人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
魔法少女が今まで戦ってきた脅威とは魔獣である。
しかし、それ以外の脅威が現れたというのを電話越しで手短に説明するのは難しい。
「ど、どうしたの…みふゆさん?こんな遅くに電話してきて…?」
みふゆの声のトーンからただ事ではないというのは理解出来るが要領を得ない。
「今直ぐそこから逃げてください!貴女を殺そうとしている者が直ぐそこまで来てます!」
「そ……それってまさか…常盤ななか達のこと?」
「違います!魔法少女ではありませんし…魔獣でもないんです!」
「ちょっと待って!意味が分からないよ…ウチらの事を把握して復讐しに来る人間がいるの?」
「詳しい事は分かりませんが…魔獣以外の脅威がいたとしか電話越しでは言えません!」
「魔獣以外の脅威?それこそ意味が分からないんだけど…」
「とにかく直ぐに逃げてください!!みたまさんには連絡して調整屋を解放してもらってます!」
「そんな事を言われても…お父ちゃん達が心配するし…」
「その者は既に時雨さん達を殺しています!私の目の前で殺したんです!!」
「し、時雨が殺された!?それじゃあ…やっぱりウチらがした事を根に持つ奴の仕業!?」
「急いで!!貴女の一生を守りたいと言った月夜さんを泣かせたいんですか!?」
「わ、分かった!直ぐに準備して調整屋に逃げ込むから!!」
「貴女だけでなく生き残っている東の魔法少女達にも私が連絡を入れます!早く逃げて!!」
みふゆだけでなく応援の連絡を入れている鶴乃も対応に苦戦している。
「な…なんだと?魔獣ではなく悪魔が現れただと……?」
鶴乃の慌てた声のトーンを電話越しに聞く中央の長だが要領を得ない顔を浮かべてしまう。
「キュウベぇが私達に教えてくれなかった脅威と出会ったの!そいつは…時雨を殺した!!」
「時雨が殺されただと!?では…今回の魔法少女テロに恨みを持つ者の犯行なのか!?」
「悪魔はね…魔獣と違う!人間と変わらない姿をしてて…人間のように恨みを持つの!!」
「ま、待て…悪魔が現れて、悪魔が人間社会の仇討ちをしている?今一ピンとこないのだが…」
「信じて!そいつの魔力は桁外れだった!!私とみふゆだけじゃ手も足も出ない!!」
「その悪魔と出会ったのか!?魔力を持つ存在だと…魔法少女のような存在なのか?」
「魔法少女のような魔法も使ってみせた!人の姿をした悪魔は少女じゃない…男だった!!」
「と、とにかく!状況が切迫しているというのは理解した!アタシ達も応援に向かう!!」
「悪魔は今、東で魔法少女狩りをしてる!東の子達が調整屋に逃げれるまで時間を稼いで!」
「未知の敵との戦いか…。こちらも先の戦いで消耗しているが、背に腹は代えられないか!」
「私も他の子に連絡してるけど手が回りきらないの!ひなのも電話で呼びかけて!」
「分かった!まったく…次から次へと、どうして問題ごとばかりが押し寄せてくる!」
電話リレーとなっていき悪魔の存在を知る魔法少女にも連絡は届いていく。
「あ……悪魔が現れたの?そ、それって…どんな悪魔か分かる?」
電話をしているのは御園かりん。
隣には人修羅と同じ悪魔であるジャックランタンもいるようだ。
「そう……わ、分かったの。私も援護に向かうね…」
スマホの電話を切り、ランタンに向き直る。
「……俺、その恐ろしい悪魔のことを知ってるかもしれないホ」
「会ったことがある悪魔だったの?」
「多分だホ。俺は男の姿をした悪魔とこの街で出会えたから…この姿になっちまったんだホ」
「でも…困ったの。みんなが悪魔という存在を知っちゃったし…ランタン君まで怖がられるよ…」
「その時はその時だホ。それより…悪魔を相手にするってのなら俺は力になれるホ」
「ついて来てくれるの…?心強いけどランタン君まで見つかったら…」
「悪魔の戦場は悪魔の領分だホ。素人の魔法少女は黙って俺のアドバイスに従うホ」
「分かったの!道すがら悪魔との戦いを教えて欲しいの!」
魔法少女に変身して魔法武器の大鎌の柄に座り、ジャックランタンと共に窓から飛び立つ。
電話リレーは続けられ常盤ななかの元にも連絡が届く。
「悪魔が…テロに参加した東の魔法少女を殺しているというのですか、明日香さん?」
「そのようにももこさんから連絡が届きましたが…悪魔というのは本当にいるのですか?」
ななかは事態を把握した。
尚紀が歩き去っていく時にななかに語った言葉を今、彼が実行しているのだと。
「その悪魔こそが…人間社会主義思想を私に伝えてくれた存在です」
「ええっ!?ななかさんは…今暴れているという悪魔とお知り合いなのですか!?」
「…これはチャンスです。今こそ私達は神浜魔法少女社会に向けて革命行動を起こすべきです」
「ま、まさか…その悪魔と合流して西や中央の長たちと一戦交えようと!?」
「その悪魔は言いました…私達が改革したい魔法少女社会への道を切り開くのは自分だと」
「では…その悪魔は私達の味方と判断するべきですね!私も改革を望む子達に連絡を入れます!」
電話を切ったななかは眼鏡を外し、左手のソウルジェムを掲げる。
「尚紀さん…貴方だけに負担を押し付けはしません。思想を共にする私も貴方と轡を並べます」
事態は切迫していく。
最初に連絡を受けたみたまはミレナ座で皆の避難準備を進めていた。
「裁判の跡片付けが残ってるから来た時に…まさかこんな事態が襲い掛かってくるだなんて…」
悪魔を知る立場であり人間の守護者を貫く悪魔を知っている彼女の体は震えていく。
頭に浮かぶのは尚紀の車の中で語られた恐ろしい警告の言葉であり、彼女は警告を犯している。
震えていた彼女の隣には業魔殿から解放されて帰ってきたフロストが心配顔を向けてくれる。
「ヒホ…?みたま、どうかしたのかホ?」
「悪魔がね…テロに参加した魔法少女達を殺して回っているの…」
「ヒホッ!?オイラやランタン、それにイッポンダタラ以外にも潜んでいたのかホ!」
「ここは避難所に指定されたわ。もう時期テロに参加した魔法少女達が詰めかけてくる」
「ま、まいったホー…せっかく業魔殿でのかんづめ生活からかいほうされたってのに…」
伝えるべきかどうか迷ったが意を決したみたまはフロストに向き直る。
「…みふゆさんがね、悪魔の名前を教えてくれたの。それは…フロスト君が知ってる悪魔名よ」
彼女は今まで尚紀がどのような悪魔名をしているのかを知らなかった。
ヴィクトルも必要以上に彼の事を喋らなかったからだ。
「ヒホ……オイラが知ってる…悪魔かホ…?」
「私も気が付かなかった…。あの人が…尚紀さんが……人修羅だったなんて」
その名を聞いた瞬間、フロストの穴のような黒い目が大きく広がっていく。
「ヒト……シュラ?いま……ヒトシュラって言ったのかホ!!?」
「フロスト君…貴方が私に語ってくれたかつての世界の仲魔はね……直ぐそこにいたのよ」
フロストの黒い目からまるで雪解け水のように涙が伝っていく。
「…オイラ、信じてたホ。きっとまた再会出来るって……信じててよかったホーッ!!」
地面に蹲りおいおい泣いてしまう。
そんなフロストの頭をみたまは優しく撫でてくれたようだ。
だがフロストは彼女の手が震えているのに気が付き顔を上げる。
「私ね…尚紀さん…ううん、人修羅に……殺されるかもしれないの」
「ヒトシュラが……みたまを殺す?どうして…そんなことをするんだホ?」
「…私がね、革命魔法少女達に協力して神浜の街を焼いて…大勢を死なせてしまったからよ…」
その言葉を聞いたフロストは理解した。
この世界でも彼は大勢を守ることが出来ずにアマラ深界最奥に堕ちた姿と成り果てたのだと。
「ヒトシュラは…友達も先生も守れず、よわい人達も守れず…心がこわれたことがあるホ」
「…そうだったわね。いっぱい悲しい目にあった人だから…優し過ぎたから…」
――誰かの為に、
涙を拭い、決意の表情を浮かべたフロストが立ち上がる。
「オイラが…ヒトシュラをせっとくするホ!!仲魔のオイラの言葉なら…聞いてくれるホ!!」
「フロスト君……」
「みたまは悪いことしちゃったけど…反省したホ。だから…みたまを信じて欲しいって!」
フロストはみたまを守る悪魔として決断してくれる。
たとえ人修羅が相手でもみたまの側につくと言ってくれたのだ。
それが聞けたみたまの目に涙が浮かんでしまう。
「ありがとう……やっぱり私は悪魔のことを嫌いになんてなれないわ」
抱きしめてくれた後、みたまとフロストが動き始める。
「オイラは門番をやるホ!逃げてきた魔法少女達には見つからないよう工夫するホ!!」
「私は妹のミィに連絡するわ!今夜だけは絶対に家から出ちゃダメだって伝えないと!」
「燃えてきたホーッ!!…と思ってたらランタンとかりんの魔力を感じるホ」
「あの子達も援護に来てくれたのね…心強いわ」
「オイラとランタンでヒトシュラを止めるホ!!みたま達は奥に隠れて出てきちゃダメだホ!!」
「分かったわ…お願いするわね、フロスト君……」
外に出てきたフロストはランタンと合流を行い、かりんは奥のみたまを守らせるようにする。
かつての仲魔との再会を嬉しく思う反面、フロストは不安に押し潰されそうになってしまう。
「ヒトシュラ……もう繰り返しちゃいけないホ」
――大切な友達と殺し合ったことと…
――――――――――――――――――――――――――――――――
風のように街を駆け抜けていく人修羅の姿が夜の神浜を超えていく。
建物の屋上から跳躍して細い路地裏に着地したようだ。
「この先だな…天音月咲の家である竹細工工房は」
路地裏を歩いていた時、ふと壁にアートされている印が目に入る。
「これは……誰がスプレー缶で描きやがった?」
そこに描かれていたのは共産主義の象徴である赤い星、ペンタグラムである。
東京の魔法少女に恐怖心を植え付けるために彼が描いた印と同じものだった。
<<このシティにもデビルスターが必要になると思って沢山描いておいたんですケド>>
聞きたくもない声が聞こえた方角に視線を向ける。
近寄ってきたのはアリナとシドだったため人修羅は眉間にシワを寄せていく。
「テメェら…俺に何の用事だ?今は立て込んでいる最中なんだが?」
「フフッ、邪魔をしに来た訳ではありませン。私達ハ、貴方の殺戮劇を鑑賞したいのでス」
「ギャラリー気取りか?オーディエンスを招待した覚えはないんだがな」
「アリナ…興奮しちゃった♪あんなマーシーの欠片も無いマーダーを見せてくれるなんて♪」
「監視されるのは好きじゃない」
「もちろン。人も悪魔も監視されるのを恐れる生き物…それを貴方は赤い星に込めているはズ」
シドは左手を左の額に触れさせ、壁に刻んだ赤い星と同じタトゥーをなぞっていく。
「お前…左側の額に刻んだ赤い星のタトゥーは共産主義の赤い星を表していたのか?」
「それもありますガ、星である五芒星は黒魔術においテ…サタンの足跡を意味しまス」
「サタンの足跡だと?」
「この街ハ、サタンに蹂躙されル。支配さレ、監視さレ、魔法少女は五芒星の如ク…封印されル」
「…共産主義の監視社会は、
「アリナね、共産主義の恐怖を煽るプロパガンダポスターのデザイン…凄くお気に入りなワケ」
「お前のアート好みなんて聞いてねぇよ」
「アートってね、激情を植え付けるの。感情が刺激されるからこそ人はデスを恐れるんだカラ」
「その恐れの感情を利用シ、
それを問われた人修羅は舌打ちをして顔を背ける。
妙なところでアリナと繋がりを感じさせられた事に対して不快感を示したようだ。
「…まぁいい、どの道刻むつもりだった。手間をお前らが肩代わりするなら文句は無い」
二人の間を割って入るかのようにして立ち去っていく。
彼の背を見送る2人の表情は何かの確信に満ちていた。
「私が崇拝シ、額に刻む象徴とハ…黙示録の赤き獣」
「そのレッドビーストってのが…共産主義カラーのデビルだったってワケ?」
「多くの神学者達は語りまス。黙示録第九章の軍勢を再現出来るのハ…共産主義中国しかないト」
中国は2010年7月1日において国防動員法を施行している。
有事と判断されたなら18歳から60歳までの中国国民が戦時下予備役要員となる。
中国人口は2019年において既に約14億人に達しようとしている。
黙示録における2億名もの軍勢を動かせるのは中国人民解放軍しか存在しないのだ。
「2億もの騎兵隊ハ、人類の三分の一を殺ス。それを解き放つのガ…繋がれた4人の御使イ」
「アハッ!人類デリートを行う4人の御使いならヨハネでなくてもデビルに見えるんですケド」
「黙示録の四騎士ガ、古き世界を終わらせル。悪魔の軍勢を従えしハ…世界皇帝となる
「それがサタンであり…ローマ帝国に繋がるワケ?」
「黙示録の赤き獣とハ、7人の皇帝を表ス。黙示録とハ…キリストの脅威であるローマ帝国復活」
「それが…共産主義の千年王国…。ワンワールド…イルミナティのニューワールドオーダー…」
「…欧米でハ、中国のことをこう表しまス。共産主義を掲ゲ、人々の返り血を纏う赤き龍…」
――
――全ての道をローマに繋げる赤き竜となる者こそガ、混沌王様なのですヨ。
……………。
「……チッ、連絡の方が早かったか」
彼は月咲の実家の前にいるが彼女の魔力を家の中から感じられずに舌打ちを出してしまう。
「あいつは変身能力を剥奪されて人間の能力と変わらない。遠くにはまだ行けていないはず」
周囲に集中して魔力を追いかけると月咲の魔力を発見する。
「中央区に向かっている魔法少女らしき魔力がいるな。どうやら家を出て間もなかったようだ」
家から離れ、風の魔法を纏いながら駆け抜ける。
時速百キロ近い速度で猛追すればあっという間に追いつけたのだが思いもよらぬ敵が現れるのだ。
<<過去と未来の因果…今!ひもたせます!!>>
「なにっ!?」
上空から迫るのは氷の刃を持つ蛇腹の刃。
「チッ!!」
急停止した悪魔が後方に向けて跳躍。
バク宙を繰り返して刃を避けるが追い続けてくる。
伸び続ける蛇腹の刃が周囲を取り囲み退路を断つ。
刃の先端は既に悪魔の頭上まで迫っていた。
「抜けなさいっ!!」
下の悪魔に向けて刃の先端が一気に急降下してくる。
この一撃とは古町みくらが得意とする『マグナ・カルタ』と呼ばれるマギア魔法だった。
着地と同時に悪魔は跳躍。
体を横倒しに捻りながら回転する動きを用いて回避。
剣先は体の側面を抜けて地面を大きく砕いたようだ。
「……魔法少女か」
地面に突き刺さった蛇腹の刃が収縮していく。
巻き戻る先に向けて人修羅は鋭い目つきを送ったようだ。
暗闇から現れた人物達とは古町みくら・吉良てまり・三穂野せいらである。
「魔獣とは違う存在がこの世界にいた…。歴史は凄いわね…神秘がまだまだ隠れてるわ」
「古町…歴史研究部部長として浪漫に浸っている場合ではないでしょ?」
「分かってるわよ。裁判に赴く為に隣街から来て、ホテルで泊まり込みをしていた時に限って…」
「こんな未知の敵を相手にすることになるなんて…」
彼女達を前にしても人修羅は微動だにしない。
「……後ろにもいたか」
後ろから現れた存在とは水樹塁・千秋理子・矢宵かのこといった東の魔法少女達である。
「あ…悪魔って実在したの?ここはもしかして異世界?私…いつの間に異世界転移されたの!?」
「水樹!今はネット小説のノリはやめときなさいって!」
「分かった…。それにしても…発光する刺青をした黒服悪魔だなんて…まさに私好み!!」
「あ…あれ?お兄さんって…たしか孤児を救う会社の代表をしている人…?」
理子は嘉嶋会に弁当を届けに行った時に彼と出会っているため正体に感づいたようである。
「貴様ら…俺の邪魔をする気か?」
「みふゆさんからは連絡を受けている。貴方がテロに参加した魔法少女を殺戮していることもね」
「そこをどけ。俺はテロの主犯格である天音月咲を殺しに行く」
「そうはいかないわ。テロに参加した彼女達が避難出来るまで私達が時間を稼ぐ!」
「口で言っても分からないか?ならば直接体に叩き込み、天音月咲共の避難先を吐かせてやる」
かつて感じたこともない程の殺気が解放され、彼女達は恐怖に包まれる。
怯え切った理子だが、それでも最初に出会った尚紀の姿が悪魔だなんて信じることは出来ない。
「どうして…どうしてなんですか!?貴方は子供のヒーローなのに…どうして人殺しになんて!」
「…今回の魔法少女テロによって、親を失った子供達が大勢いる」
「えっ……?」
「その子供達は泣き叫び、助けを求めるだろうが…これからの人生は地獄となるだろう」
「そんな……」
自分の親が被災して死んだ時を想像した理子は何も言えなくなってしまう。
「被災して孤児となった子供達の無念…お前たち魔法少女共は棚上げしたままでいいのか?」
「そ……それは……」
「俺は棚上げしない。魔法少女を環にすることしか頭にない貴様らに…人間の怒りを叩きつける」
「悪魔であり…人間の守護者だというの…?」
「悪魔の生き方は人と同じく自由だ。人を襲う悪魔も大勢いるが…俺は人間社会を守る道を選ぶ」
「…悲劇ね。共に人間を守る為に戦ってきた者同士だというのに…殺し合うだなんて…」
「映画とかでも正しさをぶつけ合う展開はあるけど…現実でやらされると辛いね…」
「それでも演じ切るしかないわ……この悲しみの演目を!!」
正義の魔法少女達が武器を構える。
目の前にいるのは魔法少女社会に
迎え討つかのようにして腰を落とし足を半歩広げて構える形は
「…いくぞ。今まで正義の味方を気取ってきても人間社会には無関心だった魔法少女共…」
――俺が人間に代わり、お前達を否定してやる。
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工匠区から離れた参京区の水徳寺。
神浜の西側と中央に味方をした静香達は時女の里に戻る為の準備に追われている。
「期日以内には里に帰らないといけないけれど…荒廃した街を見ていたら…そうもいかない」
大震災規模の被害が街に出てしまった為、この街では窃盗や空き巣被害が多発している。
停電や避難により無人となった民家や商店などが狙われており警察も手が回りきっていない。
静香は時女の魔法少女達に指令を下し、里に帰るギリギリまでは治安維持活動を行ってくれる。
「狙われる時間帯は人通りが完全に消える深夜…今夜も遅くまで警戒しないといけないわね」
寺の縁側に座る静香の横には空から監視任務を行う和装魔法少女がいてくれる。
しかし何かに気が付いたのか単眼雑面布の奥で驚愕した表情を浮かべてしまう。
「た…大変……」
血相を変えて怯える態度をした彼女を見た静香が顔を向けてくる。
「何が空から見えたの?」
「東の工匠区で現在…悪魔化したと思しき尚紀さんと東の魔法少女達が…戦闘を繰り返してます」
それを聞いた静香の表情が驚愕に包まれていく。
「嘉嶋さんが悪魔の姿になって…魔法少女と戦っているですって!?」
静香の大声が聞こえたため、ちはるとすなおも縁側にかけつけてくる。
「それ!どういう事なの!?」
「嘉嶋さんが東の魔法少女達と戦っているとは…どういう事態なのですか!?」
「分かりません…ですが戦っている魔法少女は東社会から離反して私達と共に戦った人物達です」
「古町さん達だというの…?なんで正義の魔法少女と嘉嶋さんが殺し合って…」
<<嘉嶋さんは…彼女達を疑っているのかもしれません>>
声が聞こえた方に振り向けば、ちかと涼子の姿が近づいてくる。
「どういう意味なの…?彼女達を疑うって…?」
「彼女たち神浜の魔法少女が行った裁判が本当に人々の為になったのかを…疑ってるんです」
「あの裁判は恣意的なものだった…あんな偏った解決なんかじゃ人間社会が浮かばれないよ…」
「それじゃあ…嘉嶋さんは人間社会の無念を晴らす為に戦ってるのね…」
「尚紀先輩が解放された革命魔法少女達を…悪魔になって殺してるというわけ!?」
「尚紀さんは私に人を疑う大切さを伝えてくれた人です。疑わなければ…先には備えられない」
青葉ちかが言った言葉は静香達もナオミから伝えられている。
「嘉嶋さんは…人間の善性を疑っている。そして私達を助けてくれたナオミさんも同じく…」
静香は迷う。
彼女とて人の善性を信じようとしたからテロリストとなった魔法少女達の解放を認めている。
「私は甘かったの?彼女達を信じようとしたから…嘉嶋さんが代わりに裁きを与えようとしてる」
「静香…貴女には貴女の立場がある。神子柴様の言葉を思い出して下さい」
「分かってる…悪鬼と戦う巫の数を減らしてはならない。だから拘束するだけに留めた……でも」
「もし、彼女達がまた神浜の街を襲う事になったら…それって…私達が見逃したせいだよね…?」
「これが…ナオミさんが伝えたかった事であり、嘉嶋さんがやろうとしている事なんですね…」
「相手を知ろうとしないから…疑わないから…先の脅威に備えられない…」
静香は仲間達に視線を向ける。
「ねぇ…私は間違っているのかな?人間の
それを問われた皆が顔を俯けてしまうが、涼子だけは静香の顔を真っ直ぐ見つめてくる。
「あたしは仏教徒だからお釈迦様の言葉を信じたい。でも、静香には静香が信じたい言葉がある」
「私が…信じたい言葉?」
彼女の脳裏に浮かぶのは時女の矜持を伝えてくれた母の言葉の数々である。
母から伝えられた国の守護者としての戒めを思い出せた静香の手が強く握り締められていく。
静香は決断しなければならない。
時女一族が守る者達とは誰なのかを皆に示すために静香が語りだすのだ。
「…自由民主主義国家である日の本の国民は…選択を自由にしていい個人主義と人権があるわ」
「静香…?」
「自由を与えるからこそ…魔法少女は無秩序・混沌を望む利己主義に腐っていく…」
「静香ちゃん…」
「勿論、社会秩序を望む魔法少女もいるけれど…堕落を選ぶ子の方が多い…だって
「そうです…だから他人を平気で傷つけられる。他人の痛みを想像する必要もない楽な選択です」
「時女の使命…それは日の本の安寧を支えること。それは…
「だとしたら、お前さんは…人々の心の善性を信じたい気持ちを捨てるということかい?」
「今でも信じたい…それでも私の固定概念を押し付けて誰かに犠牲を強いるだなんて出来ないわ」
彼女は左手を掲げ、ソウルジェムを生み出す。
「私……嘉嶋さんの下に行く」
「わ、私も行くよ!!尚紀先輩とナオミさんが私達に伝えてくれた事の答えを探す為に!」
「私もお供します。嘉嶋さんの生き様がきっと…これからの時女の在り方を決めると思うから…」
「私もついて行きます!疑うからこそ人々を救える道もあるのだと…見せてもらうために!」
「諸行無常…世は常に移り変わり、時女の在り方も移り変わる。あたしもついて行くよ」
悪魔の出現と共に時女の魔法少女達も再び動き出す。
動き出したのは彼女達だけではない。
大東区から新西区のミレナ座に向けて跳躍移動を繰り返すのは八雲みかげである。
「姉ちゃ…またミィに隠してる!ミィを遠ざける時はいつだって何かを隠してた!!」
夜遅くに出かけて、電話がかかってくれば家から出てくるなと言われても納得出来ないようだ。
胸騒ぎが収まらず彼女は必至な表情を浮かべながら夜の街を駆け抜けていく。
「ミィは…姉ちゃを守る為に魔法少女になった!だからお願い…ミィに姉ちゃを守らせて!」
愛する姉を助けたい一心で跳躍移動を繰り返す彼女の姿を目撃した者達もいるようだ。
「あれは…みかげですか?」
リズの車の中で夜空を跳躍している者を見上げたのはタルトである。
「この魔力…間違いなく彼女よ。向かう方角は…恐らくは新西区ね」
「姉のみたまの元に向かっているのでしょうか?」
「こんな夜更けに姉の元に向かう…。恐らく人修羅が現れたのと関係しているわ」
東の地に潜伏していた2人はペレネルからの任務である革命魔法少女達の監視を行っていた。
その時に人修羅の魔力を感じ取り、彼が何を行っていたのかも目撃している。
「やはり…彼は動いた。禍根が残る限り…あの魔法少女達は何度でも街を襲うと分かってたわ」
「だから…全ての革命魔法少女達を無力化する為に…殺戮していく」
「掃討戦ね…抵抗勢力がいる限り民衆達の安全保障は得られないわ」
「それだけですか?暴動が起きてから数日たった頃に魔法少女達が口にしていた話もあります」
「私達が見かけた魔法少女達が口にしていた裁判のことね」
「神浜魔法少女社会は三権分立していない長社会…。恐らくは…恣意的な裁判となった筈です」
「それに対する被害者達の怒りを叩きつけに行った可能性も大きいわね…」
タルトはジャンヌ・ダルクの歴史を思う。
ジャンヌ・ダルクもまた政治的思惑による異端審問の被害者だからこそ思うところがあった。
「政治の思惑が司法に表れれば…そこには
「革命魔法少女達が無事に解放された背景を考えれば…この街の長達は甘過ぎたのよ」
感情が無い造魔であるがタルトは何かを決心したのか手を強く握りしめる。
「リズ…車をミレナ座に向けて走らせて下さい」
「タルト……?」
「私は…人修羅である尚紀を止めたいです」
「なぜ…?彼が革命魔法少女達を殺戮するのにどうして私達が関わらなければならないの?」
「イングランドの敵であったタルトが火刑にされた時…戦争は終わりましたか?」
「いいえ、それから先も22年は百年戦争が続いたわ」
「殺し…殺され…それでも争い続けていく。それでは何のためにジャンヌは焼かれたのです?」
「あの時焼かれたタルトは…自分の死で戦争を止めてくれたなら火刑にされてもよかったと?」
「タルトが望んだのは
「何処までも報われないわね…ジャンヌ・ダルクの人生は…」
感情が無い造魔であるが、タルトの理性はこう叫んでしまう。
その気持ちはまるで生前の優しいタルトのようであった。
「繰り返してはいけない。被害者達も苦しい…それでも禍根を超えてでも皆が前に向いて欲しい」
「失った人々は帰ってこない…元の生活にも帰れない…それでも前に向けと?」
「犠牲者達の心を思うと正しいとは言い切れません。それでも…残された人々にも人生がある」
「それが…百年戦争という政争の犠牲となったタルトの意思だと信じるのね?」
「はい…私は本物のタルトではありませんが…それでも彼女ならば…そう思うと信じます」
彼女の言葉は重い。
タルトは革命魔法少女達の扇動によって自らもジャンヌ・ダルクと同じく焼かれて死にかけた。
それでも彼女は革命魔法少女を恨まず、彼女達にもやり直して欲しいと言ってくれる。
「タルト…私は貴女が言った言葉がジャンヌ・ダルクの言葉だと……信じるわ」
リズはアクセルを踏み込み、猛スピードでラ・フェラーリを走らせていく。
魔法少女と造魔が望むのは同じ概念である秩序と平和。
それは一体どんな事をすれば達成出来るのであろうか?
今から始まるのはそれを目指す行為の一つ。
人間は座して死を待たず平和の脅威を取り除く為の
それもまた専守防衛戦争の一つの形であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
悪魔と戦っている場所は結界内ではないため、周囲が気になり互いが全力を出せない状態だ。
「気を付けて!周りは民家がある人間の生活圏よ!!」
「参ったな…私の拡声器魔法だと避けられたら民家に直撃するよね…」
「遠距離魔法攻撃を使うなら民家に当たらないように撃ちなさい!」
「接近戦の武器を使う私達が前に出る!ほら、水樹!あんたも出るのよ!!」
「仕方ない…我が魔鎌の餌食にしてくれるぞ!世界を滅ぼす邪悪な悪魔よ!!」
「わ、私は後方から援護します!!」
マギア魔法による強大な破壊行為や直進する遠距離魔法攻撃を躊躇う魔法少女達。
条件が同じならば自然と互いの技量がものをいう接近戦の戦いとなる。
「私が先に出る!」
先に仕掛けてきたのは矢宵かのこ。
彼女の魔法武器とは針のように先端が鋭く刀身が細い剣。
「はぁっ!!!」
唐竹割りの一撃に対し、人修羅は右足を移動させ軸をずらした回避を行う。
舞うように回転移動を行うが、かのこの左切り上げの一撃が追ってくる。
右腕で彼女の手首を制すると同時に右手首を掴み引き込む。
彼女は人修羅の手を払い、唐竹割りを放つがサイドに移動しながら右腕を腕に絡めつけて止める。
「フンッ!」
半回転した左肘打ちがかのこのみぞおちに決まり、後ずさる彼女の両手首を両手で掴む。
関節を決められそうになる前に前蹴りを彼女は放つが罠だ。
「えっ!?」
体の軸をずらし、右手で足首を止め、背中を向けたまま両手で足を抱え込み一回転。
かのこの右足を両肩に担ぐ形となり右手で残った軸足を掴んで払い上げる。
「キャァァーーーーーッッ!!!」
宙に浮かびながら一回転した彼女の胴体に前蹴りを打ち込む。
彼女の体は大きく蹴り飛ばされ街灯に叩きつけられて倒れ込んだ。
大きく空中で舞うのはかのこが手放した細剣。
悪魔は落ちてくる細剣を右手で受け止めながらこう告げる。
「次だ」
「ハァァーーーッッ!!!」
一気に飛び掛かってきたのは巨大な鎌のような武器を振りかぶる水樹塁。
下段構えで受け止め、刃が火花を飛ばして擦れ合い、互いが回転した態勢から向かい合う。
「よくぞ僕の一撃を受け止めた!やはり貴様は前世において僕の…」
「うるさい」
互いの斬撃の応酬が続く。
後ろ首に鎌の柄を添わせて回転させ、体の回転も加えた右薙ぎを刃で逸らす。
「片手剣で僕の魔鎌を捌ききるだと!?さぞ名のある魔剣士と…」
「うるさい」
縦に魔鎌を回転させ、勢いのまま唐竹割り。
人修羅は受け止めるが柄の回転運動によって払い除けようとする。
回転運動に回転運動を合わせ、互いが前に進む形で刃を払い除けた。
互いの斬撃を繰り返す二人に向けて遠距離武器を構える他の魔法少女達だが攻めあぐねる。
「動きが早過ぎるよぉ…的も人間と同じように小さいし…魔獣みたいに当てられない!」
オレンジをあしらった巨大ピックのような穂を悪魔に向けるのは白い魔法少女衣装をした理子。
だが互いに乱戦を繰り返す素早い動きもあり狙いがつけられない。
「狙いが狂えば水樹に当たるし…避けられても民家に直撃していく…」
複数の筆のような武器を手に持ち投擲の構えをしていたのは吉良てまり。
「ならば…これしかないわ」
彼女は複数の筆を魔力で操り地面に文字を描いていく。
「いいぞ悪魔…よもや闇の覇王である僕に本気を出させるとはな!」
「…大口を叩くしか能がないその口、針で縫い付けてやろうか?」
縫い針のような細剣を相手の口元に向け不敵な笑みを浮かべる挑発に対して彼女は激怒する。
「ほざけ!!世界に終末宣告をもたらすのは…フォートレス・ザ・ウィザードの僕だ!!」
前髪で隠れた片目の魔眼?が赤く光り、彼女は仕掛ける。
体を一回転させる大鎌の右薙ぎを刃で受け止め、刃を滑らせながら打ち払う。
悪魔の連続斬りの中、塁は柄で斬撃を払い上げ、回転を加えた左薙ぎを放つ。
人修羅は上半身をのけぞらせて避けるが追撃を受けて後ろに下がる。
「ハァァーーーッッ!!」
跳躍からの唐竹割りが迫りくる。
人修羅の体が横に向けられ、大鎌の先端が地面に突き刺さった。
「グフッ!!?」
踏み込み、細剣の柄頭でみぞおちを打つ。
突き刺さった大鎌から手が離れ、後ろに下がってしまった彼女の左側頭部には蹴り足が迫る。
「グワーッ!!」
かっこつけて伸ばした前髪が死角となり二回転捻りの旋風脚が決まってしまう。
蹴り飛ばされた方角には小さな姿をした魔法少女がいた。
「こっちに来るっ!!?」
理子は重たい武器を捨て塁の体を受け止めたが、体重の軽い小学生の体まで突き飛ばされる。
「ああっ!!!」
壁に2人は激突して地面に倒れ込んでしまったようだ。
「世界に
かのこの細剣を投げ捨てた時、地面の変化に気が付く。
「なんだ……?」
見れば色とりどりの文字が浮かび彼の周囲を取り囲む。
「言葉は心の使い…徒然なるままに!ハァァーーーッッ!!」
言霊を操り相手の精神を洗脳するマギア魔法。
色とりどりの文字が人修羅の足元に向けて収束していく。
<<悪魔よ!魔法少女を傷つけるのをやめ、悪魔の情報について吐きなさい!!>>
彼女の固有魔法である言霊によって彼は洗脳されてしまったのか?
人修羅の姿は微動だにしないままである。
「…やったかしら?」
「これにて一件落着……では、なさそうね」
「えっ…!?」
みくらはてまりの顔を見るが彼女の表情は鬼気迫る程の戦慄に包まれていた。
「洗脳出来た手ごたえを…感じなかった…」
「そんな!?言葉を操るてまりの洗脳魔法が悪魔には効かないの!?」
悪魔が飲み込んでいるマガタマとは東京の戦いでも重宝したイヨマンテ。
精神を操り傀儡とする精神魔法を無効化する防御膜を人修羅の肉体に与えてくれる代物だった。
まるで物語を紡ぐ脚本家に逆らう登場人物の如く人修羅は歩み寄っていく。
「お前たち魔法少女は洗脳魔法の使い手だというのは知っている。俺も東京で散々苦しめられた」
「ならば…洗脳魔法に対処出来る何かを悪魔は用意出来るのだと判断していいわけ?」
「好きに考察しろ。さて、今度は俺がお前達を吐かせる番だな」
悪魔の金色の瞳が瞬膜となり本物の魔眼の力が発揮される。
「えっ……?」
何か心の中に違和感を感じたみくらとてまり顔には冷や汗がにじんでいる。
「…なるほど。どうやらテロを行った魔法少女共が逃げた先は新西区のミレナ座のようだな」
それを聞いた瞬間、残された3人の魔法少女達の顔が青ざめてしまう。
「うそ……これって、十七夜さんが得意としていた魔法の……」
「読心術…よね…?」
「そんな……悪魔の能力は何処まであるっていうわけ……?」
動揺した隙を見逃さず人修羅は一気に詰め寄る。
「くっ!!」
みくらの杖から氷の蛇腹剣が伸び、地を這う蛇の如く迫りくる。
人修羅は跳躍した側方宙返りを用いて刃を回避。
「はぁっ!!」
てまりも跳躍を行い、手に持つ複数の筆に魔力を宿らせながら光弾のように放射投擲。
迎え撃つ人修羅は側転を用いて筆の隙間を掻い潜る。
「く、来るなっ!!!」
せいらは魔法武器の拡声器から大声を出し、声が形となって放射される。
人修羅は大きく跳躍を行い放射された言葉を飛び越えながらの月面宙返り。
着地と同時に彼は攻め込む。
右手から光剣が生み出され、せいらの持つ拡声器が溶断される。
「ヒッ!?」
左手で相手の手首を掴み、瞬間的に右腕を相手の肘に打ち込む。
「ああッッ!!!」
せいらの腕から鈍い音が響く。
圧し折った腕を背中に回し込み、背中に回り込んだ人修羅がせいらを盾に使う。
「「三穂野ッッ!!?」」
見れば逆の腕で彼女の気道は締めあげられ、彼女は息が出来ていない。
「かっ……あっ………あ……」
「どうした?攻めてこないのか?」
「卑怯者ッ!!三穂野を盾に使うだなんて!!!」
「今俺達がやっているのはスポーツの世界じゃない」
脳に酸素が回らずせいらは意識を失ってしまう。
彼女の衣装の襟元を掴み人修羅は一気に彼女を投げ飛ばす。
「ダメッッ!!」
壁に叩きつけられる前にてまりが受け止めるが2人とも壁に激しく叩きつけられたようだ。
「よくも…私の大切な幼馴染と後輩を傷つけたわね!!」
杖を振るい伸ばされた蛇腹の刃が人修羅を襲う。
体を横に向け、通り過ぎる刃を掴むのだが彼は握られた武器に違和感を感じてしまう。
「…なんだこれは?刃物じゃない…模造刀のように刃が施されていないじゃねーか」
みくらは小学生の頃、刃物で脅され誘拐されたために刃物にトラウマを抱えている。
そのトラウマが彼女の武器の形にまで表れてしまっていたようだ。
「舐められたもんだな」
「…貴方を侮っているわけじゃない!この武器は…私が背負った業なのよ!!」
「なら大事に持っておけ。そして、歯を食いしばりな」
「えっ……?」
人修羅の体が放電していく。
「アァァァーーーーーッッ!!!!」
蛇腹剣のワイヤー部分から流されていくのは雷魔法であるショックウェーブ。
全身が感電したみくらは倒れ込んでしまった。
本来の威力なら電撃を喰らう彼女だけでなく周囲で倒れる魔法少女達まで消し炭となる威力。
しかし彼女の体は電気ショックを浴びた程度の被害規模にまで抑え込まれていた。
「…ネコマタが言ってたな。人間を守る道は誰かを遠ざける道ではなく…誰かを必要とする道だと」
かつて仲魔達と語り合った言葉が脳裏を過った人修羅は彼女達に手心を加えたようだ。
「…お前達は正義の味方を名乗ってきた。ならばお前達のその力…
彼を取り囲んでいた東の魔法少女達は全て倒されたように見えるが立ち上がった者がいる。
<<お願いします尚紀さん!!こんな酷いこと…もうやめて下さい!!>>
声を張り上げたのは幼い声。
見れば震えた姿をした理子が立っていたようだ。
「貴方は酷い人なんかじゃない…だって、マメジが懐くぐらい優しい人だもの!!」
冷酷な視線を人修羅は彼女に向けてくる。
「このテロは許されないと思います…でも!魔法少女達だって…反省してると私は思う!!」
「…反省だのなんだの、お前達はいつも勝手な思い込みだけの世界で物事を語るようだ」
「思い込みなんかじゃない!だって…だって魔法少女は…夢と希望を叶える…正義の味方です!」
「夢と希望?お前達の夢と希望ばかりが優先され、
「そ……それは……」
「お前も街の惨状を見た筈だ。この街の光景の何処に…人間達の夢と希望があるというんだ?」
他の可能性宇宙だけでなく、この宇宙でも神浜の街は破壊された。
魔法少女救済という大儀の元、彼女達が救われるという夢と希望によって人間社会は蹂躙された。
そして神浜の街を破壊する元凶を産み出した彼女達は許されることとなる。
未来ある子供だから、生きていれば天才の力で償えるから、もう一度大切な親友と生きたいから。
全て彼女たち魔法少女の
利己的な愛に傾けば、自分にとって利益がある場合には愛ある態度を示せる。
他の宇宙の神浜市で生きる正義の魔法少女達が愛を示せたのは自分たち魔法少女のみ。
破壊された人間社会には
「あっ……うぅ……」
「お前たち魔法少女は…これだけの犠牲を人間社会にもたらしても…まだ名乗れるか?」
――私達は、
両膝が崩れ、膝立ちとなった理子の目から涙が溢れ出す。
「うっ……あぁ……あぁぁぁ~~~……ッッ!!!!」
自分が考えていた変身ヒロインのイメージが崩壊し、彼女は泣き喚いてしまう。
無慈悲な悪魔が彼女の元に近づいていく。
「ごめんなさい…ごめんなさぃぃ……ごめんなさぃぃぃ~~……ッッ!!!!」
我儘ばかりをしてきたのは自分達だったと気が付いた彼女は謝り抜く。
まるで他の可能性宇宙の魔法少女達の選択まで背負って謝り抜くかのようにして。
既に戦意を喪失した彼女の前にまで来た悪魔が手を伸ばす。
「えっ……?」
彼の手は彼女の細い首を握り潰す為に伸ばされたのではない。
彼女の頭を撫でる為に伸ばされていた。
「分かればいい。曲がりなりにも正義を目指したんだ…その意思、次の魔法少女社会で活かせ」
踵を返した人修羅は月咲の後を追いかける為に駆け抜けていき、理子は独り残されてしまう。
「次の魔法少女社会で…反省を活かす…」
理子は周囲で倒れた魔法少女達に視線を移す。
虫の息だが彼女達は殺されてはいない。
「尚紀さんは…私達を殺さなかった。あの言葉は…みんなに向けても言ってたんですね…」
その為に必要な行為は生き延びることだと彼女は判断する。
一番傷が酷いみくらに回復魔法をかけ続けて命を懸命に守ろうとした。
――美雨が言ってた通り、度し難い程のお人好しね。
彼女たち正義の魔法少女には
――――――――――――――――――――――――――――――――
「距離を取られたが…まだ追いつける」
月咲を追って中央区に入るが近づいてくる魔法少女達の魔力に気が付いたようだ。
「この魔力は…ななか達やこのは達なのか?」
立ち止まっている彼の元に向けてビルから跳躍して現れたのは常盤組と静海組である。
「よかった…見つけましたよ、尚紀さん」
「ななか…何の用事で現れた?それに…お前達もだ」
視線を周りに向ければ動揺した表情を浮かべたかこ達やこのは達がいた。
「こ…この全身刺青姿の悪魔が……尚紀さんなんですか…?」
「そんな……尚紀さんが悪魔だったなんて…。美雨は知ってたのかな…?」
「…信じられない。私たち孤児を救ってくれた大切な恩人が……悪魔だったなんて…」
「悪い悪夢を見てるみたい…。だけど光る刺青をしているだけで…見た目は尚紀さんだよね?」
「それになんか…首裏に一本角も生えてるよ?あちし…悪魔は山羊みたいな角だと思ってた」
動揺した魔法少女達に視線を向けていたが辛い表情を浮かべながらこう語る。
「騙していて悪かった。俺の正体を知っていたのは…美雨とななか、それに一部の余所者だけだ」
「すいません…皆さん。私と美雨さんは…彼に口止めされていたんです」
動揺を繰り返していたが2人が誠意をもって謝ったことで緊張も解けていく。
「そうだったんだ…。でもさ、恐ろしい姿をしているけれど尚紀さんだって分かって安心したよ」
「そうですね、あきらさん。私も最初は怖かったけど…尚紀さんの雰囲気は変わりませんし」
「そうね…私も貴女達と同じ答えよ。悪魔であろうとも尚紀さんは大切な恩人だから」
「尚紀さんになら何処までもついていくってアタシは言った。その言葉に…嘘はないよ」
「あちしだって気にしてない!尚紀お兄ちゃんは…あちし達にとって掛け替えのない人だよ!」
悪魔の姿をしていても人間に擬態していた頃のように接してくれる。
そんな彼女達の姿が嬉しかったのか尚紀の口元が笑みを浮かべてくれた。
「話を戻そう。お前達は何の用事で俺の前に現れた?」
「私達だけでなく明日香さん達や阿見莉愛さん達、それに綾野梨花さん達も集まってます」
「姿は見えないようだが?」
「すいません…貴方が何処から現れるのかが分からず捜索範囲を広げた布陣を敷きましたので…」
「ボク達はね、尚紀さんの味方だよ」
「そうです!私達は尚紀さんの背中に続き…テロに参加した魔法少女達を倒します!」
「あんな裁判なんかで…つつじの家の子達が浮かばれるはずがないわ!」
「このはの言う通り!アタシ達は連中を同じ目に合わせてやる…ハムラビ法典と同じ事をする!」
「目には目を…あちし達は絶対に…あんな
彼女達の怒りの感情は人間社会を思っての事。
ならばその心は尚紀と同じだろう。
志を共に出来る仲間達なのだ。
だが彼は拒絶する言葉を吐き捨てる。
「…必要ない」
その言葉を聞いた周囲が驚きの表情に包まれていく。
「どうしてですか!?貴方独りにだけ重荷を背負わせる薄情者でいろと!?」
「お前達が手を汚す必要はない。お前達が築き上げる次の魔法少女社会の道は俺が切り開く」
「アタシ達のことを心配してくれているんだね?でもさ、アタシ達はもう…十分汚れてるよ」
「あちし達ね…革命魔法少女を殺した。円環のコトワリに導かれたから…証拠は残ってないけど」
「私たち姉妹は既に…人殺しよ。それはななかさんだって同じ…だから気にしないで、尚紀さん」
「ボクは武道家として君達についていく。人を殺してでも守れる命がある…それが活人剣思想だ」
「私とななかさんは魔法少女被害でこの世界に飲まれました。でも私達は…心はまだ人間です!」
「私とかこさんは魔法少女になりましたが…心は弱い人間でいたい。魔法少女だと思いたくない」
「私とななかさんは、
――嘉嶋尚紀さんは弱い人間の味方であることを貫いてくれる人だって!
彼女達の強い思いをぶつけられた彼なのだが、顔は俯いていく。
「…気持ちは嬉しい。だが、これから俺が行うのは……
恐ろしい単語を聞いた周囲の魔法少女達の顔は青くなり全員が息を飲む。
「人類史に刻まれた共産主義政権の如き大虐殺の光景となるだろう…それでもついてくるか?」
皆の動揺を見て彼は首を横に振る。
「無理をするな、お前達はまだ優しさを捨てきれていない。殺人も激情に身を委ねたからだ」
「自らの意思を持って大虐殺を行う覚悟は…私達にはまだ無いと仰るのですか…?」
「神浜魔法少女社会の恐怖の象徴は俺だけでいい。お前達は俺がもたらす
「そ、そんな……私達の為に尚紀さんだけが悪者にされるだなんて…」
「俺は悪魔だ。
皆の輪を割って進もうとしていた時、シャッターを切る音が微かに聞こえた彼が反応する。
「……令か。流石はお前の固有魔法だな」
視線を向ければ歩いてくるのは魔法少女姿をしてカメラを構えた観鳥令のようだ。
「……それが今の神浜を騒がす悪魔の姿なんだね…嘉嶋さん」
「お前にも黙っていて悪かった」
「気にしてないよ。人は多かれ少なかれ隠し事をする。それをいちいち気にしてたらキリがない」
「お前の性格らしい答えだな。それで、お前は俺たち社会主義派閥を止めないのか?」
「観鳥さんは嘉嶋さんの考え方は好きだよ。それに君達の考え方もね」
「では…観鳥さんも我々の思想に同調すると言いたいのでしょうか?」
「社会主義の精神がない国や社会なんてね、資本主義の弱肉強食しか生まれない」
「確かに…それに待ったをかける思想こそが社会主義の思想の根幹に当たりますね」
「東の者として社会主義だけは捨てたくない。それでも…共産主義のやり方はごめんかな」
「フフッ、正直者ですね観鳥さんは。まるで無頼漢です」
「記者は無頼でいるぐらいが丁度いい。世間からひんしゅくを買ってでも
皆の顔を尚紀は見回し、これから彼女達が作るだろう新しい魔法少女社会に思いを馳せる。
「俺のやり方は東の暴徒と変わらない。暴力革命こそが共産主義だ」
「それを選ぶ以上は…覚悟は出来ているということだね…嘉嶋さん」
「暴力革命にはメリットもある。変えようがないと思える社会制度を短期間で改革出来る点だ」
「歴史が証明したね…。フランスの絶対王政を滅ぼせるだなんて驚天動地の事件だったろうさ」
「俺がやる行為によって虐殺した魔法少女達の家族や友達は泣き叫び…絶望する」
「尚紀さん……」
「自分のことを棚に上げて人をけなすつもりはない。俺は裁く者であると同時に…
「嘉嶋さんは立派だよ。世間なんて自分すら省みず罪無き者だと気取りながら悪者を叩くのに」
「そうです…社会リンチによって正しいことさえ言えなくなったのが今の日本社会であり…」
「今の神浜魔法少女社会でもあるんですね…。私達だってその価値観に縛られてきました…」
「イエス・キリストの言葉もあったわね…。
「それでも…悪者にされて初めて分かった景色もある。ボクもサムライとして無頼漢になるよ」
歩き去っていく尚紀が立ち止まり、彼女達に振り向く。
「加勢はいらないが見物するなとは言っていない。見届けてくれ」
――正義を気取る魔法少女達に悪者と罵られる悪魔の
風を纏いて人修羅は走り出す。
その姿はまるで竜風圧を纏う天空竜にも思えてくる。
赤き思想の竜と戦うのは新西区に入るエリアで待ち構えている中央の長達。
そして新西区に陣取った西の長を代行するみふゆ達である。
正義の魔法少女達は口々にこう叫ぶだろう。
人殺し、ケダモノ、人でなし、虐殺者、悪魔め、神浜魔法少女社会を滅ぼす者めと。
それでも悪魔の心に迷いはない。
「残して見せるさ…。あいつらが変えてくれるだろう…新しい神浜の魔法少女社会をな」
――その道を作る為に俺は…古き道を破壊してみせよう。
彼の後ろには思想を共に出来たこの街の魔法少女達がいてくれる。
それだけで尚紀の心は救われただろう。
残された道はただ一つ。
修羅となりて正義の魔法少女達と殺し合うのみであった。
読んで頂き、有難うございます。