人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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133話 霧峰村の猟師少女

この物語は数か月前の夏頃の時女の里の霧峰村に戻った時期の出来事である。

 

静香達がヤタガラスの任務を受けてから一か月が過ぎた頃の7月頃。

 

下界とは隔絶した環境のためか労働者は年寄りが多く、若者の姿は少ない。

 

そんな秘境の村なら十代少女の姿は目立つだろう。

 

「おお、おはよう旭ちゃん。今日も森で山菜採りかのぉ?」

 

畑仕事中の老婆が声をかけた人物とは時女一族に所属する魔法少女である三浦旭である。

 

「おはようであります。我は昨日の残りを済ませてくるであります」

 

子供にしては変わった口調の旭であるが、村の者達は気にしていない。

 

「あの森は手つかずだから自然の恵みが多いのはいいんじゃが…」

 

「何か問題があるのでありますか?」

 

「いやね…あの森は昔から村の連中も入らない不吉な森。旭ちゃんは巫だけど…心配で…」

 

「大丈夫であります。今のところ悪鬼の類も出てきませんし」

 

「悪鬼は人の集まる地域に多く現れる。人が寄り付かない場所なら出てこないんじゃろうが…」

 

「…あんな人気のない場所に根付く存在ならば、それは悪鬼ではないでしょうな」

 

雑談を終える一礼をした後、旭は村の奥に広がる山間の森へと入っていく。

 

「本当に物好きな子だよ…あの森に入る人なんて旭ちゃんか時女本家の女戸主ぐらいじゃのぉ」

 

旭が向かう森は戦国時代の頃は落ち武者狩りが行われていた怨念渦巻く血塗られた森。

 

村の者達から忌み嫌われた森であろうとも魔法少女は気にせず入っていく。

 

深く鬱蒼とした森の中を進み、人を拒むかのような道なき道をものともせずに歩き続ける。

 

軍服のような魔法少女服を纏う彼女は山菜取りを行いながら背中の籠に入れていく。

 

霧峰村でマタギのような仕事を行う彼女の夏はこうやって過ごすようだ。

 

森の奥に進んでいくと開けたエリアがあり、拠点として使っている山小屋が備わっている。

 

籠いっぱいに積んだ山菜を山小屋入り口の横に置き、彼女は隣の空き地に進んでいく。

 

「今日も暑いでありますな、お爺殿。光合成もはかどっていますか?」

 

誰かに声をかけるのだが目の前に人はおらず、立っているのは古びた樹木のみ。

 

新緑が美しい森であるはずなのに何故かその樹木だけは秋の葉を思わせる赤さを備える。

 

旭は何ゆえ木に話かけているのであろうか?

 

それは彼女の固有魔法があるから出来る所業であり、古びた樹木の枝が動き始める。

 

その枝葉はまるで枯れた悪魔の手を思わせるような醜さをしていたようだ。

 

「ふわ~…寝取ったわい。おお、旭ちゃんか?年頃の小娘なのにマタギ生活とはのぉ…」

 

樹木が喋る異常事態であるが、言葉を聞き取る事が出来るのは彼女の固有魔法のお陰だろう。

 

「我も歩き疲れたでありますし、お爺殿の足元で少し休むであります」

 

彼女は喋る樹木の足元まで来て座り込み、背中を木に預ける。

 

樹木の見た目は禍々しく、子供なら怯えて泣き出すような見た目なのだが彼女は気にしない。

 

「それにしても…ジュボッコであるワシに懐く魔法少女とは…変わった小娘じゃ」

 

樹木子(ジュボッコ)

 

戦場跡に生える妖樹であり、人間の血を吸った樹木は魂が宿り、ジュボッコになると言われる。

 

多くの死者を出した戦場に生えると言われており、死者の怨念が木に憑依した存在であろう。

 

ジュボッコは下を通る人間を枝で捕まえて血を吸い上げ、吸った人間の魂を吸収して同化する。

 

枯れた桜の下に死体を埋めると色鮮やかな花を咲かせると言い、これもジュボッコと言われた。

 

「我は気にしてないであります。貴殿が我を襲わない限りは」

 

「襲いやせん。ワシも昔は荒くれ悪魔であったが…時女のお嬢ちゃんに懲らしめられてのぉ」

 

「時女のお嬢ちゃん?」

 

「今では時女本家の女戸主を務めている娘じゃ。もう母親じゃ…娘と言うのもなんじゃがな」

 

「その人物とは…静香殿の母殿でありますか?」

 

「あの娘とも長い付き合いになるが…あの娘を気に入ってのぉ。仲魔になってやったのじゃ」

 

「仲魔…?我以外にも、幽世の存在と話が出来る人物がいるというのでありますか?」

 

喋り過ぎたとばかりに枝を移動させ、枯れた大木の鼻のような穴を掻く。

 

「旭ちゃんよ、この村ではワシのような悪魔を知る者は片手で数えるぐらい。他言無用じゃぞ」

 

「悪魔…でありますか?悪魔を仲魔に出来る静香殿の母殿とは一体…」

 

「でびるさぁまなぁ…連中はそう呼ばれておる」

 

「デビルサマナー…?」

 

知らない単語をジュボッコが喋った時、人の気配が近づいてくる。

 

「お喋りが過ぎるわよ、ジュボッコ」

 

近づいてきた人物に視線を向けると現れたのは時女静香の母親であったようだ。

 

「後ろから近付いていたのでありますか?…気配に気が付きませんでした」

 

「ごめんなさい、尾行するつもりはなかったのだけれど…今日はこの老木のご飯の日なのよ」

 

「ご飯の日?」

 

歩いてきた静香の母が枯れた老木に手を当てる。

 

すると彼女の全身からマグネタイトの光が吹き上がり、ジュボッコが吸収していく。

 

「こ…この光は……」

 

「おぉぉ~久しぶりの感情エネルギーじゃ!これで数か月はひもじい思いをせんで済むわい」

 

「感情エネルギー?この光は…魔法少女のソウルジェムに宿る穢れと同じものでありますか?」

 

「…この年寄りが貴女を信用して喋ったのだと判断したから、これを見せたのよ」

 

旭の隣に座り、悪魔や悪魔召喚士について話してくれる。

 

「そうでありましたか…お爺殿は時女一族の首長とも言える貴女様の仲魔でありましたか」

 

「管の中に入ればいいのに、このご老人は森の中にいたいって、駄々をこねられたのよ」

 

「ふん、他の悪魔は実体を伴わない姿でも構わんのだろうが…ワシは樹木本来の姿でいたい」

 

「森に迷い込んだ人間を襲わないという条件付きで自由にしてあげて、世話をしてるの」

 

「あ、あの…もしかして、この空いていた山小屋は…?」

 

「私が作ったのよ。この森を監視する時に利用しようと思ってね」

 

「…すみません。我は空き家だと思って勝手に山菜取りや猟の小屋に利用してたであります…」

 

「フフッ♪構わないわ。私だって偶にしか利用しないし、他の人に役立ててもらえて何よりよ」

 

「それにしても…お美しい静香殿の母殿が、このような枯れた悪魔を使役されるとは…」

 

「こりゃ、小娘!ワシは枯れ木ではあるがこう見えて桜の木なんじゃぞ!」

 

「そうでありました。今年の春も見事な血染め桜を咲かせてましたな」

 

「桜の木は時女の家紋である四葉桜紋。時女一族首長である私の仲魔に桜の木は相応しいわ」

 

「で、ありますか。それにしても…デビルサマナーや悪魔とは…この村は秘密だらけですな」

 

「それとね、この森に監視に訪れているとさっき言ったけれど…旭ちゃんは見かけなかった?」

 

「何をでありますか…?」

 

「誰かの視線を感じたとか、木の上から見られてるような感じとか…なかった?」

 

「そういえば…そんな視線を感じた事が何度もありますな」

 

やはりと感じた静香の母親が立ち上がって旭に向き直る。

 

「この森にはね、多くの悪魔が住み着いているのよ」

 

「お爺殿以外にも…沢山の悪魔がいるのでありますか?」

 

「この霧峰村は田舎も田舎…自然豊かな場所だとね、現世と異界との境界が曖昧になるのよ」

 

「ワシのところにも…あのわんぱく悪魔共が遊びにきよる。里の方にも行っとるらしいの?」

 

「そうなのよ…里の子供達が大きな虫だとか妖精だとかを目撃する事件も聞くし…」

 

「今日はその件でもワシのところに来たのであろう?目的は連中が勝手に作った王国か?」

 

「勝手に作った…王国?」

 

「旭ちゃん、この森で山菜取りや猟をするのはいいけれど…妙な声を決して聞かないで」

 

「妙な声…?」

 

「子供のような声で遊びに誘ってくるとか…または身近な人間が突然森に現れてくるとか」

 

「それも…この森に住み着いた悪魔の悪戯か何かでありますか?」

 

「連中は妖精と呼ばれる悪魔種族。他の悪魔よりは残忍ではないけれど…愛憎は酷いのよ」

 

「妖精に好かれた記憶はないでありますな」

 

「それだけよ。私はこの森の奥にいる連中のところに行ってくるから、貴女は早く帰りなさい」

 

「腰に吊るした刀と数本の管…それに銃のホルスターのルガーP08。戦いに行くのですか?」

 

「話し合いに行くだけよ。心配しないで、こう見えて私は…か弱い女じゃないんだからね♪」

 

「時女一心流現継承者であり、悪魔召喚士でもあった貴殿の力を疑うはずがないであります」

 

当てにしてくれているのは嬉しく思うが、彼女は腰の鞘を引き抜いた後、目の前で刀を抜く。

 

愛刀である練気刀の刀身に映った自分の姿も昔に比べれば衰えている。

 

若々しい見た目とはいえ、全盛期時代は終わりを迎えているようだ。

 

「時女一心流も娘の静香に伝えるべき技術を伝え終えた。後は時女の矜持を静香が担うだけよ」

 

そう言い残した後、静香の母親は踵を返して去っていく。

 

首長に言われたこともあり、今日は早めに山菜を干す作業を終えようとする旭。

 

立ち上がった彼女は背伸びをした後、山小屋に向かうが立ち止まってしまう。

 

「お爺殿…貴殿と同じく悪魔と呼ばれる存在達は…この国の霊的脅威となるのでしょうか?」

 

「…案ずるな、巫よ。お前さん達が倒すべき敵は魔獣…人を襲う悪魔が現れるならば…」

 

「魔法少女ではなく、デビルサマナーが退治をすると?」

 

「それが古来より続く役割分担。ヤタガラスに参加する他の退魔一族の領分なのじゃよ」

 

「なるほどでありますか…まさか悪魔召喚士がこの霧峰村にもいたとは驚きであります…」

 

「魔法少女の素質はなくとも、悪魔召喚士としての才能がある者もおる。ワシの主もそれじゃ」

 

「悪魔召喚士になるためには、どうすればいいのでありますか?」

 

「霊感が幼い時よりある者のところにはヤタガラスの教育機関の者が現れる」

 

「ヤタガラスから教育を受けるのでありますか…?静香殿の母殿もそれで悪魔召喚士に…」

 

「…ワシはのぉ、悪魔召喚士よりも…巫である魔法少女達の方が辛い立場だと考える」

 

「それは…なぜ?」

 

「お前さん達の魔力は19歳頃から劣化していく…長くとも20代前半以内には…戦場で死ぬ」

 

「我ら巫達は…ある意味消耗品なのかもしれないでありますな…」

 

「恋も知らずに死ぬのでは…でびるさまなぁよりも哀れじゃ。ワシの主とて旦那を作れたのに」

 

「そうであります…だから静香殿を残せた。短命の我らは…一体何を残せるのでしょうね…」

 

振り向かないまま彼女は山小屋の中へと入っていく。

 

ジュボッコは彼女の背中を見送った後、静かに考え込む。

 

「…この村には悪魔召喚士が他にもおる。ワシの主でさえも倒せぬ程の…凄腕召喚士がな」

 

首長と呼ばれる村長は絶対的な権力者というわけではない。

 

首長の地位は儀礼的には際だたせられていたが、必ずしも政治的権力を伴ってはいない。

 

社会に概念的中心を与えるという点に役割があり、人々の統一の象徴として扱われるのだ。

 

時女の矜持という宗教を守る長と世俗的権力を伴う長という形で2人に分かれる場合もある。

 

「ワシの主は時女の象徴に過ぎん。村の政治権力と祭儀を司るのが…妖怪婆の神子柴じゃ」

 

ジュボッコと静香の母は知っている。

 

村を牛耳る政治権力者であるデビルサマナーが行ってきた、おぞましい生贄儀式を知る者だ。

 

それを村の人々に言いふらす事など出来ない。

 

若い村男達の流出で先が無い村の経済を支えているのは神子柴の政治手腕があってこそ。

 

女の一族とも言える時女集落の人々は神子柴家に依存し、共生関係を築き上げるしかないのだ。

 

考え込むと周りが見えなくなるのか、ジュボッコは気が付いていない。

 

山小屋を見渡せる木の枝にいるのは大きな鳥。

 

旭が山小屋を訪れた時よりこの場に隠れ、一部始終を見つめていたようだ。

 

「…あぁ、なんて美しい美少年。霧峰村にはまだ愛らしい男の子が残ってくれていたのね」

 

大きな鳥が喋ったようだが、この鳥も悪魔が擬態した姿なのであろう。

 

考え込んでいたジュボッコが気配に気が付き視線を向ける頃には鳥の姿は消え去っていた。

 

 

短命の魔法少女として、かんなぎとして、この世に何を残せるのか?

 

そんな事を考えながら作業をしていたらすっかり遅い時間になってしまう。

 

「不味いであります…静香殿の母殿からは早く帰れと言われていたのですが…」

 

山小屋から出れば日も沈みかけている。

 

「それでは、我は帰るであります」

 

「森の中は既に暗い。足元に気を付けて帰るんじゃぞ」

 

「我は夜目が優れているでありますから、大丈夫であります」

 

ジュボッコに手を振りながら帰っていく姿を老木悪魔は見送ってくれる。

 

暗くなった森の中を歩いているとお腹の虫も鳴いてくる。

 

「ぐぅ…干し肉も使い切ったでありますし、暫くは干した山菜生活でありますな…」

 

育ち盛りの子供には辛い食事内容になる事で溜息をついていた時、何かを見つける。

 

「ん…?あれは……」

 

見れば茂みの中から出て来たのは野兎である。

 

「しめたであります。今夜はあのウサギを仕留めてウサギ肉の鍋であります」

 

肩にかけていた魔法のライフル銃を両手に持ちながら旭は構える。

 

ウサギは音に敏感な生物であるため踏み締めた枝の音に気が付いたため走り去っていく。

 

「チッ!」

 

引き金を引くのが一瞬遅れ、銃弾はウサギの横を通り過ぎていく。

 

空腹に刺激されたのか、彼女は森の奥にまでウサギを追いかけてしまう。

 

「あぁ…今夜の食材が…ウサギ鍋が…肉団子が逃げていく…そうはいかんであります!」

 

普段なら猟で深追いなどしないのだが、今日は空腹に踊らされながら森の奥まで行ってしまう。

 

逃げていたウサギであったが開けた場所で立ち止まり、旭の方に振り向いてくる。

 

「観念したでありますか?ならば、今宵の我の空腹を満たす食料となるであります」

 

ライフル銃を構える旭は眉間に一発で仕留める構えであったのだが、異変が起きる。

 

「……へっ!まんまと罠にかかったな!」

 

ウサギが喋った事で衝撃を受けた旭は引き金を引くのが一瞬遅れる。

 

ウサギ姿をした何かが先に動き、撃たれた銃弾を避けながら獣道の中へと入っていく。

 

「我の空耳…?今…ウサギが喋ったのでありますか…?」

 

暗い森の周囲から感じさせてくるのは恐ろしい気配の数々。

 

「こ…これは…幽世の霊達!?」

 

旭を囲むようにして現れたのは、おぞましい顔が浮かんだ鬼火達であった。

 

【ウィルオウィスプ】

 

イギリス各地で伝えられる鬼火や人魂であり、名はひと握りの石炭を持つという意味である。

 

鍛冶屋のウィルという男は聖ペテロや悪魔を騙した為に死後は天国地獄両方から閉め出される。

 

夜の地上を彷徨いながら与えられた一握りの石炭の燃えさしで暖を取っているのだという。

 

沼地や墓場などに出現して旅人を彷徨わせたりと悪意ある悪戯を仕掛けてくるとされる。

 

また別名としてはハロウィンのジャック・ランタンなど、異称も多い悪霊であった。

 

「オォォ…ヤッ…たぁぁぁ…!!お一人ィィ様ァァァ…ご案内ィィ…!!」

 

「ウォマェェェ…食イ意地張ッタ奴ゥゥ…!女王様ノォォ…計画通リィィ…!!」

 

「ト言ウカァァァ…ウォマエェェ…人魂ノウォレラガァァ…見エルのかぁぁぁ!?」

 

「ウォォォォ…割リトォォォォ…ビックリィィィィ!!」

 

「鬼火のそっちがビックリしてどうするでありますか!?」

 

鬼火悪魔が現れてるのに鋭いツッコミを入れてくる。

 

普通の魔法少女では見えない死者の魂を見る事が出来る三浦旭の能力とは何なのか?

 

「細けぇぇコトハァァァァ…イィィンダヨォォォ!!」

 

「ウォマェェェハァァァ…ウォ休ミナサイダァァァ!!」

 

「マギレコォォォハロウィンイベントォォォ開催中ゥゥゥゥ!!」

 

「なんかメタいことを言いだす鬼火がいるでありますよぉ!?」

 

「細けぇぇコトハァァァァ…イィィンダヨォォォ!!」

 

「グンナァァァァイィィィィッッ!!」

 

ウィルオウィスプ達が同時に放った魔法とは相手に睡眠を与える魔法の『ドルミナー』である。

 

「うっ…なんで…ありますか…?凄い…眠気…が……」

 

悪魔の魔法耐性など持ち合わせていない魔法少女が地面に倒れ込む。

 

頃合いを見て獣道から出てきたウサギが旭の頭の前まで歩み寄りながらほくそ笑む。

 

「よ~しよし、よくやったぞお前ら。この美少年君を妖精王国に連れて行こうぜ」

 

ウサギに化けていた妖精が姿を現し、旭を引きずりながら消えてしまう。

 

その頃、時女静香の母親は自宅の和室で練気刀の刀身に打ち粉を使いながらポンポンしている。

 

「妖精王のオベロンに手下の管理をしっかりしなさいと言ったけど…大丈夫かしら?」

 

心配そうな顔をしながら和室から見える庭景色に視線を向ける。

 

「でも…あの妖精達も哀れね。以前の住処であった槻賀多村跡地の天斗樹林を失うなんて…」

 

話を聞けばオベロン達はかつてヤタガラス傘下であった村を寝床にしていたという。

 

ヤタガラスから見捨てられた一族の村は廃村となり、暫くは妖精達の天下となり暮らせていく。

 

しかし再開発のメスが槻賀多村跡地に入り込み、住処としていた森を失う事になったようだ。

 

「そういえば…女王ティターニアの姿が見えなかったわね?何処に行ったのかしら…?」

 

考え事をしていたが、夕飯の支度が出来たという屋敷のお手伝いさんの声に反応する。

 

腹を空かせた時女の首長は小さい事だと気にせず空腹を満たす事を優先してしまうのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

妖精とは何を指すのか?

 

狭義では欧州地方などの神話や伝承の精霊や超常的な存在を指す。

 

広義には他の国や地方、民族の同様の存在を含む。

 

ゲルマン神話のエルフ、メソポタミアのリリス、インドや東南アジアのナーガなども含まれる。

 

人間に好意的なもの、妻や夫として振る舞うもの、人に悪戯したり騙したり命を奪うもの。

 

または障害として立ちはだかるもの、運命を告げるものなど様々な伝承があるようだ。

 

妖精王としてのイメージはウィリアム・シェイクスピアの真夏の夜の夢が有名であろう。

 

妖精王オベロンと妖精の女王ティターニア夫婦が妖精のイメージとして定着していく。

 

妖精画で有名な妖精画家達が残した妖精の姿とは、どんなものだったのか?

 

それらの妖精画は神秘さと美しさ、不気味さとグロテスクさが伴った概念達であった。

 

「う……うぅ……」

 

意識が気が付いた旭が目を開ける。

 

もう夜中であるはずなのに森の景色は幻想的な光を与えてくれる。

 

「ここ…は……?」

 

上半身を持ち上げた彼女が見た景色とは神秘的な森の中を飛び交う小さな存在達であろう。

 

「我は…夢を見てるのでありますか?」

 

彼女が見た存在達とは子供の絵本に登場しそうな妖精ばかり。

 

背中に半透明な羽根が生えた妖精や不気味さが強調されたゴブリンやドワーフ。

 

それに流れ着いたこの国土着の精霊の姿まで見えるではないか。

 

「いいや、あんたは夢を見ているわけじゃねーぞ」

 

背中側から声が聞こえた事で後ろを振り向くと立っていたのは赤い肌をした小人である。

 

「よぉ、食い意地張った小僧。喜べ…お前は俺達の女王様に気に入られた」

 

「貴殿のその姿は…昔…何かの書籍で見たことが…」

 

「…もしかして、ハイファンタジー漫画のゴブリンと俺を同一視してねーか?」

 

【ゴブリン】

 

イギリスの妖精であり、歪んだ性格の持ち主。

 

人の不幸を喜ぶが、それもどちらかといえば子供が悪戯をして喜ぶような程度である。

 

解り易いキャラ性ゆえに様々な物語で登場し、好戦的な小鬼として描かれるようになった。

 

「女の敵のレイプ魔扱いするんじゃねぇ。こう見えて由緒正しい魔女様に仕えていた事が…」

 

「家に帰して欲しいであります」

 

「…妖精の話を聞く気はないようだな」

 

立ち上がり、周囲を確認するのだが先程いた森とは感覚が違う。

 

「…方角が分からないであります。この森は一体……」

 

「逃げようなんて考えても無駄だ。妖精王国に一度引きずりこまれた小僧は二度と出られない」

 

「こ…小僧……?」

 

自分は女だと言おうとしたが、ゴブリンは踵を返してついてくるように促す。

 

逃げるにも方角が分からないため、仕方なく後ろをついていく。

 

神秘的な森の中を歩きながらも周囲を警戒する。

 

「この森で見かけるあの妖精や精霊の姿は…」

 

「絵本でも見た事あるような見た目だろ?俺達概念存在はそうやって形作られるってもんよ」

 

「概念存在?それでは貴殿達は神や悪魔、それに精霊のような類でありますか?」

 

「その通りだ。もっともゴブリンの俺達はファンタジー漫画のせいで孕ませレイプ魔概念に…」

 

ブツブツ文句を言いながら歩く小人であるが立ち止まり、同じく止まっている旭に振り向く。

 

「どうした?」

 

「いや…この白いローブで素肌を隠した妖精は…」

 

旭が見かけたのは石のように動かずこちらを見つめる恐ろしい顔をした妖精であろう。

 

「そいつはこの妖精王国の門番だ。怒らせるとマジで怖いスプリガンだからな」

 

「スプリガン…?」

 

【スプリガン】

 

イギリスのコーンウォール地方に伝わる妖精の一種。

 

自由に姿を変えられるが小人の姿で油断させ、戦いになると巨人の姿になって敵を叩き伏せる。

 

財宝の埋蔵地の管理者であり、非常に醜く狂暴と言われるが他の妖精の護衛役も務める。

 

骸骨を思わせる姿で蹲り、白い布を被って人目を忍んでいるかのようであった。

 

「グ…ガ…ナン…ダァァァ…?おでに…構って…くれるのかぁ…?」

 

「い…いや…我は別に……」

 

「オマエ…客人。おで…叩き…潰さない…ゴガッ」

 

「そいつはほっとけ。客のフリした盗人だと勘違いされたら…巨人化されて襲われるぞ」

 

「…そうでありますか」

 

スプリガンから離れた2人は森の奥に向かう中、妖精と精霊達は旭に視線を向けている。

 

「ねぇねぇシルフ!あの子が来てるよ~!」

 

彼女を以前見かけたコダマが隣のシルフに嬉しそうに語るのだがシルフは呆気に取られている。

 

「あの子…女の子よ?なんで私達の妖精王国に連れてきちゃうのかな~?」

 

宙を飛びながら腕を組んで考え込む彼女の隣に飛んでくるのは別の妖精であろう。

 

「うちの女王様や王様ってさ~頭弱い部分があるからね~。勘違いしちゃったとか?」

 

「それもありそうよね~ピクシー。あの子…女の子だってバレたら大変よね…きっと」

 

シルフの隣に現れた妖精とは人修羅がかつて仲魔として連れていた妖精と同じ見た目である。

 

【ピクシー】

 

イギリスコーンウォール地方の悪戯好きな妖精であり、赤毛で緑色の目をした姿が定説である。

 

旅人を道に迷わせるという性質はブラウニーに近い存在。

 

語源は悪戯妖精パックに愛称語尾のsyがついたパクシ―であるため非常に悪戯好き。

 

ちなみに人修羅の仲魔であったピクシーとは別個体であった。

 

「ねぇねぇ、女王様のところに行くみたいだけど…大丈夫なのかなぁ?」

 

「どうせティターニア様のお気に入り鑑賞物にされちゃうだけでしょ~?」

 

「まぁそうなるでしょうけど~…あんまり面白そうな顔をしてないわね~シルフ?」

 

「シルフはね~あの子の事を気にしてるんだよ!ボクといっしょにいつも見物してるし!」

 

「コラ、コダマ!余計な事は言わなくていいわよ!」

 

「だって~自然をだいじにしてくれる優しい子だって、いつも言ってたよ~?」

 

それを聞いた色恋沙汰が大好きなピクシーはニンマリ顔をしてくる。

 

「へ~~…シルフってさぁ、男の旦那を欲しがってたけど…百合もイケる口なんだ?」

 

シルフの頭部に怒りマークが浮かび上がり、空中で掴み上げながら脇固めしてくる。

 

「あだだだだ!!」

 

「だ~れ~が~女もイケちゃうバイ妖精だって~ピクシー!?」

 

「ねぇねぇ~バイってどういう意味~?食べ物なのかな~?」

 

「あんたは知らなくていいわよ!!」

 

どんちゃん騒ぎをしている妖精と精霊達を尻目に旭達は王国の奥まで進んでいく。

 

「この奥に女王様がいらせられる。粗相のないようにな」

 

「…我はお腹が空いてるので帰りたいであります」

 

「今、腹の虫は鳴いているか?」

 

「そういえば…腹の虫が鳴らなくなったでありますね?」

 

「この妖精王国はな、時間の流れが曖昧なんだ。外の世界の方がずっと早く時間が流れる」

 

「それってまさか…浦島太郎の竜宮城世界と同じ…!?」

 

「ここにいれば腹も減らなくなる。ウサギに化けてた俺を食わなくても生きていけるぜ~」

 

「そ…そんな……」

 

「まぁ、うちの女王様に気に入られたのが運の尽きだな~小僧?ハッハッハッ!!」

 

(は…早く帰る方法を…見つけるでありますよ!!)

 

手を振りながら帰っていくゴブリンを見つめていた旭であったが、意を決して森の奥に進む。

 

「うわぁ…凄いであります…」

 

見上げれば御神木のような大きな樹がそびえており、大きな枝に座っている人物に目がいく。

 

「あら、お目覚めかしら?」

 

美しい四枚羽根に緑のドレス、頭部には白い花のかんざしを纏うブロンドヘアーの女性がいる。

 

妖精だと思われるが、人間の女性と変わらない程の大きさをしているようだ。

 

「ようこそ、私と夫のオベロンの王国へ」

 

 

ブロンドの長髪をかき上げた後、背中の羽根を羽ばたかせて下りてくる。

 

旭の前に浮遊しながら舞い降り、彼女の顔を舐め回すように見つめていく。

 

「き…貴殿が…この妖精達の国の…女王陛下でありますか?」

 

陛下と敬称をつけて呼んでくれた事に気分を良くしたのか笑顔で答えてくれる。

 

「その通りよ♪私の名はティターニア…この妖精郷の女主人を務めているわ」

 

【ティターニア】

 

妖精王オベロンの妃であり、シェイクスピアの戯曲である夏の夜の夢で有名な妖精の女王。

 

ギリシャ神話の主神ゼウスの娘である狩猟の女神アルテミスのイメージを受け継ぐ存在である。

 

魔女術の開示では女の妖精ニンフを連れた月の女神ダイアナ(アルテミス)を妖精女王と呼ぶ。

 

金髪の美しい女性の姿であり、綺麗な昆虫の羽を背に備えている。

 

また身体の線が分かるスケスケの服を纏っており、官能的な絵画が多く残されているようだ。

 

地母神に由来するだけあって、ただ大人しく主人に従う性格ではない。

 

「凄いであります…このような女神の如く美しい存在など、生まれて初めて見たであります」

 

神の如き女悪魔の存在に気圧されてしまったせいで世辞が出る。

 

それがさらに彼女の機嫌を良くしてくれたようだ。

 

「よく分かっている坊やね♪たしかに、私は様々な女神と同一視される概念存在よ」

 

「その…概念存在というのがよく分からないであります。何を指しているのですか?」

 

神や悪魔と呼ばれる存在について旭はあまり知識がない魔法少女。

 

困った坊やを見るような慈しみの眼差しを向けながら木の幹に座るように促してくる。

 

隣に座ったティターニアが神や悪魔について説明してくれる。

 

「…なるほど。つまり、神や悪魔と呼ばれる存在達は…全ての世界で観測される存在?」

 

「ティターニアと呼ばれる高位概念存在が他の並行宇宙に在るのなら、そこには私がいるのよ」

 

「では、貴殿も他の宇宙の事が視えちゃったり…するのでありますか?」

 

それを聞かれたティターニアが遠い眼差しを浮かべていく。

 

「…他の宇宙の私はね、ボルテクス界と呼ばれる宇宙を創成する球体世界に存在していたわ」

 

「ボルテクス界…?」

 

「そこに存在していた私は貴方に勝るとも劣らない程の美しい少年悪魔の仲魔をしていたのよ」

 

どうやらこのティターニアはニュクスと同じく人修羅と触れ合った記憶を持つ悪魔のようだ。

 

「ボルテクス界や…アマラ宇宙という並行宇宙…それにコトワリの神…でありますか?」

 

「魔法少女と呼ばれる存在達を救う新しいコトワリの神が最近生まれたみたいね?」

 

円環のコトワリの存在まで知る存在だと分かり、雲の上の話をされている気分になっていく。

 

「その…我は神や悪魔、それに宇宙については分からないであります…ただの猟師ですし…」

 

「ごめんなさい、難しい話をしちゃったかしら?」

 

「我はその…人間世界で暮らしている身。帰りを待つ人々がいるので…その……」

 

人間界に未練がある態度を見せられた事で機嫌が良かった妖精女王も顔をしかめる。

 

「心配しないで、坊やの代えなら用意してあげるわ」

 

「我の…代え…?」

 

チェンジリング(替え子)よ。貴方に擬態させた別の妖精を人間界に送るわね」

 

「そ、それでは困るであります!我が帰りたいのであります!」

 

「困った子ねぇ…ここでなら何も苦しむ事なく幸福に暮らせるというのに」

 

「わ…我をどうするつもりでありますか…?妖精は…人に危害を加える存在でありますか?」

 

怯えた表情も愛らしいのか、座ったティターニアは旭を笑顔で見つめてくる。

 

「私は他の粗暴な連中とは違うの。別に取って食うような真似はしないわ」

 

「本当で…ありますか?」

 

「美丈夫は…傍に置いておくだけでも私の乾いた心を潤してくれるのよ」

 

「…飼い殺しでありますか」

 

「特にオリエンタルな美少年は私の好み。かつて仕えた人修羅もまた…私好みだったわ」

 

「我は…人修羅と呼ばれる悪魔少年ではないであります…」

 

「構わないわよ。貴方も十分美しいし…特別に愛でてあげるわ」

 

(参ったであります…我は女であり魔法少女だとは…言い辛い空気でありますね…)

 

注意深く探れば軍服衣装にも乳房の膨らみもあるし、魔法少女としての魔力もある。

 

それさえ気にならないのか、ティターニアは旭の容姿の美しさしか見えていない。

 

「美しき男は美しき女によって鑑賞され…愛されなければならないわ」

 

「わ…我はその…髪を女みたいに伸ばしてるのはその……」

 

「遠慮しなくていいわ。私と一緒にいれば、貴方は何不自由なく暮らせるのよ?」

 

妖艶な笑みで近寄ってくるティターニア。

 

緑のドレスの谷間から覗く豊満な乳房であるが、同じ女である旭にとっては嫉妬しか感じない。

 

それでも高位の霊的存在の圧倒的な威圧感に震えていた時、少年の声が聞こえてくる。

 

<<待ちなさい、ティターニア!美しき小性を手に入れて独り占めとは人が悪い!>>

 

旭に近寄っていたティターニアであったが、忌々しげに舌打ちしながら振り返る。

 

「こんな時に限って…間が悪い男ね」

 

上空から飛来して現れたのは背中に大きな蝶の羽を持つ王子様ルックな衣装を纏う少年である。

 

舞い降りた人物の身長は1メートル少々しかない小学生サイズであろう。

 

「こ…この人物は…?」

 

自分よりもずっと身長が低い少年に目がいく旭はティターニアに振り返る。

 

「…小さい子供のような見た目だけれど、私の夫であり妖精王のオベロンよ」

 

【オベロン】

 

妖精王であり、ゲルマン人の民間伝承に属するドワーフ系の妖精。

 

13世紀のフランスの武勲詩ユオン・ド・ボルドーが登場する最古の物語と思われる。

 

その中ではオベロンは美しくも生まれた時の呪いで1メートル足らずの背しかなかったという。

 

しかし強大な魔力を誇り、主人公ユオンに試練を与えたり手助けしたという。

 

後にイギリス詩人や劇作家に取り上げられ、妻のティターニアと共に名を知られるようになる。

 

オベロンのルーツとしてニーベルンゲンの歌に登場する小人王アルベリヒが有力視されていた。

 

「私に霧峰村のサマナーの相手を押し付けて!自分は美少年漁りですか!?」

 

「いちいちうるさいわね~。私の趣味にまで口を出されたら、流石に怒るわよ?」

 

「趣味を馬鹿にしてるのではありません!王としての職務を私に押し付けてばかりはズルい!」

 

「何よ?私に王のお仕事押し付けて、自分が坊やをしゃぶりつくしたいって欲望が見え見えよ」

 

「一つ言っておきます。私が愛するのは妻の貴女だけですが、美少年の小姓は別です」

 

「私だって愛してるのは夫の貴方だけだけど、鑑賞物を集めるのは別口よ」

 

「その鑑賞物…私に譲ってくれませんか?」

 

「いやよ~私が先に手をつけたんだもの~♪」

 

「くっ…!では、ジャンケンで決めましょう!勝った方が美しき美少年を所有する!」

 

「いいわよー!妖精の女王である私の強運を舐めないでもらおうかしら!」

 

夫婦喧嘩してたら惚気だし、今度は子供のお遊びを始めてしまう。

 

妖精とは傲慢で気分屋で気まぐれな生き物なのだと考えながら旭はこっそり逃げ出していく。

 

(馬鹿がバカを呼ぶであります…今のうちに森から抜け出さねば…)

 

後ろのバカ夫婦に視線を向けながら匍匐前進しつつ茂みに入ろうとした時、何かと出くわす

 

「あっ……」

 

目の前に立っていたのは身長3メートルを超えていそうな見張り妖精であろう。

 

「むむむっ!?おまえ!!」

 

旭の両足を巨大な手で掴み上げる。

 

「見つかったであります!?」

 

原始人のような獣服を纏う巨大で恰幅のいいずんぐり妖精がつぶらな瞳で見つめてくる。

 

その剛腕はずっしりとしており、力を入れて掴まれたらひとたまりもないだろう。

 

「見張りをしていたら…オシャレなマタギ小僧を発見伝!!ん…?この臭いは…小僧?」

 

「貴殿は何者でありますか!?」

 

「むむむーーっ!?喋っていいのか?いいとも!オレの名は…トロールだ!!」

 

【トロール】

 

大柄な妖精の総称であり、性格は凶暴であったり親切であったりと様々である。

 

古代北欧語の怪物を意味する一般名詞であり、巨人族ヨトゥンの末裔とされる妖精を指す。

 

トロールは日光を浴びると石になるか破裂するので人里を徘徊するのは夜と言われる。

 

雷鳴や教会の鐘の音も苦手であるが腕力は強く、魔法が使える個体は変化も得意とした。

 

「やりますね…お互いに未来のタイムラインを覗き合っていては…」

 

「未来が改変されまくって…埒が明かないわね…」

 

「未来を覗くというのはこういう弊害があるから…神々の間で多用はやめとくのが常ですが…」

 

「夫婦であっても…負けられない勝負がある時は別よ…!」

 

次で勝負をつけようと2人が両手を構えていた時、素っ頓狂な叫び声が聞こえてくる。

 

「うぉ~~い!!王様~~!!」

 

見張りのトロールの声に反応した2人が逆さに吊られた旭に向き直る。

 

「オレ、こいつは小僧じゃないと思うぞーっ!!」

 

現実を伝えられた事で暫く思考停止してしまう夫婦。

 

バレてしまっては仕方がないと旭は魔法少女の変身を解く。

 

「「あっ……」」

 

白い女子学生服を纏っているのは美少年だと間違われていた三浦旭の姿であろう。

 

「早く下ろして欲しいであります…スカートがめくり上がるであります…」

 

頬を染めながらミニスカートを抑えていたが、逆さに映る夫婦に視線がいく。

 

「あ…あ…あぁ……」

 

鳩が豆鉄砲を喰らったような顔つきで口をパクパクさせるばかりのティターニア。

 

同じように茫然としていた夫であるが、引き攣った表情のまま妻に振り返ってくる。

 

「…何処が美少年なのですか!?目玉が腐っているのではないのですかーっ!!」

 

「う、う、煩いわね!?私だって…勘違いの一つや二つぐらいするわよ!!」

 

「それでよく女王を名乗ってられますね!ピクシーやシルフ達の方がまだ頭がいいですよ!」

 

「なんですってぇ!?女王の私を馬鹿にするのは夫であろうと許さないわよーっ!!」

 

「今度は実力勝負ですかぁ!?望むところですよーっ!!」

 

小学生サイズの夫と取っ組み合いの夫婦喧嘩を始めるティターニア。

 

こんな性格のまま人修羅の仲魔をかつての世界で務めていたのだろう。

 

しょうもない夫婦喧嘩の光景に対して冷や汗が浮かぶ旭とトロールであるが質問してくる。

 

「王様~~…こいつ、どうしよう?」

 

キッとした怒りの表情を同時に浮かべる夫婦が振り向く。

 

「あの…我は女の子であります。ご期待には沿えないので家に帰して欲しいのでありま…?」

 

夫婦が同時に出したハンドサインは古代ローマの闘技場で敗北者に対して民衆が放つサイン。

 

親指を下に向けて殺せと指示するサムズダウンだ。

 

ブワッと嫌な汗が浮かぶ旭と巨人のくせにつぶらな瞳をしたトロールの目がキュピーンと光る。

 

「王様達の許可が出たぞ~オシャレなマタギ―!!」

 

「うわわわわわ~~~っ!!?」

 

ブンブンと剛腕を回転させ、旭の頭部が回転の渦の中で何個も見える程にまで振り回される。

 

「オシャレにあの世行きだぁぁーーッッ!!」

 

勢いのまま旭を投擲すると砲弾の如く飛ばされてしまう。

 

「ひゃぁぁぁ~~~っ!!?」

 

妖精の森の奥地に目掛けて飛んでいくか弱い女の子の悲惨な一日はまだ終わらないのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「うぅ…酷い目に合ったであります…」

 

木の枝に引っかかっていた旭であるが体勢を立て直しながら地面に着地する。

 

左手を掲げて再び魔法少女に変身した後、魔法のライフル銃を両手に持つ。

 

「妖精の王達を怒らせてしまったでありますが…我のせいではないであります…」

 

彼女はとんだトバッチリを受けただけの被害者だが、妖精王を怒らせて無事で済むはずがない。

 

「どうにかして…この妖精の王国から抜け出さなければ…」

 

方向さえ分からない神秘的な森の中を彷徨い歩く。

 

山間部の山側にまで投げ飛ばされてしまった彼女は少し歩いた頃、何かを見つける。

 

「これは…洞窟でありますか?」

 

切り立った山の中で見つけた洞窟であるが、中から不穏な気配を感じてしまう。

 

「この臭いは…瘴気?中にいるのは悪鬼である魔獣?それとも…悪魔?」

 

別の場所に移動しようにも方角さえ分からないではいずれ追い込まれる。

 

暫くここでやり過ごすしかないと判断した彼女は洞窟の中に進んでいく。

 

「…夜目が効くから分かるであります」

 

彼女が歩いている洞窟内部に散乱しているものは大量の人骨であろう。

 

「悪鬼は人間を襲っても廃人に変えるだけで殺しはしない。なら、これを行ったのは…」

 

警戒しながら洞窟の奥にまで進んでいく。

 

「入り口もそうでありましたが…随分と大きな洞窟であります。これだけの広さなら…」

 

巨大な悪魔が巣に出来ると考えていた時、彼女の足が止まって岩場に隠れる。

 

(あれは…巨大な蜘蛛の巣?それに…吊るされているのは…)

 

夜目で確認すればどれも白骨死体ばかりである。

 

(捕らえた獲物を食べもせず放置して殺す?ティターニアのように獲物を鑑賞していただけ?)

 

疑問が募っていた時、クモの糸で吊るされた繭の一つが蠢く。

 

「あ…貴女は!?こんなところに迷い込んで…もしかして、私を救いに来た麗しき女神!?」

 

「あ…あの人物は…?」

 

体勢を旭の方に向けてくるのは逆さま姿の美しき青年騎士である。

 

「私はタム・リンと申します!訳有ってジョロウグモに捕まり…大正からこのままなのです!」

 

【タム・リン】

 

ケルト神話にその姿を見せる妖精騎士である。

 

彼は森へ狩りに行った帰りに妖精の女王に捕らえられ、自分も無理矢理妖精にされてしまう。

 

妖精に変える事で妖精郷の住人にしてしまおうと考えたティターニアの犠牲者である。

 

だが彼の子供を孕んでたジャネットという女の努力により、ハロウィンの晩に救われたという。

 

なお人間時代のタム・リンは騎士の名に相応しい人物という逸話は存在しない。

 

カーターホーの森を通る乙女はタム・リンに持ち物か処女を奪われてしまう警告で始まるのだ。

 

バラッドの乙女の純潔を奪う妖精とはタム・リンの事であった。

 

「タム・リン殿でありますか…?この魔力…やはり貴殿は悪魔でありますか?」

 

「そ、そうですが…()()()()な妖精なのです!というか…私は元は人間なのです!」

 

「人間?ということは…貴殿も我と同じく妖精郷に囚われた被害者なのでありますか?」

 

「その通り!は、早く拘束を解いて欲しいです!早くしないと…ジョロウグモが帰ってくる!」

 

「その…ジョロウグモというのは悪魔でありますか?」

 

忌々しい存在の事を聞かれたタム・リンは逆さの顔を歪めていく。

 

「黒い肌で女の上半身を持つ巨大な蜘蛛悪魔です。私は大正時代の頃からあの女の鑑賞物です」

 

「大正時代から…?なるほど、周りの仏様達は…古い時代に攫われた犠牲者というわけですか」

 

「顔がいい悪魔だから~いつまでも鑑賞出来るわ~♪…とか考えてるおぞましい女悪魔です!」

 

「なるほど…ですが、我は先ほど妖精達から酷い目に合わされたので…妖精と聞いては…」

 

「信じてください!私は人畜無害な妖精であり、人間なのです!助けてくれたら礼もします!」

 

「…貴殿は妖精だと言ったであります。もしかして、妖精郷の出口が分かるのでありますか?」

 

「オフコース!妖精である私ならば、出口がある場所など天斗樹林でなくとも解ります!」

 

「…了解であります」

 

魔法のライフル銃で狙いを定めた後、吊り下げた糸を撃つ。

 

「がはっ!!?」

 

体を鎧ごと糸で拘束されていたタム・リンは受け身をとることも出来ずに地面に落ちる。

 

魔力で銃剣を生み出し、包まれた糸を切り裂いて彼を救出してくれる。

 

「ウォォォォーッッ!!何十年ぶりの自由でありましょうかーッッ!!」

 

魔力で槍を生み出し、高らかに掲げて勝利の雄叫びを上げてくる。

 

「約束であります。我をこの妖精郷から連れ出して欲しいであります」

 

自由の世界に戻れた余韻に浸っていたが、冷静になった事で彼女に向き直る。

 

「…貴女の今の状況ならば察する事が出来ます。貴女はもしかして、美丈夫と間違われて…?」

 

旭の顔が曇りながら俯いていく。

 

「あ~言わなくていいです。あの妖精王夫婦はその…色々と頭がおかしいんですよ」

 

「さっき会ったばかりでしたが…頭がおかしいという部分は的を得ているであります」

 

「無駄話よりも早くこの洞窟から抜け出すのが先決。私が先導しますからついてきて下さい」

 

2人は洞窟の奥から移動していく。

 

警戒して進むのだが、旭から感じる美少女の匂いを鼻で感じ取るタム・リンはご満悦である。

 

「…つかぬことを聞きますが、貴女はもしかして…魔法少女と呼ばれる種族ですか?」

 

「我ら巫…いえ、魔法少女の事をご存知なのでありますか?」

 

「古くから悪魔と共に魔法を司る存在として世界に存在してましたよ」

 

「我が魔法少女だとして、何の関係があるのでありますか?」

 

「い、いえね…魔法少女となる者達は古くから美少女揃い…この辺りにも沢山いるかな~と…」

 

「それはまぁ…いるであります。この近くの集落である霧峰村は魔法少女一族の村であります」

 

小さくガッツポーズをする彼の光景は夜目に優れた彼女には見えているだろう。

 

「…何を考えているのでありますか?」

 

「えっ!?別に私は何も…ん!?」

 

片手で彼女を制した彼は岩場に隠れろと促す。

 

2人が岩場に隠れた少し後に入り口から巨大な魔力を感じさせてくる。

 

「…名前は?」

 

「三浦旭であります」

 

「旭さん、魔力を覆い隠す技術をお持ちですか?」

 

「我は魔法少女の中でも魔力を隠す力に優れた狙撃手であります。任せて欲しいであります」

 

「では互いに魔力を隠して息を殺して下さい。ジョロウグモが…巣に帰ってきたようです」

 

言われた通りソウルジェムの魔力を周囲から隠すと巨大な足音が近づいてくる。

 

「ハァァァ…天斗樹林から引っ越した場所が若い男の少ない地域だったなんてねぇ…」

 

巨体が岩場を通り超えていく光景を2人は息を殺して見つめている。

 

(あれが…ジョロウグモでありますか?何という巨体……)

 

(そうです…あの女は擬態して麓の村まで下り、気に入った男を攫っていく悪魔なのです)

 

【ジョロウグモ】

 

女郎蜘蛛ともいう日本民間伝承の齢を経た牝蜘蛛の妖怪であり、美女に化けて男を喰らう。

 

滝や淵などに関連付けられ、水霊であるとする地方もある。

 

その場合は水辺に近付いた男の足に糸を巻き付けて引きずり込むという。

 

中には人間と女郎蜘蛛の悲恋の逸話や絡新婦を水難避けの神として伝える所もあった。

 

「ハァァァ…引っ越そうかしら?でも、悪魔が静かに暮らせる場所って少ないのよねぇ」

 

今日の収穫にありつけずに愚痴を零しながらコレクションルームに移動していく。

 

「…今です、移動しましょう」

 

「承知したであります」

 

2人は気配を殺しながら進み、ようやく洞窟の出口に到達する。

 

そんな2人を出迎えてくれたのは妖精達であったようだ。

 

「あーっ!!あ、あんた…そいつを助けちゃったの!?」

 

「貴殿は…?」

 

現れたのはシルフであり、騒ぎに気が付いて旭を探す捜索隊よりも先に動いてくれたようだ。

 

「わ、私はシルフっていう妖精よ。あんたの事はその…色々知っててさ、助けようと…」

 

「もしかして、森の中で感じていた視線というのは…シルフ殿でありますか?」

 

「わ、私と…友達のコダマっていう精霊が貴女の狩りを見守っててあげたのよ!感謝なさい!」

 

(頼んだ覚えはないのでありますが…)

 

突然助けに来たり感謝を要求されたり、やはり妖精というのは気分屋なのだと旭は察する。

 

横を向けば口笛を吹き出して素知らぬ態度を見せてくるタム・リンがいる。

 

「アンタ、その妖精男に近寄っちゃダメよ!!」

 

「どうしてでありますか?」

 

「そいつに近寄ると…妊娠させられても知らないんだから!!」

 

いきなりの爆弾発言に対し、首を傾げながらタム・リンに視線を向けてくる。

 

「聞く耳を持ってはダメです、旭さん。妖精は人に悪戯を仕掛けてくる存在ですよ」

 

「白を切るつもり!?私の妖精の女友達だってあんたに……」

 

「待つであります!この魔力の数…近寄ってくるでありますよ!」

 

肝心の部分を言いかけたシルフだが、旭に促された事で後ろの森を振り向く。

 

どうやらティターニアとオベロンに命令された探索隊が迫ってきているようだ。

 

「この大地を震動させる地響き…不味いですよ、コレ」

 

「うん…スプリガンまで来てる…」

 

木々が押し倒されていく音が近づいてくる中、皆の顔が青くなってしまう。

 

「こんなにも大きく育った森の木々が押し倒されていく…あのスプリガンはそれ程の…」

 

血相変えたシルフとタム・リンが旭に顔を向ける。

 

「こうなったら仕方ありません。逃げるが勝ちです」

 

「タム・リン殿…貴殿は騎士でありますよね?その立派な槍が泣くであります」

 

「騎士とて無謀な戦いなどしないのです。勇気ある行動と蛮勇は区別するべきですよ」

 

「普段は股間にだらしないくせに…火事場になったらまともになるんだから…コイツ…」

 

「いいですか?私達妖精は擬態能力に優れます。ですので、どちらかが旭殿に擬態するのです」

 

「なるほど…つまり二手に分かれて逃げるのでありますね?」

 

「私が旭殿に化けましょう。私に対するシルフのよからぬ戯言などないと行動で示しましょう」

 

槍を掲げたタム・リンが魔力を用いて擬態する。

 

そこに立つのは旭と瓜二つとなったタム・リンの姿なのだ。

 

「凄い…他人に変身する魔法を持つ魔法少女もいると聞きましたが…妖精も中々の手際ですな」

 

「では、我は別の方角から逃げるであります。シルフ殿、本物の旭殿を任せたであります」

 

「フン、言われなくても!アンタは掴まって、ジョロウグモの巣にでも放り込まれなさい!」

 

旭に化けたタム・リンは自らが囮となるために妖精達が迫る方角に向かう。

 

「勇敢でありますな。ご助力に感謝するであります」

 

「ああいう奴だけど、大正時代は帝都を守護するデビルサマナーと一緒に戦った事がある男よ」

 

「では、我らは別の方角に向かうであります」

 

「こっちよ、私が妖精郷の出口に案内してあげる」

 

旭の肩にシルフは座り、ナビを行ってくれる。

 

スプリガンはタム・リンが逃げた方角に移動したようだが、危険はまだ終わりじゃない。

 

「この調子で進めばもう少しで出口よ!」

 

「何という悪夢のような一日でありましたか…それも、もう直ぐ終わりそうであります」

 

2人は安堵していたようだが、そうは問屋が卸さない。

 

「ウォォォォ!!オシャレなマタギを発見伝ーーッッ!!」

 

慌てて後ろを見れば見張りをしていたトロールが迫ってくる。

 

右手には切り株で作られた巨大な棍棒が握り締められているようだ。

 

「不味いわ!こうなったら…私の魔法でけちょんけちょんに!」

 

「同族と戦う必要はないであります」

 

「えっ?」

 

「最後ぐらいは、我に働かせて欲しいでありますよ」

 

ライフル銃の銃床を肩に当てながら狙うのは細く伸びた木。

 

「あれぐらいの木なら…撃ち抜けるであります!!」

 

魔力を込めたライフル弾を発射する。

 

その威力は細くはあるが丸太のように太い木を破壊する程の威力なのだ。

 

木の上部が落下する下側にはトロールがいる。

 

「ぐごっ!!?」

 

トロールの頭に丸太のように大きな木がぶつかった事で目を回していく。

 

「悪魔も…月までブッ飛ぶ…この衝撃!!オマエ…オシャレな…ヤツだった…ぜ…」

 

巨体が後ろに向けて倒れ込みながら気絶してしまう。

 

見届けたシルフは手を叩いて喜びを露にする。

 

「魔法少女の戦いなんて初めて見たけど、やるじゃんアンタ!」

 

「お褒めの言葉よりも出口のナビを頼むであります。追撃班が迫ってくる状況であります」

 

「そ、それもそうね…あっちの方角よ!」

 

シルフの協力を得た旭はどうにか妖精郷の出口にまでたどり着く。

 

「ご協力に感謝するであります、シルフ殿。それにタム・リン殿の勇気にも感謝であります」

 

「あの股間にだらしない妖精なんて気にしないの。それよりさ…私、その……」

 

何か言いたそうな態度をしているが、旭は外の状況が気がかりな様子。

 

「我はこの妖精郷でどれぐらいの時間を過ごしたでありますか?それによって外界の時間は…」

 

「多分…次の日ぐらいにはなってると思うわ。ここは長いしちゃうと知ってる人は皆年寄りよ」

 

「まさに竜宮城の如き世界…妖精達にとってはパラダイスであるのでしょうな」

 

「そ、その…ね?あんた達が暮らしてる村ってさ…その…」

 

「霧峰村がどうかしたのでありますか?」

 

シルフは霧峰村の暗部とも言える部分を目撃した事を語ろうとしている。

 

しかし首を振った後に旭の顔に向き直る。

 

「…ううん、何でもない。これはきっと…あんたの村の人達の力で解決する問題だと思うわ」

 

「本当に世話になったであります、シルフ殿。山間の森で出会えた時は声をかけて欲しいです」

 

踵を返した後、去っていく旭。

 

もじもじした態度をしていたシルフだが息を飲みこんだ後、気持ちを伝えてくれる。

 

「ねぇ…旭っていうんでしょ?旭はさ…その…悪魔の仲魔とか、欲しくない?」

 

それを聞いた彼女の足が立ち止まる。

 

「わ、私はね…自然を大事にしてくれる人なら、男も女も関係なく…好きだから…」

 

背を向けたままだが彼女は首を横に振ってしまう。

 

「我ら巫は悪鬼である魔獣と戦う存在…この地で平穏に暮らす妖精殿を危険に晒すわけには…」

 

「私だって!魔法の力があるから戦えるわよ!」

 

「その力は仲魔達を守るために使って欲しいであります。我の力だって…同じなのだから」

 

振り向いた彼女が笑顔を向けながら一礼した後、妖精郷の出口から姿を消していく。

 

彼女の背中を見送ったシルフは深く息を吸い込んだ後に溜息を出してしまう。

 

「なんで…私はこんなことを言うんだろ…?」

 

旭を気にしてしまう自分の事がよく分かっていない様子だが、後ろの妖精は分かっている。

 

「フッフッフッ、いやーシルフちゃんってば…青春だよね~♪」

 

ビクッと体を震わせながら後ろを見れば、ピクシーとコダマが浮遊している。

 

「ウリウリ~♪認めちゃいなさいよ~私は女もイケちゃうバイ妖精だって♪」

 

恋愛大好きな妖精仲魔にからかわれるシルフの頭に怒りマークが浮かんでしまう。

 

「ねぇねぇ、バイってどういう意味なのかおしえてよ~?ばいばいけいやくしょの略?」

 

「煩いわよコダマ!あんたは子供の精霊なんだから、そんな事は知らなくてもいいの!」

 

「まぁまぁシルフ、こういう話は妖精にとって最高のおつまみなの♪皆に言いふらしてこ♪」

 

「ピ~ク~シ~!!」

 

ピクシーの後を追いかけ回すシルフとコダマ。

 

妖精郷に囚われた魔法少女の物語はこれにて一件落着なのかと思われたようだ。

 

ところ変わって違う場所の出口にはタム・リンがいる。

 

「フフフ…悪魔合体で生まれた私は悪魔の思い出スキルである逃走加速があったのですよ!」

 

どうやら確実に逃げられる算段があってこその勇気ある行動であったようだ。

 

「私を鍛えた葛葉ライドウに感謝カンゲキ雨嵐!いざ行かん…美少女達が待つ旭さんの村へ!」

 

解き放たれてしまった不穏な影によって時女の里はどうなっていくのであろうか?

 

7月も過ぎていった頃。

 

ここは時女一族に所属する魔法少女達が鍛錬の場に使っている大きな道場。

 

様々な武器や忍具が壁にかけられ、中では練習生として参加する時女の魔法少女が大勢いる。

 

その中には銃剣術の指導を行う三浦旭の姿もいるようだ。

 

「そろそろ休憩にするであります」

 

銃剣術の指導も終わり、皆が道場に座り込んで休憩していく。

 

旭も壁にもたれ込み、水筒のお茶を飲んでいたら声をかけられる。

 

「あの…旭さん。相談に乗ってもらいたい事があるんです…」

 

近寄ってきたのは練習生として参加していた魔法少女であろう。

 

「相談とは、なんでありますか?」

 

「実は…私の友達の件なんです」

 

ここでは話せないと言われた事で2人は道場の裏側にまで移動していく。

 

「お友達が妊娠した…でありますか?」

 

深刻な表情を浮かべながら首を縦に振る魔法少女が事情を説明してくれる。

 

「その、いつ頃から現れたのか分からないんですが…凄くイケメンな青年が村に現れるんです」

 

「凄くイケメンな…青年でありますか?」

 

「私の友達に声をかけてきたんですが…その子、その人に一目惚れしちゃって…」

 

「関係を持ってしまったのでありますね…?」

 

「…私達はヤタガラスに所属する巫達です。色恋沙汰は厳しく取り締まられてるんですが…」

 

「…たしかに、全体の士気に影響が出る問題であります」

 

旭は腕を組んで考え込む。

 

色恋沙汰の問題など初めて相談されたこともあり、旭では手に負えそうにない。

 

「そういえば…シルフ殿が何か言っていたような…」

 

色々と思い出していき、これは不味いと思った旭は時女本家の門を叩く。

 

出迎えてくれた静香の母親に相談し、彼女もこれは看過出来ないと判断してくれる。

 

「よく知らせてくれたわね、旭ちゃん。この問題はデビルサマナーである私が対処するわ」

 

「タム・リン殿…無事であったのは喜ばしいでありますが…女として許せないであります」

 

「フフッ♪股間にだらしない男悪魔はキツイお灸を据えてあげましょう♪」

 

そうして見つけ出された種まきタンポポ悪魔は静香の母親に捕らえられる事となってしまう。

 

時女本家の庭にある木には簀巻きにされて吊るされたタム・リンがいる。

 

「ほんの出来心だったのです!私はMAG回復を!彼女は女の喜びを!理想の共生関係ですよ!」

 

色男が台無しになる程ボコられた顔で言い訳する姿はジョロウグモの巣で見かけた時と同じだ。

 

「なるほど…ジョロウグモの巣に放り込まれていた理由も納得でありますね」

 

「妖精達から噂は聞いてたけど、こんなタチの悪い妖精がいたなんてねぇ…どうしようかしら」

 

「簀巻きにしたまま妖精郷の入り口にでも捨てておくであります」

 

「そんな殺生な!?私は体を張って旭さんの命を救った恩人であるはずですよーっ!!」

 

「見返りを求める恩など、奪うのと同じであります」

 

「MAGを提供しないと悪魔は実体を維持出来ないし、ほっとくとまた巫達の純潔が狙われるし」

 

「こんな奴を村においていたら、帰ってきた静香殿達まで毒牙にかかるであります」

 

「フフ♪静香はそんなヤワな鍛え方をしてないから安心して。それにこの男は…あっ、そうだ」

 

静香の母親は何かを閃いたのか、デビルサマナーとして怪しい笑みを浮かべてくる。

 

「ま…まさか…合体材料の刑!?何でもします!何でもしますから醜い悪魔にだけは勘弁!!」

 

「うん、決めたわ。この悪魔はね…」

 

それから季節も移り変わり9月頃を迎える。

 

霧峰村は田んぼの収穫作業に追われている光景が続くのだが、見知らぬ男も働いている。

 

「おお、田村さんは働き者じゃのぉ。それにイケメンさんじゃ~ありがたやありがたや」

 

「眼福じゃ~ワシも心が50歳は若返った気分じゃのぉ~?」

 

「どうじゃ?爺さんも死んでワシも寂しいんじゃ~…今夜うちに寄っていかないかい?」

 

顔が引きつった状態で収穫作業を手伝うのは人間の男に擬態したタム・リンであろう。

 

「どうせなら、股間の種まきよりも労働で汗を流す方が色男というものよ」

 

「まったくであります」

 

不満の顔をぶつける先には笑顔の静香母と旭が立っている。

 

(見ていなさいよ…絶対にここを抜け出して…私の青春カムバックを狙いますから!!)

 

悪魔という存在と触れ合ってしまった三浦旭。

 

彼女はこれからどんな魔法少女人生を生きるのであろうか?

 

彼女達のような巫達の運命は大きく動き出す日が近づいている。

 

それはきっと、彼女にとっては悲劇としか言いようがない結末が待っているのであった。

 




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