人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
惨劇の夜が明けた次の日、回復魔法によって重症を癒せた魔法少女達は集まっている。
彼女達は今後の判断を仰ぐために西や中央の長の元に向かうのだが驚愕してしまう。
「な…なんだとぉ!?倒れていたやちよさんが…隣町の病院に緊急搬送された!?」
スマホでみふゆと連絡を取り合うのは中央の長である都ひなのであろう。
「早朝の頃…北養区の山道を通ってた車に見つけられて救急車を手配してもらえたみたいです」
「そんな時間にどうしてやちよさんは北の山道で倒れていたんだ…?」
「救急車を手配してくれた人の話では、乗ってたバイクが爆発したように壊れていたそうです」
「バイクが爆発?やちよさんは自分のバイクに乗りながら…どういう状況になったんだ?」
「私達の救援を頼みに行った春名さんの話ですと…ミレナ座に向かうために飛び出したと…」
「だとしたら…やちよさんがバイクに乗って戦ったのは…あの男の姿をした悪魔か…」
「目を覚ました私達はやっちゃんが救援に行った調整屋に向かったんですが…その……」
「…聞いている。ミレナ座は燃やされ…匿ってもらえていた魔法少女達も…」
「生き残れていたのは…かりんさん、みかげさん…それにみたまさんと月咲さんだけでした…」
「…今、何処から連絡してるんだ?」
「隣町の病院です。みかづき荘に立ち寄った時に電話が鳴ってまして、私が連絡を聞きました」
「財布か何かに連絡先を入れてあったんだろうな…やちよさんの容態はどうなんだ?」
「強い精神的ショックにより…急性PTSDと診断されました。動悸と呼吸困難で倒れたんです」
「急性の精神障害だと?これも悪魔の魔法か何かなのか…?」
「分かりませんがソウルジェムが危険です…鶴乃さんにグリーフキューブを運んでもらいます」
「分かった…やちよさんの事を頼んだぞ…」
電話を切ったひなのが皆に振り返る。
西の長が不在であったため、東西の魔法少女達は中央の都ひなのの元に集まっている。
かりんとみかげと月夜の3人はみたまと月咲を匿うための護衛としてこの場にはいない。
「聞いての通りだ…西の長は倒れ…悪魔は逃走。調整屋は燃やされ…魔法少女達が虐殺された」
中央の広場に集まっている魔法少女達の顔に動揺が広がっていく。
「ごめん…アタシ達が悪魔を止められなかったから…」
「ももこ…お前の責任じゃない。アタシ達だって…悪魔を止められなかったんだ」
「レナ…あの悪魔を絶対に許さない!!見つけ出して…必ず仕留めてやるんだから!!」
怒りに燃えるレナだったが、横に視線を向ければ怯え切った表情のかえでがいる。
「わ…わ…私…また悪魔と…戦わないといけないの…?」
彼女は腕をへし折られた上に女の命ともいえる顔面を潰されている。
回復魔法で顔は元通りになってはいるが、強い恐怖心を植え付けられているようだ。
「このままでいいわけ!?悪魔はまだ生きてる…だったらみたまさん達だってまた狙われる!」
「だ…だ…だけど……」
「皆はどうなのよ!?このまま悪魔を野放しにしていいわけ!」
レナの叫びに対し、東の魔法少女達はこう告げてくる。
「アタシは賛成だよ。あの悪魔を野放しには出来ない…十七夜さんを襲ったのは悪魔なの!」
レナに賛成するかのこは彼女達から東の長が襲われた件について聞かされた者であろう。
「私達も行くわ。大事な後輩を傷つけられたままで終わらせるつもりはない」
「敵は強い…それでも、分散しないで戦えば勝機もあるかもしれないです」
「フォートレス・ザ・ウィザードの僕に敗北は許されない…!次こそは勝つ!!」
みくらとてまりと塁もレナに賛成の意思を示すのだが、後輩のせいらは浮かない顔つきである。
「せいらお姉さん…私達…本当にあの人と戦っていいのかな…?」
「理子ちゃん…?」
「私達…間違ってたと思います…。だってあの人は…人間社会のために戦って…」
「うん…それを私も考えてた。だけど…それを言える空気じゃなくなってきてる…」
せいらと理子は周囲の言葉に耳を澄ませる。
「私は悪魔と再び戦うわ。顔を潰された礼と…こころを傷つけられた礼…きっちり払わせるわ」
「皆を守りきる…私の力はそのための力だと思う。まさらだけを行かせはしないわ」
「2人がそう言うなら私も行くしかないよね…うぅ…死ぬ前に伊勢崎君に好きと言われたい…」
「あーしは…まぁ、みゃーこ先輩が行くなら行くよ。だって心配だし!」
橋の上で戦った魔法少女達も次々と賛成の意思を示していく。
「ほら見なさい、レナの意見に皆が賛成したわよ」
「だ…だけど…本当にそうなのかな…?」
「皆の言葉を疑う気!?」
「そういうわけじゃ…ないけど…」
「ももこだって、レナと同じ気持ちよね?」
「当たり前だ。アタシはもう…これ以上悪魔のせいで魔法少女を犠牲になんてされたくない!」
「ももこちゃん…レナちゃん……」
かえで達が直面している魔法少女達の心理現象こそ、
自分が正しいと思う考え方を肯定する情報ばかりを集めてしまう心理状態を指す。
自分に都合のいい情報ばかりを集めて意思決定しようとしてしまう偏見状態を表すだろう。
また
ひなのは周囲の喧噪を見回した後、小さい体で声を張り上げてくる。
「静かに!!」
中央の長の言葉で場が静まり返り、皆の顔を見渡しながら魔法少女達の決意を確認してくれる。
「アタシはお前達に問いたい。アタシ達は何を守るためにして戦ってきた?」
そう問われた魔法少女達が沈黙していたが、ももこが前に出てこう告げる。
「アタシ達は正義の魔法少女。社会に害を成す悪者と戦ってきた!」
レナも前に出てこう告げてくる。
「レナ達のような魔法少女は一緒になって絆を築いてきたの!レナの力は…皆のためにある!」
2人の決意を聞かされた周囲の魔法少女達も彼女達を肯定していく。
「私は…こころを守りたいし、あいみも守りたい。こんな私の…友達になってくれた人達を…」
「まなかも同じです!悪魔なんかがいたら…魔法少女達が安心してお食事に来てくれません!」
「くみもメイドとしてまなかちゃんと同じ気持ちだよ!悪魔が魔法少女達のラブを邪魔する!」
「魔法少女の安全保障のためにも悪魔は退けるべきです。グレイさんだって…悪魔のせいで!」
「魔法少女は花のゼラニウムのように真の友情を守る存在!それが愛と正義のヒロインです!」
出てくる言葉は全て自分達を優先する言葉ばかり。
彼女達の愛と正義はこんなにも狭い社会にしか存在していなかったのだと分かるだろう。
愛と友情を深め合えば深め合う程、エゴが強化されていく。
自分達のエゴが優先され、赤の他人に過ぎない人間社会は優先順位から蹴落とされていく。
この集団心理こそ、
自分自身は気づいていない、ものの見方や捉え方の歪みや偏りを指す心理現象である。
経験や知識、価値観、信念をベースに認知や判断を自動的に行い、発言や行動として表れる。
意識し辛く、歪みや偏りがあるとは認識していないため、無意識の偏見と呼ばれる現象だ。
こんなにも偏見に塗れた彼女達は本当に人間の味方なのか?
「皆の言葉は正しい。アタシ達は共に支え合い、絆を結んだからこそ戦ってこれた…」
その象徴こそが魔法少女達のコネクト魔法であるのだが、それと同時に失ったものもあるはず。
「だからこそ…アタシは誰一人として魔法少女を見捨てない!そのために中央の長となった!」
「ひなのさん!アタシ達に号令を出してくれ!!」
「レナ達が悪魔を見つけ出す!!絶対に…倒してみせる!!」
周囲の勢いに対し、もはや黙り込む事しか出来ないかえでや理子やせいら達。
「アタシ達は互いに支え合える道を求めてきた!その輪を断ち切ろうとする悪魔を探し出せ!」
――そして思い知らせてやろう…魔法少女達の絆の力を!!
中央の長の号令の元、集まった東西中央の魔法少女達が動き出す。
しかし彼女達とは合流せず、ビルの屋上から広場を見下ろす魔法少女がいる。
「やっぱり私…あの社会に居場所を見い出せない。ふーにいが集団を嫌ってたのと同じね…」
その人物とはルミエール・ソサエティとビジネスのやり取りをしてから消えていた保澄雫だ。
「独裁国家でも官僚や地方責任者の長い既得権益化で腐敗するって…ふーにいも言ってたわ」
これは官僚主義の中国を表し、不差為によって社会が非効率化の機能不全に陥る現象となる。
「
企業社会も同じであり、本来は利益の追求のために作られた機能的集団でなければならない。
人間社会に蔓延る自然発生的な繋がりを重視しては、長い時間により仲良し腐敗の温床と化す。
馴れ合い社会となり、企業でも新しい挑戦をしたいと言う出る杭は打たれる現象となるのだ。
正義の魔法少女達は何を守ろうとしていたのかを見失っている事に彼女は気が付いている。
しかしそれを表立って言える程、彼女はリーダーシップを発揮出来るタイプではない。
「それに気が付けない社会なら…出る杭は打たれるだけでしかないなら…私の居場所ではない」
踵を返した後、彼女はワームホールの中へと消えていく。
最初に決めた基準こそ正しく、それに向けて努力した気持ちこそが絶対的に正しいと思い込む。
アンカリング効果やコンコルド効果という認知バイアスに支配される事しか出来ない。
人という生き物は何処までも無意識的なバイアスに流されるだけの愚かな偏見生物。
エゴという自我を持つ人間も魔法少女も悪魔とて、
♦
魔法少女の虐殺を繰り返した悪魔は何処に消えてしまったのだろうか?
深夜の南凪区、神浜港。
コンテナ街はテロの影響で稼働を停止しており、再開の目処はまだ立っていない。
そんな埠頭の陸岸に彼の姿はあったようだ。
「……………」
膝が崩れた姿のまま微動だにせず、大海を見つめ続ける。
魔石を一つ飲み込んで破壊された心臓を治癒したものの、彼の体は全快していない。
体の傷すら気にならないのか、心此処に在らずの姿を晒している。
その姿は悪神として扱われてきたアスラ神族そのもの。
帝釈天インドラに須弥山を追われ周囲の大海へ追いやられた阿修羅を彷彿とさせるはず。
そんな中、彼の元に歩いてく人物達が近寄って来るが人修羅は反応してくれない。
「やっと見つけたぜ、尚紀」
「探したわよ」
やってきたのはウラベとナオミであり、知っている者達だったので顔を向けてくれる。
彼の目は既に絶望を示し始めているようだ。
「……お前らか。いつの間に縁が出来ていたんだ…?」
「私の滞在ホテルは燃えちゃったし、郊外のホテルに拠点を移そうとしたけど…不便でしょ?」
「この女はホテル業魔殿のオーナーであるヴィクトルに泣きついたってわけさ」
「ちょっと?そのヴィクトルに泣きついて部屋を提供してもらってる人がそれを言えるわけ?」
「うっ……とまぁ、俺と彼女はヴィクトルの世話に暫くなる事になってな」
「同じサマナー同士、そしてイルミナティと縁がある者同士というわけで……聞いてる?」
2人の関係を説明されたが、今の彼には右の耳から左の耳のようだ。
自分では答えが出せない尚紀は弱々しい声のまま質問してくる。
「……俺は、間違っていたのか?」
2人が黙り込む中、ナオミから事情を聞かされたウラベの口が先に開いてくれる。
「自由の権化である悪魔が魔法少女社会を治世する…か。矛盾しているよな…」
「自由…それは個人主義の世界。だからこそ悪魔は楽な道である利己主義を望むわ」
「人間とそこは変わらないし、勿論魔法少女とだって変わらねぇ。感情がそうさせるんだ」
「……個人主義だからこそ、俺は社会主義を望む自由もあると解釈した」
「混沌の中に秩序を見出す道…それを選ぶのも自由というわけね…」
母国が香港ではなく中国となってしまった立場であるナオミには言える言葉がある。
「全体主義という絶対的秩序主義の欠陥なら…貴方も自分の老師から聞いたのではなくて?」
「……ああ、聞いた」
「私の母国である香港は97年に中国に返還されて…全体主義国家の中国と併合されたわ」
「香港が完全に中国化するまでの期間はまだあるが…香港政府は既に中国の傀儡だったな」
「圧倒的暴力によって大儀という道徳を民衆に押し付ける政治体制…それが貴方の望む道よ」
「悪い……ことだったのか?」
「そもそも道徳って…
「なら……何のために道徳や倫理はある?」
「道徳や倫理は
「共産党やナチスは多様性を踏み躙ったな…たった一つの社会イデオロギーしかいらないと」
「
「……多様な価値観が認められたら、魔法少女は簡単に狂人と化す」
「でしょうね…そこが多様性の限界。人は社会的状況次第でいくらでも社会の敵となるわ」
「俺は…そいつらが恐ろしい。だからこそ俺は…全体主義を使ってでも社会を変えたかった…」
「暴力による絶対的秩序の先にはね…暴力を振りかざす倫理政党に逆らえる者などいなくなる」
一神教と同じく、一つのイデオロギーに逆らえる存在などいなくなる。
そうなってしまったら悪魔の如き道徳・倫理至上主義政党の天下となってしまうと告げられる。
「そうなれば…官僚主義という腐敗しか起こり得ないわ。崇高なる公共心も消え去ってしまう」
「甘い蜜を吸ってきた奴らに反腐敗主義をぶつけようものなら…中央政府と軋轢が生まれるな」
「それが今の中国よ。今の中国共産党は中央の反腐敗主義の圧政で不満が爆発しかけている…」
「俺が望んだ全体主義社会体制ですら…腐っていくのか…」
――七つの首が互いを喰らい合う…
「自由の世界で腐るか、秩序の世界で腐るか…人間社会の在り様は救いがねぇな…」
「だからこそ社会学に正解なんてないの。
尚紀が欲しかったのは正しさの定義。
それすら用意されなかったため、彼は再び遠くの世界に目を向けてしまう。
「…人を恐れれば恐れるほど、疑いを募らせれば募らせるほど…社会は秩序で壊れていく…」
9・11テロによって自由の国と言われたアメリカは不自由の国に成り果てている。
愛国者法というテロ対策法によってアメリカ社会は全体主義監視社会のようになってしまう。
国民のプライバシーはテロ撲滅という大儀によって侵害され、国民は自由を踏み躙られる。
テロリストの活動を監視する手段であり、攻撃を防ぐために役立つと言うが、正しいのか?
アメリカ国家安全保障局およびCIAの元局員であったエドワード・スノーデンは告発する。
陰謀論やフィクションで語られるNSAによる国際的監視網(PRISM)の実在を告発したのだ。
「俺がやろうとしたのは…この神浜テロを利用した…ショックドクトリン政治だったんだな…」
「アメリカの9・11や…中国の天安門事件と同じくね…」
――疑うのは大切じゃ。しかし…信じる事も大切なのじゃよ。
自分が殺した亡き師の言葉は耳の奥に今でも残っている。
「マスター……俺は……」
<<見つけたぞ、悪魔!!>>
大声が聞こえた方向に3人は振り向く。
そこにいたのは改革を望む魔法少女達以外の神浜魔法少女達が集結した光景である。
神浜中を虱潰しにしていた魔法少女の1人が神浜港で彼を見つけて全員に召集をかけたようだ。
「逃がさない…今度こそケリをつけてやる!!」
「あの女の人と男の人は…悪魔の味方でしょ!!レナ分かるんだから!!」
「ほ…本当に、そうなのかな…?」
「何言ってんだよ…かえで!あの虐殺者と一緒にいるなら、どう見ても仲間の加害者だろ!!」
ウラベは狙撃によってももこ達を救っているが、彼女達はそれを確認出来てはいない者達。
憶測で判断してはいけないため証拠を重視するのが警察であるが、魔法少女は子供でしかない。
「いい加減にしろよ…正義馬鹿共。十代の気分屋な魔法少女共は…これだから嫌いなんだよ」
「私も同じよ。私は彼のボディガードを依頼されている身…彼に手を出すなら容赦しないわ」
前に出たサマナー達が封魔管を取り出して同時に構える。
「悪魔達が攻めてくる!行くぞ、みんな!!」
ももこが激励の魔法を周囲にかけ、魔法少女達から恐怖心を消してしまう。
恐怖心があるからこそ、本当にこの道は正しいのか疑う気持ちにもなれたのに掻き消される。
睨み合うサマナーと魔法少女達であったが、ウラベとナオミの肩を掴んだのは人修羅である。
「……手を出すな。連中の目的は…俺だ」
「で、でも貴方は…!?」
「お前…まだ傷が癒え切っていないし、迷いも晴れてないだろうが!?」
「これは俺がもたらした光景…俺に責任があるんだ…俺に背負わせろ…」
「尚紀…お前って奴ぁ……」
「何べんでも言ってやるわ…度し難い程のお人好しだとね…」
「所詮は血塗られた定め。この罪から…逃れようとは思わない」
「あの子達には言葉は通じない。貴方は彼女達からこう呼ばれる…
シジマのコトワリ神の名を語られた彼の口元が笑みを浮かべてくる。
「ならば本望だ。シジマのコトワリを掲げた俺の道はきっと…アーリマンだったのさ…」
そう言い残した後、彼は魔法少女達の元に歩み寄っていく。
後ろ姿を見送るナオミはようやく理解したようだ。
「私が人修羅を欲した原因は…彼の中に…アーリマンを見いだせていたからだった…」
東の魔法少女達が自由と平等という混沌をもたらした事に対して、それを否定した魔法少女達。
人修羅がもたらした絶対的秩序主義に対しても、それを否定した魔法少女達。
ならば彼女達はどちらも選ばない
論語においては中庸の徳たるや、
中庸は道徳の規範として最高至上であるとするが、中庸のバランスを保って行くのは至難の業。
知情意を統一体として均衡させるだけでなく、個々の中でもバランスをとるのは一生の課題。
東洋哲学的には平常心や恒心といったものを持つ事が如何に大事かというのを語っている。
果たして、彼女達は知情意を統一体として行えているのだろうか?
前に進み出た人修羅が魔法少女達と相対する時、こんな言葉を残してくれる。
「……
戦った時に彼が語った言葉を無視するかのようにして立ち塞がる魔法少女達に送る言葉。
それは人修羅が選ぶ事があったかもしれない別の可能性において語られた秩序の言葉。
コトワリを選ばず世界をやり直す選択肢を選んだ時、無限光が人修羅を呪った言葉であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
睨み合う両雄達であったが、先に口を開いたのは人修羅である。
「西の長は崩れた。次はお前達が彼女の後を追う番だ」
「やちよさんを襲ったのは…やっぱりお前だったんだな!!」
「やちよさんに何をしたのよ!?レナ…あんただけは絶対に許さない!!」
「何もしてはいない。あの女は自分で壊れただけだ」
「悪魔の理屈なんて信じない!お前がやちよさんを傷つけて病院送りにしたんだ!!」
「何とでも言え。俺は貴様らに恐怖を刻み込む…それは次の社会に必要だからだ」
「悪魔が…まなか達魔法少女を支配するっていうんですか!?理不尽です!」
「貴方を倒して…グレイさんの居所についても吐いてもらいます!!」
「俺が貴様らに求めるものとは、集団の社会化だ」
「集団の…社会化?」
「力ある者とは、その力に意味が与えられなければならない。お前達の力の意味は俺が決める」
「ふざけないで!私達は、あんたのような悪魔のために魔法少女になったんじゃない!」
「魔法少女達は辛い苦しみに耐えてでも…叶えたい願いのために契約したんです!」
「それを何様のつもりなの!?いい加減にしなさいよね!!」
「だとしたら貴様らが望んでいる事は…自分だけの奇跡と魔法の力を独占したい気持ちか?」
その質問が魔法少女達の怒りをさらに煽る。
「くみは見てきた!自分の為に願いを使う子も多いけど…誰かのために奇跡を願う子もいる!」
「誰かのためというのは、魔法少女のためだったのか?それとも人間のためだったのか?」
「そ、それは…人間のためだったり、魔法少女のためだったりとか…」
「人間のために一度しかない奇跡を使ったくせに、人間社会を見捨てるとはな…」
「悪魔のくせにどうしてそこまで人間社会の肩を持つのよ!?悪魔は人間を襲うものでしょ!」
「悪魔の生き方は自由。そしてさっきも言ったが俺は魔法少女社会に社会全体主義を敷く者だ」
「社会全体主義…?それって…漫画とかでみたことがある…ファシズムってやつなの?」
「独裁政治さ。魔法少女を社会化するとは人間社会に忠を尽くす選択肢しかいらない治世だ」
「私達の自由意志を奪って…魔法少女達の人権を踏み躙ると言いたいわけ!?」
「俺が
ファシズムなどの全体主義社会は
働きアリという雄、子供を生んで育てるという雌。
それぞれが巣という全体を繁栄させるために役割を分担して機能する社会環境を表す。
人間でいえば国家社会のために働き、髭を剃り、食事をして眠る毎日を送る光景だろう。
徹底して人々に効率だけを求めさせるワンマンブラック企業などにも当て嵌まる社会体制だ。
彼の望みに対して、魔法少女達の口元が怒りによって食いしばられていく。
「ふざけんなぁーーッッ!!お前は…何処までも傲慢だ!!何様のつもりなんだよ!?」
――
ももこの怒りの叫びに対し、彼の口が閉ざされてしまう。
何も喋らなくなり、表情も驚愕と動揺に包まれている。
「俺が……神を気取っている……?」
一神教の如き全体主義を望んだ先の頂きにある神といえば
天命とは運命の一種である受命思想であり、中国における天帝が人々にもたらす支配。
万物創生の神であり天上の最高神を表し、仏教では帝釈天、キリスト教では唯一神を表す。
人修羅のひび割れた心のガラスが全て砕け散ってしまう。
「俺の在り方は……唯一神だった……?」
交わした約束、それを守り抜きたかった道を生きてきた。
守り抜くために戦い抜いた、多くを犠牲にしてまで戦い抜いた。
二度とこんな悲劇は繰り返されるべきじゃないと願った。
そう願った彼が辿り着いた頂きとは、唯一神の如き存在と成り果てる光景である。
一つのイデオロギーしか存在してはならないと人々に強制する唯一神に成り果てている。
今の人修羅の姿は、もはや嘉嶋尚紀が呪い続けた存在そのものなのだ。
「チャンス!!」
ももこは大剣を振り上げ、チャージを最大まで溜め込んだ構えをしている。
「ハァァーーーッッ!!」
跳躍飛びによって一気に距離をつめたももこの左薙ぎが襲い掛かってくる。
彼は立ち尽くしたまま避けることさえ出来ない。
三日月の曲線を描く独特な刃が左上腕にめり込み、彼の体が弾き飛ばされてしまう。
「よし!!角度はバッチリ!!」
積まれたコンテナに叩きつけられ、コンテナを弾き飛ばしながら宙を舞う。
倒れ込んだ場所はガントリークレーンの下側。
コンテナの瓦礫に埋まってしまった人修羅の回りから毒々しい煙が噴き上がっていく。
「がっ……あっ……?」
ようやく我に返った人修羅は左腕の激痛によって顔を歪める。
杏子の斬撃ですら薄皮一枚斬るのがやっとだった腕が骨に食い込むまで切断されている。
腕の神経を切断され、左腕の感覚がなくなってしまう。
そして周囲の煙が彼にさらなる地獄を味合わせる事態になるのだ。
「ゴホッゴホッ!!なんだ…この酷い化学薬品の煙は!?」
彼の表情が土気色になっていき、全身が猛毒に侵されていく。
マガタマのイヨマンテは精神支配魔法を無効化出来るが毒には耐性がないのだろう。
<<長として、悪魔の前から隠れていた非礼を詫びよう>>
声が聞こえたのはガントリークレーンの上側である。
クレーンの上に立っていたのはガスマスクを纏う都ひなのなのだ。
「だが本来、アタシの戦い方はこういう搦め手なんだよ。アタシは理系だからなぁ」
彼女は右手を持ち上げて指を鳴らす。
クレーンに吊るされていたのは魔力で生み出した大型の化学薬品用水平貯蔵タンク。
巻き上げワイヤーに設置してあったフラスコ瓶が指の合図と共に砕け、ワイヤーを腐食させる。
千切れたワイヤーから切り離され、落ちていく貯蔵タンクの下には人修羅がいる。
「くっ!?」
右手に光剣を放出して切り上げ、落下してきた貯蔵タンクを切断したのが運の尽き。
「グアァァーーーーッッ!!!」
中から撒き散らされた液体とは次亜塩素酸ナトリウム。
安全基準を遥かに超えた塩素濃度によって彼の皮膚は化学熱傷を受け、肺もガスで焼かれる。
「人がいない場所に逃げ込んだのが運の尽きだな」
クレーンから飛び降り、地面に着地した都ひなのが皆の方に駆けてくる。
魔法少女達も化学薬品の臭いが酷過ぎて気分を害しているようだ。
「ぐぅ…みやこさんの魔法って、こんな悪臭を撒き散らすのか…」
「レナ…なんか吐きそう…」
「ご、ごめん…私……う、うぐぅ!!」
かえではコンテナの後ろ側に走って行く中、ひなのはガスマスクの下でドヤ顔している。
「理科の実験は安全を重視しないとならない理由が分かったか、お前ら?」
ガスマスクをつけているので内側のドヤ顔は周囲には伝わらない。
ガスが充満していくコンテナ街だったが、魔法少女達は風の流れを感じている。
「な、なに…この強風…?」
「ガスが…消えていく…?」
風がクレーンの下に集まっていき、巨大な竜巻を生み出す。
「な、なんだとぉ!?」
ガスマスクを外した都ひなのは驚愕する。
竜巻によって周囲の塩素ガスと猛毒ガスが巻き上げられてしまうのだ。
「風を操る魔法なのか…?」
ガスを巻き上げたが彼は全身火傷と肺の傷によって苦しんでいる。
「ぐっ……うぅ……」
持ち上がらない左腕に代わり、ボロボロのウィザードコートを右手で掴みながら脱ぎ捨てる。
「ゴホッゴホッ!!これだけの戦いが出来たのか…やはり魔法少女は…侮れない…!!」
焼け爛れた上半身のまま彼は右腕だけで拳法を構える。
もはや彼を支えているのは交わした約束と佐倉牧師の導きの言葉のみ。
(なんだ…?体が重い…俺の言う事を…聞いてくれない!?)
全身に酷い虚脱感を感じ、心も乱れ切ったため武の神髄である明鏡止水さえ使えない。
ガスが消え去った事で動けるようになった魔法少女達が武器を構えてくる。
「虐殺を行った道に退路は無い…叶えたい社会理想さえ破壊された…それでも…それでも!!」
――俺は人間を守れる可能性を探し続ける、人間の守護者だぁ!!
地面を踏み砕き、野獣の如き速度で魔法少女達に目掛けて駆け抜ける。
ナオミとウラベは離れた位置に移動しており、尚紀の覚悟を見届ける事しか出来ない。
そしてこの騒動に気が付いているのは他にもいるはず。
「大変です!!」
街の治安活動任務を続けていた時女の和装魔法少女が静香に状況を報告してくれる。
飛ぶように時女一族が動き出し、静香は連絡先を交換出来たななかにも連絡していく。
この騒動を魔石の未来予知で知っていたニコラスは車を走らせながらペレネルの元へ向かう。
北養区の山道からはハンターカブの明かりが神浜の南凪区を目指す。
「ダメ…こんな戦いはダメ!私達は見失ってた…守りたい存在は誰なのかを見失ってたの!!」
運転する鶴乃は飛ばせるだけ飛ばしながら南凪区の神浜港を目指していく。
この一戦こそ、人修羅である嘉嶋尚紀が魔法少女と戦う最後の戦場となるだろう。
魔法少女の虐殺者として生き続けた彼が見せる最後の意地が彼自身を殺していくのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
人修羅の行方をいち早く把握したのは神浜のスマートシティ化を請け負ったアルゴン社である。
中央区にあるアルゴンソフト支社の都市管理部門からの連絡を受けたシドとアリナは移動する。
神浜港の海上には大型の豪華クルーザーが停泊しており、2人の姿もいるようだ。
「……ねぇ、人修羅の様子がおかしいんですケド」
双眼鏡で戦いの行方を見守る2人であったが、アリナは不満な顔つきをしている。
「あんな連中にボコられるデビルが本当にアリナ達のゴットになれるワケ?」
「これは想定内でス。追い詰められれば追い詰められるほド、我らの神は覚醒していク」
「それもイルミナティのルミエールゴッドが言ってたワケ?」
「ルシファー様は全てを見通されておられまス。安心しなさイ」
「フン。ならアリナも、もう少しぐらいボーリングショーに付き合ってあげるんですケド」
再び双眼鏡を持ちながら事の顛末を見守るアリナが見つめるのは熾烈な戦いの光景である。
「ウオォォォォォォーーーッッ!!」
右手の光剣から発したのは衝撃波を広域放射する物理魔法のヒートウェイブである。
「キャァァァァァァァーーッッ!!」
みくらとてまりとせいらが衝撃波に吹き飛ばされ、コンテナまで弾き飛ばされてしまう。
人修羅は悪魔の如き憤怒の怒りに身を委ねる戦い方にまで堕ちている。
体も思うように動かず、華麗な技や身体能力を発揮する事さえ出来ない状態なのだ。
「よくも皆を傷つけたな!!ここでなら我が魔眼の力を解放させられる!!」
水樹塁は大鎌の柄を回転させながら石突きを地面に打ち付ける。
「ぐっ!?」
地面から闇の魔力が放出された事で人修羅の体が大きく突き上げられる。
「ハァ!!」
跳躍した水樹塁はマギア魔法を放つ構えを行うだろう。
「魔を狩る死神の化身を、腐肉の細部に至るまで刻め!!」
闇の魔力を大鎌に収束させながら投擲し、地面に倒れる人修羅に目掛けて迫りくる。
「チィ!!」
右手の光剣で高速回転する大鎌を受け止め続けるが、本命は空から迫る次の一撃である。
長い前髪に隠れた魔眼?が赤く光り、両手に魔力を収束させていく。
「憂色の終止符!!」
両手から放たれる紫黒色の波動こそ、水樹塁のマギア魔法である『終末宣告紋章』の一撃。
「舐めるなぁ!!」
大鎌を弾き、光剣放出を止めた右手を持ち上げながら破邪の光弾を放つ。
「なんだと!?」
互いの一撃が空中でぶつかり合う中、ビーム同士の鍔迫り合い現象が起きていく。
「覇王の生まれ変わりの僕が!貴様らの陰謀を華麗に阻止してみせる!!」
「闇の覇王を名乗りたかったら、勝手に名乗ってやがれ…大口女め!!」
果敢に攻め込む塁だが、それでも魔力が違い過ぎるために押し切られていく。
「くみが援護しちゃうよーっ!!」
周囲をモップ駆けしながら七色の光を放っていくのは牧野郁美。
モップ掛けによって描かれるのは人修羅を取り囲む虹色の結界である。
「なんだ!?」
「さぁ!悪魔のお掃除を始めましょう!!」
虹色の結界が光を放ちながら地面を一気に弾き飛ばす。
「グハァァァァァァーーッッ!!?」
郁美のマギア魔法である『ラブキュンステージ』で弾き飛ばされた事で塁の一撃が地面を抉る。
彼女の一撃は地面を抉りながら海の方角に目掛けて放出されながら消えたようだ。
「援護を感謝する!僕も数千年前の異世界ではメイド魔法使いと共に…」
妄想を垂れ流す彼女達から大きく弾かれた人修羅を待ち構えていたのは次の一撃。
「悪魔にとっておきの隠し味を教えてさしあげましょう!!」
巨大化させたフライパンを構えるのは胡桃まなかである。
「最後の隠し味はこれです!!」
飛んできた人修羅は巨大フライパンによって打ち上げられてしまう。
まなかのマギア魔法である『激辛フルコース』だけでなく、さらなるスパイス攻撃が迫りくる。
「チャンス!!やるよ…恋のパワーがみなぎってきたぁー!!」
空を舞う人修羅に目掛けて二丁拳銃を構えるのは江利あいみ。
噴き上がる連続マズルフラッシュが夜空の世界を彩っていく。
彼女のマギア魔法である『絶対ロックオン』の弾丸が次々と命中していく。
「くっ!!」
懐かしい痛みに襲われる彼であるが、空中で体勢を立て直しながら右手を地上に向ける。
破邪の光弾を地面に撃ち込まれるが、あいみは跳躍して回避する。
「効いてる…?あの悪魔…
地面に大きく叩きつけられる人修羅に迫りくるのは次の追撃の数々であろう。
「いくわよ!今がきっと私達が花開く時だよ、かのこさん!!」
「オーケー!合わせるわ!!」
巨大な剪定鋏の剣と針のように細い細剣を振りかざす2人が駆け抜けてくる。
春名このみが周囲に複数の光を放ちながら武器を投擲。
人修羅の周りに空から落ちてきたのは複数の剪定鋏である。
光剣で溶断していくが、地面に落ちた魔法武器から次々と巨大ブーケが出現する。
「こんな魔法ありかよ!?」
視界が遮られた事に動揺していたが、2人の魔法少女はブーケの隙間を掻い潜りながら現れる。
前から現れたのはマギア魔法である『ピオニーブーケ』の巨大剪定鋏を振り上げるこのみ。
「ハァッ!!」
「くぅ!?」
光剣で右薙ぎを行い、このみの武器を溶断出来たが罠であろう。
「まんまとそっちに引っかかったわね!!」
心が激情に支配され、心眼も聴勁技術も使えないせいで裏をかかれてしまう。
「ほらほら、この一撃がお似合いだって!派手な感じで!!」
瞬速の細剣斬撃となったマギア魔法の『ヤヨイコレクション』が焼け爛れた体を無数に刻む。
後ろに後退したが、それでも人修羅は前に踏み込む。
「あなたのショーは幕引きだから!!」
低い姿勢から心臓に目掛けて放つ一撃に対して右手を向ける。
「くっ!!」
右掌で細剣を受けた事で右掌を貫通してくる。
「邪魔だぁぁーーーっ!!」
「「キャァァーーーーッッ!?」」
周囲に竜巻が生まれた事で魔法少女達を大きく弾き飛ばしていく。
「ハァ!ハァ!ハァ!!」
焼かれた体や肺だけでなく、彼の体は猛毒に侵されている。
動けば動く程に毒が回り、彼の体を傷つけながら死に近づけていく。
右掌から業火を生み出し、細剣を溶解させるが次から次へと魔法少女達が迫りくる。
「悪魔を休ませるな!!回復されたら厄介だ!!」
「他の連中に後れをとるわけにはいかないわよ、ももこ!!」
接近戦を主体とする魔法少女達の猛攻が迫る中、彼は一歩たりとも引かない姿勢で迎え撃つ。
「俺は逃げない!俺の進む道は人間を守る道!逃げ出すのは…人間を見捨てることと同じだ!」
魔法少女達の猛攻を掻い潜る戦場でも彼の耳には愛した人達の声が響く。
「俺は自分の欲望を捨てる!!貴様らにへりくだる道では…人間は守れない!!」
尚紀は納得がしたい。
風華という人間の守護者が生きた道こそが絶対的に正しいのだと納得がしたい。
彼女は周りの魔法少女と仲良しクラブを結成し、面白おかしく生きてきたわけではない。
たった独りでも、魔力が枯渇しようとも、人間社会を優先してくれた気高き魔法少女。
だからこそ彼もまた独りであっても戦い続ける。
しかし彼の悲痛な感情よりも気が付いてしまった真実の方が体の動きを縛り上げる。
「ガハッ!!?」
大きく吐血し、下を見れば背中側から刺された短剣の刃が胸を貫いている。
「…貴方に陥没させられた顔の礼と、こころを傷つけた礼…受け取りなさい」
背後に出現した蒼い鬼火の中から表れたのは加賀見まさらであり、回復した心臓を貫いてくる。
「いくわよ!!私とまさらの絆の力を受け取りなさい!!」
こころが踏み込み、マギア魔法を悪魔の顔面に打ち込む。
「グアァァァァァァァーーッッ!!!」
ディスクリート・バレットが顔面に決まり、雷で感電しながら大きく弾き飛ばされていく。
「いける…いけるぞ!!アタシ達の力で…悪魔を倒せる!!」
「あーしは洗脳魔法系だから、あんまりやれる事がないんだけどね~」
科学の魔法は周囲を巻き込むため後方で指揮を執る都ひなのと参謀?な木崎衣美里。
そんな彼女達の後ろには人修羅と戦う事に疑問を持つ魔法少女達がいるようだ。
「ふゆぅ…このままで…いいのかな…」
「あの…かえでお姉さん…」
「理子ちゃん…?」
「私…こんな戦い…耐えられません!!今直ぐやめさせて下さい!!」
「で…でも…もう止められないよ。私だって怖いのは嫌だし…あの人がいなくなった方が…」
「あの人は…尚紀さんは…人間社会のために戦ってます!だったら…私達と同じはずです!」
「だけど…あの人は魔法少女を虐殺する悪魔だし…」
「そ…それは…その…」
「私…怖がりだから、ああいう人はちょっと…受け入れられないかも…」
「だからって…だからって…あの人が叫んだ言葉を…聞こえないフリだなんて…」
「私、弱い子だし…出過ぎた事を言っちゃったら…ももこちゃんやレナちゃんに…迷惑だよ」
親友達の迷惑になると秋野かえでは保身を選び、集団と共依存する道を選ぶ。
自分を価値の低い者と感じ、自分が他者にとってなくてはならない者であろうと努力する。
他者からの好意を得るためなら何でもする。
常に他者を第一に考え、自らは犠牲になる事を選択してしまう。
そんな意志薄弱な共依存人間だからこそ、
「ぐっ……うぅ……」
ふらつきながらも立ち上がる人修羅。
回復する暇さえ与えられず、重症の体を引きずりながらも耳の奥には大切な人々の声が響く。
社会のために欲を捨てろ、かけがえのない人達を守れという秩序の願い。
自分の本当の気持ちに目を向けて自由に生きろという混沌の願い。
「大切な人々から…託された…相反する…願い…」
愛してやまなかった存在達が彼の心と体を逆に向けて拘束してくる。
「両手が重い…まるで…
託された相反する願いが大岡裁きの如く彼の心と体を逆に向けて引っ張り続ける。
「それでも…風華の墓と家族の墓に…誓ったんだ!もう二度と…悲劇を繰り返させないとな!」
金色の瞳が瞬膜となり、幻惑魔法の原色の舞踏を放つよりも先に拘束魔法が決まってしまう。
「止まって!!」
「なっ!?」
梢麻友の固有魔法である敵の攻撃を少し止める力が発揮された事で悪魔の体が僅かに止まる。
「勝機ね!!レナの頭を玩具にしてくれた礼をキッチリ返させてもらうわ!!」
レナが跳躍し、人修羅の前方に並べるようにして鏡を生み出す。
鏡に映るレナ達が一斉に槍を構えながら跳躍したレナと共に複数の槍を投擲する。
前面から弾幕を張るように迫るレナのインフィニットポセイドンに対し、無防備な姿勢を晒す。
僅かしか効果がない拘束魔法が解けた瞬間に体を動かそうとしたが上手く避けきれない。
「ガッ…ハッ…!!!」
次々とレナの三叉槍が人修羅の体を貫いていく。
左太腿を貫き、右脇腹を貫き、左肺を貫き、右腕をも貫いてしまう中、さらに追撃が迫りくる。
「トドメだぁぁーーーッッ!!」
跳躍からのチャージ唐竹割りの一撃が人修羅の右肩を襲う。
骨に食い込む程の一撃を鎖骨で受け止めきったが、肩に深く刃がめり込んでいる。
「ガァァァーーーーッッ!!!」
口からファイアブレスを吐き出すが、当たるよりも先に剣から手を離して側転回避してくる。
立ったままだが生きているのが不思議なぐらいの満身創痍となってしまう。
「人修羅…いいえ、ナオキ…貴方はそれでいいの…?」
彼の覚悟を見届けると決めたとはいえ、ナオミとウラベは唇を噛み締めながら苦しんでしまう。
「正義だのなんだの連中は振りかざすが…ようは感情の問題だ」
――
シェイクスピアのヴェニスの商人の如く、嫌いでも憎くもなくても人を殺す輩が目立つ時代。
SNS社会によって我儘を皆に見てもらい、肯定して欲しい環境が承認欲求を後押しする。
そんな時代を生きる魔法少女という若者達もまた
痛ましい姿を目撃する事になってしまったのは遅れて到着した魔法少女達も同じであろう。
「あっ……あぁ……尚紀さん!!」
「な……なんてことを!!」
ななか達とこのは達が悲鳴を上げる中、静香達も悲鳴を上げてしまう。
「そんな……なんて姿にされて……!!」
「いや……私の先輩が……先輩がぁーっ!!」
駆け寄ろうとする魔法少女達に対して尚紀が吼える。
<<来るんじゃねぇーーーーッッ!!!>>
彼の悲痛な叫びが届いたのか、ななかや静香達が止まってしまう。
大きく吐血し、口から大量に血を流しながらも尚紀は言葉を続けてくる。
「これは…俺が背負う業…俺がもたらした…因果!だから…頼む…俺に背負わせろ…!!」
彼は自分の責任から逃げない。
自由とは
ならばこれこそ魔法少女の虐殺者に与えられるべき罰なのだと
「ダメ…ダメだよ…嫌だよ…私…こんな光景……」
涙が浮かべる鶴乃は意固地になってでも自分の道を貫こうとする彼の姿が他人とは思えない。
「努力するのは逆効果だって教えてくれた人が…私のようにエゴに飲まれちゃ…ダメだよ!!」
彼と同じようにして自分のエゴを貫く道を選ぶなら、それは自分も周りも傷つける破滅の道。
「傷だらけになっていく貴方の姿は…
やってきた魔法少女達の悲痛な叫びを聞いた正義の魔法少女達が動揺していく。
満身創痍でありながらも歩こうとしてくる悪魔を見た事でさらに動揺してしまう。
「何故だ…何故お前は悪魔なのに…そこまでして戦おうとする!?」
正義の魔法少女達を率いる長の叫びを聞いた人修羅は掠れた声でこう返す。
「…この世界に流れ着き…無くしたくないモノを…また…見つけられた…」
満点の星空が広がる森こそ、この世界に流れ着いた日の記憶の一ページ目。
やり直せると信じて東京に帰った日は家族に拒絶された日となってしまう。
居場所を失った彼は彷徨いながら何処かの街の路地裏で全てを呪っていく。
そんな時、嘉嶋尚紀は無くしたくない者達をもう一度見つけられた悪魔なのだ。
「俺は…もう…失いたく…ない…!だからこそ…俺は…人間の…守護者に…!!」
「もういい…倒れてしまえ!!アタシ達だって…もうこれ以上は…!!」
「失わない…仕組みが…いる!それが無ければ…仕方ないで…済まされる社会にしか…!」
「お…お前……」
ももこの握る大剣が震えていき、レナが握る槍も震えていく。
尚紀の叫びは悪魔の叫びなどではない、大切な人を無くしていった人間の叫びだから通じる。
「この世全ての悪だと罵ろうが構わない…それを背負ってでも…人間の守護者で…在りたい!」
脳裏に浮かぶのはボルテクス界で守れなかった大切な人々。
脳裏に浮かぶのは魔法少女の世界でも守れなかった大切な人々。
だからこそ彼は止まらない。
尚紀はもう失う事を繰り返したくない、その先に破滅が待っていようとも止まらない。
選ぶのは
赤き思想を纏う英雄が選ぶ選択の答えが今、示される時がきたのであった。
読んで頂き、有難うございます。