人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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124話 最初の目標

猛スピードで走り続ける車とバイクが夜の道を駆け抜ける。

 

神浜の西側を超え、大きく迂回しながら神浜の北側に戻る山道に向かうために突き進む。

 

「チッ!リッターバイクのR1だと、弄ってても巻く事は難しそうだ…」

 

「ケツにずっと張り付いてくるニャ……なんて加速力だニャ!」

 

「あのバイクは一速上げれば150キロ以上は加速出来る。直線道路じゃ追いつかれる」

 

「こうやってジグザクに曲がりながら巻こうにも……ウニャー!?」

 

次の交差点をドリフトして右折を行う。

 

ドリフトのGに振り回され続ける猫悪魔達の事などお構いなしの荒い運転だ。

 

「ウニャ…気持ち悪くなってきたわ…。ちょっとお手洗いに…」

 

「アタシの車内で吐いたら黒焦げにするわよ!?」

 

「パーキングエリアに停車していいかどうか、後ろの魔法少女に叫んでみろよ」

 

「なんか…武器とか投げてきそうだから遠慮するわ…」

 

やちよも巧みなコーナーリングで距離を離さない。

 

「あの旧車…どれだけ弄ってるのよ!!それに、あの悪魔のドラテクも侮れないわね…」

 

やちよは魔法攻撃を仕掛けるタイミングを狙い続けているが、周囲は人間の生活圏が続く。

 

「埒が明かないわ…何処か、人通りのない場所に逃げ込んでくれれば…」

 

後ろから猟犬の如く迫り、距離を離さない魔法少女の殺気は人修羅も感じている。

 

「ダーリン、あの魔法少女は峠バトルをご所望みたい」

 

「だろうな…ヒルクライムしながら峠までついてこれればだがな!」

 

ギアを上げ、アクセルを踏み込む。

 

赤信号を突っ切り横から迫りくる車の間を超える。

 

「くっ!」

 

やちよもギアを上げ、スピードを上げて突っ切ろうとするのだが危険が迫りくる。

 

「早まったな」

 

バックミラーを見る人修羅は不敵な笑みを浮かべてくる。

 

「なっ!?」

 

側面道路から現れたのは鉄骨を運搬するポールトレーラーであり、このままでは激突だろう。

 

鈍化した世界。

 

左手でハンドルを握りながら右足を上げ、跨った体勢から両足を地面につける。

 

靴が道路に削られながらも右手で後部シートを掴み、車体を斜めに滑らせていく。

 

「なにっ!?」

 

倒れ込むエンジンを守るかのように空中で生み出されるのは魔法陣であろう。

 

そこから現れたのは石突き部分を向けた魔法の槍。

 

倒れ込む車体が槍の石突きに支えられながら強引な滑り込みを行うのだ。

 

ポールトレーラーの下を身を低めて潜り抜け、飛び出すと同時に石突きでバイクを押し上げる。

 

車体の体勢が前に戻ったバイクにやちよは飛び乗り、追撃の手を緩めない。

 

「あの女…魔法武器を自由自在に操りながらバイクを乗り回してきやがるか!」

 

「ニャーッ!?自殺もののスタントアクションだニャーッ!!」

 

「まるで…生き急いでるようにも見えるわね…」

 

「上等だ!!ついてこい!!」

 

距離を離されたため、やちよはギア操作を足で行う。

 

彼女の魔法少女衣装の靴は厚底サンダルであり、バイク乗りが履くブーツではない。

 

美しい甲を痛めつけながらのギア操作を行う彼女の顔も苦痛で歪む。

 

「逃がさない…死んでいった魔法少女の為にもここで悪魔を倒す!私は彼女達の長なのよ!!」

 

体の痛みよりも心の痛みに彼女は苦しむ。

 

やちよは自分のせいで大切な親友であり仲間を2人失ったと自分を責め続けた女。

 

そして今度は魔法少女社会の長として誰も守れなかった苦しみがのしかかったからだろう。

 

(私が魔法少女の長なんてしてたから…誰も守れなかったの?)

 

雪野かなえ・安名メルが円環のコトワリに導かれた日の記憶が巡っていく。

 

(私のせいなの…?テロに参加した彼女達が死んでいったのは……?)

 

迷いを振り切るかのようにしてスピードを上げていく。

 

互いのスピードメーターが上がり続ける中、二台は峠を目指しながら山道に侵入するだろう。

 

「お望みのステージに到着だ。さぁ…悪魔と踊ろうぜ」

 

 

人々が眠りについた深夜2時。

 

満点の月が夜空を彩る緩やかな登り坂を猛スピードで駆け抜けるのは悪魔と魔法少女である。

 

「おあつらえ向きの場所まで案内してくれて助かるわ」

 

対向車が来る気配を感じられない深夜の山道ならば仕掛けられるとやちよは判断する。

 

「望み通り…その車ごと破壊する!!」

 

バイクの周囲に出現した複数の魔法陣から射出されるのは魔法の槍。

 

砲弾の如き速度で迫りくるおびただしい槍の数が車を捉える前にクリスの車体が揺れる。

 

山道のコーナーをドリフト旋回し、後ろから飛んできた槍を回避していく。

 

やちよも鋭いコーナーリングで悪魔を追いかけながら距離を離さない。

 

「そうだ、俺のケツにしっかり喰らいつけ。お前のガッツを見せてみろ」

 

「あんな貧乳娘に遠慮する事はないニャ!ガツンと一発かましてやるニャ!!」

 

「ちょっとケットシー…なんで追ってくる魔法少女が貧乳だと分かるわけ?」

 

「オイラは猫だニャ。猫の夜目をニャめるニャよ」

 

「あんた…貧乳娘には容赦ないわね…?」

 

「まな板女死すべし慈悲は無いニャ」

 

「私の事まで言ってるの!?ぶん殴るわよ!!」

 

「ゴチャゴチャうるさい!!」

 

サイドミラーを使いながらやちよが槍を射出するタイミングを見計らう。

 

蛇行運転で槍を避け、カーブも使って避けていく。

 

「やるわね…あの悪魔。だけど、これならどう!!」

 

ハンドルから左手を持ち上げながら前に向けてくる。

 

「なんだ!?」

 

前方の道路に複数の魔法陣を展開された事でクリスが叫ぶ。

 

「下からよ!!」

 

地面の魔法陣から上に突き上げていく槍の数々を蛇行運転で避けるが距離を詰められる。

 

「あの貧乳娘のダイレクトアタックだニャ―ッッ!!」

 

左手に生み出した槍を構えながら猛追し、クリスの車体を両断しようと狙ってくる。

 

「アンタが仕掛けてくるなら、アタシも仕掛けさせてもらうわ!!」

 

「お上品な走り屋レースバトルではない事を思い知らせてやれ、クリス」

 

回転するタイヤが放電現象を始めていく。

 

「これはっ!!?」

 

上空に魔力を感じたやちよは攻撃を諦めるように槍を捨て、ハンドルを両手で掴む。

 

空から放たれる雷魔法とは『マハジオンガ』の一撃なのだ。

 

「くぅ!!」

 

直感だけを頼りに蛇行運転を繰り返して避けていくが、距離を離されてしまう。

 

「これが悪魔の魔法…魔法少女よりも強力な攻撃魔法が使えるだなんて!?」

 

「そらそら!集中力が切れたらズドンで黒焦げよ!!」

 

クリスの猛攻を掻い潜り続けるやちよが左手を前に向けてくる。

 

前方の道の側面に出現したのは上に伸びる無数の大きな槍。

 

それは道路側面に柱として打ち込まれ続けるようにしながら伸び続けていく。

 

やちよの頭上から落ちてくる雷であるが、その一撃が逸れてしまう。

 

「あの女…槍を避雷針にしてるわけ!?」

 

放たれ続ける雷は側面の槍に次々と落ちていき、彼女の道を切り開く。

 

「お返しよ!!」

 

道を走り続けるクリスの前に出現したのは壁のようにして並び立つ槍の数々。

 

だが人修羅は迷わずアクセルを踏み込んでくる。

 

「アタシを舐めんな…アバズレ女!!」

 

強引に車体をぶつけながら並び立つ槍のバリケードを破壊していく。

 

「「ニャーーッッ!!?」」

 

衝撃でシートベルトが食い込み、悲鳴を上げる猫悪魔達が文句を言ってくる。

 

「ちょっと!もう少しで胃液が飛び出しそうになったじゃない!!」

 

「うるさい!!今は立て込んでるし、吐いたら殺す!!」

 

「ニャ―……エンジンみたいにヒートアップしてるニャ」

 

「熱くなりやすいタイプだったわね…クリスって」

 

「それぐらいが俺の乗り回す車には丁度いい!」

 

目まぐるしく変わる景色の中を車とバイクは突き抜けていく。

 

「そろそろトンネルだな」

 

神浜市と描かれた青い案内標識を超えれば見えてくるのは山道トンネルであろう。

 

「峠まで出られるあのトンネルはたしか一直線に伸びる道。なら…大技でいくわよ」

 

ハンドルの周囲に魔法陣を生み出し、槍を出現させてハンドルを空中固定させる。

 

やちよは槍を生み出して頭上で一回転させながら天に掲げる。

 

「出し惜しみするつもりは無いから!!」

 

トンネル内部が無数に生み出されていく魔法陣の光に包まれていく。

 

「ダーリン」

 

「分かってる」

 

赤いボタンカバーを外せば、そこにはNITROと書かれたボタンが露出する。

 

「お前ら、しっかり掴まってろよ」

 

「な、何が飛び出してくるのよ!?」

 

「ニャニャーッ!?オイラは子供だからジェットコースター系は勘弁!!」

 

ボタンを押すとニトロチューンが施される車のガソリンが一気に燃焼し、爆発的パワーで加速。

 

ギアを上げながらアクセルを踏み込み、ツインマフラーからアフターファイヤーが噴き上がる。

 

「行くぜ!!」

 

トンネル内部の上部壁面から道に放たれていくのは赤黒い巨大槍の数々。

 

やちよのマギア魔法である『アブソリュート・レイン』に対して果敢にも突進していく。

 

鈍化した世界。

 

巨大槍に貫かれるよりも先に車体が前に進んでいく中、車内では絶叫している者達がいる。

 

「「ヒィーーーッッ!!!」」

 

涙目で叫びながら生きた心地が得られない仲魔達は地獄のドライブに巻き込まれた被害者だ。

 

「あの急加速…ニトロチューンしてあったの!?」

 

マギア魔法の魔力を解除し、生み出した槍を消しながらギアを最大まで上げる。

 

フルスロットルでトンネル内部を駆け抜けるやちよの口元は自然と笑みが浮かんでいく。

 

「フフッ…ここまで熱くなれる走りが出来るだなんて、あの悪魔…殺すには惜しいぐらいね」

 

走り屋に目覚めたかのように血が騒ぎ、彼女の血潮は跨るエンジンと共に熱くなっていく。

 

「逃がさない!このレースバトルを制するのは私よ!!」

 

トンネルの先は峠であり、下り部分に向けてクリスが飛び出し、着地と同時にドリフトカーブ。

 

遅れてやちよもトンネルから飛び出し、地を這う程の低姿勢からのコーナーリングを行う。

 

「峠までついてこれたか。いいぜ…俺も熱くなってきた!!」

 

「アタシとダーリンのダンスコンビに勝てると思うんじゃないわよ!!」

 

「私達も乗ってるんだけど…」

 

「オイラ達は荷物扱いかニャ…」

 

「乗ってるからスピード出ないのよ!!放り出すわよ!!」

 

「「それだけは勘弁ニャ―ッ!!」」

 

バックミラーから後方に景色がスライドし、クリスを猛追するやちよの顔も熱くなっている。

 

「家族とみふゆと鶴乃が私に与えてくれたバイク乗りの人生…この時の為にあった気分よ」

 

――今夜はとことん、走り抜いてやるわ!!

 

 

二台の赤いテールランプが夜の世界を切り裂いていく。

 

木々が次々と後方に流れていく世界を駆け抜ける悪魔と魔法少女。

 

鳴り響くユーロビートが互いの走りを熱くする。

 

山道の橋のコーナーリングを猛スピードで曲がりながら渡り抜く。

 

迫るカーブに対し、前の車も後ろのバイクもタイヤから白煙を撒き散らしながら曲がり切る。

 

「これが神浜魔法少女社会の西の長か…みくびっていたな」

 

「澄ました顔してるくせに、中身はイノシシ娘のような熱血漢だったニャ」

 

「ギャップ萌えでも狙ってるのかしら?」

 

「知るか!それよりダーリン、このまま峠を終わらせるのは勿体ないわ」

 

「そうだな。道を走り切るよりも先に…荒っぽくいかせてもらおうか」

 

二車線の横側にまで走り出たやちよと窓を開けた人修羅の顔が向き合う。

 

「こんな時に車内音楽を鳴り響かせるだなんて!音がうるさいわよ!!」

 

「俺の趣味の音楽じゃないが!こういうバトルの時はユーロビートなんだろ!!」

 

「アニメの見過ぎよ!!」

 

ハンドルを切り、クリスの車体で体当たりを仕掛けてくる。

 

やちよはブレーキレバーを引き、後方に下がって回避する。

 

足で素早くギア操作を行いながら離された距離を猛追していく。

 

峠の側面に張り巡らされたガードレールの下は切り立った崖。

 

隣は急傾斜地崩落危険区域等に設置された網目状コンクリートブロックが並び立つ。

 

「神浜行政の土木局には申し訳ないが、派手にやらせてもらう」

 

「人間を巻き込んで殺してなきゃノーカンよ!!」

 

クリスの車体から『放電』現象が起きていく。

 

放電の一撃が次々とコンクリートブロックを襲い、ブロック壁を砕いていく。

 

「派手にやってくれたわね!?」

 

蛇行運転を繰り返しながら大きな岩が散乱する道路を強引に突き進む。

 

「デカいのもいっとくわよ!!」

 

大きなカーブに曲がる前に放たれたのは『ジオンガ』の一撃。

 

轟雷の一撃によってブロック壁が大きく破壊され、地滑りが起きて道を塞いでしまう。

 

「くぅ!!!」

 

前方はガードレールであり、その下は崖なのは言うまでもない。

 

道が塞がれたのをサイドミラーで確認する彼は不敵な笑みを浮かべながら別れの言葉を送る。

 

「楽しかったぜ。だが、ここまでだな」

 

「尚紀、神浜行政に壊した道の修理代を寄付の形でちゃんと払いなさいよ」

 

「分かってるって…」

 

ネコマタに釘を刺されながらもレースを制したと思っていたらケットシーが叫んでくる。

 

「待つニャーッ!!崖の空を見るニャーッッ!?」

 

ケットシーの叫びを聞かされた者達が山道を曲がりながら横の崖に視線を向ける。

 

「な、なんだとぉ!!?」

 

そこに広がっていた光景とは、空を走るバイクとしか表現出来ない。

 

「バイクの足場を…無数の槍を横倒しにしながら生み出したですって!?」

 

あの一瞬、やちよは槍の投擲でガードレールを破壊した後、魔力を絞り出す。

 

空に描いたのはまるで虹のアーチのような槍の道。

 

前輪を持ち上げてウイリーしながら崖の世界にやちよは飛び出す。

 

槍の柄を走るバイクの振動に耐えながらクリスよりも先の山道に飛び出す。

 

「前を取られたニャーッッ!!?」

 

逆走して逃げようにも後ろの道はクリスが塞いでいる。

 

サイドミラーで後方の獲物の位置を確認したやちよは不敵な笑みを返してくる。

 

「もらったわ!!」

 

周囲に魔法陣を生み出し、槍が次々とクリスに目掛けて後方射出されていく。

 

「身を屈めろ!!!」

 

「ニャーッッ!?とんでもないイノシシ女とドライブしてたのねーっ!!」

 

「途中下車を希望するニャ―!!」

 

蛇行運転を繰り返すがフロントガラスを槍が貫き、リアガラスも砕いていく。

 

「くっ!!」

 

「「ギャァァァーーーーッッ!!?」」

 

サイドミラーも砕かれ、スピードが落ちていく。

 

割れたフロントガラスを肘で砕き、視界を確保しながら走行するが、クリスは激怒している。

 

「アタシの肌を傷つけやがって!!ケツにキスして崖から突き落としてやるわ!!」

 

逆上したクリスはペダル操作を無視しながらアクセル全開で突撃してしまう。

 

「お、おい!?」

 

バイクを後方から突き上げようとするが、七海やちよに迂闊に近寄れば無事では済まない。

 

「あら?わざわざ近づいてくれたのね」

 

左手に生み出した槍は石突きに近い下側の位置で握られている。

 

彼女は身を捩じりながら後方に目掛けて槍を振り抜く。

 

「伏せろ!!」

 

人修羅が叫び、全員が身を低めた頃には槍の斬撃がクリスのルーフ屋根を切り裂いている。

 

「「しょえーーーッッ!!?」」

 

斬り離された屋根が後ろの道に転がっていく。

 

仰天した猫悪魔達は小さな猫姿に戻ってしまい、後部座席の下側に逃げ込む。

 

「すいませんニャ!!まな板娘だなんて言って魔法少女様を怒らせたのはネコマタですニャ!」

 

「シャーッッ!!私に罪を着せようだなんていい度胸してるわね!このスカタン猫!!」

 

後部座席の下側で喧嘩を始める猫達であるが、クリスは減速してしまう。

 

そのままカーブを曲がりきるが、怯んだクリスはスピードが上がっていかない。

 

「勝手な事するんじゃねぇ!俺に身を委ねるんじゃなかったのか!!」

 

「だ、だってダーリン……って!?横見て!!」

 

ハンドル操作を宙に浮かべる槍で固定させたまま武器を構えるやちよが横側に張り付いている。

 

「ここで終わらせる!!」

 

「鉄馬に跨ったヴァルキリー気取りか?受けて立つ!!」

 

次のカーブまで一直線の道を走る二台を操る者達が繰り広げるのは馬上試合。

 

連続突きに対し、左手で捌きながら右手でハンドル操作を行う。

 

猛スピードで走り続ける最中での戦いであるが互いに一歩も譲らない。

 

「はぁ!!」

 

頭部を狙う刺突に対し、首を引いて避けると同時に槍の柄を掴む。

 

バイクごと引き倒そうとしたが、槍から手を離したやちよは再びアクセル操作で前に出る。

 

左手に持った槍を投げ捨てる人修羅は追撃するように前に出る。

 

次のカーブもガードレールの向こう側は崖エリアであろう。

 

「今度は私がお返しをする番ね!!」

 

「なんだと!?」

 

横に視線を向ければ垂直コンクリートブロックに展開された魔法陣から巨大槍が飛び出す。

 

「くぅ!!」

 

車体の体当たりで壁となった槍を砕き、無理やり前に進み出た事で窮地に陥ってしまう。

 

「不味い!!?」

 

コーナーは目前であり、ハンドル操作が一瞬遅れる。

 

カーブを曲がり切れず、車体がガードレールにぶつかりながら火花を飛ばす。

 

「くそぉぉーーーッッ!!」

 

車体を制御しきれず、クリスの片輪が崖に脱輪していき、崩れるように崖から落ちてしまう。

 

「あの程度では死なないかもしれない…何処かで止まって下に向かわないと…」

 

勝負は白兵戦に持ち込まれると考えながらバイクを運転していたが、まだ終わりじゃない。

 

「こ、このエンジン音は!?」

 

崖の下から唸り声を上げるエンジン音が響いてくる。

 

「まだだぁーーーッッ!!」

 

崖下に広がっていた光景とは放電した四輪がコンクリート壁に張り付きながらの走行である。

 

クリスは落下したのではなく、車体を横倒しにした状態で斜め上の空を目指して駆け上るのだ。

 

やちよの手前の空に目掛けて飛び出したクリスが再びバトルを挑んでくる。

 

「「ニャーーッッ!!」」

 

悪魔姿に戻っているネコマタとケットシーは体重をかけながら車体を押す。

 

車体を水平に戻せたクリスが道に着地しながらやちよの前を走行してくる。

 

「どこまでも楽しませてくれる!!それでこそ、神浜魔法少女社会の長だ!!」

 

「悪魔に褒められても嬉しくないわ!!」

 

やちよを挑発する人修羅を見つめる猫悪魔達は白い眼差しを向けてくる。

 

「私…この2人のドライブにだけは…金輪際連れていかれたくないわ…」

 

「そういえば尚紀が昔…魔法少女姉妹を連れてナイトドライブに行った事があるって…」

 

「あぁ…このは達でしょ。私…あの子達の苦しみが分かったわ…」

 

「ミートゥー…」

 

冷ややかな目線でムキになった人修羅を見つめながらも峠の道は終点が近い。

 

互いが猛スピードで走る直線道路に差し掛かった時、人修羅が勝負を仕掛けてくる。

 

「ダーリン、最後よ!アタシの体を思い切りぶつけてやりな!!」

 

「西の長の派手なサーカスジャンプを堪能してみるか!」

 

サイドブレーキを引いてハンドル操作すると横滑りする一回転のドリフトをしながら停車する。

 

車の側面を壁として使い、バイクの壁として迎え撃つ。

 

「あの女…まさか!?」

 

鈍化した世界。

 

彼女は体当たりを読んでおり、バイクから立ち上がった彼女は後方の空に跳躍する。

 

(…バイク乗りとして生きる人生を共に生きられた…私の大切なバイク…)

 

鈍化した思考の中で描かれるのは、自分の頑張りに報いてくれた家族達の笑顔。

 

欲しかったバイクを買ってくれた日の喜び、自然を全身で感じながら走る喜び。

 

親友達と趣味を通じてツーリングが出来た喜びが走馬灯になるが、槍を持つ手に力が籠る。

 

「…ごめんなさい!!」

 

彼女は迷いなく槍を投擲。

 

「車から飛び出ろーーッッ!!」

 

「「えぇーーーーっ!?」」

 

バイクのフロントがクリスの側面にぶつかると同時に燃料タンクに槍が突き刺さる。

 

「「ギニャーーーーッッ!!?」」

 

後部座席から飛び出した猫悪魔達の背後で盛大な爆発が起こる。

 

クリスの車体がひっくり返り、炎上しながら俯けに倒れ込んでしまう。

 

着地した彼女はやりきれない表情を浮かべながらも炎上する悪魔の車を見つめている。

 

「…それでも、バイクは生活道具でしかない。魔法少女達の方が…私にとっては大切だから」

 

レースバトルを制し立っていたのは西の長である七海やちよ。

 

それでもレース勝負に勝利しただけに過ぎないのは彼女も分かっているだろう。

 

「出てきなさいよ。貴方の魔力は感じているわ」

 

爆発して炎上する車体を片手で持ち上げた後、人修羅は這って出てくる。

 

「…認めてやる。最後まで走り切り、立っていた勝者はお前だってな…」

 

「それでも、これはレースバトルの勝敗でしかない。本戦はここからよ」

 

「…違いねぇ」

 

炎上するクリスに照らされる人修羅が立ち上がり、構えてくるのは中国拳法。

 

やちよも右手に槍を生み出した後、左右に回転させながら構えてくる。

 

爆発から逃れた猫悪魔達は茂みに隠れ、事の成り行きを見守る事しか出来ない。

 

西の長である魔法少女と神浜の魔法少女を虐殺した者。

 

ついに対決を迎える時がくるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

睨み合う両雄であったが、先に口を開いたのはやちよである。

 

「なぜ…テロに参加した魔法少女達を殺したの?」

 

「人間社会の無念など、人間の似非守護者共には分かるまい」

 

「私は裁判を行い、魔法少女達を裁いたわ。部外者の悪魔が関与していいわけ?」

 

「身内だけで行う勝手な裁判…人間社会の都合の悪い声など、お前達は踏み躙る」

 

ななかと同じ言葉を浴びせられた事でやちよは唇を噛み締めていく。

 

「なら、何処に隠れていたのかも分からない悪魔という存在は…人間の肩を持つ連中なの?」

 

「悪魔の生き方は自由だ。そして俺が選ぶのは人間の守護者としての生き方だ」

 

「変わった悪魔ね…悪魔のイメージとはかけ離れているわ」

 

「人間を襲う悪魔も大勢いる。魔法少女と同じようなもんさ」

 

「…貴方は仇討ちを行ったわけ?私達が行った裁判が気に食わないから…」

 

「司法は被害者達の為にあるべきだ。長という行政側が悪用していいものではない」

 

「まるで…常盤さんの言葉ね…」

 

「俺とななか達とは通じている」

 

「なんですって!?」

 

「俺はななかを神浜魔法少女社会の長にしたい。そのための道を切り開く必要がある」

 

「…西の長の私を始末して、常盤さんを長にする。それが常盤さんと貴方の目的というわけ?」

 

「俺達が望むのは魔法少女社会に対しての社会主義革命だ」

 

「……貴方はチェ・ゲバラを気取りたいというの?」

 

チェ・ゲバラとはアルゼンチン生まれの政治家であり、伝説の革命家。

 

キューバ革命をカストロと共に導き、キューバ革命を成功させた歴史人物であろう。

 

しかし彼はキューバ革命で手に入れた権力を全て捨て、救いを求める地に向かい命を落とす。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()人生を選ばなかった、本物の社会主義英雄だ。

 

「…何にでもなってやるさ。魔法少女に踏み躙られる声なき声…弱き人間達のためならな」

 

「私達魔法少女は魔獣と戦う正義の味方よ!!人間達を守っているわ!!」

 

「正義を名乗らなくともお前達は魔獣と戦うしかない。ただの生存闘争を身勝手に紐づけるな」

 

「魔法少女の数が多ければ…それだけ人々を守れる力になるじゃない!!」

 

「魔法少女は多くとも自由を拘束する仕組みが完全でない限り…連中は自由意志で狂犬になる」

 

「私達魔法少女の自由意志を奪えというの!?それこそ独裁よ!!」

 

それを聞いた彼は構えを解き、冷めた眼差しをやちよに向けてくる。

 

「…お前よぉ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その言葉を聞いたやちよは戸惑いの表情を浮かべてしまう。

 

「わ…私の優しさは……」

 

彼女の脳裏に巡るのは大切な親友であった魔法少女達の遺言の数々であろう。

 

雪野かなえは自分を含めた魔法少女達の未来をやちよに託す遺言を残して死んだ魔法少女。

 

安名メルは西の長を守れた事を誇りとして死んだ魔法少女。

 

彼女達の願いを背負い、魔法少女達を導こうと足掻き続けた者を守った事は誇りであろう。

 

七海やちよは魔法少女達の願いを背負って戦い続けた記憶が巡っていく。

 

思い浮かぶ言葉の光景は全て魔法少女達が描くもの。

 

そこには魔法少女の世界とは関係無い人間達の姿など、何処にも見当たらないのだ。

 

「私の優しさは……魔法少女達のためにあるわ」

 

その言葉を聞かされた人修羅は眉間にシワが寄り切った顔つきになってしまう。

 

「…チェ・ゲバラの言葉の中にはこんな内容がある」

 

『一生懸命に成長しなければならないが、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「お前の優しさは…魔法少女だけにしか与えてはくれなかった」

 

義憤の感情と共に再び拳法の構えを行う。

 

「俺は貴様ら仲良し魔法少女の敵となろう。たとえ貴様らの輪を乱す破壊者と罵られようとも」

 

『友達がいないのは悲しいことだ。しかし()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「やはり貴方は…私達魔法少女の敵よ!!」

 

美しい顔を憤怒に歪め、悪魔の心臓を串刺しにせんと槍を向けてくる。

 

「…今頃思い出した。お前、コンビニの女性雑誌の表紙でよく見かけるモデルだろ?」

 

「…それがどうしたのよ?」

 

「一流モデルとして身だしなみを整えるくせに…」

 

『人は毎日髪を整えるが、()()()()()()()()()()()()()

 

「どうして心を整えなかった?」

 

「私を侮辱する気!?私の心は常に…魔法少女たちの心を思いやってきたわ!!」

 

「どうしてお前達は人間を蔑ろにする!?それがお前達の()()な治世なのか!?」

 

「そうよ!それがマキャベリズム…長として学ばなければならなかった…君主論よ!」

 

『世界の何処かで誰かが被っている()()を心の底から深く悲しむ事の出来る人間になりなさい』

 

『それこそが革命家としての、一番美しい資質なのだから』

 

「それが…貴様らの掲げる正義か?」

 

「私の掲げる正義…それは魔法少女達を環の輪にすること!!誰一人として見捨てない!」

 

「人間ならば見捨てていいと言うか!!」

 

「そ、それは……だって仕方ないじゃない!!全てを救える治世など不可能よ!!」

 

「仕方ないで済まされる哀れな人間達のために…俺は牙無き民の牙となろう」

 

『十字架にはりつけになるよりも、わたしは手に入るすべての武器で戦う』

 

『1人の人間の命は、地球上で一番豊かな人間の全財産よりも百万倍価値がある』

 

『あらゆる不正に対して怒りに震えるならば、あなたはわたしの同志だ』

 

2人の価値観は決裂し、互いに詰め寄っていく。

 

「いくぞ…環の思想を掲げた魔法少女。俺が貴様の正義を…完全否定する!!」

 

「その言葉…私が貴方に突き返す!!」

 

互いが死を懸けてまで守ろうとする相反する人々がいる。

 

『目的の為には死をも厭わないと思えた時、わたし達は生きがいを確信する事ができる』

 

この世界に現れた悪魔が触れ合ったのは人間を守り抜いた魔法少女と社会を救いたかった牧師。

 

その人々と触れ合い、愛する事で人修羅と呼ばれた悪魔を赤き思想の道に進ませる。

 

『世界があなたを変えれば、()()()()()()()()()()()()

 

人修羅とはミロク経典に記されし世界に変革をもたらす者の名。

 

彼は小さな世界ともいえるだろう魔法少女社会を変えようとする者でもある。

 

これはそのための道であり、愛した人達の願いを継ぐための道なのだ。

 

「「ハァァーーーッッ!!!」」

 

両雄が今、風となる。

 

『バカらしいと思うかもしれないが、真の革命家は()()()()()()()()()()()()()

 

『愛の無い真の革命家を想像することは、不可能だ』

 

 

地面を踏み砕き、突進してくる槍の一撃が迫りくる。

 

槍の矛先が悪魔の心臓に触れるよりも先に体を回転させながら跳躍を行う。

 

矛先が通り抜け、回避と同時に放たれた旋風脚が決まってしまう。

 

「くっ!!」

 

左側頭部を蹴り飛ばされて倒れ込むが、立ち上がったやちよは果敢にも攻め続ける。

 

連続して迫る矛先に対し、悪魔は左右に体をずらしながら回避行動をとる。

 

回避と同時に両手で槍を掴むが、やちよは身を一回転させる捻り込みを行う。

 

回転の勢いで体を引き込まれた悪魔だが、柄から手を離して跳躍する。

 

体を横倒しに回転させるコークスクリュー回避を用いて着地し、向かい合って構える。

 

「ハァァーーーッッ!!」

 

尚も苛烈な連続突きが襲い掛かる。

 

心臓・脇腹・頭部と次々と繰り出す急所突きに対し、後ろに下がりながら体の軸をずらす。

 

首を下げ、歩法を刻みながら避け続けていく。

 

太ももの動脈を狙う下段突きを斧刃脚で蹴り飛ばし、後続の突きの回避と同時に蹴りを放つ。

 

後ろ回し蹴りが迫るが柄の引きが早かった彼女は首を後ろに引き、蹴り足が空を切る。

 

「やるわね…!これ程の相手だとしたら…私のために貴方と戦ったみふゆ達は…」

 

「殺してはいない。連中は次の魔法少女社会に必要な人材だ」

 

「そう……なら、次の魔法少女社会の邪魔となるのは古い体制を守り続ける長なのかしら?」

 

「それを決めるのはお前だ。ななかに長を譲るなら良し…だが、今までの治世を貫くなら…」

 

「私は自分の掲げた正義を取り下げる気はない!!」

 

七海やちよはかなえから魔法少女達の未来を託された魔法少女。

 

今までの治世を貫いた者を守りきったのは誇りなのだと言葉を残したメルは亡くなっている。

 

「だからこそ…私は今までの社会治世を否定なんてしない…()()()()()()!!」

 

「それは…お前がその魔法少女達を心の底から愛しているからか?」

 

「私はこの愛のためなら…たとえ人間に犠牲を強いる判断を下しても…責任を背負うわ!」

 

()()()()という心理バイアスがある。

 

最初の行動が環境変化などによって合理性を失っているにもかかわらず、そのまま堅持する。

 

最初の決断を正当化しようとしたりして、疑問を抱きつつも深みにはまってしまう心理状態。

 

合理的な交渉を妨げる心理バイアスの一つであろう。

 

「よく言った…ならば、お前は次の魔法少女社会には必要ない。ここでケリをつける!!」

 

悪魔が踏み込み、やちよはカウンターの突きを狙う。

 

身を翻す歩法を使い、両腕を回転させながらの前方回り込みで矛先を避け、柄を左手で掴む。

 

側面から迫る悪魔の右裏拳を避けるが、右足の蹴りが決まってしまう。

 

「ぐぅ!!」

 

蹴り飛ばされたやちよは倒れるよりも先に両手を地面につけながら後方回転する。

 

手を離した槍を用いた追い突きが頭部を掠めるが、距離を離して槍を生み出す。

 

悪魔はやちよの槍を右手に持ち、矛先を地面に寝かせていたが右足で拾い蹴りをする。

 

槍が回転する勢いを利用しながら演舞を行い、大上段の構えをしながら槍同士の勝負を挑む。

 

「思いを貫けるのは…どちらかな?」

 

「いいわ…受けて立ちましょう」

 

先にやちよが仕掛けるが、槍の柄を巧みに使いながら刺突を捌き続ける。

 

柄で弾くと同時に前に踏み込みながら回転し、首裏で柄を回転させる横薙ぎを放つ。

 

彼女も前に低く踏み込み、体を回転させながら横薙ぎを避ける。

 

「「セイッ!!」」

 

向かい合う両者の突きが同時に顔面を狙うが、互いに避ける形で静止する。

 

「甘いわ!!」

 

矛先の側面に備わった刃を返し、人修羅の顔を狙う横薙ぎを放つ。

 

「チッ!!」

 

その場で側方宙返りを行って回避し、回転の勢いから続く連続横薙ぎをバク宙で避ける。

 

「ヤァーーーッッ!!」

 

渾身の突きが迫る中、人修羅は柄を上から打ち付ける形で槍を弾くが矛先は止まらない。

 

打ち付ける反動を使って大きく前方宙返りを行って矛先を避け、着地と同時に両足で柄を拘束。

 

「ああっ!!」

 

側頭部を連続で打ちつけられるが、男の急所を狙い打つかのように槍を振り上げる反撃を行う。

 

大きく飛び上がりながら背後に回り込む前方宙返りで一撃を避けた悪魔が仕掛けてくる。

 

回り込みながら放つ背中打ちが決まったやちよは体勢を大きく崩してしまうだろう。

 

「ぐっ!!」

 

彼女の魔法少女衣装は胸部当てのような鎧を身に纏っていたため斬撃を防いでくれている。

 

向かい合う両者であるがやちよの息は切れており、それでも必死の形相で叫んでくる。

 

「私は負けられない…負けられないの!だって…長としての使命まで果たせないなら…私は…」

 

仲間達を失い生きる理由を考えた時、いつも耳の奥に聞こえるのは仲間達の遺言の数々。

 

大事な仲間達の思いを背負い込むからこそ、やちよは奮い立ってきた魔法少女なのだろう。

 

「リーダーで居続ける為に生き残りたいと願った私は…リーダーで居続ける為に生かされる…」

 

「……何が言いたい?」

 

「私は…周りを犠牲にしてでも生かされ続ける。なら、私の願いで生まれた固有魔法とは…」

 

――()()()()()()()()()()()()()

 

彼女が不安に怯える自分の固有魔法の事を聞かされるが、彼は沈黙している。

 

「私は…それを否定したい。そのために皆が生き残れる…環の思想を望んだのよ」

 

「自分の固有魔法で誰かを犠牲にするのが耐えられない…そのための環か…」

 

「それさえ無くなったら…私は…皆を私のせいで…死なせていくだけの存在でしかない!!」

 

大切な魔法少女達をもう自分のせいで死なせたくない、それが彼女の切実な気持ち。

 

そのために彼女は仲間であった梓みふゆと十咎ももこと由比鶴乃でさえ遠ざけた女なのだ。

 

だが聞かされた悪魔の眉間にはシワが寄り切り、憤怒の表情を浮かべながらこう告げてくる。

 

「何処までも自分本位か。たとえ環の輪を築けたとしても…()()()()()()()()()()()()()()

 

「なんですって…?」

 

「俺が語った言葉を思い出せ。貴様ら魔法少女は()()()()()()()()()()

 

「そ…それは…その……」

 

「貴様の治世によって…誰の生活が犠牲となってきたんだ…あぁ!!?」

 

憤怒の怒声によって彼女の体が震え抜く。

 

「ち…違う…私…そんなつもりじゃ……」

 

彼女がリーダーとして生かされ、魔法少女社会を治世してきた道の果てには何があった?

 

それは人間達の生活が奪われ、泣き叫び、慟哭の言葉さえ届けない裁判を執行した道である。

 

「お前にとっては、人間など犠牲にすら数えられないか!?そこまで人間が嫌いなのかぁ!!」

 

「違う…違うの…お願い聞いて!!」

 

「魔法少女、魔法少女…どいつもこいつも自分達…()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「違う!!私達は…正義を守ろうとして…環の輪になろうと…」

 

彼が叩きつけてくる人間社会の怒りを全身で浴び続けるやちよは涙目になってしまう。

 

憤怒の表情を浮かべていた人修羅が冷ややかな目となり、こう質問してくるようだ。

 

「もう一度だけ聞く…その優しさは誰のためのものだ?誰のために…命がけで戦ってきた?」

 

「私の優しさは…誰のために?誰のために…命を懸けて…」

 

「待っててやるから深く記憶を探れ。お前の魔法少女としての()()()()()()()

 

言われた通り目を瞑りながら記憶の世界を辿っていく。

 

「あっ……?」

 

すると浮かんできた光景はみふゆと共に生きた小さい頃の記憶。

 

七海やちよが魔法少女として生きた最初の光景こそ、小学生時代にあった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

あれは小学生時代の雨が降りしきる日に起きた出来事である。

 

「う……うぅ……」

 

「…っ…うぅ……」

 

ずぶ濡れのまま地面に倒れ込んでいるのは傷だらけのやちよとみふゆであろう。

 

「どうして…魔法少女が、人間を襲うの…?」

 

「ヒッ……うぅ……」

 

茫然とした顔で空を仰ぎ見るやちよの疑問に対し、泣きじゃくるみふゆは答えない。

 

その答えを与えに来てくれたのは契約の天使であるインキュベーターなのだ。

 

「魔法少女同士で争ったのかい?」

 

「キュウ…ベぇ…?」

 

茫然とした表情をやちよは向けてくる。

 

やちよとみふゆは東の魔法少女が西の女子学生を襲うところを目撃して止めようとする。

 

しかし魔法少女に成りたての彼女達では歯が立たなかったようだ。

 

彼女達を傷つけた東の魔法少女は忌々しい表情をしながら去ってしまう。

 

「同じ魔法少女なのに…どうして…争い合うの…?」

 

彼女達が信じてきた変身ヒロイン像とは愛と正義の世界観。

 

正義の変身ヒロイン達は手を取り合い、社会を脅かす悪者を協力してやっつける成長物語。

 

しかし現実はかくも残酷であろう。

 

「魔法少女は自由意志を持つ存在。彼女達が置かれた社会境遇次第では…人間に恨みを持つ」

 

「それじゃあ…あの魔法少女は…西の子に恨みを晴らすために…襲ったの…?」

 

「奇跡を願い、魔法の力を手に入れた魔法少女だけど…力をどう扱うかまでは強制出来ない」

 

「魔獣と戦うだけじゃ…ダメなの…?」

 

「殺し合いの世界に来た君たちも辛い立場だ。せっかく手に入れた力なら悪用したくもなるさ」

 

残酷な現実を淡々と語るだけの契約の天使。

 

この存在は人類を有史以前から見つめてきただけに人の本性を誰よりも知っているようだ。

 

「グリーフキューブがいくらあっても…強くなっても…痛みも恐怖も消えないの…」

 

「……………」

 

「魔獣と戦って…魔法少女同士で争って…死と隣り合わせで…心もすり減ってるのに…」

 

――叶えた願いにも意味がなくなって…魔法少女として生きる意味もなくなったの…。

 

泣きじゃくっていたみふゆが重い口を開きながら哀願してくる。

 

「もう…こんな現実、イヤなんです…お願いです…キュウベぇ…」

 

2人は口を揃えて慟哭の言葉を語ってしまう。

 

「「魔法少女を辞めさせて…」」

 

彼女達の悲痛な言葉を聞いても契約の天使は表情一つ変えずに残酷な言葉を言い放つ。

 

「それは無理なお願いだね」

 

突き放す言葉を伝えられたみふゆの目から涙が零れていく。

 

「じゃあ…いつか魔獣に殺されるまで…ずっと生き続けろっていうの…!?」

 

魔法少女社会の理不尽に心が濁り続ける2人であったが、別人の呻き声に顔を向けていく。

 

「う……うぅ……」

 

キュウベぇとは違う方角に視線を向ければ倒れている西の女子学生が起き上がってくれる。

 

彼女が無事に家路につく後ろ姿だけを見つめていたやちよの表情が少しだけ軽くなる。

 

同じように見届けてくれたみふゆの口が自然と動く。

 

「ねぇ…やっちゃん…魔法少女だったから、守れた人が…ここにいるじゃないですか」

 

その言葉が聞けただけで残酷な世界に入ってきた心が救われていく。

 

やちよの目にもついには涙が零れてしまう。

 

「死ぬ覚悟が出来ないまま逝ってしまう子だっているのに…私達はまだ生きてます」

 

震えながら泣いていく彼女のために泣き腫らした表情のまま優しい言葉をかけてくれる。

 

「生きて、大切なものを守って…残せているんですよ…」

 

「うん…そうみたい…」

 

励まされたやちよは涙を袖で拭いた後、みふゆに顔を向けてくれる。

 

「また、みふゆに助けられちゃったね…」

 

魔法少女として生きると決めても、明日にでも死んでしまう恐怖に怯えるやちよ。

 

そんな彼女だからこそ、残したいものがあったようだ。

 

「せめて私達の想いだけでも、残せたらいいのに…」

 

「想いを…残す……」

 

その言葉の答えを祖母に求めるようにして、彼女達は立ち上がるのであった。

 

「……思い出せたか?」

 

魔法少女として生きた原点を思い出せたやちよの両膝が崩れ落ちる。

 

「私…わたし……」

 

魔法少女なんて辞めたいと苦しんだ彼女が、それでも生きられた最初の目標がある。

 

それは明日をも知れない魔法少女でも誰かを守れる力になれる。

 

それだけを信じて彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いつからなの…?いつから私は…自分の最初の気持ちを…忘れてしまってたの…?」

 

――被害者達の回復は、被害者達自身で乗り越えるべきよ。

 

――司法は行政の役に立てばそれでいい…この裁判も皆に示しをつけるためのものだわ。

 

「言えるはずがない…小学生時代の私なら…守るべき人間のためにも…言えるはずがない…」

 

「最初の目標を……やっと思い出せたか?」

 

「私は…魔法少女社会の長としての責任ばかりを考えて…最初の目標を…見失ってた!!」

 

地面に蹲りながら彼女は泣き出してしまう。

 

「ごめんなさい…ごめんなさいぃぃ…ヒック…ごめんなさいぃぃぃ……ッッ!!!」

 

泣きじゃくる彼女の姿はまるで雨に打たれて泣き続けた小学生時代の姿を彷彿とさせる。

 

戦意を喪失したのか、人修羅が持っていた槍の形も消えてしまう。

 

「お前が最初の気持ちに気づき、やり直したいというのなら…新しい魔法少女社会で活かせ」

 

彼の声も届かないほど泣き続けるやちよであるが、彼は違う存在に視線を向ける。

 

「……これで良かったと思うか?」

 

彼が視線を向ける先は蹲るやちよの背後空間である。

 

肉体を持ちながらも霊質も併せ持つ悪魔だからこそ円環のコトワリに導かれた者の姿も見える。

 

思念体のように光っているのは2人の魔法少女達であろう。

 

美しい金髪の長髪を靡かせ、黒のパンクファッションに身を包む人物がいる。

 

緑髪をポニーテールにし、占い師が使うタロットカードを持つ人物もいるようだ。

 

<……うん、これでいい>

 

<悲しいけど…ボク達、間違っていたんですね…>

 

肉体を持たず、空気を振動させる言葉が喋れない思念体の言葉はやちよには聞こえない。

 

<えっと…ボク達の姿も声も、悪魔だから分かるんですよね?>

 

<ああ、見えてるし聞こえている。お前達は誰だ?>

 

<あたしは雪野かなえ。生きてた頃は…やちよとチームを組んでた>

 

<ボクは安名メルです。かなえさんが死んで随分たった頃、七海先輩達と組んでました>

 

<円環のコトワリの使者として現世に来たのか?>

 

<いや…違う。やちよが導かれるのは…まだ先…>

 

<ボク達は…円環のコトワリの中核を担うまどかさんを剥ぎ取られたアラディアに仕えてます>

 

<アラディアに仕えているのか?あの無機質な女神が…よく外出許可を出したもんだ>

 

<え、えっと…その…ボク達、七海先輩が心配で…その…勝手に飛び出してきて…>

 

<……()()かも>

 

<ええっ!?そ、それは困るかも…もう外出出来なくなりますよ~…!>

 

(よく分からない単語を並べてくるが…群体神のアラディアの中身など想像したくもないな…)

 

<今のボク達は悪魔と変わらない概念存在。だから七海先輩には…何もしてあげられない…>

 

<本当なら…アナタの代わりに、あたしが今の神浜魔法少女社会を怒るべきだった…ごめん>

 

<気にするな。それよりも…下のそいつに何か言いたくはないのか?>

 

泣き続けるやちよの為に片膝をついたかなえとメルは彼女の両肩を優しく触れてくれる。

 

しかし彼女達の手はやちよの体をすり抜けてしまう。

 

「ごめんなさい…かなえ…メル…私…魔法少女の長として…失格だった!!」

 

悲痛な叫び声で自分達の名を叫ぶ彼女を見つめる2人もやりきれない表情を浮かべてしまう。

 

<七海先輩…ボクが貴方を守れてよかったのは…もしかしたら今日のラッキーデイのためかも>

 

<どういう意味だよ?>

 

<生きてた頃のボクはこんな言葉を残しました>

 

メルが魔法少女達に残した言葉の内容は以下の通りだ。

 

近い未来の結果、神浜に異変が起きる時、何か大きな変化が起きるかもしれない。

 

だけど、そこにはいくつもの点が集まり、柔らかな円を描いていく。

 

多分これは人の円、ボク達魔法少女が紡ぐ円。

 

この時はきっと今よりも危険だけど、一緒に優しさも満ちている。

 

そのきっかけを作る星がひとつ、()()()()()()()()()()()()()()

 

そして、やちよさんの近くに落ちている。

 

この人が原因なのかは分からないけど、今から会うのが楽しみ。

 

やちよさんの近くに落ちてるってことは、ボクもきっと会うと思うから。

 

<このきっかけを作る星とは…もしかしたら、()()()なのかもしれません>

 

<俺をルシファー扱いするなよ>

 

<人修羅…それがアナタを表す悪魔の名。だとしたら…メルが言ってた星を司る人とは…>

 

()()()()()である…あなたの事だったのかもしれないですね>

 

<俺は魔法少女達だけの環の輪とやらを、ぶった切るつもりで動いているんだが?>

 

<それでいい。間違いに気が付きもせず輪を作ったとしても…歪に歪んでいくだけ…>

 

<あなたには七海先輩が間違ってしまった環の輪とは()()()()()を作って欲しいです>

 

<いいのか?俺が目指す社会の有りようとは…社会全体主義だぞ?>

 

<社会学に正解はないって聞いた…やってみないと分からない…>

 

<アラディアの一部のくせに、先が見えないのか?>

 

<あたし…あの無機質なアラディアとコネクトするの…嫌だ>

 

<ボクもです…まどかさんが円環のコトワリだった頃なら喜んでやってましたよ>

 

<…それもそうかもな>

 

3人が溜息をついた時、何かの視線を感じてしまう。

 

「お…おい…あの妙ちくりんなインキュベーターは何だ…?」

 

人修羅が視線を向けた先には全身ピンク色のキュウベぇが佇んでいる。

 

<あーっ!?アラディアに見つかったですよーっ!!>

 

<不味い…緊急避難!!それじゃあ…やちよ達をよろしく>

 

思念体達は消え去る中、人修羅はピンク色のキュウベぇに近寄ってみる。

 

「……おい」

 

「……………」

 

「何か言えよ」

 

「……………」

 

(こいつ…何も喋らないぞ?)

 

人修羅の存在など無視するようにしてピンク色のキュウベぇは走り去ってしまう。

 

泣き続けるやちよに視線を向けたが、伝えるべきことは全て伝え終えている。

 

踵を返した彼はひっくり返っているクリスの元に向かう。

 

「ゲホッゲホッ!!あのアバズレェェ…やりやがったなぁ!!」

 

炎上した車体を回復魔法で鎮火させたようだが、それでも全身黒焦げでありボロボロだ。

 

「ダーリン起こして!回復したらあの女を市中引き回しの刑にしてやるんだから!!」

 

「もういい。あの女は戦意を喪失したんだ」

 

「アタシの戦意はフルボルテージなままよ!!」

 

喚き散らすクリスを無視しながら持ち上げてひっくり返す。

 

タイヤが地面についたら後ろ側に回り、両手でクリスを押していく。

 

「ニャ―ッ!!ド迫力のバトルの次は円環思念体トークイベントがくるとはニャ―ッ!」

 

「まったく…一時はどうなる事かと思ったわよ」

 

茂みに隠れていた猫悪魔達も横につき、悪魔達は遠くに見える神浜の明かりを目指す。

 

爆発で散乱したやちよの愛車と心がボロボロになったやちよは取り残される。

 

今の彼女にかけてやれる言葉など、誰も持ち合わせてはいないのだ。

 

「あの女が望んだ環の輪とは違う形の輪を作ってくれ……か」

 

「あの思念体達から何を言われたの?」

 

「頼まれごとをされたんだ」

 

「それを聞いた上で叶えてあげるつもりなわけ?」

 

「…俺が求めるのは人間社会を優先する治世。だが、魔法少女共には都合が悪い」

 

「押し付けたとして…彼女達が拒絶する光景しか浮かばないわ」

 

「…()()()()()()()()

 

「えっ……?」

 

「連中が嫌悪しないようなイメージを刷り込むだけだ」

 

「どういう意味なの…?」

 

「そのやり方なら、ななかに伝えておくさ」

 

2人の会話を後ろで聞いていたケットシーは人間の姿に戻った尚紀の背中が気になる様子。

 

「この背中に張り付けているコインのような形のモノはなんニャ?」

 

「えっ?」

 

背中に手を回すと盗聴器の存在にようやく気が付いてくれる。

 

「こんなもの…いつの間に!?」

 

記憶を探っていけば、自分を鑑賞したいと言ってきた悪趣味な連中を思い出す。

 

「趣味が悪いことしてんじゃねーよ!!このストーカーコンビが!!」

 

盗聴器に罵声を浴びせた後、地面に投げつけて踏み潰す。

 

「この神浜に来てからというもの、何処までもストーキング被害ばかりだな…泣けるぜ」

 

無言のまま再びクリスを押し続ける中、ネコマタは質問してくる。

 

「それにしても…どうしてあそこまで意固地になったのかしら…あの魔法少女?」

 

「立場固定という心理バイアスだ。自分が努力し続けた道を信じて守りたいのは誰でも同じさ」

 

「それも…愛した人達のためなのよね?」

 

「……そうだ」

 

やちよが愛した魔法少女達の姿が風華と佐倉牧師と重なってしまう。

 

「俺もいつか…七海やちよのようになっちまうのかもな…」

 

彼もまたこの世界で歩んできた道を信じ続ける者であり、それは遠からずに起きるだろう。

 

夜はまだ、開けてはいないのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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