人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
130話 それぞれの思い
深夜の神浜市北養区の道を進むのはクリスを運転する尚紀である。
嘉嶋家に入ってきたクリスをガレージ内に停め、車から降りた後に電動シャッターを閉める。
クリスを収納し終えた彼が玄関の扉を開けながら帰宅した事を仲魔に知らせてくれる。
「…ただいま」
玄関の靴箱上に置かれた狛犬像に視線を向けると無言のまま彼を出迎えてくれる。
「やっぱ…片方だけだともう一つが欲しくなる。フィギュア集めてる奴らと同じ症状か?」
靴を靴箱の中に仕舞った後、右手首の数珠も解いて靴箱の上に置く。
家の中に入り込んだ彼を出迎えてくれたのは悪魔化した姿のネコマタとケットシーであろう。
「おかえりだニャ~尚紀」
「仕事が終わった後には東京の守護者としての人生がある。多忙よねぇ、貴方って…」
適当に相槌を打った尚紀は書斎を兼ねた自室へと上がっていく。
着替え終えた彼が風呂を済ませた後、暖炉のあるリビングのソファーに腰掛ける。
時刻は深夜0時半を超えた頃、二匹の仲魔達もソファーに座りながら向かい合う。
「東京の魔法少女達の身辺を洗ってきたが…やはり生活困窮者が多かったよ」
「貧乏だからこそ切実な願いも生まれる。そんな連中は魔法少女になり易い連中ね」
「生活に困らない子らも口車に乗せられてしまう人も多いけど…大抵はそういう人なのかニャ」
「無理もない…この国は今、生活困窮者ばかりだ。それもこれも派遣法の改悪あっての光景だ」
「国の規制緩和によって、労働者を簡単に使い潰せる社会に変えられたのよね…日本社会は?」
「経済界が出した要望…
「酷いわね…労働者の権利なんてあったものではないわ…」
「それを促すために時の政権与党にガンガン政治献金したのさ。日本は地獄に変わった」
「公務員だって切り捨てられたわよね…時の政権が公務員にヘイトが向くよう煽ったから…」
「90万人いた公務員は29万人に減少。行政サービスは劣悪となったが…税収は変わらない」
「誰か…税金を吸い上げてる奴らがいるのかニャ…?」
「行政サービスの外注さ。税金を企業が吸い上げる仕組みの事を
「それにさえ気が付かず…毎日の低沈金労働に耐えてるのかニャ…日本人は…?」
「それに政権与党が進めてきた
「新自由主義ってなんだニャ?」
「法の支配の破壊と新自由主義路線という日米財界を強くするだけの…民衆略奪政策だ」
「
「売国者しかいないのかニャ…?今の日本の政治界隈は…」
「
「税収ばかりを巻き上げられて還元されず…この世の地獄と化していたあの頃ね…」
「全ては日米財界を儲けさせる政治でしかない…そして財界を支配するのが国際金融資本だ」
「ユダヤ銀行組織とユダヤ資本というわけね。資本主義の社会階級制度は…悪魔の弱肉強食よ」
「これじゃあ…日本は欧米の奴隷だニャ」
「日本は120兆円を超えるアメリカ国債を買わされてる。所有権も処分権もない空手形だ」
「酷過ぎるわ…日本人の税金を使って何兆円もの為替損を被っているだけよ…」
「さっき語った派遣問題…ピンハネした何十兆円は派遣会社や内部保留、投資家の配分となる」
「それも国際金融資本家が絡んでるのよね…?欧米に略奪の限りを尽くされてるだけよ…」
「大きな破壊が起きたのは2006年の
「2006年から生まれた法律は外資がぼろ儲けする内容ばかりだと貴方の書籍で読んだわ…」
「今の日本はな、
「なんで…そんな酷い奴隷制状態なのに…日本人は文句も言わずに働く事しか出来ないニャ?」
やりきれないケットシーの気持ちも分かるのか、尚紀も暗い表情になってしまう。
夜風に当たるためウッドデッキに移れる窓を開けた後、救いようがない現実を語っていく。
「…日本人は
「自分達がどれだけ政治に虐げられても…御上には逆らえないのかニャ…?」
「国や財界が日本人の権利を踏み躙る…それでも従う事こそが美徳だと…自分を押し殺す」
「救いようがないわね…日本人と呼ばれる企業社会主義民族は…」
「終身雇用制度事態が国家総動員法のパクリ。新自由主義が入れば社会主義国のように崩れる」
「国の生産力を上げるために国が企業という共同体に国民を縛り付けておく政策だったのね…」
「終身雇用という社会主義はもう通じない。そんな社会なら…誰が淘汰されようが気にしない」
「虐めも注意出来ない…企業に文句を言えば村八分か退職の二択…淘汰しか起こり得ないわ…」
アリナから語られた言葉が頭を過る中、タバコを取り出して火を点けた後、紫煙を燻らせる。
「…そんな日本社会なら、魔法少女達が略奪者に豹変するのも自然でしかないわ…」
「壊れた日本社会に虐げられ続けたニャ…オイラだって暴れたくもなるニャ…」
「究極の選択社会よ…上の言う事を聞くのか?聞かずに学校や企業という社会から出ていくか」
「自己責任という名の弱肉強食淘汰社会…本当に日本って、世界一平和な国なのかニャ?」
「ただの思い込みだ。調べればある判断材料を見ようともせず、友達と遊んでばかりの
B層とは日本や世界の偏向メディアに流されやすい考えない人達を意味する。
それでいて自国は平和で素晴らしい、テロが吹き荒れる中東や悪の枢軸国とは違うとぬかす。
アイルランドの文学者であり政治家だったバーナード・ショーはこんな言葉を残す。
――愛国心とは自分が生まれたと言う理由でその国が他より優れているという思い込みである。
イギリスの小説家であるジョリアン・バーンズもこんな言葉を残す。
――愛国心とはあなたの国が不名誉で悪辣で馬鹿みたいな事をしてる時に
吸い終えた煙草の吸殻を指で弾き、宙で燃やして灰とする。
「俺は…戦う相手を間違えていたのかも…しれないな…」
「…
「…それは欧米で虐げられ続ける民衆だって…同じ立場さ」
布団に入り、今夜は早めに寝ようとするが寝付けない。
これからの自分の力は何処に向けていけば人間の守護者の道に繋がるのかを考え続ける。
答えが見えてこない彼は政治や経済書籍を夜通し読み続ける事しか出来なかった。
♦
次の週を残して11月も終わる頃の土曜日。
尚紀は知識を求めて古書の匂いが漂う夏目書房に向かい、店内に入ると客足は見えない。
店の奥に視線を向ければカウンターの後ろに座る夏目かこがいるようだ。
「………………」
彼が入ってきたのにも気が付かず、レジが置かれた机の上で勉強している。
「…よぉ、かこ」
「きゃぁ!?」
ビックリした彼女が慌てて顔を上げながら苦笑いしてしまう。
「ご、ごめんなさい…尚紀さん。勉強に集中してました…」
「構わない、学生の本分は勉強だからな」
「そっちも大事ですけど、私が勉強していたのは…尚紀さんが教えてくれた教育方法です」
「ななかに伝えただけだったが、かこにも伝えられたようだな?」
「ななかさんが新しい長になりましたが…実はあの人は私生活が多忙な人なんです」
「そういや、華道の家元だったか?」
「華心流の再興…居合の鍛錬…学生の本分…魔獣との戦い…そして魔法少女の長の役目…」
「俺も寝る間を惜しんで働くワーカーホリックと呼ばれるが…ななかも俺に負けてないな」
「だからこそ私がななかさんに代わり、教育部分を指導出来る立場になりたいんです」
「いい心がけだ。高度に機能した集団の強みはな、属する各人の短所を全体の力で補える点だ」
「私…魔法少女としては強くないし、気弱です…。それでも知恵を求める気持ちは負けない!」
「各人の長所を最大限に活かせる集団になれ。かこの弱い部分は皆の強さで補える」
「私の強みはこれぐらいしかないのが恥ずかしかったけど…お陰様で考え方が変わりました♪」
「随分と教育や知識に貪欲だな?古書を扱う店の娘だからか?」
「私に興味を持ってくれて嬉しいです♪ななかさんや美雨さん達とばかり付き合ってましたし」
「そうだったな…悪かったよ。これからは書籍を扱うかこの方に世話になる機会が増えるさ」
「本当ですか?嬉しいです♪椅子を用意しますんで、座って下さい。お茶も淹れてきますね♪」
「いいのか…?ただの客として来ただけなのに…」
店内を見回すが、レジカウンターで勉強しててもいいぐらいの静けさである。
「尚紀さんは神浜魔法少女社会を変えてくれた大恩人です。私も貴方を尊敬してますから♪」
用意された椅子に座り、出された茶を飲みながら語り合う光景が続く。
「そうか…かこの父親は古書店の店主だが、母親は国語の教師をしていたか」
「本と教育、それが両親の人生です。そんな2人の血を…私も色濃く受け継いだんですね」
「理詰めで攻めてくるななかにも、喧嘩っ早い美雨にも気後れしない芯の強さもあると思う」
「私…魔法少女の世界に入ってでもこの店を守りたかった。今…守れてよかったと感じてます」
「どうしてだ?」
聞かれた彼女が尚紀に振り向き、満面の笑みを浮かべながらこう告げる。
「だって…古書の知恵を求めに来てくれる尚紀さんの、お役に立てているから」
漫画雑誌や娯楽小説だけでなく、知恵を取り扱うのも本屋の役目。
それを意識してくれる若者はあまりにも少ない。
「頑張って魔法少女の教育者の立場になれたなら…それをバネにして私も教師になりたいなぁ」
「今の教育体制に参加している魔法少女の様子はどうだ?」
「皆…余裕がない表情をしてます。とくに…東側の子達は…」
「押し付ける教育はダメだ。共に成長するのを重視し、学校の奴隷教育の真逆をやれ」
「はい、わかりました。これからは教育の事で家族との会話も増えそうです」
13歳の少女の夢を聞いた尚紀は俯くが、顔を上げた彼は真剣な眼差しを向けてくる。
「これからの社会は集合意識が重要になる。だからこそ、
「議論討論教育…?」
「本来、先進国には議論討論教育があるんだが…日本は意図的に教育現場から削除されてきた」
「そうだったんですか…?」
「自分の考え、他社の多様な意見、間違い修正を重視、尊重の意識を育む事が出来なかった…」
「たしかに…そうですね。学校でも先生からやれと言われた事しかやらせてくれませんね…」
「議論討論の威力を発揮したのが、あの幕末の松下村塾だ」
「吉田松陰が塾で講師をしてた…幕末から明治にかけて日本の指導者を生み出した塾ですね」
「元塾生の明治政府高官達は国民の反骨力を恐れた。意図的に削り取り、GHQも踏襲した」
「日本人から考える力が奪われた末路が…あの大東亜戦争だったのかもしれませんね…」
「仔動物のじゃれ合いを止めるなって話はな、相手を傷つけない間合いを子供の時から学べさ」
「子供のじゃれ合いがエスカレートしたら力有る親が止める。それが議長と議会なんですね…」
「議論討論を学ばなかった大人達は相手を傷つける間合いさえ分からない毒と化す」
「関係修復も出来ないし…トラウマで議論からも逃げますね…」
「正しさの確信さえ得られず、自己の中だけで考える悪循環に陥っていくんだ」
「分かりました。ディベートについても勉強して、教育プログラムに入れてみますね」
「
「はいっ!それが出来てこなかったから…神浜魔法少女社会は仲良し腐敗してきたんですね…」
「もっともそれは…俺にも言える事だったよ。家族だった佐倉牧師に合わせる顔がない…」
「大丈夫です。きっと尚紀さんの家族だって…気が付いてくれた事を喜んでると思います」
「だと……いいんだがな」
俯いていた顔を彼女に向ければ、手をもじもじさせる子供っぽい仕草をしながら頬を染める。
「ねぇ…尚紀さん。もし、週末に時間が空いている時は…その…」
「どうした?」
「えっと…もっと色々お話を…じゃなくって!個人的な勉強指導を…ええと…」
(???)
「な、なんでもないです!!忘れて下さい!!」
(何なんだ…一体…?)
顔を真っ赤にしながら後ろに向くかこに対して不思議顔な尚紀。
お互いに学び合う目線を重視して歩み寄り、相互理解を深めていく。
これこそが議論討論教育の価値であると信じたいと尚紀とかこは思うのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
夏目書房で買った政治・経済・金融関連書籍を抱えた尚紀は新西区を歩いていく。
見つけた公園の椅子に座り、買った書籍を紙袋から取り出して読書を始める。
そんな彼を見かけた女性達が近寄ってくる。
「あーっ!見つけましたよ~尚紀さん!朝の占い結果通り、待ち人来るですね~♪」
「あたし達の方から来たから、ニュアンスが微妙に違う気も…」
知っている人物達の声が聞こえた尚紀は書籍を閉じて彼女達に向き直る。
「…お前らか」
現れた人物とは彼の協力で悪魔に転生して生き返る事が出来た雪野かなえと安名メル。
人間の姿に擬態している時はこうやって日常生活を送れるようだ。
その隣には彼にとっては因縁深い者達も引き連れていたようだ。
「…元西の長であった七海やちよと、補佐だった梓みふゆもいるのか」
「……………」
「えっと、あの……」
まだ警戒心が抜けていない態度に対して周囲の空気が重くなる。
少し前まで悪魔の尚紀と殺し合っていた関係性であり、拭いきれない殺伐とした間柄であろう。
「やちよ、みふゆ…そんな態度ばかりしてると…あたしみたいに周りの敵意を買うだけ」
「…分かってるわ、かなえ。私から…言わせて」
彼の前まで歩み寄ったやちよであるが、何処か視線が泳いでいる。
「……なんだよ?」
「……そ、その…私は…」
言いたい言葉が上手く喉から出てこなかった時、素っ頓狂な叫び声が聞こえてくる。
「尚紀~!!ししょ~!!みふゆ~!!」
「この喧しい声は……」
「それにメル~!!かなえ~!!」
突然飛び込んで尚紀とやちよの首に抱き着いてくる人物とは由比鶴乃であろう。
「ねぇねぇ!私が言った通りの人だったでしょ?尚紀は私達の掛け替えのない人だよぉ♪」
「分かってる…抱き着いて首を抱え込まないで…」
「…相変わらずの大型犬っぷりだな。なんでこんなところでうろついてる?」
「出前配達の帰りだったの。お父さんも働けるラーメン店を探してるけど店はまだ営業中だよ」
「そうか…修行場所が見つかれば、暫く店を閉めてお前も骨休みが出来るな」
「それもこれも、全部尚紀がいてくれたお陰だからね…だからさ、やちよ!仲直り!!」
「分かってるから…首を放しなさいったら…もう…」
鶴乃の両腕から解放された2人が改めて向かい合う。
「……ごめんなさい、貴方を誤解してたわ」
深々と頭を下げるやちよの隣に立ったみふゆも頭を下げてくる。
「本当にすいませんでした…貴方がいてくれたからこそ…神浜魔法少女社会は変われました」
「……頭を上げろよ」
「……貴方が許してくれるまで、頭を上げる事は出来ないわ」
「指導的立場だった私達の怠慢を…無関係な貴方に尻ぬぐいをさせてしまいました…」
意固地な2人に対して困った表情を浮かべていた尚紀も立ち上がってこう告げる。
「自分勝手にやったことだ。それに俺のやり方だって間違っていた部分もある…顔を上げろ」
促された者達がようやく顔を上げてくれる。
「俺は…東京の魔法少女共を憎んだ。その感情を…お前達にまで向けてしまっていただけだ…」
「東京で出会った…あの荒くれ者共のことね」
「魔法少女も人間も関係なく無差別に襲う…恐ろしい魔法少女社会でした…」
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。お前達の社会も堕落してたが…あそこまでの対応はやり過ぎた」
「東京で魔法少女社会を管理してきたのね…魔法少女の殺戮者として…」
「俺のやり方は…負の潔癖主義だった。そのやり方が
「生産性の低下…?どういう意味かしら?」
「…そこらへんも踏まえてお前達と話がしたい。席に座れよ」
屋根のある公園の椅子に皆が座り込み、尚紀と向かい合う。
彼が語ってくれるのは全体主義を掲げた独裁社会の欠陥部分であろう。
「そういう事だったのね…私の大学の政策学部教授の講義を受けたけど、似た事を言ってたわ」
「
「人間社会にアリの巣社会を形成した時の似た現象とは…?」
「巣の中には2~3割の働かないアリがいる。自由が許されたアリを認めないのが全体主義だ」
「自由が許された怠け者アリって…どんな役目を背負わされてたんですか?」
「怠け者のアリは決して休んでいるわけではない。仕事に対する反応が鈍いだけだ」
「仕事に対する反応が鈍い…?まるで人間社会を優先して守らない魔法少女達みたい…」
「外部刺激に反応する刺激の強さに個体差がある。指導者が人間を守れと叫んでも…」
「それぞれの魔法少女という個体差によって、刺激を受け入れきれない子が現れる…?」
「腰の軽い者達は直ぐに動けるが、腰の重い者達は動けない。怠けているのではない…」
「働き方が…分からない状態…?」
「人間の職場だって自分だけ仕事がなかったら、かえって気疲れするし…辛いだけだよね…」
「だがな、働かないアリがいる構造の方が短期的には効率が悪くても、巣全体では長続きする」
「アリも働き続ければ疲れる…全員が働き者だと一斉に疲れて動けなくなる…?」
「だからこそ役割分担なのだろう。人間を優先したい者達と、そうでない者達の分担だ」
「その怠ける自由を認めるからこそ…いざという時に交代させる事が出来るというわけ?」
「魔法少女も自由を謳歌していい。その間に人間を優先する魔法少女達は頑張り続けるが…」
「その子達が疲れたら…今度は自由を謳歌した魔法少女達が苦しみを支えてあげる仕組み?」
「俺は全体主義者だ。全体主義を敷き、人間のために働く事しか許されない社会を敷いてきた」
彼が望んだ全体主義社会の末路とは何なのか?
それはやり場のない怒りを互いにぶつけ合う魔法少女達の
それを聞かされたやちよ達の顔が青ざめてしまう。
彼女達が東京に観光に行った時、襲われた光景も脳裏に蘇ってくる。
「どうりで…東京の魔法少女達に襲われるわけよ…」
「やり場のない怒りと心の疲れ…そのハケ口を求めるならもう…」
「同じ魔法少女に怒りをぶつけ合う事しか…出来なかったんだね…」
合点がいったのか彼女達は俯いてしまう。
そして彼とななかがもたらそうとした全体主義社会の恐ろしさを痛感してくれる。
「これは人間社会にも言えること…効率ばかりを求められても…人間は壊れるだけだ」
「虐めやパワハラ…集団リンチが消えないわけよね…」
「人間同士の共食いも…魔法少女同士の共食いも…変わらない構造だったんだね…」
「俺が敷いた社会構造は独裁国家やワンマン経営のブラック企業と同じ弊害をもたらした…」
「全体の効率だけを求める秩序主義だけじゃ…ダメだったんですね…」
「自由も必要…あたしだって、学校や企業社会の奴隷にされるのは…勘弁して欲しい」
「尚紀さんが言ってた生産性の低下って…もしかして…魔法少女の数が激減した事ですか?」
「その通りだ、メル。東京の魔法少女は潰し合い…その数も三分の一以下になってしまった」
「それでは魔獣との戦いも不利になってしまうわよ」
「返す言葉も無い…俺のやり方は結果として…人間を守る事には繋がらなかったんだ」
「これからの東京の魔法少女社会治世は…どうしていく気なんですか?」
「暫定的にだが…自由を認める。それも人間社会の利益の範囲内でしかないけどな」
「個人主義に腐ればどうなるか…貴方も東京や神浜で見てきたでしょ?」
「それを変えるための教育だと俺は結論を出せたが…問題がある」
「神浜では尚紀さんに協力してくれる魔法少女がいたけど、東京には…誰もいない?」
「俺独りで東京の魔法少女全員をかき集めて、社会主義を説いたところで通用しない」
「お互いの信用関係の無い、あの利己主義に腐り切った東京の魔法少女社会では…無理ですね」
「国や地域次第でこうも制御が難しい。だから社会学に正解はない…社会工学など傲慢だ」
「価値観の押し付けにしか繋がらないんだね…それだと大きな反発に合うだけだよ」
「20世紀のソ連が期待した共産主義革命は世界で起きなかった。理由もよく分かるだろ?」
「社会で生きる人間が歯車のように潰される社会だなんて…平等や博愛があっても嫌だよ…」
「自由を優先した私の治世と秩序を優先した十七夜の治世…先に壊れたのは十七夜だったわ…」
「十七夜を責めてやるな…あたしだって、東の荒くれ魔法少女を従わせるには…力しかない」
「同じ意見だ、かなえ。荒くれ者しかいない東京の魔法少女社会はこれからも力の統制がいる」
「社会の舵取りって…難し過ぎるよね。正解が見えてこないよ…」
「中庸のバランスこそが大事だが…その舵取りは困難を極めるだろう。それでもやらせてくれ」
会話を終えた者達が立ち上がっていく。
「興味深い話だったわ、尚紀さん。暇が出来たらみかづき荘に寄ってね、勉強させてもらうわ」
「尚紀でいい。戸籍上は23歳だが…お前やみふゆと並ばされたら…俺の方が年下に見られる」
「フフッ、悪魔って羨ましいわね。これから先も子供の姿でいられるだなんて」
「よくない…あたしとメルは悪魔になったけど、やちよやみふゆと一緒に…年齢を重ねたい…」
「あ~その件でですね、尚紀さんに引き続き相談があるんですよ~悪魔のボク達!」
「まだあるのかよ…取り合えず俺は家で読書をしたいから、要件なら家で聞く」
「わ~い!尚紀さんの家に上がれる!ケットシーやネコマタをモフっていいですか~?」
「ケットシーから聞いた…家に地下があるって。羨ましい…今度楽器の練習に行っていい?」
「…好きにしろよ。お前らも悪魔になったし、同じ悪魔の家なら正体を隠さなくてもいい」
去っていく悪魔達の後ろ姿を魔法少女達は黙って見送ってくれる。
「これから…どうなっていくのかしらね…私達の魔法少女社会って…」
「悪魔の存在は私達の社会にどんな恩恵と…脅威をもたらすのでしょうね?」
「それでも…私は悪魔を信じたいよ。だって尚紀は悪魔だけど……」
――魔法少女に手を差し伸べてくれた悪魔なんだから。
♦
初めて悪魔になった事もあり、戸惑いを見せる元魔法少女のかなえとメル。
2人の不安な気持ちを察した尚紀は先に悪魔となった者達に連絡を入れる。
家に戻った彼らはリビングに集まり、その中にはタルトとリズの姿もいるようだ。
「初めましてかしら?私はリズ・ホークウッドで…こちらはジャンヌ・ダルクよ」
「よろしく…それと…ジャンヌ・ダルク…?」
「世界史の有名人と同じ名前じゃないですか~!?」
「同じ名前というだけです。それに…タルトで構いません。皆さん、よろしく」
「リビングで座ってろ、何か飲み物でも淹れてやる」
「お構いなく~♪うわ~凄いオシャレなリビングですよ~かなえさん!!」
「はしゃいだら迷惑…でも、地下がどうなってるのか、あたしも見に行きたい」
別荘として機能していたログハウスではしゃぐ者達に対し、リズはオーバーに両手を広げる。
家の探索を終えた頃には珈琲を淹れてきた尚紀が戻っており、机に並べてくれている。
「…どうした、リズ?」
受け取った珈琲の匂いを嗅いだリズであるが、不満な表情を浮かべてくる。
「…ハチミツを淹れたのかしら?」
「珈琲にハチミツだと…?」
「ハチミツを淹れない珈琲を飲んでるだなんて…泥水を飲んでるようなものよ」
「そ、そこまで言うか…お前…」
「すいません、うちのリズはハチミツに目が無くて…なんでもハチミツをかけるんです」
「そんなハイカロリー生活なのに、こんなスレンダーな体系を維持してるのかよ…」
「大丈夫、太った分だけ運動して痩せるから」
フンスと鼻息の荒い無表情なドヤ顔を見せてくる造魔に対して彼も苦笑いしてしまう。
「…かつての世界の仲魔にもいたよ。ハチミツが大好物な地獄の番犬がな」
「犬のくせに味覚が優れているわね。会ってみたいものね、その地獄の番犬と」
「名はケルベロス。神話の中でもあいつはハチミツを練り込んだ菓子が大好きな甘党だったな」
席に座り、珈琲を一口啜り終えたメルが本題に入っていく。
「その…ボク達も悪魔になったお陰で新しい力に目覚める事は出来ましたが…」
「うん…流石に魔法少女時代の固有魔法は…無くしたみたいなんだ」
不安を感じる者達に対して先に悪魔となった者達が悪魔化について教えてくれる。
「悪魔の魔法と魔法少女の魔法は違う…私の今の魔法だって、生前のリズのものではないわ」
「私の光の魔法も…生前のタルトのものではありません。悪魔の力で真似をしてるだけです」
「便利だったんですけどね~…以前のボクが身に着けていた未来誘導の固有魔法…」
「アレは…ある意味危険過ぎる固有魔法…やちよからも多用するなと言われる程に…」
「う~…でも、ボクには新しい悪魔の力があるんです!なんと先が視えるんですよ!断片的に」
それを聞いた尚紀の脳裏に浮かぶのはマネカタの長であったフトミミの姿であろう。
(フトミミと同じ力が…特殊なマネカタとなったメルにも宿ったというのか…?)
「これはチャンスですよ~!運命を操作出来なくても、視える事で望む未来を誘導する事が…」
「はぁ…やちよに説教してもらわないと…全然懲りてない…」
悪魔の魔法の力に浮かれる元魔法少女達。
そんな者達に釘を刺すのが同じく悪魔となった先輩達の役目であろう。
「ねぇ…貴女達。魔法少女達に魔力回復が必要なように、悪魔の私達にも魔力回復がいるの」
「えっ…ま、まぁ…そうですよね。どうやって魔力を回復させたらいいんですか…?」
リズは尚紀に向き直り、彼も首を縦に振って話すよう促す。
「悪魔の魔力とは
「マグネタイト…?マガツヒ…?」
「魔法少女達が使ってきた言葉で表現するなら感情エネルギーと同じ概念です」
「あたし達のソウルジェムが生み出してきた感情エネルギーが…悪魔の魔力になるの…?」
「俺もな、この世界に流れ着いた頃は理解していなかった…悪魔の魔力という概念についてな」
<<それを説明したのがオイラ達だニャ>>
ケットシーとネコマタがやってきて尚紀の足元に座り込む。
「悪魔の魔力とは感情エネルギー。かつての世界では悪魔は実体を持つのが自然だと思った…」
「現世はボルテクス界のようにはいかないわ。概念存在である悪魔はMAGで召喚されるのよ」
「あたし達も…感情エネルギーを用いて召喚出来たんだ…?」
「感情エネルギーで形作られた悪魔は受肉した生命である母親から生まれた悪魔子孫とは違う」
「感情エネルギーを補充しないとね…死んでしまうの。人間が食事をしないと死ぬのと同じよ」
「オイラ達は悪魔の子孫。感情エネルギーを必要とはしなかったけど…弊害も大きかったニャ」
「悪魔の子孫である私達は…MAGが弱過ぎた。だから魔法さえ上手く使いこなせなかったわね」
「そんな事情があったんですか…?それなら…どうやって感情エネルギーを補充するんです?」
「俺は元々感情を生み出せる人間から悪魔になった存在。だから俺にMAGは必要ない」
「業魔殿で元の悪魔の力を取り戻した私達はね、尚紀から感情エネルギーを貰ってるの」
「チャクラを練り上げるとも言うニャ。なんなら、尚紀はアイテムでもMAGを用意出来るニャ」
「それは有限だ。補充が効かない以上、無駄遣いは出来ない」
「なるほど…ようはボク達悪魔は感情エネルギーを沢山持っている人から魔力を補充すると?」
「どうやって…やるんだろ…?グリーフキューブみたいなやり方なのかな…?」
「それについては私達が指導出来ます」
「私達はマスターが保護してる魔法少女達から感情エネルギーを提供し続けてもらえたのよ」
「つまり…ボク達が感情エネルギーであるMAGを当てにしていいのは…」
「やちよ…それにみふゆからだな」
「あの2人も魔法少女としてはもういい歳だ。お前達が感情エネルギーを吸い出してやれ」
「つまり…ボク達のような悪魔は…歩くでっかいグリーフキューブ?」
「うぅ…酷過ぎる例え。あたし…魔獣になったような気分になってきた…」
「まぁ…悪魔って概念は基本的に邪悪なイメージですしね…うぅ!ボクも辛い!!」
「気をつけなさい。ソウルジェムから毎日吸い出してるだけではちっぽけな量にしかならない」
「大きな魔法を使えば使うほどMAG不足になります。そうなれば…魔法少女の負担も増します」
「そうですね…毎日絶望死に近い程の感情の穢れを提供してくれだなんて…地獄ですよね」
「ある意味、
「サマナーのナオミから聞いたが…悪魔召喚師の修行とはチャクラである感情と魂を練る事だ」
「ソウルジェム…それは魂が別の器に入れられた品。宇宙を温めるエネルギーという名の薪…」
「感情の穢れた熱が宇宙だけでなく悪魔の存在まで延命してくれる…皮肉なもんだな…」
感情の穢れを象徴するのは7つの罪を司る悪魔達。
感情の穢れという罪を喰らえば喰らうほど強くなれる悪魔達ならば欲するだろう。
「ソウルジェムという極上の穢れが生み出す魂という名の美酒…悪魔なら…欲しがるな…」
彼はつい口走ってしまった事で周囲の者達から恐ろしい者を見るような眼を向けられてしまう。
「…すまない、例えにしても不謹慎だった。さっきの言葉は忘れてくれ…」
席を立った彼は窓を開け、ウッドデッキで煙草を吸い始める。
そんな彼の姿を見つめていたタルトがリズに念話を送ってくる。
<リズ…彼はまさか……>
<そのまさかだと思う…あんな言葉は魔法少女のソウルジェムを味わった悪魔だけが言えるわ>
<彼は優しい悪魔なんでしょうか…?それとも…皆を欺き……>
<その先は詮索しない方がいい。彼の行動でそんな人物ではない事ぐらい分かるでしょ?>
<そうですね…口では何とでも言えても、人間を守り抜いた人がそんな真似をするはずは…>
<それでも…彼は魔法少女の魂を食べている。矛盾した存在ね…>
<人なのか、悪魔なのか…その狭間を生きる存在が…人修羅と呼ばれる悪魔……>
女悪魔達が黙り込んでいたが、かなえは何かに気が付いたのか喜びの表情を浮かべてくる。
「なぁ…メル。これってもしかして…チャンスじゃないのかな?」
「ボクも同じ事を考えてました。ボク達は死なない限り…永遠不滅のグリーフキューブ…」
「ならやちよもみふゆも戦う必要はない。生きてくだけで穢れるソウルジェム問題は解決する」
「ボク達悪魔が魔法少女に…人間としての人生を与えられるんです」
「悪魔になれて…よかった。やちよとみふゆに救われたあたしの人生…やっと恩が返せる」
安堵した表情を浮かべるかなえとメルであるが、タルトとリズは違う。
<それと同時に…悪魔は魔法少女を襲う存在なのよ。ソウルジェムを求めてね…>
<悪魔の可能性とは…魔法少女達にとって、どちらに傾いていくのでしょうね…>
――魔法少女の人生を救う救世主か、魂を弄んで喰らう…ただの悪魔か。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ウッドデッキで煙草を吸いながら、外の景色を見つめているだけの尚紀。
彼の目線が舗装された山道に向いた時、立て続けに現れる少女達に対して辟易してしまう。
「今日は千客万来だな…しかも魔法少女のお客さんかよ…」
煙草を指で弾き、宙で燃やして灰にしながらデッキから下りていく。
小高い丘の山道を歩いてきたのは御園かりんのようだ。
「この道であってるかな?みたまさんから聞いたのはいいけど地図アプリだと分かりにくいの」
舗装されているが鬱蒼とした山道を歩きながら溜息をついていた時、目当ての人物が現れる。
「お前は…たしか調整屋共を匿っていた魔法少女か?」
「えっ!?び、ビックリしたの!!」
俯いていた視線が合わさった事で後ろに何歩か後ずさってしまう。
悪魔に怯える態度を見た彼は家の中にいる悪魔少女達と会わせるのは面倒事になると判断する。
「家の庭に落ちてる落ち葉を掃除していた。今日は何か用事で来たのか?え~と…」
「御園かりんなの…じゃない、かりんです。あの…ここの住所はみたまさんに教えてもら…」
「要件を手短に言ってくれないか?今日は客が何人か来ていてな…俺も忙しい」
「そ、そうなの…?間が悪かったの…」
「それで?悪魔の家に恐る恐るやってきた…お前の要件はなんだ?」
緊張していたが、それでも彼女は仲魔と言えるジャック・ランタンから彼の事は聞いている。
何もしてない魔法少女を突然襲うような悪魔ではないと知っているからこそここに来たのだ。
「それは…その、アリナ先輩の件で来たの…」
「アリナ……」
「その…前は疑ってごめんなさいなの。悪魔だから…アリナ先輩を誘拐しただなんて疑って…」
「…先輩の行方を捜しているのか?」
「アリナ先輩は栄区にあるギャラリーグレイの一人娘なの…社会人なら知ってると思うけど…」
「栄区で起きた…あの悲惨な火事か?」
「…先輩の葬儀に行ったの。でも、おかしいの…遺体が残る葬儀だなんて…ありえないの」
「遺体を確認したのか?」
「棺は…遺体の損壊が酷くて開けてもらえなかったの。でも、多分……」
「言いたい事は分かったが…俺はアリナと呼ばれるお前の先輩の行方までは…知らないな」
それを聞いたかりんの顔に落胆が浮かぶが、彼はアリナが生きているのは知っている。
それだけでなく、彼女が関わっている組織が如何に危険な組織なのかも知っている。
だからこそ、命の危険に晒されたままの魔法少女の生活に重荷を背負わせまいとするのだ。
「俺は探偵をしているが…流石にボランティアで人探しは無理だ。うちも人手不足で困ってる」
「そう…な、何かアリナ先輩の事で分かった事があったなら…連絡して欲しいの…」
「何処に連絡を入れたらいいんだ?」
「わたしの携帯番号を教えるの」
「…勘弁してくれ、お前も年頃の少女だろ?」
「えっ…?あっ…ごめんなさいなの…」
「よく知らない男にプライベート情報を教えるな。どうせなら、お前の方から俺に連絡をくれ」
ポケットから名刺入れを取り出し、かりんに一枚渡す。
「聖探偵事務所の探偵…嘉嶋尚紀さん?」
「フルネームで呼ばなくてもいい」
「嘉嶋さん…その、本当にわたし…アリナ先輩が生きているって…信じてるの」
「……そうか」
「だから…お願いなの!ほんの少しの情報でもいいから…分かった事を教えて欲しいの!」
「アリナ・グレイか…覚えておく」
深々と頭を下げた後、彼女は俯きながら去っていく。
彼女の姿が見えなくなるまで見送った彼の表情は申し訳ない気持ちでいっぱいであろう。
空を見上げる尚紀はすれ違ったアリナの道に思いを馳せる。
「お前の正しさはお前が決めろ。だが…お前の事を本気で心配する奴を…捨ててもいいのか?」
かりんの後ろ姿はボルテクス界で大切な親友達に置いて行かれた自分の姿と重なって見える。
家に向かって歩き始める彼が重い口を開きながら自分の覚悟を語り出す。
「…お前がイルミナティの側につくなら、俺達はいずれ…戦い合う日もくるだろう」
アリナが自分の正しさを信じ、人間社会に危害を加える道を進むなら容赦なく殺すだろう。
それを考えた時、右手首に巻いた数珠が重く感じる。
「…涼子、俺のエゴは消えないだろう…そして、俺の戦いの道に終わりもない…」
いずれアリナと戦う時が訪れた時、彼女を斬るかもしれない。
それでもかりんのためにも対話を諦めないと覚悟を決めてくれる。
「それでもダメな時は…義憤の感情という名のエゴを止めてくれ…」
――俺に…誰かの大切な友達を…もう一度殺させないでくれ。
♦
アリナの事やこれからの神浜魔法少女との関係を考えていた尚紀は落ち着かなくなっていく。
「少し街に行って、夜風に当たってくる」
「大丈夫なのかニャ…?今の神浜は物騒過ぎて、オチオチ外にも出られないニャ」
「みんな同じ気持ちよ。だからこそ…今の神浜の外は寂れているとも言えるわね…」
「…行ってくる」
家から出た彼は徒歩で神浜の街に向かい、北養区の街を歩いていた時に誰かを見つける。
「あっ……」
出会ってしまった人物とは十咎ももこだったようだ。
「…お前か。なかなかのパワーファイターだったよ、俺の体に刃を食い込ませる程のな」
彼女を襲うつもりはないが、それでも護身の構えは崩さない。
「…そう警戒しなくてもいい。もうアタシは…お前を襲うつもりは…ないからさ」
戦意を感じない彼女を確認した彼は体の軸をずらして人体の急所を隠す構えを解く。
「本当に…ごめんな。アタシ達は…なんて馬鹿な戦いを繰り返したんだろう…」
「…謝らなくていい。俺だって、お前達をそこまで追い込んでしまった責任がある」
「アタシは…お前を殺そうとした。それなのにお前は…アタシの大切な仲間を見つけてくれた」
「大切な仲間だと…?」
「安名メル…アタシがレナと組むよりも前に組んでた…チーム七海の大切な仲間だよ」
「メルか…俺は探偵としての職務を果たしたまでだ」
「隠さなくていいって。メルは円環のコトワリに導かれたんだ…それを甦らせれたのは…」
「…悪魔の裏技だと言っておこう。生き返らせてやらないと俺の家がメルとかなえに祟られる」
「アハッ♪幽霊も見えるんだ?メルは占いやオカルト好きだし取り憑かれたら厄介だったよ♪」
「テレビを見てたら突然頭が出てくるなんて光景は見たくないからな…」
「それに…かなえさんまで生き返らせてくれた。やちよさんね…あの2人を亡くしたから…」
「…自責の念に駆られて、仲間を遠ざけたか?」
「うん…でも、あの2人は帰ってきた。だからもう…やちよさんが仲間を拒絶する理由もない」
「チーム七海復活…と言ったところか?」
「神浜を荒らした悪魔は多くの命を奪った…それと同時に…少しの命を返してくれた」
「……………」
「悪魔って存在…アタシは今一掴みかねてるけど、これだけは言えるよ…」
――人修羅と呼ばれた悪魔が、やちよさんやアタシ達をもう一度繋いでくれた。
「環の輪に…してくれたんだよ」
それを聞けた尚紀の口元も自然と笑みが浮かんでくれる。
「ねぇ、お前とか言うのもなんだからさ…ちゃんとした名前を教えてよ?」
「人間としては嘉嶋尚紀と名乗ってる」
「嘉嶋さんかぁ…社会人なのに、見た目はアタシとそう変わらないよね?」
「戸籍上は年上だが敬語はいらない。好きなように扱え」
「ねぇ、嘉嶋さん。探偵として…ちょっと相談に乗って欲しいんだ」
「それがこんな夜更けに魔法少女独りで物騒な外をうろついてる理由なんだろうな」
2人は北養区の公園に移動してからベンチに座って向かい合う。
「実は…人を探してたんだ。探してる人物は……」
「もしかして…東の長をやっていた和泉十七夜か?」
「流石探偵さんだね、十七夜さんの事も調べがついてたんだ?」
「9月に探偵事務所を神浜に引っ越してきてからは魔法少女社会の現地調査を繰り返していた」
「十七夜さんは…クドラクと呼ばれる吸血鬼悪魔に襲われて…行方不明になった」
「吸血鬼悪魔…タチの悪い悪魔に襲われたようだな…」
「彼女は…噛まれてしまった。水路に流されて…今も行方知れずなんだよ…」
「…考えられる状況の中で最悪だ。男を知らない女だったのなら…彼女は既に吸血鬼だろう」
「アタシ達が…もっと早くに十七夜さんの元に間に合っていたら…」
「過ぎた事だ…これからの事を考えてやれ」
「アタシ…絶対に十七夜さんを見つけ出す。そして……」
「…見つけた時、お前の知っている十七夜ではなくなっていたら?」
「その時は…覚悟を決めるさ。アタシはまだ…人間社会を守る正義の魔法少女でいたい」
「…みたまが苦しむだろうな」
「調整屋の事を知ってるの?アイツと月咲さんを裁こうと現れただけの悪魔だと思ってたよ」
「あいつの保護者を頼まれた。俺に…これからの人生の脅威となってくれだとさ」
「調整屋らしい…潔い覚悟だよ。アタシだって辛い…それでも、正義を貫きたい…」
「妥協できない正義か…真っ直ぐな瞳をしてるもんな…お前」
「今は手がかりさえ掴めてない。だからさ…探偵の嘉嶋さんにも調査依頼を…」
「手付金をくれるのか?」
「えっ!?お金をとるの!」
「当たり前だろ?個人でやってる探偵事務所だが、ボランティアやれと言われたら所長も怒る」
「参ったなぁ…バイト代は夏に使い込んだし…探偵の手付金の相場も知らないし…」
「…仕事の合間で十七夜の存在に関する何かを見つけたら教えてやるよ」
「本当に!?よかったぁ…相談して。そうだ、アタシの携帯番号を……」
「…これで二回目だ。年頃の少女が無防備な姿をよく知らない男に見せるなよ」
「えっ…?あっ…それもそうだね…ごめん」
「お前にも名刺を渡す。お前の方から俺に連絡をしてこい…個人情報が見えないようにな」
「フフッ♪嘉嶋さんって、意外と少女に優しいじゃん?これが大人の対応なのかなぁ…」
「…いつもの俺でいて欲しいなら、これからの神浜魔法少女社会を頼んだぞ」
「うん!もう過ちは繰り返さないって約束する…だからこそアタシ達は新しい長を迎えたんだ」
名刺を一枚渡した後、彼女は手を振りながら去っていく。
沈黙したまま彼女の後ろ姿を見送った尚紀は左翼テロで荒らされた爪痕の深さを感じている。
「やれやれ…今回の騒動で行方不明者だらけになったか…」
警戒心を解いてくれたももこは気さくな性格であり、話していて気持ちのいい少女である。
そんな彼女と話せた事で気分を紛らわせる事が出来た尚紀は自宅へと帰っていく。
そんな彼であったが二度あることは三度あるかもしれないと妙な胸騒ぎを感じているようだ。
11月最後の週となる一週間が始まる月曜日。
事務所ガレージに停めたクリスから降り、二階事務所に入るとお客さんを見つけてしまう。
所長の机に身を乗り出しており、トラブルの種になりかねない少女達のようだ。
「ちょび髭おじさん…見滝原という遠い地から遥々やってきた私達に対して帰れって言うの?」
「ちょっと、呉?このオッサン殴ってもいいかしら?」
「おいおい…穏やかじゃないな!?それに子供の依頼を受ける探偵事務所が何処にある!?」
「見滝原の警察は当てにならないし探偵も当てにならなかったからネットで探して来たのに…」
「こんな薄情な探偵事務所だったなんて…無駄足の電車賃払って欲しいぐらいねぇ…」
「コイツ、刻もうよ小巻?」
険悪な空気もそよ風のようにしながら瑠偉の元に歩いてきた尚紀は状況を確認する。
(見滝原の郊外にある五郷の家から突然いなくなった友達を探して欲しいんですって)
(また依頼人が子供の人探し案件か…?これで三度目なんだがなぁ…)
(あら?他にも相談があったなんて、景気のいい話でいいじゃない?)
(…ちゃんと手付金を払える奴だったらな)
2人は前に向き直り、暴力沙汰を仕掛けるつもりなら止めに入る準備をする。
「いい加減にしろ!大人の世界はちゃんと金払ってくれるか分からない事には関わらない!」
金というワードが出た途端、呉と小巻が顔を見合わす。
黒髪の少女の横顔を見た尚紀は目を見開いてしまう。
その人物とは魔法少女が魔女に成り果てる世界の頃に出会った事があった人物なのだ。
(こいつ…たしか美国織莉子からキリカと呼ばれていた人物だ。改変世界では初めて会うな…)
短気だった彼女の隣にいる人物にも目を向けるが、織莉子が語った仲間なのだろうと判断する。
(こいつらが捜している人物ってのは…おそらく…美国織莉子だろうな…)
注意深く見つめていた時、小巻が手持ち鞄を開ける。
取り出したのは大きな紙袋であり、中には何かが入っている膨らみをしている。
「ちゃんと金払えば…美国の捜索をやってくれるのなら…払う用意ぐらいはしてるわよ」
所長の机に乱暴に放りだされた紙袋に対して丈二は怪訝な顔つきを浮かべてしまう。
「払う用意って…子供らしい豚の貯金箱でも入れてきたのかよ…?」
紙袋の中身を見た丈二であったが、そのまま体が固まっていく。
「おい…丈二?」
心配して声をかけるが、錆びついたゼンマイのような音を立てながら尚紀側に振り向く。
「あ~……瑠偉?この方々に珈琲を淹れてあげなさい」
「えっ…?べ、別にいいけど…」
「それと尚紀。この方々を応接室に案内してくれ…俺とお前でこの方々の依頼を受ける」
「マジかよ!?子供の依頼は受けないんじゃなかったのか!」
「出すものを気前よく出してくれる方々に粗相は出来ないのだよ。これも大人の世界だ」
紙袋の中に入っていたのは手付金として用意した500万円分の札束である。
「いや~小巻の家が大金持ちでよかったよかった♪流石白女はブルジョア集団♪」
「私だって…痛い出費なんだからね?それでも…美国を探しだせるなら払ってあげるわ」
「それでこそ、織莉子や私のお供というものだよ~小巻?」
「お供って何よ!?私をペット扱いする気なら…喧嘩買ってやろうじゃない!!」
突然喧嘩を始める2人に振り回される聖探偵事務所の職員達。
この時より始まるのは行方不明になった者達の物語。
それは遠からずに起こるだろう、東京の惨劇へと続く前日譚の道となるだろう。
3人の魔法少女達が描くこの世の地獄の光景が明らかになるのだ。
それこそが秘密結社と呼ばれる存在達の闇と向き合う事になる尚紀の物語にもなるのであった。
読んで頂き、有難うございます。