人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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129話 新たなる始まり

神浜市で起きてしまった左翼革命テロの対応に追われる日本政府。

 

世界一安全な国、日本の威信に関わる問題のため、犯罪対策閣僚会議が開かれる。

 

八重樫内閣総理大臣の主宰の元、全閣僚が出席する会議となった。

 

再犯防止対策推進会議を終えた閣僚達が官邸内にいるのだが、数人が会議室を出る。

 

総理執務室に入ったのは、この国の防衛大臣と科学技術政策を担当する内閣府特命担当大臣。

 

2人は総理執務室のソファーに座り、奥の椅子に座る総理に目を向けた。

 

「…やれやれ、我らの神のためとはいえ…尻ぬぐいをする我々も堪ったものではない」

 

溜息をついた八重樫総理に対し、防衛大臣が口を開く。

 

「神浜市は今後、破防法に基づく調査対象地域となるでしょうな」

 

黒髪の壮年男性。

 

オールバックの黒髪に口周りに髭を蓄え、燕尾服を思わせる黒のスーツを上着として纏う人物。

 

「…西君。今回のテロに使われたという銃器に関しては…?」

 

「恐らくは在日米軍基地を経由してのものでしょう。あれだけの武器弾薬を用意するのは難しい」

 

「共産系の左翼団体ですら、あれだけの武器弾薬は用意出来ないからねぇ」

 

「神浜市は公安監視対象区となり、いよいよ我々のデジタル政策が花開くというわけですなぁ」

 

西は目の前の内閣府特命担当大臣に目を向ける。

 

IT大臣と呼ばれる人物は低い笑い声を出した。

 

「安全保障をチラつかせれば、こうも容易く国民の監視網は作り上げれる。愚かな民衆共だ」

 

白のダブルボタンスーツに黒シャツを合わせ、黒のスクエアサングラスを纏う人物。

 

真ん中分けにしたセミロングの黒髪だが…頭頂部から左側を白髪にした奇妙な頭髪。

 

額の中央には薄っすらと縦に向けて古傷のようなものも見えた。

 

「すまないね、()()()。民間人閣僚である君には行政と自社の両方の面倒事を担当させてしまう」

 

「かまいませんよ、総理。我々アルゴンソフト社は、この国にIT支配技術を提供します」

 

「デジタルと全体主義は相性が良い。この国はいずれ、国家が国民全てを監視するようになる」

 

「それを推進するための門倉君だ。アルゴンソフト社の最先端テクノロジーがそれを可能とする」

 

「スマートフォンや監視カメラなどのデジタル技術は表現の幅を広げたが…国民は気づかない」

 

「個人情報を効率的に集めやすい。使い方次第で国家が監視を強めるリスクがあると気づかない」

 

「犯罪を犯してない民衆は気づかない。おかしい事をおかしいと言えない社会になることをな」

 

「管理者である政府を批判する者は、全員強制収容所に入れられるようになる。戦前のように」

 

「デジタル・レーニン主義を最も実行する国が独裁国家中国。我々もそれを模範する形となろう」

 

「それを可能としたのはアメリカ金融街。アメリカがベイビータイガーの中国を育ててくれた」

 

「アメリカのWASP(ワスプ)階級が支配するウォール街。ユダヤ大財閥が育てたのだ」

 

「それに気が付きもせず中国だけを悪の枢軸国と呼ぶ。正義の国と悪の国という大衆娯楽と化す」

 

「政治の裏側とは、()()()()()。それに気が付きもしないでは政治を語れんよ」

 

総理秘書官であるマヨーネに出して貰ったお茶を啜り終えた3人が、重い口を開く。

 

「……西君。箱舟計画の推進状況はどうだね?」

 

「政府機能の60%は既にザイオンに移し終えました。見滝原に敷くのは臨時政府機能だけです」

 

「もうじき東京で行われるオーダー18で使われるという、東京のI()L()C()()()()の方はどうだね?」

 

「既に完成し、いつでも稼働させる事が出来ますが……神の粒子を使って…」

 

――本当に…()()()()()()()()()()()()()()()()

 

疑いの眼差しを向ける西の気持ちも分かるのか、苦笑いを浮かべる総理。

 

「宇宙誕生間もない頃の素粒子の力だ。それはまさに神の次元のエネルギーとなろう」

 

「下手をすれば…東京だけでなく、地球どころか宇宙までをも破壊しかねないのでは…?」

 

「我らの神はそれを所望されておられる。全てはルシファー様の御心のままに事が進むだろう」

 

「しかし、それはあくまで保険。我々は魔法少女の魂を集める()()()()()()の方を本命とする」

 

「白のマニトゥと黒のマニトゥ。創造と破壊を両方から行う両建て戦術…リスクヘッジですな」

 

「白のマニトゥが十分なソウルを蓄え終えた時…世界を産む母親の生贄とする」

 

「マニトゥそのものをソウルの器とし…莫大な感情エネルギー集積体とするのだ」

 

「いずれは風船のようになって、破裂する。()()()()()()()()()()()()()だ」

 

「放出された莫大な感情エネルギーを用いて、我らは世界を産む母親を召喚するのだ」

 

「神霊規模の悪魔…そちらが魔界を産んでくれるのならば、黒のマニトゥたる加速器は不要です」

 

「イルミナティは金融家であり投資家。彼らが望むのは、どちらでも目的を達成出来る両建てだ」

 

「我々は引き続き、魔法少女狩りを行う。ソウルを白のマニトゥに喰わせるためにもな」

 

「アルゴン社は、新たなる千年王国管理体制を万全にするためのデジタル政策も同時に進めます」

 

「頼んだよ、門倉君。我らの神を迎え入れる準備を怠るわけにはいかない」

 

――なにせ、我らの神はついに…神浜市で覚醒なされたのだからなぁ。

 

愉悦を含んだ表情をしていたが、総理の細目が開く。

 

「……そういえば、西君。小耳に挟んだのだが」

 

「なんでしょうか、総理?」

 

「魔法少女の存在を明るみにしようと企む、民俗学者がいるという話だ」

 

「私も聞いたことがあるし、彼の本も目を通した。…たしか名前は、()()()()でしたか?」

 

「魔法少女の存在は、秘匿しなければならない。我々の狩りのためにもな」

 

「政府は建前でも日本国民を守らねばならない立場。ですが、存在しない者達ならば…」

 

「守ってやる必要などなくなる。我々にとっては、魔法少女はいない方が都合がいいのだ」

 

「彼の件については既に対処済みです。車内で練炭自殺という形で処分しましたが…」

 

「何か問題でも?」

 

「彼の娘と、家政婦をしている少女は……どうやら魔法少女のようです」

 

「…里見太助は、娘である魔法少女に何か秘密を残している可能性もあるというわけか」

 

「なのでダークサマナーを派遣して事に当たらせてます。フィネガンに任せれば問題ありません」

 

「殺すことはない。マニトゥの生贄にしてしまえば、結果は同じだ」

 

「では、そのように連絡を入れておきます」

 

…総理執務室の扉前で聞き耳を立てている大臣がいる。

 

美国本家の長であり、織莉子の父である久臣(ひさおみ)の兄にあたる美国公秀環境大臣だ。

 

「うっ!?」

 

周囲の視線に気づき、後ろを振り向く。

 

そこにいたのは、八重樫内閣の他の閣僚たち。

 

疑いの目線を向けるかのようにして、恐ろしい眼差しを向けてくる。

 

総理執務室前から歩き去っていく公秀(きみひで)は思う。

 

(私は…本当にこの内閣について行っていいのか?今の日本に…ついて行っていいのか?)

 

答えも出ないまま歩き去る彼の後ろ姿は…迷いに満ちていた。

 

…ユダヤの聖典の中には、こんな言葉がある。

 

――団体が長を選ぶ時には蛆虫にて一杯になった袋を背負った者を選べ。

 

――そして彼が命令に従順でなくなる時には直ちにその背中を見よ、と言え。

 

これは、歴史に名を遺す世界の首相や大統領などを表す言葉である。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

参京区の中華飯店、万々歳。

 

夕飯時ではあるがテロの影響もあり、まったく客入りはない状態。

 

「……………」

 

万々歳の店主である鶴乃の父は、テレビを食い入るように見つめている。

 

<<東地区を隔離しろーーっ!!!>>

 

<<東地区を隔離するゲットーのような壁を作れーーっ!!!>>

 

テレビに映っているのは、神浜市役所本庁舎に向けて抗議をするデモ隊の映像。

 

<<連中のせいで!!俺は子供を失った!!東の連中は全員テロリストだぁ!!>>

 

<<テロには屈さないぞ!!東の連中は全員刑務所にぶちこまれるべきだぁ!!>>

 

<<あいつらのせいで!観光産業は大打撃だ!!生活出来ない…あいつらのせいで!!>>

 

<<人も物も金も!神浜から消えていく!!全て…全て東の連中がいたせいで!!!>>

 

中継しているメディアは、全国のテレビ視聴者に向けての都合の良い部分しか報道しない。

 

東の人々に対して冷静な意見を語る西側の人々には取材など行わない。

 

報道の自由を叫びながらも、報道しない自由を選ぶのが日本メディアの偏向報道。

 

2019年においての世界メディアの報道の自由度ランキングでは…日本は67位の低水準。

 

無理もない。

 

官邸の記者会見でさえ、放送局等記者クラブに加盟する一部の者しか利用出来ない状態。

 

報道の自由が制限され、国民の知る権利が奪われた国なのだ。

 

「……この報道のせいで、東の人らは全国から悪だと思われるんだなぁ」

 

「……そうだね、お父さん」

 

学校から帰ってきた鶴乃が店を手伝うが、客も入らないので父とテレビを視聴中。

 

「ねぇ…この国ってさ、やっぱり何処かおかしいよ…。()()()()…黙ってていいの…?」

 

かつて知ったこの国の秘密。

 

周囲に漏らそうと鶴乃は考えたが、父に厳しく止められていた。

 

「やめとけ。俺達が訪問した時…タイミングを合わせるようにして口封じされた光景を見ただろ」

 

「う、うん……」

 

「闇が深すぎる…俺達でどうにか出来る案件じゃない。俺達は何も聞かなかったし、見なかった」

 

「そんなの……正義に反するよ」

 

「正義ごっこと今の生活、どっちを天秤にかけるんだ?」

 

「そ……それは……」

 

「…耐えろ。俺だって悔しいが…生活を守る立場なんだ。大人になれ、鶴乃」

 

情けなく保身に走るのが大人なのかと、鶴乃は疑問に思う。

 

重い店の空気だったが、扉を開く音が聞こえて2人は立ち上がる。

 

「いらっしゃ……あ、貴方は……!?」

 

やってきたのは黒のトレンチコート姿の嘉嶋尚紀。

 

入り口近くの席に座り、注文を聞きに来た鶴乃に視線を送る。

 

「ラーメン一つ」

 

「あ…はい。えっと…そ、その……」

 

「…俺が夕飯を食いにきたら、何か困るのか?」

 

「そうじゃないよ…無事で良かったと思って」

 

「…俺が死んでいた方が、都合がよかったか?」

 

「そんなことない!だって貴方は…私の過ちを教えてくれて…救ってくれた人だし」

 

「蓋を開けてみたら、俺もお前と変わらなかった。客観性のない主観性は成り立たないもんだな」

 

「ねぇ、注文がくるまで相席していい?少し話があって」

 

「…座れよ」

 

彼と向かう合うようにして座る。

 

鶴乃は神浜の魔法少女たちについて語ってくれたようだ。

 

「…そうか。俺に対する報復の気配はなさそうか」

 

「貴方を人殺しと言えば…罪人になったみたま達を否定するのと同じ…それに気づいてくれたよ」

 

「……………」

 

「貴方の事よりも、これからの神浜魔法少女社会の方を心配してる。新しい長が生まれるの」

 

「…常盤ななかか?」

 

「うん…彼女が神浜の長になる。退院したししょーと、ひなのが認めてね」

 

「…東の長をやってた和泉十七夜はどうなった?」

 

「行方不明のまま…。東の長が不在になってね、東の魔法少女社会は合流を求めてくれたんだ」

 

「反対意見はなかったのか?」

 

「…あったけど、それだと荒れる東社会は無秩序状態のままが続くって…それで折れたみたい」

 

「こんなご時世だからな…。それじゃあ…新しい神浜の魔法少女社会は……」

 

「東西中央の調()()()()になる。東西に引き裂かれた魔法少女社会が…ようやく一つになったの」

 

「めでたい話かもな。長が複数いれば、イデオロギー対立しか生まれない」

 

「私達は反省した…。今までの魔法少女社会が、どれだけ馴れ合い社会だったのかを…痛感した」

 

「…誰かに言われなきゃ、気が付かない。俺もお前たちも…()()()()()だな」

 

「悪者になってでも、貴方は私達に向けて叫んでくれた。だからこそ…私たちもやり直せるよ」

 

「…行動した甲斐があったよ」

 

ラーメンが届き、一口啜ってみる。

 

「ね…ねぇ!味はどう?もちろん100点だよね…!?」

 

外食ばかりで舌が肥えている尚紀の表情は…怪訝な面持ち。

 

「…………30」

 

鶴乃の泣きそうな表情。

 

「…………50点」

 

「50点…それは可もなく不可もなし!だとしたら、可能性に溢れた味だってことだね!」

 

(どうしてそうなる?)

 

「まぁ、値段に比べて量が多いお得感はある。労働者たちが来てくれるし学生客も…」

 

「…学生客はね、テロが起きたから寄り道出来ないの。巡回員の数も増やされてるし…」

 

「昼時の学生客の収益を無くしたか…商売も厳しくなるな」

 

誰もいない店内のため、会話内容が聞こえている鶴乃の父もカウンター奥から声をかけてくる。

 

「うちもな…こんなご時世になって、何処までやれるか分からない。下手したら…夜逃げだ」

 

「お父さん……」

 

「覚えているか?魔法少女だけでは解決出来ない、助けは多い方がいいと言った俺の言葉を」

 

「あの時に言ってくれた言葉が…骨身に染みる。魔法少女のお客さんだけじゃ…維持出来ないよ」

 

「これが社会というものだ。お前たち魔法少女が意識をしてくれなかった…人間社会の有難さだ」

 

「魔法少女という親友だけしか見てこなかった…それがこんなにも視野を狭めるだなんて…」

 

「エゴは誰もが持っている。自分を冷静に観察出来る客観性は…互いに意識したいもんだな」

 

客観性が抜けているのは、今食べたラーメンも同じ。

 

だからこそ彼は鬼となる。

 

「おい、店主。お前のラーメンの味は30点以下だ」

 

「ちょっと!?」

 

鶴乃の動揺した顔、そして怒りに染まった鶴乃の父親。

 

「な、なんだとぉ!?喧嘩売りにきたのかお前っ!!」

 

「こんな味じゃ客は来てくれない。先祖が泣いてるぞ」

 

「五月蠅い!!俺は俺の味を信じてるんだ!!喧嘩なら外で買うぞ!?」

 

「やめてお父さん!!貴方もそうだよ…どうしてそんな酷いことが言えるの!?」

 

「皆お前が可哀相だから、誰も指摘をしなかった。だからこそ客観性がこの男には伝わらない」

 

「そ……それは……」

 

「お前は一家の大黒柱だろ?可愛い娘を夜逃げに付き合わせたいのか?」

 

「ぐっ……そ、そんなこと…お前には関係ない…!!」

 

「変わったサービスだのなんだの考えるよりも、味をしっかりさせろ。そうしたら…俺も考える」

 

――万々歳に投資をしてもいいかどうかをな。

 

…それを聞いた鶴乃と父親の目が見開いていく。

 

「えっと…と、投資をしてくれるの…?私たちの…万々歳に…?」

 

「正気なのかよ…あんた!?」

 

「暫く店を閉めて武者修行に行ってこい。他のラーメン店で働いて、自分の味を客観視して貰え」

 

「そ、その間の…生活費とかは……?」

 

「俺が面倒を見てやる。俺にもう一度満足のいくラーメンを食わせる気があるならの話だが…?」

 

鶴乃と父親が互いに目を合わせ……そして。

 

「…もう一度チャンスをくれるのか?落ちぶれた由比家に…手を差し伸べてくれるのか?」

 

「俺はアクティビストとしては厳しいぞ?繁盛させる味にして帰ってこないと…容赦はしない」

 

握りこんだ震える手が解かれ、父も覚悟を決めた。

 

「…分かった、俺…本気で武者修行に行ってくる!その間の娘の生活費を……頼めるか?」

 

「一年分、面倒を見てやる。立派になって帰ってきて…娘を安心させてやれ」

 

――この店は、()()()()()()()として…これからも必要になるからな。

 

彼の言葉を聞いた鶴乃の手から、器を運ぶ丸盆が落ちる。

 

その目にも涙が浮かんでいく。

 

「社会に助けを求めたら、社会も助けてくれる。俺もまた人間社会で生きる…ただの社会人さ」

 

「嘘つけーっ!?ただの社会人が投資家になってくれるだなんて……?」

 

鶴乃の父親のツッコミが入りきるよりも先に、娘は尚紀に抱き着いた。

 

「これが…社会なんだね!私たちが最初に守りたいと思った…人間社会の優しさなんだね!」

 

「魔法少女だけで世の中回っていないし、魔法少女だけが心優しい生き物なんかじゃない」

 

「うん…うん!!私…魔法少女の絆も大切だけど…人間社会の方が…もっと大切に思えたよ!」

 

「だったら、これからの神浜魔法少女達を客観視してやれ。エゴは消えないものだからな」

 

「了解っ!これからは最強でなくていい…ただの鶴乃として!魔法少女達を注意していくから!」

 

「嘉嶋尚紀だ。これからは万々歳のアクティビストとして、厄介者になるぞ」

 

「私は由比鶴乃!!尚紀…私、私ね…貴方に出会えて本当によかった…」

 

――貴方に出会えたことが……()()()()()だったよ。

 

これからの話し合いも行われ、夜も更けていく。

 

万々歳から出て来た彼は…大きな溜息。

 

「……勢いとはいえ、やっちまったな」

 

彼は買い直したスマホを手に持ち、静海このはに連絡を入れる。

 

彼女は嘉嶋会のFX投資家であり、財産管理に疎い彼の財産管理人も兼務してもらっていた。

 

だからこそ、尚紀は彼女を恐れる。

 

「あ~~……このはか?実はな…ちょっと勢いで投資費用が必要になって……」

 

鬼の会計士の如く激怒するこのはから、こっぴどく怒られる羽目になったのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神浜の調整屋として生きた八雲みたまも、新たな調整屋としての再出発を始めようとしている。

 

同時に彼女は、ある決意をしていた。

 

それは、神浜魔法少女たちに向けて悪魔の存在についての情報を明かす事にしたのだ。

 

その二つを可能にする施設がある。

 

「ここかぁ…調整屋が言ってた業魔殿……」

 

「レナ…この南凪区にあるホテルの噂…聞いた事あるんだけど…」

 

「た、たしか…怪奇現象が起きるお化け屋敷ホテルだって…わ、私…帰っていい…?」

 

「ダメだって、かえで。ここに新しい調整屋を構えたって話だから、見に行くよ」

 

「うぅ……気乗りしないよぉ」

 

ホテル内に入ったももこ達を迎えてくれたのは総支配人と八雲みかげ。

 

「お待ちしておりました」

 

「ももた~ん!こっちこっち~~!!」

 

「あれ、みかげちゃんじゃないか?今日はどうしたの?」

 

「えへへ~♪実はね、業魔殿に案内する役目を姉ちゃから任されたんだよ~♪」

 

「ええっ!?それじゃあ、アンタは業魔殿を知ってたわけ?」

 

「うん!そこに調整屋を構えた理由は~……姉ちゃに聞いてくれる?」

 

「こんなお化け屋敷ホテルに調整屋を構える…みたまさんの神経を疑うよぉ」

 

「では皆様、こちらへ」

 

2人に案内され、総支配人が秘密扉を開けて魔法少女たちを誘導した後に扉を閉める。

 

階段を下りながらももこ達が口を開く。

 

「凄い…何処まで下に降りるんだ…これ?」

 

「ホテルの地下に…こんな施設を作っていただなんて…業魔殿ってそもそも何なの?」

 

「薄暗いとこだし…怖いよぉ…やっぱり帰ろうよぉ」

 

「怖がらなくてもいいわよ。…お化けよりも怖い奴が出てこない限りは…」

 

「問題なのは、こんな施設を構えていた奴と…調整屋との繋がりだよなぁ」

 

「レナね、前々から不審に思ってたの。裕福な家の子じゃないみたまさんの金銭面のこと」

 

「たしかに…映画館丸々使った調整屋だなんて、17歳の子供が使える物件じゃなかったよなぁ」

 

「多分、この業魔殿の主人とみたまさんは繋がってたって…レナは思う」

 

「怪しい関係…なのかなぁ?」

 

「でも、調整屋が組むぐらいだし…悪い人であっては欲しくないよなぁ」

 

「もう直ぐつくからね~みんな~」

 

下見に来た者達をみかげは先導し、3人は業魔殿施設前に立つ。

 

「うわぁ…みるからに秘密研究所って感じだなぁ。…フランケンシュタイン作ってたりして?」

 

「ヒィィ!!こ、怖いこと言わないでよぉ……ももこちゃんってばぁ!!」

 

「レナは…大丈夫よ。かえでみたいなビビりじゃないし…」

 

「レナたん、足が貧乏揺すりしてるけど?」

 

「これは武者震い!!レナが先に行って、度胸を見せてやるんだから!!」

 

先に業魔殿内部に入ったレナに続き、他の者たちも中に続く。

 

「うわぁ…本格的な研究所だなぁ…」

 

「地下に作った横坑に並ぶようにして設けられた実験エリアって感じよね…」

 

「うぅ……怖い生き物を研究してたらどうしよう…」

 

キョロキョロと見回す3人をみかげは手を振って誘導。

 

「奥の方が業魔殿の心臓部だけど、姉ちゃの新しい調整屋は手前フロアに作られたの」

 

「奥の方は…何を研究してる施設なわけ?」

 

「それについても、姉ちゃに聞いた方がいいよ。ミィも最近ここを知ったばかりだからねぇ」

 

みかげに案内されたフロアの横扉が自動で開く。

 

「うわぁ……ここって……」

 

「ミレナ座に調整屋を構えてた頃の外観と…まったく同じじゃない?」

 

「資材搬入庫に使われてた大きなフロアだけど、業魔殿は引っ越しするから空けてくれたの」

 

「地下倉庫を利用しての新しい調整屋ってわけなんだなぁ~」

 

奥に進めば、青白く光り輝く巨大ステンドグラスの光が彼女たちを出迎える。

 

アンティークな家具や品が並べられた応接空間に立っていたのは、みたまとヴィクトル。

 

「いらっしゃ~い。新しい調整屋さんに、ようこそ~♪」

 

昔のような笑顔で出迎えるみたまと、業魔殿の主も微笑んで迎えてくれた。

 

「下見に来たぞ~調整屋。それと…隣にいる大きなのっぽの赤服おじさんが…」

 

「外国人だけど…病的に肌が白いわよね?それに…あの目元の黒い縦線刺青は何よ…?」

 

「それに…なんだか不思議な魔力を感じるね。魔獣とも魔法少女とも違う…」

 

「初めましてかな、魔法少女たちよ。吾輩がこの業魔殿と呼ばれる悪魔研究所の主である」

 

「悪魔…研究所ですって!?」

 

「ちょ、ちょっと待って!!悪魔を研究してるなら…この神浜テロと関わってるわけ!?」

 

動揺しだす正義の魔法少女たち。

 

それを見たみたまは…心の中で呟いた。

 

(…これを恐れてた。()()()()()()()()…それはきっと、悪魔となった十七夜の居場所を奪うわ)

 

笑顔をしていた彼女だが真顔になり、席に座るように促す。

 

「誤解を生まないよう、吾輩たちは君達に全てを伝えようと思う」

 

「お願いだから冷静に聞いて。私達は悪魔を使って人間を襲うために行動しているわけじゃない」

 

席に座り、向かい合った者達が長い会話を続けていく。

 

「そうか…調整屋は資金援助を貰うかわりに、あたし達の情報をこの人に流してたのか…」

 

「守秘義務違反じゃない!?それでよく今まで中立を気取ってこれたわよね!?」

 

「言い訳は出来ないわ…私が貴方たちの魂の情報を売ってたことは事実。ごめんなさい」

 

「みたま君に誓って、君達の魂の情報を悪用はしていない。研究材料に使わせてもらっただけだ」

 

「調整屋失格だったわ…私もリヴィア先生みたいにお金を貯めて調整屋を用意するべきだった…」

 

「渡る世間はGive and take。吾輩と彼女の利害は一致し、調整屋を支えてきた」

 

「突然そんな話をされても…みんなが納得してくれるかどうか…」

 

「全てを話す。そして、私を裁きたいとみんなが言うのなら…私は逃げも隠れもしないと伝えて」

 

「姉ちゃ……」

 

ももこ達は相談し合うが、まだ全てを判断出来る材料がない。

 

「研究助手としても迎え入れている彼女のために、新しい調整屋を用意したのには理由がある」

 

「それが…この業魔殿についてですか?」

 

「吾輩は君達魔法少女に…悪魔の情報を伝えたい。調整を行いに来るついでで構わないよ」

 

「レナ達に…悪魔の情報を伝えてどうする気なの?」

 

「君達はテロの時、初めて悪魔に遭遇した。どうしていいか判断もつかなかったはず」

 

「それは……まぁ」

 

「悪魔は…君達が戦ってきた魔獣とは違う。人のように意思を持つ…善悪混合の存在なのだ」

 

「善悪混合の存在…?」

 

「人間や魔法少女の中にも悪い奴らは大勢いるが、善良な人もいる。悪魔も同じなのだよ」

 

「悪魔の中にも…善良な奴がいるだって?」

 

「ミィね…少し前まで悪魔の友達がいたの。ジャックフロストって名前で…友達になってくれた」

 

「えっと…その悪魔の友達は……何処にいるの?」

 

それを聞いたみかげの目に、涙が浮かんでいく。

 

「あ、あれ!?私…何か悲しませることを言っちゃったのかな…!?」

 

「ミィも…まだ受け入れきれてないの。フロスト君は私の調整屋を守護してくれていた悪魔よ」

 

「どうりで、アタシのボディガードを必要としなかったわけだ。それもヴィクトルさんから?」

 

「フロスト君との関係は、一年以上続いたわ。…子供のようにヤンチャな悪魔だったけど…」

 

「…グスッ……優しい悪魔だったんだよ」

 

「だった…?どうして過去形なんだよ…?」

 

「…フロスト君はね、私と月咲ちゃんを守るために…死んだわ」

 

それを聞かされた彼女達の顔が俯いていく。

 

「私達が人修羅という悪魔に襲われて生きていられたのは、フロスト君のお陰なの」

 

「だからね…悪魔全員が悪者だなんて、思わないであげてよ。尚紀お兄ちゃんも辛いの…」

 

「フロスト君は、人修羅と呼ばれた尚紀さんの仲魔。彼は…自分の仲魔を不注意で死なせたわ」

 

「そんな…悲しい出来事があったなんて……」

 

「どうして…悪魔のことについて、レナ達にそこまで語る気になったの?」

 

「…貴女達は、悪魔に襲われた十七夜を守れなかった。そして十七夜が血を吸われた光景も見た」

 

「吸血鬼に襲われた十七夜さん……ま、まさかっ!?」

 

「…魔法少女も悪魔になれる。だからこそ私は、悪魔の誤解を解きたかったの」

 

「そうだったのか…。悪魔を誤解したままじゃ…十七夜さんの帰る場所がなくなっちゃうよな…」

 

「って!?そんなあっさり流さないの!!魔法少女が……悪魔になれるですって!?」

 

「前例がないわけでもない。見滝原の魔法少女の中にも、悪魔化した人物がいた」

 

「見滝原…?そんなに離れてない街の魔法少女の中にも…悪魔になった魔法少女がいたんだ…?」

 

「ふゆぅ…食い意地はったレナちゃんが悪魔になったら、お腹膨れた餓鬼になるよ」

 

「五月蠅いわねかえで!?レナはそんな醜い悪魔になんてならないから!!」

 

どつかれるかえでを見て、周囲の重い空気も和らいできたようだ。

 

「みたま君は業魔殿内部で調整を行い、調整しに来た君達に悪魔教育を施すのが吾輩の務めだ」

 

「みかげちゃんが引っ越しをするって言ってたけど、いつぐらいに引っ越すんです?」

 

「業魔殿施設を移す改修工事には5~6年はかかる。その間、出来る限り君達を教育したい」

 

「私たちは悪魔の知恵を知り、ヴィクトル叔父様がいなくなってからも後世に伝えていくのよ」

 

「責任重大だなぁ…わかったよ。みたまが隠し事をしていた件については、皆に判断してもらう」

 

「お願いするわね、ももこ。これからの私は…この業魔殿スタッフであると同時に調整屋よ」

 

「ミィはね!フロスト君が姉ちゃを守れなくなったから、今度はミィが姉ちゃを守るんだ!」

 

「アハハ…頼もしいボディガードも得られたみたいだし、調整屋の新体制だな」

 

みたまは笑顔を見せ、立ち上がって改めてお辞儀。

 

「これからも、業魔殿調整屋を御贔屓に~~♪」

 

ももこ達を見送る八雲姉妹とヴィクトル。

 

だが、ヴィクトルは今後について口を開いた。

 

「…この神浜テロには悪魔が関わった。それは今後…魔法少女と悪魔との戦いも示唆するだろう」

 

「魔法少女の魔法の力だけでは…強大な悪魔の力には立ち向かえないかもしれない…」

 

「そうなった時、吾輩と君が共同で研究してきた悪魔合体が…役に立つ日もくる」

 

「その時までは、私は調整屋として彼女達を支える。もし私の調整だけでは足りなくなったら…」

 

2人は業魔殿心臓部ともいえる、悪魔合体施設の扉を見つめる。

 

――()()()()を行うかどうかの選択を…彼女たちに与えるわ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神浜の魔法少女社会は変わった。

 

東西中央が融合し、1人の長によって治世が行われる社会。

 

長となった人物とは、常盤ななか。

 

彼女を補佐する形で集まった魔法少女達とは、かこ・あきら・美雨、そしてこのは姉妹達。

 

それに令や明日香やささらも加わり、新体制を築くこととなった。

 

明日香の実家である武術道場に長としての拠点を置き、今後の話し合いが行われていた。

 

「すいません、明日香さん。こんな広い道場をこれからの拠点として使わせてもらえるだなんて」

 

「構いませんよ、ななかさん。あきらさんの道場は…門下生達が沢山いますしね」

 

「明日香の道場は、内弟子さんを除いては…他の生徒の人達の姿も少ないしねぇ」

 

「うぅ…薙刀の知名度が低すぎます!空手みたいに普及すればいいのに…」

 

ぶつくさと道場経営についての談義をしていく明日香とあきらは置いておく周囲の魔法少女達。

 

「…美雨さん、私のやり方に…ついて来てもいいのですか?」

 

美雨とななかの思想は対立し、争った過去がある。

 

「…ワタシはななか達を見張るネ。オマエ達の治世が、正義の暴走になりそうなら…止めるヨ」

 

「観鳥さんは公人として中立の立場でいたい。美雨さんの隣に座り、みんなを監視する」

 

「そうですか…それがいいと思います。私の心も…いつエゴに囚われるか分かりませんし」

 

「ななかのやり方で、人間社会を守れるならいいネ。でも、魔法少女を蔑ろにするのもダメヨ」

 

「…私が望んだ治世のやり方は、ファシズム。ですが…それが必要かどうかを見極めたいのです」

 

「どういう意味ネ?」

 

「尚紀さんは…ファシズム以外の治世のやり方を教えてくれました。私はそれを先に実行したい」

 

「全体主義以外の…社会主義治世?」

 

「これは民主主義と全体主義の中間に当たる社会主義治世の道。それを彼は…託してくれました」

 

「ナオキ……一体、どんな政治をななかに伝えたネ?」

 

周囲に集まってくれた魔法少女たちを見回し、神浜の新しい長は口を開く。

 

「皆さん、聞いて下さい。これが私たちが治世を行う…新しい社会主義体制…」

 

――社会民主主義です。

 

社会民主主義とは、中道左派と呼ばれる社会主義の一つ。

 

極左の革命マルクス主義とは違う、左翼内部の右翼層が好んだ社会主義政治思想である。

 

欧州の穏健な社会民主主義政党などがこの政治を執り行ってきた。

 

現代的な社会民主主義は欧州で生まれ、冷戦期の西欧・北欧諸国を中心に発展してきた。

 

漸進主義的で民主主義的な手段によって社会主義を達成することを目指す。

 

資本主義の枠組みの中で労働者階級に利益をもたらす改善を主張する政治体制である。

 

「私たちは、今までの魔法少女社会に敷かれた自由主義を尊重する立場を表明します」

 

「…それだと、思想の自由が敷かれてしまいます。自由主義に腐った魔法少女が何をしたか…」

 

「…多様な価値観を認める弊害です。今までの長もそれを認めてきて…私達は犠牲となった」

 

「その通りです…ななかさん。やちよさん達が自由を尊重したから…後手になって防げなかった」

 

「それは、この国の警察も同じ。犯罪抑止力として機能はしても…後手の対応しか出来ない」

 

「考えてみたら…警察って人々を守る存在じゃないよね。犯罪の跡片付けをしにくるだけだし…」

 

「ななか…アンタはそれでいいの?安全保障を望んだからこそ…全体主義を求めたんじゃない?」

 

「そうです…葉月さん。私とかこさんは永久の安全保障を望む。ですが…それを望めば望む程…」

 

――ファシズムしか、選択肢がなくなってしまう。

 

個人の自由は監視され、内心の自由も踏み躙られ、国家社会の奴隷となるしか選択肢がない道。

 

「内心の自由という聖域を踏み躙られたなら…彼女達は命懸けで私達を襲いに来る…」

 

「尚紀さん程の力を持つ存在にだって…神浜の魔法少女達は命懸けで戦いを挑んできた…」

 

「でもでも!静香たち村社会の魔法少女達は…全体主義を受け入れて来たよ?」

 

「それは長い年月をかけて敷かれた全体主義社会そのものが…慣習法になったのです」

 

「慣行的に行われ、人々の行動を規律している一定の行動の型の繰り返しという意味よ、あやめ」

 

「あちし…よく分からないけど…人間って決まったルーチンワークにハマり易いんだねぇ」

 

「それも長年の信頼関係が熟成して、初めて成し得ますが…急すぎる改革を望めば…」

 

「大きな反発をされるのは必須…だよね」

 

「下手をしたら…神浜の魔法少女たち全員で潰し合いをする羽目に…なるのでしょうか?」

 

「私はそれを危惧し、長い時間をかけて社会主義精神を魔法少女達に与えることにしました」

 

「少し…安心したかも。ファシズムだとさ…やっぱり多くの魔法少女を切り捨てることになるし」

 

「国や集団とは、人の集まり。そこに住まう人々を排斥するでは…社会形態の否定でしかない」

 

「たしかに…集団社会で人を排斥するって理屈は…論理破綻してるかも…」

 

「社会とは、共同幻想です。幻想であるため然るべきルールを決定し、共同体の意識を共有する」

 

「私達がやろうとしたのも…一種のアナキズムだったのかも。共同体は片方だけのモノじゃない」

 

「社会のためというパワーワードを振りかざして…私達はそれをやろうと考えてしまいました…」

 

今のななかの姿を見て、美雨は安心していく。

 

(ナオキ…オマエは変われたヨ。それをななかにも伝えてくれて…ななかも変わてくれたネ)

 

――さすが…ワタシが生涯をかけてでも、背中を追いかけたいと思わせる程の男ネ。

 

令にも視線を向け、お互いに安心したのか笑顔を向け合う光景。

 

「それを…ななかが長として勤める任期の目標とするんだね?」

 

「私の望む社会主義治世の道は…長くなる。私の代だけでは成し得ないでしょうね…」

 

「次の世代にも、社会主義を望ませる。それを強制するんじゃなく自発的にやらせるには…」

 

周囲の視線がななかに集まる。

 

彼女は立ち上がり、長としての最初の政策を発表した。

 

「尚紀さんは、その道を達成する方法まで…私に与えてくれました。本当に…感謝してます」

 

――私たちの新しい魔法少女社会治世の最初の一歩とは……()()です。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

尚紀が水徳寺に訪れ、ななかと静香だけに伝えた改革方法とは…社会民主主義と教育。

 

2人に伝えた教育内容とは、ヴァーチューズ・プロジェクト。

 

心理療法士であるリンダ・カヴェリン・ポポフが提唱した個人の人間性を伸ばす教育プログラム。

 

1994年の国連により、あらゆる文化の家族のためのグローバルモデルとして表彰された。

 

1 美徳は教えるものではなく引き出すもの。

 

2 押し付けず、教える側にも同伴をする意識をもつ。

 

3 子供も、手本になるあなた自身も、完全な人間でなくていい。

 

このプロジェクトは、学校におけるこども達の環境にも大いに役立つ。

 

こども達の心の焦点を、心の中にある美徳に向け、その美徳によって生きていくよう力を貸す。

 

こども達を誇りに満ちた笑顔にしてしていく教育プログラムだ。

 

人と人を、心と心を繋げるものを提供していく。

 

それこそが、嘉嶋尚紀が選んだ…七海やちよの選択とは違うだろう…。

 

――()()()だ。

 

……………。

 

不穏な社会情勢だが、新しく生まれ変わろうとしている魔法少女社会。

 

それを高層ビルの屋上から眺めている人物。

 

<…俺のやり方で、よかったのか?……お前たち?>

 

立っていた尚紀の後ろ側には、思念体の光。

 

<…うん、やっぱり…アナタに任せて正解だったと思う>

 

<七海先輩とは違う形の環の輪を…ちゃんと築いてくれたとボクも思います>

 

思念体とは、七海やちよの元に訪れていた円環のコトワリの一部であるかなえとメル。

 

背後の2人に向いていた彼の視線が、目の前の神浜に向き直る。

 

<俺がやったのは、()()()()()()()()。テーゼとアンチテーゼを合わせた…ジンテーゼだ>

 

<意見と反対意見を合わせた…新しい概念を生み出す考え方ですね>

 

<どちらにも配慮する方法はこれしか思いつかなかった。それでも…正しいかどうかを見極める>

 

<…これから神浜の街は混沌を迎える。でも、アナタは魔法少女社会に平和をもたらしてくれた>

 

<…その平和のために、俺は多くの人々の血を流させてしまった>

 

<貴方は間違っていたかもしれない…でも、魔法少女達の過ちを気づかせてくれました>

 

<アナタがやった事は、この先何年も影響を及ぼす。アナタは歴史の一部として語り継がれる>

 

<魔法少女社会をより良い社会にしてくれた、反逆の戦士としての物語…ですね>

 

メルの言葉を聞いた彼が苦笑する。

 

()()()()()…か。悪魔として孤独な道を貫いた…>

 

――俺と暁美ほむらには…お似合いの物語かもな。

 

<社会が変われたのは、アナタが何とか変えてみせると信じて、やってみてくれたから出来た>

 

<…お前たちやタルト、それにフロストやマスター達が止めてくれたお陰だ>

 

尚紀の過ちを止めるために死んでいった者達を思い、溜息をつく。

 

<…俺は急いていた。二度と犠牲者を生み出したくないと…急過ぎる改革を望んでしまった>

 

待っていたのは、神浜魔法少女たちに向けて深い溝を作る道と…愛する者達の死。

 

<それでも価値はある。批判しない集団社会は、例外なく腐るんだよ>

 

<そうですね…批判がない社会なんて、間違いを軌道修正出来ませんし…もっとひどくなるかも>

 

<七海やちよ達も、政治家と同じく前例主義。前までの長のやり方を模範するだけの怠惰だった>

 

<批判を受け止められない人が長になんてなってはいけない。譲歩しないでは過ちに気づかない>

 

<…ボク、違う可能性の宇宙にいた可能性の魔法少女を…まどかさんと共に見た事があります>

 

<魔法少女社会に環の輪を作ろうとしてるあの子か…。あたしもね、あの子は危ういと思う>

 

――()()()()()()()――

 

それは、長としてもっとも言ってはいけない言葉。

 

批判を間違いだと決めつけ、己の正しさしか見ようとしない者では間違いさえ軌道修正出来ない。

 

ましてや感情論に訴えかけ、批判相手を悪者にするための印象操作を行うでは言語道断。

 

<あんなにも頑なに、自分しか見ようとしない魔法少女が長では…()()()()()()()も先は無い>

 

<あの可能性宇宙は…まどかさんでも先が見えませんでしたしね…先が怖いです…>

 

<…その他の宇宙にいる、可能性をもたらす魔法少女とやらも…少し前の俺達かもしれない>

 

――己のエゴしか見ようとしない、()()()()()()()()()()()()だ。

 

<俺達はそれに気が付けた…。多くの人々の犠牲が…過ちを止めてくれた>

 

<その人達の意思を無駄にしないための善政を、これからの東京にも敷いていって欲しい>

 

<……そうだな。かなえとメルだったか?お前たちは…これからどうする?>

 

それを聞かれた2人の思念体は、動揺した素振りを見せるのだが…。

 

<じ…実はですね…ボク達、アラディアのとこに……>

 

<うん……帰りたくない>

 

<…………>

 

突然の我儘。

 

<なんで帰りたくないんだよ…?>

 

<だって…まどかを剥ぎ取られたあの無機質女神のとこから黙って出て来たし…>

 

<見つかって回収されたら…ボク達もう二度と!円環の使者としてお外に出してくれませんよ!>

 

<……自業自得なのでは?>

 

<釣れないこと言わないでくださいよ~悪魔さん!ボクら思念体が見える唯一の存在なのに~!>

 

<どうにか匿って欲しい。出来る限り現世の世界を見て帰りたい>

 

<そうは言うがな……>

 

<ボク達以外の円環の使者だって、この世界に受肉させられて囚われてるのを知ってます!>

 

<さやか達だけずるい……>

 

<お前ら……>

 

怪訝な表情を向けてくる彼に対し、メルに天啓が舞い降りてきた。

 

<あっ、そうだ!!かなえさん、耳貸して下さい>

 

<ふんふん……おおっ、そんな方法も出来るのかな…?>

 

<ダメもとで…頼んでみます?>

 

振り返った2人の笑顔。

 

<なんだ?妙に不穏な気配を感じさせる顔を見せてきやがって…?>

 

<えへへ~♪実はですね!!>

 

<断る>

 

<えぇ~~っ!?まだボク達何も言ってませんよ~!!>

 

<最後まで聞いて欲しい>

 

<いや、聞かなくても面倒事をもってくるタイプの顔をしてたし…>

 

<その、なんだ。さっきも言ったけど…さやか達だけ受肉して…人間生活送れてズルい>

 

<ま…まさかお前ら……>

 

<そう!その通りですよ~♪勘が鋭いところは流石人修羅さんですね~♪>

 

――()()させてください。

 

……………。

 

彼は、黙ってその場から去っていく。

 

<待って待って~!!お願いだから見捨てないで下さいよ~~!!>

 

<あたしは知っている。この世界にはあるんだろ…?概念存在を受肉させれる施設が?>

 

<まさかお前ら……転生してでも生き返りたいのか?>

 

<<イエス>>

 

<……そうは言うがな、俺は魔法少女を悪魔合体で生み出したことなど一度も…>

 

<<レッツトライ>>

 

<俺に拒否権は…?>

 

<ノーだ>

 

<断ったら家に憑りついてあげますよ~♪お風呂の時でもトイレの時でも覗き見します♪>

 

<お前ら質の悪い思念体共だなぁ!?>

 

<<こんごとも、よろしく♪>>

 

こうして尚紀は、円環のコトワリの元から出てきた思念体達に憑りつかれる事となるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

後日。

 

神浜中央駅の改札口前では、故郷に旅立つ静香達の姿が見える。

 

見送りに来てくれたのは、聖探偵事務所の職員達と、志を同じく出来た常盤ななか達。

 

「グスッ…ヒック…帰りたくないよぉ…尚紀先輩達とずっと一緒にいたいよぉ…」

 

寂しくて泣きべそをかき始めるちはるを見て、未来の上司たちが彼女の肩に手を置く。

 

「俺達はこれからも神浜でやっていく。ちはるが就職出来る場所を残すために、頑張って働くさ」

 

「ずっと待ってるぜ、ちはるちゃん。君が預けてくれた大切な品を…大きくなって取りに来いよ」

 

「先輩…所長…グスッ……はいっ!!」

 

ちかに貰ったハンカチで涙を拭き、最後ぐらいは笑顔でお別れをしようと健気に務める姿。

 

隣では静香とななかが固い握手を交わし合っている。

 

「この街に来れて私…本当に嬉しい。多くの発見が出来たし…思想を共有出来る貴女と出会えた」

 

「こちらこそです、静香さん。もっと早くにお会いして…色々な話を聞かせて欲しかったです」

 

「これが今生の別れだとは思わないわ!時女一族を立て直したら…私はもう一度この街に来る!」

 

「その時は是非、私とちゃるも一緒に連れて行って下さいね♪…未来の時女一族の長よ」

 

すなおにも手を伸ばし、固い握手を交わす。

 

「…すなおさん。私は気づいています」

 

「えっ……?」

 

「貴女の瞳の奥には…私と同じ暗い炎が宿っている。それは…私と同じく血塗られた瞳」

 

「そ……それは……」

 

同じ苦しみを背負う者だからこそ、すなおの秘密に気が付いてくれていたようだ。

 

「きっと皆に知られたら…差別される。そんな怖さを抱えてますね?…私もそれに苦しみました」

 

「………私は」

 

「でも、神浜の魔法少女達はそれを乗り越えました。私ももう…差別はされてません」

 

「な…ななかさん……」

 

「みんなを信じて。きっと貴女のことだって…差別しません。彼女達を信じてあげて下さい」

 

――私や尚紀さんのようになってはダメです。

 

辛い苦しみを共有出来る者がいてくれる。

 

それだけで、すなおの心に温かさが生まれ…涙が浮かんでいく。

 

「ななかさん…あぁ…ななかさん!私…わたし…もっと早くに貴女と出会えていたら…!」

 

「今生の別れにはしないと、静香さんは言いました。次に会える日を…楽しみにしてますね」

 

2人は抱きしめ合い、固い友情を交わす。

 

そんな3人の元に尚紀も寄ってくる。

 

「それにしても、突然過ぎる帰還命令だな。勧誘任務なら、随分と頑張っていたように見えたが」

 

「私も突然過ぎる帰還命令に戸惑ってます。不備があったようには思えないんですけど…」

 

「他に何か思い当たることとかはないか?」

 

腕を組んで考えてみる。

 

「やはり…神浜港のマフィア騒ぎの時に、勝手に時女一族を動かした責任ですか…?」

 

「あれだって…誰も殺さずに警察に任せる対応はしたし…私達の存在を暴露していないわ」

 

「だとしたら…他にあったことは……」

 

「………あの件かも、しれないわね」

 

「何か思い出したのか?」

 

話していいのか分からず、しどろもどろな表情。

 

しかし、信用出来る人物だと判断した静香が重い口を開く。

 

「実は…尚紀さんが引っ越しを頑張っていた8月の時期に…大きな仕事を任されてたんです」

 

「大きな仕事だと…?」

 

「それは……警護任務。神浜市に来られていたんですよ…」

 

――秘密結社であるヤタガラスの、重要人物達が。

 

「ヤタガラスの…重要人物?」

 

静香の話声が聞こえたちはる。

 

彼女は突然…()()()()()()()()を浮かべていく。

 

「ヤタガラスの長である存在達とは…三羽烏と呼ばれる方々です」

 

「三羽鳥…?」

 

「天皇陛下と同じほどの権威を持つ、裏天皇の方々である皇族…そのように聞いております」

 

「そうか…。それで?そいつらに何か…大変失礼なことでもしでかしたか?」

 

「してません~!私達の任務は…中央区に訪れるというヤタガラス関係者の周辺警備任務でした」

 

「神浜に滞在しているヤタガラス関係者は私達のみでしたし、人手が足りない事情もありました」

 

「それぐらいか?お前たちの中で、何か思い当たる節を考えるとしたら?」

 

「おかしいですね…あの時の任務だって、平穏無事に終わらせたはずなのに…」

 

「そうか…まぁ、考えても仕方ない。神子柴にでも直接聞くしかない話だしな」

 

そう言い残し、涼子達の元に向かう。

 

俯いたままになったちはるに横目を向けるが、ちかに向き直る。

 

「尚紀さん…貴方に出会えて本当に良かったです。私…もう一度他人を信じられそうです」

 

「それと同時に、疑うことも忘れるな。そして…疑い過ぎることもやめておけ」

 

「クスッ♪尚紀さんという見本がいてくれたお陰で、私も調和が大切なんだって理解出来ました」

 

「中庸を目指すのは極めて難しいが…俺もその道を模索してみるよ」

 

「それと…これを受け取って下さい」

 

ちかに送られた品とは、木彫りの狛犬。

 

見れば人修羅のように一本角が生えている、獅子の阿像と対を成す吽像だ。

 

「これは…ちかが彫ってくれたのか?器用なもんだなぁ」

 

「はい♪尚紀さんって…何処か神社の吽像とよく似ている気がして…」

 

「俺は悪魔なんだけどなぁ…神様扱いされるのは、どうもケツが痒くなっていく」

 

そう言いながらも、ちかの愛情がこもっている木彫り像を受け取る彼の姿。

 

「私も…お別れは寂しいです。もっと沢山…尚紀さんとお話がしたかったです…」

 

「今生の別れにはしないって、静香も言ってる。だから…お前の帰る家なら、俺が管理しておく」

 

「えっ……?」

 

「俺が建ててやった山小屋があるだろ?管理人がいないと傷んでいくからなぁ」

 

ちかの顔が微笑んでいく。

 

「本当に…尚紀さんはお人好しですね。そんなに優しくされちゃうと…好きになっちゃいます♪」

 

「帰ってきたら、これの対の像でもこしらえてくれ。片方だけを貰うのもなんだからな」

 

「はい!絶対に…帰って来ますからね。それまでの間…私の帰る家を、お願いします」

 

固い握手を交わした後、涼子が隣に立つ。

 

「尚紀…あたしはね、これを機に…もう一度修行に本腰を入れようと考えてる」

 

「そうか…将来は仏教大学を目指してるヤツだからなぁ。応援している」

 

「今回の一件で…あたしは人間の煩悩の恐ろしさを痛感した…エゴに囚われる恐ろしさをね」

 

「そうだな…俺でさえも自分のエゴに気が付かなかった。それだけ…自分を見つめるのは難しい」

 

「そして…善悪二元論の恐ろしさも知った。偏らない心を持つには…平常心をもたないとね」

 

「頭に血が上りやすいお前だからなぁ。道行は険しくなるかもよ」

 

「覚悟の上さ。この街で多くの事を学べた…あらゆるものは、単独では成り立たないって」

 

「あらゆる縁が必要だと…俺も経験出来た。多くの人の縁があったから…俺も踏み留まれたよ」

 

「物事を一側面だけで判断せず、根本に目を向けるには…自分を律する精神が必要だね」

 

涼子も懐から何かを取り出し、彼に差し出す。

 

「これを…受け取って欲しいんだ」

 

「これは…数珠か?」

 

「数珠は念珠と呼ばれる法具。108の煩悩を司る品であり、それを数えることで己を律する」

 

「己を律するための…道具」

 

彼の脳裏に浮かんできたのは、仏教を主体としたガイア教徒だった氷川の姿。

 

彼は左手に悪魔召喚道具として数珠を巻きつけていた。

 

そして、武の世界においては左手は文(平和)である。

 

それを律する法具を巻きつけるという事は…平和を望む心を捨て、修羅になる意味もあろう。

 

「数珠を数えながら念仏を口ずさむ必要はない。心の中で…自分の煩悩を数えて、律するんだ」

 

それは、義憤に身を任せて殺戮を繰り返した者に与える戒め。

 

そう感じ取った彼は、涼子の顔を真剣に見つめ返す。

 

「…涼子。これを俺の右手首に…巻いてくれ」

 

言われた通り、彼の右手首に108個の珠が繋がれた数珠を巻きつけていく。

 

「右手は、中国武術の世界観では武を司る。だからこそ、武を律する数珠は…右手に持つよ」

 

「尚紀…これからのあんたの人生に、仏の加護があることを祈るよ」

 

「どうだかな?俺は仏の長ともいえる、大日如来と喧嘩をしてたんだぞ?」

 

「アッハッハッハ!あたしも腰を抜かしたよ~!この世に密教の本尊様が顕現されたんだ!」

 

「仏ってのは、心の中に描くもんだが…どうやらそうもいかないらしい」

 

「仏様が現世に現れるって分かったんだ…あたしも仏様達に恥じないよう、修行に邁進するよ」

 

右手で握手を交わした時、時計を見た静香が声を出す。

 

「……みんな、そろそろ時間だから」

 

静かに促された時女の者達が、改札口に向かっていく。

 

見送る尚紀たちに対して、最後に静香が振り向いて…涙を浮かべた笑顔を向ける。

 

「尚紀さん…私ね、貴方に出会えて…本当に嬉しかった!私を変えてくれたのは…貴方だから!」

 

ちはるも振り向いて、笑顔を向ける。

 

「尚紀先輩!私…大きくなって必ず帰ってくる!だから…私の帰る場所でいてね!」

 

すなおも振り向いて、笑顔を作る。

 

「尚紀さん!任務でしたが…それ以上の大切なものを得られました!本当に感謝してます!」

 

涼子とちかも振り向いて、笑顔を向けてくれた。

 

「尚紀さん!私は貴方を…自然と同じぐらいに愛してますから!」

 

「煩悩を断ぜずして涅槃を得る。お互いに…忘れないようにしような、尚紀!」

 

こんなにも自分の事を大切に思ってくれている。

 

勧誘任務で訪れた時は追い出そうとした自分が恥ずかしくなっていく。

 

「……また会おうな、お前たち!」

 

彼も精一杯の笑顔を見せ、手を振っていく。

 

静香たちの姿は…ホームの人ごみの中へと消えていった。

 

「……私達も、彼女達に負けてられませんね」

 

「…そうだな、ななか」

 

彼は涼子に巻きつけてもらった右手の数珠を掲げていく。

 

その姿は何処か同じシジマの道を生きた氷川の姿を彷彿とさせるだろう。

 

左手の平和を律した氷川とは違う、右手の武を律した尚紀。

 

2人の生き様は…似ているようで違う道へと進んでいくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

深夜の路地裏を歩くのは、長としての役目を終えた七海やちよ。

 

暗い表情をした彼女だったが、俯きながらも口を開く。

 

「…私は、間違っていた。与えるばかりで…魔法少女達を律する事が出来なかった…」

 

長を譲る席の場で、やちよはななかとかこから語られた。

 

彼女たちが魔法少女の世界に巻き込まれたのは、西()()()()()()()()()()()()()()

 

魔法少女の自由意志を尊重したために後手となり、ななか達は魔法少女の毒牙にかかった過去。

 

「私の責任よ…あの子達を、魔法少女の世界に引きずり込んでしまったのは…」

 

4年もの間、長い治世を努力してきた自分の歴史を歩きながら振り返っていく。

 

「…最初は志し高いコミュニティ意識も……馴れ合い社会でこうも腐敗していくのね…」

 

これはあらゆる政治団体にも言えること。

 

いつしか大衆の邪念や私欲を満たす口実となっていく政治運動。

 

やがては自分達が嫌った既得権力の側に移ろうとしている事にさえ、気が付かなくなっていく。

 

それはさながら、最初は清水から湧いた清流が、下流に至れば澱んで分かれていく光景。

 

「私は…何を守ろうとしてきたの?人間社会を守りたかったから…正義を名乗ってきた筈なのに」

 

正義や自由といった、中身の見えにくい言葉で皆を従わせてきた道。

 

その果てにあった光景とは…魔法少女たちの絆ばかりが優先される社会。

 

絆を結んだ愛しい魔法少女たちとの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「私は…中身の見えない立派なラッピング箱を用意して…みんなに崇めさせていただけだった…」

 

それはさながら、魔法少女達のみの()()()()()()()を求める…奴隷信者の群れ。

 

奴隷は信者と同じであり、自分の置かれている状況に気づこうともしない。

 

目を逸らし、自分達に都合の良いぬるま湯世界しか見ようとしない。

 

自分たちに都合の良い社会を提供してもらえた者達は、西の長を喜んで担ぎ上げてきた。

 

担がれている者は、それを自分の利益とした。

 

信者達から利益を貰うと書いて…()()()という字と化す。

 

「…私達の自由は、誰かの不自由。私のやってきた事は…人間社会の犠牲を支払ってきた…」

 

夜空を見上げる。

 

長の地位を失ったのは、自業自得なのだと納得出来た。

 

「千葉で見かけたあの占い師…腕が良いわ。塔の正位置通り…私の長としての人生は崩壊したわ」

 

前を向き直り、長い路地裏を歩いていく。

 

彼女が通り超えた暗い横道の奥。

 

そこには、小さな占い小屋が見える。

 

テント内の椅子に座っていたのは…やちよを占い、アリナを占った女性人物。

 

隣にある止まり木には、アモンと呼ばれた梟の姿。

 

「……フッ、これから面白くなっていくのよ」

 

「貴様ら魔法少女たちに、安息が訪れることはない」

 

彼女が暗い横道を通り超えた頃には…占い小屋は消え去っていた。

 

……………。

 

精神状態が不安定なやちよの身を心配し、仕事の帰りを待っていたみふゆだが…。

 

「待ち合わせの場所には現れなかった…何処に行ったの…やっちゃん…?」

 

路地裏の道を当ても無く彷徨いながら彼女を探すみふゆ。

 

だが、歩いているうちに路地裏の光景を覚えている事に気がついていく。

 

「私…この路地裏を見たことがある…。たしか…小学生時代に……」

 

小学生時代の記憶が巡ったみふゆは走り出す。

 

あの頃の記憶通りの光景が待っているのならば…やちよがいる場所は決まっている。

 

みふゆは…その場所に辿り着く。

 

見えたのは…蹲って独り泣いていたやちよの姿。

 

「うっ……グスッ……長を任せられたんだから…役目を果たさないと…頑張ったのに…」

 

…蹲ったままのやちよに近づいていく。

 

その姿は何処か、小学生時代の自分達に戻れたかのような光景。

 

「でも…ヒック…でも…私がやってきた治世は…アァ…人間を…グスッ…苦しめるだけだった!」

 

みふゆが横に立ち、膝を屈めて優しく肩に触れる。

 

「魔法少女なんて…()()()()ですね…やっちゃん……」

 

みふゆの方に泣き顔を向けていくやちよ。

 

その表情も何処か、小学生時代のやちよの姿を彷彿とさせた。

 

「みふゆ……アァ…アァァァァ……あぁぁぁぁ~~~……ッッ!!!!」

 

彼女の胸に抱き着き、ひたすら泣き喚き続ける姿。

 

「頑張り過ぎです…やっちゃん。貴女だってか弱い女の子だって…出会った頃から知ってました」

 

――ずっと一緒に頑張ってきた私の前なら…やっちゃんはか弱い女の子でいいんです。

 

子供のように泣き続ける彼女の頭を優しく撫で続ける。

 

彼女の目からも涙が溢れていった。

 

……………。

 

彼女たちのいる路地裏を超えた通りには、一台の車が停車する。

 

車から降りてきた人物たちが、路地裏の奥へと進んでいく。

 

降りてきた2人を先導するかのようにして歩くのは、運転手である黒のトレンチコート姿の男。

 

「……落ち着いてきましたか、やっちゃん?」

 

優しく頭を撫でてくれていたみふゆに顔を上げていく。

 

「……うん、落ち着いたわ…」

 

「なら、帰りましょう。長としての地位がなくなったなら、私達も肩の荷が下ります」

 

「…そうね。負担が減るのは喜ばしいけど…私達は…これからも魔法少女よ…」

 

「そうですね…私達は何処まで…戦っていけるのか……」

 

「私も貴女も…もう19歳。来年になる頃にはもう……」

 

「それが…魔法少女の定めです。死ぬ日、死ぬ時は…一緒でありたいですね、やっちゃん?」

 

「みふゆ…ずっと私の傍にいて……死ぬ時も……一緒に……」

 

抱きしめ合っていた2人だが、近づいてくる足音に気が付き、振り向いていく。

 

「ようやく、お前らの魔力を探し出せたよ」

 

「あ…貴方は……人修羅なの…!?」

 

「人間の姿でお前と会うのは初めてだろうが、見た目は悪魔の時と左程変わりはないはずだ」

 

「また…やっちゃんと殺し合おうと言うのですか……?」

 

警戒心を示す2人だったが、彼は首を横に振る。

 

「俺はな、私立探偵をやっている。()()()()()()()()()()を、大手から流されてきてな…」

 

「行方不明者の捜索ですって…?」

 

「数年前に行方不明になった人物と…一年ほど前に行方不明になった人物を…ようやく見つけた」

 

「その……見つけられた人物と、私達が……何の関係が?」

 

「……後は、こいつらから聞くんだな」

 

暗い背後の道の隅に隠れていた人物たちに振り返り、来るように促す。

 

暗闇の中から歩いてくるのは…。

 

「あ……あぁ……」

 

「そ……そんな……夢……ですか……?」

 

2人の両膝が崩れ、膝立ちとなる。

 

「夢じゃない。俺の仕事は完了したから、捜索依頼を出したこいつらの家族に連絡を入れてくる」

 

踵を返し、彼は暗闇の路地裏から消えていく。

 

「……やちよ、ごめんな。あたしの遺言のせいで……苦しめてしまって……」

 

「本物……なの……?本当に……貴女なの……!?」

 

「幽霊に見えますか?七海先輩、みふゆさん?」

 

「ちゃんと…足は地面に立ってる。幽霊ではないと…思うけど」

 

彼女たちの前に立っていた人物とは…数年前に死んだ雪野かなえと安名メル。

 

何一つ変わらない姿のようにも見えるが…少しだけ変化している部分。

 

それは、悪魔を表す真紅の瞳。

 

「そんな…どうして!?円環のコトワリに…導かれたはずなのに…!?」

 

「う、うん……そこを説明しだすと…長くなるけど……」

 

「まぁ、ボク達はこうして蘇って元気になりましたとさ♪…では、ダメですか?」

 

「もしかして……ゾンビだと警戒されてる?」

 

「えぇ~~!?こんな可愛くてピチピチのゾンビなんているんですか!?」

 

「多分……いない」

 

生きていた頃と何一つ変わらないやりとりを見せられ、2人の脳裏には幸せだった頃が巡る。

 

「かなえ……メル……本物よ……2人とも…私が覚えているかなえとメルよ!!」

 

涙を流して立ち上がった2人が走り、2人に抱き着く。

 

「かなえ…かなぇぇぇ…ごめんなさい…守れなくて…ごめんなさぃぃぃ~~……ッッ!!!」

 

「…うん、辛かったね。あたしも…力が足りなくて、やちよ達を悲しませた…」

 

「メルさん…あぁ…メルさん!!!夢でもいい…構わない!!ずっと…ずっとこの夢を……」

 

「…夢じゃありませんよ、みふゆさん。まだ寝る時間ではないと思いますけど…?」

 

泣きじゃくる2人を優しく抱きしめるかなえとメル。

 

そんな光景を見届けた尚紀は…静かに消えていった。

 

「…おかえりなさい。かなえ……メル……」

 

「うん…ただいま………やちよ、みふゆ」

 

「ずっと長としての役目を頑張ってきたんですね。お疲れ様でした、七海先輩、みふゆさん」

 

「これからは…あたし達が2人の分まで頑張るから」

 

「だから…だからですね…2人とも、もういいんです」

 

――()()()()()()()()()……いいんです。

 

……………。

 

……………………。

 

クリスの車内に戻った尚紀が車を発進させる。

 

後部座席にはネコマタとケットシーの姿。

 

「…慣れない悪魔合体なんてやるもんじゃねーな。持っていたマッカを全部使っちまった」

 

「こねくり回してどうにか形に出来たニャ―……」

 

「悪魔全書で召喚した悪魔を、手探りで思念体と合体させまくっての実験だったわね…」

 

「でも、尚紀とヴィクトルは楽しそうだったニャ。新しい発見が出来たヴィクトルも喜んでたし」

 

「本来の悪魔合体なら不可能だったろうが…俺にはこれがあったのを思い出せたんだ」

 

左掌に出現させた道具とは、後生の土鈴。

 

「さまよう魂を導くという土でできた鈴…アマラ深界という魔界から盗まれた宝物だ」

 

「かつての世界で得た魔界道具の力だったのね…魔法少女を生み出せたのは?」

 

「誰でも蘇らせれるわけじゃない。強い魂を持つ奴だけを蘇らせれる…悪魔として」

 

「だとしたら…あの2人にはそれだけ強い魂…いいえ、感情が宿っていたということよ」

 

「これを用いて、俺はかつての世界において…マネカタを生き返らせたことがあった」

 

「擬人であるマネカタを?」

 

「あの2人も、悪魔というよりはマネカタに近いはずだ。魔法少女種族から擬人になったのさ」

 

「マネカタで大丈夫なのかニャ?たしか、人間と変わらないぐらい弱いって言ってたニャ」

 

「…ある特殊なマネカタの力だけは違った。超人と呼べるほどの力量を発揮した」

 

「だとしたら、蘇らせたあの2人…大丈夫そうね」

 

出現させた道具を仕舞い、運転に集中する。

 

家路に向かう道を走っていた時、彼が口を開いた。

 

「…俺はな、政治において…大切なことを忘れていた」

 

「政治においての…大切なこと?」

 

「俺の恐怖政治は…縛ること、奪うことだった。だが本来政治っていうものは…()()()()()()

 

「それはそうね…奪うだけの為政者を、どうして民衆は支持するのかしら?」

 

「俺の好きな日本の内閣総理大臣の中には、こんな言葉を残した奴がいる」

 

――政治とは、自分達が飯を食えない、子供を大学にやれない状態から抜け出すことを先決に考えねばならん。

 

――理想よりも現実だ。

 

――政治とは何か?

 

――()()()()()

 

「これからの尚紀は…与える側に回るのかニャ?だとしたら、西の長の治世は正しいニャ」

 

「違う、与えるばかりじゃ腐りきる。ベネズエラの際限のない福祉政策の末路が証明済みだ」

 

「事情を調べ上げたうえで、与えることで解決に導ける案件だけを対処していくつもりね?」

 

「出来る範囲で、やらねばならないことをやらねばならない。そのためにも、俺は探偵に戻る」

 

「東京の魔法少女社会を調べ上げる…これから忙しくなっていくわよ」

 

決意を胸に、尚紀の新しい道が進んでいく。

 

(…俺は孤児であり元ホームレス。持たざる者達の苦しみを…()()()()()()()()()()()()()()

 

彼は奪うものから与える者になっていく道。

 

彼が目指すのは秩序ではなく…中庸の道へと向かっていくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

日曜日。

 

クリスを運転する彼が向かうのは、故郷である風見野市。

 

風見野霊園に来た彼は、家族の墓前に立つ。

 

掃除を終えた彼が花を添え、線香を灯す。

 

祈る神がいない悪魔ではあるが両手を合わせ、家族の冥福を願った。

 

「…佐倉牧師。あんたが送ってくれた言葉だけでなく…あんたの生き様を俺は見るべきだった」

 

迷う人間たちのために、新しい教義を作ろうとした尚紀の家族。

 

古いしきたりに縛られた社会を変えようと足掻いた姿は、尚紀も追いかけることとなる。

 

だが、佐倉牧師は暴力で社会を変えようとしたのだろうか?

 

杏子の奇跡のせいで、その言葉は洗脳に成り果ててしまったが…それでも佐倉牧師は望んでいた。

 

「対話による社会変革…それこそが、あんたが目指した…世界の変革だったよ」

 

それでも彼には、それが如何に時と場合を選ぶのかを知っている。

 

人間をゴミ屑同然に扱う邪悪な魔法少女を相手にすれば、話し合いで解決することなど出来ない。

 

緊急事態に弱い、それが対話の限界。

 

それは緊急事態における民主主義政治体制の脆弱性さえも表していた。

 

「それでも…俺はあんたのやり方を真似てみようと思う。戦う場合でも…原因を探ってみる」

 

――アナタはアナタのままで良いワケ。

 

――アナタはアナタの情念を貫けばいい。

 

――周りに合わせても、社会は変えられないワケ。

 

――間違いは修正してでも勝ち取る。

 

――アリナはアリナが納得出来ないアートなら、ぶっ壊す。

 

――そして作り直す…何度でも…。

 

――…アナタに、妥協して欲しくない。

 

「秩序でも、自由でもない。道なき道を行く…答えのない道だ。だからこそ…()()()()()()

 

――そうだろ……アリナ?

 

家族の墓参りを終えた彼は、愛した人の墓参りに向かう。

 

不意に彼は立ち止まり、空の景色を見つめた。

 

「…人は正しさを求める。楽な正しさをな…」

 

光の道を歩くのは楽だから、みんな選ぶ。

 

闇の道に進み、正しい道を手探りで考えながら探す苦労は嫌だ。

 

だからこそ人は光だけが正しいと信じ、闇を悪だと罵るだろう。

 

光を疑わなければ、光という正義と異なる者達は、光という正義によって焼き尽くされるだろう。

 

光の神が生み出す道は正しいのか?

 

闇の悪魔が生み出す道は間違いでしかないのか?

 

「世界はこれからも二つに分断される。だが、分断が調和した時…六芒星は()()()()()となる」

 

六芒星とは、自然の力を最大限に発揮できる形。

 

自然の秩序に基づいたパワーを秘めながら、力学的にも安定した構造。

 

「これからの俺が求めるのは…秩序でも自由でもなくなる。それはきっと…俺の夢を捨てる道だ」

 

かつて彼は、愛した人に夢を語った。

 

世界は秩序から解放され、自由になるべきだと。

 

だが、彼は自由主義世界の弊害を見てしまう。

 

だからこそ彼は…夢と真逆の道である秩序を進むことになったが…それさえも破綻していた。

 

「間違いだらけの道…秩序でも自由でもないモノを追いかけるのは…」

 

――幻を追いかけている気分だ。

 

だが、彼は行く。

 

迷いのない足取りで。

 

これからの人修羅が進む道とは…六芒星の調和。

 

奪うだけでなく、与える道。

 

その先にこそ、中庸の道があるのだと信じて。

 

己の選択を信じ、責任を持つ。

 

 

それこそが、真・女神転生。

 

 

真・女神転生 Magica nocturne record

 

To be continued

 




4章テーマは、2章の五芒星とは違う『六芒星』(差異・分断・調和)です。
それと4章で描き切れなかった番外編としてのサイドストーリーをいくつか書いていきます。
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