 

「テメェ……」

 

彼女の熱い目に宿る善と光を感じ取った吸血鬼が怒りのオーラを吹き上がらせる。

 

「オレの()()()()()()()()()()()()()()()…気に入らねぇ…気に入らねぇ!!」

 

怒り狂った吸血鬼の剛力で刃が押し上げられていく。

 

「くっ…うぅ…!!」

 

刃がどんどん押し戻され、ももこの顔の前まで刃が迫る。

 

「テメェは血を飲んでなんてやらねぇ!!この場で八つ裂きにしてやるよぉ!!」

 

「こんな…場所で…死ぬわけには……」

 

その頃、死闘の光景をスコープで覗いている人物が遠くのビルの屋上にいる。

 

「距離は1000メートル…火災による気流も出ているな」

 

大口径スナイパーライフルであるバレットM82を構えるのはウラベの姿。

 

手前にある手摺には糸が絡まり、垂れ下がった下には木々で作った繭の中に潜む悪魔もいる。

 

「ねぇ、ウラベ。魔法少女を助けるわけ?」

 

「助けるわけじゃねぇ。俺はイルミナティに復讐がしたいだけさ」

 

「あの見えてる悪魔…たしかシドが使役してた吸血鬼だし、シドがこの街にいるのは確定だね」

 

「この暴力革命の裏にはイルミナティが絡んでいるのは間違いなさそうだぜ…プッツ」

 

「派手にやっちゃおうよ!復讐の狼煙は派手な方がいいしね」

 

「フッ…そうだな。派手にやらせてもらおうか!!」

 

ウラベの指が引き金に振れる。

 

「さぁ、命乞いしてみせろ…魔法少女!!泣き叫んだ姿のまま引き裂いてやるぜぇ!!」

 

「くそ…っ!!」

 

絶体絶命の状態であったももこだが、遠くで銃声が鳴る音に気が付く。

 

「アバッ?」

 

突如クドラクの頭部が弾け、ももこは返り血を浴びる。

 

「えっ…?な…何が起きて…?」

 

頭部を失ったクドラクの体がよろめきながら倒れるが、無数の蝙蝠となって空に逃げる。

 

「助かったの…?」

 

獲物にクリーンヒットしたが、これで吸血鬼が倒せるわけではない。

 

ウラベは右肩にライフルを担ぎながら逃げていく悪魔に視線を送る。

 

「俺の復讐は…ここから始まるんだ」

 

状況が見えないももこであったが、傷ついた仲間を抱えながら十七夜が落ちた穴に向かう。

 

「十七夜さんは…?」

 

「水路まで転がり落ちて…流されていったのかも…」

 

「そ、そんな…吸血鬼に噛まれた十七夜さんは…どうなっちゃうの…?」

 

「くそっ!!なんでアタシはこんなにも…肝心な時に…間に合わないんだよぉ!!」

 

ももこの慟哭の叫びが燃え上る神浜に響いていく。

 

自由・平等をもたらす為に暴れ狂う東の暴徒達がもたらすものこそ悪魔の所業の数々。

 

そして、それを望んだ魔法少女もまた悪魔なのだと突きつけられる事になるのであった。

 

 

「ん……んん……?」

 

気が付いた十七夜は体を持ち上げていく。

 

「自分は…どれぐらい気を失っていたのだ…?」

 

彼女の姿は魔法少女の姿ではなく、大東学院制服姿に戻っている。

 

「なぜ自分は助かって…はっ!?」

 

横を見れば倒れ込んだイッポンダタラが気絶している。

 

全身の骨が砕けながらも水路に飛び込み、彼女を助けてくれたようだ。

 

「ダタラ君…助けられてばかりだな。先輩として…しっか…く…?」

 

十七夜は体に違和感を感じていく。

 

「なんだ…?()()()()()()…自分は何日眠っていたのだ?」

 

上からは暴動の騒音は聞こえてこない。

 

「何日か気を失ってしまったのか…暴動は…神浜の街はどうなったのだ…?」

 

状況を知るために傷ついた体を持ち上げ、助けを呼ぼうと上に登れる場所を探す。

 

「あの梯子を使えば…地上に出られるかも…」

 

梯子を上っていき、マンホールの蓋を開けようとしたその瞬間、十七夜は悲鳴を上げる。

 

「ぐわぁぁぁぁーーッッ!!?」

 

強烈な日の光を顔に浴びた十七夜が悶絶しながら梯子から落ちてしまう。

 

地面に倒れ込み、顔を抑えながら苦しみ抜く。

 

「ぐっ…うぅぅ…っ!!」

 

顔を抑えた手を見れば、焼け爛れた皮膚が張り付いている。

 

「なんで…?ど、どうして…日の光を浴びたら…こんな事に…?」

 

横を見ればマンホールの隙間が僅かに空いた事で日の光が入っている。

 

彼女はもう一度手を伸ばすのだが、結果は同じのようだ。

 

「熱っ!!」

 

右手が日の光に焼かれた事で慌てながら日の光から遠ざかる。

 

「何が…何が起こったのだ…?自分は…自分は一体!?」

 

彼女の脳裏に浮かぶのはクドラクの言葉の数々。

 

彼女が戦っていたのは吸血鬼であり、彼女はまだ男を知らない清い体。

 

そこから導き出される答えなら、吸血鬼漫画を読んだことがある十七夜なら分かるだろう。

 

「あ…あぁ…あぁぁぁぁ……」

 

顔面蒼白になりながら涙を流して震え抜く。

 

日の光が溢れる世界に行けない体となった自分自身に気が付いた彼女は絶叫するだろう。

 

「いやだ…いやだぁ…いやだぁぁぁぁーーッッ!!!」

 

日の光を恐れるかの如く、彼女の体が闇の光を発していく。

 

体が黒く染まるように蠢き、無数の赤い眼光を光らせる。

 

体が弾け、無数のコウモリと化した十七夜は下水道の闇の世界へと消えていくだろう。

 

彼女は日の光が溢れる世界を失ってしまったのだ。

 

彼女は魔法少女としての人生を失ってしまったのだ。

 

彼女は正義の味方として生きたかった矜持を失ってしまったのだ。

 

今の和泉十七夜は共産主義を掲げる傲慢な悪魔に過ぎないのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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