人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
固唾を飲んで橋の戦いを見守る魔法少女達の顔に動揺が広がっていく。
「あれが…あんな光景が…私達が今まで信じてきた魔法少女の正義なの…?」
信じられない光景を目の前にした沙優希が動揺の声を漏らす。
「あれじゃあ…西側の人々が東側の人々にしてきた事と同じですわ…」
水名区出身の者として東側差別の光景を誰よりも見てきた阿見莉愛は語る。
「おかしいよ…こんなの。あの男の人がテロを準備したなんて証拠ないじゃん…」
「でも…あの男の人が語った人間社会の苦しみを否定するには…あれしかないです…はい」
裁判を執行した側ではない梨花とれんは都合のいい感情には囚われなかったようだ。
「…人という生き物は証明出来ない事柄でさえ事実だと言い張れるのですね…」
「まるで…無いモノを有ると言い張る…
明日香とささらは冤罪の如き光景に対して衝撃を受けたようだ。
「何処までも恣意的…あれが神浜に根付いてきた魔法少女の正義だったのよ!!」
「最低です…私、魔法少女でいるのが嫌になるぐらい…恥ずかしい光景です…はい…」
「私達…ただただ仲良し生活ばかりを送ってきましたわ…」
「その過程の中で…こんなにも私達の心は腐敗してきただなんて…」
「あの子達だって悪人というわけじゃない。だけど善人でさえ…こんなにも捩じれるだなんて…」
「これが…誰の心の中にも潜むという……」
――
「ななかさん…?」
明日香の言葉を代わりに言った人物の方に視線を向ける魔法少女達。
近づいてくるのは常盤ななかと夏目かこ。
その横には時女静香と広江ちはるもいた。
「宗教修行でも武術でも、やればやるほど己のエゴが強くなる。経験はありませんか?」
「確かに…指導の方針でも本来の在り方とは逆になってしまうこともあると父は言いました」
「エゴを離れたという思い込みと自己愛によりエゴが強くなる。誰でも通る道です」
「自分はそうじゃない、間違ってない。その思い込みが…ここまで人を意固地にするんですね」
「武術の世界でも内発はあります。武は得難いですが、出来てると思い込む内発は誰でも起こす」
「時女一心流を伝えてくれた母様からもそれを聞いたわ。私も技の事で母様と喧嘩した事もある」
「それを検証する為にも誰かが厳しく指導しないとダメ。間違いに気が付けないよぉ…」
「竜真館の師範代になれたのも娘である前に弟子だと厳しく指導してくれた家族のお陰です…」
「エゴというものは執拗なモノで、巧みに姿を変えて人を支配する。失敗しない人はいません」
「いつも自分を疑う…その気持ちが大事なんですね、ななかさん」
「エゴは全否定しなくてもいい。あるのが自然ですから、冷静に観察する。そうでなければ…」
「さらに捩じれていってしまい…感情に流されて行くだけの者となる…ですね」
「そんな危なっかしい部分があるから明日香はほっとけないって、あきらさんが言ってました♪」
「わ、私って…皆様から見て、そんなイノシシ娘でしたか!?」
「はい♪客観的に見て、迂闊でそそっかしくて、騒動の元となってた時も多かったです」
「そういえば私とちゃるも…神浜に来た時に有らぬ疑いをかけられて追い回されたわね」
「とんでもないイノシシ娘だったよぉ…」
周囲の魔法少女達から白い眼差しを向けられ、ボタボタと冷や汗を流す明日香である。
「うぅ……なんと未熟な!このような恥辱…耐えられません!自害します!!」
「で、ですから!?エゴはあるのが自然ですから冷静に!!」
ななか達と明日香達のやり取りを見た改革派閥の魔法少女達は少しだけ心が軽くなってくれる。
「この光景が人の集団には大切なんだね、静香ちゃん」
「仲がいいだけではダメなのよ。時には厳しい態度で指導してこそ、集団は襟を正せるわ」
「間違いは誰でも起こす。間違ったなら怒ってでも止めないと…
「それを今やってるのが正義の魔法少女達…怒ってでも止めようと戦うのが悪者扱いの嘉嶋さん」
「赤の他人でしかない魔法少女達に嫌われ…悪者にされてでも指導する。難しい道だね…」
「私…嘉嶋さんを見に来て良かった。あの人のような姿こそ…」
――未来の時女一族長の在り方でありたいわ。
――――――――――――――――――――――――――――――――
戦場は3人を残して他の魔法少女達は倒れ込む。
橋の上で人修羅を取り囲むのはみふゆ・鶴乃・ももこである。
人修羅は魔法少女達の武器に視線を移す。
巨大なチャクラムは投擲だけでなく振り回せば小柄な肉体など両断出来る。
手数が多く炎も纏える功夫扇。
魔獣だけでなく悪魔の首さえ両断出来る鋭い大剣が悪魔に襲い掛からんと構えられていた。
「今更…何を言っても聞く耳持たないよな?」
「貴方を倒し…このテロを巻き起こした目的を吐かせます!」
「月咲は悪くない…時雨もはぐむも悪くない!それを貴方は…用済みになったから殺した!」
「悪魔だけは…絶対に許さない!!十七夜さんの為にも!!」
「…いいだろう。そこまで悪魔を悪者にしたいなら…悪者の凶拳を見せてやる」
握っていた両拳を開く。
両腕で舞うような演舞を見せ、腰を落とし右手を前に、左手を下に向けて構えた。
「これって…八卦掌…?」
「知ってるのですか、鶴乃さん?」
「…気を付けて。八卦掌のフットワークは厄介だよ」
「構うもんか!行くぞ皆ぁ!!」
ももこの号令の元、3人の魔法少女が動く。
鈍化した世界。
人修羅は目を瞑っていき、記憶の世界に浸っていく。
――私もお前も人殺しだ!!
――どちらが生き延びようが、人々から呪われるべき存在だ!!
――だからこそ!!俺達は何も躊躇わずに殺し合える!!
――そうだ!!所詮は
(人殺しは社会悪だ。それでも俺はお前の道とは違うだろうが…人々から呪われる道を進もう)
人修羅の両目が一気に開き、体が動く。
振りかぶるみふゆの巨大チャクラムの左薙ぎを舞うように潜り抜ける。
続く鶴乃の踏み込み蹴りに対し、背を向けながら回り込む回避行動。
がら空きとなった背に双掌打を打ち、踏み込み斬りを仕掛けるももこの壁とする。
「くっ!!」
鶴乃の体がぶつかり鶴乃が覆いかぶさる形で倒れ込む。
「ハァァーーーッッ!!」
みふゆは巨大チャクラムを全身を使って振り回し、遠心力を活かした斬撃を放つ。
横に、縦に、斬撃を繰り出すが身を低めて舞い、横に舞い、円を描く回避を繰り返す。
「くっ!!」
右手で掴んだ巨大チャクラムの右薙ぎに対し、朴歩の形で避けると同時に右腕刀で両足を打つ。
「キャァーッ!?」
刈り取られた彼女の体が宙を一回転しながら地面に倒れ込む。
「くそぉっ!!」
両手持ちの大剣で袈裟斬りを仕掛けるももこに踏み込み、左手で両手首を受け止める。
左手を柄から離し、悪魔を殴りつけようとするが右手で手首を掴まれた。
「チッ!!」
ももこは背を向ける一回転運動で掴まれた両手を払い、柄を握って右薙ぎを放つ。
斬撃に対し人修羅は身を低め潜り抜けた。
手の甲を打つ鞭打が彼女のがら空きとなった背中を打つ。
「ぐぅっ!!?」
強打され、前に倒れ込むももこから視線を外し、向かってくる鶴乃に体を向ける。
「私だってやれる!!万々歳をサイキョーの店にするために…私は強くなってきた!」
功夫扇を逆手に持ち、屋根の部位で突きを狙う。
軸をずらして避け、右手で鶴乃の手首を掴む。
腕に沿わせるように左手刀が首元に伸びていくが、打ち込まれる前に左手をつく片手側転回避。
「負けないよ!私は誰にも負けないサイキョーでないと…
功夫扇で突き、払いを繰り返すが避けられ、腕を掴まれ返された。
関節を折られる前に左手の扇突きで人修羅の首を狙う。
扇子突きが決まるよりも先に体を右奥に滑り込ませ、突きを背中側から右腕で抱え込む。
背を向けた形の左腕で鶴乃の胸を打ち、左足を両足に引っ掛けて倒し込む。
顔面に向けて拳が振り下ろされたが寸前で静止した。
「…何に追い込まれてる?」
「っ!?」
「お前の戦い方には
「あっ……」
彼女の必死の形相から何か人には言えない動機に背中を押されているように人修羅は感じていた。
「とりゃーッッ!!」
らしくもない気遣いを相手に見せた為にももこが放つドロップキック強襲が左側面を捉える。
「くっ!?」
蹴り飛ばされた人修羅に向けて振り上げた大剣が迫りくる。
立ち上がった彼は上半身を巧みに使い斬撃を避けるが勢いに押されて後退していく。
「ハァァーーーッッ!!」
一回転から放つ右薙ぎを身を低めて避け、右手を地につけ右足は弧を描いて体の後ろに回す。
「うわぁっ!?」
軸手に体重を載せ、開脚旋回蹴りで彼女の足を刈り取り、左手に軸手を移して蹴り足を回しきる。
そのまま後掃腿を放ち、俯けのももこの顔を蹴り飛ばした。
立ち上がろうとした先に見えたのは頭上に巨大チャクラムを投げるみふゆの姿である。
「夢と現実を超えた!幻覚の世界を味わいなさい!!」
バレェ選手のように片足を伸ばした態勢で投げられた巨大チャクラムが空中を旋回。
魔力念波が周囲に溢れていき幻覚を見せるマギア魔法が放たれようとしている。
「俺たち悪魔が使うドルミナー魔法の類か。何かの夢幻を見せたいのなら…俺には通用しない」
「なんですって!?」
彼女のマギア魔法である『アサルトパラノイア』は幻惑魔法の一種。
砂の大地と夜空の世界に引き摺り込まれ無数のチャクラムで切り刻まれるのだが効果は見えない。
「むしろお前らの方が正義という幻覚の世界から目を覚ますんだな」
「くっ!!ならば…せめて!!」
右手を掲げ、頭上で旋回する巨大チャクラムを遠心力を活かして射出。
複数に分裂するかのように見える一撃だが人修羅は迷わず駆け抜ける。
「そんな!?」
身を低めた悪魔は開脚状態のスライディングを行い、真下を潜り抜けた。
立ち上がって駆け抜けていき跳躍。
旋風脚を放つがみふゆはバク転回避。
潜り抜けられ遠くに飛んでいく巨大チャクラムが旋回しながら戻り続けてくる。
「ハァァーーーッッ!!」
まるでバレェダンサーの美しき舞いのように蹴り技を繰り出すみふゆに対して彼は迎え打つ。
みふゆの後ろ回し蹴りを避け、右回し蹴りを右手で捌き、左右のパンチを放つ。
彼女は首運動で避け、片手をついた低空後ろ回し蹴りを行う。
避けられ、立ち上がる彼女の頭部に内回し蹴りが迫るが両手を地につけた側転回避を用いる。
チャクラムは術者の元に戻り続ける。
右フックパンチの避け伸びきった肘を左手で掴み、右肩も掴んで投げ技の大外刈りを行う。
人修羅は足を刈り取られた勢いを利用して掴まれた腕に支えられながらの後方回り込みを狙う。
「ぐぅっ!?」
肩を掴んでいた右腕が後ろに回し込まれ伸びきった腕と肩にスタンドアームロックを行った。
片膝をついて苦しむ彼女の目前からは何かが飛来してくる。
「そんな!!?」
みふゆの頭部を切断する位置にまで迫ってきていたのは彼女が投げた武器。
拘束されたまま自分の武器によって死ぬ光景が広がるかと思われたのだが命を救われる事となる。
「えっ?」
腕の拘束を解かれたみふゆの首に両腕が絡みつき、引き倒す。
巨大チャクラムは彼らの上を通り過ぎ橋の手摺を切断しながら川へと落ちていった。
「ぐっ…うぅ……!!」
みふゆはバックチョークの締め技を喰らい、両足も胴体にフックした形となっている。
脱出することが出来ず首の気管が締め上げられ呼吸は出来ない。
「私…は……みんな……夢……環……叶え……」
「…
「か…な…え……さ……メ……ル……さ……」
意識を失ったみふゆから技を解き、人修羅は立ち上がる。
「……次はどっちだ?」
向こう側には武器を構えた鶴乃とももこが立っている。
だが鶴乃は何処か動揺している表情を浮かべていた。
「よくもみふゆさんを!!やらせない…メルや十七夜さんのような犠牲は生ませない!!」
「…う、うん」
「どうしたんだよ鶴乃!?シャキッとしろよ!サイキョーの名が泣くぞ!!」
「そ…そうだね…。私は…悪者をやっつけて、みんなに認められるサイキョーに…」
「あたしが仕掛ける!援護を頼む!!」
大剣を肩に担ぐようにして振り上げ渾身の力をチャージする。
指を揃えて手招きするが、ももこの姿を見てかつて戦った東京の魔法少女の姿が浮かぶ。
(何処か…死んだ凛と重なって見える。この女もあの子のような危うさを感じるな)
大切な親友魔法少女と心がすれ違い、破滅していった魔法少女がかつていた。
悪魔は右手に光剣を生み出して構える。
「これで決める!!ラストッッ!!!」
互いがアスファルトを踏み砕く程の踏み込みを行い、爆ぜる地面と共に前に飛び出る。
それは二年前の東京に訪れたクリスマスの戦いを彷彿とさせるだろう。
二つの意思があの時と同じく激しくぶつかり合った。
……………。
ももこはかつて戦った凛と同じようにして大剣を振り切れていない。
「かっ…あっ………あ……」
人修羅の光剣は放出を解かれ、腕を曲げてからの右頂肘の一撃に切り替わっていた。
みぞおちを強打され、息も出来ずに後ろに下がっていく。
「お前のように本物の戦士の目をした魔法少女が…かつて東京にいた」
「あ…がっ…ゴホッゴホッ!!!」
咳き込み、片膝をつくももこに向けて彼は語り続ける。
「その子は思い人の男を愛していた。でも、魔法少女コンビの違う女は…その子を愛していた」
「ゴホッ…ゴホッ……何の…話なの……?」
「2人の心はすれ違い、愛した男ともすれ違い、掲げた正義とまですれ違い…離れ離れとなった」
東京の魔法少女の存在を聞かされたももこの心にはその人物の心が分かってしまう。
「そんな…アタシみたいな魔法少女が…東京にいたの?」
ももこの脳裏に浮かぶのは魔法少女に契約してまで告白したかった男の子の記憶。
大切に守ってきた親友魔法少女であるレナとかえでの姿も浮かぶ。
「破滅した原因は…彼女を含めた全員が
「誰かの心の痛みを…想像する……?」
その言葉を呟き終えた頃には既に人修羅はワンインチ距離。
「お前は…凛の二の舞にはなるなよ」
彼女の腹部には伸ばされた指。
「ガハッッ!!!!?」
右手のワンインチパンチが放たれ彼女の体は大きく突き飛ばされる。
鶴乃を飛び越えて地面に倒れ込むももこは気を失うが命は残されたようだ。
残されたのは鶴乃だけだが彼女は武器を下ろしてしまう。
「…さっき私に言った言葉が…誰かの心の痛みを想像するってことなの?」
「そうだ。何を背負っているのかは聞くつもりはないが…お前はエゴに飲み込まれている」
「エゴに…飲み込まれている…?」
「宗教でも修行でも努力すればする程…自分がする事は絶対正しいという思い込みに陥る」
「努力すればする程…自分が正しいという思い込みになっていく…?」
「これだけやったんだから認められたい。だが見合う成果に繋がらなければルサンチマンになる」
「ルサンチマンに!?そ…そんな…それじゃあ…私の最強トレーニングは…」
「頑張り抜いた努力が真の喜びに繋がらない。それに気が付いた釈迦は苦行をやめた」
鶴乃の脳裏に浮かぶのは由比家の再興を自分の力で成し遂げること。
神浜を育てた大財閥をたった独りで再興させるなど不可能だろう。
それでも彼女は無茶苦茶な修行を繰り返し努力の果てに報われると信じてきたが現実は残酷だ。
「私が…頑張り抜いてきても……みんなは……みんなは……」
待っていたのは最強という存在を目指す自分の苦しみなど誰にも知ってもらえない過酷な現実。
「ニーチェは仏教を宗教ではないと言った。欲望を捨断するには…
「努力すればする程…エゴに飲まれていく?だったら!私の…私の苦しみは…どう解放したら…」
「エゴは優越性の欲求であり、自分を認めて欲しい訴え」
「劣等感を克服出来ない…劣等コンプレックス…」
没落していく由比家を嘲笑う者達の恐ろしい囁き声が鶴乃の耳の奥に蘇っていく。
その言葉に耐えきれず由比家の女は没落を認められずに金と優雅な生活だけを求めた。
そして魔法少女に契約してまで手に入れた金は持ち逃げされ祖母と母に由比家を捨てられた。
「それじゃあ…私が最強を目指したのは…金持ち時代の栄華の優越性を取り戻したかっただけ?」
「お前の家が金持ちだったのかは知らないが、それだけなのか?」
「…ううん。私とお父さんの万々歳を捨てたように出ていった家族に…帰ってきて欲しかった」
――
「優越性を取り戻し、家族の絆を取り戻す欲求。それが身勝手な努力に繋がる場合がある」
「私の修行は人の言う事を聞いて従うんじゃなく、思う通りに行動するから優越感を感じてた?」
「お前は無意識に気が付いてたんだろ?私の誤りを指摘して、正しい行動に導いてほしいと」
「……私は」
「それを引き出し敗北感も刺激しないようにするには…ありのままの自分を万人に見てもらえ」
これはディスクロージャーと呼ばれるものであり、誰かに見られる事で襟を正す行為である。
無法者達も誰かに見られれば犯罪を起こす気にはならなくなる社会データもあった。
「無理をせず力を抜け。お前がサボっていたとしても誰もお前を責めたりはしない」
その言葉を聞いた鶴乃の手から家族を取り戻す為に握り締め続けた努力の結晶が落ちていく。
「ねぇ…教えてよ!私は…私はどうやったら…家族団欒を取り戻せるの!?」
「家族全員が個人よりも社会を優先することさ。家庭だって立派な社会だ」
「それが…社会主義……?」
悟らされた彼女の膝が崩れてしまう。
「私…無理してまで頑張らなくてもいいの…?周りに苦しいって…言ってもいいの…?」
「正しさは自分で決めるしかないが、判断材料はいくらあってもいいし助けも多い方がいい」
「助けて…くれるの?社会は…私の苦しみを…助けてくれるの…?」
「魔法少女社会だけでは無理だ。彼女達の力だけでお前の苦しみが救えるか?」
「出来ないよ…由比財閥復興費用を出してくれなんて言ったって…首を縦に振るはずがない…」
「そこが共産主義の限界だ。資本主義の合理性を超える社会制度など作れない」
「資本主義の中で…誰かに助けを求めることも許されるの…?」
「それを叫び続ける政治思想こそが社会主義だ。それを捨てれば…弱肉強食しか残らない」
「魔法少女以外にも助けを求める…。それが出来る社会は……」
「…人間社会さ。お前も街に出て、ありのままの自分で人々と接してみるといい」
俯いて沈黙を続けた鶴乃だが顔を上げて彼の目を真っ直ぐ見つめてくる。
「…行っていいよ」
「…逃げた家族が無一文となり、支えてくれる家族の大切さに気が付いてくれる日を願う」
そう言い残して彼は新西区に向かって駆け抜けていった。
「誰かの心の痛みに気が付いてくれる悪魔が…テロを行うはずがない。彼と他の悪魔は違うよ」
張りぼてで作られた最強の肩書きに隠していた心の傷を初めて誰かに気が付いてもらえた。
それを気が付いてくれたのは同じ魔法少女ではなく、よりにもよって悪魔だった。
「魔法少女と環の輪になって楽しく過ごす。それでも…私の苦しみを解放してくれる気がしない」
神浜の魔法少女という子供達が望んでいる本音を鶴乃は知っている。
季節イベントとかパーティとかお誕生日とか、
「だって、みんなが欲しがっているのは…それはきっと…馴れ合いの世界」
馴れ合いとは利害を共にする同士が結託することをいう。
通常取るべきとされる手続きを踏まず暗黙の合意の元に意思決定を行うことを指す。
それはまさに神浜テロを行った魔法少女たちを独断で裁判し、救済したやちよ達を表す。
また官僚と産業界との馴れ合いで内密のギブ・アンド・テイクを行う官僚主義も表した。
「ごめんね…月咲、みたま。やっぱり私達…間違っていたよ」
踵を返して仲間達に回復魔法をかけようとしていたが目の前の光景に驚きの声を上げる。
「あ……」
気が付けば戦いを終えた魔法少女達の傷を癒す常盤ななか達の姿があった。
「由比さん、彼が言った言葉を忘れないで下さい。あの人の言葉こそが…私達の思想です」
「うん…骨身に刻むよ」
「私達は潰し合いがしたいのではない。共に人間社会を優先する道を探したいだけです」
「そうだね…。魔法少女だけでやってける程…世の中楽じゃないよね」
「あとそれと…春名さんの姿が見えませんが?」
「えっ?あ、あれ…倒れたのは見えたけど、何処に行ったのかな…?」
周囲を探すが春名このみの姿は見えない。
彼女は脳を揺らされる傷は与えられず、比較的早くに動けるようになっていたのだが…。
「勝てない…あんな強過ぎる悪魔に…私達なんかじゃ勝てるはずがない!!」
何処かに向かって走るのは、あの戦いの最中に逃げ出したこのみの姿であった。
「あの悪魔に勝てるとしたら…私達が長として認めてきたあの人しか残ってない!!」
彼女は新西区を走り続ける。
このみが向かった先とは魔法少女社会の長の家であるみかづき荘であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「…こんな形で調整屋の店に顔を出すことになるとはな」
悪魔の直ぐ向こう側にはミレナ座の建物が見える。
「いるな…大勢の魔法少女共が潜んでいる。誰も逃がしはしない」
正面のミレナ座に向かい道路を歩いていた時だった。
<<待つホ!ヒトシュラ!!>>
懐かしい声が聞こえてくる。
忘れたことなど一度も無い。
「ま…まさか……その声…その魔力は!?」
入り口横の闇鍋置物達が正体を現す。
現れたのはジャックフロストとジャックランタンであった。
【ジャックフロスト】
アメリカやイギリスの霜の精であり、意味は雪男である。
小人、白髪の老人、雪男、雪だるまといった姿で現れるようだ。
悪戯好きで冷たい息を吐き、人を凍らせることを楽しむという。
冬の寒さが厳しい時は彼らが悪戯をしていると言われていた。
人修羅の目が見開き、かつての仲魔達との記憶が鮮明に蘇っていく。
「お前…ジャアクフロストだろ!!見た目が俺に倒された時みたいに…ジャックだな?」
「ヒホホ…ヒトシュラ!会いたかったホー!!」
小人のように小さな雪だるまが駆けてきて人修羅の下半身に抱き着いてくる。
「また再会できるって信じてたホ!この世界は魔法少女とかいるけど…悪魔もいたからホ!!」
「俺も同じ気持ちだった…。いつか必ず仲魔達と再会出来る日が来てくれるとな」
蒼い帽子を被る頭を撫でてやっていたら蒼い薔薇の飾りに目がいってしまう。
「お前…こんな飾り物を帽子につけていたか?」
「…再会できて嬉しいのは本当だホ。でもオイラ…この飾りを与えてくれた人の味方だホ」
その言葉を聞いた人修羅は仲魔の頭につけている蒼薔薇と同じ薔薇を身に着けた人物を思い出す。
「…フロスト。まさか…今までお前の面倒を見ていた奴とは…」
「……みたまって名前の魔法少女だホ」
それを聞いた人修羅の眉間にシワが寄っていく。
「…ヒトシュラ、もしかしなくても……みたまを殺すのかホ?」
恐る恐る顔を上げていくと、そこにいたのはかつての世界で見たことがある存在であった。
「……あの細い体を八つ裂きにしてやる」
低く恐ろしい声。
死神の如き憤怒の形相。
その姿はかつての世界においてアマラ深界最奥から帰ってきた時の人修羅の姿と酷似する。
大切な人々を守れず、怒りと憎しみに飲み込まれて心が破壊された完全なる悪魔であった。
「そこをどけ。俺はあの中にいる魔法少女共を皆殺しにしてくる」
フロストを通り過ぎようとした時、後ろからフロストが走ってきて通せんぼを行ってくる。
「待ってくれホ!みたまは悪いことしちゃったけど…オイラの面倒を見てくれた恩人だホ!」
「知ったことか。仲魔の面倒を見てくれたからといって…罪を減刑する理由になどならない」
「みたまのお陰で…オイラ、人間社会に悪さしなかったホ!みたまは優しい子だホー!」
「悪魔には暴れさせず…自らも動かず…他の魔法少女だけを操り街を破壊するか…糞女め」
「ち、違うホ!みたまは…自分の商売のせいでテロが準備出来たなんて知らなかったホ!」
「無知は選択だ。知ろうと努力しなかった選択をした者に罪が無いとでも言いたいのか?」
「そ…それは……。むずかしい事は分からんけど、みたまはオイラに色々優しくしてくれたホ」
「お前にとっては恩人だろうが…俺にとっては守りたい人々を殺した…怨敵だ」
「ヒトシュラ……」
「かつての世界で、俺の友達の片腕を捥いだサカハギをどんな風に殺したか覚えてるだろ?」
それを聞いたフロストは思い出す。
フロストの脳裏にはかつての世界で語られた記憶が焼き付いていた。
……………。
頼みの綱の悪魔を失ったサカハギは自らも戦うが人修羅に叶う程の存在ではなかった。
手足は潰され、内臓は引きずり出されて首に巻かれ、腸で首を締め上げながら顔の皮も剥いだ。
<<どうだ外道ッ!!弱者の顔の皮を剥ぎ取って服に縫い付ける貴様には相応しい姿だぁ!!>>
<<ヒャハハ…ハハ…!オマエ…は…俺……よりも…外道に…なれる……ぜ…!!>>
<<まだ喋れる元気があるじゃねーか?なら…その顎もいらねーよなぁ!!!>>
口を両手で掴み、下顎まで千切りとり、死ぬまで肉体の解体を始めていく。
親友の千晶を傷つけ、右腕を切り落とした外道に向けるおぞましい狂気。
人なのか悪魔なのかも分からない存在だったが、その時の人修羅は完全なる悪魔そのもの。
その時の光景を見届けた仲魔から人修羅の狂気を聞かされた事がある。
仲魔であり主人でもある返り血塗れの赤き獣の記憶。
その記憶世界にいた断罪者の姿こそが人修羅であった。
……………。
あの時の記憶が蘇り、全身が震えていく。
「みたまも…
「今回の犠牲者の数は…天秤にかけられる数じゃない」
「そ、そんな!?あれ以上をやるのかホ!!?」
「当たり前だ!これだけの罪を犯した上で罪を償う為に生きろと言う奴がいるなら許さない!」
――八つ裂きにした上で、焼き滅ぼしてくれる!!!
<<ならば、私も八つ裂きにして焼き殺しますか?>>
知っている悪魔の声が聞こえた人修羅は後ろを振り向く。
「……貴様ら」
そこに立っていたのは人間に擬態したままのタルトの姿。
そして両手にダガーを持ち、いつでも人修羅に襲い掛かれる姿をしたリズが立っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
静かなる憤怒をタルト達に向け、人修羅は殺気を彼女達にぶつけていく。
「…テロに加担した魔法少女共を救いに来たか?それもペレネルの命令か?」
「いいえ…私の独断です」
「造魔でしかないお前が…人間のように判断した上で主に背いたというのか?」
震えていたが棚から牡丹餅展開だと不安が少し癒されたフロストが口を開く。
「ヒトシュラ…このお姉ちゃん達を知ってるのかホ?魔力からして…オイラ達と同族だホ」
「知ってはいるが…今は立て込んでいる。いつの間にか仲良くなってたアイツのとこに行け」
親指で後ろを指させば電柱に隠れていたランタンがいる。
「ヒホッ!!?」
ご指名されたのかと震えあがり、カボチャからボタボタと汗のような汁が分泌されたようだ。
言われた通りランタンのところに向かいジト目を向ける。
「ランタン…オマエ、かりんにデカい口叩いておいて…隅っこで何やってんだホ?」
「バ、バカ野郎!!あんな魔王の中でも飛び切りヤバい魔王のような悪魔とは聞いてないホ…!」
「これはかりんにタレコミ案件だホー」
「うるさいホー!出会ったあの男がこんな次元の悪魔じゃ…俺達もあの女悪魔共も皆殺しだホ!」
「ランタン、オマエ成仏したいんじゃなかったのかホ?」
「死んだら転生ガチャが待ってるホ!次はどんな形にされるか分からないホー…!!」
ジャックコンビは電柱に隠れ、成り行きを見守る事しか出来なかったようだ。
「造魔であり悪魔の私には祈る神は与えられません。ですが、神学の知識ならあります」
「ジャンヌ・ダルクになるのを目指していたな。歴史でもジャンヌは敬虔なキリスト教徒だ」
「一神教では現世での罪を神に対して贖罪するという考え方が根底にあります」
「人間は神に対する罪人として贖罪のために生き、贖罪を果たしたものだけが天国へ行けるか」
「驚きました…悪魔の貴方が神学に詳しいなんて」
「…昔取った杵柄だ。一神教は啓示宗教…それは神を信じ、奇跡を信じることだ」
「宇宙には厳然たるアマラの法があります。それを犯す者は神との関係が切れるのです」
「無私の愛情を持たぬ者には原罪が与えられる。俺たち悪魔が…その象徴だ」
「人は既に神罰を与えられた罪人。神を信じ、神の教えを貫く者には死後の復活が約束される」
「お前…後ろの建物にいる連中を全員キリスト教徒にでもして贖罪の人生をやらせる気か?」
「それが……ジャンヌ・ダルクの望みだと私は考えます」
「ご高説を垂れ流せたなら、さっさと帰れ」
踵を返してミレナ座に向かおうとするのだが、タルトの声が聞こえて立ち止まる。
「私は悪魔です…。悪魔が神の教えを信じ、贖罪をやれという理屈は…さぞ滑稽だと思います」
「…誰もいなければ腹を抱えて笑ってやる。悪魔としてな」
「ですが…私は貴方に伝えたい。貴方は義の殺人を繰り返す…その先には報いしかありません」
「…俺もジャンヌ・ダルクのように死刑にされるか?覚悟なら天使と戦った時に出来ている」
「殺し…殺され…人々は報復を繰り返す。その負の連鎖は断ち切るべきです」
「俺が報復されるならばいつでも受けて立つ。俺が奴らを殺戮するのは人間社会の為だ」
「…人間社会の安全保障の為ですか?」
「人間社会は相互利益でしか機能しない。社会に不利益を与える罪人は隔離されるか…死刑だ」
「司法の世界ですね…。確かに私は神学者…司法の世界には疎いです」
「隣にいる俺と変わらなそうな造魔はどうだ?そんな武器をチラつかせ…
意見を求められたリズが重苦しい口を開く。
「私も本音を言わせてくれるなら…テロに加担した魔法少女を全員死刑にしたいわ」
「リズ…?」
「私の元となったリズも…カトリーヌの仇討ちをした。賊を全員殺し…村の安全は保障された」
「それは…かつてのリズが行った所業です。新しく産まれた貴女が背負うことも…」
「隠していてごめんなさい…私はあのテロが起こった日に…革命魔法少女達を殺戮したのよ」
感情が無い造魔ではあるが心に小波が立ったのか目が見開かれる。
「こいつは驚いた。お前の相棒は俺の片棒を担いでいたようだ。なんなら、一緒に来るか?」
「貴女まで…かつて伝説の傭兵として生きたリズ・ホークウッドになりたいのですか?」
「これはマスターの命令でもあり、私の望みでもあった。やった事はかつてのリズ…そのものね」
「それで?伝説の傭兵さんは俺の殺戮に参加するのか?手伝ってくれるなら手間が省ける」
「…マスターの命令は安全保障を脅かす脅威の排除。そして事が起こった原因ならまだある」
「そうだ。この神浜が政治によって変わらない限り…魔法少女からの安全保障など得られない」
「それでもマスターは殲滅戦をするなと言ったの。造魔である私とタルトはそれに従うしかない」
「なんでもかんでもペレネルの許可がいるか。首輪はつけられたくないもんだ」
タルトが近寄り150センチしかない小さな身長で彼の目を見上げてくる。
「尚紀…貴方までかつてのタルトと同じ事になる。人殺しを続けては…誰にも許されません」
「許されるつもりは無い。既に俺は…お前が勉強している大いなる神に喧嘩を売った悪魔だ」
「どうしても…ダメなのですか?」
「力づくで止めてみるか?」
視線をリズに移せば既に悪魔化して武器を構えている。
俯いたままの姿をしていたが顔を上げて尚紀の両目を見つめ続けてきた。
「私は…感情が無いから分かりません。タルトはどうして…戦争で人殺しをしたのですか?」
――いつか誰かに報復される危険なら彼女だって分かっていたはずです。
その質問を聞いた人修羅は彼女が造魔であると痛感した。
「…お前はジャンヌの現身なんだろ?なら、彼女の記憶を辿れ」
「タルトの記憶を……?」
目を瞑り、思い出せた記憶を探る。
浮かんだのは南凪区の外国人墓地の光景であった。
彼女の右手が自然と後頭部をなぞっていく。
セミロングヘア―の先端部分で彼女の右手は後ろ髪を掴んだようだ。
「タルトは…カトリーヌの墓の前で断髪した。後ろ髪を捧げたのは…愛する妹のため」
「かつてのジャンヌは戦乱で妹を亡くしたのなら…繰り返させたくなかったのさ」
愛する人の死と同じ光景を生みださせたくない。
たとえ他人に恨まれる道を進もうとも、戦場の修羅になろうとも。
フランスに平和の光をもたらす覚悟を決めたのがかつてのジャンヌ・ダルクであった。
「それが…社会に安全保障をもたらす世界。国がそれを肩代わりするのが政治だ」
胸の高鳴りを感じたタルトは胸に手を当てる。
「何故ですか…カトリーヌの事を思うと…先ほど言った言葉が…無力に感じてしまう」
「やはりお前は造魔で終わる女じゃない。お前にもあったじゃないか…
踵を返し、今度こそ人修羅はミレナ座へと歩みを進めていく。
「これが…この感情の高鳴りが…ジャンヌ・ダルクを戦場の英雄に変え…殺戮者に変えた…」
「タルト…彼の決意はもう覆せないわ。彼は十分…人間社会の為に戦ってくれている」
国が民に肩代わりして安全保障を守る政治を行うのが本来の役割だ。
だが国が安全保障を守らないなら、誰かがそれを肩代わりしなければ平和は破綻するのだ。
ミレナ座に入ろうとする断罪者に対し見ている事しか出来ないランタンが焦りを浮かべてしまう。
「ま…不味いホ…中にはかりんが…みかげまでいるんだホ!!」
「こうなったら…オイラ達で無理やり止めてやるしかないホ!!」
「ええい!!次の転生先は…野菜だけはやめてくれホー!!」
覚悟を決めたフロストとランタンが電柱から飛び出す。
彼らに気が付いている人修羅は右足で地面を踏みつける。
「「ヒホホーーーッッ!!!?」」
足元から一気に業火が噴き出し、地面を走っていく。
豪熱に阻まれたフロスト達はタルトに向かって緊急避難を行うように逃げ出すのだ。
「こ…これは……!?」
ここは不況の影が色濃く残り人々が立ち退いた無人街。
そのため調整屋を秘密裏に構えたり魔法少女も利用しやすかったのが仇となった。
「ミレナ座を取り囲む程の…業火の結界!?」
炎の渦の中に向けて悪魔は背を向けながら歩いていく。
「正義も愛も追いかけない」
――もう俺に……
業火がミレナ座周囲を封印するかの如く走り続け、それは一筆書きの印となる。
自由を拘束する象徴であり支配の象徴。
憤怒の業火を纏うサタンの足跡…炎の五芒星だった。
「ダメだホ…駄目だホ…ヒトシュラァァーーーッッ!!!!」
フロストの叫びは燃え盛る炎の壁によって阻まれ業火の奥に進んだ彼には届かない。
今から始まるのは、かつて東京で起きたワルプルギスの夜の惨劇が繰り返される光景となる。
神浜の魔法少女社会に憤怒の炎が運ばれる時がきたのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「ん……ん……?」
気が付いたやちよはベットから体を起こして時計に目を向ける。
「…半日以上、眠っていたというの?」
スマホで日付を確認を行う。
裁判を行った日から日付が過ぎた深夜だと理解したようだ。
「私のソウルジェム…誰かが穢れを取り除いてくれている?きっとみふゆ達ね…」
倒れた自分の面倒を見てくれた仲間達に感謝して机のソウルジェムを指輪に変えて嵌め直す。
服を着替えてダイニングルームまで下り、冷蔵庫のミネラルウォーターを口にした。
「私は……」
彼女の耳にはまだ常盤ななかから罵倒された言葉が響いている。
「私は…間違ってはいない。だって私は魔法少女社会の長…なら、優先すべきは……」
――私についてきてくれた魔法少女達の…利益よ。
彼女は君主論を読んだことがある。
「人も組織も、国家さえも
彼女がもし人間社会を優先して月咲・時雨・はぐむ・みたまを殺したとしよう。
月夜とみかげは復讐に燃え、長の政治判断を否定し始める。
半面、魔法少女社会を優先すれば優しさによって皆が環の輪となり、楽しく過ごせる利益となる。
そして人間社会の無念などゴミの如く捨てていい理由と出来た。
これはマキャベリズムといわれており、君主論にも繋がる思想であった。
「人が現実に生きているのと、人間いかに生きるべきかというのとは…
人間いかに生きるべきかを見て、現に人が生きている現実の姿を見逃す人間は破滅する。
理想論や単なる人情論ではなく現実の中で役立つ指導力を発揮していかなければならない。
そうでなければ厳しい世界でリーダーなど務まらないのだ。
「私は見てきた…みたまと絆を結ぶ魔法少女達を…月咲さんと絆を結ぶ魔法少女達の姿を…」
ならば人間社会の慟哭などゴミ箱に捨ててでも優先すべき社会とは?
「私は七海やちよ…神浜魔法少女社会の西の長であり…魔法少女社会を優先する指導者よ」
組織と人を動かし成長させる為には大きな目標である正義が必要だ。
いままで地位が安泰だと思いのんびりと過ごした人達に向けて地位は安泰ではないと告げる。
会社でも今まで働くだけだった者に対して社会正義の大儀を掲げれば厳しく扱う事が出来た。
「私が掲げる正義は…魔法少女社会を環の輪にすること。私達の利益を阻む者は厳しく指導する」
正しい大儀と書いて正義。
大儀とは大勢の利益を優先して少数派の利益を踏み躙る行為である。
「私は目標を掲げる…。魔法少女社会を環の輪にすると言った以上は…ぬるま湯は許されない」
それを阻む少数派とは常盤ななか達であった。
「いずれ常盤さん達とも…決着をつけないといけないわね」
胸糞悪い気持ちに苦しんでいた時、玄関からけたたましいチャイムの音が響く。
「こんな深夜に…誰なの?」
玄関の扉まで叩く音に急がされ、彼女は扉を開けた。
「貴女は…春名さん!?魔法少女姿までして…何があったの!?」
やちよに会いに来た人物とは悪魔との戦いから逃げ出し応援を求めてきたこのみである。
「助けて…下さい…!私達では…あの悪魔には勝てない!!!」
「あく…ま…?言っている意味が分からない…何か特殊な魔獣が現れたの?」
「違います!魔獣じゃない…人間みたいな男の姿をしてる…そして悪魔は…私達に怒ってる!」
「落ち着いて!深呼吸して…興奮したままでは何を伝えたいのかも纏まらないわ」
思考が定まってきたこのみは西の長が眠っていた間に起きた出来事を伝えていく。
やちよの顔は蒼白となり西の長の意思を守り通そうとしたみふゆ達の安否に怯えてしまう。
「悪魔の力は…桁外れでした。私はどうにか逃げ出せたけど…みふゆさんや鶴乃さんは…」
「そんな…悪魔という存在が隠れていて…私達の裁判結果の報復を行っているというの!?」
「騙されないで!あの悪魔は神浜テロの裏側に関与してます!私達を悪者にするブラフです!」
「神浜のテロには…悪魔が関与している。用済みとなった時雨達は…その為に殺された…」
「生き残った革命魔法少女達はミレナ座に避難してますが…みふゆさん達が倒されれば…」
やちよの脳裏には、おぞましい存在によって魔法少女達が大虐殺される惨劇が浮かぶ。
まるでその光景は彼女が掲げた正義である環の輪を引き裂いていくかのように映った。
彼女の眉間にシワが寄り切り、憤怒の形相と化す。
「…やらせない…やらせないわ!!」
彼女はリビングのソファーに置いてあったバイカージャケットを身に纏い、ガレージに向かう。
収納されたバイクに跨りエンジンを点火。
マフラーから響くけたたましい唸り声はまるでやちよの怒りの叫びに聞こえるだろう。
「…私はミレナ座に向かい、悪魔を倒すわ。このみさんは…みふゆ達をお願いね」
バイクが急発進していき、みかづき荘に上る階段の上からバイクごと飛び出す。
道に飛び降りたバイクを急旋回させたやちよは新西区ミレナ座を目指した。
「私達が掲げる正義を守り通して見せる!環の輪を築くには…
彼女が叫ぶ正義の世界には人間社会の正義など含まれていない。
これは神浜魔法少女社会の長としての判断だ。
彼女が飛び出した場所においてインキュベーターはこんな言葉を残している。
魔法少女達は自分達だけ得をして、人間社会に不利益を与えた。
これはお前達がもたらした原因と結果。
魔法少女なら、因果から逃れる術はないのだと語ってくれていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
館内が燃え上っていくミレナ座館内。
吹き荒れる惨劇光景とは
「ヒギャァーーーッッ!!!!」
両手で頭部を掴まれ圧殺。
血と脳みそを撒き散らし円環のコトワリに導かれる。
「来ないで…来ないでぇーッッ!!」
もはや勝てる存在ではないとパニックとなった魔法少女達が館内を逃げ惑う。
「ヒィーッッ!!」
後ろ髪を掴まれ後頭部を抱えながら顔面を壁にぶつける。
「がフッ!!!」
何度も何度も壁に叩きつけられ、ぐちゃぐちゃになった顔を振り向かせて連続頭突きを放つ。
陥没してしまった顔面の口を両手で開かせ、下顎を首の皮ごと引き千切る。
「ガアァァー!!!」
声も出せない魔法少女の頭部は捩じり切られ、円環のコトワリに導かれた。
「助けて…助けてぇーーーッッ!!!」
魔法の使い方も思い出せない程パニックとなった生命達が本能のまま逃げ惑う。
近寄ってくるのは正視できない闇。
認められない醜さ。
逃げ出してしまいたい罪。
この世全てにある人の罪状と呼べるものを裁く者。
だから死ぬ。
この闇に捕らわれた者は苦痛と嫌悪によって自分自身を食い潰す。
「ギャアーッッ!!」
最後尾の魔法少女が悪魔に蹴り飛ばされ、倒れ込む。
悪魔は足で背中を踏みつけ両手で首を掴む。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いーーーーッッ!!!!!」
彼女の首の筋繊維が断裂していき、おびただしい出血が吹き出す。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーーーッッ!!!!」
少女の首が力任せに背骨ごと引き千切られる。
無表情なまま手に持つ頭部を壁に叩きつけ潰れたトマトに変えた。
円環のコトワリに導かれる光を背に返り血を漆黒に染める闇が逃げる者達を追撃していく。
彼は魔法少女社会に向けて暴力革命を敷く共産主義者。
「あゲぱァッッ!!!」
振るわれる拳は顔を粉砕する槌となろう☭
「たすゲめッッ!!!」
振るわれる刃は首を跳ねる鎌となろう☭
「悪魔の共産主義を思い知れ。そして、他の街の魔法少女社会も逃れられると思うな」
魔法少女をゴミのように大虐殺する光景はまるで共産党が繰り返す民族浄化殲滅行為。
民族浄化とは多民族国家において脅威となる民族を強制的に地域から処分することを指す。
人間と魔法少女という異なる民族が互いに暮らすしかない人間社会。
だが国家に管理もされず人間よりも遥かに優れた魔法少女達は人間社会を傷つけた。
ならばその脅威となる者達を人間社会大儀をもって殲滅する。
これが社会全体主義国家の政治であるのだろう。
「逃げたところで無駄だ。俺の怒りの炎に焼かれて死ぬか、怒りの拳に潰されて死ぬか…選べ」
火の手に飲まれまいと屋上を目指す生き残った魔法少女達。
死を撒き散らす闇は彼女達が上った階段を上がっていく。
よく見れば彼の背中には何やら小さな物がくっついている。
熱や電撃に耐性を持つ特殊繊維に包まれているのはコイン程に小さい盗聴器であった。
……………。
燃え上るミレナ座をビルの屋上から眺めているのはシドとアリナである。
「アッハッハッハ!!ファンタスティックッッ!!!」
両手を広げて大喜びするアリナの手には受信機から聞こえる大虐殺の音声が流れ続ける。
あの時、間を通り過ぎようとした彼の背に気が付かれず盗聴器を取り付けたのはシドであった。
「あァ…見なさいアリナ!!この光景こソ…私が崇拝シ!!降臨を待ち続けた神の威光!!」
音声しか聞こえないが虐殺の叫び声だけで何が行われているのか鮮明に想像出来る。
死と再生を追いかけ続けた2人にとっては死を形にするなど日常なのだ。
「やはリ、あのお方でありましタ…!我らイルミナティの啓蒙神!黙示録の赤き獣!!」
「デス&リバース…オールドスネーク…アリナが求める美の…最古の形…!!」
<<裁く者……
恋する乙女のように顔を赤くするアリナが持つ受信機からは追い詰められた者達の叫びが響く。
「来るな…来るなぁぁーーーッッ!!!」
燃え上るミレナ座の屋上まで逃げてしまったが周囲は業火で描かれた五芒星で封印されている。
身体能力で跳躍しようものなら壁となる五芒星の業火によって焼き尽くされるだろう。
「全員殺す…惨たらしく死ぬ貴様らを嘲笑ってやる。貴様らも人間に向けて同じ事をした筈だ」
光剣を両手に生み出し、断罪者が駆け抜けてくる。
<<ギャァァァーーーーーーーーーーッッ>>
殺人。
殺人 殺人。
殺人 殺人 殺人。
殺人 殺人 殺人 殺人。
殺人 殺人 殺人 殺人 殺人 殺人…。
<<ククク…フハハハハハ……ハーッハハハハハッッ!!!!>>
切り裂き。
潰し。
臓腑をばら撒く。
円環のコトワリの光さえ届かない闇が世界を赤黒に変える。
まさにこの光景をもたらす者こそこの世全ての悪としか表現出来ない。
そう表現された神がかつていた。
シジマのコトワリを掲げし神として、ボルテクス界で静寂思想を掲げた事があった。
……………。
ミレナ座という映画館の中で調整屋を開いていたスペースは第一シアターである。
だが扉は厳重に閉ざされており助けを求める魔法少女達は裁く者がうろつく外に放置された。
「……ごめんなさい……なの……」
両開きの扉を開けるドアハンドルにはかりんの大鎌を差し込み柄で錠をかけている。
逃げ惑い、扉を叩いて中に入れろと叫んだ魔法少女達はかりん達に見捨てられたようだ。
「私…あんな悪魔が来るだなんて分からなかった…。守ってあげたいけど…きっと皆死ぬ…」
「殺される……殺される……悪魔……ウチらを裁く悪魔が来る!!!」
膝が崩れた姿をして震えているのは月咲である。
「怖い…怖い…怖いよぉ姉ちゃ!!姉ちゃを殺しに来る悪魔って…こんな奴だったの!?」
姉にしがみつき震えていたのは八雲みかげだった。
「…ごめんなさい、ミィ。やっぱり私…貴女を遠ざけるべきだった…」
妹を抱きしめ燃えていくミレナ座を見つめていく。
「ここが…私の罪の証。やっぱり罪人は…極刑にされるべきなのよ…」
外側は燃え上る音以外は何も聞こえなくなった。
「ま…魔力が近づいてくる…。悪魔がもうすぐ…こっちに来るの!!」
かりんは震えながらも扉を抑え込み悪魔の侵入を阻もうと懸命な姿を行うが無駄なのだ。
「キャァァーーーーーッッ!!?」
突然爆ぜたのは扉の隣側であった。
「調整屋ぁぁぁ……」
人修羅は壁を破壊して中に侵入してくる。
「あっ……あぁ……」
頭からバケツで大量の血を被ったかの如き赤黒い頭部。
咽る程の血の臭いを纏う者に戦慄し、かりんは腰を抜かした。
「俺は言った筈だ…。魔法少女として人間などゴミクズとして扱うなら…今直ぐ殺すと」
闇の底に引き摺り込まれる程の恐怖を感じさせる低い声。
近づけば瞬く間に挽肉に変えられる程の威圧感を放ちながら調整屋の店の中を進む。
姉の命を奪うと宣言した人修羅に対し、震えていたみかげが果敢にも立ち向かう。
「姉ちゃは殺させない…!悪い悪魔の方がやっつけられちゃえ!!」
「ダメよミィ!?行っちゃダメ!!!」
彼女は右手の武器で刺突を仕掛けるが悪魔の体が揺れる。
左腕で刺突を放つ右腕を逸らすと同時に掴み、腕を背後に回し込むように体を移動させる。
「ぐっ!!?」
捩じり上げた腕を拘束し、動けない体の頭部に目掛けて右肘を後頭部に放つ。
「あっ……姉ちゃ……」
みかげは力なく倒れ込んでしまったようだ。
見下ろす悪魔はみたまに振り返る。
「…お前とよく似た顔つきの小娘だが、こいつは?」
「私の妹の…みかげよ。その子は関係ないわ…お願いだから助けてあげて」
「テロに参加した魔法少女リストの中にこいつはいない。生かしておいてやる」
「その言葉が聞けて…よかったわ」
「後ろで腰を抜かしている小娘。こいつを抱えてさっさと映画館から出ていけ」
「で…出来ないの!私はせめて…みたまさん達だけでも…守るの!!」
かりんは立ち上がり、マギア魔法を放つ構えを行うのだが必死の顔つきでみたまが止めてくる。
「ダメよかりんちゃん!!尚紀さんの…言う通りにして…」
「尚紀さん…?みたまさんはこの悪魔を知ってたの…?」
「ええ…知ってたわ。この人は人間の守護者を貫く悪魔…だからかりんちゃんは殺さない」
「だ…だけど…それじゃあテロに加わったみたまさん達は…」
「覚悟は出来ている。ありがとう、守りに来てくれて…その気持ちだけで…嬉しかった」
守れない自分の無力さを責められもせず、感謝の言葉を伝えてくるみたまを見て涙が浮かぶ。
「弱くてごめんなさい…なの…。私…マジカルきりんみたいに…なんでも解決出来なかった…」
「この映画館を焼く俺の炎は生きている。映画館入り口の炎は退かしておいてやる」
みかげを抱きかかえたかりんが最後にみたまに振り向く。
彼女は健気にも笑顔を作って手を振り、調整屋として最後のお客様を見送る姿を見せてくれた。
「ごめんなさいッッ!!!」
壊された壁から飛び出し、言われた通りに映画館の入り口を目指す。
「これでいい。残っている用事は…貴様らに裁きを与えるだけだ」
向かい合う裁く者と裁かれる者。
逃れられない死をもたらすのが悪魔の中でも魔人と呼ばれる種族の特徴である。
今…逃れられない裁きの刻が訪れた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
燃え上る調整屋内。
炎の世界から現れたのはラテン語で炎を運ぶ者と表現される悪魔。
その姿はまるでアリナが見た夢の世界に登場した大いなる存在を彷彿とさせるだろう。
憤怒の業火を纏う蛇…裁く者だ。
「お願い…許して…許してぇ!ウチ…月夜ちゃんと…一緒に生きたい…!!」
「ふざけんなぁ!!!!」
悪魔の怒声が館内に響き渡る。
命を刈り取られる断罪の刃の如き言葉がへたり込む彼女の股から失禁を誘う。
「生きたかっただと…?犠牲者の人間達は生きたくなかったとでも言うのか?腐ってやがる!!」
「あ…うっ……うぅぅ……」
半べそかいている月咲を見て、みたまは彼女の代わりに冷静な素振りを懸命に務めてくれる。
「私はテロの集会に参加したわ。藍家ひめなの言葉は…私も含めて全ての魔法少女の心を掴んだ」
「……今更何が言いたい?」
「
「…実娘レイプ犯が無罪とされたあの裁判か」
「なんですって!?女として許せない…そんな理不尽な裁判もあったというの!?」
「それ以外にも検察官が精神鑑定結果を見て起訴を見送るケースも多い。これが起訴便宜主義だ」
「日本司法は…そこまで堕ちていただなんて…」
責任能力が無いと判断されたら簡単に無罪となる。
犯行の原因が精神疾患に基づく場合は責任は無いとされ、
これが刑事事件の原則であった。
「何処までも加害者を守る権利だけが拡充され…被害者の権利は何もないのが日本司法なの…?」
「弁護人が被告人の精神鑑定を要求するのはこの仕組みを悪用する狙いがある」
会話のやり取りを聞いていた月咲は震えながらも口を開く。
「ウチ…ひめなの奴らが来て、ウチの苦しみを聞いてくれた。あいつの言葉は…全てをくれた」
断罪者は癇に障る声を出す罪人に視線を向ける。
「まるで魔法の言葉だった…。ウチ…
「貴様…俺が語った仕組みを利用しての命乞いか?」
「ウチに責任能力なんてなかった…だから!ウチらは無罪なんだよ!!」
刑法で禁止された行為で他人や社会に損害を与えたというのに心神喪失で無罪となる。
これはおかしい、そもそも精神鑑定はいらないのでは?
これが今、日本司法界隈の議論とされていた。
「それで被害者達が納得するのか?あまりにも加害者優先主義…似非人権団体が好む手口だ」
「加害者にだって人権がある!!」
「被害者にも人権は必要だ!!」
罵声を浴びせられ、月咲はか細い希望が断たれたかのように黙り込む。
「俺なら心神喪失者でも許さない。責任能力が無いなら…永遠に出られない刑務所に収監する」
彼の右手から光剣が放出される。
「貴様ら全員…
「…被害者達だって犯罪者から賠償金とかもらえるんでしょ!?それでやり直せば!!」
「踏み倒される」
「えっ……?」
「損害賠償は民事の10年で時効になる逃げ得制度だ。再提訴資金も払えず泣き寝入りしかない」
「そ、そんな……」
「神浜の街を破壊したお前らが損害賠償を払う?どうせ払えず逃げ得になるだけさ」
「これが…こんな司法制度が…日本司法なの?国民は日本政府に裏切られたのね…」
「江戸時代の仇討ち制度が絶賛された理由も分かる。これが海外の悪徳が日本を壊した例の一つ」
「市議会の条例で被害者支援を期待するのは…?」
「どうやって?魔法少女犯罪を証明出来ないのに?」
「それは……」
「ウチ…被害者たちに謝る人生を生きる…。それならいいでしょ…?」
「魔法少女犯罪を証明出来ないのに?被害者に向き合いに行くことさえ出来ない」
か細い希望は魔法少女達が繰り返した秘密主義によって無残にも断たれてしまう。
「被害者が許さない限り、被害者に対する罪というものを償う方法などない」
魔法少女が繰り返した
「…懺悔の道も断たれたわね」
死刑執行のために悪魔が彼女達に向けて進み出る。
それを待っていたかのようにして八雲みたまは彼の前に立ち塞がる。
「いい心がけだ。先ずはお前からだ」
「月夜ちゃん……ごめんね……ウチが…バカだったよ……」
「他人の心の痛みを想像せず、自分本位の不満を優先した報いだ」
「そして…商売だからと何も考えず、自分が売り物にしてきた力の怖さを想像しなかった…」
「お前の責任でもある。報いを受けろ」
光剣を握る腕が振り上げられていく。
(ミィ…最後に来てくれて…嬉しかった。今度こそ妹をお願いね…ももこ)
悪魔の断罪の刃が振り下ろされようとした…その時だった。
<<ヒホホーーーッッ!!!!>>
後ろから現れたのはジャックランタンである。
「お前っ!?」
ランタンは火炎を吸収する耐性を持つ悪魔。
業火の封印結界であろうが彼には何の障害でもなかったのだが、他の悪魔はそうはいかない。
「俺は…このバカがどうしてもって言うから…連れて来てしまったホ…」
カボチャ頭に捕まっていた白い物体が雪解け水のように崩れて倒れ込む。
「フロストッッ!!?」
「フロスト君ッッ!!?」
倒れたのは胴体を失ってしまったジャックフロストであった。
人修羅が駆け寄りフロストの頭部を抱きかかえる。
「バカ野郎…どうして……」
「ヒ…ホ……ヒトシュラ…の…
「俺の……真似?」
「ヒトシュラ…は…大切な…友達に…裏切られても……信じようと…した…ホ」
嘉嶋尚紀はかつてのボルテクス界の旅路の中で大切な親友達と殺し合う事となった。
勇も千晶も魔人となり己のコトワリを掲げて相争う関係となったのだ。
それでも尚紀は2人を信じようとした。
大切な親友達とまたやり直せると信じたから彼らを追ってアマラ神殿やミフナシロに行った。
ジャックフロストはそんな必死な尚紀の姿を今でも覚えていた。
「殺し合う事になった…大切な…友達…。でも…ヒトシュラは…本当は……」
――あの子達と…殺し合いだなんて…
彼の脳裏に千晶と勇と自分たち3人で笑顔を向け合いながら生きられた記憶が蘇っていく。
「みたまも…その子も…他の子達だって……運命という理不尽に…弄ばれたから…」
「…こいつらも千晶や勇と同じように…
「この子達も…本当は…勇や千晶って子のように…優しかったはずだ…ホ…」
「もういい…喋るな!!」
フロストの頭部まで崩れていく。
「ヒト…シュラ…繰り返しちゃ…ダメだ…ホ…。本当は…望んでた…はずだ……ホ…」
――もう一度…勇や千晶…みたいに…優しい心を…持ってる…同世代の…友達と…。
――
「ダメだ…ダメだぁ!!出会って間もないのに…俺を置き去りにするんじゃねぇ!!!」
「繰り返し…ちゃ……ダメ……だ……ホ……」
フロストの頭部から形を形成していた感情エネルギーの光が放出されていく。
最後の力を振り絞りみたまにも振り向いてくれる。
「フロスト君……私達のために……」
両目から涙を零していくみたまを見ながら最後にこう呟いた。
「みた…ま…どうだった…ホ…?オイ…ラ…ジャアクな…テイオーとは……ちが…う…」
――
「ソーマならある!!早くこれを……!!」
人修羅が左手に回復アイテムを生み出すよりも先にフロストが弾けてしまう。
「あっ………」
ジャックフロストの感情エネルギーが調整屋に放出される光景が広がっていく。
宇宙に消え去っていく感情エネルギーの光を茫然と見つめるしかない尚紀の姿だけを残して。
「悪魔は…
それだって今消えたジャックフロストとは限らないとジャック・ランタンは言葉を残すのみ。
調整屋を焼き続けた憤怒の炎が消えていく。
ミレナ座を燃やし続けた憤怒の炎が消えていく。
「あ……あぁ……あぁぁぁぁ……」
やっと出会えたかつての世界の仲魔。
心を繋ぎ合えた大切な仲魔。
ジャックフロストと旅をしてきた記憶が巡っていき歯が食いしばられていく。
「俺は……おれは……おれはぁぁぁぁ……」
金色の悪魔の瞳からは人間と同じ涙が溢れ出す。
同時に彼の耳にはこの世界で出会えた大切な人々の遺言の如き言葉が浮かんでいく。
――迷いというものは、ああなりたいという欲望から生まれる。
――それを捨てれば…問題はなくなる。
──貴方のその力を…。
――私が守ろうとした…かけがえのない人達を守るために…。
――ヒト…シュラ…繰り返しちゃ…ダメだ…ホ…。
――本当は…望んでた…はずだ……ホ…。
大切な人々から託された
彼らの切実な言葉が初めて人修羅に迷いを与えてしまう。
「尚紀……さん……」
ジャックフロストを失って辛いのはみたまも同じだが彼は彼女よりも前から大切にしてきた。
失う苦しみはお互いに同じだが、かけてやれる言葉が見つからない。
「………消えろ」
「えっ……?」
「俺の前から……消えろぉぉぉーーーーッッ!!!!」
地面に蹲り、慟哭の言葉を泣きながら叫び続ける姿を罪人達に向けて晒してしまう。
フロストから語られた人修羅の旅路を知っているみたまであったが理解した。
彼らの間には物語の部外者達が同情の言葉をかけていい関係などではないということを。
「尚紀…さん」
泣き喚き続ける尚紀を見て月咲は理解する。
これが加害者に大切なモノを奪われていった被害者達の叫びなのだと。
魔法少女は神浜の街を破壊しても被害者達はそれを知る権利さえ与えられない。
だからこそ彼が被害者達の姿を代わりに見せてくれたとも思える光景であった。
「………行きましょう、月咲ちゃん」
「………うん」
彼を独り残し、2人は焼け果ててしまったミレナ座から逃げ出していく。
ランタンだけは最後まで残ってくれている。
人間であり悪魔でもある人修羅の慟哭を見届け続けてくれたようであった。
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人修羅とジャックランタンがミレナ座から出る頃にはついに崩壊が始まっていく。
尚紀は茫然としながらも八雲みたまの罪の象徴が崩れていく光景を見届けたようだ。
「…これからどうするんだホ?」
「…分からない。考える時間が欲しい」
「あいつ…自分の命をかけてまで魔法少女を守りやがった。俺には…信じられないホ」
「俺は…あいつと同じ気持ちをかつて持っていた時期もあった」
「お前も…大切な魔法少女がいたのかホ?」
「もう死んだ…そしてその子と約束したんだが…フロストの遺言はその約束とは矛盾する」
「それを考えたいのかホ…分かったホ。そっとしておくから、俺はかりんの元に戻るホ」
「お前も魔法少女と組んでいたのか…。だったらいつか…フロストの気持ちも分かるさ」
「期待しないで…かりんと付き合ってみるホ」
ランタンは飛び去っていき、残されたのは尚紀のみ。
だが程なくして現れたのはクリスと彼女に乗ったネコマタとケットシーである。
「ダーリン!今夜の狩りは最高だったわ~♪数十年分の人殺しは楽しめたから暫くはいいわ」
上機嫌なクリスだったが無言を貫く彼の姿を見て黙り込んだ。
「何か…あったの?」
運転席側に座っていたネコマタは心配する言葉を言うのだが、か細い声が聞こえてくる。
「……さっき、かつての世界で共に戦った仲魔と出会えた」
「尚紀が言ってた悪魔連中かニャ?そいつの姿が見えないんだけど…」
ケットシーは後部座席に座り、主を心配した表情を浮かべてくる。
「だが…かつての俺の仲魔は……俺が放った炎によって…死んでしまった」
それを聞かされたネコマタとケットシーは押し黙る程の悲しみに包まれてしまう。
「そ…そんな……」
「…俺が殺したようなものだ」
「尚紀……そ、その…自分を責めちゃダメ……」
心配する二匹の仲魔達だったが、クリスだけは違う。
「ダーリン乗って!!!」
突然の叫びに反応した尚紀は猛スピードで近づいてくる魔法少女の魔力に気が付く。
「ネコマタ!助手席側に移れ!!」
「分かったわ!!」
急いで運転席側を譲り、尚紀は運転席に座ると同時に急発進を行う。
バイクのライトが夜の世界を槍の如く切り裂き、現れたのは魔法少女社会の西の長であった。
「あの感じたこともない魔力…見つけたわ!!あれが悪魔という存在共ね!!!」
やちよはバイクに乗ったまま左手を掲げ、ソウルジェムを生み出す。
まるで雨の世界を潜り抜けるバイクが水を弾く光景の中で変身。
大きな水しぶきの世界から現れたのはバイクに跨った魔法少女である七海やちよであった。
「チッ!!考えている暇は…なさそうだ!!!」
猛スピードで走り続ける車とバイクのテールランプが夜の街を切り裂く。
「尚紀!あの美人だけど怖そうなお姉ちゃんを家まで案内するわけにはいかないニャ!!」
「どうにか巻いてしまうしかないわよ!!」
「ダーリン!今夜は激しく行くわ!!哀愁を描くレースバトルを始めましょう!!」
ダッシュボードに固定した尚紀のスマホをクリスが操り、オーディオから音楽を流す。
キックパネルスピーカーから溢れる車内音楽とは哀愁を感じさせるユーロビート。
「こんな時に…だが、迷っているよりは集中出来そうだ!!」
「アタシを委ねるわダーリン!あんなバイク魔法少女に抜かれるんじゃないわよ!!」
「任せとけ!!」
新西区を超え、神浜を超え、車とバイクは駆け抜けていく。
「ミレナ座が破壊された…だとしたら…避難していた魔法少女達は…」
やちよの心にかなえとメルを失った苦しみが蘇っていく。
「繰り返させない……絶対に……許してやるものか!!!」
彼女の鬼気迫る表情をバックミラーから確認し、彼女にも譲れない戦いがあるのだと知った。
「フッ…いいだろう。とことんついて来い!!」
――楽しいドライブバトルと行こうか!!!
読んで頂き、有難うございます。