人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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126話 アーリマン

惨劇の夜は明けた。

 

神浜の魔法少女達は回復魔法によって重症を癒せているようだ。

 

彼女達は今後の判断を仰ぐため西や中央の長の元に向かうのだが状況は深刻だった。

 

「な…なんだとぉ!?倒れていたやちよさんが…隣町の病院に緊急搬送された!?」

 

スマホでみふゆと連絡を取り合うのは中央の長である都ひなのである。

 

「早朝の頃…北養区の山道を通ってた車に見つけられて救急車を手配してもらえたみたいです」

 

「そんな時間に何故やちよさんは北の山道で倒れていたんだ?」

 

「救急車を手配してくれた人の話では、乗ってたバイクが爆発したように壊れていたそうです」

 

「バイクが爆発?やちよさんは自分のバイクに乗りながら…どういう状況になったんだ?」

 

「私達の救援を頼みに行った春名さんの話ですと…ミレナ座に向かうために飛び出したと…」

 

「だとしたら…やちよさんがバイクに乗って戦ったのはあの男の姿をした悪魔か?」

 

「目を覚ました私達はやっちゃんが救援に行った調整屋に向かったんですが…その…」

 

「…聞いている。ミレナ座は燃やされ…かくまってもらえていた魔法少女達も…」

 

「生き残れていたのはかりんさん、みかげさん…それにみたまさんと月咲さんだけでした…」

 

「今…何処から連絡してるんだ?」

 

「隣町の病院にいます。みかづき荘に立ち寄った時に電話が鳴ってまして私が連絡を聞きました」

 

「財布か何かに連絡先を入れてあったんだろうな…やちよさんの容態はどうなんだ?」

 

「強い精神的ショックにより、急性PTSDと診断されました。動悸と呼吸困難で倒れたんです」

 

「急性の精神障害だと?これも…悪魔の魔法か何かなのか…?」

 

「分かりませんがソウルジェムが危険です。鶴乃さんにグリーフキューブを持ってきて貰います」

 

「分かった…やちよさんの事を頼んだぞ」

 

電話を切ったひなのが皆に振り返る。

 

西の長が不在であったため、東西の魔法少女達は中央のひなのの元に集まっている。

 

かりんとみかげと月夜の3人はみたまと月咲をかくまうための護衛としてこの場にはいない。

 

「…聞いての通りだ。西の長は倒れ…悪魔は逃走。調整屋は燃やされ…魔法少女達が虐殺された」

 

それを聞いた中央の広場に集まっていた魔法少女達の顔に動揺が広がっていく。

 

「すまない…アタシ達が悪魔を止められなかったから…」

 

「ももこ…お前の責任じゃない。アタシ達だって…悪魔を止められなかったんだ」

 

「レナ…あの悪魔を絶対に許さない!!見つけ出して…必ず仕留めてやるんだから!!」

 

怒りに燃えるレナだったが横に視線を向ければ怯え切った表情のかえでがいる。

 

「わ…わ…私……また…悪魔と戦わないといけないの…?」

 

彼女は腕をへし折られた上に女の命ともいえる顔面を潰されている。

 

回復魔法で顔は元通りになってはいるが強い恐怖を植え付けられていた。

 

「このままでいいわけ!?悪魔はまだ生きている…だったらみたまさん達だってまた狙われる!」

 

「だ…だ…だけど……」

 

「みんなはどうなのよ!?このまま…悪魔を野放しにしていいわけ!」

 

レナの叫びに対し東の魔法少女達が口を開く。

 

「アタシは賛成だよ。あの悪魔を野放しには出来ない…だって十七夜さんを襲ったのは悪魔よ!」

 

レナに賛成するかのこは彼女達から東の長が襲われた件についても聞かされていたようだ。

 

「私達も行くわ。大事な後輩を傷つけられたままで…終わらせるつもりはない」

 

「敵は強い…それでも分散しないで戦えば勝機もあるかもしれないわ」

 

「フォートレス・ザ・ウィザードの僕に敗北は許されない!次こそは勝つ!!」

 

みくらとてまりと塁もレナに賛成の意思を示すのだが、横にいる後輩は違う。

 

大切にされている後輩のせいらは浮かない表情を浮かべていたようだ。

 

「…せいらお姉さん。私達…本当にあの人と戦っていいのかな…?」

 

「理子ちゃん…?」

 

「私達…間違ってたと思います。だってあの人は…人間社会のために戦ってくれてます…」

 

「うん…それを私も考えてた。だけど…それを言える空気じゃなくなってきてる…」

 

せいらと理子は周囲の言葉に耳を澄ませる。

 

「私は悪魔と再び戦うわ。顔を潰された礼とこころを傷つけられた礼…きっちり払わせるわ」

 

「みんなを守りきる…私の力はそのための力だと思う。まさらだけを行かせはしないわ」

 

「2人がそう言うなら私も行くしかないよね。うぅ…死ぬ前に伊勢崎君に好きと言われたい」

 

「あーしは…まぁ、みゃーこ先輩が行くなら行くよ。だって心配だし!」

 

橋の上で戦った魔法少女達も次々と賛成の意思を示す。

 

「ほら見なさい、かえで。レナの意見にみんな賛成よ」

 

「だ…だけど……本当にそうなのかな…?」

 

「みんなの言葉を疑う気!?」

 

「そういうわけじゃ…ないけど…」

 

「ももこだってレナと同じ気持ちよね?」

 

「当たり前だ。アタシはもう…これ以上悪魔のせいで魔法少女を犠牲になんてされたくない!!」

 

「ももこちゃん…レナちゃん……」

 

確証バイアスという認知バイアスがある。

 

自分が正しいと思う考え方を肯定する情報ばかりを集めてしまうことを指す。

 

自分に都合のいい情報ばかりを集めて意思決定しようとしてしまう。

 

またバンドワゴン効果もあり、多くの人が支持しているものは正しいと思い易い心理現象を生む。

 

ひなのは周囲の喧噪に目を向けた後、小さい体で声を張り上げた。

 

「静かに!!」

 

中央の長の言葉で場が静まり返り、皆の顔を見渡しながら口を開く。

 

「アタシはお前達に問いたい。アタシ達は…何を守るためにして戦ってきた?」

 

それを聞かされた魔法少女達が沈黙していたが、ももこが前に出る。

 

「アタシ達は正義の魔法少女。社会に害を成す悪者と戦ってきた!」

 

レナも前に出る。

 

「そしてレナ達は一緒になって絆を築いてきたの!レナの力は…皆のためにある!」

 

2人の言葉を聞き、周囲の魔法少女達も2人を肯定していく。

 

「私はこころを守りたいし…あいみも守りたい。こんな私の友達になってくれた人達を」

 

「まなかも同じです!悪魔なんかがいたら…魔法少女達が安心してお食事に来てくれません!」

 

「くみもメイドとして、まなかちゃんと同じ気持ちだよ!悪魔が魔法少女達のラブを邪魔する!」

 

「魔法少女の安全保障のためにも…悪魔は退けるべきです。グレイさんだって…悪魔のせいで!」

 

「魔法少女は花のゼラニウムのように真の友情を守る存在よ!それが愛と正義のヒロインです!」

 

出てくる言葉は全て自分たち魔法少女を優先する言葉ばかり。

 

彼女達の愛と正義とはこんなにも狭い世界にしか存在しなかった。

 

愛を深め合えば深め合う程、エゴが強化されていく。

 

己のエゴが優先され、赤の他人に過ぎない人間社会は優先順位から蹴落とされていく。

 

【無意識バイアス】

 

自分自身は気づいていない、ものの見方やとらえ方の歪みや偏りを表すバイアスである。

 

経験や知識、価値観、信念をベースに認知や判断を自動的に行い発言や行動として現れていく。

 

意識しづらく、歪みや偏りがあるとは認識していないため()()()()()()と呼ばれた。

 

こんな光景を見て、彼女達は本当に人間の味方なのだと思えるのだろうか?

 

「みんなの言葉は正しい。アタシ達は共に支え合い、絆を結んだからこそ戦ってこれた…」

 

魔法少女達の絆の象徴こそがコネクト魔法ともいえるかもしれない。

 

強力な魔法を絆の力で生み出せたようだが、その代償はあまりにも大きかった。

 

「だからこそ!アタシは誰一人として魔法少女を見捨てない!そのために中央の長となった!!」

 

「ひなのさん!アタシ達に号令を出してくれ!!」

 

「レナ達が悪魔を見つけ出す!!絶対に…倒してみせる!!!」

 

周囲の勢いにもはや黙り込むことしか出来ないかえでや理子やせいら達。

 

「アタシ達は互いに支え合える道を求めてきた!その輪を断ち切ろうとする悪魔を…探し出せ!」

 

中央の長の号令の元、集まった東西中央の魔法少女達が動き出す。

 

しかし彼女達とは合流せずビルの屋上から広場を見下ろす魔法少女が1人いた。

 

「やっぱり私…あの社会に居場所を見い出せない。ふーにいが集団を嫌ってたのと同じね」

 

その人物とはルミエール・ソサエティとビジネスのやり取りをした後消えていた保澄雫だった。

 

「独裁国家でも官僚や地方責任者の長い既得権益化で腐敗するってふーにいも言ってたわ」

 

これは官僚主義の中国を表し、不差為によって社会が非効率化の機能不全に陥る現象となった。

 

()()()()()ではダメ。外的な目的を達成するための機能集団になるべき…行政や軍隊と同じく」

 

企業社会でも同じであり、本来は利益の追求のために作られた機能的集団でなければならない。

 

人間社会に蔓延る自然発生的な繋がりを重視しては長い時間により仲良し腐敗の温床と化す。

 

馴れ合い社会となり、企業でも新しいチャレンジをしたいという出る杭は打たれる現象となった。

 

正義の魔法少女達は何を守ろうとしていたのかを見失っている事に彼女は気づいている。

 

しかしそれを表立って言うほど彼女はリーダーシップを発揮出来るタイプではない。

 

「それに気が付けない社会なら…出る杭は打たれるだけでしかないなら…私の居場所ではない」

 

踵を返して彼女はワームホールの中へと消えていったようだ。

 

最初に決めた基準こそが正しく、それに向けて努力した気持ちこそが絶対的に正しいと思い込む。

 

アンカリング効果やコンコルド効果という認知バイアスに支配されることしか出来ない。

 

人という生き物は何処までも無意識的なバイアスに流されるだけの愚かな生き物。

 

エゴという自我を持つ人間も魔法少女も悪魔とて何も変わらなかったみたいであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

時刻も過ぎていく。

 

魔法少女の虐殺を繰り返した悪魔は何処に消えてしまったのだろうか?

 

深夜の南凪区、神浜港。

 

コンテナ街はテロの影響もあり、稼働を停止しており再開の目処はまだ立っていない。

 

そんな埠頭の陸岸に人修羅の姿はあった。

 

膝が崩れた姿のまま微動だにせず大海を見つめ続ける。

 

魔石を一つ飲み込んで破壊された心臓を治癒したものの彼の体は全快していない。

 

体の傷すら気にならないのか心此処に在らずの姿を晒していた。

 

その姿はまるで悪神として扱われてきたアスラ神族のようにも見える。

 

帝釈天インドラに須弥山を追われ周囲の大海へ追いやられた阿修羅たる修羅を彷彿とさせた。

 

彼の元に歩いてくる2人の人物が近寄ってくる。

 

黄昏れる悪魔はそれにすら興味を示さない。

 

「やっと見つけたぜ、尚紀」

 

「探したわよ」

 

やってきたのはウラベとナオミのようだ。

 

知っている人物達の声が聞こえた尚紀の顔が後ろを振り向いていく。

 

その瞳は既に絶望を示し始めていた。

 

「……お前らか。いつの間に縁が出来ていたんだ?」

 

「私の滞在ホテルは燃えちゃったし、郊外のホテルに拠点を移そうとしたけど…不便でしょ?」

 

「この女はホテル業魔殿のオーナーであるヴィクトルに泣きついたってわけさ」

 

「ちょっと?そのヴィクトルに泣きついて部屋を提供して貰ってる貴方がそれを言えるわけ?」

 

「うっ…とまぁ、俺と彼女はヴィクトルの世話に暫くなる事になってな」

 

「同じサマナー同士、そしてイルミナティと縁がある者同士というわけで……聞いてる?」

 

2人の関係を説明されたが、今の尚紀には右の耳から左の耳のようだ。

 

己では答えが出せないのか弱々しい声を口から紡ぐ。

 

「……俺は間違っていたのか?」

 

それを聞いた2人は黙り込む。

 

事情をナオミから聞かされたウラベの口が先に開いた。

 

「自由の権化である悪魔が魔法少女社会を治世する…か。矛盾しているよな」

 

「自由…それは個人主義の世界。だからこそ悪魔は楽な道である利己主義を望むわ」

 

「人間とそこは変わらないし、もちろん魔法少女とだって変わらねぇ。感情がそうさせるんだ」

 

「…個人主義だからこそ、俺は社会主義を望む自由もあると解釈した」

 

「混沌の中に秩序を見出す道…それを選ぶのも自由というわけね」

 

その言葉はこの世界ではない別の世界のルシファーが語ったことがある。

 

唯一神との戦いに勝利したルシファーは、こんな言葉を共に歩んだCHAOSメシアに送った。

 

――唯一神が消えた今、我々はもはや悪しき者ではない。

 

――この世界で、自由に生きていけるのだ。

 

――虐げられた者たちが、ついに光を手にしたのだ。

 

――混沌の中、平和は失われているが…自由は手に入った。

 

――むろん、()()()()()()()()()()()

 

――さぁ、行こう。

 

――何者の支配も無くなったこの世界へ。

 

母国が香港ではなく中国となってしまった立場であるナオミには言える言葉がある。

 

「全体主義という絶対的秩序主義の欠陥なら…貴方も自分の老師から聞いたのではなくて?」

 

「……ああ、聞いた」

 

「私の母国である香港は97年に中国に返還されて…全体主義中国と併合されたわ」

 

「香港が完全に中国化するまでの期間はまだあるが…既に香港政府は中国の傀儡だったな」

 

「圧倒的暴力によって大儀という道徳を民衆に押し付ける政治体制。それが貴方の望む道よ」

 

「悪い…ことだったのか?」

 

「そもそも道徳って…()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「ならば…何のために道徳や倫理はある?」

 

「道徳や倫理は価値観の押し付けに繋がる。それがイデオロギー対立を生むのよ」

 

「共産党やナチスは多様性を踏み躙ったな…。たった一つの社会イデオロギーしかいらないと」

 

「多様な価値観があって当たり前、それが本当の自由。それを破壊するのが全体主義なの」

 

「……多様な価値観が認められたら、魔法少女は簡単に狂人と化す」

 

「でしょうね…そこが()()()()()()。人は社会的状況次第でいくらでも社会の敵となるわ」

 

「俺は…そいつらが恐ろしい。だからこそ俺は…全体主義を使ってでも社会を変えたかった…」

 

暴力による絶対的秩序主義の先には何がある?

 

それは暴力を振りかざす道徳・倫理政党に逆らえる存在などいなくなる社会。

 

一神教と同じく一つのイデオロギーに逆らえる存在などいなくなる。

 

そうなってしまったら悪魔の如き道徳・倫理至上主義者の天下となってしまう。

 

混沌の中にも秩序を求めてもいいと違う世界のルシファーは言った。

 

だが、混沌世界を切り開くため道徳・倫理を暴力で振りかざせば世界はどうなる?

 

正義を振りかざす悪魔に逆らえる存在などいなくなる。

 

これこそが闇の覇王であるルシファーの本音。

 

唯一神の如き傲慢な秩序世界を望むだろうルシファーの狙い。

 

その頂きに立つのは()()()()()()()()()()ルシファーなのだ。

 

「そうなれば…官僚主義という腐敗しか起こり得ないわ。崇高なる公共心も消え去っていく」

 

「甘い蜜を吸ってきた奴らに反腐敗主義をぶつけようものなら…中央政府と軋轢が生まれるな」

 

「それが今の中国よ。今の中国共産党は中央の反腐敗主義の圧政で不満が爆発しかけている…」

 

「…俺の望んだ全体主義社会体制ですら…腐っていくのか…」

 

「自由の世界で腐るか、秩序の世界で腐るか…人間社会の在り様は救いがねぇな」

 

「だからこそ社会学に正解なんてないの。社会学は偽学問だと世界中で罵倒されているわ」

 

彼が欲しかったのは正しさの定義。

 

それすら用意されなかったため彼は再び遠くの世界に目を向けていく。

 

「…人を恐れれば恐れるほど、疑いを募らせれば募らせるほど…社会は秩序で壊れていく」

 

9・11テロによって自由の国と言われたアメリカは不自由の国に成り果てた。

 

愛国者法というテロリズム対策法によってアメリカ社会は全体主義監視社会のようになった。

 

国民のプライバシーはテロ撲滅という大儀によって侵害され、国民は自由を踏み躙られた。

 

テロリストの活動を監視する手段であり、攻撃を防ぐために役立ってきたと言うが正しいのか?

 

アメリカ国家安全保障局およびCIAの元局員であったエドワード・スノーデンは告発した。

 

陰謀論やフィクションで語られてきたNSAによる国際的監視網(PRISM)の実在を告発したのだ。

 

「俺がやろうとしたのは…この神浜テロを利用した…()()()()()()()()()政治だったんだな…」

 

「…アメリカの9・11や、中国の天安門事件と同じくね」

 

――疑うのは大切じゃ。しかし…信じることも大切なのじゃよ。

 

己が殺した亡き師の言葉は耳の奥にまだ残っている。

 

「マスター……俺は……」

 

脳裏に浮かぶ光景に浸る暇は与えてはくれない。

 

<<見つけたぞ!!悪魔!!!>>

 

大声が聞こえた後ろに3人は振り向く。

 

そこで見た光景とは、改革を望む者たち以外の神浜魔法少女達が集結した光景。

 

神浜中をしらみ潰しにしていた1人が神浜港で虐殺者を見つけ、全員に召集をかけたようだ。

 

「逃がさない…今度こそケリをつけてやる!!」

 

「あの女の人と男の人は…悪魔の味方でしょ!!レナ分かるんだから!!!」

 

「ほ…本当にそうなのかな…?」

 

「何言ってんだよかえで!あの虐殺者と一緒にいるなら…どう見ても仲間の加害者だろ!!」

 

ウラベはももこ達を救っているがももこ達はそれを確認出来てはいない。

 

憶測で判断しているだけの冤罪光景が再び生まれているのだ。

 

「…いい加減にしろよ正義馬鹿共。十代の気分屋な魔法少女共は…これだから嫌いなんだよ」

 

「私も同じよ。私は彼のボディガードを依頼されている身…彼に手を出すなら容赦しないわ」

 

前に出た2人が封魔管を取り出して構える。

 

「悪魔達が攻めてくる!行くぞみんなぁ!!!」

 

ももこが激励の魔法を周囲にかけ、恐怖心を魔法少女達から消し去っていく。

 

恐怖心があるからこそ本当に正しいのかと疑う気持ちにもなれたのに掻き消された。

 

睨み合うサマナーと魔法少女達。

 

だが、ウラベとナオミの肩を掴んだのは人修羅だった。

 

「……手を出すな。連中の目的は…俺だ」

 

「で、でも貴方……!?」

 

「お前…まだ傷が癒え切っていないし、迷いも晴れてないだろうが!?」

 

「これは俺がもたらした光景だ。俺に責任があるんだ…俺に背負わせろ」

 

「尚紀…お前って奴ぁ……」

 

「何べんでも言ってやるわ…度し難い程のお人好しだとね」

 

「所詮は血塗られた定め。この罪から…逃れようとは思わない」

 

「あの子達にはもう言葉は通用しない。貴方は彼女達からこう呼ばれる…」

 

――この世全ての悪(アンリ・マンユ)…アーリマンだと。

 

シジマのコトワリ神の名を言われた彼の口元が笑みを浮かべる。

 

「ならば本望だ。シジマを掲げた俺はきっと…アーリマンだったのさ…」

 

そう言い残して彼は魔法少女達の元へと歩み寄っていく。

 

その後ろ姿を見送ったナオミはようやく理解した。

 

「私が人修羅を欲しがった原因は…彼の中に()()()()()()()()()()()()からだった」

 

東の魔法少女達が自由・平等という混沌をもたらした事に対して、それを否定した魔法少女達。

 

人修羅がもたらした絶対的秩序主義に対しても、それを否定した魔法少女達。

 

ならば彼女達はどちらも選ばない中庸(NEUTRAL)なのだろうか?

 

論語においては中庸の徳たるや、其れ至れるかなとある。

 

中庸は道徳の規範として、最高至上であるとするが…中庸のバランスを保って行くのは至難の業。

 

知情意を統一体としてバランスさせるだけでなく個々の中でもバランスをとるのは一生の課題だ。

 

東洋哲学的には平常心や恒心といったものを持つことが如何に大事かということを語っている。

 

果たして彼女達は知情意を統一体として行えているのだろうか?

 

前に進み出た人修羅が魔法少女達と相対する。

 

「……過ちに学ぶ事なく、自由を求めるというのか」

 

戦った時に彼が語った言葉を無視するかのようにして立ち塞がる魔法少女達に送る言葉。

 

人修羅が選ぶことがあったかもしれない別の可能性において語られた()()()()()

 

コトワリを選ばず、世界をやり直す選択肢において無限光カグツチが人修羅を呪う言葉であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

睨み合う両雄。

 

先に口を開いたのは人修羅であった。

 

「西の長は崩れた。次はお前達が彼女の後を追う番だ」

 

「やちよさんを襲ったのは…やっぱりお前だったんだな!!」

 

「やちよさんに何をしたのよ!?レナ…アンタだけは絶対に許さない!!」

 

「何もしてはいない。あの女は自分で壊れただけだ」

 

「悪魔の理屈なんて信じない!お前がやちよさんを傷つけて病院送りにしたんだ!!」

 

「何とでも言え。俺は貴様らに恐怖を刻み込む…それは次の社会に必要だからだ」

 

「悪魔が…まなか達魔法少女を支配するっていうんですか!?理不尽です!」

 

「貴方を倒して…グレイさんの居所についても吐いて貰います!!」

 

「俺が貴様らに求めるものとは、集団の社会化だ」

 

「集団の…社会化?」

 

「力ある者とは、その力に意味が与えられなければならない。お前達の力の意味は俺が決める」

 

「ふざけないで!私達魔法少女は、あんたのような悪魔のために魔法少女になったんじゃない!」

 

「魔法少女は、辛い苦しみに耐えてでも…叶えたい願いのために契約したんです!」

 

「それを何様のつもりなの!?いい加減にしなさいよね!!」

 

「叶えたい願いのため?だとしたら、貴様らが望んでいることとは私欲のためか?」

 

その言葉が魔法少女達の怒りをさらに煽る。

 

「くみは見てきた!自分のために願いを使う子も多いけど…誰かのために奇跡を願う子もいる!」

 

「誰かのためというのは、魔法少女のためだったのか?それとも人間のためだったのか?」

 

「そ、それは…人間のためだったり、魔法少女のためだったりとか…」

 

「人間のために一度しかない奇跡を使ったくせに、人間社会を見捨てるとはな…」

 

「悪魔のくせに…どうしてそこまで人間社会の肩を持つのよ!?悪魔は人間を襲うものでしょ!」

 

「悪魔の生き方は自由。そしてさっきも言ったが…俺は魔法少女社会に社会全体主義を敷く者だ」

 

「社会全体主義…?それって…漫画とかでみたことがあるファシズムってやつなの?」

 

「独裁政治。魔法少女の力を社会化するとは、人間社会に忠を尽くす選択肢しかいらない政治だ」

 

「私たち魔法少女の自由意志を奪って…魔法少女達の人権を踏み躙ると言いたいわけ!?」

 

「俺が貴様らに()()を与えてやろう。この世での役割・使命をな」

 

ファシズムなどの全体主義社会はアリの巣で表現される。

 

働きアリという雄、子供を生んで育てるという雌。

 

それぞれが巣という全体を繁栄させるために役割を分担して機能した社会環境だ。

 

人間でいえば国家社会のために働き、髭を剃り、食事をして眠るといっていい。

 

徹底して人々に効率だけを求めさせるブラック企業などにも当て嵌まる社会体制であった。

 

魔法少女達の口元が怒りによって食いしばられていく。

 

「ふざけんなぁーーーーッッ!!!」

 

ももこが吼える。

 

「お前は…何処までも傲慢だ!!何様のつもりなんだよ!?」

 

――()()()()()()()()()()のかぁ!!?

 

……………。

 

彼の口が閉ざされた。

 

何も喋らなくなり、何処か表情も驚愕と動揺に包まれている。

 

「俺が……神を気取っている…?」

 

一神教の如き全体主義を望んだ人修羅。

 

その頂きにある神と言えば人修羅が呪い続けた唯一神。

 

足元から崩れていく感覚に襲われていく。

 

彼の脳裏には、かつて平和に生きられた世界の記憶が巡っていく。

 

――俺には望みがあるんだ。

 

――いつか人が…運命に支配されない世界にたどり着きたい。

 

――きっと全ての世界は自由になれる。

 

――…()()()()()()()()

 

……………。

 

ひび割れた心のガラスが今、砕け散った。

 

交わした約束。

 

それを守り抜きたかった道。

 

守り抜くために戦い抜いた。

 

多くを犠牲にしてまで戦い抜いた。

 

二度とこんな悲劇は繰り返されるべきじゃないと願った。

 

そう願った彼が辿り着いた頂きとは…大いなる神の如き存在と化す道。

 

たった一つのイデオロギーしか存在してはならないと人々に強制する独裁。

 

その姿はもはや、嘉嶋尚紀が呪い続けた存在。

 

「俺が……唯一神……?」

 

尚紀の心は今、魔法少女達の正義を望む少女によって完全に壊されてしまった。

 

「チャンスッッ!!!」

 

既にももこは大剣を振り上げ、チャージを最大まで溜め込んだ構え。

 

「ハァァーーーッッ!!!」

 

跳躍飛びによって一気に距離をつめたももこの左薙ぎが放たれる。

 

彼は立ち尽くしたまま避けることさえ出来ない。

 

三日月の曲線を描く独特な刃が左上腕にめり込み、彼の体が弾き飛ばされた。

 

「よし!!角度はバッチリ!!!」

 

積まれたコンテナに叩きつけられ、コンテナを弾き飛ばしながら宙を舞う。

 

倒れ込んだ場所とはガントリークレーンの下側だ。

 

コンテナの瓦礫に埋まってしまった人修羅の回りから毒々しい煙が噴き上がっていく。

 

「がっ……あっ……?」

 

ようやく我に返った人修羅は左腕の激痛に顔を歪める。

 

杏子の斬撃ですら薄皮一枚斬るのがやっとだった人修羅の腕が骨に食い込むまで切断されていた。

 

腕の神経を切断され、左腕の感覚がなくなってしまう。

 

そしてこの周囲の煙がさらなる地獄を体験させることになる。

 

「ゴホッゴホッ!!なんだ…この酷い化学薬品の煙は!!?」

 

彼の表情が土気色となっていき全身が猛毒に侵されていく。

 

マガタマのイヨマンテは精神支配魔法を無効化出来るが毒には耐性がない。

 

<<長として、悪魔の前から隠れていた非礼を詫びよう>>

 

声が聞こえたのはガントリークレーンの上側。

 

クレーンの上に立っていたのはガスマスクを纏う都ひなのだった。

 

「だが本来、アタシの戦い方はこういう搦め手なんだよ。アタシは理系だからなぁ」

 

彼女は右手を持ち上げ指を鳴らす。

 

クレーンに吊るされていたのは魔力で生み出した大型の化学薬品用水平貯蔵タンクである。

 

巻き上げワイヤーに設置してあったフラスコ瓶が合図と共に砕け、ワイヤーを腐食させていく。

 

千切れたワイヤーから切り離され落ちていく貯蔵タンクの下には人修羅の姿があった。

 

「くっ!?」

 

右手に光剣を放出する。

 

真上に向けて切り上げ、落下してきた貯蔵タンクを切断したのが運の尽き。

 

「グアァァーーーーッッ!!!!」

 

中から撒き散らされた液体とは次亜塩素酸ナトリウム。

 

安全基準を遥かに超えた濃度の塩素によって彼の皮膚は化学熱傷を受けガスで肺も焼かれた。

 

「人がいない場所に逃げ込んだのが運の尽きだな」

 

クレーンから飛び降り地面に着地したみやこが皆の方にかけていく。

 

魔法少女達も化学薬品の臭いが酷過ぎて気分を害しているようだ。

 

「ぐぅ…みやこさんの魔法って、こんなにも悪臭を撒き散らすのか…」

 

「レナ…なんか吐きそう………」

 

「ご、ごめん…私……う、うぐぅ!!!」

 

かえではコンテナの後ろ側に走って行く。

 

「理科の実験が安全を重視しないとならない理由が分かったか、お前ら?」

 

ガスマスクをつけているので内側のドヤ顔は周囲には伝わらない。

 

ガスが充満していくコンテナ街だったが魔法少女達は風の流れを感じていく。

 

「な、なに…この強風…?」

 

「ガスが…消えていく…?」

 

風がクレーン下に集まっていき巨大な竜巻を生み出す。

 

「な、なんだとぉ!!?」

 

ガスマスクを外したみやこは驚愕の表情を浮かべる。

 

竜巻によって周囲の塩素ガスと猛毒ガスが巻き上げられてしまったのだ。

 

「風を操る魔法なのか…?」

 

ガスを巻き上げたが、彼は全身火傷と肺の傷によって苦しんでいる。

 

「ぐっ……うぅ……」

 

ボロボロのウィザードコート右手でを掴み、脱ぎ捨てる。

 

「ゴホッゴホッ!!…これだけの戦いが出来たのか。やはり魔法少女は…侮れない…!」

 

焼け爛れた上半身のまま彼は右腕だけで拳法を構える。

 

もはや彼を支えているのは交わした約束と佐倉牧師の導きの言葉のみ。

 

(なんだ…?体が重い…俺の言う事を…聞いてくれない!?)

 

全身に酷い虚脱感を感じ、心も乱れ切ったため武の神髄である明鏡止水さえ使えない。

 

ガスが消え去ったことで動けるようになり、武器を構える魔法少女達が迫る。

 

「虐殺を行った道に退路は無い…叶えたい社会理想さえ破壊された…それでも…それでも!!」

 

()()()()()()()()()を探し続ける。

 

そんな人間の守護者でいたいと彼は叫ぶ。

 

地面を踏み砕き、野獣の如き速度で魔法少女達に向けて突き進む。

 

ナオミとウラベは離れた位置に移動して尚紀の覚悟を見守ることしか出来ない。

 

そしてこの騒動に気が付いた人物達は他にもいるのだ。

 

「大変です!!」

 

街の治安活動任務を続けていた時女の和装魔法少女が静香に状況を報告する。

 

飛ぶように時女一族が動き出し、静香は連絡先を交換出来たななかにも連絡したようだ。

 

この騒動を魔石の未来予知で知っていたニコラスは既に車を走らせペレネルの元へと向かっている。

 

神浜北養区の山道からは神浜の街に入ってきたハンターカブの明かりが近寄ってきていた。

 

グリーフキューブを運び終えた鶴乃も合流を呼びかけられ現場に向かっていたようだ。

 

「ダメだよみんな…こんな戦いはダメ!!私たち…見失ってた!!」

 

飛ばせるだけ飛ばして南凪区の神浜港を目指す姿が夜道を超えていくのである。

 

この一戦が人修羅である嘉嶋尚紀が魔法少女と戦う最後の光景となるだろう。

 

魔法少女の虐殺者として生き続けた彼が残す最後の戦いとなった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

人修羅の行方をいち早く把握出来たのは、神浜のスマートシティ化を請け負ったアルゴン社。

 

中央区にあるアルゴンソフト支社の都市管理部門からの連絡を受けたシドとアリナは移動。

 

神浜港の海上には大型の豪華クルーザーが停泊しており、2人の姿も見えた。

 

「……ねぇ、人修羅の様子がおかしいんですケド」

 

双眼鏡で戦いの行方を見守る2人だったが、アリナは双眼鏡を下ろして不満顔。

 

「あんな連中にボコられるデビルが、本当にアリナ達のゴットになれるワケ?」

 

「これは想定内でス。追い詰められれば追い詰められるほド、我らの神は覚醒していク」

 

「それも、イルミナティのルミエールゴッドが言ってたワケ?」

 

「ルシファー様は全てを見通されておられまス。安心しなさイ」

 

「フン。ならアリナも、もう少しぐらいボーリングショーに付き合ってあげるんですケド」

 

再び双眼鏡を持ち、事の顛末を見守る姿勢。

 

コンテナ街での戦いは熾烈を極めていく。

 

「オォォーーーーーッッ!!!」

 

右手の光剣から発したのは、衝撃波を前方に広域放出させる物理魔法であるヒートウェイブ。

 

「キャァァーーーーーッッ!!!」

 

みくらとてまりとせいらが衝撃波に吹き飛ばされ、コンテナごと弾き飛ばされてしまう。

 

既に彼は悪魔の如き憤怒の激情に身を委ねるしかない戦い方にまで堕ちている。

 

体も思うように動かず、華麗な技や身体能力を発揮することさえ出来ない状態だ。

 

「よくもみんなを!!ここでなら我が魔眼の力…解放させれる!!」

 

大鎌の柄を回転させ、石突きを地面に打ち付ける。

 

「ぐっ!?」

 

地面から闇の魔力が放出し、人修羅の体を上空に突き上げる。

 

「ハァッッ!!」

 

上空に大きく跳躍した水樹塁はマギア魔法を放つ構え。

 

「魔を狩る死神の化身を、腐肉の細部に至るまで刻め!!」

 

闇の魔力を大鎌に収束させ、投擲。

 

地面に倒れ込んだ人修羅に大鎌が回転しながら迫りくる。

 

「チィッッ!!!」

 

右手の光剣で受け止め続けるが、本命は空から迫る次の一撃。

 

長い前髪に隠れた魔眼?が赤く光り、両手に魔力を収束。

 

「憂色の終止符!!!」

 

両手から放たれた紫黒色の魔の波動とは『終末宣告紋章』と名付けられたマギア魔法。

 

「舐めるなぁ!!!」

 

大鎌を弾き、光剣放出を止めて右手をかざす。

 

人修羅が放った一撃とは破邪の光弾だ。

 

「なんだと!?」

 

互いの一撃が空中でぶつかり合う。

 

「覇王の生まれ変わりの僕が!貴様らの陰謀を華麗に阻止してみせる!!」

 

「闇の覇王を名乗りたかったら勝手に名乗ってやがれ大口女め!!」

 

果敢に攻める塁だが、それでも魔力が違い過ぎるために押し切られていく。

 

<<くみが援護しちゃうよーッッ!!>>

 

倒れ込んだ周囲をモップ駆けしながら七色の光を放っていくのは牧野郁美。

 

モップ掛けにより描かれたのは人修羅を囲む虹色の結界。

 

「なんだ!?」

 

光弾同士の鍔迫り合いのため、彼は身動き出来ない。

 

「さぁ!悪魔のお掃除を始めましょう!!」

 

虹色の結界が光を放ち、地面を一気に弾き飛ばす。

 

「グハァーーーッ!!?」

 

郁美のマギア魔法である『ラブキュンステージ』に弾き飛ばされ、塁の一撃が地面を抉る。

 

彼女の一撃は地面を抉りながらも海の方角に向けて放出され消え去った。

 

「援護を感謝する!僕も数千年前の異世界ではメイド魔法使いと共に…」

 

妄想を垂れ流し始めた彼女たちから大きく弾かれた人修羅を待ち構えていたのは…。

 

「悪魔にとっておきの隠し味を教えてさしあげましょう!!」

 

巨大化させたフライパンを構えるのは、胡桃まなか。

 

大きくフライパンを振りかぶり…。

 

「最後の隠し味はこれです!!」

 

飛んできた人修羅は、巨大フライパンで打ち上げられた。

 

まなかのマギア魔法である『激辛フルコース』だ。

 

「チャンス!!やるよ…恋のパワーがみなぎってきたぁー!!!」

 

空を舞う人修羅に向けて、二丁拳銃を構えたのは江利あいみ。

 

噴き上がる連続マズルフラッシュが夜空の世界を彩っていく。

 

彼女のマギア魔法である『絶対ロックオン』の弾丸が次々と命中していく。

 

「くっ!!!」

 

懐かしい痛みに襲われた彼が空中で態勢を立て直し右手を翳す。

 

破邪の光弾を地面に撃ち込まれたが、あいみは跳躍回避。

 

「効いてる…?あの悪魔…()()()()()みたい!!弾丸のように鋭い刺突も効くかも!」

 

地面に大きく叩きつけられたが追撃は直ぐそこ。

 

「いくわよ!今がきっと、私たちが花開く時だよかのこさん!!」

 

「オーケー!合わせるわ!!」

 

巨大な剪定鋏の剣と針のように細い細剣を振りかざす2人が駆け抜ける。

 

春名このみが周囲に複数の光を放ち投擲。

 

人修羅の周りに空から落ちてきたのは複数の剪定鋏。

 

光剣で溶断していくが、地面に落ちた魔法武器から次々と巨大ブーケが出現する。

 

「こんな魔法ありかよ!?」

 

視界が遮られたことに動揺していたが、既に2人の魔法少女はブーケの隙間を掻い潜る接敵。

 

前から現れたのはマギア魔法である『ピオニーブーケ』の巨大剪定鋏を振り上げるこのみだ。

 

「ハッ!!」

 

「くぅ!?」

 

光剣で右薙ぎを行い、このみの武器を溶断したが罠だ。

 

「まんまとそっちに引っかかったわね!」

 

心が激情に支配され、心眼も聴勁技術も使えないため裏をかかれた。

 

「ほらほら、この一撃がお似合いだって派手な感じで!!」

 

瞬速の細剣斬撃となったマギア魔法の『ヤヨイコレクション』が焼け爛れた体を無数に刻む。

 

「くっ!!」

 

後ろに後退したがそれでも前に踏み込む。

 

「あなたのショーは幕引きだから!!」

 

低い姿勢から心臓に目掛けて放つ一撃。

 

彼は右手を翳す。

 

「っ!!」

 

右掌で細剣を受けたが右掌を貫通する程の一撃となった。

 

「邪魔だぁぁーーーっ!!!」

 

「「キャァァーーーーーッッ!?」」

 

周囲に竜巻が生まれ、2人の魔法少女を大きく上空に弾き飛ばす。

 

「ハァ!ハァ!ハァ!!」

 

焼かれた体や肺だけでなく、彼の体は猛毒に侵されている。

 

動けば動く程に毒が回り、彼の体を傷つけ死に近づけていく。

 

右掌から業火を生み出し細剣を溶解させるが、次から次へと魔法少女たちが迫りくる。

 

「悪魔を休ませるな!回復されたら厄介だ!!」

 

「他の連中に後れをとるわけにはいかないわよ、ももこ!!」

 

接近戦を主体とする魔法少女たちの猛攻が迫る中、彼は一歩たりとも引かない姿勢。

 

「俺は逃げない!!俺の進む道は…人間を守る道!逃げ出すのは人間を見捨てることと同じだ!」

 

――迷いというものは、ああなりたいという欲望から生まれる。

 

――それを捨てれば…問題はなくなる。

 

――人は迷って当然だ。大切なことは、君が納得することだと思う。

 

次々と魔法少女たちの猛攻を掻い潜る世界でも、彼の耳には愛した人達の声が響く。

 

「俺は己の欲望を捨てる!!貴様らにへりくだる道では…人間は守れない!!」

 

尚紀は納得がしたい。

 

風華という人間の守護者が生きた道こそが、絶対的に正しいのだと納得がしたい。

 

彼女は周りの魔法少女と仲良しクラブを結成し、面白おかしく生きてきたわけではない。

 

たった独りでも、魔力が枯渇しようとも、人間社会を優先してくれた気高き魔法少女。

 

だからこそ彼もまた、独りであっても戦い続ける…風華のように。

 

それでも彼の悲痛な感情の叫びよりも、己が気が付いてしまった真実が体の動きを縛り上げる。

 

「ガハッ!!?」

 

大きく吐血し、下を見れば背中側から刺された短剣の刃が胸を貫いている。

 

「…貴方に陥没させられた顔の礼と、こころを傷つけた礼…受け取りなさい」

 

背後の蒼い鬼火の中から出現したのは加賀見まさら。

 

刃は回復させたばかりの心臓を貫いていた。

 

「いくわよ!!私とまさらの絆の力を受け取りなさい!!」

 

こころが踏み込みマギア魔法を打ち込む。

 

「グアァァーーーーッッ!!!」

 

ディスクリート・バレットが顔面に決まり、雷で感電しながら大きく弾き飛ばされた。

 

「いける…いけるぞ!!アタシ達の力で…悪魔を倒せる!!」

 

「あーしは洗脳魔法系だから、あんまりやれることがないんだけどね~」

 

科学の魔法は周囲を巻き込むため後方で指揮をとるみやこと、参謀?な木崎衣美里。

 

そんな彼女たちの後ろでは、この戦いにまだ疑問を持つ魔法少女たちがいる。

 

「ふゆぅ…このままで…いいのかな…」

 

「あの…かえでお姉さん」

 

「理子ちゃん…?」

 

「私……こんな戦い耐えられません!!今直ぐやめさせて下さい!!」

 

「で…でも…もう止められないよ…。私だって怖いのはイヤだし…あの人がいなくなった方が…」

 

「あの人は…尚紀さんは!人間社会のために戦ってます!だったら…私たちと同じはずです!」

 

「だけど…あの人は魔法少女を虐殺する悪魔だし…」

 

「そ…それは……」

 

「私…怖がりだから、ああいう人はちょっと…受け入れられないかも…」

 

「だからって…だからってあの人が叫んだ言葉を…聞こえないフリだなんて…」

 

「私、弱い子だし…()()()()()()()()()()()()()…ももこちゃんやレナちゃんに迷惑だよ」

 

彼女は保身を選び、集団と共依存する道を選ぶ。

 

人は集団主義に依存する傾向が強い。

 

自分を価値の低い者と感じ、自分が他者にとってなくてはならない者であろうと努力する。

 

他者からの好意を得るためなら何でもする。

 

つねに他者を第一に考え、みずからは犠牲になることを選択する。

 

そんな意志薄弱な共依存人間だからこそ、自分が正しいと思えることさえ言えなくなる。

 

「ぐっ……うぅ……」

 

ふらつきながらも立ち上がる人修羅。

 

回復する暇さえ与えられず、重症の体を引きずりながらも耳の奥には大切な人々の声が響く。

 

――ヒト…シュラ…繰り返しちゃ…ダメだ…ホ…。本当は…望んでた…はずだ……ホ…。

 

――もう一度…勇や千晶…みたいに…優しい心を…持ってる…同世代の…友達と…。

 

――生き…られ…る…人生……が……欲し……か……。

 

――お前には…いなかったのか…?

 

――命をかけてでも…共に生きたいと願った…魔法少女…は…?

 

――思い…出せ……。お前…の……かけ…がえの…ない……存在……は……。

 

――本当に…人間……だけだった……の……か……?

 

社会のために欲を捨てろ、かけがえのない人達を守れという()()()()()

 

自分の本当の気持ちに目を向けて、自由に生きろという()()()()()

 

「大切な人々から…託された…相反する…願い…」

 

愛してやまなかった存在たちが、彼の心と体を逆に向けて拘束する。

 

「両手が重い…まるで…()()()()()()()()かのように…動かない…」

 

託された相反する願いが、まるで大岡裁きの如く彼の心と体を逆に向けて引っ張り続ける。

 

「それでも…風華の墓と…家族の墓に…誓ったんだ!もう二度と…悲劇を繰り返させないと!!」

 

金色の瞳が瞬膜となり、原色の舞踏を放つよりも先に決まった魔法とは…。

 

「止まってッッ!!」

 

「なっ!?」

 

悪魔の体が一瞬止まる。

 

麻友の固有魔法である敵の攻撃を少し止める力が発揮されたようだ。

 

「勝機ね!!レナの頭部を玩具にしてくれた礼…キッチリ返させてもらうわ!!」

 

レナが跳躍し、人修羅の前方に並べるようにして鏡を生み出す。

 

鏡に映るレナたちが一斉に槍を構え、跳躍したレナと共に複数の槍を投擲。

 

前面から弾幕を張るように迫るレナのインフィニットポセイドンに対し、無防備な姿勢。

 

次の瞬間…。

 

「カッ…ハッ……!!!」

 

一瞬しか効果が無い拘束魔法が解けた瞬間に体を動かそうとしたが上手く避けれない。

 

次々とレナの三叉槍が人修羅の体を貫いていく。

 

左太腿を貫き、右脇腹を貫き、左肺を貫き、右腕をも貫く。

 

「トドメだぁぁーーーッッ!!!」

 

跳躍からのチャージ唐竹割りの一撃が彼の右肩を襲う。

 

骨に食い込み受け止めたが、肩に深く刃がめり込んで止まる。

 

「ガァァァーーーーッッ!!!」

 

口からファイアブレスを吐き出すが、当たるよりも先に剣から手を離して側転回避。

 

立ったままだが、その姿は生きているのが不思議なぐらいの満身創痍。

 

「人修羅…いいえ、ナオキ……。貴方はそれでいいの…?」

 

彼の覚悟を見届けると決めたとはいえ、ナオミとウラベは唇を噛み締め眉間にシワを寄せる。

 

「正義だのなんだの連中は振りかざすが…ようは感情の問題だ」

 

――憎けりゃ殺す。

 

――それが人間ってもんじゃないのかね。

 

痛ましい姿を目撃することとなってしまったのは遅れて到着した魔法少女達も同じだ。

 

「あ……あぁ……尚紀さん!!!」

 

「な……なんてことを!!!」

 

ななか達とこのは達が悲鳴を上げる。

 

「そんな……なんて姿にされて!!」

 

「いや……私の先輩が……先輩がぁーっ!!」

 

静香たちも悲鳴を上げていく。

 

この神浜港でマフィア騒ぎがあった時、闇の世界で生きた王虎はこんな言葉を残す。

 

――魔法という力に酔いしれながら悪者と決めた相手を殺セ!!

 

――力で悪者を倒す正義のヒーローだと酔いしれろ!!

 

――正義とは、()()()()()()()()()()()()()()()()だぞ…ハハハハハ!!

 

駆け寄ろうとする魔法少女たちに向けて尚紀が吼えた。

 

<<来るんじゃねぇーーーーッッ!!!!!>>

 

彼の悲痛な叫びが届いたのか、ななかや静香たちが止まっていく。

 

大きく吐血し、口から大量に血を流しながらも尚紀は言葉を続ける。

 

「これは…俺が背負う業…俺がもたらした…因果!だから頼む…俺に背負わせろ!!」

 

彼は己の責任から逃げない。

 

自由とは、責任を背負える者だけが選ぶことが出来る道。

 

ならばこそ、これが魔法少女の虐殺者に与えられるべき()()()

 

「ダメ…ダメだよ…嫌だよ私……こんな光景……」

 

涙が浮かんでいく鶴乃は、意固地になってでも己の道を貫こうとする彼の姿が他人とは思えない。

 

――エゴは優越性の欲求であり、自分を認めて欲しい訴え。

 

――お前は無意識に気が付いてたんだろ?私の誤りを指摘して、正しい行動に導いてほしいと。

 

「努力するのは逆効果だって教えてくれた人が…私のようにエゴに飲まれちゃ…ダメだよっ!!」

 

今の彼と同じようにして、己のエゴを貫く道を選んでいたとしたら…。

 

それはきっと…自分も周りも傷つけるだけの破滅の道。

 

「ヤダよ!傷だらけになっていく貴方の姿は()()()()()()()を見ているみたいで…苦しいの!!」

 

やってきた魔法少女たちの悲痛な叫びを聞いた正義の魔法少女たちが動揺していく。

 

満身創痍でありながらも歩こうとしてくる悪魔の姿を見てさらに動揺が広がっていく。

 

「なぜだ…なぜお前は悪魔なのに……そこまでして戦おうとする!?」

 

正義の魔法少女たちを率いる長の叫びを聞き、掠れた声で返す。

 

「…この世界に、流れ着き…無くしたくないモノを…また…見つけられた…」

 

満点の星空が広がる森。

 

この世界に流れ着いた日の記憶。

 

やり直せると信じて東京に帰った日。

 

家族に拒絶された日となった。

 

誰にも覚えていてもらえない日となった。

 

居場所を失い彼は彷徨う。

 

何処かの街の路地裏で全てを呪いはじめた頃。

 

嘉嶋尚紀はもう一度見つけられた。

 

無くしたくないモノたちを。

 

「俺はもう…失いたくない…!だからこそ…俺は…人間の…守護者に…!!」

 

「もういい!倒れてしまえ!!アタシたちだって…もうこれ以上は…!!」

 

「失わない…仕組みが…いる…!それが無ければ…()()()()で…済まされる社会にしか…!」

 

「お……お前……」

 

ももこの握る大剣が震えていく。

 

レナが握る槍も震えていく。

 

彼の魂の叫び…それは悪魔の叫びなどではない。

 

大切な人を無くしていった人間の叫びだから。

 

「俺を…この世全ての悪だと…罵ろうが…構わない…!それを…背負ってでも…俺は…!!」

 

――人間の守護者で…在りたい!!!

 

脳裏に浮かぶのは、かつての世界で守れなかった大切な人々。

 

脳裏に浮かぶのは、この世界でも守れなかった大切な人々。

 

だからこそ彼は止まらない。

 

もう尚紀は失うことを繰り返させたくない。

 

その先に破滅が待っていようとも止まらない。

 

選ぶのは秩序(LAW)か?

 

それとも混沌(CHAOS)か?

 

あるいは中庸(NEUTRAL)か?

 

赤き思想を纏う英雄が選ぶ選択の答えが今、示される時がきた。

 




読んで頂き、有難うございます。
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