人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
130話 それぞれの思い
深夜の神浜市北養区。
嘉嶋家に入ってきたのは車悪魔のクリスである。
ガレージ内に車を停め、中から出て来た人物とは家主の嘉嶋尚紀であった。
電動シャッターを閉め、クリスを収納し終えた彼が玄関の扉を開ける。
「…ただいま」
出迎えてくれたのは玄関の靴箱上に置かれた狛犬像である。
ちかの贈り物は無言のまま彼を出迎えてくれた。
「…やっぱ、片方だけだともう一つが欲しくなる。フィギュア集めてる奴らと同じ症状か?」
靴を靴箱の中に仕舞い右手の数珠も靴箱の上に置く。
家の中に入り込んだ彼を出迎えてくれたのは悪魔化した姿のネコマタとケットシーだ。
「おかえりだニャ~尚紀」
「仕事が終わった後には東京の守護者としての人生がある。多忙よねぇ、貴方って」
適当に相槌を打った尚紀は書斎を兼ねた自室へと上がっていく。
着替え終えた彼が風呂を済ませ、暖炉のあるリビングのソファーに腰掛けた。
時刻は深夜0時半を超えた頃。
二匹の仲魔たちもソファーに座り、向かい合う。
「東京の魔法少女たちの身辺を洗ってきたが…やはり、生活困窮者が多かったよ」
「貧乏だからこそ、切実な願いも生まれる。そんな連中は魔法少女になり易い連中よ」
「生活に困らない子らも、口車に乗せられてしまう人も多いけど…大抵はそういう人なのかニャ」
「無理もない…この国は今、生活困窮者ばかりだ。それもこれも…派遣法の改悪あっての光景だ」
「国の規制緩和によって労働者を簡単に使い潰せる社会に変えられたのよね…日本社会は?」
「経済界が出した要望…
「酷いわね…労働者の権利なんてあったものではないわ…」
「それを促すために、時の政権与党に向けてガンガン政治献金したのさ。日本は地獄に変わった」
「公務員だって切り捨てられたわよね…。時の政権が公務員にヘイトが向くよう煽ったから…」
「90万人いた公務員は29万人に減少。行政サービスは劣悪となったが、税収は変わらない」
「誰か…税金を吸い上げてる奴らがいるのかニャ……?」
「行政サービスの外注さ。税金を企業が吸い上げる仕組みの事を…
「それにさえ気が付かず…毎日の低沈金労働に耐えてるのかニャ…?日本人は…?」
「それに政権与党が進めてきた新自由主義問題。今の八重樫総理は前の総理から引き継いだ」
「新自由主義ってなんだニャ?」
「法の支配の破壊と新自由主義路線という日米財界を強くするだけの…民衆略奪政策だ」
「
「売国者しかいないのかニャ…?今の日本の政治界隈は…」
「階級権力の再興…今の日本はな、フランス革命前の貴族と民衆の状態なんだよ」
「税収ばかりを巻き上げられて還元されず…この世の地獄と化していたあの頃ね…」
「全ては日米財界を儲けさせる政治でしかない…。そして、財界を支配するのが国際金融資本だ」
「ユダヤ銀行組織とユダヤ資本というわけね。資本主義の社会階級制度は…悪魔の弱肉強食よ」
「これじゃあ…日本は欧米の奴隷だニャ」
「日本はな、120兆円を超えるアメリカ国債を買わされてる。所有権も処分権もない
「酷過ぎるわ…日本人の税金を使って何兆円もの為替損を被っているだけよ…」
「さっき語った派遣問題…ピンハネされた何十兆円は派遣会社や内部保留、投資家の配分となる」
「それも…国際金融資本家が絡んでるのよね…?欧米に略奪の限りを尽くされてるだけよ…」
「大きな破壊が起きたのは2006年の
「2006年から生まれた法律って…外資がぼろ儲けする内容ばかりだと貴方の書籍で読んだわ」
「今の日本はな、売国が一番の金になるんだよ」
「なんで…そんな酷い奴隷制状態なのに日本人は文句も言わずに働くしか出来ないニャ…?」
やりきれないケットシーの気持ちも分かるのか、尚紀も大きな溜息をつく。
夜風に当たりたいのかウッドデッキに移れる窓を開けた後…重い口を開く。
「…日本人は、個人であることよりも組織の一員であることに重きを置く。それが原因だ」
「自分たちがどれだけ政治に虐げられても、御上には逆らえないのかニャ…?」
「国や財界が日本人の権利を踏み躙る。それでも従うことこそが美徳だと…自分を押し殺す」
「救いようがないわね…日本人と呼ばれる企業社会主義民族は……」
「終身雇用制度事態が国家総動員法のパクリ。新自由主義が入れば社会主義国のように崩壊する」
「国の生産力をあげるために、国が企業という共同体に国民を縛り付けておく政策だったのね…」
「終身雇用という社会主義は…もう通じない。そんな社会なら…誰が淘汰されようが気にしない」
「虐めも注意出来ない…企業に文句を言えば村八分か退職の二択。…淘汰しか起こり得ないわ」
――アリナはスクール時代、そういう腐り切った連中を沢山見てきたし…指摘したら虐められた。
――出る杭は打たれる、これが今の日本社会。周りに合わさないと不利益しか返ってこないの。
――正しさっていうものは、はっきり言って誰かが決めたものでしかないワケ。
――誰かに決められた正しさというものに…押さえつけられて生きる…。
アリナから語られた言葉が脳裏を過る。
ポケットからタバコを取り出し指で火をつけて紫煙を燻らせた。
「…そんな日本社会なら、魔法少女達が略奪者に豹変するのも…自然でしかないわ」
「壊れた日本社会に虐げられ続けたニャ…。オイラだって暴れたくもなるニャ…」
「究極の選択社会よ…上のいう事を聞くのか?聞かずに学校や企業という社会から出ていくか…」
「自己責任という名の弱肉強食淘汰社会…本当に日本って、世界一平和な国なのかニャ?」
「ただの思い込みだ。調べればある判断材料を見ようともせず、友達と遊んでばかりの…B層だ」
B層とはメディアに流されやすい考えない人達を意味する。
アイルランドの文学者であり政治家だったバーナード・ショーはこんな言葉を残す。
――愛国心とは、自分が生まれたと言う理由でその国が他より優れているという思い込みである。
イギリスの小説家であるジョリアン・バーンズも、こんな言葉を残す。
――最高の愛国心とは、あなたの国が不名誉で、悪辣で、馬鹿みたいなことをしている時に…。
――それを言ってやることだ。
吸い終えた煙草の吸殻を指で弾き、宙で燃やして灰とする。
「俺は……
「…人間のために経済があるはずなのに、経済のために人間がある…日本はイカれてるわ」
「…それは欧米で虐げられ続ける民衆だって…同じ立場さ」
布団に入り、今夜は早めに寝ようとするが寝付けない。
これからの自分の力は何処に向けていけば人間の守護者の道に繋がるのかを考え続ける。
答えが見えてこない彼は、夜通し政治・経済書籍を読み漁り続ける事しか出来なかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
次の週を残して11月も終わる頃の土曜日。
尚紀は知識を求めて夏目書房に向かう。
客のいない店内に入ると古書の匂いが出迎えてくれた。
視線を奥に向ければ夏目かこの姿も見える。
「………………」
彼が入ってきたのにも気が付かず、レジが置かれた机の上で勉強中のようだ。
「…よぉ、かこ」
「きゃぁっ!!?」
ビックリした彼女が慌てて顔を上げ、苦笑いを浮かべてくる。
「ご、ごめんなさい、尚紀さん…。勉強に集中してました…」
「構わない。学生の本分は勉強だからな」
「そっちも大事ですけど、私が勉強していたのは…尚紀さんが押しえてくれた教育方法です」
「ななかに伝えただけだったが、かこにも伝えられたようだな」
「ななかさんが新しい長になりましたが…実は、あの人は私生活が多忙な人なんです」
「そういや、華道の家元だったか?」
「華心流の再興…居合の鍛錬…学生の本分…魔獣との戦い…そして、魔法少女の長の役目…」
「俺も寝る間を惜しんで働くワーカーホリックと呼ばれるが…ななかも俺に負けてないな」
「だからこそ…私がななかさんに代わり教育部分を指導出来る立場になりたいんです」
「いい心がけだ。高度に機能した集団の強みはな、属する各人の短所を全体の力で補える点だ」
「私…魔法少女としては強くないし、気弱です…。それでも、知恵を求める気持ちは負けない!」
「各人の長所を最大限に活かせる集団になれ。かこの弱い部分は、みんなの強さで補える」
「私の強みはこれぐらいしかないのが恥ずかしかったけど…お陰様で考え方が変わりました♪」
「随分と教育や知識に貪欲だな?古書を扱う店の娘だからか?」
「私にも興味を持ってくれて嬉しいです♪ななかさんや美雨さん達とばかり付き合ってましたし」
「そうだったな…悪かったよ。これからは書籍を扱うかこの方に世話になる機会が増えるさ」
「本当ですか?嬉しいです♪椅子を用意しますんで、座って下さい。お茶も淹れてきますね♪」
「いいのか…?ただの客として来ただけなのに…」
店内を見回すが、レジカウンターで勉強しててもいいぐらいの静けさだ。
「尚紀さんは…神浜魔法少女社会を変えてくれた大恩人です。私も…貴方を尊敬してますから♪」
用意された椅子に座り、出された茶を飲みながら語り合う光景が続く。
「そうか…かこの父親は古書店の店主だが、母親は国語の教師をしていたか」
「本と教育、それが両親の人生です。そんな2人の血を…私も色濃く受け継いだんですね」
「理詰めで攻めてくるななかにも、喧嘩っ早い美雨にも気後れしない…芯の強さもあると思う」
「私…魔法少女の世界に入ってでもこの店を守りたかった。今…守れてよかったと感じてます」
「どうしてだ?」
聞かれた彼女が尚紀に振り向き、満面の笑みを浮かべてくれる。
「だって…古書の知恵を求めに来てくれる尚紀さんのお役に立てているから」
漫画雑誌や娯楽小説だけでなく、知恵を取り扱うのも本屋の役目。
それを意識してくれる若者はあまりに少ない。
「頑張って魔法少女の教育者の立場になれたなら…それをバネにして、私も教師になりたいなぁ」
「今の教育体制に参加している魔法少女の様子はどうだ?」
「…みんな余裕がない表情をしてます。とくに…東側の子たちは」
「押し付ける教育はダメだ。共に成長するのを重視し、日本の学校の奴隷教育の真逆をやれ」
「はい、わかりました。これからの教育の事で家族との会話も増えそうです」
13歳の少女の夢を聞いた彼は俯くが顔を上げて真剣な眼差しを向けた。
「これからの社会は、
「議論討論教育…?」
「本来、先進国には議論討論教育があるんだが…日本は意図的に教育現場から削除されてきた」
「そうだったんですか…?」
「自分の考え、他者の多様な意見、間違い修正を重視、相手尊重の意識を育む事が出来なかった」
「たしかにそうですね。学校でも、先生からやれと言われたことしかやらせてくれませんね…」
「議論討論の威力を発揮したのが…あの幕末の松下村塾だ」
「吉田松陰が塾で講師をしてた…幕末から明治にかけて日本の指導者を生み出した塾ですね」
「元塾生の明治政府高官たちは…国民の反骨力を恐れた。意図的に削り取り、GHQも踏襲した」
「日本人から考える力が奪われた末路が…あの大東亜戦争だったのかもしれませんね」
「仔動物のじゃれ合いを止めるなって言葉はな、相手を傷つけない間合いを子供の時から学べさ」
「子供のじゃれ合いがエスカレートしたら…力有る親が止める。それが議長と議会なんですね…」
「議論討論を学ばなかった大人は、相手を傷つける間合いさえ分からない毒と化す」
「関係修復も出来ないし…トラウマで議論からも逃げますね」
「正しさの確信さえ得られず、自己の中だけで考える悪循環に陥っていくんだ」
「分かりました。ディベート教育についても勉強して、教育プログラムに入れてみますね」
「人の振り見て我が振り直せ。俺から指図されるのがムカつくなら、自分達で襟を正すんだな」
「はいっ!それが出来てこなかったから…神浜魔法少女社会は…仲良し腐敗してきたんですね」
「もっともそれは俺にも言えることだったよ。家族だった佐倉牧師に…合わせる顔がない」
「大丈夫です。きっと尚紀さんの家族だって…気が付いてくれたことを喜んでると思います」
「だと…いいんだがな」
俯いていた視線を彼女に向ければ、手をもじもじさせる子どもっぽい仕草を見せ頬を染める。
「ねぇ…尚紀さん。もし、週末に時間が空いている時は…その……」
「どうした?」
「えっと…もっと色々お話を…じゃなくって!…個人的な勉強指導を…ええと……」
(???)
「な、なんでもないです!!忘れて下さい!!!」
(何なんだ……一体?)
顔を真っ赤にして後ろに向くかこに対して、不思議顔な尚紀。
お互いに学び合う目線を重視して歩み寄り、相互理解を深めていく。
これこそが議論討論教育の価値であると信じたい尚紀であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
夏目書房で買った政治・経済・金融関連書籍を抱えた尚紀は場所を移していく。
彼は新西区の公園の椅子に座り、買った書籍を紙袋から取り出して読書中のようだ。
そんな彼を見かけた女性達が近寄ってくる。
「あーっ!見つけましたよ~尚紀さん!朝の占い結果通り、待ち人来るですね~♪」
「…あたし達の方から来たから、ニュアンスが微妙に違う気も……」
知っている人物達の声が聞こえた尚紀は書籍を閉じ、彼女たちに向き直る。
「…お前らか」
現れた人物とは、彼の協力で悪魔に転生して生き返る事が出来た雪野かなえと安名メル。
人間の姿に擬態している時はこうやって日常生活を送れるようだ。
その隣には…。
「…元西の長であった七海やちよと、補佐だった梓みふゆもいるのか」
「……………」
「えっと、あの……」
二人はまだ警戒心が抜けていない態度を示す。
少し前まで悪魔の姿をした彼と殺し合っていた関係性。
そう簡単には拭いきれない殺伐とした間柄であった。
「…やちよ、みふゆ。そんな態度ばかりしてると…あたしみたいに、周りの敵意を買うだけ」
「……分かってるわ、かなえ。私から…言わせて」
彼の前まで歩み寄ったやちよだが、何処か視線が泳いでいく。
「……なんだよ?」
「そ、その……私は……」
言いたい言葉が上手く喉から出てこなかった時、素っ頓狂な叫び声が響いてきた。
「尚紀~!!ししょ~!!みふゆ~!!」
「この喧しい声は……」
「それにメル~!!かなえ~!!」
突然飛び込み、尚紀とやちよの首に抱き着いてきた人物とは鶴乃である。
「ねぇねぇ!私が言った通りの人だったでしょ?尚紀は…私達の掛け替えのない人だよぉ♪」
「分かってる…抱き着いて首を抱え込まないで…」
「…相変わらずの大型犬っぷりだな。なんでこんなところでうろついてる?」
「出前配達の帰りだったの。お父さんも働けるラーメン店を探してるけど、店はまだ営業中だよ」
「そうか…修行場所が見つかれば暫く店を閉めてお前も骨休みが出来るな」
「それもこれも、全部尚紀がいてくれたお陰だからね…だからさ、やちよ!仲直り!!」
「分かってるから…首を放しなさいったら…もう」
鶴乃の両腕から解放された2人が改めて向かい合う。
「……ごめんなさい、貴方を誤解してたわ」
深々と頭を下げるやちよの隣に立ち、みふゆも頭を下げた。
「本当に…すいませんでした。貴方がいてくれたからこそ…神浜魔法少女社会は…変われました」
「……頭を上げろよ」
「…貴方が許してくれるまで、頭を上げる事は出来ないわ」
「指導的立場だった私達の怠慢を…無関係な貴方に尻ぬぐいをさせてしまいました…」
意固地な2人に大きな溜息をつき、立ち上がる。
「自分勝手にやったことだ。それに…俺のやり方だって間違っていた部分もある…顔を上げろ」
促された2人がようやく顔を上げてくれた。
「俺は…東京の魔法少女共を憎んだ。その感情をお前達にまで向けてしまっていただけだ」
「東京で出会った…あの荒くれ者共のことね」
「魔法少女も人間も関係なく無差別に襲う…恐ろしい魔法少女社会でした…」
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。お前達の社会も堕落していたが…あそこまでの対応はやり過ぎた」
「東京で魔法少女社会を管理してきたのね…魔法少女の殺戮者として」
「俺のやり方は…負の
「生産性の低下…?どういう意味かしら?」
「…そこらへんも踏まえて、少しお前達と話がしたい。席に座れよ」
屋根のある公園の椅子に皆が座り彼と向かい合う。
語っていったのは全体主義による社会治世の欠陥部分だった。
「…そういう事だったのね。私の大学の政策学部教授の講義を受けたけど、似た事を言ってたわ」
「効率だけを求める生物は滅びる。全体主義はアリの巣で語られるが…似た現象が起きている」
「人間社会に向けてアリの巣社会を形成した時の…似た現象とは…?」
「巣の中には2~3割の働かないアリがいる。自由が許されたアリを認めないのが全体主義だ」
「自由が許された怠け者アリって…どんな役目を背負わされてたんですか?」
「怠け者のアリは決して休んでいるわけではない。仕事に対する反応が鈍いだけだ」
「仕事に対する反応が鈍い…?まるで、人間社会を優先して守らない…魔法少女達みたい…」
「外部刺激に反応する刺激の強さに個体差がある。指導者が人間を守れと叫んでも…」
「それぞれの魔法少女という個体差によって、刺激を受け入れきれない子が現れる…?」
「腰の軽い者たちは直ぐに動けるが、腰の重い者達は動けない。怠けているのではない…」
「働き方が…分からない状態…?」
「人間の職場だって、自分だけ仕事がなかったらかえって気疲れするし辛いだけだね…」
「だがな、働かないアリがいる構造の方が短期的には効率が悪くても、巣全体では長続きする」
「アリも働き続ければ疲れる…全員が働き者だと一斉に疲れて動けなくなる…?」
「だからこそ、役割分担なのだろう。人間を優先したい者達と、そうでない者達の分担だ」
「その怠ける自由を認めるからこそ…いざという時に交代させる事が出来るというわけ?」
「魔法少女も
「その子達が疲れ切ったら、今度は自由を謳歌した魔法少女達が
「俺は全体主義者だ。全体主義を敷き、人間のために働く事しか許されない社会を敷いてきた…」
――その社会の末路とはな。
――やり場のない怒りの感情を互いにぶつけ合う…
やちよ達の顔が青ざめていく。
彼女たちが東京に観光に行った時、襲われた光景が脳裏に蘇ってくる。
「どうりで…東京の魔法少女達に襲われるわけよ」
「やり場のない怒りと心の疲れ…そのハケ口を求めるならもう…」
「同じ魔法少女に向けて…怒りをぶつけあう事しか…出来なかったんだね…」
合点がいったのか彼女達は俯いていく。
そして彼とななかがもたらそうとした全体主義の恐ろしさを痛感させられた。
「これは人間社会にも言えること。効率ばかりを求められても、人間は壊れるだけだ」
「虐めやパワハラ…集団リンチが消えないわけよね…」
「人間同士の共食いも…魔法少女同士の共食いも…変わらない構造だったんだね…」
「俺が敷いた社会構造は…独裁国家やワンマン経営のブラック企業と同じ弊害をもたらした…」
「全体の効率だけを求める秩序主義だけじゃ…ダメだったんですね…」
「自由も必要…あたしだって、学校や企業社会の奴隷にされるのは…勘弁して欲しい」
「尚紀さんが言ってた生産性の低下って…もしかして、魔法少女の数が激減したことですか?」
「その通りだ、メル。東京の魔法少女は潰し合い…その数も三分の一以下になってしまった」
「それでは…魔獣との戦いも不利になってしまうわよ」
「返す言葉も無い…俺のやり方は結果として人間を守ることには繋がらなかったんだ」
「これからの東京の魔法少女社会治世は…どうしていく気なんですか?」
大きな溜息をついた尚紀が重い口を開く。
「…暫定的にだが、自由を認める。それも人間社会の利益の範囲内でしかないけどな」
「個人主義に腐ればどうなるか…貴方も東京や神浜で見てきたでしょ?」
「それを変えるための教育だと、俺は結論を出せたが…問題がある」
「神浜では尚紀さんに協力してくれる魔法少女がいたけど、東京には…誰もいない?」
「俺独りで東京の魔法少女全員をかき集めて、社会主義を説いたところで…通用しない」
「お互いの信用関係の無い、あの利己主義に腐り切った東京の魔法少女社会では…無理ですね」
「国や地域次第でこうも制御が難しい。だから社会学に正解はない…社会工学など傲慢だ」
「価値観の押し付けにしか繋がらないんだね…それだと大きな反発に合うだけだよ」
「20世紀のソ連が期待した共産主義革命は…世界で起きなかった。理由もよく分かるだろ?」
「社会に生きる人間が…歯車のように潰される社会だなんて、平等や博愛があっても嫌だよ…」
「自由を優先した私の治世と…秩序を優先した十七夜の治世。先に壊れたのは…十七夜だったわ」
「十七夜を責めてやるな…あたしだって、東の荒くれ魔法少女を従わせるには…力しかない」
「同じ意見だ、かなえ。荒くれ者しかいない東京の魔法少女社会は…これからも力の統制がいる」
「社会の舵取りって…難し過ぎるよね。正解が見えてこないよ…」
「中庸のバランスこそが大事だが…その舵取りは困難を極めるだろう。それでも…やらせてくれ」
会話を終えた皆が立ち上がる。
「興味深い話だったわ、尚紀さん。暇が出来たらみかづき荘に寄ってね、勉強させてもらうわ」
「尚紀でいい。戸籍上は23歳だが…お前やみふゆと並ばされたら俺の方が年下に見られる」
「フフッ、悪魔って羨ましいわね。これから先も子供の姿でいられるだなんて」
「よくない…あたしとメルは悪魔になったけど、やちよやみふゆと一緒に…年齢を重ねたい…」
「あ~その件でですね、尚紀さんに引き続き相談があるんですよ~悪魔のボク達!」
「まだあるのかよ…取り合えず俺は家で読書をしたいから、要件なら家で聞く」
「わ~い!尚紀さんの家に上がれる!ケットシーやネコマタをモフっていいですか~?」
「ケットシーから聞いた…家に地下があるって。羨ましい…今度楽器の練習に行っていい?」
「…好きにしろよ。お前らも悪魔になったし、同じ悪魔の家なら正体を隠さなくてもいい」
去っていく悪魔たちの後ろ姿を見送る魔法少女達。
「これから…どうなっていくのかしらね…私達の魔法少女社会って…」
「悪魔の存在は…私達の社会にどんな恩恵と…脅威をもたらすのでしょうね?」
「それでも…私は悪魔を信じたいよ。だって尚紀は、悪魔だけど……」
――魔法少女に手を差し伸べてくれた悪魔なんだから。
――――――――――――――――――――――――――――――――
初めて悪魔になった事もあり、戸惑いを見せる元魔法少女のかなえとメル。
2人の不安な気持ちを察し、先に悪魔となった魔法少女の現身達に連絡を入れる。
尚紀の家には現在、タルトとリズの姿もあった。
「初めましてかしら?私はリズ・ホークウッドで…こちらはジャンヌ・ダルクよ」
「よろしく…。それと…ジャンヌ・ダルク…?」
「世界史の有名人と同じ名前じゃないですか~!?」
「同じ名前というだけです。それに…タルトで構いません。皆さん、よろしく」
「…リビングで座ってろ。何か飲み物でも淹れてやる」
「お構いなく~♪うわ~凄いオシャレなリビングですよ~かなえさん!!」
「はしゃいだら迷惑…でも、地下がどうなってるのか、あたしも見に行きたい」
別荘として機能していたログハウスにはしゃぐ者達を見て、リズはオーバーに両手を広げた。
家の探索を終えた頃には珈琲を淹れてきた尚紀がやってくるのだが…。
「…どうした、リズ?」
受け取った珈琲の匂いを嗅いだリズだが不満な表情を浮かべてくる。
「…ハチミツを淹れたのかしら?」
「珈琲にハチミツだと…?」
「ハチミツを淹れない珈琲を飲んでるだなんて…泥水を飲んでるようなものよ」
「そ、そこまで言うか…お前…」
「すいません、うちのリズはハチミツに目が無くて…。なんでもハチミツをかけるんです」
「そんなハイカロリー生活なのに、こんなスレンダーな体系を維持してるのかよ…」
「大丈夫、太った分だけ運動して痩せるから」
フンスと鼻息の荒い無表情なドヤ顔を見せてくる造魔に対して、彼も苦笑い。
「…かつての世界の仲魔にもいたよ。ハチミツが大好物な…地獄の番犬がな」
「犬のくせに味覚が優れているわね。会ってみたいものね、その地獄の番犬と」
「名はケルベロス。神話の中でも、あいつはハチミツを練り込んだ菓子が大好きな甘党だったな」
席に座り、珈琲を一口啜り終えたメルが口を開く。
「その…ボク達も悪魔になったお陰で、新しい力に目覚めることは出来ましたが…」
「うん…流石に魔法少女時代の固有魔法は…無くしたみたいなんだ」
不安を感じる者達に向けて、先に悪魔となった魔法少女の現身達が口を開く。
「悪魔の魔法と魔法少女の魔法は違う…私の今の魔法だって、生前のリズのものではないわ」
「私の光の魔法も…生前のタルトのものではありません。悪魔の力で真似をしてるだけです」
「便利だったんですけどね~…以前のボクが身に着けていた未来誘導の固有魔法」
「アレは…ある意味危険過ぎる固有魔法。やちよからも多様するなと言われる程に…」
「う~…でも、ボクには新しい悪魔の力があるんです!なんと先が視えるんです!…断片的に」
それを聞いた尚紀の脳裏にはマネカタの長であったフトミミの姿が浮かぶ。
(フトミミと同じ力が…特殊なマネカタとなったメルにも宿ったというのか…?)
「これはチャンスですよ~!運命を操作出来なくても、視える事で望む未来を誘導する事が…」
「はぁ…やちよに説教してもらわないと。全然懲りてない…」
悪魔の魔法の力に浮かれる元魔法少女達。
そんな者達に向けて釘を刺すのが悪魔となった魔法少女の現身たちの役目であった。
「ねぇ…貴女達。魔法少女達に魔力回復が必要なように、悪魔の私達にも魔力回復がいるの」
「えっ…?ま、まぁそうですよね。どうやって魔力を回復させたらいいんですか…?」
リズは尚紀に向き直り、彼も首を縦に振って話すよう促す。
「悪魔の魔力とは、MAG(マグネタイト)、あるいはマガツヒと呼ばれるの」
「マグネタイト…?マガツヒ…?」
「魔法少女たちが使ってきた言葉で表現するなら、感情エネルギーと同じ概念です」
「あたし達のソウルジェムが生み出してきた…感情エネルギーが…悪魔の魔力…?」
「俺もな、この世界に流れ着いた頃は理解していなかった…。悪魔の魔力という概念についてな」
<<それを説明したのがオイラ達だニャ>>
ケットシーとネコマタがやってきて尚紀の足元に座り込む。
「悪魔の魔力とは感情エネルギー。かつての世界では悪魔は実体を持つのが自然だと思ったが…」
「現世はボルテクス界のようにはいかないわ。概念存在である悪魔はMAGで召喚されるのよ」
「あたし達も…感情エネルギーを用いて…召喚出来たんだ…?」
「感情エネルギーで形作られた悪魔は受肉した生命である母親から生まれた悪魔子孫とは違う」
「感情エネルギーを補充しないとね…死んでしまうの。人間が食事をしないと死ぬのと同じよ」
「オイラ達は悪魔の子孫。感情エネルギーを必要とはしなかったけど…弊害も大きかったニャ」
「悪魔の子孫である私達は…MAGが弱すぎた。だから魔法さえ上手く使いこなせなかったわね」
「そんな事情があったんですか…?それなら…どうやって感情エネルギーを補充するんです?」
「俺は元々感情を生み出せる人間から悪魔になった存在。だから俺にMAGは必要ない」
「業魔殿で元の悪魔の力を取り戻した私達はね、尚紀から感情エネルギーを貰ってるの」
「チャクラを練り上げるとも言うニャ。なんなら、尚紀はアイテムでもMAGを用意出来るニャ」
「それは有限だ。補充が効かない以上、無駄遣いは出来ない」
「なるほど…ようはボク達悪魔は感情エネルギーを沢山持っている人から魔力を補充すると?」
「どうやって…やるんだろ…?グリーフキューブみたいなやり方なのかな…?」
「それについては私達が指導出来ます」
「私達はね、マスターが保護してる魔法少女達から感情エネルギーを提供し続けてもらえたのよ」
「つまり…ボク達が感情エネルギーであるMAGを当てにしていいのは…」
「やちよ…それに、みふゆからだな」
「あの2人も魔法少女としてはもういい歳だ。お前達が感情エネルギーを吸い出してやれ」
「つまり…ボクたち悪魔は…
「うぅ…酷過ぎる例え。あたし…魔獣になったような気分になってきた…」
「まぁ…悪魔って概念は、基本的に邪悪なイメージですしね…。うぅ!ボクも辛い!!」
「気をつけなさい。ソウルジェムから毎日吸い出してるだけではちっぽけな量にしかならない」
「大きな魔法を使えば使う程、MAG不足になります。そうなれば…魔法少女の負担も増します」
「そうですね…毎日絶望死に近い程の感情の穢れを提供してくれだなんて…地獄ですよね」
「ある意味、
「サマナーのナオミから聞いたが…悪魔召喚師の修行とはチャクラである感情と魂を練る事だ」
「ソウルジェム…それは人の魂が別の器に入れられた品。宇宙を温めるエネルギーという名の薪」
「感情の穢れた熱が宇宙だけでなく悪魔の存在まで延命してくれる。…因果なもんだな」
感情の穢れを象徴するのは七つの罪を司る悪魔達である。
感情の穢れという罪を喰らえば喰らうほど強くなれる悪魔達ならば欲するだろう。
「穢れを生み出す
彼はつい口走ってしまった。
周囲を見れば恐ろしい何かを見つめるような視線が集まってくる。
「…すまない、例えにしても不謹慎だった。さっきの言葉は忘れてくれ…」
席を立ち窓を開け、ウッドデッキで煙草を吸い始める彼の後ろ姿を心配そうに見つめる少女達。
そんな彼の姿を見つめていたタルトがリズに念話を送ってくる。
<リズ…彼はまさか……>
<そのまさかだと思う…。あんな言葉は魔法少女のソウルジェムを味わった悪魔だけが言える>
<彼は…優しい悪魔なんでしょうか?それとも…皆を欺き……>
<その先は詮索しない方がいい。彼の行動を見てそんな人物ではない事ぐらい分かるでしょ?>
<…そうですね。口では何とでも言えても、人間を守り抜いた人が…そんな真似をするはずは…>
<それでも…彼は魔法少女の魂を食べている。矛盾した存在ね…>
<人なのか、悪魔なのか…。その狭間を生きる存在が…人修羅と呼ばれる悪魔……>
周囲の女悪魔達が黙り込んでいたが、かなえの重い口が開く。
「なぁ…メル。これってもしかして…チャンスじゃないのかな?」
「ボクも同じことを考えてました。ボク達は死なない限り、永遠不滅のグリーフキューブ…」
「なら…やちよもみふゆも戦う必要はない。生きてくだけで穢れるソウルジェム問題は解決する」
「はい…。ボク達悪魔が魔法少女に人間としての人生を与えられるんです」
「悪魔になれて…よかった。やちよとみふゆに救われた、あたしの人生…やっと恩が返せる」
かなえとメルは安堵した表情を浮かべる。
しかし、タルトとリズは違った。
<…それと同時に、悪魔は魔法少女を襲う存在なのよ。ソウルジェムを求めてね>
<私たち悪魔の可能性とは…魔法少女達にとって、どちらに傾いていくのでしょうね…>
――魔法少女の人生を救う救世主か。
――魂を弄んで喰らう…ただの悪魔か。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ウッドデッキで煙草を吸いながら外の景色を見つめる光景が続いていく。
尚紀の目線が舗装された山道に向いた時、溜息が出た。
「…今日は千客万来だな。しかも魔法少女のお客さんかよ」
煙草を指で弾き、宙で燃やして灰にしながらデッキから下りていく。
小高い丘の山道を歩いてきたのは御園かりんであった。
「この道であってるのかな?みたまさんから聞いたのは良いけど地図アプリだと分かりにくいの」
舗装されているが鬱蒼とした山道を歩きながら溜息をついていた時、目当ての人物が現れる。
「お前は…たしか調整屋共を匿っていた魔法少女か?」
「えっ!?び、ビックリしたの!!」
俯いていた視線が合わさり、後ろに何歩か後ずさる。
悪魔に怯えている態度を見て、家の中にいる悪魔少女達と合わせるのは面倒事になると判断。
「家の庭に落ちてる落ち葉を掃除していた。今日は何か用事で来たのか?…え~と」
「み…御園かりんなの…じゃない、かりんです。あの…ここの住所はみたまさんに教えてもら…」
「要件を手短に言ってくれないか?今日は客が何人か来ていてな…俺も忙しい」
「そ、そうなの…?間が悪かったの……」
「それで?悪魔の家に恐る恐るやってきたお前の要件はなんだ?」
緊張していたが、それでも彼女は仲魔とも言えるジャック・ランタンから彼の事は聞いている。
何もしていない魔法少女を突然襲うような悪魔ではないと知っているからこそここに来た。
「それは…その、アリナ先輩の件で来たの……」
「アリナ……」
彼の脳裏にアリナが走り去っていく光景が浮かぶ。
「その…前は疑ってごめんなさいなの。悪魔だから…アリナ先輩を誘拐しただなんて疑って…」
「…お前の先輩の行方を捜しているのか?」
「アリナ先輩は…栄区にあるギャラリーグレイの一人娘なの。社会人なら知ってると思うけど…」
「…栄区で起きたあの悲惨な火事か?」
「…先輩の葬儀に行ったの。でも、おかしいの…遺体が残る葬儀だなんて…ありえないの」
「遺体を確認はしたのか?」
「棺は…遺体の損壊が酷くて開けてもらえなかったの。でも、多分……」
「…言いたい事は分かったが…俺はアリナと呼ばれるお前の先輩の行方までは…知らないな」
それを聞いたかりんの表情に落胆が浮かぶ。
彼はアリナが生きているのは知っている。
だが、彼女が関わっている組織が如何に危険な組織なのかも知っている。
だからこそ、ただでさえ命の危険に晒されたままの魔法少女に重荷を背負わせまいとした。
「俺は探偵をしているが…流石にボランティアで人探しは無理だな。うちも人手不足で困ってる」
「そう…。な、何かアリナ先輩のことで分かった事があったなら…連絡して欲しいの」
「何処に連絡を入れたらいいんだ?」
「私の携帯番号を教えるの」
「…勘弁してくれ。お前も年頃の少女だろ?」
「えっ…?あっ……ごめんなさいなの」
「よく知らない男にプライベート情報を教えるな。どうせなら、お前の方から俺に連絡をくれ」
ポケットから名刺入れを取り出し、かりんに名刺を一枚渡す。
「聖探偵事務所の探偵……嘉嶋尚紀さん?」
「フルネームで呼ばなくてもいい」
「嘉嶋さん…その、本当に私…アリナ先輩が生きているって…信じてるの」
「……そうか」
「だから…だからお願いなの!ほんの少しの情報でもいいから…分かった事を教えて欲しいの!」
「…アリナ・グレイか。覚えておく」
深々と頭を下げ、彼女は俯きながら去っていく。
彼女の姿が見えなくなるまで見送った彼は溜息をついた。
――アリナはそんな腐った社会を捨てた。
――社会的には死んで…初めてアリナは自分を確立出来た。
――アリナはアリナを確立し、迷わずアリナの美を実践出来る。
空を見上げ、すれ違った彼女の道に思いを馳せる。
「…お前の正しさは、お前が決めていい。だがアリナ…お前の事を本気で心配してくれる奴を…」
――捨てていってもいいのか?
かりんの後ろ姿は、かつての世界で大切な親友達に置いて行かれた自分の姿と重なって見える。
家に向かって歩き始める彼が口を開く。
「…お前がイルミナティの側につくなら、俺達はいずれ…戦い合う日もくるだろう」
アリナが己の正しさを信じ、人間社会に危害を加える道を進むならば容赦なく殺す。
だが、それを考えた時…右手首に巻いた数珠が重く感じた。
「…涼子、俺のエゴは消えないだろう…。そして、俺の戦いの道に終わりもない…」
いずれアリナと戦う時、人間の守護者としてアリナを斬るかもしれない。
それでも過ちを起こした者として、尚紀は対話を諦めないだろう。
それでも義憤の感情に飲み込まれ、敵を殺したいエゴに囚われる恐怖を尚紀は感じていた。
「もう俺に…誰かの大切な友達を…
――――――――――――――――――――――――――――――――
アリナの事やこれからの神浜魔法少女との関係を考えていたら尚紀は落ち着かなくなった。
「少し街に行って夜風に当たってくる」
「大丈夫なのかニャ…?今の神浜は物騒過ぎて、オチオチ外にも出られないニャ」
「みんな同じ気持ちよ。だからこそ…今の神浜の外は寂れているとも言えるわね…」
「…行ってくる」
家から出た彼は徒歩で神浜の街に向かう。
北養区の街を歩いていた時だった。
「あっ……」
出会ってしまった人物とは、殺し合った神浜魔法少女の一人である十咎ももこ。
「…お前か。なかなかのパワーファイターだったよ。俺の体に刃を食い込ませる程のな」
彼女を襲うつもりはないが、それでも護身の構えは崩さない。
「…そう警戒しなくてもいい。もうアタシは…お前を襲うつもりはないからさ」
戦意を感じない彼女を見て、体の軸をずらして人体の急所を隠した構えを解く。
「本当に…ごめんな。アタシ達は…なんて馬鹿な戦いを繰り返したんだろう…」
「…謝らなくていい。俺だって、お前達をそこまで追い込んでしまった責任がある」
「アタシは…お前を殺そうとした。それなのに…アタシの大切な仲間を…見つけてくれた」
「大切な仲間…?」
「安名メル…。アタシがレナと組むよりも前に組んでた…チーム七海の大切な仲間だよ」
「メルか…。俺は探偵としての職務を果たしたまでだ」
「隠さなくていいって。メルは円環のコトワリに導かれたんだ…それを甦らせれたのは…」
「…悪魔の裏技だと言っておこう。生き返らせてやらないと…俺の家がメルとかなえに祟られる」
「アハッ♪幽霊も見えるんだ?メルは占いやオカルト好きだし、憑りつかれたら厄介だったよ♪」
「テレビを見てたら突然頭が出てくるなんて光景は見たくないからな」
「それに…かなえさんまで生き返らせてくれた。やちよさんね…あの2人を亡くしたから…」
「…自責の念に駆られて、仲間を遠ざけたか?」
「うん…でも、あの2人は帰ってきた。だからもう…やちよさんが仲間を拒絶する理由もない」
「チーム七海復活…と言ったところか?」
「神浜を荒らした悪魔は…多くの命を奪った。それと同時に…少しの命を返してくれた」
「……………」
「悪魔って存在…アタシは今一掴みかねてるけど、これだけは言えるよ…」
――人修羅と呼ばれた悪魔が、やちよさんやアタシ達を…もう一度繋いでくれた。
――環の輪に…してくれたんだよ。
それを聞けた尚紀の口元も自然と笑みが浮かぶ。
「ねぇ、お前とか言うのもなんだからさ…ちゃんとした名前教えてよ?」
「人間としては嘉嶋尚紀と名乗ってる」
「嘉嶋さんかぁ…社会人なのに見た目はアタシとそう変わらないよね」
「戸籍上は年上だが、敬語はいらない。好きなように扱え」
「ねぇ、嘉嶋さん。探偵として…ちょっと相談に乗って欲しいんだ」
「それが…こんな夜更けに魔法少女独りで物騒な外をうろついてる理由なんだろうな」
2人は北養区の公園に移動し、ベンチに座って向かい合う。
「実は…人を探してたんだ。探してる人物は……」
「もしかして…東の長をやっていた和泉十七夜か?」
「流石探偵さんだね、十七夜さんの事も調べがついてたんだ?」
「9月に探偵事務所を神浜に引っ越してきてからは…魔法少女社会の現地調査を繰り返していた」
「十七夜さんは…クドラクと呼ばれる吸血鬼悪魔に襲われて…行方不明になった」
「吸血鬼悪魔…質の悪い悪魔に襲われたようだな」
「彼女は…噛まれてしまった。水路に流されて…今も行方知れずなんだよ…」
「…考えられる状況の中で最悪だ。男を知らない女だったのなら…彼女は既に吸血鬼だろう」
「アタシ達が…もっと早くに十七夜さんの元に間に合っていたら……」
「過ぎた事だ…これからの事を考えてやれ」
「アタシ…絶対に十七夜さんを見つけ出す。そして……」
「…見つけた時、お前の知っている十七夜ではなくなっていたら?」
「…その時は、
「…みたまが苦しむだろうな」
「調整屋の事を知ってるの?アイツと月咲さんを裁こうと現れただけの悪魔だと思ってたよ」
「あいつの保護者を頼まれた。俺にこれからの人生の脅威となってくれだとさ」
「調整屋らしい…潔い覚悟だよ。アタシだって辛い…それでも、正義を貫きたい…」
「妥協できない正義…か。真っ直ぐな瞳をしてるもんな…お前」
「今は…手がかりさえ掴めてない。だからさ…探偵の嘉嶋さんにも調査依頼を…」
「手付金をくれるのか?」
突然大人の事情を聞かされたももこの顔に焦りが浮かぶ。
「えっ!?お金をとるの!」
「当たり前だろう?個人でやってる探偵事務所だが、ボランティアやれと言われたら所長も怒る」
「参ったなぁ…バイト代は夏に使い込んだし…探偵の手付金の相場も知らないし…」
「…仕事の合間で十七夜の存在に関する何かを見つけたら…教えてやるよ」
「本当に!?よかったぁ…相談して。そうだ、アタシの携帯番号を……」
「…これで二回目だ。年頃の少女が無防備な姿をよく知らない男に見せるなよ」
「えっ…?あっ…それもそうだね…ごめん」
「お前にも名刺を渡しておく。お前の方から俺に連絡をしてこい…個人情報が見えないようにな」
「フフッ♪嘉嶋さんって、意外と少女に優しいじゃん?これが大人の対応なのかなぁ…」
「…いつもの俺でいて欲しいなら、これからの神浜魔法少女社会を頼んだぞ」
「うん!もう過ちは繰り返さないって約束する…だからこそ、アタシ達は新しい長を迎えたんだ」
名刺を一枚渡した後、彼女は手を振って去っていく。
沈黙したまま後ろ姿を見送った尚紀であるが、何回目になるか分からない溜息が出た。
「…やれやれ。今回の騒動で行方不明者だらけになったか…」
警戒心を解いてくれたももこは気さくな性格だった。
そんな彼女と話せたことで落ち着きがなくなっていた気分を紛らわせる事も出来たようだ。
踵を返し、彼も自宅へと帰っていった。
諺の中にはこんな言葉があるのを知ってるだろうか?
二度あることは三度ある。
……………。
11月最後の週となる一週間が始まる月曜日。
事務所ガレージに停めたクリスから降り、二階事務所に入るのだが…。
「……………」
見れば所長の机に身を乗り出している少女達がいる。
「ちょび髭おじさん…
「ちょっと、呉?このオッサン殴ってもいいかしら?」
「おいおい穏やかじゃないな!?それに…子供の依頼を受ける探偵事務所が何処にある!」
「見滝原の警察は当てにならないし、探偵も当てにならなかったからネットで探して来たのに…」
「こんな薄情な探偵事務所だったなんて…無駄足の電車賃払って欲しいぐらいねぇ…」
「コイツ、刻もうよ小巻?」
険悪な空気もそよ風のようにして瑠偉の元に歩きより状況を確認。
(見滝原の郊外にある五郷の家から突然いなくなった友達を探して欲しいんですって)
(また依頼人が子供の人探し案件か…?これで三度目なんだがなぁ…)
(あら?他にも相談があったなんて景気のいい話でいいじゃない)
(…ちゃんと手付金を払える奴だったらな)
2人は前に向き直り、暴力沙汰を仕掛けるつもりなら止めに入る態勢である。
「いい加減にしろ!大人の世界はな…ちゃんと金払ってくれるか分からない事には関わらない!」
金というワードが出た途端、呉と小巻が顔を見合わす。
黒髪の少女の横顔を見た尚紀は目を見開いた。
――やぁ、ずぶ濡れのお兄さん。君は避難しないのかい?
その人物とは、魔法少女が魔女に成り果てる世界の頃に出会った事があった人物。
(こいつ…たしか美国織莉子からキリカと呼ばれていた人物か?この改変世界では初めて会うな)
短気だった彼女の隣にいる人物にも目を向けるが、織莉子が語った仲間なのだろうと判断する。
(こいつらが捜している人物ってのは…おそらく美国織莉子だろうな…)
注意深く2人を見つめていた時、小巻が手持ち鞄を開ける。
見れば取り出したのは大きな紙袋であり、中には何かが入っているように膨らんでいた。
「ちゃんと金払えば美国の捜索をやってくれるのなら…払う用意ぐらいはしてるわよ」
乱暴に所長の机に放りだされた紙袋。
「払う用意って…子供らしい豚の貯金箱でも入れてきたのか?」
紙袋の中身を見た丈二であったが、そのまま体が固まった。
「おい…丈二?」
心配した尚紀が声をかけるが、錆びついたゼンマイのような音を立てながら振り向く。
「……あ~瑠偉?この方々に珈琲を淹れてあげなさい」
「えっ…?べ、別にいいけど…」
「それと、尚紀。この方々を応接室に案内してくれ。俺とお前でこの方々の依頼を受ける」
「マジかよ!?子供の依頼は受けないんじゃなかったのか!」
「出すものを気前よく出してくれる方々に粗相は出来ないのだよ。これも大人の世界だ」
紙袋の中に入っていたのは、手付金として用意した500万円分の札束であった。
「いや~小巻の家が大金持ちでよかったよかった♪さすが白女はブルジョア集団♪」
「私だって…痛い出費なんだからね?それでも美国を探しだせるなら、払ってあげるわ」
「それでこそ、織莉子や私のお供というものだよ~小巻?」
「お供って何よ!?私をペット扱いする気なら…喧嘩買ってやろうじゃない!!」
突然喧嘩を始める2人に振り回される聖探偵事務所の職員達。
この時より始まるのは行方不明になった者達の物語。
それは遠からずに起こるだろう、東京の惨劇へと続く前日譚である。
魔法少女達に降りかかるこの世の地獄。
今こそ明らかになるだろう。
秘密結社と呼ばれる存在達の闇を。
読んで頂き、有難うございます。