人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
猛スピードで走り続ける車とバイクが夜の道を駆け抜ける。
神浜の西側を超え、大きく迂回しながら神浜の北側に戻る山道に向かうために突き進む。
「チッ!リッターバイクのR1だと、弄ってても巻く事は難しそうだ…」
「ケツにずっと張り付いてくるニャ……なんて加速力だニャ!」
「あのバイクは一速上げれば150キロ以上は加速出来る。直線道路じゃ追いつかれる」
「こうやってジグザクに曲がりながら巻こうにも……ウニャー!?」
次の交差点をドリフトして右折を行う。
ドリフトのGに振り回され続ける猫悪魔達の事などお構いなしの荒い運転だ。
「ウニャ…気持ち悪くなってきたわ…。ちょっとお手洗いに…」
「アタシの車内で吐いたら黒焦げにするわよ!?」
「パーキングエリアに停車していいかどうか、後ろの魔法少女に叫んでみろよ」
「なんか…武器とか投げてきそうだから遠慮するわ…」
やちよも巧みなコーナーリングで距離を離さない。
「あの旧車…どれだけ弄ってるのよ!!それに、あの悪魔のドラテクも侮れないわね…」
やちよは魔法攻撃を仕掛けるタイミングを狙い続けているが、周囲は人間の生活圏が続く。
「埒が明かないわ…何処か、人通りのない場所に逃げ込んでくれれば…」
後ろから猟犬の如く迫り、距離を離さない魔法少女の殺気は人修羅も感じている。
「ダーリン、あの魔法少女は峠バトルをご所望みたい」
「だろうな…ヒルクライムしながら峠までついてこれればだがな!」
ギアを上げ、アクセルを踏み込む。
赤信号を突っ切り横から迫りくる車の間を超える。
「くっ!」
やちよもギアを上げ、スピードを上げて突っ切ろうとするのだが危険が迫りくる。
「早まったな」
バックミラーを見る人修羅は不敵な笑みを浮かべてくる。
「なっ!?」
既に側面道路からは鉄骨を運搬するポールトレーラーが侵入しようとしていた。
「っ!!」
鈍化した世界。
左手でハンドルを握りながら右足を上げ、跨った態勢から両足を地面につく。
靴が道路に削られながらも右手で後部シートを掴み、車体を斜めに滑らせる。
「なにっ!?」
倒れ込むエンジンを守るかのように空中で生み出されたのは魔法陣。
そこから現れたのは石突き部分を向けた魔法の槍。
倒れ込む車体が槍の石突きに支えられ、強引な滑り込みを行う。
ポールトレーラーの下を身を低めて潜り抜け、飛び出すと同時に石突きでバイクを押し上げる。
車体の態勢が前に戻ったバイクにやちよは飛び乗り、追撃の手を緩めない。
「あの女…魔法武器を自由自在に操りバイクを乗り回してきやがる!」
「ニャーッ!?自殺もののスタントアクションだニャーッ!!」
「まるで…生き急いでるようにも見えるわね…」
「フッ…上等だ!!ついてこい!!」
距離を離された為、ギア操作を足で行う。
彼女の魔法少女衣装の靴は厚底サンダルであり、バイク乗りが履くブーツではない。
美しい甲を痛めつけながらのギア操作に彼女の顔も歪む。
「逃がさない…死んでいった魔法少女の為にもここで悪魔を倒す!私は彼女達の長なのよ!!」
体の痛みよりも心の痛みに苦しむ。
やちよは自分のせいで大切な親友であり仲間を2人失ったと自分を責め続けた。
そして今度は魔法少女社会の長として誰も守れなかった苦しみがのしかかったからだ。
(私が魔法少女の長なんてしてたから…誰も守れなかったの?)
脳裏には雪野かなえ、安名メルが円環のコトワリに導かれた日の記憶が巡る。
(私のせいなの…?テロに参加した彼女達が死んでいったのは……?)
迷いを振り切るかのようにしてスピードを上げていく。
互いのスピードメーターが上がり続ける中、2台は峠を目指し山道に侵入した。
「お望みのステージに到着だ。さぁ、悪魔と踊ろうぜ」
――――――――――――――――――――――――――――――――
人々が眠りについた深夜2時。
満点の月が夜空を彩る緩やかな登り坂を猛スピードで駆け抜ける悪魔と魔法少女。
「おあつらえ向きの場所まで案内してくれて助かるわ」
対向車が来る気配も感じられない深夜の山道なら仕掛けられるとやちよは判断する。
「望み通り…その車ごと破壊する!!」
バイクの周囲に表れた複数の魔法陣から射出される魔法の槍。
砲弾の如き速度で迫りくるおびただしい槍の数が車を捉える前にクリスの車体が揺れる。
山道のコーナーをドリフト旋回し、後ろから飛んできた槍を回避。
やちよも鋭いコーナーリングで悪魔を追いかけ距離を離さない。
「そうだ、俺のケツにしっかり喰らいつけ。お前のガッツを見せてみろ」
「尚紀!あんな貧乳娘に遠慮することはないニャ!ガツンと一発かましてやるニャ!!」
「ちょっとケットシー…なんで追ってくる魔法少女が貧乳だと分かるわけ?」
「オイラは猫だニャ。猫の夜目をニャめるニャよ」
「あんた……貧乳娘には容赦ないわね?」
「まな板女死すべし慈悲は無いニャ」
「私のことまで言ってるの!?ぶん殴るわよ!!」
「ゴチャゴチャ五月蠅い!!」
サイドミラーを使い、やちよが槍を射出するタイミングを見計らう。
蛇行運転で槍を避け、カーブを使って避けていく。
「やるわね…あの悪魔。だけど、これならどう!!」
ハンドルから左手を持ち上げて前にかざす。
「なんだ!?」
前方の道路に複数の魔法陣を展開されたようだ。
「ダーリン!下からよ!!」
地面に描かれた魔法陣から上に突き上げていく槍の数々。
蛇行運転で避けていくが、やちよは距離を詰めてくる。
「ニャニャ―!!?あの貧乳娘のダイレクトアタックだニャ―ッッ!!!」
左手に生み出した槍を構えて猛追。
クリスの車体を両断する構えを見せてくる。
「上等!!アンタが仕掛けてくるなら、アタシも仕掛けさせて貰うわ!!」
「お上品な走り屋レースバトルではないことを思い知らせてやれ」
回転するタイヤが放電現象を始めていく。
「これはっ!!?」
上空に魔力を感じたやちよは攻撃を諦めるように槍を捨て、ハンドルを両手で掴む。
空から放たれる雷魔法とはマハジオンガだった。
「くぅッッ!!!」
直感だけを頼りに蛇行運転を繰り返して避けていくが距離を離されていく。
「これが悪魔の魔法…魔法少女よりも強力な攻撃魔法が使えるだなんて!?」
「そらそら!集中力が切れたらズドンで黒焦げよ!!」
クリスの猛攻を掻い潜り続けるやちよが左手をかざす。
前方の道の側面に表れたのは上に伸びた無数の大きな槍。
それは道路側面に柱として打ち込まれ続けるようにして伸び続けていく。
やちよの頭上から落ちてくる雷が迫るのだが、彼女の策は的中した。
「あの女…槍を避雷針にしてるわけ!?」
放たれ続ける雷は側面の槍に次々と落ちていき、彼女の道を切り開く。
「お返しよ!!」
道を走り続けるクリスの前に現れたのは壁のようにして並び立つ槍の数々。
だが人修羅はアクセルを踏み込む。
「アタシを舐めんなアバズレ女ぁ!!!」
強引に車体をぶつけて並び立つ槍のバリケードを破壊していく。
「「ニャーーーーッッ!!!?」」
衝撃でシートベルトが食い込み悲鳴を上げる猫悪魔達が文句を言い出す。
「ちょっと!もう少しで胃液が飛び出しそうになったじゃない!!」
「五月蠅い!!今は立て込んでるし、吐いたら殺す!!!」
「ニャ―……エンジンみたいにヒートアップしてるニャ…」
「熱くなりやすいタイプだったわね…クリスって」
「それぐらいが俺の乗り回す車には丁度いい!」
目まぐるしく変わる景色の中を車とバイクは走り抜く。
「そろそろトンネルだな」
神浜市とかかれた青い案内標識を超えれば見えてくるのは山道トンネル。
「峠まで出られるあのトンネルはたしか一直線に伸びる道。なら…大技でいくわよ」
ハンドルの周囲に魔法陣を生み出し、槍を出現させてハンドルを空中固定。
やちよは槍を生み出し頭上で一回転させ天に掲げた。
「出し惜しみするつもりは無いから!!」
トンネル内部が無数に生み出されていく魔法陣の光に包まれていく。
「ダーリン」
「分かってる」
赤いボタンカバーを外せばそこにはNITROと書かれたボタンが露出する。
「お前ら、しっかり掴まってろよ」
「な、何が飛び出してくるのよ!?」
「ニャニャーッ!?オイラは子供だからジェットコースター系は勘弁!!」
猫達の悲鳴は無視してボタンを押す。
ニトロチューンが施されていた車のガソリンが一気に燃焼し、爆発的パワーで加速。
ギアを最大まで上げ、アクセルを踏み込む。
マフラーからアフターファイヤーが噴き上がった。
「行くぜ!!」
トンネル内部の上部壁面から道に放たれていくのは赤黒い巨大槍の数々。
やちよのマギア魔法である『アブソリュート・レイン』だ。
鈍化した世界。
巨大槍に貫かれるよりも先に車体が前に進んでいく。
「「ヒィーーーッッ!!!!」」
涙目で叫び、生きた心地が全く得られない仲魔達の恐怖が車内に響き渡った。
「あの急加速…ニトロチューンしてあったの!?」
マギア魔法の魔力を解除して生み出した槍を消しながらギアを最大まで上げる。
フルスロットルでトンネル内部を駆け抜けるやちよの口元は自然と笑みが浮かぶ。
「フフッ…ここまで熱くなれる走りが出来るだなんて、あの悪魔…殺すには惜しいぐらいね」
走り屋に目覚めたかのように血が騒ぎ、彼女の血潮は跨るエンジンと共に熱くなっていく。
「逃がさない!このバトルレースを制するのは私よ!!」
トンネルから先は峠部分だ。
下り部分に向けてクリスの車体が一気に飛び出し、着地と同時にドリフトカーブ。
やちよもトンネルから飛び出し、地を這う程の低姿勢からコーナーリングを行ってくる。
「峠までついてこれたか。いいぜ…俺も熱くなってきた!!」
「アタシとダーリンのダンスコンビに勝てると思うんじゃないわよ!」
「私達も乗ってるんだけど…」
「オイラ達は荷物扱いかニャ…」
「乗ってるからスピード出ないのよ!!放り出すわよ!!」
「「それだけは勘弁ニャ―ッ!!」」
バックミラーから後方に景色がスライドし、クリスを猛追するやちよの表情も熱くなる。
「家族とみふゆと鶴乃が私に与えてくれたバイク乗りの人生…この時の為にあった気分よ」
――今夜はとことん走り抜いてやるわ!!!
――――――――――――――――――――――――――――――――
二台の赤いテールランプが夜の世界を切り裂いていく。
木々が次々と後方に流れていく世界を駆け抜ける悪魔と魔法少女。
鳴り響くユーロビートが2人の走りを熱くする。
山道の橋のコーナーリングを猛スピードで曲がりながら渡り抜く。
迫りくるカーブに対し、前の車も後ろのバイクもタイヤから白煙を撒き散らしながら曲がり切る。
「これが神浜魔法少女社会の西の長か…みくびっていたな」
「ニャ―…澄ました顔してるくせに中身はイノシシ娘のように熱血漢だったニャ」
「ギャップ萌えでも狙ってるのかしら?」
「知るか!それよりダーリン、このまま峠を終わらせるのは勿体ないわ」
「そうだな。道を走り切るよりも先に…荒っぽくいかせてもらおうか」
二車線の横側にまで走り出たやちよと窓を開けた人修羅の顔が向き合う。
「こんな時に車内音楽を鳴り響かせるだなんて!音がうるさいわよ!!」
「俺の趣味の音楽じゃないが!こういうバトルの時はユーロビートなんだろ!!」
「アニメの見過ぎよ!!」
ハンドルを切り、クリスの車体で体当たりを仕掛ける。
やちよはブレーキレバーを引き、後方に下がって回避を行う。
足で素早くギア操作を行い、離された距離を猛追していく。
峠の側面に張り巡らされたガードレールの下は切り立った崖である。
隣は急傾斜地崩落危険区域等に設置された網目状コンクリートブロックが並び立つ。
「神浜行政の土木局には申し訳ないが、派手にやらせてもらう」
「人間を巻き込んで殺してなきゃノーカンよダーリン!!」
クリスの車体から『放電』現象が起こる。
放電の一撃が次々とコンクリートブロックを襲い、ブロック壁が砕かれていく。
「派手にやってくれたわね!!?」
蛇行運転を繰り返し、砕かれたブロックが散乱した道路を強引に突き進む。
「デカいのもいっとくわよ!!」
大きなカーブに曲がる前に放たれたのは『ジオンガ』だ。
轟雷の一撃によってブロック壁が大きく破壊され地滑りが起きて道を塞いだ。
「くぅッッ!!!」
前方はガードレールであり、その下は崖。
道が塞がれたのをサイドミラーで確認した人修羅は不敵な笑みを浮かべた。
「楽しかったぜ。だが、ここまでだな」
「尚紀、神浜行政に壊した道の修理代を寄付の形でちゃんと払いなさいよ」
「分かってるって…」
釘を刺されながらもレースを制したと思って走行していた時だった。
「待つニャーッ!!崖の空を見るニャーッッ!!?」
後ろの叫びを聞いた人修羅は山道を曲がりながら横の崖に視線を向ける。
「な、なんだとぉッッ!!?」
そこに広がっていた光景とは空を走るバイクである。
「バイクの足場を…無数の槍を横倒しにして生み出したですって!?」
あの一瞬、やちよは槍の投擲でガードレールを破壊した直後に魔力を絞り出す。
空に描いたのはまるで虹のアーチを描く槍の道。
前輪を持ち上げ、ウイリーしながら崖の世界に飛び出す。
槍の柄を走るバイクの振動に耐えながら彼女はクリスよりも先の山道に飛び出した。
「前を取られたニャーッッ!!?」
逆走して逃げようにも後ろの道はクリスが塞いでしまっている。
「もらったわ!!」
サイドミラーで後方の獲物の位置を確認。
周囲に魔法陣を生み出し、次々と槍がクリスに向けて後方射出されていく。
「身を屈めろ!!!」
「ニャーッッ!?とんでもないイノシシ女とドライブしてたのねーッ!!」
「途中下車を希望するニャ―ッ!!!」
蛇行運転を繰り返すがフロントガラスを槍が貫き、リアガラスを砕いて飛び出した。
「くっ!!」
「「ギャァァァーーーーッッ!!!?」」
サイドミラーも砕かれスピードが落ちていく。
割れたフロントガラスを肘で砕き、視界を確保しながら走り続けるのだが…。
「アタシの肌を傷つけやがって!!ケツにキスして崖から突き落としてやるわ!!」
人修羅のペダル操作を無視してアクセルをクリスが操作する。
「お、おい!?」
車が一気に前進して彼女のバイクを後方から突き上げようとしたが…罠だ。
「あら?わざわざ近づいてくれたのね」
左手に生み出した槍を持つ手は石突きに近いほど下側の位置。
彼女は身を捩じりながら後方に槍を振り抜く。
「伏せろぉ!!!」
人修羅が叫び、全員が身を低めた頃には槍の斬撃がクリスのルーフ屋根を切り裂いた。
「「しょえーーーッッ!!!?」」
斬り離された屋根が後ろの道に転がっていく。
仰天した二匹の猫悪魔が堪らず小さな猫姿に戻り、後部座席下に逃げ込んだ。
「すいませんニャ!!まな板娘だなんて言って魔法少女様を怒らせたのはネコマタですニャ!!」
「シャーッッ!!私に罪を着せようだなんていい度胸してるわね!このスカタン猫悪魔ぁ!!」
後部座席下で喧嘩を始める猫達だが、クリスの車体は減速してしまう。
そのままカーブを曲がりきるが、怯んだクリスはスピードが上がっていかない。
「勝手なことするんじゃねぇ!俺に身を委ねるんじゃなかったのか!!」
「だ、だってダーリン……って!?横見て!!」
ハンドル操作を槍で固定し、両手に槍を持つやちよがバイクを横側にまで後退させている。
「ここで終わらせる!!」
「鉄馬に跨ったヴァルキリー気取りか!受けて立つ!!」
次のカーブまで一直線の道を走る二台を操る者達が繰り広げていく馬上試合。
連続突きに対し、左手で捌きながら右手でハンドル操作を強引に行っていく。
猛スピードで走り続ける最中での戦いが2人の血を熱くする。
「はぁッ!!」
頭部を狙う突きに対し、首を引いて避けると同時に槍の柄を掴む。
バイクごと引き倒そうとしたが柄から手を離され再びアクセル操作で前に出る。
左手に持った槍を投げ捨て、追撃するように人修羅も前に出る。
次のカーブもガードレールの向こう側は崖エリアだ。
「今度は私がお返しをする番ね!!」
「なんだと!?」
横に視線を向ければ垂直コンクリートブロックに展開された魔法陣から巨大槍が飛び出す。
「くぅッッ!!」
車の体当たりで壁となった槍を砕き無理やり前に進み出るのだが遅すぎた。
「まずい!!?」
既にコーナーは目前でありハンドル操作が一瞬遅れる。
カーブを曲がり切れず車がガードレールにぶつかりながら火花を飛ばす。
「くそぉぉーーーッッ!!!」
態勢を制御しきれず片輪が崖に脱輪していき崩れるように崖から落ちてしまった。
「あの程度では死なないかもしれない…。何処かで止まって下に向かわないと」
白兵戦に持ち込まれると考えながらバイクを運転していたのだが何かの音に気がつく。
「こ、このエンジン音は!!?」
聞こえてくるのは崖の下から迫ってくるエンジン音。
「まだだぁーーーッッ!!!」
崖下の光景とは放電した四輪がコンクリート壁に張り付きながらの走行光景だった。
クリスは落下したのではなく車体を横倒しにした状態で斜め上の空を目指して駆け上るのだ。
鈍化した世界。
やちよの手前空から飛び出したクリスの車体が宙を舞う。
「「ニャーーーッッ!!!」」
いつの間にか悪魔姿に戻っていたネコマタとケットシーが必死に体重をかけて車を押す。
態勢を水平に戻せたクリスが道に着地してバトルレースを再開するのだ。
「どこまでも楽しませてくれる!!それでこそ神浜魔法少女社会の長だ!!」
「悪魔に褒められても嬉しくないわ!!」
挑発する人修羅を見ながら後部座席に座る猫悪魔達は白い眼差しを向けてしまう。
「私…この2人のドライブにだけは金輪際連れていかれたくないわ」
「そういえば尚紀が昔…魔法少女姉妹を連れてドライブに行ったことがあるって…」
「あぁ…このは達でしょ。私…あの子達の苦しみが分かったわ」
「ミートゥー…」
既に峠の道は終点が近い。
互いが猛スピードで走る直線道路にまで躍り出る。
「ダーリン、最後よ!アタシの体を思い切りぶつけてやりな!!」
「西の長の派手なサーカスジャンプを堪能してみるか!」
サイドブレーキを引きハンドル操作を行う。
車体を横滑りさせ一回転するドリフトを行い急停止。
車の側面を壁として使いバイクの壁としたようだ。
鈍化した世界。
「あの女…まさか!?」
バイクから後方に向けてやちよは跳躍する。
彼女は体当たりを読んでいた…しかし。
(…バイク乗りとして生きる人生を共に生きられた…私の大切なバイク…)
鈍化した思考の中で描かれるのは自分の頑張りに報いてくれた家族の笑顔。
欲しかったバイクを買ってくれた日の喜び。
自然を全身で感じながら走る喜びの日々。
親友達と趣味を通じてツーリングが出来た喜びの時間。
全てが走馬灯となっていくが、槍を持つ右手に力が籠る。
「…ごめんなさいッッ!!!」
彼女は迷いなく槍を投擲する。
「車から飛び出ろーーーッッ!!!」
「「えぇーーーッッ!!?」」
バイクのフロントがクリスの側面にぶつかると同時に燃料タンクに槍が突き刺さる。
「「ギニャーーーーッッ!!!?」」
後部座席から飛び出した猫悪魔達の背後で爆発が起きる。
クリスの車体がひっくり返り、炎上しながら俯けに倒れ込んだ。
着地した彼女はやりきれない表情を浮かべながらも炎上する悪魔の車を見つめていく。
「…それでもバイクは生活道具でしかない。魔法少女達の方が…私にとっては大切だから」
バトルレースを制し立っていたのは西の長である七海やちよ。
それでもこれはレース勝負に勝利しただけに過ぎないのは彼女も分かっていた。
「出てきなさいよ。貴方の魔力は感じているわ」
爆発して炎上する車を片手で持ち上げ、人修羅は這って出てきた。
その表情には悔しさが滲んでいたようだ。
「…認めてやる。最後まで走り切り、立っていた勝者はお前だってな」
「それでも、これはバトルレース勝負の勝敗でしかない。本戦はここからよ」
「…違いねぇ」
炎上するクリスに照らされた人修羅が立ち上がり、拳法の構えを行う。
やちよも右手に槍を生み出し左右に回転させながら構えた。
爆発から逃れた猫達は茂みに隠れて事の成り行きを見守る事しか出来ない。
西の長である魔法少女と神浜の魔法少女を虐殺した者。
ついに対決を迎える時がきた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
睨み合う両雄。
先に口を開いたのはやちよだ。
「なぜ…テロに参加した魔法少女達を殺したの?」
「人間社会の無念、人間の似非守護者共には分かるまい」
「私は裁判を行い、既に魔法少女達を裁いたわ。部外者の悪魔が関与していいわけ?」
「身内だけで行う勝手な裁判。人間社会の都合の悪い声などお前達は踏み躙る」
ななかと同じ言葉を浴びせられ唇を噛み締めていく。
「なら、何処に隠れていたのかも分からない悪魔という存在は…人間の肩を持つ連中なの?」
「悪魔の生き方は自由。そして俺が選ぶのは人間の守護者としての生き方だ」
「変わった悪魔ね…。悪魔のイメージとはかけ離れているわ」
「人間を襲う悪魔も大勢いる。魔法少女と同じようなもんさ」
「…貴方は仇討ちを行ったわけ?私達が行った裁判が気に食わないから?」
「司法は被害者達の為にあるべきだ。長という行政側が悪用していいものではない」
「まるで…常盤さんの言葉ね」
「俺とななか達とは通じている」
「なんですって!?」
「俺はななかを神浜魔法少女社会の長にしたい。そのための道を切り開く必要がある」
「…西の長の私を始末して常盤さんを長にする。それが常盤さんと貴方の目的というわけ?」
「俺達が望むのは魔法少女社会に向けての社会主義革命だ」
「…貴方は
チェ・ゲバラとはアルゼンチン生まれの政治家であり伝説の革命家だ。
キューバ革命をカストロと共に導き、キューバ革命を成功させた人物である。
だが彼はキューバ革命で手に入れた権力を全て捨て、救いを求める地に向かい命を落とす。
「…何にでもなってやるさ。魔法少女に踏み躙られる声なき声…弱き人間達のためならな」
「私たち魔法少女は…魔獣と戦う正義の味方よ!!人間達を守っているわ!!」
「正義を名乗らなくとも、お前達は魔獣と戦うしかない。ただの生存闘争を身勝手に紐づけるな」
「魔法少女の数が多ければ…それだけ人々を守れる力になるじゃない!!」
「魔法少女は多くとも自由を拘束する仕組みが完全でない限り…連中は自由意志で狂犬になる」
「私たち魔法少女の自由意志を奪えというの!?それこそ独裁よ!!」
それを聞いた彼は構えを解き、冷めた眼差しをやちよに向ける。
「その優しさは
その言葉を聞いたやちよは戸惑いの表情を浮かべてしまう。
「わ…私の優しさは……」
彼女の脳裏に巡るのは大切な親友であった魔法少女達の遺言。
――やちよ…。
――あたしを…未来に連れてって…。
――アナタなら…やってくれる気がする…。
――アナタ…チームに…必要だから…。
雪野かなえはやちよに託した。
自分も含めた魔法少女達の未来を。
そのためにも、やちよは魔法少女を率いる長として必要としてくれた。
――尊敬する…リーダーを…守れて…ボク…幸せです…。
安名メルは西の長を守れた事を誇りとして死んだ。
かなえの願いを背負い、魔法少女達を導こうと足掻き続けた者を守りたかった。
それこそがかなえとメルだけでなく、神浜魔法少女達の誇りであった。
七海やちよは戦い続ける。
魔法少女達の願いを背負って。
魔法少女、魔法少女、魔法少女、魔法少女、魔法少女…。
思い浮かぶ言葉の光景は全て魔法少女達。
そこに人間達の姿など何処にも見当たらなかった。
「私の優しさを向ける存在達とは…魔法少女達よ」
眉間にシワが寄り切った顔を見せた人修羅はこんな話を持ち出してくる。
「…チェ・ゲバラの言葉の中にはこんな言葉がある」
――一生懸命に成長しなければならないが、決して優しさを失ってはいけない。
「お前の優しさは…魔法少女だけにしか向けてはくれなかった」
人修羅は再び拳法の構えを行う。
「俺は貴様ら仲良し魔法少女達の敵となろう。たとえ貴様らの輪を乱す破壊者と罵られようとも」
――友達がいないのは悲しいことだ。
――しかし敵がいないのはさらに悲しいことだ。
「やはり貴方は…私たち魔法少女の敵よ!!」
美しい顔を憤怒に歪め、悪魔の心臓を串刺しにせんと槍を向けてくる。
「…今頃思い出した。お前、コンビニの女性雑誌の表紙でよく見かけるモデルだろ?」
「…それがどうしたのよ?」
「一流モデルとして身だしなみを整えるくせに…」
――人は毎日髪を整えるが、どうして心は整えないのか?
「どうして心を整えなかった?」
「私を侮辱する気!?私の心は常に…魔法少女達の心を思いやってきたわ!!」
「どうしてお前は人間を蔑ろにする!?それがお前達の
「そうよ!それがマキャベリズム…長として学ばなければならなかった君主論よ!」
――世界の何処かで誰かが被っている
――それこそが革命家としての、一番美しい資質なのだから。
「それが…貴様らの掲げる正義か?」
「私の掲げる正義…それは!魔法少女達を環の輪にすること!!誰一人として見捨てない!」
「人間ならば見捨てていいと言うか!!」
「そ、それは…だって!仕方ないじゃない!!全てを救える治世など不可能よ!!」
「仕方ないで済まされる哀れな人間達のために…俺は牙無き民の牙となろう」
――十字架にはりつけになるよりも、わたしは手に入るすべての武器で戦う。
――1人の人間の命は、地球上で一番豊かな人間の全財産よりも100万倍価値がある。
――あらゆる不正に対して怒りに震えるならば、あなたはわたしの同志だ。
2人の価値観は決裂し、互いに詰め寄っていく。
「いくぞ…環の思想を掲げた魔法少女。俺が貴様の正義を…完全否定する!!」
「その言葉…私が貴方に突き返す!!」
互いが死を賭してまで守ろうとする相反する人々の姿がいる。
――目的の為には死をも厭わないと思えた時、わたし達は生きがいを確信することができる。
この世界に現れた悪魔が触れ合ったのは人間を守り抜いた魔法少女と社会を救いたかった牧師。
その人々と触れ合い、愛することで人修羅と呼ばれた悪魔を赤き思想の道に進ませた。
――世界があなたを変えれば、
人修羅。
それはミロク経典に記されし世界に変革をもたらす者の名だ。
彼は変えようとしている。
小さな世界ともいえるだろう魔法少女社会に変革を起こすのだ。
これはそのための道。
愛した人達の願いを継ぐための道。
「「ハァァーーーッッ!!!」」
両雄が今、風となる。
――バカらしいと思うかもしれないが、真の革命家は
――愛の無い真の革命家を想像することは、不可能だ。
――――――――――――――――――――――――――――――――
地面を踏み砕き、突進してくる槍の一撃。
迫りくる槍の矛先が悪魔の心臓に触れるよりも先に体を回転させる跳躍回避。
矛先が通り抜け、回避と同時に放たれた一撃とは旋風脚だ。
「くっ!!」
左側頭部を蹴り飛ばされ倒れ込むが立ち上がり、果敢に攻め続ける。
連続して迫る矛先に対し、悪魔は左右に体をずらして回避行動で避ける。
回避と同時に両手で槍を掴むが、やちよは身を一回転させる捻り込み。
回転の勢いで体を引き込まれた悪魔だが柄から手を離し跳躍する。
体を横倒しにするコークスクリューを用いて着地を行い、向かい合って構え合う。
「ハァァーーーッッ!!」
尚も苛烈な連続突き。
心臓・脇腹・頭部と次々と繰り出す急所突きに対し、後ろに下がりながら体の軸をずらす回避。
首を下げ、歩法を刻みながら避け続けていく。
太ももの動脈を狙う下段突きを斧刃脚で蹴り飛ばし、後続の突きの回避と同時に後ろ回し蹴り。
柄の引きが早かった彼女は首を後ろに引き、蹴り足が空を切る。
「やるわね…!これ程の相手だとしたら…私のために貴方と戦ったみふゆ達は…」
「殺してはいない。連中は次の魔法少女社会に必要な人材だ」
「そう…なら、次の魔法少女社会の邪魔となるのは古い体制を守り続ける長なのかしら?」
「それを決めるのはお前だ。ななかに長を譲るなら良し…だが、今までの治世を貫くなら…」
「私は…自分の掲げた正義を取り下げる気はない!!」
やちよはかなえ達から魔法少女社会の未来を託されている。
「だからこそ!私は今までの社会治世を否定なんてしない!!
「それは…お前がその魔法少女達を心の底から愛しているからか?」
「私はこの愛のためなら…たとえ人間に犠牲を強いる判断を下しても…責任を背負うわ!」
立場固定という心理バイアスがある。
最初の行動が環境変化などによって合理性を失っているにもかかわらず、そのまま堅持する。
最初の決断を正当化しようとしたりして疑問を抱きつつも深みにはまってしまう心理状態。
合理的な交渉を妨げる心理バイアスの一つであった。
「よく言った…。ならばお前は次の魔法少女社会には必要ない。ここでケリをつける!!」
悪魔が踏み込み、やちよはカウンターの突きを胴体に狙う。
身を翻す歩法を使い、両腕を回転させながらの前方回り込みで矛先を避けて柄を左手で掴む。
側面から迫る悪魔の右裏拳を避けるが、右蹴りが決まってしまう。
「ぐぅッ!!!」
柄から手を離し、蹴り飛ばされたやちよの姿。
倒れるよりも先に両手を地面につけ後方回転を行う。
追い突きが頭部を掠めたが距離を離して槍を生み出す。
彼はやちよの槍を持ち、矛先を地面に寝かせていたが右足で拾い蹴りを行う。
槍が回転する勢いを利用して両手を使いながら舞う演舞を見せる。
演舞後に大上段構えを行い、槍同士の勝負を挑む。
「
「いいわ…受けて立ちましょう」
先にやちよが仕掛ける。
槍の柄を巧みに使い、突きを捌き続ける。
柄で弾くと同時に前に踏み込み回転、首裏で柄を回転させる横薙ぎ。
彼女も前に低く踏み込み、横薙ぎを回転しながら避ける。
「「セイッ!!」」
向かい合う両者の突きが同時に顔面を狙うが、互いに避けた形で静止する。
「甘いわ!!」
矛先の側面に備わった刃を返し、人修羅の顔を狙う横薙ぎを放つ。
「チッ!!」
その場で側方宙返りを行い横薙ぎを回避。
回転の勢いでさらに続く連続横薙ぎをバク宙で避け切った。
「ヤァーーーッッ!!!」
渾身の突きが迫りくる。
鈍化した世界。
人修羅は柄を上から打ち付ける形で槍を弾くが矛先は止まらない。
打ち付ける反動を使って大きく前方宙返り。
着地と同時に槍の柄を両足で拘束した。
「ああッッ!!!」
人修羅は柄を用いて左側頭部、右側頭部と連続で打ちつけていく。
反撃として男の急所を狙い打つかのように槍を振り上げてくる。
大きく飛び上がり背後に回り込む前方宙返りで回避行動をとる。
回り込みながらの背中打ちがやちよに決まった。
「ぐッッ!!!」
彼女の魔法少女衣装は胸部当てのような鎧を身に纏っていたため斬撃を防ぎ切ったようだ。
向かい合う2人。
息を切らせながらも必死に抗おうとする西の長。
「私は負けられない…負けられないの!だって…長としての使命まで果たせないなら…私は…」
かなえとメルを失い、生きる理由を考えた時があった。
その時にはいつも耳の奥に聞こえるのは彼女たちの遺言だった。
「リーダーで居続けるために生き残りたいと願った私は…リーダーで居続けるために生かされる」
「何が言いたい?」
「私は…周りを犠牲にしてでも生かされ続ける…。なら、私の願いで生まれた固有魔法とは…」
――誰かを犠牲にして、生存する。
彼女が不安に怯える己の固有魔法の事を聞かされたが、彼は沈黙し続ける。
「私は…それを否定したい。そのために皆が生き残れる…環の輪を望んだのよ」
「…己の固有魔法で誰かを犠牲にするのが耐えられない。そのための環か」
「それさえ無くなったら…私は…皆を私のせいで死なせていくだけの存在でしかない!」
大切な魔法少女達をもう自分のせいで死なせたくない。
それが彼女の切実な気持ち。
そのために彼女は仲間であったみふゆと鶴乃とももこさえ遠ざけた。
それを聞いた人修羅は同情の言葉どころか憤怒の表情を浮かべてくる。
「何処までも自分本位か。たとえ環の輪を築けたとしても…
「なんですって…?」
「俺が語った言葉を思い出せ。貴様ら魔法少女は誰を犠牲にしてきた?」
「そ…それは……」
「貴様の治世によって…誰の生活が犠牲となってきたんだ!?あぁ!!?」
彼の怒声に彼女の体が震え抜く。
「ち…違う…私……そんなつもりじゃ……」
彼女がリーダーとして生かされ、魔法少女社会を治世してきた道。
その最果てにはどんな景色があったのか?
それは人間達の生活が奪われ、泣き叫び、慟哭の言葉さえ届けさせない裁判を執行した道。
「お前にとっては…人間など犠牲にすら数えられないか!?そこまで人間が嫌いなのかぁ!!」
「違う…違うの……お願い聞いてッッ!!!」
「魔法少女、魔法少女…どいつもこいつも…自分たち魔法少女の事しか出してこない!!」
「違う!!私…私達は…正義を守ろうとして…環の輪になろうと…」
彼が叩きつけてくる人間社会の怒りを全身で浴び続けて涙目になっていく。
憤怒の表情を浮かべていた人修羅が冷ややかな目となり、こう聞いてくる。
「もう一度だけ聞いてやる。その優しさは誰のためのものなんだ?」
――誰のために…命をかけて戦ってきた?
「私の優しさは…誰のために?誰のために…命を懸けて…」
「…待っててやるから深く記憶を探れ。お前の魔法少女としての原点を思い出せ」
言われた通り目を瞑り、記憶の世界を辿っていく。
「あっ……?」
浮かんできた光景とは、みふゆと共に生きた小さい頃の記憶。
七海やちよが魔法少女として生きた最初の光景だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
あれは小学生時代。
雨が降りしきる日だった。
「う……うぅ……」
「…っ…うぅ……」
ずぶ濡れで地面に倒れ込んでいるのは傷だらけのやちよとみふゆである。
「どうして……魔法少女が人間を襲うの…?」
「……ヒッ……うぅ……」
茫然とした表情を向けながら空を仰ぎ見るやちよの疑問に、泣きじゃくるみふゆは答えない。
その答えを与えに来てくれたのは契約の天使であるインキュベーターだ。
「魔法少女同士で争ったのかい?」
「キュウ…ベぇ…?」
茫然とした表情をやちよは向ける。
やちよとみふゆは東の魔法少女が西の女子学生を襲うところを目撃して止めようとした。
だが、魔法少女に成りたての彼女達では歯が立たなかった。
「お前らみたいな西のガキに…東の子たちの苦しみが分かってたまるか!!」
やちよ達を傷つけた東の魔法少女はそんな言葉を彼女達に残して去っていった。
「同じ魔法少女なのに…どうして…争い合うの……?」
彼女達が信じてきた変身ヒロイン像とは愛と正義の世界。
正義の変身ヒロイン達は手を取り合い、社会を脅かす悪者を協力してやっつける成長物語。
だが…これが現実だ。
「魔法少女は自由意志を持つ存在。彼女達が置かれた社会境遇次第では…人間に恨みを持つ」
「それじゃあ…あの魔法少女は…西の子に恨みを晴らすために…襲ったの…?」
「奇跡を願い、魔法の力を手に入れた魔法少女だけど…その力をどう扱うかまでは強制出来ない」
「魔獣と戦うだけじゃ…ダメなの……?」
「殺し合いの世界に来て辛い立場だ。せっかく手に入れた力なら悪用したくもなる」
残酷な現実を淡々と語るだけの契約の天使から視線を逸らす。
この存在は人類を有史以前から見つめてきただけに人の本性を誰よりも知っていた。
「グリーフキューブがいくらあっても…強くなっても…痛みも恐怖も消えないの…」
魔獣と戦い、魔法少女同士で争い、死と隣り合わせで心も磨り減る毎日。
いつしか自分の叶えたい願いさえ意味がなくなり、魔法少女として生きる意味もなくなる。
泣きじゃくっていたみふゆが重い口を開く。
「もう…こんな現実イヤなんです…。お願いです…キュウベぇ…」
2人は口を揃えて慟哭の言葉を呟いた。
魔法少女を辞めさせてと。
彼女達の悲痛な言葉を聞いても契約の天使は表情一つ変えずに残酷な言葉を放つ。
「それは無理なお願いだね」
突き放す言葉を言われたみふゆの目から涙が零れていく。
「じゃあ…いつか魔獣に殺されるまで…ずっと生き続けろっていうの…!?」
こんな苦しいのに誰にも理解してもらえない。
魔法少女社会の理不尽に嘆くことしか出来ないかと思われた時だった。
「う……うぅ……」
キュウベぇとは違う方角に視線を向ければ倒れていた西の女子学生が起き上がっていく。
「あっ……」
彼女が無事に家路につく後ろ姿だけを見つめていたやちよの表情が少しだけ軽くなる。
同じように見届けたみふゆの口が自然と動く。
「ねぇ…やっちゃん…。魔法少女だったから守れた人が…ここにいるじゃないですか」
その言葉が聞けただけで残酷な世界に入ってきた心が救われていく。
やちよの目にもついに涙が零れてしまう。
「死ぬ覚悟が出来ないまま逝ってしまう子だっているのに…。私達はまだ生きてます」
震えながら泣いていく彼女に向けて泣き腫らした表情のまま優しい言葉をかけ続ける。
「生きて、
「うん…そうみたい…」
励まされたやちよは袖で涙を拭きみふゆに顔を向けた。
「また、みふゆに助けられちゃったね…」
強がって魔法少女として生きると決めても明日にでも死んでしまう恐怖に怯える。
そんな彼女だからこそ残したいものがあった。
「せめて私たちの想いだけでも、残せたらいいのに…」
「想いを…残す……」
その言葉の答えを祖母に求めるようにして、彼女達は立ち上がっていった。
………………。
「……思い出せたか?」
魔法少女として生きた原点を思い出せたやちよはついに両膝が崩れ落ちる。
「私……わたし……」
魔法少女なんて辞めたい。
それ程までに苦しんだ彼女がそれでも生きられた最初の目標。
それは明日をも知れない魔法少女でも誰かを守れる力になれる。
それだけを信じて彼女は戦い続けてきた。
人間を守るために。
「いつからなの…?いつから私は…自分の
――被害者達の回復は被害者自身で乗り越えるべきよ。
――司法は行政の役に立てばそれでいい…この裁判も皆に示しをつけるためのものだわ。
「言えるはずがない…小学生時代の私なら守るべき人間のためにも…言えるはずがない…」
「やっと思い出せたか?最初の目標を?」
「私は…魔法少女社会の長としての責任ばかりを考えて…最初の目標を…見失ってた…!」
地面に蹲り泣き出してしまう。
「ごめんなさい…ごめんなさいぃぃ…ヒック……ごめんなさいぃぃぃ……ッッ!!!」
泣きじゃくる彼女の姿はまるで雨に打たれて泣き続けた小学生時代の姿を彷彿とさせる。
戦意を喪失したのか人修羅が持っていた槍の形も消えていく。
「お前が最初の気持ちに気づき、やり直したいというのなら…新しい魔法少女社会で活かせ」
彼の声も届かないほど泣き続けるやちよ。
そんな彼女から視線を外す
「…これで良かったと思うか?お前達?」
彼が視線を向ける先とは蹲るやちよの背後空間である。
肉体を持ちながらも霊質も併せ持つ悪魔だからこそ、円環のコトワリに導かれた者の姿も見えた。
思念体のように光っているのは2人の魔法少女達。
美しい金髪の長髪を靡かせ黒のパンクファッションに身を包む人物が光って見える。
緑髪をポニーテールにして占い師が使うタロットカードを持つ人物も同じように見えた。
<……うん、これでいい>
<悲しいけどボク達、間違っていたんですね…>
肉体を持たず、空気を振動させる言葉が喋れない思念体の言葉はやちよには聞こえない。
<えっと…ボクたちの姿も声も、悪魔だから分かるんですよね?>
<ああ、見えてるし聞こえている。お前達は?>
<あたしは雪野かなえ。生きてた頃はやちよとチームを組んでた>
<ボクは安名メルです。かなえさんが死んで随分たった頃、七海先輩達と組んでました>
<円環のコトワリの使者として現世に来たのか?>
<いや…違う。やちよが導かれるのは……まだ先>
<ボク達…円環のコトワリの中核を担ってたまどかさんを剥ぎ取られたアラディアに仕えてます>
<アラディアに仕えているのか?あの無機質な女神がよく外出許可を出したもんだ>
<え、えっと…その……ボク達、七海先輩が心配でその…勝手に飛び出してきて…>
<……
<ええっ!?そ、それは困るかも…もう外出出来なくなりますよ~!>
よく分からない単語を並べてくる。
群体神のアラディアの中身世界など想像したくもないと人修羅は考えるのをやめた。
<今のボク達は悪魔と変わらない概念存在。だから…七海先輩には何もしてあげられない…>
<本当なら…アナタの代わりにあたしが今の神浜魔法少女社会を怒るべきだった…ごめん>
<気にするな。それよりも…下のそいつに何か言いたくはないのか?>
泣き続けるやちよの為に片膝をつき、やちよの両肩を彼女達が優しく触れる。
しかし彼女達の手はやちよの体をすり抜けてしまう。
「ごめんなさい…かなえ…メル…。私…魔法少女の長として……失格だった!!」
悲痛な叫び声で自分達の名を叫ぶ彼女を見て、2人もやりきれない表情を浮かべた。
<七海先輩…ボクが貴方を守れてよかったのは…もしかしたら今日のラッキーデイのためかも>
<どういう意味だよ?>
<生きてた頃のボクは…遺品として、こんな言葉を残しました>
近い未来の結果。
神浜に異変が起きる時、何か大きな変化が起きるかもしれない。
だけど、そこにはいくつもの点が集まり、柔らかな円を描いていく。
多分これは人の円。
ボクたち魔法少女が紡ぐ円。
この時はきっと今よりも危険だけど、一緒に優しさも満ちている。
そのきっかけを作る星がひとつ。
この星はきっと人を表している。
そして、やちよさんの近くに落ちている。
この人が原因なのかは分からないけど、今から会うのが楽しみ。
やちよさんの近くに落ちてるってことは、ボクもきっと会うと思うから。
これが生前のメルが残した予言であった。
<このきっかけを作る星とは…もしかしたら
<俺をルシファー扱いするなよ>
<人修羅…それがアナタを表す悪魔の名。だとしたら…メルが言ってた星を司る人とは…>
<
<俺は魔法少女達だけの環の輪とやらをぶった切るつもりで動いているんだが?>
<それでいい。間違いに気が付きもせず輪を作ったとしても…歪に歪んでいくだけ…>
<あなたには…七海先輩が間違ってしまった環の輪とは
<いいのか?俺が目指す社会の有りようとは…社会全体主義だぞ?>
<社会学に正解はないって聞いた…やってみないと分からない…>
<アラディアの一部のくせに先が見えないのか?>
<あたし…あの無機質なアラディアとコネクトするの…嫌だ>
<ボクもです…。まどかさんが円環のコトワリだった頃なら喜んでやってましたよ>
<…それもそうかもな>
3人が溜息をついた時、何かの視線を感じた。
「お…おい……あの妙ちくりんなインキュベーターは何だ?」
人修羅が視線を向けた先には
<あーっ!?アラディアに見つかったですよーッッ!!>
<不味い…緊急避難!!それじゃあ…やちよ達をよろしく>
2人の思念体は消え去っていく。
ピンク色のキュウベぇに近寄ってみる人修羅なのだが困惑してしまう。
「……おい」
「……………」
「……何か言えよ」
「……………」
(こいつ……何も喋らないぞ?)
人修羅の存在など無視するようにしてピンク色のキュウベぇは走り去っていった。
横目で泣き続けるやちよに視線を向けたが、伝えるべきことは全て伝えた。
踵を返してひっくり返っているクリスの元に向かう。
「ゲホッゲホッ!!あのアバズレェェ……やりやがったなぁ!!」
炎上したボディをどうにか回復で鎮火させたようだがそれでも全身黒焦げでありボロボロだ。
「ダーリン起こして!回復したらあの女を市中引き回しの刑にしてやるんだから!!」
「もういい。あの女は戦意を喪失したんだ」
「アタシの戦意はフルボルテージのままよ!!」
喚き散らすクリスを無視して車体を持ち上げひっくり返す。
タイヤが地面についたら後ろ側に回り、両手でクリスを押していく。
「ニャ―ッ!!ド迫力のバトルの次は円環思念体トークイベントがくるとはニャ―ッ!」
「まったく…一時はどうなることかと思ったわよ」
茂みに隠れていた猫悪魔達も横につき、4体の悪魔は遠くに見える神浜の明かりを目指す。
爆発で散乱したやちよの愛車と心がボロボロになったやちよは取り残される。
今の彼女にかけてやれる言葉など誰も持ち合わせてはいなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「あの女が望んだ環の輪とは…違う形の輪を作ってくれか」
クリスを押しながら尚紀は呟く。
「あの思念体達に何か言われたの?」
「頼まれごとをされたんだ」
「それを聞いて叶えてあげるつもりなわけ?」
「…俺が求めるのは人間社会を優先する治世。だが、魔法少女共には都合が悪い」
「押し付けたとして…彼女達が拒絶する光景しか浮かばないわ」
「…やりようならある」
「えっ……?」
「連中が嫌悪しないようなイメージを
「どういう…意味なの…?」
「そのやり方なら、ななかに伝えておくさ」
後ろを歩きながら聞いていたケットシーの視線は人間に擬態した尚紀の背中に向けられている。
「尚紀ー?この背中に張り付けているコインのような形のモノはなんニャ?」
「えっ?」
背中に手を回してようやく盗聴器の存在に気が付いたようだ。
「こんなもの…いつの間に!?」
記憶を探っていけば自分を鑑賞したいと言ってきた悪趣味な連中を思い出す。
「趣味が悪いことしてんじゃねーよ!!このストーカーコンビが!!!」
盗聴器に罵声を浴びせ地面に投げつけて踏み潰す。
「この神浜に来てからというもの、何処までもストーキング被害ばかりだな…泣けるぜ」
無言のまま再びクリスを押し続ける。
「それにしても…どうしてあそこまで意固地になったのかしら…あの魔法少女?」
「立場固定という心理バイアスだ。自分が努力し続けた道を信じて守りたいのは…誰でも同じさ」
「それも…愛した魔法少女達のため…なのよね?」
「……そうだ」
やちよが愛した2人の魔法少女。
彼には何処かその姿が風華と佐倉牧師の2人と重なっていく。
「俺もいつか…七海やちよのようになっちまうのかもな」
彼もまたこの世界で歩んできた道を信じ続ける者。
だからこそそれは遠からずに起きる。
夜はまだ…開けてはいない。
読んで頂き、有難うございます。