人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
魔法少女が今まで戦ってきた脅威とは魔獣である。
しかしそれ以外の脅威が現れたというのを電話越しで説明するのは難しい。
「ど、どうしたの…みふゆさん?こんな遅くに電話してきて…?」
みふゆの声のトーンからただ事ではないというのは理解出来るが要領を得ない。
「今直ぐそこから逃げてください!貴女を殺そうとしている者が…直ぐそこまで来てます!」
「そ…それってまさか…常盤ななか達のこと?」
「違います!魔法少女ではありませんし…魔獣でもないんです!」
「ちょっと待って!意味が分からないよ…ウチらの事を把握して復讐しに来る人間がいるの?」
「詳しい事は分かりませんが…魔獣以外の脅威がいたとしか…電話越しでは言えません!」
「魔獣以外の脅威?それこそ意味が分からないんだけど…」
「とにかく直ぐに逃げてください!みたまさんには連絡して調整屋を解放してもらってます!」
「そんな事を言われても…お父ちゃん達が心配するし…」
「その者は既に時雨さん達を殺しています!私の目の前で殺したんです!!」
「し、時雨が…殺された!?それじゃあ…やっぱりウチらがした事を根に持つ奴の仕業!?」
「急いで!!貴女の一生を守りたいと言った月夜さんを泣かせたいんですか!?」
「わ、分かった!直ぐに準備して調整屋に逃げ込むから…!!」
「貴女だけでなく、生き残っている東の魔法少女達にも私が連絡を入れます!早く逃げて!!」
みふゆだけでなく、応援の連絡を入れている鶴乃も対応に苦戦している。
「な…なんだと?魔獣ではなく…悪魔が現れただと…?」
鶴乃の慌てた声のトーンを電話越しに聞く中央の長だが要領を得ない。
「キュウベぇが私達に教えてくれなかった脅威と出会ったの!そいつは時雨を殺したの!!」
「時雨が…殺されただと!?では…今回の魔法少女テロに恨みを持つ者の犯行なのか!?」
「悪魔はね…魔獣と違う!人間と変わらない姿をしてて…人間のように恨みを持つ!!」
「ま、待て…悪魔が現れて、悪魔が人間社会の仇討ちをしている?今一ピンとこないのだが…」
「信じて!そいつの魔力は桁外れだった!!私とみふゆだけじゃ…手も足も出ない!!」
「その悪魔と出会ったのか!?魔力を持つ存在だと…魔法少女のような存在なのか…?」
「魔法少女のような魔法も使ってみせた!人の姿をした悪魔は少女じゃない…男だった!!」
「と、とにかく!状況が切迫しているというのは理解した!アタシ達も応援に向かう!!」
「悪魔は東で魔法少女狩りをしてる!東の子達が調整屋まで逃げるための時間を稼いで!」
「未知の敵との戦いか…。こちらも先の戦いで消耗しているが、背に腹は代えられないか!」
「私も他の子に連絡してるけど…手が回りきらないの!ひなのも電話で呼びかけて!」
「分かった!まったく…次から次へと、どうして問題ごとばかりが押し寄せてくる…!」
電話リレーとなっていき、悪魔の存在を知る魔法少女にも連絡は届いていく。
「あ…悪魔が現れたの?そ、それって…どんな悪魔か分かる?」
電話をしているのは御園かりんであり、隣には同じ悪魔のジャックランタンもいるようだ。
「そう…わ、分かったの。わたしも援護に向かうね…」
スマホの電話を切り、ランタンに向き直るとカボチャから冷や汗じみた汁が垂れている。
「…俺、その恐ろしい悪魔の事を知ってるかもしれないホ」
「会ったことがある悪魔だったの?」
「多分だホ。俺は男の姿をした悪魔とこの街で出会えたから、この姿になっちまったんだホ」
「でも…困ったの。皆が悪魔という存在を知っちゃったし…ランタン君まで怖がられるよ…」
「その時はその時だホ。それより…悪魔を相手にするってのなら、俺は力になれるホ」
「ついて来てくれるの…?心強いけど、ランタン君まで見つかったら…」
「悪魔の戦場は悪魔の領分だホ。素人の魔法少女は黙って俺のアドバイスに従うホ」
「分かったの!道すがら悪魔との戦いを教えて欲しいの!」
魔法少女に変身した後、魔法武器の大鎌の柄に座ってジャックランタンと共に窓から飛び立つ。
電話リレーは続けられていき、常盤ななかの元にも連絡は届いてくれる。
「悪魔がテロに参加した東の魔法少女を殺しているというのですか…明日香さん?」
「そのようにももこさんから連絡が届きましたが…悪魔というのは本当にいるのですか?」
ななかは事態を把握する。
尚紀が歩き去っていく時、ななかに語った言葉を彼が実行しているのだと分かるのだ。
「その悪魔こそが…人間社会主義思想を私に伝えてくれた存在です」
「ええっ!?ななかさんは…今暴れているという悪魔とお知り合いなのですか!?」
「これはチャンスです…今こそ私達は神浜魔法少女社会に対して革命行動を起こすべきです」
「ま、まさか…その悪魔と合流して、西や中央の長達と一戦交えようと!?」
「その悪魔は言いました…私達が改革したい魔法少女社会への道を切り開くのは自分なのだと」
「では…その悪魔は味方と判断するべきですね!私も改革を望む子達に連絡を入れます!」
電話を切ったななかは眼鏡を外した後、ソウルジェムを掲げる。
「尚紀さん…貴方だけに負担を押し付けはしません。思想を共にする私も貴方と共に戦います」
事態は切迫していき、連絡を受けたみたまはミレナ座で避難準備を進めていく。
「裁判の跡片付けが残ってるから来た時に…まさかこんな事態が襲い掛かってくるだなんて…」
彼女は悪魔を知る立場であり、人間の守護者を貫く悪魔を知っているせいで体は震えている。
彼女の隣には業魔殿から解放されて帰ってきたジャックフロストもいるようだ。
「ヒホ…?みたま、どうかしたのかホ?」
「悪魔がね…テロに参加した魔法少女達を…殺して回っているの…」
「ヒホッ!?オイラやランタン、それにイッポンダタラ以外にも潜んでいたのかホ!」
「ここは避難所に指定されたわ。もう時期テロに参加した魔法少女達が詰めかけてくるわ」
「ま、まいったホー…せっかく業魔殿でのかんづめ生活からかいほうされたってのに…」
伝えるべきかどうか迷ったが、意を決したみたまはフロストに向き直る。
「…みふゆさんがね、悪魔の名前を教えてくれたの。それは…フロスト君が知ってる悪魔名よ」
彼女は今まで尚紀がどのような悪魔名をしているのかを知らなかった魔法少女。
ヴィクトルも必要以上に彼の事を喋らなかったからだろう。
「ヒホ…オイラが知ってる…悪魔かホ…?」
「私も気が付かなかった…あの人が…尚紀さんが…人修羅だったなんて…」
その悪魔名を聞いた瞬間、穴のような黒い目が大きく広がっていく。
「ヒト…シュラ?いま…ヒトシュラって言ったのかホ!?」
「フロスト君…貴方が私に語ってくれた、かつての世界の仲魔はね…直ぐそこにいたのよ」
フロストの黒い目から雪解け水のような涙が溢れ出す。
「…オイラ、信じてたホ。きっとまた再会できるって…信じてよかったホーッ!!」
地面に蹲りながらおいおい泣いてしまうフロストの頭をみたまは撫でてくれる。
しかし彼女の手が震えているのに気が付いて顔を上げたようだ。
「私ね…尚紀さん…ううん、人修羅に…殺されるかもしれないの…」
「ヒトシュラが…みたまを殺す?どうして…そんなことをするんだホ…?」
「私がね…革命魔法少女達に協力して…神浜の街を焼いて…大勢を死なせてしまったからよ…」
事情を聞かされたフロストは理解する。
この世界でも彼は大勢を守る事が出来ずにアマラ深界最奥に堕ちた姿と成り果てたのだと。
「ヒトシュラは…友達も先生も守れず、よわい人達も守れず…心がこわれたことがあるホ」
「…そうだったわね。いっぱい悲しい目にあった人だから…優し過ぎたから…」
――誰かの為に、あそこまで怒る事が出来る存在だったのよ。
涙を拭った後、決意の表情を浮かべたフロストが立ち上がる。
「オイラが…ヒトシュラをせっとくするホ!!仲魔のオイラの言葉なら…聞いてくれるホ!!」
「フロスト君……」
「みたまは悪い事しちゃったけど…反省したホ。だから…みたまを信じて欲しいって!」
「私なんかを…そこまでして…信じてくれるの…?」
「オイラはみたまを守る悪魔だホ!たとえヒトシュラが相手でも…絶対に見捨てないホ!!」
心細かったみたまの目に涙が浮かんでいく。
「…ありがとう。やっぱり私は…悪魔の事を…嫌いになんてなれないわ」
抱きしめてくれた後、みたまとフロストが動き始める。
「オイラは門番をやるホ!逃げてきた魔法少女達には見つからないよう工夫するホ!!」
「私は妹のミィに連絡するわ!今夜だけは…絶対に家から出ちゃダメだって伝えないと!」
「燃えてきたホーッ!!…と思ってたら、ランタンとかりんの魔力を感じるホ」
「あの子達も援護に来てくれたのね…心強いわ」
「オイラとランタンでヒトシュラを止めるホ!みたま達は奥に隠れて出てきちゃダメだホ!」
外に出てきたフロストはランタンと合流し、かりんはみたまを守らせるよう段取りをする。
かつての世界の仲魔との再会を嬉しく思う反面、不安に押し潰されそうになるフロスト。
「ヒトシュラ…もう繰り返しちゃ…いけないホ」
――大切な友達と殺し合った事と…同じ事をしちゃったら…ダメだホ。
♦
風のように街を駆け抜けていく人修羅は建物の屋上から跳躍して細い路地裏に着地する。
「この先だな…天音月咲の家となる竹細工工房は…」
路地裏を歩いていた時、ふと壁にアートされている印が目に入る。
「これは…誰がスプレー缶で描きやがった?」
そこに描かれていたのは共産主義の象徴としてきた赤い星であるペンタグラム。
東京の魔法少女達に恐怖心を植え付けるために彼が描いた印と同じものである。
<<このシティにもデビルスターが必要になると思って、沢山描いておいたんですケド>>
聞きたくもない声が聞こえた方向に視線を向けるとアリナとシドが近寄ってくる。
「テメェら…俺に何の用事だ?今は立て込んでいる最中なんだが?」
「フフッ、邪魔をしに来た訳ではありませン。私達は貴方様の殺戮劇を鑑賞したいのでス」
「ギャラリー気取りか?オーディエンスを招待した覚えはないんだがな」
「アリナ…興奮しちゃった♪あんなマーシーの欠片も無いマーダーを見せてくれるなんて♪」
「監視されるのは好きじゃない」
「人も悪魔も監視されるのを恐れる生物…それを貴方は赤い星に込めているはズ」
左手を額に触れさせながら壁に刻んだ赤い星と同じ刺青をなぞっていく。
「お前…左側の額に刻んだ赤い星のタトゥーは共産主義の赤い星を表していたのか?」
「それもありますガ、星である五芒星は黒魔術においテ…
「サタンの足跡だと?」
「この街はサタンに蹂躙されル。支配さレ、監視さレ、魔法少女は五芒星の如く封印されル」
「…
「アリナね、共産主義の恐怖を煽るプロパガンダポスターのデザイン…凄くお気に入りなワケ」
「お前のアート好みなんて聞いてねぇよ」
「アートは激情を植え付けるの。感情が刺激されるからこそ…人はデスを恐れるんだカラ」
「その恐れの感情を利用シ、人々の思考を拘束していく手口は
妙なところでアリナとの繋がりを感じさせられた事で人修羅は顔を背けながら舌打ちする。
「…まぁいい、どの道刻むつもりだった。お前らが手間を肩代わりするなら文句は無い」
アリナ達の間を割って入るかのようにして立ち去っていく。
彼を見送る者達の表情は確信に満ちているようだ。
「私が崇拝シ、額に刻む象徴とハ…黙示録の赤き獣でス」
「そのレッドビーストってのが…共産主義カラーのデビルだったってワケ?」
「多くの神学者達は語りまス。黙示録第9章の軍勢を再現出来るのは中国共産党しかないとネ」
中国は2010年7月1日において国防動員法を施行している。
有事と判断されたなら18歳から60歳までの中国国民が戦時下予備役要員となる。
中国人口は2019年において約14億人に達しようとしている。
黙示録における2億名もの軍勢を動かせるのは中国人民解放軍しか存在しないのだ。
「2億もの騎兵隊は人類の三分の一を殺ス。それを解き放つのガ…繋がれた4人の御使イ」
「アハッ!人類デリートを行う御使い達なら…ヨハネでなくてもデビルに見えるんですケド」
「黙示録の四騎士が古き世界を終わらせル。悪魔の軍勢を従えしハ…世界皇帝となる神皇陛下」
「それがサタンであり…ローマ帝国に繋がるワケ?」
「黙示録の獣とは7人の皇帝を表ス。黙示録とはキリストの脅威であるローマ帝国の復活でス」
「それが共産主義の千年王国…ワンワールド…イルミナティのニューワールドオーダーねぇ…」
「欧米では中国の事をこう表しまス。共産主義を掲ゲ、人々の返り血を纏う
――
「チッ…連絡の方が早かったか」
人修羅は月咲の家の前にいるが、彼女の魔力を家の中から感じられていない。
「あいつは変身能力を剥奪され、人間の能力と変わらない。遠くにはまだ行けてないはずだ」
周囲に集中して魔力を追いかけると誰かを見つける。
「中央区に向かっている魔法少女らしき魔力がいるな。どうやら家を出て間もなかったようだ」
風の魔法を纏いながら彼は駆け抜ける。
時速百キロ近い速度で猛追すれば、あっという間に追いつけたのだが邪魔者が現れる。
<<過去と未来の因果…今!ひ持たせます!!>>
「なにっ!?」
上空から迫るのは氷の刃を持つ蛇腹の刃。
「チッ!!」
急停止した悪魔が跳躍し、側方宙返りを繰り返しながら刃を避けるが追い続けてくる。
伸び続ける蛇腹の刃が周囲を取り囲みながら退路を断つ。
刃の先端は既に悪魔の頭上であり、悪魔の頭に刃が向けられていく。
「抜けなさいっ!!」
下の悪魔に目掛けて刃の先端が一気に急降下してくる。
古町みくらが得意とするマギア魔法である『マグナ・カルタ』の一撃であろう。
着地と同時に悪魔は跳躍し、体を横倒しに回転させるコークスクリュー回避を行う。
剣先は体の側面を抜けながら地面を大きく砕いたようだ。
「……魔法少女か」
地面に突き刺さった蛇腹の刃が収縮していき、魔法武器の杖にまで巻き戻る。
暗闇から現れた人物達とは古町みくらと吉良てまり、後輩の三穂野せいらであろう。
「魔獣とは違う存在がこの世界にいた…やはり歴史は凄いわね…まだまだ神秘が隠れてるわ」
「古町…歴史研究部部長として浪漫に浸っている場合ではないでしょう?」
「分かってる…裁判に赴く為に隣街から来て、ホテルで泊まり込みをしていた時に限って…」
「こんな未知の敵を相手にする事になるなんて…」
彼女達を前にしても悪魔は微動だにしていない。
「…後ろにもいたか」
後ろから現れた存在とは水樹塁と千秋理子と矢宵かのこの姿である。
「悪魔って…実在した?ここはもしかして異世界?私…いつの間に異世界転移されたの!?」
「水樹!今はネット小説のノリはやめときなさいって!」
「わ…分かった…。それにしても…発光する刺青をした黒服悪魔だなんて…まさに私好み!!」
「あ…あれ?お兄さんってたしか…孤児を救う会社の代表をしている人…?」
理子は嘉嶋会に弁当を届けに行った時に彼と出会っているため、人修羅が誰なのかが分かる。
「貴様ら…俺の邪魔をする気か?」
「みふゆさんから連絡を受けている。貴方がテロに参加した魔法少女を殺戮している事もね」
「そこをどけ。俺はテロの主犯格である天音月咲を殺しに行く」
「そうはいかないわ。テロに参加した彼女達が避難出来るまで…私達が時間を稼ぐ!」
「口で言っても分からないか?なら直接体に叩き込み、天音月咲共の避難先を吐かせてやる」
かつて感じた事もない程の殺気が解放された事で魔法少女達は恐怖に包まれる。
怯え切った理子であるが、それでも最初に出会った尚紀が悪魔だなんて信じる事は出来ない。
「どうしてなんですか!?貴方は子供のヒーローなのに…どうして人殺しになんて…!」
「…今回の魔法少女テロによって、親を失った子供達が大勢いる」
「えっ…?」
「その子供達は泣き叫び、助けを求めるだろうが…これからの人生は地獄となるだろう…」
「そんな……」
自分の親が被災して死んだ時を想像した理子は何も言えなくなってしまう。
「被災して孤児となった子供達の無念…貴様ら魔法少女共は棚上げしたままでいいのか?」
「そ…それは……」
「俺は棚上げしない。魔法少女を環にする事しか頭にない貴様らに…人間の怒りを叩きつける」
「悪魔であり…人間の守護者だというの…?」
「悪魔の生き方は人と同じく自由。人を襲う悪魔も大勢いるが…俺は人間社会を守る道を選ぶ」
「…悲劇ね。共に人間を守る為に戦ってきた者同士だというのに…殺し合うだなんて…」
「…映画とかでも自分の正しさをぶつけ合う展開はあるけど…現実でやらされると…辛いね」
「それでも演じ切るしかないわ…この悲しみの演目を!!」
魔法少女達が一斉に武器を構えてくる。
目の前にいるのは魔法少女社会に
迎え討つかのようにして腰を落とし、足を半歩広げて構えるのは
「…いくぞ。今まで正義の味方を気取ってきても…人間社会には無関心だった魔法少女共…」
――俺が人間に代わり、お前達を否定してやる。
――――――――――――――――――――――――――――――――
工匠区から離れた参京区の水徳寺でも動きが見える。
神浜の西側と中央に味方をした静香達は時女の里に戻る為の準備に追われているようだ。
「期日以内に里に帰らないといけないけれど…荒廃した街を見ていたら…そうもいかない」
大震災規模の被害が街に出てしまったため、この街では窃盗や空き巣被害が多発している。
停電や避難により無人となった民家や商店などが狙われており、警察も手が回り切っていない。
静香は時女の魔法少女達に指令を下し、里に帰るギリギリまでは治安維持活動を行ってくれる。
「狙われる時間帯は人通りが完全に消える深夜…今夜も遅くまで警戒しないといけないわね」
寺の縁側に座る静香の横には空から監視任務を行う和装魔法少女がいるようだ。
何かに気が付いたのか、白い一つ目雑面布の奥の両目が開き、驚愕した顔つきになっていく。
「た…大変……」
「空から何が見えたの…?」
「東の工匠区で現在、悪魔化したと思しき尚紀さんと東の魔法少女達が戦闘を繰り返してます」
それを聞いた静香の表情まで驚愕に包まれてしまう。
「嘉嶋さんが悪魔の姿になって…魔法少女と戦っているですって!?」
静香の大声が聞こえたせいで縁側に駆けつけてきたのはすなおとちはるであろう。
「どういう事なの!?」
「嘉嶋さんが東の魔法少女達と戦っているとは、どういう事態なのですか!?」
「分かりません…ですが戦っている魔法少女は東社会から離反し、私達と共に戦った人物です」
「古町さん達だというの…?なんで正義の魔法少女と嘉嶋さんが殺し合って…」
<<嘉嶋さんは…彼女達を疑っているのかもしれません>>
声が聞こえた方に振り向けば、ちかと涼子もいる。
「どういう意味なの…?彼女達を疑うって…?」
「神浜の魔法少女達が行った裁判が本当に人々の為にあったのか…疑ってるんです」
「あの裁判は恣意的なものだった。あんな偏った解決なんかじゃ…人間社会が浮かばれないよ」
「それじゃあ…嘉嶋さんは人間社会の無念を晴らす為に…」
「尚紀先輩が解放された革命魔法少女達を…悪魔になって殺してるというわけ!?」
「尚紀さんは私に人を疑う大切さを伝えてくれた人です。疑わなければ…先には備えられない」
青葉ちかが語った言葉はナオミからも伝えられている。
「嘉嶋さんは人間の善性を疑っている。そして…私達を助けてくれたナオミさんも同じく…」
ちかやナオミの言葉によって静香は大きく迷い出す。
彼女だって人の善性を信じようとしたからテロリスト魔法少女達の解放を認めている。
「私は甘かったの?彼女達を信じようとしたから…嘉嶋さんが裁きを与えようとしてる…」
「静香…貴女には貴女の立場がある。神子柴様の言葉を思い出して下さい」
「分かってる…悪鬼と戦う巫を減らしてはならない…だから拘束するだけに留めた…でも…」
「もし彼女達がまた神浜の街を襲う事になったら…それって…私達が見逃したせいだよね…?」
「これこそナオミさんが伝えたかった事であり…嘉嶋さんがやろうとしている事なんですね…」
「相手を知ろうとしないから…疑わないから…先の脅威に備えられない…」
静香は彼女達に視線を向けながら自分について聞いてしまう。
「ねぇ…みんな…私は間違っているのかな?人間の善性を…信じようとする行為が…?」
聞かされた者達は顔を俯けてしまうが、涼子だけは静香に顔を向けてくる。
「あたしは仏教徒だからお釈迦様の言葉を信じたい。でも静香には静香が信じたい言葉がある」
「私が…信じたい言葉?」
彼女の脳裏に浮かぶのは、時女の矜持を伝えてくれた母の言葉であろう。
――静香、固定観念に囚われてはいけない大切さが分かる?
母親の教えを思い出した静香の手が握り締められる。
「…自由民主主義国家である日の本の国民は皆…選択を自由にしていい個人主義と人権がある」
「静香…?」
「自由を与えるからこそ…魔法少女は無秩序・混沌を望む利己主義に腐っていく…」
「静香ちゃん…」
「勿論、社会秩序を望む魔法少女もいるけれど…堕落を選ぶ子の方が多い…
「そうです…だから他人を傷つけられる。他人の痛みを想像する必要もない…楽な選択です…」
「時女の使命…それは日の本の安寧を支えること。それは人間社会秩序を守るという事よ」
「だとしたら、お前さんは人々の心の善性を信じたい気持ちを捨てるという事かい?」
「今でも信じたい…それでも私の固定観念のせいで誰かに犠牲を強いるなんて…出来ないわ」
彼女は左手を掲げ、ソウルジェムを生み出す。
「私……嘉嶋さんの下に行く」
「わ、私も行くよ!!尚紀先輩とナオミさんが私達に伝えてくれた言葉の答えを探す為に!」
「私もお供します。嘉嶋さんの生き様がきっと…これからの時女の在り方を決めると思うから」
「私もついて行きます!疑うからこそ人々を救える道もあるのだと…見せてもらうために!」
「諸行無常…世は常に移り変わり、時女の在り方も移り変わる。あたしもついて行くよ」
悪魔の出現と共に時女の魔法少女達が再び動き出すが、動くのは彼女達だけではない。
大東区から新西区のミレナ座に向けて跳躍移動を繰り返すのは八雲みかげの姿であろう。
「姉ちゃ…またミィに隠してる!ミィを遠ざける時はいつだって…何かを隠してた!!」
夜遅くに出かけて電話がかかってくれば家から出てくるなと言われても納得出来ないようだ。
胸騒ぎが収まらず、彼女は必至な表情を浮かべながら駆け抜けていく。
「ミィは姉ちゃを守る為に魔法少女になった!だからお願い…ミィに姉ちゃを守らせて!」
愛する姉を思い、跳躍移動を繰り返す彼女の姿を目撃した者達もいる。
「あれは…みかげですか?」
リズの車の中で夜空を跳躍している者を見つめるのはタルトであろう。
「この魔力は間違いなく彼女よ。向かう方角は恐らく…新西区ね」
「姉のみたまの元に向かっているのでしょうか?」
「こんな夜更けに姉の元に向かう…恐らくは人修羅が現れたのと関係しているわ」
東の地に潜伏していた2人はペレネルからの任務である革命魔法少女達の監視を行っている。
その時に人修羅の魔力を感じ取り、彼が何を行っていたのかも目撃しているようだ。
「やはり彼は動いた。禍根が残る限り…あの魔法少女達は何度でも街を襲うと分かってたわ」
「だから全ての革命魔法少女達を無力化する為に…殺戮していく」
「掃討戦ね…抵抗勢力がいる限り、民衆達の安全保障は得られないわ」
「それだけですか?暴動が起きてから数日たつ頃に魔法少女達が口にしていた話があります」
「私達が見かけた魔法少女達が口にしていた裁判の事ね」
「神浜魔法少女社会は三権分立していない長社会…恐らくは恣意的な裁判となったはずです」
「それに対する被害者達の怒りを叩きつけに行った可能性も大きいわね」
タルトはジャンヌ・ダルクの歴史を思い出してしまう。
ジャンヌ・ダルクもまた政治的思惑による異端審問の被害者にされた魔法少女である。
「政治の思惑が司法に表れれば…
「革命魔法少女達が無事に解放された背景を考えれば…この街の長達は甘過ぎたのよ」
感情が無い造魔であるが、タルトは何かを決心したのか手を強く握りしめていく。
「…リズ、車をミレナ座まで走らせて下さい」
「タルト…?」
「私は人修羅である尚紀を…止めたいです」
「なぜ…?彼が革命魔法少女達を殺戮するのに、どうして私達が関わらなければならないの?」
「イングランドの敵であったタルトが火刑にされた時…戦争は終わりましたか?」
「…いいえ、それから先も22年間は百年戦争が続いたわ」
「殺し…殺され…それでも争い続けていく。それでは何のためにジャンヌは焼かれたのです?」
「あの時焼かれたタルトは自分の死で戦争を止めてくれたなら…火刑にされてもよかったと?」
「タルトが望んだのは平和です。その為に魔法少女となり、戦争道具となる道まで選んだ…」
「何処までも報われないわね…ジャンヌ・ダルクの人生は…」
「繰り返してはいけない。被害者達も苦しい…それでも禍根を超えて皆が前に向いて欲しい」
「失った人々は帰ってこない…元の生活にも帰れない…それでも前に向けと?」
「犠牲者達の心を思うと正しいとは言い切れません…それでも…残された人々にも人生がある」
「それが百年戦争という政争の犠牲となった…タルトの意思だと信じるのね?」
「はい…私は本物のタルトではありませんが…それでも彼女ならば…そう思うと信じます」
彼女の言葉の重さをリズは感じている。
タルトは革命魔法少女の扇動によって、自らもジャンヌ・ダルクと同じく火刑にされかけた者。
それでも彼女は革命魔法少女を恨まず、彼女達にもやり直して欲しいと言ってくるからだ。
「タルト…貴女の言葉こそ、ジャンヌ・ダルクの言葉なのだと…私は信じるわ」
アクセルを踏み込み、猛スピードで発進していく。
魔法少女と造魔達が望むのは秩序と平和であり、どんな事をすれば達成出来るのか?
今から始まるのは、それを目指す行為の一つ。
人間は座して死を待たず、平和の脅威を取り除く為の
それこそが専守防衛戦争の一つの形態なのであった。
♦
悪魔と戦う場所は魔獣結界や悪魔の異界ではないため、魔法少女達は苦戦を強いられている。
「気を付けて!周りは民家がある人間の生活圏よ!!」
「参ったな…私の拡声器魔法だと避けられたら民家に直撃するよね…」
「遠距離魔法攻撃を使うなら民家に当たらないように撃ちなさい!」
「接近戦の武器を使う私達が前に出る!ほら、水樹!あんたも出るのよ!!」
「仕方ない…我が魔鎌の餌食にしてくれるぞ!世界を滅ぼす邪悪な悪魔よ!!」
「わ、私は後方から援護します!!」
マギア魔法による強大な破壊行為や直進する遠距離魔法攻撃を躊躇う魔法少女達。
条件が同じならば自ずと互いの技量がものを言う接近戦の戦いとなるだろう。
「私が先に出る!!」
先に仕掛けてきたのは矢宵かのこであり、魔法武器は針のように先端が鋭く刀身が細い剣。
「はぁっ!!」
唐竹割りの一撃に対し、右足を移動させて軸をずらした回避を行う。
悪魔は舞うように回転移動するが、かのこの左切り上げが迫ってくる。
右腕で相手の手首を制すると同時に右手首を掴み、引き込む動作をする。
彼女は悪魔の手を払い、唐竹割りを放つがサイドに移動しながら右腕を腕に絡めつけて止める。
「フンッ!!」
半回転した左肘打ちが彼女のみぞおちに決まり、後ずさる彼女の両手首を両手で掴む。
関節を決められそうになる前に前蹴りを彼女は放つが罠であろう。
体の軸をずらし、右手で足首を止め、背中を向けたまま両手で足を抱え込んで一回転する。
彼女の右足は悪魔の両肩で担ぐ形となり、右手で残った片足を掴んで払い上げてくる。
「キャァァァァァァァーーーッッ!!」
宙に浮かびながら一回転した彼女の胴体に目掛けて前蹴りを打ち込む。
彼女の体は大きく蹴り飛ばされ、街灯に叩きつけられて倒れ込んでしまう。
大きく空中で舞うのは手放した細剣であり、悪魔は落ちてくる細剣を右手で受け止める。
「次だ」
「ハァァーーーッッ!!」
一気に飛び掛かってきたのは巨大な鎌のような武器を振りかぶる水樹塁。
下段構えで刃を受け止め、火花を飛ばして擦れ合い、互いが回転する体勢から向かい合う。
「よくぞ僕の一撃を受け止めた!やはり貴様は前世において僕の…」
「うるさい」
互いの斬撃の応酬が繰り広げられていく。
後ろ首に鎌の柄を添わせながら回転させ、体の回転も加えた右薙ぎに対して刃で逸らす。
「片手剣で僕の魔鎌を捌ききるだと!?さぞ名のある魔剣士と…」
「うるさい」
魔鎌を縦に回転させながら勢いをつけた唐竹割りを放つ。
悪魔は受け止めるが、柄の回転運動によって払いのけようとする。
回転運動に回転運動を合わせ、前に進む形で互いが刃を払い除ける。
斬撃を繰り返す者達に向けて遠距離魔法武器を構える他の魔法少女達は苦戦しているようだ。
「動きが早過ぎるよぉ…的も人間と同じように小さいし…魔獣みたいに当てられない!」
オレンジをあしらった巨大ピックのような穂を悪魔に向けるのは白い魔法少女衣装をした理子。
しかし乱戦を繰り返す程の素早い動きもあり、狙いが上手くつけられない。
「狙いが狂えば水樹に当たるし…避けられても民家に直撃していく…」
複数の筆のような武器を手に持ち、投擲の構えをしていたのは吉良てまりであろう。
「ならば…これしかないわ」
彼女は複数の筆を魔力で操りながら地面に文字を描いていく。
「いいぞ…悪魔…よもや闇の覇王である僕に本気を出させるとはな!」
「…大口を叩くしか能がないその口、針で縫い付けてやろうか?」
縫い針のような細剣を相手の口元に向けながら悪魔は不敵な笑みを浮かべてくる。
「ほざけ!!世界に終末宣告をもたらすのは…フォートレス・ザ・ウィザードの僕だ!!」
前髪で隠れた片目の魔眼?が赤く光らせながら彼女は仕掛けてくる。
体を一回転させる大鎌の右薙ぎを刃で受け止め、刃を滑らせながら打ち払う。
悪魔の連続斬りの中、塁は柄で斬撃を払い上げ、回転を加えた左薙ぎを放つ。
悪魔は上半身をのけぞらせて避けるが、追撃を浴びて後ろに下がる。
「ハァァーーーッッ!!」
跳躍からの唐竹割りが迫りくる時、悪魔の体が揺れる。
体が横に向けられていき、大鎌の先端が地面に深く突き刺さってしまう。
「グフッ!?」
隙を逃さず踏み込み、細剣の柄頭でみぞおちを打つ。
突き刺さった大鎌から手が離れ、後ろに下がってしまった彼女の左側頭部には蹴り足が迫る。
「グワーッ!!」
かっこつけて伸ばした前髪が死角となり、二回転捻りの旋風脚が決まってしまう。
蹴り飛ばされた方角には小さな魔法少女もいるようだ。
「こっちに来る!?」
理子は重たい武器を捨て、塁の体を受け止めたが体重の軽い小学生の体まで飛ばされてしまう。
「ああっ!!」
魔法少女達は壁に激突して地面に倒れ込んでしまうのだ。
「世界に終末宣告を行う笛を鳴らすのは…お前じゃない」
かのこの細剣を投げ捨てた時、地面の変化に悪魔は気が付く。
「なんだ…?」
見れば色とりどりの文字が浮かび、彼の周囲を取り囲んでいる。
「言葉は心の使い…徒然なるままに!!ハァァーーッッ!!」
言霊を操り、相手の精神を洗脳するマギア魔法が行使される。
色とりどりの文字が悪魔の足元に収束していく中、術者が命令してくる。
<<魔法少女を傷つけるのを止め、貴方達の情報について吐きなさい!!>>
彼女の固有魔法である言霊によって悪魔は洗脳されてしまったのか?
洗脳魔法を浴びた悪魔は微動だにしていない。
「…やったかしら?」
「これにて一件落着……では、なさそうね」
「えっ…!?」
みくらはてまりの顔を見るが、彼女の表情は戦慄している。
「洗脳出来た手ごたえを…感じなかった…」
「そんな!?言葉を操るてまりの洗脳魔法が…悪魔には効かないの!?」
悪魔が飲み込んでいるマガタマとは東京の戦いでも重宝したイヨマンテ。
精神を操り、傀儡とする精神魔法を無効化する防御膜を悪魔の肉体に与えてくれる呪物だ。
まるで物語を紡ぐ脚本家に逆らう登場人物の如く、悪魔は歩み寄ってくる。
「お前達魔法少女は洗脳魔法の使い手だというのは知っている。俺も東京で散々苦しめられた」
「なら…洗脳魔法に対処出来る何かを…悪魔は用意出来るのだと判断していいわけ?」
「好きに考察しろ。さて、今度は俺がお前達を吐かせる番だな」
悪魔の金色の瞳が瞬膜となり、本物の魔眼の力が発揮される。
「えっ…?」
心の中に違和感を感じたみくらとてまりの顔に冷や汗が滲んでしまう。
「…なるほど、どうやらテロを行った魔法少女共が逃げた先は…新西区のミレナ座のようだな」
それを聞かされた瞬間、魔法少女達の顔が青ざめていく。
「うそ…これって、十七夜さんが得意としていた魔法の…」
「読心術よね…?」
「そんな…悪魔の能力は何処まであるっていうわけ…?」
動揺した隙を見逃さない悪魔は一気に詰め寄る。
「くっ!!」
みくらの杖から伸びる氷の蛇腹剣が地を這う蛇の如く悪魔に迫っていく。
悪魔は跳躍して側方宙返りを用いて刃を回避する。
「はぁっ!!」
てまりも跳躍し、複数の筆に魔力を宿らせた後、光弾のように放射投擲してくる。
悪魔は側転しながら光弾の隙間を掻い潜る。
「く、来るなっ!!」
せいらは魔法武器の拡声器から大声を出し、声が形となって放射される。
悪魔は大きく跳躍し、放射された言葉を飛び越えながら月面宙返りを行ってくる。
着地と同時に光剣を生み出した悪魔が攻め込み、せいらが持つ拡声器を溶断してくる。
「ヒ…ッ!?」
左手で相手の手首を掴み、続けて右腕を相手の肘に打ち込む。
「ああッッ!!!」
鈍い音が響く中、圧し折った腕を背中に回し込み、背中に回り込んだ悪魔がせいらを盾に使う。
「「三穂野!?」」
見れば逆の腕で彼女の気道は締め上げられており、せいらは息が出来ていない。
「かっ…あっ…あ……」
「どうした?攻めてこないのか?」
「卑怯者!!三穂野を盾に使うだなんて!!」
「俺達がやっているのはスポーツの世界じゃない」
脳に酸素が回らず、せいらは意識を失ってしまう。
彼女の衣装の襟元を掴みながら悪魔は一気に彼女を投げ飛ばす。
「ダメ!!」
壁に叩きつけられる前にてまりが受け止めるが、2人とも激しく壁に叩きつけられる。
「よくも…私の大切な幼馴染と後輩を傷つけたわね!!」
杖を振るいながら伸ばされた蛇腹の刃で悪魔を狙う。
体を横に向け、通り過ぎる刃を掴む悪魔であるが違和感を感じたようだ。
「…何だこれは?刃物じゃない…模造刀のように刃が施されていないじゃねーか?」
みくらは小学生の頃、刃物で脅され誘拐されたために刃物にトラウマを抱えている。
そのトラウマが彼女の武器の形にまで表れてしまっているようだ。
「舐められたもんだな」
「…貴方を侮っているわけじゃない!この武器は…私が背負った業なのよ!!」
「なら大事に持っておけ。そして歯を食いしばりな」
「えっ…?」
悪魔の体が放電していく中、向こう側に立つ魔法少女が悲鳴を上げる。
「アァァァァァァァァーーッッ!!!」
蛇腹剣のワイヤー部分から流されていくのは悪魔の雷魔法であるショックウェーブ。
感電したみくらは意識を失いながら倒れ込んでしまうのだ。
「……殺せたはずなのにな」
本来の威力なら電撃を喰らう彼女だけでなく、周囲で倒れる魔法少女達まで消し炭となる威力。
しかし彼女の体は電気ショックを浴びた程度の被害規模にまで抑え込まれているようだ。
悪魔の心に手心をもたらしたのは仲魔達が与えた言葉があったからだろう。
「…お前達は正義の味方を名乗ってきた。ならばお前達のその力…
東の魔法少女達は倒されたように見えるが、立ち上がった魔法少女が叫んでくる。
「お願いします…尚紀さん!!こんな酷いこと…もうやめて下さい!!」
声を張り上げたのは震えた姿をしたままの千秋理子である。
「貴方は酷い人なんかじゃない…だって、マメジが懐くぐらい優しい人だもの!!」
女子小学生の叫びに対し、冷酷な眼差しを悪魔は向けてくる。
「このテロは許されないと思います…でも!魔法少女達だって…反省してると私は思う!!」
「…反省だのなんだの、お前達はいつも勝手な思い込みだけの世界で物事を語るようだ」
「思い込みなんかじゃない!だって…だって魔法少女は夢と希望を叶える…正義の味方です!」
「夢と希望?お前達の夢と希望ばかりが優先され、人間達の夢と希望はどうでもいいのか?」
「そ…それは……」
「この一週間で街の惨状を見たはずだ。この街の光景の何処に人間達の夢と希望がある?」
他の可能性宇宙だけでなく、この宇宙でも神浜の街は破壊されてしまう。
魔法少女救済という大儀の元、救われるという夢と希望によって人間社会は蹂躙される。
そして神浜の街を破壊する元凶を産み出した彼女達は許される事になるだろう。
未来ある子供だから、生きてれば天才の力で償えるから、もう一度大切な親友と生きたいから。
全てが魔法少女の利益だけで物事が決められてしまったようだ。
利己的な愛に傾けば、自分にとって利益がある場合には愛ある態度を示せる。
他の宇宙の神浜市で生きる正義の魔法少女達が愛を示せたのは自分達のみ。
破壊された人間社会には愛は示されなかった。
「あっ…うぅ……」
「お前達はこれだけの犠牲を人間社会にもたらしても…まだ名乗れるか?」
――私達は、
両膝が崩れて膝立ちとなった理子の目に大粒の涙が溢れていく。
「うっ…あぁ…あぁぁぁ~~~……ッッ!!!」
自分が考えていた変身ヒロインのイメージが崩壊した彼女は泣き喚いてしまう。
そんな中、無慈悲な悪魔が近づいてくる。
「ごめんなさい…ごめんなさぃぃ…ごめんなさぃぃぃ~~……ッッ!!!」
我儘ばかりをしてきたのは自分達だったと気が付いた彼女は謝り続けてしまう。
まるで他の可能性宇宙の魔法少女達の選択まで背負いながら謝っているように見えてくる。
戦意を喪失した彼女の前にまで来た悪魔が手を伸ばす。
「えっ…?」
悪魔の手は彼女の細い首を握り潰す事もなく、頭を撫でてくれている。
「分かればいい。曲がりなりにも正義を目指したんだ…その意思、次の魔法少女社会で活かせ」
踵を返した悪魔は月咲の後を追いかける為に駆け抜けていく。
「次の魔法少女社会で…反省を活かす…」
周囲で倒れた魔法少女達に目を向けると、虫の息ではあるが彼女達は殺されていない。
「尚紀さんは私達を殺さなかった…あの言葉は…皆にも言ってたんですね…」
その為に必要な行為は生き延びる事だと彼女は判断する。
一番傷が酷いみくらに回復魔法をかけ続け、命を懸命に守ろうとするだろう。
――美雨が言ってた通り、
正義の魔法少女達には三度目のチャンスが与えられていたのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「距離を取られたが…まだ追いつける」
月咲を追って中央区に入るが、近づいてくる魔法少女達の魔力に気が付く。
「この魔力は…ななか達やこのは達なのか?」
立ち止まっている彼の元に跳躍して現れたのは常盤ななか組と静海このは組であろう。
「よかった…見つけましたよ、尚紀さん」
「ななか…何の用事で現れた?それに…お前達もだ」
視線を周りに向ければ動揺しているかこ達やこのは達がいるようだ。
「こ…この全身刺青姿の悪魔が…尚紀さんなんですか…?」
「そんな…尚紀さんが悪魔だったなんて…美雨は知ってたのかな…?」
「信じられない…私達のような孤児を救ってくれた大恩人が…悪魔だったなんて…」
「悪い悪夢を見てるみたい…だけど光る刺青をしているだけで、見た目は尚紀さんだよね」
「それになんか…首裏に一本角も生えてるよ?あちし…悪魔は山羊みたいな角だと思ってた」
動揺する魔法少女達に対して尚紀は辛い気持ちを抱えながらも真実を告げてくれる。
「騙していて悪かった…俺の正体を知っていたのは美雨とななか、それに一部の余所者だけだ」
「すいません…私と美雨さんは彼に口止めされていたんです…」
動揺を繰り返していた者達であるが、誠意をもって謝った事で緊張も解けていく。
「そうだったんだ…でもさ、恐ろしい姿をしているけれど…尚紀さんだって分かって安心した」
「そうですね、あきらさん。私も最初は怖かったけど…尚紀さんの雰囲気は変わりません」
「そうね…私も貴女達と同じ気持ちよ。悪魔であろうと…尚紀さんは大切な恩人だから」
「尚紀さんになら何処までもついて行くってアタシは言った。その言葉に嘘はないよ」
「あちしだって気にしてない!尚紀お兄ちゃんはあちし達にとって…掛け替えのない人だよ!」
悪魔の姿をしていても、人間に擬態していた頃のように接してくれる。
そんな彼女達が嬉しかったのか、彼の口元にも微笑みが浮かんでくれる。
「話を戻そう。お前達は何の用事で俺の前に現れた?」
「私達だけでなく、明日香さん達や阿見莉愛さん達、それに綾野梨花さん達も集まってます」
「姿は見えないようだが?」
「すいません…貴方が何処から現れるのかが分からず、捜索範囲を広げた布陣を敷きました…」
「ボク達はね、尚紀さんの味方だよ」
「そうです!私達は尚紀さんの背中に続き…テロに参加した魔法少女達を倒します!」
「あんな裁判なんかで…つつじの家の子達が浮かばれるはずがないわ!」
「このはの言う通り…アタシ達は連中を同じ目に合わせてやる…ハムラビ法典を叩きつける!」
「目には目を…あちし達は絶対に…あんなえこひいき裁判なんかで許してやるもんか!!」
彼女達の怒りの感情は人間社会を思う気持ちの表れであり、その心は尚紀と同じであろう。
志を共に出来る仲間達が後に続いてくれるというが、彼は首を横に振ってしまう。
「…必要ない」
拒絶の言葉を聞かされた者達は驚きの表情になってしまい、声を荒げてしまう。
「どうしてですか!?貴方独りにだけ重荷を背負わせる薄情者でいろと!?」
「お前達が手を汚す必要はない。お前達が築き上げる次の魔法少女社会の道は俺が切り開く」
「アタシ達の事を心配してくれているんだね?でもさ、アタシ達はもう…十分汚れてるよ」
「あちし達…革命魔法少女を殺した。円環のコトワリに導かれたから…証拠は残ってないけど」
「私達姉妹は既に人殺しよ…それはななかさんだって同じ。だから気にしないで、尚紀さん」
「ボクは武道家として君達についていく。人を殺してでも守れる命がある…それが活人剣だ」
「私とななかさんは魔法少女被害でこの世界に飲まれました。でも私達…心はまだ人間です!」
「私とかこさんは魔法少女になりましたが心は弱い人間でいたい。魔法少女だと思いたくない」
「私とななかさんは人間の目線を捨てませんでした。だからこそ言えます」
――嘉嶋尚紀さんは、弱い人間の味方である事を貫いてくれる人だって!
彼女達の強い思いを振れた彼も俯いていく中、これから起こる狂気を伝えてくれるだろう。
「…気持ちは嬉しい。だが、これから俺が行うのは…大虐殺だ」
恐ろしい処罰内容を聞かされた魔法少女達は息を飲み込んでしまう。
「人類史に刻まれた共産主義政権のような大虐殺光景となるだろう…それでもついてくるか?」
皆の動揺を見つめた後、彼は断言してくれる。
「無理をするな、お前達はまだ優しさを捨てきれていない。殺人も激情に身を委ねたからだ」
「自らの意思を持って大虐殺を行う覚悟は…私達にはまだ無いと仰るのですか…?」
「神浜魔法少女社会の恐怖の象徴は俺だけでいい。お前達は俺がもたらす恐怖を利用しろ」
「そ、そんな…私達の為に尚紀さんだけが悪者にされるだなんて…」
「俺は悪魔だ。
皆の輪を割って進もうとしていた時、シャッターを切る音が聞こえてくる。
「…令か。流石はお前の固有魔法だな?」
視線を向ければ歩いてくるのは魔法少女の姿のままカメラを持つ観鳥令である。
「…それが今の神浜を騒がす悪魔の姿なんだね…嘉嶋さん」
「お前にも黙っていて悪かった」
「気にしてないよ。人は多かれ少なかれ隠し事をする。それを気にしてたらキリがない」
「お前の性格らしい答えだな。それで、お前は俺達のような社会主義派閥を止めないのか?」
「観鳥さんは嘉嶋さんの考え方は好きだよ。それに、貴女達の考え方もね」
「では…観鳥さんも我々の思想に同調すると言いたいのでしょうか?」
「社会主義の精神がない国や社会なんてね、資本主義の弱肉強食しか生まれないよ」
「確かに…それに待ったをかける思想こそが社会主義思想の根幹に当たりますね」
「東の者として、社会主義だけは捨てたくない。それでも共産主義のやり方はごめんかな」
「フフッ、正直者ですね。まるで
「記者は無頼でいるぐらいが丁度いい。世間からひんしゅくを買ってでも正しい事を伝えたい」
皆の顔を見回した後、これから彼女達が作るだろう新しい魔法少女社会に思いを馳せる。
「俺のやり方は東の暴徒と変わらない。暴力革命こそが…共産主義だ」
「それを選ぶ以上は…覚悟は出来ているという事だね…」
「暴力革命にはメリットもある。変えようがないと思える社会制度を短期間で改革出来る点だ」
「歴史が証明したね…フランスの絶対王政を滅ぼせるだなんて驚天動地の事件だったろうさ」
「俺がやる行為によって、虐殺した魔法少女達の家族や友達は泣き叫び…絶望する」
「尚紀さん……」
「自分の事を棚に上げて人をけなすつもりはない。俺は
「嘉嶋さんは立派だよ。世間なんて自分すら省みず罪無き者だと気取りながら悪者を叩くのに」
「そうです…社会リンチによって正しい事さえ言えなくなったのが…今の日本社会であり…」
「今の神浜魔法少女社会でもあるんですね…私達だってその価値観に縛られてきました…」
「イエス・キリストの言葉もあったわね…罪無き者だけが罪人に石を投げろって」
「それでも悪者にされて初めて分かった景色もある。ボクも侍として無頼漢になるよ」
歩き去っていく尚紀が立ち止まり、彼女達に振り向く。
「加勢はいらないが見物するなとは言わない。悪者と罵られる悪魔の生き様を…見届けろ」
風を纏いながら悪魔は走り出し、その姿はまるで竜風圧を纏う天空竜であろう。
赤き思想の竜を待ち構えるのは新西区に入れるエリアで待ち構えている中央の長達。
そして新西区に陣取った西の長を代行するみふゆ達も待ち構えている。
正義の魔法少女達は口々にこう叫ぶだろう。
人殺し、ケダモノ、人でなし、虐殺者、悪魔め、神浜魔法少女社会を滅ぼす者め。
それでも悪魔の心に迷いはない。
「残して見せるさ…あいつらが変えてくれるだろう…新しい神浜の魔法少女社会をな」
彼の後ろには思想を共に出来た神浜の魔法少女達がいてくれる。
それだけで尚紀の心は救われただろう。
残された道はただ一つ。
修羅となって正義の魔法少女達と殺し合うのみであった。
読んで頂き、有難うございます。