人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
生き残っている革命魔法少女達はみふゆや自分達の電話リレーによって危機を知った。
必死の形相で調整屋に逃げようとする魔法少女達が夜の街を駆けていく。
中央区・参京区・栄区など散り散りになりながらも逃げ惑いながら西を目指す。
「悪魔って何なのよ!?突然そんな存在が現れるだなんて聞いてないわ!!」
「そいつは人間と同じぐらい弱い姿に変えられた時雨を容赦なく殺す鬼畜だって話よ!!」
「じゃあ…その悪魔は私達に恨みを持って暗殺を繰り返しているっていうの!?」
「あの西の長と並ぶぐらい強いっていう梓みふゆや由比鶴乃でさえ勝てないって話だよね…?」
「殺される…殺される!!早く逃げないと…!!」
人目に付きにくい路地裏を走り、何処から現れるか分からない悪魔から遠ざかろうと足掻く。
「な…なに……これ?」
逃げていた魔法少女達は路地裏の壁を見て今まで見かけなかった印を見つけてしまう。
「赤い星…?こんなスプレーアート…今まで見かけなかったよね?」
「まるで…共産主義国家の旗の星よね。な、なんだか…見られてるような怖い印象を感じるわ…」
「最近までこんな落書き見つけられなかったわ…。これも悪魔の出現と関係しているわけ…?」
「そんな壁の落書き気にしてる場合じゃないでしょ!早く逃げるわよ!!」
壁の赤い星は無視して逃げていく魔法少女達が見た星の形について語った者達がいる。
――人も悪魔も監視されるのを恐れる生き物…それを貴方は、赤い星に込めているはズ。
――共産主義の監視社会は、人間の五芒星封印だと言いたいのか?
五芒星。
それはかつてペンタグラム魔法少女達が掲げ、人間を支配しようとしたシンボルである。
それは人間と同じ感情を持つ存在である悪魔を封印する結界。
自由の権化とも呼べる悪魔を拘束出来る魔除けの印。
自由とは多様な価値観と選択の自由が認められるべきだと叫ぶ個人主義の世界。
そこに一筆書きの五芒星を描いて誰かを閉じ込め、狭き世界を構築されればどうなる?
多様な価値観という自由が認められず一筆書きの如く1つしか無いイデオロギー支配が起こる。
線が交わる点という多数の視線に監視される世界。
五芒星に飲み込まれた悪魔は術者のイデオロギーに支配され、監視され、従属させられる。
個人の自由が完全に剥奪される光景は社会全体主義国家社会そのものの光景と酷似するだろう。
そんな封印世界、人間も魔法少女も悪魔でさえも恐れる筈だ。
「やっと新西区に入れた!!」
辿り着いた魔法少女達は西側の魔法少女達に誘導されるようにしてミレナ座を目指す。
「急いで!中央区の長達も戦ってくれていますが…何処まで持ちこたえられるか分かりません!」
「早く早く!!ここは私達が何とかするから…貴女達は生き残る事を優先して!!」
ミレナ座まで訪れた魔法少女達が大挙して入り口に群がるのだが変なモノを見つけてしまう。
「あ……あれ…?こんなの…調整屋の前に置いてたっけ?」
「な、何よ…この季節外れというか、季節を混ぜ合わせたような置物は…?」
入り口の横に佇んでいたのは雪だるまの胴体にハロウィンカボチャを頭にした置物。
「今年のハロウィンって…もう終わってるわよね?それでいて、なんで秋なのに雪だるま…?」
「気にしてる場合じゃないでしょ!妙ちくりんな置物なんかより命を優先しなさいよ!!」
慌ててミレナ座の中に入り込んでいく魔法少女達を尻目に謎の置物が念話のやり取りを行う。
<…どうやら、俺達の事はバレていないようだホ>
<魔力を感じさせない擬態はいいホ。でも、この姿になったらオイラ達は動けないホ>
<門番は動き回るもんじゃないホ。これで我慢するホ>
季節外れの闇鍋置物扱いされたフロスト達が見守る中、辿り着けた魔法少女達が中に入っていく。
「これで…生き残れた魔法少女達は全員収容出来たかな?」
「後は…私達の働きにかかっていますね」
みふゆと鶴乃は集まった西側魔法少女に視線を向ける。
十咎ももこ・水波レナ・秋野かえで・天音月夜。
胡桃まなか・梢麻友・牧野郁美・春名このみ。
そして中でみたまを守る御園かりんが勢揃いしてくれているようだ。
「11人…やっぱりあの裁判の時に私達とは袂を分かつと言った子達は…来てくれなかったね」
「…仕方ありません。それでも、これだけの魔法少女達が私達と共に戦ってくれる」
「うん…贅沢なんて言えない!むしろ最強パーティだと思わないとだね!!」
決意を胸に月夜が前に出る。
「わたくし達の指揮をとって下さいみふゆさん!やちよさんの代わりは貴女しかいません!」
「そうだよぉ!くみ…長いこと魔法少女してたから、みふゆさんの事は誰よりも知ってるよぉ!」
「やちよさんと一緒に私達を支えてくれたみふゆさんはシロタエギクのように美しかったです」
「阿見先輩が来てくれなかったのは寂しいけど…でも、まなかも文句はありませんよ!」
「みんな貴女を慕ってます。みんなの面倒見がいいのは、みふゆさんの方が西の長より上でした」
西の長の代わりとして皆がみふゆを認めてくれている。
誇らしい気分となり勇気を貰えたみふゆは西の長の言葉として言い放つ。
「私達は革命魔法少女たちを守ります!これはやっちゃんの意思だと思って下さい!!」
みふゆ支持の声を上げる魔法少女達から少し離れた位置にいるのはももこ達のようだ。
「…やっぱり、あの吸血鬼だけじゃなかったんだな…。悪魔は他にもいたんだよ」
「ど、どうするのよももこ…?今更レナ達…悪魔を知ってただなんて言えない空気よ」
「ふゆぅ…あんな恐ろしい悪魔と戦えだなんて…わ、私……自信ないよぉ」
「あたしだって自信はない…。でも、悪魔の存在は許せない!」
「そうよ…悪魔が十七夜さんにした事を思い出しなさいよ!悪魔は魔法少女の敵よ!!」
「だ、だけど…私怖くて……」
「あ……あんただけじゃないわよ。レナだって…怖くて堪らないんだから…」
「それでも…革命魔法少女達は守る。もう十七夜さんみたいな犠牲は沢山だから!」
彼女達も悪魔と戦う決意を固めた時、ももこは近づいてくる魔力に気が付く。
「この魔力は…たしか調整屋の…」
<<おお~~いっ!!ミィも参加させて~~ッ!!>>
着地して現れたのは八雲みたまの妹であるみかげの姿である。
「お前…調整屋の妹のみかげちゃんじゃないか?何しに来たんだ?」
「お久しぶり、ももたん!姉ちゃが調整屋で紹介してくれた時以来かな?」
「エミリーのお悩み相談所に遊びに来た時にもアタシ達は会ってるよ」
「そういえばそうだった…。あの時にレナたんとかえでたんとも知り合えたんだったね」
「ちょ、ちょっとももこ!小学生のみかげにまで戦わせる気!?」
「ミィは戦えるよレナたん!鍛えてくれた人がいたから…ミィは強くなったし!」
「ふみゃみゃ…いつの間にレベルアップしたのみかげちゃん?私…置いて行かれた気分…」
「そういう問題じゃないだろ?みかげちゃんを危険な目に合わせて調整屋が喜ぶか?」
「それに、みたまさんからは戦いに参加していいって許可を出してもらってるわけ?」
「うっ……許可は貰えてない。ミィは大人しくしてろって言われてる…」
「だ、だったら危ないよ…。みたまさんなら私達で守るからね」
「だ、ダメ!ミィは姉ちゃを守るの!だって…ミィは姉ちゃを守る為に魔法少女になったもん!」
梃子でも動かない態度をした彼女に困り顔を浮かべていた時、みふゆが近づいてくる。
「貴女は…みたまさんの妹さんでしたね?」
「みふゆさん!ミィも戦いに参加させて!姉ちゃがミィを遠ざけるなら…何かに襲われてる!!」
「今回の戦う相手は…悪魔と呼ばれる未知の敵です」
「あ…悪魔!?」
みかげはミレナ座入り口横で佇む擬態した闇鍋置物達に視線を向ける。
気が付かれないようにしてランタンはカボチャ置物を動かし、首を振ってみせた。
(フロスト君やランタン君がやったんじゃないんだね…?それにタルト姉ちゃ達もきっと違う…)
「加勢は嬉しいですが…みたまさんの気持ちを思えば、私は許可出来ません」
「だ、だったら!ミレナ座の中にいる姉ちゃから許可を貰ってくる!それならいいでしょ!?」
「それは…そうですが。ですが、妹を愛しているみたまさんが許可を出してくれるとは…」
「だったら、アタシからも頼んでみるよ」
視線を向ければももこがみかげに近寄ってきており、頭に優しく手を置いてくれる。
「調整屋を思う気持ちはアタシもこの子も同じ。悪魔はテロに参加した魔法少女を狙ってる」
「だとしたら間接的に協力したみたまさんだって…命の保証はされないですね…」
「姉ちゃを守る!!絶対守る!!悪い悪魔なんかに姉ちゃは殺させないから!!」
「ごめんな、みふゆさん。それでもアタシは…メルと同じ犠牲なんて二度と見たくない」
その言葉を聞き、みふゆの脳裏には大切な仲間であったが失った2人の魔法少女の姿が浮かぶ。
「…分かりました。私達は水名大橋付近に陣を張りますから直ぐに合流して下さいね」
2人の背中を見送るみふゆは決意を固めるための気持ちを表すために口を開く。
「もう繰り返させません。そうですよね…かなえさん、メルさん」
意を決した皆が動き、水名区から新西区にアクセス出来る水名大橋に向けて出発。
その光景を見つめていたのは魔力に気が付かれないよう擬態姿をしたタルトとリズのようだ。
「…リズ、この戦局をどう見ます?」
「結界内ではなく人間の生活圏での戦い。だとしたら、人修羅は魔法をほとんど使えないわ」
「私とリズが仕掛けた戦いと同じ状況となりますね」
「だけど、あの男の接近戦に使われる技量は桁外れよ。私と貴女2人がかりで倒せないのだから」
「おそらくは…この街の魔法少女達は人修羅に倒されます。条件は彼と同じなのだから」
「悪魔がこの調整屋に来た時、貴女はどうしたいの?」
「…マスターの命令を受けてはいない以上、戦闘をする訳にはいきません」
「話し合いという形での接触ね…。だけど、彼が貴女を襲うなら…私は貴女を守ってみせる」
「尚紀…ジャンヌ・ダルクになってはいけません。義の為でも、人殺しを続けてしまっては…」
――いつか必ず、貴方を許さない者たちによって…
中央区から水名区にかけては既に中央の魔法少女達が悪魔との激戦を繰り広げる光景が続く。
中央の魔法少女達は悪魔の猛攻に押し切られ、時間の猶予はほとんどなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
革命魔法少女達が逃げる為の時間稼ぎを行うため中央の魔法少女達は悪魔と戦い続ける。
「ハァァーーーッッ!!」
跳躍からの飛び込み突きを放つまさらに対し、悪魔も跳躍。
飛び後ろ回し蹴りで短剣を蹴り飛ばし、続く回転回し蹴りがまさらの右側頭部を襲う。
「くぅッッ!!」
蹴り技のフェイロンで蹴り飛ばされたまさらが焼けた廃墟の壁に叩きつけられ内側で倒れ込む。
「まさらッッ!!」
まさらの親友のこころが叫ぶが人修羅は彼女に迫りくる。
「よくもまさらを…許さない!!」
こころの魔法武器は機械仕掛けの巨大トンファー。
彼女の魔力に呼応するかの如くトンファーが電流を纏っていく。
「雷魔法の使い手か…」
横目で他の魔法少女にも視線を送る。
(見た目がサキュバスのような魔法少女…嫌な記憶が蘇る。あいつも洗脳魔法が使えるのか?)
木崎衣美里の固有魔法を警戒した人修羅は洗脳魔法に対処出来るイヨマンテを外さない。
「守りたい気持ち…みくびらないで!!」
トンファーの一撃を地面に打ち込む。
放射状に地面から流れてきた電気ショックを見た悪魔は側転の勢いのまま跳躍。
「逃がさない!!」
こころも大きく跳躍し、全身に雷を纏いて悪魔に空中突撃を行うのだ。
マギア魔法である『ディスクリート・バレット』が迫る中、人修羅は体を横倒しに回転させる。
「この一発!!最後の一撃に……!」
鈍化した世界。
振りかぶるトンファーの一撃が人修羅に迫る。
だが悪魔の体に触れるよりも先に真上から落ちてきた蹴り足の方が早い。
捩じる回転を加えた浴びせ蹴りによりトンファーが打ち落とされる。
「えっ!?」
空中から落下する瞬間、人修羅は半回転を加えた左後ろ回し蹴りを行う。
「ああっ!!!」
蹴り技のスワイプナイフが左側頭部に決まったこころは蹴り落とされて地面に叩きつけられた。
人修羅も着地をするが片膝をつく。
「くっ…マサカドゥスとなったマロガレの耐性防御が使えないのが泣けてくるな…」
体には触れずともこころが発した雷に焼かれる傷を負っていたようだ。
だが動きが止まった彼を狙い撃つ魔法少女達の攻撃が迫りくる。
「ちっ!!」
後方に片手側転を繰り返し、あいみの銃撃と衣美里が放つハート型の矢を避けていく。
「なんてヤツ…!!こころとまさらを蹴り飛ばすような男は嫌い!…でも、顔はいいけど」
「そこ…今気にするところかな…?でもまぁ、あーしも分かるけど!」
「お前ら!敵を相手にしながらイケメン品定めか!?……まぁ、確かに顔はいいが」
攻撃支援を行うのは接近戦が苦手な魔法少女達なのだが、何か思うところがあるようだ。
「それにしても…みゃーこ先輩。あーしね、あのイケメンさん…どっかで見た事あるよ」
「お前は女社会も男社会も渡り歩いてるぐらいだし、その中で見かけたんだろ?」
「ちがうちがう!知り合いって感じじゃない…街の何処かで……あっ!あの時の!!」
「お前…悪魔と出会ったことがあったのか!?」
「みゃーこ先輩も会ったことあるでしょ!ほら、中央区でイケメンハプニングあったし!」
「あ……ああっ!?アタシのリア充計画を踏み躙り…アタシをフッたイケメン男か!!」
「いや、フラれてすらなかったよね?」
「確かに顔はイケメンだけど…あんな怖い男の人は嫌い!それに比べて伊勢崎君は優しくて…」
戦闘の最中に女子トークを始める緊張感のない者達を見ながら人修羅は後頭部を掻いてしまう。
「っ!?」
背中に悪寒を感じ、前方に側方宙返り。
宙返り態勢から背後に振り向く形で着地して前方を睨む。
そこには地面に短剣を突き立てるような薄っすらとした形が浮かぶ。
「…あの奇襲攻撃を避けれるだなんて、どうして分かったの?」
彼女の体は青白い炎のような光を纏い周囲に溶け込むかのような透明に見えた。
固有魔法である幻惑を駆使したステルス魔法だが人修羅は彼女の姿を感じていた。
「武術用語の心眼を説明するつもりはない。バックアタックなら嫌というほど経験してきた」
「なら…経験に基づく対処法を知っていると判断するべきなのかしら?」
「試してみるか?」
「何処までも…侮れない男ね」
横目をこころに向ける。
彼女は地面に打ち付けられた姿だが俯けのまま、まさらに手を伸ばしていく。
「まさら…私のコネクトを…受け取って!!」
彼女もこころに片手を伸ばす。
手から生み出されたのは光り輝く魔力。
まさらとこころの絆が伸ばし合う手を伝って集まり彼女を強化していく。
「貴女のコネクト…受け取ったわ」
コネクトを受け取ったまさらが武器を構える。
「…強化魔法の類か。二年以上、魔法少女と殺し合ってきたが…初めて見るな」
「この魔法は…絆を深め合った魔法少女同士でしか使えない」
「だとしたら東京のクソッタレ共が使えない理由にも納得がいく」
「こころを傷つけた報い…その身に刻むわ」
「親友を傷つけられたんだ…もっと怒っていいんだぜ?」
「きっと他の子なら激情を出すのだろうけど…私にはこれぐらいでしか表現出来ない」
「フン……造魔のように可愛げの無い魔法少女だ」
互いが構え、詰め寄っていく。
先に仕掛けたのはまさらだ。
「ハァッ!!」
右手の短剣突きに対し、左腕で彼女の右手首をずらすと同時に掴む。
「くっ!?」
そのまま押し出し彼女の態勢を崩しながら腹部に膝蹴り、続く顔面の右肘打ち。
「っ!!」
鼻骨が砕け流血を撒き散らす。
だが感情がほとんど無い彼女は怯まない。
コネクト魔法のダメージカットによって頭蓋骨が陥没する程の被害は受けていない。
掴んだ腕に小手返しを狙うが、まさらは左手を地面につけながらの側転で手首を守る。
解放された右腕の短剣を逆手に持ち、悪魔のストレートパンチが迫る中、彼女の体が揺れた。
「なっ!?」
悪魔の右ストレートの手首を左手で掴み、逆手に持つ柄で反動を抑制する殴りつけ。
顎を打ち上げ、仰け反った顔面に右ストレート、さらに右肘落とし。
コネクト魔法のカウンターが決まった人修羅が地面に倒れ込む。
態勢が崩れた腕を掴んだままトドメの心臓突きを狙うが足蹴りが彼女の刃よりも先に決まった。
「くぅッッ!!」
掴んだ手首が緩み彼女の体が蹴り飛ばされた隙に人修羅は立ち上がる。
「こころと私の絆の力…味わった気分はどう?」
「…これが魔法少女のコネクトってヤツか。…侮れねーな」
鼻血が出た鼻を袖で拭き、上下に体を揺らすフットワークを行う。
「…半端な攻撃では倒せない。次で終わらせるわ」
「……来な」
互いが構え、まさらはマギア魔法を仕掛ける。
左目から噴き出した蒼い炎が相手を幻惑し、彼女の姿を見失わせる魔法だが簡単には通じない。
(あの悪魔には…幻惑魔法は効かないわね。でも、気配だけなら…!)
背後からの奇襲を諦め、魔力を短剣に収束。
蒼い炎を纏いながら周囲に溶け込む程の気殺を用いるのだ。
そしていつ動いたのかも分からない程の跳躍移動で果敢に攻め込んできた。
鈍化した世界。
一気に距離を詰めてきたまさらが放つのは『インビジブル・アサシン』と呼ばれるマギア魔法だ。
人修羅は体の左外側を向けて構える。
彼の両手が動き、交差された瞬間だった。
「あっ……?」
刹那、まさらの短剣は払い落されている。
あの一瞬、交差させて開いた両手が短剣を持つ手首を挟めるようにして受ける。
右手で手首を握り、左手を回し込み相手の腕を引っかけ、左上腕で捩じった手首から武器を払う。
それが刹那で起きた武の現象であった。
「チッ!!」
魔法少女は魔力で武器などいくらでも生み出せる。
右手に生み出した魔法武器の斬撃が迫るが両腕で捌き、突いてくる短剣の腕を両手で掴む。
「ぐっ!!?」
腕が圧し折られ、続く左肘が顔面を強打。
今度こそ顔面が砕かれてしまう。
視界が流血で遮られた時には既に人修羅の後ろ回し蹴りが顎に決まり終えている。
「ここ…ろ……」
脳が激しく揺さぶられた彼女は意識が昏倒して倒れ、その体は痙攣を続けてしまう最後を残す。
「まさらーッッ!!!」
2人の乱戦を狙い撃つ事が出来なかった3人が怒りの表情を浮かべながら罵倒してくる。
「女の子の顔を何だと思ってるの!?このサディスト悪魔!!」
「男は美少女なら手を抜いてくれるとでも思ったか?俺にフェミニズムを期待するな」
「こんな酷い男…見たことない!下心はあったとしても男の人は女性に優しいもんでしょ!」
「なら、何故お前達は殺し合いの世界に入ってきたんだ?」
「うっ…それを言われるとあーし…言い返せないかも…」
「自分達の選択を棚上げし、都合のいい時だけ被害者面か。何処までも腐りやがって…」
魔法少女達からサディストと罵倒された時、彼の脳裏には佐倉牧師の言葉が浮かぶ。
――迷いというものは、ああなりたいという欲望から生まれる。
――それを捨てれば…問題はなくなる。
――人は迷って当然だ。大切なことは、君が納得することだと思う。
――迷う自分を受け入れ、自分が本当に納得出来るものを…君自身が、見つけなければならない。
可愛い美少女達に囲まれてハーレムを作りたい。
可愛い美少女達と親密になり、恋愛しながら仲良く過ごしていきたい。
男なら誰でもああなりたいと思う欲望のテンプレだろう。
だが、嘉嶋尚紀はそれが出来たかもしれない可能性を捨てた。
美少女と仲良く過ごして共にヒーローごっこをして、つまらない人間を何処かで見捨てていく。
そんな生き方を彼が納得出来るはずがない。
彼は美少女ヒロイン達の味方などではない。
「俺は貴様らを許さない。人々の苦しみを棚上げし、皆で仲良く過ごす事しか頭に無い連中をな」
「そこまでお前を突き動かす…動機は何なんだ?」
「……それは」
──貴方のその力を…。
――私が守ろうとした…
――使って下さい。
「……交わした約束のためだ」
彼は今でも忘れていない。
悪魔の全身から誓いの如き魔力の雄叫びが噴き上がっていく。
「あ……あぁ……」
圧倒的魔力を前にして震え上がる魔法少女達に向けて人間の守護者が己の覚悟を示す。
「…俺を悪魔だと罵れ。美少女を傷つける鬼畜だと罵倒しろ」
――そんな言葉で、俺は迷わない。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「……派手にやったみたいね」
「そう見えるけど…東京の魔法少女の扱いに比べたらマシだと思うニャ」
ズタボロにされて倒れているのは中央区の魔法少女達。
悪魔は容赦なく彼女達を痛めつけ、獲物を再び追いかけていった。
「言われてみればそうかもね…。命までは奪っていないし」
「これには尚紀なりのメッセージがあると思うニャ。だとしたらここで終わるべきじゃないニャ」
「そうね…。魔法少女達とはあまり関わりたくないけれど、今回は特別よ」
倒れ込んだ彼女達に悪魔の回復魔法をかけていくのはケットシーとネコマタである。
「綺麗な顔だったんでしょうに…酷いわね」
まさらの上半身を抱き起したネコマタは回復魔法の『ディアラマ』をかけ続ける。
「彼は謝らないけど私が彼に代わって謝るわ…ごめんなさい。女悪魔として…辛さは分かるし」
陥没した顔が回復していき元の美しさを取り戻していく。
「東と中央の魔法少女達を超えたのなら…残されたのは…」
「……西側だニャ」
二匹の悪魔達は西を見て不安そうな表情を浮かべてしまうのであった。
……………。
憤怒を纏う悪魔の影が西側に忍び寄る。
既に彼は水名大橋の前にまで来ていたようだ。
「……感じる。向こう側に集まっているな…ここが最終防衛ラインというわけか」
誰もいない深夜の橋を人修羅は超えようとした時、知っている魔法少女の声が聞こえてくる。
<<嘉嶋さんッッ!!!>>
声が聞こえた北側に視線を向ければ静香達が走ってきていたようだ。
「…お前達か。何をしに来た?」
顔を向けてくる人修羅の顔にはベッタリと返り血がついており、静香達も緊張感を隠せない。
「……尚紀先輩なの?」
「こ…この姿が…悪魔となった嘉嶋さん…?」
「……まるで仏教においては死の神と言われる閻魔だよ」
「自然のような優しさで包んでくれる人だと思ってたのに…やっぱり自然の怖さを持っていた」
初めて見る彼の悪魔姿に動揺を隠せない時女の魔法少女達。
しかし静香だけは前に出たようだ。
「…私達に残された滞在期間は僅かですが、最後に嘉嶋さんの戦いを見届けようと思います」
「田舎に帰るのか?」
「はい…私達の任務は後任に引き継がれることとなりました」
「そうか…俺の心に取り入る為の長期滞在だったとしても、ダラダラとやり過ぎたか?」
「神子柴様は詳細を語りませんでしたが…私達に落ち度があったと判断するしかないです」
「まあいい、誰が来ても結果は同じだ。それより…なぜ悪魔としての俺の戦いを見届けたい?」
意を決した静香が手を握り締め、その重い口が開かれていく。
「私…人間の善性を信じたい女です」
「……そうか」
「だから…日の本を優先する使命を帯びているのにテロに参加した魔法少女達を見過ごした…」
「…お前が危ういタイプだというのは今まで接してきた中で気が付いていたよ」
「私は自分の固定概念を優先して時女の矜持を忘れていた…それに気が付けたんです」
「家でBBQをやった時に語ってくれた時女一族…それは国家・民族を優先する存在だったな」
「私たち時女一族とは…戦前の大日本帝国と変わらないナチズム・ファシズム社会です」
「日の本の為に戦うというたった一つのイデオロギーしか認められない国家社会主義体制か」
「時女の長を目指す時女本家の嫡女として失格でした…。私は国民よりも…自分を優先した」
「その過ちに気が付き、俺の戦いを見届けた果てに…何を見出す?」
「私は…嘉嶋さんの戦いを見届けてから……覚悟を決めます」
――人間の善性という不確かなものよりも…大事な存在を優先すると。
彼女は悪魔の尚紀を恐れず真っ直ぐに視線を向けてくる。
静香の決意の言葉が聞けた彼の口元は自然と笑みが浮かぶ。
「…ならば見届けろ。個人の感情よりも大切なのは……」
「…全体の社会秩序を優先すること」
「それが聞けてよかった。どうやらお前は迷いを断ち切れたようだな?」
「フフッ♪少しだけ迷いは残ってます。だからその残された迷いを…貴方の生き様で断ちます」
2人が笑顔を見せた時、周囲の緊張も解けていく。
「な…尚紀先輩……本当に神浜を守ってきた正義の魔法少女達と…戦うの?」
「守ってきたように見えていたのか?」
「…そ、それは……」
「私は…涼子さんから裁判結果を聞かされた時に感じました……馬脚を露したのだと」
「あれは自分達の理想だけを優先する裁判だ。そこには日の本の民の苦しみなど反映されてない」
「また騙されかけた…。優しい人達なら他人に害を与えないのだと思い込むところでした…」
「人は一面だけで判断するべきじゃないんだね。悪意の臭いはないけど…
「フッ、流石は俺の後輩だ。いいところに気が付いたな」
――この世で最も邪悪な存在とは。
――
「宗教世界の悲劇…異端狩りの頃から人って奴ぁ…何も変わってくれないんだね…」
「楽しいことだけを優先したいからさ。誰かを悪人と決めつけて叩くのは
「人間社会を優先したいだけの嘉嶋さんの叫びは彼女達にとって都合が悪いから…認めない」
「正義の味方って…こんな世界だったの…?等々力さん…教えてよ…」
「そこまで人は正義を玩具にしたいのか…。お釈迦様が
「お前たち時女の矜持、それは社会全体主義。個を捨てて公に尽くす社会こそが俺の理想だ」
「私たち時女の社会には
「俺はこの神浜魔法少女社会に疑問を持ってきた魔法少女なら変えてくれると確信が持てた」
「その魔法少女と一度話をしてみたい。きっと私とその人の思想は同じだと思う」
「常盤ななかって魔法少女を探してみろ。案外…近くにいるかもよ」
それだけを言い残した彼は戦場に向かって歩んでいく。
水名大橋全体を見渡せる入り口遊歩道まで移動した彼女達だが多くの魔力を感じたようだ。
「えっ……?あの方々は…?」
静香達の元に来たのは尚紀の戦いを見届ける為にやってきた常盤ななか達である。
「たしか…テロの時に私たち側に加勢してくれた他所の魔法少女達だと思いますよ…ななかさん」
「ええっ!?貴女が嘉嶋さんがさっき言っていた…常盤ななかさん!?」
「わ…私のことをご存じなのですか!?それに貴女方は尚紀さんとお知り合い!?」
「いきなり目当ての人物達が現れるだなんて…」
「フフッ♪尚紀先輩はきっと、この子達の魔力に気が付いてたんだよ」
積もる話は後回しにした彼女達は橋の全体を見渡せる遊歩道に広がっていく。
改革を望む他の魔法少女達も遅れてやってくる。
全員が橋の光景を固唾を飲んで見守ってくれるのだ。
誰も通らない深夜の水名大橋。
橋の灯りに照らされた人修羅は橋の中央を進んでいく。
「……来たか」
横に並んで道を塞ぐのは西の魔法少女達。
「…ひなのさん達もダメだったのですね」
西側を率いるのは西の長の意思を守り抜く梓みふゆである。
「東の子達まで倒されたんだよね…」
彼女を支えるのは西の長と互角の戦いが出来ると言われる程の魔法少女である由比鶴乃。
「……そこをどけ」
「…いいえ、ここから先には通しません」
「…ならば押し通るまでだ」
人々を守る為に互いが命をかけて戦ってきた者同士。
向かい合う両雄がついに相対する時が来たのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
両者が殺気立ち息をするのも苦しい空間。
恐ろしい程の殺気を放つ未知の敵を見た魔法少女達も動揺を隠せない。
「これが…悪魔の姿……?」
「男の人……だよね?」
「くみよりも…年下に見える。月夜ちゃんやみたまさんぐらいの子にしか見えないよ…」
「あ、あれ…?まなか、あの男の人はご近所で見た事があるような?」
春名このみ、梢麻友、牧野郁美、胡桃まなか達が口々に動揺を漏らす。
その中でも強い憎しみの感情を宿らせていたのは天音月夜だった。
「…月咲ちゃんを殺しに行くのですね?」
「お前はあいつの何なんだ?」
「…生き別れた双子の姉で御座います」
「そうか。ならばアイツの墓でも建ててやるといい」
妹を必ず殺すと宣言する者に対して、姉妹の絆の象徴である横笛が強く握り締められていく。
「やらせません…月咲ちゃんには生きて欲しい!わたくし達と共にやり直して欲しい!!」
「身勝手なことをほざきやがる。生きて幸福になりたかったのはお前たち姉妹だけじゃない」
「身勝手なのは貴方の方です!!人間に代わって魔法少女を裁く…そんな権利があるのですか!」
「そうよ!アンタ…
「俺が魔法少女を裁く根拠を示して欲しいか?…それは昭和23年の最高裁判決だ」
「昭和23年…?最高裁判決…?」
日本の死刑制度は昭和23年の最高裁判決によって社会防衛方法として認められた。
憲法は死刑の存置を想定し、死刑の威嚇力に加え、死刑執行により社会悪の根本を断つとした。
永山事件判決においても罪刑均衡の応報刑が認められ、極刑として死刑の選択も許された。
死刑制度は平成26年の内閣府世論調査で日本人の8割を超える人々が支持を出している。
これは日本民族固有の道徳観が根拠とされていた。
江戸時代に仇討ち制度が法制化され多くの市民達から賞賛された歴史背景もある。
サムライの国に住まう民の道徳観とは、死刑は絶対に必要であると叫んだのだ。
「これでもまだ、俺の
「あっ……うぅ……」
「総意とまではいかないが、総意に最も近い数字の人々が罪人に応報刑を望んでいる」
――これが、魔法少女を殺し続けてきた俺の裁きの必要性を叫ぶ
「つ…月咲さんをどうしたいの…?罪刑均衡ってなに……?」
「行った犯罪と釣り合う程の裁きを与えろ。それ以上を行い報復合戦をするなという同害報復だ」
「そ…それでは…神浜の街を焼いて一万人を超える程の死傷者数を出した月咲ちゃんは…」
「…人知を超える程の死刑にしてやる。それでなければ釣り合わない」
ハムラビ法典を叫ぶのはシュメールの最高神エンキ、バビロニアの天空神エアと呼ばれた悪魔。
ハムラビ法典とはシュメールやバビロニアで生み出された
「だ…ダメです!!月咲ちゃんには死んで欲しくない…死刑になんてさせません!!」
「それはお前が天音月咲を愛しているからだろ?」
「あ……愛してます!家族だから当然です!!」
「愛する家族なら犠牲者にもいた。俺はボランティアをしながら被害者達の声を聞いた」
――どうして…私よりも先に死んじゃったの?守れなかったママを許して…私も後から逝くわ…。
――返せ…俺の愛した息子を…娘を…返してくれぇーッッ!!!
――ママ…パパ…死んじゃったの?ねぇ…嘘だよね?嘘だと言ってよ!!
――イヤァァーーーッッ!!お父さん!お母さん!私を独りにしないでぇーーッッ!!!
……………。
彼は語り続けた。
正義の魔法少女達が裁判に持ち込まなかった被害者達の慟哭の言葉を語り続けた。
魔法少女を環の輪にして幸福社会を得られる事を望んだ者達にとっては都合が悪過ぎる現実。
あまりにも都合が悪い被害者達の叫びを届けてくれた。
正義の魔法少女達の顔は青ざめ、自責の念に縛られながら体を震わせていくしかない。
「これ程までの人々の無念…晴らさずにはいられない!!棚上げになど絶対にしない!!」
月夜の両膝が崩れ、妹が犯した大罪を嘆く涙を流し続ける。
「月咲ちゃん…どうして…?どうして踏み留まってくれなかったの…どうしてぇ!!?」
地面に蹲り泣き続ける月夜に向けて周りの魔法少女達はかけてやれる言葉も無い。
「わ…私達…間違っていたのかな?私…分からなくなったよ…レナちゃん…」
「……レナも分からなくなったわ」
自責の念に駆られていく魔法少女達は彼の言葉を覆す反論を望んでいる。
それを期待する視線の先には西の長の代理人でありあの裁判を誰よりも支持したみふゆがいる。
だが彼女は全身を震わせながら声一つ出せれない頼りなさを周りに晒すしかないのだ。
「み…みふゆ…私達…やっぱり間違っていたのかな…?こんなの私…耐えられない!!」
鶴乃も最初は被害者の気持ちに寄り添う立場を示した。
それを捻じ曲げたのは大切な仲間であり親友でもあるやちよとみふゆがそれを望んだからだ。
「わ…わ……私達はそんなつもりでは……」
震えた声を出すが、全てが言い訳に聞こえる単語しか頭に浮かばない。
西の長の代理人まで自分達と同じ態度しか示せず、魔法少女達の士気は大きく崩されてしまう。
それを覆せたのは飛び入ってきたももこであった。
「騙されるな皆ッッ!!!」
割って入ってきたももこは三日月の曲線を描く大剣を人修羅に向けて構えてくる。
「ももこさん!?みかげさんは…?」
「調整屋の傍で待機させる護衛という形でならどうにか認めてもらえたよ」
「ちょっと待ってよももこ!騙されるなって…どういう意味なの?」
彼女が何を言いたいのかはテロの時にももこと一緒に行動したレナとかえでには分かる。
「ま…まさか、ももこ!今更アレを伝えるわけ!?」
「ふみゃみゃ!?ど…どうなっても知らないよぉ!!」
たじろぐ2人に視線を移したみふゆは3人が何かを隠していたのだと分かる。
「…聞いてくれ。あのテロは…革命魔法少女達が起こしたモノじゃないんだ」
「革命魔法少女達が起こしたテロではない…?どういう意味なのですか…?」
「…黙っててごめん。アタシとレナとかえでは十七夜さんを捜索しに行った時に悪魔を見つけた」
それを聞いた周りの魔法少女達がざわめいていく。
「目の前にいる男じゃないけど…あの吸血鬼は悪魔だと名乗ってきたんだ」
「吸血鬼…?ま、待って…十七夜はどうなったの?ま、まさか……」
「…十七夜さんは守れなかった。吸血鬼に噛まれて…水路に流されていったんだ…」
「そ…そんな!?どうして今まで黙っていたのさ!?」
「みんな必死に戦後処理に追われてて…レナ達、言い出せる空気じゃなかったの…」
「ご…ごめんなさい…!隠したかったわけじゃないの…時期を見て伝えようとしてたから…」
十七夜が悪魔に襲われた事に戦慄するのだが、人修羅に向き直る。
「……貴方達、悪魔の仕業なのですか?」
「…何のことだ?」
「とぼけないで下さい!!革命魔法少女達の裏側にいたのは…悪魔なのかと聞いてるんです!」
「俺は知らない」
革命魔法少女達を裏で操っていたのは未知の敵である悪魔。
その理屈は正義の魔法少女達にとっては
それに縋りつこうとしたのは月咲を悪者にされたくない月夜であった。
「騙してたのですね!?さっきまでの理屈は月咲ちゃん達を悪者にするためのブラフです!!」
「……さっきから何を言っているんだ?」
突然他の悪魔の存在をひけらかし、同じ悪魔の彼を詐欺師扱いし始めてくる正義の魔法少女達。
ももこの勘は鋭いが、それは人修羅にとっては何の関係もない話であるが彼女達は止まらない。
「考えてみろ!暴徒達の金のかかった武装…あんなの魔法少女に用意出来るわけないだろ!?」
「確かに…あの革命暴動は準備が良過ぎました…。やはり…悪魔が裏で準備をしてたのです!!」
「月咲ちゃんも…時雨さんも…はぐむさんも悪くない!!悪いのは…悪者なのは…!!」
――全部…ぜんぶ……悪魔のせいですわッッ!!!!!
その言葉が正義の魔法少女達の
「そうよ…こんなの変だって思ってた…。魔法少女達に出来るわけない!!」
「もしかして、グレイさんの家を焼いて死んだ事に見せかけてるのも…悪魔の仕業!?」
「くみ…許せない!!悪魔の存在を絶対に許せない!!」
「最低です…こんな悪魔がご近所に引っ越してきてただなんて…最低です!!!」
彼女達が人修羅に向けて叫ぶ正義とは、証拠さえ用意しない理屈。
怪しい存在、恐怖の存在、傷つけられるかもしれない社会脅威。
ならばそんな恐ろしい存在など
彼女達が始めたのは東側の神浜社会に対して西側の神浜社会が行ってきた差別と同じ光景だ。
SNSや日本社会では当たり前となってしまった光景でもある。
これこそ人類が未だに繰り返す愚かな
「いくぞみんな!!この神浜を自作自演で破壊した
ももこの固有魔法である激励が発動。
正義の魔法少女達の心に勇気が宿り、罪悪感をさらに消していく。
自分達が責められた現実など
「貴様ら…!!何処までも身勝手な事を叫ぶ!!!」
人修羅は腰を落とし、足を半歩開き拳法の構えを行いながら迎え討つ。
「短絡的なお前達の言動を見せられて確信が持てた!!」
――正義宗教は……
――――――――――――――――――――――――――――――――
正義の系統は古代・中世・近世・近代によって形作られる。
その時々に置かれていた為政者達と民衆達とのせめぎ合いによって作り上げられた。
古代ギリシャの都市国家時代、中世の大僧院時代、絶対王政時代、市民革命時代。
歴史とは、現在と過去との対話であった。
「くみのラブキュンステージで!悪魔をお掃除しちゃうよーッ!!」
先に仕掛けてきたのはメイド服のような衣装を纏う牧野郁美。
彼女の魔法武器は掃除道具のモップに似ているようだ。
七色の光を放出しながらモップ掛け走行をしてくる。
微動だにしない悪魔は迎え撃つ構えを見せるのだ。
「ハァァーーーッッ!!」
一気に詰め寄った郁美はモップを振り上げ、左薙ぎを放つ。
身を低めた姿勢によって左薙ぎを回避。
「えっ!?」
右から迫りくるのは片手をつく程の低姿勢から放つ後ろ回し蹴り。
右側頭部を強打して蹴り飛ばされた郁美を超えて次の魔法少女が迫りくる。
「今のまなかは激辛フルコース気分です!!覚悟して下さい!!」
コック衣装を思わせる魔法少女服を身に纏う彼女が武器にするのはフライパンと似た魔法武器。
振り上げる彼女の一撃に対し、両手で腕を掴みながら捩じり上げる。
「くっ!?」
捩じり上げる一回転の動きのまま横に蹴りを放つ。
「ああッッ!!」
巨大な剪定鋏を思わせる大剣を持つこのみの袈裟斬りに対し、腹部を横蹴りで蹴り飛ばす。
片腕を捩じり上げられたまなかの後膝部にローキックを入れて倒し込み、右肘打ちを決める。
「ぐぅッッ!!」
左側頭部を強打されたまなかが倒れ込んだようだ。
正義を定義した人物の中には古代ギリシャのアリストテレスが存在する。
彼は善と正義についてこんな言葉を残す。
――我々が正しい行為と呼ぶところのものは、一つの意味においては国という共同体の幸福。
――またはその諸条件を創出し守護すべき行為に他ならない。
正義の魔法少女達はアリストテレスの正義の定義に合致しているだろうか?
「よくも郁美さん達を!!」
「援護しますわ!麻友さん!!」
麻友が構える武器は十文字槍に似た巨大絵筆。
虹色の絵の具の如き光を絵筆に纏い、周囲の空間を描く。
彼女の周りに水が集まっていき、水の中から巨大なシャボン玉のような塊が浮かぶ。
彼女のマギア魔法である『水彩レイン』を放とうとしてくる。
「この水魔法は過冷却されています!」
「ならば音で振動を与えますわ!!」
月夜の笛の音が振動を与えていく。
過冷却されたシャボン玉が結晶化し、巨大な氷塊と化して質量攻撃を放ってくる。
「「いっけーッッ!!」」
2人の合体魔法とも言える氷属性魔法攻撃が迫りくる。
それに対して悪魔は避けようとはしない。
「…頭に血が上りやがって!向こう側には人間の生活圏があるんだぞ!!」
振り上げた右拳から光剣が生み出され、振り下ろされる。
真っ二つに溶断された氷塊が光剣の熱によって一気に溶かされ大量の水蒸気を生み出す。
「くっ!水蒸気で視界が…」
橋の周囲が水蒸気に覆われ、視界が遮られていた時だった。
「えっ!?」
水蒸気の中から飛び出したのは拳を振り上げる悪魔の姿であるが、カウンターの魔法がくる。
「止まってッッ!!」
「なっ!?」
悪魔の体が一瞬止まる。
麻友の固有魔法である敵の攻撃を少し止める力が発揮されたようだ。
「チャンス逃してたまるかぁ!!!」
上に視線を向ければ跳躍からの唐竹割りを狙うももこの姿が迫りくる。
後方に側方宙返りを行い、唐竹割りの一撃を回避するが地面は大きく砕けたようだ。
「…見たこともない魔法を使いやがる。いつだって、魔法少女の魔法は侮れなかったな」
水蒸気によって視界が悪い空間が広がっていたが、水蒸気が一気に吹き飛ばされる。
悪魔が視線を橋の奥に向ければ功夫扇を振るい終えた鶴乃の姿が見えたようだ。
彼女の魔力が宿った風圧によって大きな橋に広がった水蒸気が一撃で搔き消されたのである。
「みんな!ここは絶対に守るよ!!こんな外道に…月咲達を殺させてたまるもんか!!」
悪魔の周囲を囲むのは、ももこ・レナ・かえで・月夜・麻友。
悪魔は両腕を水平に交差させる構えを見せ、囲まれたどちらからでも攻撃を捌ける形をとる。
「自分達の事はいつだって棚上げかよ!」
悪魔に次々と襲い掛かるのは自分達の正義を振りかざす魔法少女の群れ。
彼女達が人修羅にぶつけてくるのは個人の感情と価値観によって生み出される正義である。
ならば法の正義とは何だ?
――法が万般のことがらを制定しているのは、万人共通の功益を目指すもの。
彼女達の感情と価値観は人間を含めた万人共通の功益を目指すものなのか?
左右から襲い掛かるレナと麻友に対して悪魔は跳躍。
「「うっ!!!」」
両足を広げる開脚蹴りで彼女達の側頭部を同時に蹴り飛ばすが眼前からはももこの斬撃がくる。
着地と同時に前掃腿でももこの両足を刈り取り、斬撃体勢を崩す。
悪魔の視線の先に見えたのは月夜のようだが、狙いを阻もうとする一撃が放たれる。
「やらせるかぁ!!」
ももこが振るう左薙ぎに対して片足で踏み切りを行い、地面と平行になるように跳躍回避。
扇風機のような回転を蹴り足で表現するフラミンゴ回避からさらに回転跳躍。
「こ、こないで下さい!!」
横笛の音圧攻撃よりも先に決まったのは体を横倒し状態から放つ浴びせ蹴り。
「がっ!!?」
頭頂部を強打された月夜は地面に叩きつけられてしまう。
「チッ!!」
近づく風切り音よりも先に悪魔が跳躍。
後方倒立回転で回避したのは、みふゆと鶴乃が投擲した魔法武器。
炎を纏う功夫扇と巨大チャクラムが体の上を飛び越えていき、橋を旋回して武器が戻っていく。
「あの悪魔…凄い拳法使いだったんだね…」
「私たちに囲まれていながら…魔法も使わずにたった1人で立ち回るだなんて…」
「でも、燃えてきた!!私のサイキョー流拳法を見せてあげる!!」
功夫扇を受け取った鶴乃が駆け抜ける。
「アチョーーッッ!!!」
鶴乃の飛び蹴りに対し、体の軸をずらして避けるが側面からはももことレナが武器を振るう。
乱戦を繰り返す光景が続くのだが、彼女達は誰の為に戦っているのだろうか?
人は共同体のなかでしか生きていけず、万人の功益と支配者の功益とが共通な法を定めた。
その法には社会形成力があるとの考えをアリストテレスは示している。
正義を法によって、人々をして正しきを行わしめる状態と説いた。
彼女たち正義の魔法少女が掲げた社会ルールの中には万人の功益はあったのか?
「ハイーーッッ!!」
跳躍一回転からの空中踵落としを放つ鶴乃の蹴りを避ける悪魔だが、続く連撃が迫りくる。
「ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!アチョーーッッ!!!」
二起脚を捌き、左右の功夫扇の一撃を両腕で捌き、片足連続蹴りを捌き続ける。
右ストレートを避けると同時に内回し蹴りを悪魔の伸びきった腕に絡める。
「ぐっ!!」
曲げられた足で悪魔の顔面を蹴り込み、怯んだ隙に旋風脚を放つ。
ガードは間に合ったが勢いを殺しきれずに蹴り飛ばされてしまう。
「チャンスだレナ!!」
「いくわよももこ!!」
2人が片手を伸ばして合わせ合う。
コネクト魔法が互いに広がり、レナは固有魔法を発動。
「さぁ、ダブルももこのマギア魔法だ!!」
レナの固有魔法とは変身魔法であり、人間だけでなく他の魔法少女にも変身出来る。
立ち上がる悪魔が上空に視線を向ければ、夜空の上で炎を纏う2人のももこがいる。
「喧嘩売った事!後悔させてやるわ!!」
「チームの絆を舐めんなぁ!!」
同じ大剣を構え、炎を纏いて落下突撃する一撃とはももこのマギア魔法。
レナの変身魔法は自身の魔力で再現出来る魔法少女の魔法ならば真似出来たようだ。
「くっ!!」
跳躍回避しようとしたが彼の足には植物のツタが巻き付き拘束されている。
「今だよももこちゃん!レナちゃん!」
湾曲した魔法杖を用いて行使するのは植物を操る魔法である。
「みんなに手間は取らせないわ!!」
「この一撃で…終わらせてやる!!」
ダブルももこのマギア魔法『エッジオブユニヴァース』が迫り、回避は間に合わない。
「…殺し合いの世界に来る選択をした…お前達の浅はかさを呪え!!」
悪魔の両腕から炎が噴き上がり、巻き付いたツタも周囲から生まれる業火で焼いていく。
「なにっ!?」
「あ、あの炎魔法は…!?」
悪魔が放つのは同じ炎魔法であるが桁外れの一撃となるだろうマグマ・アクシスの一撃。
射線は空であり人間の生活圏でないならば極大の一撃を放てるのだ。
「ダメ!!ももこ合わせて!!」
「任せろ!!」
悪魔の持ち上げられた両手から放たれた豪熱放射の一撃。
「「はぁッッ!!」」
ももこ達が互いに向き合い蹴り飛ばす。
彼女達の蹴り足が同時に触れ、左右に弾かれるようにして回避を行う。
豪熱放射の一撃は夜空を超えていったようだ。
2人が水名大橋の下を流れる川に落ちた音が響く中、悪魔は周囲を見回す。
「な…なんて……魔法なの……」
山を一直線に貫ける程の力に恐れをなしていた麻友に隙が生まれているのを彼は逃さない。
「グフッ!!?」
気が付けば懐に入った悪魔の右頂肘の肘打ちがみぞおちに決まり終えている。
怯んだ麻友の片腕を掴み背負い投げ、倒れた彼女にさらに追い突きを容赦なく打ち込む。
「ガッ……!!!」
度重なる急所打ちで意識を失った相手から視線を逸らす。
悪魔が次に視線を向けるのはかえでだったのだ。
「こ…来ないで……来ないでよぉ!!」
震えた姿に襲い掛かろうとした彼だが、川から飛び上がる者に向き直る。
「かえではやらせないわ!!」
川の水を周囲に張り巡らせた姿で槍を構えるのはレナである。
「何時までもアンタの相手してるほど!暇じゃないから!!」
「なんだッ!?」
悪魔の周囲を取り囲むようにして現れたのは複数の鏡。
レナのマギア魔法である『インフィニットポセイドン』を放とうとしてくる。
鏡に映りこんでいるのは全て槍を構えるレナの姿であり、質量をもった攻撃を仕掛けてくる。
「行くわよ!いっけーっ!!」
鏡の中から投げられる複数の槍によって獲物を串刺しにする一撃が迫りくる。
鈍化した世界。
悪魔は身を仰け反らせながら前方から迫りくる槍を回避する。
同時に後ろの手で槍を掴み、一回転運動を用いて槍を振り回す。
背後から飛んでくる槍も含めて全ての槍を払い落とすのだ。
「そ、そんな!?でもまだ…この一撃で!!」
自身が持つ槍に水の魔力を宿らせながら悪魔に向けて投擲する。
レナの槍を左右に振り回す悪魔は飛来する槍を迎え撃つ。
回転させた勢いを乗せながら迫りくる槍を叩き落とす。
衝撃で彼が持つ槍は砕けてしまったが落下してくる彼女に向けて駆け抜けていく。
「キャァァーーッッ!!?」
突撃の一撃に顔を掴まれたレナは後頭部を歩道の手摺に叩きつけられる。
「あっ………」
倒れ込み意識を失ったレナだったが彼はまだレナを掴んで離さない。
「よくもレナをーッッ!!!」
川から飛び上がってきたももこが大剣を構え、背後から迫るのに対して掴んだレナを投げ飛ばす。
「くぅっ!!!」
大剣を捨て、彼女の体を抱き留めたが勢いを殺しきれない。
「ぐっ!!」
同じように手摺に背中を強打したももこは倒れ込んだようだ。
「ももこちゃん!!レナちゃん!!」
「他の連中の心配をしてる場合か?」
鶴乃の功夫扇の一撃を身を低めた回転で潜り抜け、迫る巨大チャクラムをスライディング回避。
「ああっ!!?」
迫る悪魔が跳躍し、一回転しながらかえでの頭部を蟹挟み。
そのまま体を横に回転させ、遠心力を利用して体重をかけながら倒し込み、脇固めを決める。
「あがぁッッ!!!」
腕を折られて泣き叫ぶかえでに向けて踵蹴りを容赦なく放ってくる。
顔面を地面に叩きつけられ、意識を失った彼女の頭部からは血が地面に滲んでいった。
「女の子の顔に…なんてことするのよ!!」
「最低ですよ!!」
鶴乃とみふゆが吼えるが動じない表情を返す。
「中央の魔法少女共にも言った言葉だが…俺にフェミニズムを期待するな」
残された魔法少女達に向けて恐ろしい断罪者が迫ってくる。
「残されたのはお前達2人か?」
<<いや…アタシもまだやれる!!>>
立ち上がったももこが大剣を構えてくる。
「よくもレナとかえでを…アタシの大切な親友達を傷つけたな!!」
「3人か。いいだろう、相手をしてやる」
悪魔を囲むようにして武器を構えた魔法少女達。
「これだけの魔法少女を揃えたのに…私の判断が甘かったです…」
「それでも私達は負けない!だってさ…この3人は、やちよと一緒に神浜を守ってきたんだから」
「…そうだったね。アタシ達は…チーム七海だったんだ」
「かなえさん…そしてメルさん。見てて下さい…貴女達に残された、
為政者は常に賢者とは限らない。
アリストテレス以降の歴史を見ればよく分かるだろう。
実定法は人により立法され、為政者が徒党を組んで彼らの偏向したドグマを振りかざす。
悪法を立法してきた歴史が繰り返されてきたのだ。
過去の変遷をみると必ずしも人々をして正しい方向へと社会形成しなかった場面に遭遇した。
「神浜を守る私達と言ったな?…本気で言っているのなら、俺は貴様らに思い知らせてやる…」
法は人が生み出す以上、悪法を敷く者達によって生み出される。
人々を為政者たちから守るには、それを正す力がその時々の社会になければ平和は破綻する。
「お前達の無責任な治世によって、無念も晴らせず苦しみのたまう人間達の為にも…」
――俺が、
――この神浜魔法少女社会を変えてみせる!!!
万人の功益と支配者の功益とが共通な法による正義とは、いかなることを言うのであろうか?
最良の社会形態とは何か?
治世を行う為政者達とはいかにあるべきか?
その答えを求める道を築き上げる悪魔の戦いは熾烈を極めていった。
読んで頂き、有難うございます。