人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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123話 大量殺戮

固唾を飲んで戦いを見守る魔法少女達であるが、正義の魔法少女達の卑劣な態度に驚愕する。

 

「あれが…あんな光景が…私達が今まで信じてきた…魔法少女の正義なの…?」

 

沙優希が動揺の声を漏らす中、他の魔法少女達も同じようにショックを隠せない言葉を零す。

 

「あれじゃあ…西側の人々が東側の人々にしてきた差別と同じですわ…」

 

水名区出身の者として東側への差別を誰よりも見てきた阿見莉愛は衝撃を受けている。

 

「こんなのおかしいよ…あの男の人がテロを準備したなんて…証拠ないじゃん…」

 

「でもあの人が語った…人間社会の苦しみを否定するには…あれしかないです…はい」

 

裁判を執行した側ではない梨花とれんは都合のいい感情には囚われない。

 

「人という生き物は…証明出来ない事柄でさえ…事実だと言い張れるのですね…」

 

「まるで…無いモノを有ると言い張る…()()()()の光景だよ…」

 

明日香とささらは冤罪の如き光景に対して動揺を隠しきれない。

 

「何処までも恣意的…あれが神浜に根付いてきた…魔法少女の正義だったのよ!!」

 

「最低です…私、魔法少女でいるのが嫌になるぐらい…恥ずかしい光景です…はい…」

 

「私達…ただただ仲良し生活ばかりを送ってきましたわ…」

 

「その過程の中で…こんなにも私達の心は腐敗してきただなんて…」

 

「あの子達だって悪人というわけじゃない。だけど善人でさえこんなにも捩じれるだなんて…」

 

「これが…誰の心の中にも潜むという……」

 

――()()というものです。

 

「ななかさん…?」

 

明日香の言葉を代わりに言ってくれた人物に顔を向けるとななかとかこが近づいてくる。

 

その横には時女静香と広江ちはるもいるようだ。

 

「宗教修行でも武術でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()。経験はありませんか?」

 

「確かに…指導の方針でも、本来の在り方とは逆になってしまう事もあると父は言いました」

 

「エゴを離れたという思い込みと自己愛により、エゴが強くなる。誰でも通る道です」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。その思い込みが…ここまで人を意固地にするんですね」

 

「武術の世界でも内発はあります。武は得難いですが出来てると思い込む内発は誰でも起こす」

 

「時女一心流を伝えてくれた母様からもそれを聞いたわ。私も技の事で喧嘩した事もあるの…」

 

「それを検証する為にも、誰かが厳しく指導しないとダメ。間違いに気が付けないよぉ…」

 

「竜真館の師範代になれたのも娘である前に弟子だと厳しく指導してくれた家族のお陰です…」

 

「エゴというものは執拗なモノで、巧みに姿を変えて人を支配する。失敗しない人はいません」

 

「いつも自分を疑う…その気持ちが大事なんですね、ななかさん」

 

「エゴは全否定しなくてもいい。あるのが自然ですから、冷静に観察する。そうでなければ…」

 

「さらに捩じれていってしまい…自分の感情に流されて行くだけの者となる…ですね」

 

「そんな危なっかしい部分があるから明日香はほっとけないって、あきらさんが言ってました」

 

「わ、私って…皆様から見て、そんなイノシシ娘でしたか!?」

 

「はい♪客観的に見て、迂闊でそそっかしくて、騒動の元となってた時も多かったです」

 

「そういえば私とちゃるも…神浜に来た時に有らぬ疑いをかけられて追い回されたわね」

 

「とんでもないイノシシ娘だったよぉ…」

 

周囲の魔法少女達から白い眼差しを向けらる明日香はボタボタと冷や汗を流してしまう。

 

「うぅ…なんと未熟な!!このような恥辱…耐えられません…自害します!!」

 

「で、ですから!?エゴはあるのが自然ですから冷静に!!」

 

ななか達と明日香達のやり取りを見て心が軽くなった魔法少女達が微笑みを浮かべてくれる。

 

「この光景が人の集団には大切なんだね、静香ちゃん」

 

「仲がいいだけではダメなのよ。時には厳しい態度で指導してこそ、集団は襟を正せるわ」

 

「間違いは誰でも起こす、間違ったら怒ってでも止める。()()()()()()()()()()()()だよぉ…」

 

「それをやってるのが正義の魔法少女達…怒ってでも止めようと戦うのが悪者扱いの嘉嶋さん」

 

「赤の他人でしかない魔法少女達から嫌われ…悪者にされてでも指導する。難しい道だね…」

 

「嘉嶋さんを見に来て良かった…あの人のような在り方こそ…時女一族の在り方にしたいわ」

 

 

悪魔を取り囲むのはみふゆ・鶴乃・ももこであり、彼女達の武器に視線を向ける。

 

巨大なチャクラムは投擲だけでなく振り回せば小柄な肉体など両断出来る。

 

手数が多くて炎も纏う功夫扇、魔獣だけでなく悪魔の首さえ両断出来る鋭い大剣も脅威だろう。

 

「今更…何を言っても聞く耳持たないよな?」

 

「貴方を倒し…このテロを巻き起こした目的を吐かせます!」

 

「月咲は悪くない…時雨もはぐむも悪くない…!それを貴方は…用済みになったから殺した!」

 

「悪魔だけは絶対に許さない!!十七夜さんの為にも!!」

 

「…いいだろう。そこまで悪魔を悪者にしたいなら…悪者の凶拳を見せてやる」

 

握っていた両拳を開く。

 

両腕で舞うような演舞を見せ、腰を落として右手を前に、左手を下に向けて構えてくる。

 

「これって…八卦掌…?」

 

「知ってるのですか、鶴乃さん?」

 

「…気を付けて。八卦掌のフットワークは厄介だよ」

 

「構うもんか!行くぞ皆ぁ!!」

 

ももこの号令の元、3人の魔法少女が動く。

 

鈍化した世界、悪魔は目を瞑るとかつての強敵との記憶が巡っていく。

 

(人殺しの俺は社会悪だ。それでも俺はお前の道とは違うだろうが…呪われる道を進もう)

 

悪魔の両目が一気に開いた時、体が揺れる。

 

みふゆが振りかぶる巨大チャクラムの左薙ぎを舞うように潜り抜ける。

 

続く鶴乃の踏み込み蹴りに対し、背を向けながら回り込む回避を行う。

 

がら空きとなった背中に双掌打を打ち、踏み込み斬りを仕掛けるももこの壁とする。

 

「くっ!!」

 

鶴乃の体がぶつかって覆いかぶさる形で倒れ込む中、みふゆが仕掛けてくる。

 

「ハァァーーーッッ!!」

 

巨大チャクラムを全身を使って振り回し、遠心力を活かした斬撃を繰り出す。

 

横に、縦に、斬撃を繰り出すが身を低めて舞い、横に舞い、円を描く回避を繰り返す。

 

「くっ!!」

 

右手で掴んだ巨大チャクラムの右薙ぎに対し、朴歩の形で避けると同時に右腕刀で両足を打つ。

 

「キャァーッ!?」

 

刈り取られた彼女の体が宙を一回転しながら地面に倒れ込む。

 

「くそぉっ!!」

 

両手持ちの大剣で袈裟斬りを仕掛けるももこに踏み込み、左手で両手首を受け止める。

 

左手を柄から離し、悪魔を殴りつけようとするが右手で手首を掴まれてしまう。

 

「チッ!!」

 

ももこは背を向ける一回転運動で掴まれた両手を払い込み、柄を握って右薙ぎを仕掛ける。

 

身を低めて潜り抜けた悪魔は手の甲を打つ鞭打を放ち、がら空きの背中を打つ。

 

「ぐぅっ!!?」

 

強打されて前に倒れ込むももこから視線を外し、向かってくる鶴乃に体を向ける。

 

「私だってやれる!!万々歳をサイキョーの店にするために…私は強くなってきた!!」

 

功夫扇を逆手に持ちながら屋根の部位で刺突を狙う。

 

軸をずらして避けた後、右手で鶴乃の手首を掴む。

 

腕に沿わせるように左手刀が首元に伸びるが、左手をつく片手側転を用いて回避を行う。

 

「負けないよ!私は誰にも負けないサイキョーでないと…ダメなんだからぁ!!」

 

功夫扇で突き、払いを繰り返すが避けられ、腕を掴まれながら返される。

 

関節を折られる前に左手の扇突きで悪魔の首を狙う。

 

突きが決まるよりも先に体を右奥に滑り込ませ、突きを背中側から右腕で抱え込む形を生む。

 

背を向けた形の左腕で鶴乃の胸を打ち、左足を両足に引っ掛けて倒し込む。

 

顔面に目掛けて拳が振り下ろされたが、寸前で静止したようだ。

 

「…何に追い込まれている?」

 

「っ!?」

 

「お前の戦い方には()()()()()()()

 

「あっ……」

 

必死の形相を見れば何か人には言えない動機に背中を押されているように感じてくれている。

 

「とりゃーッッ!!」

 

らしくもない気遣いを相手に見せた為に、ももこが放つドロップキック強襲が左側面を捉える。

 

「くっ!?」

 

蹴り飛ばされた悪魔に対し、振り上げた大剣が迫りくる。

 

立ち上がった悪魔は上半身を巧みに使いながら斬撃を避けるが、勢いに押されて後退する。

 

「ハァァーーーッッ!!」

 

一回転から放つ右薙ぎを身を低めて避け、右手を地につけ、右足は弧を描いて体の後ろに回す。

 

「うわぁっ!?」

 

軸手に体重を載せる開脚旋回蹴りで彼女の足を刈り取り、軸手を移して蹴り足を回しきる。

 

そのまま後掃腿を放ち、俯けのももこの顔を蹴り飛ばす。

 

立ち上がろうとした先に見えたのは巨大チャクラムを頭上に投げるみふゆの姿。

 

「夢と現実を超えた…幻覚の世界を味わいなさい!!」

 

バレェ選手のように片足を伸ばした体勢で投げられた巨大チャクラムが空中を回転する。

 

魔力念波が周囲に溢れていき、幻覚を見せるマギア魔法が使われようとする。

 

「俺達悪魔が使うドルミナー魔法の類か?何かの夢幻を見せたいのなら、俺には通用しない」

 

「なんですって!?」

 

彼女のマギア魔法である『アサルトパラノイア』は幻惑魔法の一種。

 

本来なら乾いた大地と夜空の世界に飲み込まれ、無数のチャクラムで切り刻まれるが通じない。

 

「むしろお前らの方が…()()()()()()()()()()から目を覚ますんだな」

 

「くっ!!ならば…せめて!!」

 

右手を掲げると頭上で旋回する巨大チャクラムは遠心力を活かしながら射出される。

 

複数に分裂するかのように見える一撃だが、悪魔は迷わず駆け抜けてくる。

 

「そんな!?」

 

身を低めた悪魔は開脚状態のままスライディングを行い、真下を潜り抜けてくる。

 

立ち上がって駆け抜けながら跳躍して旋風脚を放つが、みふゆはバク転回避を行う。

 

潜り抜けられて遠くに飛んでいく巨大チャクラムが旋回しながら戻ってくる。

 

「ハァァーーーッッ!!」

 

まるでバレェダンサーの美しき舞いのような蹴り技を繰り出すみふゆに対し、悪魔も迎え打つ。

 

彼女の後ろ回し蹴りを避け、回し蹴りを放つが彼女は右手で捌き、続いて左右のパンチが迫る。

 

彼女は首運動だけで避け、片手をついた低空後ろ回し蹴りを放つ。

 

蹴りは避けられ、立ち上がる彼女の頭に内回し蹴りが迫るが両手を地につける側転回避を行う。

 

戦いを繰り返す中、チャクラムは術者の元に戻り続ける。

 

右フックパンチを避け、伸びきった肘を左手で掴み、右肩も掴んで投げ技の大外刈りを行う。

 

両足を刈り取られた悪魔は勢いを利用し、掴まれた腕に支えられながらの後方回り込みを行う。

 

「ぐぅ!?」

 

肩を掴んでいた右腕が後ろに回し込まれ、伸びきった腕と肩をスタンドアームロックしてくる。

 

片膝をついて苦しむ彼女の目の前からは死が迫ってきている。

 

「そんな!!?」

 

みふゆの頭部を切断する位置にまで迫ってきていたのは彼女が投げた武器。

 

拘束された姿のまま自らの正義を信じて振るってきた武器によって死ぬ末路が迫りくる。

 

「えっ?」

 

腕の拘束を解かれたみふゆの首に悪魔の両腕が絡みついた後、引き倒される。

 

巨大チャクラムは彼らの上を通り超え、橋の手摺を切断しながら川へと落ちていくのだ。

 

「ぐっ…うぅ…!!」

 

みふゆはバックチョークの締め技を喰らっており、両足も胴体にフックした形である。

 

脱出する事が出来ず、首の気管が締め上げられるせいで呼吸出来ていない。

 

「私…は…みんな…夢…環…叶え…」

 

「…夢から目覚めろ。その夢の世界には…()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「か…な…え…さ…メ…ル…さ……」

 

意識を失ったみふゆを地面に寝かせた後、悪魔は立ち上がる。

 

向こう側には武器を構える鶴乃とももこがいるが、鶴乃は動揺している。

 

「よくもみふゆさんを!!やらせない…メルや十七夜さんのような犠牲者は生ませない!!」

 

「う、うん…」

 

「どうしたんだよ鶴乃!?シャキッとしろよ!サイキョーの名が泣くぞ!!」

 

「そ…そうだね…。私は…悪者をやっつけて、皆に認められるサイキョーに…」

 

「アタシが仕掛ける!援護を頼む!」

 

大剣を肩に担ぐようにして振り上げながら渾身の力をチャージする。

 

悪魔は指を重ねて手招きするが、ももこを見てるとかつて戦った東京の魔法少女を思い出す。

 

(…何処か死んだ凛と重なって見える。この女も…あの子のような危うさを感じるな)

 

悪魔は右手に光剣を生み出して構えてくる。

 

「これで決める!!ラスト!!」

 

互いがアスファルトを踏み砕く程の踏み込みを行い、爆ぜる地面と共に前に飛び出る。

 

それは二年前の東京に訪れたクリスマスの戦いを彷彿とさせるだろう。

 

二つの意思が激しくぶつかり合うのだが、かつての悲劇は繰り返されてはいない。

 

「かっ…あっ…あ……」

 

悪魔の光剣は放出を解かれ、腕を曲げてからの右頂肘の一撃に切り替わっている。

 

大剣を振りぬく前にみぞおちを強打された彼女は息も出来ずに下がっていく。

 

「お前のように、本物の戦士の目をした魔法少女が…かつて東京にいた」

 

「あ…がっ…ゴホッゴホッ!!」

 

咳き込みながら片膝をつくももこに対し、かつての悲劇を悪魔は語る。

 

「その子は思い人の男を愛していた。でも、魔法少女コンビの違う女は…その子を愛していた」

 

「ゴホッ…ゴホッ…何の…話なの……?」

 

「2人の心はすれ違い、愛した男ともすれ違い、掲げた正義とまですれ違い…離れていった」

 

悪魔が語る魔法少女の存在を聞かされたももこは、その人物の心が分かってしまう。

 

「そんな…アタシみたいな魔法少女が…東京にいたの…?」

 

彼女の脳裏に浮かぶのは魔法少女に契約してまで告白したかった男の子の姿。

 

大切に守ってきた親友魔法少女であるレナとかえでの姿も浮かぶ。

 

「破滅した原因は彼女だけでなく周りの奴ら全員が…()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「誰かの心の痛みを…想像する…?」

 

語り終えた瞬間、既に悪魔はワンインチ距離にまで詰め寄っている。

 

「お前は…凛の二の舞にはなるなよ」

 

彼女の腹部には伸ばされた指が体の中心に伸ばされている。

 

「ガハッッ!!?」

 

右手のワンインチパンチが放たれた事でももこの体は大きく突き飛ばされる。

 

鶴乃を飛び越えて地面に倒れ込む彼女は気を失うが、命は残されているようだ。

 

後は鶴乃だけであるが、彼女は武器を下ろしてしまう。

 

「さっき…私に言った言葉が…誰かの心の痛みを想像するってことなの?」

 

「そうだ。何を背負っているのかは聞くつもりはないが…お前はエゴに飲み込まれている」

 

「エゴに…飲み込まれている…?」

 

「宗教でも修行でも、努力すればする程…自分がする事は絶対正しいという思い込みに陥る」

 

「努力すればする程…自分が正しいという思い込みになっていく…?」

 

「これだけやったんだから認められたい。だが見合う成果に繋がらないと()()()()()()()()()

 

「ルサンチマンに!?そ…そんな…それじゃあ…私の最強トレーニングは…」

 

「頑張り抜いた努力が真の喜びに繋がらない。それに気が付いた釈迦は苦行をやめた」

 

鶴乃の脳裏に浮かぶのは由比家の再興を自分の力で成し遂げること。

 

神浜を育てた大財閥を独りで再興させるなど不可能だろう。

 

それでも彼女は無茶苦茶な修行を繰り返し、努力の果てに報われると信じてきた者であろう。

 

「私が頑張り抜いても…みんなは…みんなは……」

 

待っていたのは最強という存在を目指す自分の苦しみなど、誰にも知ってもらえない現実。

 

「ニーチェは仏教を宗教ではないと言った。欲望を捨断するには…努力は逆効果なんだ」

 

「努力すればする程…エゴに飲まれていく?だったら!私の苦しみは…どう解放したら…」

 

「エゴは優越性の欲求であり、自分を認めて欲しい訴えだ」

 

「劣等感を克服出来ない…()()()()()()()()()…」

 

鶴乃の脳裏に浮かぶのは没落していく由比家を嘲笑う者達の恐ろしい囁き声。

 

その言葉に耐えられず、由比家の女は没落を認められずに金と優雅な生活だけを求めていく。

 

魔法少女に契約してまで手に入れた金は持ち逃げされ、祖母と母は由比家を捨てるのだ。

 

「それじゃあ…私が目指したのは…金持ち時代の栄華の優越性を取り戻したかっただけ…?」

 

「お前の家が金持ちだったのかは知らないが、それだけなのか?」

 

「ううん…私とお父さんの家を捨てた家族に帰ってきて欲しかった…()()()()が…欲しかった」

 

「優越性を取り戻し、家族の絆を取り戻す欲求…それが身勝手な努力に繋がる場合がある」

 

「私の修行は人の言う事を聞いて従うんじゃなく、思う通りに行動する優越感を感じていた?」

 

「お前は無意識に気が付いてたんだろ?私の誤りを指摘して、正しい行動に導いてほしいと」

 

「私は……」

 

「それを引き出し敗北感も刺激しないようにするには、ありのままの自分を万人に見てもらえ」

 

これはディスクロージャーと呼ばれており、誰かに見られる事で襟を正す行為。

 

無法者共も誰かに見られれば犯罪を起こす気にはならなくなるという社会データもある。

 

「無理をせず、力を抜け。お前がサボっていたとしても…誰もお前を責めたりはしない」

 

鶴乃の手から家族を取り戻す為に握ってきた努力の結晶が落ちていく。

 

「ねぇ…教えてよ!私は…私はどうやったら…家族団欒を取り戻せるの!?」

 

「家族全員が個人よりも社会を優先することさ。家庭だって、立派な社会だ」

 

「それが…社会主義精神なんだね…?」

 

膝が崩れてしまう鶴乃は苦しかった過去から解放されたのか、安堵の表情をしている。

 

「私…無理してまで頑張らなくてもいいの…?周りに苦しいって…言ってもいいの…?」

 

「正しさは自分で決めるしかないが、判断材料は幾らあってもいいし、助けも多い方がいい」

 

「助けて…くれるの?社会は…私の苦しみを…助けてくれるの…?」

 

「魔法少女社会だけでは無理だ。彼女達の力だけで、お前の苦しみが救えるか?」

 

「出来ないよ…由比財閥復興費用を出してくれなんて言ったって…首を縦に振るはずがない…」

 

「そこが共産主義の限界だ。資本主義の合理性を超える社会制度など作れない」

 

「資本主義の中で…誰かに助けを求める事も…許されるの…?」

 

「それを叫び続ける政治思想こそが…社会主義だ。それを捨てれば弱肉強食しか残らない」

 

「魔法少女以外にも助けを求める…それが出来る社会は……」

 

「…人間社会さ。お前も街に出て、ありのままの自分で人々と接してみるといい」

 

俯いて沈黙していた鶴乃だが、顔を上げた彼女は真っ直ぐな瞳で見つめてくる。

 

「……行っていいよ」

 

「逃げた家族が無一文となり、支えてくれる家族の大切さに気が付いてくれる日を願おう」

 

そう言い残した悪魔は新西区に向かって駆け抜けていく。

 

幸運にも独り助かった鶴乃は夜空に浮かぶ星の世界を見つめてしまう。

 

「…誰かの心の痛みに気が付いてくれる悪魔がテロを行うはずがない。彼と他の悪魔は違うよ」

 

張りぼてで作られた最強の肩書きに隠していた心の傷を初めて誰かに気が付いてもらえる。

 

それを気が付いてくれたのは同じ魔法少女ではなく、よりにもよって悪魔なのだ。

 

「魔法少女達と環のように輪となって楽しく過ごす…それでも…私の苦しみは解放されない」

 

求めるのは季節イベントとかパーティとかお誕生日とか、ダラダラ楽しく過ごしていくだけ。

 

「皆が欲しがっているのは…それはきっと…()()()()の世界だから」

 

馴れ合いとは利害を共にする同士が結託することをいう。

 

通常取るべきとされる手続きを踏まず、暗黙の合意の元に意思決定を行う事を指す。

 

それはまさに神浜テロを行った魔法少女達を独断で裁判し、救済したやちよ達を表す。

 

また官僚と産業界との馴れ合いで内密のギブ・アンド・テイクを行う()()()()も表すのだ。

 

「ごめんね…月咲、みたま。やっぱり私達…間違っていたよ」

 

踵を返した後、傷ついた仲間達に回復魔法をかけようとしていた鶴乃が驚きの声を零す。

 

「あっ……」

 

気が付けば戦いを終えた魔法少女達の傷を癒す常盤ななか達の姿がいたようだ。

 

「由比さん、彼が語った言葉を忘れないで下さい。あの人の言葉こそが…私達の思想です」

 

「うん…骨身に刻むよ」

 

「私達は潰し合いがしたいのではない、共に人間社会を優先する道を探したいだけです」

 

「そうだね…魔法少女だけでやってけるほど、世の中楽じゃないよね…」

 

「あとそれと…春名さんの姿が見えませんが?」

 

「えっ?あ、あれ…倒れたのは見えたけど、何処に行ったのかな…?」

 

周囲を探すが春名このみの姿は見えない。

 

彼女は脳を揺らされる傷は与えられず、比較的早くに動けるようになっていたようだ。

 

「勝てない…あんな強過ぎる悪魔に…私達なんかじゃ…勝てるはずがない!!」

 

何処かに向かって走るのは戦いから逃げ出したこのみであろう。

 

「あの悪魔に勝てるとしたら…私達が長として認めてきた…あの人しか残っていない!!」

 

彼女は新西区を走っていき、その先にはみかづき荘が見えてくるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…こんな形で調整屋の店に顔を出す事になるとはな」

 

直ぐ向こうにミレナ座が見える中、悪魔の心に怒りの感情が吹き上がっていく。

 

「いるな…大勢の魔法少女共が潜んでいる。誰も逃がしはしない」

 

ミレナ座に向かうため道路を歩いていた時、懐かしい声が届いてくれる。

 

<<待つホ!ヒトシュラ!!>>

 

かつてのボルテクス界を共に生きてくれた仲魔達の声を彼は忘れた事など一度もないはず。

 

「ま…まさか…その声…その魔力は!?」

 

入り口横の闇鍋置物達が正体を表すとジャックフロストとジャックランタンの姿に戻っていく。

 

人修羅の目が見開き、かつての仲魔達との記憶が鮮明に蘇ってくれるのだ。

 

【ジャックフロスト】

 

アメリカやイギリスの霜の精であり、意味は雪男。

 

小人、白髪の老人、雪男、雪だるまといった姿で現れる。

 

悪戯好きで冷たい息を吐き、人を凍らせることを楽しむという。

 

冬の寒さが厳しい時は彼らが悪戯をしていると言われていた。

 

「お前…ジャアクフロストだろ!!見た目が俺に倒された時みたいに、ジャックだな?」

 

「ヒホホ…ヒトシュラ!会いたかったホー!!」

 

小人のように小さな雪だるまが駆けてきて人修羅の下半身に抱き着いてくる。

 

「また再会できるって信じてたホ!この世界は魔法少女とかいるけど…悪魔もいたからホ!!」

 

「俺も同じ気持ちだった…いつか必ず、仲魔達と再会出来る日が来てくれるとな」

 

蒼い帽子を被る頭を撫でてやっていたら蒼い薔薇の飾りに目がいく。

 

「お前…こんな飾り物を帽子につけていたか?」

 

「…再会できて嬉しいのは本当だホ。でもオイラ…この飾りを与えてくれた人の…味方だホ」

 

その言葉によって、フロストが身に着ける蒼い薔薇と同じ薔薇を身に着けた人物を思い出す。

 

「……フロスト、まさか…今までお前の面倒を見ていた奴は…」

 

「……みたまって名前の魔法少女だホ」

 

それを聞かされた彼の眉間にシワが寄っていく。

 

「…ヒトシュラ、もしかしなくても…みたまを殺すのかホ?」

 

恐る恐る顔を上げていくと、そこにいたのはフロストも見た事がある悪魔の姿であろう。

 

「……あの細い体を八つ裂きにしてやる」

 

低く恐ろしい声、死神の如き憤怒の形相。

 

その姿こそ、かつての世界においてアマラ深界最奥から帰ってきた時の人修羅の姿。

 

大切な人々を守れず、怒りと憎しみに飲まれて心が破壊された果ての完全なる悪魔の姿だ。

 

「そこをどけ。俺はあの中にいる魔法少女共を皆殺しにしてくる」

 

フロストを通り過ぎようとした時、後ろからフロストが走ってきて通せんぼしてくる。

 

「待ってくれホ!みたまは悪い事しちゃったけど…オイラの面倒を見てくれた恩人だホ!」

 

「知ったことか。仲魔の面倒を見てくれたからといって…罪を減刑する理由になどならない」

 

「みたまのお陰で…オイラ、人間社会に悪さをしなかったホ!みたまは優しい子だホー!」

 

「悪魔には暴れさせず…自らも動かず…他の魔法少女だけを操り街を破壊するか…糞女め」

 

「ち、違うホ!みたまは自分の商売のせいで、テロが準備出来たなんて知らなかったホ!」

 

()()()()()()。知ろうと努力しない選択をした者に罪が無いとでも言いたいのか?」

 

「そ…それは…むずかしい事は分からんけど、みたまはオイラに色々優しくしてくれたホ」

 

「お前にとっては恩人だろうが…俺にとっては…守りたい人々を殺した怨敵だ」

 

「ヒトシュラ……」

 

「かつての世界で俺の友達の片腕を捥いだサカハギをどんな風に殺したか覚えてるだろ?」

 

フロストの脳裏にはその記憶が焼き付いている。

 

頼みの綱の悪魔を失ったサカハギは自らも戦うが人修羅に叶う程の存在ではない。

 

手足を潰し、内臓を引きずり出して首に巻きつけながら締め上げ、顔の皮も剝ぎ落とす。

 

<<どうだ外道!!弱者の顔の皮を剥ぎ取って服に縫い付ける貴様には相応しい姿だぁ!!>>

 

<<ヒャハハ…ハハ…!オマエは…俺…よりも…外道に…なれる…ぜ…!!>>

 

<<まだ喋れる元気があるじゃねーか?なら…その顎もいらねーよなぁ!!>>

 

口を掴んで下顎まで千切りとり、死ぬまで肉体の解体を始めていった人修羅を覚えている。

 

親友の千晶を傷つけ、右腕を切り落とした外道に向けるおぞましい狂気。

 

人なのか悪魔なのかも分からない存在だったが、その時の彼の姿は完全なる悪魔。

 

仲魔であり主人でもある返り血塗れの赤き獣こそ、かつての人修羅の姿なのだ。

 

あの時の記憶が蘇った事でフロストの全身が震えてしまう。

 

「みたまも…かいたいしていくのかホ…?サカハギと…同じように…?」

 

「…今回の犠牲者の数は…天秤にかけられる数じゃない」

 

「そ、そんな!?あれ以上をやるのかホ!?」

 

「当たり前だ!!それだけの罪を犯した上で生きろとぬかす奴がいるなら…そいつも許さない」

 

――八つ裂きにした上で、焼き滅ぼしてくれる!!

 

「なら、私も八つ裂きにして焼き殺しますか?」

 

知っている悪魔の声が聞こえた事で人修羅は後ろを振り向く。

 

「……貴様ら」

 

そこにいたのは人間に擬態したままのタルトであり、隣には臨戦態勢を整えるリズがいた。

 

 

静かな憤怒をたぎらせる悪魔は殺気を彼女達にぶつけていく。

 

「…テロに加担した魔法少女共を救いに来たか?それもペレネルの命令か?」

 

「いいえ…私の独断です」

 

「造魔でしかないお前が人間のように判断した上で、主に背いたというのか?」

 

震えていたが、棚から牡丹餅展開だと不安が少し癒されたフロストは質問してくる。

 

「ヒトシュラ…このお姉ちゃん達を知ってるのかホ?魔力からして…オイラ達と同族だホ」

 

「知ってはいるが…今は立て込んでいる。いつの間にか仲良くなってたアイツのとこに行け」

 

親指で後ろを指させば、電柱に隠れていたランタンを見つけるだろう。

 

「ヒホ!?」

 

自分が指名されたのかと震え上がり、カボチャからボタボタと汗のような汁が分泌される。

 

言われた通りランタンのところに向かった後、ジト目を向けてくる。

 

「ランタン…オマエ、かりんにデカい口叩いておいて…隅っこで何やってんだホ?」

 

「バカ野郎!!あんな魔王の中でも飛び切りヤバい魔王のような悪魔とは聞いてないホ…!」

 

「これはかりんにタレコミ案件だホー」

 

「うるさいホー!出会ったあの男がこんな次元の悪魔なら…俺達もあの女悪魔も皆殺しだホ!」

 

「ランタン、オマエ成仏したいんじゃなかったのかホ?」

 

「死んだら転生ガチャが待ってるホ!次はどんな形にされるか分からないホー…!!」

 

ジャックコンビは電柱に隠れながら事の成り行きを見守る事しか出来ない。

 

「造魔であり悪魔の私には祈る神は与えられません。ですが、神学の知識ならあります」

 

「ジャンヌ・ダルクになるのを目指していたな。歴史でもジャンヌは敬虔なキリスト教徒だ」

 

「一神教では現世での罪を神に対して贖罪するという考え方が根底にあります」

 

「人間は神に対する罪人として贖罪のために生き、贖罪を果たしたものだけが天国へ行けるか」

 

「驚きました…悪魔の貴方が神学に詳しいなんて…」

 

「…昔取った杵柄だ。一神教は啓示宗教…それは神を信じ、奇跡を信じることだ」

 

「宇宙には厳然たるアマラの法があります。それを犯す者は神との関係が切れるのです」

 

「無私の愛情を持たぬ者には原罪が与えられる。俺達悪魔が…その象徴だ」

 

「人は既に神罰を与えられた罪人。神を信じ、神の教えを貫く者には死後の復活が約束される」

 

「お前…後ろの建物にいる連中を全員キリスト教徒にでもして、贖罪の人生をやらせる気か?」

 

「それが…ジャンヌ・ダルクの望みだと…私は考えます」

 

「ご高説を垂れ流せたなら、さっさと帰れ」

 

踵を返す悪魔がミレナ座に向かおうとする中、背中に声をかけられた事で立ち止まる。

 

「私は悪魔です…悪魔が神の教えを信じ、贖罪をやれという理屈は…さぞ滑稽だと思います」

 

「…誰もいなければ腹を抱えて笑ってやる。悪魔としてな」

 

「ですが私は貴方に伝えたい。貴方は義の殺人を繰り返す…その先には…報いしかありません」

 

「…俺もジャンヌ・ダルクのように死刑にされるか?覚悟なら…天使と戦った時に出来ている」

 

「殺し…殺され…人々は報復を繰り返す。その負の連鎖は断ち切るべきです」

 

「俺が報復されるなら、いつでも受けて立つ。俺が奴らを殺戮するのは人間社会の為だ」

 

「…人間社会の安全保障の為ですか?」

 

「人間社会は相互利益でしか機能しない。社会に不利益を与える罪人は()()()()()()()()()()

 

「司法の世界ですね…確かに私は神学者…司法の世界には疎いです」

 

「隣にいる俺と変わらなそうな造魔はどうだ?そんな武器をチラつかせて()()()()()()()()()

 

意見を求められリズも彼と気持ちは同じなのか、本音を伝えてくれる。

 

「…私も本音を言わせてくれるなら…テロに加担した魔法少女を全員死刑にしたいわ」

 

「リズ…?」

 

「私の元となったリズもカトリーヌの仇討ちをした。賊を全員殺し…村の安全は保障された」

 

「それはかつてのリズが行った所業です。新しく産まれた貴女が背負うことも…」

 

「隠していてごめんなさい…私はテロが起こった日に…革命魔法少女達を殺戮したのよ」

 

感情が無い造魔ではあるが、心に小波が立ったのか目が見開かれる。

 

「こいつは驚いた。お前の相棒は俺の片棒を担いでいたようだな。なんなら、一緒に来るか?」

 

「貴女まで…かつて伝説の傭兵として生きた…リズ・ホークウッドになりたいのですか?」

 

「これはマスターの命令でもあり、私の望みでもあった。やった事はかつてのリズそのものね」

 

「それで?伝説の傭兵さんは俺の殺戮に参加するのか?手伝ってくれるなら手間が省ける」

 

「…マスターの命令は安全保障を脅かす脅威の排除。そして事が起こった原因ならまだある」

 

「そうだ。この神浜が政治によって変わらない限り…魔法少女からの安全保障など得られない」

 

「それでも…マスターは殲滅戦をするなと言い、私とタルトに監視任務を与えたわ」

 

「なんでもかんでもペレネルの許可がいるか。首輪はつけられたくないもんだ」

 

タルトが近寄り、150センチしかない小さな身長で彼を見上げてくる。

 

「尚紀…貴方までかつてのタルトと同じ事になる。人殺しを続けては…誰にも許されません」

 

「許されるつもりは無い。既に俺は…お前が勉強している大いなる神に喧嘩を売った悪魔だ」

 

「どうしても…ダメなのですか?」

 

「力づくで止めてみるか?」

 

視線をリズに移せば悪魔化して武器を構えている。

 

俯いたままの姿をしていたが、顔を上げて尚紀の両目を見つめてくる。

 

「…私は感情が無いから分かりません。タルトはどうして…戦争で人殺しをしたのですか?」

 

――いつか誰かに報復される危険なら、彼女だって分かっていたはずです。

 

その質問を聞かされた彼は彼女が造魔であると痛感してしまう。

 

「…お前はジャンヌの現身なんだろ?なら、彼女の記憶を辿れ」

 

「タルトの記憶を…?」

 

目を瞑り、彼女の事で思い出せた記憶を探ると南凪区の外国人墓地の光景が浮かぶ。

 

彼女の右手が自然と後頭部をなぞっていき、先端部分の後ろ髪を掴みながらこう告げる。

 

「タルトはカトリーヌの墓の前で断髪した。後ろ髪を捧げたのは…愛する妹のため」

 

「かつてのジャンヌは戦乱で妹を亡くしたのなら…繰り返させたくなかったのさ」

 

愛する人の死と同じ惨劇を生みだしたくない、たとえ他人に恨まれる道になろうとも。

 

戦場の修羅となってでもフランスに平和の光をもたらす覚悟を決めたのだと告げられる。

 

「それが…社会に安全保障をもたらす世界。国がそれを肩代わりするのが政治だ」

 

胸の高鳴りを感じるタルトは胸に手を当ててしまう。

 

「何故ですか…カトリーヌの事を思うと…先ほど言った言葉が…無力に感じてしまう」

 

「フッ…お前は造魔で終わる女じゃない。お前にもあったじゃないか…人間のエゴがな」

 

今度こそミレナ座へと歩みを進めていくが、タルトは彼を止められない。

 

「これが…この感情の高鳴りが…ジャンヌ・ダルクを戦場の英雄に変え…殺戮者に変えた…」

 

「…タルト、彼の決意はもう覆せないわ。彼は十分人間社会の為に戦ってくれている」

 

国が民に肩代わりして安全保障を守るのが国の政治というもの。

 

それを国が放置するならば、誰かがそれを肩代わりするのだとリズは伝えてくれる。

 

ミレナ座に入ろうとする人修羅を震えながら見守る事しかランタンには出来ない。

 

「ま…不味いホ…中にはかりんが…みかげまでいるんだホ!!」

 

「こうなったら…オイラ達で無理やり止めてやるしかないホ!!」

 

「ええい!!次の転生先は…野菜だけはやめてくれホー!!」

 

フロストとランタンが電柱から飛び出すが、気付いている人修羅は右足で地面を踏みつける。

 

「「ヒホホーーーッッ!!?」」

 

足元から業火が一気に噴き出しながら地面を走っていく。

 

豪熱に阻まれるフロスト達はタルト達がいる方に緊急避難してしまう。

 

「こ…これは…!?」

 

ここは不況の影が色濃く残り、人々が立ち退いた無人街。

 

そのため調整屋を秘密裏に構えたり、魔法少女も利用しやすかったのが仇となってしまう。

 

「ミレナ座を取り囲む程の…業火の結界!?」

 

悪魔は背を向けながら炎の渦の中へと入っていく。

 

「正義も愛も追いかけない…もう俺に……花はいらない」

 

業火がミレナ座周囲を封印するかの如く走り続けて一筆書きの印となる。

 

自由を拘束する支配の象徴であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 

「ダメだホ…駄目だホ…ヒトシュラァァーーッッ!!」

 

フロストの叫びは炎の壁によって阻まれ、業火の奥に進んだ彼には届かない。

 

今から始まるのは、かつての東京で起きたワルプルギスの夜の惨劇が繰り返される程の地獄。

 

神浜の魔法少女社会に憤怒の炎が運ばれる時がきたのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ん…ん……?」

 

気が付いたやちよはベットから体を起こして時計に目を向ける。

 

「半日以上…眠っていたというの…?」

 

スマホで日付を確認した後、裁判を行った日から日付が過ぎた深夜だと理解する。

 

「私のソウルジェムは…誰かが穢れを取り除いてくれている?きっとみふゆ達ね…」

 

倒れた自分の面倒を見てくれた仲間達に感謝し、机のソウルジェムを指輪に変えて嵌め直す。

 

服を着替えてダイニングルームまで下り、冷蔵庫のミネラルウォーターを口にする。

 

「私は……」

 

彼女の耳には常盤ななかから罵倒された言葉が今でも響いてくる。

 

「私は間違ってなどいない…私は魔法少女社会の長…なら優先すべきは…()()()()()()()()()

 

彼女は君主論を読んだ事がある長であり、内容を語ってくれる。

 

「人も組織も、国家でさえもタテマエでは動かない。互いの利益が無ければ関係は破綻するわ」

 

彼女がもし、人間社会を優先して月咲と時雨、はぐむとみたまを殺したとしよう。

 

月夜とみかげは復讐に燃え、長の政治判断を否定し始める。

 

半面、魔法少女を優先すれば優しさによって皆が環の輪となり、楽しく過ごせる利益となる。

 

そして人間社会の無念などゴミの如く捨てていい理由と出来るのだ。

 

これはマキャベリズムと呼ばれており、君主論にも繋がる思想であろう。

 

「人が現実に生きているのと、人間いかに生きるべきかというのとは…()()()()()()()()()

 

人間いかに生きるべきかを見て、現に人が生きている現実の姿を見逃す人間は自滅する。

 

自立するどころか、破滅を思い知らされるのが落ちであると語ってくれる。

 

理想論や単なる人情論ではなく、現実の中で役立つ指導力を長は発揮しなければならない。

 

そうでなければ厳しい世界でリーダーなど務まらないのだろう。

 

「私は見てきた…みたまと絆を結ぶ魔法少女達を…月咲さんと絆を結ぶ魔法少女達の姿を…」

 

ならば人間社会の慟哭などゴミ箱に捨ててでも優先すべき社会とは何だ?

 

「私は七海やちよ…神浜魔法少女社会の西の長であり…魔法少女社会を優先する指導者よ」

 

組織と人を動かして成長させる為には大きな目標である正義が必要であろう。

 

いままで地位が安泰だと思い、のんびりと過ごした人達に地位は安泰ではないと告げる。

 

会社でも今まで働くだけだった者に対して社会正義を掲げれば厳しく扱う事が出来るのだ。

 

「私が掲げる正義は魔法少女社会を環の輪にすること…私達の利益を阻む者は厳しく指導する」

 

正しい大儀と書いて正義。

 

大儀とは大勢の利益を優先して少数派の利益を踏み躙る行為である。

 

「私は目標を掲げる…魔法少女社会を環の輪にすると言った以上は…ぬるま湯は許されない」

 

それを阻む少数派とは常盤ななか達であろう。

 

「いずれ常盤さん達とも…決着をつけないといけないわね…」

 

先を憂いていた時、玄関からけたたましいチャイムの音が響いてくる。

 

「こんな深夜に…誰なの?」

 

玄関の扉まで叩く音に急かされながら彼女は扉を開けてくれる。

 

「貴女は…春名さん!?魔法少女姿までして…何があったの!?」

 

やちよに会いに来た人物とは戦いから逃げ出してまで応援を求めてきた春名このみである。

 

「助けて下さい!!私達では…あの悪魔には勝てない!!」

 

「あくま…?言っている意味が分からないわ…何か特殊な魔獣でも出現したの…?」

 

「違います!魔獣じゃない…人間みたいな男の姿をしてる…そして悪魔は…私達に怒ってる!」

 

「落ち着いて!深呼吸して…興奮したままでは何を伝えたいのかも纏まらないわ」

 

促された通りにして思考が定まった彼女は西の長が眠っていた間に起きた出来事を伝える。

 

やちよの顔は蒼白となり、長としての自分の意思を守り通そうとしたみふゆ達の安否に怯える。

 

「悪魔の力は桁外れでした…私はどうにか逃げ出せたけど…みふゆさんや鶴乃さんは…」

 

「そんな…悪魔という存在が隠れていて…私達の裁判結果の報復を行っているというの!?」

 

「騙されないで!あの悪魔は神浜テロの裏側に関与してます!私達を悪者にするブラフです!」

 

「神浜のテロには悪魔が関与している…用済みとなった時雨達は…その為に殺された…?」

 

「生き残った革命魔法少女達はミレナ座に避難してますが…みふゆさん達が倒されれば…」

 

やちよの脳裏に浮かぶのは、おぞましい存在によって魔法少女達が大虐殺される惨劇である。

 

その地獄こそ、やちよが掲げた正義である環の輪を引き裂いていく悪魔の所業であろう。

 

やちよの眉間にシワが寄り切り、憤怒の形相と化す。

 

「…やらせない…やらせないわ!!」

 

彼女はリビングのソファーに置いてあったバイカージャケットを身に纏ってガレージに向かう。

 

収納されたバイクに跨りながらエンジンを点火する。

 

マフラーから響くけたたましい唸り声はやちよの怒りの叫びを表すだろう。

 

「私はミレナ座に向かい、悪魔を倒すわ。このみさんは…みふゆ達をお願いね」

 

バイクは急発進していき、みかづき荘に上る階段の上からバイクごと飛び出す。

 

道に飛び降りたバイクを急旋回させるやちよは新西区のミレナ座を目指して走り続ける。

 

「私達が掲げる正義を守り通して見せる!!環の輪を築くには…魔法少女達が必要なのよ!!」

 

彼女が叫ぶ正義の世界には人間社会の正義など含まれていない。

 

これは魔法少女社会の長としての判断であり、その責任を取らされる時が訪れるのであった。

 

 

館内が燃え上っていくミレナ座、吹き荒れる惨劇こそ、この世全ての悪(アンリ・マンユ)となる。

 

「ヒギャァーーーッッ!!!」

 

両手で頭部を掴まれる革命魔法少女が圧殺される。

 

血と脳みそを撒き散らしながら円環のコトワリに導かれてしまう。

 

「来ないで…来ないでぇーっ!!」

 

もはや勝てる存在ではないとパニックになった魔法少女達が館内を逃げ惑う。

 

「ヒィーッッ!!」

 

後ろ髪を掴まれた革命魔法少女は後頭部を抱えられながら顔面を壁にぶつけられてしまう。

 

「がフッ!!!」

 

何度も何度も壁に叩きつけられ、ぐちゃぐちゃになった顔を振り向かせてからの連続頭突き。

 

陥没してしまった顔面の口を両手で開かせながら下顎を首の皮ごと引き千切る。

 

「ガアァァーーーッッ!!!」

 

声も出せない魔法少女の頭部は捩じり切られ、円環のコトワリに導かれてしまう。

 

「助けて…助けてぇーーーッッ!!!」

 

魔法の使い方も思い出せない程にまでパニックとなった命達が本能のまま逃げ惑う。

 

近寄ってくるのは正視できない闇、認められない醜さ、逃げ出してしまいたい罪。

 

この世全てにある人の罪状と呼べるものを裁く者であり、だからこそ死ぬ。

 

この闇に捕らわれた者は苦痛と嫌悪によって自分自身を食い潰す。

 

「ギャアァァァァァーーーッッ!!」

 

最後尾の魔法少女が悪魔に蹴り飛ばされた事で倒れ込む。

 

悪魔は足で背中を踏みつけながら両手で首を掴む。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いーーーーッッ!!!」

 

彼女の首の筋繊維が断裂していき、おびただしい出血が噴き出す。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーーーッッ!!!!」

 

少女の首は力任せに背骨ごと引き千切られる。

 

無表情なまま手に持つ頭部を壁に叩きつけ、潰れたトマトに変えてしまう。

 

円環のコトワリに導かれる光を背に、返り血を漆黒に染める闇が逃げる者達を追撃する。

 

人修羅こそ、魔法少女社会に対して暴力革命を敷く共産主義者。

 

「あゲぱァッッ!!!」

 

振るわれる拳は、顔を粉砕する槌となろう☭

 

「たすゲめッッ!!!」

 

振るわれる刃は、首を跳ねる鎌となろう☭

 

「悪魔の共産主義を思い知れ。そして、他の街の魔法少女社会も逃れられると思うな」

 

魔法少女をゴミのように大虐殺する光景こそ、共産党が繰り返す()()()()()()()()を思わせる。

 

民族浄化とは、多民族国家において脅威となる民族を強制的に地域から処分する事を指す。

 

人間と魔法少女という異なる民族が互いに暮らすしかない人間社会。

 

だが国家に管理もされず、人間よりも遥かに優れた魔法少女達は人間社会を傷つける。

 

ならばその脅威となる者達を人間社会大儀をもって殲滅する。

 

これこそが、社会全体主義国家の治世の在り方であろう。

 

「逃げたところで無駄だ。俺の怒りの炎に焼かれて死ぬか、怒りの拳に潰されて死ぬか…選べ」

 

生き残った革命魔法少女達は火の手に飲まれまいと屋上を目指す。

 

死を撒き散らす闇は彼女達が昇った階段を上がっていく。

 

よく見れば彼の背中には何やら小さな物がくっついている。

 

熱や電撃に耐性を持つ特殊繊維に包まれているのはコイン程に小さい盗聴器であろう。

 

燃え上るミレナ座をビルの屋上から眺めているのはシドとアリナの姿である。

 

「アッハッハッハ!!ファンタスティック!!」

 

両手を広げて大喜びするアリナの手には受信機から聞こえる大虐殺の音声が流れ続ける。

 

あの時、2人の間を通り過ぎようとした悪魔の背中に盗聴器を取り付けたのはシドであろう。

 

「あァ…見なさいアリナ!!この光景こソ…私が崇拝シ…降臨を待ち続けた神の威光!!」

 

音声しか聞こえないが、虐殺の叫び声だけで何が行われているのか鮮明に想像出来る。

 

死と再生を追いかけ続けた2人にとっては、死を形にするなど日常なのだ。

 

「やはリ、あの御方でありましタ…!我らイルミナティの啓蒙神…黙示録の赤き獣!!」

 

「デス&リバース…オールドスネーク…アリナが求める美の最古の形…!!」

 

<<裁く者…サタン!!!>>

 

恋する乙女のように顔を赤くするアリナが持つ受信機からは追い詰められた者達の絶叫が届く。

 

「来るな…来るなぁぁーーーッッ!!!」

 

燃えるミレナ座の屋上まで逃げてしまったが、周囲は業火で描かれた五芒星で封印されている。

 

「惨たらしく死ぬ貴様らを嘲笑ってやろう。貴様らも人間達に対して…()()()()()()()()()

 

光剣を両手に生み出した悪魔が駆け抜ける。

 

<<ギャァァァァァァァァーーッッ!!!!>>

 

殺人、殺人 殺人、殺人 殺人 殺人、殺人 殺人 殺人 殺人…。

 

<<クックックッ…フハハハハハ…ハーハッハッハッハッハァーッッ!!!>>

 

切り裂き、潰し、臓腑をばら撒く。

 

円環のコトワリの光さえ届かない闇が世界を赤黒に変える。

 

この凄惨な地獄をもたらす者こそ、この世全ての悪としか表現出来ない。

 

そう表現された神こそがボルテクス界においてシジマのコトワリを掲げた邪神なのだ。

 

ミレナ座という映画館の中で調整屋を開いていたスペースは第一シアターである。

 

扉は厳重に閉ざされており、助けを求める魔法少女達は裁く者がうろつく外に放置される。

 

「ごめんなさい……なの……」

 

両開き扉のドアハンドルには御園かりんの大鎌が差し込まれている。

 

逃げ惑い、扉を叩いて中に入れろと叫んだ魔法少女達はかりん達から見捨てられたようだ。

 

「わたし…あんな悪魔が来るだなんて分からなかった…守ってあげたいけど…きっと皆死ぬ…」

 

「殺される…殺される…悪魔が…ウチらを裁く悪魔が来る!!」

 

膝が崩れた姿をしながら震えているのは天音月咲である。

 

「怖い…怖い…怖いよぉ…姉ちゃ!!姉ちゃを殺しに来る悪魔って…こんな奴だったの!?」

 

姉にしがみつきながら震えているのは八雲みかげであろう。

 

「…ごめんなさい、ミィ。やっぱり私…貴女を遠ざけるべきだった……」

 

妹を抱きしめながら燃えていくミレナ座を見つめるみたまはこう零す。

 

()()()()()()()()…やっぱり罪人達は…極刑にされるべきなのよ…」

 

燃える音以外は何も聞こえなくなった外側であるが、悪魔の足音が聞こえだす。

 

「ま…魔力が近づいてくる…悪魔がもう直ぐ…こっちに来るの!!」

 

かりんは震えながらも扉を抑え込み、悪魔の侵入を阻もうと懸命に務めるが無駄であろう。

 

「キャァァーーーーーッッ!!?」

 

突然爆ぜたのは扉の隣側であり、奈落の底から響くような死の声が聞こえてくる。

 

「調整屋ぁぁぁ……」

 

壁を破壊して中に侵入してきた人修羅の姿を見せられたかりんは戦慄してしまう。

 

「あっ……あぁ……」

 

バケツ一杯に溜まった血を頭から被ったかのような赤黒い頭部。

 

咽る程の血の臭いを纏う姿に恐怖するかりんは腰を抜かしてしまう。

 

「俺は言ったはずだ…魔法少女として人間などゴミクズとして扱うなら…今直ぐ殺すとな」

 

闇の底に引き摺り込まれる程の恐怖を感じさせる低い声。

 

近づけば瞬く間に挽肉に変えられる程の威圧感を放ちながら調整屋の中を進む。

 

姉の命を奪うと宣言する人修羅に対し、震えていたみかげが果敢にも立ち向かう。

 

「姉ちゃは殺させない…!悪い悪魔の方がやっつけられちゃえ!!」

 

「ダメよミィ!?行っちゃダメ!!」

 

彼女は右手の武器で刺突を仕掛けるが、悪魔の体が揺れる。

 

左腕で刺突を放つ右腕を逸らすと同時に掴み、腕を背後に回し込むように体を移動させる。

 

「ぐっ!!?」

 

捩じり上げた腕を拘束したまま動けない体の後頭部に右肘を放つ。

 

「あっ……姉ちゃ……」

 

倒れ込んでしまったみかげを見下ろす悪魔はみたまに振り返る。

 

「…お前とよく似た顔つきの小娘だが、こいつは?」

 

「…私の妹のみかげよ。その子は関係ないわ…お願いだから助けてあげて」

 

「テロに参加した魔法少女リストの中にこいつはいない。生かしておいてやる」

 

「…その言葉が聞けてよかったわ」

 

「後ろで腰を抜かしている小娘。こいつを抱えてさっさと映画館から出ていけ」

 

「で…出来ないの!わたしはせめて…みたまさん達だけでも守るの!!」

 

かりんは立ち上がり、マギア魔法を放つ構えを行うがみたまが叫んでくる。

 

「ダメよ…かりんちゃん!!尚紀さんの…言う通りにして…」

 

「尚紀さん…?みたまさんは…この悪魔を知ってたの…?」

 

「ええ…知ってたわ。この人は人間の守護者を貫く悪魔…だから…かりんちゃんは殺さない」

 

「だ…だけど…それじゃあ、テロに加わった…みたまさん達は…」

 

「覚悟は出来ている。ありがとう、守りに来てくれて…その気持ちだけで…嬉しかったわ」

 

守れない無力さを責めもせず、感謝の言葉を伝えてくるみたまに対して涙が浮かんでしまう。

 

「弱くてごめんなさいなの…わたし…マジカルきりんみたいに…なんでも解決出来なかった…」

 

「この映画館を焼く俺の炎は生きている。映画館入り口の炎はどかしておいてやる」

 

みかげを抱きかかえるかりんは最後にみたまを見る。

 

彼女は健気にも笑顔を浮かべながら手を振り、調整屋として最後のお客様を見送ってくれる。

 

「ごめんなさい……ッッ!!!」

 

壊された壁から飛び出し、言われた通りに映画館の入り口を目指す。

 

「これでいい。残っている用事は…貴様らに裁きを与えるだけだ」

 

向かい合う裁く者と裁かれる者。

 

逃れられない死をもたらすのが悪魔の中でも魔人と呼ばれる種族の特徴であろう。

 

今まさに逃れられない裁きの刻が訪れるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

炎の世界から現れたのはラテン語で炎を運ぶ者と表現される悪魔。

 

その姿はまるでアリナが見た夢の世界に登場した大いなる蛇を彷彿とさせるだろう。

 

憤怒の業火を纏う蛇こそ、裁く者なのだ。

 

「お願い…許して…許してぇ!!ウチ…月夜ちゃんと…一緒に生きたい…!!」

 

「ふざけんなぁ!!!」

 

悪魔の怒声によってへたり込む月咲の股から失禁を誘う。

 

「生きたかっただと?犠牲者の人間達は生きたくなかったとでも言うのか?腐ってやがる!!」

 

「あ…うっ…うぅぅ……」

 

半べそかきながら取り乱す彼女に代わり、冷静な素振りを懸命に務めるみたまが語り出す。

 

「私はテロの集会に参加したわ。藍家ひめなの言葉は私も含めて全ての魔法少女の心を掴んだ」

 

「……今更何が言いたい?」

 

()()()()()()。これは日本の裁判でも無罪を言い渡されるケースを知ってるわ」

 

「…実娘レイプ犯が無罪とされたあの裁判の理屈を振りかざす気か?」

 

「なんですって!?女として許せない…そんな理不尽な裁判もあったというの!?」

 

「それ以外にも検察官が精神鑑定結果を見て起訴を見送る場合も多い。これが()()便()()()()だ」

 

「日本司法は…そこまで堕ちていただなんて…」

 

責任能力が無いと判断されたら簡単に無罪となる。

 

犯行の原因が精神疾患に基づく場合は責任は無いとされ、殺人でさえ無罪となってしまう。

 

それが日本の刑事事件の原則なのだと裁く者は伝えてくれる。

 

「何処までも加害者を守る権利だけが拡充され…被害者の権利は何もないのが日本司法なのね」

 

「弁護人が被告人の精神鑑定を要求するのはこの仕組みを悪用する狙いがある」

 

会話のやり取りを聞いていた月咲は光明を感じたのか震えながらもこう告げる。

 

「ウチ…ひめなの奴らが来て、ウチの苦しみを聞いてくれた。あいつの言葉は…全てをくれた」

 

見え透いた魂胆を抱える彼女に対し、悪魔は軽蔑の眼差しを向けてくる。

 

「まるで魔法の言葉だった…。ウチは魔法にかかったみたいに…心神喪失状態にされたの!!」

 

「貴様…俺が語った仕組みを利用しての命乞いか?」

 

「ウチに責任能力なんてなかった…だから…ウチらは無罪なんだよ!!」

 

刑法で禁止された行為で他人や社会に損害を与えたというのに心神喪失で無罪となる。

 

これはおかしい、そもそも精神鑑定はいらないのでは?

 

これが日本司法界隈の議論とされている。

 

「それで被害者達が納得するのか?あまりにも加害者優先主義…似非人権団体が好む手口だ」

 

「加害者にだって人権がある!!」

 

「被害者にも人権は必要だ!!」

 

罵声を浴びせられる月咲はか細い希望が断たれたかのように黙り込む。

 

「俺なら心神喪失者でも許さない。責任能力が無いなら…永遠に出られない刑務所に収監する」

 

彼の右手から光剣が放出される。

 

「貴様ら全員、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「被害者達だって…犯罪者から賠償金とか貰えるんでしょ!?それでやり直せば…!!」

 

「踏み倒される」

 

「えっ…?」

 

「損害賠償は民事の10年で時効になる()()()()()。再提訴資金も払えず泣き寝入りしかない」

 

「そ、そんな……」

 

「神浜の街を破壊したお前らが損害賠償を支払う?どうせ払えず逃げ得になるだけさ」

 

「これが…こんな司法制度が…日本司法なの?国民は日本政府に…裏切られたのね…」

 

「江戸時代の仇討ち制度が絶賛された理由も分かる。海外の悪徳が日本を壊した例の一つだ」

 

「市議会の条例で…被害者支援を期待するのは…?」

 

「どうやって?魔法少女犯罪を証明出来ないのに?」

 

「それは……」

 

「ウチ…被害者達に謝る人生を生きる…それならいいでしょ…?」

 

「魔法少女犯罪を証明出来ないのに?被害者に向き合いに行くことさえ出来ない」

 

「あっ……うぅ………」

 

「被害者が許さない限り、被害者に対する罪というものを償う方法などない」

 

魔法少女が自分達を秘匿してきた報いなのだと断罪者は告げてくる。

 

「懺悔の道も…断たれたわね……」

 

悪魔が進み出る中、みたまは彼の前に立ち塞がる。

 

「いい心がけだ。先ずはお前からだな」

 

「月夜ちゃん…ごめんね…ウチが…バカだったよ……」

 

「他人の心の痛みを想像せず、自分本位の不満を優先した報いだ」

 

「そして商売だからと何も考えず…自分が売り物にしてきた力の怖さを想像しなかった…」

 

「お前の責任でもある。報いを受けろ」

 

光剣を握る腕が振り上げられていく。

 

(ミィ…最後に来てくれて…嬉しかった。今度こそ…妹をお願いね…ももこ……)

 

悪魔の断罪の刃が振り下ろされようとした、その時だった。

 

<<ヒホホーーーッッ!!!!>>

 

後ろから現れたのはジャックランタンであり、人修羅は驚愕してしまう。

 

「お前っ!?」

 

ジャックランタンは火炎を吸収する耐性を持つ悪魔。

 

業火の封印結界であろうが彼には何の障害にもならないが、彼の仲魔は違うだろう。

 

「俺は…このバカがどうしてもって言うから…連れて来てしまったホ…」

 

カボチャ頭に捕まっていた白い物体が雪解け水のように崩れながら倒れ込む。

 

「フロスト!!?」

 

「フロスト君!!?」

 

倒れたのは胴体を失ってしまったジャックフロストである。

 

人修羅が駆け寄り、フロストの頭部を抱きかかえてくれる。

 

「バカ野郎…どうして……」

 

「ヒ…ホ…ヒトシュラ…の…真似…してみた…ホ…」

 

「俺の…真似…?」

 

「ヒトシュラは…大切な…友達に…裏切られても…()()()()()()()()()()…」

 

かつてのボルテクス界の旅路の中で大切な親友達と殺し合う事となった尚紀。

 

勇も千晶も魔人となり、自分のコトワリを掲げて相争う関係となってしまう。

 

それでも尚紀は2人を信じようとしたのだとフロストは告げてくれる。

 

大切な親友達とまたやり直せると信じたからこそアマラ神殿やミフナシロに行ったのだ。

 

ジャックフロストはそんな尚紀の姿を今でも覚えている仲魔であろう。

 

「殺し合う事になった…友達でも…ヒトシュラは…殺し合いなんて…したくなかった…ホ…」

 

彼の脳裏に浮かぶのは、千晶と勇と自分達が笑顔を向け合いながら生きられた懐かしい記憶。

 

「みたまも…その子も…他の子達だって…運命という理不尽に…弄ばれたから…」

 

「こいつらも…千晶や勇と同じように…苦しんだ末に…狂ってしまったというのか…?」

 

「この子達も…本当は…勇や千晶って子のように…優しかった…はずだ…ホ…」

 

「もういい…喋るな!!」

 

フロストの頭部まで崩れていく中、最期の思いだけは残してくれる。

 

「ヒト…シュラ…繰り返しちゃ…ダメだ…ホ…。()()()()()()()()()()()だ…ホ…」

 

「俺の…望み…?」

 

「勇や千晶…みたいに…優しい心を…持ってる…友達と…生きられる…人生が…欲し…か…」

 

「ダメだ…ダメだぁ!!出会って間もないのに…俺を置き去りにするんじゃねぇ!!」

 

「繰り返し…ちゃ…ダメ…だ…ホ……」

 

フロストの頭部から形を形成していた感情エネルギーの光が放出されていく。

 

最後の力を振り絞りながらみたまにも顔を向けてくれる。

 

「フロスト君…私達の…ために……」

 

両目から涙を零していくみたまを見ながら最後にこう呟いてくれる。

 

「みた…ま…どうだった…ホ…?オイ…ラ…ジャアクな…テイオーとは…ちが…う…」

 

――やさ…し…い…悪魔…だった…か…ホ……?

 

「ソーマならある!!早くこれを…!!」

 

人修羅が左手に回復アイテムを生み出すよりも先にジャックフロストが弾けてしまう。

 

彼の感情エネルギーが調整屋に放出される眩い光景が広がっていく。

 

宇宙に消え去る感情エネルギーを茫然と見つめるしかない尚紀に対し、ランタンがこう告げる。

 

「…悪魔は個体を失っちまったら…蘇れないホ。また誰かに…召喚されるまでは…」

 

それだって今消えたジャックフロストになるとは限らないのだと残酷な現実を突きつけてくる。

 

やっと出会えたかつての世界の仲魔であり、心を繋ぎ合えた大切な仲魔を彼は殺してしまう。

 

ミレナ座を燃やし続けた憤怒の炎が消えていく。

 

ジャックフロストと旅をしてきた記憶が巡っていき、歯が食いしばられていく。

 

「俺は…おれは…おれはぁぁぁぁ……」

 

金色の悪魔の瞳からは人間と同じ涙が溢れ出す。

 

――迷いというものはああなりたいという欲望から生まれる、それを捨てれば問題はなくなる。

 

──貴方のその力を、私が守ろうとしたかけがえのない人達を守るために使って下さい。

 

――ヒト…シュラ…繰り返しちゃ…ダメだホ…本当は…望んでたはずだ…ホ。

 

大切な人々から託されてしまった()()()()()()が人修羅を苦しめる。

 

彼らの切実な言葉が初めて嘉嶋尚紀に迷いを与えてしまう。

 

「尚紀……さん……」

 

ジャックフロストを失って辛いのはみたまも同じだが、彼は彼女よりも前から大切にしている。

 

失う苦しみは互いに同じだが、かけてやれる言葉が見つからない。

 

「……消えろ」

 

「えっ…?」

 

「俺の前から……消えろぉぉぉーーーーッッ!!!」

 

地面に蹲りながら慟哭の叫びを上げながら泣き続ける。

 

フロストから語られた人修羅の旅路を知っているみたまは理解するだろう。

 

彼らの間には物語の部外者達が同情の言葉をかけていい関係などではないと分かったようだ。

 

「……尚紀さん」

 

泣き喚き続ける尚紀を見つめる月咲も理解するだろう。

 

これこそ加害者から大切なモノを奪われていった被害者達の叫びなのだと分かったようだ。

 

魔法少女は神浜の街を破壊しても被害者達はそれを知る権利さえ与えられない。

 

だからこそ彼が被害者達の姿を代わりに見せてくれる。

 

「……行きましょう、月咲ちゃん」

 

「……うん」

 

彼を独り残し、みたま達は焼け果ててしまったミレナ座から逃げ出していく。

 

ランタンだけは人間であり悪魔である人修羅の慟哭を最後まで見届けるのであった。

 

 

人修羅とジャックランタンがミレナ座から出る頃には崩壊が始まっていく。

 

茫然としながら罪の象徴が崩れていく光景を人修羅は見守る中、ランタンは重い口を開く。

 

「…これから、どうするんだホ?」

 

「…分からない。考える時間が欲しい」

 

「あいつ…自分の命をかけてまで魔法少女を守りやがった…俺には信じられないホ…」

 

「…俺はあいつと同じ気持ちを…かつて宿していた時期もあった」

 

「お前も…大切な魔法少女がいたのかホ?」

 

「もう死んだ…そしてその子と約束したんだが…フロストの遺言はその約束とは矛盾する…」

 

「それを考えたいのかホ…分かったホ。そっとしておくから、俺はかりんの元に戻るホ」

 

「お前も魔法少女と組んでいたのか。だったらいつか…フロストの気持ちも分かるさ」

 

「期待しないで…かりんと付き合ってみるホ」

 

ランタンは飛び去っていき、残されたのは尚紀のみ。

 

だが程なくして現れたのはクリスと彼女に乗車したネコマタとケットシーである。

 

「ダーリン!今夜の狩りは最高だったわ~♪数十年分の人殺しは楽しめたから暫くはいいわ」

 

上機嫌なクリスだったが、無言を貫く彼の姿を見て黙り込んでしまう。

 

「何か…あったの?」

 

運転席側に座っているネコマタは心配してくれるが、尚紀は自分の罪を語ってくれる。

 

「さっき…かつての世界で共に戦ってくれた仲魔と…出会えたんだ」

 

「尚紀が言ってた悪魔連中かニャ?そいつの姿が見えないんだけど…」

 

「だが…かつての俺の仲魔は…俺が放った炎によって…死んでしまった」

 

「そ…そんな……」

 

「…俺が殺したようなものだ」

 

「尚紀…そ、その…自分を責めちゃダメ……」

 

心配する二匹の仲魔たちだったが、クリスだけは違う反応を示す。

 

「ダーリン乗って!!」

 

突然の叫びに反応した尚紀は猛スピードで近づいてくる魔法少女の魔力に気が付く。

 

「ネコマタ!助手席側に移れ!!」

 

急いで運転席側を譲られた尚紀は運転席に座ると同時に急発進させる。

 

バイクのライトが夜の世界を槍の如く切り裂きながら現れたのは七海やちよの姿であろう。

 

「あの感じた事もない魔力…見つけたわ!!あれが悪魔共なのね!!」

 

やちよはバイクに乗ったまま左手を掲げてソウルジェムを生み出す。

 

まるで雨の世界を潜り抜けるバイクが水を弾く光景の中で変身する。

 

水しぶきの世界から現れたのはバイクに跨った魔法少女であり、片手には槍が持たれている。

 

「チッ!!考えている暇はなさそうだ!!」

 

猛スピードで走り続ける車とバイクのテールランプが夜の街を切り裂いていく。

 

「尚紀!あの美人だけど怖そうなお姉ちゃんを家まで案内するわけにはいかないニャ!!」

 

「どうにか巻いてしまうしかないわよ!!」

 

「ダーリン!今夜は激しく行くわ!!哀愁を描くレースバトルを始めましょう!!」

 

ダッシュボードに固定した尚紀のスマホをクリスが操り、オーディオから音楽を流す。

 

キックパネルスピーカーから溢れる車内音楽は哀愁を感じさせるユーロビートのようだ。

 

「こんな時に…だが、迷っているよりは集中出来そうだ!!」

 

「アタシを委ねるわ、ダーリン!あんなバイク魔法少女に抜かれるんじゃないわよ!!」

 

「任せとけ!!」

 

新西区を超え、神浜を超え、車とバイクは駆け抜けていく。

 

「ミレナ座が破壊された…だとしたら…避難していた魔法少女達は…」

 

やちよの心にかなえとメルを失った時と同じ苦しみが蘇ってしまう。

 

「繰り返させない……絶対に……許してやるものか!!」

 

彼女の鬼気迫る表情をバックミラーから確認する尚紀は譲れない戦いがあるのだと知る。

 

「フッ…いいだろう。とことんついて来い!!」

 

――楽しいドライブバトルと行こうか!!

 




読んで頂き、有難うございます。
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