人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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131話 酒は飲んでも飲まれるな

これは見滝原の少女達が聖探偵事務所に訪れる日の前日の話となる。

 

日も昇り切らない日曜日の早朝。

 

尚紀は日課の運動に向かうために起床し、ストレッチと筋トレを終えた後に出発。

 

ランニングにはいつもの如く武道仲間の志伸あきらが合流するのだが…。

 

「……なんで、お前までいる?」

 

見ればあきらの隣にいた人物とは水名区の武道仲間である竜城明日香であった。

 

「おはようございます、尚紀さん!早朝ランニングもおつなモノですね♪」

 

「何で…俺が早朝ランニングをしていると知って……あきら?」

 

彼が首を向ければ、彼女はボタボタと嫌な汗が吹き出す。

 

「アハ…ハハ…ランニング仲間は多い方が楽しいよね!」

 

「……口の軽い奴め」

 

「ずるいですよ!私だけ除け者にして秘密鍛錬だなんて!共に武道の道を歩きたいものです!」

 

「いや…あきらも美雨も勝手についてきてるだけなんだよ」

 

「そんな釣れない事を言わないでよ~尚紀さん!武道仲間は多ければ多い程いいし!」

 

「私も競技用薙刀を持ってきましたからね!公園での武術稽古の時はご指導お願いします!」

 

「スポ根娘共に振り回される……」

 

溜息をつき無言で走っていく。

 

ランニングをするだけなら文句もそこまでないのだが、悩みの種はついていけない女子トーク。

 

「それにしても…ランニングをしてると胸が痛くなってくるよね」

 

「胸囲が大きい程…クーパー靭帯に負荷がかかりますし…10代の成長期は特に痛むんです」

 

「明日香ぐらいオッパイが大きいとスポーツブラを探すのも大変でしょ?」

 

「うぅ…知らない間にこんな胸囲になるだなんて!毎日牛乳を飲んでたせいでしょうか?」

 

「まぁ…ボクも武術家として骨太になろうと毎日飲んでたせいか…胸が揺れて辛いんだよねぇ」

 

「参京の陸上部に参加してる葉月さんも胸が大きいし、何かお薦めブラを紹介してくれるかも?」

 

「そうだね~今度会った時に聞いてみようよ。…って!?尚紀さ~ん!置いてかないで~!」

 

(これがあるから…女子共の輪の中には入り辛いんだよ…)

 

2人に追いつかれた彼が溜息を出していたが、不意にポケットからスマホを取り出す。

 

「どうかしたんですか?」

 

「葉月の名前を口に出したから思い出した。嘉嶋会の理事長スケジュールを毎週送って貰ってる」

 

「え~?葉月さんに秘書みたいな仕事を与えてるんですか~尚紀さんは?」

 

「あいつ料理上手だけかと思ったらスケジュール管理も達者でな。願い出たから許可を出した」

 

(…尚紀さんがスケジュール管理能力が無い人だって思われたのかも?)

 

「嘉嶋会や傘下のFX企業の財産管理やスケジュール管理は、このはと葉月にも協力して貰ってる」

 

「それだけあの2人を信頼してるってことなんだね~」

 

「まぁな…。あの2人は孤児を救いたい俺達にとっては将来にわたって続くだろう宝物だよ」

 

無駄話をしていると南凪区も近づき、美雨の姿も見えてきた。

 

合流した皆が残りのランニングコースを走り続ける。

 

ランニングを終えた皆がいつもの公園に集合し、日課の組手鍛錬を開始。

 

早朝時間も過ぎていき朝日が見えてきた頃…。

 

「おはようございます、皆さん」

 

声がした方に皆が振り向けば、歩いてきたのは常盤ななか。

 

「どうした、ななか?というか、よく俺達がここで朝練してると……あきら?」

 

彼が首を向ければ、彼女はボタボタと嫌な汗が吹き出す。

 

「アハハ……ななかも朝練参加しない?って誘ってみたんだけど…断られたんだぁ」

 

「すいません、私は遅くまで勉強がありますので…流石に参加は難しいかと」

 

「無理をする必要はない。それより、今日は朝早くから用事か?」

 

「ええ…その……実はですね」

 

皆が練習を中断し、椅子に座って向かい合う。

 

「長としての資質について悩んでいる?」

 

「はい…私は小さなチームを率いた経験はありますけど…社会の舵取りをした経験はないので…」

 

「それを俺に相談しに来るのか?前まで長をしていた魔法少女連中に相談すればいいだろ?」

 

「尚紀さんは嘉嶋会理事長を務めている人です。リーダーシップについてお詳しいと思いまして」

 

「忘れそうになるけど、ナオキはNPO法人という共同体の長をやてる奴だたネ」

 

前までの長以上に頼りにされるのは、それだけ尚紀に信頼を寄せてくれている証。

 

彼もななかの気持ちを汲み取り、静かに口を開いた。

 

「長という為政者はな…哲人である必要はない。義務教育課程修了程度の常識人であればいい」

 

「そ…それぐらいでいいのですか?私はもっと知的で思慮深い者だと考えてました…」

 

「大切なのは…人の心の痛みを理解出来る者。最低限の品性や己の役職や権限の理解ある者だ」

 

「割と…基本的なイメージを提案してきますね」

 

「その基本さえ出来ていないのが日本の為政者共だ。ロジカルな思考も誠実さもない詐術師共さ」

 

「いつの間に長の正しいイメージが、ネガティブなモノにすり替わってきたのでしょうね…」

 

「平成30年間の政権与党を切り盛りしてきた連中が…イメージを変えてきたのさ」

 

「日本にとっては…失われた30年って言われてるよね…」

 

「相手の論理を躱す目眩しや、その場を凌ぐ詐術に長ける事が政治家の資質にされちまったんだ」

 

「日本の国会も…十分な審議を尽くしている場とも思えませんしね…」

 

「数だけで押し切る政治にしかならなくなった。こんな不誠実な存在にだけは…長としてなるな」

 

得心がいったのか、真剣な眼差しを尚紀に向ける。

 

「承知しました。誠実な長を目指すべく…これからの人生を邁進していきます」

 

「自分も人間という共同体の一員。魔法少女もまた共同体の一員だと心に刻んでいけ。忘れるな」

 

「はい、分かりました!魔法少女だけ得する治世を否定し…共同体皆が救われる道を考えます!」

 

「それだけ理解出来ていればいい。共同体の長として俺から言えることは…こんなところだな」

 

腕を組んでいたのを解き、立ち上がって見れば周囲から拍手の音。

 

「やっぱり尚紀さんはボクの目標だ♪こんな風に…社会を大切に出来る存在になりたいなぁ」

 

「義を見てせざるは勇無きなり…が、あきらさんの信条でしたからねぇ♪」

 

「私もナオキのような道を目指し、蒼海幇という共同体の一員として精進していくネ」

 

安心した彼女達を見回し、ななかの眼鏡が怪しく光る。

 

「そうだ、皆さんが朝練してると聞きましたので…スポーツドリンクを作ってきたんですよ♪」

 

皆の体に電流が走る。

 

冷や汗を流しながら彼女を見れば、肩に下げていた大きな水筒を開けようと…。

 

「……あ、今日の俺は嘉嶋会に行く準備があったんだ。先に帰るわ…」

 

「ボクも…今日は日曜稽古の指導員として参加する予定だったんだ…帰らなきゃ帰らなきゃ…」

 

「わ、私も今日は出稽古の指導員をする日でした…急いで帰らないと…」

 

「私…今日は蒼海幇の集会があたのを忘れてたネ。帰るヨ…大急ぎで!」

 

皆それぞれの言い訳を並べていくが、ななかはにこやかな笑顔を向けてくる。

 

「フフッ♪大丈夫ですよ、皆さん。これは私の伯母様が作ってくれた蜂蜜レモンジュースです♪」

 

ななかドリンクではないと聞かされ、安堵の表情を浮かべていく。

 

「ななか、そういう情報はもと早く言うネ」

 

「焦った~…ななかの猛毒…じゃない、刺激ドリンクは少し味がキツイからねぇ…」

 

「危うくドリンクで自害するかと思いました…。汗も沢山搔きましたから有難いですね」

 

「ななかも客観性に目覚めてくれたか。お前のドリンクは天災…じゃない、味が濃いからなぁ」

 

「紙コップも用意してますんで、良かったらどうぞ」

 

紙コップに注いで貰ったドリンクを皆が一息で飲み干すのだが…。

 

<<ゴハッッ!!!!!>>

 

虹色の吐瀉物を撒き散らし倒れ込む一同。

 

「あ…あら……?」

 

周囲の惨状を見て目をぱちくりさせるばかりの彼女が水筒を見つめる。

 

「あっ……これ………」

 

どうやら、伯母が止めてくれて用意して貰えたドリンク水筒ではなかったようだ。

 

「おかしいですねぇ…シュールストレミングは体にいいと思ってミキサーにかけたのに」

 

常盤ななかが自分の手作りドリンクに客観性を持てる日は、きっと遥か彼方であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

這い這いの体で家路についた尚紀は布団に入り込み、スマホで嘉嶋会を休むと連絡する。

 

「また…ななかの天災に襲われた。悪魔の俺をここまで追い込むななかの飲み物は何だ一体…?」

 

薬箱など用意していない彼は胃薬を買って来てもらうよう葉月にも連絡する。

 

「住所は教えたが…迷うかもしれないか?まぁ、スマホで連絡くれればナビはしてやれるし…」

 

胃のムカつきが収まらず布団から出られない状態が続く。

 

そんな家主を心配して枕横から見つめるのはお供の猫悪魔達であった。

 

「すまんニャ、尚紀。猫にしか擬態出来ないオイラ達じゃあ薬は買いに行けないニャ」

 

「当てにしてないから謝らんでいい…」

 

「かつての世界の回復道具であるディスポイズンで回復は出来ないの…?」

 

「それがな…不思議なことに…全く効果が出ない」

 

「無属性攻撃かしら…?恐ろしいわね、常盤ななかって子は…」

 

「マサカドゥス化したマロガレ飲んでても…防げる気がしないよ……」

 

「しょうがないニャ、昼飯は適当に冷蔵庫の中身でも漁っておくニャ」

 

「そうしてくれ…この前食料も買い溜めしておいたから暫くは持つだろう…」

 

家主を安静にするためにも二匹の悪魔達が部屋から出ていき一階に移動。

 

丁度その頃になって玄関のチャイムが鳴る。

 

「ニャ?葉月姉ちゃんもう薬を買ってきたのかニャ?」

 

「待ちなさい、ケットシー。この魔力なら覚えてるわ…昨日のあの子達よ」

 

ネコマタだけ悪魔化して玄関扉を開ける。

 

「おはよ~ネコマタ!」

 

「おはよう」

 

見れば昨日訪れたメルとギターとアンプを持ったかなえ達が立っている。

 

「あらあら、昨日に続いて今日も来てくれたの?」

 

「ん…この家の地下空間は、楽器練習場として最高の環境だったから…練習したくなって」

 

「ボクはそのお供ですし、それに…」

 

メルが後ろを見ればやちよとみふゆ、それに鶴乃の姿も見えた。

 

「やっほー!万々歳のスペシャル出前をお届けに来ました~!!」

 

「こら、鶴乃…朝っぱらから大声出しちゃダメよ」

 

「おはようございます。ええと…ネコマタさんですか?かなえさんとメルさんから聞いてます」

 

「貴女達は…って!?七海やちよーっ!!?」

 

脳裏に浮かぶのは尚紀と激しくぶつかりあったドライブバトル。

 

ネコマタは猫化して家の奥までトンずらしていった。

 

「…やっちゃん?あの猫悪魔ちゃん…貴女の顔見たら飛んで逃げていったけど…?」

 

「知らないところで何か…トラウマを与えちゃった感じ?」

 

「…思い出したわ。あの猫娘…尚紀とドライブバトルしてた時に乗っていた子だったわ」

 

「あ~……ボク達も七海先輩の背後から見てましたけど、とんだ災難を被ったんですよねぇ」

 

「ん……取り合えず尚紀を……」

 

かなえとメルが扉の中に入ったら今度はケットシーがやってきてメルに飛びついた。

 

「また遊びに来ましたよ~ケットシー♪」

 

ニャ―♪(オッパイ大きいお姉ちゃん達は大歓迎だニャ―♪)

 

メルの胸の中でゴロゴロ首を鳴らすケットシーの声は悪魔化しなければ周囲に伝わらない。

 

常時悪魔化しているとも言える車姿のクリスならばその心配は無いのだが…。

 

「この子も…悪魔なんですよね?」

 

「可愛い!悪魔って猫のような動物にも擬態出来るんだね~」

 

「そうね…今は可愛い猫姿だけど、たしか悪魔姿も猫人みたいな見た目をしてたわ」

 

やちよと目線が合うケットシー。

 

そっと胸に視線を移したケットシーであったが…枯れた大地にそっぽ向いた。

 

「この猫悪魔……私には懐かないわね…私には」

 

「もしかして…ネコマタみたいなトラウマ植え付けちゃいました?」

 

「なんで…やちよの胸に視線を向けたんだろうね…」

 

玄関でたむろしていたが下の騒ぎに気が付いた家主が下りてくる。

 

「お前ら…今日は一体何の用事で来たんだ?」

 

「おはよ~尚紀!万々歳のスペシャル出前をお届けに来ました~!」

 

「注文した覚えはないんだが…」

 

「まぁまぁ、今回はお父さんの奢りだって!これから世話になる人だし受け取ってね!」

 

「今の胃の状態で万々歳の味はキツイが…まぁいい。食える時にレンチンさせて貰う」

 

「昨日見学に来た時…地下を見たけど気に入った。ちょっと使わせて欲しい…」

 

「そのギターとアンプを見れば分かるよ、かなえ。まぁいい…好きに使ってくれ」

 

「フフッ♪そう言ってくれると嬉しい…あたし、友達少ないから……」

 

「それと…お前らまでこいつらについて来てうちに来たのかよ?」

 

「おはよう、尚紀。これから悪魔と共存する立場として…色々聞きたい事も多いのよ」

 

「だから尚紀さんとは…これからも仲良くさせて欲しいです。私達の大恩人ですし♪」

 

「そうか…お前らもあがってくれ。家を見て回りたいなら自由にしてくれて構わない…」

 

「調子悪そうですね~?何か食アタリでもしたんですか?」

 

「…やっぱお前、先の光景が視えるって話は…本当のようだな?」

 

「はい!なんかですね~夢の中で尚紀さんが虹色のゲーッ!…してるのが視えました」

 

「…そりゃあ、とんだ悪夢を見させちまったもんだな」

 

家主はかなえを地下に案内する。

 

残りの女性達は広々としたログハウス内を見学に向かう。

 

地下は前の主人の趣味空間として建造されており、奥のガラス部屋にはワインセラー跡も見えた。

 

「前の持ち主が収集品の置き場所として使っていたようだが…俺は広さを持て余していてな」

 

「凄いよ、ほんと。広い空間だから音も響くし…壁のボードやコンクリートも反射と吸音にいい」

 

「天井も吸音材を使ってると物件屋から聞いた。前の持ち主の趣味部屋だったんだろうな」

 

「至れり尽くせり…尚紀と出会えて、本当に幸運だったよ」

 

「室内武術鍛錬場としての使い道しかなかったが…お前も役立てたいなら俺は構わない」

 

「ありがとう、有難く使わせてもらうからね…」

 

アンプを繋いで練習を開始するかなえの姿を見つめつつ、地下室に置いてあるソファーで寝る。

 

熱心に練習するかなえの姿を見つめつつ尚紀はかつての世界の記憶に浸っていく。

 

(俺も…ギターに夢中になっていた時代が……友達の勇と…一緒に……)

 

胃のムカつきに耐えながら思い出世界に浸っていたが、かなえと目が合う。

 

「音……五月蠅くない…?」

 

「大丈夫だ。…お前とは音楽ジャンルの共通性を感じるぐらいさ…」

 

「そうなんだ…?もしかして、ギターを弾いてたとか…?」

 

「練習していた時期もあった…それでも、今となっては…辛い記憶しか思い出せないな…」

 

「そう……友達からギターを教えてもらってたの…?」

 

「まぁな…。お前は友達から習っているのか…?」

 

それを聞かれた彼女が黙り込む。

 

しかし、表情をあまり変えない彼女だが真剣な表情をして尚紀を見つめてきた。

 

「……あたしが魔法少女として生きてた頃の話…聞いて欲しい」

 

……………。

 

上の階ではログハウス内の見学を終えたやちよ達がリビングでくつろぐ光景が見える。

 

「素敵なログハウスね…地下や屋根裏部屋まであって、私のみかづき荘より豪邸よ」

 

「本当ですねぇ…あんな若いのに、どうしてこんな豪邸に住めるんでしょうね?」

 

「ななかが言ってたけど、尚紀はNPO法人の理事長も務めてるみたいだよ?」

 

「中々に謎が多い人物ですけど…でも、他人の心の痛みを理解してくれる優しい人ですよ」

 

ニャ―(その通りだニャ。尚紀も苦労してるけど心優しい悪魔だニャ)

 

みふゆの膝の上でゴロゴロ鳴いているケットシーを撫でていたみふゆなのだが…。

 

「それにしても、今日は日差しが強い日でしたねぇ。小高い丘の上まで登ってきたから…」

 

「そうねぇ…少し喉が渇いたかも」

 

「下の尚紀に飲み物飲んでいいか聞いてこようか?」

 

「勝手に何か頂いても大丈夫だと思いますよ?ボクが台所を見てきます~」

 

メルが勝手に台所に進んでいってしまう。

 

「ちょっとメル!行儀が悪いわよ!」

 

「フフッ♪メルさんのあの遠慮の無さを見ていると昔を思い出しますね」

 

「そうね…遠慮が無い性格をしてるから東の立場であっても西の私達と組む気になったのよ」

 

台所に来たメルが辺りを探索してみるとキッチンの上に置いてある大型ペットボトルに目がいく。

 

「ん?これって……」

 

話は変わるが、嘉嶋尚紀は酒豪である。

 

度数の高い酒が好みであり、ウイスキー・テキーラ・ウォッカ等を愛飲するのだが…。

 

「麦茶…ですよね?ペットボトルごと外に出して、ポンプつけて飲んでるんですねー」

 

彼女は勝手にグラスを取り出し、ポンプを押しながら人数分注いでしまう。

 

ステンレスの丸盆に乗せ、やちよ達に手渡していった。

 

「しょうがない子ね…飲み終えたら後でグラスを洗ってあげましょうか」

 

「ふんふん……な、なんかこの麦茶…妙な匂いが……」

 

「それじゃあ、勝手にいただきま~す!」

 

メルが淹れたのは麦茶などではない。

 

尚紀が一日の業務を終えた後、風呂から出ていつも飲んでいる晩酌用の品。

 

アルコール度数が40%となるウイスキー。

 

喉も渇き、麦茶だと勘違いした彼女達は一息で飲んでしまったのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

地下の趣味部屋では尚紀とかなえが思い出話を繰り返す。

 

「そうか…望まない暴力時代を救ってくれたのがやちよ達と軽音部だったか」

 

「…愛想の無い三白眼の顔をしてたから…いつも因縁をつけられてきた」

 

「…身を守るために喧嘩に明け暮れていく悪循環の人生か」

 

「小学生の頃からね…。騙し討ちも平気でしてくる…人間不信に陥ってきた…」

 

「それを救ってくれたのがやちよ達であり、音楽だったというわけだな?」

 

「ん…。やちよやみふゆ、それにやちよのお婆さんに救われた。そして…音楽にも」

 

「そうか…いつか音楽の才能が花開くといいな?」

 

「実は…生前に作りかけていた曲も色々あって…それで練習を再開したかった…」

 

「今は学生に復帰したんだろ?また軽音部で頑張ってるのか…?」

 

それを聞いたかなえは視線を逸らす。

 

「…あたしは数年間行方不明扱い。戸籍上の年齢は19歳…それでいて高校一年生からやり直し」

 

「…知っていた人物達は全員高校を卒業しちまったんだな」

 

「ん…それでも、もう一度やり直すために部活に入ったけど…年齢のせいで避けられてる…」

 

「年齢なんて社会に出れば関係なくなる。人間関係で大切なのはな、相互利益だ」

 

「相互利益…?」

 

「お前が利益になる行為をすれば、彼女達も無下にはしない。それを模索してみるんだな」

 

「ん…利益になる行為…。でも、あたしは絡まれやすくて…部活の子にも不利益しか…」

 

「前途多難そうだな…。まぁ、俺が空いている時なら相談に乗ってやる。悪魔同士の縁だ」

 

「…それも、利益になる行為…なの?」

 

「悪い気はしないだろ?こうやって、人間関係を積み重ねていくのさ」

 

「そっか……色々学ばせてもら……」

 

かなえが言葉を言い切る前に上の階から素っ頓狂な笑い声が響いてくる。

 

<<アッハッハッハ!!!>>

 

飛び跳ねて起きた彼とかなえが慌てて上の階に向かうのだが…。

 

「な……なんだ……これ???」

 

「うっ……酒臭い…」

 

もはやそこは居酒屋空間。

 

ボトルからウイスキーを注ぎ、飲んだくれのようにジャブジャブ飲んでいく女性達。

 

「ウフフィツィ美術館~~♪あ~…この麦茶飲んでると~…体が熱くなってきますぅ♡」

 

「アハッ…なんだか、独り頑張ってきたのがバカらしくなってきた…のんびりしようよ~…」

 

「グスッ…十七夜さんがいなくなるなんて…苦手だったけど…バカ…バーカ!バーカ!!」

 

女性陣の酒乱っぷりに唖然とした表情の尚紀と表情を変えないかなえである。

 

「この酒の臭い…まさか!?晩酌用の俺の酒を飲んでやがったのか!!」

 

「大変…全員未成年なのに……」

 

「気にするのそこなのか!?…未成年の飲酒自体は法律の罰則は無いから大丈夫なんだが…」

 

女子会の飲み会が如き光景など初めて見るので、社会人の尚紀も困惑を隠せない。

 

「は~い、梓みふゆ脱ぎま~す♡セクシーポーズが上手でしたら~おひねりくださ~い♡」

 

「ここって居心地いいよね~…もう家に帰りたくないし、魔法少女生活も疲れたな~…」

 

「あぁ…十七夜さん…グスッ…恋愛を知らないままだったから…お互い悪魔になったのかも…」

 

会話が成立しない光景が続く中、衣服を脱ぎだすみふゆから視線を逸らす。

 

「やちよは何処に消えた…?あいつしか止められる奴がいないぞ!?」

 

「あたしがみふゆの酔いを覚まさせてくるから、やちよを探してきて」

 

言われた通り廊下を通って台所に入ってみる。

 

そこで見た光景とは…?

 

「な……なんだ……アレ……?」

 

見れば大きな冷蔵庫の中に上半身を突っ込んで蠢く何かがいる。

 

「お…おい……やちよ……かな!?」

 

体がビクッと震えた蠢く何かが冷蔵庫から上半身を持ち上げていき…。

 

「あ…あぁ……」

 

そこに立っていたのは、顔中を埋め尽くす冷蔵庫の食材の数々。

 

「うぉぁぁぁーーーーッッ!!!?」

 

神や魔王が現れても驚かない彼が悲鳴声を上げてしまう程の異常現場。

 

それを合図にしたのか、勢いよく口の中に吸い込まれていく買い溜めた食料品の数々。

 

「ゲップ……夏も終わって食欲の秋。次は甘いものとコラボしたいわね…」

 

「やちよ…気のせいなのか…?いや、気のせいじゃねーよッッ!!?」

 

彼女を見れば体系がまるっと変わっている。

 

それは明らかに相撲取りの如き肥満姿である。

 

「どうやったら…こんな短時間でそんな人型ベルゼブブみたいなデブ体系になれるんだよぉ!?」

 

「企業秘密よぉ…。それにしても味気ない品ばかりだったし…カレーが食べたいわ…カレー…」

 

「カレーだと!?この期に及んでまだ食う気か!?」

 

「ちょっと出かけてくるわぁ。私は呑み気よりもヒック…食い気よぉ…」

 

デブっとした体を持ち上げ、彼女は軽快にステップしながら家を出ていく。

 

「どうすんだよ…この惨状…???」

 

胃のムカつきも忘れるぐらい思考停止していた時、後ろから酒臭さを放つ女が近寄ってくる。

 

「な~お~き~さ~ん♡♡♡」

 

背後から何者かが抱きつき、背中に感じる柔らかい感触によって彼も戸惑う。

 

「私のポールダンス見ててくれました~?上手く踊れたと思いますから~おひねり下さい♡」

 

「かなえ…俺は後ろの奴を見ていい状態なのか?」

 

みふゆを取り逃がしたかなえが後ろ側にいるが、首を振り諦めた声をだす。

 

「ダメ…上も下も脱いで下着姿。後ろを向いたらぶん殴る」

 

「…かなえ、こいつにきつけの一発を入れてやれ。リビングの棚の上に…飲み切った酒瓶がある」

 

「……了解。そういうのは…得意」

 

「ウフフ~~ン♡尚紀さんは~彼女います?いないなら~立候補しちゃいましょうか~♡」

 

「……悪いが、夢から覚める時間だ」

 

「え~~?」

 

次の瞬間、みふゆの頭に衝撃が走る。

 

「グエーッッ!!?」

 

背中から回した手を放して彼の後ろに倒れ込む。

 

背を見せたまま右手を上げ、サムズアップのハンドサイン。

 

「グッジョブ」

 

「ん…」

 

下着姿のみふゆをかついだかなえが消えたのを確認し、外に出たやちよを追うのだが…。

 

「ん!?逃げたらダメだよ尚紀!ここは新しいキレーションランドになるんだからね!!」

 

「何をワケの分からんことを!?」

 

立ちはだかるのは瞳のハイライトが濁った鶴乃である。

 

「私は生まれ変わった!無敵のツルノBLUE3だよっ!!」

 

「ニチアサ子供番組の見過ぎだろっ!?」

 

「うぇぇぇ~~ん!!尚紀さ~ん…十七夜さんが東にいないよぉ…先も視えないよぉ!」

 

「お前も足に抱き着くんじゃねぇ!!」

 

酒乱の少女達に拘束され身動きが取れない。

 

そんな家主の光景を猫悪魔達は見物しつつ、大きく溜息をついたのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

尚紀が家の中で苦戦する中、やちよは息を切らせながら玄関扉を開けて出て来る。

 

「フゥーフゥー…歩いただけで疲れたわ。魔法少女に変身しないとしんどいわね」

 

左手を掲げて変身。

 

その姿は実にまるっとしていた。

 

「フフッ♪ビッグサイズ衣類のオファーが殺到…それに、心なしか胸も大きくなったわね」

 

グラビアモデルの仕事も来るかもとルンルン気分で移動を開始。

 

「フゥーフゥー…歩くのしんどいわ。そうだ、尚紀にバイクを壊されたし…弁償よ弁償…」

 

まるっとしたやちよの視線が向かう先は車庫であるガレージ。

 

「ふんっ!」

 

デブの怪力で無理やりシャッターを開ければヒステリーな叫びを上げる妖怪車がいた。

 

「あーっ!やっぱり!!感じた事ある魔力だと思ったらアタシのボディを焼いたアバズレ…」

 

「ギルティ」

 

「えっ?」

 

突然まるっとした体形が宙を舞う。

 

「ギィニャァーーーーッッ!!!?」

 

ボディプレスがボンネットをめり込ませる殺伐とした光景である。

 

「昨日の敵は今日の友。壊されたバイクの代わりに使ってあげるわぁ」

 

「アタシを盗むつもり!?アタシの体はダーリンだけのもの…って!?」

 

運転席側の扉を剛力でこじ開け、中に入る。

 

「怪力無双ぉぉ~~~っっ!!?」

 

「魔法少女の便利魔法を見せてあげるわ」

 

キーの差込口に魔力を注ぐ。

 

突然車のエンジンが始動し、いつでも発進出来る状態となる。

 

「これが魔法少女の魔法よぉ。その気になれば屋根の上から車操作も…」

 

反撃の如くクリスは座席を前にスライドさせる。

 

「ぐぅ!!?」

 

まるっとした体がハンドルに挟まれ、デブい細目顔のやちよも青い表情。

 

「うぅ…苦しい…!!でも、いいのかしら…?今の私に圧迫攻撃をしかけてきて…!?」

 

「どういう意味よ!?」

 

「……相当な量の虹色が…口から飛び出すわよ?」

 

綺麗好きなクリスにとってそれは悪夢の光景。

 

観念したのか、席のスライドを元に戻す。

 

「わかった!わかったわ!!好きなようにアタシを使いなさいよ!!」

 

「いざ行かん、カレーを食べに!!」

 

壊れたバイクの代わりとして、妖怪車は軽快に搔っ攫われていく。

 

持ち主が家の玄関から飛び出した時には既に遅し。

 

「なんてことだ!!?どうなってんだよ…今日のノリはーっ!!!?」

 

「逃げちゃダメ!一緒にのんびりしようよ~!!」

 

「は!な!せ!!」

 

家主の持ちモノを強奪したまるっこい魔法少女は鼻歌歌いながらクリスを運転中だ。

 

「あんた…酒臭くない?飲酒運転で捕まるわよ!!」

 

「大丈夫よ。こう見えて私は大型バイクだけでなく車の免許も持ってるから」

 

「だから!それが一発免停になるって言ってんの!!」

 

「大変ね。スーパーのポイント10倍デーに間に合わないのは」

 

「心配するポイントがズレてる!!」

 

「それよりも、前方空間から感じる…この香ばしいサンドイッチの匂いは…」

 

(会話が成立しない!)

 

丘の道を上って尚紀の家を目指すのは葉月とあやめである。

 

「尚紀さんってば…またななかのドリンク地獄を味合わされたみたいだね~」

 

「尚紀お兄ちゃん…メシマズ魔法少女達から呪われてるのかなぁ?」

 

「このはもね~…新作料理を尚紀さんに食べさせる気満々だし…」

 

「あちし…尚紀お兄ちゃんには悪いけど、毒見役を変わってくれて…凄く嬉しい」

 

「は…はは……アタシも同じ気持ちだよ、あやめ」

 

胃薬を入れた袋を抱えた葉月と、胃を壊した彼のために作ったサンドイッチを籠に入れたあやめ。

 

2人が丘を登っていく時…。

 

「あれ…あの車って…尚紀お兄ちゃんの……」

 

「ちょっと待って!?乗ってる人…あれってまさか!!」

 

猛スピードで横を通り超えていく。

 

「まるっとしてたけど…あれってまさか…やちよさん!?」

 

「魔法少女衣装は同じだったよね…?って…あれ?あちしが持ってた籠はどこ!?」

 

通りの道に出たクリスの車体はカレーを求めて全速前進。

 

車内にはあやめのサンドイッチ籠を強奪したまるっこい魔法少女が暴飲暴食中である。

 

「サンドイッチはおやつね…おやつ。あっさり味付けで食べやすいわぁ」

 

「食いカス落とすんじゃないわよーっ!!!」

 

こうしてまるっこい魔法少女は失ったバイクの代わりとなる足を手に入れたのであった。

 

「……に、なると困るんだよぉ!!」

 

葉月とあやめも合流し、酒乱の鶴乃を取り押さえてもらう。

 

その間に動かすのは酔っぱらってはいるが先を視通す透視能力を持つメルなのだ。

 

「頼むメル!!あの出る作品を間違えてそうなやちよの行方を見つけ出してくれ!」

 

「ウイ~ヒック……う~むむむ……」

 

両手の人差し指を頭につけ、蟹股で気合を入れた姿で未来を視通す。

 

「……むっ!視える…視えてきましたよ!!」

 

「あいつの行先が分かったか!?」

 

「視えたのは……こ、これは!?」

 

「何が視えた!?」

 

「これは…デザートの…大食い大会の光景!?ボクも行きたい!」

 

「何しに行ったんだよ…あのデブ女ぁ!?」

 

その頃、まるっこい魔法少女は嘉嶋邸の近くにある洋食屋のウォールナッツにいた。

 

店内にいるのは、まなかの地域復興イベント企画を聞きつけてやってきたもう1人の大食い女だ。

 

「フフッ♪ウォールナッツの味の評判は聞いてたわ。今日のイベントを楽しみにしてたのよ」

 

大食いバトル用の特大ケーキの前に座るのは燃費が悪い凄腕サマナーのナオミである。

 

「それでは!10分以内ですよ~!!張り切っていきましょう!!!」

 

まなかのスタート掛け声が喉から出るよりも先に音をたてたのは店の扉。

 

「なっ……!?」

 

逆光と共に現れたのはまるっこい魔法少女の姿。

 

「な、何者よ!?な…なんだか、雰囲気が微妙に私に似ているような…」

 

ズカズカと歩いてきた席とはナオミの席の前である。

 

丸っこい魔法少女の恐ろしい細目がカッと開く。

 

「ずっどぉぉぉぉぉん!!ヨロシクゥゥ!」

 

大口が開いた瞬間、目の前のケーキが消失。

 

「あっ……」

 

何が起こったのかも分からないナオミの脳内に浮かんだのは…。

 

<<イカレやろーが 現れた! >たたかう>>

 

店内が凍り付く中、まるっこい魔法少女は扉の外へと消えていった。

 

「ふぅ…何故かは分からなかったけど、強烈なキャラ被りを感じたわ。並ぶと困るわね」

 

クリスに乗り込み再び動き始める。

 

その頃、尚紀達はメルの未来を視通す力に頼ろうとしているが…。

 

「み…視えました!!次の行先は……」

 

行きついた先とはお弁当屋の千秋屋である。

 

「え……えっと……」

 

店番をしていた理子は唖然とした表情を浮かべている。

 

「フフフ…年頃の子が楽しそうに働く姿は…いいわね」

 

暗い山の中で狼に睨まれるかのような怖さに震える理子。

 

「貴女…みかづき荘に興味ない?」

 

「え……えっと……あの……」

 

「なんなら、注文の品は貴女の方が……」

 

番犬としても役立っている柴犬のマメジが吼えまくる。

 

「……ごめんなさい。唐揚げ弁当を10個貰うわ」

 

「あ……ありがとう……ございます」

 

怯え切った理子が背中を見守る中、クリスに乗り込んだまるっこい魔法少女は次の行先へ。

 

そんな彼女の次の行先で待ち伏せするために尚紀は近くにいたナオミに協力を要請。

 

彼女の車に乗り込み、大急ぎでクリスを確保しに行くのだが…。

 

「ああ、見えたわ!!私の目当てであった…カレー屋が!!」

 

「あんた…まだ食う気なの……?」

 

新西区に見えたのはチェーン店として有名なカレー屋さん。

 

猛スピードで駐車場に入り込もうとした時…。

 

「ナオキ、今よ!!かましてやりなさい!!!」

 

「俺の乗り物を…返せぇ!!!」

 

茂みに隠れていた尚紀が道路に飛び出し…。

 

「な、なんですってーーッッ!!!?」

 

彼は足を広げて両手を構え…相撲の組み付きの如く車のフロントを掴む。

 

右足を引き、衝撃を受け止め切ったが…運転手は無事では済まない。

 

「あぁぁぁ~~~~~ッッ!!!!!」

 

お腹が苦しいとシートベルトをしていなかったやちよはガラスを突き破り飛翔していく。

 

カレー屋を大きく飛び越えていく光景を見届けたナオミはほくそ笑む。

 

「同じ大食い女として言えることは…デリカシーの無い大食いは見苦しいというだけよ」

 

お星さまの世界へと消えていくやちよは不思議な光景を目にする。

 

<<あぁ…ピンク色に輝く景色…美しいわ…。それに、あの光の向こう側に見えるのは…?>>

 

彼女が見えた存在とは、白いローブにピンクの線が見える衣装を纏う少女の背中。

 

<<あれよ…あれこそが私が求めていた存在!!この世界で見つけられなかった…依存先!!>>

 

両手で泳ぎながら白い魔法少女を求める怪しい存在。

 

遠くに見えた少女が後ろを振り向いていく。

 

<<私を受け入れて~~!!環の魔法少女~~~ッッ!!!!>>

 

手を伸ばして求めるが…その少女の口からは恐ろしい言葉が響いてしまった。

 

――私は、星2の魔法少女じゃなくて…星4魔法少女が欲しいです。

 

その表情は、実に引き弱い顔つき。

 

ピンク色の世界に浮かぶのは、ショックのあまり気を失った存在。

 

彼女が意識を取り戻したのは、カレー屋の向こう側に広がっていた川の水面であったようだ。

 

……………。

 

その夜。

 

「そうか…見つかったやちよは何かしらのショックを受けて…激痩せ出来たと?」

 

「うん…本当に迷惑かけて、ごめんね……尚紀」

 

「気にするな、かなえ。これからは気兼ねなしにうちに来い。地下ならいつでも空いてる」

 

「ん…やっぱり尚紀は、優しいね。その……甘えさせて…もらう…」

 

「それとだ…。今後二度とうちの車を盗まれないようにするために…やちよに伝えておいてくれ」

 

「何をさ…?」

 

「…壊したバイクの代わりは俺が弁償してやるって」

 

「フフッ♪…分かった、伝えておく」

 

スマホの電話を切った尚紀は大きな溜息をつく。

 

「なぁ…ケットシー、ネコマタ。俺は…とんでもない厄介者共とこれから付き合うんだな?」

 

「でも…にぎやかでよかったと思うわよ?」

 

「まぁ…シリアスばっかで尚紀も疲れてたと思うし…こういう日もあっていいと思うニャ」

 

「よくねぇよ…二度とごめんだ!!」

 

その後、やちよのバイクは買い戻されることとなる。

 

しかし洗練されたクールビューティな元西の長というイメージだけはそうはいかない。

 

「…おかしいわ。最近、神浜の魔法少女界隈から…ロリコン扱いされるようになったの…」

 

「私は…酒乱の脱ぎ癖女だって…妙な噂が出るようになりました…」

 

「私なんて精神病の疑いをかけられて…病院に行け、頭の方よって…言われ出したんだよ?」

 

どうしてこんなことになったの?と不思議顔を浮かべる三人娘の姿を残す。

 

酒は飲んでも飲まれるなとはよく言ったものであった。

 




読んで頂き、有難うございます。

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