人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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132話 葛葉ライドウの歴史

見滝原から訪れた2人の少女達の依頼。

 

それは友人である美国織莉子の失踪事件に関する捜索依頼であった。

 

応接室で詳しい事情聴取をされた2人であったが、聴取を終えた2人が事務所を出ていく。

 

帰っていくキリカと小巻の背中を外で見送る尚紀と丈二であったのだが…。

 

「美国…かぁ。国政政治家一族の娘の失踪…これは騒ぎになるだろうな」

 

「テレビやネットニュースには出ていない。恐らく美国本家は揉み消す構えだろう」

 

「政治家一族本家から捨てられた…哀れな分家筋少女ってわけだな」

 

「捜索するとしたら、失踪したという見滝原の金持ち地区と呼ばれる郊外の五郷だな」

 

「彼女は見滝原の白羽女学院にも通ってた人物。見滝原市内も捜索範囲に入るだろう」

 

「見滝原か…久しぶりに訪れることになりそうだ」

 

「そういや、お前の義妹が生活している街だったな?」

 

「ああ…あいつからも色々と事情を聞く必要がありそうだ。織莉子とは無関係ではない」

 

「もしかして…美国織莉子も魔法少女で、お前の義妹である佐倉杏子も…?」

 

「…ああ、魔法少女だ。見滝原魔法少女社会の一員として、何か知っているかもしれない」

 

「そこら辺の聞き込みはお前に任せる。人間の俺では…魔法少女達も秘匿するだろうしな」

 

「いつ見滝原に移る?」

 

「今日中に捜査機材などを準備して、明日の午前中には現地に入れるようにしよう」

 

「俺も手伝う。瑠偉には見滝原の捜査拠点として使えるビジネスホテルの予約を任せるか」

 

2人は探偵事務所に戻り、明日へ向けての準備に追われる。

 

捜査会議も行われ、終わる頃には夕方時刻。

 

捜査人員は2人であり、多くの機材は必要としないためクリスに乗って移動が決まった。

 

機材を積んだクリスは事務所ガレージに今日は置いておき、尚紀は徒歩で自宅へと向かう。

 

「手付金の額は十分だし、成功報酬は同じ額の500万円。大きな仕事になりそうだな…」

 

白女の女子生徒は子供なのに一千万円も勝手に使える身分なのかと考えていた時…。

 

<<ヒーホー!!>>

 

南凪区の通りを歩いていた時、空から聞こえてきたのはジャック・ランタンの声。

 

<お前か。声をかけるなら、人通りが少ない場所にしろよ…独り言を喋る変人扱いされる>

 

<すまんホ。出来れば、人通りが少ない場所に移動してくれると助かるホ>

 

<分かったよ…>

 

路地裏にまで移動した彼が浮遊するランタンに向き直る。

 

「何をしてたんだ?」

 

「ヒホ、俺はかりんに頼まれた人探しをやってたホ」

 

「…アリナの捜索か?」

 

「そうだホ。かりんは学校もあるし、魔法少女活動もある。暇な俺に白羽の矢が立ったホ」

 

「なるほどな。それで、何か当てがあるのか?」

 

「それがねぇから声をかけたんだホ」

 

「…俺だって当てはない。同じように行方を捜して欲しいと頼まれたが…何処にいるのやら」

 

「仕方ないホ。ブラブラしながら、適当に探してみるしかないホ」

 

「この神浜騒動のせいで…悪魔の存在が神浜の魔法少女連中にバレた。その後はどうだ?」

 

「ヒホ…空を飛んでる俺を見つけた魔法少女達に囲まれて、悪魔の質問攻めだホ」

 

「だろうな…まぁ、彼女達に向けて敵意はないと言い続けるしかないのだが…」

 

「…悪魔は、人の魂を喰らう存在だホ。そのイメージがある限り…悪魔に心開くのは難しいホ」

 

「…悪魔にとって、魔法少女のソウルジェムは…この上ないご馳走だからな…」

 

「俺も…かりんのソウルジェムを見てると、涎が出る時があるホ。でも…我慢してるホ」

 

「善行を積んでる証拠だ。魔法少女のかりんを支えてやっているのか?」

 

「あいつ、独りで活動してるけど…誰にでも味方しに行くホ。だから魔力消費が激しい奴だホ」

 

「それをお前が支えてやってるんだろ?彼女の穢れを吸い出して?」

 

「そうだホー。俺のお陰でかりんは魔獣と戦わないでもいいってのに…猶更人助けに行く奴だホ」

 

「フッ…アリナとは真逆の奴なんだろうな」

 

「これも成仏への道…生前の悪行を差し引きゼロに出来るまで、気長に頑張ってみるホ」

 

「かりんによろしくな」

 

会話を終えたジャック・ランタンが空に向けて飛翔していく。

 

「俺も手を貸してやりたいが…自分の仕事で人探しに向かう最中だ。勘弁な」

 

路地裏から出て来た尚紀であったが、知っている魔力を2人分見つけた。

 

「この魔力は……令とみたまか?」

 

視線を向けた先には、カメラを持った観鳥令と付添人の八雲みたまの姿があった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

尚紀を見つけたのはPRESS腕章をつけた学生服姿の令と私服姿のみたまである。

 

少し話があると言われて3人は南凪区にあるカフェに入ったようだ。

 

「…公園で聞いてもよかったんだが、こんな場所に連れてくるということは…」

 

「ウフフ♪観鳥さん達、歩き疲れて喉が渇いてたんだよね~」

 

「丁度いいタイミングで尚紀さんを見つけられたし、大人の太っ腹に甘えたいわね~♪」

 

「くっ…都合がいい時だけ、十代子供の特権を行使してきやがって」

 

メニュー表から選んだ品を店員に伝え終えた3人が向かい合う。

 

「お前達も、もしかして人探しをしていたのか?」

 

それを聞いたみたまが俯き、令は首を縦に振る。

 

「うん…十七夜さんを探してた。今の神浜は物騒でも、誰かが探してあげないと…」

 

「そうだな…。東の者だとバレない服選びは賢い判断だ。東の者だとバレたら…襲われるぞ」

 

「危険なのは承知の上よ。それでも…十七夜を見つけてあげたい…彼女はきっと苦しんでるわ」

 

「もしかして、令の固有魔法の力を当てにして…?」

 

「ええ…彼女の固有魔法は確実撮影。望む被写体と出くわす力こそが…彼女の能力だから」

 

「それでも空振り三振続き…観鳥さんの魔法の力に自信がなくなってきたよ…」

 

「捜査は集中力と忍耐力が試される。それは探偵だろうが記者だろうが変わらない」

 

「その通り。根気だけなら誰にも負けない…絶対に見つけ出してあげるよ」

 

「私も…見つけ出してあげたい。それに、悪魔の教育を魔法少女達にも施していき…」

 

「…悪魔となった十七夜の帰る場所を守ってあげたい…か?」

 

静かに首を縦に振る彼女を見て、それだけ2人の関係は深いものだと察する。

 

空気も重くなった頃、注文の品を届けられ一息つく。

 

何か別の話題でもして重い空気を取り除こうとした時、尚紀の視線が令のカメラに向かう。

 

「いいカメラだ。子供のお小遣いで買うのは難しいぐらいの高級品だな?」

 

「両親に我儘言い続けて…ようやく買ってもらえた初めてのカメラ。観鳥さんの宝物だよ」

 

「小さな頃からカメラが欲しかったのか?どうしてだ?」

 

自分に興味を持ってくれたのが嬉しかったのか彼女は少し微笑んだ後、口を開く。

 

「観鳥さんはね、幼い頃から珍しい出来事に遭遇するんだ。でも…信じてもらえない」

 

「そうだな…SNSでさえ、持論を語ったところで誰も信じようとしない連中ばかりさ」

 

「人は見たいモノしか見ようとしない、信じない。だからこそ、根拠や証拠がいるんだよ」

 

「その証拠を用意するための…カメラというわけか?」

 

「…ある時、幼い観鳥さんは学校の虐め現場を目撃した。でも…証拠が用意出来ないから…」

 

「教師は取り合わなかった…か」

 

「一番辛かった出来事は、交通事故の引き逃げ車のナンバーを残せなかった事。…悔しかったよ」

 

「……そうか」

 

「その悔しい感情を利用されてね…今はこの有様さ…」

 

「確実撮影の力…か。確かに凄かったな…あの神浜テロの時にその力をいかんなく発揮したし」

 

「普段はね、ゴシップみたいな撮影チャンスにしか巡り合えない。それが辛いとこだね…」

 

「新聞部の観鳥報は、南凪自由学園だと評判みたいじゃない?何が辛いの?」

 

「何処から嗅ぎ付けたか分からない真実の暴露。観鳥さんはね…皆から犬のように嫌われてる」

 

「警察や探偵、それに記者は犬と呼ばれる。犯罪者から見れば犬の如く追いかけ回す存在だしな」

 

「観鳥報という情報娯楽を消費するだけの人々には…貴女の辛さは理解されないわね…」

 

「人は証拠がなければ幾らでも詐術で逃れようとする無責任主義。だからこそ、証拠が大切だ」

 

「犬のように嫌われようが、ジャーナリストとしての生き様を貫くか…探偵として見習いたいな」

 

「素敵ねぇ~ほんとカッコイイわ。私も将来は~……カメラマンになろうかしら?」

 

……………。

 

一瞬思考が停止した2人がみたまを見つめる。

 

「な…なんで調整屋のお前が…カメラマンになりたいとか言い出すんだ?」

 

「観鳥さんもビックリしたよ。みたまさんがカメラに興味があったなんてねぇ」

 

「あら~失礼しちゃうわね。実はね~プロみたいに撮れる一眼レフカメラを衝動買いしてたの」

 

嫌な予感しかしなくなり、2人はみたまから視線を外す。

 

「そ…そろそろ出よう。もう日も沈みそうだし、東の家まで車で送ってやるよ」

 

「えっ?仕事からの帰り道だったんでしょ?悪い気がするなぁ…」

 

「このご時世だから何が出るか分からない。お前らは美雨のように喧嘩慣れしてるのか?」

 

「してないわね~…それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら♪」

 

「少し待ってろ。事務所に戻って車のクリスを回してくる」

 

3人分の清算を済ませた彼が小走りで仕事場に戻っていく。

 

車に乗って戻ってきたのだが、クリスがまた文句を言い出す始末。

 

「またこの女を乗せる気!?ダーリンの浮気者!!そんなにオッパイ大きい女が好きなの!?」

 

「こいつとはそんな関係じゃないって…何度言わせる気なんだ?」

 

「今度は~席をスライドさせちゃイヤイヤよ~♪」

 

「アタシだって!アンタを乗せるのはイヤイヤよっ!!」

 

「ハハ…悪魔の車に乗れる日が来るなんてねぇ。これは撮影しても信じてもらえないかも…」

 

クリスをなだめた後、2人を乗せた尚紀が東に向けて運転していく光景が続く。

 

「悪いな、令。明日から俺は見滝原に出張でな…捜査機材を後ろに積んでて狭苦しいだろ?」

 

後ろ側の席に顔を向けるが、令は笑顔で首を振る。

 

「観鳥さんは気にしてないよ。それに…探偵さんの捜査機材のカメラにも触れるし♪」

 

後ろで楽しむ彼女から視線を前に戻し運転に集中していく。

 

探偵の捜査機材に触れていた令であったが、自然と昔話を始めていった。

 

「…ねぇ、聞いてくれると嬉しいな」

 

「何をだ?」

 

「観鳥さんがジャーナリストになりたいって思った、動機についてさ」

 

「証拠を残す大切さがキッカケではなかったのか?」

 

「それもあるけど、証拠を用意する仕事なら他にもある。なぜジャーナリストを選んだかさ」

 

「それは私も聞いた事がないわね~?私も興味があるわ」

 

2人に興味を持ってもらえて嬉しかったのか、遠い眼差しを浮かべながら語り始める。

 

「観鳥さんはね、ある女性の歴史人物に憧れを抱いたから…ジャーナリストを目指したのさ」

 

「女性の歴史人物?」

 

「その人はね、女性が社会進出して働くのも難しかった時代でも負けなかった大正時代の記者」

 

――帝都新聞社に勤務していたその女性の名前は…朝倉タヱさ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

幕末・明治時代以降から続く女性蔑視の封建的な価値観に支配されていた大正時代。

 

そんな時代でも社会に進出して活躍した女性記者がいた。

 

その者は男尊女卑を嫌い、女性の活躍も必要だと考える思想に憧れを持つ。

 

日本で初めてフェミニズムを掲げた平塚雷鳥という女性に憧れ、名前の鳥を記者名に採用。

 

朝倉葵鳥(あさくら きちょう)というペンネームを用いて新聞社で働いたのが朝倉タヱだ。

 

「帝都新聞社で働いていた、その朝倉タヱの…何処に憧れたんだ?」

 

「社会の理不尽にも負けず、その人は平等を求めて頑張れた…鳥のように羽ばたけたんだよ」

 

「そういえば、貴女も苗字の中に鳥があるわよね~?繋がりを感じちゃったんだ?」

 

「その…葵鳥というペンネームで働いていた朝倉タヱという人物は…何をした人なんだ?」

 

「葵鳥さんを知ったのは報道と新聞記者っていう書籍を小さい頃に読んで知ったんだ」

 

葵鳥の歴史活躍をまるで自分の事のようにして嬉しそうな表情を浮かべながら語っていく。

 

帝都新聞社に勤務していた女性新聞記者、朝倉タヱ。

 

当時流行の先端であった洋髪(ショートカット)に洋服というコーディネート。

 

如何にも大正時代のモダンガールといった雰囲気を纏っていた人物。

 

美人であり、気の強いしっかり者であり、頭脳明晰であり、心優しく勇気と行動力に溢れた……。

 

「おい…なんか話が脱線してきているぞ?」

 

「そうねぇ、タヱさんの容姿や内面の自慢話になっちゃってるわよ~?」

 

「タヱさんじゃない、葵鳥さんだよ。そうだね…嬉しくなってつい彼女の自慢をしちゃった…」

 

「その女性記者は、報道の歴史に名を遺す程の記者だったんだろ?どんな記事を残せたんだ?」

 

「その部分が大事だね。女性記者として歴史の生き証人となった彼女が残した記事があるんだ」

 

それは1人の帝都書生であったデビルサマナーと共に生きた歴史でもある。

 

次々と語られていく歴史事件内容は学校では教えてくれない内容ばかり。

 

「超力兵団事件…アバドン王事件…コドクノマレビト事件…どれも都市伝説の記事じゃないか?」

 

「観鳥さんも最初はオカルト記者なのかと思ったけど…魔法少女になってから事実だと考えた」

 

「もしかして、その事件の数々も私たち魔法少女のように秘匿しなければならないものだった?」

 

「この事件の数々はね…科学では説明出来ない現象の破壊痕跡ばかり。それに、記事の中には…」

 

――悪魔の仕業という部分まで…記されていたんだ。

 

悪魔の存在ならば目の前にいるし、今乗っている車とて同じ存在。

 

だからこそ令は確信へと至れたのだろう。

 

朝倉タヱが追いかけた悪魔という都市伝説は実在したのだ。

 

「オカルト記者という不名誉な記者として歴史に残ったけど…彼女は負けなかった」

 

「男尊女卑の差別にさえ負けず、オカルト記者だと馬鹿にされても負けなかった…強い人なのね」

 

「共感したんだな?神浜東西差別に苦しむ立場でも、タヱのように負けない女性になりたいって」

 

「タヱじゃなく葵鳥さん。うん…その部分が一番共感した。だから観鳥さんも記者を目指したい」

 

「そうか…お前なら絶対になれるさ。お前の行動力や頭脳明晰っぷり、それに心優しさ…」

 

――どれをとっても、21世紀の朝倉葵鳥そのものに見えたよ。

 

真顔でそんな事を尚紀が呟くものだから、令は顔を真っ赤にして窓に視線を逸らす。

 

「え、えっと…その……観鳥さんも、葵鳥さんに見えた?凄く…嬉しい言葉だよ…ありがとう」

 

前を見れなくなった後ろの彼女に視線を向けていたみたまが、尚紀に向き直る。

 

「ねぇ、尚紀さんってさぁ…女たらしって言われたことあるでしょ~♪」

 

「言われたことなんてねーよ」

 

「も~自覚してないのね~…朴念仁♪」

 

「それより、何処まで走ればいいんだ?」

 

「ほら、目の前に大きな団地ビルディングが見えるでしょ?あそこの団地街で暮らしてるの」

 

「そうか、ならあそこで停めてやるよ」

 

車を団地街入り口で停め、みたまを下ろす。

 

手を振って見送ってくれる彼女を後にし、今度は令の家まで送っていく。

 

気まずい雰囲気なのか、彼女は未だに赤面しながら窓の景色の世界。

 

しかし、尚紀は聞かされたオカルト事件記事の中の気になる部分について聞きたくなった。

 

「なぁ…葵鳥が書いた記事の中で気になる部分があったんだが」

 

「えっ?気になる部分…?」

 

「超力兵団事件、アバドン王事件、コドクノマレビト事件。どれも共通して書生が登場している」

 

「うん…そうだね。その書生が気になったんだ?」

 

「…これは静香から聞いた話だ。この人物がその書生かは分からないが…お前も知っておけよ」

 

「う、うん…教えてくれるならありがたいよ」

 

彼は静かに語っていく。

 

静香が語った人物とは…退魔組織であるヤタガラスの歴史において最強のデビルサマナー。

 

その者の名は14代目葛葉ライドウであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

日本のデビルサマナー(悪魔召喚師)の中でも名高い存在。

 

それが葛葉一族である。

 

悪魔を用いて人の世の霊的調和を保とうとする一族の名称だ。

 

平安時代以来の占術や呪術によって自然の流れを読み、和らげ、世の中を守るとされる陰陽師。

 

さらにその中でも伝説的存在であるのが安倍晴明。

 

晴明は謎が多いゆえに多くの伝説が伴っている。

 

彼の母親が信太の森(現在の大阪府和泉市周辺)の霊狐、葛葉だとする伝説だ。

 

葛葉一族は宗家と呼ばれる者と、宗家と共に飛鳥時代に一族を興したとされる4人が始祖となる。

 

一族の中心となるその5人の名は一族の中核を成す者達に代々受け継がれていく。

 

宗家に連なる4人の高弟は後に葛葉四天王と呼ばれることとなる。

 

その4人の高弟の中でも、もっとも名を上げた高弟の名が葛葉ライドウ。

 

それを成したのが数えること14代目に当たる14代目葛葉ライドウであった。

 

「14代目…葛葉ライドウ?その人物と葵鳥さんが書いた記事の書生が同じだと思うの?」

 

「14代目の葛葉ライドウは…大正時代の帝都を守ったデビルサマナーだ」

 

「…だとしたら、葵鳥さんが記者として生きた時代と重なる。それに同じ帝都で生きた人だし」

 

「恐らくは…その書生というのは葛葉ライドウだと俺は考える。弓月(ゆずき)の君の学生だ」

 

「記事に書かれていた書生も…弓月の君高等師範学校の学生。観鳥さんも同一人物だと思うよ」

 

「葵鳥の記事に書かれていた悪魔という存在…悪魔の影あるならば、デビルサマナーの影もある」

 

「この数々の事件を解決に導いたのが…14代目葛葉ライドウなのかな…?」

 

「そいつは秘密結社に所属していた奴だ。この国の霊的脅威を滅ぼす結社にな」

 

「ヤタガラス…かぁ。都市伝説だとばかり思ってたけど…そこに所属してたのが静香達だし…」

 

「追いかけるのはやめとけよ?闇の暗部を担う存在共の証拠を求めるなら…対価は命となる」

 

「この国の政治・行政・司法界隈には…不審死が多いのは知ってる。記者も不審死が多いんだ」

 

「ジャーナリストだって人間だ。命は一つしかない…大切な家族や仲間達のためにも…早まるな」

 

「うん…そうする。ヤタガラス…本当にその秘密結社は…」

 

――霊的国防だけを担う…秘密結社だったのかな…?

 

重い沈黙が続いていたが、令から案内された家も見えてきた。

 

家族に見つかると勘繰られると判断し、家から離れた位置で停車。

 

車から降りた令であったのだが…彼女は運転席の窓にまで近づく。

 

「どうした、令?車の中に忘れ物か?」

 

窓を開けて彼女を見つめる尚紀であったが、彼女は赤面して視線を逸らす。

 

それでも息を飲みこみ、彼と視線を合わせた令が口を開いた。

 

「ね…ねぇ、嘉嶋さんてさ…23歳なんだっけ?」

 

「…事情があって、俺は3歳年齢を偽ってきた。実年齢は二十歳だ」

 

「そ、そうなんだ…?観鳥さんとは…5歳差かぁ……別に普通だよね…?」

 

「…何の話をしているんだ?」

 

手をもじもじさせる子どもっぽい仕草を見せ頬を染めていたが、聞きたい言葉が出てくる。

 

「嘉嶋さんってさ……か、彼女とか作る気は……ないのかなぁって…思って」

 

赤面したまま尚紀を見つめているのだが…彼は俯いていく。

 

「…今の俺には、そんなことを考えている余裕はない」

 

拒絶とも肯定ともとれない曖昧な返事。

 

将来に期待してもいいのかと考え、令はそれ以上の追求はやめておく。

 

「そっか…嘉嶋さんは多忙を極める人だしね。いつか余裕が出来た頃には…その…観鳥さんね…」

 

――期待して、待ってるから…!

 

その先を言う勇気は出せず、彼女は後ろに向けて走り去っていった。

 

ぽかんとした表情を尚紀は浮かべていたのだが…車のタイヤの異変に気が付く。

 

「……ダーリン」

 

今の今まで黙っていたクリスの恐ろしい嫉妬が込められた低い声。

 

それと同時にタイヤが雷の発光現象を発する。

 

「ク…クリス……!?」

 

放たれる魔法の一撃とは…。

 

「ダーリンの……バァカーーーーーッッ!!!!」

 

車内にむけての放電現象。

 

「アバババババーーーッッ!!!?」

 

運転席側の扉が開き、黒焦げとなった尚紀が車外に向けて倒れ込む。

 

黒のトレンチコート内に入れていた買ったばかりのスマホもおじゃん。

 

「ダーリンのバカ!浮気者!!女たらし!!!アタシの事も遊びだったんでしょー!!?」

 

「ち…違う…!!何を誤解してるんだよクリス!?」

 

「もうダーリンなんて知らない!!アタシは他の男を求めて旅立つからーっ!!」

 

捜査機材などを載せたクリスが勝手に発進していく。

 

「待ってくれクリスーッ!!?お前がいないと俺の生活が成り立たないんだよーっ!!」

 

彼の叫びも空しく、クリスに置き去りにされてしまったようだ。

 

秋の冷たい夜風に吹かれながらも這い這いの姿でクリスを追いかけていく哀れな人物。

 

女性を傷つけることは結果として自分を傷つけることに繋がることもあるので気を付けよう。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

大正二十年。

 

和の文化に刺激的な洋の文化が流入し急速に発展していた時代。

 

悪魔と呼ばれる異形の者たちが帝都を脅かしつつあった。

 

悪魔召喚師、十四代目葛葉ライドウを襲名した男は葛葉の里にいた。

 

そこは葛葉一族の御神木を祭る巨大社。

 

社の神域奥の大広間には葛葉一族を見守ってきた巨大三本松がそびえ立つ。

 

三本松の下側は拝殿の作りをしており、大きな篝火が暗い社内を照らす。

 

拝殿に向けて黒い学生服と学生帽を纏う人物が正座している光景が広がっている。

 

<<満点に輝く日輪は 大地に暗い影を落す>>

 

老人の声が神域内に響く。

 

それはまるで葛葉御神木である三本松から響いてくるかのようだ。

 

<<そは天の理 大地の法…>>

 

静かに清聴している書生姿の少年の前には刀と銃と召喚管が置かれる。

 

それに黒い外套が畳まれていた。

 

<<同じ定めとして 人ある所に闇生まれん>>

 

<<…その闇を討つ為に 我らが在る>>

 

瞑想したかのように目を瞑る書生。

 

<<新たな召喚士を目指す者よ。先ずは汝の名を告げるが良い>>

 

書生の目がカっと開かれ、自らの名を口にする。

 

地面に置かれた刀と銃と召喚管に手を伸ばす。

 

学生服の上から纏う白いベストや、白いガンベルトに身に着けて立ち上がる。

 

畳まれた黒い外套を手に持ち、体に纏った重装備を隠すかの如く上から纏った。

 

踵を返し、三本松から与えられたデビルサマナーの試練に向かう後ろ姿。

 

後に、14代目葛葉ライドウの名を襲名した少年は帝都に向かう事になる。

 

その者は奇しくも人修羅と同じ探偵の職業をしながらも学生生活という仮初の人生を生きる。

 

しかし、その者の本当の姿とは何か?

 

それは悪魔召喚士であるデビルサマナー。

 

超國家機関ヤタガラスに席を置く退魔師であった。

 

21世紀に生きる者達にとっては大昔の出来事であるが…彼は行く。

 

多くの伝説を残すために。

 

その伝説が始まった最初の事件こそが超力兵団事件。

 

帝都を脅かす異形の存在、怪人赤マントたち。

 

ライドウが席を置く探偵社に現れた謎の少女。

 

謎の少女の家に根ずく奇怪な伝承の謎。

 

事件の背後に潜む怪しげな影の存在と国軍である陸軍の暗躍。

 

行く手を阻む数々の怪異を仲魔を駆使して切り抜けるライドウ。

 

その事件は国家を揺るがすことになる真相へと迫っていくのだ。

 

栄えある葛葉四天王の名を継いだ書生は行く。

 

葛葉の使命を果たすために。

 

ヤタガラスの使命を果たすために。

 

その者は旅の途中、葛葉の里からの付き合いをしてきた仲魔ともいえる黒猫を失うだろう。

 

悲しみさえも踏み躙るようにして帝都に現れるのは、超力超神が如き機械の神。

 

恐ろしき魔の手を打ち祓い、帝都を救う事になるライドウ。

 

だが、決着の場となったのは…幾多の分岐世界へと進む事が出来るというアカラナ回廊。

 

ライドウは時間旅行者として回廊を駆け抜ける。

 

その先の分岐未来の果てに生まれてしまった…世界が崩壊してしまった世界へと。

 

その世界で決着をつけるのだ、葛葉ライドウの名を継いだ者との決着を。

 

機械の神との再戦さえも乗り越え、今ここに14代目葛葉ライドウの伝説を築き上げるのだ。

 

戦いに勝利したところで、失った悲しみは癒えることはなかった。

 

そしてこの未来はライドウが望む未来などではなかった。

 

絶対にこのような崩壊世界の未来を築き上げまいと心に誓い、大正時代に戻るために回廊を歩く。

 

ふと彼はアカラナ回廊の中で蠢く可能性世界へと目を向ける。

 

その世界を表す時空の砂時計が見せる時空の歪み。

 

その光景とは…21世紀の日本であった。

 

「おや、時間旅行者としてまだ長居をしているのですか?」

 

「………自分は」

 

「この可能性世界が、気になるようですね?」

 

「……………」

 

「悪魔として言えることは、人の一生など花のように儚く、短いということ」

 

「……………」

 

「後悔する生き方だけはやめておきなさい。たとえ秩序の守護を担う者でも、貴方も人間だ」

 

「……許されない」

 

「貴方は何者なのか…言ってみなさい」

 

「…自分は、葛葉ライドウの名を継いだ者。デビルサマナーとして…世界の安寧を守る者」

 

「分かっているのならば、行きなさい」

 

「なぜ?」

 

「世界の安寧とは、自分だけの世界を守るということですかな?」

 

「……違う。自分の戦いによって、壊れた未来の世界さえも…救うことだ」

 

「時空の歪みに現れた世界は…1人の悪魔と大魔王の顕現によって…先程の未来と同じになる」

 

「……………」

 

「貴方は先ほど…何を誓ったのです?」

 

「………あのような未来になど、決してさせない」

 

「その誓いの言葉は…この世界の未来にも言えることなのでは?」

 

「……その通りだ」

 

「このアカラナ回廊は、幾多の時間が連なる領域。アマラの地図でもあるアマラ経絡と対をなす」

 

「並行宇宙に…干渉出来る?」

 

「その干渉によって、世界の流れそのものを変える事さえも…出来ますでしょう」

 

ライドウの右手が強く握りしめられていく。

 

「ヤタガラスの任務とて、時間の流れを過去に向けて辿ればこの世界に干渉した事も分からない」

 

「……自分は、行っていいのか?」

 

「人生は一度しかありません。悔いのないように生きなさい。14代目葛葉ライドウ……いや」

 

――人々を守りし、デビルサマナーよ。

 

悪魔の言葉に決意を与えられる。

 

意を決した葛葉ライドウは時空の歪みに向けて歩みを進めていく。

 

その姿は時空の歪みに飲み込まれていき…消え去った。

 

彼を違う時間軸世界に流し込んだ悪魔は溜息をつく。

 

「閣下…この世界の未来に何を望まれます?この書生を送り込む事に…何の価値があるのです?」

 

概念存在である悪魔とて並行世界の異物が混じり込んでしまった世界の未来を視通すのは困難だ。

 

因果律は乱れ、乱れた世界が再び定まっていくタイムラインの変動を視るのは至難の業であった。

 

「この世界に…新たなる千年王国を築くのが我らの悲願。それを邪魔しかねない輩を招くなど…」

 

――任務とはいえ…不快極まりませんでしたぞ、閣下。

 




読んで頂き、有難うございます。
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