人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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119話 優しい裁判

革命暴動の日より数えて一週間を迎えた頃。

 

被害を受けた南凪区の道路などの瓦礫は片付けられ道行く人達の姿が帰ってくる。

 

ホテル業魔殿も金持ち施設として東から忌み嫌われていたが暴動の被害を受けてはいない。

 

理由は怪奇現象が起きる呪われたホテルと地元でも有名な場所であった為に近寄られなかった。

 

業魔殿の地下施設に場所は移る。

 

現在この場所には八雲みかげがいるようだ。

 

「いくよ~フロスト君!」

 

「ヒホ!バッチこいホ~!」

 

業魔殿施設の休憩フロアに設けられた遊技場ではみかげとフロストが卓球をして遊んでいる。

 

「えいっ!」

 

「ヒホッッ!?」

 

打球をフルスイングして空振りしたのか目を回しながら座り込んでしまう。

 

「オイラ卓球は初めてやるけどムズかしいホ…目が回っちまったホ」

 

「力加減を加えないと当てても卓球台の外まで叩き出しちゃうんだよ」

 

「難しいルールだホー…」

 

ソファーに座って休憩するのだが、みかげは姉の隠れた仕事については思うところがあるようだ。

 

「姉ちゃがこんな場所で働いてるだなんて…知らなかったなぁ」

 

暴動後、みたまは妹に隠していた悪魔の仕事について話をしたようだ。

 

働いている業魔殿にまで案内した時に事情を聞いたヴィクトルも快く受け入れてくれた。

 

これには妹の身を思う姉としての理由もあったのかもしれない。

 

「フロスト君は姉ちゃを守ってくれてたんだよね?」

 

「そうだホ。調整屋に近づく悪い魔獣共をオイラがやっつけてたホ」

 

「姉ちゃズルい…こんなカワイイ悪魔を独り占めしてたなんて…」

 

「ヒホ?友達いないのかホ?」

 

「魔法少女の友達はいるけど…同世代の友達は…いないかな」

 

「なら、オイラが友達になってやるホ」

 

「フロスト君が?ミィの友達になってくれるの…?」

 

「みたまはあんまりオイラと遊んでくれないホ。大人のレディだからとか言われたホ」

 

「やったー!それじゃあ……ミィがお姉ちゃんだからね?」

 

「ヒホホ?みかげがオイラのお姉ちゃん?オイラの年齢って何歳だったか忘れちまったホー」

 

「ミィがお姉ちゃんやるの!絶対やるのーっ!!」

 

「わ、分かったホー…みかげ姉ちゃんでいいのかホ?」

 

「うん!それでよし♪」

 

人が近づいてくる気配を感じたのか視線を向ければヴィクトルが来ていたようだ。

 

「すまないね、みかげ君。業魔殿の地下施設で子供が遊べる場所はここぐらいしか無いのだ」

 

「大丈夫だよ、ヴィクトルおじさん。ミィはフロスト君がいるから退屈してないよ」

 

「そうか…。ジャックフロストも今の調整屋に潜む訳にもいかないからな…」

 

「たしか…暴動の時に捕らえた魔法少女たちを拘束する場所に使ってるんだよね?」

 

「オイラ…あんなに魔法少女のお姉ちゃん達に詰めかけられたら冷蔵庫から出られないホ」

 

「それより…何で姉ちゃはミィに一週間も調整屋に来ることを禁止したんだろ?」

 

それを問われた時、フロストの顔に動揺が浮かんでしまう。

 

とぼけるのが辛いフロストが口を開きそうになるがヴィクトルに頭を杖でしばかれる。

 

「フロスト、あれからイッポンダタラから連絡はきていないか?」

 

「きてないホ。最後に連絡がきた時はバイト先の先輩の行方を捜しに行くと言ってただけだホ」

 

「そうか……アイツなりに外の世界に繋がりが出来たようだな」

 

ヴィクトルとフロストの態度に不信感を感じたのか、みかげがジト目を向けてくる。

 

「ねぇ…?ヴィクトルおじさんとフロスト君は…何かミィに隠していない?」

 

「ヒホッッ!?な、なんのことだかサッパリパリチンだホー……」

 

「何も隠し事などしていないよ?それより、みかげ君も悪魔に興味を持つなら教えてあげよう」

 

「フロスト君やランタン君以外にも沢山悪魔がいるんだよね?可愛い悪魔の事が知りたい!」

 

「そうかそうか~、ならばこちらに来なさい。悪魔全書を見せてあげよう」

 

ヴィクトルはとぼけながらも時計に目を向ける。

 

(あと少しで……みたま君達の裁判が終わる頃だな)

 

みたまが妹を調整屋から遠ざけた理由とは我が身が裁かれる瞬間を妹に見せたくなかったため。

 

この日こそ、革命魔法少女の代表者達が西と中央の長達に裁かれる日であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

11月7日の午前九時前。

 

厳粛な空気に包まれているのはミレナ座の第四シアター。

 

スクリーン前に置かれた長机を法壇として使用し、端には書記官の席と弁護側の席を設ける。

 

最前列の席は被告人が座る席であり最前列の後ろからはカラーフェンスで仕切られる。

 

裁判官達と被告人以外は内側には入れずフェンスの外側が傍聴席というわけだ。

 

傍聴席には西と中央、それに暴動に組しなかった東の魔法少女達が座っている。

 

常盤ななか達や静海このは達の姿も見えるが周りの魔法少女への配慮なのか最後尾に座っていた。

 

「このはさん達は前の席に座られないのですか?」

 

「いいのよ、ななかさん。私たち姉妹もあの暴動の時に…貴女と同じ立場になったから」

 

「そ、それはまさか……?」

 

「アタシ達は革命魔法少女を…殺した。東の魔法少女に見られたから言いふらされたよ…」

 

ななかが視線を前に向ければ西や中央の魔法少女達の視線を感じてしまう。

 

ヒソヒソ声をしているが何を呟いているのかは差別されてきたななかには分かる。

 

「そうでしたか……貴女達も私と同じ苦しみを背負ったのですね」

 

「気にしないでいいよ、ななか。アタシ達はつつじの家を燃やした連中を許さない」

 

「そいつらを扇動した革命魔法少女達だって…あちし達は絶対に許さないからね」

 

「大丈夫だよ、あやめちゃん。私達なら貴女達を差別なんてしないからね」

 

「そうだよ、君達がやった行為は義の殺人。義に生きる武道家のボクが否定するもんか」

 

「かこ…あきら…あ、ありがとうね。あちし達…そう言ってくれて本当に嬉しいから」

 

「他の連中に何を言われようとも、私たち姉妹の心はななかさんと何処までも同じよ」

 

「本当に嬉しいです…。貴女達が私の理解者になってくれたら…私も寂しくありません」

 

<<貴女達の理解者ならここにもいるよ>>

 

席の後ろを見れば美凪ささらと竜城明日香が立っている。

 

「貴女達は私たち人殺しを否定しないのですか?以前は辛辣でしたが…?」

 

「…私のお父さんがね、あの暴動の日に……殉職したの」

 

それを聞いた常盤ななかは彼女の苦しみが痛い程に分かってしまう。

 

ささらは魔法少女社会の身勝手さの犠牲となり家族を失った。

 

ななかもまた魔法少女の身勝手さの犠牲となり家族を失っているのだ。

 

「美凪ささらさん…お悔やみ申し上げます。私も人間だった頃…魔法少女のせいで家族が…」

 

「ささらでいいよ。そうだったんだね…人殺しだからって冷たくしてごめんね」

 

「私とささらさんは決めました。これからは人間社会秩序の為に…魔法少女を裁いていこうと」

 

「私と明日香はね、活人剣の道を行く。騎士道も武士道と同じく…敵を殺す弱者守護の道だよ」

 

「我が身を犠牲として仁と成す。これこそが日本武道思想であり、私の信じる道です」

 

「明日香…ボクが昔語ったことがある活人剣の思想を覚えていてくれてたんだね!」

 

「申し訳ありません、ななかさん。心を犠牲にして人を殺す道もまた…武道だったのです」

 

「皆さん…本当に有難う!この暴動は悲劇ですが魔法少女社会が変わるキッカケとなれば…」

 

ななかや姉妹達とは少し離れた最後尾に座る美雨は不安そうな表情を彼女達に向けている。

 

「……みんな、裁判官が入廷してきたネ」

 

ささらと明日香もななか達の隣に座ってスクリーン前に視線を向ける。

 

スクリーン横の扉から現れたのはやちよ・みふゆ・鶴乃・ひなの・月夜である。

 

みふゆは書記官席に座り、月夜は弁護側の席に座り、他の3人は法壇席に座ったようだ。

 

「それでは裁判を始める。この裁判を起訴する役目は中央の長であるアタシがさせてもらう」

 

「鶴乃は裁判長としての私の補佐として隣にいるわ。検察官はひなのさんで、みふゆは書記官よ」

 

「革命魔法少女達を弁護する役目は月夜が名乗り出たから彼女が弁護役だよ」

 

時刻はちょうど午前9時。

 

「被告人、入廷しなさい」

 

弁護側の奥の扉が開き、ももこ達に促されて入ってきたのは時雨・はぐむ・月咲ともう一人いる。

 

「み、みたまさん!?」

 

傍聴席側から驚きの声が上がる。

 

連れてこられたのは調整屋として革命魔法少女を手助けしてしまった八雲みたまであった。

 

ももこ達は最前列前の席に彼女達を誘導していたのだが後ろを歩くみたまに問いかけてくる。

 

「本当にいいのかよ……調整屋?」

 

「……いいのよ。私の気持ちをやちよさんは汲み取ってくれただけだから…」

 

「だからって……」

 

「お願いよ、ももこ。これだけは…譲れないから」

 

「……バカ野郎。みんな…背負い込み過ぎだよ…」

 

4人を誘導したももことレナは出入口からの逃走を防ぐかのようにして配置されていく。

 

「座りなさい」

 

裁判長のやちよに促された4人が被告人席に座る。

 

彼女達に目を向けた裁判長が苦しい表情を浮かべながらも裁判を始める。

 

「それでは…ルミエール・ソサエティが起こしたテロリズム審理を開始するわ」

 

この裁判こそ、人間社会に害をなした者達に裁きを下すために行われるものであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「被告人、宮尾時雨、安積はぐむ、天音月咲、八雲みたま。間違いないわね?」

 

「はい…間違いありません」

 

4人は人定質問の返事を返す。

 

「今回の裁判は暴徒達を長期間拘留することは出来ないため、一審二審三審を纏めて行うわ」

 

「次に検察官であるアタシが起訴状を読み上げる」

 

立ち上がったひなのがメモに目を通しながら語る。

 

メモの内容はこうであった。

 

被告人は令和元年11月1日において神浜市において左翼テロリズムを起こした。

 

死者は一万人を超える規模となり火災により家屋の倒壊被害は凄まじい規模となった。

 

これは神浜市における東社会の差別を覆す為に行った政治テロである。

 

国際法のテロリズムに合致する案件であり罪名はテロ等準備罪となる。

 

一万人を超える規模の死者を出したため法律の根拠に乗っ取り死刑を求刑する。

 

検察官の起訴内容を聞いた時雨は乾いた笑いを浮かべてしまう。

 

「この国の死刑は3人以上殺せば死刑基準を満たすって聞いた…。死者が一万人を超えるなら…」

 

「どう足掻いても…死刑以外にありえないよね…」

 

「……月夜ちゃん」

 

弁護側の姉を見るのは辛そうな表情を浮かべた月咲。

 

姉も不安そうな表情を隠せない。

 

この裁判光景はビデオカメラによって動画撮影されている。

 

プロジェクターを使用して他の囚人達が収監された第二第三シアター内にも伝送されていた。

 

「被告人には黙秘権がある。都合が悪いことは黙秘する許可を与える。陳述も許可するわ」

 

「ぼく達の意見や考えを述べたって…これだけのテロを正当化していい理由になるの?」

 

「被告人の陳述内容は有利である無しに関わらず証拠として取り扱うことにしたいの」

 

「……分かった」

 

「起訴状に記載された事実について弁護側の意見を聞くことにするわ」

 

「…相違ありません。彼女達が行った所業は…紛れもなくテロリズムであり大破壊です」

 

「この事件の争点に置いて神浜の歴史問題がある。革命魔法少女達はそれを変えたかったわ」

 

「そうだよ…東の魔法少女達は…西側の連中に差別され続けてきた…」

 

「西側の人だって…口では差別はよくないと言いながらも神浜差別問題を棚上げしてきました…」

 

「西にも大きな責任があると判断するわ。それでも、暴力革命を正当化だなんて認められないの」

 

「待ってください裁判長!この歴史問題は全てわたくし達水名区の人間達のせいです!」

 

「確かに…水名区の歴史によって西側は東側を差別してきた。だから何をやっても許される?」

 

「彼女達にもやむにやまれずテロを起こすだけの理由がありました!」

 

「この神浜は民主主義市政を掲げているわ。なら選挙で東側に味方する議員を選出すればいい」

 

「そ…それはそうですが…」

 

「そして八雲みたま。貴女はテロリストに加担するという罪を犯した。間違いないわね?」

 

「…ええ、間違いないわ。私は調整屋として…彼女達の戦力拡充に貢献してきたの」

 

「調整屋としての能力なら彼女達の目的も見えたはず。それを黙っていたなら共犯よ」

 

「調整屋には守秘義務があるって言っても通用しないわよね…」

 

「では弁護側と被告人に聞くわ。この事実関係で間違いないわね?」

 

被告人達が揃って首を縦に振るのを確認したやちよが続けてくる。

 

「では、次は量刑の争点となる証拠についてね」

 

彼女達は神浜の街を破壊する扇動行為を行った動かぬ事実を当事者として語ってくれる。

 

大勢の人間達が泣き叫び、犠牲となっていくのを遠目で見ながら理想に酔ったと突きつけてくる。

 

「事実を認定するに必要な証拠としては革命魔法少女達が貴女達が主犯格だと言ってきたからよ」

 

「勝手な連中だよ…ぼくは確かにひめなの理想に酔ったけど、みんなだってそれは同じさ」

 

「時雨ちゃんと私は…ひめなちゃんの思想を東側にもたらす直接行動を確かに起こしてます…」

 

「ウチだって…言い訳はしない。ひめなの思想が正しいと信じてみんなを引っ張ってきたし…」

 

「被告人も認め、他の子も認めている。貴女達がテロ首謀者の代表側として裁きを受けるわ」

 

「ま、待って!それじゃあ……他の革命魔法少女達の裁きはどうなるんですか!?」

 

「…他の革命魔法少女は全員観察処分とするわ」

 

傍聴席がざわめき、裁判長であるやちよを睨む者達が現れていく。

 

「テロ等準備罪は死刑以外にも懲役刑があるけれど…私達は刑務所なんて用意出来ないの」

 

「だから月咲ちゃん達だけを裁いて…他の子達は許してしまうと言うんですか…裁判長!?」

 

「許しはしない。それでも全員に裁きを与えるとなると…もはや大量処刑しかなくなってしまう」

 

「月咲ちゃん達だけは処刑してもいいんですか!?横暴ですよ!」

 

「人間社会を蔑ろにする者達がどうなるかを…彼女達の身をもって他の子達に示すわ」

 

「そ……そんな……」

 

検察官であるひなのが立ち上がる。

 

「それでは、ここに纏めた冒頭陳述書を読み上げる」

 

被告人の成育・家庭状況・経歴・その前科関係。

 

犯罪に至る経緯・具体的な犯罪の状況・犯罪によってもたらされた被害状況を読み上げる。

 

「この事実関係の証拠を弁護側は同意するか?」

 

「……間違いありません」

 

「弁護側が同意したことにより、この証拠は採用されるわ。被告人質問がしたいのだけど」

 

「……認めるよ。ぼく達が大量殺戮者であり、大破壊者であるということを」

 

「月咲ちゃん……貴女も認めるの?」

 

「……うん、認める。ごめんね…ウチらの為に弁護してくれたのは嬉しいけど…変えられないよ」

 

「私も…認めるわ。調整屋としても…神浜の破壊を望んで魔法少女になった者としても…」

 

「では、論告としては起訴内容と同じく死刑を求刑したい」

 

無慈悲な表情を向けるひなのだが体は震えている。

 

「弁護側はこの論告に対し、弁護することはない?」

 

「…月咲ちゃん達にも生きる権利はあると思います」

 

「生きる権利なら被害者達にもあったの。それを理不尽に奪った連中は誰なの…?」

 

「生きて罪を償う方法を探すことだって出来ます!魔獣と戦わせることだって!!」

 

「それは私達がこれからも変わらず行う。罪の量刑として考える余地は無いわね」

 

「ダメなんですか…やちよさん?月咲ちゃん達は…処刑されないとダメなんですか!?」

 

「……それだけの罪を彼女達は犯したのよ」

 

やちよとひなのに不安そうな顔を向けているのはみふゆと鶴乃であり、心の中でこう思う。

 

(やっちゃん…ひなのさん…この子達を本当に処刑するんですか…?)

 

(やちよとひなのは…この子達にあんなにも生きて償って欲しいって言ってたのに…?)

 

「被告人、最終意見陳述を許すわ。最後に何か言い残すことはない?」

 

「……ぼく達が死んでも、神浜の差別は消えてなくならない」

 

「きっとまた東の魔法少女達は…これ程の規模にならなくても…人間社会を襲います」

 

「ウチらが死んでも…東の憎しみは消えない。差別という原因が神浜から消えない限り…」

 

「私達の死が…これからの神浜魔法少女達への戒めとなることを…願うわ」

 

「…では、貴女達に向けて判決宣告をさせてもらう」

 

この場に集まった魔法少女達が息を飲む。

 

(ごめんなさい…ミィ。妹の貴女を悲しませる選択をしたお姉ちゃんを許してね…)

 

大切な友達であるももこにも視線を向ける。

 

ももこの体は震えており、彼女達が極刑にされようとしている現実に怒りを感じている。

 

(ももこ…こんな私の友達になってくれて有難う。妹をよろしくね)

 

彼女と同じく裁きを望んだ親友である十七夜の事も浮かんでいく。

 

(十七夜…行方不明だと聞かされたけど…きっと貴女も私と同じ答えを出したはずよ)

 

正義感が誰よりも強い彼女なら誰に介錯を頼むこともなく先に旅立ったのだと信じたようだ。

 

(最後に気になることといえば…やちよさん達が昨夜訪れた時に聞かれたあの内容ね…)

 

みたまの脳裏に浮かんできたのは昨夜の調整屋に赴いてきたやちよとひなのの姿であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

深夜のミレナ座。

 

みたまは夜を徹して拘留している革命魔法少女達を監視する役目を果たしてくれている。

 

彼女も家が大変ではあるが夜中に家を飛び出して朝帰りを繰り返す毎日を送ってくれていた。

 

彼女なりに重い責任を感じているのだろう。

 

「…明日はいよいよ裁判ね。私の願いを汲み取ってくれてよかったわ…」

 

彼女も裁かれる旨を伝えられたのだが、みたまは責任逃れすることなく最後の夜を独り過ごす。

 

「あら?この魔力は…やちよさんとひなのさん?」

 

調整屋を構えた第一シアターの扉を開けて中に入ってきたのはやちよとひなのであった。

 

「夜分遅くにごめんなさい。聞きたいことがあってきたの」

 

「私は何処にも逃げないわ」

 

「疑っているわけじゃない、少し話を聞かせて欲しいだけなんだ」

 

「何を考えているの…?」

 

応接間のソファーに案内された彼女達は椅子に座って向かい合う。

 

「聞きたいことと言うのは…調整屋としての能力よ」

 

「私の能力ですって?」

 

「みたまの能力は魔法少女の魔力を強化するだけかと思ったのだが…違ったようだからな」

 

「あのフラスコ瓶の拘束魔法を見て、私達は貴女の潜在能力を過小評価していたと気づいたの」

 

「私の調整屋としての力に何を期待しているの?」

 

「お前の力なら…その、なんだ。可能だと思ってな…」

 

「もったいぶらないで言って頂戴。私の残された時間は…限られているの」

 

「…分かったわ。私とひなのさんが聞きたい内容は……」

 

……………。

 

「判決は……魔法少女への変身能力を()()()()()と処す」

 

それを聞いたシアター内の少女達が凍り付く。

 

全員が考えていなかった判決内容であったからだ。

 

「ま…待って……そんな真似が出来るわけ…?」

 

「出来るわ。そうよね、調整屋さん?」

 

青い表情をしたままのみたまだが震えた声を出してくる。

 

「ま…まさか…私を裁判にかける魂胆っていうのは…」

 

「調整屋としての八雲みたまには彼女達への変身能力剥奪の施術を強制する刑と処す」

 

それを聞いたみたまが激怒しながら席を立ち上がってくる。

 

「あ…貴女達!!最初からそれが魂胆で私を裁くつもりだったのね!?」

 

「その通りよ」

 

「魔法少女から変身能力を奪うということがどういうことか分かってるの!?」

 

「これからはもう魔獣とは戦えないわね。そして、人間社会に歯向かう力も行使出来ないわ」

 

「自力でグリーフキューブを得られなくなるの!そうなれば…彼女達はいずれ魔力が枯渇する!」

 

「そうなるわね」

 

「事実上の死刑判決と同じじゃない!彼女達にグリーフキューブ乞食にでもなれと言うの!?」

 

「冴えてるわ。これからの彼女たちの人生は物乞いと変わらなくなるわね」

 

「調整屋の私は調整というサービスが出来るから対価を要求出来る!けど…彼女達は…」

 

他の者達も乾いた笑いを浮かべながらこれからの自分達の人生を悲観した言葉が出てくる。

 

「聞いたかい…はぐむん?これからはぼく達…乞食生活になるみたい…」

 

「酷い…いっそのこと首を跳ねられた方がマシです!」

 

「ウチらに…死よりも辛い人生を()()()()()()()!?」

 

「そうよ、貴女達の罪は重い。苦しみ、のたうち周りながらでも…生きていきなさい」

 

やちよは弁護側の席に視線を向ける。

 

「…月夜さん、貴女は変身能力を失った月咲さんをどうしたい?」

 

「つ…月咲ちゃんが変身出来なくなるなら…彼女の世話を一生かけてでもやらせてもらいます!」

 

それを聞いた月咲は両手で顔を覆いながら嗚咽の声を上げてしまう。

 

「月夜ちゃん…ウチ……ウチィ!!」

 

心が離れていても歴史で引き裂かれても、姉妹の絆はコネクトする。

 

「心配しないで…月咲ちゃん。これからの人生も、ずっと一緒だよ」

 

「うん…グスッ……うん!!そうだよ…ウチ達姉妹は…一緒に戦えなくても…ずっと一緒だよ!」

 

「「ねー」」

 

弁護側の席を立ち、月咲の下に駆け寄り抱きしめ合う姉妹達。

 

「私とひなのさんは彼女達を助ける事を禁止などしていない。助けたい者は…好きにしなさい」

 

みたまも席を立ち上がり、法壇に座る彼女達の前まで詰め寄ってくる。

 

「最初から私の力を利用する為の裁判だったのね!何が裁判よ…こんなの恣意的過ぎるわ!!」

 

「これは戦勝国裁判とも言えるわね。我々西側と中央による勝者の裁判よ」

 

「こんなの一審制で裁いた極東国際軍事裁判や、ニュルンベルク裁判と同じだわ!!」

 

「貴女に拒否権は無いの、調整屋さん。これからの人生は魔法少女抑止力として生きてもらう」

 

「くっ……こんなの…卑怯よ…」

 

「貴女には小さな妹や、大切な親友のももこがいる。彼女達の為にも…辛くても生きなさい」

 

やちよはももこに視線を向ける。

 

彼女はホッとした表情をやちよに向けながらサムズアップのハンドサインを向けてくれた。

 

ビデオカメラにも視線を向ける。

 

「聞こえたかしら、東の革命魔法少女?人間社会を襲うなら貴女達も物乞い生活よ」

 

冷たい声をプロジェクターを通して聞いた革命魔法少女達は動揺の声を漏らしていった。

 

「以上で魔法少女テロリズム裁判を閉廷と……」

 

<<ふざけないでッッ!!!!!>>

 

大声を上げたのは傍聴席の最後尾に座る魔法少女達。

 

常盤ななかや静海このは達、それに明日香達も怒りの形相をしている。

 

額から冷や汗が流れるやちよはこの事態を想定していたようだが緊張を隠せない。

 

「こんな恣意的な裁判で…人間社会の怒りと悲しみが癒えるとでも言うのですか!!」

 

――答えなさい…西と中央の長ッッ!!

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

法廷は異様な空気に包まれていく。

 

法壇机に置かれた木製ハンマーのガベルを叩くやちよは皆を落ち着かせようとする。

 

「静粛に!!傍聴側の発言は認められていないわ…酷いようなら退廷してもらうわよ」

 

「いいえ…発言させてもらいます!この場に来る事も許されない人間社会の側として!」

 

「聞こえなかったのかしら?聡明な魔法少女だと思っていたのだけれど…常盤さん?」

 

美雨が立ち上がりななかを静止させようとするが明日香とささらが彼女を阻む。

 

「くっ!!オマエ達…邪魔するカ!?」

 

「言わせてあげなさい。でなければ…ななかの仲間であっても容赦しないわ」

 

「ここを通りたければ私達と戦うことになりますが…よろしいですか?」

 

法廷が殺気だっていく。

 

最後尾席の後ろにある入場口に配置されていたかえでも震えが止まらない様子だ。

 

「ど、どうしよう……ももこちゃん、レナちゃん……みんな凄い怒ってるよぉ!」

 

困り切った表情をやちよ達に向けながら事の顛末を見守る事しか出来ない。

 

「裁判は本来、被害者達の事情聴取を行います。人間社会の悲痛な声をなぜ集めないのです?」

 

「人間社会に向けて魔法少女がテロを行ったと言ったところで誰も信じないからよ」

 

「知られなければ身勝手な裁判をしてもいい?バレなければ犯罪をしてもいい理屈ですね」

 

「そ、それは……」

 

「犯罪の被害を受けた者達には手厚い保護が必要です。なのに貴女達は…放置する!!」

 

「そうよ!人間社会が燃えて…大勢が死んだって…()()()()()()()()()()()()()()で満足なの!」

 

「わ…私達に何が出来るというの!?人間社会に向けて公開処刑でもしろとでも!」

 

「…裁判と言い出す癖に裁判の意味を理解しない。誰のための裁判だと考えるのです?」

 

――()()()()()()()()()であるはずです!!!

 

この問題はこの現場だけの光景ではない。

 

日本では加害者は憲法、刑事訴訟法で多くの権利が認められている。

 

なのに被害者には何の権利もないのがこの国の刑事司法。

 

あまりにも不合理な制度のまま日本の刑事司法界隈は放置されている司法問題もあった。

 

常盤ななかの叫びに応えるかのようにして立ち上がったのは阿見莉愛と史乃沙優希だ。

 

「彼女の言う通りですわ!こんな裁判で水名区で被災した人々が満足するとでも!!」

 

「私達…このテロのせいで仕事を失いました。どう責任をとってくれるんですか…?」

 

「阿見さん…史乃さん…そんな事態になっていただなんて…」

 

中央区の魔法少女達も立ち上がっていく。

 

「……アタシの後輩がね、亡くなったんだ。あの暴動の時に…革命魔法少女達に殺されたよ」

 

「…少し前に誘拐されて…せっかく助かった友達だったのに…殺されました…はい」

 

「大切な魔法少女の後輩だった。れんちゃんとも仲良くやってくれて…本当に感謝してたんだよ」

 

「うっ…グスッ…ヒック……大切な…友達でした!!」

 

「梨花…れん…それはアタシの責任だ。本調子じゃないあの子を…アタシが前線に行かせたんだ」

 

「違うよ!!都先輩は悪くない…悪いのはテロを行った連中だよ!!!」

 

西や中央で被災した魔法少女達の怒りが法廷に殺気を生んでいく。

 

東の魔法少女という立場であった者達は西と中央組の席から離れた場所で動揺を浮かべてしまう。

 

「……不味いわね、この流れは」

 

「ええ…そうね、てまり。このままでは法廷暴動まで突き動かされるわ」

 

「そうなったら…怒りの矛先が私達に向けられるんですか?古町先輩…吉良先輩…?」

 

「あ…あわわ……こんな時は異世界系神様チートで怒れる民衆を洗脳出来たらいいのに…」

 

怯えた理子をかのこは抱きしめ、怒り続ける魔法少女達に顔を向ける彼女も不安を隠せない。

 

(……嘉嶋さん。やっぱり……こうなってしまったよ)

 

観鳥令は爪を噛み、周囲の動向次第では暴動となる事態を想定した対処方法を考えていく。

 

「アタシ達の帰りたい家……つつじの家も暴動のせいで燃やされたんだ!!」

 

「その責任……どうとるつもりよ!?こんな茶番劇で納得しろとでも!!」

 

「そうだよ!!あちし達は絶対にこの暴動を扇動した革命魔法少女達を許さないよ!!」

 

怒れる魔法少女達が席を立ち上がり、フェンスの前にまで来て叫び続ける。

 

「みんな下がってくれ!ここから先は傍聴者は入ったらダメなんだよ!!」

 

「ちょっとアンタ達!!いい加減にしなさいよ!!!」

 

ももことレナがフェンスの前で彼女達を止めようとするが、ここで変身すればそれこそ暴動だ。

 

喧噪が渦巻く中、やちよとななかは睨み合いながらも言葉を交わしていく。

 

「人問は誰しも…重大な犯罪の被害者や遺族になれば加害者に対して応報感情を持ちます」

 

「……この光景がそうだと言いたいの?」

 

「昔は仇討ち制度もありましたが…休職して仇討ちに行く…捜査費用も本人持ちでした」

 

「それは武士の時代でしょ?明治時代になってからは禁止されたわ」

 

「私的制裁を許すと法秩序が保てない、国が仇を討ってやる。…それが旧刑法の理屈です」

 

「仇討ちが禁止されても…人は応報感情を持つ。赤穂浪士の忠臣蔵が人気なのもこれが理由ね」

 

「被害者は加害者に厳罰を求めます。それが()()()()になるからなのです」

 

「私達の裁判では……被害者たちの精神救済にはならないと言いたいの?」

 

「世界の司法は被害者に寄り添えるよう努力しますが…この場の裁判など()()()()()()()()です」

 

「私達が被害者の気持ちを尊重していないと言いたいのは分かったわ。でも……」

 

「日本の刑事司法界隈もそうですが……この裁判は被害者の為にあるのではない」

 

――()()()()()()()()()為のものであり、被害者のための裁判ではないんです!

 

徹底的な理詰めによる口論。

 

常盤ななかが最も得意とする戦場だ。

 

「……被害者達の回復は被害者自身で乗り越えるべきよ」

 

「…被害者には全く役に立たない日本司法と同じ理屈を振りかざす。それが貴女の正義ですか?」

 

「そうよ。司法は行政の役に立てばそれでいい…この裁判も皆に示しをつけるためのものだわ」

 

「…まるで中央集権独裁者のような口ぶりですね?西の長も()()()()()()()()()()ようで?」

 

やちよは法壇席を立ち上がり、堪えきれなくなったのか怒気を含む叫びを上げてしまう。

 

「私は!!みんなに生きていて欲しい…みんな笑顔で笑い合い……支え合い……」

 

――()()()()()()となって……困難を乗り越えられる幸福社会を築きたいの!!!!

 

その考えは他の可能性宇宙でもたらされた優しい思想。

 

レコード宇宙を超えても環をもたらす魔法少女と七海やちよの心は繋がり合っていた。

 

「……テメェ」

 

眉間にシワを寄せ切ったななかが眼鏡を外し憤怒を浮かべながら雄叫びの如き叫びを上げる。

 

「それは……()()()()()()()()()()()()だろうがぁぁーーッッ!!!!」

 

「なっ……!?」

 

あまりの気迫にやちよはたじろぐ。

 

「その幸福社会の…何処に()()()()()()()()()()()()()があるんだよぉーッッ!!」

 

常盤ななかが吼えた。

 

喧噪に塗れた法廷が静まり返る程の叫びを浴びた者達は金縛りにあってしまう。

 

それはまさに彼女が心に押し留めさせられてきた、か弱い人間としての感情の爆発だった。

 

魔法少女はみんなが手を取り合い、環になって幸福社会を目指す。

 

この理屈を()()()()違う可能性のレコードに存在している魔法少女は見てくれない。

 

魔法少女の救済によって破壊された街で暮らす人間社会の慟哭など見てくれない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()彼女にとってはあまりにも都合が悪いから。

 

利己的な愛に傾けば、自分にとって利益がある場合には愛ある態度を示せる。

 

しかし、自分にとって利益がない場合には相手に対して愛ある態度は示せなくなるのだ。

 

気圧されてしまったやちよは力なく椅子に座りこんでしまう。

 

「いい加減にしてよみんな!!裁判はもう終わったんだよ!」

 

「そうです!これ以上の騒動は私達が許しませんよ!!」

 

やちよの前に出てきた鶴乃とみふゆが立ちはだかるが常盤ななかは動じない。

 

眼鏡をゆっくり掛け直した彼女の鋭い視線が2人を射抜いてくる。

 

「…司法が被害者に冷たいのは、司法が国の行政目的に奉仕するために生まれたからです」

 

「私達…治世を行う魔法少女が司法権を乱用していると言いたいのですか?」

 

「仇討ちを禁止した明治政府の政治判断とは…外国からの圧力が原因でした」

 

「外国からの圧力……?」

 

「司法制度がない国に国民を裁判させるわけにはいかない。これにより司法制度が生まれました」

 

「そ、そんな勝手な理由があったなんて……」

 

「民よりも公の方に目が行くのは自然の流れ。これが21世紀まで続く…日本司法の在り方です」

 

「…何が言いたいのですか、常盤さん?」

 

「私は…魔法少女社会を変えたい。行政改革し、立法改革し、司法改革を行いたい」

 

「ななか……まるでそれじゃあ……」

 

「……私は悟りました。七海やちよ、都ひなのといった長達が何者であったのかを」

 

常盤ななかは人間社会を代弁する者として語ってくれる。

 

正義の味方を気取ってきた魔法少女達は人間の守護者などではない。

 

()()()()()()()()()()()()、人間を守るフリをした似非守護者なのだと伝えてくれた。

 

「ならば此度の騒乱で被害を受けた魔法少女は貴女達とは違う思想を掲げます」

 

「違う思想ですって?」

 

「それは魔法少女社会の完全なる社会主義化。そして…全体主義化です」

 

二度と魔法少女が人間社会に迷惑がかけられないよう恐怖政治を行う。

 

我々は個人を捨て、全体に奉仕する一つのイデオロギーだけを目的とする集団となる。

 

これこそが人間社会を代弁してくれる者が出した答え。

 

恐怖政治体制による完全管理社会の実現を目標にするべきだと語ってくれたのだ。

 

「お前は…()()()()()()()()()()!新しい魔法少女社会のリーダーになりたいと言うのか!?」

 

「そんな我儘言い出したって…ついていく魔法少女がいるって言うの!?」

 

ひなのと鶴乃が食って掛かる。

 

だが常盤ななかの周囲に集まりだした魔法少女達が彼女の思想に賛同してくれる。

 

「ななかさん…貴女と出会えて本当に良かったです。弱い人間としての立場を捨てなかったから」

 

「義を見てせざるは勇無きなり。己の心を殺す道であろうと…ボクは武道家としてついて行くよ」

 

このは達姉妹も横に付いてくれる。

 

「ななか…バッチリキメてくれたじゃん。アタシ…なんだかななかの姿が尚紀さんに見えたよ」

 

「最高の言葉だったわ、ななかさん。私たち姉妹は魔法少女として何処までも貴女と共に行くわ」

 

「あちし達が支えてあげるからね、ななか!心配しなくていいから!!」

 

明日香とささらも横につく。

 

「私達はななかについて行く。西側の魔法少女をやってきたけど…やちよさんには失望した」

 

「己を犠牲にして魔獣と戦うフリをしながらも…結局は自分達だけが可愛い人達でしたね」

 

阿見莉愛と史乃沙優希も横につく。

 

「私…貴女をモデルとしては本当に尊敬していたわ。でも…魔法少女としては…軽蔑しますわ」

 

「私のような犠牲を生み出したくない。私が守りたいのは…私のファンになってくれた人間です」

 

綾野梨花と五十鈴れんも横につく。

 

「…都先輩、今までありがとう。それでも、今回の裁判だけは…あたしは許せそうにないから」

 

「生きることの大切さは…人間も同じです。人間を大切にしない人達には…ついて行きません…」

 

自分の背中について来てくれる魔法少女達がこんなにもいてくれる。

 

今までこれ程までの勇気を貰えたことは常盤ななかには無かっただろう。

 

「今日この日より、私達が掲げる魔法少女思想とは……()()()()()()です」

 

騒動を起こしていた魔法少女達が踵を返して法廷を去っていく。

 

「これが魔法少女達の選択か…嘉嶋さんに報告しないとね」

 

観鳥も彼女達の後ろをついて行き第四シアターを後にする。

 

そんな時、目立たない席に座っていた帽子を被る傍観者少女が口を開きだす。

 

「…お釈迦様はこう言った」

 

――この世の一切の物事は、ある側面だけを解決すれば解決出来るものではない。

 

「魔法少女社会だけの偏った解決なんてね…()()()()()()()()()()()()()()()だけなのさ」

 

帽子を脱いだ魔法少女とは私服姿の南津涼子。

 

魔法少女裁判の結果を知らせて欲しいと静香に頼まれ、身元を隠して法廷にいたようだ。

 

似非守護者と罵られた魔法少女達は誰も口を開けず放心状態を続けてしまう。

 

この光景をもって魔法少女テロリズム裁判は閉廷となった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

裁判が終わり、時間が過ぎていく午後。

 

新西区のミレナ座から離れた夏目書房がある地域の公園には常盤ななかが座り込んだままだ。

 

「……はぁ」

 

気が抜けたかのようにして公園ベンチで座っていたが背後から誰かが近寄ってきたようだ。

 

「はい、ななか」

 

「きゃぁっ!?」

 

後ろから近付いてきたのはあきらとかこ。

 

2人が持っていた缶ジュースを両頬に押し当ててきたため彼女はびっくりしたようだ。

 

「フフッ♪いつものななかさんもいいですけど、さっきのななかさんは本当に尊敬しました」

 

「怒らない人が優しいんじゃない。他人に期待も興味もない人でしかないとお父さんが言ってた」

 

「私もそうだと思います。怒らない人は反省の機会を奪う人でしかないですしね」

 

渡された缶ジュースを飲み、口の中に潤いを取り戻したななかが自分の気持ちを語ってくれる。

 

「判決に口をつぐんでいた他の魔法少女達を見ていて…我慢出来ませんでした」

 

「あの子達はね、人間社会の苦しみなんて私達は責任とれないって…()()()()()()だけだよ」

 

「ななかさんが怒る程のエネルギーを向けたのは本当の優しさだって…私は信じてます」

 

「怒るというよりは叱るだと思うよ。相手を思う気持ちがなければ怒鳴るだけでしかないし」

 

「武道家のあきらさんは意外と博識ですね?私も色々武道哲学本を読もうかなぁ…」

 

「意外って付け加えられると…ボクも素直に喜べないなぁ…」

 

「人が全力で怒るべき時は、どうしても譲れない大切なものの問題を解決したい時だと考えます」

 

<<俺もそう思うぜ>>

 

知っている人物の声が聞こえた3人は顔を振り向かせていく。

 

「よぉ…ななか。令から話は聞かせてもらったよ」

 

声をかけてきたのは令と一緒にいる尚紀であったようだ。

 

「テロリスト共の裁判の時、お前が叫んだ言葉は俺の言葉そのものだった。大した女だよ」

 

「尚紀さん…?それに貴女はたしか、美雨さんと一緒にいるのをよく見かける…」

 

「初めましてかな?観鳥令、南凪区の学生をやってる東の魔法少女であり、ジャーナリストさ」

 

「尚紀さんとはお知り合いだったのですか?」

 

「マフィア騒ぎの時に知り合ってからは美雨さんが語っている通りの人だと判って慕ってるよ」

 

「令には魔法少女ではない俺に代わり、テロリスト共の裁判結果を知らせて欲しいと頼んでいた」

 

「そうだったんですね。あの…なら私のことも…お聞きされたんですよね?」

 

「お前こそ…この神浜魔法少女社会の長となるべき者だ。お前が長なら俺も安心出来るよ」

 

尚紀から太鼓判を押されたななかは恥ずかしいのか赤面していく。

 

「そ、そんな…私の政治思想は尚紀さんが私に与えてくれたものです」

 

「それでも、俺の思想を正しいと信じて社会を変えると宣言してくれたのはお前自身だ」

 

感謝を表したいのか片手を差し伸べてくる。

 

「ありがとう、ななか。お前ならきっと俺が考えた人間社会主義を貫けると確信が持てた」

 

握手を求められていると分かり戸惑いを見せるが笑顔となってくれる。

 

「尚紀さんのお陰です。貴方に出会えて私……本当によかったです」

 

固い握手を交わした後、尚紀も席に座って向かい合う。

 

事の顛末を詳しくななかから聞かされた彼の表情も厳しくなったようだ。

 

「そうか…主犯格共は変身能力を剥奪されるが…他のテロリスト共は無罪も同然か」

 

「主犯格に的を絞り、彼女達の処遇によって抑止力を期待していたみたいですが…」

 

「…足りないな。個人主義に腐った連中を本気で拘束するならば確実な方法がある」

 

「私もそれを期待して裁判に挑みましたが…結果は聞いての通りです」

 

「結局…ボク達が生きてきた神浜魔法少女社会っていうのは…」

 

「ただの()()()()()に過ぎなかったんですね…本気で人間社会を守ってはくれませんでした…」

 

「人間を守る為に魔獣と戦うって言うけど、観鳥さん達はそれが無くても戦わないと生きれない」

 

「ボク達は自分達の生存闘争を勝手に正義のヒーローごっこと結び付けていただけだよね…」

 

「長社会という中央集権状態ならそうもなる。()()()()()んだよ…独裁状態になったらな」

 

「私達も…そうなっていくんですか?」

 

「社会主義独裁を翳した国の歴史が証明している。官僚主義という内々の者達が支配する状態さ」

 

「大企業でもあるよね…新しいことを嫌い、昔からの慣習を何よりも大事にする風潮って」

 

「それによって…正義や社会主義の気高い公共心さえも腐敗していくのですね」

 

「それを胸に刻み、次の世代にも伝えていけ。優先すべきは個人ではない」

 

「……公共である全体なのだと承知しています」

 

「尚紀さん。ボク達はボク達自身の過ちを互いに止められるような体制作りを心掛けていくよ」

 

「話を戻すよ。観鳥さんは解放された東の魔法少女達を警戒している。あれで収まるはずがない」

 

「そうですね…彼女達を狂気に駆り立てた原因は残っていますし…」

 

尚紀は席を立ち上がり、決意を語ってくれる。

 

「俺はその件について西や中央の長共に向かって再度嘆願……いや、警告をしに行く」

 

「尚紀さんが…?以前も嘆願を出されていたのですか?」

 

「七海やちよの家のポストに嘆願書を送ったが、裁判の結果から考えて…踏み躙られたようだ」

 

「酷い……そこまでしてあの人達は魔法少女だけが可愛いと周りに示すのですね…」

 

「皆を環のような円にして手を取り合い、幸福社会を目指す……聞いて呆れるよ」

 

「その輪の中には人間社会の人々なんて…加えられてませんでしたから…」

 

「警告の結果次第では…お前達が改革したい魔法少女社会の道を()()()()()()事になるだろう」

 

背を見せた尚紀が歩き去っていくのだが、心の中では憎悪が燃えたぎっている。

 

「神浜で正義の味方を気取ってきた魔法少女共も…所詮は()()()()()に過ぎなかったな」

 

道を歩く彼の脳裏に浮かぶのは忘れられないかつての世界の記憶。

 

「氷川…マントラ軍ビルの前でお前が俺に語ってくれた言葉が…今の俺には分かるよ」

 

――ヒトの欲望とは灯火のようなものだ。

 

――小さなうちは暖かで心地よい。

 

――だが、燃え続ける火はやがて炎となる。

 

――全てを焼き尽くすまで止まらぬ怪物にな。

 

――ヒトはそんなものを愛しすぎた。

 

――その安易な温もりに依存し、全てを灰に帰す。

 

――破壊者の本性には、目を背けてきたのだ。

 

「千晶…同じくマントラ軍ビルの前でお前が俺に語ってくれた憂いが…今の俺には分かるよ」

 

――わたし、あれから落ち着いて考えてみたの。

 

――この世界でどうすればいいかってことばかりじゃなくって……。

 

――どうして、世界はこんなになったのか、てこと。

 

――そうしたら、見えてきたこともあるの。

 

――もう前の世界は、不要な存在を許容出来なくなってたんだ……って。

 

――たくさんの物があって、たくさんの人がいたけど……。

 

――もう、創り出すことはなく、何も無い時間が過ぎていくだけだった。

 

――世界が必要としてたものは……あそこには無かったのよ。

 

……………。

 

握りこまれた拳が震えていく。

 

「人は腐敗し…流されていく。だから…俺が人間として生きた世界は唯一神に滅ぼされた」

 

街に視線を向けていく。

 

ここはかつて人間として生きた世界に似ているが知らない世界。

 

それでもここはかつての世界のように人々が生きていてくれる大切な世界なのだ。

 

「……繰り返させはしない」

 

――ヒトは、世界のために尽くす存在であるべきなのだ。

 

――それが、ひいてはヒト自身の安息をも約束する。

 

――何を求めるべきであり、何を求めてはいけないのか。

 

――その線を定めるのはヒトではない。

 

――世界だ。

 

「人はただ世界を照らす信号台であればいい。穏やかに回り明滅し、世界の意思の一部となる」

 

――それが最善にして最高の生業なのだ。

 

空を仰ぎ見る。

 

人修羅の脳裏にはかつての敵の顔が浮かぶが、今は敵の思想が必要だったと痛感してしまう。

 

「氷川…これがかつての世界を絶望したお前の答えだったんだな?」

 

――そうは、思わないかね?

 

「世界はただ静寂であればいい…。個人を捨て、世界という全体の一つとなりて善とする」

 

それこそが宇宙開闢以前の原初の混沌。

 

一にして全、全にして一。

 

マロガレである。

 

決意を秘めた眼差しを前に向け彼は再び歩き続ける。

 

「繰り返させない…。世界から堕落という名の個人主義を完全に破壊して消し去る」

 

――先ずは手始めに俺が魔法少女社会に向けて…()()()()()()()()を敷く。

 




読んで頂き、有難うございます。

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