人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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117話 ラ・マルセイエーズ

日付も変わり、深夜の時間は過ぎていく。

 

ここは新西区の外れに用意した神楽燦と遊狩ミユリの合流地点のようだ。

 

神楽はスマホで何度もミユリに連絡を行おうとしているのだが連絡が通じず焦ってしまう。

 

「どうして!?なんで繋がらないの…あの子は私の電話は直ぐに通話してくれるのに!」

 

嫌な予感が募り、冷静な彼女も焦りを隠せない。

 

「まさか……そ、そんなことないわよね?あの子が殺されるだなんて…」

 

狂暴化したミユリの力を知っている彼女だが、それでもそれ以外に考えられなくなっていく。

 

みすぼらしい街灯に照らされ、独り佇む彼女の体は震えていた。

 

「えっ……ミユリ?」

 

魔力を感じ取り、開けた路地裏に入れる通路に視線を向ける。

 

近づいてくる足音が響いてくる。

 

美しい黒髪の長髪と漆黒の外套を靡かせる人物が歩み寄ってくるのだ。

 

「ミユリの魔力じゃない……それに、この魔力は…魔法少女でもない!?」

 

暗闇の中から現れたのはリズ・ホークウッドの姿だった。

 

「他の補給地点と区別するように赤いサインをつけていた。どうやら逃走ルートだったようね」

 

右手に持つのはミユリが使っていた地図。

 

それを見た神楽の顔が真っ青になっていく。

 

ミユリの地図を彼女の前に投げ捨て、腰から二本のダガーを抜く。

 

「これだけの惨事を引き起こしておいて、都合が悪くなれば逃げるの?」

 

「貴女……これを何処で!?」

 

「補給任務を行っていた魔法少女から奪い取ったわ」

 

「ミユを……ミユをどうしたのよ!?」

 

「あの狂人魔法少女?もちろん…殺したわ」

 

その言葉を聞いた神楽の顔が憤怒によって歪んでいく。

 

「貴様……よくも…よくも私の大切な仲間を!!!」

 

「貴女が誰かを大切に思う気持ちは、貴女達が犠牲にしてきた人々も同じように持っていた」

 

二本のダガーを構え、殺意を向けながらこう告げる。

 

「人々の大切な人を理不尽に殺しておきながら、自分はダメ?腐った()()()()()()()()()女め」

 

「黙りなさいッッ!!!!」

 

上半身を下げ、背中に背負うガトリング砲の銃口をリズに向ける。

 

「死ねぇぇーーーーッッ!!!!」

 

猛火が噴きあがる前にリズは足元の影に入り込み回避行動を行い姿を隠す。

 

「何処ッッ!!?」

 

今は深夜であり街の明かりによって無数の影が生まれている。

 

地の利は完全にリズ側にあった。

 

「くっ!!?」

 

ガトリング砲の銃身に巻き付いたのは影の鞭であり動きを拘束してくる。

 

「物騒な武器だけど…随分と年代物の機関銃を扱う女ね」

 

現れたリズが武器を奪い取ろうと力を込めるが相手は思った以上のパワーファイターだ。

 

「うあぁぁーーッッ!!!」

 

怒り狂った神楽は魔力を振り絞り、力任せに上半身を跳ね上げる。

 

「チッ!」

 

鞭ごと宙に浮かされたリズだが武器から手を離し、壁に叩きつけられる前に壁に着地する。

 

「あぁぁぁーーーッッ!!!」

 

神楽が魔力で生み出したのは両腕そのものをガトリング砲に作り替えたかのような機関銃。

 

両腕のガトリング砲の銃身が回転し薬莢が大量にばら撒かれ、壁走りを繰り返すリズを猛撃。

 

「機関銃を並べたところで、私が相手では無駄よ!」

 

リズは壁から跳躍を行う。

 

鈍化した世界。

 

美しく空を舞うリズが生み出した影の武器は弓であった。

 

空中から放つ弓矢の速射が神楽に向けて襲い掛かる。

 

「ぐっ!!」

 

重たい武器を扱う為に鈍重な彼女は回避が間に合わずに何本か矢が体に刺さった。

 

「どうして私の固有魔法が貫かれるの!?私の絶対防衛は物理攻撃を無効化出来るのに!?」

 

「私の元となった悪魔の力よ。あの女神は全ての神の守りを貫く力を授かっていたわ」

 

神だの悪魔だのと言ってくるが神楽は理解することさえ出来ない。

 

彼女は魔法少女として魔獣と戦ってきただけの者であり悪魔の存在など知らないのだ。

 

それ以外にも傭兵のような知識を持つリズは神楽の武器の運用方法を指摘してくる。

 

「機関銃の運用は航空支援や陣地を形成して敵を猛火で押し留める為に使うものよ」

 

伝説の傭兵の現身に武器の運用方法が間違っていると指摘された神楽は怒りがこみ上げてくる。

 

「最後ぐらい潔く散るべきよ」

 

唇を噛み締める神楽だが距離を一気に詰めれる移動が出来るリズにはガトリング砲は通じない。

 

「白兵戦しか…なさそうね…」

 

背負うガトリング砲を捨てた彼女が魔力で生み出した近接武器とは二刀流の銃剣である。

 

「フッ…いい覚悟よ」

 

リズは二本ダガーを逆手に持ちながら構えてくる。

 

「ミユの死を……お前の死で償わせてやる!!」

 

「その言葉……人々を理不尽に犠牲にした貴女達自身に返ると知りなさい!」

 

神楽が駆け寄り、二刀流の銃剣を用いて斬りつけにかかる。

 

リズは踏み込み、相手の右袈裟斬りを右のダガーで払い込み相手を後方に流す。

 

「がっ!!」

 

すれ違い時に逆手に持つ左のダガーで神楽の右脇腹を切り裂いていた。

 

「うあぁぁーーッッ!!」

 

痛みを麻痺させ、左武器の右薙ぎ。

 

右腕で右薙ぎを受け止め、伸びた左腕の関節に右腕を添えて重心を崩し、背後に回り込む。

 

「ぐっ!!」

 

左肘打ちが後頭部に決まり、神楽は倒れ込んだ。

 

「くっ……うぅ……」

 

起き上がろうとする彼女の周囲を歩くリズ。

 

冷酷な悪魔の目には、慈悲などなかった。

 

「ミユ……ごめんね…。私が…もう一度火祭りをしたいだなんて…言い出さなければ…」

 

「今更後悔しても遅いわ。貴女たちが理不尽に奪った人々の命は…返ってこないのよ」

 

「……そうね。魔法少女至上主義を掲げた者として……行く道を行くしかないわ…」

 

「来なさい。トドメを刺してあげるわ」

 

ふらつきながらも立ち上がり、最後の一撃として両手の銃剣で唐竹割りを狙ってくる。

 

逆手に持つ左ダガーで二本ナイフの刃を受けると同時に右手のダガーで相手の両腕を払う。

 

伸びきった両腕はリズの右腕で制圧され、がら空きとなった彼女の首元に刃が走る。

 

「あっ………」

 

逆手の左ダガーの刃が走り、神楽の首は一気に切り裂かれる。

 

「……っ!!」

 

骨まで切断される一撃だが、おびただしい出血を撒き散らしながらも彼女の両目は怒りに燃える。

 

「……終わりよ」

 

後ずさった彼女の千切れかけた首に決まった一撃とは、サマーソルトキックの一撃。

 

(……ミユ……円環で…また…会える…よ…ね……?)

 

神楽の首は大きく蹴り上げられ、千切れた頭部が宙を浮く。

 

首から血が噴き出し、倒れ込んだ神楽の遺体は生首と共に円環のコトワリに導かれた。

 

「…魔法少女至上主義も恐ろしいけど、それよりも恐ろしいのが啓蒙主義よ」

 

返り血を漆黒のマントで拭き、路地裏を後にしながらこんな言葉を残してくれる。

 

「誰かを傷つけていいのは、()()()()()()()()()()()を持つ者だけよ」

 

ルミエール・ソサエティの崩壊は近い。

 

残された存在は啓蒙主義と魔法少女至上主義をばら撒いた藍家ひめなだけであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

堕天使の異界結界に飲まれた静香達は命の危機に晒されている。

 

彼女達の空高くには強力な堕天使であるムールムールが迫っているからだ。

 

「そらそらぁ!!ネズミのように逃げ回るしか出来ないのか?魔法少女共ぉ!!」

 

空を飛ぶ巨大グリフォンから繰り出されるのは悪魔の炎魔法では上位となる『アギダイン』だ。

 

静香達は異界のビルディングを飛び越えながら回避を繰り返す事しか出来ない。

 

彼女達が飛び越えたビルに直撃した大火球がビルそのものを破壊し尽くしていく。

 

「な……なんて火力なのよアイツ!!」

 

「わ…私達が勝てる相手では……」

 

「諦めたらダメ!!正義の探偵は最後まで諦めないから事件を解決出来るんだよぉ!!」

 

「なんとかあいつを空から落とさないと…攻撃が届かないわ!!」

 

航空優勢から繰り出される一方的な攻撃によって静香達は絶体絶命の危機から抜け出せない。

 

「クックッ…狩りはいい……特に人狩りはな!これぞ悪魔貴族の嗜みよ!!」

 

騎士悪魔であるムールムールが腰の剣を抜く。

 

「さぁ……逃げてばかりでは狩られてしまうぞ!もっとあがけぇ!!」

 

空から斬撃を振るうと真空波が生み出される。

 

「何っ!!?」

 

静香達が次の跳躍場として向かっていた高層ビルが袈裟斬りに切断され、上層が滑り落ちる。

 

空をも切り刻む『虚空斬波』の一撃である。

 

この悪魔は優れたネクロマンサーであるだけでなく達人級の剣技さえ備えていたようだ。

 

「ハッハッハッ、行き止まりだぞ…小娘共?」

 

「くっ……」

 

空でホバーリングしながら彼女達を嘲笑う堕天使に向けて魔法少女達は果敢に攻めていく。

 

「負けるわけには…いかないよぉ!!」

 

ちはるが先にマギア魔法を仕掛ける。

 

左手で十手をなぞり、緑に輝く鬼火を纏わせる。

 

周囲に浮かぶ無数の光りが御用提灯となり空に浮かぶムールムールに散弾の如く発射する。

 

「そうだ…もっとあがけ!イキのいい獲物を狩ってこその狩りだ!!」

 

グリフォンが翼を羽ばたかせ、旋回移動しながらマギア魔法を回避していく。

 

「くっ……大きくて魔力もあって、スピードまで速いなんてズル過ぎるよぉ!!」

 

「闇雲に狙っても魔力消費するだけです!回避が間に合わないタイミングを狙うしかないです!」

 

「また逃げ出すか?追いかけっこも少々飽きてきたところだ」

 

ムールムールが右手の指を鳴らす。

 

「な…何をする気なの…?」

 

「今宵は大量の死者が出た。我はネクロマンサー…道端に転がっていた死体は有効利用する」

 

「なんですって!?」

 

「この酷い悪意の数……下から昇ってくるよ!!」

 

大きなビルの屋上に入れる入り口が大きな音を立てていく。

 

「な…何が近づいてきているの!?」

 

「汝らは先ほど……日の本の為に戦う一族だと言ったな?喜べ……」

 

入り口を突き破り、屋上に現れてきたのは無数の屍である。

 

「お前達が愛してやまない……日の本の民と戦わせてやろう!」

 

【ゾンビ】

 

動き出した死者の総称であり、起源は西インド諸島で信仰されるブードゥー教圏におけるもの。

 

呪術師が罪人を労働力として使役するという民間呪術伝承に拠るとされる存在だ。

 

一説には幻覚剤の類を用いて自我を奪い、労役に就かせていたともされていた。

 

「グッ……ゴガッ……」

 

青白い肌と瞳孔が開いた虚ろな目をした民衆達。

 

彼らの手には鈍器などが握られている。

 

「う…うそ……これって、本当に人間なの……?」

 

「まるで…映画とかで見たことがある…ゾンビみたいですね…」

 

「来るわよ2人共!!」

 

だらしなく開いた口から雄たけびを上げ、ゾンビとなった民衆達が津波のように襲い掛かる。

 

「よくも……日の本の民の死を愚弄したわね!」

 

静香が前に出て七支刀を水平に向けながら前に構える。

 

「時女一心流…瞳合わせ!!」

 

彼女の両目が大きく開く。

 

「グガッ!!?」

 

彼女の瞳に見られたゾンビ達の動きが一斉に止まってしまう。

 

彼女の固有魔法は阻止であるのだが、時女一心流の技との関連性は不明だ。

 

「この技の短所は…術を使う私も動けなくなるところが辛いわね…」

 

「でもこのチャンス、私が活かすよぉ!」

 

彼女が駆け抜け、十手から捕縄術で使うワイヤーを生み出しゾンビを囲うように張り巡らせる。

 

「えいっ!!」

 

一気にワイヤーを締め、ゾンビの群れを中央で纏めて拘束する。

 

「ほう?姑息な魔法…いや、術なのか?面妖な……」

 

空で高見の見物をしていたムールムールだが、魔力の高まりを感じる方角に視線を移す。

 

グリフォンの死角になる位置まで移動していたのはすなおである。

 

彼女が両手で持つ水晶が輝きを放つ。

 

「過去の戒めを込めて…全ての色は、輝く明日を犯せません!」

 

「ぬぅ!?」

 

堕天使が背後に振り向けばグリフォンの背後に現れたのは巨大な光球。

 

「未来への光を…塗り潰して下さい!!」

 

ムールムールの背後で光球が弾け、眩い光の熱が生みだされる。

 

彼女のマギア魔法である『明日への戒め』だ。

 

だが相手は魔獣ではない悪魔である。

 

<<ほほう、破魔の光を使うか?だが、残念であったな>>

 

「えっ…!?」

 

空の光が収まれば、そこには健在のムールムールの姿。

 

「そんな……!!全然効いていないだなんて!?」

 

「悪魔は属性魔法に耐性をそれぞれが所有する。我は破魔の光に対する耐性を持つ悪魔だ」

 

「悪魔の……属性耐性ですって!?」

 

「喝ッッ!!!!」

 

『悪魔の一喝』が衝撃となり、すなおを襲う。

 

「キャァァーーーーーッッ!!!」

 

まるで衝撃波に襲われたかのようにして彼女は吹き飛ばされ、ビルの窓ガラスを砕いていく。

 

「すなお!!」

 

静香の悲痛な叫びが木霊する。

 

「くっ……うぅ……」

 

高層ビル内部の壁に叩きつけられたすなおは倒れ込んでいるようだ。

 

「余所見をしていていいのか?」

 

ムールムールが剣を掲げ、強力な念波を放つ。

 

「グガッ…ガガッ!!!!」

 

拘束されたゾンビ達の体が内部から光を放つようにして輝いていく。

 

「死を愚弄するとは…こういうことだ!」

 

「この悪意の臭い……静香ちゃん離れて!!!」

 

「もう遅い!!」

 

次の瞬間、囚われたゾンビ達が大爆発を起こしていく。

 

触れるもの全てを爆弾化する業の魔法である『バイツァ・ダスト』の一撃が放たれる。

 

ゾンビ達はムールムールにゾンビにされた時、既に爆弾にされていたのだ。

 

「キャァァーーーーーッッ!!!!」

 

反応が遅れた静香が爆風に吹き飛ばされ、高層ビルから転落していく。

 

彼女の背中は爆発の際に撒き散らされた人間の歯や骨が突き刺さり、大量に出血している。

 

「静香ちゃん!!」

 

落下していく静香を追うように飛んでくるのはちはるの姿。

 

彼女は十手を隣ビルまで投げて突き刺し、十手ワイヤーを用いる落下移動で静香を追う。

 

間一髪で静香を抱きかかえたちはるがワイヤーを伸ばしながら地面に着地する。

 

「くっ…日の本の民を…まるで玩具のようにして弄ぶ…悪魔め……ぐぅ!!」

 

「静香ちゃん!?」

 

抱き留めようとしていたが静香の体が倒れ込んでいく。

 

空から降下してきたムールムールが彼女達を見下ろしてくる。

 

「所詮は魔法少女。神や悪魔の真似事が出来る程度の存在で本物の堕天使に叶うと思ったか」

 

「あ……あぁ……」

 

圧倒的戦力差を前にしたちはるもついには怯えていく。

 

たとえ時女の魔法少女を全員集結させていたとしても、この堕天使には叶わないと悟るのだ。

 

その光景をビルの屋上から見物していたのは藍家ひめなである。

 

「凄い…あいつの力なら、例え他の仲間達が西や中央に負けていたとしても…全員倒せる」

 

勝利を確信した彼女は屋上から跳躍し、ホバーリングするムールムールの近くに着地する。

 

「どう?サーシャが私チャンに与えてくれた…悪魔の力は?」

 

「どうして!?どうして堕天使が東の魔法少女側の味方をするのさ!」

 

「サーシャは私チャン達に何もかもを与えてくれる…あの子こそ、導きの光なのよ」

 

堕天使の威を借る存在に対して、空を飛ぶムールムールは視線を向ける。

 

その視線はまるで侮蔑を込めたかのようだ。

 

「さて…いい具合に絶望の穢れを纏いだした。汝らのソウルジェム…我が喰らってやろう」

 

「そうは……いかないわ…」

 

七支刀を地面に突き立て、体を起こしていく重症の静香。

 

「虫けらが。死に際に何をほざく?」

 

「私たちは…負けるかもしれない。それでも、日の本の民の為に…戦う意思だけは残すわ」

 

「静香ちゃん……」

 

「私たちの挫けない意思は、私たちが倒れたとしても…次の者たちを奮い立たせる光となる…」

 

七支刀を構え、炎を剣から生み出す。

 

「私の名は時女静香!!」

 

――時女一族の矜持を…誰よりも体現する者よ!!

 

静香が吼える。

 

彼女の挫けない心が、ちはるにも届いたのか彼女も魔力で十手を生み出す。

 

「静香ちゃん……何処までもついていくよ」

 

「ちゃる……ありがとう。せめて…すなおだけでも守りましょうね」

 

決死の覚悟を見せる者たちに対し、ムールムールが虚空斬波を放つ構え。

 

「バイバイ、時代錯誤な忍者魔法少女一族さん。カッコつけたまま喰われちゃいなさい」

 

勝利を確信したひめなとムールムール。

 

だが、その時…。

 

<<よく吼えたわね。それでこそ、ヤタガラス一族の魔法少女と言ったところかしら?>>

 

余りにも強大な魔力を背後から感じ取り、ひめなとムールムールは背後に振り向く。

 

一直線に伸びた異界の道路。

 

遠くに立つのは、封魔管から召喚されし悪魔を背後に従えたデビルサマナー。

 

<<破邪顕正の退魔炎!!恐れぬならば受けてみよ!!!>>

 

不動明王の退魔の炎を倶利伽羅剣に纏い、構えるのはナオミ。

 

「これが本気の…くりからの黒龍よ!!」

 

唐竹割りの斬撃を振るう。

 

業火が螺旋を描き、炎の中から現れたのは炎龍。

 

「き、貴様はぁーーーーッッ!!!」

 

ムールムールも虚空斬波を放つが、業火を切断しても勢いが衰えない。

 

「うおおおぉーーーーッッ!!!?」

 

空を飛ぶムールムールに炎龍は直撃し、一直線に堕天使を押し出していく。

 

高層ビル群を貫いていき、異界神浜市の北養区方面にまで伸びていった。

 

人修羅のマグマ・アクシスに匹敵する程の炎魔法だ。

 

「あ……あぁ……何が…起こったの…?」

 

頼りにしていた堕天使が消え、ひめなは全身を震わせながら近づいてくる存在を目にする。

 

魔法少女としての力を振るっても、これ程の存在を倒せる自信など彼女には無い。

 

炎龍が通り抜けた燃え上る道を歩き、ひめなの横をナオミは超える。

 

「……………」

 

横目で彼女に視線を向けたが、戦意を喪失している表情をしていたので無視した。

 

「あの人は…誰なの……?」

 

「デビルサマナーだと思うけど……」

 

2人は助かったのだと考えていた時、気を失っていたが意識を取り戻したすなおが駆け付ける。

 

「大丈夫ですか静香、ちゃる!」

 

「う、うん……見ての通り大丈夫だけど」

 

「あの物凄い魔法……それに、近づいてくるあの女性はデビルサマナーですか?」

 

「多分……そうだと思うよぉ」

 

3人の元まで近寄ったナオミに対し、魔法少女たちは怪訝な表情を浮かべる。

 

「あ……あの……貴女は…?」

 

状況がまるで飲み込めない2人に近づき、3人の状態を見る。

 

「貴女たち…傷が酷いわね」

 

「一体誰なんですか…?どうして私たちを助けて…?」

 

「貴女たちは、ヤタガラス一族の者でしょ?」

 

「どうして知ってるんですか…?」

 

「私も一時期、ヤタガラスに雇われていたデビルサマナーなのよ」

 

「ヤタガラスのサマナーだったんですね…。私たちの応援に来てくれ……あれ?一時期?」

 

「今はフリーのサマナーよ。別件で神浜市に来ていた時に…この騒動に巻き込まれたのよ」

 

「そうだったのですね……うっ……」

 

背中に負った傷の痛みは痛覚が半分以上麻痺していても堪えるのか、静香が片膝をつく。

 

「助けてあげてもいいけど、ヤタガラス一族の者なら交換条件よ」

 

「ケチんぼ!!傷ついて痛がってる静香ちゃんに向かって…なんて言いぐさだよぉ!」

 

「貴女たち時女一族なら、葛葉一族を知ってるでしょ?」

 

「ヤタガラス最強の退魔師一族だと…存じてます。……それが何か?」

 

「葛葉一族の中に…レイ・レイホゥと呼ばれる人物がいる。居所を知らない?」

 

3人は顔を見合わせ、互いに首を振る。

 

「……そう。3人とも、どうやら知らないみたいね」

 

左腰に吊るした封魔管の一つを手に取る。

 

「私は……ボランティアは嫌いなの。それでも…これは老師の為よ」

 

召喚された悪魔とは、秘神ソーマ。

 

ゾロアスター教において霊薬のとれる神樹であるハオマを彷彿とさせる力が行使される。

 

「な、なに……?これは!?」

 

彼女達の傷は完全に癒え、活力までみなぎる程の回復力。

 

『ソーマ神権現』の成せる奇跡である。

 

「あ、ありがとうお姉さん!ケチんぼなんて言ってごめんね……」

 

「……礼なら、嘉嶋尚紀というお人好しの男に言うべきね」

 

「えっ!?尚紀先輩のことを知ってるの!」

 

「もしかして……別件で神浜市に訪れたというのは、嘉嶋さんの件で?」

 

「ふぅ……ヤレヤレ、世間は本当に狭いわね」

 

離れた位置で青い顔をしたままのひめな。

 

だが、頼りにしていた悪魔の気配を感じ取り視線を北部に向ける。

 

「アハッ!あいつ……あれでも死ななかったじゃん!!」

 

ひめなの声を聞き、3人は視線を向ける。

 

遠くには、燃え上る巨大な騎士が猛スピードで走ってくる姿。

 

<<まだだぁ!!まだ終わりではないぞぉーーッッ!!!!!>>

 

愛馬とも言えるグリフォンを乗り捨て、剣を振りかざした悪魔に対しナオミが前に出る。

 

「貴女たちが勝てる相手ではないわ。ここは私に任せなさい」

 

「で、でも……」

 

封魔管の一つを手に取り、不敵な笑み。

 

「見ていなさい、魔法少女たち」

 

――これが…デビルサマナーの戦いよ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

迫りくる悪魔騎士。

 

その巨体は10メートルを超え、ナオミとの身長差は9メートル以上にも及ぶ。

 

「現れなさい、魔王シュウ!!」

 

封魔管から召喚され、ナオミの背後に現れたのは中国の伝説の魔王であるシュウ。

 

「クック…今宵は実に愉快。我も人間どもの血祭を見ていて血が騒いでおったわ」

 

「血がたぎっていたのなら、暴れさせてあげるわ」

 

「あの堕天使が相手か?興醒めだが、燃え上る血潮を鎮める相手としては申し分ない」

 

「戦の魔王と呼ばれしお前の力…私に与えなさい!」

 

ナオミに憑依するかのようにして消えていくシュウ。

 

彼女の両目が見開き、悪魔と同じ真紅の瞳と化す。

 

「ぬぉぉぉーーーッッ!!!!」

 

巨大な剣を振りかぶり、袈裟斬りの角度からナオミに斬りつけにかかる。

 

「危ないッッ!!!」

 

避けようともしないナオミを見て、静香が声を張り上げるのだが…。

 

「えっ……!?」

 

「う、うそ……!!」

 

巨人の剛力と技の一撃が静止している。

 

刃を受け止めていたのは、魔王シュウが持つ武器の一つである青龍偃月刀と酷似した偃月刀。

 

「ハァァーーーッッ!!!」

 

巨大な刃を押し返し、次々と繰り出される斬撃を真正面から捌いていく。

 

まるで人間とウサギの身長差の勝負を物ともせずに打ち合いを続ける光景。

 

「凄い…なんて力なのよ」

 

「あれが……デビルサマナーの戦いなのですね」

 

「そうかもしれないけど……単純にあの女の人が強いだけかも」

 

ナオミの斬撃を刃で受けるが、弾かれる程の剛力。

 

「くっ!!この力……まさに戦の魔王と呼ばれしシュウの力!!」

 

武器を左右に回転させ、腰を落とし足を半歩開き、左手を垂直に構え、偃月刀を背中に構える。

 

ムールムールは巨人であるため、的が小さく斬撃が狙い辛い。

 

巨大な体はそれだけで全身が的とも言える面積を持つ。

 

尊大な態度を表すかの如き悪魔の巨体は、己自身に向けての足枷となってしまう。

 

繰り出す逆袈裟斬りを跳躍回避、そのまま旋風脚を左頬に繰り出す。

 

「ゴハァ!!!」

 

悪魔の巨体が蹴り飛ばされ、ビルを砕いていく。

 

「ぐっ……バカな……堕天使の中でも上位に入るこの我が……手も足も出ないというのか!」

 

炎によって焼かれた黒ずんだ騎士鎧の体を持ち上げていたが…。

 

「ぐあぁぁーーーーッッ!!!」

 

飛来してきた偃月刀がムールムールの額に突き刺さり、苦しみ悶える。

 

歩いてくるナオミの右手に握られているのは、シュウの持つ武器の一つである太極剣と似た剣。

 

「おのれ……おのれおのれ……おのれぇぇーーーーッッ!!!!」

 

巨体を起こしたムールムールが最後の一撃とばかりに猛撃を仕掛ける。

 

「フフ、ここまでタフだとはね。でも…これで終わりよ」

 

足を開き腰を落とし、放つ一撃とは太極剣を槍の如く一突きするが如き箭疾歩。

 

袈裟斬りよりも早く決まったのは、一直線に伸びてきた一撃。

 

「ガッ……!!?」

 

胸を貫かれ、手を離すと同時にシュウが持つ本来の大きさとなった剣が堕天使の体を背まで貫く。

 

ついに悪魔の巨体が倒れ込み、勝敗は決した。

 

「やったーっ!!!あの人…あんな強い悪魔に勝てちゃったよぉーっ!!!」

 

遠くで見守っていた3人が喜び、ちはるはすなおに抱き着き体全体で喜びを表した。

 

「凄いわねあの人…あのサマナーの実力は、もしかしたらあの14代目葛葉ライドウに迫るかも」

 

虫の息となったムールムールに近づいてくる。

 

「死ぬ前に答えなさい。お前の主は大魔王ルシファーで間違いないわね」

 

「……相違ない」

 

「魔法少女と東の市民を裏から操り、この街で暴力革命を起こした目的は何?」

 

「クックッ……聞いてどうする……?」

 

「お前たちは最初からこの街に革命をもたらす事など考えてはいない。違うかしら?」

 

「その部分については……考えの通りだ。我らの目的は……黒きメシアの覚醒を促すこと」

 

「黒き……メシア……?」

 

「あの方こそが…我ら貶められし悪魔の希望。もう直ぐ起こるだろうハルマゲドンを勝利に導く」

 

「その黒きメシアって……もしかして人修羅のこと?」

 

「怒れ…怒り狂えメシアよ…。人間共の死と、己の甘さ…そして魔法少女達に対して怒り狂え…」

 

ムールムールの体から死に際に発するマグネタイトの光が発せられていく。

 

――あの方こそ……もう1人の裁く者となりしお方。

 

――ルシファー様が…半身を取り戻し…一つとなりてかつての天使長の力を取り戻す日も…。

 

――……近い。

 

悪魔の体が爆発し、異界の空に向けて莫大な感情エネルギーを放出。

 

断片的にだが情報を引き出せたナオミだが、異界の空を見上げる。

 

「おかしいわ…悪魔を倒したのに異界結界が解けないだなんて…」

 

それは、この異界結界を構築していたのはムールムールではないということを表す。

 

その頃…。

 

「そんな…あんなに強い悪魔が手も足も出ないだなんて…私チャンじゃ勝てない!」

 

頼りのムールムールを失ったひめなは逃走し、闇雲に異界世界を逃げ回る。

 

彼女は悪魔の知識は何も知らず、どうやって異界を出たらいいのかも分からない。

 

「えっ……この巨大な魔力は……?」

 

ひめなが走って逃げていたのは北部方面。

 

「あ……あれはまさか!?」

 

前方から走ってくる巨体の猛獣

 

「グオォアァァァァーーーッッ!!!!」

 

くりからの黒龍に焼かれ、翼を焼き尽くされた黒焦げのグリフォン。

 

怒り狂う猛獣がこの異界結界を生み出していたようだ。

 

「こっちに来る!!」

 

ひめなは慌てて跳躍回避しようとするが…。

 

「オォォーーーーーッッ!!!!」

 

怒り狂う獣が前方に見えた虫けらに対し、容赦なく恐ろしい爪を振り上げる。

 

「あっ………?」

 

グリフォンが放つ『狂乱の剛爪』が…彼女の下半身を引き裂いた。

 

路地裏に転がり落ちる彼女の上半身など意に介さず、主と自分を傷つけたサマナーに向かう姿。

 

「この魔力は……さっきのグリフォンだよぉ!!」

 

北側から迫るグリフォンに気が付いた魔法少女たちが武器を構える。

 

「私たち3人の力を合わせて止めるわよ!!」

 

静香は七支刀を天に掲げ、ちはるは十手に鬼火を纏わせ、すなおは水晶を輝かせる。

 

静香のマギア魔法である巫流・祈祷通天ノ光の光がグリフォンに直撃していくが止まらない。

 

ちはるのマギア魔法である魔法同心・ちはる捕物帳を受けても怒りを爆発させていく。

 

すなおのマギア魔法である明日への戒めは破魔属性であり、グリフォンの耐性が防ぐ。

 

「ダメ!!止められない!!!」

 

「グオォアァァァァッッ!!!!」

 

彼女たちもひめなと同じく引き裂こうと前足の爪を振り上げる姿。

 

だが、それよりも早く飛来するのはシュウが持つ武器の一つである両刃斧。

 

大きさが元に戻っていく両刃斧が爪を振り下ろすよりも先にグリフォンの頭部を切断。

 

「えっ……?」

 

死を覚悟していたが、目の前の悪魔が突然倒れ込む姿に茫然とする3人。

 

グリフォンの体が爆発し、感情エネルギーの光を撒き散らす。

 

異界結界が解け、通常の神浜市へと戻っていった。

 

「すっごいカッコよかったよお姉さん!探偵もいいけど…サマナーもなんだか憧れちゃうよぉ!」

 

「何から何まで助けて頂き…本当にありがとう御座いました」

 

3人はナオミに礼を言い、自分達の目的も彼女に伝える。

 

「そう、貴女たちは再び栄区の救援に向かうのね」

 

「貴女はこれからどうするんです?」

 

「私は手に入れた情報を頼りに工匠区に潜伏している移動指揮車両を目指すわ」

 

「あの…本当にありがとうございました。せめて、お名前だけでもお伺いしてもいいですか?」

 

静香の真っ直ぐな感謝の眼差しを見て、この子は人間の善良な部分しか見ない危うさを感じた。

 

「……ナオミよ。感謝するのはいいけれど、私が貴女たちを騙し打ちする可能性も考えなさい」

 

「えっ……?どういう意味ですか?」

 

「信じることは大切よ。それと同時に疑いの感情も持たなければ…先の脅威に備えられないの」

 

「そんな…ナオミさんは義に熱い素敵な女性です!」

 

「そう思わせる手口もあるの。信用出来る素振りを見せて近づき、背後から襲う敵もいる」

 

「……………」

 

「私も…同じ手口を使われて、大切な家族を失ったの」

 

「まさか……葛葉一族にいるというレイ・レイホゥという人物は……」

 

「…これはイエス・キリストの言葉だけど、ためになるから覚えておきなさい」

 

マタイ福音書第7章15節。

 

――にせ預言者を警戒せよ。

 

――彼らは、羊の衣を着てあなたがたのところに来るが、その内側は強欲なおおかみである。

 

「それは……聖書の言葉ですか?」

 

「人は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()悪癖がある。情報とは疑うことで調べるの」

 

「イエス・キリストは……人を信じるだけでなく、疑う大切さも説いていたのですね」

 

「…それだけよ。貴女たちの武運を祈るわ」

 

「ナオミさんこそ、ご自愛下さい。貴女の道はきっと…過酷な道になると思います」

 

「…覚悟は出来ているわ」

 

彼女たちはそれぞれの道に向かう。

 

その頃…通常空間の路地裏では。

 

「くっ……うぅ……」

 

下腹部から大量の血を流し、這いながら逃げようとするのは藍家ひめな。

 

「助けて…ヒコ君……助けてぇ……サーシャ……!!」

 

彼女の腹部に見えるソウルジェムには、亀裂が入っていく。

 

穢れを発し、致命傷と絶望の感情から直ぐにでも円環のコトワリに導かれるだろう。

 

路地裏を這いつくばる敗北者の姿。

 

彼女の自由を求める理想は潰え、終わろうとしている。

 

<<フフッ、素敵な姿になりましたね。ひめちゃん>>

 

「そ…その声は……!」

 

薄暗い路地裏の奥に見えるのは、恐ろしい片目の眼光。

 

真紅の片目が近づき、現れたのは演奏者として演奏を披露するドレス姿のアレクサンドラ。

 

「貴女たちは十分役に立ってくれました。……もう用済みですね」

 

「な……何を言っているのサーシャ…?私チャンたちは……友達だよね?」

 

「そう思い込んでいたのは貴女だけです。思い込みの感情に支配された者を操るのは容易いです」

 

その言葉を聞き、ソウルジェムが一気にどす黒い光を放ち始める。

 

「騙したの……?私チャンたちは最初から全員……見捨てるために戦わせていたの!?」

 

「人を操るのに洗脳魔法など必要ありません。人間の思考バイアスを操ればいいだけです」

 

歯を食いしばり、怒りの感情を向ける。

 

「あなたも……悪魔でしょ!?本物の栗栖アレクサンドラは何処よ!!」

 

「冴えてますね。本物の魔法少女としての栗栖アレクサンドラは……()()()()()()()

 

「えっ……食べ…た……?」

 

「寂しそうな貴女を、栗栖アレクサンドラと同じところに…連れて行ってあげます」

 

俯けに倒れた彼女の横腹を蹴る。

 

「ぐっ!!」

 

仰向けに倒れた彼女の腹部には、四弁花を思わせる濁り切ったソウルジェム。

 

アレクサンドラはソウルジェムをもぎ取る。

 

右手に持ったソウルジェムの形を卵の形へと変えた。

 

「な、何をする気!?」

 

「先ほど言いましたよね?本物の栗栖アレクサンドラが、どうなったのかを」

 

美しいアレクサンドラの顔が、悪魔の如き邪悪な笑みを浮かべていく。

 

「いや……やめて……やめてよぉ……助けて……助けてヒコ君……」

 

口を開き、右手に摘まんだ藍家ひめなのソウルジェムを口に近づける。

 

――やめてぇぇぇぇーーーーッッ!!!!!

 

次の瞬間、ソウルジェムはアレクサンドラに飲み込まれた。

 

「あっ………?」

 

彼女の瞳のハイライトが消える。

 

ソウルジェムは悪魔の体内で絶望による破裂現象を起こし、莫大な感情エネルギーを生み出す。

 

体内で産声を上げることも出来ずに取り込まれた魔女は、円環のコトワリには導かれない。

 

悪魔という概念存在の一部として、永遠を生きるのだ。

 

円環のコトワリに導かれない遺体はこの世に留まるかのようにして、転がっている。

 

…藍家ひめなの最後である。

 

「君の絶望は…極上の味わいだったぞ。突然私に殺されたアレクサンドラよりも美味であった」

 

踵を返し、路地裏の奥へと消えていく栗栖アレクサンドラの姿をした悪魔であった。

 

……………。

 

参京区にある水徳寺の縁側には、空から監視任務を行う緑の和装魔法少女の姿。

 

白い一つ目雑面布の奥の両目は閉じられ、複数の街の光景を監視カメラのように観察する。

 

「……………」

 

水名区、参京区、中央区、栄区とくまなく空から監視。

 

魔法少女連合に拘束されていく東の魔法少女の姿や、街から逃げ出す余所者魔法少女達の姿。

 

「……どうやら、魔法少女同士の戦いは、雌雄を決したようですね」

 

両目を開き、折り紙鴉に送っていた魔力を断ち空から落とす。

 

――あとは、時女が関与する訳にはいかない…人間社会の暴動だけです。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

深夜も4時を超えた水名区。

 

神浜で最も燃やされてしまった地区となったこの街は、未だに消火活動もままならない。

 

それは東から来た暴徒共が水名区に集結し、警察との血みどろの抗争を繰り返していたからだ。

 

警察の特殊部隊であるSATと合流を果たした機動隊と緊急時初動対応部隊が攻勢に出る。

 

銃で武装した武装暴徒たちが次々と撃ち殺され、武装していなかった暴徒たちは逃げ惑う。

 

水名区は既に包囲され、暴徒たちが逃げ出す隙間など無い。

 

「我々は負けない!!徹底抗戦だぁ!!!」

 

生き残った武装暴徒たちが立て籠る場所として選んだのは…呪われた神浜の歴史の象徴。

 

戦国時代から続く城下町地区に残されていた…水名城だ。

 

城に立て籠った武装暴徒たちはバリケードを作り、取り囲む警官隊を相手にする。

 

しかし、彼らに補給物資を運んでいた革命魔法少女たちは既にいない。

 

補給物資をトラックで運んでいた部隊も既に神浜からは消えている。

 

籠城戦を行う彼らは既に…補給物資が尽きていたのだ。

 

民衆独裁政府パリ・コミューンとヴェルサイユ政府軍との間に起きた血の1週間を彷彿とさせた。

 

……………。

 

中央区電波塔。

 

頂上に聳え立つアンテナゲイン塔の足場には、ペダルハープとドレス姿のアレクサンドラ。

 

「…現代まで続くフランス国歌とは、フランス革命時代に生まれた革命歌であり愛国歌」

 

悪魔の指が、ハープの弦に振れる。

 

栗栖アレクサンドラとして歌うのは、この暴力革命が起きた神浜市に送る曲。

 

――ラ・マルセイエーズ――

 

――Allons enfants de la Patrie,(行こう祖国の子らよ)

 

――Le jour de gloire est arrivé !(栄光の日が来た)

 

――Contre nous de la tyrannie,(我らに向かって暴君の)

 

――L'étendard sanglant est levé,(血塗れの旗が掲げられた)

 

――Entendez-vous dans les campagnes(聞こえるか戦場の)

 

――Mugir ces féroces soldats ?(残忍な敵兵の咆哮を)

 

――Ils viennent jusque dans vos bras(奴らは汝らの元に来て)

 

――Égorger vos fils, vos compagnes !(汝らの子と妻の喉を掻き切る)

 

「どうするんだよ…もう逃げ場なんてねーぞ!!」

 

「諦めるんじゃねーよ!俺たち東の自由と平等がかかってるんだぞ!!」

 

「こんな暴動…最初から無理だったんだぁ!!」

 

「いやだぁ!!殺される!警察に投降しよう!!」

 

「こいつらは反革命分子だ!!粛清しろぉ!!!」

 

暴徒たちに撃ち殺されていく暴徒たち。

 

――Aux armes, citoyens,(武器を取れ市民らよ)

 

――Formez vos bataillons,(隊列を組め)

 

――Marchons, marchons !(進もう進もう)

 

――Qu'un sang impur(汚れた血が)

 

――Abreuve nos sillons !(我らの畑の畝を満たすまで)

 

「革命に逆らう者はこうだ!この革命こそ、我ら東市民の自由・平等・博愛を勝ち取るものだ!」

 

「武器をとれ!恐れるな!隊列を組んで資本主義者と差別主義者共を皆殺しにするんだ!!」

 

「俺たち東の労働者達こそが!プロレタリア政権を築き!神浜市政を根底から変える!!」

 

「その先にこそ!この神浜に真の平等による平和を取り戻せる日である!!」

 

自由と平等を掲げ、理性主義の博愛を掲げる者たちがやる…外道行為。

 

左翼研究家の間では、左翼の言葉は本音の裏返しだという。

 

独裁するな=独裁したい。

 

差別するな=差別したい。

 

平和がいい=平和を破壊したい。

 

左翼思想に狂った八雲みたまと和泉十七夜もまた同じ。

 

平和を望みながらも神浜の滅びを望んだ者たち。

 

左翼の理屈とは、自分は良くてお前はダメというサンドバッグ理論であるダブルスタンダートだ。

 

――Que veut cette horde d'esclaves,(何を望んでいるのかこの隷属者の群れは)

 

――De traîtres, de rois conjurés ?(裏切り者は陰謀を企てる王共は?)

 

――Pour qui ces ignobles entraves,(誰の為にこの卑劣な足枷は)

 

――Ces fers dès longtemps préparés ?(久しく準備されていたこの鉄枷は?)

 

――Ces fers dès longtemps préparés ?(久しく準備されていたこの鉄枷は?)

 

――Français, pour nous, ah ! quel outrage(フランス人よ我らの為だ。何という侮辱)

 

――Quels transports il doit exciter !(どれ程か憤怒せざるを得ない)

 

――C'est nous qu'on ose méditer(奴らは我らに対して企てている)

 

――De rendre à l'antique esclavage !(昔のような奴隷に戻そうと)

 

「警官隊が突撃してきたぞぉーーッッ!!!」

 

バリケードを破壊したのは、警官隊が用意したブルドーザー。

 

残り少ない弾薬のまま武装暴徒たちが応戦するが、次々と撃ち殺されていく。

 

――Aux armes, citoyens,(武器を取れ市民らよ)

 

――Formez vos bataillons,(隊列を組め)

 

――Marchons, marchons !(進もう進もう)

 

――Qu'un sang impur(汚れた血が)

 

――Abreuve nos sillons !(我らの畑の畝を満たすまで)

 

武装暴徒たちはついに城の中に逃げ込み、退路は断たれた。

 

「もうダメだぁ…お終いだぁ……!!」

 

「こんな暴動に付き合ったばかりに……父さん…母さん…ごめんよぉ…」

 

「誰だよ!!こんな暴動を始めたヤツは!!」

 

「お前だろ!?」

 

「俺じゃない!!お前こそ嬉しそうに西の連中をボコって殺しただろうがぁ!!」

 

城内で醜い内ゲバを始めていく暴徒たち。

 

これはフランス革命期のジャコバン派だけでなく、昭和の日本赤軍でも行われた光景。

 

夏目かこはこう言った。

 

暴力革命を目指す連中なんて、内ゲバで滅びるのは常だと思いますと……。

 

――Quoi ! des cohortes étrangères(何と!外国の軍勢が)

 

――Feraient la loi dans nos foyers !(我らの故郷に来て法を定めるだと)

 

――Quoi ! ces phalanges mercenaires(何と!金目当ての傭兵の集団が)

 

――Terrasseraient nos fiers guerriers !(我らの気高き戦士を打ち倒すだと)

 

――Terrasseraient nos fiers guerriers !(我らの気高き戦士を打ち倒すだと)

 

――Grand Dieu ! par des mains enchaînées(おお神よ!両手は鎖で縛られ)

 

――Nos fronts sous le joug se ploieraient(頸木を嵌められた我らが頭を垂れる)

 

――De vils despotes deviendraient(下劣なる暴君共が)

 

――Les maîtres de nos destinées !(我らの運命の支配者になるなどありえない)

 

「ヒィィーー!!門が破られるぅぅーーッッ!!!」

 

特殊部隊の突入班が溶融切断器材を用いて城門を焼き切っていく。

 

武装暴徒たちを恐怖政治で纏めていたリーダー格の男は、覚悟を決める。

 

「我々は敗北する!だが、我々の勇気ある革命行為は…次の世代にも次の世代にも継がれる!!」

 

暴徒のリーダーは、残されていた火炎瓶を手に持つ。

 

そして…あろうことか、自分達が立て籠もる城内を燃やしていくのだ。

 

――Aux armes, citoyens,(武器を取れ市民らよ)

 

――Formez vos bataillons,(隊列を組め)

 

――Marchons, marchons !(進もう進もう)

 

――Qu'un sang impur(汚れた血が)

 

――Abreuve nos sillons !(我らの畑の畝を満たすまで)

 

「嫌だぁーーッッ!!!こんな平等革命なんて糞喰らえだぁーーーッッ!!!」

 

暴徒の1人がリーダー格の男を射殺。

 

それと同時に門を破壊した特殊部隊SATの隊員たちが城内にエントリー。

 

激しい銃撃戦が繰り返されながらも、火の手は天守閣となる城を燃やしていく。

 

――Tremblez, tyrans et vous perfides(戦慄せよ暴君共そして国賊共よ)

 

――L'opprobre de tous les partis,(あらゆる徒党の名折れよ)

 

――Tremblez ! vos projets parricides(戦慄せよ貴様らの親殺しの企ては)

 

――Vont enfin recevoir leurs prix !(ついにその報いを受けるのだ)

 

――Vont enfin recevoir leurs prix !(ついにその報いを受けるのだ)

 

――Tout est soldat pour vous combattre,(全ての者が貴様らと戦う兵士)

 

――S'ils tombent, nos jeunes héros,(たとえ我らの若き英雄が倒れようとも)

 

――La terre en produit de nouveaux,(大地が再び英雄を生み出す)

 

――Contre vous tout prêts à se battre !(貴様らとの戦いの準備は整っているぞ)

 

燃え上る城内。

 

撃ち殺された死体。

 

燃え上る火事に全身を包まれ火達磨となる者。

 

天守閣まで逃げた1人が、狂った笑い声を上げていく。

 

「ハハハ…ハハハ……!!これが…これが平等の光景かよ!何処に…平等があるんだよぉ…!」

 

狂った男はこめかみに拳銃を向け…引き金を引いた。

 

――Aux armes, citoyens,(武器を取れ市民らよ)

 

――Formez vos bataillons,(隊列を組め)

 

――Marchons, marchons !(進もう進もう)

 

――Qu'un sang impur(汚れた血が)

 

――Abreuve nos sillons !(我らの畑の畝を満たすまで)

 

「暴徒たちの制圧を確認」

 

「本庁より指令があるまで待機」

 

「酷いな…こんな極左テロリズムが令和に起こってしまうだなんて…」

 

「神浜って街は……平等主義に狂ったゴミ溜め共の街だったんだよ」

 

「あぁ……こんな街に産まれなくて良かったよ」

 

――Français, en guerriers magnanimes,(フランス人よ寛大な戦士として)

 

――Portez ou retenez vos coups !(攻撃を与えるか控えるか判断せよ)

 

――Épargnez ces tristes victimes,(あの哀れなる犠牲者を撃つ事なかれ)

 

――À regret s'armant contre nous.(心ならずも我らに武器をとった者たち)

 

――À regret s'armant contre nous.(心ならずも我らに武器をとった者たち)

 

――Mais ces despotes sanguinaires,(しかしあの血に飢えた暴君共には)

 

――Mais ces complices de Bouillé,(ブイエ将軍の共謀者らには)

 

――Tous ces tigres qui, sans pitié,(あの虎狼共には慈悲は無用だ)

 

――Déchirent le sein de leur mère !(その母の胸を引き裂け)

 

――Aux armes, citoyens,(武器を取れ市民らよ)

 

――Formez vos bataillons,(隊列を組め)

 

――Marchons, marchons !(進もう進もう)

 

――Qu'un sang impur(汚れた血が)

 

――Abreuve nos sillons !(我らの畑の畝を満たすまで)

 

「……平等主義を掲げ、共産主義を振りかざす暴力団体は…日本だけでなく世界中にいる」

 

「隊長……」

 

「黒人平等を掲げる暴力団体、フェミニズムを掲げる暴力団体、平等主義に狂った狂人団体だ」

 

「こんな光景は……日本だけじゃなく、今この瞬間でも…世界中で行われていくんですね」

 

「あぁ…フランス革命時代より始まっていく…呪われた左翼の歴史さ。…やりきれないな」

 

「どうして人間って奴らは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ…」

 

「だから人々は簡単に扇動されていく…。人間を操るのに、魔法なんて必要ないんだよ」

 

――Amour sacré de la Patrie,(神聖なる祖国への愛よ)

 

――Conduis, soutiens nos bras vengeurs(我らの復讐の手を導き支えたまえ)

 

――Liberté, Liberté chérie,(自由よ愛しき自由の女神よ)

 

――Combats avec tes défenseurs !(汝の擁護者と共に戦いたまえ)

 

――Combats avec tes défenseurs !(汝の擁護者と共に戦いたまえ)

 

――Sous nos drapeaux que la victoire(我らの旗の下に勝利の女神よ)

 

――Accoure à tes mâles accents,(汝の勇士の声の下に駆けつけたまえ)

 

――Que tes ennemis expirants(汝の瀕死の敵が)

 

――Voient ton triomphe et notre gloire !(汝の勝利と我らの栄光とを見んことを)

 

――Aux armes, citoyens,(武器を取れ市民らよ)

 

――Formez vos bataillons,(隊列を組め)

 

――Marchons, marchons !(進もう進もう)

 

――Qu'un sang impur(汚れた血が)

 

――Abreuve nos sillons !(我らの畑の畝を満たすまで)

 

……………。

 

…………………。

 

「あぁ……そんな……………!!」

 

革命魔法少女たちとの戦争を終えたみたま達は、燃え上る水名城を遠くで見つめる。

 

「どうして…どうしてこんなことに……これが…私と十七夜が望んだ光景なの!!?」

 

――町に蔓延る歴史…そして、その歴史の上に定着した現状の神浜の破壊…。

 

――歴史を破壊する為には、神浜そのものを一度徹底的に破壊しなければならない。

 

町に蔓延る歴史の象徴である、水名区と水名城の炎上。

 

それは紛れもなく、歴史の破壊を望んだ八雲みたまと和泉十七夜の理想光景。

 

それが叶ったのは、まさにみたまの願いが成就した瞬間であろう。

 

だが……望んだ本人であるみたまは号泣し、地面に蹲ってしまう。

 

「ごめんなさい…私と十七夜の願いのせいで…ごめんなさい……ごめんなさぃぃぃ……!!」

 

そんなみたまの姿に、かけてやれる言葉が見つからないのは妹の八雲みかげとフロスト達。

 

「おかしいよ…だってミィ…この光景を止めてって願ったのに!?どうして叶わないの!!」

 

「ヒホ…奇跡ってのは要因の一つでしかないホ。様々な因果関係が絡み合い…結果が生まれるホ」

 

「だって…グスッ…ミィは姉ちゃを悲しませたくないから魔法少女になったのに…これじゃあ…」

 

泣き出してしまったみかげに溜息をつき、マントの中からハンカチを取り出して渡すランタン。

 

「グスッ…ヒック……ミィたち、これからどうなるの…?」

 

「これだけの惨事を引き起こしたホ。()()()()()は…この禍根が残されると思うホ」

 

「そんな……ことって……」

 

「そ、それでも…神浜全体が燃え尽きたわけじゃないホ!みかげの願いはムダじゃないホー!!」

 

「ミィたちの世代も……この街を焼いた怖い大人たちと…同じことになっちゃうの…?」

 

「……それを選ぶのは、次の世代だホ」

 

――Nous entrerons dans la carrière(僕らは自ら進み行く)

 

――Quand nos aînés n'y seront plus,(先人の絶える時には)

 

――Nous y trouverons leur poussière(僕らは見つけるだろう先人の亡骸と)

 

――Et la trace de leurs vertus !(彼らの美徳の跡を)

 

――Et la trace de leurs vertus !(彼らの美徳の跡を)

 

――Bien moins jaloux de leur survivre(生き長らえるよりは)

 

――Que de partager leur cercueil,(先人と棺を共にすること欲する)

 

――Nous aurons le sublime orgueil(僕らは気高い誇りを胸に)

 

――De les venger ou de les suivre(先人の仇を討つか後を追って死ぬのみ)

 

――Aux armes, citoyens,(武器を取れ市民らよ)

 

――Formez vos bataillons,(隊列を組め)

 

――Marchons, marchons !(進もう進もう)

 

――Qu'un sang impur(汚れた血が)

 

――Abreuve nos sillons !(我らの畑の畝を満たすまで)

 

……………。

 

…………………。

 

ここは、神浜の何処かにある焼けた施設。

 

そこには、逃げ出せずに焼かれたおびただしい死体の数。

 

「……どうして……どうしてなんだ……」

 

尚紀の脳裏には、かつての世界の記憶やペンタグラムとの死闘の光景が蘇っていく。

 

守れなかった大切な友達と恩師、弱者救済を目指したフトミミと弱者だったマネカタたち。

 

新たなる世界でも変わらない。

 

ゲーム感覚で殺された人々、日常の光景だったのに爆殺された人々。

 

両膝が崩れた彼の前には、助けを求めるかのように手を伸ばす炭化した子供の死骸。

 

「俺が手を伸ばせば…手を伸ばすほど……誰もが俺の手から滑り落ち……犠牲になっていく……」

 

炭化した子供の手に縋りつくかのようにして蹲る…彼の姿。

 

歯を食いしばり、涙を零し続けた彼の顔が……変わり果てていくのが分かる。

 

「……許さない」

 

顔が起き上がっていく。

 

「……許さないぞ、人間の守護者を気取ってきた魔法少女共…」

 

その顔は……心を亡くし、完全なる悪魔と化した頃に戻ったかのようだ。

 

――うぉぉあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッッ!!!!!

 

その雄たけびは、人の叫びか悪魔の叫びか。

 

ついに人修羅は決意した。

 

この神浜市において、魔法少女の虐殺者となる必要があるのだと。

 

人々の涙が再び、憤怒の炎となりし悪魔を蘇らせた。

 

火水(かみ)となれ、修羅よ。

 




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