人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
11月1日の夕方。
聖探偵事務所では所長の丈二と尚紀がテレビに見入っている。
今日は瑠偉が休みであり、尚紀は彼女の代わりに事務作業をしていたようだ。
神浜市の市長が行う臨時記者会見の放送内容を見ていた2人の顔が…驚愕に包まれる。
「バカな……こいつ、何を突然言い出すんだ……!?」
尚紀が口を開き、丈二は歯を食いしばる程の怒りを見せた。
「何処までも西のクソ野郎共は身勝手過ぎる!!俺たち東の住人は西の奴隷じゃねぇよ!!」
席を立ち上がる丈二に対し、尚紀も立ち上がり肩を掴む。
「おちつけ!こんな状況普通じゃない…この市長がそう思っていたとして、口に出すか?」
「うるせぇ!!それがどうしたっていうんだ!?」
「普通の人間なら保身に走り口にしない。それを無理やり語らせる手品が出来る連中がいる」
「まさか…この市長を操っているのは…?」
「あぁ……恐らく魔法少女の仕業だろう」
「魔法少女の仕業…?こんな事を言わせたら、東の連中が何をしでかすか分かってるのか?」
「それが狙いだと思う。西と中央の魔法少女にメリットは無い…恐らくは東の魔法少女の仕業だ」
「たしか神浜の魔法少女社会は、東西中央に分かれてたんだったな…?何が目的なんだ……」
「お前の刑事としての勘を聞いてみたい」
「……恐らくは、極左テロリズムだ。東の人々は格差と差別に苦しむ…だから平等を望む」
「自由と平等を望む…破壊行為…」
それは尚紀が人間社会主義の為に利用してきた共産主義思想の理念。
彼は共産主義を用いて東京の魔法少女社会を恐怖政治によって統治してきた。
「共産主義を魔法少女は望んでいるのか…前の東の魔法少女リーダーは平等を望む人物だった」
「そいつの平等主義を…東の魔法少女共は継ごうとしているのか…」
「この国の革マル派か中核派、もしくは欧米のアンティファが絡んでいるとは考えられるか?」
「どうだろうな…魔法少女ってのは十代の子供だろ?極左暴力団体に入っているとは思えないが」
「どちらにせよ、東の連中の思想は…マルクス、レーニン、トロツキーの革命理論に近いと思う」
「前の東の長って言ったな?そいつは東の魔法少女社会の内ゲバで追放でもされたのか?」
「そうだ。今は別の街の魔法少女が東の長をやっているが…そいつが自由主義をばら撒くんだ」
「自由と平等が合わされば…簡単に暴力革命に繋がるんだよ。前の長はそれを止めないのか?」
「たしか和泉十七夜って名前だったと思う。そいつは東を追放されてからの足取りは分からない」
「和泉……?もしかして、和泉さん家の長女のことか…?」
「知っているのか?」
「ご近所さんだ。20年ぶりにこっちに帰ってきた時に、何度か見かけたことがあったんだよ」
「彼女が関与しているかは分からないが、俺達は今何をやらなければならないかを考えるべきだ」
「…俺は今すぐ東に帰る。体が動かない両親だが……何をしでかすか分からないから止めてくる」
「そうした方がいい。俺も身近の人間たちに避難を呼びかけてくる」
「大規模なデモ行進程度では済まないだろう……これだけの怒りをばら撒いたんだ」
「俺なら怒る民衆をさらに煽る工作をする。そうすれば暴徒化して革命戦力に仕立て上げれる」
「不味いな……この街が血の海と化すぞ!お前も早く家に帰って暴徒共に備えておけ!」
2人は二階事務所から飛び出し、各々の行動に移っていく。
「えっ?えっ?血相変えてどうしたのダーリン???」
下のガレージに停車していたクリスに駆け寄り、事態を手短に伝える。
「マジで!?ワーオ…そりゃ大変なことになったわねぇ」
「ネコマタにスマホで連絡して家の備えをやらせておく。お前は1人で家に帰れるか?」
「アタシのマフラーで怪音波流して混乱をばら撒くの。人が乗ってなくても認識出来ないわ」
「俺は事務所近くにある中華街の蒼海幇に避難を呼びかけてくる」
「これって絶対大事になるわよ。ダーリンも気を付けてね」
クリスは発進し、尚紀もスマホで連絡を終えた後に急ぎ街に向かう。
中華街に入れば、周囲の人々は慌ただしく店の戸締りを始めていた。
「南凪路の門にバリケード用の道具を運んでいるのは…蒼海幇の連中か?」
「そうじゃ。尚紀君もあの放送を聞いて、ワシらの為に駆けつけてくれたようじゃな?」
声がした方に振り向けば、蒼海幇の長老の姿。
長老の元に向かい、お互いに情報を確認し合う。
「…ワシも同じ考えじゃ。あのように市長を操れるのは、東の魔法少女共としか思えん」
「この備え…やはり東市民が暴徒となることを前提としての用意か?」
「無論じゃ。備えあれば憂いなし…孫子の兵法は現代でも通じる」
「蒼海幇は、東の市民が暴徒となって押しかけてきたら…どう動く?」
「警察が駆け付ければ任せるが…恐らくは数が違い過ぎる。警察は当てには出来ん」
「暴動ともなれば、放火等の破壊行為に移るだろう。自分達の身は自分達で守るしかないな…」
「心苦しいのぉ…蒼海幇は差別問題に対しては中立として争うべきではないと主張し続けてきた」
「だが、市政が差別問題に取り組まなかった以上は…互助組織としても限界があったようだな」
「中立は嫌われる。どちらにも与しない以上は…どちらからも責められる立場なのじゃ」
「差別される者達の苦しみは…差別される側の者達にしか伝わらないか…」
「この街に帰属意識の無い新華僑共は当てには出来ん。ワシらはワシらの街を守る為に動く」
「蒼海幇とあんたがいればこの南凪路も心強い。そういえば…美雨の姿が見えないな?」
「あの子は魔法少女として中央区に向かったぞ。東西の大事な会合があるのだと言ってのぉ」
「恐らくは…その時に何か東の連中に仕掛けられたな。この騒動がその結果だろう」
「美雨にも連絡を入れておいた。彼女も蒼海幇を心配しておったが…彼女は西側の魔法少女だ」
「西の長である七海やちよに従わされる立場か?集団社会に首輪をつけられたらそうもなるな」
「彼女の力を当てに出来ん以上は、ワシらだけでこの街を守り切る。オマエさんはどうする?」
「蒼海幇は武闘派連中だから何とか出来るだろうが…他の地域連中はそうはいかないだろう」
「君は…他の地域で暴動に巻き込まれた住民たちを助けに向かうというのか?」
「そうするしかない。この街全体に暴動の波が押し寄せれば…神浜行政だけで対処など不可能だ」
「そうか…分かった。ワシらは南凪路を守るから…君は他の南凪区地域を守って欲しい」
「俺はベイエリアに向かう。あそこは観光産業で潤っているから…東に恨まれているだろう」
「頼んだぞ…オマエさんは南凪区の英雄じゃ」
「……俺は英雄になる資格など無い」
踵を返し、南凪区を東のベイエリアに向けて走っていく。
「……俺は、ちかにこう言った」
――
――お前のその疑い深さは……人として正しい在り方だ。
「疑うことの大切さを伝えたはずなのに……西側の正義の魔法少女達なら大丈夫だと信じた……」
この騒乱は、自分の甘さが招いてしまったのだと痛感していく。
それでも考える暇も無く、街の至る所から火の手が上がっていく。
呪われた神浜の東西差別によって、この街が焼かれてしまう時が来てしまった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ベイエリアには、ナオミが滞在している豪華ホテルが存在している。
市長の放送内容をテレビで見たナオミは既にホテル退去の準備を始めていた。
「どこの国でも…格差が極まればこうなるのよ。たとえそれが、魔法少女の扇動であろうと」
手荷物は最低限しか持たない彼女は程なくして準備を終え、ホテル窓口でチェックアウトする。
ナオミが滞在したホテルとは、美凪ささらの父親が殉職することとなるだろうホテルであった。
私物を入れたスーツケースと使い魔を収めた封魔管を入れたアンティーク鞄を車の荷台に収める。
「騒動が治まるまで、郊外に拠点を移すしかないわね……」
スマホを操作し、郊外のホテルを調べていたのだが…。
「…不味いわ、上の方から大騒ぎの声が聞こえてきた。東の市民は既に暴徒化していたみたい」
オープンスポーツカーの左運転席に乗り込み、急発進して地下駐車場から出ていくナオミ。
程なくして暴徒が集まるホテル入り口付近から火の手が上がるのをサイドミラーで確認した。
「タッチの差だったわ…。ここまでの極左テロリズムともなれば、この街は血の海と化す」
車を走らせ、神浜市から出ようとしていた時…。
「あれは……人修羅かしら?」
前方の歩道を走ってきていた人物を見かけ、車を横に停車。
「あの車に乗ってるヤツは……ナオミか?」
彼も彼女の存在に気が付いたようだ。
「ちょっとアナタ、向こうは東の暴徒達が暴れまくってるのよ。何をしに行く気?」
「決まってる。暴徒共に傷つけられようとしている住民たちを救助に向かう」
「アナタには関係無いのではなくて?」
「黙れ。俺は俺のやりたいことをやるだけだ」
「美雨が言ってた通り、度し難い程のお人好しね。アナタに何の利益があるというの?」
「損得じゃねぇ、俺は納得がしたいだけだ」
「納得…ですって?」
「俺を助けた恩人は、俺のせいで死んだ。俺はお人好しの彼女の死が無駄ではないと納得したい」
「その恩人のお人好しな彼女の意志を継ぎ、彼女がやろうとしてきた生き方を継ごうというの?」
「そうしなければ、彼女の死は俺と関わった為に無駄に終わる。だからこそ俺は
「何処までも甘い男ね…。そんな男だからこそ、孤児たちを救うNPO法人活動が出来たのね」
「お前には無いのか?誰かに助けて貰い…その人の死が無駄ではなかったと思いたい気持ちが?」
ナオミの脳裏に浮かぶのは、孤児の自分の家族となってくれた老師たち。
「…あるわ。殺されたその人は、得にもならない孤児の私を助けてくれて…家族になってくれた」
「なら、お前もその恩人の死に報いろ。その人の人生が無駄ではなかったとお前が証明するんだ」
「老師……」
厳しくも優しかった老師の笑顔は、今でも記憶に焼き付いている。
「……私に何が出来るの?ビジネスマンの私は…人命救助だなんてやったことがないのよ」
「俺はこの騒動の裏側には、東の魔法少女だけしか存在しないとは…考えていない」
「確かに…これだけの暴動を突然起こせたんですもの。準備が良すぎるわね」
「東の魔法少女共の裏に潜む連中を探ってくれないか?魔法が使えるのは魔法少女だけじゃない」
「悪魔かしら…?それも、これだけの暴徒に暴動を広げる品を供給できる程の資産家悪魔が?」
「そいつらを見つけ出して始末して欲しい。悪魔と戦うのはデビルサマナーの専門分野だろ?」
「フッ……そうね。私の得意分野だわ」
「頼んだぞ……俺は向こうに見える燃えているホテルに向かう!」
ナオミを置き去りにし、尚紀は急ぎ大火事となったホテルに向かう。
「老師…アナタの死は無駄にはしない。だからこそ…虚無となった人生を今でも生きている!」
アクセルを踏み込み、オープンスポーツカーを走らせる。
極左テロリズム対象区域外まで車を移動させ、再び神浜の街に向かうだろう。
そして尚紀は…。
「ざまぁみろ!ブルジョア共しか利用出来ない豪華ホテルなんて神浜にはいらねぇ!」
「観光客が金を落とすとか言いやがるが…それは豊かな西側と中央地域だけだった!!」
「俺たちの東地域は観光紹介からも暴力の街だとレッテルを張られ続けたんだ!!」
「神浜の観光地域なんていらない!!落とす利益は全て西側と中央のものだからだぁ!!」
暴徒たちが燃え上るホテル前で密集しながら喚き散らす。
彼らは皆、東地域に人が流れず閉店していったシャッター街の住民たちであった。
「どけよッッ!!!!」
怒声が聞こえ、暴徒の後ろにいる1人が後ろを振り向く。
「ぐえっ!?」
尚紀は跳躍し、振り向いた暴徒の顔を踏みつけながらさらに跳躍。
「うわっ!?」
「なんだぁ!!?」
彼は次々と暴徒たちの肩を使いながら跳躍移動を繰り返し、燃え上る入り口を目指す。
「うおおぉぉーーーッッ!!!」
両腕を顔に掲げながら炎に飛び込んでいく姿。
燃え上るロビーに入った尚紀は跳躍からの着地と同時に地面を転がっていく。
炎に優れた耐性がある彼の肉体だが、着ている服はそうはいかない。
炎が纏わりついた黒のトレンチコートを転げながら消火し、立ち上がる。
「逃げ遅れた人達は何処だ……!」
一階をくまなく探し続ける。
「これは……なんてこった……」
ホテル案内を見つけ、裏口に向かった彼が見た光景とは…すし詰めのように倒れ込んだ人々。
ホテル火災では自室に留まるべきだが、パニックとなった人々はそう判断出来ない。
狭い裏口に大挙して押し寄せ、脱出が出来ないまま煙に巻かれた人々だった。
「スプリンクラーが無いのか……経費削減による利益しか頭にないホテルだったのかよ!」
彼は一人一人を担ぎ上げ、裏口から運び出していく…。
「くそっ!!ロビーから火の手が直ぐそこまできていやがる……!」
彼は悪魔化し、力任せに何人もの人々を同時に担ぎ上げていく。
倒れ込んでいた全員を担ぎ出した頃には、消防車のサイレンも近づいてきた。
「……後は消防とレスキュー隊員に任せるしかないな」
悪魔化を解き、再び燃え上る街へと向かう。
「一体どれだけ犠牲になっていくんだ……人間たちは!!」
燃え上る神浜の街。
その炎は1人の悪魔に義憤の炎を宿らせていく。
炎に燃え上る神浜の長い夜は…始まったばかりであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
燃え上る街から離れている北養区。
東の暴徒たちが水名区を目指すルートとしては選ばなかった地域。
尚紀の住まいでは、屋根に上ったネコマタとケットシーが燃え上る赤い夜空を見つめている。
「不味いニャ……尚紀が言ってた通り、神浜で暴動が起こっているようだニャ」
「そうみたいね……」
「オイラ達……本当にニャルソックしているだけでいいのかニャ?」
「……尚紀からはそう言われているわ」
「…燃えている街の住民達が心配だニャ」
「何を考えているの?まさか……」
「オイラ……尚紀に謝るしかないニャ」
ケットシーは悪魔化し、屋根の上から飛び降りる。
「ちょっと!今の街に向かって何をする気なのよ!」
「オイラみたいに…取り残されてしまった子供たちを救いたいニャ」
「ケットシー…」
「親が死んじゃうのは悲しいニャ。それだけは…ママを亡くしたオイラは知ってるから…」
「この騒動には東の魔法少女が関与していると尚紀が言ってた。そして魔法少女は悪魔が見える」
「街中で東の魔法少女と出くわしちゃったら…戦うしかないニャ。オイラ、この暴動を止めたい」
「悪魔としての力を取り戻せたけど…魔法が使える相手と戦闘経験なんて貴方には無いでしょ?」
「うん……そうなると凄く怖いけど、それでもオイラは逃げないニャ」
「貴方って子は……まったく、知的な判断が出来ない単細胞なんだから」
ネコマタも悪魔化し、屋根の上から飛び降りてケットシーの隣に立つ。
「私も戦闘経験なんて無いけれど、知略はあるわ。取り戻した悪魔の魔法もあるし」
「ついて来てくれるのかニャ?尚紀に怒られるニャ」
「仲魔の私たちにまで自分の生き方を押し付けない尚紀だけど…本当はこうして欲しいはずよ」
「オイラもそう思うニャ。尚紀とも付き合いがもう長いし」
「そうと決まればグズグズしてられないわね。行くわよ、ケットシー」
「クリス!オイラ達は街の住民を守護りに行くから!ニャルソックの代わりをお願いだニャ!」
<<勝手に行きなさいよ!ジェノサイドなら手伝うけど、アタシは人助けとか車だし無理!>>
ガレージに戻ってきたクリスが大声を上げながら二体の悪魔を見送る。
木々や建物を跳躍しながら移動し、北養区の下にある参京区を目指した。
……………。
燃え上る参京区。
この地区には洗練された緑溢れる都市型集合住宅も多く、地域から羨望の眼差しを向けられる。
その為、金持ちの道楽住まいとして東の暴徒たちからも憎まれ、放火を繰り返されていく。
「パパーッ!!ママーッ!!しっかりしてよーッッ!!」
集合住宅は一階部分から燃やされ、既に上階は煙に巻かれていく。
住民たちが一斉に階段に殺到した為にすし詰めとなり、煙に巻かれた人々が倒れ込む。
既に下層部分の屋根に燃え移った炎も上階にまで迫ろうとしていた。
<<ニャ―!!こいつはとんでもない大火事だニャ!!>>
<<ゲホッゲホッ!!猫も煙を吸い込めば脳に酸素が行かなくなるのよ!>>
<<猫は9つの命を持つとか言うけど、オイラ達には一つしかないニャー!!>>
<<あんたが言い出した人命救助でしょ!気合を見せなさいよ!!>>
倒れた両親を心配して泣いている子供には、ケットシーたちの姿も声も認識出来ない。
神や悪魔の姿を認識出来る人類は、デビルサマナーか魔法少女のみ。
「そら!行くわよ!!」
「ニャニャニャ―ッッ!!」
倒れた人達を担ぎ上げ、集合住宅の共用廊下を下に向けて飛び降りる行為を繰り返す。
「おい……なんだよアレ?」
暴徒の1人が開けた場所に着地したネコマタとケットシーを見つけるが、認識出来ない。
「人が……浮いてる?」
彼らに見えているのは、猫悪魔たちが担いだ人間の姿のみ。
「煙に巻かれて飛び降りたのか?でも…どうして宙に浮いて…」
「そんなことどうでもいい!ここらも派手にやったし、俺達も水名区を目指して移動するぞ!」
集合住宅に火をつけた暴徒たちの姿が消えていくが、悪魔たちの人命救助は終わらない。
「まだ上の階にも逃げ遅れている人達がいるかもしれないニャ!」
「扉をこじ開けてでも中を確認して回るしかないわね…」
上階の扉を強引に開け、中で倒れこんだり助けを求める人達を強引に担いで飛び降りを繰り返す。
ケットシーは最上階の通路を走り、扉を開けて中に入る。
「ここの人達は無事に逃げれたのかニャ?…誰もいないニャ」
そう信じるしかないと判断し、リビングから出ようとするのだが…。
「ニャ?屋上でなんか…ドタバタしている騒音が………?」
次の瞬間、屋上の地面を突き破ってケットシーのいるリビングにまで倒れ込んできた人物の姿。
「ニャニャ―!!?この天井を突き破ってきた子…怪我塗れだけど、誰かに襲われたのかニャ?」
不意に屋上に何人かの魔力を感じ取り、ビビったケットシーは猫の姿に戻って隠れる。
上の穴から飛び降りてきたのは、東の魔法少女たち。
「無敵化の固有魔法が使えるなんてね…でも、直ぐに効果が切れるんじゃそこまで脅威じゃない」
「それに、お前の仲間と分断して個別撃破を狙えば対処出来たよ」
傷だらけの姿で倒れているのは、参京区を守る為に東の魔法少女と戦っていたあやめ。
「くっ…うぅ…このは…葉月…」
「よくも東の仲間達を殺してくれたわね!この人殺し!!」
「お前たちだけは許さない!!お前も殺してやる!!」
「何が…許さないだよ…!自分たちはダメで、人間ならいくらでも殺していいわけ…!?」
「そうよ!私たち魔法少女は絶対者!!人間は私たちに管理される家畜となるのよ!!」
「全ては魔法少女至上主義による、新しい社会を築くために!!」
「アンタたちの理屈…狂ってるよ!だからあちし達も…アンタ達になんて容赦してやらない…!」
「トドメを刺されそうな貴女が容赦しない?アッハハハ!聞いた?この子立場が分かってないよ」
「その口の減らない態度…二度と出来ないようにしてやらないとねぇ!」
東の魔法少女たちは魔法武器を構える。
死を覚悟したあやめ。
そんな状況を利用して東の魔法少女たちの背後に回り込んだ、猫姿のケットシー。
<<抜けば玉散る氷の刃…>>
悪魔化したケットシーは、攻撃力を上げる補助魔法である『タルカジャ』をかけていく。
「えっ?何よ、この子供の声!?」
<<研ぎすまされた妖刀!真・ネコマサの威力を見るニャー!!>>
声が聞こえた後ろに振り向けば、ネコマサの唐竹割りの一撃が迫りくる。
「ぎゃあ!!?」
「ぐえっ!!?」
唐竹割りの一撃が脳天にヒットし、2人は倒れ込む。
「もちろん、真・ネコマサも模造刀だニャ。オイラ本物の剣とか怖くて振り回せないニャ」
どうやら峰打ちによって、命までは奪わなかったようだ。
「ヌッハッハ!見たか悪魔の実力……なんて言ってる場合じゃなさそうだニャ」
あやめの横に近寄り、悪魔の回復魔法である『メディア』をかけてやる。
「えっ……?あちし、何が見えてるの…?」
「気が付いたかニャ?魔法少女のお姉ちゃん」
傷が癒え、霞んだ目が治ったあやめは両目を見開く。
そこにいるのは、人の様に立ち上がっている大きな帽子を被った猫悪魔の姿。
「うわ~~!!カワイイ!!!」
興奮したあやめに抱き着かれるケットシー。
「えっ?えっ?喋れるの!?大きな猫のヌイグルミじゃないよね!」
「悪魔を見るのは、初めてかニャ?」
「悪魔……?」
「オイラはケットシー。それに……」
玄関が開く音が聞こえ、視線を向ければネコマタの姿。
「大きな音がしたから駆け付けたけど…転がった子とその子は魔法少女?」
「こっちがネコマタ。オイラと同じ悪魔で、知的な猫のようだニャ」
「ようだじゃなくて、知的なの!」
「悪魔なんていたんだ…そんな存在がいるなんて、あちしはキュウベぇから聞かされなかったよ」
「あちし…?妙な一人称を使う子が尚紀のNPO法人でボランティアをしてると彼から聞いたけど」
「えっ!?尚紀お兄ちゃんの事を知ってるの!」
「知ってるも何も、オイラ達は尚紀の仲魔であり飼い猫だニャ」
「そうだったんだね……えっ?でも、それじゃあ…尚紀お兄ちゃんも……?」
「そ、それは……」
返答に困っていた時、近づいてくる魔力を感じ取り上の穴を見上げる。
「あやめ!!」
上から飛び降りてきたのは、脅威を退けて駆けつけてきた姉の2人。
「このは!葉月!!」
「な……何よ、こいつらは!?」
「待って…情報量が多過ぎるわ…。転がっているのは東の魔法少女で…目の前にいるのは?」
「え、えっとね……この猫ちゃん達はね、あちしを助けてくれた悪魔なの」
「……状況がまるで見えないわ」
「そ、そうだね…。取り合えず、外に出て話が出来る場所に移動しようよ」
「オイラ達……人命救助があって忙しいニャ」
「人間を助けてくれているの?悪魔が……?」
「悪魔の生き方は自由なの。それが私たち悪魔界隈の絶対的な掟…口を挟まれる謂れはないわ」
「別に文句があるわけじゃないの。私たちは戦闘で手が回らなかったから、大いに助かるわ」
「ねぇねぇ!この子たちは尚紀お兄ちゃんの飼い猫で…あちし達の事も聞いてたんだよ!」
「尚紀さんの身内だったのね…。人命救助をしてくれるなら、彼の意志を汲み取っている証拠よ」
「尚紀さんは、親を亡くした孤児達の味方だからね。尚紀さんの身内だと分かって安心したよ」
「ネコマタ……どうするニャ?」
「長い質問には答えられないわ。お互いにやることが多いでしょ?」
「そうね…取り合えず、この場から移動しましょう」
このは達姉妹についていくかのように跳躍する猫悪魔たち。
集合住宅前にもようやく消防車のサイレンが近づき、この場は任せることとなる。
人気のない場所で手短に悪魔について姉妹に説明をしていたのだが…。
「不味いわ…向こうから大勢の魔法少女たちの魔力が近づいて来たわね」
「東の魔法少女たちかしら?」
「アタシ達が迎え討つ。悪魔のアナタ達まで巻き込まないから安心して」
「あやめ姉ちゃん、死ぬんじゃないニャ。死んだらきっと尚紀が悲しむニャ」
「うん…大丈夫!あちし達は負けない……
このは達が走り出し、敵を迎え討ちに行く。
「人間社会を蔑ろにする者に対する怒りの感情…あの子達も尚紀と同じく社会主義者ね」
「どうりで尚紀が気に入っている魔法少女だと思ったニャ」
「行きましょう、ケットシー。私たちは人命救助だけに専念するわよ」
「了解だニャーッ!!」
二匹の悪魔たちも走り出し、助けを求める人間たちの為に動く。
燃え上る神浜の街の夜は更けていく。
尚紀もまた仲魔たちと同じく、必死になって人命救助に向かっていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
神浜の街に戻ってきたナオミは尚紀の頼みに従い、暴徒たちの裏側に潜む存在を探る。
暴徒たちが集まっている中、彼らに見つからないよう路地裏の角に隠れて視線を向けた。
「連中に銃の扱い方を教えている奴らは…」
民間人の服を纏い、頭部を隠す長身の男たち。
「間違いないわ……連中は便衣兵よ」
1人の便衣兵に指令が届いたのか、民衆から離れてハンディ無線機を使う。
「撤退の指示が出た。全員撤収準備」
便衣兵たちが民衆から離れるようにして路地裏を通っていく。
最後に並んでいた男が突然何者かに襲われ、開いていた雑居ビルの中に引きずり込まれた。
「貴方たちがこの極左テロを扇動している便衣兵ね?」
「
「…流暢な英語ね?」
ナオミが彼の覆面を剥ぎ取る。
どうやら彼は白人男性のようだ。
「
ナオミも英語を使い、尋問を始める。
「
「
左腰に吊るした封魔管の一つを手に取り、悪魔を召喚。
ただの人間にはその姿が見えないのか、彼女が何をやっているのか判断出来ない。
<<……手短ニ頼ムゾ>>
「イヌガミ、こいつの心を読みなさい」
【犬神】
人に憑依し害を為すとされる犬の霊。
四国を中心に九州、中国地方等で伝承される。
憑依された者は狂犬病に罹ったかの如く奇怪行動をとったり病に臥せったりして死に至る。
ある種の蠱毒(呪殺の技法)との説が有力である。
餓死しかけた犬の首には強い怨念が宿り、その首を呪物として犬の霊を行使したようだ。
はみ出し者や突然裕福になった家の者達をやっかみも込めて犬神を行使する犬神筋という。
金持ちの犬神筋は地域の人々から差別対象とされ、忌み嫌う事もあったという。
「ガルル…マタカ。偶ニハ人ヲ襲イタイノダガ」
「いいからやりなさい。お前は読心術を使う時ぐらいしか用事もないし」
「ヤレヤレ、悪魔使イガ荒イナ」
米軍兵だと思われる人物は、彼女が独り言を喋っているようにしか見えない。
彼女は悪魔に読心術を行使させ、情報を抜き取った後で急所に当身を入れ昏倒させた。
「やはりこの暴動の裏側には、東の魔法少女だけでなく米軍も絡んでいた……」
栄区近くの道を走り、情報で知り得た移動指揮車両の潜伏先を目指す。
「でも何故東の暴徒に冷戦時代の東の武器を渡したの?極左暴力団体の仕業と見せかけるため?」
この裏側には、米軍を操れる程の巨大欧米資本が絡んでいるのだと彼女は察する。
「こんな真似が出来るのは…イルミナティだけよ」
不意に彼女は強力な悪魔の気配を感じ取る。
「これは……悪魔の異界結界?」
それは、静香たちを飲み込んだ悪魔結界であった。
「まったく……イルミナティが絡むと、悪魔まで出てくるのも頷けるわね」
彼女もまた、イルミナティに雇われたことがあるデビルサマナー。
「いいわ……その悪魔から吐かせてあげる」
――イルミナティと、ルシフェリアンである彼らが崇める大魔王ルシファーの目的をね。
――――――――――――――――――――――――――――――――
時刻は既に日付が変わろうとしている深夜。
パトカーや消防のサイレンが鳴り止む事はなく、既に県内だけでなく県外からも応援が来る。
騒然とした市内、避難所に避難した西側の民衆たちは恐怖の夜を過ごす。
だが、避難所に迎えなかった為に犠牲となった市民は数知れない。
「ハァ…ハァ……次から次へとキリがない……」
人命救助を繰り返す尚紀。
顔は煤で汚れ、黒のトレンチコートも炎によって焼かれた為に脱ぎ捨てる。
黒のベスト姿のまま街を走り続け、火の手を見かけたら駆け付ける行為を繰り返す。
彼は人命救助を繰り返す中、多くの人間たちの死を目撃していった。
酸素吸入が間に合わずに死ぬ者や、酷い火傷によって命を落とす者。
路上では暴徒に襲われて亡くなった者たちの遺体、親が死んで泣き叫ぶ子供達の姿。
――疑うのは、その人物を知る行為。
――信じるとは、崇高で聞こえの良い概念だと考えるだろうが、他人を知る事の放棄。
――無関心だ。
青葉ちかに語った己の言葉が、繰り返し頭の中に浮かんでいく。
「俺は……また
――魔法を使って人間社会に害を与えるなら、俺がお前を殺してやる。
――わ、分かった!もう魔法を悪いことには使わないから許して!!
――こんなの……糞食らえ!!
――やめろぉ────ッッ!!!!
――アハハハハハ!!!魔法少女と関わるからそうなるんだよぉ!!
忌まわしき己の過ちによって1人の少女は魔法少女に殺され、残された家族は絶望した。
あの時彼は、魔法少女を根拠も無く信じてしまった。
月日は流れ、この神浜に流れてから正義の魔法少女と触れ合ううちに…もう一度信じてしまった。
「西と中央の魔法少女をもっと調べるべきだった…あんな役に立たない連中を信じたばかりに…」
その結果が……この地獄の光景。
<<誰か助けてーーーーッッ!!!!>>
悲鳴が聞こえ、考えることを止めた彼は現場に駆け付ける。
見れば燃え盛る家の前で膝が崩れ、泣き崩れた両親たち。
「何があった!!」
「子供が……娘が大切な品を家に忘れたから取りに戻ると言って……」
「放火は観光施設に向けて行われているから…民家にまで燃え広がらないだろうと…」
「私たちは止めたんですが…娘は避難所を出ていってしまったんです!!」
「我々も心配になって帰ってきてみたら……こんな光景になってしまった!!」
今日は風も強く、炎が風で流されているようだ。
「どうして……どうしてどいつもこいつも……」
――
その叫びは、自分をも含めている。
彼は業火が噴き出す民家の入り口に入り込む。
「何処だぁ!!生きてたら返事をしやがれぇ!!!」
返事は返ってこない。
闇雲に家の内部を探し回っていた時…。
「こ、この魔力は……こんな時にかよ!」
彼は振り返り、大火事の家の中に侵入してきた悪魔に視線を向ける。
「ハァ…ハァ…あ……貴方は……」
現れた人物とは、彼のマガタマを狙うペレネルの造魔であるタルト。
「また俺のマガタマを狙いに来たのか……いや、お前のその酷い傷は…?」
彼女の全身は酷い火傷だらけであり、人間ならば死んでいてもおかしくない程だ。
明らかに今負った火傷ではなかった。
「私は……ここの家主の娘が取り残されていると聞き、救出に来ただけです」
「悪魔のお前が……人命救助だと?」
「同じ悪魔である貴方に言われたくは……くっ……うぅ……」
片膝をつき、息を切らせる。
彼女は炎に優れた耐性を持つ悪魔ではなかった為、限界を迎えようとしていた。
「お前……そんな体のまま人命救助を繰り返したのか?なぜ回復魔法で傷を癒さない?」
「限りある魔力は、命の危機に晒された人々の為に使うべきだと……判断しました」
「感情の無い造魔のくせに……そこまでして人々の為に尽くせるのかよ……」
「私はジャンヌ・ダルクです…。これが…かつてタルトと呼ばれた者の在り方だと信じます」
「フッ……まったく、造魔にしておくのは勿体ないヤツだ。手分けして探すぞ!」
2人は手分けして探す為に動く。
「くそ!!無駄に広い金持ちの家は嫌になる!!」
彼は二階を探していたのだが、天井から聞こえる音に気が付いた。
「このきしみの音……屋根が保ちそうにないか…」
<<こちらです!!見つけました!!>>
彼女の声の元に向かえば、一階の物置で倒れていた少女を見つける。
「良かった……ギリギリ間に合いましたね」
タルトは回復魔法をかけ、何とか彼女の呼吸を取り戻せたようだ。
「回復魔法が使えない俺は…人命救助を繰り返しても大勢を助けられなかった。感謝する」
「その話は後にしましょう。早くこの子を連れて外に……」
「俺がその子を抱える。お前は先導しろ」
彼が少女を背中におぶり、ふらつきながらも炎の中を先導するタルト。
玄関まであと少しの通路を進んでいた時…。
「なんだ!?」
「天井が…!!」
ついに天井が保てなくなり、二階部分を含めた瓦礫が一気に2人に降り注ぐ。
「チッ!!」
悪魔化した彼は背負う彼女から両手を離し、天井を支える構え。
「くっ……!!」
尚紀が天井を抑え込み、玄関まで続く通路の天井が僅かに残る。
「俺が支える!!この子を早く……!!」
「で、ですが……!!」
「任せろ!!俺はこの程度では死なない!!」
「人修羅……これが、貴方の生き方なのですね…心得ました!」
背中から落ちた少女を抱え、タルトは玄関まで力を振り絞りながら走る。
彼女が玄関から飛び出した時、ついに玄関までの天井まで崩れてしまった。
「あぁ…!!よかった……無事でいてくれて!」
「すまない……全身火傷を負った君にまで救出に向かわせてしまって!」
喜ぶ両親に抱えた娘を託し、タルトは崩れた家に視線を向ける。
<聞こえるか…ジャンヌ?>
悪魔の念話が聞こえ、念話で彼女も返す。
<ご無事なのですか?>
<瓦礫を一気に弾き飛ばす。お前の近くにいるだろう人間たちを守ってやってくれ>
彼の意志に応えるかのように、彼女は焼け爛れた右手にクロヴィスの剣を出現させる。
<<おおおぉぉーーーーッッ!!!!>>
悪魔の剛力が、瓦礫の山を一気に弾き飛ばす。
「何だ!?」
「ひぃ!!」
両親は娘を庇う。
鈍化した世界、タルトは迫りくる瓦礫に対して次々と斬撃を振るっていく。
「ハァァーーーッッ!!」
切断された瓦礫が後ろの人々を超えていき、散乱していった。
「…………?」
両親が目を開き、周囲の状況を確認する頃にはタルトの姿も尚紀の姿も見えなかった。
……………。
2人は路地裏まで移動し、人間たちに悪魔の姿を見られないようにしている。
「ハァ…ハァ……うっ……」
ついに限界を迎えたタルトが倒れ込む。
「おい!しっかりしろよ!!」
彼女の上半身を右手で抱き起し、朦朧とした意識の彼女に声をかけ続けた。
「私……本物のタルトになりたいんです……」
「かつてタルトと呼ばれたジャンヌ・ダルクは……魔法少女だったんだろ?」
「知っていたのですか…?」
「ペレネルの元夫であるニコラスから聞いた。そして…歴史においても末路は知ってる」
致命的な全身火傷を負った今の彼女の姿は、まさに歴史を再現したかのように痛々しい。
「マスターが…造魔の私に求めるのは…タルトにもう一度普通の人生を与えること…」
「だからお前は…ペレネルの為に本物のジャンヌ・ダルクになろうとして…」
「どうでしたか…?私の選んだ生き方は……ジャンヌ・ダルクでしたか……?」
「会ったことがないから判断出来ないが……お前の生き様を語らせてくれるなら…」
――間違いなく、民衆を守る気高い英雄の姿だったぜ。
その言葉が聞けたタルトは、口元が僅かに微笑んだ。
「…認めてやるよ。お前は
左手を翳し、出現させた回復アイテムとは『宝玉』
「口を開けろ」
「えっ…?」
左手に握る宝玉を砕き、小さな欠片にして彼女の口の中に流し込む。
「ん……ん……」
彼女の全身が回復の光を放ち、全身火傷の傷が癒えていく。
宝玉とは、悪魔の体力を完全に回復する高級な回復道具だった。
「俺は……お前達のことを、誤解していたようだ」
彼の優しさが伝わったのか、タルトは自然と笑顔になっていく。
「……造魔でも、笑えるじゃねぇか」
「人修羅……後は……お願いします…」
「………尚紀でいい」
「ナオキ……フフ、素敵な名前ですね…」
「お前は造魔なんかで終わる存在じゃない」
――魔法少女として生きた、かつてのタルトそのものになれるさ。
その言葉が聞けて嬉しかったのか、彼女は両目を閉じていき眠りについた。
「……すまない。お前の体を焼いてしまったのは…俺の甘さのせいだ」
彼女を地面に寝かせ、彼は再び騒乱が続く街へと向かう。
「俺は…西と中央の魔法少女たちが、本物の人間の守護者なのかを見届けると言った」
彼女たちがこの惨劇を重く受け止め、革命魔法少女たちを極刑に出来るのならば何も言わない。
だが、温情を与えるかの如く…彼女たちを許してしまうのならば…。
犠牲になっていった被害者たちを見届けてきた彼は…怒り狂う。
その答えは…時期に出るだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――
時刻は日付が変わる深夜。
大攻勢を仕掛けた東の革命魔法少女たちであったが…形勢が逆転。
「南津さん、青葉さん、それに時女のみんな。協力に感謝するわ」
「ああ、まったくだ。神浜の魔法少女社会の長として…礼を言わせてくれ」
西の長のやちよと中央の長のみやこは合流し、時女一族も彼女たちに加わったようだ。
「礼ならいい。あたしらは日の本の為に戦う魔法少女一族さ」
「神浜の街とて日の本の街…それを破壊する者たちを、時女は決して許しません」
「日の本の為に戦う魔法少女一族…そんな一族がいたなんてね」
「なんにせよ心強い!さぁ…一気に反撃を開始するぞ!」
「私たちは革命魔法少女たちを殺してはならないと厳命されてますので、安心して下さい」
「あんた達には、捕らえた魔法少女たちの戦後処理もある。ここは時女が前に出るよ!」
涼子とちかが率いる時女一族が攻勢を仕掛ける。
西と中央、そして東から離反した魔法少女と時女一族が合流を果たし、革命魔法少女を押し返す。
「こ…この余所者連中……強い!!」
時女一族は魔法少女であると同時にヤタガラスの戦闘員。
戦闘技術に秀でた彼女たちによって、次々と革命魔法少女たちは拘束され無力化されていく。
支援に回っていた神楽燦だが、前方から迫りくる魔法少女連合の奮戦を見て大きな溜息。
「…コマンドポストとは、まだ連絡が繋がらないの?」
「はい……後方支援部隊も前線に迎えという指令を最後に……通信が途絶えました」
「…どうやら、私たちは見捨てられたようね」
「えっ……?」
踵を返し、燦は去っていく。
「ど、何処に行くのよ!!?」
「この魔法少女革命は茶番劇だったみたい。私はミユを連れて宝崎市に帰り、再起を図るわ」
「裏切る気なの!!」
「今日あったばかりの魔法少女に、仲間意識なんてないから。……さようなら」
跳躍し、彼女は予め決めておいたミユリとの合流地点を目指す。
「ま、待って!!置いていかないでよぉ!!!」
ルミエール・ソサエティのメンバーたちの士気が乱れ、一気に押し切られていく。
「……勝敗は、決したようですね」
右翼陣営を任されていた常盤ななかは、慌てふためき降参しだす革命魔法少女を見て溜息をつく。
「所詮は烏合の衆……頼りにしていた当てが無くなれば、我が身可愛さが出るカ」
「何処までも……自由という名の自分勝手な魔法少女たちだったからね」
「暴力革命を目指す連中なんて……内ゲバで滅びるのは常だと思います」
「これだけの魔法少女たちを裁く裁判劇……。見届けさせて貰いますよ、西と中央の長」
赤く燃え上る空をななかは見上げる。
空には警視庁から派遣されてきた特殊急襲部隊SATのヘリが飛び交う。
地上からも特殊急襲部隊SATを乗せた車列が水名区に向けて進んでいく。
自衛隊の特殊作戦群は、国民感情の配慮から出動を見送られたようだ。
「尚紀さん……私は貴方が私に伝えてくれた、社会全体主義を信じます」
雌雄は決したと判断したななかは踵を返し、戦場から離れていく。
「ななか……西や中央の子から人殺しだと嫌われてるから、みんなと一緒にいるのが辛いんだね」
「ま、待ってください!ななかさんを独りになんてさせませんよ!」
あきらとかこは彼女を追いかけ、残されたのは美雨のみ。
「ワタシは……間違てないネ。人を殺したら……もう二度と平穏には暮らせないヨ」
胸に手を当て、もう1人の自分の感情に目を向ける。
己の内なる心が呟くのは……社会安全保障の為に悪人共を皆殺しにしろと叫ぶ声。
神浜の惨劇は、もう時期終わる。
そして新たに始まるだろう。
革命がもたらした炎とは違う……新たなる怒りの炎が。
読んで頂き、有難うございます。