人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
この物語は数か月前の夏頃に戻った時期の物語である。
静香達がヤタガラスの任務を受けてより一か月が過ぎた頃の7月頃。
ここは時女の里である霧峰村。
下界とは隔絶した環境のためか、労働者は年寄りが多く若者の姿は少ない。
そんな秘境の村の中なら十代の娘の姿は目立つだろう。
「おお、おはよう旭ちゃん。今日も森で山菜採りかのぉ?」
畑仕事中の老婆が声をかけた人物とは時女一族に所属する魔法少女。
三浦旭(みうらあさひ)であった。
「おはようであります。我は昨日の残りを済ませてくるであります」
子供にしては変わった口調なのは相変わらずの旭である。
「あの森は手つかずだから自然の恵みが多いのはいいんじゃが…」
「何か問題があるのでありますか?」
「いやね…あの森は昔から村の連中も入らない不吉な森。旭ちゃんは巫だけど…心配で…」
「大丈夫であります。今のところ悪鬼の類も出てきませんし」
「悪鬼は人の集まる地域に多く現れる。人が寄り付かない場所なら出てこないんじゃろうが…」
「…あんな人気のない場所に根付く存在ならば、それは悪鬼ではないでしょうな」
雑談を終えるかのように一礼をし、旭は村の奥に広がる山間の森へと入っていく。
「本当に物好きな子だよ…あの森に入る人なんて旭ちゃんか…時女本家の女戸主ぐらいじゃのぉ」
――あの森は、戦国時代の頃は落ち武者狩りが行われていた…怨念渦巻く血塗られた森なんじゃ。
深く鬱蒼とした森の中を進む。
人を拒むかのような道なき道。
しかし軍服のような魔法少女服を纏う彼女は物ともせず進んでいく。
道すがら山菜採りを行い、背中の籠に入れていく。
霧峰村でマタギのような仕事をしている彼女の夏はこうやって過ごすようだ。
森の奥に進んでいくと開けたエリアが見え、そこには拠点として使っている山小屋がある。
籠いっぱいに積んだ山菜を山小屋の入り口の横に置き、彼女は隣の空き地に進んでいくのだが…。
「今日も暑いでありますな、お爺殿。光合成もはかどっていますか?」
彼女が誰かに声をかけるが目の前に人などいない。
目の前に立っているのは古びた樹木。
新緑が美しい森であるはずなのに何故かその樹木だけは秋の葉を思わせる赤さ。
旭はなぜ木に話かけているのであろうか?
それは彼女の固有魔法があるからこそ出来る所業。
古びた樹木の枝が動き始める。
その枝葉はまるで枯れた悪魔の手を思わせるような醜さであった。
「ふわ~…寝取ったわい。おお、旭ちゃんか?いい歳した小娘なのにマタギ生活とはのぉ」
樹木が喋った。
その言葉を聞き取る事が出来る彼女の固有魔法とは…。
「我も歩き疲れたでありますし、少しお爺殿の足元で休むであります」
彼女は喋る樹木の足元まで来て座り、背を木に預ける。
樹木の見た目は禍々しく、子供ならば怯えて泣き出すような見た目なのだが彼女は気にしない。
「それにしても…ジュボッコであるワシに懐く魔法少女とは…変わった小娘じゃ」
【樹木子(ジュボッコ)】
戦場跡に生える妖樹。
人間の血を大量に吸い込んだ樹木には魂が宿り、ジュボッコになると言われている。
多くの死者を出した戦場に生えると言われ、死者の怨念や魂が木に憑依した存在。
ジュボッコは木の下を通る人間を枝で捕まえ、血を吸うと言われている。
血を吸われた人間の魂は再びジュボッコに吸収されて同化するという。
枯れた桜の下に死体を埋めると色鮮やかな花を咲かせると言い、これもジュボッコと言われた。
「我は気にしてないであります。貴殿が我を襲わない限りは」
「襲いやせん。ワシも昔は荒くれ悪魔であったが…時女のお嬢ちゃんに懲らしめられてのぉ」
「時女のお嬢ちゃん?」
「今では時女本家の女戸主を務めている娘じゃ。もう母親じゃ…娘と言うのもなんじゃがな」
「その人物とは…静香殿の母殿でありますか?」
「あの娘とも長い付き合いになるが…あの娘を気に入ってのぉ。仲魔になってやったのじゃ」
「仲魔…?我以外にも幽世の存在と話が出来る人物がいるというのでありますか?」
喋り過ぎたとばかりに枝を移動させ、枯れた大木の鼻のような穴を掻く。
「旭ちゃんよ、この村では…ワシのような悪魔を知る者は片手で数えるぐらい。他言無用じゃぞ」
「悪魔…でありますか?悪魔を仲魔に出来る静香殿の母殿とは一体……」
「でびるさぁまなぁ…連中はそう呼ばれておる」
「デビル…サマナー……?」
知らない単語をジュボッコが喋った時、人の気配が近づいてくる。
「お喋りが過ぎるわよ、ジュボッコ」
旭は近づいてきた人物に視線を向ける。
現れたのは時女静香の母親であった。
「後ろから近付いていたのでありますか?…気配に気が付きませんでした」
「ごめんなさい、尾行するつもりはなかったのだけれど…今日はこの老木のご飯の日なのよ」
「ご飯の日?」
歩いてきた静香の母が枯れた老木に手を当てる。
すると彼女の全身からMAG(マグネタイト)の光が吹きあがり、ジュボッコが吸収していく。
「こ…この光は……」
「おぉぉ~久しぶりの感情エネルギーじゃ!これで数か月はひもじい思いをせんで済むわい」
「感情エネルギー?この光は…魔法少女のソウルジェムに宿る穢れと同じものでありますか?」
「…この年寄りが貴女を信用して喋ったのだと判断したから、これを見せたのよ」
旭の隣に座り、悪魔や悪魔召喚士について話し始める静香の母親。
「そうでありましたか…お爺殿は、時女一族の首長とも言える貴女様の仲魔でありましたか」
「管の中に入ればいいのに、このご老人は森の中にいたいって駄々をこねられたのよ」
「ふん、他の悪魔は実体を伴わない姿でも構わんのだろうが…ワシは樹木本来の姿でいたい」
「森に迷い込んだ人間を襲わないという条件付きで自由にしてあげて世話をしてるの」
「あ、あの…もしかして、この空いていた山小屋は…?」
「私が作ったのよ。この森を監視する時に利用しようと思ってね」
「す…すみません。我は空き家だと思って…勝手に山菜取りや猟の小屋に利用してたであります」
「フフッ♪構わないわ。私だって偶にしか利用しないし、他の人にも役立ててもらえて何よりよ」
「それにしても…お美しい静香殿の母殿が、このような枯れた悪魔を使役されるとは…」
「こりゃ小娘!ワシは枯れ木ではあるが…こう見えて桜の木なんじゃぞ!」
「そうでありました。今年の春も見事な血染め桜を咲かせてましたな」
「桜の木は時女の家紋である四葉桜紋。時女一族首長である私の仲魔に桜の木は相応しいわ」
「で、ありますか。それにしても…デビルサマナーや悪魔とは…この村は秘密だらけですな」
「それとね、この森に監視に訪れているとさっき言ったけれど…旭ちゃんは見かけなかった?」
「何をでありますか…?」
「誰かの視線を感じたとか、木の上から見られてるような感じとかなかった?」
「そういえば…そんな視線を感じた事が何度もありますな」
溜息をつき、静香の母親が立ち上がって旭に向き直る。
「この森にはね、多くの悪魔が住み着いているのよ」
「お爺殿以外にも…沢山の悪魔がいるのでありますか?」
「この霧峰村は田舎も田舎…自然豊かな場所だとね、現世と異界との境界が曖昧になるのよ」
「ワシのところにも…あのわんぱく悪魔共が遊びにきよる。里の方にも行っとるらしいの?」
「そうなのよ…里の子供達が大きな虫だとか妖精だとかを目撃する事件も聞くし」
「今日はその件でも、ワシのところに来たのであろう?目的は連中が勝手に作った王国か?」
「勝手に作った…王国?」
「旭ちゃん、この森で山菜取りや猟をするのはいいけれど…妙な声を決して聞かないで」
「妙な声…?」
「子供のような声で遊びに誘ってくるとか…または身近な人間が突然森に現れてくるとか」
「それも…この森に住み着いた悪魔の悪戯か何かでありますか?」
「連中は妖精と呼ばれる悪魔種族。他の悪魔よりは残忍ではないけれど…愛憎は酷いのよ」
「妖精に好かれた記憶はないでありますな」
「それだけよ。私はこの森の奥にいる連中のところに行ってくるから、貴女は早く帰りなさい」
「腰に吊るした刀と数本の管…それに銃のホルスターのルガーP08。戦いに行くのですか?」
「話し合いに行くだけよ。心配しないで、こう見えて私は…か弱い女じゃないんだからね♪」
「時女一心流現継承者であり、悪魔召喚士でもあった貴殿の力を疑うはずがないであります」
当てにしてくれているのは嬉しく思うが、溜息をついた彼女は腰の鞘を引き抜き目の前で抜く。
彼女の愛刀である練気刀の刀身に映った自分の姿の衰え。
若々しい見た目とはいえ、既に全盛期時代は終わりを迎えていた。
「時女一心流も…娘の静香に伝えるべき技は伝え終えた。後は…時女の矜持を静香が担うだけよ」
そう言い残して静香の母親は踵を返し去っていった。
首長に言われたこともあり、今日は早めに山菜を干す作業を終えようとする。
立ち上がった彼女は背伸びをしたあと山小屋に向かうのだが立ち止まった。
「…お爺殿。貴殿と同じ悪魔と呼ばれる存在達は…この国の霊的脅威となるのでしょうか?」
「…案ずるな、巫よ。お前さん達が倒すべき敵は魔獣…人を襲う悪魔が現れるならば…」
「…魔法少女ではなく、デビルサマナーが退治をすると?」
「それが古来より続く役割分担。ヤタガラスに参加する他の退魔一族の領分なのじゃよ」
「なるほどでありますか…。まさか悪魔召喚士が…この霧峰村にもいたとは驚きであります」
「魔法少女の素質はなくとも、悪魔召喚士としての才能がある者もおる。ワシの主もそれじゃ」
「悪魔召喚士になるためには、どうすればいいのでありますか?」
「霊感が幼い時よりある者のところには、ヤタガラスの教育機関の者が現れる」
「ヤタガラスから教育を受けるのでありますか…?静香殿の母殿もそれで悪魔召喚士に…」
「…ワシはのぉ、悪魔召喚士よりも…巫である魔法少女達の方が辛い立場だと考える」
「それは…なぜ?」
「お前さん達の魔力は19歳から劣化していく…長くとも20代前半以内には戦で死ぬじゃろう」
「…我ら巫達は、ある意味消耗品なのかも…しれないでありますな」
「恋も知らずに死ぬのでは…でびるさまなぁよりも哀れじゃ。ワシの主とて旦那を作れたのに」
「そうでありますね…だからこそ、静香殿を残してくれた。…短命の我らには」
――いったい何を…残せるのでありましょうね。
振り向かず彼女は山小屋の中へと入っていく。
ジュボッコは彼女の背中を見送った後、静かに考え込む。
「…この村には悪魔召喚士が他にもおる。ワシの主でさえも倒せぬ程の…凄腕召喚士がな」
首長と呼ばれる村長は絶対的な権力者というわけではない。
首長の地位は儀礼的には際だたせられていたが、かならずしも政治的権力を伴ってはいなかった。
社会に概念的中心を与えるという点に主要な役割があり、人々の統一の象徴として扱われるのだ。
時女の矜持という宗教を守る長と、世俗的権力を伴う長という形で2人に分かれる場合もあった。
「ワシの主は時女の象徴に過ぎん。村の政治権力、そして祭儀を司るのが…妖怪婆の神子柴じゃ」
ジュボッコと静香の母は知っている。
この村を牛耳る政治権力者であるデビルサマナーが行ってきた…おぞましい生贄儀式について。
それを村の人々に言いふらす事など出来ない。
若い村男達の流出で先が無い村の経済を支えているのは、神子柴の政治手腕があってこそ。
女の一族とも言える時女集落の人々は神子柴家に依存し、共生関係を築き上げるしかないのだ。
考え込むと周りが見えなくなるのか、ジュボッコは気が付いていない。
山小屋を見渡せる木の上の枝にいる大きな鳥の姿には。
旭が山小屋に訪れた時よりこの場に隠れ、一部始終を見つめていたようだ。
「……あぁ、なんて美しい
大きな鳥が喋った。
恐らくは悪魔が擬態しているのだろう。
考え込んでいたジュボッコが気配に気が付き視線を向ける頃には、その鳥の姿は消え去っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
短命の魔法少女として、巫(かんなぎ)として、この世に何を残せるのか?
そんなことを考えながら作業をしていたらすっかり遅い時間となっている。
「不味いであります…静香殿の母殿からは早く帰れと言われていたのですが…」
山小屋から出れば日も沈みかけている。
「それでは、我は帰るであります」
「森の中は既に暗い。足元に気を付けて帰るんじゃぞ」
「我は夜目が優れているでありますから、大丈夫であります」
手を振りながら帰っていく後ろ姿をジュボッコは見送ってくれたようだ。
暗くなった森の中を歩いているとお腹の虫も鳴いてくる。
「ぐぅ…干し肉も使い切ったでありますし、暫くは干した山菜生活でありますな…」
育ち盛りの子供には辛い食事内容に溜息をついていた時であった。
「ん…?あれは……」
見れば茂みの中から出て来たのは野兎。
「しめたであります。今夜はあのウサギを仕留めて、ウサギ肉の鍋であります」
肩にかけていた魔法のライフル銃を両手に持ち構える。
ウサギは音に敏感な生き物。
彼女が踏みしめた枝の音に気が付き走り去っていく。
「チッ!」
引き金を引くのが一瞬遅れ、銃弾はウサギの横を通り過ぎていった。
空腹に刺激されたのか、彼女は森の奥にまで逃げたウサギを追ってしまう。
「あぁ…今夜の食材が…ウサギ鍋が…肉団子が逃げていく…そうはいかんであります!」
普段なら猟で深追いなどしないのだが、今日は空腹に踊らされてしまう。
気が付けば森の奥。
逃げていたウサギであったのだが…開けた場所で立ち止まり、旭の方に振り向いた。
「観念したでありますか?ならば、今宵の我の空腹を満たす肉となるであります」
ライフル銃を構える。
眉間に一発で仕留める構えであったのだが…。
「……へっ!まんまと罠にかかったな!」
ウサギが喋った。
衝撃を受け、彼女は引き金を引くのが一瞬遅れる。
ウサギをした何かが先に動き、撃たれた銃弾を避けたあと獣道の中へと入り込まれた。
「我の空耳…?今…ウサギが喋ったのでありますか…?」
既に周りは暗い森。
周囲から感じるのは夜の森から視線を感じさせてくる恐ろしい気配。
「こ…これは……幽世の霊たち!?」
旭を囲むようにして現れたのは、おぞましい顔が浮かんだ鬼火達であった。
【ウィルオウィスプ】
イギリス各地で語り伝えられる鬼火、人魂である。
名はひと握りの(石炭を持つ)ウィルという意味をもつ。
鍛冶屋のウィルという男は死後に聖ペテロや悪魔を騙した為に天国地獄両方から閉め出される。
夜の地上を彷徨いながら与えられた一握りの石炭の燃えさしで暖を取っているのだという。
沼地や墓場などに出現して旅人を彷徨わせたりと悪意ある悪戯を仕掛けてくる。
また別名としては、ハロウィンのジャック・ランタンなど異称も多い悪霊であった。
「オォォ…ヤッ…たぁぁぁ…!!お一人ィィ様ァァァ…ご案内ィィ…!!」
「ウォマェェェ…食イ意地張ッタ奴ゥゥ…!女王様ノォォ…計画通リィィ…!!」
「ト言ウカァァァ…ウォマエェェ…人魂ノウォレラガァァ…見エルのかぁぁぁ!?」
「ウォォォォ…割リトォォォォ…ビックリィィィィ!!」
「鬼火のそっちがビックリしてどうするでありますか!?」
鬼火悪魔が現れてるのに鋭いツッコミ。
普通の魔法少女では見えないだろう死者の魂を見る事が出来る三浦旭の能力とは…。
「細けぇぇ事ハァァァァ…良ィィンダヨォォォ!!」
「ウォマェェェハァァァ……ウォ休ミナサイダァァァ!!」
「マギレコォォォハロウィンイベントォォォ開催中ゥゥゥゥ!!」
「なんかメタいことを言いだす鬼火がいるでありますよぉ!?」
「細けぇぇ事ハァァァァ…良ィィンダヨォォォ!!」
「グンナァァァァイィィィィッッ!!」
ウィルオウィスプ達が同時に放った魔法。
それは相手集団に睡眠を与える『ドルミナー』である。
「うっ…なんで…ありますか…?凄い…眠気…が……」
悪魔の魔法耐性など持ち合わせていない魔法少女が地面に倒れ込む。
頃合いを見て獣道から出て来たウサギが旭の頭の前まで歩み寄り、ほくそ笑む。
「よ~しよし、よくやったぞお前ら。この美少年君を妖精王国に連れて行こうぜ」
ウサギに化けていた妖精が姿を現し、旭を引きずっていった。
……………。
その頃、時女静香の母親は自宅の和室で練気刀の刀身に打ち粉を使いポンポンしている。
「妖精王のオベロンに手下の管理をしっかりしなさいと言ったけど…大丈夫かしら?」
溜息をつき、和室から見える庭景色に視線を送る。
「でも…あの妖精達も哀れね。以前の住処であった槻賀多村跡地の天斗樹林を失うなんて」
話を聞けば、オベロン達はかつてヤタガラス傘下であった村を寝床にしていたという。
ヤタガラスから見捨てられた一族の村は廃村となり…暫くは妖精達の天下となり楽しく暮らせた。
しかし再開発のメスが槻賀多村跡地に入り込み、住処としていた森を失う事となったようだ。
「そういえば…女王のティターニアの姿が見えなかったわね?何処に行ったのかしら…?」
考え事をしていたが夕飯の支度が出来たという屋敷のお手伝いさんの声に反応。
腹を空かせた時女の首長は小さい事だと気にせず、空腹を満たす事を優先してしまったようだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――
妖精とは何を指すのか?
狭義ではイングランド、スコットランドなどの神話・伝承の精霊や超常的な存在を指す。
広義にはゲルマン神話のエルフ、メソポタミアのリリス、インドや東南アジアのナーガ等を含む。
人間に好意的なもの、妻や夫として振る舞うもの、人に悪戯したり命を奪うものも存在している。
また障害として立ちはだかるもの、運命を告げるものなど様々な伝承があった。
妖精王としてのイメージはウィリアム・シェイクスピアの真夏の夜の夢が有名だ。
妖精王オベロンと妖精の女王ティターニア夫婦が登場するのである。
妖精画で有名な妖精画家達が残した妖精のイメージとは何か?
それらの妖精画は神秘さと美しさ、不気味さとグロテスクさを伴っていた。
……………。
「う……うぅ……」
意識が気が付いた旭が目を開ける。
もう夜中であるはずなのに森の景色に幻想的な光を見出す。
「ここ…は……?」
上半身を持ち上げた彼女が見た景色。
そこには神秘的な森の中を飛び交う小さな存在が映ってしまう。
「我は…夢を見てるでありますか?」
彼女が見た存在達とは子供の絵本に登場しそうな妖精ばかり。
背中に半透明な羽根が生えた妖精。
地面を歩いているのは不気味さが強調されたゴブリンやドワーフ。
それに流れ着いたこの国土着の精霊の姿まで見えるではないか。
「いいや、あんたは夢を見てるわけじゃねーぞ」
背中側から声が聞こえたので後ろを振り向く。
そこに立っていたのは赤い肌をした小人であった。
「よぉ、食い意地張った小僧。喜べ…お前は俺達の女王様に気に入られた」
「貴殿のその姿は……昔何かの書籍で見たことが…」
「…もしかして、ハイファンタジー漫画のゴブリンと俺を同一視してねーか?」
【ゴブリン】
イギリスの妖精であり歪んだ性格の持ち主。
人の不幸を喜ぶが、それもどちらかといえば子供が悪戯をして喜ぶような程度である。
解り易いキャラクター性ゆえに様々な物語で登場し、好戦的な小鬼として描かれるようになった。
「女の敵のレイプ魔扱いするんじゃねぇ。俺はこう見えて由緒正しい魔女様に仕えていた事が…」
「家に帰して欲しいであります」
「…妖精の話を聞く気はないようだな」
立ち上がり、周囲を確認するのだが…。
「…方角が分からないであります。この森は一体……」
「逃げようなんて考えても無駄だ。妖精王国に一度引きずりこまれた小僧は二度と出られない」
「こ…小僧……?」
自分は女だと言おうとしたが、ゴブリンは踵を返してついてくるように促す。
逃げるにも方角が分からないため、仕方なく後ろをついていく。
神秘的な森の中を歩きながらも周囲を警戒する姿勢は崩さない。
「この森で見かける…あの妖精や精霊の姿は……」
「絵本でも見た事あるような見た目だろ?俺たち概念存在は、そうやって形作られるってもんよ」
「概念存在?それでは貴殿たちは…神や悪魔、それに精霊のような類でありますか?」
「その通りだ。もっともゴブリンの俺達はファンタジー漫画のせいで…孕ませレイプ魔概念に…」
ブツブツと文句の小言を言いながら歩く小人である。
ふと立ち止まった旭に向けて小鬼のゴブリンは振り向く。
「どうした?」
「いや……この白いローブで素肌を隠した妖精は……」
旭が見かけたのは石のように動かずこちらを見つめる恐ろしい顔をした妖精だ。
「そいつはこの妖精王国の門番だ。怒らせるとマジで怖いスプリガンだからな」
「スプリガン…?」
【スプリガン】
イギリスのコーンウォール地方に伝わる妖精の一種。
自由に姿を変えられるが小人の姿で油断させ、戦いになると巨人の姿になって敵を叩き伏せる。
財宝の埋蔵地の管理者であり醜く狂暴と言われるが他の妖精の護衛役も務める存在。
骸骨を思わせる姿で蹲り、白い布を被って人目を忍んでいるかのような姿をしていた。
「グ…ガ…ナン…ダァァァ…?おでに…構って…くれるのかぁ…?」
「い…いや……我は別に……」
「オマエ…客人。おで…叩き…潰さない……ゴガッ」
「そいつはほっとけ。客のフリした盗人だと勘違いされたら…巨人化されて襲われるぞ」
「……そうでありますか」
スプリガンから離れ、2人は森の奥に向かう。
そんな2人に視線を向けている妖精と精霊の姿が見える。
「ねぇねぇシルフ!あの子が来てるよ~!」
彼女を以前見かけたコダマが隣のシルフに嬉しそうに語るのだが…。
「あの子…女の子よ?なんで私たちの妖精王国に連れてきちゃうのかな~?」
宙を飛びながら腕を組み考え込む彼女の隣に別の妖精が飛んでくる。
「うちの女王様や王様ってさ~頭が弱い部分あるからね~。勘違いしちゃったとか?」
「それもありそうよね~ピクシー。あの子…女の子だってバレたら大変よね…きっと」
隣に現れた妖精とは、人修羅がかつて仲魔として連れていた妖精と同じ見た目である。
【ピクシー】
イギリスコーンウォール地方の悪戯好きな妖精であり、赤毛で緑色の目をした姿が定説。
旅人を道に迷わせるという性質はブラウニーに近い存在だ。
語源は悪戯妖精パックに愛称語尾のsyがついたパクシ―であるため非常に悪戯好き。
ちなみに人修羅の仲魔であったピクシーとは別個体である。
「ねぇねぇ、女王様のところに行くみたいだけど…大丈夫なのかなぁ?」
「どうせ…ティターニア様のお気に入り鑑賞物にされちゃうだけでしょ~?」
「まぁそうなるでしょうけど~…あんまり面白そうな顔してないわね~シルフ?」
「シルフはね~あの子のことを気にしてるんだよ!ボクといっしょにいつも見物してるし!」
「コラ、コダマ!余計な事は言わなくていいわよ!」
「だって~自然をだいじにしてくれる優しい子だっていつも言ってたよ~?」
それを聞いた色恋沙汰大好きな妖精であるピクシーはニンマリ顔。
「へ~~…シルフってさぁ、男の旦那を欲しがってたけど…百合もイケる口なんだ?」
シルフの頭部に怒りマークが浮かび上がり、空中で掴み上げて脇固めを放つ。
「あだだだだッッ!!!」
「だ~れ~が~女もイケちゃうバイ妖精だって~ピクシー!?」
「ねぇねぇ~バイってどういう意味~?食べ物なのかな~?」
「あんたは知らなくていいわよ!!」
どんちゃん騒ぎをしている妖精と精霊たちを尻目に、旭達は王国の奥まで進んでいく。
「この奥に女王様がいらせられる。粗相のないようにな」
「…我はお腹が空いてるので帰りたいであります」
「今、腹の虫は鳴いているか?」
「…そういえば、腹の虫が鳴らなくなったでありますね?」
「この妖精王国はな、時間の流れが曖昧なんだ。外の世界の方がずっと早く時間が流れる」
「それってまさか…浦島太郎の竜宮城世界と同じ…!?」
「ここにいれば腹も減らなくなる。ウサギに化けてた俺を食わなくても生きていけるぜ~」
「そ…そんな……」
「まぁ、うちの女王様に気に入られたのが運の尽きだな~小僧?ハッハッハッ!!」
(は……早く帰る方法を見つけるでありますよ!!)
手を振りながら帰っていくゴブリンを見つめていた旭であったが、意を決して森の奥に進む。
「うわぁ……凄いであります…」
見上げれば、そこには御神木の如き大きな樹。
大きな木の枝に座っている人物に目がいく。
「あら、お目覚めかしら?」
美しき4枚の羽根に緑のドレス、頭部には白い花のかんざしを纏うブロンドヘアーの女性。
妖精だと思われるが、人間の女性と変わらない程の大きさだった。
「ようこそ、私と夫のオベロンの王国へ」
――――――――――――――――――――――――――――――――
ブロンドの長髪をかき上げた後、背中の羽根を羽ばたかせて下りてくる。
旭の前に浮遊しながら舞い降り、彼女の顔を舐め回すように見つめてくる…。
「き…貴殿が…この妖精たちの国の、女王陛下でありますか?」
陛下と敬称をつけて呼んでくれた事に気分を良くしたのか、笑顔で答える。
「その通りよ♪私の名はティターニア…この妖精郷の女主人を務めているわ」
【ティターニア】
妖精王オベロンの妃であり、シェークスピアの戯曲である夏の夜の夢で有名な妖精女王。
ギリシャ神話の主神ゼウスの娘である狩猟の女神アルテミスのイメージを受け継ぐ存在。
魔女術の開示では、女の妖精ニンフを引き連れた月の女神ダイアナを妖精女王と呼んだ。
金髪の美しい女性の姿であり、綺麗な昆虫の羽を背に具えている。
また身体の線が分かる透けのある服をまとっており、官能的な絵画が多く残されていた。
地母神に由来するだけあって、ただ大人しく主人に従う性格ではない。
人修羅が仲魔として引き連れていたティターニアとは別個体であるように見えるのだが…。
「凄いであります…このような女神の如く美しい存在など、生まれて初めて見たであります」
神の如き女悪魔の存在に気圧されてしまい、世辞が出る。
それがさらに彼女の機嫌を良くしてくれたようだ。
「よく分かっている坊やね♪たしかに、私は様々な女神と同一視される概念存在よ」
「その…概念存在というのがよく分からないであります。何を指しているのですか?」
神や悪魔と呼ばれる存在について、旭はあまり知識がない。
困った坊やを見るような慈しみの眼差しを向けながら、木の幹に座るように促す。
隣に座ったティターニアが、神や悪魔について説明してくれた。
「…なるほど。つまり、神や悪魔と呼ばれる存在達は…全ての世界で観測される存在?」
「ティターニアと呼ばれる高位概念存在が他の並行宇宙に在るのなら、そこには私がいるのよ」
「では、貴殿も他の宇宙の事が…視えちゃったり、するのでありますか?」
それを聞かれたティターニアが遠い眼差しを浮かべる。
「…他の宇宙の私はね、ボルテクス界と呼ばれる…宇宙を創成する球体世界に存在していたわ」
「ボルテクス界…?」
「そこに存在していた私は…貴方に勝るとも劣らない程の美しい少年悪魔の仲魔をしていたのよ」
どうやらニュクスと同じく、かつての人修羅と触れ合った記憶を持つ悪魔のようだ。
「ボルテクス界や…アマラ宇宙という並行宇宙…それに、コトワリの神…でありますか?」
「魔法少女と呼ばれる存在たちを救う、新しいコトワリの神が最近生まれたみたいよ」
円環のコトワリの存在まで知る存在だと分かり、雲の上の話をされている気分になっていく。
「そ…その…我は神や悪魔、それに宇宙については分からないであります。…ただの猟師ですし」
「ごめんなさい、難しい話をしちゃったかしら?」
「我はその…人間世界で暮らしている身。帰りを待つ人々がいるので…その……」
人間界に未練がある態度を見せられ、機嫌が良かった妖精女王も顔をしかめる。
「心配しないで、坊やの代えなら用意してあげるわ」
「我の…代え…?」
「替え子(チェンジリング)よ。貴方に擬態させた別の妖精を人間界に送るわね」
「そ、それでは困るであります!我が帰りたいのであります!」
「困った子ねぇ…ここでなら何も苦しむことなく幸福に暮らせるというのに」
「わ…我をどうするつもりでありますか…?妖精は…人に危害を加える存在でありますか?」
怯えた表情も愛らしいのか、座ったティターニアは旭を笑顔で見つめてくる。
「私は他の粗暴な連中とは違うの。別に取って食うような真似はしないわ」
「本当で…ありますか?」
「美丈夫は…傍に置いておくだけでも私の乾いた心を潤してくれるのよ」
「…飼い殺しでありますか」
「特に、オリエンタルな美少年は私の好み。かつて仕えた人修羅もまた…私好みだったわ」
「我は…人修羅と呼ばれる悪魔少年ではないであります…」
「構わないわよ。貴方も十分美しいし…特別大切に愛でてあげるわ」
(参ったであります…我は女であり魔法少女だとは…言い辛い空気でありますね…)
注意深く探れば軍服衣装にも乳房の膨らみもあるし、魔法少女としての魔力もある。
それさえ気にならないのか、ティターニアは旭の容姿の美しさしか見えていない。
「美しき男は、美しき女によって鑑賞され…愛されなければならないわ」
「わ…我はその……髪を女みたいに伸ばしてるのはその……」
「遠慮しなくていいわ。私と一緒にいれば、貴方は何不自由なく暮らせるのよ?」
妖艶な笑みで近寄ってくるティターニア。
緑のドレスの谷間から覗く豊満な乳房だが、同じ女である旭にとっては嫉妬しか感じない。
それでも高位の霊的存在の圧倒的な威圧感に震えていた時…。
<<待ちなさいティターニア!>>
入り口方面の森から聞こえてきたのは少年の声。
<<美しき小性を手に入れて独り占めとは人が悪い!!>>
旭に近寄っていたティターニアであったが、忌々しげに舌打ちして振り返る。
「こんな時に限って…間が悪い男ね」
森の上空から飛来して現れたのは、背中に大きな蝶の羽を持つ王子様ルックな衣装を纏う少年。
舞い降りた人物の身長は1メートル少々しかない小学生サイズであった。
「こ…この人物は……?」
自分よりもずっと身長が低い少年に目がいく旭はティターニアに振り返るのだが…。
「…小さい子供のような見た目だけれど、私の夫であり…妖精王のオベロンよ」
【オベロン】
妖精王であり、ゲルマン人の民間伝承に属するドワーフ系の妖精。
13世紀のフランスの武勲詩ユオン・ド・ボルドーが登場する最古の物語と思われる。
その中ではオベロンは美しくも生まれた時の呪いで1メートル足らずの背しかなかった。
しかし強大な魔力を誇り、主人公ユオンに試練を与え、また手助けしたという。
後にイギリス詩人や劇作家に取り上げられ、妻のティターニアと共に名を知られるようになる。
オベロンのルーツとしてニーベルンゲンの歌に登場する小人王アルベリヒが有力視されていた。
地面に着地した小さな妖精王がズカズカと歩いてくる。
「私に霧峰村のサマナーの相手を押し付けて!自分は美少年漁りですか!?」
「五月蠅いわね~いちいち。私の趣味にまで口を出されたら、流石に怒るわよ?」
「趣味を馬鹿にしてるのではありません!王としての職務を私に押し付けてばかりはズルい!」
「何よ?私に王のお仕事押し付けて、自分が坊やをしゃぶりつくしたいって欲望が見え見えよ」
「一つ言っておきます。私が愛するのは妻の貴女だけですが、美少年の小姓は別です」
「私だって愛してるのは夫の貴方だけだけど、鑑賞物を集めるのは別口よ」
「その鑑賞物…私に譲ってくれませんか?」
「いやよ~私が先に手をつけたんだもの~♪」
「くっ…!では、ジャンケンで決めましょう!勝った方が美しき美少年を所有する!」
「いいわよー!妖精女王である私の強運を舐めないでもらおうかしら!」
夫婦喧嘩してたら惚気だし、今度は子供のお遊び。
妖精とは傲慢で気分屋で気まぐれな生き物なのだと考えながら…旭はこっそり逃げ出していく。
(馬鹿がバカを呼ぶであります…。しかし、今のうちに森から抜け出さねば…)
後ろのバカ夫婦に視線を向けながら匍匐前進して茂みに入ろうとした時…。
「あっ……」
目の前に立っていたのは身長3メートルを遥かに超えていそうな見張りの妖精である。
「むむむっ!?おまえ!!」
旭の両足を巨大な手で掴み上げる。
「見つかったであります!?」
原始人のような獣服を纏う巨大で恰幅のいいずんぐり妖精。
その剛腕はずっしりとしており、力を入れて掴まれたらひとたまりもないだろう。
「見張りをしていたら…オシャレなマタギ小僧を見つけてしまった!…ん?この臭いは小僧?」
「貴殿は何者でありますか!?」
「むむむーーっ!?喋っていいのか?いいとも!オレの名は…トロールだ!」
【トロール】
大柄な妖精の総称であり、性格は凶暴であったり親切であったりと様々。
本来は古代北欧語の怪物を意味する一般名詞である。
巨人族ヨトゥンの末裔とされる妖精を指すようになった。
トロールは日光を浴びると石になるか破裂するので、人里を徘徊するのは夜と言われる。
雷鳴や教会の鐘の音も苦手であるが腕力は強く、魔法が使える個体は変化も得意とした。
向こうではじゃんけん大会を繰り返すバカ夫婦の光景が続いている。
「やりますね…お互いに未来のタイムラインを覗き合っていては……」
「未来が改変されまくって…埒が明かないわね……」
「未来を覗くというのは…こういう弊害があるから神々の間で多用はやめとくのが常ですが…」
「夫婦であっても…負けられない勝負がある時は別よ…!」
次で勝負をつけようと2人が両手を構えていた時…。
「うぉ~~い王様~~!!」
見張りのトロールの声に反応し、2人が逆さに吊られた旭に向き直る。
「オレ、こいつは
……………。
暫く思考停止してしまう夫婦。
バレてしまっては仕方がないと、旭は魔法少女の変身を解く。
「「あっ……」」
白い女子学生服を纏っているのは…美少年だと間違われていた三浦旭の姿。
「早く…おろして欲しいであります。スカートがめくり上がるであります…」
頬を染め片手でミニスカートを抑えていたが、目の前に逆さに映る夫婦の姿に視線が向く。
「あ……あ……あぁ………」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔つきで口をパクパクさせるばかりのティターニア。
同じように茫然としていた夫だが、引き攣った表情のまま妻に振り返り…。
「何処が美少年なのですか貴女ーっ!?目玉が腐っているのではないのですかーっ!!」
「う、う、煩いわね!?私だって勘違いの一つや二つぐらいするわよ!!」
「それでよく女王を名乗ってられますね!ピクシーやシルフ達の方がまだ頭がいいですよ!」
「なんですってぇ!?女王の私を馬鹿にするのは…夫であろうと許さないわよーっ!!」
「今度は実力勝負ですかぁ!!?望むところですよーっ!!!」
小学生サイズの夫と取っ組み合いの夫婦喧嘩を始めるティターニア。
こんな性格で人修羅の仲魔をかつての世界で務めていたのであろうか…。
旭とトロールはしょうもない夫婦喧嘩の光景に冷や汗が浮かぶ。
「王様~~…こいつ、どうしよう?」
キッとした怒りの表情を同時に浮かべた夫婦が振り向く。
「あ…あの…我は女の子であります。ご期待には沿えないので家に帰して欲しいのでありま…?」
夫婦が同時に出したハンドサインは…古代ローマの闘技場で敗北者に向けて民衆が放つサイン。
親指を下に向けて殺せと指示するサムズダウンだった。
頭部にブワッと嫌な汗が浮かぶ旭と、巨人のくせにつぶらな瞳をしたトロールの目が光る。
「王様たちの許可が出たぞ~オシャレなマタギ―ッ!!」
「うわわわわわ~~~ッッ!!?」
ブンブンと剛腕を回転させ、旭の頭部が回転の渦の中で何個も錯覚で見える光景が続く。
「オシャレにあの世行きだぁぁーーッッ!!!」
勢いのまま旭を投擲。
「ひゃぁぁぁ~~~ッッ!!!?」
妖精の森の奥地に向けて飛んでいくか弱い女の子の運命は如何に…。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「うぅ……酷い目に合ったであります…」
木の枝に引っかかっていた旭だが、態勢を立て直して地面に着地。
左手を掲げて再び魔法少女に変身し、魔法のライフル銃を両手に持つ。
「妖精の王たちを怒らせてしまったでありますが…我のせいではないであります」
彼女はとんだトバッチリを受けただけの被害者だが、妖精の王を怒らせて無事で済む筈がない。
「どうにかして…この妖精の王国から抜け出さなければ…」
方向さえ分からない神秘的な森の中を彷徨い歩く。
どうやら山間部の山側にまで投げ飛ばされてしまったようである。
少し歩いた時、何かを見つける。
「これは……洞窟でありますか?」
切り立った山の中で見つけた洞窟であるが、中から不穏な気配を感じる。
「この臭いは……瘴気?中にいるのは…悪鬼である魔獣?それとも…悪魔?」
別の場所に移動しようにも、方角さえ分からないではいずれ追い込まれる。
暫くここでやり過ごすしかないと判断し、彼女は洞窟の中に向けて歩みを進ませた。
「…夜目が効くから分かるであります」
彼女が歩いている洞窟内部に散乱しているもの。
それは大量の人骨。
「悪鬼は人間を襲っても廃人に変えるだけで殺しはしない。なら、これを行ったのは…」
警戒しながら洞窟の奥にまで進んでいく。
「入り口もそうでありましたが…随分と大きな洞窟であります。これだけの広さなら…」
巨体を持った悪魔であっても巣に出来ると考えていた時、彼女の足が止まり岩場に隠れる。
(あれは…巨大な蜘蛛の巣?それに…吊るされているのは…)
夜目で確認すれば、どれも白骨死体ばかり。
(捕らえた獲物を食べもせず放置して殺す?ティターニアのように…獲物を鑑賞していただけ?)
疑問が募っていた時、クモの糸に絡めつけられて吊るされた一つが蠢く。
「あ…貴女は!?こんなところに迷い込んで…もしかして、私を救いに来た麗しき女神!?」
「あ……あの人物は…?」
慌てて態勢を旭の方に向けていくのは、逆さま姿の美しき青年騎士。
「私はタム・リンと申します!訳有ってジョロウグモに捕まり…大正からずっとこのままです!」
【タム・リン】
ケルト神話にその姿を見せる妖精騎士。
彼は森へ狩りに行った帰りに妖精の女王に捕らえられ、自分も無理矢理妖精にされてしまう。
妖精に変える事で妖精郷の住人にしてしまおうと考えたティターニアの策の犠牲者である。
だが彼の子供を孕んでたジャネットという女性の努力により、ハロウィンの晩に救われたという。
なお、人間時代のタム・リンは騎士の名に相応しい人物という逸話ではない。
カーターホーの森を通る乙女はタム・リンに持ち物か処女を奪われてしまう警告で始まるのだ。
バラッドの乙女の純潔を奪う妖精とは、タム・リンの事であった。
「タム・リン殿でありますか…?この魔力…やはり貴殿は悪魔でありますか?」
「そ、そうですが…
「人間?ということは…貴殿も我と同じく、妖精郷に囚われた被害者なのでありますか?」
「その通り!は、早く拘束を解いて欲しいです!早くしないと…ジョロウグモが帰ってくる!」
「その…ジョロウグモというのは悪魔でありますか?」
忌々しい存在の事を聞かれたタム・リンが逆さの顔を歪めていく。
「黒い肌で女の上半身を持つ…巨大な蜘蛛悪魔です。私は大正時代の頃からあの女の鑑賞物です」
「大正時代から…?なるほど、周りの仏様達は…古い時代に攫われた犠牲者というわけですか」
「顔がいい悪魔だから~いつまでも鑑賞出来るわ~♪…とか考えてるおぞましい女悪魔です!」
「なるほど…ですが、我は先ほど妖精たちから酷い目に合わされたので…妖精と聞いては…」
「信じてください!私は人畜無害な妖精であり、人間なのです!助けてくれたら礼もします!」
「…貴殿は妖精だと言ったであります。もしかして、妖精郷の出口が分かるのでありますか?」
「オフコース!妖精である私ならば、出口がある場所など天斗樹林でなくとも解ります!」
「…了解であります」
魔法のライフル銃で狙いを定め、吊り下げた糸を撃つ。
「がはっ!!?」
体を鎧ごと糸で拘束されていたタム・リンは受け身をとることも出来ずに地面に落ちた。
魔力で銃剣を生み出し、包まれた糸を切り裂き彼を救出。
「ウォォォォ!!!何十年ぶりの自由でありましょうかーッッ!!!」
魔力で槍を生み出し、高らかに掲げて勝利の雄叫びを上げる。
「約束であります。我をこの妖精郷から連れ出して欲しいであります」
自由の世界に戻れた余韻に浸っていたが、彼女に向き直る。
「…貴女の今の状況ならば察する事が出来ます。貴女はもしかして、美丈夫と間違われて…?」
旭の顔が曇り、俯いていく。
「あ~言わなくていいです。あの妖精王夫婦はその…色々と頭がおかしいんですよ」
「さっき会ったばかりでしたが…頭がおかしいという部分は、的を得ているであります」
「無駄話よりも、早くこの洞窟から抜け出すのが先決。私が先導しますからついてきて下さい」
2人は洞窟の奥から移動していく。
警戒して進むのだが、旭から感じる久しぶりの美女の匂いを鼻で感じ取りご満悦なタム・リン。
「…つかぬことを聞きますが、貴女はもしかして…魔法少女と呼ばれる種族ですか?」
「我ら巫…いえ、魔法少女のことをご存知なのでありますか?」
「古くから、悪魔と共に魔法を司る存在として…世界に存在してました」
「我が魔法少女だとして、それが何かあるのでありますか?」
「い、いえね…魔法少女となる者達は古くから美少女揃い…この辺りにも沢山いるかな~と」
「それはまぁ…いるでありますね。この近くの集落である霧峰村は魔法少女一族の村であります」
小さくガッツポーズを作る彼の姿は夜目に優れた彼女には見えている。
「…何を考えているのでありますか?」
「えっ!?別に私は何も……ん!?」
片手で彼女を制し、岩場に隠れろと促す。
2人が岩場に隠れた少し後に、入り口から巨大な魔力を感じさせてきた。
「…名前は?」
「三浦旭であります」
「旭さん、魔力を覆い隠す技術をお持ちですか?」
「我は魔法少女の中でも魔力を隠蔽する力に優れた狙撃手であります。任せて欲しいであります」
「では、互いに魔力を隠し…息を殺して下さい。ジョロウグモが…巣に帰ってきたようです」
言われた通りソウルジェムの魔力を周囲から隠す。
近づいてくるのは巨大な足音。
「ハァァァ…天斗樹林から引っ越した場所が、若い男の少ない地域だったなんてねぇ…」
巨体が岩場を通り超えていく光景を2人は息を殺して見つめている。
(あれが…ジョロウグモでありますか?何という巨体……)
(そうです…あの女は擬態して麓の村まで下り、気に入った男を攫っていく悪魔なのです)
【絡新婦(ジョロウグモ)】
女郎蜘蛛ともいう日本民間伝承の齢を経た牝蜘蛛の妖怪。
美女に化けて男を誘い出し喰らうとされる。
滝や淵などに関連付けられ、水霊であるとする地方もある。
その場合は水辺に近付いた男の足に糸を巻き付け引きずり込むという。
中には人間と絡新婦の悲恋の逸話や、絡新婦を水難避けの神として伝える所もあった。
「ハァァァ…引っ越そうかしら?でも、悪魔が静かに暮らせる場所って少ないのよねぇ」
今日の収穫にありつけず愚痴をこぼしながらコレクションルームに移動していく巨体。
「…今です、移動しましょう」
「承知したであります」
2人は気配を殺しながら進み、ようやく洞窟の出口に到達。
そんな2人を出迎えてくれた妖精の姿があった。
「あーっ!!あ、あんた…そいつを助けちゃったの!!?」
「貴殿は……?」
現れたのはシルフである。
どうやら妖精郷の騒ぎに気が付き、旭を探す捜索隊よりも先に動いて見つけ出したようだ。
「わ、私はシルフっていう妖精よ。あんたの事はその…色々知っててさ、助けようと…」
「もしかして、森の中で感じていた何かの視線というのは…シルフ殿でありますか?」
「わ、私と…友達のコダマっていう精霊が貴女の狩りを見守っててあげたのよ!感謝なさい!」
(頼んだ覚えはないのでありますが…)
突然助けに来たり感謝を要求されたり、やはり妖精というのは気分屋なのだと旭は察する。
横を向けば、口笛を吹き出して素知らぬ態度を見せるタム・リンが立っている。
「その妖精男に近寄っちゃダメよアンタ!!」
「どうしてでありますか?」
「そいつに近寄ると……
いきなりの爆弾発言。
旭は首を傾げながらタム・リンに視線を移していく。
「聞く耳を持ってはダメです、旭さん。妖精は人に悪戯を仕掛けてくる存在ですよ」
「白を切るつもり!?私の妖精の女友達だってあんたに……」
「待つであります!この魔力の数…近寄ってくるでありますよ!」
肝心の部分を言いかけたシルフだが、旭に促されて後ろの森に振り向く。
どうやら、ティターニアとオベロンに命令された探索隊が迫ってきているようだ。
「この大地を震動させる地響き…不味いですよ、コレ」
「うん…スプリガンまで来てる…」
木々が押し倒されていく音が近づいてくる。
「こんなにも大きく育った森の木々が押し倒されていく…あのスプリガンはそれ程の…」
血相変えたシルフとタム・リンが旭に顔を向ける。
「こうなったら仕方ありません。逃げるが勝ちです」
「タム・リン殿…貴殿は騎士でありますよね?その立派な槍が泣くであります」
「騎士とて無謀な戦いなどしないのです。勇気ある行動と蛮勇は区別するべきですよ」
「普段は股間にだらしないくせに…火事場になったらまともになるんだからコイツ…」
「いいですか?私たち妖精は擬態能力に優れます。ですので、どちらかが旭殿に擬態するのです」
「なるほど…つまり二手に分かれて逃げるのでありますね?」
「私が旭殿に化けましょう。私に対するシルフのよからぬ戯言などないと、行動で示しましょう」
槍を掲げたタム・リンが魔力を用いて擬態。
そこに立つのは、旭と瓜二つとなったタム・リンの姿。
「凄い…他人に変身する魔法を持つ魔法少女もいると聞きましたが…妖精も中々の手際ですな」
「では、我は別の方角から逃げるであります。シルフ殿、本物の旭殿を任せたであります」
「フン、言われなくても!アンタは掴まってまたジョロウグモの巣にでも放り込まれなさい!」
旭に化けたタム・リンは自らが囮となるために妖精たちが迫る方角に向かう。
「勇敢でありますな、タム・リン殿は。ご助力に感謝するであります」
「ああいう奴だけど、大正時代は帝都を守護するデビルサマナーと一緒に戦った事がある悪魔よ」
「では、我らは別の方角に向かうであります」
「こっちよ、私が妖精郷の出口に案内してあげる」
旭の肩にシルフは座り、ナビを行っていく。
スプリガンの地響きはタム・リンが逃げた方角に向けて移動したようだが…。
「この調子で進めばもう少しで出口よ!」
「何という悪夢のような一日でありましたか…それも、もう直ぐ終わりそうであります」
2人は安堵していたようだが、そうは問屋が卸さない。
「ウォォォォ!!オシャレなマタギを発見伝ーーッッ!!!」
慌てて後ろを見れば、見張りをしていたトロールの姿が迫りくる。
右手には切り株で作られた巨大な棍棒が握り締められていた。
「不味いわ!こうなったら…私の魔法でけちょんけちょんに!」
「同族に向けて戦う必要はないであります」
「えっ?」
「最後ぐらいは、我に働かせて欲しいでありますよ」
ライフル銃の銃床を肩に当て、狙うのは細く伸びた木。
「あれぐらいの木なら…撃ち抜けるであります!」
魔力を込めたライフル弾を発射。
その威力は細くはあるが丸太のように太い木を破壊する程だ。
木の上部が落下する下側には…。
「ぐごっ!!?」
トロールの頭に丸太のように大きな木がぶつかり、目を回していく。
「悪魔も…月までブッ飛ぶ…この衝撃!!オマエ…オシャレな…ヤツだった…ぜ…」
巨体が後ろに向けて倒れ込み、気絶したようだ。
見届けたシルフは手を叩いて喜びを露にする。
「魔法少女の戦いなんて初めて見たけど、やるじゃんアンタ!」
「お褒めの言葉よりも、出口のナビを頼むであります。追撃班が迫ってくる状況であります」
「そ、それもそうね…あっちの方角よ!」
シルフの協力を得た旭は、どうにか妖精郷の出口にまでたどり着く。
「ご協力に感謝するであります、シルフ殿。それに、タム・リン殿の勇気にも感謝であります」
「あの股間にだらしない妖精なんて気にしない。それよりさ…私、その……」
何か言いたそうな態度をしているが、旭は外の状況が気がかりな様子。
「我は…この妖精郷でどれぐらいの時間を過ごしたでありますか?それによって外界の時間は…」
「多分、次の日ぐらいにはなってると思うわ。ここは長居しちゃうと知ってる人は皆年寄りよ」
「まさに竜宮城の如き世界…妖精たちにとってはパラダイスであるのでしょうな」
「そ、その…ね?あんた達が暮らしてる村ってさ……その」
「霧峰村がどうかしたのでありますか?」
シルフは語ろうとしている。
霧峰村の暗部とも言える部分を目撃したことを。
しかし、首を振った後に旭の顔に向き直る。
「…ううん、何でもない。これはきっと…あんたの村の人達の力で解決する問題だと思うわ」
「本当に世話になったであります、シルフ殿。山間の森で出会えた時は、声をかけて欲しいです」
踵を返し、旭は去っていく。
もじもじした態度をしていたシルフだが、息を飲みこんで口を開く。
「ねぇ…旭っていうんでしょ?旭はさ…その……」
――悪魔の仲魔とか、欲しくはない?
それを聞いた彼女の足が立ち止まる。
「わ、私はね…自然を大事にしてくれる人なら、男も女も関係なく…好きだから…」
背を向けたままだが、彼女は首を横に振った。
「…我ら巫は、悪鬼である魔獣と戦う存在。この地で平穏に暮らす妖精殿を危険に晒すわけには」
「私だって!魔法の力があるから戦えるわよ!」
「その力は、同じ仲魔たちを守るために使って欲しいであります。我の力だって…」
――大切な、時女の巫たちを守るための力なのでありますから。
振り向いた彼女が笑顔を向け、一礼をした後に妖精郷の出口から姿を消していく。
彼女の背中を見送ったシルフは深く息を吸い込んだあとに溜息を出した。
「なんで…私はこんなことを言うんだろ?」
自分でも彼女を気にしてしまう自分のことがよくわかっていない様子なのだが…。
<<フッフッフッ、いやーシルフちゃんってば…青春だよね~♪>>
ビクッと体を震わせ、後ろを見ればピクシーとコダマがいた。
「ウリウリ~♪認めちゃいなさいよ~私は女もイケちゃうバイ妖精だって♪」
恋愛大好きな妖精仲間にからかわれたシルフの頭部に怒りマークが浮かぶ。
「ねぇねぇ、バイってどういう意味なのかおしえてよ~?ばいばいけいやくしょの略?」
「煩いわよコダマ!あんたは子供の精霊なんだから、そんなことは知らなくてもいいの!」
「まぁまぁシルフ、こういう話は妖精にとって最高のおつまみなの♪みんなに言いふらしてこ♪」
「ピ~ク~シー!!!」
ピクシーの後を追いかけ回すシルフとコダマ。
妖精郷に囚われた魔法少女の物語は、これにて一件落着なのではあるが…。
……………。
ところ変わって違う場所の出口にはタム・リンの姿が見える。
「フフフ…悪魔合体で生まれた私は、悪魔の思い出スキルである逃走加速があったのですよ」
どうやら確実に逃げられる算段があってこその行動であったようだ。
「私を鍛えた
こうして解き放たれてしまった不穏な影。
その後の時女の里はどうなっていくのであろうか?
一部始終を見てみよう。
――――――――――――――――――――――――――――――――
7月も過ぎていった頃。
ここは時女一族に所属する魔法少女達が鍛錬の場に使っている大きな道場。
様々な武器や忍具が壁にかけられ、中では練習生として参加する時女の魔法少女が大勢いる。
その中には銃剣術の指導を行う三浦旭の姿もあった。
「そろそろ休憩にするであります」
銃剣術の指導も終わり、皆が道場に座り込んで休憩していく。
旭も壁にもたれ込み、水筒のお茶を飲んでいたのだが…。
「あの…旭さん。相談に乗ってもらいたいことがあるんです」
近寄ってきたのは練習生として参加していた魔法少女。
「相談とは、なんでありますか?」
「実は…私の友達の件なんです」
ここでは話せないと言われ、2人は道場の裏側にまで移動していく。
人気のない場所で語られた内容とは…。
「……お友達が妊娠した、でありますか?」
深刻な表情を浮かべながら首を縦に振る魔法少女。
「その、いつ頃から現れたのか分からないんですが…凄くイケメンな青年が村に現れるんです」
「凄くイケメンな…青年でありますか?」
「私の友達に声をかけてきたんですが…その子、その人に一目ぼれしちゃって…」
「関係を…持ってしまったのでありますね?」
「私たちはヤタガラスに所属する巫達です。色恋沙汰は厳しく取り締まられてるんですが…」
「…たしかに、全体の士気に影響が出る問題であります」
腕を組んで考え込む。
色恋沙汰の問題など初めて相談されたこともあり、旭では手に負えそうにない。
「そういえば…シルフ殿が何か言っていたような……」
色々と思い出していき、これは不味いと思った旭は時女本家の門を叩く。
出迎えてくれた静香の母親に相談し、彼女もこれは看過できないと判断。
「よく知らせてくれたわね、旭ちゃん。この問題はデビルサマナーである私が対処するわ」
「…タム・リン殿。無事であったのは喜ばしいでありますが…女として許せないであります」
「フフッ♪股間にだらしない男悪魔は、キツイお灸を据えてあげましょう♪」
そうして見つけ出された種まきタンポポ悪魔は静香の母親に捕らえられる事となったようだ。
時女本家の庭にある木には簀巻きにされて吊るされたタム・リンが晒されている。
「ほんの出来心だったのです!!私はMAG回復を!彼女は女の喜びを!理想の共生関係ですよ!」
色男が台無しにまでボコられた顔で言い訳を並べる姿は、ジョロウグモの巣で見かけた時と同じ。
「なるほど…ジョロウグモの巣に放り込まれていた理由も納得でありますね」
「妖精達からウワサは聞いてたけど、こんな質の悪い妖精がいたなんてねぇ…どうしようかしら」
「簀巻きにしたまま、妖精郷の入り口にでも捨てておくであります」
「そんな殺生な!?私は体を張って旭さんの命を救った恩人であるはずですよー!!」
「見返りを求める恩など、奪うのと同じであります」
「MAGを提供しないと悪魔は実体を維持出来ないし、ほっとくとまた巫達の純潔が狙われるし」
「こんなヤツを村においていたら、帰ってきた静香殿まで毒牙にかかるであります」
「フフッ♪静香はそんなヤワな鍛え方をしてないから安心して。それに、この男は……」
何かを閃いたのか、デビルサマナーとして怪しい笑みを浮かべてくる。
「ま…まさか…合体材料の刑!?何でもします!何でもしますから醜い悪魔にだけは勘弁!!」
「うん、決めたわ。この悪魔はね…」
……………。
季節も移り変わり9月頃。
霧峰村は田んぼの収穫作業に追われている光景が続くのだが…。
「おお、田村さんは働き者だのぉ。それにイケメンさんじゃ~ありがたやありがたや」
「眼福じゃ~ワシも心が50歳は若返った気分じゃのぉ~?」
「どうじゃ?爺さんも死んでワシも寂しいんじゃ~…今夜うちに寄っていかないかい?」
顔が引きつった状態で収穫作業を手伝うのは、人間の男に擬態したタム・リン。
「どうせなら、股間の種まきよりも労働で汗を流す方が色男というものよ」
「まったくであります」
キッと不満顔をぶつける先には、笑顔の静香母と旭の姿があった。
(見ていなさいよ…絶対にここを抜け出して!私の青春カムバックを狙いますから!!)
悪魔という存在と触れ合ってしまった三浦旭。
彼女はこれからどんな魔法少女人生を生きるのであろうか?
彼女たち巫達の運命は大きく動き出す日が近づいている。
それはきっと、彼女にとっては悲劇としか言いようがない結末が待っているのであった。
読んで頂き、有難うございます。